2008年5月14日水曜日

Flash & Dive!!

☆ 登場人物
大野 潜 会社員
大野(旧姓松戸)光 元会社員
井上 馨 支配人
大野 真美 潜の母
清流院 秀人(山口高男) ホスト





プロローグ 
 舞台は突然始まる
 潜が光を追いかけてくる
潜「好きなんです」
光「あきらめてください」
潜「光さんのこと、初めて見たときから、こう、胸がズキューンって」
光「聞き飽きた」
潜「きっと・・・飽きるほど、いろんな人に告白されたんでしょうね」
光「今はまだ誰ともつきあわない」
潜「なぜですか」
光「やりたいことがたくさんあるから」
潜「その中に恋愛はないんですか」
光「あります」
潜「なら、僕と」
光「無理です」
潜「好きなひとが」
光「・・・」
潜「いるんですか・・・」
光「いません」
潜「なら、僕と(いっしょになりませんか)」
光「いい加減に(しないと)・・・」
 潜、一気に光の前に出て
潜「僕は光さんをずっと見続けます。」
光「!」
潜「これからずっと。」
光「・・・」
潜「その顔にシワが何本入っても。その細い目がもっと・・・もっともっと細くなっても・・・」
光「(まじめな顔。そしてきいてから、噴き出す)」
潜「・・・おかしかったですか?」
光「(笑って)ええ・・・そんなこと言われたの初めてだったし」
潜「そうですか・・・」
光「そんなにあたしのことが好きですか?」
潜「はい」
光「どこらへんが」
潜「どこらへんって・・・ぜ、全部」
光「明日夜、あいてます?」
潜「え?あ、明日ですか?」
光「すぐ答えらんなかったら、だめ」
潜「え!」
光「あたしは、わがままです。それにすぐ対応できなきゃだめね」
潜「明日は・・・(スケジュールが思い出せない)・・・大丈夫です・・・」
光「ほんとね?」
潜「(やっぱ思い出せない)・・・はい」
光「決まり!六時に新宿フラッグス前。よろしく」
 光、はける
 残された潜、ボー然とするが
潜「・・・やった・・・やった」
 潜、突然の喜びをかみしめる。
 
暗転









第一章最新鋭ホテル&ロックアウト
 ここは東京にある、ホテルの一室
 これから結婚式を迎える大野潜と光が、井上支配人に連れられ部屋に入ってくる
 清掃の男が、最後の掃除をしている
井上「さささ、こちらです」
潜「うわ、広いな」
 男(実は秀人)、はけようとする
男「失礼・・・いたします(ファイルを渡す)」(ハケる)
井上「うん(ファイルをもらう)」
 男はけようとして
井上「おい」
男「はい?」
 ふたり内緒話
井上「・・・直らないのか?」
男「・・・は、はあ・・・」
井上「・・・わかった(井上苦渋の表情)行っていい・・・」
  男、一礼してはける
潜「支配人、どうかしたんですか?」
井上「え?え、あ、いや・・・なんでもありません(作り笑顔)」
 そのかたわらで
光「(鼻をくんくんさせ)・・・?」
潜「ん?」
光「(くんくん)なんか、微妙に・・・」
潜「そんな・・・(鼻をくんくんさせ)なにもわかんないけど」
井上「さきほどまで見てのとおり念入りに掃除してまして、消臭作業も、とどこおりなく済んだと報告を受けましたが(ファイルを見せる」
光「うーん、どこかで、かいだような感じなんだけど・・・」
潜「こんな立派なスイートルームでそんなことは」
井上「ないとは思いますが・・・」
光「(しきりに部屋のにおいを気にして、いろいろかぎまわる)」
潜「(様子をきにかけながら)思い出せないなら、仕方ないよ」
光「・・・そうね」
井上「お気にめさなければ、もう一度、客室清掃係を・・・いや、ホテルの責任問題ですから私が掃除させていただきます!」
潜「いやいや!そんなことしないでください!」
井上「いえ!これは当、西急ホテル創業以来初の失態です!申し訳ございません!しかし、おこがましいことは、じゅうじゅう承知で申し上げますが、この部屋はかなりの自慢でした。数々のお客様、政財界の方から海外の映画スターの方まで幅広くご愛顧いただきました。」
潜「そんなに・・・」
井上「それがこういう不祥事になってしまっては、傷がつきます!名のある方と違って一般のお客様だから、手を抜いたといわれては立つ瀬がありません。ここはやはり私が・・・(腕をまくり、上着を脱いで掃除する準備をする)」
潜「(その井上を止めて)うわ、いいですよいいですよ!」
光「す、すいません!あたしの鼻が緊張で馬鹿になってるだけかもしんないんで」
潜「そうだよね」
光「え?」
潜「!・・・あ、ああなんでもない(愛想笑い)」
井上「よろしいんですか?」
潜「は、はい。な、光?」
光「え?ええ」
井上「かしこまりました。では落ち着いたところで、フロントでも軽く説明あったと思うんですが、部屋の説明をいたします」
 三人、一回ハケる
 そして(ここから舞台裏から声だけ)
光、潜「ほう!」
井上「そしてこちらが・・・」
光、潜「すごい!」
井上「そうしまして・・・ここをこうすると・・・」
光、潜「すばらしい!」
 三人、出てくる
井上「てなわけです」
潜「さすがスイート」
井上「ウルトラスイートでございますから」
光「夢にまでみたスイートライフ」
井上「ウルトラスイートライフ」
光「あ、来るとき気づいたんですけど、近くに首都高、走ってますよね?」
井上「音でございますか?」
光「けっこう、寝るとき音とか光とか」
潜「気になるんだよね」
井上「しー!」
ふたり「!」
井上「・・・どうです?」
潜「し、静かだ」
光「あ!(窓を指差して)あんなに外、車走ってるのに」
井上「壁、ガラスとも国内最強、いや世界最高峰の防音設備をほどこしてますから」
潜「あとはどんな?」
井上「お客様に安心して一夜をお過ごしになれますように、セキュリティも万全です」
 井上、潜の手をとり、高く上げ
潜「あ・・・」
 井上、ドアの上に指を置く
井上「国内ホテルでは初の指紋による本人判定を行います。」
潜「ほ、ほう・・・」
井上「このまえ下見に来たときにご主人の人差し指をセンサーにあらかじめ登録させていただきました。鍵いらずです。」
光「すごい」
潜「007だ!」
光「ミッション・インポッシブルだ!」
井上「表だけではありません。こちらテラスにも・・・」
 井上、潜の手をとり、テラスのセンサーにタッチ
 ピッっという反応音
