2008年5月9日金曜日

Von Voyage!!

第一章 飛ばない飛行機
テーマ曲→暗転→明転
  ここは成田空港第二ターミナル待ち合わせGカウンターである。時間は午前十時三十分。
  ベンチが二つある。ひとつは四人がけ。もうひとつは二人掛け。
  その四人がけの右から二番目に工藤静代がスポニチを読みながら座っている。
  そこに伊藤留美登場。ベンチの後ろのカウンターに「女の企画!サウスアイランドフリーツアー受付」の垂れ幕を貼る
  そして観客に向かって話し始める

伊藤「私の名前は伊藤留美。お酒と焼き魚の好きな二十三歳。あだ名はルミ坊。ハミングバードトラベル社の社員としてツアーコンダクター、ツアコンをやっています。今日のツアーは(垂れ幕を指差しながら)『女の企画!サウスアイランドフリーツアー』。これから四人のお客様が見えられ、一緒に七泊九日間の旅をサポートしていきたいと思います。ここ成田からサウスアイランド空港までは今回のスポンサーである、あちらのお金持ちの方のチャーター機を使います。
このフリーツアーってのはお客様各自それぞれこうしたい、ああしたいっていうプランを持ち込むことによって、団体行動ではなく個人個人で楽しんでもらおうってもの。だからサウスアイランドに着いたら完全自由行動。自分の企画どおりに進んでいただきます。ホテルだけは一緒ですけどね。
    でも実はあたし、今日のツアーが初めてのひとりだちなんです。緊張しまくりです。今までは京都の修学旅行とか、おじいちゃんおばあちゃんの『カニ食べ放題!山の中の秘湯めぐり』なんてのを先輩と一緒になって回ってました。あ、でもここでちょっとおかしいって思いません?海の近くの旅館ならまだしも、かにが絶対いない、山の中で食べ放題だなんて。案の定、かにはオール冷凍でしたけどね。
   ま、そんなことはともかく、旅ってものすごく素敵なものだって思いませんか?日常っていうオリを抜け出て、見知らぬ街でのびのびと過ごす。ここではないどこかへ。そんなドキドキ感って旅以外じゃ、得られないと思うんですよ。それで(旅っていうのは・・・)」
工藤「(スポニチを急に降ろして)ちょっと!」
伊藤「は、はい?」
工藤「あんた、誰としゃべってんだよ?」
伊藤「え?あ、気にしないでください。私事ですから」
工藤「そんなお腹から発声する私事なんてあんのかよ?日本語のわかんねえ人もふりむくよ」
伊藤「そ、そうですかねー?(なんなんだ、この女は?)」
工藤「あんた、馬鹿?」
伊藤「え」
工藤「ぶっ殺されたい?」
伊藤「な・・・(ほんと、誰なの?)そ、そういうあなたは?」
工藤「工藤」
伊藤「は」
工藤「工藤(何回も言わせないでよ)」
伊藤「くどー?」
工藤「(キレぎみ)工藤静代!あのベタベタのとんでもないツアーの参加者の!」
伊藤「え?く、工藤様?」
   伊藤、あわててカウンターに戻り、出席カードを確認
伊藤「あ、すいません」
工藤「人に謝るときは申し訳ございません!」
伊藤「も、申し訳ございません!工藤様、工藤静代様ですよね?」
  伊藤、客ふりで
伊藤「この工藤様はどういうプランだかいまだによくわかんないんです。(書類を出して)『山登り』しか書いてないし。で、サウスアイランドには山はないんです。要注意人物なんですかね?」
工藤「また私事?」
伊藤「(戻って)いえ、本当に申し訳ございませんでした。」
工藤「申し訳ないを二回以上言わない。逆に失礼。」
伊藤「私のミスでございます。どうかお許しを」
工藤「(伊藤の声マネをして)『旅って素敵なもの』なのよね?あんたのせいでバッドスタートよ」
伊藤「そんなことないですよ。いいお天気で。あたしなんか朝からステーキ食べてきました、ははは・・・。(ムクレを取ろうとして妙に明るく)それにしてもお早いですよね。集合時間の三時間も前ですよ」
工藤「(キレて伊藤の襟首をつかみながら)あたしがジジババみたいに早起きだってこと馬鹿にしてんの?」
伊藤「(びっくり)し・・・してないですよ」
工藤「最近、なんだか、朝の四時半に目が覚めるんだ」
伊藤「は・・・はい」
工藤「(つかんだ握力をさらに増して)公園でラジオ体操にも毎日通って、最近じゃお通じがいいのねってどこで調べた?」
伊藤「じ・・・自分から話してんじゃないですか?」
工藤「早死にしたいんだねぇ(手をポキポキ)・・・」
  伊藤、たじたじ。
  そこに今回の飛行機のパイロット、コンナ・ナイロムが黒いかばんと、袋いっぱいのレトルトカレーを持ってやってくる。
  女のとっくみあいを見て
コンナ「(ギョ!)」
伊藤「(締め上げられ、か細い声で)た・・・たすけて・・・!」
  コンナ、たじろぎながらふたりを、ひきはなす
伊藤「(ほっとしている)」
工藤「(まだムカムカ。コンナに)誰?」
伊藤「(ゼイゼイいいながら)ああ・・・こちらは・・・今回のチャーター機のパイロットをしていただくコンナさん。あ、日本語わかんないんで、ボディランゲージで話します。」
工藤「あのカレーは?」
伊藤「ああ、コンナさんって日本のカレーが大好きなんです。特にレトルトカレー。だからたくさん買ったみたいですね。」
工藤「ふーん」
伊藤「(コンナにBLしながら同時に話す)おはよう・・・ございます・・・コンナさん。今日はよろしく・・・おねがいします」
コンナ「(伊藤に、こちらこその礼。にこにこ。カレーを見せて得意げになる)」
伊藤「(コンナに)こちらは・・・お客様の・・・方です」
コンナ「(伊藤の紹介にあわせて、深々と礼)」
工藤「(見下したような礼)」
コンナ「(失礼な工藤の礼をみて、カチンと来て伊藤にBL
伊藤「(同時通訳)・・・なんなんだ・・・こいつは?・・・こんな失礼な奴は・・・サメのえさにでもなればいい!って、ちょっと!」
工藤「あたしがえさ?」
伊藤「違います、違います!(コンナにBL)すいません・・・我慢してください』というBLで返す)」
  コンナ、伊藤BL合戦
  それをみてまた怒り心頭の工藤
工藤「さっきから見てりゃふたりでわけわかんないことばっかりやってよ。もういい、帰るわ、お疲れ!」
  工藤、帰ろうとする
コンナ「(帰られると自分の給料がさがるんでまわりこんで必死で止める)」
  伊藤、あわてる
  帰る、帰らないでひと悶着
そのとき上山祐子がやってくる。ふと見れば三つ巴のとっくみあい。
上山「(シャッターチャンスとばかりにデジカメで撮る)はい、オーケーです」
伊藤「え?」
上山「成田空港で出会った、異種格闘技戦!『K-1も脱税してる場合じゃない!』。」
工藤「誰?」
上山「(無視)格闘技好きにはたまらないですねー」
コンナ「(誰なんだきみは?)」
上山「(皆を察して)申し遅れました。あたし、上山祐子です。(名刺をみんなに配る)どうぞ!・・・どうぞ!」
  みんな、名刺をもらって見る
コンナだけ名刺の意味わからずひとりで悪戦苦闘。
コンナ、ついに名刺を使って工藤にちょっかいを出す
工藤「(コンナに)あんたね!」
コンナ「(ダッシュで逃げ回る)」
  工藤、コンナをおいかける
上山「お!今度は鬼ごっこですね!(写真をとりまくり)」
  伊藤、そんな中
