2008年5月26日月曜日

薄夏の雫(はっかのしずく)

登場人物
木ノ森蘭 東京白聖高校一年生             可奈恵
木ノ森順太 蘭の父                  富士河千之介

藤沢一吾 民宿いちご 主人             
藤沢まるみ 一吾の妻                 
須藤 明代 BBC(Bio Bard Company of JAPAN)の営業   
浜野 裕子 BBCJ営業グループリーダー(部長)。    
ナツコ 謎の女の子  

スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明 大崎ヒロコージ
音響効果 美留邪宵
制作本部 ハラダ☆カオリ
会計部 小夜子
俳優部 西郷久美子
協力 きつな
製作
 3man Office制作本部
 「薄夏の雫」パートナーズ
3man第一二回夏公演「薄夏の雫」僕にとっては
楽しいことをやろう。
見てるほうも、やってるほうも楽しもう。だから・・・
「楽しんで
 芝居する」
 なんだと思います。                     富士河千之介
オープニング
 遠くから海の音が聞こえる
 それは深く・・・
 舞台の一部が明るくなる
 ナツコがいる
ナツコ「ようこそ。
    
    あたしは待っていた。
    あなたが来ることを・・・   
あなたは覚えているはずだ。
    海を自由にに泳いでいた頃を・・・。

ここはくねくねと曲がった入り江になっていて・・・
春は桜の花びらが海の上に散り、桃色に染まる。
夏は遠くまでの青がずっと先まで照らす。
秋は朱色のもみじが海の養分となり
冬は雪が身体を凍えさせる

 
あなたは仲間と心で話しをする・・・
こんにちは
気分はどうだい?
そろそろ次の海へ渡ろうか・・・
寒さが僕らをせきたてるんだ。
聞いたことがある
この地球上に、海は全部で七つあるんだ。
僕はもう五つ、海を回った
あとふたつは、どこにあるんだろう。
そして、どこまでいけばいいのかな・・・
ほら、今日も水がもう冷たい
  きのうの夕立が季節を変えているんだ。
  夏から秋へ
  だから
  もっとあったかい海へ・・・
  もっと・・・
 


