2008年5月30日金曜日

Small cinema story ~ある小さな映画館のお話 -「ラスト・レッスン」 から3年-~

Small cinema story


3man Office/劇団3man 旗揚げ5周年記念
第15回 夏公演
改訂版 下巻

登場人物
藤岡智  シネマ藤岡のオーナー    黒崎純也
桜庭泰輔 映写技師        石戸良
三橋総一郎 区議会議員の息子       田辺京市
桜庭玲子 映画館の売店アルバイト     本多美智子(演劇ユニットio)
白井健二 客               富士河千之介




スタッフ
作・演出       富士河千之介
照明オペレーター
音響効果オペレーター
制作本部       加藤真由実
舞台制作協力     
 古橋いつか(ぬいぐるみハンター)
製作
3man Office 制作本部

序章  
 ここは東京のとある区。
 シネマ藤岡という小さな映画館である。
 駅前の雑居ビルの中にある。
定員は四五名と少ない。
 一階は松屋。
 
 二○○七年夏。

 物語はここから始まる



 そんなシネマ藤岡の外。
 朝
 オーナーの藤岡智が外掃除をしている。
 そこに
玲子「おはようございまーす」
智「あ、おはようございます」
玲子「今日、大丈夫ですか?」
智「え」
玲子「だから今日!大丈夫ですか?」
智「なにがですか?」
玲子「ひっどい!忘れちゃったんですか?」
智「??よくわかんないんですけど」
玲子「二時からですよ!」
 智、考えて
智「あ!(思い出した)」
玲子「会議するから時間空けといてくれってあれほどいったじゃないですか!」
智「おお、大丈夫です大丈夫です」
玲子「なんのために、あんまり人の来ない平日、昼の時間にしたかわかんないでしょ」
智「ごめんごめん」
玲子「それと、キャラメル二ケースの発注は?」
智「昨日しときましたよ」
玲子「よかった」
智「切れそうでしたからね」
玲子「もう、いい加減、売店で扱うアイテム、増やしましょうよ」
智「だめです。」
玲子「いまどき、コーラとキャラメルしかおいてない映画館の売店なんて、うちしかないんですからね」
智「それがいいんです。」
玲子「為蔵さんの遺言でしょ?」
智「まあ、そうですね」
玲子「お客さんのクレームを直に受けてるの、あたしなんですからね」
智「感謝してますよ」
玲子「まったくもう、親子そろって頑固ものなんだから。」
智「玲子さん?」
玲子「はい?」
智「昨日、コーラの原液ボトル、切れてたでしょ?」
玲子「あ!」
智「ボトル取り替えときましたから」
玲子「ありがとうございます」
智「もうすぐもっと暑くなるだろうからボトルも多めに発注しときましたたから」
玲子「それもありがとうございます」
智「ついでに昨日のレジ金、またマイナス五百円でしたよね」
玲子「すいません・・・」
智「お金の受け渡しのときは特に注意するように」
玲子「(ため息)前いた陽代さんにもいわれたもんなあ」
智「今日もよろしくお願いします」
玲子「はーい、着替えてきまーす」
 玲子、はける
 智、掃除を続けようとする
 そのとき
白井「おはようございます」
智「ああ、白井さん」
白井「近くまで来たんでちょっと」
 智、ポスターのある場所にいって
智「明日、土曜日から、夏のスペシャルを上映しますよ」
白井「夏ですかあ」
智「ホラーも含めて一週間交代で(ポスターを見せながら)八月はこのローテでいきます。」
白井「えっと明日からは(覗き見る感じで)?」
智「『十二人の怒れる男』」
白井「楽しみだなあ。裁判つうか陪審員の話ですよね」
智「え?」
白井「?」
智「あ、ええ!そうです」
白井「これね、もちろん映画も面白いけどお芝居にもなってるんですね。で、日本では、金田一で有名なあの石坂浩二が演出出演してやっていて、それを三谷幸喜が見て」
智「(あぜん)」
白井「で、彼が演劇をやろうとするきっかけになったっていう話」
智「知りませんでした」
白井「ついでに、この映画をモチーフに『十二人の優しい日本人』っていう作品ができて、劇団時代の作品なんですが、おととし渋谷のパルコ劇場で再演されたんですよ」
智「あ、なんかやってましたね」
白井「これくらい知っとかないと」
智「オーナーなのに不勉強ですいません」
白井「まあ、いいでしょう。でも、懐かしいなあ。」
智「ぜひお待ちしております」
白井「明日中には必ず」
智「はい!」」
白井「では」
 白井、はけそうになるが
白井「あ」
智「はい?」
白井「おとといかな、見てたら音が急にきこえないときが。」
智「え!」
白井「始まって二十分くらいかな。物語の起承転結なら起の部分。」
智「はあ・・・」
白井「まあそのあとすぐに戻ったんですけどね、おかげでその後、頭の中で話を整理するのが大変でした」
智「本当に申し訳ございません」
白井「あのときすぐに何とかしてもらおうって思って急いで誰か探したんですが」
智「客入れの後は商店街の会合に出てたもんで」
白井「でしょう。だから、売店の女の人に言ったんですけどね」
智「玲子さん・・・」
白井「明日は完全な形で『十二人の怒れる男』を見たいもんです」
智「はい!」
白井「では」
 白井はける
 智、腰低くお辞儀して見送る
 いなくなったのを確認して腰をあげてまた掃除をする

 テーマ曲がかかる
ふと、手を止める
 空を見上げる

智「父さん・・・今日も・・・暑くなりそうだ」

 テーマ曲アップ
 静かに後ろの緞帳が開く

 見上げてる智はける
 前部が暗くなって
 舞台へ
(ここの照明は暗転することなく前後チェンジ)


第一章
 ここは、「シネマ藤岡」の休憩室
 いすを三個ならべて、そこに寝ている男がいる
 その名は、桜庭泰輔。
 そこにエプロンをつけて書類や伝票を抱えて玲子がやってくる。
玲子「まーた、おつり・・・(ためいき)・・・自信ないなあ・・・合ってるかなあ」
 玲子、寝ている泰助を見る
玲子「(ため息)」
泰助「(寝ている)」
玲子「(何をやってもいいので彼を起こしてください)」
泰助「!」
玲子「買ってきた?」
泰輔「んあ・・・」
玲子「朝いった、アレ」
泰助「あ、ああああああ」
玲子「どこにおいた?」
泰輔「いつものとこ」
 玲子、いったんはけるが
玲子「(声だけ絶叫)○△□!!!!!!!!!!」
泰輔「うるせえなあ」
 すばやく走りこんできて
玲子「ばか!(おしおき)」
泰輔「なんだよ!」
玲子「なんてところにいれてるの?」
泰輔「冷凍庫」
玲子「普通さあ冷蔵のほうでしょ?」
泰輔「バカだな」
玲子「はいバカバカ」
泰輔「おれなりの気遣いってもんよ」
玲子「え!泰輔、気遣いなんてできるの!?」
泰輔「角っこのスーパー『まるとん』行ったらさ、あれが普通に、レジ横においてあったんだぜ」
玲子「常温でおいてあったってこと?」
泰助「そう。冷凍庫のほうに入れて早く冷やしたかったんだって」
玲子「その努力は認める。けど、バカ」
泰輔「ふん」
玲子「まるとんってね、普通に賞味期限切れたもの売ってんだから」
泰輔「それ、店としてだめじゃねえか!」
玲子「あたしに怒らないでよ!」
 そのとき
三橋「お邪魔しまーす」
玲子「おはようございます」
三橋「玲子さん、キャラメルがんがん売ってます?」
玲子「がんがん売ってますって」
泰輔「おう、成金息子」
三橋「あのですね、会うたびに成金っていってますけど、そんなもんじゃないですから」
桜庭「んなこといったって、儲かってんだろ?不動産屋」
三橋「競合他社はたくさんありますから」
桜庭「ま、破産したとしても区の議員さんやってる親父にタカりゃなんとかなるだろ」
三橋「父は父です。」
桜庭「ふん」
三橋「たまたま生まれた家がそういうところだったってだけですから」
桜庭「たまたまだって!?ああ、おれも金持ちの家に生まれたかったなあ」
玲子「泰輔!」
 そこに
智「あ、総一郎さん」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます」
桜庭「おう、ぼっちゃん」
智「いい加減それで呼ぶのやめてもらえますか?」
桜庭「いいじゃねえかよ、ぼっちゃんは、いつまでもぼっちゃん」
三橋「(智に)あ、ちょっと話があるんですけど」
智「おれに?」
三橋「はい」
 状況を察して
玲子「(泰輔に)そろそろ準備ですよ~!」
桜庭「え~」
玲子「万作さんが新婚旅行行ってる間は、映写室のこと、全部まかされてるんでしょ?」
桜庭「あーあ、おれもイタリアいきてえな」
玲子「そうねえ、ハローワークいって職決めたら新婚旅行ってことで」
桜庭「おれ、お役所嫌いなんだよね」
玲子「無職がよくいうよ・・・」
 桜庭、やっとおきる
智「あ、昨日いらしたお客さんから、音が途切れるって」
桜庭「気にしなきゃいいんだよ」
智「気になるみたいですよ」
桜庭「ったく、細けえんだからよ、最近の客は」
智「常連さんからのクレームですから」
桜庭「ああ、あのヒョロ男か」
智「白井さんです」
桜庭「つまんねえなあ、やりたくねえ」
玲子「まあ、気遣いができる男なんでしょ?泰輔は」
桜庭「ま、まあな」
玲子「音を直すのなんて、ぱっぱっぱの秒殺でしょ!」
桜庭「ぱっぱっぱだ」
玲子「はい、仕事仕事!(残るふたりに)いってきますー」
智「お願いします」
 ふたりはける
智「あ、立ってないで(どうぞお座りください)」
三橋「失礼します」
 三橋、適当に座る
 智も座る
三橋「もうすぐお盆ですよね」
智「そうですねえ」
三橋「為蔵オーナーがお亡くなりになってからもう三年ですか」
智「なんの引継ぎもなく、ここが開いてすぐに風呂で倒れちゃって」
三橋「運命的でしたね。為蔵さん初恋の人が来て、それから亡くなるなんて」
智「かわいそうなのはうちの母ですよ。初恋の人見るは、その日のうちに死ぬはで」
三橋「最近お会いしてないな。今は?」
智「今じゃ近所のエアロビ教室に通ってます」
三橋「安心しました」
智「ここのことはね、いまだにわかんなくなるときがあります」
三橋「?」
智「あの野郎、こんな偏屈な映画館残しやがってって」
三橋「あの野郎って・・・」
智「父のことです」
三橋「僕は面白いとおもいます」
智「おもしろい、か・・・」
三橋「・・・」
 三橋、急に姿勢を改めて
三橋「今日、ここに来たのは、いつもみたいに遊びにきたわけじゃありません」
智「はいはい」
三橋「・・・」
智「?」
三橋「あ、いや・・・」
智「どうしました?」
三橋「非常にいいづらいのですが・・・」
智「どうぞ」
三橋「・・・九月の家賃から、ちょっと値段を・・・上がらせていただきたく」
智「!」
三橋「・・・思いまして」
智「・・・そうですか」
 三橋、かばんから電卓を取り出して
三橋「(電卓を押して)現在がこれくらいですね?」
智「はい・・・」
三橋「九月からは(電卓を押す)」
智「(それを見て)え!」
三橋「これくらいで。」
智「・・・」
三橋「どうでしょう。そのための交渉のつもりできたんです」
智「急ですね」
三橋「ご存知ですか?ここの裏の公園に建築会社が機材をたくさん置いてるの」
智「知ってます」
三橋「都の、駅前再開発がいよいよ本格的に始まるんです」
智「ええ」
三橋「一気にこの辺も、かわります」
智「かわっちゃうのか・・・」
三橋「かわるということは・・・わかりますね?」
智「・・・」
三橋「いろいろ値段があがってまして」
智「下はどうなるんですか?」
三橋「下?」
智「下の」
三橋「松屋ですか?」
智「つぶれたり?」
三橋「来月から二軒となりの本屋の横に移転します」
智「そうですか。なら、そのあとは、コンビニとか入ったり・・・」
三橋「いえ」
智「・・・」
三橋「なんにも(入りません)」
智「じゃあ、上!」
三橋「いますぐではありませんが、西口に新しくできたマンションに引っ越します」
智「・・・」
三橋「今はやりのオール電化マンションです。」
智「・・・」
三橋「智さんも、どうです?」
智「・・・」
三橋「一度、ショールームに行ってみるといい。すごいですよ、あのオール電化ってやつは」
智「このビルから・・・出て行けということですね?」
三橋「・・・」
智「総一郎さん?」
三橋「・・・」
 三橋、立ち上がって窓を見る
三橋「このビルにシネマ藤岡が入れるように紹介したのは、うちの父ですよね」
智「ええ」
三橋「入れといって、今度は出ろなんて。」
智「お父様から言われたのですか?」
三橋「矛盾するのもはなはだしい。副社長の僕としても必死に反対しました」
智「ありがとうございます」
三橋「ですが・・・」
智「今日、ここで、今僕に言ったのがすべてですよね?」
三橋「・・・」
智「駅前再開発ってどんな感じになるのですか?」
三橋、パンフレットを机の上に置く
そして見せながら説明する
三橋「後ろの公園から半径一キロくらいはまずさら地になります。さら地にした上で、区画整理を行い、四十階建てのオ
フィスとショッピングモールが入ったメインタワーを建てます。」
智「・・・」
三橋「その横に海外からの初出店ブランドを含めた目抜き通りを通して・・・その脇には富裕層向けのマンションを建設して、駅とは橋でつなぎます」
智「・・・」
三橋「今回の再開発にうちの社運がかかっています。東京都もバックアップしてますから(うちとしてもやり遂げたいのです)」
智「うちの父の遺産もかかってますけどね」
 三橋、智を見つめる
 智も三橋を見つめる
三橋「もちろん、考えてくださってけっこうです。ただし・・・」
智「・・・」
三橋「このままこのビルが残ったとしても、開発は続行させていただきます。」
智「・・・」
三橋「新しい町並みの中に、この古ぼけたビルがズドン、と建っている姿を想像してみてください」
智「・・・」
三橋「僕は・・・いやです」
 三橋、はける
 智、パンフレットを見つめる
智「・・・」
チェンジ














