登場人物
沖田雅彦 元CMディレクター きつな
藤井達郎 元探検家 ぴえ~る
森川 亘 元FBI捜査官 渡辺りょうすけ
法相寺珠子 元靴磨き職人 本多美智子(io)
高橋智光 二子田文絵のマネージャー 富士河千之介
スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明オペレーター
音響効果オペレーター
写真撮影 村上史行
製作
3man Office製作本部
「ストロボ/フィッシュ」パートナーズ
製作総指揮 富士河千之介
プロローグ
テーマ曲流れる中、暗転
明転すると、バスの中。
ここは、東京発平隈バスセンターに向かうバスの中。
深夜の高速バス「ホワイト平隈号」二号車である。
バスは今日は人数が多いため、二台編成なのだ。
時間は二三時半近く。日付は三月三一日土曜日。
バスは東京駅八重洲口バスターミナルを二三時に出て、今は新宿高速バスターミナルへと向かっている。
ひとりの男がずっと窓を見ている。
首都高から見える東京の街並みをずっと見ている。
男の名前は沖田雅彦。
今年で三○になる。
沖田は一日前の金曜日までは、有名広告代理店でCMディレクターをやっていた。
日本で知らぬものがいない、二子田文絵のデビューCMを作り、軽快なテンポでまたたく間にヒットさせ、彼女の夢であっ
歌手デビューのときには歌詞とプロモーションビデオの監督までつとめた男だった。
だが、彼はそんな絶頂期に会社をやめた。
もちろん業界はそんな彼をほっとくわけがなく、多数のスカウトマンや、独立をけしかけるものたちが日夜、彼の携帯に連絡してきた。
しかし、彼は今日、すべての荷物をふるさとである平隈市に送った。
港区西麻布にあるマンションを彼の一番の友達に譲り渡して。
彼は平隈に帰るのだった。
すべてを捨てて。
そのバス。
間空けて、またひとり男が座っている。
眠ったフリをするこの男のことはこれから語ることにしよう。
とりあえず名前だけ。
森川亘。
まもなくバスは新宿に到達する
ここを出たらバスは一般道から首都高に入り、日本中部高速道路に入る。
途中三箇所のサービスエリアに止まり休憩および、運転手の交代をする。
平隈市にある平隈バスセンターには明朝四月一日日曜日六時二○分に到着予定だ。
バスが止まる
二人の客が順番に
どやどやと乗り込んでくる
そして物語は始まる
第一章
照明はすべて舞台上を照らす
法相寺珠子がチケットも見ずにバス内をうろうろしている。
藤井達郎はチケットを見て、三のB、自分の席に座る
大きなリュックをどっかと通路におろし、自分の席に着くと寝る準備を始める
沖田は入ってきたそのふたりをなんの気なしに見ている。
寝たふりしている森川はそのまま寝たフリだ。
うろうろしている珠子が奥のほうから戻ってくる。
そして沖田のところへ。
珠子「(大声で)ちょっと」
沖田「!」
みんな、沖田と法相寺のほうを見る
珠子「ここ、あたしの席なんだけど」
沖田「え・・・」
珠子「は?」
沖田「いえ、ここは」
珠子「三のAでしょ?」
沖田「三のAですよ」
珠子「いいから、早くどいて」
沖田「い、いやちょっと」
珠子「往生際の悪い子だね~。早く」
沖田「あの、チケット見せてもらえませんか?」
珠子「いやだね」」
沖田「だって、俺のチケットにはしっかり、ほら(チケットを見せる)」
珠子「(それを見ずに)見なくて結構」
沖田「え」
珠子「三のAはあたしの席だって何回言ったらわかるの」
沖田「だから見せてくださいよ」
珠子「あたしの切符に文句つける気?」
運転手「これよりバスが動きます。お立ちの方も席にお着きください」
それを聞いて
珠子「ほら座らせてよ」
沖田「無理ですよ」
珠子「あたしをこのちっこいバスの中で転がす気?」
沖田「ここは俺の席です」
そのとき
藤井「ったくうるせえな!」
藤井、勝手に珠子のズボンの尻ポケットからチケットを取り出す
珠子「(藤井に)なにすんの!」
藤井「(かまわず)四のBじゃん」
珠子「返しな!(藤井の手からチケットを取る)」
藤井「とりあえずおばさん」
珠子「お、おばさんだって!」
藤井「四のBに座ろうか」
珠子「無理!」
藤井「運転手が発車できないでしょ?」
珠子「・・・」
藤井「ひいては、俺たちが平隈に着くの遅くなるんだから」
運転手「はい、発車いたします」
バスが動き出す音
珠子、無言で、四のBに座る
藤井「(沖田に)大丈夫?」
沖田「あ、ああ、大丈夫です」
藤井「席間違いなんてね。」
沖田「まあ、俺もやったことあるからいいですよ(そういいながら、珠子を気にする)」
珠子「(沖田の視線に気づき、寝たふり)」
藤井「そう?飛行機のエコノミーとかじゃよくあるんだけどね。まさか、こんな四人しかいないバスの中でね」
沖田「そうですね・・・」
藤井「深夜バスは何回も乗ってるけど、こんな少ないのは初めてだな」
沖田「俺は深夜バス自体初めてです」
藤井「初めて・・・?」
沖田「いや、いつも平隈に帰るときは、グリーン車だったから」
藤井「面白い。」
沖田「え」
藤井「いいなあ。俺もいつかグリーン車で山の近くまで行ってみたいもんだ」
沖田「山の近く?」
藤井「おう、そうだ。深夜バス初めてなんだろ?わかんないことあったら、なんでも聞いて」
沖田「ありがとう」
藤井「(まわりを見渡して)こんだけしかいないんだからさ。仲良く行きたいもんだ。(珠子のほうを見ながら)平和にね」
沖田「あの」
藤井「え」
沖田「光る魚の話って知ってますか?」
藤井「光る・・・魚?」
沖田「平隈山の」
同時に運転手によるガイドが始まる
沖田も藤井も一度、席に着く
運転手「え、本日は平隈中央交通ホワイト平隈号にお乗りくださいまして、まことにありがとうございます。当バスは東京駅
八重洲口バスターミナルを出て、ただいま、新宿駅高速バスターミナルを出たところです。
これから、首都高速を経て、日本中部高速道に入ります。
新田サービスエリア、米山サービスエリアにて休憩を行います。そのあとも二回ほど停車いたしますが、休憩はありませ
ん。運転手の交代を行います。
それでは車内案内ビデオをご覧ください。ビデオが終わり次第消灯させていただきます。」
女性のアナウンスでビデオが始まる声がする
沖田、ビデオがテレビに映るのを確認してから
再び沖田の席へ
藤井「山は知ってるよ、平隈一中の裏だろ?」
沖田「一中卒ですか?」
藤井「ああ。おれは藤井。あんたは?」
沖田「沖田です。」
藤井「明日の朝までよろしく」
沖田「(握手)よろしくお願いします。歳は?」
藤井「二十三なんだけど」
沖田「あ、おれより年下か」
藤井「なんだよ、それ」
沖田「いやあの」
藤井「年よりもフケて見えるって?」
沖田「被害妄想だよ」
藤井「わかった。そうか。おれね、何年か前までドイツにいってたのよ。だから、先輩後輩とか敬語ってやつ?あんまりうまく使えないからよろしく」
沖田「いや、気にしない」
藤井「ありがとう、沖田さん。」
沖田「さん、は、つけるんだ」
藤井「俺流の最低限のマナー」
沖田「ありがとう」
藤井「それで、沖田さんよ、光る魚って、あれかい?シラヌウオのこと?」
沖田「そう。」
藤井「今さら急になんで?」
沖田「新宿バスターミナルに来る前にずっと考えてたんです」
藤井「・・・」
沖田「この窓から首都高の外を見てて・・・。
東京っていつまでたっても暗くならない。ビルだけじゃなくて、ちっちゃな家までも明かりが灯っていて、消えない。」
藤井「・・・」
沖田「明かりが点いてるカーテンの奥には、それぞれの人生がある。そこにはどんな生活ががあるんだろうって、勝手に考えていたんです」
藤井「なるほど」
沖田「そんなこと考えてたら、なんか、シラヌウオの伝説、急に思い出しちゃって」
藤井「今の時間なら、東京タワーのライトくらいじゃないか?消えたのは」
沖田「十二時でしたっけ?」
藤井「面白いなあんたは」
沖田「つまんない男ですよ」
藤井「?」
沖田「つまんないからこそ・・・今こうやって帰ってる・・・」
藤井「・・・」
沖田「東京タワーの明かりの奥にはなにがあるんでしょうね」
藤井「・・・」
そのとき、
森川「シラヌウオを見たら願い事がかなうってやつですか」
ふたり振り返る
さっきまで寝ていた森川が起きて、眠そうな顔でこっちを見ている
藤井「おう、寝てるところごめん」
森川「シラヌウオか・・・」
沖田「あ、もっと小さな声で話すんで」
森川「・・・」
森川、また寝る
藤井「なんなんだかな」
沖田「あの人、僕と同じ、八重洲口から乗ってきたんです」
藤井「八重洲口っていうと、東側に住んでる人間かな」
沖田「海外から来てる可能性だってありますよ」
そのとき
珠子「ちょっと」
ふたり「!」
沖田「あ、すいません!」
藤井「ごめんごめん」
珠子「ぺちゃくちゃしゃべってさあ」
藤井「今度こそもっと小さな声で話すようにしますから」
珠子「違う」
藤井「え」
珠子「あたしも仲間に入れてよ」
沖田「え」
珠子「シラヌウオの話だろ?」
沖田「え、ええ」」
珠子「あたしも一中だから」
藤井「なんか仲間が増えてくな」
珠子「どうせ平隈出身の人間てのはさ、一中か二中しかいないんだから」
沖田「確かにそうですね」
珠子「あたしのことは珠子って呼んで。」
沖田「珠子さんですね。」
珠子「そうそう。それから、(沖田に)さっきはごめんね」
沖田「あ、いや」
珠子「(今度は藤井のほうを向いて)それとあんた、山登りしてるよね?」
藤井「なんでわかるの?」
珠子「がっしりした足してんじゃないの。(藤井の足をひっぱたく)」
藤井「いて!」
沖田「足を見ただけでわかるんですか?」
珠子「伊達に二十年、新橋で靴磨いてたわけじゃないからね」