   
    暗転
 テーマ曲

八月二九日
暗転中 
 遠くのほうで海の音がする
明転
 ここは日本のどこかにある民宿いちご
 そのリビング
まるみ「(声だけ)さあ、どうぞどうぞ」
 舞台、
 まるみに誘導されておそるおそる蘭がかばんを背負って入ってくる
蘭「お邪魔しま~す」
 奥から一吾が出てくる
一吾「いらっしゃい」
まるみ「ようこそ、民宿いちごへ」
一吾「あ、いちごってのは俺の名前」
蘭「い、いちごさん・・・」
一吾「詳しいことは、つーかーの仲になったら聞かせる」
蘭「はい・・・」
まるみ「あ、あたしはまるみです。」
蘭「よろしくお願いします」
まるみ「こちらこそよろしくです。あさっての八月三十一日までしっかりお世話させていただきますね」
蘭「あ、あの、あたしも・・・」
一吾「おう、聞こう聞こう」
蘭「あ、木ノ森蘭といいます・・・」
一吾「えーと、き、き、」
まるみ「木ノ森さんですって」
一吾「キノボリさん」
蘭「木ノ森です」
一吾「ヘンな名前」
 まるみ、一吾に鉄拳制裁
蘭「ご先祖様が北海道のある集落の名前らしいんです」
まるみ「へえ」
一吾「きいたことねえなあ」
 まるみ、一吾に鉄拳制裁
まるみ「ごめんなさいね」
蘭「・・・」
まるみ「うちはいつもこうなんで・・・」
蘭「はあ・・・」
まるみ「あ、お茶、お持ちしますね」
蘭「ありがとうございます」
 まるみ、ハケる
一吾「それにしても、早くついたね」
蘭「あ、ここで人と会う約束なんで」
一吾「へえ。えっ、ひとり旅?」
蘭「あ、えーっと・・・」
一吾「?」
蘭「このあと来るんです」
一吾「へえ。時間差で旅かあ」
 そこへ
須藤「ごめんください」
 須藤が順太を連れてやってくる
一吾「はい」
須藤「木ノ森蘭ちゃんはおりますでしょうか?」
一吾「ああ、キノボリ・・・」
須藤「木ノ森ですね」
一吾「そこに(いますよ)」
蘭「須藤さん」
須藤「蘭ちゃん、お待たせ」
蘭「蘭もさっききたばっかりですから」
須藤「(一吾に)あがってもよろしいですか?」
一吾「え?ああ、どうぞ」
 須藤、うしろに声をかける
須藤「行きますよ」
順太「(声だけ)はい」
 そして須藤、順太を促して、あがる
一吾「あ、おっと!」
須藤「はい?」
一吾「お二人さん?」
須藤「あ、こちらが蘭ちゃんのお父様です」
順太「木ノ森順太です」
一吾「キノボリジュンタ」
順太「木ノ森ですね」
一吾「ああ、あはは、鼻が詰まってるもんでね(そういいながら、鼻を気にする)」
須藤「失礼します」
 須藤、一吾に一礼して、蘭のもとへ
一吾「(見送りながらひとりごと)・・・お母さんは?」
 そこにまるみ登場
まるみ「(リビングが人が増えたのを見て)あんた」
一吾「え」
まるみ「ふえてんじゃん」
一吾「ああ、なんかお父さんらしいよ」
まるみ「(須藤たちに)あ、よ、ようこそ・・・」
須藤「あ、急に来てしまって申し訳ございません」
まるみ「いえ、あたしたちは別にいいんですけど、お茶が」
須藤「あ、あたしはすぐに失礼させていただきますから」
まるみ「え、あの・・・」
須藤「はい?」
まるみ「お母様じゃ・・・」
須藤「いいえ、あたしはただの営業ですから」
まるみ「営業?」
須藤「あ、ああ、すいません。お父様をお連れ舌だけですので
まるみ「は、はあ・・・」
須藤「あ、やっぱりお茶いただいてよろしいですか?」
まるみ「あ、はいはい」
 にこやかに笑いながら、まるみ
 一吾をひっぱってはける

 木ノ森家のほうは、ぎこちないながらも会話がはじまる

 一方、裏にひっぱってきた藤沢家
一吾「な、なんだよ」
まるみ「あの家族何?」
一吾「知らねえよ」
まるみ「あの女はなに?奥さんとかじゃなかったら恋人?不倫相手?」
一吾「もういいよ。お茶準備して」
まるみ「いやだ」
一吾「なんでもかんでも首つっこむのやめろよ」
まるみ「面白いねえ。市原悦子もびっくりだよ」
一吾「おい」
まるみ「お茶出しながら調べてみよっと」
 まるみ完全にはける
 一吾もはける