井上「タッチでスイッチに電源が入り、あとはこのまえの下見に来たときに登録された暗証コードを入力するとあけられます」
潜「ああ、あのときの・・・」
井上「申込書にかいていただいた・・・アレです。」
潜「ああ・・・アレね」
井上「アレ」
潜「アレ・・・」
光「アレアレうるさい」
井上「ま、これが当ウルトラスイートのウルトラスイートたる所以です」
潜「すごいよね、光」
光「・・・そうね。」
潜「これで今夜は・・・(絶叫)」
井上「そろそろいいですかー?」
光「よくわかる説明ありがとうございました」
井上「とんでもない。これも仕事ですから」
潜「今夜が楽しみです(わくわく)井上「私どもはそれの手伝いにすぎません。あくまでも主役はおふたりです。それではごゆっくり・・・」
 井上、ハケる
 ふたりきり
 潜、照れ隠しに、窓をあけ
 車の騒音がきこえる
潜「いよいよだね」
 窓閉める(音消える)
 光、ベッドのそばで
光「そうね」
潜「どうしたの?」
光「別に・・・」
潜「(外を見つめ)いい天気だ」
光「予報は雪か、雨だったけど」
潜「なんかさっきから、つっかかるなー」
光「だって昨日、家のパソコンで見たもん」
潜「石原良純が言ってたよ。明日は晴れって」
光「ほんとに・・・強情っぱりね」
 ふたりだきあおうとするが
 ドアチャイム
ふたり「(顔を見合わせて?)」
 潜、ドアを開けに行く
また井上がやってくる
井上「申し訳ございません」
潜「どうしました?」
井上「肝心なこというの忘れてまして」
光「はい」
井上「この部屋、暑いと思いませんか?」
潜「え」
光「そういえば、なんか・・・」
潜「あ、あついかー?」
井上「エアコンが壊れております」
潜「エアコン」
井上「申し訳ございません。センサーが先日あたりから調子悪いのです」
潜「気にしないですよ」
光「あたしは困るな」
井上「申し訳ございません」
潜「光(わがままいうんじゃない)」
井上「専門の業者を呼んだんですが、原因不明で・・・」
潜「まさに現代の怪奇・・・」
井上「時代の最先端としたことが・・・
光「なんとかならないんですか?あたし暑がりで」
井上「本日はあいにく満室でして・・・あ、大野さん」
 井上、橋に潜を呼ぶ
井上「(内緒話)料金のほうをサービスさせていただきます」
潜「え」
井上「(胸元から小さな電卓を出して)これこれこのとおりで・・・(画面を見せる)」
潜「光がまだ文句いいますよ」
井上「じゃ、これくらい(見せる)」
潜「(うなずいてにっこり)はいっ!」
井上「商談成立!」
 ダッシュで井上はける
光「(井上を追いかけようとして)あ、どういうこと!」
潜「安くしてもらったよ」
光「潜は金で動くの?」
潜「ちょっとだけどね。(光に耳元で値段を話す)」
光「(それを聞いて)そんなんじゃ納得できない」
潜「勘弁してよ!・・・そうだ!窓開けようよ。東京の新鮮な風が・・・」
 潜、窓をあける
 騒音とガスがとたんに入ってくる
光「もういやだー!(絶叫)」
そこにチャイム
開けようとするまもなく真美が入ってくる
光「お母さん・・・」
真美「(ちょっと息切れきみ)さすがに・・・四十九階は疲れるねえ」
潜「ひょっとして・・・階段で来たの?」
真美「最近体力つくりにこっててね。昼のテレビでみのもんたがいってたから」
潜「影響されすぎだよ」
光「あ、今日は遠いところわたしたちのためにありがとうございます」
真美「こんにちは、光さん」
光「はい」
真美「今日は一段とおきれいな顔ね」
光「(照れて)まあ!そんなこと(ないですよ)」
真美「ますます目の細さが目立つわね」
光「(それをきいて、歯軋り)そ、そういうお母様も、きれいなお服で」
真美「銀座松屋で奮発しちゃってね」
光「ますます目じりのカラスの足跡がくっきりと」
真美「(ぎくっとして、かばんから鏡を出してチェック)」
潜「ちょっとちょっと」
真美「(気にしない)ま、夢のようだわー。あたしが結婚したときはこんなんじゃなかった」
潜「二十五年前だろ?」
光「そんなに昔とは変わってませんよ」
真美「いんや。こんなスイートルームなんかいくら出しても取れなかったし・・・(窓に移動して)こんな高いところから見ると東京って、ちっぽけなもんね」
潜「そうだ。今日は最後の親への作文で絶対、泣かせるからね」
真美「泣かないよあたしゃ。『おしゃれカンケイ』じゃあるまいし」
光「わかんないですよ。潜君、一週間前から何回も書き直してましたから」
真美「潜の作文で感動したのは小学生以来ないね」
潜「ひどいな」
真美「ほれ、差し入れ(タッパーを出す)」
光「ありがとうございます。」
真美「(タッパーを指差して)たくあん」
潜「こんなの持ってこなくてもいいのに」
真美「なにいっとるか!たくあん一枚で、ごはん何杯も食ってたくせに
潜「こういうとこで貧乏臭いこと言うなよー」
光「そうなんだー。あたしの作ったレバニラは平気で残すのに」
潜「レバーよりニラの量が五倍くらいあったよ」
真美「おやおや結婚前に夫婦ゲンカかい?とにかくおいとくからね。式は緊張するからこれ食べて落ち着きなさい。光さんも。」
光「もちろん、いただきます」
真美「大野家特製ぬか床で大切に育てたからね、絶対うまいよ。」
光「あ、お母さん」
真美「ん?」
光「そのぬか床今度わけてもらえたら・・・うれしいななんて」
真美「(じゃ、うちにくるんだね。」
光「え・・あ・・こっちに(持ってきてくれないですかね)」
真美「来れないなら、店にでも来な。わけてあげるから」
潜「光は店、知らないよ」
真美「残念だね。じゃ、自分で調べて来るんだね」
光「・・・はい」
真美「じゃ、あたしゃ、お客さんの控え室掃除してくるから」
 真美、ハケる
光「(潜に向けて作り笑顔)」
潜「・・・ん?」
光「くやしい・・・」
潜「やりこめられたから?」
光「・・・ほんと・・・バイタリティあふれるお母さんだこと・・・」
潜「まあね。母親ひとりで父親の役もやって、店もやんなきゃなんないから」
光「店ね・・・。」
潜「小料理屋」
ふたり『ひややっこ』!」
光「赤羽あたりじゃ結構有名らしいね」
潜「浮間舟渡でも人気だよ。埼京線の駅降りてからすぐだもん」
光「埼京線みたいな痴漢電車乗りたくない」