伊藤「お待ちしてました!上山様ですね。(出席カードに丸をつけてから客席に向けて)このお客様は雑誌のフリーライターなんだそうです。今回の企画は取材らしいですよ」
   コンナ、ついにハケる
   工藤、追いつかずにさらにイライラ
工藤「(息切れしながら)さっきの写真(返しな)」
上山「?ああ、さっきの。無理ですね。石井元館長にみせなきゃ」
工藤「(上山に近寄って)返せっていってんだろ?」
上山「(伊藤にむかって)写真、大好きですか?」
工藤「話聞けよ」
伊藤「え?ええ、まあ・・・」
  そのときコンナ、こっそりでてくる
工藤「(コンナを見つけて)てめえ!」
上山「ああ、待って!(コンナに向かって)そこの外人さん。(カメラ見せて)ハイ、ポーズ」
コンナ「(逃げようとしてるんだけど、カメラを向けられて、ポーズ)」
上山「(カシャ)ハイ、オーケーです!」
工藤「あんた!」
上山「見たでしょ、今?このおふたりは写真が大好きだった」
工藤「あたしは嫌い!」
上山「あんた、民主主義わかってないねー。三人のうち二人がオーケー。多数決でハイオーケー」
工藤「民主主義なら少数意見も聞くはず!」
上山「ノーサンキューです。(伊藤に向かって)あなた、お名前は」
伊藤「伊藤です」
上山「伊藤ちゃーん、聞いてよ!」
伊藤「ちゃんって・・・」
上山「(かまわず)修学旅行とかでもそうだったんだけど昨夜、ねむれなくて、そんで、そんで、朝は朝でさー、編集長に起こされるわ
   自分の話を長々と続ける)」
伊藤「(困惑)」
コンナ「(伊藤の肩をたたいて『そろそろミーティングを』)」
伊藤「(うんざりしながら)あ、はい。すいません。そろそろパイロットとミーティングの時間なんで・・・」
上山「えー!」
伊藤「すいません。じゃ・・・」
  伊藤、コンナと逃げるように、もう片方のベンチに移動。そこでBL同士によるミーティングスタート。
  一方、元のベンチには上山と工藤
  しばし、沈黙。新聞を広げる工藤
  ポケットから虫除けスプレーを念入りにかける上山
  さっきの言い合いに決着をつけてないので互いに気になるのだが、目で相手を探っている
  でも、耐えられない
上山・工藤「あの・・・(ハモる)」
上山「あ・・・どうぞ」
工藤「あんたこそ(どうぞ)」
上山「(気まずいが)・・・あ・・・大人気なかったっすね。あたし」
工藤「・・・」
上山「(デジカメをとりだし、消去スイッチを押す)これでオーケー」
工藤「?」
上山「・・・」
工藤「・・・消したの?」
上山「イレース。デジカメって便利だよね。撮ったその場で編集できるから」
工藤「(どうしようかな)」
上山「(どうしたのかな?)」
工藤「・・・あんがと(仕方なしの感謝)」
上山「・・・どう・・・いたしまして」
工藤「・・・そう?・・・」
上山「(気分を変えて)あ、あの、お名前は」
工藤「・・・工藤」
上山「お仕事は」
工藤「お守り」
上山「?」
工藤「お守りだよ。男の」
上山「主婦ってこと?」
工藤「・・・ヤクザの。」
上山「極道の女ってとこ?」
工藤「かっこよくないね、それ。あたしさ、付き合ってる男が、やくざの下っ端みたいなもんだって・・・知らなくてさ。・・・ずっと好きで・・・子供できてから知ったんだよね。」
上山「へえ」
工藤「(ひとりごと)・・・先週は・・・忙しかった」
上山「?」
工藤「?ああ、なんでもねえよ。気にすんなよ」
上山「・・・そう」
工藤「・・・あんたは?」
上山「ああ、あたしは雑誌のフリーライター。」
工藤「(ふーん)」
上山「いろんな雑誌に書いてたんだけど、なかなか安定しなくて。今は『THE昆虫マガジン』ってとこで世話になってるの」
工藤「読んだこと、ねえな」
上山「だろうねー。通販でしか売ってないし」
工藤「それで」
上山「今回のあたしの企画は取材。『幻のクロスケナガアゲハを探せ』っていう」
工藤「そんな長い虫いるの?」
上山「貴重なアゲハチョウなの。島でも三年に一度しか確認されていないっていう」
工藤「それをつかまえて、記事に書くと」
上山「つかまえるのは馬鹿ばっかり。あたしはカメラに撮るだけ」
工藤「じゃ、その横のバックにはなにが入ってるの?でかすぎやしないかい?」
上山「ふふ、本当の目的は(目の色は変える)・・・シロトラカブトムシだ」
工藤「は?」
上山「(自分の世界に入り説明口調で)シロトラカブトムシ。一九二八年、ドイツの学者がサウスアイランドで見つけ、その美しい姿に卒倒してしまったというくらい世界一美しいカブトムシなのである」
  上山、バッグから白い箱と麻酔薬の入ったビンを取り出す
上山「(白い箱の中身を工藤に見せて)これが預かってきたシロトラカブトのオス。通称オスちゃん」
工藤「白くない」
上山「うるさい!白いのはメスだけ!こいつを使っておびき寄せて、つかまえたら、こいつ(麻酔ビン)で眠らせて・・・(麻酔薬のビンをゆらしながら水面を見つめる)・・・学会に提出すれば・・・あたしの・・・あたしの・・・」
  上山、ビンを工藤にむける。ふたを開けてビンを工藤にかがせようとする
上山「ははは・・・愛しのシロトラカブトのメスちゃーん!」
工藤「や、やめろ!」
  そのときタイミングよく伊藤、ミーティングを終えて戻ってくる。
  コンナは伊藤のハケる際、おもいだしたかのように
白い封筒を渡そうとするが伊藤は気づかずでてきてしまう
  コンナ、残念がり、封筒を見ながらハケる
  伊藤、とんでもないことになってるふたりを見て
伊藤「うあー、なにやってんですか!」
上山「あたしのー!あたしのー!シロトラカブトー!(止めに入る)」
工藤「絶対あんた、許さない!島についたら、川流しだ!」
  そこに疲れきった顔をして、及川百合絵登場。ボーっと歩き続ける及川。
  取っ組み合いをやめて見つめる三人
  ハケそうになる及川をすんでのところで伊藤、止める
伊藤「あ、あの・・・もしかして・・・」
及川「・・・」
伊藤「及川さん・・・?」
及川「(ぎくり)」
伊藤「今回の参加者の、及川さんの・・・奥さんですよね?」
及川「・・・は・・・はい」
上山「及川?」
工藤「及川?」
伊藤「そうです。及川さんですよね。(ほかのふたりに)及川さんの奥さんですよ」
及川「・・・は・・・はじめまして。妻の・・・百合絵です」
工藤「おそい」
及川「す・・・すいません」
上山「よろしく!あたし、上山です。雑誌のフリーライターやってます。ねえねえ『THE昆虫マガジン』って知ってる?」
伊藤「(出席カードに丸しながら上山を制し)あれ、及川さんのプランはなんでしたっけ?」
及川「・・・し、新婚旅行です」
工藤「ケッ!ダサッ!」
上山「そんなことないよ。すばらしい!」
及川「(どうしようもない笑い)」
伊藤「あれ・・・ご主人は・・・?」
及川「(ギクリ)」
工藤「アホくさ!キャンセルだ!」
伊藤「え?」
工藤「(怒り心頭で)なんで新婚ほやほやのイチャイチャカップルを指くわえて見てなきゃならねんだよ?」
上山「別にゆびくわえなくても」
工藤「ほんっと!あほくさ!」
伊藤「ああ、あの、及川さんにかわって言いますけど新婚旅行っていっても、普通の新婚旅行とは違うー、みたいなんですよ」