◎挿入 2007/02/06
藤井「く。靴・・・磨き?」
珠子「なに?その目」
藤井「いや、このご時勢に靴磨きなんて」
珠子「人の職業を馬鹿にするもんじゃない」
藤井「・・・」
珠子「ま、あんたのことわかったのはそれだけじゃないけどね」
そのとき
森川「珠子さん、新宿から乗ってきましたよね」
珠子「ああ」
藤井「あれ?寝てたんじゃないの?」
森川「(かまわずに)新宿に来る前、指定席の電車なんか乗りませんでしたか?」
珠子「ああ。息子の浩二がね、もってけって金渡すもんだからさ、ぜいたくに横浜から一気に特急乗ってきたよ」
森川「その座った席が、さっき覚えてた席番号じゃないですか」
珠子「思い出したくてももう切符回収されちゃったからさ」
森川「以後お気をつけください」
森川、また寝る
珠子「なんだかね・・・」
沖田「そろそろ消灯の時間じゃないですか?」
珠子「もう?」
沖田「だってさっきそんなこといってたような・・・」
藤井「まあそうだろうな」
珠子「ほ、ほんとなの・・・?」
沖田「ビデオ終わってますね」
珠子「えええ・・・」
藤井「あんたらは深夜バスの真の姿を知らない」
沖田「真の姿?」
藤井「このあと、電気が消える。そうするとだ、永遠なる闇と、高速道路のつなぎ目を走るときの音の繰り返し・・・コンコン・・・コンコン・・・ひたすらこれだ。なにもない。仕方ないからリクライニングして、毛布にくるまって目をつぶる。でもな・・・ずっと寝れないんだよ」
珠子「(絶叫)怖い!」
みんな「・・・」
藤井「ま、そうなるからさ」
珠子「よし!ここは是が非でも暗くなるのを阻止しよう」
藤井「面白い」
珠子「深夜っつったって寝る必要はぜんぜんないんだ!」
沖田「うわ、あんまり大きな声出さないほうが・・・」
藤井「そうだ、どうせ寝られないなら、ずっと起きてたほうがましだ」
珠子「よし!後輩!」
沖田「こ、こうはい?」
珠子「一中なんでしょ?だから、これかは後輩って呼ぶから」
沖田「はあ・・・」
珠子「後輩はどうなの?」
沖田「あ、いや、僕はどっちでも」
藤井「ひさしぶりの日本人らしい答えだな」
珠子「(森川に)あんたはどうなの?」
森川「(目をつむったまま)眠りたいです」
藤井「団体行動乱すなあ」
森川「朝一でちょっとやらなきゃならないことがあって」
藤井「どうせくだらんことだろ」
森川「(立ち上がって運転席に)運転手さーん、消してくださーい!」
珠子「こら!(といって、森川にダッシュ)」
沖田「三対一で割れましたね」
藤井「まあ、でも多数決の論理だと、このまま点けてろってことだろ?」
しかし薄暗くなる車内
藤井「本当に消しやがった」
珠子「あわわわわわ・・・」
沖田「本当に怖いんですか?」
珠子「ああ、ちょっとは高速の明かりが漏れてるから・・・まあ、少しは大丈夫かもしんないけど・・・」
藤井「ったく、客サービスをなんだと思ってるんだ」
珠子「このバス平隈中央交通でしょ?あそこは昔から殿様商売だから」
藤井「決めた。おれは寝ないぞ」
珠子「あたしも」
そう宣言してふたり、沖田を見る
沖田「・・・」
ふたり「どうする~?」
沖田「・・・おきてます・・・」
珠子「さすが一中」
藤井「こっち来て話そう」
ふたり、沖田を案内する
沖田、仕方なしにこちらへ
珠子「そうだ、あんたも新宿から乗ったんだよね」
藤井「おれ?そうだよ」
珠子「あたしさあ、さっきの新宿の乗るところでね、ちょっとおかしなことがあったんだ。」
沖田「おかしなこと?」
珠子「いやね、あたし実はだんなを亡くしてるの」
藤井「へえ」
珠子「それでね、さっき後ろのほう、こっちの二号車のほうで並んでたらさ、前の一号車のほうに、うちのだんなそっくりな人がいてさ」
沖田「そんなことあるんですね」
藤井「なに、世の中には三人は似てる人がいるっていうからね」
珠子「まあ、似てる人だけならこんなに興奮もしない。それがね、着てるジャンパーから帽子から靴までさ、全部そっくりなんだよ!」
藤井「そこまでそっくりなんて」
珠子「だろ?薄気味悪いよね・・・」
沖田「じゃあ、一号車のほうにはその人がいるかもしれないんですね」
珠子「あそこさ、順繰りにいろんなとこに行くバスが来るでしょ?だから他のところに行くバスだったらいいんだけどさ、まさか前なんかに」
藤井「そうだ、次の休憩のときに探してみようか」
珠子「だめだよ。こわいよ」
藤井「調べてみりゃすっきりするよ。」
珠子「でも・・・」
そのとき、沖田の携帯がなる
沖田「(びっくり)」
藤井「おいおい!」
沖田「すいません」
珠子「マナーモードにしときなよ」
沖田「すいません」
そういいながら、携帯を持ち、離れる沖田
沖田、離れてから携帯に出る
沖田「(ひそひそ声で)もしもし・・」
マネージャー「(声のみ)あ、沖田監督?」
沖田「あ・・・」
マネージャー「二子田文絵のマネージャーの高橋です」
沖田「はあ、こりゃどうも」
マネージャー「探しましたよ、今どこです?」
沖田「あ、その・・・」
マネージャー「打ち合わせしたいんです。二子田文絵のサードシングルのPVのことで」
沖田「えっと」
マネージャー「西麻布のカフェ『西麻布中央線』にいるんですよ。もちろん二子田もいるんですが」
沖田「あのですね、うちの社長に聞かなかったんですか?」
マネージャー「はい?」
沖田「俺、やめたんですけど・・・」
マネージャー「監督・・・」
沖田「だからもう・・・監督じゃなくて・・・ただの一般人なわけで・・・」
マネージャー「え、いや、ちょっと待ってくださいよ」
沖田「失礼します」
マネージャー「契約期間だって終わってないじゃないですか!」
沖田、携帯を切る
沖田、ため息をついて振り向く
ふたりがじっと見ている
ふたり「監督・・・?」
沖田「あ、いや・・・」
珠子「なんだか、やめたとかなんとか」
沖田「気にしないでください」
藤井「つまんない男ってのが、関係あるのかな?」
沖田「・・・」
そのとき
森川「静かに寝させてくださいよ」
森川、むっくりおきてくる
森川「ぺちゃくちゃしゃべってるわ、携帯なるわ」
沖田「すいません!俺がマナーモードにしてないから」
藤井「ぺちゃくちゃってそんなにはしゃべってないよ」
森川「響くんですよね。密室だから」
珠子「まあ、あたしたちしかいないからねえ」
森川「僕たちしかいないからこそ、大人として、しっかりするべきなんじゃないでしょうか」
藤井「大人・・・?」
森川「僕も含めて、いい大人じゃないですか」
藤井「あのさ、さっきから聞いてたらさ、何様なんだよ」
森川「あれ?子供がいますね」
藤井「子供とはなんだ!」
藤井、森川のところへ
沖田「やめましょうよ」
藤井「(森川に)なんなんだよ、ずっと俺たちに逆らってよ」
森川「別に逆らってるつもりはないですけど」
藤井「あんたも平隈出身だろ?」
森川「ええ」
藤井「だったらさあ、俺たちといっしょに仲良く話したっていいじゃないの?」
森川「僕は二中です」
藤井「なんだと・・・」
森川「平隈市は四つの村が合わさってできた市です。ほぼ日本中央より北側にある」
藤井「説明はいい」
森川「その大合併のとき、最後までなんだかんだ難癖つけて、平隈が市として発展するのが遅くなったのは、平隈南部、つまり一中学区のあなたがたのせいなんじゃないですか?」
藤井「おい!」
沖田、つかみかかろうとする
沖田「やめてください」
藤井「離せ」
沖田「やめてください」
藤井「(森川に)北部の二中学区こそ、こっそり隣の大羽田と合併しようと動いてたじゃねえか」
森川「そりゃ財政も観光も全部得ですからね」
藤井「く・・・」
森川「大羽田には観光地の『田吾作の馬小屋村』がある。立派なテーマパークで、毎年たくさんの利益を大羽田に落としてくれる」
藤井「テーマパークだと?はは、おかしいね。」
森川「ほう」
藤井「あんなののどこがディズニーリゾート並みなのかい?」
森川「ディズニーリゾートといっしょに考えるからおかしいんですよ」
藤井「なにを・・・」
森川「他にも大羽田には郊外大型スーパーもあるし、電車も特急が止まる。鈍行しか止まらない南部よりましです」
藤井「二中ごときにいわれたくねえわ!」
沖田「やめろ!」
二人「!」
沖田「・・・すいません・・・でも、そんな地元の・・・みにくい小さい話で、明日の朝までいがみあいたくないんです」
藤井「あんた・・・」
沖田「席にもどりましょう」
藤井「・・・」
珠子「あたしも、朝まで一中だ二中だなんていいあいたくないからね」
藤井「すまん・・・」
ふたり「・・・」
藤井「はは・・・。一中のときに応援団だったもんで、」
珠子「なるほど」
藤井「すまん・・・すまんな・・・」
三人、それぞれの席に着こうとする
そのとき
森川「見たことありますよ」
みんな「?」
森川「シラヌウオ」
藤井「あんた、またでまかせばっかり」
森川「僕が大学四年の夏に帰ったとき見ました」
珠子「本当なの?」
森川「平隈山の、手賀沼でしたっけ?」
珠子「そうそう」
藤井「ふん、どうせ白いフナとか鯉のたぐいなんじゃないの?」
森川「体長が・・・一メートルくらいの・・・白くてぼんやり光る魚です。」
みんな「!」
藤井「願い事したのか?」
森川「さあ・・・」
藤井「(森川に近寄りながら)あんたシラヌウオ見たんだろ?見たら思いがかなうっていうじゃねえか」
森川「・・・」
藤井「なあ、教えてくれよ。かなったのかい」
沖田「ちょっと待ってください」
藤井「まてねえよ。教えろよ」
森川「かないました」
みんな「・・・」
森川「夢・・・かないましたよ。」
みんな「・・・」
森川「なんの夢かは教えません。」
藤井「やっぱり」
森川「え」
藤井「ほら吹きだ」