潜「埼京線ばかにしちゃいけないよ!今は神奈川から東京通って川越まで行くんだよ。去年から、りんかいせんと相互直通運転でお台場から新木場にも行くし。隣には東北・上越新幹線走ってるし。あんな機能的都市ラインは見たことないね」
光「(さえぎって)潜の鉄道オタク話はいいから」
潜「鉄道オタクじゃないよ。マニアだよ」
光「どうでもいいの。それにしてもお母さんのいうことはなんでも聞くのね」
潜「そりゃ、そうでしょ」
光「マザコン」
潜「んなことないよ」
光「お母さんが作ったものはなんでもうまい、うまいって」
潜「光のも食べてるよ。レバニラは残したけど」
光「そうですかねー?昨日も野菜炒め残したでしょ?」
潜「いや、あれはちょっと、しょっぱ甘かったよ」
光「しょっぱ甘い!? 初めて聞いたほめ言葉!(イヤミ)」
潜「花嫁修業の成果は?」
光「春日料理教室に行って習ったよ」
潜「そのわりには」
光「しょうがないでしょ!一日目にちゃんこ鍋をならってあまりにも工夫がないから次から行かなかったんだもん」
潜「鍋で挫折するなよー」
光「あー、もう我慢できない」
潜「こっちもだよ」
 潜、ポケットからたばこを出し吸おうとする
光「(それをさえぎり)吸わないで!」
潜「だって、そろそろヤニ切れ」
光「あたしの前で吸わないでって何回も言ってるでしょ
潜「・・・ごめん(たばこをしまう)」
光「あたしさ、昨日父さんにきいたんだけど」
  光、指輪ケースを見せる
潜「ん?」
光「この指輪、潜のお金のほかに父さんのお金も入ってるんですってね」
潜「(しまった・・・)」
光「どういうこと?自分の親ならまだしも、なんで新婦側の父親から金かりたの?!」
潜「・・・かくしててごめん。結納した夜にたまたま駅前でお父さんと会ってね」
光「たまたま?計画的なんじゃないでしょうね?」
潜「ほんとだって!で、夕飯食べながら、実は結婚指輪のお金、ちょっと苦労してるんだって話したら」
光「話したら?」
潜「サラ金とかに借りるようなら私が出そうかって・・・」
光「それにへこへこ、うなずいたと?」
潜「(うなずいた)」
光「・・・そっかー。やっぱりね。」
潜「?」
光「あたしが父さんに聞いたってのは、うそ」
潜「? カマかけたな・・・?」
光「だっておかしいと思ったもん。入社以来貯金なんかそんなにしてない人がブランドのペアリング買えるなんて」
潜「一人暮らしやりゃわかるよ。給料なんてすぐなくなるんだ」
光「100%潜が苦労したお金の塊じゃない指輪なんて、これね」
 光、ぽいと指輪をテラスに捨てる
潜「うわ!なにするんだ!」
 潜、テラスに入り追いかける
光「あたしは潜のなんなの!」
 光もテラス内に入る
潜「だましちゃったのは本当僕が悪い。あやまるよ。でも指輪投げなくても」
光「反省の色なし!もうあったまきた!潜、婚約解消ね!」
潜「なんで!」
光「あたしはあたしをずっと見てくれて、ずっとあたしのことを思ってくれるっていうから、潜とつきあったし、プロポーズも受けた。でもそれはすべて潜の計画的犯行だったってわかったから」
潜「そんなことない!」
光「さよなら」
 光、テラスの扉を開けようとするが
光「ん?」
潜「?」
光「ん(強くあけようとするがあかない)」
潜「どうしたの?」
光「(潜をちらっと見るが無視しまた、あけようとする)」
潜「あかないの?」
 潜、あけようとするがあかない
潜「ひょっとして」
光「これって」
ふたり「(絶叫)ロックアウト!」








第二章 マザー&ホスト
光「どうすんの!」
潜「いくら最新鋭ホテルだからってベランダも」
光「テラス」
潜「テラスもオートロックにしなくとも」
光「いいのに・・・」
潜「よーし、こうなったら・・・」
 潜、光を抱きしめようとする
光「は!(すりぬける)」
潜「いや、光を抱きしめたらなんかいいアイディアが」
光「なわきゃないでしょ!」
潜「愛がなんとかしてくれる・・・」
光「愛があればなんでもできるってかぎんないよ」
潜「(とほほ・・・)」
光「ねえ、フロントに電話しようよ」
潜「・・・無理だよ」
光「電話って携帯で」
潜「無理無理」
光「なんで」
潜「あれ見てみなよ」
 潜、部屋の中を指差す
光「あ・・・」
潜「かばんの中・・・」
光「なんて使えない人なの」
潜「ちょっと!家でも携帯を片時も離さないで持ち歩く馬鹿いないよ」
光「あたしは持ち歩く!」
潜「(絶句)」
光「携帯電話でしょ?携帯して体から離さないのが電話なんでしょ?」
潜「じゃ、光が(かけてよ)」
光「(ポケットをまさぐって)・・・ない・・・」
潜「ほら!」
光「サルも木から落ちるの!」
潜「ことわざかい?」
光「まったく役立たずね」
潜「どっちが!」
光「潜ちゃんがね(イヤミ)」
潜「ちゃんづけはやめて」
光「いいじゃん潜ちゃん。潜ちゃん焼き」
潜「僕は北海道の鮭か!」
光「こうやって、喧嘩するほど仲いいっていうからね」
  そこに真美がやってくる
真美「(声だけ)潜、ちょっと、ちょっとあけなさい。」
 完全防音なので、テラス側はなにも知らない
潜「喧嘩にも種類があるよ」
真美「そろそろ親戚のとこに一回あいさつ回り行っといでよ」
光「じゃ、もっと仲良くなれるように、もーっと言い争おうよ」
真美「(ノックして)ちょっといつまで出てこないの?母さん、入るよ!(ノブをガチャガチャとまわす)あれ、鍵かけてる。もう!あけなさい!」
潜「だからけんかはあんまりよくないって。」
光「逆にそうやってお互いの意見をぶつけないとストレスがたまるんだよ」
真美「もう、いないの?いないんかね(ドアを強く叩く)」
潜「ん?(予感)」
光「どうした?(もっと喧嘩しようとして)んー、ファイト、カーン!」
潜「なんか母さんが(来てるかも)」
光「出た!マザコンの第六感!」
潜「ふざけないでよ!光もさ、こんなとこから出たいでしょ?」
光「そりゃそうだけど」
潜「絶対いるよ!祈ろうよ!」
光「無理」
潜「なんで」
光「完全防音だもん」
潜「防音だからって、祈りが通じないとは限らないよ!」
光「じゃ、祈ってみなよ。神様、仏様、おかあさま!(イヤミ)」
真美「開けないと」
潜「・・・(腕を組んで静かに祈ると思いきや、大声で)高校生のとき、お母さんのへそくりでミニ四駆買っちゃったの!許してください!」
真美「(大声で)ゆるさないよ!」
光「どうよ。なんの効果もないよ」
