2008年5月16日金曜日

ラムネのおもひで

☆登場人物
 西谷 楓(さよ) 主人公 
 清水 信孝(樹狐那) 楓の彼氏。
 高尾 順二(藤盛薫) 引越しやさん
 明石 奈央子(五月いつか) 天国の番人










☆スタッフ
作・演出 富士河千之介
演出協力 恭子
舞台監督 森憲吾
舞台サブチーフ 藤盛薫
音楽 中山裕貴(ピアノ曲)
   Yui Onodera(オープニング)
照明オペレーター 
音響効果プラン/オペレーター 高橋美帆子(演劇集団 ジーモ・コーヨ!)
 宣伝美術 座古佳苗(ポスター)
 web担当チーフ さよ
 mobile web更新 富士河千之介
俳優部管理 樹狐那
制作 3man Office 制作本部
 舞台映像撮影 印南修太(有)浪
舞台写真撮影 村上史行

スペシャルサンクス
  品川区荏原文化センター
  国立代々木競技場第一体育館脇
若菜絽織(受付予定)
大島典子(受付補助予定)
中野千枝(西荻窪 遊空間がざびぃ)
  土城温美(演劇集団 ジーモ・コーヨ!)
  多賀谷忠生(しもきた空間リバティ)
 制作著作 3man Office
製作総指揮 富士河千之介




プロローグ ふたを開けないピアノ
 せみのうるさいくらいの鳴き声がする。
 夏の午後。
 ここは西谷楓のアパート。今日は引越しの日である。
 大方片付いていて、あとは大きな荷物だけだ。
 楓が汗をふきふき庭から部屋に入ってくるところから舞台は始まる
 引越しに疲れきって、若いあんちゃんに任せて、自分は庭に出てサボっていた。
サボれるかなと思ったが、暑さにはかなわなかった
部屋に入り、床に座り込む。
 暑い。
 とにかくそれだけだ。
ハンカチをうちわがわりにして、あおぎ、風を送るが全く効果はない。
 冷房をつければいいのだが、最後の電気代をケチりたい楓は、エアコンのリモコンに手を出し、スイッチをオンにしようとするが、ためらってしまうのである。
 ため息。
 ますます暑い。
 ふと見上げると、ピアノがある。
 ある思いでそのピアノを見つめる。
 立ち上がり、ピアノのふたに触る
 だが開けない。
 手が動かない。
 ふたの下にあるであろう、鍵盤を想像してみるものの、開けられない。
 ピアノに対してある決意をした、その日から、楓は見向きも触りもしなくなった。
 そして、ピアノは楽器から、ただの家具になった。
 ピアノは音を出す本来の仕事ではなく、部屋の片隅にあるほこりをかぶった邪魔物に成り下がった
 決意前には毎日のように奏でられてた数々の曲はもはや聴けない。
 今日は引越し。
 プロのピアニストを目指していたが、すべては壁の前に粉々にくだけた。
 岩手に帰ろう。
 そう思ってから一週間眠れぬ日々をすごした。
 そして今日。
 楓はおもいきってピアノの前に座る。
 弾くわけではない。
目をつぶる。
 頭の中に、曲が流れ出る。
 何回も弾いた、自信のある曲だった。
 師と仰ぐ教授の前でも弾いた。
レコード会社の、うさんくさそうな審査員の目の前でも弾いた。
 しかし、もう弾くことはないだろう。
世間の人々が聞くことはほぼ、ない曲。
 世界でひとつしかない曲。
その曲は次第にボリュームを上げ、せみの騒音を消し去る。
 楓は、うつむく。あのせいなのか・・・。
 曲は大きくなる。
 そして・・・

第一章 帰ってきた彼
高尾「あっちい!」
 ブレイクする曲
 楓、はっと目を開ける
 現実。
 玄関より、高尾、コンビニの袋をさげてずかずかと入ってくる
楓「・・・」
高尾「いやー、(思いっきり暑がりながら)ほんっと、あっちいっすね。」
楓「・・・」
高尾「(楓を見る)」
楓「?」
高尾「・・・ピアノ?」
楓「?・・・(ピアノの前から、われに返りあせって立ち上がり)あ、ああ、ほんとですね」
高尾「でしょー?こりゃ今年の、最高気温更新じゃないっすか」
楓「そ、そう・・・」
高尾「絶対そうっすよ。昨日より断然暑いもん。」
楓「あ、荷物は(どうでした?)・・・」
高尾「ほとんどオッケーす。食器とか本なんか全部」
楓「ごめんなさいね、あんまり手伝えなくて」
高尾「あ、いいっすよ。これが俺の仕事っすから。それより、どうです?」
 高尾、コンビニの袋からビンを二本取りだす
 ラムネだ。
楓「ラムネ・・・」
高尾「ラムネ!」
楓「・・・なっつかしい・・・」
高尾「でしょー?そこのミニストップで。夏限定らしいっすよ」
楓「へー」
高尾「どうです?一本」
楓「うれしいんですけど・・・」
高尾「?」
楓「・・・炭酸・・・ちょっと・・・苦手で・・・」
高尾「えー」
楓「・・・せっかく買ってきてもらったのに、ごめんなさい」
高尾「ん、あ、いや、なにも聞かないで買ってきただけっすから。はは、いいっすよ」
楓「あ、(財布をポケットから出し、お金をわたそうとする)」
高尾「(それをみて制し)ああ、いいっす、いいすから」
楓「でも(それでも渡そうとする)」
高尾「(それを断り)勝手に買ってきただけっすから」
楓「こういうのはしっかり・・・」
高尾「いいっすよ!(強引に断る)」
楓「そ・・・そう?」
高尾「はい」
楓「すいません。子供っぽくて」
高尾「はは。そんなことよりさっさと(飲みたいんですが)」
楓「あ、どうぞ」
高尾「ここでやっちゃっていいすか?」
楓「?」
高尾「(ラムネのふたを強くたたく真似をして)パンって」
楓「?・・・どうぞ」
高尾「ほんと?」
楓「どうぞ」(わかってない)
高尾「・・・いいんすか?」
楓「はい」
高尾「知らないんすか?」
楓「え」
高尾「パンってやると、中のラムネが出てきて、こう(ビンからラムネがあふれてきて、床を汚すゼスチャー&アドリブ)」
楓「そうだ・・・思い出した」
