2008年5月21日水曜日

西麻布中央線

登場人物
緑川剛 サラリーマン 藤盛薫
玉沢徳次郎 保険会社重役 おはち(客演)
佐藤裕美子 OL 池田知穂(act)
東雅恵 元郵便局パート 恭子
細田守景 「西麻布中央線」マスター 森憲吾


スタッフ
作・演出 富士河千之介
舞台チーム 藤盛薫・森憲吾
照明プラン・オペレーター 宮崎彩(act)
音響効果プラン・オペレーター 
舞台映像撮影 (有)浪
舞台写真撮影 村上史行
制作 3man Office 制作本部
  「西麻布中央線」パートナーズ
製作総指揮 富士河千之介


第一章 二○○四年十二月三十一日 二十二時
 テーマ曲→暗転
緑川「紅白、どっち勝つのかな?」
 明転
ここは西麻布交差点の付近にあるカフェ「西麻布中央線」。
カフェの中ではテーブル席に佐藤と東。
カウンターには玉沢と緑川がすわってそれぞれのときをすごしている
カウンター内には細田が仕事をしている。
細田「(仕事しながら)気になるの?」
緑川「なんとなく」
細田「家に帰ったら?」
緑川「帰りたいのは山々なんだけど・・・」
 そのとき、少しはなれたところに座ってた玉沢がいきなり
玉沢「(大きく)紅だ」
緑川「?(だれだ?あんた・・・)」
 手前にあるグラスのビールをぐいっと一口飲んでから
玉沢「この前の新聞見たんだけど白の妥当なメンバーに対して、紅には○○○(今年の紅白の実際の出場者のひとり)がいる。冒険的じゃないか。」
緑川「いや、でも○○○より白には△△△がいますよ。」
玉沢「(かぶせて)じゃああんたは白応援者なんだな?」
緑川「あ、いやそういうわけじゃないんですけど・・・」
細田「お客さん」
玉沢「なに?」
細田「からみは禁止」
玉沢「(無視)白が勝つと来年も不況だ・・・」
緑川「え」
細田「(注意を無視されすこしむくれる)」
玉沢「二○○三年はトリのSMAPが効いて白が勝った。そしたらどうだ。今年は不況だったじゃないか」
緑川「でも不況ってずっと続いてることじゃないですか?」
玉沢「ずっとずっと不況。おれはできちゃった結婚」
緑川「は?」
玉沢「うちの受付の子をさ、冗談のつもりで飲みに誘って、勢いで・・・」
緑川「できちゃった」
玉沢「しっかりとコンちゃんつけたんだけどなあ」
緑川「何万分の一の確率でできちゃうんですよね」
玉沢「(大声で)だからって、俺が何万分の一じゃなくたっていいじゃんか!」
 玉沢の大声で全員がカウンターを向く
細田「(ごまかし)あは、あはははは・・・失礼しました!」
 テーブル席の女性陣それぞれに戻る
緑川、玉沢を、なだめながら
緑川「でも人類がひとり増えて、将来の幸福のために貢献したと思えばいいじゃないですか」
玉沢「(大声で)良かないよ!」
緑川「マスター、(この人)なに飲んだんですか?」
細田「ビール」
緑川「弱すぎ・・・」
玉沢「うるさいよ!」
緑川「コーヒーを」
細田「オッケー!」
玉沢「黒い飲み物は朝だけで勘弁だよ!」
緑川「おごりますよ」
玉沢「なら、もらおう」
緑川「(グチ)ゲンキンだな・・・」
玉沢「あんた名前は」
緑川「緑川です」
玉沢「おれは玉沢徳次郎。国会議員みたいな名前だろ?」
細田「はい、コーヒー(コーヒーを出す)」
緑川「(マスターに)ありがとうございます」
玉沢「朝も飲んだぞう」
 玉沢、砂糖を入れようとするが
緑川「こういうときはブラックですよ(砂糖を探す手を止めさせる)」
玉沢「お前、馬鹿か?」
緑川「え」
玉沢「ブラックだからこそ砂糖いれるんじゃねえか」
緑川「いや、ブラックはブラックですよ」
玉沢「うちの母ちゃんが入れるブラックは甘かったぞ
緑川「それは間違ってますよ」
玉沢「いいから入れさせろ!」
 玉沢、角砂糖を五個入れる
 あきれてみてる緑川
 スプーンでよくかき回し
 うまそうに飲む玉沢
細田「甘そ!・・・」
玉沢「(飲んでから)ほらブラックじゃねえか!」
緑川「ほんとはノンシュガーなんですよ」
玉沢「カロリー万歳!」
緑川「早くさめてくれないかな」
玉沢「おれは飲まれてないぞ!酒は飲んでも飲まれるな!」
緑川「あ、奥さんはどうしたんですか?」
玉沢「(コーヒーをぐいっと飲みながら)嫁か?嫁は今頃ハイアットで寝てるわ」
緑川「六本木ヒルズの・・・ハイアット?」
玉沢「結婚式と年末宿泊プランダブルセット」
緑川「すげー」
玉沢「あんた、仕事は」
緑川「この近くで普通にサラリーマンしてます」
玉沢「ふーん」
緑川「南青山と麻布の境目のあたりなんですけど」
玉沢「そうかな・・・でもさあ」
緑川「?」
玉沢「(緑川の顔をなめるように見て)それだけじゃないよな」
緑川「・・・」
玉沢「なんか本業があるんじゃないの?」
緑川「・・・いや、なんにも・・・」
玉沢「悪いけど人を見る目はかなりあるほうだぜ」
緑川「(ぐち)だったら、できちゃった婚はないでしょ」
玉沢「なあ、ほんとんところは(どうなんだよ)」
 玉沢いいながら、コーヒーを緑川にかけようとする
緑川「わかりました!いいますよいいますよ」
玉沢「おお、言えぃ!」
緑川「一夜限りの・・・友達の仕事してるんです」
玉沢「は」
緑川「え」
玉沢「いい大人のくせにそんな稼ぎしてんの?」
緑川「しーっ!」
玉沢「それとも・・・これか(オカマ?のポーズ)」
緑川「違います」
玉沢「ならこれ?(今度は手を反対にする)」
細田「(じろりと玉沢をにらむ)」
玉沢「(その視線に気づいて)なんだよ。」
細田「いいえ」
玉沢「なんか文句ありますか?」
細田「いい大人が若い男にからむなんて素敵ねって思っただけ」
玉沢「いいじゃねえかよ」
細田「(玉沢をなだめる)まあまあ」
玉沢「あんたらみたいにおてんと様に顔向けできねえ仕事は仕事って言えねえんだよ」
細田「はいはい」
緑川「ああ、あの、ぼくのはあくまでも友達なんです。」
玉沢「友達ね」
緑川「話し友達、遊び友達として、この一夜限りの相手になって健全にお相手するんです」
玉沢「へえ。相手は野郎でも女でも?」
緑川「もちろん。」
玉沢「へえ」
細田「で、うちがいつも待ち合わせ場所ってわけ」
緑川「だって昔から知ってるから」
細田「この子が高校生くらいのときからの腐れ縁。」
玉沢「ど、どんな仲なんだ・・・」
緑川「正確にはうちの父と仲良しなんですよね」
細田「(うなずく)」
玉沢「なるほど」
細田「(緑川に)にしても、いいサイドビジネスだと思うわ」
緑川「うん。東京って、田舎人の『るつぼ』じゃないですか。たったひとりで上京して、ホントの友達もロクにできないで、ビジネス面した『知り合い』だけが、携帯のメモリーを埋めていく。」
玉沢「そこにつけこんだ商売てこったな?」
緑川「つけこんだとかいわないでくださいよ」
緑川「つけこんでるじゃないか」
緑川「あのですね、気の置けない人間と遊んだり話したりっていう気分を味わうだけで人間ってストレスとかがかなり減るんですよ」
細田「父さんの受け売り。」
緑川「ばれた?」
玉沢「父さん?」
緑川「精神科の医者です。」
玉沢「意外に親はまともなんだね」
緑川「兄貴も医者で、うち継いだもんだから、おれだけ放置プレイ」
玉沢「世の中ますますわけわかんなくなってくもんだ」
緑川「(時計を見て)そろそろ来そうなんですけど・・・(まわりを見渡す)」
 緑川、辺りを探す
細田「今日のお相手は?」
緑川「(探しながら)きりんさん」
玉沢「きりん・・・さん?」
緑川「ああ、ハンドルネームなんです。」
細田「それよりさあ」
細田、緑川を手招きする
緑川「え(手招きに呼ばれる)」
玉沢「おい、どこ行くんだよ」
細田「内緒!」
緑川「あ、きりんさんが来たら教えてください」
玉沢「え!し、しらないよ~」
 そういいながら玉沢、席を立ち、フロアへ
 ふたり、玉沢とは離れたところに行く
細田「(緑川の耳元でイブイブの日に言ってた事、覚えてる?」
緑川「あ・・・ああ」
細田「今から・・・やっちゃおうと思うの」
緑川「(大きく)え!」
細田「声大きいよ!」
緑川「すいません」
細田「(ため息)でも時間が時間でしょ?もう夜十時だし」
緑川「あと二時間でニ○○五年ですもんね」
細田「そうよ。で、人数もこのくらいなら手ごろだと思うの」
緑川「(周りを見て)それもそうですね」
細田「ね?」
緑川「このあとどうなっても知りませんよ」
細田「大丈夫。うちには名物のあれもあるし、満足させる自信は大あり」
緑川「まかせます!」
細田「おっけー?じゃ!」
 細田、すばやく静かにカウンターを飛び出し、ドアへ
 緑川、玉沢のところにいく
 玉沢、端っこで、四つんばいになって不可解な行動をとっている
緑川「た、玉沢さん?」
玉沢「きりんさんが好きです。でも象さんのほうがもっと好きです」
緑川「はい?」
 その間に細田、ドアの鍵をしめる
 そして声たからかに
細田「レディース!アンド!ジェントルメーン!」
三人「!(細田を見る)」
細田「(彼らの顔を見てにやり)ようこそカフェ『西麻布中央線』へ!ただいまよりみなさんでカウントダウンパーティを行います!」
 細田、おおげさに拍手!
