2008年5月23日金曜日

春色東風 ~春の色は東風に乗って~

登場人物

相沢春美 平成コミュニケーション大学付属短大事務職員 小夜子
三島愛  受験生 和田マキ乃
中林明憲 アイコンピュータ営業部のサラリーマン 池亀サンタ
畠山繁  短大二年生(八回目) 渡辺りょうすけ
川原睦子(らいち) web担当事務職員 古橋いつか
伊藤寛司 平成コミュニケーション大学教授 富士河千之介



スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明オペレーター 伊藤朋美
照明サブ   大崎ヒロコージ
音響効果オペレーター 久遠悠
情報宣伝 西郷久美子(フライヤー)
     小夜子(フライヤー)
     富士河千之介(ポスター)
制作本部チーフ 富士河千之介
制作 3man Office制作本部
   「春色東風」パートナーズ
第一章 合格発表できず
 ここは埼玉県北部のとある町
 まわりは畑と田んぼにかこまれ、民家は遠くのほうに見える。そばには山
 そんなど真ん中に突如として高層ビルがぽつんと存在する。
 その高層ビルの影は上から見れば巨大な日時計のようだ。
 それが平成コミュニケーション大学。
 付属短大をふくめた形で平成十年に開学した。
 その短大。学科は国際コミュニケーション学科と日本文学科。
 短大二年間を送った後は親の四年大に進学することもできる。
 就職組はこの時代に珍しく100%。



 その短大事務室。
 二○○六年三月二八日。
 時間は午後一時三○分

 どこか遠くから笛の音が聞こえている

明転

事務員の相沢が忙しく室内を駆け巡っている
 川原がやってきて、なにかいじってからハケる
伊藤がやってきて、相沢にテスト用紙を渡しながら去っていく
 その際にもうひとつの紙も置いていく
 相沢、テスト用紙を机において、またどこかで仕事している
 中林、現れる。
 廊下で室内の様子を見てからまたハケる
そこへ、畠山がやってくる
畠山「春美ちゃん、春美ちゃん」
 相沢、それに気づき
相沢「あ、畠山さん」
畠山「(かばんを机に置き、一息)ふー、疲れた。風で髪がぼっさぼさ」
相沢「(仕事しながら)春ですから」
畠山「春ねえ」
相沢「(仕事に没頭)
畠山「風さえ吹かなきゃいいんだけどなあ・・・」
 相沢、仕事に没頭
畠山「(それを見かねて)ねえ」
相沢「?」
畠山「おれがここに来ている意味わかるよね?」
相沢「えーと、ああ。伊藤教授の?はいはい」
畠山「今年こそ絶対卒業すっからね」
相沢「去年も聞きましたよ」
畠山「いったっけ?」
相沢「あたしよりもここ長いんですもんね」
畠山「そうだけどさあ」
相沢「(仕事)」
畠山「で、どこで試験やんの?」
相沢「え?ああ、ここ」
畠山「ここ?」
相沢「ここ」
畠山「春美ちゃん」
相沢「?」
畠山「冗談よしてよ」
相沢「冗談言うもんですか」
畠山「え」
相沢「上は短大の大掃除」
畠山「てことは普通の教室だめなの?」
相沢「そう。業者さん入ってて。」
 中林、室内を見渡し、伊藤がいないことを残念がる
でも登場
中林「おはようございま~す」
相沢「あ、おはようございます」
畠山「で、どこに座ればいいわけ?(受付よりも奥に入る)」
相沢「(畠山に)ちょっと待って。(中林に)中林さん、今日もいらしたんですか?」
中林「はい~。雨にも負けず、からっ風にも負けずの中林ですから」
相沢「いろいろキャッチフレーズあるのね」
畠山「(勝手に奥に行って)ここかなあ。うわ、こんなとこじゃ集中できないって」
中林「あの」
畠山「なんだよ」
中林「えーと、失礼ですが、伊藤教授のお知り合いでいらっしゃいますか?」
畠山「え?あ、まあそう、そうだよ」
相沢「畠山さん」
畠山「だって知り合ってるじゃん」
中林「あの、伊藤教授はどこにいらっしゃるかご存知でしょうか」
畠山「あの人のことだから普通に自分の部屋にでもいるんじゃないの?」
相沢「そうだと思います」
中林「あ、そうですか。じゃあ、お邪魔しに・・・」
相沢「ああ、勝手にあがると教授怒りますよ」
中林「いけね!そうだった」
相沢「電話しますね」
中林「お願いします」
畠山「おいおい春美ちゃん」
相沢「待ってて(そういいながら電話をする)」
畠山「ったく、もう・・・」
 その間に中林、畠山に近づく
中林「あの、私、こういうものです(名刺を差し出す)」
畠山「(名刺を見て)アイコンピュータ、中林・・・」
中林「あきのりと申します、はい」
畠山「あっそ。」
中林「あの、お名前は・・・」
畠山「え?いいじゃん、そんなの」
中林「そ、そうですか。」
畠山「?」
中林「専門はどちらで」
畠山「日本文学」
中林「ご研究は?」
畠山「研究?」
中林「ええ」
畠山「う~ん・・・と・・・」
中林「?」
畠山「か、川端康成を」
中林「すばらしい!」
畠山「を、少々・・・」
中林「そうですかそうですか!それならですね、教授」
畠山「教授!」
中林「はい」
畠山「誰が?」
中林「いや、え?(手で畠山を指す)」
畠山「おれ?」
中林「決まってるじゃないですか!(カバンの中からパンフレットを取り出し)こちらのPCなんかどうでしょう!」
畠山「おれに売るつもり?」
中林「このAGN-5001はですね、オフィスXPはもちろん、東大の先生方に監修していただいた、日本近現代文学の巨匠たちが全部網羅された研究検索エンジン『ぶんちゃん』がプレ・インストールおりまして」
畠山「ぶんちゃん?」
中林「うちの営業部では私のことを『マムシの中ちゃん』なんて呼んでましてねえ」
畠山「マムシ?」
中林「(大声で)食いついたらPC買ってくれるまで離しませんから!」
畠山「(断末魔の叫び)」
 畠山、相沢に強引に手を引かれて奥の机に移動される。
畠山「はるみちゃ~ん」
相沢「がんばって~」
 見送る相沢
 ふたり奥へ
 入れ替わりにおくのほうから川原がやってくる
川原「(おくのふたりを見ながら)来たかマムシ・・・」
相沢「あちらは蛙として天寿を全うされた方でございます。」
川原「な~む~(合掌)」
相沢「(合掌しながら涙)いい人を亡くしました」
川原「生徒まで食うとは相当腹がへってるな」
相沢「冬眠明けだからね。」
川原「はい、差し入れ」
 川原、みたらし団子を渡す
相沢「ありがとう!」
川原「ナチュラルローソンで五○円引きだった」
相沢「(一口たべて)へえ」
川原「賞味期限一三時」
相沢「(時計を見て)三十分すぎてんじゃん!」
川原「大腸菌は三十分ではそんなに繁殖しない」
相沢「(飲み物を飲みながら)へんなこと言わないでよ」
川原「マムシのエサにでもしようか?」
相沢「それいいかも」
 相沢、お茶セットを持ってきて、団子を載せる
 そしてふたりのもとへ
相沢「どうぞ」
中林「わわ、すぐ帰りますから」
相沢「うちの川原からです」
 川原、中林に手をふる
 中林、深々とあいさつする
 相沢、帰ってきて
相沢「いつおなか下すかしらねえ」
川原「楽しみ楽しみ(あくび)」
相沢「そうだ!むっちゃん聞いて聞いて」
 相沢、川原をすみに連れて行く
相沢「昨日ここの残業終わって帰るときに」
川原「うん」
相沢「更衣室のとなりから・・・へんな音が聞こえたの!」
川原「へんな音?」
相沢「そうそう・・・ほら、昔の映画とかでさあ、オバケとかが出てくるときのこう、ぴょろろろって」
川原「ぴょろろ・・・?」
相沢「あたし超びっくりして」
川原「ぴょろろで?」
相沢「ほんと怖かったんだからもうダッシュダッシュ!」
川原「待って(手で相沢の口を封じる)」
相沢「(ふさがれても声を出す)×△■○・・・」
川原「本当に・・・聞こえた?」
相沢「(手を取って)ほんとだってば!」
川原「(またも無言でみつめる)」
相沢「・・・」
川原「(間をとってから)そ、空耳よ」
相沢「そらみみ?」
川原「そうそう」
相沢「そんなんじゃないって」
川原「iPodとか持ってるよね」
相沢「mini、ピンクの」
川原「可愛そうに、この年で難聴だなんて」
相沢「むっちゃん!」
川原「はいすぐに耳鼻科いきましょう!」
相沢「そんなんじゃないもん」
川原「ああ忙しい忙しい!短大のホムペアップしたら次は大学だあ・・・」 
 そういいながらハケていく
相沢「(川原の背中に)?・・・なにあわててるんだろう・・・」
 そのとき、ひとりの少女がやってくる
 すっと入ってきて、まわりを見回している
三島「あの・・・」
相沢「はい?」
三島「今日・・・短大の合格発表ですよね・・・」
相沢「ええ」
三島「何時から・・・でしたっけ・・・?」
相沢「ええと・・・(腕時計を見て)あ!」
三島「はい?」