潜「(がっくり)」
真美「(まだガチャガチャして)もう!怒ったよ、母さんは!こんなとこで恥かかせていいと思ってるの!待ってなさい。今に後悔するから」
 真美、ぷんぷん怒りながらハケる
光「はーあ、さすがにだんだん寒くなってきた」
潜「でも絶対あのとき母さんがいたよ。」
光「はいはい・・・」
潜「母さんが、だれかを呼んでくる。その人がこの部屋の異変に気づく。ドアを開錠して突入。ぼくらを救出ってわけ」
光「そんな安い芝居みたいに行くかなー」
潜「僕は母さんを信じる」
光「出た・・・」
潜「光も信じなよ」
光「ぬか床を家まで持ってきてくれたら信じる」
潜「なんでそう素直じゃないかなあ。こういうときは少しの力でも信じるんだ」
光「お母様かー(あたし苦手なんだよね)」
潜「昔、僕がかくれんぼして、うまく隠れすぎちゃって鬼が見つけられなくて、先にみんなが帰っちゃったときがあったんだ
光「よくある話」
潜「そうかな」
光「あれでしょ。そのあと、お母様が見つけに来てくれたんでしょ?」
潜「なんでわかるの?」
光「だからよくある話だって」
潜「(かまわず)ああ!だから(天にむかって)頼む!ほんとに!」
 すぐに支配人と真美がやってくる
井上「(ノックしてから)あかないですね」
潜「ん?だれか連れてきたかも・・・」
光「まただ・・・」
真美「早くマスターキー!」
井上「はい!少々お待ちを・・・」
 マスターキーで室内へ
 中に入ると窓が見えて
井上・真美「(絶句)」
潜「ほら!」
光「(絶句)」
潜「僕のシックスセンスはマジだろ?」
光「マジで・・・」
 光、びっくりしたまま
 一方、
井上「ほー、結婚式前にかくれんぼかー。お母様!すばらしいカップルですね!一世一大の儀式の前にこの余裕。感動しちゃうなー・・・」
真美「(ヒステリー気味に)なにいってんの!(テラスに向かって)あけて出てきなさい!」」
井上「(のんきに)ああ、ここで言っても聞こえませんよ」
真美「なんで!」
井上「世界最高峰の完全防音ですから(ニヤリ)!」
真美「え」
井上「でも、なんか言ってますよ」
ふたり「開けて!開けて!(くりかえし大騒ぎ))
井上「んー(ふたりの口を見て)・・・ば・け・て?」
真美「??」
  真美その言葉を理解して
真美「(絶叫)また目じりのカラス馬鹿にしおって!(そういいながらも鏡で目じりを気にする)」
井上「(のんきに)目黒のカラスがどうか(しましたか)」
ふたり「(手をふって)違う違う」
井上「んー?あ!『開けて』じゃないですか?」
真美「早くそれを言って!」
  井上、ドアをあけようとするが開かない
井上「うわロックアウトですね」
真美「馬鹿なんだから・・・」
井上「とにかく開けましょう」
 井上、マスターキーをポケットから捜すが
井上「あ!」

真美「え」
井上「・・・忘れてきました・・・」
真美「あんたほんとに支配人さん?」
井上「申し訳ございません・・・でも、こういうときのために(別のポケットをまさぐる)」
そして針金のようなものを出す
真美「それは・・・?」
井上「いや、ちょっとこの前友達に会いましてね。その友達と話盛り上がっちゃって・・・」
真美「?」
井上「(自信たっぷりに笑顔で)ピッキングです!」
 ここからニ画面制
 ふたたびテラス側
光「あれ、なんか・・・」
潜「どうした?」
光「支配人、へんな棒みたいなやつで」
潜「不思議なマスターキー・・・」
 テラス側は期待と不安 
ふたたび室内
真美「はやく!」
井上「(真美を止めて)僕の友達にドロボーマニアな奴がいましてね」
真美「ド、ドロボー?」
井上「マニアですマニア。本当の泥棒じゃないですよ」
真美「でも」
井上「この前そいつ、これ使って複雑な鍵を私の目の前で三十秒であけて見せましてね」
真美「ねえ?人の話きいてます?まじめに事態を考えてます?ほんとに。(つかみかかる)」
井上「(笑顔でそれをかわして)マニアですから!」
 井上、道具で穴をいじくりだす
 ふたたびテラス
光「泥棒?」
潜「・・・みたいだね」
光「支配人さんって」
潜「ドロボーもやってたんだ・・・」
光「前科何犯だろ?」
潜「朝はホテルマン、夜は・・・あー・・・」
光「こういうことが起こるって考えなかったのかな?」
潜「リスクマネジメントってやつですか?」
光「避難訓練とか」
潜「それはなんか違う」
光「ああ、これから結婚式だっていうのに・・・」
潜「先が思いやられるなー」
光「きっとー、これは神様があたしたちにたいして贈ってくれたひそやかな警告なんだと思う」
潜「光はキリスト教信者?」
光「浄土真宗」
潜「僕は真言宗」
光「あたしね、ずっと最近考えてるの」
潜「マリッジブルー?」
光「このままでいいのかって」
潜「今さらなんだよー」
光「今さらだからこそ言うんだけど、だってつきあって四ヶ月で結婚だよ。早いと思わない?」
潜「僕のプロポーズに、うんって言ったのは光だよ」
光「だって結婚してもいいかなって思ったのはほんとだもん。」
潜「じゃ、いいんじゃないの?」
光「顔とかー、ステイタスとかで選んで損ばっかりふんできたような気がしてきて。真理子先輩に聞いたんだけどやっぱほんとのいい男ってもんは中身なんだよって。それ聞いてから、潜のことだんだん好きになってったんだ」
潜「いいこというねー。真理子先輩にこんどワインでも送ろうかな」
光「でもね・・・」
潜「?」
光「顔は大事っしょ!」
潜「反省してない・・・」
光「中身と外見がなんで比例しないのかなー」
潜「そんなにブサイクかなー・・・」
光「もうこの際、ブサイクなのはもうあきらめるから」
潜「あきらめる!?」
光「せめて生き方とか考え方とか将来とかはカッコよくしてほしいの。」
潜「かっこよい・・・?」
光「この冬のナンバーワン映画はファインディング・ニモ!って言い切るとかさ」
潜「ビミョー」
光「あたしね。近所のお寺めぐりデートより、お台場とか行きたかったのよ。CX行ってからアクアシティ、DECKSを攻めてパレットタウン、ヴィーナスフォートで買い物して大観覧車でシメるとかね。」
潜「お台場オタク」
光「マニア!あとディズニーランドとかね。でもシーはあんまつまんないから却下」
潜「要するにあれでしょ。世間でいうミーハーなところに行きたいんでしょ?」