一方こちらはちょっとやっぱりぎこちない木ノ森家
須藤「あ、あー、蘭ちゃん」
蘭「は、はい」
須藤「お父様にあいさつでも・・・」
蘭「あ、え、えっと」
順太「あ、いいんですよ」
蘭「あ、いいです。あ、あの、はじめまして・・・」
須藤「あ、はじめましてってのはおかしくない?」
蘭「だって」
順太「いいんですよ、ある意味、そういうものかもしれない」
蘭「・・・」
順太「いいよ、僕はしっかり聞く」
蘭「あ、あの・・・木ノ森蘭です」
順太「木ノ森順太です」
蘭「はい・・・」
順太「もう一度、蘭に会いたくてここに来ました」
蘭「あ、はい、ありがとうございます」
須藤「お互い、ちょっとずつ、おかしいですよ」
順太「すいません」
蘭「あ、あ、これからよろしくお願いします」
順太「よろしく」
 ふたり握手
須藤「(それを見ながらため息)なんでそんなに他人行儀なのかな」
蘭「たぶん、慣れたらそれなりに:」
須藤「これからよろしく、じゃなくて、これからもよろしくじゃないかな?」
蘭「そ、そうですけど・・・」
順太「びっくりするはずですよ。だって僕は一度死んでる身ですから」
須藤「(びっくり)しー!」
順太「あ、すいません」
須藤「まだ実験段階なんですから」
順太「すいません」
蘭「じ、自分がクローンだってわかってるんですか?」
須藤「あ、(小さい声で)頭の中にチップが入っていてね、一応、自分のことを認識できるようにはなっているんだ」
蘭「へえ」
順太「蘭も、ショックだと思います。僕が肺がんで死んでから確か今日で・・・えっと」
蘭「三ヶ月めです」
順太「そうそう」
須藤「そうだけど・・・」
蘭「須藤さん」
須藤「え」
須藤「やっぱりなんか不思議な・・・感じです。」
須藤「・・・」
蘭「去年の終りくらいからずっと病院通って、死に目にもちゃんと会って、火葬して灰になったお父さんのお骨をひろったのに・・・」
ふたり「・・・」
蘭「こうやって、また会えるなんて」
順太「会える運命だったのかもしれない」
蘭「・・・」
順太「イルカからクローン人間を作る技術を発明した、須藤さんところの会社にすべて感謝したい」
須藤「感謝だなんて」
順太「僕がんばります。」
須藤「順太さん・・・」
須藤「どれだけ昔に戻れるかわからないけど」
蘭「うん・・・」
須藤「よろしくお願いします。」
順太「はい」
 須藤、はけようとするが
須藤「あ、蘭ちゃん」
蘭「はい」
須藤「ちょっと・・・」
蘭「はい」
 須藤と蘭、すみっこへ

須藤「よろしくお願いします」
蘭「あ、こちらこそ」
須藤「うちの顧問の心理学の先生からも、何日間かはいなくなった人がそばにいるということに違和感を覚えるかもしれないって言われた。」」
蘭「はい・・・」
須藤「九月に入れば少しは昔みたいになるんじゃないかな」
蘭「あと三日ですか・・・」
須藤「がんばって」
蘭「はい」
須藤「いいお父さんじゃない。やっぱり死なせるのはもったいなかったね」
蘭「はい」
須藤「それじゃ。何かあったらあたしの携帯に電話して」
蘭「はい」
 須藤、はける
 そこに三個の湯のみを持ってまるみ登場