高尾「どっか、ないですか?ああ、早くー」
楓「(いっぱいいっぱい)えと、えーと・・・あ!キッチン」
高尾「!おう!」
 高尾、一回ハケて
 パンっていう音
 高尾出てくる
高尾「(にっこり)いい音!(飲む)」
楓「夏って感じですね」
高尾「(グイっと飲みながら)!・・・こんなにおいしいのに」
楓「いいんです」
高尾「炭酸嫌いなんて、人生の半分以上の楽しみないっすよ」
楓「炭酸以外でも楽しめますよ」
高尾「(飲みながら)がんこだなー」
楓「よく言われます」
高尾「(ゲップ)」
楓「(ああ最悪・・・)」
高尾「(かまわず完全に飲み干す)はー!うまかったー。」
楓「ああ、あたしの分も、どうぞ」
高尾「いいっすか?」
楓「あなたのお金ですから。」
高尾「(ゲップ)じゃ、もうひとつ」
楓「こんどはもっといい音聞かせてください」
高尾「まかせとけ!」
 高尾、台所に行こうとするが・・・
高尾「あ、仕事終わってから飲むことにするっす」
楓「じゃ、冷蔵庫に」
高尾「お願いできますか?」
楓「いいですよ」
高尾「(冷蔵庫行きかけて)あ・・・」
楓「え」
高尾「もう・・・(外を指差し)トラック・・・」
楓「そうだ・・・」
高尾「こういうこと考えないで運んじゃったもんなー」
楓「ごめんなさい」
高尾「ああ、いや、しかたないから、ここ(テーブル)おかせてもらっていいっすか?」
楓「どうぞ」
 高尾、あぐらをかきリラックス
 楓も足をくずす
高尾「でもなんで炭酸だめなんすか?」
楓「親のしつけが厳しくて。あんなの飲んじゃだめって、さんざん言われてて。」
高尾「今時、めずらしいっすね」
楓「初めてコーラを飲んだのが、高校一年のとき」
高尾「遅っ!」
楓「一口飲んだら、口とのどがひりひりして、あまりにびっくりして泣いちゃったんです。もう体が受け付けないんでしょうね。」
高尾「慣れればどうってことないっすよ」
楓「そうなんですか?」
高尾「試しにどうっすか?」
楓「やですよ。またびっくりしちゃいます
高尾「そんなに拒否るなんて、ほかにも理由あったりして・・・?」
楓「深読みしすぎです」
高尾「うざいっすか?」
楓「そんなことないですけど・・・」
高尾「(立ち上がり)炭酸嫌いにこいつ(ピアノ)は似合わない」
楓「か、関係ないですよ」
高尾「ひとり暮らしにピアノ。なんか・・・」
楓「ああ、実家に置いてても邪魔になるだけだから持ってけって」
高尾「へえ・・・」
楓「父がうるさくて」
高尾「(軽くうなずく)」
楓「?」
高尾「ほんとは・・・違いません?」
楓「・・・」
高尾「なんかあるっすね?」
楓「・・・」
高尾「どうすか?」
楓「(軽く笑って)なんにも、なんにもないですよ」
高尾「こんな東京ニ三区で、アパート庭付き1k。」
楓「昼のニ、三時間しか陽が当たんないですけど」
高尾「庭付きですよ!」
楓「ベランダのかわりです。一階だから」
高尾「俺、今までたくさん、訳ありな引越し、手伝ってきたっすよ。こんな中途半端な、それも夏なんかに引っ越すような人は・・・なんか訳ありが多い」
楓「(にやにや)」
高尾「?」
楓「訳あり・・・ですか・・・」
高尾「名探偵っしょ?」
楓「ちょっと甘いけど・・・お見事。」
高尾「へへ」
楓「ピアニストになりたかったんです」
高尾「ほう」
楓「音大出て、ずっと教授の家に通いながらね、練習して、オーディション受けて、デモ曲作って、レコード会社に送って・・・」
高尾「(うなずく)」
楓「で・・・こんなになっちゃった」
高尾「いやよくわかんないすけど」
楓「(ピアノを見つめて)」
高尾「・・・」
楓「・・・」
高尾「・・・やっぱ、やなこと、聞いちゃったすかね?」
楓「もう・・・いいんですよ」
高尾「もう弾かないんすか?」
楓「・・・結局、才能ないってことなんでしょ。教授にはセンスあるからがんばんなっていわれたけど」
高尾「自分でピリオド打ったすか?」
楓「ピリオド・・・」
高尾「あ、なんとなくその気持ちわかります。俺も今バンドやってて」
楓「へー。」
高尾「ヴィジュアル系で『ホワイト・ソース』っつうんすけど。一応ボーカルっす。」
楓「か、かっこいいですね(ダサいと、こころの中では思ってる)」
高尾「GLAYがデビューしたっていう目黒の鹿鳴館で何回もやってるっすけど。」
楓「そ、そうなんですか・・・」
高尾「ファンもいて、入り待ち、出待ちとか追っかけもいるんすよ!」
楓「そこはメジャー並ですね」
高尾「でもそれが限界・・・」
楓「結局、大手の人間って、小さくて不確定な才能にはあんまり投資したくないってことでしょ」
高尾「友達の劇団やってるやつは、テレビ出て、街で声かけらまくりだったらしいすけど」
楓「どこもいっしょ(ラムネのあきびんをふる)」
 そのとき電話がかかってくる
高尾「はい・・・おはようございます。もうすぐ終わりそうです。え?はい?・・・あ、確認します」
楓「?」
高尾「さっき一回送った荷物がセンターでトラブってるみたいで」
楓「え」
高尾「まずいっすよね」
楓「あしたには岩手につくんですよね?」
高尾「絶対つかせるっす」
楓「父にも約束しんたんで、しっかりしてもらわないと」
高尾「大丈夫っす。ちょっと見てきます」
 高尾、急いでハケる
 部屋には楓ひとり
 楓、あいたラムネびんを見る
 そしてそのラムネをピアノの上におく
 楓、イスに座り、
楓「(ため息)」
 びんを見つめる
 そのとき庭先には男が立っている
 ゆっくり歩いてじっと見つめる
 楓は気づいていない
楓「炭酸嫌いは本当の理由があるんだけどね・・・言えないよ、そんなこと」
 男はゆっくり近づく
楓「泡を見ると・・・思い出しちゃうんだよ・・・」。
 ラムネびんをひっくり返す
 ころんと落ちるビー球
 楓、ピアノの前に座り、