森川「(かぶせるように)夢をかなえた上で、実家に帰るってものは、これほどまで気持ちいいものなんですね」
みんな「・・・」
森川「そうだその前にみなさんにお伝えしなくてはいけないことがあります」
藤井「なんだよ」
森川「このバスは、狙われてます」
珠子「狙われる?」
森川「正しく言うと僕がおっかけられてます」
みんな「?」
森川「みなさん、後ろに行ってみてください」
全員後部座席方向に移動
森川「カーテン、そっとあけてみてください」
藤井「だ、だれがあける」
珠子「あ、あんたあけなさいよ」
藤井「いやここは人生の大先輩に」
珠子「それ言われるとものすごく腹立つんだよね」
藤井「そうだあんたあけろよ」
沖田「おれ?」
珠子「後輩!」
沖田「こういうときだけ先輩後輩なんてないですよ」
珠子「後輩!ぼんやりつったってないで、しっかり仕事しなよ」
沖田ちらりとあけてみる
藤井「どうだ?」
珠子「なにか見えた?」
沖田「いや、たくさん車があるだけですよ」
藤井「わかんねえよ」
珠子「またあんたの自意識過剰なんじゃないの?」
森川「このバスの後ろはトラックですよね」
沖田「青いトラック・・・」
森川「その脇に黒い車が走ってますか?」
沖田「ん・・・(さがして)ああいます・・・」
森川「窓から双眼鏡がのぞいてませんか?」
沖田「え・・・」
藤井「どうなんだよ」
沖田「えっと・・・あ!」
珠子、藤井「え」
沖田「ほ、ほんとだ・・・」
珠子、藤井「ええ!」
森川「双眼鏡ってふたつの穴に見えませんか?」
沖田「まあ、見えるっていえば見えるけど・・・」
森川「そのとなりに、もうひとつ穴みたいなのがこっちむいてませんか」
沖田「穴?」
森川「ええ」
沖田「(探す)・・・」
珠子「後輩!」
沖田「あ、ありますね」
森川「ピストルです」
みんな「え!」
ふりむく
森川「(さらっと)シラヌウオのおかげ。」
暗転
第二章
暗転中に聞こえてくる電話の声
沖田「ですから、僕は今東京にいないんですよ」
明転
ここは最初の休憩地、新田サービスエリア 時間は午前零時三十分くらい
マネージャー「(声のみ)それはもうわかってますよ。しかしですね、隣にいる二子田文絵がですね、どうしてもサードシングルのPVを監督に撮ってほしいってずっと言い張ってならないんですよ」
沖田「それはわかるんですけど、無理ですよ」
マネージャー「どうしてもですか」
沖田「だって、もう今バスに乗っちゃってるし・・・」
マネージャー「どうしても!!ですか~!」
沖田「他にも優秀な映像ディレクターなんてものは山ほどいますよ」
マネージャー「そりゃいるでしょうね」
沖田「もう僕みたいな年寄りよりも、新鮮な若手ががんばるべきですよ」
マネージャー「(かぶりぎみに)ああ!あんたはわたしの首を切らせるつもりですか!」
沖田「・・・」
そのとき、こっそりと、森川がカップ焼きそばを持ってやってくる
マネージャー「わかるでしょ?うちの二子田のわがまま加減。」
沖田「かわいいもんですよ」
マネージャー「『あたしは沖田さん以外のディレクターは使いたくない!沖田さんが来ないなら、あんたがやめなさいよ』ってね。」
沖田「そういうわがまま言うくらいじゃないと、あの世界はやっていけない。」
マネージャー「それでも・・・沖田さんは帰るのですか?」
沖田「(うんざり)・・・」
マネージャー「二子田の夢と監督の夢・・・どちらが重いんですか?」
沖田「夢に重さなんてない」
マネージャー「かっこいいことばっかりいってるんじゃないよ」
沖田「いや最初にくさいこといったのは高橋さんのほうですよ」
マネージャー「くさくなんかない!」
沖田「かなりにおいますけど」
マネージャー「監督」
沖田「はい」
マネージャー「今から私、沖田さんのご実家に行きます」
沖田「ご存知なんですか?」
マネージャー「あんたのとこの社長に聞くまでですよ」
沖田「残念、社長はそこまでは知らないと思います」
マネージャー「ああ!なんとしてでも調べてやるよ!」
沖田「ご勝手に」
マネージャー「家行ったら、東京行くっていうまで帰りませんから」
沖田「二子田さんに伝言してください。」
マネージャー「いやだ!!!」
沖田「君はもっと大人になるべきだって」
沖田、ぶちっと携帯を切る
ふと視線に気づく沖田
沖田「あ・・・」
森川「(カップ焼きそばをすする森川)」
沖田「・・・」
森川「(カップ焼きそばをすする森川)」
沖田「追われてるんでしょ?」
森川「ええ」
沖田「そんなの食ってる場合じゃないと思うんですけど」
森川「腹へっちゃって」
沖田「だれに追われてるんだかわかんないけど、本当に大丈夫なんですか?」
森川「たぶん」
沖田「え」
森川「(焼きそばをすする)」
沖田「(ため息)」
森川「うまい」
沖田「(それを見てて)い、いいなあ。」
森川「(食べながら)ここ、おっきなサービスエリアなわりには二四時間じゃないんですね」
沖田「東京じゃないから」
森川「(食べながら)使えないですね」
◎挿入 2007/02/10
沖田「それだけニーズがないってことでしょ」
森川「(食べながら)ふーん」
沖田「ニーズのないものは作るな」
森川「え?」
沖田「俺の師匠の口癖」
森川「師匠?」
沖田「ほしがるもの、見たがるものを作るのがプロ。生きてる限り、見たがるものだけにアンテナを張って生きていけ・・・ってね」
森川「かっこいいですね。」
沖田「そんなことはない」
森川「ほしがるものを作る。クリエイターとしては一番ごもっともです」
沖田「クリエイターか・・・」
森川「これからもずっと見たいものをぜひ作り続けてください」
沖田「・・・」
森川「?」
沖田「もう・・・作らないんです・・・」
森川「(そばをすする)」
沖田「(その焼きそばを見て)・・・おれも買ってこようかな?」
森川「(一回やすんで)あの角を曲がったとこにこれの自販機ありましたよ」
沖田「ありがとう」
沖田はけようとする
森川「(食べながら)赤いランプがついてましたよ」
沖田、止まる
沖田「(森川に振り返って)え・・・」
森川「売り切れランプ。」
沖田「(固まる)」
森川「(焼きそば指さして)最後の一個だったみたいで」
沖田「(がっかり)ほかになにかありました?」
森川「たい焼き、たこ焼き、ポップコーン」
沖田「・・・腹のたしにもならない・・・」
沖田、がっくりと座る
森川「大人になるべき、ですか」
沖田「!」
森川「僕はずっと思うんです。大人ってなんだろうって」
沖田「・・・」
森川「電話の向こうは東京じゃないですか?」
沖田「・・・」
森川「東京で、なにされてたんですか?」
沖田「会社員」
森川「監督という名の?」
沖田「・・・」
森川「監督っていってもいっぱいありますよね。映画監督、現場監督とか」
沖田「AV監督とか?」
森川「それですか?」
沖田「違います。
森川「監督ってのはちょっとごついんじゃないですか」
沖田「あの」
森川「はい」
沖田「これ以上、おれのことを聞くのはやめてもらえますか」
森川「・・・」
沖田「東京のことは僕の中の思い出ですから・・・」
森川「失礼しました」
沖田「そうだ。行きましょう。」
森川「どこにですか?」
沖田「警察」
森川「え」
沖田「ここはサービスエリアです。交番はなくても、高速警備隊みたいな人が中にいるかもしれません」
森川「いいんですよ」
沖田「おっかけられてるでしょ?」
森川「それはそうですけど」
沖田「命にかかわるでしょ」
そのとき
乾いた音がなる
ふたり「(とびあがる)」
沖田「・・・」
森川「わかったでしょ?」
沖田「さ、さっきの・・・」
森川「ピストルでしょうかね」
沖田「!」
森川「僕らが変な動きをしないように見張ってるんだと思います。」
沖田「じゃあどうすればいいんですか!」
森川「・・・」
沖田「・・・」
森川「(沖田の肩をたたいて)そっとしましょう」
沖田、すわりこむ
沖田「いったい、なんでおっかけられてるんですか?」
森川「・・・」
沖田「なんで、きみのせいで、おれたちまで命の危険にさらされなきゃならないんですか」
森川「それは運命でしょう」
沖田「・・・」
森川「あのバスに沖田さんが乗った。そこにたまたま僕がいた。だからおっかけられる。
そういう運命だと自分に言い聞かせるしかないです」
沖田「ふざけるな!」
森川「!」
沖田「どいつもこいつも、くさい言葉しか言わない・・・」
森川「・・・」
沖田「もっと命のある言葉を口にするべきなんじゃないですか・・・」
森川「命の・・・ある言葉・・・?」
沖田「命のある言葉で、命のこもった作品を世に送り出していく」
森川「作品・・・?」
沖田「!」
森川「やっぱり映画監督かなにかなんですね」
沖田「・・・しゃべっちゃったな・・・」
森川「いいんじゃないですか?」
沖田「?」
森川「同じ平隈出身てことで」
沖田「・・・そうですね」
森川「中学は違いますけどね」
沖田「言わなくてもいいのに」
森川「(やきそばをすする)」
沖田「映画を作るのが夢だったんです。それをやりたくて、ずっと映像に関する仕事をしていました」
森川「・・・」
沖田「CMからバラエティ番組・・・そうだ。二子田文絵って知ってますか?」
森川「知りません」
沖田「え?今週のオリコンチャートで三週連続一位の子ですよ」
森川「ずっとアメリカにいたもんで」
沖田「そうなんですか?」
森川「昨日成田に着いたばっかりなんですよ」
沖田「そりゃわからないか」
森川「あ、いやいいんですよ」
沖田「僕は、その子のデビューシングルと今回のセカンドシングルのプロモーションビデオの監督をしたんです」
森川「すごいですね」
沖田「デビューシングルの『キミノツバサ』は歌詞も書かせてもらいました」
