登場人物
江藤俊樹
島村梢
特別編 開場中(客入れ)
☆今回は、照明を一切いじらない方向でいくために、開場中から芝居モードでやっていきたい。
開演十五分前
係員「え、本日は地下鉄三本線桜町駅をご利用いただきましてまことにありがとうございます。二番線、ご注意ください。新宿行き列車がまいります。白線の内側までお下がりください」
電車入線SE
発車ベルSE
係員「桜町、桜町です。二番線、新宿行き発車します。はい、ドア閉まります」
電車ドア閉めSE
電車発車SE
係員「はい、つづいては二三時五分発新宿行きです。それまで少々お待ちください。」
開演五分前
係員「本日は地下鉄三本線桜町駅をご利用いただきまして、えー、まことにありがとうございます。え、お客様のみなさまにお願いがございます。携帯電話、PHS、目覚まし時計など、音の出るものは電源を切るか、サイレントモードにするようよろしくおねがいいたします。なお、お話は五十分か六十分程度のお時間になります。トイレ等もできるだけこの時間でおすませください。つづいては二三時五分発新宿行きです」
開演Qサイン
係員「まもなく二番線に新宿行きまいります。白線の内側にさがってお待ちください。」
電車入線SE
係員「桜町、桜町です。二番線の電車は新宿行きです。
(ベル)
係員「新宿行きドア閉まります。ドア閉まります」
ドア閉まるSE
第一章 指輪紛失
開演Qサイン
係員「まもなく二番線に新宿行きまいります。白線の内側にさがってお待ちください。」
電車入線SE
係員「桜町、桜町です。二番線の電車は新宿行きです。
(ベル)
係員「新宿行きドア閉まります。ドア閉まります」
上手からふたりがかけてくる
いや、走ってきたのは男のほうだけだ
ドア閉まるSE
地下鉄が発車するSE。
俊樹、電車に乗れずにホームに突っ立つ
二○○六年三月三一日。
ここは東京。地下鉄の駅。
係員「つづきまして二三時一五分発新宿行きです。」
時間は二三時。
男、江藤俊樹。
女、島村梢はゲームをやりながらのんきに歩いてくる
梢は、ベンチに座ってゲームボーイに夢中になっている。
後ろを見る俊樹
ゲームしてる梢。
本当に楽しそうだ
俊樹、ポケットから手帳をだして時刻を確認する
俊樹「(ホームから隣にまわり画面をのぞきながら)梢」
梢「(楽しそう)」
俊樹「梢」
梢「(ちょっとだけ俊樹をむく)」
俊樹「次、乗るよ」
梢「やだ」
俊樹「え」
梢「やだ」
俊樹「また新宿で(乗り換えが)大変なことになっちゃうよ」
梢「いいよ」
俊樹「いいの?」
梢「(ゲーム)」
俊樹「(ため息)もう・・・」
俊樹、梢のゲームをとりあげる
梢「あ!」
俊樹、勝手に、セーブの手続きをする
梢「レベル四の竜の間なのに!」
俊樹「引き際、引き際」
梢「トシ!」
俊樹「(続きは)電車乗ってから」
梢「こいつ倒せば、大ボス倒すときにおもいっきり大事な剣がもらえるの!」
俊樹「剣でも槍でも、家ならもっと落ち着いてゲットできるよ」
梢「甘いなあ」
俊樹「甘い?」
梢「電車乗るでしょ。」
俊樹「うん」
梢「画面開くでしょ。」
俊樹「うん」
梢「で(やりながら画面に集中する)」
俊樹「(それを見る)」
梢「(画面に集中して、ためてためて・・・)」
俊樹「(のせられて、のせられて・・・)」
梢「オエっ!」
俊樹「集中しすぎるんだなあ」
梢「あたしも百鬼魔界にとんじゃう!」
俊樹「そこどこ?」
梢「暗黒第三世界にあるの!」
俊樹「暗黒第三世界?」
梢「そう!○△□〒(おどろおどろしい呪文を唱える)」
俊樹「(構わずに)セーブしたから家でやろうね」
梢「つまんない!」
俊樹「僕といるときは僕と話そうよ」