相沢「いけね!こうしちゃおれんわ~」
三島「あの」
相沢「ああ、失礼しました。三時からになります」
三島「三・・・時」
相沢「三時」
三島「わかりました。」
相沢「・・・どうかなさいました?」
三島「あ、いえ、別に」
相沢「失礼ですが・・・受験生の方?」
三島「あ・・・」
相沢「受験生の方?」
三島「・・・」
相沢「あの、失礼とは存じますが、受験要項にですね、あの、けっこうちっちゃい字でですね、『合格発表となる時間までは校内に立ち入ることができない』って(書いてあるんですが)」
三島「あ!ああ・・・」
相沢「受験要項はよく読まれましたよね?」
三島「あ・・・すいません」
相沢「視力はいいほう?」
三島「両方とも一・二です」
相沢「あ、ごめんなさいね、ちっちゃい字で。ほんと教授会とかでももうすこし字を大きくしたほうがいいって出たんだけど」
三島「そうなんですか」
相沢「なんか印刷されたら、こんなちっちゃい字になってて」
三島「すいません。勝手に入ってきちゃったりして」
相沢「こちらこそ申し訳ございません。あ、入り口まではご案内いたしますので、外で三時までお待ちいただいてよろしいですか?」
三島「・・・はい・・・・」
 相沢、三島とともに、ハケる
 入れ違いに伊藤がやってくる
 伊藤、室内を見回して
伊藤「やあ、どうも」
中林「伊藤教授!」
 ふたり握手
 伊藤、隣に座ってる畠山に気づく
伊藤「ほれ、よろしく(テスト用紙を渡す)」
畠山「あ、いただきます」
中林「(ふたりを割りこんで)あの、この前の件、どうでしょう」
伊藤「ああ、そう、そうね」
中林「(わくわく)」
伊藤「結論から言うと、おたくのPCだが・・・」
中林「はい!」
伊藤「・・・今回は見合わせということで・・・」
中林「・・・」
伊藤「覚えてますかな。二○○○年問題のときに、中林さんとこからうちパソコン一括購入しましたよね」
中林「・・・」
伊藤「そのローンがまだ払いきってないうちにまた新しいのをってのはちょっとムリ・・・」
中林「(突然、耳を手で閉じたり開いたりしながら大声で)アワワワワ」
伊藤「?」
中林「あ、今年の忘年会ネタの練習をしてしまいました」
伊藤「早すぎるだろう」
中林「鹿の肉を食べようとしたんだけど、どうやって食べていいかわからずに困り果てた北米にいるインディアンです」
伊藤「細かすぎるよ」
中林「だーっ!お願いしますよ!」
伊藤「知らないよ」
中林「このままだと私、今度こそ首が、首が・・・」
伊藤「それは不幸だけど、うちの短大も最近経営が苦しくて、」
中林「そんなあ(甘える)」
伊藤「子供が少ないんだよ」
中林「そんなにいうんなら、こちらの教授にも根回しされました?」
伊藤「教授?」
 中林、畠山を指す
伊藤「・・・?」
畠山「あ・・・ああ・・・伊藤教授」
伊藤「こいつは」
中林「こいつ?」
伊藤「そう、こいつは」
畠山「(さえぎって)困るなあ伊藤教授。」
伊藤「?」
中林「川端康成の研究をしてらっしゃる方ですよね」
伊藤「え」
畠山「お、おれに根回しないなんて失礼しちゃうなあ」
伊藤「お前に回すわけないだろう」
中林「(畠山に)あの、やはりお名前教えていただけませんか?」
伊藤「ああ、こいつは大学に長くいるはたけ・・・」
畠山「(大声で)アワワワワワ!」
伊藤「なんだよ!」
畠山「そりを引く犬たちが言う事きかないときのインディアンです」
伊藤「インディアンの真似流行ってるのかい?」
畠山「(咳払い)私の名前は・・・名前は・・・」
 そういいながらあわてて団子をつかんで前に立つ
伊藤「?」
畠山「(あせりながらも団子を見て・・・)」
 畠山、団子を見ておもいつく
畠山「(くるりと振り返り大声で)ミタラシだ!」
伊藤「え」
中林「ミタラシ?」
畠山「ミタラシダン・・・えーと・・・ああ、ダイスケだ」
中林「珍しいお名前で」
畠山「初対面の人に名前を言うのはとてつもなく恥ずかしい。」
伊藤「そりゃそうだろうね」
畠山「でも由緒ある名前だからね。気に入ってるんだ」
中林「日本にふたりといない感じですね」
伊藤「うそをつくのもいい加減に(したまえ)」
畠山「(さえぎって)い、伊藤くん、そういえば今日は学科長選挙の開票日じゃないか」
伊藤「お前なあ」
畠山「あんたにお前呼ばわりされたくない!」
伊藤「!」
中林「あ、あの・・・」
伊藤「なんだね!」
中林「あ、し、失礼します・・・」
畠山「帰るの?」
中林「あ、はい、」
伊藤「そうか」
中林「け、喧嘩中ですもんね・・・これじゃあ、売れませんよ~!」
 中林、はけはじめる
 相沢イン
相沢「あれ?帰るんですか?」
中林「・・・私の・・・私のくびが~・・・」
 中林泣きながら、去る
伊藤「相沢くん」
相沢「伊藤教授」
伊藤「こいつはいつから教授になった?」
相沢「え」
畠山「もういいじゃないですか、テストしましょうよ」
伊藤「帰れ」
畠山「え」
伊藤「もういい。来年も教室でまっとるぞ!今度の二年生と一緒に」
畠山「いや!勘弁してくださいよ~。」」
伊藤「勘弁できるか!」
 伊藤、団子を馬鹿食い
相沢「教授、それ・・・」
畠山「(伊藤教授に)もう就職先決まってるんですよ!」
伊藤「知らん!」
畠山「内定ですよ!いまさら降りれません!」
伊藤「知らん!知らん!」
畠山「そんな」
相沢「伊藤教授」
伊藤「?」
相沢「あのお騒がせ中のところ申し訳ないんですけど、教授から合格発表者名簿を受け取れていないんですけど」
伊藤「・・・」
相沢「コミュニケーション学科は出てますからね。川原さんにプリントアウトしてもらってあとは貼るだけだし」
伊藤「すまん、実はね」
相沢「?」
伊藤「ボーダーラインにふたりばかし残ってて、どっちを選ぶかまかされちゃってて」
相沢「早く決めてくださいよ」
伊藤「わかったよ。もうすぐなんとか決めるから」
相沢「お願いしますよ。こっちは1分一秒ぴりぴりしてるんですから」
伊藤「今年は君が発表の仕切りだからな。がんばって送るよ」
畠山「あの、どうにか試験受けさせていただけないでしょうか?」
伊藤「・・・」
畠山「もう一度言いますよ。おれは内定が出てるんです」
伊藤「・・・就職課の及川さんからよろしくといわれている」
畠山「でしょう!だったら試験受けさせてください!」
伊藤「行こうか?」
畠山「え?ここで試験するんじゃ(ないんですか)」
伊藤「ここは人の出入りがあるし、別の場所にする」
畠山「でも上は大掃除・・」
伊藤「上の上だ」
畠山「上の上・・・?」
伊藤「屋上だ」
畠山「(大声で)さ、寒すぎるでしょ!それは~・・・」
 伊藤、団子をもちながら絶叫する畠山を連れてはける
 川原イン
川原「(机を見て)だ、だんごが!」
相沢「伊藤教授が持ってったよ」
川原「なーむー」
相沢「どうなるのかなあ・・・」
川原「あ、村川さんの電話番号知ってる?」
相沢「もちろん(携帯をかばんから出して見せる)」
川原「(それを見ながら自分の携帯に入力)ちょっとプリンターの調子がおかしいんだよね。きてもらって直さないと」
相沢「今日休日よ」
川原「ごめんね。休日出勤させちゃって」
相沢「昨日も夜遅くまで修理してたみたいだし、今日ぐらい休ませてあげてよ~」
川原「悪いけど、そうはいかない!」
相沢「そんな」
川原「愛しの彼氏といえども、働いてもらわないと掲示板に番号はれないよ~だ」
相沢「もう・・・」
川原「そういえばどうすんの?」
相沢「?」
川原「村川さんからのプロポーズの答え」
相沢「ま、まだ決めてない」
川原「いいよねえ。お台場の観覧車の中、マニュアルどおりのプロポーズ」
相沢「ロマンチストだからしょうがないでしょ!」
川原「(まわりをみまわして)今日来てないけど、庶務の山口っちゃん、だんなとふたりで飲みにいったらしいよ」
相沢「!」
川原「メール・・・盗み見ちゃった」
相沢「は、犯罪よ!」
川原「ウェブ担当者の特権ですから」
相沢「そんなことしたらあたし・・・」
川原「どうする~?」
相沢「・・・」
川原「ぐっちゃん、ホレやすいからなあ」
相沢「・・・」
 相沢、携帯で、電話しようとする
 そのときまた三島がやってくる
 相沢は電話にでてるので受付できない
 かわって川原が出る
川原「なにか・・・?」
三島「(思いつめた顔でだまったまま)」
川原「どうなさいました?」
三島、さっとポケットから、ビンを取り出す
三島「・・・あたしを・・・あたしを・・・この短大に受からせて・・・」
川原「え」
 電話していた相沢、気配を感じ取り、電話を切る
相沢「あ・・・あなた・・・」
 相沢、三島に近づこうとする
三島「来ないで!」
相沢「!」
三島「あたしを入れないのなら・・・このクスリ飲んで死んでやる!」
ふたり「!」