まるみ「(リビングを見て)あ・・・」
蘭「あ!」
まるみ「ひとり少なくなってる・・・」
蘭「あ、ちょうど今帰っちゃいました」
まるみ「(ブルー)ああ、はいはい・・・」
順太「あ、僕が飲みます」
まるみ「え」
 順太、まるみのもとへ行き、二つの湯のみに入ったお茶を一気に飲み干す
順太「うまい!」
まるみ「あ・・あ・・・」
蘭「あ、すいません。のどが渇いてるみたいで」
まるみ「あ、そ、そうですか」
蘭「ね、お、お父さん」
順太「え?あ、そ、そうなんですよ、かなり遠くから来ましたからね、ずっと泳いでて」
まるみ「お、およぐ・・・」
蘭「お父さん!」
順太「だって僕は」
蘭「(大声でさえぎる)」
順太「!」
まるみ「ど、どうぞ、ゆっくりしていてくださいね」
ふたり「ありがとうございます」
 まるみ、不審がりながらもはける
蘭「お父さん!」
順太「なんだよ!」
蘭「ばれたら大変じゃない」
順太「そう?」
蘭「だって、今の世の中、やっとクローンのことみんなわかってきたくらいなんだよ。」
順太「・・・」
蘭「ヒトのクローンはまだSFとかそんなくらいの話でしかないんだから」
順太「いやなもんだな」
蘭「え」
順太「僕はいやだな」
蘭「え」
順太「クローンったって、こうやって見た目はしっかりとした人間なんだ。人間らしく生きていきたいよ」
蘭「・・・」
順太「蘭、会いたかったぞ」
蘭「・・・」
順太「どうした?」
蘭「・・・」
順太「?」
蘭「やっぱり・・・なんか・・・違う」
順太「え」
蘭「今までのお父さんじゃない」
順太「そんなことないだろう?僕の頭の中には生きていたころの記憶がすべてつまったチップが入ってる。まだ実験かもしれないけど、相対性検査とかはしっかり通ったんだぞ」
蘭「そんなことじゃない」
順太「・・・」
蘭「そんな・・・科学とか、中身とかそんなことじゃない」
順太「じゃあなんだ」
蘭「・・・」
順太「これからまた昔みたいな暮らしができるんだぞ」
蘭「四谷に・・・お父さんのお墓があるの」
順太「!」
蘭「昨日、明日会うっていうのにお花あげてきたんだ。」
順太「・・・」
蘭「あんなに・・・あんなに悲しくて、ずっと会いたかったのに・・・なにかが違う」
順太「なんだよ、素直に喜べよ」
蘭「喜びたいよ、でも、蘭の心がそうさせないの」
順太「・・・」
蘭「失ったものがもう一度戻ってくるってのは・・・やっぱりそう簡単じゃないんだね」
順太「蘭・・・」
蘭「ごめん・・・言い過ぎたかな」
順太「・・・」
蘭「ちょっと外行ってくる」
 蘭、飛び出していく
 順太追いかけようとする
すれ違いに一吾
一吾「あれ?」
 蘭、一気にハケる
一吾「うちで親子喧嘩かあ」
順太「どうも・・・すいません」
一吾「あ、いや、おれはかまわねんだけどね・・・」
順太「・・・」
 順太、はけようとする
一吾「待て待て」
順太「?」
一吾「相手方が一方的にカッカしたときは、すぐにこっちがいかないほうがいい」
順太「でも」
一吾「大丈夫」
順太「・・・」
一吾「そういえば・・・あんた釣り好き?」
順太「え」