梢「トシといるからこそ安心してゲームできるんだよ」
そういいながら梢、俊樹からゲームを奪い、端っこのほうでやりはじめる
梢「(うれしげにゲームする)」
俊樹「(ひとりごと)これじゃ・・・いえないよなあ」
梢「え!」
俊樹「!・・・いや、なんでも」
梢「なにが言えないの?」
俊樹「聞こえた?」
梢「あたしの耳は犬よりも猫よりも鋭いの」
俊樹「原始人並み?」
梢「(かまわずに)言えないのは・・・なに?」
俊樹「ん?あ・・・いや・・・」
梢「そう(またゲームに夢中になる)」
俊樹「・・・」
梢「(ゲームしてる)」
俊樹「(そのうしろ姿に)ぼくらって出会ってから明日で一年になるよね」
梢「そうだっけ?」
俊樹「忘れたの?」
梢「ん~、そう・・・だっ・・・たかなあ」
俊樹「ひっどいなあ」
梢「(ゲーム)」
俊樹「こういうのって、ほんとは女の子が気にするもんだよ」
梢「誕生日とか?」
俊樹「髪を切ったとか」
梢「ん~、あんま、気にしない!」
俊樹「僕は気になる」
梢「トシはA型だからね」
俊樹「関係ないよ」
梢「ものすごい気にしたがりなんだよ」
俊樹「世の中のA型の全員が全員、神経質とはかぎんないって」
梢「あたしはAB型特有の気にしない人だから」
俊樹「そういう問題じゃないって」
梢「神経質!神経質!」
俊樹「神経質じゃないよ!」
梢「だって手帳によくメモとかしてるよね」
俊樹「忘れないようにだよ」
梢「重要なのは赤ペン、そうでもないのは青ペンって、色わけてメモってるんだよね」
俊樹「忘れないためにね」
梢「あ!」
俊樹「え」
梢「あたしが忘れたー!」
俊樹「なになに?」
梢「餃子ドック」
俊樹「餃子のおばけみたいなやつでしょ?」
梢「ディズニー・シー名物なんだよ!」俊樹「わかった。ローソンの隣の王将で食べよう」
梢「餃子ドック~!」
俊樹「餃子は万国共通だよ」
梢「餃子ドック~・・・」
俊樹「(無理やりうなずいて)次、行ったときね」
そのとき、電車係員のSE
係員「まもなく、二番線に電車が参ります。白線の内側にさがってお待ちください」
俊樹「じゃ、乗ろうか」
梢「トシ」
俊樹「え」
梢「もうひとつ・・・気がついたことがある」
俊樹「?」
梢「(右手を見せながら)・・・(指輪)なくしちゃった」
俊樹「え!」
そこに電車入線
係員「○○、○○(駅名)この電車は△△行き各駅です。」
俊樹「なくしたの?」
梢「(うなずく)」
係員「(ベル)はい、△△行き発車です。まもなくドア閉まります!かけこみ!かけこみ乗車はおやめください!」
俊樹「どこでなくしたとか(覚えてないの?)」
梢「(首をふる)」
俊樹「え~!」
梢「(うなずく)」
俊樹「・・・」
電車、ドア閉まるSE
係員「はい、続いて二三時ニ○分発がまいります。少々お待ちください。」
電車、走るSE
俊樹、ベンチに腰掛ける
梢、端のほうに座る
俊樹「・・・また乗れなかった」
梢「・・・」
俊樹、突然立ち上がり、ホームの上を上手から下手まで四つんばいになって探し始める
梢「トシ!」
俊樹、どんどんさがす
梢「(周りを気にしながら)あ、は、恥ずかしいよ」
俊樹「指輪」
梢「?」
俊樹「この辺にあるかもしれない」
梢「え、え、え・・・」
俊樹「座って待ってなよ」
俊樹、特にベンチ周辺をくまなく探す
梢、それが気になる
梢「あ・・・あった?」
俊樹「(探すのに夢中)」
梢「・・・キラって光るやつあった?」
俊樹「今んとこない」
梢「・・・」
俊樹「絶対、見つけてやるさ」
俊樹、どんどん範囲を広げてさがし始める
それを見る梢
梢「ごめん!」
俊樹「(探す手を休めながら)?」
梢「ごめんね」
俊樹「いいよ」
梢「あたしがずっと指を気にしてたらよかったんだよね」