 三人、いまだになにが起こってるかつかめない
細田「さあ、みんなやりますよ!」
 玉沢、我慢できずに
玉沢「あの」
細田「なに?」
玉沢「どういうこと?」
細田「だから!カウントダウンパーティなのよ!」
緑川「あ、補足します!」
玉沢「補足?」
緑川「今日はニ○○四年十二月三十一日!大晦日じゃないですか。だから、今この瞬間から貸切にして、おれらとみなさんとで祝おうって思ってるんです」
細田「Yes! I do!!」
玉沢「あ、そ。じゃ、そろそろお会計を・・・」
 玉沢、席を立つ
 細田、体を張ってそれをとめる
細田「ふふーん」
玉沢「な、なんだよ」
細田「とおせんぼ!」
玉沢「みりゃわかるよ!」
細田「お会計はこの際フリーにします!」
玉沢「よし、やろう(一回もったかばんとかを置く」
緑川「またかい」
細田「オッケーオッケー!じゃ、男子たち、テーブル移して」
緑川「あ、はい」
 緑川、玉沢テーブルを運ぶ準備をする
佐藤「あの」
細田「今度はだれ?」
佐藤「帰っていいですか?」
細田「(にやり)どうぞ」
 佐藤、荷物をまとめてドアへいく
 ニヤニヤしながらその佐藤を見る細田
 佐藤、ドアを開けようとするが、あかない
 押したり、引いたりするがあかない
 悪戦苦闘する佐藤を見ながら
細田「ほしいのは、これ?」
 細田、鍵のついたキーホルダーを見せる
佐藤「(絶句)」
細田「これでパーフェクト」
佐藤「ちょっと待って!」
細田「べっぴんさんね」
佐藤「は?」
細田「(服をなめるように見て)職業はマスコミか、外資系の実力主義企業のOL。月給は手取りで三十五万くらい。恋人は・・・別れたばっかり?」
玉沢「んなわけないよ」
佐藤「!・・・なんでわかるの!」
玉沢「え!!!」
細田「そこらへんの男女ならこの時間、部屋でいちゃついてるか、明治神宮に並んでるもん」
佐藤「・・・」
細田「あなたここにきたときに紅茶をオーダーしたでしょ?」
佐藤「ええ」
細田「紅茶を好んで飲む女は几帳面な想像家。クリエーターに多い」
佐藤「・・・」
細田「紅茶はコーヒーに比べて味が繊細だから」
佐藤「・・・」
細田「どうかしら?」
佐藤「別に・・・いいじゃない」
細田「え」
佐藤「紅茶が好きだって、人の勝手じゃない」
細田「もちろん」
佐藤「それにこれって監禁じゃないですか!」
細田「言葉を変えれば、そうね」
佐藤「立派な犯罪ですよ」
細田「犯罪ですって。はははは」
佐藤「お話になりません」
細田「立派なお話よ!」
佐藤「ここの一番偉い人、呼んできてください」
細田「おあいにくさまー。店長は今頃、ハワ~イでバカーンス!」
佐藤「(ため息)」
玉沢「なあ、(佐藤の肩をたたいて)ここはひとつあきらめなよ」
緑川「変わり身が早い!」
玉沢「いや、今考えたんだけど、けっこう面白いんじゃないかって思って」
細田「楽しみでしょ?」
玉沢「なんかこうどきどきしてきた!」
緑川「のってきましたね!」
玉沢「こんなんならうちの嫁もつれてくればよかったよ」
細田「サプライズパーティは外国なら普通だもんね」
佐藤「ここは日本です!」
 四人がヒートアップしてる隙にひとりの女が中腰でドアにかけていく
 東だ。
ドアをいじくりまわす
 四人、だんだん気づいてドアを見る
 視線に気づいて、東、こわごわ後ろを振りむく
 四人、じっと東を見てる
東「!」
緑川「なにしてるんですか!」
東「!」
佐藤「そこ、さっき散々あたしがいじってあかなかったですよ」
玉沢「見てなかったのかい?」
東「う!・・・(急に開き直って)あ、あたしなら・・・あ、開けられたかもって思って!」
佐藤「それどういう意味ですか?」
東「あ、あなたみたいな自称、クリエイターみたいな人にはわかんないんです!」
佐藤「自称ってどういうことよ!」
緑川「まあまあ。ここは仲良く(ですね)」
東「(聞かずに)店長さん!やっぱり、あたしだけでも帰してもらえませんか?」
 細田、笑いながら近づいていって」
細田「あはははは(顔の表情変えて)だーめー」
東「そんな・・・」
緑川「いっしょに楽しみましょうよ」
東「だめなんです」
玉沢「なんかあるの?」
東「あ・・・」
玉沢「はっきりしないなあ」
東「あの・・・あたし・・・来月結婚するんです!」
細田「それはそれは・・・」
玉沢「おーめーでとうござーいまーす」
緑川「からかわないほうがいいですよ」
東「ありがとうございます」
緑川「え?」
東「店長さん、正気なんですか?」
細田「正気。」
東「え!」
細田「この顔にうそなんてかいてないじゃない?」
東「店長!」
細田「あたしはマスターであって、店長じゃないの!」
玉沢「ああ、じゃ特例で開放ってことで」
細田「(かぶせる)だめなものはだめ」
東「人でなし!」
 東、細田につかみかかる
 玉沢、東がとめる
細田「あんたねえ、なんにもわかってないんだから」
緑川「おとなげないですよ、マスター」
細田「そうだけどさあ」
玉沢「(東に)ここはひとまず落ち着いて。」
東「(玉沢の腕の中で暴れてるが次第に落ち着く)・・・すいません。結婚式前で・・・なんか心が揺れてしまってて・・・」
緑川「マリッジ・ブルー?」
玉沢「おれはわかるなあ」
東「避妊もろくにできないのにですか?」
玉沢「なに!」
東「家族計画をそういうことも考えずによくできましたね?」
玉沢「(絶叫)お、おれは何万分の一のラッキーボーイなんだよ!」
 そのとき
佐藤「(大きく)もう、うるさい!」
 佐藤、四人のところに近づいてきて
佐藤「勝手にパーティしててください。」
細田「あら、やっとわかってくれた?」
佐藤「あたしは端っこで静かにしてますから」
細田「それはだめ」
佐藤「あたし、いやなんですよ!」
細田「なにが?」
佐藤「どうせ・・・ひとりづつ、かくし芸とかやらされるんでしょ?」
玉沢「それ困るなあ」
東「あ、あたしも・・・」
細田「はいはいちゅうもーく!なんか勘違いしてない?」
佐藤「どこが!どう考えても普通にそこらへんの、ぼ(うねんかいとおんなじじゃないの?)」
細田「(かぶせる)忘年会とは・・・違うのよ」
佐藤「?」
細田「場所を考えてちょうだい!。あくまでもここは歌舞伎町でもなければ新橋でもない。若者の町渋谷と大人の町六本木の中間。西麻布なの!」
みんな「!」
緑川「別名、中途半端なセレブタウンともいいます」
細田「蛇足!」
緑川「すいません」
佐藤「で何が違うの?」
細田「(にやり)」
 細田、一回キッチンにはける
 そして、ペンのようなものを持ってくる
東「それは?」
玉沢「なんだ?」
細田「ふふん!これはね(花火の玉と言おうとする)」
緑川「(間髪入れずに)打ち上げ花火のスイッチです」
東「花火!」
 東、びっくり
細田がっくり
緑川「(がっくりきてる細田に)あれ?」
細田「せっかくのおいしいとこを」
緑川「玉沢さん、マスター、機嫌そこねちゃいましたよ』
玉沢「おれのせいじゃないよ!」