 ふたりハケる











一方、こちらは須藤
駅までの道を歩いている
すると農作業らしい女性からチラシを渡される
須藤、なにげなく見る
須藤「第四一回、イルカ祭り・・・」
浜野「(うつむきかげんに)あさってだよ」
須藤「あさって・・・」
浜野「来てよ、楽しいから」
須藤「はあ・・・」
浜野「ここいらはね、昔はただのさびれた町だったんだけど、東京のバイオバードなんとかっていう会社のおかげでここまで栄えてね」
須藤「あ、うちの会社です」
浜野「おんや、まあ奇遇なこと」
須藤「イルカ牧場のお祭りなんですよね」
浜野「そのイルカを使って、クローン人間こさえてるってんだからなあ・・・」
須藤「!」
浜野は須藤を見る
須藤「ぶ、部長!」
浜野「ねえ、この格好どう?」
須藤「ど、どうって言われましても・・・」
浜野「なじんでる?あたし、所さんのテレビの『第一村人』っぽい?」
須藤「え、ええ、かなり・・・」
浜野「よかったー。さあ、帰るね」
須藤「え」
浜野「うそ!ご苦労さん」
須藤「東京本社にいらしたんじゃないんですか?」
浜野「あんたが気になってついてきたにきまってるじゃん」
須藤「あ、ありがとうございます」
浜野「ま、わが社のヒトクローン計画の実用化第一弾、見守って来いって社長に言われたのが本音だけどあ」
須藤「そうですか・・・」
浜野「あ、どう?」
 浜野、バックからコンビニの袋を出す
 そして、ペットボトルに入ったお茶を出す
須藤「ありがとうございます」
浜野「しっかし、あんた、なんでこんなとこで会う様にセッティングしたの」
須藤「思い出の場所なんです」
浜野「へえ」
須藤「あたしと・・・順太さんが初めて遊んだ場所・・・」
浜野「・・・」
須藤「蘭ちゃんが、順太さんが亡くなってから、家にとじこもってばかりいたから・・・」
浜野「・・・」
須藤「ずっと見続けて・・・あれから十六年になりますから」
浜野「酷なことさせちゃってごめんなさいね」
須藤「いいんです・・・。」
浜野「・・・」:
須藤「あたしは、無責任な母ですから」
浜野「・・・」
須藤「順太さんがしっかり守ってくれる、ずっと蘭ちゃんを守ってくれるってのに甘えていたんです」
浜野「運命は、ときに・・・ひどいもんね・・・」
須藤「・・・」
浜野「あんたに、イルカを使ったクローン一号を進めたのはあたしだから」
須藤「・・・」
浜野「自分の愛した人を実験材料にするのは耐えがたかったんじゃない?」
須藤「(さえぎって)部長」
浜野「・・・」
須藤「わかって・・・やったことなんです」
浜野「・・・」
須藤「それ以上言わないでください」
浜野「・・・」
 須藤はドリンクを飲む
浜野「チラシの祭りは本当らしいよ」
須藤「イルカ祭り」
浜野「イルカ牧場の人たち主催でね、毎年やってるみたいなの」
須藤「へえ」
浜野「全員で町の人たちに恩返しするんだとかってね、牧場事業部の人がいってた」
須藤「・・・」
浜野「今年はひとり、行方不明が出たらしいから、あんまり大きな祝福ムードじゃないらしいけどね」
須藤「行方不明?」
浜野「イルカの飼育係やってた女の子がね、いなくなったんだって」
須藤「大変ですね」
浜野「いなくなった理由が、実は、順太さんなんだけど・・・」
須藤「え」
浜野「その子がかわいがってたイルカってのが、順太さんに使ったイルカなんだって」
須藤「・・・」
 そのとき、浜野の携帯のバイブがなる
浜野「(電話に)もしもし。はい・・・はい・・・え!」
須藤「?」
浜野「(電話)・・・わかりました。こちらでなんとかします」
 浜野、電話切る
浜野「須藤さん」
須藤「は、はい」
浜野「生き物が死を迎えるっていうのは・・・だれが決めたことなんだろうね」
須藤「・・・」
浜野「神様がもし本当にいるとするなら、あたしたちがやってることに対して、どうしても自然の摂理に沿わせたいと思っちゃうのかもしれない」
須藤「どうかしたんですか?」
浜野「・・・」
須藤「部長・・・」
浜野「(息を吸って決意してから)・・・クローンD1号の心臓に・・・欠陥が見つかった」
須藤「!」
浜野「血液を全身にポンプさせてる弁に不具合が発見されたらしい。まだ確定のミスではないけど、再検査する必要があるみたい」
須藤「・・・」
浜野「見逃したら、あと三日で確実に心臓がついていかなくなる」
須藤「・・・」
浜野「最終会議のときに、クローンにイルカ心臓進化形を使わずに、人間の心臓移植でなんとかするって言い切っていれば・・・」
須藤「順太さん・・・」
浜野「神様がくれた試練というなら、あたしたちはとことんそれに立ち向かわなくちゃね」
 浜野、ペットボトルをしまう
浜野「行きましょう」
須藤「はい・・・」
 ふたりはける







一方、こちらは走ってきた蘭
 息もきれて、ふらふらだ
 
 そこは海が見える小高い丘
 蘭は、力つきて、たおれこむ
蘭「うそつき・・・」
 蘭、力なく、地面をたたく
蘭「うそつき、うそつき!」
 蘭はどんどんたたく
 心が乱れている
蘭「本当はうれしいんだよ・・・だって・・・だって、あたしにひとりしかいないお父さんだもん・・・なんで、うれしくならないんだろう・・・」