 ついにふたを開ける
 ずらりと並ぶ鍵盤
 一音
 一音
 それから思い切って曲を弾き始める
 軽やかに室内に流れ出る曲
 男はそれをじっと見つめる
 楓はまだ気づかない
 曲を弾き終える
 余韻
 そのとき窓に人影
楓「(気づく)」
男「いい曲だ。」
楓「!」
男「ただいま」
 庭から男がのっそり入ってくる
 清水だ
楓「(ラムネにきづいて、隠してしまう)」
清水「(それを見つけて)ラムネ!」
楓「・・・の・・・信孝・・・?」
清水「いいなあ・・・飲みたい・・・」
楓「・・・」
清水「でも今は・・・」
楓「・・・」
清水「君の・・・血が吸いたい」
 清水、楓にせまる
楓「なに・・・言ってるの?」
清水「のど、からっからなんだよね」
楓「・・・の・・・ど・・・」
清水「一晩中、飛んでいたから」
楓「・・・ど、どこを」
清水「空」
楓「!」
清水「飛んできたんだ。ずっと青森からここまで。」
楓「と、飛ぶ・・・」
清水「?」
楓「?」
清水「夢じゃないよ」
楓「な・・・なんで・・・」
清水「こんな真っ昼間に、幽霊は普通出ないよね」
楓「・・・」
清水「そうは言っても僕は・・・死んだようなもんなんだけど」
楓「し、死んだ?」
清水「あ、難しい?」
楓「・・・あたしを、ばかにしてるの?」
清水「んなわけない」
楓「これ、サプライズかなにかでしょ?」
清水「今さらなにを」
楓「そうよ。青森から、どうにかこうにか帰ってきたとか」
清水「どうにかね・・・」
楓「そうでしょ?あたしをびっくりさせようと思って死んだとかうそついて・・・わかるんだから・・・」
 清水、急に楓の腕をとる、
楓「!」
 楓、その腕の温度にびっくりして離す
清水「・・・わかった?」
楓「・・・」
清水「・・・」
楓「・・・つめたい・・・」
清水「言うとおりだろ?」
楓「・・・(迷う)・・・」
清水「旅の途中なんだ。」
楓「え・・・」
清水「僕はあの世に行く寸前なんだ。」
楓「!」
清水「死人でもない人間でもない、その間。天国の手前・・・」
楓「わかんない・・・」
清水「これだけ聞いて」
楓「・・・」
清水「生きてるときにずっと好きだった人の血を吸えば、僕は人間に戻れる」
楓「に、人間・・・」
清水「夕方の四時四四分までに楓の血を吸わないと、今度こそ、あの世だ」
そのときノック音
楓「?」
清水「!」

第二章 うそか真か
楓「ど、どうしたの?」
清水、急いでテーブルクロスをかぶる
ひどくなるノック音
清水「(布の下から)いいかい、そこにいるのはたぶん僕をたずねてくるやつだ。」
楓「え」
清水「僕がいるのは絶対にしゃべらないで!」
楓「!」
清水「おっぱらってくれ!頼む」
 どんどんノックする音
 そして勝手にあけて入ってくる
 そこにはめがねをかけた長身の女がいた
楓「!」
女「(ジロリと楓を見る)」
楓「あ、あの・・・」
女「(楓の後ろの部屋の中を見る)」
楓「ど、どちらさんで・・・」
女「(床にある白い布にきづく。にやり)」
楓「ちょっと・・・」
女「私、こういうものです(名刺を見せる)」
楓「明石・・・」
明石「奈央子」
楓「あの・・・」
明石「(白い布を気にしながら)清水信孝って、ご存知ですよね?」
楓「・・・ええ」
明石「あなたの親愛なる人」
楓「・・・」
明石「今、来てませんか?」
楓「!」
明石「たとえばその床の不自然な布」
ふたり「!」
明石「(にやり)」
楓「き、来てるわけ・・・な、ないじゃないですか」
明石「ほう・・・」
楓「ゆ、行方不明なのに・・・あたしも知りたいですよ」
明石「ふーん」
楓「!」
明石「?」
楓「だから(いません)」
明石「(かぶせるように)でもね」
楓「?」
明石「におうんですよ」
楓「?」
明石「死にぞこないの男のニオイ」
楓「!」
明石「(ファイルを広げて)清水信孝、ニ八歳。独身。ニ○○四年六月下旬より北海道から沖縄までヒッチハイク日本縦断に挑戦」
楓「・・・」
明石「調べたところ、清水信孝は二日くらいで北海道を抜け、カーフェリーで青森に着いてるんです」
楓「そこまでは警察に聞いてます」
明石「その青森で不思議な事件が起こりまして」
楓「は・・・はあ」
明石「日本とルーマニアのハーフの吸血こうもりのせいで」
楓「(小声で)は、ハーフってビールじゃないんだから」
明石「(絶叫)天国法第一○五条違反!」
楓「!」
明石「青森恐山のバス停で清水信孝はそのコウモリに襲われまして・・・」
楓「!」
明石「それ以来消息がつかめてないんです」
楓「・・・」
明石「管理国家日本でこんな事態が起こったのは初めてなんです。十九世紀ヨーロッパならともかく・・・」
楓「あ、あの」
明石「あなたはわたしの仕事に協力する義務がある」
楓「な、なんで・・・」
明石「これ以上余計な死にぞこないを増やさないためにも」
楓「協力するもなにも、信孝はいません!」
明石「(顔を近づけて)吸われちゃいました?・・・」
楓「!」
明石「確実に死んだ者は天国に行かせられるんですが、死にぞこないの中途半端が一番困るんです。これ以上、あたしたち天国の番人の仕事を増やさないでください」
楓「知らないものは、知りませんから」
明石「(楓につめよって)重要な話なんです。」
楓「もうお話しすることはありません」
明石「お話したくてたまらないんじゃないですか?」
楓「帰ってください」
明石「このまま行くと・・・」
楓「(絶叫)帰って!」
明石「(すぐ)あなたの人生まで狂ってしまいますよ」
楓「(むりやり台所のドアを閉めようとする)」
明石「天国の法律違反は重罪です。わたしはもう一回きますからね!」
 明石、はける
  そこに
清水「くそ。わかっちまったか・・・」
楓「だれなの?」
清水「僕を探してる。」
楓「?」