森川「いいなあ。あこがれる」
沖田「そうですか?」
森川「マルチな活動ってやつですよね。映像も作れて詞まで書ける。」
沖田「そんなのは誰でもできます。そこまでは。」
森川「・・・」
沖田「おれは、その先の・・・映画に・・・さわれなかったんです。」
森川「・・・」
沖田「命のある言葉で、命のある演技で、血が通った映画を作りたかったんだけど、たどり着けなかったんです」
森川「・・・」
沖田「すいません・・・つまんなくて」
森川「シラヌウオでも見ましょうか?」
沖田「!」
森川「いっしょに」
沖田「そんなこと(できるわけない)」
森川「明日の朝、平隈についたら手賀沼に行きましょう」
沖田「でも、また君を追っかけてる連中から」
森川「僕はうまいこと逃げられるようにお願いします。沖田さんはもう一度映画を作ることができるようにってお祈りすればいい」
沖田「無理です」
森川「大丈夫」
沖田「ツチノコとか雪男なみにうそかほんとかわかんないんですよ」
森川「僕は知ってるんです。」
沖田「?」
森川「確実に・・・シラヌウオに会える方法を」
沖田「・・・」
森川「そろそろ時間だ。行きましょう」
森川、はける
沖田もいっしょにはける
暗転
暗転中、遠くのほうから声が聞こえる
鉄太郎(法相寺珠子の亡き夫)「おはよう」
ぼんやり明転
珠子だけひとり舞台の中央に座ってる
鉄太郎「遅れるぞ。」
珠子「(ぼんやりしながら)鉄さん・・・?」
鉄太郎「ご飯はどうした?いつもならもう新橋に行く前に作ってる時間だろう?」
珠子「あ、はいはい・・・」
珠子、用意を始める
珠子「鉄さんっていつ帰ってらしたんですか?」
鉄太郎「おかしなことを聞くなあ」
珠子「だって・・・」
鉄太郎「湯がわいてるぞ」
珠子「ああ・・・」
鉄太郎「まったく珠子はいつまでたっても」
珠子「あの?」
鉄太郎「なんだ」
珠子「どこにもいかないで」
鉄太郎「・・・」
珠子「どこにも・・・あたしのところから」
鉄太郎「棚ケ岳が待ってる」
珠子「・・・」鉄太郎「山はいい。歩いてると無心になれる。」珠子「・・・」鉄太郎「上に行けば行くほど目の前の世界が変わるんだ。緑から茶色、茶色から白、そして頂上で青・・・」
珠子「鉄さん・・・」
鉄太郎「山がおれを待ってる。そろそろ行くぞ」
珠子「鉄さん」
鉄太郎「もう用意しなくていい。めしは駅で立ち食いでも食べる」
珠子「あたしはなんですか」
鉄太郎「行ってくる」
珠子「あたしはなんですか?」
鉄太郎「帰りは遅くても二二時には帰るから。ドアの鍵は開けといてくれ」
珠子「聞いて」
鉄太郎「珠子、天気予報見たか?棚ヶ岳のほうは雪どうなってるだろう?」
珠子「(絶叫)あたしの、話を聞いて!」
藤井「どうしたの?」
珠子、やっとわれに返る
藤井がいる
珠子は息があらい
そこは二号車のバスの中である
珠子「て、鉄さん・・・」
藤井「え」
珠子「(藤井の顔をゆっくり見て)あ、ああ、なんでもない」
藤井「外で待っててもぜんぜん来ないから」
珠子「ごめん、ちょっと寝ちゃったかも」
藤井「おきてるんじゃなかったの?」
珠子「もう大丈夫」
藤井「じゃ、行こうか?」
珠子「え」
藤井「一号車」
珠子「あ、ああ・・・」
藤井「だんなさん、探しに行こう」
珠子「・・・うん」
藤井「?」
珠子「・・・」
藤井「どうしたの?」
珠子「あ、いや、ちょっとさっき、鉄さんの夢を見ていて・・・」
藤井「鉄さん?」
珠子「だんなのこと。」
藤井「・・・」
珠子「あんたと同じ山馬鹿でね。南のほうの棚ケ岳ってところに登ったのが最後」藤井「山を登る人間に馬鹿はいない」珠子「ほめことばだよ」藤井「そうなの?」珠子「役者馬鹿、釣り馬鹿、山馬鹿」藤井「ごめん、ドイツにいたのが長くて、けっこう日本の熟語ってやつになれなくて」珠子「ドイツ?」藤井「留学で。」
珠子「なるほど。」
藤井「山でいなくなるなんて、植村直己もびっくりだな。」
珠子「そんなたいした人じゃない」藤井「山を歩いてると無心になれる。山は上に行けば行くほど世界が変わっていくんだ。緑から茶色、茶色から白、そして頂上で青・・・」
珠子「!」
藤井「どうした?」
珠子「同じこと言ってる」
藤井「え」
珠子「鉄さんと同じこと・・・」
藤井「!」
珠子「・・・」
藤井「山登り同士、似てくるのかな・・・」
珠子「・・・」
藤井「まじめで、人がよくて・・・よすぎて、だまされやすい」
珠子「?」
藤井「おれは、友達に約束を破られた。エベレストに登るっていう夢だったのに・・・」
珠子「・・・」
藤井「登りたくて、会社興して商売して、やっとたまった、さあ、行こうって思った次の日にとんずらされた」
珠子「・・・」
藤井「おれの夢ってなんだったんだろう。」
珠子「・・・」
藤井「おれの苦労って・・・なんだったんだろう」
珠子「お互い、逃げられたか・・・」
藤井「?」
珠子「棚ケ岳からはどこを探しても骨は見つかってない。ふもとの登山センターに名前は書いてあるんだけどそのサインが鉄さんのものかどうか、ちょっとあたしでも自信ないんだよね」
藤井「じゃあ、別人がサインしたかもってこと?」
珠子「警察に捜索願も出して、探偵も雇って探したよ。でもいないんだよね」
藤井「だんなさんって平隈の人?」
珠子「川崎の人」
藤井「なら、もし、だんなが一号車に乗ってたとしたら、なんのために平隈に行くんだろう?」
珠子「・・・」
藤井「もし珠子さんに会いたいなら、珠子さんの東京に家に行ったほうがいいんじゃないのかな」
珠子「・・・」
藤井「わからないなあ。だんなさん・・・」
珠子「・・・行こう」
藤井「え」
珠子「鉄さんなのか、それともただのあたしの勘違いなのかはっきりさせてやる」
藤井「・・・うん」
ふたり、はけようとする
そのとき
運転手「はいそれではまもなく発車します」
ふたりとまる
珠子「そんな・・・」
藤井「(運転席に大声で)ちょっとまって、トイレなんだよ」
運転手「時間です。」
藤井「おいおい、女性がトイレ行きたいっていってんだよ!」
沖田、森川イン
沖田「どうしたんですか?」
藤井「ああ、ちょうどいいいところにきた。運転手に向かっていってくれ。珠子さんがトイレに行きたいって」
森川「そろそろ発車でしょう」
藤井「そうだけどさあ」
森川「車内トイレを使えばいいじゃないですか」
藤井「・・・」
運転手「はい、発車します。席についてください」
バスが動き出す
森川「珠子さん、車内トイレ行かないんですか?
珠子「あ、いや・・・」
森川「後ろの左っかわにありますよ」
珠子「あ、うん・・・」
森川「どうぞ、早く」
藤井「(大声で)バッドタイミング野郎たちだな!」
森川「はい?」
藤井「珠子さんのだんなを探しに行こうとしたんだよ」
沖田「そういえば・・・」
森川「一号車にいるかもしれないっていう人ですよね」
藤井「せっかくこれからだってときだったのに・・・」
珠子「もういい」
藤井「でも」
珠子「いい。」
藤井「・・・」
珠子「それと女性にトイレの話するのは、あんまりいいもんじゃないね」
藤井「・・・すまん」
森川「失礼しました」
全員、それぞれの席へ
運転手「おつかれさまです。バスは新田サービスエリアを出まして次は米山サービスエリアにて休憩を取ります。到着予定は二時前後になります。それまではおやすみなさい」
また光が暗くなり始める
藤井「退屈だな・・・」森川「見ますか?」藤井「え」森川「先ほどのお詫びです」珠子「携帯テレビ?」森川「モバイル放送、通称『モバHO!』ってやつです」 森川、モバイル端末を藤井に渡す森川「簡単に言えばアンテナなしで、テレビが五チャンネル、ラジオは明日四月から四○チャンネル聞くことができるんです」珠子「すごい!」森川「時間に都合悪いときなんかは、SDカードで録画録音もできるし、料金は月額定額制ですからいくら見てもお得なんです」藤井「この会社のまわしもの?」森川「いやなら返してください」藤井「うそうそうそ。貸して貸して」森川「お貸しする代わりにさきほどのこと、水に流していただけますか?」藤井「もちろんもちろん」珠子「ったく、調子いいね」藤井「いや~、二中最高!」森川「どうぞ」珠子「ひどいもんね」◎挿入 2007/02/14沖田「現金だなあ・・・」藤井「ひゃっほ~うい」 森川は、貸してから自分の席に戻る 藤井、スイッチをいじるが藤井「あ・・・」珠子「どうしたの?」藤井「なんか・・・『再生』って・・・」沖田「何を再生するんですかね?」珠子「押しちゃえ!」沖田「いいんですか?」珠子「こういうときは押すのが一番」沖田「ええ!」藤井「わかった・・・」 藤井、ボタンを押す珠子「(画面見て)ん?なに、この写真・・・おっさんがいる」沖田「ん(見てて)・・・あ、アメリカの今の大統領じゃないですか」藤井「ほんとだ」珠子「だれかと・・・話してるよ・・・」藤井「次の画面に行ってみようか?」藤井、ボタンを押して次の画面へ行く二枚目の画像が出てきて三人「(絶叫)」藤井「な、なんだこのバケモノは!」珠子「手が、手が!」沖田「日本の妖怪にもこんなのいないですよ」珠子「あ、あのさあ?これって衛星放送なんだよね?」沖田「あの人がいうんだからそうらしいですよ」珠子「じゃあさ、夏の映画の予告編とかかな・・・?」藤井「夏は早すぎるんじゃないの?」沖田「確かにハリウッドなら、春からプロモーションしてもおかしくない」珠子「でしょ?」藤井「なんだかなあ」珠子「次見せて次!」藤井「えい!(ボタンを押す)」珠子「(画面見てて)うわうわうわ!怪物とおっさんが紙にサインしてるよ」藤井「見れば見るほど面白い。よく作られてる。」 そのとき、沖田、端末を奪う藤井「おい!」