光「ミーハー!?どこがよ!立派なデートじゃん!」
潜「そういうのは僕は嫌いだな。もっとゆっくりできるとこがいい!」
光「(絶望)あー!も、最低!」
 もめるテラス側
 場面変わって室内側
 真美、床につかれて座り込んでる
 井上、じっくりピッキング中
真美「(じっと鍵あけ作業を見ていて)あかないでしょ?」
井上「・・・」
真美「あかないでしょ?」
井上「(イライラ)」
真美「マスターキー素直に使えばいいのに」
井上「ピッキングには(やりながら)ピッキングの良さがありますよ」
真美「ドロボーじゃない?」
井上「失礼な!立派なリスクマネジメントですよ」
真美「リスだかマネキンだかなんだかわかんないんだけどさ」
井上「ん?」
真美「開いたの?」
井上「その今のいいかた・・・」
真美「リスだかなんとかって」
井上「うちの父が似たような口ぶりでよく叱ってくれました。
真美「へー」
井上「なつかしいな・・・。」
真美「もういないのかい?」
井上「去年の十二月二十三日に亡くなりましてね・・・そのおかげで急にこのホテルの支配人ですよ」
真美「遺言にでも書いてあったんかい?」
井上「ええ。母も二十歳のときに亡くなってて」
真美「いろいろ苦労してんだね」
井上「ま、別に仕事ですから」
真美「(なにげなく井上の名札見て)井上・・・馨っていうんだね」
井上「昔の総理大臣みたいな名前でしょ?そこから取ってきたみたいですよ」
真美「井上ね・・・井上・・・井上・・・井上・・・!」
井上「え?」
真美「まさか・・・」
井上「はい?」
真美「・・・んなことあるわきゃないよ・・・んなこと・・・」
井上「どうしました?」
真美「・・・一応・・・聞きたいんだけど、お父様の・・・名前って・・・?」
井上「父ですか?和明といいます」
真美「(驚愕!!)」
井上「?」
真美「か・・・かずあき・・・」
そのとき
井上「ん?」
 手ごたえあり
井上「開いた・・・」
真美「(呆けてる状況から我に返り)え?」
井上「ほら」
 井上、見せる
真美「すごい」
井上「マニアですから」
真美「早く、あけてあげて」
 井上あける
 真美、井上をどかして一早くテラスにでる
真美「潜!」
潜「お母さん」
真美「よかった!一時はどうなるかと思ったけど」
井上「マニアですから」
潜「え」
光「お母様」
真美「あら、ごめんなさいね、光さんも大丈夫?」
光「あたし、やっぱり潜さんとは一緒にはなれません。」
真美「え?」
潜「光!」
光「よって、この場で別れようと思います」
 そのとき入り口のほうから声が聞こえる
男(秀人)「ナイスチャンス!」
潜「え?だれ?」
 ハケ口からノッソリと長身の金髪男がスーツにバラを一輪持って入ってくる
 ニヤニヤ笑いながら
秀人「結婚は人生の墓場だ。」
潜「あ、あんたは・・・」
秀人「黙れ」
潜「はい」
真美「だまってどうすんの!」
潜「あ、そうか(思い切り、胸を張りながら)き、きみはだれだね」
秀人「臭い」
潜「え、どこどこ?(体をさする)」
真美「潜!」
秀人「光から軽くは聞いてたけど、これほどまで痴呆とはな」
真美「ち、痴呆?」
秀人「お母さんもこんな男をよくがんばって育てましたね」
真美「あ、あんたって人は(つかみかかる)」
潜「(真美を止めて)あ、ああ、あの、本当にどこのどなたか存じないんですよ。誰ですか?」
井上「そうです。場合によっては、これは立派な犯罪ですよ」
秀人「犯罪?下衆ども!これは『卒業』だ!」
潜「あれは教会で起こったんだ!」
秀人「平成のは控え室で奪う」
 秀人、バラを潜たちに投げつける
三人ひるむ
その隙を突いて
秀人、光を抱いて、テラスに逃げる
三人「あ」
光「かっこいい・・・」
潜「これがかっこいいのか・・・」
真美「感化されないの!」
秀人「おれの名は清流院秀人。よく覚えとけ」
 秀人、光を抱いてドアを閉める
井上「あ」
 潜、追っかけようとしてドアを開けようとするが
 あかない
潜「あかない」
井上「しまった」
潜「え」
井上「さっき、ピッキングで開けてしまったから、鍵では開かない」
真美「あんた!?」
井上「こんどこそデジタルキーです・・・」
潜「マスターキーは?」
井上「申し訳ございません。こんどこそ使えません・・・」
真美「そんな」
井上「ガラスを割って入りたいとこですが、このガラスはパリの職人さんにわざわざ作ってもらったんでなかなか割られない・・・」
真美「人の幸せとガラス、どっち取るの!」
井上「ガラス・・・」
真美「(ヒステリーで井上につかみかかる)」
井上「(つかみかかられながら)あ、ああ、なんちゃって・・・」
潜「お母さん!(なんとかふたりをひきはなす)」
井上「(ひきはなされてから)あともうひとつ」
潜「え」
井上「もうそろそろ式を始めなければならない時間です」
潜「わかってます。けど」
真美「(井上をとっつかまえて)あんたも見てわかんないのかい?こんなにぐちゃぐちゃしてるんだよ!」
井上「存じ上げておりますよ」
真美「少しは待ってくださいな」
潜「お願いします!」
井上「(悩んでから)かしこましりました。式場運営スタッフに連絡しておきます。」
 井上、携帯を使って端で電話する
潜「すいません。お願いします」
 井上、携帯を出して連絡はじめる
潜「でも、デジタルキー・・・」
真美「なんだい?普通の鍵じゃないことは確かなんだよね」
 電話終えた、井上
井上「あれですよ、あれ」
真美「あれ?」
潜「キーワード。暗礁コードがいるんだ」
真美「開けゴマ?」
井上「平たく言えば。でもうちは十文字以内のアルファベットと記号を組みあわせてできておりまして」
真美「潜!あんたなにを書いたの?」
潜「え?・・・あ・・・」
井上「お取り込み中のところもうしわけございません。連絡はできましたが・・・場合によっては・・・」
真美「そんな・・・」
潜「・・・」
真美「もう!思い出しなさい!開けゴマ!開けブタ!開けアジ!(そういいながらボタンを押す)」
潜「わけわかんないよ!それにしても・・・えっと・・・あれ・・・あーん(苦悶)」
真美「潜!」
潜「くそ・・・(絶叫)思い出せない!」
ふたり「え!」

 いっぽう、テラス側
光「また外・・・」
秀人「え?」
光「あ、ああ、なんでもない」
秀人「とりあえず、第一弾成功(ポケットから缶を取り出す)」
光「(同じく缶を渡され)乾杯?」