第二章 なんとかしろ
相沢「え・・・」
三島「あたしを・・・あたしを・・・ここに(入れさせて・・・)」
川原「(三島に)落ち着いて!」
三島「(だんだん呼吸が荒くなる)」
川原「落ち着いて少し話しましょうよ」
三島「・・・」
川原「ね?」
相沢「ね!」
 三島、クスリを持つ腕をさげる
相沢「あ、あの・・・座って、座ってみない?」
川原「そ、そうそう。座ればわかる。座ってみよう」
三島「(川原を見つめる)・・・」
川原「ん?あ、そうだそうだ村川さんに電話しないとなあ~、あははあはは・・・」
 川原、ハケながら
川原「(内緒話)あとはよろしく!」
相沢「ちょ、ちょっと!」
川原「村川さんにこっちに来てもらうようにするから」
相沢「たのむよ」
川原「まかせて」
三島「出て行くんですか」
川原「!」
三島「だれか電話するとか言ってましたよね?」
川原「いや、えーと・・・」
三島「(二人に向かって大声で)この部屋に誰か入ってきたら、あたし飲みますから」
ふたり「!」
三島「(川原に)ここにいてください」
川原「・・・はい・・・」
 三島、クスリを離さずに座る
 三人、沈黙

三人「・・・」

相沢「お、お茶でも・・・」
三島「そんな気分じゃありません」
相沢「いや、でも」
三島「いりません」
相沢「そ、そう・・・」
川原「あ、口に合うかどうかわかんないけど」
 川原、カバンの中からタッパーを出す
 そしてあける
 中には、きゅうり一本と、アルミホイルの丸まったもの
川原「プリンター直してて昼飯食いそびれたんだよね」
ふたり「・・・」
 川原、アルミホイルを開く
 中には味噌が入ってる
川原「食べよ」
ふたり「・・・」
相沢「きゅうりに・・・」
三島「お味噌・・・」
川原「あたし、幼稚園のころからこれ大好き!」
相沢「うう、苦労したんだね」
川原「そんなビンボーじゃないやい」
三島「あ、あの、きゅうり・・・ですか」
川原「そうそう。いい?こうやってね」
 川原、きゅうりを自分の服でごしごしこすってから半分に折る
 そしてその半分をまた半分に折って、その半分を三島にあげる
 最初の長めのかけらを相沢に渡し、自分は残りの小さな半分を取る
相沢「・・・」
川原「?」
相沢「・・・長い・・・」
川原「いいじゃん、そういう役目なんだから」
相沢「役目・・・」
川原「(気にせず)さ、食べよ!」
 川原、きゅうりを味噌につけて食べ始める
川原「うん、いけるわ」
相沢「・・・」
川原「きゅうりは栄養そんなにないけど、おなかは十分満たされるよ」
三島「あの」
川原「ん?」
三島「マヨネーズとかないですか」
川原「んなシャレたもんここには(ないよ)」
相沢「あるけど」
三島「ください」
川原「こらー!」
三島「きゅうりにお味噌つけたことありません」
相沢「(マヨネーズ)持ってきますね」
三島「お願いします」
川原「だめ!」
三島「マヨネーズ持ってこないなら(クスリビンを開けようとする)」
川原「待って」
三島「(ふたをあけようとする)」
川原「それって契約違反でしょ」
三島「え」
川原「人を呼んだりしたら飲むんでしょ?」
三島「・・・」
川原「マヨネーズでそれ飲まれても・・・ねえ・・・」
三島「でも」
川原「食べてみな、おいしいよ」
 また川原ひとくち
 うまそうに食べる
 ついに三島、決心したかのように、きゅうりを味噌につける
 そして一口
 ふたり注目する
三島「・・・おいしい」
相沢「よかった」
三島「こんなにおいしいなんて・・・」
川原「マヨネーズなんて邪道。味噌で食べるのが一番うまい!」
三島「そうなんですか」
川原「そうそう」
三島「へえ」
 三島、どんどん食べる
三島「(ヘタを残して完食)ごちそうさまでした」
川原「よろしい」
相沢「ちょっとは落ち着きました?」
三島「・・・はい」
川原「だれかさんは食べてないけどね」
相沢「(ぎくっ)」
川原「それはいいんだけど(三島に)・・・あんた・・・?」
三島「?」
川原「けっこうイイトコの子でしょ?」
三島「!」
相沢「むっちゃん!」
川原「味噌つけて食べることを知らない・・・。てことは親がそれを教えてないか、もしくは友達とかもだれもそれを教えなかったか。」
三島「・・・」
川原「どうかな?」
相沢「そんな、いじめるような質問しちゃだめでしょ?」
三島「そうです。」
相沢「え」
三島「イイトコの子です。」
川原「やっぱり」
三島「父は産婦人科の医者、母は小学校の校長先生、姉はハーバードのほうに留学中です」
川原「すばらしい」
三島「そんなんじゃありません」
川原「?」
三島「・・・いとこも・・・おじいちゃんもおばあちゃんもみんなすごくて・・・あたしだけがなんだか、例外みたいで」
相沢「例外だなんて・・・」
川原「どうしてわかるの」
三島「あたし、中学校までは勉強好きで、だれに言われなくてもしっかりやってました。クラスでも、学年でもトップのほうだったし。それが高校入ってから、なんかいつの間にか他の人とあたしを比べるようになっちゃって・・・」
ふたり「・・・」
三島「あたしの成績ってそんなにいいもんじゃないんだって・・・」
相沢「比べるからそうなるんじゃないかな」
三島「環境がそうだったんです。毎週毎週テストがあって、順位でクラスの席がかわったり・・・」
相沢「・・・」
三島「そんな生活続けてたら、なんだかこう・・・つかめないものをつかもうとしてるっていうか・・・浅いようでずっと先の見えない湖にいるような生き方してるような感じで・・・」
相沢「・・・」
川原「あたしもそんな道とおったことあるな」
三島「・・・」
川原「あたし幼稚園入る前からピアノやっててね、そのせいで音楽がものすごい好きで。高校まで音楽推薦で入ったんだ」
三島「すごいですね」
川原「そんなことない。でも、大学に入るときに音大か普通の大学で悩んで・・・」
三島「・・・」
川原「普通の大学行っても音楽はやろうと思えばやれる。でも音大ならもっと専門的に極めることができる・・・そうやってどっちをとるかで考えてた時期は・・・あんたがいったみたいに、前の見えない山道歩いてる気分だった」
三島「・・・」
川原「結局、普通の四大にいった。好きな音楽を極めるってのはできなかったけど、大学でコンピュータ習って、今のあたしの仕事がある。」
三島「今でもピアノをひいてるんですか?」
川原「うんん。今はね、違う音楽やってる」
三島「・・・」
川原「迷ったり、悩んだりするのは人間だれもがそう。でも必ず道をきめるときがあって、その道は迷って選んだかもしれないけど、実はすでに決められていた道だったりする。そしてそれを通って、自分が間違ってるか、間違ってなかったか評価するのは、親でも先生でもなくて、自分なんだよ」
三島「自分・・・」
川原「まあ、間違ってる道なんてよほどのことがない限り、通らないから」
三島「・・・」
 そのとき
中林「なんか電車とまってるからきちゃいました~」
三島「!」
 三島、びんを飲もうとする
川原「だめ!」
 川原、それを止める
 相沢 走っていって中林の口にきゅうりを突っ込む
中林「(もごもごいう)」
相沢「駅で待ってなさいよ~」
中林「(口の中のきゅうりを出して)いや、ほんとのところあきらめきれなくてですね」
相沢「伊藤教授なら屋上!」
中林「了解です!」
 中林、ハケる
 また三人だけになる
川原「(止めていた腕を離し)・・入れさせなかったよ」
三島「・・・ありがとうございます」
相沢「ちなみに聞いていいかな?」
三島「はい」
相沢「そのビンの中には?」
三島「父のところからもらってきた消毒液が入ってます」
川原「なるほど・・・」
三島「今度だれかまた来たら」
 そのとき、事務室の電話が鳴る
相沢「とっていい?」
三島「・・・」
相沢「これは内線だからいいよね?」
三島「・・・」
相沢「スピーカーにして話すから」
三島「・・・どうぞ」
 相沢、オンフックにする
相沢「事務室です」
伊藤「(以下、声のみ)伊藤です」
相沢「教授!」
伊藤「悪いんだけど、そこらへんに、僕、紙置いていかなかったかな?」
相沢「紙ですか?」
伊藤「そう。それにさあ、さっきいったボーダーラインのふたりがかいてあるんだけど」
相沢「紙は・・・けっこうたくさんありますからねえ」
伊藤「田村栄一郎っていう受験生とそれから・・・」
相沢「はい」
伊藤「んー、三島愛とかいう」
相沢「三島愛さんですね」
三島「(びくっとして立ち上がる)」
相沢「!」
三島「あ、あたしがボーダーライン・・・」
川原「あなたが・・・三島さんなの?」
伊藤「もしもし、もしもし・・・?」
相沢「あ、ああ、聞こえてます」
伊藤「大丈夫?」
相沢「え、ええなんにもありません」
伊藤「そう?じゃあ、紙探しといて」
 電話切れる
三島「あたしがボーダーラインにのってるんですか?」
相沢「あ、あの・・・そういうことは」
三島「のっかってるんですね?」
相沢「い、いいじゃない?座ろうよ」
 三島、机の上とかをよく探しまわりはじめる
 そして
三島「探し物ってこれじゃないですか?」
 紙を見せる
 ふたりのレジュメがあった
川原「見ちゃダメ!」
三島「どうして!」
川原「それを見たらあんたの負けよ」
三島「・・・」
川原「うちの企業秘密をここで見るってのはフェアじゃないよ」
三島「・・・」
 三島、それをさげる 
三島「相沢さん・・・でしたっけ?」
相沢「はい?」
三島「これを・・・電話の人のところに届けてきてください」
相沢「いいの?」
三島「渡すときにこう言ってください」
相沢「・・・」
三島「この子が下に来ていると・・・」
相沢「・・・」
三島「そして・・・受からせないと死ぬといっていると」
川原「あんた!」:
三島「かまわない」
川原「そんなことまでして受かりたいの?」
三島「人の命を救うか殺すか、それはあなたがた次第なんですよ」
川原「・・・」
相沢「行ってきます」
 相沢、紙を受け取るとはけようとする
三島「変な気を起こさないでください」
相沢「もちろん」
三島「約束ですよ」
相沢「・・・」
 相沢、紙をもってハケる
川原「・・・最低ね」
三島「どうとでも言ってください」
川原「こんなやり方して受かっても、あんたが思ってるような理想の大学生活は送れない」
三島「・・・」
川原「絶対、疲れてくるから」
三島「・・・」
 そのとき、
畠山「(がたがたしながら)さ、さみ~」
 といいながら、畠山、入ってくる
 川原、あわてて彼を外に出しながら
川原「お、おつかれさん」
畠山「寒くてなんにも考えられなかったよ」
川原「あ、そう」
畠山「早く(入れさせてよ!)」
川原「だめ~」
 そこに
中林「お!みたらし教授」
畠山「!」
中林「もう一度、購入の件、考えてもらえないでしょうか?」
畠山「それは伊藤教授に」
中林「あの人は血も涙もない人ですから!」
 畠山、中林、もみあい
 川原それにしびれを切らして
川原「とりゃ~!」
 川原、ふたりを一気に放り出す
ふたり「(それぞれ転がり)」
川原「ごめんなさい!あの、ここ立入禁止区域」
中林「え!放射能漏れとか・・・」
畠山「原発じゃないんだからさ」
川原「ごめん、じゃね!」
 川原扉を閉める



 