沖田「(画面をじっと見てる)」珠子「ちょっと見せてよ~」沖田「(見てて)うそっぽくない・・・」藤井「え?」沖田「画像が作り物じゃないっぽいんです」藤井「んな馬鹿な」珠子「わかった!」藤井「なにが?」珠子「この怪物って・・・宇宙人!?」藤井「あんたは矢追純一さんか?」珠子「テレビで見たよ!アメリカの秘密機関が宇宙人と秘密裏に接触してるって」藤井「あのね、UFOとかっていうものはね、みんな作りモンなんだって!タブロイドがネタに困ると、よくやる手口だよ」沖田「合成なんかじゃない・・・」藤井「説明できるのかい?!」沖田「この怪物と背景にCG独特のブレがない。それに特殊メイクとか今の造形技術でもここまでなめらかな、着ぐるみのようなものはできない」藤井「ハリウッドならやりかねないよ!あれほどSFを発達させることに命を燃やした国なんだから」珠子「だから宇宙人なんだって!」藤井「こんな小さい画面でわからないよ!」沖田「小さな画面だからこそごまかしがきかないんです」藤井「・・・」沖田「僕は信じる」藤井「・・・」沖田「断言できる。これは特殊効果じゃ無理です。」藤井「なんでこれが本物だってわかるんだ?」沖田「・・・おれは東京でずっと映像やっていたんです。映像をやる前に写真も勉強しました。」藤井「映像のプロってわけか」珠子「だから監督がどうのとかいってたんだ」沖田「でももう監督じゃありません」藤井「なるほど・・・じゃあ、今度の写真はどう説明するんだ?」 藤井、画面を見せる珠子「車に乗って・・・パレードしてる人が映ってる」沖田「ケネディ・・・?」藤井「この次だ!」 藤井、ボタンを押す そのとき銃声の鳴る音沖田、珠子「!」沖田「まさか・・・」珠子「この人が・・・暗殺犯人・・・?」 顔を見合わせる三人 そのとき森川「なにしてるんですか?」三人「(振り向く)」 森川、つかつかと歩いてきて 藤井の端末をぶんどり、スイッチを切る森川「最低ですね」藤井「なに!」森川「人のSDカードをのぞき見するなんて」珠子「だって『再生』なんてボタンが出て来るんだもん」森川「それがSDカードの再生なんです」沖田「すいません。これの操作になれてなくて」珠子「ごめんごめん」森川「(ため息)」藤井「これだけあやまってるんだからさあ。許してくれよ」森川「許す許さないの問題じゃない」藤井「ず、ずいぶんおおげさだなあ」森川「あなたがたはとんでもない秘密を知ってしまった。」珠子「え・・・」森川「カード、どのくらいご覧になりました?」藤井「怪物とケネディ」森川「共犯ですね」藤井「ふん、古い脅し文句だな」森川「二本も見たんですから」沖田「まだあるってことですか?」森川「この後は中東戦争のときに政府のバックとなった某大企業との密談の議事録。そして最後は終戦後の東京裁判。GHQと日本政府側で交わされたある条件が写ってるんです」藤井「ますますタブロイド的だ」森川「だから僕らは追っかけられてる」三人「・・・」森川「のーんびり、ゆっくりと、確実に追っかけられてる」沖田「さっきの新田で、ピストルの音も聞きました」藤井「そうなのか!?」沖田「パンクとかじゃないと思います。」珠子「そんな・・・」藤井「どうすりゃいいんだ・・・」
そのとき、ふっと沖田が立ち上がる
沖田「シラヌウオをみんなで見に行きましょう」
珠子・藤井「え?」
暗転
第三章
明転
ベンチにいるのは珠子
そこに沖田がやってくる
沖田「飲みます?」
珠子「(受け取って)・・・ありがとう」
珠子、お茶を飲む
沖田もベンチに座る
沖田「米山まで来ると、完全に空気が変わりますね」
珠子「・・・そうね」
沖田「なんか、山の中のにおいっていうか、ずっと子供の頃から呼吸していた空気っていうか」
珠子「本気なの?」
沖田「・・・」
珠子「シラヌウオ探すなんて。」
沖田「森川さんが、確実に見れる方法を知っているらしいんです。」
珠子「本当かなあ」
沖田「ちょっとかけてみたいと思うんです」
珠子「そこまでいうのは、なにかあったから?」
沖田「・・・いや、特には・・・」
珠子「なんだかなあ・・・」
珠子、歩いていく
珠子「でもね。もし本当にシラヌウオを見たとしても、あたしは見たところで間に合わないんだよね」
沖田「?」
珠子「うちの鉄さんに、あたしは会いたいから」
沖田「だんなさんですね・・・」
珠子「もしかなえてくれるなら・・・ここで・・・今この瞬間にかなえてほしいんだ」
沖田「・・・」
珠子「そっくりさんが本当の鉄さんでありますように」
沖田「・・・」
珠子「そして、あたしたちがもう一度会えたことに感謝できますようにって」
沖田「鉄さんですよ」
珠子「・・・」
沖田「一号車に乗ってるのは鉄さんだ。」
珠子「そうだったらいいんだけどね」
沖田「信じましょう」
珠子「・・・」
森川、藤井イン
藤井「トラックの運ちゃんたちでおもったよりトイレ混んでてさ」
珠子「またトイレの話してる」
藤井「あ・・・」
沖田「森川さん、シラヌウオに会える方法を教えてください」
森川「わかりました」
みんなベンチあたりに適当に座る
そのとき
高橋「(絶叫)追いついた~!」
全員「?」
みんな入り口を見る
そこに一人の男
二子田文絵のマネージャー高橋である
沖田「た、高橋さん・・・」
高橋「かんとく~もう逃がしませんぞ」
藤井「だれだあんたは」
高橋「ああ、申し遅れました私、二子田文絵のマネージャーの高橋と申します」
高橋、IDカードを高らかに見せる
藤井「え!あの二子田文絵の!?」
高橋「オリコンチャート三週連続一位の『あの』二子田です~」
藤井「すごいなあ」
珠子「でもなんでそんな人がここに?」
高橋「あ、実はですね、この監督がうちの事務所の契約期間中にもかかわらず、一方的に実家に帰るっていう契約不履行をした挙句、私と愛する二子田に暴言を吐くという大人としてあるまじき行為を働いたので(ですね)」
沖田「ちょっとちょっと」
沖田、高橋を連れて影に
○挿入 2007/02/27 ②
沖田「あんまりしゃべらないでくださいよ」
高橋「しゃべりたくてたまりません!」
沖田「十分しゃべってます」
高橋「どうです?私のカーテクニック」
沖田「え」
高橋「もう、他の車をごぼうぬきのごぼうぬきたった三時間でここまで追いつくことができたんですよ!」
沖田「それぐらいでちょうどいいんじゃないですか?」
高橋「は?」
沖田「売れっ子アーティストのマネージャーなら」
高橋「監督」
沖田「はい」
高橋「帰りましょう」
沖田「状況がわかるでしょ?今はバスにのって」
高橋「東京が監督を待ちわびてるんです」
沖田「待ってるわけない」
高橋「さっき社長にも聞きました。沖田君はなにかに悩んでいたと」
沖田「・・・」
高橋「なにかって、うちら業界のしがらみ、お金、人脈ってやつですか?」
沖田「・・・」
高橋「あと、こんなものを見つけました」
高橋、かばんからひとつの紙を出す
沖田「俺の書いた企画書・・・」
高橋「じっくり読ませていただきました。もちろん、おたくの社長も読んでらっしゃるようです」
沖田「読んでるわけない」
高橋「はい?」
沖田「あんな古臭い映画のしきたりに縛られてる社長なんかにわかるはずないんです」
高橋「そうとはいえなかったりします」
沖田「?」
高橋「この企画書の中のこれ!『命のある映画を作る』」
沖田「・・・」
高橋「社長、とてもその言葉を気にしていました」
沖田「気に入らないからでしょう?」
高橋「逆です」
沖田「?」
高橋「その言葉を載せたからこそ、そんな映画を作ってほしくて社長は監督に厳しく接したのかもしれません」
沖田「・・・」
高橋「命のある映画を作れるクリエイターにするために・・・」
沖田「・・・もういい。」
高橋「映画、作りたくないですか?」
沖田「・・・あきらめたんです」
高橋「監督が育てた、二子田文絵が主演でもですか?」
沖田「・・・」
そのとき
藤井「なにこそこそやってるんだ?」
沖田「(藤井に)今行きます」
沖田、元に戻ろうとする
高橋「監督が東京に戻るまで・・・私は、離れませんから!」
高橋、ぴったりとくっつく
沖田「やめてくださいよ!」
珠子「(それを見て)後輩、そんな気もあったの!?」
沖田「違います!」
藤井「面白い」
沖田「違うってば!」
高橋「監督~!」
沖田、高橋を連れて元に戻る
森川「いいですか?」
沖田「お、お願いします」
森川「そちらのマネージャーの方も見るんですか?」
高橋「見る?」
沖田「あ、ほっといてください」
高橋「ほっとくってどういうことですか~」
沖田「高橋さんには関係ないことなんです」
高橋「ちょっとちょっと~。ここまできて村八分なんてひどすぎますよ」
藤井「いい加減にしてくれないかな!」
高橋「!」
藤井「こんなとこでぐずぐずしてたら、珠子さんのだんな見つけに一号車に行く時間ないだろ?」
高橋「す、すいません」
藤井「バスの中暗いだろうからさ、こうやってペンライトも持ってきてるんだからさ」
珠子「気が利くねえ」
藤井「パーカーの中にたまたま入ってた。山で便利なんだ」
珠子「ありがとう」
森川「じゃあ、手短に説明します。」
森川以外、全員ベンチあたりに座る。
座れない人間はしゃがんでみる
森川「朝、六時四十三分前後に、手賀沼あたりにいきます」
高橋「手賀沼?」
沖田「平隈にある沼のことです」
森川「そして沼の東側にたってですね、みなさんがよくご存知の歌を歌います」
藤井「ご存知の歌?」
珠子「平隈踊りの歌?」
森川「違います」
沖田「民謡とかですか?」
森川「平隈一中の校歌です」
みんな「え?」
森川「♪ひらくまや~ま~に、ひがの~ぼ~り~、
てがぬまの~みなもに~あさひ~さ~す~
わか~い、ちしお、あふ~るる!
いっちゅういっちゅう、わこうどよ!