俊樹「昔のことは気にしなくていい」
梢「昔って・・・今日のことだよ」
俊樹「今よりも前は、ぼくにとっちゃ、昔。」
梢「・・・」
俊樹「ゲーム・・・やってていいよ」
梢「(迷う)」
梢、ベンチにもどり、ゲームボーイのスイッチを押そうとして・・・
梢「!」
やめて、立ち上がると、俊樹とは別の方向を探し始める
俊樹「(それをみて驚く)」
梢「(さがしながら)あたしも探す」
俊樹「いいよ、座ってなよ」
梢「探すの!」
俊樹「!」
梢「あたしとトシの指輪だもんね」
俊樹「・・・」
梢、どんどん探していく
俊樹もさがす
梢「(探しながら)トシ」
俊樹「ん?」
梢「今日さ、すんごい、楽しかった」
俊樹「・・・うん」
梢「今度はランドのほうもセットで行きたい」
俊樹「うん」
梢「夏くらいにまた行こうね」
俊樹「・・・」
梢「ホーンテッドマンション大好きなんだ」
俊樹「・・・そう・・・だね」
梢「♪~千人目のおばけにな~れるかな~」
俊樹「・・・」
俊樹、ゴミ箱に気づく
そしてあさり始める
ガサゴソとした音に気づく梢
梢「ちょ、ちょっと」
俊樹、かまわずあさる
梢「と、トシ」
俊樹「あるかもしれないだろ?」
梢「かも、だよ」
俊樹「あるかも、なら探すしかない」
梢「でも」
俊樹「でも、・・・なんだ?」
梢「は、はずかしいよ」
俊樹「大丈夫だよ」
梢「・・・」
俊樹「(周りを見ながら梢の耳に聞こえるくらいの声で)この人たちとは二度と会わない」
梢「・・・」
俊樹「恥ずかしくなんかないよ」
俊樹、ひととおりゴミ箱をあさるが・・・
ないようだ。
梢「ない?」
俊樹「(うなづく)」
あきらめてまた床を探す
そして
俊樹「?」
床にキラりとしたものを見つける
俊樹、それをゆっくり拾い上げる
俊樹「・・・あ」
梢「え」
俊樹「コンタクト」
梢「?」
俊樹「コンタクトレンズ」
梢、俊樹の元へ行く
俊樹「こういうのって落ちたらなかなか探せないんだよね」
梢「ちっちゃいからね」
俊樹「うん」
梢「それに、当たり前だけど透きとおってるから」
俊樹「だいたい見つからない」
梢「うん」
俊樹「今頃、落としたひと困ってるかも」
梢「・・・そうだね」
俊樹「梢もコンタクトだっけ?」
梢「うん」
俊樹「(コンタクトを高く天に掲げて)こんなちっぽけなもので、人間ってなんでも見えるようになっちゃうんだよなあ」
梢「なんでも見えるってのは、全部いいことばっかりじゃないよ」
俊樹「?」
梢「見たくないものも、見えちゃう・・・」
俊樹「・・・」
梢「(突然)ほら、あそこ!」
俊樹「え?」
梢「ほーら、線路の横(指を刺す)」
俊樹「あ」
梢「ね」
俊樹「(線路の脇を見て)でっかい、ネズミだなあ・・・」
梢「それまで全然気にしてなかったのに、あたしに言われた途端に見ちゃって、その瞬間から気になっちゃうでしょ?」
俊樹「(線路のほうを見たまま)」
梢「でしょ?」
俊樹「うん・・・見ちゃうなあ」
梢「便利な道具ってさ、どっかで便利なんだけど、またどっかで不便なんだよね」
俊樹「・・・」
梢「ひともおんなじ」
俊樹「・・・梢」
梢「?」
俊樹「なにか・・・いいたいことあるんじゃないか?」
梢「ううん、別に・・・」
俊樹「そうかなあ」
梢「トシこそ、変だよ」
俊樹「!」
梢「なんか・・・ヘン・・・」
俊樹「なんにもないよ」
梢「?」
俊樹「・・・あ、いや」
梢、俊樹の持っているコンタクトを奪ってホームに投げる
俊樹「あ!」
梢「(線路の奥に向かって)ネズミのごちそうになっちゃえ!」
俊樹「!」
梢「・・・へへ、なるわけないか・・・」
俊樹「・・・」
梢「(振り向いて)指輪、探そ。」