二画面でいきます


こちらは廊下側
 放り出されたふたり
畠山「ちくしょー・・」
中林「え?」
畠山「お前が来なかったらこんなことにならなかっただろ?」
中林「な、わ、私のせいだというんですか!」
畠山「寒いんだよ!」
中林「わ、私だってこんな寒いときにド田舎まで来たかないですよ」
畠山「仕事ならしょうがねえだろ!」
中林「お、あったまきた!いくらお客様といえどもいっていいことと悪いことがあります!」
畠山「なにを!」
中林「やるか!」
ふたり「ん~~~~~~」
畠山「・・・」:
中林「・・・」
ふたり「に~らめっこし~ましょ、笑っちゃダメよ!」
 同時に
畠山「あっぷっぷ!」
中林「おっぴょっぴょ!」
 ふたりにらみあう
畠山「(極力、歯を見せないようにしながら)おい」
中林「(同じく)なんですか」
畠山「おっぴょっぴょてなんだ」
中林「おっぴょっぴょですよ」
畠山「あっぷっぷだろう」
中林「おっぴょっぴょです」
畠山「出身どこ?」
中林「馬鹿にされるからいいません」
畠山「いえよ」
中林「お客様といえども」
畠山「パソコン買おうかな」
中林「東北です」
畠山「言ってるじゃんか」
中林「しまった!」
畠山「東北のどこ?」
中林「いえません」
畠山「家のパソコンも買おうかな」
中林「海沿いです」
畠山「海のほうかあ」
中林「うわ、また言ってしまった」
畠山「口が軽いなあ」
中林「てか止めません」
畠山「そうだな」
 ふたり、ためいき
中林「なんで中に入れないんですかね」
畠山「知らねえよ。」
中林「じゃあ、ここで商談を」
畠山「え」
中林「だって今、買っていただけるとおっしゃったじゃないですか」
畠山「!」
中林「(かばんから契約書を取り出し)こちらにサインを」
畠山「さ、サイン?」
中林「認印はありませんよね。サインでけっこうです」
畠山「サイン・・・」
中林「ええ、どうぞ」
畠山「え、えーと・・・あ、あんた」
中林「中林です」
畠山「あ、そうだそうだ。中林くん」
中林「はい」
畠山「買うかわりに、ひとつ・・・おれのために動いてもらおうか」
中林「え」
畠山「こんな高いパソコン一気に買うんだよ。それなりの見返りってもんがないとねえ・・・」
中林「・・・」
畠山「どうなんだい?」
中林「・・・わかりました。」
畠山「よーし」
中林「ただし、法に触れない程度に」
畠山「もちろん」
中林「では交換条件を」
畠山「うちの日本文学科の生徒に畠山繁という学生がいる。とてもかわいい生徒で将来はピザ屋を起こしたいらしい。うちの学科からそういう実業家が出るなんてとてもすばらしいことだ。だが彼の卒業試験の点数がちょっと足りなくてね」」
中林「はたけやま・・・(手帳にメモる)」
畠山「?」
中林「はい?」
畠山「年賀状が・・・」
中林「あ、記念切手ととっかえようと思ってずっとできなくて・・・」
畠山「いまどき記念切手ごときで取り替える奴なんてどこにいる?」
中林「いいじゃないですか!貴重なんですよ!私の趣味です!」
畠山「わかったわかった。切手マニア」
中林「なんか馬鹿にされてるなあ・・・」
畠山「そんなことより・・・あんたコンピュータ会社の社員だよな。」
中林「ええ」
畠山「二階にうちの集中データコントロール室というものがある。そこのコンピュータをちょいといじって畠山くんの点数をあげてほしいんだ」
中林「そ、そんなことは!」
畠山「そんなことは」
中林「み、ミタラシ教授の手でならできるんじゃないですか?」
畠山「お、おれはパソコン音痴だから」
中林「(点数を)操作するなんてできませんよ!」
畠山「できる!」
中林「え」
畠山「お前ならできる」
中林「え~」
畠山「そういうとこってセキュリティとか厳しいんですよ」
中林「たいしたことない」
畠山「でも」
 そこに伊藤と相沢戻ってくる
中林「教授!」
伊藤「お、また来たんですか?」
中林「ええ、まあ・・・」
伊藤「そうですか。」
相沢「中林さん、伊藤教授、学科長に決定しました」
中林「おめでとうございます!」
伊藤「ありがとう」
中林「あの、お祝いついでに伊藤教授に契約を・・・・」
畠山「だー!(大声で妨害)」
伊藤「?」
中林「あの、それでは中のほうでお話をひとつ(そうやって中林、中に入ろうとする)
相沢「(絶叫!!)」
伊藤「やはりこの人たちも入れんのか」
相沢「入ったら最後、消毒液を一気飲みですよ」
伊藤「ここまで脅してまで入りたいとは・・・」
畠山「え、え?」
相沢「学科長」
伊藤「行くんだね」
相沢「気をつけて」
 相沢、うなづいて室内へ
 見守る男たち



 相沢が戻ってくる
川原「春美ちゃん・・・」
相沢「(戻ってきたよ)」
川原「(オッケー)」
相沢「あなたのことを・・・教授会で話した」
三島「ありがとうございます」
相沢「うちの学科長が、あなたと話してみたいって」
三島「・・・」
相沢「どうする?」
三島「・・・」
川原「話してみなよ」
三島「・・・」
相沢「・・・」
三島「わかりました」
相沢「今、外にいるから(連れてくるね)」
三島「待ってください」
相沢「え」
三島「ここには・・・入れないでください」
相沢「わかった」
 相沢、外へ
相沢「学科長」
伊藤「・・・」
相沢「お願いします」
 伊藤、うなずく 
 相沢は中へ
 伊藤はドアのところへ
相沢「話してみて」
三島「・・・」
伊藤「こんにちは」
三島「・・・こんにちは」
伊藤「学科長の伊藤です」
三島「三島・・・愛です」
伊藤「結論から言おう」
三島「・・・はい」
伊藤「三島愛・・・君を平成コミュニケーション大学付属短期大学日本文学科二○○六年度生として迎える」
三島「・・・」
伊藤「喜ばないのか?」
三島「・・・ありがとうございます」
伊藤「ドアをあけてくれないか?」
三島「・・・」
伊藤「だめなのか?」
三島「・・・形としてほしいです」
伊藤「形?」
三島「声だけじゃなくて、目に見えて、さわれて・・・」
相沢「明日には合格証と手続きの書類、速達で送るから」
三島「今すぐほしいんです」
伊藤「三時になったら合格発表の掲示板に行くといい。そこに必ず載っている」
三島「それだけ?」
川原「短大ホームページと北関東日報にも載る」
三島「・・・」
川原「あ、うちのホムペって携帯からも見れるから見てみる?」
三島「(うなずく)」
 川原、びんを指差し
川原「もう、これいらないよね?」
三島「・・・」
相沢「受かったんだもん。」
川原「受かったのに、まだ死ぬつもり?」
三島、だまって、それを川原に渡す
相沢「(ほっとする)」
川原「じゃ、待ってて」
 川原、びんを遠い机の上に置く
 事務室に入れ替わりに廊下の全員が入ってくる
畠山「あったけー!」
中林「教授、さきほどのことは・・・やっぱり私として」
畠山「行ってきてくれ」。
中林「・・・」
畠山「君と僕の未来のためだよ」
 中林、しぶしぶハケる
 その間に伊藤、三島に近寄ると手を差し出す
伊藤「学科長の伊藤です。よろしく」
三島「・・・よろしくお願いします」
伊藤「ところで、あなたはこの日本文学科に入って、何を学びたいんですか?」
三島「!」
伊藤「わが短大を命にかえてまで入りたいという気持ち、涙が出るくらいうれしかったんです。それだけこの短大に学ぶための魅力
  があったということですよね。」
三島「・・・」
伊藤「ここが滑り止めとかではない。第一希望なんですよね?」
三島「・・・」
相沢「学科長」
伊藤「大学や短大は遊ぶためにあるんではありません。学問を学ぶためにあるんです。ここは義務教育じゃない。あなたは日本文学を学びたいと思ったからここを選んだ。そしてこういう手段をつかってでも入りたかったんですよね?」
三島「・・・」
伊藤「もしその気がないのなら、あなたと競ったもうひとりと、ボーダーライン以下の受験生たちに失礼だと思いませんか?」
三島「・・・」
相沢「あの、今すぐこんなとこで学びたいことなんて、まだ決まってないんじゃないですか?」
畠山「そうですよ。そんなすぐに見つかるもんじゃない」
伊藤「見つけられないと、だれかさんみたいになっちまうけどね。」
畠山「!」
伊藤「日本文学の何を勉強したいんですか?古典、日本語学、文法、文学?なんでもありますよ」
三島「・・・」
伊藤「・・・」
三島「・・・ご、ごめんなさい・・・」
みんな「!」
三島「なにも・・・なにも見えてません!」
 三島、走ってハケようとする
相沢「三島さん」
三島「あたしのために・・・ありがとうございました」
 三島、ハケる  
見ていた伊藤、はけようとする
相沢「学科長!」
伊藤「すぐに全教授陣を集めなおしてくれ」
畠山「ま、まさか」
伊藤「最終合否判定会議をやり直す」
 伊藤、ハケる
畠山「ったく、伊藤教授の石頭にはほとほとあきれたよ」
相沢「心配・・・」
畠山「伊藤教授?」
相沢「違う、あの子・・・」
 そのとき、
川原「(震えながら)うううううううううううううううう」
相沢「むっちゃんどうしたの!」
川原「(速攻で携帯に出て)もしもし!」
相沢「バイブだったのね・・・」
川原「(携帯)あ、村川さんですか・・・」
相沢「・・・」
川原「え・・・いつごろ動きそうなんですか?・・・そうですか・・・わかりました。とりあえずなんとか進めてみます・・・」
 川原電話を切る
川原「村川さんの乗った電車、止まってるみたい」
相沢「あ、だれかも電車止まってるっていってた。」
川原「ったくもう!なにもかもが霧の中・・・」
畠山「あ、そうか、今日大事な日だもんね」
川原「!」
 川原、すっとんで畠山の口をふさごうとするが
畠山「ね!らいちさん」
川原「アワワワワ!」
相沢「らいちさん?」
川原「この留年野郎!」
畠山「しょうがないでしょ?もうすぐCD出るんだから、顔なんてバレバレ」
川原「そうだけど」
畠山「今日はメジャーデビューできるかどうか電話かかってくる日なんだ」
川原「言わなくてもいいよ!」
相沢「え、らいちって聞いたことある!謎の笛吹きアーティストでしょ?」
川原「謎は謎のままのほうがあたしとしては気持いいんだけど」
畠山「この前の渋谷AXワンマンライブ最高だったよ」
相沢「らいちって・・・むっちゃんのことだったの・・・?」
川原「あ、ははははは・・・・」
相沢「そういえばさっき音楽まだやってるとかいってたし、」
川原「ええ、まあね・・・」
相沢「あ!じゃ、夜の笛の音って・・」
川原「もう・・・ばれちゃあ仕方ねえなあ」
 川原、結んであった髪をほどいて眼鏡も外しアーティストスタイルになる
畠山「らいちさん、かっこいい!」
相沢「・・・すごい」
川原「昨日はちょっと音出しすぎたなあ・・・」
畠山「へい、パス!」
 畠山、机のうえにあったリコーダーを川原にパス
 川原、それをキャッチして、軽く吹く
 音楽を聴くみんな
 聞き終わったら拍手