ああ~わがぼ~こ~お~」
みんな「・・・」
藤井「こ、校歌?」
森川「歌い終わると、沼の底が白く光始めます。その光がだんだん魚の形になっていく
そのときにお祈りするんです」
藤井「でもなんで二中なのにうちの校歌知ってるんだ」
森川「二中は一中の校歌も覚えさせられるんです。」
藤井「すばらしい!」
一中三人「(拍手)」
森川「一中の生徒数が減って、うちと統合したとき困らないように」
藤井「(絶叫)やっぱり敵だ!打倒二中!(つかみかかろうとする)」
沖田「(藤井をおさえて)まあまあ」
藤井「ふん、それにしてもなんで校歌なんだろう」
森川「みなさん、シラヌウオの伝説知ってますよね?」
珠子「幼稚園はいる前から教えられるからね」
沖田「平隈出身の人ならみんな知ってるんじゃないですか」
森川「ここに平隈じゃない人がいます」
藤井「(高橋を見て)あ・・・」
高橋「生まれも育ちも岩手です」
森川「ついでなんで、彼にシラヌウオ伝説を教えてやりましょう」
藤井「めんどくさいよ」
森川「その伝説に答えがある」
藤井「え・・・?」
森川「じゃあ、珠子さんからどうぞ」
高橋「伝説教えてください」
珠子「え?しょうがないね、え~と・・・昔々、平隈は四つの村に分かれていました。そしてその四つは大きく二つ、北部と南部に分けられ、戦国時代のころから田んぼに引く水をめぐって争ってました。」
高橋「ほうほう」
沖田「北部の総大将、一郎太は、ある日ついに南部の敵陣がある、平隈山に攻め入ります」
高橋「へえ」
藤井「一郎太に恐れをなした南部は全員退散していて、もぬけの殻だった。ところがそこになぜか一人の女性がいた」
珠子「それが平姫」
沖田「色白で髪が長くて、もち肌で」
藤井「珠子さんみたいだったと」
珠子「わ!やだね~(照れ)」
藤井「一郎太は、彼女を本陣につれて帰り、自分の嫁にしたと」
沖田「しかしながら、嫁にとったとたん、平隈はひどい日照りになってしまったのです」
藤井「困り果てた一郎太は平姫に
『このままでは北部だけではなく南部もろとも飢え死にだ。どうしたものか』と相談しました」
珠子「すると平姫はいいました
『一郎太さま、私におまかせくださいませ』」
高橋「おもしろくなってきました」
沖田「平姫は翌日の朝早く、平隈山の手賀沼にいきます。そしてそこで彼女はある詩をよみます」
珠子「平隈山に日が昇り、手賀沼の水面に朝日差す・・・って、あ!」
高橋「はい?」
珠子「これって一中の・・・?」
藤井「校歌の前半だ!」
沖田「そうか!」
森川「ね?」
藤井「さっぱり意識してなかったよ!」
珠子「あたしも」
森川「僕もずっとそう思っていたんです。だから、最初のころは、沼の前で平隈の民謡とか歌ったりして」
沖田「そりゃ来るわけないはずだ」
高橋「話の続きを教えてください!」
珠子「詩を読むと、あんなにかんかん照りだった空がいつのまにやら黒い雲に覆われてきます」
藤井「恵みの雨が三日三晩ふった。」
沖田「おかげで平隈四村は救われました」
藤井「一郎太は感激して急いで平隈山に上った。。
『平姫!平姫!』」
沖田「家来を動員して必死に探しました」
珠子「しかし、どこを探してもみつからなかったのです」
藤井「『平姫!!!!!!!(号泣)』
高橋「なるほど」
沖田「悲しみにくれたその後、村人の間で手賀沼に白くて光る大きな魚が出るといううわさがでたんです」
珠子「人々はきっとその白い光る魚は手賀沼の主として現れた平姫なのだろうと思い、シラヌウオと呼び、見ると必ずお願いをするようになったそうな」
森川「はいめでたしめでたし」
高橋「泣けてきますね」
沖田「そうですか?」
高橋「まるでロミオとジュリエット!(泣き始める)」
藤井「かなり違うと思うけど」
高橋「監督!」
沖田「その呼び方やめてください」
高橋「ハンカチを車に置いたんで取ってきますから!」
沖田「はいはい」
高橋「絶対に逃げないでくださいよ!」
沖田「いってらっさい」
高橋「逃げたらご実家までごぼう抜きです!!!!」
高橋、はける
藤井「間違ってる上に泣けるなんて」
珠子「幸せね・・・」
藤井「じゃあ、珠子さんそろそろ行こうか」
珠子「そうだね・・・」
藤井「じゃあ、行ってくるよ」
沖田「先に二号車に戻ってますね」
それぞれが移動しようとする
そのとき
珠子「そうだ」
藤井「?」
珠子「森川さんだっけ?」
離れようとしてる森川気づく
森川「はい」
珠子「シラヌウオになんてお願いしたの」
森川「それはいえません」
藤井「願いかなえたんだろ?」
森川「そうですけど」
珠子「教えてよ。この際だから」
森川「将来、世界の度肝を抜くようなことをする男になりたい」
珠子「なるほど」
森川「度肝抜くために今日ここにいます」
藤井「そうかわかったぞ!」
藤井、森川のもとへ
藤井「それがさっきの写真なんだな」
挿入2007/03/03
森川「・・・」
藤井「・・・どうした?」
森川「僕は、世界を変える。」
藤井「なんだと・・・」
森川「写真を公開して、隠されてきた歴史の真実をあきらかにする。」
藤井「・・・」
森川「僕は思うんです。みんなが秘密というものを公にすることによって、世界がかわるって。」
沖田「なんでそう思うんですか?」
森川「秘密っていうのは、自分にとって都合よくないものだったり思い出だったりする。そんなのって僕が思うにどうでもいいようなことだと思うんです」
沖田「・・・」
森川「東京を思い出してください。だれかがこれがおいしいといえば、みんなそれを食べる。
同じ服を着て、同じ人生に満足する。
人と違うことをするとすぐにたたかれる。だから、自分を隠して周りとおんなじになろうとする。
つまんなくないですか? 僕だったら絶対につまらない。」
沖田「・・・」
森川「秘密がなくなれば、人はみんな違うことがわかる。そうしたほうがもっと面白く生きてていけると思うんです」
藤井「そこまで言うなら、まずはあんたのことを教えてくれ」
森川「・・・」
藤井「おれは、あんたのことがわからない」
森川「僕は警視庁機密情報捜査局にいました。そこから、アメリカのある機関に研修に行ってたんです」
沖田「ある機関?」
森川「さっきの写真が預けられてるような機関。そしてぼくらの命を狙ってしまうような機関です」
沖田「そこで写真を・・・」
森川「このカードにコピーしました」
藤井「くだらない」
森川「?」
藤井「あんな写真ごときで世界が変わるなら、おれはとっくにエベレストを制覇してるだろうよ!」
森川「僕はシラヌウオを見てますから」
藤井「そんなのかなえるもんか!」
森川「・・・」
藤井「あんたのちっちゃな自己満足だけなら、世界どころか東京は変わらない」
沖田「首都高走ってるとき、外を見ませんでしたか?」
森川「目をつぶってました」
沖田「残念です」
森川「飛行機で疲れてたんですよ」
沖田「あの景色をみたら、おんなじだなんて思わなくなります」
森川「・・・」
沖田「明かりの奥でみんな必死で違う人生を送ってるんです」
森川「・・・」
沖田「後ろの人たちに、SDカード返しましょう。」
森川「今さらなにを(いってるんですか)」
沖田「警察にいきたくないんでしょ?」
森川「返した瞬間に・・・僕は殺されるかもしれないんですよ」
珠子「いいんじゃない?」
森川「珠子さん・・・」
珠子「身から出たサビ。」
森川「・・・」
珠子「世界をびっくりさせるくらい度肝を抜くってことは、命がかかるんだよ。」
森川「・・・」
珠子「返す度胸もないの?」
森川「・・・今は、返せません」
藤井「いつなら返すんだよ」
森川「平隈を見させてください」
みんな「・・・」
森川「なつかしい平隈山を、手賀沼を、あの景色を・・・」
珠子「・・・朝までよろしく」
森川「・・・いいんですか」
珠子「・・・そのかわり、平隈バスセンターに着いたら、返してきなよ」
森川「・・・」
珠子「あんたのやりかたであたしもシラヌウオを見る」
森川「珠子さん・・・」
珠子「さあ、一号車に行って来るよ」
藤井「おう・・・」
珠子「あ、あんたいらない」
藤井「!」
珠子「あたしひとりでいってくるから」
藤井「大丈夫なのか?」
珠子「・・・」
藤井「さっきのサービスエリアのときに珠子さん軽く寝て夢を見て、あれほどまで騒いでいたじゃないか」
珠子「大丈夫」
珠子「あんた連れて乗り込んで・・・で・・・、ぜんぜん他人だったら恥ずかしいもん」
沖田「だれも笑いません」
珠子「後輩・・・」
沖田「珠子さんのだんなさんを見ますよ」
珠子「ありがとう。」
沖田「・・・」
藤井「・・・」
珠子「あたしね。ずっと一番好きな人に、愛せてる人に会える気がするんだ」
藤井「・・・」
珠子「聞きたいことたくさんあるしね」
みんな「・・・」
珠子「じゃあね」
森川「珠子さん」
珠子「あ、きつくいっちゃってごめんね」
森川「珠子さん」
珠子「なに?そんなについていきたいの?あんたには見せたくないよ」
森川「時間です」
珠子「!」
森川「二号車に戻らなきゃならない時間です」
珠子「そんな!」
藤井「(時計を確認して)ほんとだ」
沖田「これじゃ、今行ってもうちらの二号車には戻って来れない」
珠子「・・・」
森川「とりあえず、戻りましょう」
藤井「待て」
森川「え」
藤井「休憩伸ばしてもらうように口説いてくる」
森川「やめましょう」
藤井「お前に珠子さんの気持ちがわかるのか!」
珠子「あんたこそあたしの気持ちがわかるの!?」
藤井「!」
珠子「あたしのせいで平隈につくのが遅くなったってわけにはいかないよね・・・」
森川「戻りますか?」
珠子「・・・平隈バスセンターで・・・見るしかないか・・・」
森川「戻りましょう」
珠子「・・・」
森川「僕らが動かない限り、永遠に平隈につきませんよ」
珠子、うなづく
藤井、森川、珠子がバスに戻ろうとする
そのとき
沖田「珠子さん」
珠子「?」
沖田「一号車に乗ってください」
珠子「え」
森川「無理なこと言わないでくださいよ」
沖田「いいんです」
森川「一号車に乗れば、出発前に人数の確認をするでしょう。満員で全席埋まってるはずなのに、ひとりだけ通路でうろうろしていたら、確実にばれるじゃないですか」
沖田「ひとつだけごまかせる方法がある!」
森川「そんなのはない!」
沖田「トイレ!」
森川「え」
沖田「車内トイレです」
珠子・森川「!」
沖田「どうかここから走っていってください。入ったらすぐに車内トイレを目指してすぐに入ってください」
藤井「面白い・・・」
沖田「運転手が人数確認し終わったら、ゆっくり出てください。そのあと車内を全部見てください」
珠子「・・・」
沖田「迷ってる暇はありません」
珠子「・・・わかった!」
珠子、走り出す
藤井「ちょっと待った」
沖田「急がないと!」
藤井「忘れモンだ!」
藤井、ペンライトを投げる
珠子、それを受け取る
珠子「ありがとう!」
珠子、完全にはける
森川「いっちゃいましたね・・・」
沖田「ええ」
藤井「会えるかな?」
沖田「会えますよ」
藤井「?」
沖田「たぶん」
藤井「本当に面白いな」
沖田「戻りましょうか」
ふたり帰ろうとする
森川「珠子さんのかわりはどうするんですか?」
沖田「!」
藤井「そうだ!」
森川「一号車はともかく、二号車はどう考えても僕ら三人しかいませんよね」
沖田「それは考えてなかった!」
藤井「おい!」
森川「人数確認,、もめますよ」
沖田「どうしよう・・・」
藤井「今度はおれたちが平隈に帰れないのか・・・」
ふたりがっくり座る
そこに
高橋「ロミオとジュリエットは終わったんですか?」
高橋が、涙を拭きながらやってくる
三人「(顔を見合わせる)」
高橋「もっともっと感動するお話、聞かせてください!」
沖田「高橋さん?」
高橋「お、今度は監督が話す番ですか?」
藤井「あんた、バスに乗らないか?」
高橋「バス?」
沖田「お話は、バスの中で話したいなあ、なんて」
高橋「でも、僕には愛するごぼう抜きの車が」
藤井、沖田、高橋のサイドにぴったりつく
高橋「え?え?」
沖田「ま、春の夜は長いし」
高橋「冬のほうが長いような気がします」
藤井「面白いお話を聞かせてあげるから!」
沖田「せーの!」
ふたり、合図で高橋の腕をがっちり固定
高橋「ちょ、ちょっと!」
藤井「(沖田に)こいつで大丈夫なんだろうな?」
沖田「新宿二丁目にいるのを見たことがあります」
高橋「え?今から新宿に戻るの!?