◎挿入 2007/06/18
 一方ここはロビーの喫煙スペース
 桜庭入ってきてベンチに座り、タバコを出す
 そこに三橋気づかず、通り過ぎようとする
桜庭「一服しようや」
三橋「!」
桜庭「成金息子」
三橋「会議がありますから」
桜庭「ちょっとくらいいいだろ?」
三橋「・・・」
 三橋もベンチに座る
 桜庭、たばこを出す
 三橋、たばこをもらう
 そしてくわえる
 桜庭、ライターを出す
 しかし
 火がつかない
 桜庭、何回もやる
 しかしつかない
桜庭「くそ!」
三橋「・・・」
桜庭「かっこ悪い。こういうのが一番むかつく」
三橋「貸してもらえますか?」
 桜庭、ライターを貸す
 三橋、ライターをいじるが
・ ・・つかない
桜庭「わりい」
三橋「たばこはいただいておきます。」
 三橋、たばこをハンカチにつつんで、かばんに入れる
三橋「(ライターを見つめながら)ライターなのに、火がつかないか・・・」
桜庭「おれもしけたもんだ」
三橋「(ライターをとって見つめる)」
桜庭「どうした?」
三橋「僕も火がついてないのかもしれません」
桜庭「は?」
三橋「・・・」
桜庭「成金息子はどうしてこうまわりくどいのが好きなんだろうね」
三橋「オーナーに言ってきました」
桜庭「再開発話?」
三橋「嫌われてしまいました」
桜庭「ふん。だから俺はいったんだ。もうすこし前から話せば、ちょっとは丸くおさまったかもしれねえって」
三橋「(智を思い)」
桜庭「三年も前から計画が出てたんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は映写機まわすのが仕事だ。こうやって嫌われるのもあんたの仕事だろ」
三橋「僕は嫌われたくありません」
桜庭「なら親父と喧嘩できんのか?」
三橋「それは・・・」
桜庭「じゃあいいんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は昔ただ働きがいやで、じじいと喧嘩してここをやめた。」
三橋「三年前の開館式当日ですよね」
桜庭「おかげでぼっちゃんはいまだにおれを嫌ってる」
三橋「・・・」
桜庭「あんたにいわれてここに戻ってきて・・・おれなりにけっこうがんばったんだけどなあ・・・。」
三橋「・・・」
桜庭「まあ、雪解けは早いかな」
三橋「・・・」
桜庭「俺も万作が戻ってきたらお払い箱だ。あと三日の命ってことよ」
三橋「その三日の間にお願いしたいんです。ここの立ち退きが丸くいくように、もっと積極的に智さんに動いてもらえませんか?」
桜庭「お?親父をとることにしたんだな」
三橋「・・・」
桜庭「玲子に話したほうがいいかもしれねえぞ?」
三橋「玲子さん・・・ですか・・・」
桜庭「あいつならここでずっと働いてる身だ。ぼっちゃんのことをよく知ってる。いいところも知ってれば悪いところも知ってる。そこにつけいればなんとかなるかもしれねえ」
三橋「・・・」
桜庭「苦手か?」
三橋「いえ!」
桜庭「ま、でもなあ、玲子はここが好きだからなあ。無理かもな」
三橋「・・・」
桜庭「あーあ、半端なヤツしかいねえなあ、ここは」
三橋「・・・」
桜庭「ぱっぱっぱと音とび直してくるわ。またあのヒョロ男にクレーム出されたら、説得する前にクビになりそうだからなあ」
 桜庭、はけていく。
 その背中を見て三橋もその方向に歩いていく。

チェンジ





 舞台はまた休憩室
 いそいそと、玲子がなにかを準備している。
 なにかドリンクとかいろいろ。
 そこに
智「まいったなあ」
 といいながら入ってくる
玲子「(智が入った瞬間びくっとする)」
智「ん?」
玲子「あ・・・あは、あははは」
智「どうかしたの?」
玲子「いえ、別に・・・」
智「なんだかな・・・」
玲子「顔が暗いですよ」
智「え」
玲子「あ、いつも暗いか」
智「いつもは余計です」
玲子「なにかあったんですか?」
智「うーん・・・」
玲子「?」
 そこに
桜庭「うおーい、いっちょあがり
玲子「はいおつかれさん」
智「あ、館内清掃は?」
桜庭「(いすにどっかり、座って)あとあと」
智「(ため息)」 
玲子「(目で泰助に合図)」
桜庭「(それを見て、芝居っぽく)あーあ、きょうは、なんの、ひだっけ?」
玲子「(芝居)そうねえ」
智「!」
ふたり「だれかさんの、たんじょうびじゃないの!?」
智「!」
 その瞬間、玲子机のしたから、お盆を出す
 お盆には四個の、ところてんが並んでる
智「と、ところてん!」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー
     はっぴばーすでー、とうーゆー
     はっぴばーすでー、でぃあ(目をあわせて)さとしさ~ん(ここは桜庭は「ぼっちゃ~ん」という」
智「ああ、ありがとうございます・・」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー」
 と歌いながら玲子、ところてんを
 とことてん付属の小さなフォークを無理やり智ににぎらせ、
玲子「(鋭く言う)はい食べて!」
智「え!」
玲子「(鋭く)ろうそくのかわりなんだから!」
 智、しぶしぶ、フォークを握り
 ところてんを
智「(音をたてて汚く食べる)」
ふたり「はい、おめでとう~~~~~~~~~~」
 ふたり、拍手
智「ふ、普通、こういうときってケーキじゃ(ないんですか)」
玲子「そんなのつまんない」
桜庭「夏はところてん!」
智「はあ・・・」
玲子「あ、ちょっと凍りかけなのは許してね。」
桜庭「すぐに冷えるように、おれの気遣い」
玲子「冷凍みかんと一緒だと思って。」
智「シャリシャリ感はいりませんよね・・・」
桜庭「バカ!俺たちがこれをぼっちゃんに贈るのはちゃんと意味がある」
智「意味?」
玲子「ところてんって、寒天をこうやって木枠からするっと抜いて作るでしょ?」
智「ええ」
桜庭「ところてんのように、ぼっちゃんにもこれから起こる困難にもだな、負けないように、こう、するっと抜けろってことだ」
智「無理やりっぽいですよ」
桜庭「うまいこといったな」
玲子「うまいうまい」
智「自画自賛ですか?」
桜庭「うまいといったら、これだ!」
 次に、桜庭、机の下から、酒のびんを出す
智「ひ、昼ですよ!」
桜庭「ところてんっつったら酒よ!」
玲子「異議なし!」
智「ちょ、ちょっと!」
玲子「却下あ!」
桜庭「ホッピーホッピー!(びんを持つ)」
智「あ、じゃあ・・・(お酒をつがれるのを期待して)いただきます」
 しかし、桜庭、まず自分のコップに酒をついで
 口に注ぎ込む
桜庭「△▲△(アドリブ)うんめえ」
玲子「ずるい、あたしのにも」
桜庭「おう悪い悪い」
 桜庭、つぐ
智「仕事中ですよ!」
桜庭「あと夜の一回だろ?」
智「そうですけど」
桜庭「車運転するわけじゃねえんだから、大丈夫だよってんだ」
智「お客さんに失礼ですよ」
桜庭「大丈夫だ」
智「玲子さんも?」
玲子「今日は智さんの誕生日なんだから」
智「夜の回の、おつりも間違って渡しちゃいませんか?」
玲子「逆に、頭が冴えて、サクサク、計算できるかも」
智「ありえませんって!」
桜庭「どうせ次に来る客は決まってる」
智「?」
桜庭「あの、ひょろっとしたクレーム野郎だろ?」
智「白井さんのことですか」
桜庭「いっつもいっつも、ここにくる。」
智「うれしいことじゃないですか」
桜庭「あいつの頭の中には、映画見るなら西口って選択肢はないのかな?」
智「西口・・・」
玲子「こっちは駅の東口でしょ?西口にあるのは」
智「ハミングバード・シネマ12(トウェルブと発音)」
桜庭「あっちはシネコンだ。」
玲子「十二個もハコがあるんだもんね。」(※ハコ→上映室の意)
桜庭「音もドルビーだし、画もきれいだし」
智「シネコンじゃあね、たしかに単館のうちはかなわない」
玲子「たぶんあのヒョロ男は、アナログが好きなんですよ」
智「空想でものをいうのはやめましょう」
桜庭「映画好きってもんは、へそ曲がりがおおいから」
智「今の発言で世の中の何万人かを敵に回しましたね」
玲子「泰輔、それいい!」
智「え?」
玲子「デジタル全盛期の今だからこそアナログの良さっ味わおうって、売り込みましょう」
泰輔「そうそう。CDよりレコードのほうがいいってときがある」
智「なるほど・・・」
玲子「見直したでしょ?」
智「ええ」
玲子「伊達に三年間キャラメルとコーラ売ってるだけじゃないですから」
智「うんうん」
泰輔「場がまとまったところで、ご歓談を」
 ふたり、酒をのみ、ところてんを食べる
智「(それを見て)・・・」
泰輔「どうした?」
智「・・・あ、いや」
玲子「なんですか?いってくださいよ」
智「・・・んん・・・うーん」
 泰輔、びんをもって智のコップにつごうとする
智「(それをとめて)うあ、いいです!いいです」
泰輔「飲め!」
智「まだ仕事ありますから!」
玲子「うちらだってまだある!」
智「無理です」
泰輔「(いったんとめて)そうか(あきらめるようなふり)」
智「夜の回が終わったら、おつきあいしますから!」
泰輔「いまだ!(一転、つぐ)」
智「わ!」
 智のコップには酒がつがれる
智「(酒を見つめる)」
玲子「入った以上は飲んでもらわないと」
泰輔「以下同文」
智「そんな・・・」
ふたり「(じっと見る)」
智「(耐え切れず・・・飲む)」
玲子「ほらやっと誕生日っぽくなってきた」
智「(飲み終える)」
泰輔「どうだ!昼から飲む酒は!」
智「・・・けっこう・・・うまい・・・ですね・・・」
玲子「でしょう!」
泰輔「なら、二杯目だ!」
 智、コップを差し出す・・・
 が・・・
 そのとたん、ばたんと、机の上に突っ伏す
ふたり「!」
桜庭「おい!」
玲子「智さん!」
 ふたり、駆け寄る
 すると
 智、一気に立ち上がり
智「えへへ・・・」
ふたり「!」
智「えへへへへ・・・」
泰輔「うわあ」
智「(よって)みなさ~~~ん!」
玲子「完全に酔ってる・・・」
泰輔「たった一杯で・・・」
智「(聞かずに)大事なお話がありま~~~~~す!」
ふたり「(どうしよう・・・)」
智「へへ・・・いつも、お勤めありがとう!ありがとう!ありがとう!」
玲子「は、はい・・・」
智「さらに今日はボクの誕生日まで・・・ボク、本当に十四時から会議だと思ってましたよ~~~」
玲子「あたしが時間空けるようにいいましたからねえ」
智「なんで!なんで、やるよっていってくんないんですかあ~~~」
泰輔「言ったらサプライズの意味がないだろう」
智「なんでえ」
玲子「智さん、気を確かに!」
智「ぼくは~~~いつでも冷静沈着」
泰輔「どこが」
玲子「言いたいことってなんですか?」
智「ああ~ああ~、ええ、このシネマ藤岡は・・・」
ふたり「・・・」
智「つぶれることになりました!」
玲子「!」
桜庭「・・・」
智「えへ・・・」