第三章 回り始める
 そんな頃・・・
ここはコントロール室
 そこにひとりの男が忍び込んでくる
 中林だ
 てさぐりで部屋に入る
中林「ったく、なんでこんなことしなきゃならないんだよ~」
 ひとつの機械をてさぐりで当てる
中林「これかなあ。自信ないんだけど・・・」
 イスに座って電源オン
中林「絶対パスワードとか聞かれるんですけど・・・ああ!パスワードですよ~、そんなの知らないよ~」
 絶望的
 そこにもうひとり、だれかが忍び込んでくる
 気配に気づく中林
中林「うわ・・・」
 中林、あたふたする
 後から入ってきた人間は、それに気づかず先ほど中林が座っていたところにふらふらと座る
中林「あちゃ~~~~」
 中林、頭を抱える
中林「ここの人間かなあ・・・その割には見たことないんだけどなあ」
 座ってる人間は、三島だった
中林、恐る恐る、近づく
中林「あ、あの・・・」
三島「(びっくりして立つ)」
中林「エンジニアかどなたか・・・?」
 三島、振向くと、中林の胸に倒れこむ
 三島、そしてぎゅっと中林を抱きしめる
中林「!」
三島「・・・」
中林「・・・」
三島「(胸の中のまま)このままでいて!」
中林「!」
三島「お願いだから・・・」
中林「ええ・・・」
三島「もうすこし・・・」
中林「な、なんか、ドラマみたいだぞ・・・」
三島「(顔をあげて、中林の目を見つめる)」
中林「!」
三島「あたし・・・あたし・・・」
中林「は、はあ・・・」
三島「もう・・・だめ・・・」
 三島、一気に中林を押し倒す
中林「うわ~~~~やめてください!」
 中林、三島を突きはなす
中林「わ、私には好きな人がおりまして・・・」
三島「好きな人?」
中林「ずっと片思いなのでありますが、でも好きなのであります」
三島「片思い・・・」
中林「メガネがキュートで、いつもかわいくて・・・」
三島「あたしが忘れさせてあげる(もう一度ぎゅっ)」
中林「(それをまた突き放す)だ~~~~~~っ」
三島「い、痛い!」
中林「だ、だいじょうぶですか?」
三島「(ため息)・・・つまんないの」
中林「お、おじさんからかうのは(やめてください)」
三島「末っ子の甘えん坊だもん」
中林「末っ子が甘えん坊とはかぎりません」
三島「つまんない男・・・」
中林「えーえー私はつまんない人間ですよ」
 中林、すねて、座り込む
三島「・・・ごめんなさい・・・」
中林「・・・」
三島「あたし・・・なにかを限界まで思いつめたりすると・・・いつの間にかだれかに抱きついたり、甘えたりしちゃって・・・」
中林「・・・いつもですか」
三島「最近ですよ」
中林「変わったキレ方ですね」
三島「きれてるのかなあ・・・」
中林「間違いなく」
三島「あたしはきれてるんだ・・・」
中林「あの、失礼ですがおいくつですか?」
三島「失礼」
中林「あ、はあ」
三島「あ~も~、せっかくあと少しだったんだけどなあ」
中林「なにがですか?」
三島「・・・」
中林「知られたくないことだったんですね」
三島「・・・」
中林「あのお名前だけでも・・・」
三島「アイ」
中林「あいさん」
三島「さんづけはやめて」
中林「あい」
三島「やっぱ呼び捨てむかつく」
中林「どうすればいいんでしょう・・・」
三島「あたしは・・・天使みたいなもんだから」
中林「天使?」
三島「そう」
中林「天使・・・」
三島「なにか、悩んでることとかある?」
中林「・・・」
三島「願いをかなえてしんぜよう」
中林「・・・面白いですね」
三島「信じるものは救われる」
中林「じゃあ・・・僕を・・・今年こそ教員採用試験に合格させてください」
三島「・・・」
中林「聞いてますか?」
三島「も、もちろん」
中林「うちの親と約束してしまったんです。三年試験受けて先生なれなかったら戻って来いって」
三島「・・・」
中林「今年が・・・その年なんです」
三島「あの」
中林「え?」
三島「・・・もっと小さな夢はないの?」
中林「はい?」
三島「なんかこう・・・すぐにやれるような願いとか」
中林「・・・やっぱりあなた人間なんだ」
三島「あ、そう」
中林「?」
三島「いいもん。あんたの夢なんか、かなえてあーげなーい」
 三島はけようとする
中林「ああ、待って」
三島「(止まって)」
中林「こいつにログインしたい」
三島「なんって?」
中林「このコンピュータを動かしたいんです」
 三島、コンピュータの乗っかってる机を移動させる
中林「・・・」
三島「はい、願いかなえたり!」
中林「やっぱ人間なんだ・・・」
三島「ジョークジョーク!エンジェルジョーク」
中林「だからパスワードを・・・」
三島「ヘイセイ!」
中林「?」
三島「だから『Heisei』とかじゃないですか?」
中林「・・・そう?」
三島「やってみて」
 中林、疑いながらも
中林「H・e・i・s・e・i と・・・」
 ログインする音
三島「!」
中林「いった!」
三島「願いかなえたり!」
中林「あいさん、ありがとうございました」
三島「どういたしまして」
中林「いやー、でもよかった!これでミタラシ教授にPC売れるぞ!」
三島「ミタラシ・・・?」
中林「ええ」
三島「ミタラシミタラシ・・・」
三島、そういいながら、カバンをがさごそ
 出てきたのは学校案内
三島「えーと・・・コミュニケーション学科も日本文学科にも・・・ミタラシ教授なんて人いないよ」
中林「んなことないでしょう」
三島「見る?」
 三島、学校案内を貸す
中林「(中身をよんでから)・・・確かにいない」
三島「ニセモノ?」
中林「ニセモノ・・・(そういいながら三島を見る)」
三島「あたしは天使だってば!」
中林「・・・」
三島「文句ある?」
中林「・・・そうですよね。きみは天使ですもんね」
三島「天使天使」
中林「・・・天使ですか・・・なんか君と会ってから・・・ちょっと心があったかいんです」
三島「・・・」
中林「昼はこうやって営業して、夜も遅くまで勉強して・・・そんな毎日送ってたら、なんだかずっと息切れしてるような感じだったんです」
三島「・・・」
中林「もちろんやりたいことがはっきりと目の前にあるわけだし、そこにむかって走ることはそれなりに疲れてしまうんだろうけど、その疲れが自分の張り合いになるようないい疲れってわけじゃないんです。なんかこう・・・ねじまがってしまうというか、知らない人が目の前にずっと立っていて、僕を監視してるような、そんな疲れで。」
三島「・・・」
中林「でも、さっきからあなたと話していると、その監視が取れて、自分らしくずっとここで話せてる」
三島「・・・」
中林「いつものねじまがった私でいたら、あなたのこともケツの蒼いオンナが何馬鹿なことを言ってるんだっていってますよ」
三島「ケツは青くありません」
中林「ごめんなさい」
三島「もうオトナですから」
中林「オトナは天使にはなれません」
三島「・・・」
中林「わたしはそう思います」
三島「・・・」
中林「あなたの心は何色ですか?」
三島「こころ・・・?」
中林「やっぱり・・・天使色?」
三島「天使色・・・」
中林「天使の色・・・あ、自分でいっててどんな色だか説明できないや」
 そのとき
エラー音響く
中林「あれ・・・あれ・・・」
三島「どうしたんですか!」
中林「(モニターを見て)大型プリンター・・・がおかしいらしい・・」
三島「え!」
中林「こいつはまずいことになりましたよ」
三島「え」
中林「隠れてください!」
三島「隠れるったって」
中林「早く!誰か来るかもしれないから!」
 ふたりあわてて隠れる
 コントロール室に相沢、川原、畠山イン
 川原、PCを止める
相沢「もうどうしたの!」
川原「うわ、完全に壊れた!」
相沢「ってことは・・・合格発表掲示板が作れないって事?」
川原「もう一度村川さんに連絡してみる」
 川原、ハケる
畠山「これがわが大学の心臓部か」
相沢「あ、触らないでね、勝手に」
畠山「わかってるって」
 ふと見ると、相沢、動きが止まる
畠山「どうしたの?」
相沢「・・・なんか・・・いる」
畠山「や、やめてよ、おれ案外そういうの弱いんだ」
相沢「霊とか?」
畠山「そうそう。受験生のとき何回金縛りにあったことか」
相沢「いや、今はそういうやつじゃなくて・・・本物の」
畠山「幽霊!!!!!!」
 畠山は走って逃げようとする
 そのとき
川原「ぴーひょろろ、幽霊です(と言いながら入ってくる)」
相沢「電話どうだった」
川原「最近かまってくれないのね・・・」
相沢「こういうときにそんな冗談やる?普通。」
川原「冗談いいあって心を落ち着ける。これ常識」
相沢「なんだかなあ」
川原「あーあ、まだ動かないって電車。」
相沢「まずいなあ」
川原「まずいついでにこんなの見つけちゃった」
 川原、ふと近くのカーテンをめくる
 中には三島、そして中林
川原「よーし、手をあげるんだー」
三島・中林、両手を上に上げる
相沢「中林さんどうしたんですか!」
中林「すいません・・・」
相沢「三島さんまで!」
三島「・・・」
中林「ああこの子は責めないでください」
相沢「でも」
中林「天使ですもんね」
相沢「天使?」
中林「ここに迷いこんできたんですから」
三島「・・・ごめんなさい・・・」
川原「あんたたちね、プリンターぶっ壊した犯人」
中林「ち、違います。確かにこの部屋に入りましたけど」
相沢「だれがここに入っていいって言いました?」
中林「あ、いや、その・・・(畠山を見る)」
畠山「(おれのことはだまってろよ)」
中林「ああ、その・・・いや、家の電気とかガスでもあるじゃないですか、一年に一回、定期健診ってやつでして」
川原「ここのサーバーはあんたんとこのPCじゃないもんね」
中林「他社さんのでもやるんですよ。カラクリは一緒ですから」
相沢「なら中林さん」
中林「はい」
相沢「今すぐうちのプリンター直してもらえますか?」
中林「・・・」
相沢「会社が違ってもカラクリは一緒なんでしょ?」
中林「うーん・・・」
川原「ただの営業マンだよ。できるわきゃないよ」
中林「ええ、私の専門はPCでして、周辺機器は・・・」
相沢「やってください!」
中林「ああ、・・・プリンターかあ・・・あ」
相沢「?」
中林「確か・・・この短大の近くに詳しい奴が住んでるんですよ」
川原「よし、じゃあそいつに電話して」
 中林、携帯を出してメモリーを探すが・・・
中林「・・・しまった。携帯買い替えのときに消しちゃた・・・」
相沢「そんな・・・」
中林「すいません、使えなくて」
川原「大丈夫」
相沢「なんとか・・・直せませんか?」
川原「春美ちゃん・・・」
相沢「あと三十分で三時になっちゃうんです」
三島「合格発表・・・」
中林「ん?」
三島「・・・」
中林「まさか・・・受験生・・・?」
三島「(中林を見つめる)」
中林「・・・」
相沢「三時に一分でも遅れることなく、あそこにしっかり出したいんです。」
中林「プリンターの研修は・・・入社のときにしかやってなくて・・・」
相沢「中林さんも、ある意味受験生だからあの大切さわかるでしょう?」
中林「!」
相沢「合格発表掲示板にみんなの人生がかかってます。それを出すのがあたしの仕事なんです」
三島「・・・」
中林「(三島を見る)」
相沢「お願いします」
中林「・・・わかりました。やれるだけやってみます」
川原「あたしも手伝うから」
中林「がんばりましょう」
 川原、中林を誘導してハケる
畠山「春美ちゃん、」
相沢「?」
畠山「もしこのままプリンターが直んなかったら」
相沢「事務室に来てください」
畠山「?」
相沢「あたしに考えがあるんです」
畠山「・・・」
相沢「協力してくれませんか?」
畠山「・・・」
相沢「・・・」
畠山「わかった」
相沢「三島さん」
三島「・・・はい」
相沢「ここはあたしたち職員でさえも普通に入れない、大事なところなの」
三島「・・・ごめんなさい」
相沢「事務室もここもだまっててあげるから、外でしっかり待ってて」
三島「・・・」
相沢「あたしを信じて」
三島「・・・はい」
 相沢はける
畠山「・・・がんばってるなあ」
三島「かっこいい・・・」
畠山「確かに」
三島「あの」
畠山「ん」
三島「ここの学生さんですよね?」
畠山「(咳払い)失礼な!教授だよ」
 三島パンフを見せる
畠山「!」
三島「あたしがもしここに受かっても、あなたの講義は受けたくないなあ」
畠山「・・・」
三島「相沢さんみたいにかっこよくがんばればいいじゃないですか」
畠山「!」
三島「パソコンのおじさんも、自分のやりたいことにむかってがんばってるとかって・・・」
畠山「自分の・・・やりたいこと・・・」
三島「あたしは・・・なんだろう・・・」
 そういいながら、まず三島ハケる
 畠山、ふと自分のことを考える
 そして決意してハケる