工藤「どんなんだよ」
及川「省二さんが・・・考えたんですけど、平凡なものではなく人とは違ってもので、違ったところに行って人生の記念にしたいって」
工藤「普通!平凡!淡白!」
伊藤「いやいや、今回はご存知かと思うんですが、ひとりひとりが動くフリープランツアーですよ。いつもいつも一緒ってわけじゃないんですから」
上山「そうだよ。あたしはジャングルにいってアゲハと愛しのシロトラカブトちゃんを探すし、あんたは・・・」
工藤「(ギロリと上山をにらみつける)」
上山「(押されて)・・・とりあえず、バラバラだからいいじゃん」
伊藤「ね」
上山「じゃないと金もったいないよ」
伊藤「(たたみこむように)もし今キャンセルされると旅行代金百パーセントのキャンセル料をいただきますよ」
工藤「(伊藤と上山の首ねっこをつかんで)まじ、ぶっ殺すよ」
  上山、伊藤、びびる
及川「(見かねて)ああ、もうけんかはやめてください!」
上山「あんたのためにこうなってんだよ」
及川「す・・・すいません」
伊藤「まあまあ、でもご主人はどうしたんですか?」
及川「す・・・すいません(嘘をつく顔で)な・・・なんか具合が悪いみたいで」
伊藤「え」
及川「・・・キャ・・・」
上山「キャ?」
及川「キャ・・・キャ・・・キャン・・・」
工藤「キャン?」
及川「キャンセルを・・・」
伊藤「ちょ、ちょっと待ってください!ここでふたりもドタキャンされたら、あたしの首が飛びます。そしたら恨んで夜中、みんなの枕元にたちますよ」
及川「(枕元に立つことを妄想して、ぶるぶる)」
工藤「(へでもない、という顔)」
  上山、三人の中に入り
上山「ま、ま、伊藤ちゃんもここまで言ってるんだし。おふたりも・・・成田まで来ちゃってるんだし。参加しよ!」
伊藤「上山さん・・・」
上山「(伊藤を制し)及川・・・さん・・・だっけ?さっきの話は・・・ま、あやしむつもりはないんだけど、ちょっとひっかかるんだよね」
及川「・・・」
上山「だんなになんかあったんだね」
及川「(そっぽむく)」
上山「素直になろうよ。ね?」
伊藤「ね?(コーヒーを渡そうとする)」
工藤「トイレ行ってくる」
   工藤、ハケる
及川「(覚悟したように)省二さんが・・・省二さんが・・・」
上山「省二さん?」
伊藤「だんなさんの名前です」
及川「(たまってきた感情をはきだす)・・・いなくなっちゃったんです!」
伊藤「え?」
及川「昨日結婚式だったんです。式の後の二次会が終わってホテルに戻って寝たとこまでは一緒だったんですけど・・・」
上山「お!初夜だね?結婚してケーキカットの次にする共同作業!」
及川「してません」
上山「しようよ!」
及川「そんな・・・恥ずかしい!」
伊藤「いいですよ、その話は。」
上山「(舌打ち)」
伊藤「後で聞きましょ」
及川「それで朝おきたら、となりにいるはずの省二さんが・・・省二さんが・・・(くりかえし)」
伊藤「ああ、落ち着いてください。コーヒーでも飲んで。」
  伊藤、かばんから、缶コーヒーをとりだす
  そこにコンナがダッシュでやってくる
コンナ「(BL)」
伊藤「(同時通訳)なになに・・・飛行機に・・・故障がみつかって・・・飛べないって、そんな!」
上山「え!」
  コンナ、またダッシュでハケる
伊藤「あ、待って!(追いかけようとしてみんなに)すいません。ちょっと状況を確認してきます!」
上山「頼むよ!シロトラカブトにあわせて!」
伊藤「とにかくみなさんはここで待機してください!あ、工藤さんにも戻り次第伝えてください!」
上山「わかった!」  
伊藤、ダッシュではける
及川「あのー」
上山「?」
及川「・・・あたしは・・・」
上山「聞いたでしょ!トラブルだよ、トラブル!」
及川「あたしのほうがもっと重大なトラブルなんですけど・・・」
上山「んもう!まいるよなー、しょっぱなから・・・」
  上山、うんざりしながらふと、壁際のポスターに視線が行く。ポスターは「この顔見たら110番!3月17日 宝石店強盗犯全国指名手配2名」である
  上山、ポスターを見つめる。そこには静代によく似た似顔絵が書いてある。
  そこにやってきた工藤
はっとして、工藤を見る上山。
工藤「(工藤の視線に気づき、ポスターを見ながらにやりとして上山を見る)」
上山「(ぎくり)」
  上山、あわててポスターをたたむ
  そでからゆっくり伊藤出てきて
伊藤「(客ふり)上山さん、なにを見つけたんでしょうか?あの顔、気になります。そして、工藤さんのこの旅の目的って一体・・・。舞台は
  それから始まりから五時間後、午後三時に進みます。」

第二章 打開策
 伊藤は前章の客ふりを終えたらダッシュでハケる
 残りの三人は椅子に座り、それぞれいらいらしたり頭をかかえたりする
 ちょっと沈黙
 突然
上山「ねえ」
工藤「?」
及川「・・・はい?」
上山「しりとりしよう」
工藤「(あきれて)おいおいおい・・・あんたはどこまでガキなんだ?」
上山「退屈でしょ?この空気。だから。」
及川「退屈っていったって・・・」
上山「はいはい、ノーサンキュー。いくよ!あたしから。じゃあ・・・パンチョ!」
工藤「!」
及川「パ・・・パンチョ?」
上山「去年だか、おととしだか死んだ・・・ほら、大リーグとかの解説の」
工藤「やってらんねえ!外の空気でも当たってくるわ」
  工藤、ハケる
及川「・・・行っちゃいましたね」
上山「いいよいいよ。じゃ、次、及川ちゃん」
及川「お・・・及川ちゃん?」
上山「これから七泊九日間よろしくってなもんで。親しみをこめた呼び名だと思うけど」
及川「は・・・はあ」
上山「はいはい、ぐずぐずしない。カウントしちゃうぞ!五秒前!四、三・・・」
及川「(あわてて)あ、ああ・・・チョ・・・・チョ?・・・チョから始まる言葉ですか?」
上山「ヨだよ。三、二、・・・」
及川「(いっぱいいっぱい)ひ、人の名前?」
上山「なんでもいいよ」
及川「(さらにいっぱいいっぱい)ヨ・・・四谷三丁目!」
上山「?」
及川「あ、ああ、思いついたのが、四谷怪談で・・・怪談だと『ん』ついちゃうから、ち、地名?駅名?ああ、どっちでも・・・その・・・交差点ってことで」
上山「地名はだめだな」
及川「なんでなんで!」
上山「あたしがルールだから。あたしの気分次第で変わるから」
及川「そんなそんな・・・パンチョにいわれたくないですよ」
上山「いいじゃん、パンチョ。パンチョ伊藤」
  そこに伊藤やってくる
伊藤「すみません。どうもかなり重症のようでして・・・」
上山「待つよ。でも日が暮れるまでにはなんとかなるんでしょ?」
伊藤「たぶん・・・」
上山「はっきりしてよ」
伊藤「いや、こればかりはほんとトラブルなんで・・・すいません」
上山「頼むよ・・・あ、名前呼ぶときさ、パンチョって呼んでいい?」
伊藤「え?」
上山「それか、さっきのとおり、伊藤ちゃん」
伊藤「・・・どっちもどっち・・・」
上山「どっちがいい?これから九日近くお世話になるんだからさ、もっとこうフレンドリーにしたいなって思って。」
伊藤「・・・じゃ・・・伊藤ちゃんで」
上山「オッケー。伊藤ちゃん!よろしく!」
