2008年5月13日火曜日

天国に一番近い聖夜 -Three Man THE LIVE(2003)&12月の魔法(2007)より-

天国に一番近い聖夜

初演時
おじいさん・・・森憲吾
おばあさん・・・恭香
ボーイ・・・きつな

2007年12月再演時「12月の魔法」
リアレンジ

おじいさん・・・富士河千之介
おばあさん・・・本多美智子

バーテン・・・田辺京市、海老原厚平(オリジナル登場人物。よって下記台本にはなし)

舞台明転
テーブルとイスが二個。
ボーイがテーブルをふいてる
ここはある町のレストラン。時間は午後六時をすこしまわったところ
そこにひとりのおじいさんがやってくる
ドアを開ける。
ゆっくりと店内を見回し、席があることを確認する
そしてまたもゆっくりイスを引き、ゆっくり座る
ゆっくり息をつきながら、またゆっくり見回す
ふと外に気づくと、おばあさんが立っている
どうやら奥さんのようだ。
おばあちゃんは無表情だ
おじいさん、にこやかに笑いながら、手招きをする
おばあさん、無表情で、ドアをあけ、店内に
おじいさん、立ち上がり、おばあさんをエスコートする
おばあさん、おじいさんよりもゆっくりとした速さで席へ。
おじいさん、気を利かしておばあさんのイスを引いて、座りやすいようにする
おばあさん、立ったまま
おじいさん、座るように手で促す
おばあさん、気づかず。
おじいさん、わかりやすいように、かなりイスをひく。
おばあさん、やっと座り始めようとする
おじいさん、あわてて、押し戻す
おばあさん、また立ってしまう
おじいさん、苦笑い
そんなやりとりを数回繰り返して、ついにおばあさん、座る
おじいさん、席に戻る
ボーイがやってきて、水を出す
おじいさん、ボーイからメニューを受け取る
おばあさん、だまったまま。
おじ「ケーキをワンホール」
ボーイ「かしこまりました」
ボーイはける
注文を終えて、にっこりおばあさんを見る
おばあさん、いきなりバックからプレゼントらしきものを取り出す
おじ「あ、ま、待て・・・」
手で制し、にっこり
おばあさん、まだ無表情。
どうやら、おばあさんなかなかしゃべれないらしい
おじいさん、にっこり笑いながら
おじ「毎年・・・わたしからだろう?」
おば「・・・」
おじ「(耳が遠いので大声で)毎年、わたしからだろう?」
おば「・・・」
おじ「プレゼント交換」
おば「(ゆっくり去年のことを思い出して、二回うなづく)」
おじいさん、足元のかばんから、プレゼントをとりだす
小さなプレゼントだ。
にっこり笑いながら、差し出す
おばあさん、テーブルの上にあるプレゼントをゆっくり見る
おじ「ほら」
おば「・・・」
おじ「あけてみて」
おばあさん、震える手で包装紙とリボンと格闘
あかない
おじいさん、しかたなく手伝ってあげる
あいた
おば「・・・」
おじ「口紅だよ」
おばあさん、口紅をとりだし、ふたを開ける
中をくりだし、色をしみじみと確認する
おじ「どうだい?」
おば「・・・」
おじ「今はやりの○○○(色)」
おば「・・・」
おじ「孫の留美ちゃんみたいな店員さんに・・・押されてしまって」
おば「(じっと口紅を見つめる)」
おじ「気に入ったかい?」
おば「・・・」
おじ「(落ち込んで)気に入らなかったかい?」
おばあさん、口紅を鏡も見ないで、震える手でいきなりぬりはじめる
おじ「おいおい・・・そう、あわてんでも・・・」
おばあさん、グイグイ塗っていく
その勢いはとまらず、ついには唇を通り越して、鼻の下や顎まで、はみだしてしまう
おじ「大きいよ、口が・・・」
おばあさん、手をやっと止める
じっとおじいさんのほうを見る
おば「(悲しげに)」
おじ「・・・」
おじいさん、ポケットからティッシュを取り出し、おばあさんの唇をふいてあげる
そして、おばあさんから口紅を取り
おじ「ぼくが塗ってあげよう」
おじいさん、口紅を取り、塗り始める
うまく、塗り終え、
おじ「ほら、二十は若返った」
おば「(ムッとして)」
おじ「四十は若返った」
おば「(にっこり)」
おじ「(それを見てひとりごと)女は魔物だ・・・」
おばあさん、ふところから、がさごそとプレゼントを出す
おじ「おやおや・・・結構大きいな」
おばあさん、ゆっくりおじいさんの前にプレゼントを差し出す