 事務室に戻る相沢
 奥から大きな模造紙を出す
 そこに伊藤がやってくる
伊藤「話はきいたぞ」
相沢「こんなときにすいません」
伊藤「(帳簿を出して)これが今年のうちの合格者番号だ」
相沢「(それを受け取って)ありがとうございます。」
伊藤「大丈夫なのかね?」
相沢「・・・」
伊藤「これからやることは前時代的なアナログ行為だ」
相沢「プリンターが壊れた以上はこれしかありません」
伊藤「しかし」
相沢「教授」
伊藤「?」
相沢「この合格者番号の中に、あの子は・・・」
伊藤「・・・」
相沢「入ってないんですね?」
伊藤「相沢くん」
相沢「どうしても百人きっかりじゃないとだめなんですか」
伊藤「我々教授が決めた結果を覆すつもりかね?」
相沢「・・・」
伊藤「合格者百人。これはこの大学ができてからずっと決まってる伝統だ。我々はそれを守る義務がある」
相沢「そんな伝統・・・壊しちゃえばいいのに・・・」
伊藤「壊す・・・だと・・・」
相沢「自分のやりたいことをここで探す子がいたっていいじゃないですか!」
伊藤「君があの子に情をかければかけるほど、他の落ちた人に失礼だと思わないのか!不公平じゃないか!」
相沢「!」
伊藤「・・・そういえば・・・相沢くんはこの近所にひとり暮らしだよね?」
相沢「あたしの話はどうでもいいです。あの子の」
伊藤「春は引越しの季節。そろそろ君も部屋を整理しておくといい。」
相沢「!」
伊藤「明日の契約更新を覚悟しとたまえ。うちの学園は北は北海道、南は沖縄まで、幅広く学校もってるからさ」
 伊藤、はけようとする
そこに畠山やってくる
畠山「教授・・・」
伊藤「みたらしだんごくん」
畠山「その名前は忘れてくださいよ」
 伊藤、畠山の肩をぽんと叩く
伊藤「四月、教室で待ってるぞ」
 伊藤はける
畠山「き、教室で待ってるって・・・」
相沢「もしかして・・・」
 完全に伊藤はけてから
畠山「くそ!(畠山、物にあたる)」
相沢「!」
畠山「なんでここから出られないんだよ!(暴れる)」
相沢「畠山さん(畠山を止める)」
畠山「(相沢に止められて、へたりこむ)・・・四月からイタリアンレストランに内定してるんだ。そこで土台を固めた後イタリアに渡って、本場のピザの勉強して日本に帰ってこようって。」
相沢「・・・」
畠山「おれの未来地図。将来、ピザの店開くんだ。」
相沢「・・・」
畠山「名前は『シゲルピザ』。おれの名前付けたピザ専門店。デリバリーもするよ。」
相沢「・・・いいなあ」
畠山「え・・・」
相沢「やりたいことがあるってことは・・・いいこと」
畠山「・・・」
相沢「『シゲルピザ』ができたら、あたしが一番に食べに行きますよ」
畠山「本当に?」
相沢「うん」
畠山「ありがとう」
相沢「・・・」
畠山「そのためにも卒業しないと・・・」
相沢「いい仕事ありますよ」
畠山「え?」
 相沢、ばさっと模造紙を広げる
相沢「この受験番号を全部、この紙に書いてほしいの」
畠山「!」
相沢「あたしはもうひとつやることがある」
畠山「でも・・・これがどうすればおれの卒業につながるの」
相沢「わかんない」
畠山「え・・・」
相沢「わかんない。でも、みせてやるの」
畠山「・・・」
相沢「畠山さんの力を。あの伊藤教授に見せ付けてやるの」
畠山「わからないよ」
相沢「え」
畠山「あの教授が・・・これを見ても・・・」
相沢「賭けてみませんか?」
畠山「・・・」
相沢「・・・」
 畠山、相沢から紙を取る
相沢「!」
畠山「・・・これがバイト先のメニューだったらなあ」
相沢「?」
畠山「おれ、字ヘタなんだけど、イタリア文字だけはうまいみたいで」
相沢「・・・」
畠山「どこから書けばいい?」
相沢「(にっこり)」
 相沢、畠山に帳簿を綿す
 畠山、それをもらう
 ふたり間に信頼という名のアイコンタクト
 そして畠山はハケる




第四章 それぞれの春色
 かわりに川原、頭をかかえながらイン
 いっしょに中林もイン
川原「(相沢を見て、うつむいてため息)」
相沢「どう?」
川原「合格発表どころか、この先もあのプリンター使えないかも」
中林「申し訳ございません。使えない私で・・・」
 そのとき電話が鳴る
相沢「平成コミュニケーション大学です・・・はい・・・はい・・・らいち?らいち・・・・」
 そのとき川原、相沢の電話を奪い取る
川原「らいちですらいちです!どうもどうも!」
相沢「そっか。むっちゃんか」
中林「え?」
川原「(電話)はい!はい!ええ、携帯出れなくてすいません・・・・」
相沢「どうか受かってますように!」
中林「らいちさんが・・・川原さん?」
相沢「ホムペ管理人は仮の姿」
川原「(電話)・・・はい・・・わかりました。それじゃあ・・・」
 川原電話切る
相沢「・・・」
川原「(電話を切ると相沢たちのほうを振向いて)CD・・・(絶叫)デビュー決定!」
ふたり「おめでとう!」
相沢「やったじゃん」
川原「ありがとう!」
中林「あの、この際だからいいます!私はあなたのことが(好きなんです)」
川原「(聞いてない)地方のスーパーとかもまわっといてよかった~」
中林「あ、あの川原さん・・・?」
相沢「いろんなところでライブしたんだね」
川原「草の根活動やった甲斐があった!」
中林「だれも聞いてない・・・」
相沢「いつシングル出るの?」
川原「来年の春。」
ふたり「!」
川原「いきなりシングルとアルバム一緒に出すらしいのね。ついでにライブDVDなんかもつけちゃうみたいで・・・」
相沢「ら、来年」
中林「先が遠いなあ・・・」
川原「馬鹿だねえ。アルバムなんだよ!これから一年じっくりかけて曲作りに励むんじゃないの!」
中林「なるほど・・・じゃあそのときもう一度告白します」
相沢「決まってもうれしいことばかりじゃないんだね」
中林「とことん聞かれてない・・・」
川原「それは覚悟してたから。好きだからこそできるんだよ」
中林「ああ!もうテンション上がってきたなあ!今夜渋谷のレコード屋に予約しにいきます」
相沢「予約は早いんじゃ(ない?)」
川原「よろしくね!タイトルは決まってるんだ」
中林「教えてください(手帳にメモる準備)」
川原「タイトルは・・・」
 そのとき
中林「うおー!」
相沢「?」
中林「(手帳を見ながら)す、すいません、ここの住所って」
相沢「埼玉県春崎市大本・・・」
中林「(手帳から年賀状出して絶叫)ラッキーです!」
川原「え」
中林「こいつですよ!こいつ!うちの会社でプリンター詳しい奴です!」
川原「電話番号とかは?」
中林「もちろんです。さっそく電話してきます!」
相沢「あ、うちのを使って!」
 中林、うなづいて、固定電話をかける
川原「これでちょっとはなんとかなるかもしれない」
相沢「あとは、あの子ね・・・」
 中林、電話を置いて
中林「チャリンコぶっとばして来るみたいです!」
川原「よっしゃ!」
中林「出口まで迎え行って来ます」
 中林ハケていく
相沢「災い転じて福となす・・・か」
川原「こういうのの積み重ねが人生ってもんよ」
相沢「仙人みたいなこといわないでよ」
川原「ことわざ使う時点でけっこうおばはんだと思うけど」
相沢「なによ~」
川原「さてと、お次は春美ちゃんの問題じゃないですか?」
相沢「合格発表済ませてからね」
 相沢、準備のために動き始める
川原「返事を待ってるよ」
相沢「(止まる)」
川原「何を迷ってるの?」
相沢「だ、だって、結婚なんだよ?恋愛でうだうだしてるのと大違いなんだよ。」
川原「間違ってるかあってるか評価するのは自分なんだよ」
相沢「・・・」
川原「自分で自分をだまさないで」
相沢「あたしは・・・自分をだましているの・・・?」
相沢「・・・」
川原「幸せは・・・もうすぐだ」
 川原ハケる
 相沢それを見送る
 そして自分の胸に手を当ててみる
 村川さんのこと
 自分のこと。
 相沢、それを確認して携帯を取る
 そのとき
伊藤「発表はどうした!」
相沢「教授・・・」
伊藤「ああ・・・おなか痛いよ~」
相沢「え」
伊藤「な、なんでもない」
相沢「もしかして・・・」
伊藤「相沢君!」
相沢「!」
伊藤「掲示板に紙すら貼ってないじゃないか!」
相沢「大丈夫です」
伊藤「?」
相沢「まだあと一五分もあります」
伊藤「一五分『も』じゃなくて一五分『しか』だろうが!?」
相沢「・・・」
伊藤「ああ、学長と理事長になんと報告すればいいか」
相沢「(仕事しながら)あたしがなんとかします」
伊藤「本当だな」
相沢「(仕事しながら)それがあたしの仕事ですから」
伊藤「一分でも遅れたら、四月から網走短大に行ってもらう」
相沢「(仕事しながら)わかってます」
伊藤「五月半ばくらいまで、寒いんだぞ」
相沢「(絶叫)わかってます!」
伊藤「!」
相沢「わかってますから・・・黙っててもらえますか・・・」
 そのとき、畠山イン
畠山「春美ちゃん!」
相沢「!」
畠山「これインクがないよ~」
相沢「ごめんなさい!こっちにたくさんあるから!」
 畠山、机の上のペンたてからペンを取る
 横にあった紙に試し書きをして見る
 しかしかすれ文字しか書けない
畠山「あれ?」
 畠山もう一本とってためし書きしてみる
 だがだめ
畠山「相沢さ~ん」
相沢「うわ、アスクルに頼むの忘れてた・・・」
畠山「他のマジックは?」
相沢「ボールペンしかない・・・」
畠山「そんな~」
伊藤「アナログ作戦失敗か・・・」
畠山「ちくしょー!」
相沢「大丈夫、プリンター直せる人が今がんばってる」
畠山「人類は機械に負けるのか・・・」
伊藤「あと○分だぞ!」
 そのとき、今度は中林、川原イン
川原「(先ほどとは違い、目はうつろ・・・)」
相沢「むっちゃん!」
中林「相沢さん・・・」
 川原、疲れてへたりこむ
相沢「ちょ、ちょっと」
中林「神はやっぱり僕らを見捨てたのでしょうか」
相沢「わかるように説明して」
川原「マムシの友達は・・・」
中林「家庭用の・・・小さなプリンター専門のエンジニアだったんです(号泣)」
畠山「・・・じゃあ・・・直せないってこと?」
ふたり「・・・」
相沢「・・・」
畠山「でもプリンターなんて家用だろうがでかいのだろうがカラクリは同じだろ?」
中林「(泣きながら)だめです。大型は大型のカラクリってもんがあって・・・」
畠山「(中林につめより)まったく使えねえな!」
中林「ああ、天使さん!本当にいるなら僕らに愛をもっと愛を!」
川原「ごめん、春美ちゃん。あたしでも限界なの」
相沢「・・・」
川原「本当にごめん」
相沢「わかった。いいよいいよ。」
伊藤「でも・・・どうするー?」
相沢「・・・」
伊藤「ここで逃げたら・・・あんたの負けだ」
相沢「・・・行って来ます」
みんな「!」
畠山「行ってくるって・・・」
中林「どこにですか?」
相沢「掲示板前に」
川原「そんなことしたら」
相沢「電車が動いたら、村川さんがプリンター直してくれるでしょう。」
川原「まだ復旧までには時間かかるってさっきラジオで(言ってたよ)」
相沢「行って来ます」