緑川「夏に職人さんに頼んで作らせてたのに(うじうじ・・・)」
佐藤「いいから進めてください」
 細田、さらにためいきついてがっかりしている
緑川「だから花火を十二時になった瞬間に打ち上げます」
佐藤「打ち上げるってどこで?」
緑川「上に打ち上げセットが組んであるんです。で、こいつ(スイッチ)これを使って」
玉沢「どかんと新年ってことかい!」
緑川「素敵だと思いませんか?」
玉沢「いいねいいね!」
緑川「花火を下から見るなんて、岩井俊二もびっくりのアイディアでしょ?」
玉沢「こういう記念すべき日だからこそ、価値がある!」
緑川「あ、どんどんほめてください(落ち込んでる細田をゆびさしながら)」
玉沢「あ、そうか・・・(咳払い)すばらしい!」
 細田、玉沢を見上げるが、また落ち込む
緑川「もっともっと」
玉沢「あんたは天才だよ」
 細田ちょっと顔をあげる
緑川「もう一息」
玉沢「あんたは・・・」
東「(いきなり)おすぎとピーコの次はマスター!」
玉沢「!」
緑川「え、それは(どうかな?)」
 迷ってる間に
細田「(絶叫)ふっかーつ!」
緑川「えー」


第二章 ニ○○四年十二月三十一日二十三時
佐藤「すこしわからないところがあるんだけど」
緑川「なんですか?」
佐藤「こんな街中で打ち上げ花火なんてあげていいの?」
玉沢「あ・・・」
東「普通、花火って河原とか公園とかで人のあんまりいないところでやりますよね?」
佐藤「打ち上げた瞬間に警察沙汰とかは(いやですから)」
細田「ほんとあんたたち、田舎もん?」
佐藤「?」
細田「この辺は金持ちばっかりが住んでて、みんな今頃国外脱出よ」
玉沢「そうか。ある意味この辺は人がいないんだ」
細田「そう。だからこそやるの」
佐藤「・・・なるほど」
細田「お、やる気でてきた?」
佐藤「ぜんぜん」
細田「頑固!」
 そんな中、東、携帯を出す
緑川「あ」
東「(ぎくっ)」
緑川「ちょっと」
細田「あんた・・・」
東「け、警察とかに、かけてるんじゃないんです!」
佐藤「じゃ、どこに」
東「彼と話したいだけなんです」
玉沢「あ、そうだおれも」
 玉沢も携帯をだす
 細田、無言でふたりの携帯をとりあげる
東「なにするんですか!」
細田「だめ」
玉沢「おい!」
細田「パーティの間は一切、下界との連絡は禁止!」
東「え!」
玉沢「いや、ちょっと夜風にあたってくるなんて言ってさあ、ぷらぷら歩きづかれて、たまたまよっただけの喫茶店に、監禁状態なんだよ?嫁はおもいきりおれのこと心配になるだろうが!」
東「心配してなかったりして」
玉沢「こら!」
東「あたしの彼は絶対心配してます!」
玉沢「ふん、どうだか!」
緑川「すいません」
玉沢「なんだい?」
緑川「ここ・・・どこでしたっけ?」
玉沢「え」
緑川「ここ・・・地下なんです」
玉沢「地下?地下がどうした!え!地下がなんだってんだ(携帯の画面を見る)、あ・・・」
東「(改めて画面を見て)あ」
細田「電波はいんなのよね、これが。」
玉沢「し、新宿の地下の飲み屋は、はいったぞ」
細田「あれは違法なの」
緑川「いろんなアンテナ持ち込んだり、伸ばしたりして」
玉沢「はあ・・・これだから地下は困るんだよ!」
細田「ほんとごめんなさいね」
東「あの」
細田「しつこいわね!」
 細田、キッチンにはける
緑川「ああ、待ってください。」
 細田は完全にはける
緑川「(東に)あの、お名前は」
東「東です」
緑川「来月結婚式ですもんね。
東「ええ」
緑川「何か心配なこととかあるんですか?」
東「・・・」
玉沢「あんたもなんでこんな日に出てきたの?」
東「あ・・・それは・・・」
みんな「?」
東「あ、いや、あと・・・少しで結婚式なんだなとか・・・考えてたら・・・ものすごく胸の中がわさわさしてきちゃって。」
玉沢「わさわさ・・・か」
東「とにかく落ち着きたくて・・・ここでコーヒー飲みながら文庫本でも読んだらなんとかなるかなって・・・」
緑川「ここは、そんな人を呼ぶ力があるかもしれない」
玉沢「確かに」
佐藤「・・・」
東「そろそろ帰らないと」
 そのとき、鉄板の上にたくさんのバターロールをのせて細田がやってくる
細田「逃がさないわよ!」
 みんな、目を丸くする
 さらにコーヒーも人数分もってくる
細田「お待たせ!史上最大のカウントダウンのはじまりはじまり!」
 みんな、まばらに拍手
 細田、テーブルに置きながら
細田「カフェ名物、『西麻布ロール』と入れたてコーヒーでーす!」
 みんな、びっくり
細田「もりあがらないなあ」
緑川「いや、まだ参加者がおれら男しかいないですよ」
玉沢「なんかメニューが朝飯みたいだな」
細田「うちの名物に文句つけないでよ!」
緑川「おいしいんですよ」
細田「そうよ。これで盛り上がりましょうよ」
玉沢「いや、いいんだけどさあ」
細田「そこの女の子ふたり、ちょっといらっしゃい!」
 ふたり動かない
細田「さあ」
 東、しぶしぶこっちにやってきて座る
 佐藤、動かない
細田「(ため息)はじめちゃいましょうか?」
緑川「はい」
玉沢「頑固だなあ」
細田「じゃ、そこのあんた(玉沢)、乾杯を」
玉沢「!」
細田「どきどきするくらい楽しいんでしょ?」
玉沢「い、いや・・・こういうときは」
 玉沢、緑川を無理やり立たせる
緑川「ちょ、ちょっと!」
玉沢「こういうのはやっぱりおれみたいな、できちゃった結婚丸の内おっさんよりも、華がある、生粋の港区男がやってくんないと」
緑川「玉沢さん!」
玉沢「(緑川に)いいから!(うってかわってみんなに作り笑顔)えー、平成の色男、永遠の少年、緑川君が音頭をとらさせていただきます」
緑川「む、むりです!」
東「がんばってください」
緑川「そんな・・・」
玉沢「(かけごえ)よ!○○○○(アドリブ)」
 みんな拍手
緑川「(しぶしぶ)えー、本日は・・・カウントダウンパーティにようこそお越しくださいました。
玉沢「きたくてきたわけじゃねえぞ」
緑川「ああ、ええと、ええと、とりあえず・・・お、おつかれさまでした!乾杯!」
みんな「かんばーい」
 みんな、コーヒーカップをおのおのぶつける
東「あの・・・なににおつかれさまなんですか?」
緑川「(座りながら)どうでもいいじゃないですか!」
東「はあ・・・」
細田「ほら、どんどん『麻布ロール』食べてよ」
テーブルのみんな食べる
遠くから見てる佐藤
緑川「・・・なんか落ち着きますね」
玉沢「うわ!ひさしぶりにくった!」
細田「なつかしい?」
玉沢「給食以来だよ!」
緑川「いつ食べてもおいしいですよね」
細田「ありがと!」
玉沢「(食べながら)このバターのほんわかしたにおいがたまんないね。うんうん。」
 緑川、東を見る
 東、じっとテーブルをみたまま
緑川「(東を気にしながら)食べましょうよ」
東「・・・」
細田「食べなさい」
東「!」
細田「すこしは落ち着くから」
 東、ちらりと遠くの佐藤を意識する
佐藤「・・・」