秀人「乾杯。(ひとくち飲む)」
光「(つられて飲んでから)あ、あの、どうしてここわかったの?」
秀人「ここ、ニ、三か月、つけてた」
光「ストーカー並ね」
秀人「じゃ、電話でもしたら教えてくれたか?」
光「・・・」
秀人「あいかわらず、お姫様きどりだな」
光「お姫様じゃない。自分の気持ちに正直に生きてきただけ」
秀人「それを人はわがままという」
光「でも、さっきの『卒業』みたいな奪い方・・・かっこよかったー!」
秀人「ありがとう。このあととりあえず、どうする?」
光「どうするって・・・」
秀人「高飛びでもする?」
光「いいね!・・・それなら世界一周!」
秀人「お安い御用だ。じゃ、せーの(手すりに足をかける)」
光「危ない」
秀人「へ」
光「ここは四九階よ!」
秀人「(下をのぞいて)うわ!」
光「見切り発車」
秀人「(ちょっと動揺してる)わ、忘れていただけさ」
光「だったらどうやってここまで忍び込んだの?」
秀人「矛盾しちまうな・・・」
光「そういうとこが嫌いだった・・・」
秀人「そっか(たばこを吸おうとする)」
光「吸わないで!」
秀人「(ビクッ)」
光「あたしが人のはいた息を吸うのがいやなの知ってるよね?清流院秀人、本名、山口高男さん」
秀人「本名で呼ぶな!(たばこをしまう)」
光「この部屋に初めて入ってきたときね、懐かしい香りがしたの。あの香水」
秀人「同棲初日に一緒に買った」
光「カルバン・クラインの」
秀人「白いビン」
光「まだ使ってたんだ」
秀人「(うなずく)」
光「あたしがあの家を出るころには別の香水つけてたような気がするけど?」
秀人「(鼻で笑う)」
光「一応、女ですから」
秀人「お前が入ってくるのをみたよ。すれちがったし」
光「一番初めにいた掃除の人が」
秀人「(自分を指差す)」
光「さすが。でも、逃げるとこまで、頭まわらなかった」
秀人「(あらぬ方向をみてごまかす)」
光「そんなに・・・ヒデの家から出て行ったのが・・・ショックだった?」
秀人「自分の歴史がひっくりかえったよ」
光「プライド傷ついたんだ?」
秀人「俺の心はガラスのうさぎ」
光「くさっ」
秀人「(じろり)」
光「ごめんごめん。でもそんなにすきなんだ・・・」
秀人「・・・」
光「あたしのこと」
秀人「なあ、もう一回やりなおそう」
光「・・・」
秀人「お前じゃないと」
光「・・・」
秀人「・・・」
光「・・・ひとつ質問していい?」
秀人「ん?」
光「あたしがこれからね、どんどん目じりにカラスの足跡とか白髪とかでてきちゃったりしたとしても、好きでいられる?」
秀人「!」
光「へへ・・・歳くっても、すきなのかなって・・・」
秀人「・・・」
光「どう?」
秀人「・・・わからない・・・」
光「そう・・・」
秀人「でも今は好きだ!」
光「(軽く笑ってから立ち上がり)・・・今は・・・今だけなんだよね・・・」」
秀人「?」
 光、ふらふら、してから
 バタッと倒れる
秀人「!」

 その姿を見ててんやわんやしてる室内側も気づく
潜「あ!」
真美「光さん!」
 テラス内では秀人があたふた
真美「どうしよ!どうしよ!」
潜「お母さん!」
井上「うわ、落ち着いてください!」
真美「落ち着けるもんか!」
潜「ロックアウトされてる今じゃなにもできないって」
井上「そうです。とにかく救急車お呼びしましょうか?」
潜「お願いします」
 井上、急いで携帯を持ってハケる
潜「ああ、なんでこんな近くなのになにもできないんだろう」
真美「・・・」
 真美、テーブルの上にある、タッパーをつかみとる
潜「どうしたの!」
真美「こんなときは・・・」
 真美、たくあんを一枚かじる
潜「そんなんで効くの?」
真美「馬鹿!食べもんにはね、神様が宿ってるんだよ!食べなれてるものを食べれば心も落ち着くもんなの!」
潜「んなばかな」
真美「(テラス側を見ながら)光さん、前の日の夜、緊張して眠れなかったとか?」
潜「いや、昨日はしっかり」
 真美、じっとテラス内をみて
真美「まさか・・・まさかね」(ウロウロあるき始める)
潜「どうしたの?」
真美「いや、まさかとは思うんだけど・・・まさかね」
潜「もどかしいな。はっきりいってよ」
真美「緊張で倒れたのかもしんないけど・・・」
潜「うん」
真美「(つばをごくりとのみこんで)オメデタとか・・・」
潜「!」
真美「(じろり)」
潜「違うよ!しっかりそういうのは管理してたはずなのに」
真美「最近、すっぱい物とかよく食べてなかった?」
潜「いや、特には・・・」
真美「じゃ、鼻が妙によくきいたりとか」
潜「いやいや(考えて)・・・あ!」
真美「え」
潜「この部屋に入ってきたときに・・・くさいって」
真美「(鼻をくんくん)におわない・・・間違いない。つわり!」
潜「!」
真美「人によっていろいろ型がわかれるらしいんだけど、光さんは鼻が敏感になって嗅覚が鋭くなった」
潜「光・・・」
真美「ちなみにあんたが腹に入ったときは鼻が高くなったんだよ」
潜「うそ・・・」
真美「うそ」
 そのとき井上が入ってくる
井上「救急車呼びました」
潜「ありがとうございます」
井上「(テラスの向こうを見ながら)どうですか?」
潜「(ためいき)」
真美「ちょっとなに弱気になってんだい?」
潜「だって・・・」
真美「別に死んだわけじゃないからまだ救いはある」
井上「そうです」
真美「あんたにそうですっていわれたかないね」
井上「そうです。え?」
真美「支配人ならあんたがなんとかしなさい」
井上「・・・そう言われましても」
真美「ホテルの総責任者でしょ?一番えらいんでしょ?結婚式を仕切るんでしょ?」
井上「それはそうなんですが・・・」
潜「すいません」
真美「なにあやまってんの!」
潜「こんな母ですいません。取り乱しても、たくあん一枚でたちなおるんです」
真美「こら!」
潜「支配人さん」
井上「はい?」
潜「ちょっと話が」
真美「話があるならここで堂々と話しなさい」
井上「まあまあ、どうしました?」
 井上と潜、端に移動し、座る
 真美はふてくされて、たくあんを食べる
潜「支配人さん、僕、結婚式・・・」
井上「・・・」
潜「中止にしようかなって・・・」
井上「!」
潜「なんで・・・なんで・・・なんでこれから、幸せな結婚式だっていうのに・・・こんなことばかり起こるんだ!」