暗転


第二章 
 暗転中に
智・玲子「ありがとうございました」
明転
 ここはロビー
 智が客の見送りをしている
智「うはああああ・・・頭がいったい・・・」
玲子「大丈夫ですかあ?」
智「ボク、なにかいってました?」
玲子「(呆れ顔)」
 玲子、劇場の方にいって見て
玲子「あとおひとりです」
智「白井さんですか」
玲子「ええ」
智「わかりました」
玲子「ああ、もう」
智「?」
玲子「白井さん、出てくのいっつも遅いから、困っちゃう!」
智「まあ、確かに」
玲子「レジ閉めとかお掃除とか全部押し押しになっちゃうんですよね」
智「仕方ないですよ。大事なお得意様なんだから」
玲子「もうイライラしちゃうと、また計算ミスしちゃうかも」
智「イライラしなくともミスってるでしょ?」
玲子「違いますよ!この前わかったんです!」
智「え」
玲子「白井さんがグダグダして帰った日に限って、レジ金があわないって!」
智「たまたまでしょ」
玲子「日報見てったらわかりますって!」※日報→売上日報のこと。
智「おつりの受け渡しをもっとはっきりやれば大丈夫です!」
玲子「開演ギリギリだったらどうするんですか!」
智「予告編くらいならどうにでもなりますって!」
玲子「正しいおつりと、映画を始めから見せるのではサービスとしてどっちが正しいですか!」
智「どっちもです」
玲子「もう・・・」
智「それよりも、あのことを伝えるかどうか迷ってるんですよ」
玲子「あのこと?」
智「ここを閉館するってことです」
玲子「本気なんですか?」
智「・・・」
玲子「昼の誕生日会。お酒に飲まれちゃって、勢いで言ったのかなって(思いまして)」
智「・・・」
玲子「あのとき聞いたのあたしたちだけだから、あれをお酒の席のジョークにすればいいと思うんですけど」
智「でも・・・」
玲子「え?」
智「はい?」
玲子「ほ、本当なんですか!」
智「・・・」
玲子「総一郎さんに約束したとか?」
智「正式な答えは保留してます」
玲子「もう!ぐずぐずしてると、外堀から埋められちゃいますよ。気づいたら、ここだけぽつん・・・」
智「もう埋められました」
玲子「え!」
智「ここだけぽつん・・・」
玲子「・・・」
 そのとき
 白井やってくる
ふたり「(あわてて)ありがとうございました!」
白井「いやあ、すばらしかったです」
智「そういっていただけるだけで幸せです」
白井「学生時代を思い出しました。私ね、こう見えても学生時代、毎月一本は映画を見てましてね(それで・・・)」
玲子「(劇場内を見て)先にレジを閉めちゃいますね」
智「お願いします」(玲子、ハケる)
白井「(言葉をさえぎられて)あ・・・」
智「(それに気づいて)あ!ああ、どうぞ話の続きを」
白井「あ、お仕事の邪魔しちゃってるかな」
智「いえいえ、」
白井「まあ、でもまた来ます」
智「はい・・・」
 白井、ハケようとする
智「あの!」
白井「?」
智「あの・・・」
白井「はい・・・」
智「あ・・・」
白井「どうしました」
智「いや、あの・・・」
白井「?」
智「あ・・ああ・・・」
白井「そうだ。」
智「?」
白井「ずっと隠していたことなんですが・・・私ね・・・映画が好きってわけじゃないんです」
智「はい・・・」
白井「映画館が好きなんです。」
○ 挿入 2007/06/25
智「え!」
白井「ちょっと目をつぶって想像してください!」
 智、目をつぶる
白井「千円札を握り締めながら、窓口で切符を買います。売店でコーラとキャラメルを買って・・・
いすに座ったらキャラメル放り込んでコーラを一口・・・
で、始まるのをじっと待ちます。」
智「・・・」
 このとき、桜庭がイン
 話しかけようとするが、立ち止まって
白井「開演のベルが鳴って、スクリーンの幕がこう、バーって横に割れて、東口にある飲み屋の宣伝が始まる・・・ 
この瞬間って、たまんなく気持ちよくないですか?」智「・・・」白井「間髪入れずに予告編が嵐のように始まります!
ドキドキのアクション!
わくわくするようなSF!
どかーんとホラーがたたみこんできて、最後は涙涙の恋愛映画・・・。
気分はどんどん高まってきます。一瞬の暗転があって、またちょっと幕が横に開いて本編が始まる・・・!
最高の幸せじゃないですか!」
智「はい・・・」
白井「こんな瞬間ってのは、映画館じゃないと味わえません。」
智「そう・・・ですね・・・」
白井「でしょう?だから映画館って大好きなんです」
智「映画館にかける情熱は、おれ以上かもしれません」
白井「まあでも、ここまでたくさん来るようになったのは、うちの娘のおかげかもしれません」
智「!娘さんがいらっしゃったんですか?」
白井「ええ、出来たのって三年前ですよね。」
智「そうです」
白井「ちょうどそのころ妻と別れまして、娘もそっちに。で、月に一度会える日にここにいっしょに来たんです」
智「・・・」
白井「最初きたころはまだ八才でね。私は映画の内容がわかるんだけど、娘にはちょっと心配だったんです」
智「すいません。子供向けの話は選んでなかったかも」
白井「いやいや、でもね、映画って不思議なのは、見てるうちにわかってくるんですよ。」
智「・・・」
白井「なんとなく、かもしれない。でも隣でキャラメルとコーラ飲みながら、この人、かわいそうだねとかいってくるんです」
智「・・・」
白井「映画の持つ力ってすごいんですよ。たぶん私たちが思ってる以上に・・・」
智「映画の持つ力ですか・・・」
白井「あ、忙しいところ立ち話してしまった。それでは!」
智「お気をつけてお帰りください」
 白井はける
桜庭「映画じゃなくて、映画館が好きだったなんて」
智「・・・」
桜庭「それにバツイチで、向こうには子供ありときたもんだ」
智「桜庭さん」
桜庭「こりゃほんとの変人だ」
智「びっくりしました」
桜庭「俺も初めてそんなやつにであった」
智「違うんです」
桜庭「?」
智「おんなじなんです・・・」
桜庭「同じ?」
智「父さんと・・・」
桜庭「え!」
智「さっきのあの熱いお話・・・開館式の父さんのスピーチとまったくおんなじなんです」
桜庭「そうか・・・」
智「父さんがなぜこの映画館を建てたか・・・映画館に対する思いとまったく同じ話でした・・・」
桜庭「じじいの生まれ変わりだったりしてな」
智「父さんの・・・?」
桜庭「もうすぐ盆も近いだろ。」
智「んなバカな」
桜庭「あんな変人がいる限り、ここをつぶすなんて話せねえよな」
智「・・・」
桜庭「ま、おれはあと二日しかここにいねえから、どっちに転がろうが関係ねえけど」
智「・・・」
桜庭「しゃくにさわったか?」
智「失礼します」
 智、はけようとする
桜庭「どっちにしろ決めるこった」
智「言われなくても、しますよ」
桜庭「そうか」
智「そうですよね。桜庭さんは、関係ないですもんね」
桜庭「・・・」
 智、はける
 桜庭、座って、タバコを出す
 そしてライターを出すが
・ ・・つかない
桜庭「(ため息)俺は・・・どっちにつけばいいんだろうな」
 チェンジ