及川「あの・・・あたしも・・・なんかあだ名、つけられるんですか?」
上山「(及川を無視)伊藤ちゃん!伊藤ちゃん!そうだ。そうだ!」
及川「(無視されてへこむ)」
  及川、端の席にすわる
上山「ちょっと、これ見てくれる」
  上山、たたんだポスターを伊藤に見せる
伊藤「これって・・・?」
上山「先週の木曜日に杉並の宝石店であった強盗犯の似顔絵。ふたりは夫婦で名前は」
伊藤「(ポスターを読んで)石黒末吉とマス代・・・」
及川「(端から)あたし・・・百合絵っていうんで、ユリーとかってどうですかね?・・・」
上山「(及川気にせず)男のほうはともかく女のほうがさ、あの工藤ってやつと似てない?」
伊藤「髪の毛も長いし、ちょっと・・・」
及川「あ・・・わかった・・・ゆりすけ、とか」
上山「(気にしない)いいや(ポスターを遠くに離してみる)このホクロの位置とか顔の輪郭とか・・・」
伊藤「(確かめてみる)・・・そう言われると・・・」
及川「(ついに、そっと入ってきて)似てますよねー」
伊藤・上山「わー!」
及川「びっくりしすぎですよ」
上山「急に話しに入ってこない」
伊藤「そう、そう」
及川「いや、あだな自分で考えたんで、お知らせしようかなって」
上山「それどころじゃないの」
伊藤「そうです」
及川「・・・いいの考えたのに・・・」
上山「伊藤ちゃん、もし工藤がなんか言ってきたら
伊藤「もちろん、がつんといってやりますよ」
及川「百合絵でいいです」
伊藤「しつこいですねー・・・あ、そうだ。及川さんは今、どんな仕事をされてるんですか?」
及川「・・・保健所です」
上山「公務員か。食いっぱぐれなくていいね」
及川「まあ、それほどでも・・・」
伊藤「だんなさんとは、どういうなれそめで」
及川「え?・・・恥ずかしいな・・・」
上山「(イラついて)さっさと、しゃべろうよ!」
及川「(びびりながら)な、なんでそんなに人のこと干渉したがるんですか!プライベートなことだから、関係ないでしょう!」
  及川、そっぽ向く
伊藤「(営業スマイルで)今回のツアーって最低催行人数の四人しか集まんなかったんで、上山さんががんばってらっしゃるように私も
当社の『アットホームな旅』っていうモットーに従って個人個人さらけだして仲良く、和気あいあいってのをやろうかなって思いまして」
及川「ほかの方はさらけだしたんですか
伊藤「(きっぱりと)まだです」
及川「なんで、なんで!いくら、あたしが来たのがビリだったからって・・・いじめですよ」
  及川、いじける。ずっと聞いてた上山
上山「(真顔で)そんなに、なれそめ、しゃべりたくない?」
及川「(強気で)ええ。しゃべりたくないです」
上山「(怒りを抑えて)伊藤ちゃんがせっかくみんなと仲良くやろうと考えて提案してるんじゃん?」
  上山、ついにきれて
上山「あんたさー、結婚てのをどう考えてる?本当に彼のことが好きで結婚した?なんっか、あんたのことさっきから見てると、理屈っぽいし、わがままだし、昨日結婚式あげたってのに、その喜びも微塵に感じらんないんだよね。そりゃ確かに朝起きたら、だんなが行方不明で、てんやわんやだったってのはわかる。わかるよ。わかるんだけどその緊張感ってか、なんにもわきでてないよね。ほんとにだんなさんのこと好きなの?」
  ヒートする上山。及川の肩をつかみ、左右に揺さぶる。止める伊藤
伊藤「上山さん!」
上山「言ってみなよ!好き?嫌い?それとも親?世間体?え?言ってみなよ!」
  ついに及川叫ぶ
及川「あたしも!・・・あたしもわかんないんです!あやふやなんです!」
  場内沈黙。われに返った上山。肩をはなす
上山「(ぼそりと)あやふやな・・・人間か:」
  上山、ハケる
  ちょうどそのとき伊藤の電話が鳴る
伊藤「はい・・・あ、おはようございます成田です、はい。・・・あ、はい、参加されてますが・・・え?」
及川「?」
伊藤「そんな・・・(端っこに行って)本当なんですか、それは?・・・いえ、そんな指名手配の人(なんて)・・・」
  工藤、伊藤の電話を聞きながら、反対側にいき、電話をかけ始める
  それを見て、あせる伊藤
伊藤「あ・・・気づかれたかも、い、いや、こっちの話です・・・でも・・・わかりました。なんとかします」
  伊藤、電話、切り、工藤をチラ見しながら作り笑顔
工藤「どうした?」
伊藤「え・・・いや、なんでも」
工藤「(また電話)」
  しながらハケる工藤
  及川と伊藤のふたりきり
  伊藤、ため息をついて椅子に座る
  及川、唇をかみしめ下を向きそのひとつ右隣に座る
  やがて伊藤話し始める
伊藤「すいません、アットホームな旅にしたいだなんて・・・はは・・・前、ついていった先輩が良くこういうやり方でみんなをなごませてたんで・・・。受け売りなんて、すぐだめなんですね。フリーツアーだからなあ。やっぱり個人は個人に徹するほうがよかったのかなあ・・・」
及川「・・・あの」
伊藤「はい?」
及川「電話、どなたから」
伊藤「あ?ああ、会社の上司・・・上司からです」
及川「そうですか・・・」
伊藤「(嘘の顔で)なんか、ほかの、旅行グループの中に・・・なんか・・・し、指名手配・・・」
及川「指名手配?」
伊藤「じゃなかった・・・うんと・・・えーと・・・氏名、氏名の記入ミスのお客さんがいらしたみたいで・・・それで・・・それで・・・出国検査ひっかかっちゃったみたいで・・・へへ・・・注意してくれって」
及川「なんだ・・・安心しました。あたし、妄想激しくて、なんか指名手配の凶悪犯の人がこの中にいるのかって思って」
伊藤「(ぎくり)」
及川「はは・・・すいません・・・ただの妄想ですから。」
伊藤「え・・・はは」
及川「気にしないでください」
伊藤「はい・・・」
  そこに上山、もどってくる
上山「(さっきのことでバツ悪そう)はは・・・えーと、あたしのオスちゃんはーっと・・・」
伊藤「あ、上山さん」
上山「(箱を開けて)かわいい、かわいい・・・え?」
伊藤「ちょっとお話が」
上山「え」
及川「あ、あたしも、トイレ行ってきます」
  及川、ハケ際、工藤とすれちがう
工藤「まだ、いた?」
及川「・・・失礼します」
工藤「(鼻で笑って)あんたさ、一時期、はやった、成田離婚ってやつだよね?」
  及川、泣きながらハケる
  工藤、上山の隣にすわる
  上山、あわててポスターをしまう
  そして、二人用の椅子に移動
  怪訝な顔をする工藤
  ふたり、工藤を見てから
伊藤「さきほど、あたしの上司と・・・なんか警察の方から電話が入りまして」
上山「うそ!」
伊藤「石黒夫婦でしたっけ?その指名手配犯がどうも
上山「成田にいるって?」
伊藤「いや、男のほうはまだどっか、逃亡してるみたいなんですけど」
上山「奥さんのほうが?」
伊藤「(うなづく)」
上山「ほらね。あたしの勘は当たる。どうすんだよ」
伊藤「・・・どうしましょうか」
上山「つかまえる?」
伊藤「・・・で、でも・・・まだ、確証が・・・」
上山「なにぐだぐだしてんの。優柔不断が」
伊藤「もうちょっと待ちませんか?もっと確証がとれてから」
上山「ああ・・・みんな・・・じれったいね」
伊藤「しっかりあとは、警察の人がやるでしょうから」