俊樹「・・・うん」
梢、また探し始める
俊樹、ついに意を決する
俊樹「梢」
梢「?」
俊樹「明日から・・・パリに行く」
梢「!」
梢、驚いて立ち上がる
俊樹、言ってしまったあとの後悔にさいなまれる
第二章 おわらないふたり
係員「まもなく二番線に荻窪行きまいります。白線の内側にさがってお待ちください。」
梢「え?」
俊樹「・・・」
梢「もう一回・・・言って」
たちすくむふたり
係員「桜町、桜町です。二番線の電車は荻窪行きです。
(ベル)
俊樹「乗ろう」
梢「いやだ」
俊樹「電車の中で説明する」
梢「今すぐここでして」
俊樹「こんなとこじゃ説明できないよ」
梢「なんで?」
俊樹「なんでもだよ!」
俊樹、強引に梢の腕をとってドアに向かおうとする
梢「(絶叫)いやだ!」
俊樹「!」
係員「荻窪行きドア閉まります。ドア閉まります」
電車、ドア閉まるSE
係員「はい、続いて二三時ニ○分発がまいります。少々お待ちください。」
電車、走るSE
見送る俊樹
梢、腕をふりほどくとベンチに戻る
立ちすくむ俊樹
梢、袋からハンバーガーを取り出すと一人で食べ始める
しかし・・・
梢「う!」
俊樹「どうしたの?」
梢「チーズ・・・」
梢、食いかけのチーズハンバーガーをラップに戻して、さらに袋に入れる
俊樹、
俊樹「おいおい」
梢、もう一度、袋をあさるともうひとつのハンバーガーを取り出す
そして、一気に食べ始める
途中、ウーロン茶を飲みながら。
俊樹、それを見守る
梢、さっき間違えて食べたハンバーガーを俊樹の目の前に
さも食えといわんばかりに差し出す
俊樹「え?」
梢「(食べなよ)」
俊樹「うちで食べるよ」
梢「(いいから食え)」
俊樹「・・・」
俊樹、仕方なしにそれを受け取り、ベンチの端っこで食べ始める
俊樹、ゆっくり食べ始める
梢、ずっと食べっぱなし
俊樹「(食べながら)悪かったって思ってる」
梢「・・・」
俊樹「ごめん」
梢「・・・」
俊樹「梢がやけ食いしてるときは、おもいっきり怒ってるときだよね」
梢「わかってるなら言うな」
俊樹「ごめん」
梢「食べながら謝るかぁ?」
俊樹「だ、だって梢がこれ食べろって」
梢「ちがう」
俊樹「え」
梢「普通のハンバーガーになんでチーズなんか入れるんだ!って思ったから」
俊樹「チーズいいじゃん!もっとおいしくなるよ」
梢「やだよ~。しょっぱいし、口の中で、なんか邪魔だし!」
俊樹「普通な人はチーズバーガーもうまいっていうよ」
梢「すいませんね、アブノーマルで。」
俊樹「なんでそこでひがむの?」
梢「ひがみたくもなる!」
俊樹「・・・」
梢「なんでもっと早く言わなかったの?」
俊樹「言いたかったんだけど・・・なんか、いえなくて」
梢「あたしのせい?」
俊樹「え」
梢「あたしが、いっつもうちでゴロゴロしてばっかだったから?」
俊樹「それとこれとは(関係ないよ)」
梢「(かぶせる)そんなにゴロゴロしてる暇があったら、もっとたくさん履歴書書いて、プロダクションとかバンバン受けりゃいいのにって?」
俊樹「だからさあ(そういうことじゃないって)」
梢「被害妄想バンザイ!」
俊樹「よくないよ」
梢「(かまわず)あたしはただごろごろしてただけじゃないの!」
俊樹「え」
梢、食べ終わると、ラップをくしゃくしゃに丸めて俊樹のほうにポイと捨てる
俊樹、あわててそれをキャッチ。
梢、ベンチから立ち上がって
梢「オーディションとか面接って、たくさん受ければ受けるほど、なにかが遠くなって、おかしくなっていくんだ・・・」
俊樹「・・・」
梢「あたしさあ、先月までずっと、一週間に多いときで六日とか受けてたじゃない?おかげでさ、東京に来たころぜんぜんわかんなかった電車がさ、地下鉄もJRも京王も東武も東急も西武も小田急も、み~んな覚えちゃった。」