東「・・・」
 そして、ひとくち。
 東、ゆっくり口にバターロールをもっていく
 そして食べる
 緊張してみる全員
 東、ゆっくり噛む 
 そして表情をやわらげていく
玉沢「お、かわった」
緑川「落ち着きました?」
細田「味っていうのは心にも影響があるんだって」
緑川「へえ」
細田「こういうなつかしい味はぜったい落ち着けるはずよ」
緑川「(東に)味はどうです?」
東「おいしい・・・」
緑川「よかった」
東「あたし・・・実は今日ここに来たのは・・・待ち合わせだったんです」
玉沢「(脇から会話につっこんでくる)お!浮気?」
東「いえ・・・ネットでたまたま見つけたんですけど、なんか『一夜限りの友達サービ
 ス』とかいう・・・」
緑川「!」
玉沢「い、いちやかぎりの・・・」
東「そう・・・あたし、ほんとに友達って言う友達いなくて、相談とか、彼と結婚するときとかも相談相手がいなかったから・・・友達ってどんなもんだろうって思って」
玉沢「そ、そう・・・」
東「二十二時にここでって言われて待ってたんですけど・・・友達さん、外で待ちぼうけかな」
緑川「あ・・・あの」
玉沢「(緑川を隠して、ごまかして東に)あ、コーヒー、おかわりは?」
東「?」
緑川「玉沢さん!」
玉沢「(緑川に)ここはだまっとけ!」
緑川「仕事ですから!」
玉沢「今はそれどころじゃ(ないだろ)!」
緑川「(玉沢をどかして東に)きりんさん」
東「!」
玉沢「おい!」
緑川「おれなんです」
東「!」
玉沢「(あちゃー)」
緑川「僕が今日の・・・東さんの・・・お友達です」
東「あ・・・あなたが・・・」
緑川「はい・・・」
みつめあうふたり
細田「おもしろいわね」
玉沢「おもしろい?」
細田「なんにも知らない他人同士がこうやってつながる。面白い瞬間だって思わない?」
 そのとき佐藤が歩いてくる
緑川「あ・・・」
玉沢「参加したくなった?」
佐藤「・・・」
 無言で、バターロールをつかむ
 そして食べる
細田「(食べるのをうかがう)どう?」
佐藤「・・・」
玉沢「ひとことくらい感想いったら」
佐藤「・・・」
細田「おいしかった?」
佐藤「・・・(うなずく)」
細田「頑固者をも惑わす魔法のバターロールだから。」
佐藤「・・・頑固じゃありません・・・・」
細田「うそ。あんた見てるとなんか強がってばっかりであとはなんにも感じないの」
佐藤「・・・」
細田「人の性格なんて直せっていわれてすぐ直るもんじゃないしね。だから頑固は頑固でかまわないんだけど、」
佐藤「・・・」
細田「もう少し、人にやさしくなってみたら」
佐藤「・・・」
細田「こういうカフェに入ってひとりの時間すごすのも悪くないけど、たまにはわいわいしなさいよ」
佐藤「・・・」
細田「ね?」
佐藤「・・・あなたみたいな上司が・・・いればよかったのに」
細田「あたしがあんたの上司なら・・・そうね」
佐藤「・・・」
細田「死ぬまで働かす」
みんな「!」
佐藤「死ぬまで・・・働いてみたかった・・・」
細田「・・・」
佐藤「人間ひとりひとりに、やらなくてはいけないことが運命付けられてるのなら、やりとげてから死にたい・・・」
 佐藤、トイレにはける
 東もきょろきょろし始める
東「(目でふたりをうかがう)」
細田「(東を見て)いってきたら?」
東「!」
細田「これから長いかもしれないんだから・・・」
東「・・・い、いってきます!」
 東、男の方向に走ろうとする
細田「逆」
東「!」
細田「ひとつのことに一生懸命になるとまわりが見えなくなる」
東「い、一途っていってほしいです」
細田「あら、ごめんなさい」
東「・・・」
細田「(にっこり)」
東「・・・」
 東、女子トイレへはける
細田「ふー、やれやれ」
緑川「やっとこれでパーティ始められそうですね」
細田「ほんと」
玉沢「頑固女と一途な女か」
細田「いいんじゃない。」
 細田、パンを食べる
 緑川、おそるおそるスイッチを見る
緑川「こんなんで、どーんっていくんですね」
細田「昔は土管に玉入れてから、火を投げ入れてたみたいだけど、最近はハイテクなんだって」
緑川「へえ」
玉沢「でもマスター、客を閉じ込めてまで、なんでこんなことするんだい?」
細田「・・・」
玉沢「あの女たちがもし誰かに告げ口とかしたら・・・」
細田「悪いとは・・・思ってる」
緑川「マスター」
細田「あたしのわがままだもんね・・・」
緑川「・・・」
細田「あたしね・・・去年から付き合ってた人がいて」
玉沢「お、男?」
細田「女。」
玉沢「・・・」
細田「あたし、元が中途半端だから、心の底から女にはなれなくてね。好きになるのはいつもいつも女で。」
緑川「・・・」
細田「で、去年の大晦日にそいつと約束したのよ。」
玉沢「・・・」
細田「花火を見ようって」
緑川「きれいですね」
細田「(ため息)ありがとう」
ふたり「・・・」
細田「正月あけてすぐ、埼玉の山の中にある花火職人のとこ行って無理言って作ってもらったんだ。夏あたりにふたりだけでうちの庭から打ち上げられるように・・・」
ふたり「・・・」
細田「そしたら・・・今年の夏が始まる前に、急にいなくなっちゃって・・・」
緑川「え」
玉沢「浮気とかは?」
細田「今さらいろいろ考えてもしょうがない。でもせめて・・・」
ふたり「?」
細田「あの子がまだ東京のどこかにいるんなら・・・この花火があたしだってわかってくれたらって思って・・・ね」
緑川「・・・」
細田「ごめんね。しんみりさせちゃって」
緑川「あ、いや大丈夫ですよ」
玉沢「あの」
細田「え」
玉沢「ああ、もし、花火が暴発したりとかした場合って考えてますか?」
細田「あら、そういえば全然考えてなかった」
玉沢「あぶないですよ」
緑川「暴発なんてありえないんじゃないですか?」
玉沢「リスクコントロール!」
ふたり「?」
玉沢「これからの時代なにが先におこるかわかんないでしょ!」
細田「まあ・・・ね」
玉沢「そういうときのために」
 玉沢、かばんからパンフレットを出す
細田「災害保険?」
緑川「『備えあれば憂いなしくん』?」
玉沢「月々安くて、かけすてじゃない、ニ○○四年のベストヒット」
緑川「玉沢さんって」
玉沢「保険屋なんだ」
細田「うまいわね」
玉沢「なんってったって取締役営業部部長」
緑川「いいなあ。」
細田「まいりました」
玉沢「きみはなんか目標とかあるんかい?」
緑川「ありますよ」
細田「きかせてきかせて」
緑川「おれ・・・将来独立しようとおもってるんです」
玉沢「男の野望だな」
緑川「だからサラリーマンと夜の仕事、ふたつやって金ためてるんです」
玉沢「そのためだったんだ」
緑川「ええ。ほら、ライブドアの堀江社長っているじゃないですか。僕、あの人が近鉄買収の記者会見出てたときテレビで見てて、ものすっごいショック受けたんです。
玉沢「・・・」
緑川「『おれは負けたことがない。負けを考えて勝負はしない・・・』」
細田「・・・」