おじ「はい」
おじいさん、手を出してうけとろうとする
しかし、おばあさん、なかなかプレゼントを手から離さない
おじ「おいおい・・・」
ふたり取り合い
おじ「(大声で)受け取ったよ」
おばあさん、急に手を離す
おじいさん、勢いあまってイスにストン!
おじ「(苦笑いしながら腰をさする)」
おばあさん、ゆっくり腰をおろす
おじいさん、プレゼントをながめてから
おじ「あけてもいいかい?」
おばあさん、うなずく
おじいさん、あける
おじ「!・・・首巻きだ」
おば「(ムッとして)」
おじ「マフラーだ」
おば「(にっこり)」
おじ「(ひとりごと)横文字も好きだな・・・」
でも、おじいさん、手にとってにっこり
おばあさん、席をたち、おじいさんのそばへ
おじ「ど、どうした?」
おば「(そのマフラーを貸せ)」
どうやら、おじいさんにお返しに巻いてあげるつもりらしい
おじ「おお、助かるね・・・」
おばあさん、マフラーをとり、おじいさんの首に巻く
おば「(少し強めに巻く)。」
おじ「うう・・・く、くるしいよ」
おばあさん、気がついて、緩めて巻く
おじ「似合うかい?」
おばあさん、自分の席にもどり、ゆっくりとうなずく
おじ「そうかいそうかい・・・」
おば「・・・」
おじ「ほーほー、あったかいよ」
おば「(うなずく)」
ボーイ登場
テーブルにケーキをおく
ボーイ「ケーキでございます」
おじ「はい」
ボーイ「少々お待ちください」
ろうそくに火をつけるボーイ
二本。
ちょっと驚くが、感動するふたり
ボーイ、グラスにワインをつぐ
ボーイ、はける
おじいさんグラスを取る
おばあさんもグラスを取る
おば「・・・」
おじ「それではクリスマスに・・・」
おばあさん、うなずく
おじ「乾杯」
ふたり、グラスを軽くぶつける
おじいさん、一口飲んでから
おじ「ケーキ、わたしがとりわけようか?」
おばあさん、首を振る
おじ「そうか・・・」
おばあさん、ナイフを手にして、いざ、切ろうとするが、手が震えてなかなか、うまく切れない。
おじ「(みてらんなくて)わたしが切ろう」
おじいさん、おばあさんの手をとる
おばあさん、ナイフを握ったまま、ゆずろうとしない
おじ「ちょ、ちょっと・・・」
ふたり、押し問答
おじ「無理しなさんなって・・・あ」
手を振ったら、勢いあまってナイフが飛んでいく
おじ「あ!」
ナイフが床に落ちる音
おば「(少し怒ってる)」
おじ「す・・・すまないね・・・」
おばあさん、むくれて座る
おじいさん、落ちたナイフを拾い、強く息をふきかけ
おじ「ほれ、これなら大丈夫だろう」
おば「(まだムッと)」
音に気づいた、ボーイがやってくる
ボーイ「どうかなさいましたか?」
おじ「い、いや、あ・・・」
ボーイ「(新しいナイフを持ってきて)ナイフならこれを」
おじ「あ、うん、あ・・・ありがとう」
ボーイ「よろしければ私がお切りいたしましょうか?」
おじ「(手を振りながら)いい、いいよ」
ボーイ「(押されて)そうですか・・・ごゆっくり」
ボーイ、はける
おじいさん、切り分ける
おじ「はっはっは・・・」
おば「・・・」
おじ「(切りながら)よいしょ・・・よいしょ」
おば「・・・」
おじ「(切りながらひとりごちて)なんだか・・・なんだか・・・うまくいかんな、今年のは・・・」
おじいさん、ケーキを小皿にとりわけ、おばあさんの前に置く
おば「(・・・軽く礼)」
おじ「すまなかったね、さっきは。頑固がまた顔をだしてしまって」
おば「・・・」
おじ「食べようか?」
おば「・・・」
おじ「いただきます」
おじいさん、食べ始める
おばあさん、手を震わしながら、食べ始める
おじ「(食べ始めたのを見届けてから)・・・今日は話したいことがあるんだ」
おば「(食べている)」
おじ「前々から考えてたことなんだが・・・来年から・・・戸越の・・・」
おば「・・・」
おじ「あそこに・・・行こうと思ってな・・・」
おば「(一心不乱に食べている)」
おじ「(おばあさんの様子を見ながら考えて)・・・あれだ・・・そのー・・・」
おば「・・・」
おじ「・・・老人ホームに」
おば「(急に上目遣いで食べ始める)」
おじ「あ、いや・・・」
おば「(上目遣いのまま)」
おじいさん、言葉を考え、えらびながら言う