俊樹「・・・」
梢「どこそこで乗れば階段がどの辺にあるから、前から何両目に乗れば早く上に出れるとかね。携帯とか使わなくてもソラで全部わかっちゃうんだよ、すごいでしょ」
俊樹「うん・・・」
梢「帰りにこう電車乗ってるとさ、窓ガラスに映るあたしの顔が見てらんなくって。」
俊樹「・・・」
梢「こんなブサイクが芸能界にチャレンジしようなんてアホなんじゃないかって、同じ電車の中の遠くのほうから小さい声で聞こえてくるの。だれが言ってるかわかんない。そっちを振り返ってもただの人しかいないんだけど。」
俊樹「・・・」
梢「あたし、その声を抱えて帰ってくる。」
俊樹「・・・」
梢「時間がたつとだんだんおっきくなってくる。そのうちあたしを包むように聞こえてきて。」
俊樹「・・・」
梢「そうなったら、ごろごろするしかない。そうすれば、だんだん声がちっちゃくなる。」
俊樹「・・・」
梢「トシが家に帰ってくるまで・・・声とケンカしながら待ってるんだよ」
俊樹「・・・そうだったんだ」
梢「バイト変えてって何回も言ったよね」
俊樹「深夜バイトのほうが稼げるんだよ」
梢「助けてよ!」
俊樹「!」
梢「あたしを・・・あたしを、あの声から助けてよ」
俊樹「・・・」
係員「まもなく二番線に新宿行きまいります。白線の内側にさがってお待ちください。」
俊樹「・・・乗ろう」
梢「・・・」
俊樹「家でゆっくり朝まで話そう」
梢「ゆっくりなんか話せない」
俊樹「話せるよ」
梢「すぐパリに行っちゃう」
電車入線SE
係員「桜町、桜町です。1番線の電車は荻窪行きです。」
俊樹「乗るよ」
梢「ねえ!」
俊樹「?
梢「ひとつだけ、いいたいことある」
(ベル)
係員「荻窪行きドア閉まります。ドア閉まります」
ドア閉まるSE
梢「あたしの絵っていつになったら描いてくれるの?」
俊樹「!」
電車去る
見送る俊樹
駅員「続きまして二十三時三十九分発荻窪行きです」
梢「今、ここであたし書いてくれる?」
俊樹「!」
梢「かばんの中の、らくがき帳でいいからさ」
俊樹「だ、だってあれはデッサンとか練習用なんだよ」
梢「いいよいいよ」
俊樹「梢を書くなら、もっとしっかりしたとこで道具も揃えて完璧に書きたいよ」
梢「こだわりなんか捨てちゃえ」
俊樹「・・・」
梢「パリで馬鹿にされちゃうぞ」
梢、俊樹の了解もとらずに、俊樹のかばんかららくがき帖とペンケースを出す
俊樹「梢!」
梢「(らくがき帖とえんぴつを俊樹に渡しながら)よろしく!」
俊樹、困り顔
そうとは知ってか、知らずか、梢はホーム内をうろうろしはじめる
梢「♪どーこが、いいかなー♪。」
梢、勝手な歌を歌いながら柱によりかかったり、急にしゃがんだり、ポーズをとるところを探す
俊樹、ますます困り顔
そのとき
梢「ここだあ!」
俊樹「?」
梢、一気にその場に駆け寄る
それは、ホームの白線の上手、内側、線路ぎりぎりのところだった。
俊樹「あぶないよ!」
梢「いいんじゃない?このドキドキ感!」
俊樹「絶対危ないよ!(梢に駆け寄ろうとする)」
梢「動くな!」
俊樹「!(止まる)」
俊樹のほうを見ながらゆっくり両手を広げて梢
梢「それ以上、あたしに近寄ると、落ちてやるから!」
俊樹「!」
梢「(あたしが)足、複雑骨折とかしてもいいの?」
俊樹「・・・」
梢「手を挙げろ!」
俊樹「?」
梢「(あたしが)落ちるよ」
俊樹「(仕方なしに両手を挙げる)」
梢「もっと高く」
俊樹「(らくがき帖とペンケースを持ったままもっと高く手を上げる)」
梢「もっと!」
俊樹「(もっと高く)」
梢「猫の喧嘩みたいに『ニャ~!』」