上山「我慢できない。これでなんかあったら伊藤ちゃんの責任ね」
伊藤「そんな・・・」
   上山、工藤のほうへ、つかつかと向かう
工藤、それをちらりと見るが余裕の笑み
   伊藤、あわてて後を追う
上山「あのさ・・・」
伊藤「上山さん」
工藤「?」
上山「・・・やくざの夫婦って・・・生活、大変なの?」
工藤「そこそこかな」
伊藤「(意識して)あの・・・工藤さん」
工藤「?」
伊藤「失礼ですが・・・宝石とか・・・すきですか?」
工藤「?・・・ま、普通?」
上山「単刀直入に言う」
伊藤「(聞いていいんですか)」
上山「お金、好き?」
伊藤「単刀直入じゃないじゃないですか」
工藤「好きだねー。大好き。持ってても損しないし。で、どうした?」
上山「いや・・・あの・・・」
伊藤「その・・・えっと・・・」
工藤「はっきりしねえなー。なに?」
  上山、伊藤をつれて、別のベンチのほうへ
上山「(伊藤に)今度なんか言ってきたら」
伊藤「がつんっていってやるって」
上山「言ってたじゃないの?あれは嘘?」
伊藤「いや・・・でも・・・工藤さんには・・・そうだ!・・・思い切って警察にでも(言いますか)」
  それを聞いて突然
及川「警察!」
   及川、ダッシュで戻る
及川「それだけは勘弁してください。でないと省二さんのご両親とうちの両親が・・・」
   及川、体ごと震える。工藤、そのすきに離れ、携帯をかける
伊藤「いや、これはこっちで・・・」
及川「本当、やめて!ほんとう!」
   及川、ヒステリックにもっと震える
伊藤「(それを見てため息)・・・わかりました。とりあえず、飛行機の修理状況、確認してきます」
   伊藤、ハケる
   工藤、二人用のベンチで、新聞を開き、横になって寝る
   上山、及川ふたりきり
   気まずいふたり
上山「・・・あの、さっきはごめんね。あたし、江戸っ子だからさ、喧嘩と花火はなんとやらってやつでさ。」
   上山、落ち着きなく歩き回る
上山「あたしも・・・話すよ。あたしも・・・結婚したことあるんだ。」
及川「(上山を見る)」
上山「(笑いながら)今いないのは、離婚なんて情けない別れじゃないよ。・・・ほらさ、あたし、こういう仕事やってるでしょ。だから一年中、日本飛び回っててさ、荻窪の家いつも留守にしてた。」
  上山、スプレーをかけて
上山「家に帰ってくるのは年三回くらい。で、もう、すぐ行っちゃう。あたしのだんな様はフツーの会社員だったけどしっかりひとりで、留守守ってた」
及川「・・・」
上山「で、ある日、取材で南米に行ったんだ。取材して、帰国して、丸の内線降りて、家のドア開けたら、急に隣のオヤジがダッシュでやってきて、だんなさん帰ってから急に具合悪くなって、救急車で運ばれたって・・・あたし、急いで電話帳ひっくり返して、区内の病院探した。八件めでやっとわかって・・・走っていったら・・・もう・・・死んでた」
及川「(じっと上山を見つめる)」
上山「・・・死んじゃった」
及川「(ふと自分をふりかえる)」
上山「(遠くを見つめる)」
及川「・・・だんなさんのこと・・・離れてても・・・ずっと好きだったんですね。」
上山「そうなのかな?」
及川「わかります」
上山「・・・ほんと?(信じられない)」
及川「わかりますよ・・・」
上山「・・・たったこれだけで?」
及川「・・・それだけで」
上山「・・・そう・・・」
及川「・・・」
  上山、落ち着きなく歩き回ってからいきなり
上山「さっき、自分がわからないっていってたじゃん?もうちょっとはっきりしゃべってみない?」
及川「ええ?・・・(渋る)」
上山「こっちも本当に親しい友達にしかしゃべんないこと、しゃべったしさ」
及川「(どうしようかな)」
上山「だんなの話は・・・正直、さっきのあんたみてたら話したくなった」
及川「・・・」
上山「ね?」
及川「・・・省二さんっていうんです。」
上山「わかってる」
及川「省二って字は反省の省に漢数字の二って書きます」
上山「はいはい。細かいね」
及川「こだわりやなんです。出会いは・・・保健所の新歓コンパでした。・・・飲み会の席ってなかなか苦手で」
上山「はは・・・(そりゃそうだろ)」
及川「みんなより奥のほうで、ちびちび・・・」
上山「オレンジジュースでも(どうせ酒なんか飲めないでしょ)」
及川「八海山っていう日本酒を」
上山「(ぎょっ)」
及川「(気づかず)飲んでたら、省二さんから話しかけられたんです。そこから意気投合しちゃって。」
上山「なるほど」
及川「そのあと、すごトントン拍子にすすんだんです。省二さんはあたしと会うたびに『好きだ』って言ってくれて。あたしもそう何回も言われるとこう・・・洗脳されちゃうっていうか、あたしもなんかすごく好きになっちゃってしまったんです」
上山「うーん・・・正直、勢いでってところがあるなー・・・」
及川「勢いの部分はあると思います。それで、ずっとひっかかってて・・・たまに自分でまじめに考えたとき・・・あたしってほんとに心の底から好きなのかなって・・・考えてくと、どんどんどんどん疑心暗鬼になってく自分がいて」
上山「けっこう思いつめるほう?」
及川「A型ですから」
上山「ビンゴ」
及川「あ!」
上山「?」
及川「お・・・思い出した」」
上山「なに?なに?」
及川「夕べ、結婚式のあと、飲み会があったんです。その席で・・・『あたしのこと本当に好き?なんか違わない?』って」
上山「そんなこと言っちゃったの?」
及川「いや、冗談のつもりですよ」
上山「いや、結婚までしてそりゃ(ないよ)」
及川「・・・ああ!また、酔っちゃった!」
上山「そりゃ・・・逃げるわ・・・」
   及川、ふさぎこむ
   伊藤、もどってくる
上山「あ、どう?飛行機。それと(警察)」
伊藤「(上山をとどめて)飛行機のほうは、早く、直すようにがつんっていったんですけど・・・
そのとき、一通の紙ひこうきが三人めがけて飛んでくる
それに気づいて下手を見る、上山、及川。
  下手、そでにコンナ、顔だけ出し、封筒をくわえながら紙ひこうきをとばしている
伊藤「なんか・・・集中力のない人らしくて・・・」
  どんどん、紙ひこうきをたくさん飛ばし始める
伊藤「飽きちゃって、紙ひこうきばっかり作ってたみたいです」
  そこらに散乱する紙ひこうき。
  三人にむけて飛ばしまくる
  及川、伊藤、拾う
  上山、キレて
上山「ん、もう!こら!そこのパイロット!自分の仕事は責任もってやれっつうの!」
  上山、下手に紙ひこうきを拾ってダッシュ
  コンナも適当に拾いながら、あわてて顔をひっこめる
上山「(追いつかず、伊藤に)ガツンってあたしが言ってどうすんのよ!」
伊藤「すいま・・・ああ、申し訳ございません」
上山「こんなドタバタした取材って初めてだよ!ああ、むかつく!(席にもどって)・・・こういうどうしようもないときは・・・(白い箱をとりだして)おーい、オスちゃーん、人間ってほんとうに(ふたを開ける)・・・え」
伊藤「?どうしました?」
及川「?」
  上山、ばたんと立つ
上山「い・・・いない」
伊藤「え」
上山「オスちゃん・・・オスちゃんがいないんだよ!(箱をふたりに見せる)」