 相沢はける
畠山「合格発表」
中林「延期・・・」
川原「前代未聞ね・・・」
 伊藤立ち上がる
伊藤「学長と理事長先生に報告してくる」
みんな「・・・」
伊藤「かわいそうなもんだ・・・」
みんな「・・・」
 伊藤、はけようとするが
伊藤「この中でだれか・・・」
川原「(伊藤と目を合わせる)」
伊藤「腹薬どこにあるか知ってるか?」
川原「腹薬・・・?」
伊藤「なんだかさっきからお腹がぎゅるぎゅるって・・・」
川原「(小さく)あ!ダンゴ?」
伊藤「?」
川原「あ、いやなんでもありません。」
伊藤「薬知ってる?」
川原「ああ、はいはい」
 川原はけてビンを持ってくる
 それは三島が持ってきた消毒薬・・・
伊藤「?・・・へんなクスリだな」
川原「最近の整腸剤ってやつは薬液タイプがはやりなんですって」
伊藤「そんな聞いたことないなあ」
川原「はいどうぞ~」
 いぶかしながらも、伊藤、それを飲む
川原「(それを観てふきだしそう)」
伊藤「(飲み終わってから)なんだかハイターみたいな・・・」
川原「はい大丈夫大丈夫。さあ理事長先生にお話しに行ってください」
 川原、伊藤をはかす



 とぼとぼ歩いてくる相沢
 そこに向こうから三島がやってくる
三島「相沢さん」
相沢「・・・」
三島「どうしたんですか・・・?」
相沢「やっぱだめだった」
三島「・・・」
相沢「ごめんなさいね。あたしが今年の発表を仕切ったばっかりに・・・」
三島「・・・」
相沢「エンジニアの人が到着次第すぐになおして報告するから」
三島「・・・いいんです」
相沢「え」
三島「あたし・・・あきらめます」
相沢「・・・」
三島「天罰ですよね。ってか自分でやったから仕方ないか・・・」
相沢「・・・」
三島「今年は浪人します」
相沢「・・・」
三島「掲示板には載ってない自分のやりたいこと何か見つけようと思って」
相沢「親とかは大丈夫なの?」
三島「・・・なんとかするしかない・・・ですよね・・・」
相沢「・・・」
三島「親っていえば、うちのお母さんがおもしろいこと言ってました」
相沢「?」
三島「お母さん、岩手出身なんですけど、高校の合格発表のとき掲示板見るのが怖くて見にいけなかったんですって」
相沢「・・・」
三島「発表の次の日に新聞にも載るからそれ見ようって。でもそれじゃ遅すぎる。早いとこ落ちたか受かったか知りたい・・・で、何気なくラジオをつけたら地元のラジオ局が合格者発表を夜通しやってたそうです。」
相沢「・・・」
三島「ラジオから自分の名前呼ばれた瞬間、天井を突き破るくらい飛び跳ねて喜んだっていってました・・・」
相沢「そっか。」
三島「こっちのほうじゃそんなのないですからね」
相沢「・・・そうね」
三島「すいません。時間とっちゃって」
 三島、べこりとしながらはけようとする
 その場に残る相沢
相沢「ラジオか・・・ラジオ・・・」
 相沢、ふと何かを思う
相沢「三島さん」
三島「?」
相沢「(近寄って)あの・・・受験番号教えて」
三島「えっと(かばんから受験票を取り出して)・・・二三二九」
相沢「二三二九、二三二九・・・(暗記する)」
三島「?」
相沢「帰るのもうすこし待ってもらえる?」
三島「でも」
相沢「大丈夫。駅行っても電車とまってるよ」
 相沢はける