俊樹「え~?」
梢「言って!はい『ニャ~!』」
俊樹「に・・・にゃ~!」
梢「腹から声出す!」
俊樹「にゃ~!」
梢「(転換)さあ、書こうか」
俊樹「おい!」
俊樹、近づこうとする
すると梢、ぎゅっと目をつむり、上半身を線路の方向へ傾ける
俊樹、止まる
俊樹「馬鹿なことするな!」
梢「あたしとトシのどっちが馬鹿?」
俊樹「!」
梢「何も知らない純粋無垢な女の子に突然明日からいなくなることをいう男と、ただ絵を描いてもらいたい女の子、どっちが馬鹿?」
俊樹「それは・・・」
梢「男?女?」
俊樹「・・・僕だ・・・」
梢「(にやりと笑って勝利宣言)白線の内側に下がって、あたしを書きなさい!」
俊樹、仕方なしにすわり、ペンケースから鉛筆を出す
梢、体勢を戻して、自然体でホームに立つ
梢「タイトルは・・・パリ行きを急に聞かされた女」
俊樹「しつこいよ」
梢「しつこく言いますよ」
俊樹「家に帰ったらただじゃおかないから」
梢「へへへ・・・」
俊樹「動くな!」
梢「すいません」
俊樹、さらさらと書き始める
梢、自然体のまま
そのうち
俊樹「ねえ、頼むからもうちょっとこっち側(内側のこと)に立たない?」
梢「なんで」
俊樹「ずっとヒヤヒヤしっぱなしだよ。いつ電車来るかわかんないし」
梢「そうねえ・・・(そういいながら腕時計を見ようとする)」
俊樹「動くな!」
梢「あと十分くらいは平気なんじゃない?」
俊樹「十分じゃ、書ききれないって」
梢「そこを書くのがプロってもんでしょ?」
俊樹「まだ絵でメシ食ってないよ」
梢「へりくつばっかり言ってないでさっさと書けばいいじゃん」
俊樹「ちょっと黙ってて」
梢「・・・」
俊樹、だんだん集中し始める
梢、立っててだんだん退屈してくる
梢「トシ」
俊樹「(集中)」
梢「モデルって大変なんだね」
俊樹「みんなそういうね」
梢「あたし思ったんだけどさ、日本じゃだめなの?」
俊樹「だめ」
梢「だって夏の個展でトシの絵全部売れたじゃん!」
俊樹「確かに」
梢「日本でも十分やれるっていう証拠じゃないの?」
俊樹「あれは、まぐれだよ」
梢「?」
俊樹「去年の夏は僕のその時の一番いいやつが並んだってだけなんだ」
梢「・・・」
俊樹「まぐれってずっと続いちゃくれない。次の個展も全部いいやつが並ぶって保障はどこにもないんだよ。もっともっといい人の作品を見て、もっともっと駄作でもいいから絵を描いて、いろんな人にみてもらいたいんだ」
梢「そんなの日本でもできるじゃん!」
俊樹「それじゃ、せまい作品しか作れない」
梢「せまい?」
俊樹「じゃあ、ちっちゃいコップに、一リットルのジュースを注いだらどうなる?」
梢「こぼれちゃう」
俊樹「それ」
梢「え~~~」
俊樹「一リットルのボトルが僕。コップが日本」
梢「難しい例えするよね」
俊樹「わかりやすく言ったつもりなんだけど」
梢「つもりね」
俊樹「僕の絵を描きたい欲のほうが日本よりはるかにおっきくなってる。絵の本場でもっと勉強したいんだ」
係員「はい一番線に荻窪行きまいります。白線の内側にさがってお待ちください」
俊樹「電車くるみたいだから、こっちに来なよ」
梢「動くなって言ってたじゃん」
俊樹「すこしだけ動いていいから」
梢「動かないよ」
俊樹「危ないって」
梢「動かない」
俊樹「梢!」
係員「えー白線の内側にお下がりください」
梢「(大声で係員のいる方向に)ここで絵を描いてるんです!」
俊樹「だめだって!」
梢「未来の大画家、江藤俊樹が絵を描いてるんです!」
入線SE
係員「お下がりください!危ないですよ!(連呼)」
梢「邪魔しないでください!」
俊樹「早く!」
梢「江藤俊樹が大好きなあたしを書いてるんです!」