清水「天国の番人。」
楓「番人・・・?」
清水「頭の固い、死神みたいなやつさ」
楓「なんでその、番人さんが」
清水「僕が天国に行ってないから」
楓「天国・・・」
清水「完全に死にきれてないからだよ」
 清水、ため息をつき座り込む
清水「急がないと・・・」
楓「?」
清水「血だよ、血!(あせる)」
楓「・・・」
清水「(土下座)頼む!吸わせてくれ!」
楓「頭をあげてよ」
清水「(もっと深々と頭を下げる)早く!」
楓「(大きく)頭をあげて!」
 清水、頭を上げる
楓「なにが・・・なんだか・・・わかんない・・・」
清水「・・・」
楓「・・・ねえ・・・いたずらだって言って」
清水「・・・」
楓「僕の・・・いたずらだって」
清水「これが現実だ」
楓「そんな・・・」
清水「ごめん。なにも変われない・・・」
楓「・・・おかしすぎるよ」
清水「生前、好きだった人の血を吸うと、人間に戻れる」
楓「・・・」
清水「誰に聞いたって訳じゃないんだけど、そんな気がするんだ」
楓「ねえ」
清水「・・・」
楓「このままじゃ、だめなの?」
清水「人間として、楓に会いたい・・・」
楓「人間・・・」
清水「人間」
楓「・・・」
清水「こんな冷え切った体じゃ・・・楓を支えらんない・・・」
楓「・・・」
そのときドアを一気に開けて
高尾「やー、まいっちゃったね」
楓「!!!!!!」
 清水、またテーブルクロスにくるまり、寝る
楓「入ってくるときはノックくらいしてください!」
高尾「すいません!」
楓「もう・・・」
高尾「あ、あの、荷物、しっかり、センターに届いてました」
楓「そうですか?」
高尾「?」
楓「・・・?」
高尾「顔青いですよ。」
楓「い、いや別に」
高尾「そんなに荷物、心配だったっすか?」
楓「あ、ええ、まあ。」
高尾「ほんとにすいません!上と相談したんで、今回の消費税いらないっす」
楓「そんな細かいことは気にしてませんから」
高尾「?」
楓「それよりあ、あの、」
高尾「はい?」
楓「ひとつきいてもいいですか?」
高尾「はあ」
楓「友達とか、自分に近い人でだれか死んだ人います?」
高尾「うーん、いるっすよ」
楓「そのひとがもし、今目の前に、どんって出てきたら?」
高尾「!」
楓「どうしますか!」
高尾「そ、そりゃ・・・うれしい」
楓「それだけ?」
高尾「俺は友達が病気で死んじゃって。小学校のころからほんと仲良しだった子なんす」
楓「・・・」
高尾「もし今、あいつがここに現れたら・・・うれしいすよ」
楓「びっくりしない?」
高尾「そりゃ最初は・・・」
楓「すぐ素直にうれしいって思える」
高尾「・・・はあ」
楓「そっか・・・」
高尾「そうっすよ・・・ん?」
  高尾、白い布に気付く
高尾「これは・・・?」
楓「!」
  高尾、めくろうとする
楓「(絶叫)やめて!」
高尾「!」
楓「触らないで近寄らないで来ないで!」
高尾「?」
楓「(うそをつく顔)こ・・・これは・・・ぬ・・・ぬいぐるみ」
高尾「え!さっき小物類とかは全部しまったのに」
楓「お、押入れの奥から・・・見つけちゃって」
高尾「そうですか?じゃ、さっさと(近寄る)」
楓「(雄叫び)」
高尾「!」
楓「あたしが・・・あたしが、責任もって運ぶから」
高尾「なんか、火サスの死体みたい・・・
楓「(怒り)死体!」
高尾「!」
楓「これは、プーさん!」
高尾「プーさん?」
楓「そ。プーさん。」
高尾「細長いっすよ」
楓「だ、ダイエット・プーさん」
高尾「ダイエット!」
楓「八頭身なんです!」
高尾「す、すげー」
楓「このまえ、UFOキャッチャーで。」
高尾「レベル一○○くらいっすよ」
楓「ほら、プーさんにもいろいろ種類あるんです。クラシック・プーとかアニメ用のとか」
高尾「じゃ、ますます(めくろうとする)」
楓「(絶叫)!」
高尾「見せてくっさいよ」
楓「だめだめだめ・・・そうだ、あとで引越しやさんの携帯に写メ送ります」
高尾「え!ほんとすか!」
楓「うん。メアド教えますから」
高尾「い、いいんすか?」
楓「引越しやさんのも(教えて)。」
高尾「あの、楓さんの・・・写メも・・・」
楓「え」
高尾「?・・・ああ、なんでもないっす」
楓「(携帯)あります?」
高尾「DoCoMoっすけど」
楓「あたしもDoCoMoだから、赤外線でメアド送りますね」
 高尾、携帯を出す
高尾「ちょとまってくっさい。あ、電話帳、電話帳っと・・・えーと、西谷楓」
楓「(画面を見ながら)えーっと・・・、引越しやさんっと(登録する)」
高尾「あの」
楓「え」
高尾「名前で登録してくんないすか?」
楓「あ、ご、ごめんなさい」
高尾「高尾順二です。高尾山の高尾に、順番は二番目」
楓「(めんどくさいんで適当にボタンを押す)」
高尾「本当に登録したすか?」
楓「しましたよ!ほら赤外線、赤外線・・・」
 楓も携帯を出して、先を合わせる
ふたり「せーの」
 楓、ボタンを押す
高尾「オッケーっす」
 ふたり携帯を離す 
楓「(画面を見て)ケイン・コスギヨリモ・ドウガンナ・オレ@DoCoMo・・・」
高尾「(顔をさして)母性本能くすぐるっすよね?」
楓「そ・・・そうですかね・・・」
高尾「(画面を見て)ヒマワリ・アジサイ@DoCoMo.ne.jp」
楓「つまんないですね」
高尾「かわいいっすよ。あと」
楓「?」
高尾「赤外線受信って・・・なんか・・・興奮っすよね?」
楓「?」
高尾「携帯と携帯同士をくっつけて・・・(想像する)」
楓「?(気づかず)今夜、ダイエット・プーさん送りますから」
高尾「はい!期待して待ってるっす」
楓「じゃ、テーブル運んでください」
高尾「はい!うおー(テーブルを一気に持ち上げる)」
 高尾、そのままはける
 清水、むくりと起き出す
清水「ひどいな」
楓「?」