 翌日の休憩室
 玲子がお金を数えている
玲子「(お札を数えながら)・・・あわない・・・ああ・・・あわない・・・」
 そこに
桜庭「先にいってるぞ」
玲子「(お札を見て)あああ・・・」
桜庭「どうした?」
玲子「あああ・・・」
桜庭「またマイナス?」
玲子「一万円」
桜庭「い、一万!」
玲子「昨日金曜だったじゃない。しかも給料日だからさあ、万札出す人多くて」
桜庭「小銭で間違うんならともかく、札のほうなんて・・・」
玲子「どうしよう・・・」
 桜庭、自分の財布から一万円を出す
玲子「!」
桜庭「(玲子の前に見せて)これを入れろ」
玲子「だめだって」
桜庭「いいから!」
玲子「こんなことばれたら、あたしたちここにいれないって!」
 桜庭、無理やり、一万円を袋に入れる
桜庭「!」
玲子「泰輔!」
桜庭「使ってくれって」
玲子「今入れたお金ってあたしがあげた今月の小遣いの(一万円でしょ?)」
桜庭「まあな・・・」
玲子「タバコもビールも買えなくなるよ」
桜庭「たばこは坊ちゃんからもらうよ」
玲子「情けないって!」
桜庭「ビールがないならホッピーがある!」
玲子「ホッピーのほうが高いって」
桜庭「ホッピーホッピー!」
玲子「聞いてるの?!」
桜庭「こういうときのための、夫ってもんだろ?」
玲子「・・・」
桜庭「玲子が困ったときは俺が支えるって」
玲子「泰輔・・・」
桜庭「(腕時計を見て)時間だ」
 桜庭、はけようとする
 玲子、近寄って
玲子「ありがとう」
桜庭「おう」
 桜庭、今度こそはけようとする
玲子「あやしい」
桜庭「へ」(とまる)
玲子「泰輔が二枚目になるはずがない。」
桜庭「あのね、人ってもんはなあ、日々変化してるってもんなんだよ!。俺も変化してるってこと!」
玲子「(もっと近寄って)正直にいいなさい」
桜庭「だから(なにもないって!)」
玲子「ボク~?素直になりなさ~い?」
桜庭「正直者だって・・・おれは・・・」
玲子「西口の~、コンビニの前にある、ネオンがビカビカ光ってるとこかなあ???」
桜庭「!」
玲子「マリンちゃんと遊んだのかなあ」
桜庭「ひ・・・ひさしぶりに・・・お、大当たりになっちゃって」
玲子「パチンコ~?スロット~?」
桜庭「スロット!」
玲子「(絶叫)ごらあ!!!!!!!」
 しかし
玲子「ああああああああ!」
泰輔「!」
玲子「痛い」
泰輔「頭?」
玲子「最近、ずっとそうなの」
泰輔「ほかに悪いとこは?」
玲子「あんまり食欲もないし」
泰輔「うそつけ。ところてんバクバク食ってたじゃねえか」
玲子「あのカラシ酢醤油がいいの。辛くて」
泰輔「うん」
玲子「ツンときて」
泰輔「うん」
玲子「すっぱい!みたいな・・・」
泰輔「すっぱい・・・?」
玲子「夏バテかなあ・・・」
泰輔「平田先生のところでもいってみたら?」
玲子「平田病院に行きたいのは山々だけど、時間が(ないの)」
 そこに
智「おはようございます」
ふたり「おはようございます」
泰輔「おう、ぼっちゃん。ちょっと頼みがあるんだけど」
智「給料の前借りはだめですよ」
泰輔「今日の昼はおれが売店のレジやるから」
智「!」
玲子「え~え・・・」
◎挿入 2007/06/18
泰輔「おれ、前に、銀座のデパートの臨時レジ係もやったことあるんだ」
玲子「その顔で、よくお客さん逃げなかったよね」
泰輔「うるさい!」
智「玲子さん、都合が悪いんですか?」
玲子「あ、いや」
泰輔「平田先生のとこに」
智「平田先生・・・?・・・って、どこか具合悪いんですか?」
玲子「ああ、ちょっと最近頭がいたくって」
泰輔「やっぱり健康あっての仕事だからなあ」
智「はあ・・・」
泰輔「じゃあ、昼からはキャラメルとコーラ、がんがん売るから!」
玲子「智さん、すいません」
智「わかりました」
玲子「じゃあ昨日の売り上げ、入金してきますね」
 玲子がハケる
泰輔「(ハケたのを確認してから)まいったな・・・」
智「?」
泰輔「ひょっとしたらひょっとするかもしれん」
智「そんなに大きい病気なんですか!」
桜庭「ばか!」
智「!」
桜庭「・・・オメデタだよ」
智「!」
桜庭「頭がいたいだろ?食欲がないだろ?そしてすっぱいものが好きときたもんだ」
智「もし本当なら・・・」
桜庭「でかした!玲子!」
智「おめでとうございます」
桜庭「こりゃガキのためにガンガンかせがねえとなあ」
智「はあ・・・」
桜庭「あ~あ、ここで働きてえなあ・・・」
智「!」
桜庭「万作の乗った飛行機、落ちねえかな。」
智「それはやりすぎです」
桜庭「フランス生活が気に入っちまったとか」
智「ただの新婚旅行ですから」
桜庭「おれみてえな問題児、預かってくれるのここくらいなもんだから」
智「・・・」
桜庭「(腕時計みて)おっと、やっべ!一回目の上映だ!」
 桜庭、走ってハケる
 智
智「父さん・・・これじゃ・・・つぶせないよなあ・・・」
○挿入 2007/06/20
 チェンジ
三橋「さあどうぞ」
玲子「おじゃまします」
 ここは三橋の事務所応接室である。
三橋「珍しいですね。ここに来たいだなんて」
玲子「たいしたことじゃないんですけど、ま、覗き見根性っていうんですか(、ねえ)」
三橋「ご覧のとおり、せまくてなんにもないですけど」
玲子「どういうところで働いてらっしゃるか、前からものすごく興味がありまして」
三橋「あ、お茶でも出しましょうか?」
玲子「いえ、いいんです」
三橋「はあ・・・」
玲子「えっと、それよりも・・・」
三橋「?」
玲子「シネマ藤岡をつぶさないでください」
三橋「・・・」
三橋「!」
玲子「いくらあのビルの大家だからって、突然すぎます。」
三橋「・・・」
玲子「泰輔からも聞きました。再開発するなら時間かけてもっと事前にしっかりと話しあうべきなんじゃないですか」
三橋「・・・」
玲子「いきなりすぎます。あたしたちの職場をつぶさないでください」
三橋「僕がもっと勇気を出してればよかったんですよね」
玲子「・・・」
三橋「三年前から再開発の話がちょっとづつ出ていたんです。でも僕が智さんに言う勇気がなかった。父に追い詰められて土壇場の今になって話してしまって」
玲子「・・・」
三橋「父に反論する勇気もなくて。だいたいにして僕、反抗期ってわかんないんです」
玲子「わかんない・・・?」
三橋「ええ。父に『英語は小学生からやれ』っていわたら、ひとりでミッキーマウスの英会話の絵本を読んでたし、『この学校に行け』っていわれたら素直に勉強して入った。」
玲子「・・・」
三橋「なんていうんだろう。親に歯向かうことで自分を認めさせようとか、たまには困らせてやろうって思えなかったんですよね。楽なんですよ。道を引いてくれてる人がいるなら、それを歩いていればいいじゃないかって」
玲子「お父様のいうことに不信感とかないんですか?」
三橋「考えなかったです」
玲子「今も?」
三橋「・・・」
玲子「心から、お父様のいうことが、正しいと思ってらっしゃいますか?」
三橋「玲子さんはどうです?」
玲子「・・・」
三橋「お父さんって好きですか?」
玲子「女の子から見たお父さんっていうのと、男の子から見たのでは違いますよ」
三橋「それが聴いてみたいんです。」
玲子「『ありがとう』です」
三橋「ありがとう?」
玲子「そう。感謝・・・。」
三橋「・・・」
玲子「けっこう自由にさせてくれたんです。高校選ぶときも『お前が好きなところに行け』っていう以外はなにもいわかなった。卒業の前、みんなが大学行くっていうのにあたしだけ事務の専門学校を選んだときだって、お父さんはなにも。お母さんはうるさかったんだけど、お父さんはむしろもっとがんばれよって」
三橋「自由であることが不安なときはありませんでしたか?」
玲子「ずっと不安でしたよ。ほっとかれてるんじゃないか、ひょっとしたらあたしなんかより妹の真子のほうをひいきしてるんじゃないかって・・・真子はずっとおりこうさんでかわいかったし」
三橋「・・・」
玲子「たぶんね、親がひいた道を歩かせるんじゃなくて、自分でその道を作らせたかったんだと思うんです。その道を歩いてるあたしを見守るのが親の仕事だって・・・」
三橋「・・・」
玲子「あ、今のはあくまでもあたしの推測ですよ。、静岡の専門学校で一人暮らししてるころに思ったんですけどね。」
三橋「うらやましいな」
玲子「うちは変わってるほうかもしれませんよ」
三橋「いや、自分で生きたいように生きてきたなんて」
玲子「今からでも遅くないんじゃないですか?」
三橋「え・・・」
玲子「お父様にいえるとしたら、今なんじゃないですか?」
三橋「反抗期ということですか」
玲子「反抗期じゃない。」
三橋「・・・」
玲子「違うと思うならいえばいいんです。あってると思うならいわなくてもいいけど・・・でも、もっと正直になってほしいんです」
三橋「僕は正直ですって」
玲子「迷ってますよね」
三橋「迷ってない!」
玲子「ほんとが聞きたいんです。本心から、あそこから立ち退いてほしいのか」
三橋「本心です!」
玲子「・・・」
三橋「そのためにも僕からもお願いがあるんです。智さんに言っていただけませんか?」
玲子「・・・」
三橋「昔の東口がにぎわったように、今の東口ももっと街の活気を出したいんです。そのためにも協力してほしいんです」
 玲子、立ち上がる
 そして
玲子「あたしは、シネマ藤岡が好きです」
三橋「・・・」
玲子「給料は安いけどね」
 玲子、ハケる
 三橋、それを見送ってから、携帯を取り出す
 そして
三橋「(電話)もしもし・・・お久しぶりです・・・先輩。」
 電話しながらハケる

 チェンジ














チェンジ
 桜庭が休憩室で携帯をのぞきこんでいる。
 そこに玲子がやってくる
玲子「あっつ~!」
桜庭「(あわてて携帯を隠しながら)」
玲子「?」
桜庭「お、おう・・・」
玲子「(桜庭の手元を見ながら)ん?」
桜庭「ん?」
玲子「どうかしたの?」
桜庭「いや、なんにも?」
玲子「?」
桜庭「だ、誰も、オメデタを調べるサイトになんて行ってないよ」
玲子「おめでた?」
桜庭「!」
玲子「バッカじゃないの?」
桜庭「え?」
玲子「(袋を出して)ほい、さしいれ」
桜庭「ありがと・・・」
玲子「無理行って休みもらって悪いからね。水羊羹。智さんと食べて」
桜庭「(ばくばくくいはじめる)おう」
 桜庭どんどん食べる
玲子「病院ね、平田先生のところお休みだったから西口の新しいとこまでいってきたのね」
桜庭「そうかあ」
玲子「いろいろ検査してね」
桜庭「おう」
玲子「出た結果が」
桜庭「おう」
玲子「ただの疲労、だって」
桜庭「・・・」
玲子「工場の事務の仕事に比べたら今のほうが大変だからね。お休み週一日だし、立ちっぱだし」
桜庭「・・・」
玲子「ね、聞いてる?」
桜庭「ああ・・・」
玲子「栄養剤とかもらってきた。ごはんのあとに四つも飲むんだよ?信じらんないよね」
桜庭「そうか・・・(完食する)」
玲子「泰輔も疲れてんの?」
桜庭「疲れるほど働いちゃいねえよ」
玲子「じゃあ、もっと働け」
桜庭「いやおれはね、我が家の主人として万が一に備えて、働くのをほどほどにしてるわけだよ」
玲子「なにが主人よ。大黒柱はあたしでしょ」
桜庭「万作が帰ってきたら、職安行く」
玲子「ど、どういう風の吹き回し?」
桜庭「行ってみようかなあと思っただけだよ」
玲子「あんなに役所嫌いだったのに」
桜庭「まあ・・・な」
玲子「まさか」
桜庭「?」
玲子「ひょっとして、あたしが本当にできちゃったこと考えてたの?」
桜庭「!」
玲子「映画館がつぶれるだのなんだのって、こんな大事なときにできちゃうわけないでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「あ、午後もお休みいただきます」
桜庭「ゆ、ゆっくりしてろ」
玲子「かわり、ありがとうね。じゃ」
 玲子はけようとする
桜庭「あ、あの・・・」
玲子「え」
桜庭「つ、つり銭は今のところ合ってるからな」
玲子「さすがは元銀座のレジ係」
桜庭「キャラメルも・・・ガンガン・・・売ってるし・・・」
玲子「ご苦労様」
 今度こそはけようとする
桜庭「おれって親父になれるかな」
玲子「!」
桜庭「親父になる資格・・・持ってるかな」
玲子「・・・」
桜庭「これといった仕事にゃ・・・就いとらん。趣味は・・・酒。映写技師なんて、なりたくてなったわけじぇねえし」
玲子「・・・」
桜庭「短気、ぐうたら、バカな俺でも、親父になれるのかな」
玲子「短気で喧嘩するのはいいけど、青森に逃げるのはよくないと思ってるよ」
桜庭「だってあれは、ずっとじじいの下でタダ働きだったし(普通は金くれるぜ)」
玲子「(かぶせて)あたしも無料奉仕でした」
桜庭「・・・」
玲子「智さん、最初は泰輔がここに戻ってくるの、ずっといやがってたんだよ」
桜庭「・・・」
玲子「泰輔が総一郎さんとこで世話になってたから、しぶしぶOKしたみたい。だから今でも微妙な感じで話してるのわかるでしょ?」
桜庭「・・・ああ」
玲子「まあ、それはともかく、泰輔は父親になれるでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「父親になる資格は、あたしが思うに男ならだれでも持ってる」
桜庭「・・・」
玲子「そのひとつが仕事だと思うよ。」
桜庭「仕事か」
玲子「もうすぐここで働くのも終わりでしょ? もし正直に仕事に就くのがいやだったら、うちであたし以上に主夫してよね」
桜庭「掃除は大丈夫だ。」
玲子「ほんとに?」
桜庭「がんばれば。ただメシが作れねえんだよ」
玲子「いざとなったら、あたしがみっちり教えてあげる」
桜庭「じゃがいもは・・・フライパンでいためたら食えると思ってたくらいなんだよ?」
玲子「そんなこともあったね」
桜庭「じゃがバターが食いたいって、で、フライパンにサラダ油いっぱい入れて、生のイモいれたら」
玲子「ポテトフライができたもんね」
桜庭「ああ。そんな俺でもいいのかな」
玲子「・・・」
桜庭「親父ってなんだろう・・・」
玲子「資格よりも、もっと大切なことがあると思うけど・・・?」
桜庭「・・・」
玲子「レジ閉めまで、過不足なしでお願いします」
 玲子、はけようとする
桜庭「映写室に来い」
玲子「?」
桜庭「明日からのやつのテスト上映をするんだ。」
玲子「別にいいよ」
桜庭「面白いぞ。俺の好きな映画のひとつだ。」
 桜庭、玲子の手をとり、はける
 暗転