井上「だめですよ!そんなんじゃ!」
 井上、立ち上がって説教
井上「私はあなたがそんな悲しそうな顔するのを見たくないです。」
潜「・・・」
井上「私は、親父が死んでからこのホテルを継ぎました。世襲制とかいろいろ悪口叩かれてもめげずにこの仕事を続けてきたのに  
 はワケがあります」
潜「・・・」
井上「人の喜ぶ顔が見たいからです。遠くの地方から上京してきて宿としてここを使われる方。結婚式に使う方。離れた人と再会に使う方。いろいろいます。でもそのお客様がみなさん笑顔でこのホテルを後にするとき、わたしはとてつもない感動を得るのです。」
潜「・・・」
井上「だからこの仕事を続けてるんです。」
潜「・・・」
井上「大野さん、あなたも私を感動させてください。」
潜「・・・」
 潜、突然立ち上がると、真美の前に行く
真美「・・・」
 潜、無言でタッパをあけ、たくあんを食べる
潜「(食べている)」:
真美「(見守っている)」
潜「お母さん・・・僕・・・やるよ」
真美「・・・そうかい」
潜「だって僕は、光が好きだから(笑顔)」
真美「(まぶしく見る)」
井上「そうです。その笑顔です」
潜「支配人さんありがとうございます!」
井上「いえいえ。でも暗礁コード思い出せませんか」
真美「潜、思い出せないのかい?」
 潜、悩みながら
潜「そこなんだ。あのときなにを考えたか・・・」
 潜、たくあんをもう一枚食べる
 潜、食べて考えて
 だんだん思いだす
潜「そうだ!」
真美「!」
 潜、力強く立つとドアノブの前に
潜「これだ!『Flash&Dive』!(言いながらボタンを押す)」
 解除音がなって開く


第三章ハッピー&タフ
ドアが開いてびっくりする秀人
秀人「きさま・・・」
潜「光を返してもらおう」
秀人「おことわりだ!」
潜「田舎ホストになにがわかる!」
秀人「お前みたいにブサイクなやつは人生もブサイクなんだ」
潜「うるさい!じゃ、ブサイクってなんだ」
秀人「美とは正反対にあるもの」
潜「なら、光はなんで僕と結婚しようと思ったんだろうね?」
秀人「よく言ってたよ。あれは気の迷いだったって」
潜「なら、気の迷いかどうか、はっきりさせようじゃないか」
 潜、秀人に向かってバラを投げつける
 一瞬ひるむ秀人
 その隙に、一気に光のところへ
秀人「どけ!おまえが光を触ると、せっかくの光が腐るんだよ」
潜「どかない!」
 秀人、近寄っていき、一気に襟首をつかんで
秀人「てめえみてえなんが光をとるのは十年いや、一世紀早いんだよ!
 秀人なぐる
 潜、ふっとぶ。そして地面に叩きつけられる
 秀人、光をかかえ、部屋にでる
井上「お、おい、君!」
秀人「(井上をひとにらみ)」
井上「き、きみ、きみ・・・味たまの黄身って、な、なんであんなにおいしいのかな・・・」
 真美、井上をたたく
真美「(他の部屋に聞こえるように)ど、どろぼー!どろぼーだよ!」
秀人、ゆっくり真美の前に
秀人「ばばあ、早くあの世にいっちまいな!」
 秀人、真美の腹をなぐる
 真美、静かに倒れる
潜「(地面でそれを見てる)お、おかあ、さん・・・」
秀人「じゃあな、ブサイク。そしてギャラリーのみなさん」
 はけようとするそのとき
潜、ほえながら、秀人にタックルする
秀人、倒れる
潜、光を奪う
そのとき、救急車のサイレンとパトカーのサイレンが聞こえてくる
潜「大丈夫か!」
光「ん・・・んーん・・・(気絶)」
潜「光、まっとけよ・・・いまかならず・・・助けるから・・・」
 潜、光を肩にかかえて歩き始める
秀人「おい・・・」
潜「(あるく)」
秀人「(ちょっと大きめに)おい」
潜「(あるく)」
秀人「(絶叫で)ブサイク!」
潜「(止まる)」
秀人「光はおれのことが好きだった。お前と付き合ってるときから、おれとも付き合っててフタマタかけてた。
潜「(歩く)」
秀人「ひでえ女なんだ。光はそんな女なんだ。」
潜「(歩く)」
秀人「嫌いになんねえのか?」
潜「それがどうした!」
 潜、ゆっくり振り向き
潜「僕は光を・・・信じる・・・」
 潜、決意の表情でゆっくりドアへはける
 秀人、敗北を知りゆっくりとひざまづく
 暗転

 明転
 部屋にはだれもいない
 そこに潜がやってくる
 散らかってる部屋をかたづける
そして思いにふける
 そこに井上がやってくる
潜「(軽く会釈)」
井上「(会釈)」
潜「散らかしちゃってすいませんね」
井上「構いませんよ。」
潜「ほんとに・・・てんやわんやになっちゃって」
井上「・・・」
潜「まいちゃったな・・・」
井上「(意を決して)お話があります」
潜「はい」
井上「・・・わかりますよね?」
潜「なんとなく」
井上「私がなにを話そうとしてるか・・・」
潜「・・・はい・・・」
井上「笑顔が見たいといいました。でも今から言うことはそれに反してしまいます」
潜「・・・」
 そこに突然
真美「ちょっと待って!」
潜「お母さん!」
 真美、ゆっくり歩いてくる
潜「だめだよ!まだ寝てなきゃ!」
真美「うるさい!」
井上「結婚式は中止せざるをえません」
真美「なんで!光さんが戻ってくるかもしんないのに!」
井上「私がさきほど言ったことと矛盾してしまって申し訳ございません」
真美「言ってることがわからん!」
井上「我々もボランティアでここをやってるわけじゃないんです。」
石川「・・・」
井上「結婚式という人生の儀式。大野さん以外にもみんなやりたがってるんです。」
真美「・・・」
井上「あなたがたを特別扱いして、予定を全て繰り下げて、他のご家族にも迷惑かけるわけにはいかない」
真美「・・・」
井上「私は・・・結婚式の場をみなさんに提供するのも大事な仕事です。」
真美「・・・あたしの夢が・・・」
潜「(真美により、なぐさめる)」
真美「潜はそれでいいのかい?」
潜「支配人のいうとおり。時間をオーバーしちゃった。」
真美「でも」
潜「これ以上、ここに迷惑かけるわけにはいかないよ」
真美「・・・いつのまにか・・・大人に・・・なっちまったもんだ・・・。」
潜「(照れくさい)」
 真美、立ち上がり
真美「・・・じゃ、今から親戚と光さんのご両親の部屋にでも行って謝ってくるよ」
潜「いや、僕が言うよ」
真美「いいよいいよ。こういうのはあたしが」
潜「いいよ。僕がここに決めたんだ。全ての責任は僕がかぶる」
真美「・・・」