沖田「(藤井に)行きますか」
藤井「行かれますか!」
森川もあわせて三人、高橋をがっちり組んではける
高橋「(絶叫)私の、私の、ご、ごぼうぬきちゃ~ん・・・ 」
暗転
第四章
暗転中
運転手「はい、そろいましたか?」
男四人「は~い」
運転手「それでは発車します。これより二時間ほどで平隈バスセンター到着です。
高速道はそれほど混んでおりません。予定どおり六時二十分到着予定です」
明転
森川、沖田、藤井、それぞれの席に座ってる
藤井「あと少しだなあ」
沖田「ええ・・・」
森川「結局、一睡もできなかった」
藤井「あんたは最初から寝てただろ?」
森川「うそ寝です」
沖田「そうだったんですか!?」
森川「正直な話・・・後ろの人たちが、気になっちゃって・・・」
藤井「ぜんぜんそう見えなかった」
森川「いつ攻撃してくるかわかんないじゃないですか。だから余計に。」
藤井「まあ、そうだよな」
沖田、後ろにたっていって
沖田「(窓から覗いて)まだいますね」
藤井「まったく懲りない奴らだ」
森川「そういう機関ですから」
沖田、戻る
森川「うらやましいですね」
藤井「だれが?」
森川「(前の一号車の方向を見る)」
沖田「珠子さん?」
森川「山で失踪しただんなさんを今でも信じてるなんて」
みんな「・・・」
森川「僕にはそんなに信じられる人いないから。」
沖田「会えますよ」
森川「そうですか?」
沖田「おれは東京で映画のことだけ考えて生活してました。だから友達もいないし恋人もいない。」
藤井「さびしいなあ」
沖田「いや、でも、そうやってやりたいことだけでもずっとひとつ突き進んでいくと、そこに魅力を感じた人、それにいっしょになってやってみたい人ってのが必ずついてくる。」
藤井「・・・」
沖田「おれはそうやって二子田文絵に会いました」
藤井「なるほど」
沖田「藤井さんだっていつか会えますよ」
藤井「おれは土壇場で裏切られたけど」
沖田「そういうときもあります」
藤井「ふん、なんだそりゃ」
沖田「大切なのはひとつだけやること」
藤井「・・・」
沖田「森川さんも、SDカードを返したら、なにかひとつ、また考えてみればいいじゃないですか」
森川「なにかひとつ・・・」
沖田「みんなをそんなにびっくりさせたいなら、ほかにもいろんなことがありますよ。」
森川「・・・」
沖田「あ、まあ、おれは、映画監督になるっていうのはあきらめましたけど」
藤井「平隈で作ればいい」
沖田「え」
森川「そうです。平隈で作ってくださいよ」
沖田「それは・・・」
藤井「なにも東京くんだりまで行かなくてもいい。パソコンだってあるんだろ?フィルムがなけりゃビデオ映画でもいいんだ。あとでパソコンで編集すればいいし、そういう賞レースだってあるじゃないか。」
沖田「・・・」
藤井「平隈でやっちゃいなよ」
沖田「・・・」
そのとき
森川「(窓を見て)高速、降ります!」
藤井「(窓を見て)ほんとだ」
沖田「平隈かあ・・・」
みんなずっと窓を見てる
沖田「見ちゃうんですよね。こうやって、なんにもなくても」
藤井「(窓を見て)ああ・・・」
沖田「電車で帰るときは、大羽田駅くらいからずっと窓を見ちゃいます」」
藤井「あんたはいつでも窓を見てたじゃないか」
沖田「あ・・・」
藤井「まあな、平隈の朝が誰よりも一番に見られるおれたちって幸せだよな」
沖田「そうですね・・・」
森川「(窓を見ながら)本当に・・・何年ぶりだろう・・・」
藤井「俺は盆正月はなんとか帰ってたからなあ」
沖田「帰れるってのはいいですね」
藤井「今年の正月はどうしてた?」
森川「僕はひたすら勉強勉強でした・・・」
沖田「俺は編集でサウナだったと思います」
藤井「つまんない年越ししてるね」
高橋「つまんないなんてことはありません!」
トイレから高橋が出てくる
スカート姿で
高橋「監督をなんて人だと心得てるんですか!」
沖田「いいですから!」
高橋「ミリオンセラーアーティスト二子田文絵の(芸能界での育ての親ですよ!)」
藤井「(かぶせて)いつまでそんなんでいるんだよ!」
高橋「あなたがたがいつまでたってもお話してくんないからでしょ!」
藤井「最初だけでよかったんだから」
高橋「なんで私があのおばさんの真似をしなきゃならないんですか!」
森川「はい、脱いで脱いで」
高橋「答えてくださいよ!」
沖田「それにしてもよく持ってましたね」
森川「八重洲で買ったんです」
沖田「あんなところで?」
森川「なにか事が起こったら、変装すればいいかなって」
藤井「でもオンナに化けることないだろ?」
森川「アメリカで研修したから。」
沖田「研修どおりに現実はいかないですよ」
森川「完璧です」
沖田「でも森川さんのスカート姿見たいかも」
森川「好きでやってるんじゃないです!」
藤井「想像したら、面白い」
森川「ちょっと!」
高橋「わ、私のはどうだったですか?」
藤井「外は寒いのかな?」
高橋「おーい」
沖田「まだ桜が咲いてないとか聞きましたよ」
藤井「盆地だからまだ寒いんだよね」
高橋「足が寒い・・・」
森川「桜が咲かなくても、十分春ですね」
藤井「え?」
森川「平隈山・・・」
ふたり「あ・・・」
沖田「霧だ・・・」
藤井「春先はよく霧がかかるんだよな・・・」
三人、平隈山をずっと見る
ふと
沖田「バスセンターが見えてきました」
森川、モバイル端末からSDカードを取り出す
そしてじっと見る森川
藤井「いよいよだな・・・」
沖田「しっかり返してくださいよ」
森川「・・・怖いなあ」
藤井「今さらなんだよ!」
森川「だって・・・あんなに苦労してコピーしたのに・・・」
藤井「もし渡さなかったら、俺があんたをあいつらに引き渡す」
森川「え・・・」
沖田「返しましょう」
森川「・・・」
沖田「(肩をたたく)」
森川うなづいて、かばんを持って、外へ
全員、片付けながら、外へ
暗転
暗転中に、舞台上、ペンライトの明かりが見える。
明転
珠子が必死になって鉄太郎を探している。
そのとき
鉄太郎(声のみ)「やっと会えた・・・」
珠子「え・・・」
鉄太郎「珠子」
珠子「鉄さん・・・」
鉄太郎「ごめんな。」
珠子「・・・」
鉄太郎「棚が岳から降りる途中でがけから落ちて・・・」
珠子「・・・」
鉄太郎「そのときの衝撃で、ついこの間までずっと記憶をなくしていたみたいだ」
珠子「・・・」
鉄太郎「靴を見てお前を思い出した。傷ひとつない、ぴっかぴかの登山靴だ」
珠子「・・・」
鉄太郎「おれのかみさんは・・・日本一の・・・靴磨きだったってな」
珠子「あたし・・・あたし・・・」
鉄太郎「・・・」
珠子「会いたかった!・・・」
通路にくずれる珠子
鉄太郎「・・・」
珠子「死んだことになってるくらいなんだよ」
鉄太郎「ああ」
珠子「お墓も・・・仏壇もあるんだよ」
鉄太郎「話には聞いてる」
珠子「でも信じてた。だって骨がないんだもの・・・」
鉄太郎「・・・」
珠子「ずっと・・・ずっと信じてたよ。鉄さんのこと」
鉄太郎「ありがとう・・・」」
珠子「・・・(顔を見て)やせたね・・・」
鉄太郎「長い病院暮らしだったからな・・・」
珠子「そう・・・」
鉄太郎「お前のふるさとは、平隈だったなあ?」
珠子「ええ」
鉄太郎「そこにいったら、お前に会えるような気がしてな。病院から出たら一目散に切符を買ってたよ」
珠子「うん・・・」
鉄太郎「珠子」
珠子「・・・」
鉄太郎「いっしょに・・・たくさん・・・話そう」
珠子、となりになにごとか話す
チェンジ
こちらはバスセンターの外
ひとりで降りてくる森川
森川、ふと前を見る
車のドアが開く音
森川、それをじっと見てから
ゆっくりとホールドアップ
森川「ひさしぶりですね」
FBI「・・・」
森川「ご苦労様です。」
FBI「・・・」
森川「・・・返しに来ました」
FBI「・・・」
森川、SDカードを地面に置く
森川「これでいいでしょう?」
FBI「・・・」
森川「(しびれを切らして)取らないんですか」
FBI「・・・」
森川「じゃあ(帰ろうとする)」
FBI(声のみ)「殺したかったなあ」
森川「・・・」
FBI「つまらない。返しちゃうだなんて」
森川「その弾は、もっと世界平和のために使ってください」
FBI「・・・」
森川「途中のサービスエリアで脅しに使うなんて」
FBI「・・・」
森川「僕だったらあんなところで使いません。なぜならあなたよりも研修中の成績、よかったもんで」
FBI「・・・相変わらず皮肉屋ですね」
森川「・・・」
FBI「どうです?もう一度われわれと一緒に」
森川「やめときます」
FBI「・・・」
森川「僕には・・・もう・・・次がある」
森川、はける
暗転
銃声
暗転中
藤井「ほらもうちょっとがんばれ!手賀沼が待ってるぞ!」
○挿入 2007/02/27 ③
明転
ここは平隈山手賀沼
藤井、先に着いてみんなを待ってる
そこに
沖田「ついた~」
みんな、ついたとたん、地べたにすわりこむ
藤井「あんたら、絶対エベレストは無理だな」
珠子「エベレストは狙ってませんよ~だ」
沖田「夜中ずっと起きていて、山登りってのはこんなにきついもんなんですね」
森川「確かに」
藤井「おいおい!こんな小学校の登山レベルでギブするようじゃ、もうじいさんもいいとこだぞ!」
沖田「肉体は(息切れ)確実に歳を取ってますから」
珠子「あんた、時間は?」
森川「けっこう早く着いちゃいましたからね。あと十分くらいは大丈夫です」
珠子「それまで一休みしよ!」
みんな一休み
そこに遅れて高橋到着
高橋「お話聞くだけっていったのになんで山登りしなきゃならないんですか!」
藤井「こんなんは山じゃない!ほんとの山ってのはなあ」
珠子「山馬鹿の話は聞きたかないよ」
森川「そうだ、だんなさんには」
藤井「会えたの?」
珠子「・・・会えた」
藤井「ほんとに?」
珠子「うん・・・」