第三章
三橋「ひとつだけ方法を考えました」
 明転
 ここは休憩室
 翌日の朝である
三橋「大学のヨット部の先輩がハミングバードシネマの役員をしておりまして」
智「はあ・・・」
三橋「昨日、電話でなんですが、軽く東口再開発計画の概要を話したところ、大変興味を示されまして・・・」
智「?」
三橋「・・・」
智「それって・・・うちが、ハミングさんとこに買収されるということですか?」
三橋「僕が考えた折衷案です」
智「・・・」
三橋「いつも思ってたんですが、この辺は新宿や渋谷には遠いじゃないですか。映画館はここと、西口のハミングバードシネマのふたつしかない。先輩に聞いてみたら週末とかお客さんはやはり新宿や渋谷に取られてるらしいんですね。」
智「・・・」
三橋「それを補強するために東口にもハミングバードシネマを立てることによって、このエリアでの映画人口を大きく確保できる。そして、智さんも映画館をずっとやっていける・・・」
智「今のままでやれるんですか?」
三橋「・・・」
智「シネマ藤岡として。キャラメルとコーラしか置かないこのままで」
三橋「智さんはキャラメルとコーラを一緒に飲んだり食べたりしながら、映画を見たことがあるんですか?」
智「!」
三橋「もちろん、為蔵さんがここを立てたときからの方針だし、経験あるんですよね」
智「・・・」
三橋「本当はあまりそういうところに意味を感じてない・・・とか?」
智「そんなことはありません!」
三橋「・・・」
智「父さんが決めたことだ。意味はあるんですよ」
三橋「教えてください」
智「・・・」
三橋「疑問に思ってるんですね」
智「ち、違います!」
三橋「この際だ、おもいきって変えませんか?」
 三橋、かばんから地図をおもいきり出す
智「!」
 そしてひとつの場所を指し示し 
 バンと指を刺す
三橋「十個の上映室を持つ、ハミングバードシネマ・イースト10(テン)に生まれ変わるんです」
智「!」
三橋「映画館として存続できる。ハミングバードシネマとしても意味がある。そして僕も、再開発計画を貫徹できる。これなら・・・喜んでいただけるのではないでしょうか」
智「映画館として残るのはいいんですが・・・」
三橋「十個のうちの九個は新作になっちゃうと思います。でも一個は今までどおり智さんチョイスの旧作をまわせるんです」
智「CUCU MOVIESの方は?うちの担当の鬼山田さんにはどう説明するんです?」
三橋「昨日お伺いしました。鬼山田さんはあいにく不在だったんですけど、社長さんはシネマ藤岡の売り上げに疑問をもってらっしゃるようでした」
智「!」
三橋「プロデュースを手放すかもしれませんよ」
智「そんな!」
三橋「確認してみますか?」
智「(電話を見つめる。そして、ため息)・・・外堀は、もはや・・・埋められたか・・・」
三橋「・・・」
智「おかしいと思ったんですよ。商店街の会合だって、一次会には呼ばれるんだけどなぜか二次会のほうには呼ばれなかった」
三橋「二次会は、僕とか父も参加しての再開発についての会合でしたから」
智「呼んでください!」
三橋「僕が智さんに気をつかいすぎたのかもしれません。」
智「かなり前から、再開発の話はあったんですよね」
三橋「・・・」
智「俺は総一郎さんを信じてた。」
三橋「だから考えてきたじゃないですか!映画館は存続できるんですよ!つぶれるよりはいいじゃないですか!」
智「・・・」
三橋「昨日、玲子さんがいらっしゃって」
智「・・・玲子さんが?」
三橋「シネマ藤岡をつぶさないでくださいって・・・」
智「・・・」
三橋「それだけ智さんもここも愛されているということです。愛されているなら、残すこと、続けることを考えないと」
 そこに
玲子「おはようございまーす・・・」
 桜庭、玲子が入ってくる
玲子「あ・・・」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます
桜庭「おう、朝からおそろいか」
三橋「(智に)考えておいてください」
智「・・・」
 三橋、帰りかけるが
三橋「(智に)ひとつお聞きしたいことがあります」
智「?」
三橋「智さんが映画館を続ける理由ってなんですか?」
智「・・・」
三橋「為蔵さんがお亡くなりになったから仕方なく、とかですか」
智「!」
 智、立ち上がると
 三橋を一気に壁際に追い詰める
玲子「智さん!」
智「(三橋をにらみながら)・・・」
三橋「(智に)ど、どうしました?」
智「仕方なく・・・ですって・・・?」
 遅ればせながら桜庭、智を抑える
三橋「僕を今こういうふうにしてるのが、答えだと思ってもいいですか」
桜庭「(抑えながら智に)こらえろ、ぼっちゃん!」
智「・・・」
三橋「それとも・・・いまだになにをしたいのか(わからないとか)」
智「!」
 智、三橋を地面にたたきつける
三橋「ではなんですか?」
智「父さんの意思を引き継いでしっかりと(やっていくのが・・・)」
三橋「引き継ぐのはいい。映画館を続けていく確固たる理由が智さんの中に」
智「あります!」
三橋「教えてください」
智「教える必要はないでしょう」
三橋「キャラメルとコーラの意味もわからないのにですか!」
智「!」
智「うるさい!」
 智、走って逃げる
 呆然とするみんな
 
チェンジ

















チェンジ
 智、走ってくる
 そしてとまる
 そこに
 桜庭も走ってくる
桜庭「(息切れ)」
智「(息切れ)」
桜庭、手に、コーラのコップとキャラメルの箱を持っている
智「!」
桜庭「やってみろよ」
智「・・・」
桜庭「このふたつの意味がわかんねえなら、やってみろ」
智「でもいまさら」
桜庭「いまさらじゃねえ!」
智「!」
 桜庭、再度、ふたつを進める
 智、ゆっくりそれをとる
 ふたりいすに座る
 智、コーラを飲む
 そしてキャラメルを放り込む
智「・・・」
桜庭「どうだ・・・」
智「・・・」
桜庭「ま、そういう俺も実はわかってなかったりするんだけどな」
智「!」
 桜庭、キャラメルを一口
 そしてコーラを飲む
桜庭「よし、いくぞ」
智「え?」
桜庭「いいからいくぞ!」
 ふたり、館内に入っていく
 
 ふたりはキャラメルとコーラを食べながら映画を見てる
 
戻ってくるふたり
智「こうやって、父は映画を見てたんですね」
桜庭「そうだなあ・・・」
智「・・・」
桜庭「あんまり・・・俺は・・・坊ちゃんにつべこべいう権限なんてねえのはわかってる。でも・・・今だから言わせてもらう」
智「・・・」
桜庭「おれも映写技師の端くれだ。二日まわしてきてわかったことがある。ここは、映画を楽しむだけの場所じゃない」
智「・・・」
桜庭「この映画館は愛されてる」
智「!」
桜庭「あの変人がいってたじゃねえか。映画が好きなんじゃねえ、映画館が好きなんだって」
智「・・・」
桜庭「ただ映画を見るだけならどこでもできる。ここは映画以外のなにかがあるんだ」
智「なにか・・・」
桜庭「なんだろうなあ・・・一時期、流行った癒しってやつか?」
智「・・・」
桜庭「そのなにかが、あのじじいが残してったものなのかなあ・・・」
 そのとき
 玲子と三橋がやってくる
 ふたりはじかれたようにたつ
三橋「失礼します」
 三橋、はけようとする 
 そのとき
智「申し訳ございませんでした!」
 智、おもいきり腰を折って謝罪する
三橋「・・・」
智「かっとなったとはいえ、暴力までふるってしまいました」
三橋「別にいいんです」
智「・・・」
三橋「明日、さっきの先輩をお連れします。CUCU MOVIESのほうには、智さんのほうから電話してもらっていいですか?」
智「わかりました。」
三橋「では・・・」
智「おれからもひとつ提案があります。」
三橋「?」
智「賭けをしましょう」
三橋「?」
智「明日夜の最後の回!うちのお客さんを満員にする!」
玲子「え!」
桜庭「そんなの無茶だ」
智「(三橋に)総一郎さんたちが勝手に再開発計画を進めたように、俺たちも勝手にさせていただきます」
玲子「ちょっと落ち着いて考えましょうよ!」
智「(三橋に)明日から『海の上のピアニスト』という作品を上映します。忙しいと思いますが、きていただけますか」
三橋「・・・」
智「ひとつでも空席があったら、総一郎さんの言うとおりにします。でももし満席だったら、このシネマ藤岡、そしてこのビルはこのまま残す!」
三橋「!」
智「ここにあるなにかを信じたい。」
三橋「・・・明日、二一時にうかがいます」
 三橋ハケる
 智、それを見つめたまま
玲子「(三橋がはけてから)無理ですよ明日なんて!」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「宣伝だってどうするんですか?今日来たお客さんに、明日も来てくれなんていうんですか?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「それに明日は平日ですよ。いくら、ふつうの人の仕事終わってからの回だっつったって、限界が」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「なにかいい考えがあるから言ったんですよね?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「智さん?智さん?」
 そのとき、
智「○△■□!」
 といいながら、倒れる
玲子「智さん!」
桜庭「ぼっちゃん!」
 暗転




暗闇の中、声がする
為蔵「智、おい智」
 明転 
 倒れている智
 そこを俯瞰で見るように、白井がいる
智「白井さん・・・?」
為蔵「なにいってんだバカ」
智「!」
為蔵「お前と顔を合わすのもひさしぶりなもんだ」
智「・・・」
為蔵「もっと気のきく奴になってるかと思ったけど・・・そうでもなかったな」
智「うるさいな・・・」
為蔵「ほんとわかんない奴だ」
智「こんな映画館残してさっさと死んじゃうなんて」
為蔵「悪かったな。お先させてもらって」
智「おかげで、おれは今大変なことになってるよ」
為蔵「十分見させてもらったよ」
智「さっきいたの?」
為蔵「なんでもお見通しだ」
智「・・・」
為蔵「ふん、あんな賭けしやがって・・・」
智「おれも父さんの子供ってこった」
為蔵「・・・。」
智「父さんの無謀な遺伝子がおれにも入ってるってこった」
為蔵「お前に無謀なんていわれたかないな」
智「ふん・・・」
為蔵「ま、お前のやりたいようにやってみろ」
智「・・・」
為蔵「生きやすい世の中なんてどこにもねえ。」
智「・・・」
為蔵「ひとりで歩いて、すごろくのあがりまで行ってみろよ」
智「・・・」
為蔵「おれの生きてきた時代は何かがずっとずれてる時代だった。
戦争終わってよ、アメリカのやつにめちゃくちゃにされて、調子いい奴が『日本が変わった。いい国になるんだ』みてえなこといってたけど、おれはそれ聞いて裏で唾吐いてたよ。
  ふん、変わってなんかいねえ。戦後のめちゃくちゃを必死で生きようとした大人とそれを一番近い場所で遠い目をして見てた俺たち。それが現実だったんだ。」
智「・・・」
為蔵「映画館ってのはそんな俺が唯一、今、生きていることを感じだ場所なんだ」
智「生きている・・・」
為蔵「そうだ」
智「・・・」
為蔵「おう、次会うときは、もっとこう、いい顔になってろよ」
智「え・・・」
為蔵笑って、ハケはじめる為蔵
智「父さん!」
為蔵「ひさしぶりにキャラメルとコーラでも食べるか」
智「父さん!」
為蔵「おれは、ずっと・・・お前のそばの、どこかにいる」
智「・・・」
 為蔵はける
智「父さん・・・父さん!」
 そのとき
桜庭「ぴんぴんしてるじゃねえか」
智「父さんは?」
桜庭「父さん?」
智「父さんですよ。さっきまでここにいて」
桜庭「幽霊でも見たんじゃねえか?」
智「形は白井さんそっくりなんですけど、中身が父さんなんです」
桜庭「はあ?」
 そのとき
玲子「あたし、すれ違いましたよ」
桜庭「え?」
智「え!」
玲子「なんかまた来るっていってました」
桜庭「おい?」
玲子「(うなづく)」
智「そうですか・・・」
玲子「でも、どうするんですか?」
智「はい?」
玲子「明日」
智「明日?」
桜庭「満員にするんだろ?」
智「ええ」
玲子「いつもの智さんらしくなかったなあ」
智「そうですか?」
玲子「かっこよかったよ」
桜庭「現実問題、手はあるのか?」
智「『海の上のピアニスト』は九九年に上映されて、かなり評判になった作品です」
桜庭「シネマチャートにもしっかり入ってたしな」
玲子「船の上で生まれて一度も地上に降りなかった天才ピアニストの話」
智「よくご存知ですね」
桜庭「昨日いっしょに見たんだ」
玲子「男同士の友情っていいよね」
智「だからなんとかなると思うんですけど」
桜庭「なんとかなるって?」
玲子「そこそこ有名だから人が入るんじゃないかってこと?」
智「ええ」
玲子「は!最悪・・・」
桜庭「そんな他人任せな賭けやるんじゃねえよ」
智「そうかなあ・・・」
桜庭「いいか?人をたくさん入れるにはどうするか!」
玲子「守っていちゃあかわらない!攻めて攻めて攻めまくる!」
智「攻める・・・」
桜庭「パソコン貸してくれ」
智「え」
桜庭「俺がチラシ作ってやる」
玲子「作ったら、『文房具のこむらや』で千枚くらい刷っちゃうね」
智「千枚も!」
桜庭「チラシってのはな、撒いた分の十分の一の人が興味を持つっていわれてるんだ」
玲子「千の十分の一は?」
智「百」
桜庭「うちの定員は」
智「百人」
玲子「ね?」
智「なるほど」
玲子「でしょう?」
智「ええ。少しでも呼びましょう」
玲子「あ、あとね、明日の夜の回は、キャラメルとコーラを全員に配りましょう」
智「赤字ですよ。物販で売り上げをとっていかないと(だめです)」
玲子「為蔵さんの気持ちを体験してもらうんです」
智「・・・」
玲子「そうすれば、ここの映画館の存在意義がわかってもらえるはず・・・」
智「なるほど・・・」
桜庭「あとは、ぼっちゃんしだいだな」
智「え・・・」
玲子「あたしたちはできるところまでやる。」
桜庭「坊ちゃんにしかできないところは、ぼっちゃんがやるべきだ」
智「・・・」
桜庭「つきはなしてるってわけじゃねえぞ」
智「・・・」
桜庭「坊ちゃんの賭けだ。あとは、まかせて大丈夫だよな」
智「桜庭さん・・・」
桜庭「もし今度じじいに会ったら『桜庭さんはやっぱりいい人でしたよ』っていっといてくんねえかな」
智「それは無理です」
玲子「調子のりすぎ」
桜庭「すまんすまん」
智「でも・・・ありがとう・・・ございます」
 ここでふたり、初めて握手をする
 そこに玲子も手を加える
玲子「シネマ藤岡始まって以来のお祭りですね」
智「ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡祭り」
玲子「ひねりがないね」
桜庭「うるせえ!シネマ藤岡祭りの始まりだ!」
 三人、その手を高くあげる
チェンジ