潜「支配人」
井上「はい」
潜「いろいろありがとうございました(深々と礼)」
井上「とんでもない。たのしかったですよ。自分の腕も試せたし・・・」
 井上、はける
潜、片付け、帰ろうとする
 そのとき
光「待って・・・」
 光、ゆっくりあるいてくる
潜「光」
光「潜・・・」
潜「光、まだゆっくり(してきていいのに・・・・)」
光「(深く頭を下げて)ごめん!」
潜「・・・」
光「あいつの言ったことは本当・・・潜と出会う前にホストクラブに夢中になって・・・あいつとつきあってた。あいつの家にも住んでたし。潜と付き合い始めたころもあの家から通ってたの。」
潜「・・・」
光「迷ってた」
潜「・・・」
光「わがまま・・・それをすべて満たしてくれる人。それがすきなひとの条件だった」
潜「そっか・・・」
光「そこに潜がやってきた」
潜「・・・」
光「・・・偉そうな顔して、あの告白うけて。フタマタかけて・・・考えたんだ」
真美「最低ね」
光「・・・」
真美「悪魔なんよ、あんたは・・・。」
潜「お母さん」
光「・・・」
真美「女の中でも最低の女だよ!」
潜「お母さん!」
真美「だから、悪魔が疫病神雇って、こんなことになっちまったんだよ」
光「でも考えたんです」
真美「なにを!」
光「さっき、テラスであいつにとられたとき、質問したんです。あたしが歳を食っても好きなのかって。そしたら、わからないっていわれたんです。」
潜「・・・」
光「そのときわかったんです。外見でもない。ステイタスでもない。新しいなにかを!」
真美「潜、もう一度、考え直しなさい。こんなわけのわからん人と一緒になったら、あんたもだめになっちまう」
光「わかってくれないんですか」
真美「わかるもんかね!」
光「・・・」
真美「潜、婚約を白紙に戻しなさい。」
潜「・・・」
真美「ふたまたかけてたことはむこうのご両親にはしっかり話さんとね」
光「・・・」
潜「お母さん。」
真美「ん」
潜「・・・僕は、かわらない。」
真美「潜!」
光「・・・」
真美「だって・・・おまえ、わかるだろ?こんな女と・・・・」
潜「光が迷って・・・考えて・・・悩んで・・・結局決めたのが僕なんだ。」
真美「優柔不断だってことだろうが」
潜「ぼくには決定打がある」
真美「なんだい!」
潜「僕は光さんをずっと見続けます。その顔にシワが何本入っても。その細い目がもっと・・・もっともっと細くなっても・・・」
真美「・・・」
光「潜・・・」
潜「(光を見てにっこり)」
光「・・・ありがとう・・・」
潜「・・・さ、親戚控え室行ってくるね。みんなやきもきしてるから」
光「あたしも一緒に行く」
潜「大丈夫だよ」
光「行かせて」
潜「わかった」
 ふたり歩いていく
 そのとき
真美「待ちな!」
 ふたり止まる
真美「(大声で)支配人さん!立ち聞きは、よかないよ!」
ふたり「!」
 ドアから井上やってくる
井上「・・・ばれました?」
真美「なんとなくね」
井上「失礼いたしました!かえるつもりが気になってしまいまして・・・」
 井上こそこそはけようとする
真美「あたしもね・・・ふたまたかけてたんだ。死んだあの人と井上和明。」
三人「!」
真美「ほんとにどっちも好きだったの。(光に)あんた以上にね燃えてた。」
光「・・・」
真美「でも和明さんにはこっぴどくフラれた。」
光「・・・」
真美「(光に)ごめんね。あたしもあんたみたいにわがままだったからね。それで愛想尽かしたんじゃないの?」
井上「・・・父さんの昔の恋人が・・・お客様だったなんて」
真美「でもね。あの人といっしょになって、今では幸せだったって思ってる。あのまま、和明さんとつきあってたら、あたしは、自分のわがままを止めらんなくて、つぶされてたかもしんない。」
光「お母さん・・・」
真美「ほんとの最低な悪魔はあたしなのかも。」
潜「・・・」
真美「ぬか床・・・今度持ってくよ」
光「・・・ありがとうございます」
真美「はは・・・(井上に)ねえ、あたしの最後のわがまま聞いて」
井上「はい」
真美「このふたりのために・・・式・・・やってちょうだい・・・」
 真美、倒れる
ふたり「お母さん!」
結婚行進曲が、どかんとかかる 暗転









エピローグ 
 結婚式が終わり、ふたりがタクシーを待ってる
潜「ここでいい?」
光「うん」
 ふたり、地べたに座る
潜「寒くない?」
光「ううん。大丈夫」
潜「(マフラーをかけてあげる)」
光「いいっていってんのに・・・」
潜「(かまわず)タクシー、全然止まってない」
光「今何時だと思ってんの?」
潜「(時計見て)・・・日曜のこの時間じゃ、電話で呼ばなきゃとまんないか・・・」
光「それにしても従業員用の会議室で式あげちゃったなんて・・・」
潜「飾りつけもなにもなかったけど」
光「あのときお母様倒れたのが」
潜「実は仮病だったなんてね」
光「まったく、最後まで、やってくれるんだもん。役者にでもなれるんじゃないの?」
潜「さっき病院から電話あってね。また救急車で運ばれたときは、仮病がばれそうでひやひやしたって」
光「(笑って)あそこまでやってくれたんだもん。感謝感謝。」
潜「これからも、お母さんには足むけて寝らんないな」
光「うん・・・あ」
潜「どうしたの?」
光「テラスのドアの暗証コードってなに?」
潜「・・・教えない」
光「ケチ。」
潜「つまんないよ?」
光「いいよ」
潜「ほんとくだらないよ」
光「はやく!」
潜「・・・僕の名前って海に潜るって言う字の潜でしょ?それと光。だからそれを英語にして、光はFlash、僕はDive・・・だから・・・いっしょになれてうれしいって意味でFlash&Dive!」
光「(唖然)」
潜「やっぱ・・・くだらなかった?」
光「・・・(にっこり)んなことない。」
潜「そう?」
光「たまにはかっこいいことするんだね」
潜「かっこいい?」
光「たまには・・・ね」
潜「そのうち、いつでもやれるようになるよ」
光「無理しなくていい」
潜「・・・ほんと?」
光「うん・・・今のまんまで」
潜「今のまんま・・・」
光「そ。今のまんまで・・・」
 ふたり、空をみる
 そのとき、タクシーが通り過ぎる
潜「(手を上げ)・・・とまった!」
光「(かばんを持って)行こっか?」
潜「うん。」
 ふたり、手をつないであるいていく
 音楽高まる
 暗転
End