清水「彼だよ。」
楓「中学生みたい」
清水「いいんじゃん?永遠の思春期みたい」
楓「ひさしぶりに聞いた、その単語」
 楓、テーブルの上のラムネびんで遊び始める
清水「ラムネ、飲めるようになった?」
楓「なるわけないよ。」
清水「じゃ、なんであるの?」
楓「引越しやさんがね買ってきたの」
清水「なるほど」
楓「三年前とは違うんだから」
清水「三年前か・・・」
楓「・・・」
清水「あの夏祭りの夜・・・ラムネを飲まなかったら・・・」
楓「あたしたちは会わなかった」
清水「こいつ(ラムネ)のせいで・・・僕ら・・・こうなっちまったかな・・・」
楓「・・・」
清水「三年・・・」
楓「・・・あの日もこんな暑い日の夜だったね」
清水「ああ」
楓「あれからずっと・・・ここまでやってきたのに・・・」
清水「・・・ごめんね」
楓「え」
清水「探検家なるなんて、無謀だったかな」
楓「信孝」
清水「山登りとか、ヒッチハイクとか・・・僕は普通に働いてたほうが楓ともっと幸せになれたかな・・・」
楓「自分のやりたいことに無謀も何もないよ」
清水「・・・」
楓「・・・って、受け売りしてみた」
清水「言ったっけ?」
楓「言ったよ。」
清水「・・・そっか」
楓「そんときはあたしが弱音はいて。今と逆だった」
清水「なんか立場逆転だね」
楓「お互い、支えあうのが約束でしょ」
清水「そうだった・・・」
楓「だから・・・(決意)ラムネのせいにはさせない」
清水「・・・」
楓「おもいでにもさせない・・・」
清水「・・・」
楓「血・・・あげてもいいよ」
清水「!」
楓「あったかい、元の人間に戻って欲しい」
清水「・・・ありがとう」
楓「でもそのまえに、ひとついわなきゃなんなくて」
清水「どうした?」
楓「ピアノ・・・あきらめた・・・」
清水「・・・」
楓「潮干狩りってわかるよね。最初は貝がそこらへんにごろごろしてるからいやでもたくさん取れる。でも・・・時間がたつうちに、だんだん取れなくなる。ただ単に自分がほとんどとっちゃったからなんだけどね。砂の中に貝があるんだろうけど・・・見つけるのに時間がかかりはじめる・・・」
清水「・・・」
楓「最近・・・いい曲が作れない・・・」
清水「・・・」
楓「あたしの中の貝を掘りつくしたんだと思う」
清水「・・・」
楓「作るためにいろんなことやったよ。アロマとかヒーリングの曲聴いたりとか・・・タバコもお酒も・・・でも・・・ずっと砂の奥底まで行けなかった」
清水「・・・」
楓「そんな時、信孝がいなくなった・・・これは、神様があたしにあきらめろって合図出してるんだって思って」
清水「決めたんだ・・・」
楓「(うなずく)」
 ふたたびせみの声がうるさくなる
清水「そっか・・・」
楓「・・・」
清水「ぼくら、似てるね」
楓「・・・」
清水「壁にぶつかって、粉々にくだけちゃった」
楓「・・・」
清水「同じ時期に・・・」
楓「あたしたち、一寸先の闇のその先の光を見つけようって、肩に力入りすぎてたかな?」
清水「光か・・・」
楓「肩・・・こっちゃったんだよ」
  うるさくなるせみの声
  強く、強く。
  楓、庭におり、歩いていく
清水「楓・・・」
楓「(足を止めて)弱いね」
清水「え?」
楓「信孝のせいにして夢あきらめたり」
清水「みんなそんなに強くないよ」
楓「みんなはみんな!」
清水「・・・」
楓「あたしは・・・あたし。・・・」
 ふりかえらずふらふらと歩いていく
 残される清水





第三章 打ち寄せる波
部屋に高尾がやってくる
 清水、急いで白布にくるまる
高尾「そろそろピアノからはじめるっすよ」
 高尾、楓がいないのに気づく
高尾「あれ?」
 高尾、いろいろ探すが見つからない
高尾「おっかしいな」
 高尾、すわりこむ
 白い布が見える
 高尾、じっとみつめるが次第にがまんできなくなって
 さわる
清水「さわるなよ!」
高尾「わ!」
 高尾、びっくり
清水「こんにちは」
高尾「こ・・・こんにちは」
 高尾、めくろうとする
清水「見ないほうがいいよ」
高尾「?」
清水「夢がこわれるから」
高尾「そ、そう・・・」
清水「これはきみの夢なんだよ」
高尾「ゆ、夢?」
 高尾、ほっぺたをつねる
高尾「いってー!」
清水「リアリティのある夢」
高尾「あんまり見たくねーな」
清水「いっしょにお話しよう」
高尾「い、いいっすよ」
清水「楓・・・あ、楓ちゃんのこと・・・好き?」
高尾「!」
清水「わかってるよ」
高尾「い、いや、そんなことは」
清水「隠すなって」
高尾「そ、その、ま、まさか、バイトで・・・こんなとこで、人を好きになっちゃうなんて。それもお客さんを好きになるなんて・・・許されないっすよね」
清水「世の中捨てたもんじゃないよ」
高尾「ドラマみたいな出会いってあるもんっすね」
清水「楓ちゃんのこと、僕は良く知ってるよ」
高尾「え!」
清水「知りたい?」
高尾「は、はい」
清水「楓には彼氏がいたんだ」
高尾「!」
清水「探検家めざして、日本中あるいてるやつ」
高尾「やっぱ・・・いたんだ・・・」
清水「そこであきらめちゃだめだよ!」
高尾「!」
清水「がんばんなよ。彼から奪っちゃいなよ」
高尾「ぬ、ぬいぐるみに励まされてるよ」
清水「夢だから」
高尾「そ、そっか」
清水「いけいけ!」
高尾「でもそれは、楓さんにも、彼にも悪いっすよ」
清水「気にしない!」
高尾「!」
清水「楓の好きな言葉教えてあげようか?」
高尾「え」
清水「一寸先は闇だけど、その先に明かりはあるかもしれない」
高尾「長いなー」
清水「言ってみなよ。」
高尾「い、一寸先は闇だけど・・・そ、その先に、あ、明かりはあるかも・・・しれない」
清水「言えたじゃん」
高尾「あ、はあ」
清水「これを言えばなにかが変わるかもしれないよ」