俊樹「梢!」
俊樹、電車が梢の身体にふれる寸前にダッシュして梢を抱きかかえて、ホーム内側に倒れこむ
電車停車
係員「桜町、桜町。一番線の電車は荻窪行きです」
ホームにうずくまるふたり
ベル
係員「はい荻窪行きドアしまりまーす。駆け込み乗車はおやめください」
電車去る
ふたり、ゆっくり離れる
俊樹、梢をふと見る
梢の胸元にネックレスがある
俊樹「!」
梢のネックレスに指輪がぶらさがっていた
第三章 ふたりの道
俊樹「それ・・・」
梢「?」
俊樹「ネックレスに・・・」
俊樹、梢のネックレスを手に取る
梢「・・・やっとわかってくれた」
俊樹「・・・」
梢「やっとあたしを見てくれたね」
俊樹「え」
梢「じゃあ、問題です。指輪はいつから首につけたんでしょうか?」
俊樹「なんで・・・」
梢「はい五秒前、四、三、二、一」
俊樹「梢!」
梢「はいブー!」
俊樹「ふざけないでちゃんと答えてよ」
梢「正解は、家を出るときからでした。江藤さんパリ行き寸前で残念!」
俊樹「(梢の肩をゆさぶって)なんでそんなことするんだよ!」
梢「試したかったの!」
俊樹「・・・」
梢「トシが・・・今でもあたしを見てくれてるか・・・見たかったんだよ」
俊樹「・・・」
梢「あたし、パリに行くこと、ほんとは前から知ってたんだ」
俊樹「!」
梢「あたし、トシのらくがき帖のぞくの大好きだったの。いつ、あたしを書いてくれるかとっても楽しみにしててね。隠れてどっかであたしのこと描いて、どっきりでプレゼントしてくれるんじゃないかってね」
俊樹「・・・
梢「一週間くらい前にトシが風呂に入ってるときにいつもどおりかばん見たんだ。そのとき手帳が一緒にガバッてなって。」
俊樹「・・・」
梢、俊樹の手帳をもってきて、開いてみせる
梢「四月一日パリ出発って赤ペンで二重丸して書いてある。」
俊樹「・・・」
梢「赤ペンは重要事項」
俊樹「・・・」
梢「あともうひとつ、ショッキングなの見つけたんだ」
梢、一ページ戻してめくる
梢「『三月三十一日 梢にサヨナラ』って」
俊樹「・・・」
梢「青ペンで書いてある」
俊樹「・・・」
梢「青ペンは、どうでもいいことを書くときに使う」
俊樹「・・・」
梢「あたしはいつまでも青ペンなんだね」
俊樹、がっくりとベンチに座る
梢「どうやれば赤ペンにあがれるの?」」
俊樹「・・・」
梢「あたしも赤ペンで書いてほしいよ」
梢、らくがき帖の一枚を破り丸めて俊樹に投げつける
俊樹「・・・」
梢「あたしはトシ以上に怒ってるんだからね!」
梢、また一枚やぶると丸めて投げつける
係員SE
「本日も地下鉄三本線ご利用いただきましてまことにありがとうございます。まもなく本日最終、荻窪行きが参ります。」
梢「すっきりしたから帰る」
俊樹「・・・」
梢「あたし、今日はお姉ちゃん家に行くから」
梢、ベンチから自分のかばんをもってくる
そして、携帯を出して電話をかけ始める
梢「あ、お姉ちゃん?あたし。今からそっち行っていい?ちょっと今日は泊まるわ」
電車が入線してくる
梢、電話しながらホームに並ぶ
梢「うん・・・じゃあ、ドアあけといてね。じゃあね」
梢、電話を切る
そのとき、俊樹、らくがき帖の一番上の紙をやぶると、立ち上がって、
梢に向かう
係員「桜町、桜町です。荻窪行き最終です」
電車に乗ろうとしている梢。
俊樹、梢の肩をたたく
梢、後ろを振り返る
俊樹、だまって、紙を見せる
そこにはさきほどの短い時間で書きあがったとは思えないほどの絵ができあがっていた
梢「!」
俊樹「持ってかえって」
梢「・・・」
ベルが鳴る
係員「はい、最終荻窪行き発車です。本日の最終発車です」
俊樹「思い出にとっといてよ」
梢「・・・」