 
事務室に戻ってきた相沢
川原「どうだった?」
相沢「ラジオ」
川原「え」
相沢「ラジオなの!」
川原「ら、ラジオ?」
 一回相沢ハケる
 そして今度はマイクをコードごと持ってくる
 みんなそれを見て
みんな「!」
相沢「・・・やりますよ」
畠山「う、歌でも歌うの?」
 川原、畠山に突っ込み
 相沢、それを一瞥してから
相沢「(マイクに)本日はお忙しい中、私ども平成コミュニケーション大学にお集まりいただきましてまことにありがとうございました。ただいまより、二○○六年度合格者発表を行います」
中林「ど、どうするんですかね?」
川原「シっ!」
相沢「(マイク)えー、なお本日、掲示板にはコミュニケーション学科のみ掲示しております。コミュニケーション学科を受験された皆様はそちらをご覧ください。そして日本文学科を受験されたみなさま・・・」
みんな「・・・」
相沢「都合により、この放送をもって最初の発表とさせていただきます」
みんな「!」
畠山「そんな無茶な!」
 中林、窓を見て
中林「みんな大騒ぎになってますよ!」
畠山「春美ちゃん!」
相沢「受験番号二三○二、二三○五・・・(とどんどん手帳を見ながら発表していく)」
相沢の発表は続く
 三島も、外にやってくる
 そこに伊藤イン
伊藤「なにを馬鹿なことやってるんだ!」
川原「仕事してるだけじゃないですか!」
伊藤「放送を私的に使うなんて許されんぞ」
川原「立派にサクラサクをやってるだけじゃないですか!」
伊藤「こんなんでサクラサクか!」
相沢「(マイクのスイッチを切って絶叫)うるさい!」
みんな「・・・」
相沢「(絶叫!)あたしを聞いて!」
みんな「(シーン)」
伊藤、お腹をさすりながら、相沢に近づく
 そして、マイクを邪魔しようとする
伊藤「いい加減にしろ!」
 それを畠山と川原
 静かに伊藤を抑える
伊藤「き、きさま・・・」
畠山「おーっとここで叫ばれたら放送の邪魔になりますよ」
 畠山、伊藤を隅にニコヤカにつれていく
 その間も放送は続く
相沢「二三二四、二三二六・・・」
 そして一回帳簿を閉じて
相沢「二三二九」
伊藤「!」
三島「二三二九・・・」
 三島、受験票を何回も見る
伊藤「待て!」
三島「(再び帳簿を開いて)二三三○、二三三一・・・(続行する)」
伊藤「今・・・二三二九って・・・」
川原「二三二九がどうかしましたか?」
伊藤「あいつだぞ」
川原「あいつ?」
伊藤「昼間ここをジャックしようとしたあの娘だぞ!」
みんな「え!」
 そのとき、電話がかかってくる
川原「はい、平成コミュニケーション大学・・・あ、村川さん!」
相沢「(目だけで川原を追う)」
川原「はい・・・わかりました。(相沢に向かって合図を送る)」
中林「電車、動いたんですね!」
川原「(電話切って)あと五分で来るって」
中林「プリンターが直ります!」
 相沢はずっと続ける。そして
相沢「(百一人の発表を終えて)以上になります。合格おめでとうございます。そしてこのような形での発表となりましたたことを心よりおわび申し上げます。なお、聞きそびれた方、もしくはしっかり肉眼で見たいという方はあとでしっかり掲示いたしますのでそちらをお待ちください。」
 相沢、マイクのスイッチを切る
 三島、イン
三島「あたし・・・あたし・・・」
相沢「・・・」
三島「・・・受かったんですよね・・・」
 伊藤、一気に前に
伊藤「申し訳ないが君は不合格だ」
三島「でも放送で」
伊藤「すまん。彼女が読み違えたみたいだ」
相沢「・・・」
三島「どういうことですか!」
相沢「・・・」
伊藤「ほら見ろ。きみの暴走のせいだぞ」
相沢「暴走ではありません」
伊藤「?」
相沢「あたしがこのマイクで言ったことが・・・すべて事実ですから」
伊藤「なにを・・・?」
相沢「あたしは覚えています。二三二九といったことを」
伊藤「だから帳簿にはのってないじゃないか!」
相沢「あたしが言ったことが・・・事実!」
伊藤「!」
川原「あたしは聞きましたよ」
畠山「おれも」
中林「わたしも聞きました」
伊藤「・・・」
三島「あたしも・・・しっかり聞きました」
相沢「うちに入ってから、やりたいことを見つける・・・こういう子を受け入れるのも、うちの役目じゃないんですか・・・」
伊藤「見つかるもんか!」
相沢「証拠は?」
伊藤「・・・」
相沢「短大に入ってもやりたいことを見つけられない証拠はありますか?」
伊藤「・・・こいつだ」
 伊藤、畠山を指指す
伊藤「こいつはうちをいつまでたっても卒業できない。やりたいこともなんにもなく育ってきたいい証拠だ」
畠山「去年まではなんにも見つかんなかったすよ。川端康成も何にも好きじゃないし」
中林「え!ミタラシ教授、それは・・・」
畠山「(中林をだまらせてから)だってつまんないんだもん。ぜんぜん興味もてなかった。そうするとバイトして稼いだほうがおれにとっちゃ得なんですよ」
伊藤「学生たるものを捨ててるなあ」
畠山「でもずっとやったから・・・おれの今がある」
伊藤「!」
畠山「この時間のおかげで、『シゲルピザ』を見つけた・・・」
伊藤「し、しげるぴざ・・・?」
川原「うちに入ってからやりたいことをみつけたいい証拠です」
伊藤「・・・なら、この小娘には見つかるってのか?」
みんな「・・・」
伊藤「思い出してみろ。うちらを脅したんだぞ!ここまで合格発表を混乱させたんだぞ!」
みんな「・・・」
三島「(大声で)見つけます!」
伊藤「!」
三島「絶対に・・・二年間で・・・見つけます・・・」
 そのとき
畠山「そうだ」
 畠山、一回ハケて、模造紙を持ってくる
畠山「二三二九って結構最初のほうだよね」
相沢「そう。すぐ言った覚えあるもん」
畠山「ペンのインクが切れる前におれ書いていたかも・・・」
伊藤「あるわけない。その帳簿には載っていないはずだ」
 畠山、ひとりで模造紙を見る
 そこには百人のうちの三分の一の番号がかろうじて載っている
 みんな注目する
 そして
三島「あった!」
相沢「・・・二三二九」
畠山「教授、これで信用したでしょ?」
伊藤「そ、そんなわけは・・・」
 伊藤、相沢から帳簿を奪い取り中身を見る
伊藤「ありえない!二三二九は除外するって(探して探して)・・・あ」
 伊藤がっくり
伊藤「ある・・・」
川原「ってことは、合格確定ね!」
三島「やった!(天井まで届くくらいに飛ぶ)」
伊藤以外みんな喜ぶ
川原「(三島に)がんばんなよ」
三島「ありがとうございます!」
 そのとき静かに電話が鳴る
 近くにいた、畠山、電話を取る
一方
中林「しっかりやりたいこと見つけてくださいね」
三島「・・・ここまできた以上は必ず見つけます」
中林「僕もあなたから今年の試験がんばる気力をもらった感じです」
三島「・・・がんばってください」
中林「またここに来たら、教室よってみようかなあ。」
三島「え」
中林「あなたのがんばり具合を見に」
三島「川原さんに会いたいだけでしょ?」
中林「!」
川原「え?」
中林「わわあ、なんでもありません、なんでも・・・」
 そのとき、畠山、電話を終える
畠山「伊藤教授」
伊藤「なんだね」
畠山「他の教授のみなさんが呼んでます」
伊藤「それどころじゃない!」
畠山「発表が遅れた問題と不合格者を合格扱いした責任問題について話し合うそうですよ」
伊藤「そ、そんなの学科長として教授会を中止する」
畠山「他の教授全員から、この問題を踏まえた上で再選挙の提案があったそうです」
伊藤「リ、リコールか・・・」
 畠山、伊藤の肩を叩いて
畠山「ほら、早く行きなさい」
伊藤、くやしながらはける
中林「(見送る畠山に)教授」
畠山「・・・さっきも見てわかっただろ?」
中林「・・・あ、そうでした・・・」
畠山「おれは教授でもなんでもない」
中林「(首をふりながら)いいんです」
畠山「え」
中林「お互いがんばりましょう」
畠山「お互いか」
中林「絶対今年は先生になります」
畠山「おれはまた教室へ逆戻りかぁ」
相沢「それはどうでしょう?」
畠山「?」
相沢「すいません。見せるの忘れちゃって(解答用紙を見せて)」
畠山じっと見てから
畠山「い・・・いけてる」
相沢「卒業おめでとうございます!」
畠山「やった!」
みんな「(それぞれに)おめでとう!」
川原「よく受かったこと」
畠山「しっかり勉強したもんおれ。」
川原「今夜こりゃ嵐だわ・・・」
畠山「どういうことだよ!」
相沢「でもこれでピザ屋が近くなってきましたね」
畠山「ああ。確実に近くなった。」
相沢「イタリアンがんばってくださいね」
畠山「さっきの言葉も忘れないからね!」
相沢「え?なんだっけ」
畠山「ひどいなあ。店開いたら一番めの客になるって」
相沢「うん、絶対行くから」
畠山「ほんとかよ。」
川原「あ、この子三歩歩いたら忘れるから」
畠山「猫なみ?」
川原「ほれ、帰れ!」
畠山「おう、卒業式でまた会おう!」
 畠山、ハケる
相沢「かっこよく帰っちゃって」
川原「ったくほんとだよ」
中林「じゃ、ぼくも・・・(かっこよく)さらば!」
 中林もハケようとする
川原「あ、待って」
中林「うわ・・・」
川原「もうちょっとここにいて」
中林「え、ひょっとしてさっきの私の一生一度の告白を・・・」
川原「え?」
中林「聞いてるわきゃないですよね・・・。」
川原「あのさ、あたし早退なんだ」
相沢「え!」
川原「シフト表にも書いといたよ。」
相沢「(シフト表見て)忘れてた~」
川原「ごめんね。夕方から曲作りとミーティングあって」
中林「わかりました。じゃあ、川原さんのかわりに修理を見届けます」
川原「よろしく。それと川原さんとかさ、むっちゃんって呼ぶのやめてもらえる?」
相沢「?」
川原「レコード会社と正式に契約するんだから。もうあたしはらいち」
相沢「そっか・・・」
中林「・・・らいちさん・・・」
川原「は~い」
中林「(赤くなって)あ・・・私はずっと応援してますから!」
川原「よろしく!お先!」
 川原、ハケる
中林「私らみたいな一般人じゃなくて、もうアーティストなんですね」
相沢「でも中身は人間ですよ」
中林「人間なら、私のことも聞いてくださいよ・・・」
相沢「え?いつ言ったの?」
中林「相沢さんもいるときですよ~」
相沢「電話きたときですか?」
中林「ああ・・・どうせ私なんて・・・」
相沢「そんないじけないで。あたしがもうひとつチャンスをあげますよ」
中林「そんなもんいらないですよ」
相沢「そうですか?じゃあ、CD予約しようにもタイトルわかんないですよね」
中林「タイトル・・・タイトル・・・あ!聞くの忘れてた!らいちさ~ん・・・」
 そういいながら、中林はけはじめる
相沢「(その背中に)あとであたしにも教えてくださいよ~」
 中林、親指を立ててそれに答える
 完全はける
相沢「面白い人」
 そのとき電話がなる
相沢「はい、事務室です・・・はい・・・はい・・・伺います」
 電話切って
三島「どうしたんですか」
相沢「教授会から。事情聴取。」
三島「!」
相沢「伊藤教授が全部あたしのせいにしてるんだって」
三島「・・・」
相沢「あたしもみんなみたいに、すっきり帰りたかったな・・・」
三島「ごめんなさい。あたしがこんなことしなかったら・・・」
相沢「あんなことしなくてもいろいろトラブってたと思うよ。」
三島「・・・」
相沢「プリンターはあなたが来なくとも調子悪かっただろうし、中林さんも、畠山さんもあんな感じだったろうし」
三島「でも大きなきっかけはあたしですよ」
相沢「変わらない」
三島「・・・」
相沢「らいちさんがいってたじゃない?起こることは最初から決まってることだって」
三島「・・・」
相沢「あたしは仕事しただけ。あなたもここに来たってだけ」
三島「・・・」
相沢「あ、ほら、そろそろ帰りな。あたしがここ抜けると留守になるから鍵かけないと」
 相沢、出口に三島を送り、そして鍵をとろうとする
 そのとき
中林「(大声で)相沢さ~ん!」
 中林の声が聞こえる
ふたり、窓へ
中林「らいちさんのアルバムタイトルは・・・『春色東風』でした!」
相沢「春色東風・・・」
中林「春の景色の色って、東風にのってやってくるんです。」
三島「きれいですね・・・」
相沢「・・・」
三島「らいちさんっぽいな・・・」
中林「予約百枚いってきまーす」
相沢「おつかれさまでーす」
 中林はける
三島「何色ですか?」
相沢「?」
三島「相沢さんの心は・・・何色なんですか」
相沢「色・・・」
三島「あたしも・・・春色です!」
相沢「・・・」
三島「あたしにとっての東風は相沢さんです。相沢さんがいなきゃ、あたしは春色に染まりませんでした」
相沢「・・・」
三島「相沢さんは・・・何色ですか」
 相沢振り返って
相沢「あたしは・・・」
三島「・・・」
相沢「(そっちのほうをむいて)なんにでも染まってみせるよ」
 そういいながら、相沢、三島をつれてはけていく
 
 END