高尾「あ、ありがとうございまっす」
清水「その代わりに」
高尾「?」
清水「きみに・・・手伝って欲しいことがある」
高尾「え?」
 ふたりナイショ話
 高尾、驚くが聞いて帰ってく
清水「(白い布をめくって立ち上がる)悪く思うなよ。楓のためなんだから・・・」
 清水、高尾がはけてからドアからはける
 入れ違いで楓が歩いて入ってくる
 ばたんと倒れる楓
 そこに静かに入ってくる明石
明石「お悩みのようですね」
楓「!」
明石「血をすうのをオッケーしちゃって」
楓「なんで知ってるんですか」
明石「ま、いろいろと・・・」
楓「ごまかさないでください!」
明石「天国の番人ですから」
楓「え」
明石「それより、血をすうのをオッケーにすると、あなたは死んでしまいますよ!」
楓「!」
明石「知らないんですか?」
楓「き、聞いてません」
明石「教えないでしょうね、知らないんですから」
楓「・・・」
明石「血を吸って人間に戻る。彼らしい考えです。」
楓「でも人間に戻れるなら(あたしはそれでいい)」
明石「彼は人間に戻れますがあなたは天国です。」
楓「・・・」
明石「それでもすわせます?」
楓「・・・」
明石「また悩んでる」
楓「だって・・・」
明石「優柔不断はこれだから困る。」
楓「すいません」
明石「(小声で)だからピアニストにもなれないんです」
楓「!」
明石「あ」
楓「(ムカッ)」
明石「いや、その・・・」
楓「まるであたしの全て知ってるような言い方しますね」
明石「・・・」
楓「気持ち悪い」
明石「(ため息)・・・仕方ない。これを観てください」
 明石、服から文庫本のようなものを出す
明石「これは、あなたのシナリオ。人生のシナリオです。天国図書館で探してきました」
楓「?」
明石「あなたが岩手、盛岡市立病院で生まれてから、死ぬまで、いっさいの出来事全てがかいてあります。」
 楓、手を出し、シナリオをとろうとする
 それをはらいのけ
明石「これによると・・・ニ三ページ(ページを開く)・・・あなたは死んでない」
楓「!」
明石「さらに清水信孝が行方不明になったのをきっかけにピアノをあきらめたことも書いてああります」
楓「そんな・・・」
明石「人生のシナリオは絶対です。(本をぺらぺらさせて)まだまだ人生は進んでく。」
楓「(絶叫)いや!」
明石「・・・」
楓「ピアノをやってきたのは・・・全部無駄・・・なんて」
明石「無駄だと・・・思うんですか?」
楓「だってそうじゃないですか。」
明石「・・・」
楓「一寸先は闇だけど、その先に明かりはあるかもしれないってずっと心に留めてがんばってきて・・・」
明石「・・・」
楓「そんな未来がわかってんなら・・・五歳のときにピアノ始めるんじゃなかった。」
明石「楓さん」
楓「十八年、ピアノに時間を割いてたぶんを他のことにまわせばよかった・・・」
明石「そんなもんなんですか!」
楓「え」
明石「わたしは逆に聞きたい。そんなもんだったんですか?」
楓「・・・」
明石「ピアニスト目指したかったらどんなことでもしなさいよ!」
楓「・・・あたしには・・・もう力がありません」
明石「力は備わってるものと、作られる力があります」
楓「作られる・・・力」
明石「そう。力は作ることができるんです」
 そのときドアノック
明石「岩手に帰るだけが答えじゃないんです。がんばって」
 明石、楓の肩をぽんとたたいて出て行く
 入れ替わりに高尾が入ってくる
高尾「・・・」
楓「?」
高尾「なんか今目の前を黒い風が・・・」
楓「!あ、ああ、この辺、黒猫が多いんです」
高尾「縁起悪いっすね。それより、どーこ行ってたんすか」
楓「?・・・あ、ち、ちょっと涼みに」
高尾「もう、急にいなくなるから心配したっすよ」
楓「ごめんなさいね」
高尾「ま、今日はこんなに暑いすからね。(伝票見てから)岩手は(力んでピアノを押す)・・・涼しいっすよね」
楓「今年はそうでもないみたい」
高尾「でも東京よりは」
楓「盛岡は盆地だから、けっこう東京並みのときがあるんです」
高尾「そうなんすか」
楓「そんなもんですよ」
高尾「行ったことないところなんてやっぱり先入観で話ちゃいますよね」
楓「引越しやさんは東京?」
高尾「福岡っす。」
楓「やっぱ、とんこつラーメン好きですか?」
高尾「ほら」
楓「あ・・・」
高尾「福岡といえばとんこつラーメン、辛子明太子。」
楓「あたしも先入観で・・・」
高尾「でもとんこつは最高っすよ!」
楓「あたしもとんこつ好きです」
高尾「うわ」
楓「奇遇ですね」
高尾「これ片付けたら、環七のうまいラーメン屋行かないすか?」
楓「行きたい行きたい」
高尾「テンション上がってきたなー」
楓「あたしもなんかもっと暑くなってきちゃった」
高尾「わー!盛り上がったついでに言っちゃおうかな」
楓「え」
高尾「一寸先は闇だけど、その先に明かりはあるかもしれない」
楓「(凍りつく)」
高尾「(にっこり)」
楓「なんで・・・なんでその言葉・・・」
高尾「あの・・・好きになっちゃったかもっす」
楓「!」
高尾「あれ、やっぱ、だめすかね・・・」
 そのとき高尾、ばたりと倒れる
楓「!」
 実は清水が、高尾をラムネびんでなぐったんである
清水「デートの約束までは頼んでないのに・・・」
楓「信孝・・・」
清水「番人のことをなんとかしてくれって頼んだのに逃がすし。使えないなー」
楓「どういうこと?」
清水「説明は後で。それより」
楓「?」
清水「心の準備ができたよ」
楓「!」
清水「血を吸わせてもらうよ」
 清水、近づく
楓「まって!」
清水「?」
楓「・・・利用したんだ・・・引越しやさん」
清水「言い方悪いな。利用じゃなくて・・・」
楓「あたしの血をすうために、番人さんが邪魔だから、引越しやさん騙して」