伊藤「うわ」
及川「ほんとだ」
  上山、かばんをひっくり返し、あわてながら探す
  ほかのふたりもつられて場内を探し始める
  そのとき、工藤、のっそり起きる
工藤「(寝ぼけて)どした?」
伊藤「(探しながら)上山さんの変なカブトムシが・・・」
上山「へんな!」
伊藤「あ、ああ、大きなカブトムシがいなくなっちゃったみたいなんです」
工藤「はは・・・どっかそこら辺のゴキブリホイホイにでもくっついてるんじゃないの?」
三人「え!」
  上山、及川、ムカっとしながら、探し始める
  コンナ、またやってきて飛行機を飛ばし始める
  上山、また追っかけたりする
音がかかる
  伊藤、探しながら、端っこで
伊藤「(客ふり)またまたトラブルです。今度は上山さんのシロなんとかかんとかカブトムシがいなくなっちゃいました。コンナさんはあいかわらず、ちょっかいばっかだしてます。及川さんのだんな様の件もまだ片付いてないし。あたしもそろそろ限界なんですが・・・話はまた進みます」
  話し終えたら、伊藤、また探し始めたり、コンナを説教したりして、てんやわんやになる
  曲のラストに向かって、コンナ、追っかけられてハケる
  上山、伊藤、及川の三人は場内にあちこち散らばって、つかれきって、寝てたりする
  工藤だけ、自分の椅子に座ってる。新聞を広げる
  曲、終わりと同時に
及川「・・・省二さんは来ないし」
伊藤「・・・飛行機は飛ばないし」
上山「・・・オスちゃんはいなくなるし」
工藤「(新聞読みながら、のんきに)どうなってんだか・・・」
  三人、ぐったりする
  及川だけ、工藤にひっかかって
及川「あのー」
工藤「?」
及川「お、お名前は?」
工藤「工藤」
及川「工藤さん・・・探さないんですか?」
工藤「?」
及川「カブトムシ。探さないんですか、一緒に?」
工藤「やなこった」
及川「?」
工藤「(かぶせるように)あたし、虫、嫌いなんだ。幼稚園や小学生じゃあるまいし。」
及川「・・・」
工藤「(心配そうな及川を見て)大丈夫。そこらへんからノソノソ出てくる」
及川「そういうこと言ってるんじゃないんです」
工藤「?」
及川「好き嫌いのこと言ってんじゃないんです。みんなが探してるから、一緒になって探さないのって聞いてるんです」
工藤「ばっかくせ!。ちんけな集団行動、守んなきゃだめか?」
及川「?」
工藤「これは個人ツアーだろ?個人の意見が尊重されるんだろ?ひとりひとりが好き勝手にやっていいツアーだろうが。いいじゃん、探さなくても」
及川「そんな・・・」
工藤「殺すよ。まじで。ったく、地面に、はいつくばって、ほこりだらけになってさ」
三人「・・・」
工藤「たかが虫じゃん?高島屋の屋上でも売ってるよ」
上山「・・・なんだって」
工藤「何回でもいってやるよ。たかが!たかが虫じゃねえかっていってんだよ!」
上山「あったま、きた!あんたなー、さっきから見てりゃ、いい気になってさー。どこの国のお姫様?」
工藤「(近寄って)面白いじゃん」
上山「あのカブトは、日本の山ん中どこ言ってもみつかんない、カブトムシなの!高島屋で売ってるわけないじゃん!」
工藤「(にやにや)」
上山「大学の研究室にあたしの友達がいて、教授に内緒でわけてもらってきたんだ。わかる?あたしだけじゃくて、いなくなったら、その子も困んだよ。」
工藤「それもただのあんたのわがままなんじゃねえの?カブトのメスを捕まえたいっていうエゴ。それにつきあわされた子も、あんたのせいで・・・くびにでもなるんじゃねえの?」
上山「違う!」
工藤「違わない!」
上山「はー、そう?そんなに言うんだったら(上山、かばんにしまった先ほどのポスターを見せる)この顔、あんたにおもいっきり似てんだけど」
工藤「(ポスターを見るが、ニヤニヤしてる)」
伊藤「上山さん!(だめですよ)」
上山「伊藤ちゃんはだまってて!」
伊藤「はい・・・」
上山「このホクロの位置といい、目つきといい、八十パーセント、いや九十パーセント似てんだけど」
工藤「(にやにや)」
上山「なに?・・・その笑いは」
工藤「(ため息)気に入らなかったら今度は人を犯罪者扱いか」
上山「なに!」
工藤「証拠はあんの?」
上山「・・・だから、ホクロと目つきと」
工藤「違えよ。このあたしがそのポスターのとおり先週、宝石店に押し入ったっていう証拠があんたにはあんのかって言ってんだよ!」
上山「・・・それは・・・」
工藤「顔が似てるだけで判断するなんて。だから、がきみたいに虫が好きなんだな。」
上山「!」
工藤「世の中には三人似てる顔があるんだって。それなのに・・・」
伊藤「申し訳ございません」
上山「なにあやまってんの?」
伊藤「失礼しました。でも、もう少し落ち着きましょうよ」
工藤「十分、落ち着いてるよ」
伊藤「そうですか・・・それならいいんですけど」
上山「あやまんなくていいよ。伊藤ちゃん」
伊藤「いえ、お客さまみなさん気持ちよく旅していただくのが、あたしの仕事ですから、ひとりでも不快になったらあたしの」
上山「そんな社交事例みたいなこといってんじゃないよ!」
伊藤「社交事例じゃありませんよ。心から」
上山「そこがいかにも営業っぽくて信じられないんじゃん。」
伊藤「・・・」
上山「(再び怒り)あんただろ?」
工藤「?」
上山「強盗は違ったとしても・・・あたしのカブトを盗んだの、あんただろ?」
工藤「(ため息をついて笑い)・・・今度は・・・」
上山「あたしがこのメンバーの中で最初にカブトを見せたのはあんただった。それで貴重なカブトだって知って・・・盗んでどっかで売りつけるつもりなんでしょ?」
工藤「(あきれて)ため息しか出んね・・・」
上山「そうなんでしょ?こんどこそそうでしょ?強盗犯に似てるって言った分はあやまる。(ふてくされて)ごめんなさい。すいません。申し訳ございません。秘書がやりました。遺憾の意を表します!でも・・・カブトを盗んだってことは・・・お願いだからしっかり白状してよ!ね?そうなんでしょ(工藤につめよる)」
伊藤「いい加減にしてください!」
  ふたり、止まる
伊藤「飛行機が遅れてしまって、そこからみなさんに不快な思いさせてるのはあたしの責任です。申し訳ございません!・・・でも・・・いらいらしてるからって、ぶつかったり人を疑うのはやめましょうよ・・・いくらなんでも・・・ひどすぎます・・・」
工藤「かっこいいこというなあ・・・」
伊藤「・・・」
工藤「いいじゃねえか、言い合えば。この際はっきりさせようや、お互い様。・・・すっきりしねえと」
上山「サウスアイランドに行けたもんじゃない!」
  ふたり、ついにとっくみあい
伊藤「(大声で)あたしの言うこと、聞いてください!」
  それでも止まらないふたり。止めようと三人で争う。
  それを二人用ベンチで見ている及川
及川「ねえ」
  やまない三人
及川「(大声で)ねえ!」
  三人止まる。
伊藤「及川さん?」
工藤「?」
及川「あたしの省二さんのことは?」
伊藤「え」
及川「・・・カブトムシ、みんなで探しましたよね?」
上山「今はそれどころじゃ(ないよ)」
及川「あたしの省二さんは?省二さんはだれが探すの?」