 くやしさ
 それは自分に対してなのか
 それとも、父に対してなのか

 そこに
ナツコ「(声だけ)待ってた」
蘭「!」
ナツコ「あなたが来るのを・・・ずっと、待ってたよ」
 きょろきょろする
顔を上げると、一人の女が立っている
 ナツコだ
ナツコ「あたしはあなたを・・・待ってた」
蘭「蘭・・・を?」
ナツコ「必ずここに来ると思っていたから・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「あたしはナツコ。」
蘭「な、なつこ・・・」
ナツコ「あなたは蘭」
蘭「!・・・」
ナツコ「イルカ祭りまでに、よくここに来たね」
蘭「イ・・・イルカ祭り・・・」
ナツコ「さあ、返して」
蘭「え」 
ナツコ「約束どおり、返してもらうよ」
蘭「な、なにを?」
ナツコ「知っているんだ。」
蘭「・・・」
ナツコ「あなたの・・・あなたのお父さんがイルカを使って作った人間だってことを・・・」
蘭「!」
ナツコ「そしてそのイルカが・・・あたしが・・・ずっと世話してきたイルカだということを・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「町のどこかにいるんだよね」
蘭「・・・」
ナツコ「探し出してみせるから」
蘭「え」
ナツコ「運命を受け入れないのは、ほかの人にも影響を与える」
蘭「・・・」
ナツコ「大丈夫。あなたはもうすぐ運命を受け入れることになる・・・」
 ナツコは消える
 蘭はそれを追いかけようとする
 しかし、追いつけない
 そして蘭は深い山の中に入っていく











八月三○日
 ここは民宿いちご
まるみ「帰ってこない!?」
 明転
一吾「ああ」
まるみ「出てったのは何時くらいですか??」
順太「ここ着いてすぐだったんで・・・まだ六時まわってないころだと思うんですが」
一吾「なんだか喧嘩したみたいよ」
まるみ「(順太に)そうなんですか?」
順太「あ、いや、その・・・」
一吾「手分けして探そう」
まるみ「そうね。かなりもう遅い時間だし・・・。」
順太「どうも、すいません」
一吾「うちらにまかせとけって。」
まるみ「いっつも強気なんだから」
順太「はい」
一吾「このまわりは山と海しかねえ。すぐ見つかるって」
順太「助かります!」
まるみ「(一吾に)どっち探す?」
一吾「(手をあげて)海」
まるみ「海・・・?」:
まるみ「まさかオプションをやるつもりじゃないでしょうね」
一吾「え!」
順太「オプション?」
まるみ「ああ、夜釣りです」
順太「釣り・・・」
一吾「馬鹿だな。お前、青春っつったら海だよ!」
まるみ「七○年代映画の見すぎ・・・」
一吾「あの嬢ちゃんはね、走っていったんだよ!壁にぶち当たったときには、本能で海に走っちゃうもんなのよ」
まるみ「あたしは海には絶対行かないけど」
一吾「いいんだよ!とにかく、おれは兄さんと海を探す」
順太「兄さん?」
一吾「あんたのこった」
順太「兄さんって・・・」
まるみ「(順太に)注意してください。こうやってずるずると、釣りのオプションつけて宿泊代あげるのが、手ですから」
一吾「おれを詐欺師みたいにいうな!お前はどっちの味方なんだよ!」
まるみ「あたしは中立」
一吾「スイスかお前は!」
まるみ「言ったな!この種無し野郎!」
 ふたりとっくみあう
順太「(ころあいを見計らって)いい加減にしてください!」
 ふたりとまる
順太「もういいです。ひとりで探しに行きます」
  ※差し替え7.3
 順太、はけようとする
一吾「兄さんひとりじゃ絶対探せねえよ」
順太「(とまる)」
一吾「ただ歩き回って迷って疲れて、あげくにゃ遭難。逆に警察よばなきゃなんなくて、ミイラ取りがミイラになっちまうってこった」
順太「なんでそんなことがいえるんですか」
一吾「おれの勘だ」
順太「僕の娘なんですよ!」
一吾「わかってる」
順太「僕には大切なひとり娘なんですよ」
一吾「わかってる」
順太「なんだ、そりゃ。わかってないよ、あんたは」
一吾「あんた?」
順太「さっきからわかってるわかってるって・・・。ぜんぜんわかってないじゃないか」
一吾「え?」
順太「・・・」
一吾「なんでそんなのがいえるんだい?」
まるみ「ちょっと・・」
順太「あんたらには・・・子供がいないだろ?」
ふたり「!」
順太「子供がいないのに、僕の気持ちなんかわかりますか?」
一吾「それ以上言うのはやめてくれ」
順太「・・・」
一吾「今おれはあんたを殴るところだった・・・。昔のおれだったらな・・・」
順太「・・・」
一吾「毎晩毎晩、流れ星に願掛けしてる、まるみの気持ちを知ってから言えってんだ」
順太「!」
まるみ「一吾・・・」
一吾「好きで子供いねえわけじゃねえ。でもな・・・ほしくてもできないおれらの気持ちは、兄さんにはわかんねえだろ?」
順太「・・・すいません」
一吾「(順太に)納屋の横にうちの軽トラがある。そこらへんで待ってろ」
順太「え・・・」
一吾「どんくせえなあ。探しに行くっつってんだろ!」
順太「は、はい!」
 順太はける
まるみ「いつから・・・知ってたの?」
一吾「おれは、まるみのことならなんでも知ってるんだ」
まるみ「・・・」
一吾「種無しすいかで・・・悪かったな・・・」
まるみ「・・・」
一吾「ごめん・・・」
まるみ「ばか!」
 まるみ、一吾に抱きつく
一吾、強く抱きしめる
そして、はける




