清水「ああ、なんか楓のことが好きみたいだったからさ、」
楓「それであの言葉教えたんだ」
清水「・・・」
楓「あれを言えば喜ぶとでも思ったの?」
清水「・・・」
楓「あたしがあなたのことを好きになった・・・本気で信孝を好きになったあの夏祭りの夜の・・・きっかけの言葉なのに・・・」
清水「・・・」
楓「大切な・・・あたしの中でずっと大切な・・・」
清水「・・・ごめん。僕はそんなつもりで」
楓「あたしの夢の支えだったのに・・・」
清水「・・・」
 そのとき、明石が入ってくる



第四章 天国のきっかけ
明石「見つけました」
清水「・・・」
明石「さあ天国に・・・」
清水「(かぶせるように)行かない!」
明石「そう決まってるんです」
清水「そんなの知らない。」
明石「知るはずないでしょう。教えたら大変なことになっちゃう」
清水「僕はまだ生きる。楓ともう一度がんばるんだ」
明石「(軽く笑う)がんばるっつったって、血をすえば、彼女は死んでしまう!」
清水「うそだ!」
明石「ほんとです!」
清水「そんなわけない!」
明石「頑固だなー。天国の番人であるわたしが言ってるんだから本当なんです」
清水「楓、このひとのいうこと信じられる?」
楓「・・・」
明石「楓さんにはさきほど話しました」
清水「余計なことばっかりしないでくれ!」
明石「さあ、楓さん、どちらを信じますか?」
楓「!」
清水「もちろん僕だよね?」
楓「・・・」
明石「楓さん、どうなんですか?」
楓「・・・」
清水「迷ってるの?」
楓「だって・・・(倒れてる引越しやを見る)」
明石「あれ、どうして彼はこんなとこで寝てるんですかね?」
楓「信孝が」
清水「話さなくていいよ!」
明石「わかりますよ、全部お見通しなんだから」
 明石、楓の手をとって
明石「さあ、こっちに来なさい。これから清水信孝を天国に送る儀式を行います」
 明石、楓の手を引っ張り誘導しようとする
 しかし楓、動かない。
 楓、完全にふたりにはさまれる
楓「ごめんなさい・・・」
明石「(あきれて)こんなときにまた優柔不断ですか?」
楓「考えさせてください」
明石「そんな暇はありません!」
楓「だって四時四四分まで(ふと腕時計を見る)!」
明石「・・・わかったでしょう?その時間まではあと少ししかないんです」
清水「そうなんだ。だから早く!」
 清水、楓の肩を強引につかむ
清水「さあ」
楓「ねえ!最後の条件、いい?」
清水「んなことより急がないと」
楓「人間に戻ったらもう一度探検家目指す?」
清水「!」
楓「だって・・・あたしは死んじゃうだけだから、はっきりいって・・・損なんだよね。」
清水「・・・」
楓「あたしがピアニスト目指してがんばったぶんを全部信孝がかわりにがんばってくれるんなら、いいよ」
明石「楓さん!」
楓「それなら、あたしは喜んで死ぬよ」
明石「楓さん!最悪の選択をしたんですよ!」
楓「あたしは信孝に聞いてるんです!」
明石「!」
清水「楓・・・」
楓「どう?」
清水「(じっと考えてから)絶対、探検家なるよ」
楓「誓う?」
清水「(力強くうなづく)」
楓「わかった。」
 楓、清水の胸に顔をうずめる
明石「(頭をかきながらひとりごと)なんてこった・・・どうすれば・・・」
楓「残りの人生、全額投資だからね」
清水「ありがとう」
楓「番人さん」
明石「はい?」
楓「天国ではよろしくお願いします」
明石「無理です!あなた正気なんですか!」
楓「(番人は無視して)信孝」
清水「ん?」
楓「さよなら・・・」
 楓、ふたたび、頭をさげ、首を出す
清水、口をクビに近づける
明石「んんもう!・・・(絶叫)シナリオは絶対なんです!」
 明石、ふたりの間に強引にダッシュで割って入ろうとする
 そのとき
 鐘の音
四時四四分だ
三人、一時かたまる。
楓「!」
清水、楓をゆっくりと離す
楓「?」
明石「四時四四分だ・・・」
そして清水、一気に足から脱力する
楓「信孝!」
清水「(倒れる)時間・・・だ・・・」
楓「だめ!はやく血を!」
清水「(立とうとするが立てない)足が・・・」
楓「がんばって!」
清水「(立とうとがんばるが無理)全額投資・・・受け付けれないみたい」
楓「だめ!」
明石「楓さん、あきらめなさい。天国へ・・・」
楓「待って」
明石「待てません!」
楓「ほんの少し」
明石「これ以上、時間を遅らせると、あなたの人生が」
楓「もう狂ってますよ」
明石「・・・」
楓「だから(もう少しいさせて)」
明石「(ため息)どうなっても知りませんから」
 明石、ぷいと横むく
清水「く、車・・・持ってるよね」
楓「うん」
清水「恐山のいり口の近く・・・バス停に・・・僕の骨があるはず」
楓「わかった」
清水「拾ってくれる?」
楓「(うなずく)」
清水「シナリオが絶対なら血じゃなくて・・・ラムネ飲んでおきたかった」
 楓、封を開けてない、ラムネを出して
楓「飲んで」
清水「(軽く笑いながらふたを指して)ビー玉・・・落ちてないよ」
楓「あ・・・」
清水「いい音・・・作れるかな?」
楓「あ・・・当たり前じゃない・・・」
清水「ラムネも・・・ピアノも・・・音が良ければ・・・みんな聞くよ」
 清水、にっこり笑う
 それを待つかのように明石が清水の手をとる
 ゆっくり立ち上がる清水
 庭のほうを向く
 明石、手をとりふたり庭に出て歩いてく
 楓、追いかけようとするが、明石が手で制す
 鐘の音が大きくなり、おもいきりまぶしくなる
楓、それを見ているしかない
暗転


 明転
 楓、ひとりで部屋の中にいる。
 そしてテーブルの上のラムネを一気にどかす
 大きく音を立てて散乱するびん
 
庭から明石が入ってくる
明石「四時五○分、清水信孝、天国に到着」
楓「・・・」
明石「(庭から入りながら)五分遅れ。」
楓「・・・」