第四章
 外
 白井が、外で待っている
 そこに桜庭と智がやってくる
智「緊張しますね」
桜庭「なにが?」
智「チラシ配りなんて生まれて初めてですよ」
桜庭「俺はティッシュならたくさん配ってるけどな」
智「じゃあ、先輩ですね」
桜庭「まあな。」
智「ドキドキです」
桜庭「よしいいか。ビラ配りってのはここ(心のこと)が強くなくちゃやってらんねえ」
智「ガラスのハートの俺にできるかな」
桜庭「け!よし、見てろ」
 桜庭、大きなとおりに立つ
 そして一転笑顔で
桜庭「(営業声)ご通行中のみなさ~ん、駅前のシネマ藤岡で~す!(手を差し出す)」
智「すごい声ですね・・・」
桜庭「(営業声)明日夜一九時の回は『シネマ藤岡祭り』で~す!よろしくおねがいしま~す!」
 しかし、チラシは誰も取らない。
桜庭「(固まる)」
智「・・・」
桜庭「・・・」
智「さ、桜庭さん?」
桜庭「(そそくさと戻って)ガラスのハートなんて、こっぱみじんだろ?」
智「は、はい・・・」
桜庭「人間っていかに他人に興味ないかがわかる」
桜庭「勉強になります」
桜庭「(肩をたたいて)やってみろ」
 桜庭、ひっこんで、今度は智がたつ
智「(チラシを持った手を出す)」
桜庭「(それを見る)」
智「しっねっまふじおっかで~~~す。」
桜庭「おい!」 
 桜庭、智の元にかけより
桜庭「緊張しすぎだって」
智「そんなこといったって!」
桜庭「本番に弱いタイプだな」
智「人が多すぎるんですよ!」
桜庭「駅前なんだから当たり前」
智「ですけど・・・」
桜庭「賭けに負けたくないよな?」
智「はい・・・」
 桜庭、バシッと智の胸をたたく
智「!」
桜庭「男だ!」
 そして桜庭は智とは違う方向にいく
桜庭「(普通の声で)シネマ藤岡です!明日夜『シネマ藤岡』祭りやります(チラシを配り始める)」
 智、それを見る
桜庭「作品は『海の上のピアニスト』!一九○○年代最後にして最高の傑作の呼び声も高い、すばらしい作品です!どうぞ、お越しください!」
 智もたつ
智「(がんばって)こんばんは!シネマ藤岡です!」
桜庭「(配りながら見る)」
智「明日十九時からは『シネマ藤岡祭り』やります!シネマ藤岡創業者、藤岡為蔵思い出の味、キャラメルとコーラをいらっしゃったお客様全員にお配りいたします!作品は『海の上のビアにスト』!みなさまぜひいらしてください!」
 そのとき
白井「『海の上のピアニスト』ですか」
智「父さん!」
白井「は?」
智「あ、いや、白井さん」
白井「見ましたよ。やるんですね」
智「ええ。」
白井「私ね、オープニングのプルート・テイラー・ヴァンスがひとり街角でトランペットを鳴らしながら、船を下りないナインティーンハンドレッドを語りはじめるシーン、大好きなんですよ」 
桜庭「(智に)なにサボってるんだ?」
智「あ、白井さんです」
白井「ど、どうも」
桜庭「おう変人」
白井「へ?」
桜庭「そうだ。この前は悪かったな」
白井「はい?」
桜庭「音が途切れたって」
白井「あ、ああ!あのときも(いたんですか)」
桜庭「(智に)ぼっちゃん」
智「はい」
桜庭「この人が明日きたら、ただで入れてくんねえかな」
智「!」
白井「い、いやなにを(いってるんですか)」
桜庭「(かぶせるように)おれの給料から千円、天引きしていいから」
白井「!」
桜庭「(智に)な?」
智「わかりました」
白井「あ、もうそこまで気にしてませんから」
桜庭「わりいと思ってる」
白井「・・・」
桜庭「坊ちゃんにいわれたときはよ、正直、かったりいなあって。でも音も、画も、客も、んで、俺たちも含めてひとつ映画なんだよなあ」
智「・・・」
桜庭「(チラシを渡して)明日は完璧な上映するんで見に来てくれ」
白井「(それを受け取って)わかりました」
智「(桜庭に)明日は、じゃないですよ」
桜庭「え」
智「明日、も、です」
桜庭「調子のりやがって」
智「そうだ。明日は娘さんもぜひ!」
白井「ああ、どうでしょうかね・・・」
ふたり「?」
白井「今年に入ってからは会おうと思ってる日が合わなくて、だからずっとひとりで来てたんです」
智「・・・」
白井「夜は塾だ、日曜はバレエのお稽古だとかいってるけど、本当のところはね、十一歳だし、そろそろ父親がうざったくなる歳かもしれないなと」
桜庭「思春期か・・・」
白井「ええ」
智「難しいですね」
白井「まあ、でも、電話してみようかな」
智「?」
白井「妻に。ちょうど明日は会う日に当たってるんです。」
桜庭「明日は平日だろ?」
白井「!」
桜庭「厳しいんじゃないの?」
智「桜庭さん」
白井「・・・私だけで見にこようかな・・・」
智「・・・」
白井「うん。明日は私だけでいきます」
智「・・・」
桜庭「切符のことは売店の女に俺からいっとく。名前は・・・」
白井「白井です」
桜庭「OK。」
白井「それじゃ」
 白井、ハケようとする
 そのとき
智「ぜひ電話してあげてください!」
白井「え・・・」
智「電話・・・電話してあげてください!」
白井「!」
智「確かに娘さんにもいろいろ重なってるかもしれません。でも・・・でも娘さんほんとは、電話を・・・待ってるかもしれない」
白井「・・・」
智「なんかそんな時期ってないですか?あまのじゃく的に本心を見せないっていう」
白井「・・・」
桜庭「ただこっぱずかしいだけだろ?」
智「それもあります。それもあるんですけど、感謝とか、時には愛情とか・・・なんだか・・・わかんないけど・・・うまく、こう、表にだせないとき・・・」
白井「・・・」
智「俺もずっと・・・そうだったから・・・父さんに・・・」
白井「・・・」
智「電話してあげてください。」
白井「・・・」
智「話してください。いっしょにいらしてください」
白井「・・・わかりました」
 白井、携帯を取り出し、話しながらハケる
桜庭「大丈夫なのか?」
智「?」
桜庭「おれは責任もてねえぞ」
智「さあ、チラシ配りしましょう」
桜庭「・・・」
智「(大声で)こんばんは!シネマ藤岡です」
桜庭「シネマ藤岡です!シネマ藤岡祭りやります!」
 ふたりは配り続ける






































○挿入 2007/07/06
 チェンジ
 休憩室
 それを見ている三橋
 そこに玲子はいってくる
 三橋、気づかない。
玲子「満員にしたいんです」
三橋「(玲子を見て)」
玲子「あたしたち。」
三橋「・・・」
玲子「外はずっと暑いんです。あのひとたちは汗をいっぱいかきながら必死でチラシを撒いてる」
三橋「・・・」
玲子「普通の人が見たら、ただのばかに見えるかもしれません。でもそれだけいっしょうけんめいだってことです。」
三橋「・・・」
玲子「いっしょうけんめいなときは、人間、バカにならなきゃ」
三橋「・・・バカに・・・なる・・・」
玲子「あたしは、頭よくて冷静な人より、熱いバカが好きです。」
 玲子、倉庫に入って
玲子「(声のみ)なにしにいらしたんですか?」
三橋「!」
玲子「(声のみ)うちらのこと、やっぱ気になったりとか?」
三橋「わ、忘れ物とりにきただけです!」
 三橋、あわてて地図を取る
 玲子出てきて
玲子「あれ?それってもらえるもんじゃないんですか?」
三橋「このあと会議で使うんです」
玲子「いいじゃんパンフなんだから」
三橋「社外秘なんです」
玲子「けち~」
 そこに電話
三橋「(電話)総一郎です・・・あ、先輩・・・今から下に降ります」
玲子「忙しいですね」
三橋「(電話切って)おかげさまで盆休みももらえなさそうです」
玲子「そうなんだ・・・」
三橋「玲子さんはどうですか?」
玲子「あたしは休みなんていりません」
三橋「?」
玲子「休んじゃうとね、なんか逆にどきどきしちゃうんですよ。週一の休みの日でも、ああ、コーラのボトル切れてないかなとか、キャラメルの在庫どんくらいだっけとかってね」
三橋「僕と同じだ」
玲子「え」
三橋「ずっと仕事のことが頭から離れない」
玲子「不思議ですよね。キャラメルとコーラしか売ってないんだけど」
三橋「為造さんの意見に縛られないでもっと増やせばいいのに」
玲子「あたしもそれ言ったことあるんです。でもね、たった二個のアイテムなのにけっこう管理が大変で」
三橋「そうなんですか」
玲子「ほら今もね、売り場に切らしちゃったから面倒くさいけどもってかなきゃならないんです。そうかと思えば倉庫に余らせちゃったり。そういう意味でいうとあの二個でちょうどいいのかも」
三橋「やっぱり好きなんですね」
玲子「そうねえ、そうなっちゃうのかなあ」
三橋「僕もこの仕事にすべてかけてます」
玲子「・・・」
三橋「玲子さんは明日は満員になると思いますか」
玲子「もちろん」
三橋「・・・」
玲子「(窓を見て)あの人たちもバカならあたしもバカですから」
 そのとき玲子
 ふらふら・・・そして
 倒れる!
三橋「玲子さん?」
 玲子は動かない
三橋「玲子さん!玲子さん!」
 三橋脈などを見るそして携帯を取り出す
三橋「(電話)もしもし!救急をお願いします。えっと場所は、駅東口、一階に松屋があるビルの四階、シネマ藤岡です!」
 三橋、電話切る
三橋「玲子さん!玲子さん!」
 外では、ふたりが必死で配る
智「(上を向いて)ん?」
桜庭「おい、さぼるなよ」
智「雨ですね・・・」
 雨の音
桜庭「(天に向かって)負けねえぞ・・・」
智「(天に)ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡です(繰り返し)・・・」
智「シネマ藤岡祭りやります!(繰り返し)・・・」
 そのとき、救急車の音がする

 智と桜庭、配りながら何気なく、その方向を見る
 救急車が止まる
智「止まった」
桜庭「(車を見て)ん・・・?」
智「珍しいですね」
桜庭「松屋で誰か肉でも喉につまらせたか?」
 そのとき智の携帯がなる
智「(電話)もしもし・・・ん、総一郎さん?・・・え?」
桜庭「?」
智「・・・今行きます!」
 智、ダッシュではけようとする
桜庭「まだ配り終わってねえぞ!」
智「(振りかえって)玲子さんが・・・」
桜庭「?」
智「戻りましょう!」
 ふたりダッシュではける
 暗転