緑川「自分とそんなに歳が違わないのに、あの人は自分のやりたいことがわかってて、そのために動いてる。もう聞いた後、脳みそが沸騰しちゃいましたよ。
僕はすきでもない仕事いやいややってる。でも本当は自分のための、その、自分の好きなことを仕事にするべきなんじゃないかって。」
細田「ふーん・・・」
玉沢「悪いけど、その意見、賛成できない」
緑川「え」
玉沢「その考えじゃ日本は動かないとおもうよ」
緑川「どうしてですか!好きな仕事をやるのに悪いことなんてないじゃないですか」
玉沢「そういうこと考える前に、一番重要なことがぬけてる」
緑川「なんですか」
玉沢「人に影響されすぎなんだよ」
緑川「・・・」
玉沢「あんなカリスマとかいう連中は一年にひとりくらいの割合で出る。」
緑川「・・・」
玉沢「時代がどんどん生んでいくし、それに、弱い人たちが探しちゃうんだ、カリスマを。」
緑川「・・・」
玉沢「カリスマってえやつに踊らされてないかい?」
緑川「・・・」
玉沢「『隣の芝生は青い』とはちょっと違うかもしれんけどさ、そういうこと気にしてたらキリないぜ。世の中、何億何万何千何百何十何人って人類がいるんだよ。同い年ならそれなりにそれなりだ。」
緑川「・・・」
玉沢「堀江さんは堀江さんの生き方。あんたはあんたなりだ」
緑川「・・・」
玉沢「心配しなくとも、あんたはどうあがいても堀江さんにはなれない。もちろん他人にもなれない。」
緑川「・・・」
玉沢「そのかわり、堀江さんはどうあがいても、あんたにはなれないんだ。」
緑川「玉沢さん・・・」
玉沢「あんたらみたいなの見てるとなんかこう、頭の脇がかゆくてしょうがねんだよな。人の真似と批判ばっか気にしやがって。」
緑川「人と比べたりとか?」
玉沢「そう!あんたらにはオリジナリティってものはないんかね」
緑川「・・・」
玉沢「おれしか持ってない、おれなら必ずできるってものを、あんたらの中にひとりくらいいないんかね」
緑川「自分にしかないもの・・・」
玉沢「そう」
細田「へえ、ただの酔っ払い営業マンじゃないんだね」
玉沢「まあね」











照明チェンジ
 一方そのころこちらは女性のトイレ
 洗面台のところに東がぼーっとたっている
 そこに佐藤がくる
東「!」
佐藤「?・・・来ちゃ悪い?」
東「あ、いやそんなことはないですけど」
佐藤「来月結婚なんですってね」
東「ええ」
佐藤「・・・すごいな。」
東「・・・」
佐藤「でも・・・迷ってるんだっけ?」
東「・・・ええ・・・」
佐藤「・・・そう」
東「あの」
佐藤「?」
東「あたしの顔って・・・幸薄い顔ですか」
佐藤「そうね。」
東「!」
佐藤「そんな顔してる」
東「は・・・はっきり言うんですね」
佐藤「だって聞かれたから。」
東「話をオブラートにつつむとか(してくれないんですか)」
佐藤「(かぶせて)でもなんで幸薄くなったと思う?」
東「・・・」
佐藤「あ」
東「?」
佐藤「また薄くなった」
東「!(自分の顔をあせってみる)」
佐藤「冗談よ」
東「あ、あたしが一番気にしてることを」
佐藤「気にしてるなら直そうよ」
東「・・・」
佐藤「ね?」
東「・・・」
佐藤「・・・」
東「人見知り・・・なんですかね?」
佐藤「人見知りね」
東「あたし・・・小学校のころからずっと友達とか作るの苦手で。・・・人と話すのは好きだとはおもってるんですけど・・・なんか知らないうちにだれもいなくて。
・・・ずっと悩んだんです。で、考えたのが、人よりいっぱい勉強して、人より将来幸せになればいいやって。
それから、ものすごくがんばって勉強して大学入って、いいところに就職しようとしたら・・・そこで落ちちゃって。結局、郵便局でパートしてたんです。」
佐藤「彼とはそこで会ったの?」
東「ええ。よくうちの局にかっこいい人が来てたんです。それが彼で。」
佐藤「あ、それ以上は話さないで」
東「え」
佐藤「のろけ話は聞きたくないから」
東「・・・」
 佐藤、ポーチから化粧を出して化粧直しをする
 東、それを見て
東「あ・・・先に出ます」
佐藤「待って」
東「え」
佐藤「郵便局はやめたの?」
東「ええ」
佐藤「そう・・・」
東「・・・」
佐藤「あたしね、二十四日にクビになったんだ」
東「!」
佐藤「よりにもよってクリスマスイブにだなんて・・・」
東「・・・」
佐藤「保険会社の設立三十周年記念イベント、仕切っててね。呼ぶはずだったタレントさん、ドタキャンしちゃって・・・イベントめちゃくちゃにしちゃったの」
東「・・・」
佐藤「なさけないよね」
東「?」
佐藤「プレゼンがんばって、やっと取りつけたイベントだったのに・・・」
東「・・・そうなんですか」
佐藤「・・・」
東「あの?」
佐藤「?」
東「一月四日は空いてますか?」
佐藤「空いてるけど」
東「ハローワーク、いっしょに行きませんか?」
佐藤「!」
東「専業主婦にはなりたくなくって・・・」
佐藤「・・・」
東「ね?」
佐藤「あ・・・その日はうちのお姉ちゃん、結納の日だったから・・・」
東「そ・・・そうですか・・・」
佐藤「ごめんね」
 そのとき、細田がどうどうとはいってくる
細田「(じろり)」
ふたり「!」
細田「遅い!」
東「い、今いきます!」
細田「コーヒー冷めちゃうわよ!」
東「はい!」
佐藤「あの」
細田「なに?」
佐藤「マスターが会社に勤めてたとして、突然クビになったら、どうします?」
細田「な、なによ突然」
佐藤「いいから、答えてください」
細田「え」
佐藤「いいから!」
細田「・・・そうね・・・退職金使って・・・西麻布にプールつきの家をぶったてる」
佐藤「・・・」
細田「ここが好きなもんで」
佐藤「・・・」
東「ハローワークには行かないんですか?」
細田「家たててからでも遅くない」
東「・・・なるほど・・・」
細田「で・・・庭から花火を打ち上げる・・・」
細田「ほら、納得したなら、早く出て出て」
 細田、ふたりを追い出す



第三章 ニ○○四年十二月三十一日 二十三時半
 細田、ふたりをトイレからつれてくる
細田「さあ、みんなで寄せ書きしましょう」
東「寄せ書き?」
細田「せっかくこうやってあったのもなんかの縁だと思うの。」
緑川「だからこの瞬間を記念に残しとこうと思いまして」
玉沢「なんか卒業式みたいでいいなあ」
 細田、カウンターからサインペンやらマジックやらを持ってくる
 そしてテーブルの上にばらまく
細田「さ、みんなで書きましょう」
 みんな、それぞれにペンをもつ
 そしてキャップをおもいおもいはずす 
そんななか、東、
東「あれ?なんかこのペン」
玉沢「(それをみて)キャップじゃなくてノック式じゃないの?」
東「なるほど」
 東、押そうとする
 なにげなくそれを見た緑川
緑川「!」
東「(ノックを押しながら)なんか重いですね」
緑川「(絶叫)押すな!」
みんな「!」
 時、すでに遅し、東はボタンを押していた
細田・緑川「(絶叫)」