明石「初めてこんなミスしました。」
楓「・・・」
明石「?・・・落ち込んでます?」
楓「・・・」
明石「支えだった人を亡くして・・・」
楓「・・・」
明石「でもそれを乗り越えないと次が始まらないんです」
楓「うるさい・・・」
明石「楓さん、ひとつ教えましょうか?」
楓「うるさい!」
明石「(構わず)一番つまらない人生って知ってます?」
楓「・・・あたしみたいに・・・幸せじゃない人生でしょ・・・」
明石「いいえ。幸せばかりの人生です」
楓「・・・うそ」
明石「ほんとです。世の中こんなに人間がいれば何億分の一の確率で、生まれてからずっと苦労知らずの人が出てくるもんなんです。そういう人は天国に来ていつもこういいます」
楓「・・・」
明石「『つまんなかった』って」
楓「・・・幸せばかりな人だから不幸な人のことがわかんないんですよ」
明石「そんなことありません。現に、清水信孝は天国に上る前、あなたを見てほほえんでいましたから」
楓「・・・」
明石「全額投資金、また返還されたんですよ、楓さんに」
楓「返されても、」
明石「無理だっていうんですか?」
楓「もうなにもしたくない」
明石「力を作りなさい。」
楓「そのための時間も場所もないんです」
明石「岩手だってどこだってピアノはひけるんじゃないですか?」
楓「でも」
明石「潮干狩りの貝は全部拾いきったとしても。海が満ちたらまたどんどん卵から貝になって、また砂の中に入るんですよ」
楓「聞いてたんですか」
明石「もちろん。この人、いい例え言うなーって思って」
楓「・・・」
明石「そんないい例え考えられるんなら、まだ力は作れるはずですよ」
楓「・・・」
明石「あ、そうだ(シナリオ取り出して)さっき読み直したら、けっこう書き換えられてましたよ。明日以降の人生」
楓「・・・狂ってましたか?」
明石「もう!とんでもなく波乱万丈な人生になりますよ」
楓「そうですか・・・」
明石「ま、お互いがんばりましょう」
 明石、肩をぽんぽんとたたく
楓「え」
明石「わたしも、天国の番人、クビなんです」
楓「なんで」
明石「あなたにシナリオの内容教えたり、回収遅れたりしたからです」
楓「そんな」
明石「明日から天国ハローワーク行かなきゃなー」
楓「・・・ごめんなさい!」
明石「しょうがないです。それが天国の法律ってもんです(指を鳴らして、高尾を起こす)」
 高尾、ゆっくり起きだす
明石「わたしも引越しやさんみたいに、ノー天気に肩の力ぬいていきたいもんですね」
楓「・・・」
明石「それでは・・・」
明石、庭からはけようと歩く
楓「あの」
 明石、止まる
楓「最後にひとつだけ」
明石「なんですか、早く!」
楓「あたしはあとどれくらい生きますか?」
明石「(にっこり)さあー?」
楓「・・・」
明石「その時が来たらまた会いましょう。」
 明石、ハケる
 高尾、目をこすりながら起き上がる
高尾「んーん・・・ん・・・?」
楓「大丈夫ですか?」
高尾「頭が・・・いたたた・・・」
楓「まだ休んでていいですよ。」
高尾「あ、だって仕事が・・・」
楓「いいんですよ。」
 楓、高尾を休ませる
 ちらばってるビンをかたづける
高尾「オレはなにをしてたんすかね」
楓「え、あ(うそつき顔)あーと、熱射病でたおれちゃったんじゃないかなー」
高尾「熱射病!そんな貧弱な病気で倒れるなんて恥ずかしいっす!」
楓「だめだめ!もっとしっかり水分とって休まないと」
高尾「そうっすよね」
楓「あ!ラムネ、飲みますか?」
高尾「いや!ラムネは作業が全部終わってから飲むっす!」
楓「絶対?」
高尾「そうっすよ。男はこうと決めた以上はガツンって」
 楓笑う
高尾「?おかしいっすか?」
楓「へんなとこ頑固だなーって」
高尾「そうすかねー(腕組んで)あ、楓さん」
楓「はい?」
高尾「おれの人生かけた告白、受け取ってくれたっすか?」
楓「あ・・・ああ、それなら答え決まってます」
高尾「お願いしまっす」
楓「ごめんなさい」
高尾「だーっ・・・(崩れる)やっぱ彼が・・・」
楓「・・・いましたね・・・」
高尾「くやしい!どんな出会いすれば惚れてくれるんすか?」
楓「さあ・・・」
高尾「教えてくっさいよ。負け犬にはなりたくないっす」
楓「はずかしい」
高尾「そこをぜひ!」
楓「・・・三年前、夏祭りでものすごくのどが渇いて、ドリンク買おうって思って入った店がたまたまラムネしかおいてなくて。しょうがないから買っちゃったんです。で、飲めないし、途方にくれてたら、彼がやってきて」
高尾「そのときおれも出会ってればなー」
楓「いってたかもですね」
高尾「あーあ、またひとりか・・・」
楓「いい人があたし以外にいますよ。」
高尾「いるんすかね」
楓「いますよ、きっと」
 ふたり、庭をみつめる
高尾「あの」
楓「はい?」
高尾「腹、へりません?」
楓「?・・・そういえば・・・」
高尾「ラーメンだけでも・・・ご一緒しないすか」
楓「行きましょう」
高尾「よっしゃ!」
楓「引越し途中だけどいいんですか?」
高尾「思い立ったが吉日っていうじゃないすか。今すぐいきましょう」
楓「それもそうですね・・・」
 ふたり立ち上がって
高尾「帰ったら今度こそピアノからはじめるっすよ」
楓「慎重に願いますよ」
高尾「え」
楓「・・・まだまだ使うから」
高尾「あれ?昼は」
楓「昼は昼!先に出ててください。」
 高尾を追い出しはじめる
高尾「うわ、あああ、トラックのエンジンかけとくっすね」
楓「お願いします」
 完全に追い出す
 楓、テーブルにあるラムネを見つめる
 楓、それを手に取り台所へ
 パンという音
 覚悟を決めて一気に口に持ってく
 流れ込む炭酸水
 のどに刺激が爆発する
むせる
なみだ目になりながらも、我慢して飲んでいく
 空を見つめながら

 END