第四章 
明転
 まず、桜庭が入ってくる
 客席を見渡していく
 場内をぐるりと一回りする
 そこに智が入ってくる
智「(見渡して)」
桜庭「けっこうはいってるな」
智「ええ」
桜庭「あとはこの前の席の分、四人だ」
智「・・・」
桜庭「どうした?」
智「本当にすいません・・・」
桜庭「・・・」
智「玲子さんが倒れたことはおれにも責任があるかもしれません」
桜庭「気にするなって」
智「でも」
桜庭「いやね、おれも、今日は玲子のそばにずっとついてやるっていったのよ。」
智「・・・」
桜庭「そしたら、バシッてな」
智「・・・」
桜庭「これだけ泰輔のほっぺたを殴る力があるから大丈夫なんだって・・・」
智「玲子さん・・・」
桜庭「玲子なりに気にしてるんだ。」
智「・・・」
桜庭「玲子のぶんもがんばろう」
智「ええ」
 そこに
 三橋来る
 三人、目を合わせる
三人「・・・」
桜庭「礼をいってなかったな」
三橋「いいですよ・・・」
桜庭「・・・」
三橋「救急車を呼んだだけですから」
桜庭「・・・ま、ありがとうな」
三橋「あれから大丈夫ですか?」
桜庭「うん・・・」
三橋「そうですか」
桜庭「ああ」」
 三橋、中を確認する
二人「・・・」
三橋「(確認してから)失礼します」
桜庭「おい」
三橋「・・・」
桜庭「勝負はまだ決まってねえぞ」
三橋「空席がそこにあります」
桜庭「上演まであと少しはあるんだけど?」
三橋「無理でしょう」
桜庭「なんだと?」
三橋「平日な上に外は雨です」
智「総一郎さん」
三橋「・・・」
智「おれね、やっとあのふたつの意味がわかったんです」
三橋「・・・」
智「映画を見るときって、必ずちょっと心が緊張してるときがあるでしょう。物語の面白さにわくわくして、そしてどきどきしてる。
それをまず、このキャラメルが口の中にはいって一緒になって口の中でほぐしていきます。
そしてコーラ。甘ったるくなりすぎた口の中を強烈な炭酸の泡がぱーっと吹き飛ばしてくれる。泡の刺激が同時に適度な緊張感になることで映画を見るための集中力をとめさせないんです」
三橋「まるで料理評論家みたいですね」
智「気取ってしまいました」
三橋「・・・」
智「本当に映画が好きな人間は、雨が降ろうが、嵐になろうが絶対きます」
三橋「・・・」
智「すでにこれだけ多くのお客さんが来てくださってるんです。この映画館を好きな人もこのあと絶対に来る」
三橋「・・・」
智「おれはお客さんを信じます」
三橋「どうぞ」
智「・・・」
三橋「このあと、ハミングバードシネマの先輩をお呼びしてあります。」
智「・・・」
三橋「いつもの休憩室、つかわせてもらってもいいですか。」
桜庭「いよいよ実力行使か」
三橋「智さんにお話があるんです」
桜庭「け!」
智「・・・」
 そこに
玲子「は~、ひっどい雨だね」
三人「!」
桜庭「玲子・・・」
玲子「?」
三人「・・・」
玲子「どうしたんですか?みなさん?」
智「いや、だって・・・」
桜庭「おい!あれほど安静が必要だって言われたじゃねえか!」
玲子「うん。だから平田先生と喧嘩してきちゃった」
桜庭「え!」
智「ほんとに大丈夫なんですか!」
玲子「ちょっとふらふらするんですけどね、でも大丈夫」
桜庭「まったくもう・・・」
玲子「なに?あれほど、ここのためにがんばって出てきたっていうのにその態度はないでしょ?」
桜庭「それは玲子の体が心配だからさ」
玲子「あたしの体はあたしが一番わかります!」
桜庭「・・・」
玲子「まあでも、心配してくれてありがとう・・・」
智「本当にすいませんでした!」
ふたり「!」
智「玲子さんが倒れた件、おれが玲子さんを週六で働かせたのが悪いと思うんです」
玲子「あ、いや・・・」
智「今度、新人を募集しようと思うんです。二人体制になれば、玲子さんもしっかり休めるし」
玲子「あ、それはだって、あたしが働きたくて働いてるから大丈夫なんですよ」
智「え?」
玲子「休みがとれるのはそれはそれでありがたいんですけど・・・」
智「もっと休んでいいんですよ」
玲子「働かせてください!」
智「え?」
玲子「お金が・・・最強に必要なんです」
智「あ、入院のお金だったら保険を使えばいいじゃないですか」
玲子「できちゃったんです!」
桜庭「!」
智「はい?」
玲子「だから!赤ちゃんがいるんです」
智「!」
桜庭「おい!だって前は疲労だっていわれてたじゃねえか!」
玲子「いや、平田先生とこの看護士さんに聞いたらさ、西口って施設ばかり良くって、実はヤブなんだって」
桜庭「ヤブ?!」
玲子「そう」
三橋「え!僕も風邪ひいたとき昨日のとこで見てもらいましたよ!」
桜庭「ああ、だからこんなに頭になっちまったんだ」
三橋「どういうことですか!」
智「まあまあ、で、働きたいっていうのは本当ですか」
玲子「ああ、この子に聞かせたいんです」
智「?」
玲子「ホールの隙間から漏れてくる映画音楽とかを台詞とかを。将来、映画が好きな面白い子供になるって思うんです」
智「・・・」
玲子「あとは働いてて楽しいところが好きなんです」
智「・・・」
玲子「いろんな人に会えるし、働いてればただで映画も見れるし」
ふたり「・・・」
玲子「ま、それは冗談だけど、今がすんごく、楽しい」
智「玲子さん・・・」
玲子「もう少し・・・ここで働かせてください」
智「こんなところで・・・よければ・・・」
桜庭「やったな!(玲子を強く抱きしめる)」
玲子「うあ!そんなにやったら赤ちゃんつぶれちゃう!」
桜庭「ばか!こんなんにもつぶれないくらいの子供じゃねえと、おれの子だって認めねえ!(強く抱きしめる)」
玲子「うあ~」
桜庭「よくやった(強く抱きしめる」
智「無理だけはしないでくださいね」
玲子「臨月すれすれまでがんばんないと」
智「はい!」
玲子「ついでにレジ金の過不足も水に流していただければ(助かります)」
智「無理です」
玲子「ぶー」
三橋「おめでとうございます」
玲子「ありがとうございます」
三橋「ここではなく、新しい映画館でぜひがんばってくださいね」
玲子「はい?」
三橋「見てください」
玲子「(空席を見て)ん?ああ、そうだ、いけねいけね・・・」
三橋「?」
 玲子、バッグから財布をごそごそ
玲子「(千円を出して)大人一枚ください」
三橋「!」
智「はい?」
玲子「大人一枚(千円札をひらひらさせる)」
ふたり「・・・」
玲子「総一郎さん」
三橋「・・・」
玲子「あたし、今日はお客さんとしてきたんですよ」
三橋「・・・」
玲子「(桜庭に)はい、パパになる銀座仕込みの受付さん、よろしく!(千円札を渡す)」
桜庭「お、おう、毎度あり」
 桜庭、千円札を持つといったん、ハケる
 玲子座る
三橋「あまり好ましくない手ですね」
玲子「固いこと言わないでくださいよ」
三橋「従業員なはずなのに」
玲子「従業員の前に、あたしも人間です」
三橋「・・・」
玲子「人はいつだってお客さんになれますから」
 そこに
 白井がやってくる
智「ようこそ、白井さん」
白井「あやうく残業になるところでした。」
智「ありがとうございます」
三橋「遅いですよ、先輩」
智「せ、先輩・・・?」
白井「・・・」
 三橋、白井の隣に立つ
三橋「(白井に)ご紹介します。シネマ藤岡オーナーである藤岡智さん」
白井「どうも・・・」
智「・・・」
三橋「(智に)こちら、ハミングバードシネマの白井健二さん」
智「・・・」
白井「よろしく・・・」
三橋「僕の先輩です」
 桜庭戻ってきて
桜庭「(玲子にキャラメルとコーラ渡しながら)あいよ!」
玲子「泰輔!」
桜庭「(かまわずに白井を見つけて)おう変人」
白井「こんばんは」
桜庭「あれ?娘さんは?」
白井「!」
智「桜庭さん!」
白井「昨日あのあとね、妻にこっぴどく怒られましたよ」
ふたり「・・・」
白井「今日はね、娘の塾のクラス替えテストだそうで」
桜庭「塾でもクラス替えなんてあんのかよ?」
白井「今日のこのテストでAクラス入りしないと、第一希望の学校は無理なんだそうです」
桜庭「第一希望ってのは、親の希望だろ?」
白井「どうでしょうかね」
桜庭「子供はいつまでも無視されるんだよ。そうなっちまうと俺みたいな、でくの坊が生まれる」
白井「・・・」
桜庭「うちは生まれたら好きなように育てるぞ!なあ玲子?」
玲子「ちょっと(空気を読んで)!」
智「桜庭さん、白井さんってハミングさんとこの方だったんです」
桜庭「へ?」
白井「映画館が好きなのは本当です。だからこの仕事に就いたんです。」
桜庭「自分のところで見りゃいいのに」
白井「西口はね。私がお偉いさんなもんだから変に気を使って、落ち着いて見られないんですよ。そのぶん、こっちは落ち着いて楽しむことができた。」
玲子「名刺でももらわない限り、西口の人だなんてわかんないですもんね」
桜庭「ただのバツイチ映画館好きだと思ってたもんな」
白井「ああ、申し訳ないです」
 白井、改めて、名刺を渡す
 シネマ藤岡の三人名刺を受け取る
白井「改めまして、オーナー」
智「はい」
白井「残念ながら今日は客ではありません」
智「・・・」
白井「この映画館はまだまだ伸びるところがある。それに私も東口の住人です。この住宅圏は我々にとって絶好の商圏なんです。」
智「・・・」
白井「お互いの利点を生かして、新しい映画館作りをしていくためにもぜひお話をしたいのです」
智「・・・」
三橋「そろそろ上映時間ですよね?」
智「・・・ええ」
三橋「智さん、休憩室に」
智「・・・」
 三人、はけようとする
玲子「あの!」
 三人止まる
玲子「もうちょっと、待ってもらえませんか?」
三橋「あきらめてください」
玲子「だってほんのちょっと時間あるんですよ」
三橋「あと三人なんてむりですよ」
玲子「そんな・・・」
桜庭「おい変人」
白井「・・・」
桜庭「映画ってのはな、ここの中でしか映画っていわねえ。ビデオだDVDなんてのは映った時点であれはテレビだ。それくらいわかるよな」
白井「ええ」
桜庭「シネコンは音も画もいいんだろうが、売ってるポップコーンとおんなじ軽いスナックみてえなもんだ。重みがないんだ。」
白井「それはあなたの勝手な思い込みじゃないですか?」
桜庭「思い込みなんかじゃねえ!」
白井「・・・」
桜庭「ネコも杓子もドヤドヤ入ってきたら、せっかくの感動も全体的に薄まっちまう。」
白井「・・・」
桜庭「感動ってもんは生き物だ。うちでたくさん見てるあんたが一番わかってるはずだ、ボロくて、ちょっとくらい敷居が高えシネマ藤岡で見たからこそ、心が動かされるんだよ!」
白井「・・・」
桜庭「今逃がしたら一生あの感動は戻ってこねえ」
白井「・・・スナック菓子も、ときにはいいもんですよ」
桜庭「!」
白井「主食もおいしいかもしれないが、三時のおやつもうまいでしょう?」
桜庭「おい!」
白井「行きましょう」
 三人今度こそはけようとする
 三人止まる
桜庭「なんのためにがんばったんだ・・・」
三人「・・・」
桜庭「信じようぜ、なあ!あと三人!三人くることを!」
玲子「絶対きますって!」
智「・・・」
玲子「智さん!」
智「玲子さん」
玲子「・・・」
智「・・・座ってください」
玲子「でも」
智「上演時間です」
玲子「・・・」
智「桜庭さん」
桜庭「・・・」
智「映写室へ」
桜庭「おい!」
智「仕事ですよ」
桜庭「負けを認めたのかよ」
智「早く!」
桜庭「ぼっちゃんは!それでいいのかよ!」
桜庭、エプロンを力強く床にたたきつける
智「(ため息)」
ふたり「・・・」
智「(三橋、白井に)ここでちょっと待っててください」
 智、はける
玲子「智さん!」
 智は完全にはける
桜庭「くそ!」
玲子「どうしよ、どうしよ」
桜庭「おう、そうだ、おれが映写機のスイッチを押さなきゃはじまんねえんだ。」