俊樹「ほら」
梢「(迷う)」
係員「ハイ、ドア閉まりま~す!かけこみ!かけこみ乗車はおやめください!」
俊樹「電車、行っちゃうよ、早く!」
梢「・・・トシは?」
俊樹「歩いて帰るさ」
梢「・・・」
俊樹「今までの罰だと思えば、僕はしっかり受け入れる」
梢、迷う
俊樹、上に手を伸ばして、絵をあげようとする
梢、意を決すると電車に乗らずに、俊樹の絵を取る
その瞬間、ドア、閉まる
電車、発車する
係員「本日も地下鉄三本線ご利用いただきましてまことにありがとうございました。ただいまをもちまして本日の営業を終了いたします。なお駅構内に残ることはできません。すみやかに駅の外にご退出くださるようお願いいたします。」
ふたり、向き合う
梢「さっき、書いたのはこれなの?」
俊樹「そうだよ」
梢「・・・」
俊樹「短い時間だったから、ちょっと雑だけどね」
梢「ありがとう」
梢、絵をもらって、しまう
俊樹「電車、終わっちゃったよ」
梢「・・・」
俊樹「お姉さんところ行かなくていいの?」
梢「・・・タクシーで行く」
俊樹「そっか。梢はお金持ちだからいいなあ」
梢「嘘。行かない」
俊樹「行かないの?」
梢「うん」
俊樹「じゃあ、うちに来るの?」
梢「・・・」
係員「えー、駅構内にいらっしゃるお客様に申し上げます。まもなく駅地上出口のすべての入り口を閉めさせていただきます。速やかにご退出ください。くりかえします・・・・」
俊樹「とりあえず、ここ出よう」
暗転
終章 地上にて
明転
ここは地上。
かなり寒い
ふたり出てくる
俊樹「さーむいなあ」
梢「日付が変わったら四月なのにね」
俊樹「こりゃ、ゴールデンウイークあたりまで寒さ続くんじゃない?」
梢「早く夏来~い!」
ふたり、真ん中まで歩いてくる
俊樹「えっと、ここの交差点を右だったよね」
梢「左でも新宿のほうにはいけるよ」
俊樹「え、でも右のほうがぜったいに早いって」
梢「左のほうが早いってこのまえ友達が言ってたよ」
俊樹「右行こうよ」
その瞬間、梢、いっきに左に行く
そして
梢「ねえ」
俊樹「ん?」
梢「ここから、家まで、競争してみない?」
俊樹「どういうこと?」
梢「右と左、どっちが本当に早いか」
俊樹「・・・」
梢「トシに負けたら、あたしが見送りに行く」
俊樹「梢が勝ったら」
梢「あたしが先に着いたら、飛行機のチケット、びりびりに破いて待ってるから」
俊樹「!」
梢「あたしねえ、チケットの隠し場所も知ってるんだよ!」
俊樹「いつ見つけたんだよ!」
梢「内緒!」
俊樹「そんなあ・・・」
梢「さあどうする?」
俊樹「・・・」
梢「男らしく挑戦したらどうなの?」
俊樹「・・・」
梢「おい!」
俊樹「わかった」
梢「よーし!」
ふたり、真ん中にならんで立つ
梢「あの東京タワーが真っ暗になったらスタートね」
俊樹「十二時ってことだな」
梢「そう」
俊樹「梢を成田まで絶対に来させるからね」
梢「家にきたら、チケットの紙ふぶきで祝福してやる」
ふたり、集中して向こうの空を見る
そして
俊樹「消えた!」
梢「よーい、スタート!」
梢、勢いよく歩き出す。
俊樹も歩き出す
梢「じゃあ、お先!」
俊樹「先に寝てたらごめんね」
梢、角を曲がって、消える
俊樹、少し歩いて、振り返る
梢はいない。
俊樹、そこに立ちすくむ
そして、空を見る
少し考える
そして梢のほうに歩き始める。
だが考える
梢の本当の幸せは僕でいいのか
ここで負けてあげればまた明日から梢と一緒に暮らすのだ
それで本当にいいのか?
俊樹、止まる
そしてゆっくりと、最初の道のほうに歩き出す
僕はやっぱり、自分の道をとる
俊樹、しっかりとした足取りで歩く。
この勝負は絶対もらった。
END