 機械音がする
佐藤「なんなんですか?」
緑川「それは花火のスイッチ・・・」
東「(ショックでスイッチを落とす)」
玉沢「まだ十一時半だぞ!」
東「す、すいません!」
佐藤「前もって教えてくれてもいいじゃないですか!」
細田「一番初めにみたでしょ!」
玉沢「マスター、花火ってすぐ爆発するのか?」
細田「いいえ」
 細田、走って、スイッチの先のコードのついた箱を持ってくる
細田「ええと、職人さんが言うには、スイッチを押してから三分したら打ちあがるって」
玉沢「三分!」
緑川「この箱の中に、仕組みみたいなもんがあるんですか?」
細田「そ、そうよ」
玉沢「こういうときのために保険にはいっとけば(いいのに)」:
細田「うるさい!」
緑川「とにかく、開けてみましょう」
 緑川、おそるおそるあける
玉沢「(中を見て)なんかわけわからんやつばっかりだなあ」
緑川「わかるのは赤と白のコードだけですね」
玉沢「なんか映画みたいだなあ」
佐藤「時間がありません!」
東「もうすぐ打ちあがっちゃいます」
玉沢「だれのせいでこうなったと思ってるんだ」
東「す・・・すいません」
細田「なんとかして!」
緑川「はあ」
玉沢「簡単だ。赤か白、どっちか切ればいいんだ」
緑川「そうですけど」
東「多数決とったらいいんじゃないすか?」
緑川「そうだね」
玉沢「赤がいいと思う人」
 玉沢が手を上げる
玉沢「え?おれだけ?」
東「いや、なんとなく、白がいいかなって」
玉沢「(マスターに)あんたは?」
細田「白の下着だから」
玉沢「そんなんだから花火あがるんだよ」
佐藤「じゃなんで赤だって思うんですか?」
玉沢「紅白、赤が勝てば来年は景気があがる」
緑川「また、その話」
東「そんなのただの迷信です」
玉沢「いいや!白なら来年もどんぞこだぞ!それでもいいのか!」
佐藤「あたしは信じない」
東「(緑川に)白にしましょうよ」
緑川「し、白・・・」
玉沢「(負けじと緑川に)赤だ!」
緑川「(みんなにせまられて混乱)ああ!意見はまとめてください!」
 みんな、緑川にせまる!
細田「ちょっと待って」
 細田、カウンターからはさみを持ってくる
細田「剛君にまかせてみましょう」
東「マスター」
細田「彼が切るんでしょ?だったら彼にまかせてみましょう」
玉沢「花火うちあがっちまうかもしれないんだよ」
東「そうですよ!」
佐藤「はずかしいですよ!」
玉沢「赤だ!」
女性ふたり「白!」
細田「(かぶせて絶叫)だったら、あんたが切りなさいよ!」
みんな「!」
細田「剛君が切るのよ!外野はだまってなさい!」
みんな「・・・」
細田「彼にかけてみましょ!」
玉沢「・・・わかった」
細田「女の子たちも、ね」
ふたり「(しぶしぶ、うなずく)」
 緑川、手にはさみをもって緊張する
 そして、白を切ろうとする
 みんな、息をのんで見守る
 しかし
緑川「だめだ・・・」
 みんな、ため息
東「お願いします!」
細田「がんばって!」
玉沢「おい!」
緑川「!」
玉沢「さっきのここで話したこと覚えてるか!」
緑川「・・・独立とかの話ですか?」
玉沢「そうだ。その中で俺、何話したか覚えてるか?」
緑川「・・・自分・・・らしさ?」
玉沢「そうだ!。自分らしさだ。結局最後は自分だ!自分なんだ」
緑川「自分・・・」
玉沢「止まるな!迷うな!迷ってもいいけど決断はあんたにまかせる!」
佐藤「・・・」
玉沢「おれたちは・・・あんたの決断に文句は言わない」
緑川「・・・」
緑川、もう一度、はさみをにぎる
 赤、白
 そして、ついに
緑川「赤だ!」
 みんな耳をふさいでいる
 はさみがはいる
 コードがきれる
 機械音がとまる
緑川「・・・」
みんな「・・・」
緑川「・・・と、とまった」
みんな「やったー!」
 みんなだきあったり、手をにぎりあって喜ぶ
玉沢「よくやった」
緑川「玉沢さんのおかげです!」
玉沢「そんなことない。」
細田「そうそう、切った剛君がえらい」
緑川「そうですかね」
 そのとき
佐藤「でも・・・」
みんな「?」
佐藤「今度はどうやってうちあげるの?」
玉沢「簡単簡単」
 玉沢、今度は切れたコードを手でつなぐ
玉沢「こうやってつないで、スイッチをもう一度いれれば・・・」
 玉沢、スイッチを押す
 しかし、
 機械音がしない
玉沢「あれ?」
 玉沢、何回も押すが
緑川「まさか」
玉沢「完全にとめちゃった?」
細田「どういうこと?」
佐藤「(玉沢に)あなたが切ればいいとか言うから」
玉沢「だって映画とかで、こうやって切ってたじゃない!」
細田「それこそ、影響されてるじゃない!」
玉沢「な、なんだよ!おれが言ったときみんな賛成したじゃないかよ!」
細田「ああ、あたしの夢が・・・」
 細田、倒れる
緑川「(細田を支えながら)だいじょうぶですか」
細田「あわわわわ・・・」
東「これも全部玉沢さんのせい」
玉沢「なんだよなんだよ、さんざん人にいっといてさあ、あげくにはおれが悪いってどういうことだよ」
 東、玉沢、とっくみあいそうになる
佐藤「待ってください!」
みんな「!」
佐藤「あたしが直接火をつけてきます」
みんな「!」
緑川「そんな」
玉沢「無茶だ」
東「職人さんじゃないんだから無理ですよ」
佐藤「そんなのわからないじゃないですか」
東「!」
佐藤「やってみなきゃ、火を入れてみなきゃわかんないじゃないですか?」
緑川「そりゃ、そうですけど」
玉沢「火だぞ!」
東「命の危険があります!」
玉沢「(パンフレット出して)これに入ってからでも遅くない!」
緑川「営業しない!」
玉沢「だってチャンスなんだもん」
佐藤「だれか、火を」
緑川「本当なんですか?」
佐藤「・・・」
緑川「本当に・・・本気なんですか?」
佐藤「(うなずく)」
緑川「・・・」
東「・・・」
 そのとき緑川のひざにいる細田が
細田「レジのとなりに・・・マッチがあるわ」
緑川「マスター」
細田「あんた・・・」
 佐藤、細田のところにやってくる
細田「に・・・逃げたりしない?」
緑川「マスター!」
細田「だって・・・さっきまで、あんなにパーティいやがってたのに・・・」
佐藤「・・・」
細田「ほんとのこといってちょうだい」
佐藤「・・・」
細田「・・・」
佐藤「・・・火を・・・ください」
緑川「・・・」
佐藤「はやくしないと・・・もうすぐ二○○五年ですよ」
細田「・・・」
佐藤「・・・」
細田「行きなさい」
佐藤「(力強くうなずく)」
 第九交響曲がかかりはじめる
佐藤、立ち上がると、東がレジのところからマッチをもってくる
佐藤「あなた・・・」
東「(だまってマッチを手渡す)」
佐藤「ありがとう」
東「ハローワーク・・・やっぱ行きましょうよ」
佐藤「(にっこり)」
東「ね?(にっこり)」
緑川「上の、中庭に土管があります。」
佐藤「わかった」
 佐藤、走り出す
細田「わすれもん!」
 佐藤、止まる
 細田、腰から力をふりしぼってキーホルダーを投げる