伊藤「ああ・・・すいません。ほかのことにいっぱいいっぱいで・・・」
及川「いっぱいいっぱい・・・?」
伊藤「なんとかしますから、もうちょっと・・・」
及川「(限界)あたし、もう待てない!」
伊藤「待ちましょう!」
工藤「虫じゃなくて人だから・・・警察にでも捜索願、出すしかないんじゃねえの?」
及川「・・・警察・・・」
伊藤「・・・そうですよ。そうするしかないですよ」
工藤「そう。世間体とか、気にしないでさ」
及川「・・・警察?・・・」
伊藤「今はそれしか・・・それしか・・・打開策はないかもしれません・・・」
  上山、工藤、またつかみあう
  及川、ふらりと、椅子の上に立ち上がる
及川「打開策ですか・・・打開策・・・それしか・・・ないですか・・・。でも・・・もうひとつ・・・あるんじゃないかなー・・・(視線を上山のかばんに向けて)いいもん、見ーっけた!」
  及川、ダッシュで上山のかばんをぶんどる
上山「な、なにしてんの!」
  とめる上山。しかし及川はカバンをあさり、麻酔薬のビンをとりだす
及川「はは・・・この指、とーまれ!」
  麻酔薬を飲もうとする及川
  やめろ、と止める三人
  「やめろ」「死ぬ」の押し問答
  そしてついに
及川「(グイって飲む)」
上山「あ・・・」
伊藤「及川さん!」
工藤「大ばか者め・・・」
  このとき騒ぎをききつけ、コンナがやってくる
コンナ「オ・・・オイカワ?・・・オイカワ?」
  のみ終わってからにやりとする及川。すぐ、ばたりとたおれこむ
  抱え込む三人。ほっぺをひっぱたいたり、体をゆらしたりする
伊藤「及川さん!及川さん!(泣きそうになる)」
上山「救急車!だれか救急車を!」
  コンナ、なんとなく状況をつかんで電話機を探すが、よくわからず、手でかけたフリをする
上山「(コンナを見て)なに馬鹿なことやってんだよ!(及川に)ねえ、ちょっと、ねえ、しっかりして・・・」
及川「(目を閉じて)へへへ・・・どう・・・あたしの・・・打開策・・・」
  及川、急にカタリと止まる
  三人、注目
伊藤「あれ?」
上山「!」
工藤「え?」
伊藤「(小さく)及川・・・さん?」
上山「及川・・・ちゃん・・・」
  上山、ゆすってみる
上山「及川ちゃん!及川ちゃん!」
工藤「貸せ!」
  工藤、及川の体におおいかぶさり
  心臓マッサージをしはじめる
工藤「(マッサージしながら)・・・まだ・・・死ぬのは・・・早いんだ・・・よ!・・・」
  工藤、マッサージしては呼吸を鼻の辺りに確認し、くりかえす
  それをなすすべもなく見るふたり。
上山「(工藤の意外な面にちょっと尊敬の目)」
伊藤「(ひたすら助かってください)」
工藤「(ひととおりしおえて)どう?」
  工藤、腕をとる
  しかし、腕、だらりとたれさがる
工藤「!」
伊藤「(大声で)いやーっ!」
上山「及川ちゃん!」
  上山、ビンをたたく
  曲もかかって大きくなる
  が
及川「(起き上がって)・・・あれ」
  目を開ける
上山「え」
伊藤「お・・・及川さん?」
及川「死なないんだけど・・・?」
  上山、ハッとしてビンの中に指をつっこむ
上山「(中身をなめて)あ!」
伊藤「?」
上山「甘い!」
工藤「どういうことだよ?」
上山「・・・これ・・・アゲハのえさの代わりの砂糖水。」
  それを聞いて及川がっくり
  三人ほっとする
上山「そう、そう。朝、台所で作って、なんか入れるのないかなーって、こいつが転がってたから、ばーって入れてきたんだよねー」
  上山、かばんからもう片方のビンを出して、にっこり
及川「な・・・」
  倒れこむ及川
そこにコンナが白い封筒を持って立ちはだかる
コンナ「オ・・・オイカワ・・・」


第三章 離陸
及川「?」
コンナ「(手紙を及川に渡す)」
工藤「なに?」
   コンナ、伊藤に向かってBL
伊藤「(同時通訳)今朝・・・うちのフロントに・・・お、男が・・・やってきて・・・これを及川と言う女に・・・手渡してくれって」
上山「その男って」
伊藤「省二さんですかね?」
   及川、かまわず封筒を破り手紙を読み始める
   残りの三人、ひそひそ話し
伊藤「なんて書いてあるんですかね?」
上山「別れよう、だったりして」
工藤「離婚届じゃん?」
伊藤「なんでそう、マイナスなことばっかり言うんですか!」
  読み終える及川
  騒いでる三人、ぱっと及川にむきなおる
伊藤「(ごまかし笑い)ど、どうでした?」
  何も言わず及川、手紙を上山に渡す
  そして及川、二人用の椅子に座り込んで考えてしまう
  渡された上山、声を出して読もうとする
上山「百合絵ちゃんへ」
伊藤「(止めて)いいんですか?」
上山「あたしに渡したってことは、読んでいいってことでしょ?」
伊藤「そうですね」
工藤「いいんじゃない?」
伊藤「工藤さん?」
工藤「(上山を示して)言うとおりだと思うよ」
伊藤「そっかー・・・でもドキドキしません?ほら、ドラマとかだと手紙読んでると途中から書いた人の声になるでしょ?読んでる人じゃなくて。へへ・・・いいな、いいな」
  伊藤、妙に興奮。  
  上山、咳払いをしてから読み始める
上山「百合絵ちゃんへ
   この手紙を読んでるころ僕は遠くの空にいます。っていっても別に百合絵ちゃんが昨夜、飲み屋であんなこと言ったから悲しくて天国にいったわけじゃないんで、あしからず。
   前置きはさておき、先に謝っときます。ごめんなさい。
   きっとあわててしまうかな。申し訳ない。この手紙が警察とかまで大事になる前に百合絵ちゃんのもとに渡ってることを祈りますこれから書くことは僕がずっと思ってたこと、そして百合絵ちゃんに対する挑戦状です。
百合絵ちゃんと初めて出会ったのはコンパの夜ですが、最初に好きになったのは保健所の新人配属式です。僕のななめ右前にすわってた
んでその顔にひとめぼれしてしまいました。ちょっと影のありそうなそれでいて素直でまじめそうなところに自分でいうのもなんですが魅かれたんですかね。
あとは百合絵ちゃんがご存知のとおりコンパでアタックしてって感じです
 プロポーズも僕でした。僕は早く百合絵ちゃんといっしょになりたかったから。言ってから考えてもらってる間の一週間は、いてもたってもいられなくて。もちろん仕事場でも顔あわせるんだけど目が合うとそらしたりして。やきもきしながら一週間待ちました。
だから『はい』って言われたときはうれしかった。
  以上がこの前までの話。ほんとうはここからのはあんまりしたくないんだけど、この際だから、します。僕ははっきり言って夕べのあの言葉傷つきました。でもその反面、なぜかホッとしたのも事実です。僕たちのあいだって他はどうかわかんないけど、僕がずっとリードしていって、ひきずっていったようなもんです。絶対フラストレーションがたまっていたはずです。それを吐き出させずにここまでこさせてしまった僕がわるいわけで。あれをいわれてほっとしたんです
 てなわけで僕は隣で百合絵ちゃんがスヤスヤ寝てる横でこの手紙を書いています。それでは挑戦状です。