おじ「・・・僕も・・・ばあさんがなかなか動けなくなってから・・・やっと、めし作るようになっただろ?・・・毎日毎日、飯、作って・・・掃除して、寝て・・・たまに散歩して・・・」
おば「(視線を落として食べる)」
おじ「ちょっと・・・さぼってみたくなってな・・・」
おば「(食べている)」
おじ「これからは・・・楽して・・・ふたりで、すごしたいな・・・なんてな」
おば「(食べている)」
おじ「ど・・・どうかな?」
おばあさん、突然手を止める
そして、ゆっくりおじいさんの顔をみて
ゆっくり首を横に振る
おじ「いや・・・か?・・・」
おばあさん、うなずく
おじ「実はお隣の石川さんから、いっしょに行かないかって誘われててな・・・どうかなと思って」
おば「・・・」
おじ「今なら・・・その・・・お友達紹介割引プランってのがあって」
おば「・・・」
おじ「なかなか安いらしいん・・・だけどな・・・」
おばあさん、力強く首を横に振り
おじ「そんな・・・」
おばあさん、立ち上がって、ゆっくりおじいさんの横にイスを持っていく
おじ「?」
そして、おじいさんの首に巻いてあったマフラーを少しほどく
おじ「お、おいおい・・・」
おばあさん、そのマフラーの端を自分の首にまきつけ、隣に座る
ゆっくりとおじいさんの肩に頭を置く
おじ「あ・・・」
おば「・・・」
おじ「答え・・・か」
おば「・・・」
おじ「・・・このままで・・・いいのかい?・・・」
おば「・・・」
おじ「今のまんまで・・・」
おば「・・・」
おじ「僕も・・・いつまでばあさんのめしを作っていられるか・・・わからんよ」
おば「・・・」
おじ「・・・このままで・・・いいのかい?」
おば「(強くうなずく)」
おじいさん、長い息をつく
おじ「・・・昔から・・・こうだったなあ」
おば「・・・」
おじ「僕がわがままばかり言って・・・」
おば「・・・」
おじ「そういう、ばあさんもいつでも、わがままをきかんかったなあ」
おば「・・・」
おじ「今回こそは・・・と思ったけど・・・」
おば「・・・」
おじいさん、おばあさんの頭に自分の頭を置く
おじ「・・・そうか・・・」
おば「・・・」
おじ「そうだな・・・」
おば「・・・」
おじ「そういうもんだな・・・」
おば「・・・」
おじ「こういうのも・・・老人ホームじゃ、なかなかできないもんな」
おば「・・・」
おじ「ふたりだけ・・・」
おば「(うなずく)」
おじ「ふたりだけ・・・」
おじ「・・・来年も・・・ここでプレゼント交換・・・したいなあ」
おば「(うなずく)」
おじ「今日は・・・栄誉ある敗戦だったな・・・」
おば「・・・」
そのときボーイがやってきた
ボーイ「お客様、ラストオーダーですが・・・」
おじ「(時計を見て)」
おば「・・・」
ボーイ「お客様」
おじ「(ゆっくり立ち上がりながら)帰るよ・・・」
ボーイ「かしこまりました」
ボーイ、二人の立つのを手伝う
おじいさん、テーブルにお金をおく
ボーイ「(お金を預かり)少々お待ちください(レジに行こうとする)」
おじ「いや・・・待て」
ボーイ「はい」
おじ「釣りは・・・いらんよ・・・」
ボーイ「しかし」
おじ「(手で制し)少ししかないが・・・帰りに熱いココアでも買って飲みなさい」
ボーイ「あ、いや」
おじ「(受け取らんよ)」
ボーイ「うちは店の規則で」
おじ「(かぶせるように)いいんだ」
ボーイ「・・・あ、ありがとうございます」
おじ「(にっこり)」
おじいさん、コートをおばあさんに着せてから自分のを着る
ふたり、ドアまでやってくる
ドアを開ける
ボーイ「ありがとうございました」
おじいさん、にっこりわらって
おじ「一回、言ってみたくてな・・・」
ボーイ「・・・」
おじ「(軽く笑う)」
ボーイ「・・・メリー・・・クリスマス」
おじ「メリークリスマス」
ボーイ、深々とあいさつ
そして見送る

ふたり歩き出す
しかし、おばあさんが止まる
おじ「ん?」
おばあさん、口をあけ、なにかを言おうとする
おじいさん、聞き取ろうとする
が、かすれ声で聞こえない
また何かを言おうとする
聞こえない
何回かチャレンジして
ついに
おば「(かっこ)・・・よかったよ・・・」
おじいさん、おばあさんを見てにっこりわらう
手をつなぐ
そしてゆっくりと帰っていく
曲、高まる
暗転