 佐藤、それでドアを開けて、はける
玉沢「もうすぐだ・・・」
緑川「大丈夫ですかね・・・」
東「大丈夫です」
緑川「・・・」
東「あの人なら・・・大丈夫」
 時報がきこえてくる
 そして
 おもいきり零時の時報がひびく
 その瞬間、上がおもいきり明るくなり
 花火の音が大きく聞こえる











第四章 ニ○○五年一月一日 零時
 花火の音が大きくなって、
 そして消える
 フロア内の四人 呆然としている
東「あ・・・あがった・・・」
玉沢「謹賀・・・新年」
緑川「あけまして・・・おめでとうございます・・・」
細田「ハッピー・・・ニューイヤー・・・」
 男たちは力がぬけて床にごろりと大の字になる
 その中で突如、東、ドアへ
緑川「!・・・どこに行くんですか!」
東「上に行くの!」
玉沢「待て!(東を止める)」
東「いかせて!(暴れる)」
玉沢「だめだ!(暴れる東を押さえながら)」
東「なんで!」
玉沢「戻ってくるまで待つんだ!」
東「離して!」
玉沢「だめだ!」
細田「待って!」
玉沢「・・・」
細田「・・・行ってきなさい」
玉沢「でも・・・」
細田「(かぶせる)いいじゃないの!彼女が行きたがってるんだから」
玉沢「!」
細田「あたしのぶんまで・・・お礼いってきて・・・」
 東、意を決してはける
 そして
東「(舞台裏で絶叫)佐藤さん!」
緑川「どうしました!」
 緑川、入り口へ
 佐藤、煙とともに
 東に肩をだかれてやってくる
 髪はぼさぼさ、顔も粉で白い
 東、佐藤を床に寝かせる
緑川「大丈夫ですか!」
玉沢「(動転して)救急車!だれか、救急車を!」
 緑川、電話に走りだす
 そのとき
佐藤「まっ・・・て・・・」
 東、止まって振り向く
 みんな、佐藤に凝視する
佐藤、天に向かってゆっくり親指を立てる
 みんなでそれぞれほっと顔を見合わせる
玉沢「おれをあわてさせんなよ!」
佐藤「・・・かっこよかった・・・でしょ?」
玉沢「おいしいとこどりだなあ」
東「本当に痛いところとかないですか?」
佐藤「火を投げ込んでから逃げるときに・・・土管のヘリで手をこすったくらい(手を見せる)。」
東「(ほっ)」
佐藤「大丈夫・・・なんともない・・・」
 そこに細田がゆっくりやってくる
佐藤「あなた・・・お名前は?」
佐藤「佐藤・・・です」
細田「・・・佐藤・・・さん」
佐藤「はい」
細田「(佐藤の手をにぎる)」
佐藤「・・・」
細田「ありがとう・・・」
佐藤「・・・」
細田「あたしの・・・あたしの・・・わがままを聞いてくれて・・・ありがとう・・・」
佐藤「・・・」
細田「(今度はみんなを向いて)こんなとこに閉じ込めて・・・パーティだなんて気を悪くした人もいると思うけど・・・ひとときの夢だとおもってくれたら」
緑川「エキサイトな年越しでしたよ」
細田「あんたは知ってたでしょ?」
緑川「まあ、そうですけど」
玉沢「カウントダウンがあれほどどきどきするもんだとは思わなかったね」
緑川「玉沢さんは口にも注意ですよ。」
玉沢「おれはTPOわきまえた発言しかしてないよ」
緑川「全然」
玉沢「なんで!」
緑川「さっきも佐藤さんを迎えに行った東さんを『おいしい』とか言ってたし」
東「ひっどい!あたしはおいしいから助けにいったんじゃありません!」
玉沢「あ、あれはジョークだよ」
細田「ジョークにもほどがある」
玉沢「はいはい」
緑川「またすねた」
細田「じゃ、機嫌直しに、今年一発目の『西麻布ロール』焼こうかしら」
玉沢「いいね!」
緑川「パーティの続きやりますか!」
玉沢「そうだな」
東「あ、ちょっと待ってください」
みんな「?」
東「パーティもいいんですけど・・・寄せ書き、まだ途中だったじゃないですか?」
玉沢「あんたがスイッチ押したりしたから中断したんじゃないか」
東「す、すいません・・・」
緑川「いいじゃないですか、過去のことは、」
玉沢「そうかなあ」
緑川「今宵は、東さんの友達ですから。」
東「と・・・友達・・・」
緑川「とことん味方しますよ」
東「は、はい!」
玉沢「(ため息)気取りやがって」
緑川「(東に)で、なんですか?」
東「(緑川の顔を見ながら小さく)ともだち・・・友達なんだ・・・これが友達なんだ(繰  り返し)」
緑川「東さん!」
東「(やっと我にかえる)え!あ!・・・そうそう、あの、もう一度落ち着いた状態でかいてみませんか?(色紙をもちあげる)」
緑川「いいですね。」
東「ね!」
緑川「書きましょう!書きましょう!」
 それぞれ席につく
 緑川、みんなにペンを配る
佐藤もゆっくり席につく
そのとき電話がなる
 細田が電話をとる
細田「もしもし・・・!(電話の声を聞いて大きく絶句)」
緑川「(細田の様子を見て)ん?」
玉沢「どうした?」
緑川「マスターが・・・」
玉沢「?」
 玉沢、マスターのところにいく
玉沢「どうした?」
細田「(受話器を手でふさいで玉沢に)か・・・彼女よ!」
玉沢「え!」
緑川「(飲みかけのコーヒーでむせる)」
細田「ど、どうしよう・・・」
緑川「(マスターに)とりあえず落ち着いてください!」
東「どういうことですか?」
玉沢「(東に)失踪しちまった彼女だそうだ」
東「え!彼女!」
 佐藤以外の四人、電話のふたりにくぎづけ
緑川「(マスターに)まず名前をよんでみたらどうです?」
細田「名前ね」
 細田、深呼吸してから受話器に
細田「ひ、ひ、ひろみ」
佐藤「(ばたんといすを倒して立ち上がる)」
緑川「(佐藤に)ん?」
佐藤「ひ、ひろみ」
緑川「(佐藤に)え?」
細田「(電話に)どこいってるんだよ!」
佐藤「姉さんとおんなじ名前だったから」
玉沢「え」
緑川「さ、佐藤さんの姉さんがですか?」
細田「(電話)に、西麻布交差点!」
緑川「(マスターに)え」
細田「(受話器をおさえて)に、西麻布の交差点にいるって!」
緑川「ここからすぐじゃないですか」
玉沢「今すぐ行ってきなよ!」
細田「(しーっ)・・・でも・・・」
緑川「考えてるひまはありません!」
玉沢「善は急げだ!」
細田「だって・・・」
東「行ってください!」
細田「・・・」
東「東京中の人間の中で、新年で一番熱いチャンス、握っているのかもしれません」
細田「・・・」
東「握ったもん勝ちですよ」
細田「・・・」
緑川「そうですよ。いってきてください」
玉沢「電話なんかで、ちんたら話してないでさ」
 細田、みんなの顔を見る
細田「(みんな)・・・」
みんな「(うなずく)」
細田「(うなずく。そして受話器に)・・・そこで待っててくれる?・・・『いや』じゃな 
  い!・・・会って・・・しっかり話そう」
 みんな、電話を見守る
細田「(受話器に)いい?絶対に動かないんだよ!」
 そして電話を置く
 ゆっくりみんなを見る
 みんなも細田を見る
 細田、ダッシュではけはじめる
東「(細田の後姿に)握ったら手を開けちゃだめですからね!」
細田、後ろ手をあげてはける