藤井「すごい!」
珠子「今、病院に行ってるんだ」
藤井「へえ」
珠子「記憶喪失だったんだって。それでね(アドリブで声を小さくしてく)」
みんなが、そこで聞いてる
三人、そこでやりとりしてる
高橋、沖田のところへ
高橋「監督」
沖田「はい?」
高橋「考えていただけました?」
沖田「ああ・・・」
高橋「このあと、私は一度米山まで戻ります。車とって来るんで」
沖田「そのまま東京に帰ってください」
高橋「なんでですか」
沖田「こっちでのんびり映画作ります。」
高橋「失礼ですけど、こんなとこのどこでフィルムが売ってるんですか?」
沖田「大羽田までいけばなんでもありますよ」
高橋「監督」
沖田「大丈夫。きっと作る」
高橋「カメラもスタッフもいない、それにいい役者をそろえる事務所もない」
沖田「わかんないですよ。一中の演劇部にはすごい大物がいるかもしれない」
高橋「それって、人脈じゃないですか?」
沖田「・・・」
高橋「OBという人脈を使って映画を作るってことですよね。監督もしっかり使ってるじゃないですか」
沖田「こっちはそんなに汚れてない」
高橋「お金も監督の貯金でも使うんですか?」
沖田「まあ、そうでしょうね」
高橋「それじゃあ、まったく同じでしょう?」
沖田「・・・」
高橋「いい意味でも悪い意味でもしがらみや人脈そしてお金がかかわる世界で働いてる。それを『汚れてる』といわれりゃそれまでかもしれない。でもそんな世界だからこそ、見てる人に夢のあるものを作ろうと思うんじゃないですか?」
沖田「・・・」
高橋「楽しいだけで作品は作れない。作るつらさ、産みの苦しみ、作ったとしても人に叩かれる。その先に唯一の私たちの救いとしての夢のある作品がある」
沖田「・・・」
高橋「うちの二子田で、夢のある、命のある作品を作りませんか?」
沖田「僕には無理です。」
高橋「・・・」
沖田「あの勢いと彼女のパワーを、命ある作品にまとめられるかどうか・・・」
高橋「もちろん、監督ひとりじゃいい映画はできません。私はすでに、最高のスタッフと、最高のキャストをそろえました」
沖田「・・・」
高橋「みんなで一緒に、日本アルプスの山小屋を舞台に、夢破れた二子田ふんする女のヒューマン作品を作ろうではありませんか!」
沖田「それって、おれの書いた企画書のストーリーじゃないですか!」
高橋「準備万端ですから」
沖田「・・・」
高橋「車とってきたら、ご実家前にいきますね」
沖田「でも・・・」
高橋「社長が言ってました、あいつが力づくでももどってこなかったら、一度ひいてみろって」
沖田「社長・・・」
高橋「ひいてみます。」
沖田「・・・」
高橋「あと、よければ、山での撮影なので、山のことをよく知っている人を紹介してください。じゃ」
高橋、はけながら
高橋「ちょっとお先します」
珠子「あれ?シラヌウオ見ないの?」
高橋「うちのわがままタレントたちが待ってるんで~」
高橋、完全にはける
藤井「(沖田に)なんか迷ってる?」
沖田「いや、そんなことは(ないですよ)」
藤井「山登りの先輩から聞いたんだけどさ、迷ったときには、ふもとまでもどってみることなんだそうだ」
沖田「・・・」
藤井「山のたとえばかりで悪いけどね。ただ、よくいうその場で立ち止まって考えたり、地図を見たりするよりは、いっそおもいきってふもとまでもどる。
つまり、あんたの本当の心に聞いてみるんだよ」
沖田「心に・・・聞く・・・?」
藤井「迷ってたとしても実は自分の道ってもんはもう決まってるから」
沖田「・・・」
そのとき
森川「そろそろはじめます!」
全員、一列に並ぶ
森川「では、一中のみなさんのだれかお願いします」
珠子「え?」
森川「僕はあくまでも二中ですから」
藤井「がんこものめ!だから頭ばっかりよくてそれ以外なにもできないんだよ!」
森川「時間すぎちゃいますよ」
藤井「なんだよ!平隈で朝から銃騒動やりやがって」
森川「びっくりしたでしょ?」
珠子「あ!」
藤井「え」
珠子「あんた・・・あれが度肝を抜いたってこと?」
藤井「そうか!」
森川「あれは入りません」
珠子「なんだ」
森川「単に僕よりも成績悪いやつが銃ぶっぱなしてつかまったってだけですから」
藤井「ひとことひとことがむかつくな」
森川「時間ないですよ」
沖田「だれがやります?」
珠子「そりゃもう、ひとりしかいないでしょ?」
沖田、珠子じっと、藤井を見る
藤井「お、おれ?」
珠子「あたりまえじゃん」
沖田「お願いします」
珠子「かっこいいあんたをみてみたい」
藤井「そ、そう?」
森川「よろしくお願いします」
藤井「で、では」
藤井、前にそして
藤井「(かまえて)平隈一中~!」
全員「おー!」
藤井「校歌~斉唱~!」
全員「お~」
藤井「♪ひらくまや~まに、ひがのぼ~り、はい!」
沖田・藤井「♪ひらくまや~ま~に、ひがの~ぼ~り~」
沖田・藤井・珠子「 てがぬまの~みなもに~あさひ~さ~す~」
みんな「 わか~い、ちしお、あふ~るる!
肩を組むみんな
みんな「いっちゅういっちゅう、わこうどよ!
ああ~わがぼ~こ~お~」
藤井、しっかりとシメる
全員、じっとしてる
そのとき光が
珠子「ま、まぶしい!」
光はだいぶ強くなってくる
森川「時間がありません。早く祈って!」
みんな、それぞれの祈りのポーズ
大きな音
そして、光はひいていく
ゆっくり目を開くみんな
珠子「し、シラヌウオ・・・」
藤井「本当にいたとはな・・・」
沖田「だれかしっかり見ましたか?」
珠子「目をつぶってたから見てないよ」
藤井「俺も」
沖田「おれも見れませんでした」
藤井「だいたいにしてさあ、あいつが早く早くってせかすからさあ」
森川「僕も見てませんよ」
珠子「あんたはどうせ大学生のときにでも見たんでしょ?」
森川「見てないんです」
みんな「え!」
森川「今回も見れませんでした」
藤井「じゃあ、」
珠子「本当にあれがシラヌウオなのかは」
沖田「わからないってことですか?」
森川「・・・」
珠子「おい!」
森川「・・・でもまぶしかったでしょ?」
藤井「そりゃそうだけどさ」
森川「僕の仕事はこれで終わりました。じゃ」
藤井「なにをお祈りしたかくらい教えてよ」
森川「秘密です」
森川、はけようとする
森川「あ、沖田さん」
沖田「?」
森川「命のある映画、とってくださいね」
沖田「!」
森川「映画館に行くのが楽しみだなあ」
森川、はけていく
藤井「なんだかなあ」
珠子「あたしもそろそろいくよ」
藤井「なんだ、もう少しゆっくりしていけば」
珠子「ごめんね。」
藤井「じゃあ、なにをお祈りしたかだけでも」
珠子「無理無理。」
藤井「そんなあ」
珠子「今はね、鉄さんと早く話したいんだ。」
藤井「・・・」
珠子「あのころ話せなかった話を全部して・・・時間をもどしていきたい」
藤井「・・・」
珠子「じゃね」
珠子、はける
藤井「(沖田を見る)」
沖田「(藤井を見る)」
藤井「ゆっくりしていく?」
沖田「いいですよ」
藤井「さっき、なんってお祈りした?」
沖田「それは秘密ですよ」
藤井「いいじゃない。ちょっとくらい教えてよ」
沖田「藤井さんこそ教えてくださいよ」
藤井「おれは秘密」
沖田「ひどいなあ」
藤井「誰も『もう一度山に登れる日がきますように』なんていってないよ」
沖田「おもいきり言ってますね」
藤井「・・・」
そのとき、沖田の携帯電話がなる
沖田「もしもし」
高橋「(声のみ)監督」
沖田「どうも」
高橋「見つかりました?」
沖田「ああ、シラヌウオ」
高橋「なに寝ぼけたこといってるんですか。」
沖田「え」
高橋「山に詳しい人ですよ」
沖田「ああ、山に詳しい人ねえ・・・」
沖田、藤井を見る
藤井「!」
藤井も沖田を見る
高橋「帰り際に言ったでしょう?いないなら東京山岳連合から(見つけますよ)」
沖田「(かぶせて)いる!」
高橋「はい?」
藤井、電話を分捕る
藤井「山に詳しい人です」
高橋「あれ?さっきの」
藤井「申し遅れました!藤井といいます!」
高橋「私にスカートをむりやりはかせた人ですね!」
藤井「なんのことでしょう?」
高橋「あのねえ、あんたのせいでね(私はうんぬんかんぬん)」
藤井「(かぶせて)山のことはすべておまかせ!」
高橋「・・・」
藤井「エベレストも登る予定だった男、この藤井達郎によろしくお願いします!」
高橋「お話をしましょう」
藤井「それではぜひ、平隈駅前の喫茶『純子・オブ・ニューヨーク』でお待ち申し上げております!」
藤井、ぶちっと携帯をきる
沖田「あ、きっちゃだめ!」
藤井「なんのことだ?」
沖田「まだあの人に伝えてないことがあったんですよ」
藤井「いいじゃないいいじゃない」
沖田「ほんと勝手だなあ」
沖田、電話をかけようとする
藤井、それを切る
藤井「映画つくりを断る電話をかけてさっさと実家でお休みしたいところだろうが、一緒にうちにきてくれ」
沖田「うち?」
藤井「『純子・オブ・ニューヨーク』。純子は俺のおふくろだ」
沖田「・・・」
藤井「命のある映画を作りたいんだろ?さっき、あの森川なんたらがいってたじゃないか」
沖田「・・・」
藤井「おれは山であんたの映画に命を入れる。あんたはカメラの奥で命を入れろ」
沖田「・・・」
藤井、肩をたたいて帰っていく
舞台上に沖田ひとり
沖田、沼を見る
沼はもう光ってない
朝日が昇ってるだけだ
沖田「映画を・・・作らせてくれるのか?・・・」
沼は静かだ
沖田、携帯を取り出す
電話をかける
沖田「もしもし・・・
あ、平隈中央交通の予約センターですか?
あの、今夜の東京行きの深夜バスってあいてますか?
・・・あ、はい、新宿か八重洲で・・・えっと大人ひとり予約したいんですけど・・・はい、あ、
クレジット番号はですね・・・」
沖田、財布からカードを出し、話しながら、はけていく
その顔は決意に満ち溢れている
はけきって暗転
END