玲子「それ!ちょっとくらい時間のばそう!」
白井「お客様に失礼じゃないですか?」
桜庭「うるせえな!」
三橋「桜庭さん」
桜庭「この成金息子め!」
三橋「新しいところでは映写のリーダーになってもらいますから」
桜庭「ふん」
三橋「玲子さんも売店のリーダーになっていただく予定です」
玲子「ふん!」
三橋「・・・」
白井「私からもお願いします」
二人「・・・」
 智、キャラメルとコーラを持ってイン
智「お待たせしました」
三橋「(休憩室にいきましょう)それでは」
智「あ、ちょっと」
三橋「え?」
智「せっかくですから(コーラをキャラメルと置きながら)お客さんに話をしたいんです」
三橋「終わってからでもいいんじゃないですか?」
智「閉館のお話をおれの口からさせてください」
三橋「・・・」
白井「どうぞ」
三橋「先輩」
白井「いいじゃないか。」
三橋「・・・」
白井「聞かせていただきましょう」
智「ありがとうございます」
  智、大きく息をついて中央に歩いていく
智「(客に)ええ、先ほどからこんなお客さんの前でずっとお騒がせして本当に申し訳ございません」
客「・・・」
智「本日は当劇場、シネマ藤岡祭りにお越しくださいまして、まことにありがとうございます。
  今日なぜお祭りになったのかということなんですが・・・開館記念日だったりして?・・・なんて、それは実は十一月三日なんです・・・。
   あの、特に、別になんでもないんです・・・・なんでも・・・いや・・・本当は、それを皆様に教えるのを、後にしようと思っていたんです。
 でも、この際だからいいます。
 シネマ藤岡は今度の十一月三日で三年目を越えて四年目に・・・行かずに・・・ここを終わることにしました」
みんな「・・・」
智「さっき、決めました。この件に関してお客様に周知徹底してこなかったこと、心よりお詫びもうしあげます。申し訳ございませんでした」
 智、深々と頭を下げる
智「これからは、新しい映画館で・・・生まれ変わって帰ってきます。スクリーンも十個あるみたいだし・・・売店のメニューも増えます」
玲子「智さん!」
智「・・・」
玲子「いらない・・・いらないし・・・売れないですよ・・・そんなにたくさん・・・」
智「・・・」
玲子「キャラメルとコーラだけで・・・あたしは・・・いい!」
桜庭「俺だって一気に十個なんてまわせねえぞ!」
智「おふたり!」
ふたり「・・・」
智「ありがとうございました・・・」
ふたり「・・・」
智「シネマ藤岡のために・・・そして俺のためにここまで・・・」
玲子「智さん・・・」
桜庭「くそ・・・」
智「(みんなに)失礼しました。ぜひ、また笑顔で、お越しください。今日はどうもありがとうございました!」
智、深々とおじぎする
 白井、拍手する
 三橋も拍手する
 おじぎをした勢いの智、そのまま懐にあるコーラとキャラメルを一セット持つ
 そして
智「(白井に渡す)楽しんでくださいね」
白井「!」
智「お座りなってください。いつものように」
白井「どういうことですか!」
智「今日は確か、白井さんの入場料って桜庭さんの給料から天引きなんですよね?」
白井「!」
桜庭「お!お、そうだ!」
智「受付はすでに済んでるってことなんで、どうぞ(座って下さい)」
三橋「ちょっと待ってください!先輩は仕事の話をしにきたんですよ!」
智「そうみたいですね」
三橋「そうみたいですねって・・・お客さんなわけないじゃないですか!」
智「人は誰でもお客さんになれるんですよ!」
三橋「!」
智「キャラメルとコーラを持ったらその時点でお客さんだ」
白井「・・・」
智「ね?玲子さん?」
玲子「あたしの・・・受け売りですか?」
智「使わせていただきました」
玲子「ったくもう(笑)」
白井「お客さんですか・・・」
智「ええ」
白井「ここに入ったときから、私もお客さんだったんですね」
桜庭「お客さんどころじゃない、あんたは変人の常連だ」
三橋「失礼ですよ!先輩に!」
白井「いや、いいんです。確かに変人の常連だ」
 白井、一セットもって、玲子のそばに座る
玲子「ようこそ!シネマ藤岡へ」
三橋「先輩!」
白井「三橋君」
三橋「・・・」
白井「どきどきしてきたよ」
三橋「!」
 そういって、コーラを飲む
白井「なにが始まるか・・・楽しみになってきた」
三橋「そんな・・・」
 今度は三橋に一セットを差し出す
智「さあ、どうぞ」
三橋「!」
智「御代はは俺の給料から天引きしときます」
三橋「・・・」
智「お話は、この作品が終わってからお聞きします」
三橋「・・・」
智「さあどうぞ」
三橋「お断りします!」
智「・・・」
三橋「智さんがオーナーの仕事をするように、僕も全うしなければならないんです」
智「・・・」
三橋「僕はお客さんじゃない!」
 そのとき、三橋の携帯が鳴る
桜庭「ったく!上映の前に切っとけ!」
三橋「(かまわず電話に)はい・・・社長・・・」
桜庭「いよいよ大ボスのお出ましか」
三橋「(電話)ちょっといろいろあってハミングバードさんは降りてしまったんですが(といって白井を見る)」
白井「・・・」
三橋「(電話)なんとかこのあと話し合いにします。会議は明日にでも・・・え・・・」
みんな「?」
三橋「違うんです。それは・・・あ、遊びで賭けをしたわけではありません!・・・お父さん!聞いてくださいお父さん!・・・あ!」
 三橋、電話をパタリと切る
智「?どうしました?」
三橋「・・・帰ってくるなといわれました・・・」
桜庭「ここを潰さない限り帰ってくるなってことか?」
三橋「違います!」
みんな「・・・」
三橋「クビに・・・なり・・・ました・・・」
みんな「!」
三橋「僕の今までって・・・(絶叫)なんだったんだ!」
 怒りを体で表す三橋
 そして、座り込む
智「電話かけなしてください。お父様の前でもう一度ここを好きなようにして開発する話をすればいい。」
三橋「ここを閉館するんですね?」
智「ええ」
 そこに
 智、さっとコーラをキャラメルを出す
智「電話でお父様と話をしたら、お客さんになってください」
三橋「・・・」
智「これから始まる『海の上のピアニスト』は男同士の友情の話です。」
三橋「・・・」
智「おれと総一郎さんって知り合って三年になるけど、友達ですか?それともビジネスライクな関係ですか?」
三橋「・・・」
智「わかんないですよね?だったら、この作品を見て、もう一度おれたちってなんだろうって考えてみませんか」
三橋「・・・」
智「下の松屋で牛丼でも食いながら、ね?」
三橋「智さん・・・」
智「やっとわかりましたよ。父さんがここを残した本当の理由」
三橋「・・・」
智「こういうときのために残したんだな・・・」
三橋「・・・」
 三橋、携帯を取り出す
 そして
三橋「(電話)もしもし総一郎です。社長を・・・」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総一郎です。社長・・・今一度、計画について僕の意見を聞いてください」
みんな「・・・」
三橋「シネマ藤岡をこのまま活用した上で考え直したい」
みんな「!」
三橋「(電話)・・・おっしゃることはよくわかります。でももう決めました、なぜなら僕が三橋不動産の総責任者だからだ!」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総責任者としてシネマ藤岡は欠かすことはできないと判断しました。詳細は朝一の会議で。それと・・・ここからはあなたの息子として聞いてください。」
みんな「・・・」
三橋「(電話)今日は映画を見てきます。夕飯もこちらでいただいてきますので、お母さんにもよろしく伝えてください。では」
 三橋、電話を切る
 かばんからパンフレットを出す
 そしてそれをおもいきりまっぷたつに破く
智「総一郎さん!」
三橋「お父さんに、生まれて初めて、僕の意見を通しました」
智「・・・」
三橋「(玲子に)これでいいんですよね?」
玲子「・・・おめでとうございます・・・遅い反抗期」
三橋「反抗じゃありませんよ」
玲子「やっと・・・自分になったんですね」
三橋「ええ・・・」
智「総一郎さん」
三橋「もうひとつ正直なこといっていいですか?」
智「・・・」
三橋「僕ね、映画館で映画を見たことなんてないんです」
智「!」
三橋「映画館なんて映画を写すことができれば、どこでも同じだと思ってました。だから智さんたちの気持ちがわかんなかったのかもしれません」
にやりと笑い、財布を取り出すそして千円を出して
三橋「大人一枚・・・ください」
智「・・・」
三橋「お金は智さんの世話になるほどじゃない」
智「・・・」
三橋「シネマ藤岡を生かしながら、新しい東口を考え直しますよ」
ふたり千円と二点セットを引き換える
智「ありがとう・・・ございます」
そして三橋座ろうとする
玲子「いらっしゃいませ」
桜庭「シネマ藤岡へようこそ」
智「ようこそ」
三橋「・・・」
 智、うなづく
智「桜庭さん、お願いします」
桜庭「・・・」
智「桜庭さん?」
桜庭「お?」
智「時間押してますよ!」
桜庭「じゃあ、予告編をつまんじゃって本編からいくか」
智「それはだめです」
桜庭「だって押してるんだろ、時間?」
白井「予告編も含めて映画ですから」
智「そうです」
桜庭「ったく、じゃあ、最後の上映いってくっか!」
 桜庭、エプロンをかぶりなおし
はけようとする
智「最後じゃないですよ」
桜庭「?」
智「明日も九時には来てくださいね」
桜庭「え?だって明日からは万作の野郎が(なんとかすんじゃねえの?)」
智「二人体制でいきますから」
桜庭「・・・」
智「おふたりと、万作さんと、新しい売店の人とがんばりたいんです」
玲子「智さん・・・」
智「おふたりあってのシネマ藤岡ですから」
桜庭「これで当分は俺も安泰だ。じゃあ、いつもの感じでいってくるわ」
玲子「いつもじゃだめ」
桜庭「なんだよ」
玲子「平常心で」
桜庭「かわなんないような」
玲子「ほれいってきなさい!」
桜庭「はいよ」
 桜庭、はける
玲子「うあ、楽しみ。ひさしぶりだなあ映画をお客さんで見るのって」
三橋「どきどきしますね」
白井「お、わかってきた?」
三橋「ええ」
玲子「あ、智さん」
智「はい」
玲子「かなり時間が押してますから、お詫びのごあいさつを」
智「ああ、はい」
三橋「それと、さっきのスピーチの撤回をしてください」
智「・・・」
三橋「はっきりと」
 智うなづく
 桜庭、はける
 智、舞台の中央に立つ
 そして
智「時間押してほんとにすいません!まもなく!始めます!・・・終わりなんかじゃなく・・・ずっと時間を越えていくシネマ藤岡として、今日のお祭りをたのしんでください。」
 お客たち、拍手
電気が落ちる
 どんちょうがあく。
スクリーンに光が映る
  そのとき
桜庭「(白井に)おい、変人」
白井「はい?」
桜庭「お客さんだ」
 桜庭、入り口をさす
 入り口から、白い光が漏れている
白井「!」
桜庭「塾のテストをさぼってきたんだそうだ・・・」
白井「・・・」
桜庭「お袋にあんたがこのことを告げ口しないっていうんなら、会いたいそうだよ」
白井「・・・みさ・・・」
玲子「かわいい名前ですね」
白井「いやそんなことは・・・」
玲子「顔を見にいってあげてください」
白井「・・・」
三橋「席は取っておきますから」
白井「三橋君・・・」
智「さあ・・・」
白井「はい・・・」
桜庭「足元悪いから、案内してやる」
桜庭、白井といっしょにはける
 智、それを見送る
スクリーンには映画が映っている
 音楽が高まっている
それを智、ずっと見ている
 そして
智「父さん・・・ありがとう」
 END