 みつめるみんな
 東、その後姿をじっと追う
緑川「・・・東さん?」
東「?」
緑川「なんか・・・変わりましたね?」
東「え!」
緑川「すごい積極的になった感じ。」
玉沢「さっきのバターロールにあたったか」
佐藤「入ってたかもよ」
玉沢「え?」
佐藤「魔法のバターロールだって」
玉沢「あ・・・」
佐藤「こいつ(バターロール)は、心に何か不安定なものを持ってる人間に効くのかもしれない」
緑川「不安定なもの・・・」
東「あの、あたしは、どうとか具体的にはわかんないですけど・・・・佐藤さんとか」
佐藤「(東を見る)」
東「(続き)玉沢さんとか」
玉沢「(東を見る)」
東「(続き)緑川さんとかマスターを見てたら・・・なんか・・・ふっきれたっていうか」
玉沢「ふっきれた、か」
東「バターロールも関係あるのかもしれないけど、不思議な感じです」
玉沢「まさしくファンタスティック」
緑川「じゃ、その勢いでみんなで寄せ書きを完成させちゃいましょう」
東「あ、待ってください」
みんな「?」
東「何に向けての寄せ書きにします?」
玉沢「何にむけて?」
東「そうです。送別会とかなら今までの感謝とかあるけど」
佐藤「また来年もここで花火あげようってのはどう?」
東「あ、それいいですね!」
玉沢「じゃ、再会を願いつつってことで」
 玉沢さっそく書き始める
 そしておわったら隣の緑川に渡す
緑川「(かきながら佐藤に)あ、気になってたことがあるんですけど」
佐藤「なに?」
緑川「マスターが電話してたときなんかあわててましたよね?」
佐藤「ああ、あれね」
緑川「どうしたんですか?」
佐藤「マスターの彼女は・・・あたしの姉だと思う」
みんな「!」
 暗転
終章 二○○五年一月一日 五時五十分
 明転
  みんなそれぞれの格好で寝ている
  床に寝たり、いすに寝たり。
  そこに、ゆっくり、細田がやってくる
細田「あら・・・」
 細田、起こさないようにカウンターへ
 行く途中に色紙を見つけ、ながめる。
 そして、コーヒーを飲む
 気配に気づいて緑川起きる
緑川「あ・・・マスター」
細田「(声を低めて)おはよ」
緑川「あ、どうでした?」
細田「ん?ああ・・・」
緑川「・・・」
細田「彼女、結婚するんだってさ」
緑川「・・・」
細田「あたしと付き合ってる前から他の人と付き合ってたんだって。」
緑川「・・・」
細田「ふたまたなんて・・・あたしっていつまでたっても、なんでも中途半端なんだな」
緑川「そんなこと・・・ないですよ」
細田「いいよ」
緑川「え」
細田「なぐさめられると・・・もっとつらくなる・・・」
緑川「・・・」
細田「(緑川を見て)あ、ごめん、あ、ありがとね」
緑川「・・・あの」
細田「?」
緑川「佐藤ひろみさんですよね」
細田「!・・・なんで名前知ってるの?」
緑川「そこの佐藤さんの姉さんみたいですよ」
細田「(絶叫)」
 それで全員おきる
細田「ちょっとどういうこと!」
東「(寝ぼけ)あ、マスター、あけましておめでとうございます(お辞儀)」
細田「おめでとう(お辞儀)・・・ってそんなことやってる場合じゃないわ!」
玉沢「(寝ぼけ)な、なんのことだい?」
細田「あ、あたしの彼女!なんで知ってるの!」
東「電話のときに聞こえたんですよ」
佐藤「名前が一緒だったから・・・」
細田「で、でも佐藤ひろみなんて・・・どこにでもいる名前だから他人なんじゃないの?」
佐藤「その人、なんか言ってなかった?」
細田「え、え?」
佐藤「結婚式をいつやるとか」
細田「い、一月四日が結納だとか言ってたわ」
佐藤「うちの姉です」
細田「(絶叫)」
東「ご愁傷様です」
 細田、がっくり
佐藤「姉にはあとでこっぴどくしかっておきます」
細田「あああ・・・もう・・・いいわよ」
玉沢「でも面白いね」
緑川「玉沢さん!」
玉沢「面白いと思わないかい?昨日この喫茶店に入るまでは赤の他人だったのに、たった一晩、日付を越えただけなのに、人と人がいろんなところでつながってたなんて」
緑川「そういわれてみると・・・」
細田「ふん!・・・ただの偶然よ」
東「偶然で、すまされたらいいんですけどね」
細田「なあに?他にもあるの?」
玉沢「この人(佐藤)うちの三十周年記念イベント、ぶち壊した人だった」
細田「え!」
佐藤「おかげでクビになったんですけどね」
細田「・・・」
玉沢「このふたり(緑川と東)もネットつながり」
細田「(ためいき)」
玉沢「で、おれはあんた(マスター)に保険を売るつながり(言いながらパンフを渡す)」
細田「なんかうまいこといきすぎじゃないの?」
玉沢「人生二十四時間営業だから(にやり)」
細田「(にやり)」
緑川「どんどんリンクしていって、東京は出来上がってるのかもしれません」
細田「・・・」
緑川「マスターも、まただれかとリンクしますよ」
細田「(ため息)だと・・・いいんだけどね・・・」
 細田、寄せ書きに視線を移す
東「あ、寄せ書き、読みました?」
細田「読んだけど、また花火あげるつもり?」
玉沢「もちろん」
緑川「今度は監禁とかしなくていいですからね」
東「スイッチも押しません」
玉沢「自分らの意思でちゃんと集まるから」
佐藤「姉と一緒に来ますよ」
細田「それは蛇足!」
佐藤「失礼」
細田「(軽く笑って)でも・・・ありがとう」
緑川「じゃあ、最後に、一筆お願いします」
 緑川、マスターにペンを渡す
 細田、書き込み始める
 一方女性
佐藤「ねえ」
東「はい?」
佐藤「行くわ」
東「?」
佐藤「ハローワーク」
東「佐藤さん・・・」
佐藤「あたしも、新しいリンクを張りなおす」
東「あ、でもお姉さんの結納は?」
佐藤「マスターを手玉にとるくらいだもん。あたしが行かなくたってしたたかに生きてくわよ」
東「ほんとに・・・いいんですか?」
佐藤「いいっていってるでしょ!」
東「じゃあ、渋谷のハローワークあたりに」
佐藤「パルコ前で待ち合わせしよう」
東「あ、じゃ、メルアドとか教えてください」
佐藤「オッケー」
 佐藤、東、紙に書いて渡し始める
 それをわきで見ていたふたり
緑川「(ため息)けっきょく、友達とられたなあ」
玉沢「とられたってことじゃないんじゃない?」
緑川「え?」
玉沢「一夜限りの友達サービスだろ?」
緑川「そうですけど」
玉沢「今は何時だ?」
緑川「え?(時計を見る)あ!」
玉沢「もうすぐ朝六時。」
緑川「仕事は終わってたのかぁ」
 緑川、ばたんと倒れる
細田「書いた!」
玉沢「どれどれ・・・『愛する人と・・・』
緑川「『・・・中国飯店に行くぞ(ハートマーク)』って・・・」
細田「そうよ、そして、極上の上海蟹を食べる(想像して自分に酔う)・・・」
玉沢「た、立ち直りが・・・」
緑川「早い!」
 あっけにとられてるふたりを尻目に
 細田、色紙をカウンターの目立つところに置く
 みんなでわいわいしている
 朝日が強くなる
 二○○五年は確実に始まっているのである
 END