  僕は先にサウスアイランドで百合絵ちゃんを待ってます。よく考えて本当に僕とやっていけるというなら、勇気を持ってサウスアイランドにきてください。そして今度は百合絵ちゃんの口からほんとうの気持ちを聞かせてください。もしいろいろ考えて僕のことをひとときの夢と思うなら来なくともかまいません。
 僕の望みはこれだけです。あとは信じて待ちます。僕の心は変わりません。
及川 省二」
工藤「度胸ある男・・・」
上山「ああ、もうのろけ話はたくさん・・・」
  上山、及川をつっつきながら手紙を返す
  及川、手紙をうけとりますます考える
上山「でもなんであのパイロットが持ってるの?」
伊藤「(コンナにどうして持ってるか聞く)」
  コンナ、BL
伊藤「(同時通訳)今朝・・・僕より早く・・・うちの・・・フロントにあった・・・そうです」
工藤「それでさっきから封筒振り回してたんだ」
伊藤「(コンナにすみません、気がつかなくて)」
  コンナBL
伊藤「(同時通訳)なんとか・・・故障直したから・・・そろそろ行こうかって・・・飛んでくれるんですか?」
コンナ「(うなずく)」
伊藤「みなさん!いよいよ、いってくれるみたいです!」
上山「え」
工藤「やっとかよ・・・」
伊藤「さあ、行きましょう!行きましょう!」
  三人、コンナと一緒に立ち上がるが及川、動かない。
上山「どうしたの」
及川「(うめくように)・・・やっぱり・・・行けない」
工藤「今さら・・・」
及川「いや、正二さんの気持ちは手紙を見て確実にわかったんです。ほっとしてます。・・・でも・・・あたしは・・・どうなの?」
  頭を抱え込む
  伊藤、あせりながら
伊藤「でも、今度行かなければ、本日の出国検査に間に合わなくなってしまうんですよ」
  及川、考えてから
及川「(一気に立って)キャンセルする!」
伊藤「ええ!」
及川「これ以上も皆さんに迷惑かけらんないし。・・・あ、心配しないで。キャンセル料は明日中に銀行に払い込んでおくから・・・じゃ、どうも」
 及川、荷物をまとめて礼をして帰ろうとする
 そのとき
工藤「帰んのか?」
及川「・・・え?」
工藤「帰んのか?・・・帰るんだな?」
及川「・・・ええ」
工藤「好きだって、言われてんのにもかかわらず帰るってことは・・・ひとときの・・・夢?」
及川「・・・ええ、そうです(ハケはじめる)」
工藤「うそつき」
及川「(止まる)」
工藤「うそつき。臆病者」
及川「・・・」
上山「ちょっと」
工藤「ばか者。大ばか者だよ。あんたみたいな大バカは昔は豆腐の角に頭ぶつけて死ねっていうのがあったけど、今はなんだろうね?・・・さしあたり、・・・グミキャンディーにでもぶつけてみなよ、死ねるから」
上山「ねえ!」
工藤「いいじゃん。」
上山「え」
工藤「帰らせれば。こんなちんけな奴といてもつまらん旅になるだろうし」
伊藤「そんな」
工藤「ちんけに、自分にうそついて生きてるやつってのは、ここぞってときも嘘ついちゃうんだな・・・」
及川「・・・」
工藤「(及川の背中をわしづかみして)いいか!ここぞってときはチャンスなんだ!そのチャンスに乗らなくて、うそついて逃げて、どうやってこれから生きていくんだよ、あんたは?」
及川「・・・チャンス?」
工藤「そうそう流れてはこないと思うよ、次までは。だから今、乗るんじゃねえのか?」
及川「・・・チャンス・・・」
上山「・・・そうか・・・これは・・・及川ちゃんにとってのチャンスなのかもしんない」」
伊藤「及川さん、行きましょう。サウスアイランドに行ってだんなさんと会いましょうよ」
上山「せっかく省二さんが投げたボール、受け取らないの?」
及川「・・・」
上山「受け取ろうよ。投げ返そうよ!」
及川「(迷う)」
上山「及川ちゃん!」
伊藤「及川さん!」
工藤「グミキャンディー!」
  及川、じっと考えてから
及川「・・・(ゆっくり顔をあげる)わかった。行くよ」
上山「そうこなくちゃ。」
伊藤「やった!」
  及川、かばんを持ちみんなのうしろへ
伊藤「さあさあ、行きましょう」
工藤「(及川に)このガキが・・・(でも内心うれしそう)」
及川「(にっこり)」
上山「よーし、もうこうなったら、カブト、つがいでとってきてやる!」
 移動開始
 そのとき、コンナのかばんがぱかりとひらく
コンナ「!」
三人「あ!」
 床に散らばったコンナの荷物のなかにカブトがいたのである
上山「(持ち上げて)オスちゃん!」
コンナ「(カブトを見てびっくり)」
 コンナBL
伊藤「(同時通訳)紙ひこうきを・・・かたづけたときに・・・間違って・・・持ってきちゃったって」
及川「あれだけ探しても、いないわけですよね」
上山「あんたのいたずらにはほんと、まいったよ」
  上山、コンナをこづく
 コンナ、照れ笑い
伊藤「さあ落ち着いたところで、出発ですよ!」
工藤「ちょっと待て」
及川「?」
工藤「はっきりしとこう」
伊藤「?」
工藤「あたし・・・ひょっとしたら・・・ほんとうにとんでもないやつかもしんねえよ」
伊藤「え」
工藤「あんたらが疑ってた・・・強盗犯かもしんないんだよ?それでもいいの?」
伊藤「それは」
上山「あ・・・ああ・・・」
工藤「いいのか?」
伊藤「・・・」
工藤「あんた、さっき言ったよね?不快な旅にしたくないって。」
伊藤「・・・いいましたけど・・・」
工藤「あたしがいるおかげで、不快になるかもしんないんだよ。いいのか?」
伊藤「・・・」
工藤「(上山に)いいのか?」
上山「・・・ごめん・・・わかんない・・・」
  そのとき、及川、上山のポケットから丸めたポスターを取りだす
上山「あ」
及川「(ポスターを工藤にならべて)・・・にてないですよ」
伊藤「え」
及川「似てない。似てない。・・・へたくそですよね。笑っちゃうくらい似てない」
工藤「・・・」
上山「待って。でもホクロとか・・・」
及川「大きさが微妙に違うし、輪郭ももうちょっと丸いような。」
上山「・・・」
及川「ね?似てない、似てない。」
工藤「あんた・・・」
   及川、みんなより先立ち
及川「出発!」
工藤「・・・」
及川「出発!」
伊藤「でも」
及川「(励ますように)出発ったら出発!」
伊藤「(覚悟をきめて)・・・わかりました」
  伊藤、先頭に立つ
伊藤「上山さん、工藤さん。行きましょう」
上山「伊藤ちゃん」
伊藤「旅って素敵なものなんです。思い出しました。フリーツアーだからこそ、なにが起こるかわからない旅なのかもしれませんね」
上山「・・・」
伊藤「わからないからこそ、楽しいかもしれませんよ」
及川「上山さん」
上山「・・・おもしろくなってきた・・・かな?」
   上山、列にならぶ
及川「工藤さん」
工藤「・・・」
及川「行きましょう」
伊藤「出国検査、絶対突破しますよね?似てないんだから」
上山「・・・あたしも・・・帰ったら眼鏡買うことにした・・・」
工藤「・・・」
上山「・・・地の果てまで、とことん行こうか」
及川「ね」
工藤「(照れて)・・・行きますよ、いきますよ」
四人一列に並ぶ
伊藤「よし!それではみなさんお待たせしました。『女の企画!サウスアイランドフリーツアー』。山あり谷ありですが、がつんと行きましょう!」
三人 静かに決意をこめてうなづく
四人、一斉に歩き始めて
離陸音高まる
END