 一方、こちらは外
  いつのまにやら海に出たらしい蘭。
 

 突然、カラカラと音がする
 振り返るとそこに
 ドロップの缶からをふるナツコがいる。
 みつめる蘭
ナツコ「ここはイルカ牧場。イルカをたくさん育てている場所」
蘭「イルカ牧場・・・」
ナツコ「あたしはここで働いていた。ずっとイルカのそばにいて一日イルカと暮らしていた」
蘭「・・・」
ナツコ「バイオバードジャパンがお金と人を出して、いまだに生態がよく知られていないイルカを研究するためにここを作った。あたしもアメリカの大学からここに来た。」
蘭「・・・」
ナツコ「ここが本当はクローン実験用のモルモット代わりににイルカを育ててるなんてあたしはその日が来るまで知らなかった」
蘭「・・・ 」
ナツコ「(声だけ)潮の香りってなにからできてるか知ってる?」
蘭「・・・」
ナツコ「海の流れに身をまかせている海藻やサンゴ、魚やプランクトンたちが死んで、そこから生まれた香りなの」
蘭「・・・」
ナツコ「死ぬことは、魂の終わり、精神の終わりだけど、体はそうやって地球に帰っていく。」
蘭「・・・」
ナツコ「あなたは、なぜお父さんを地球に返してあげなかったの?」
蘭「!」
ナツコ「土に返って、水と酸素になって、またこの海に命を与えていくはずだったのに」
蘭「・・・」
ナツコ「イルカ祭りがあさってある。それが終わればここにいるイルカたちは全部東京の研究所に送られて、あなたのお父さんの次のクローンに向かって、切り刻まれて、薬を入れられて・・・ヒトという地球のエゴイストたちの永遠の命を作るために使われる。」
蘭「・・・」
ナツコ「もうすぐあそこから太陽が昇る。その光が照らすことができないここを、あたしは破壊する」
 そういうとナツコはふらふらと建物へ入っていく
 蘭、それを追いかける
 そのとき
まるみ「見つけた」
 蘭、ふりかえる
 まるみ懐中電灯を持っている
蘭「あ・・・」
まるみ「心配したよ」
蘭「ご、ごめんなさい」
まるみ「お父さんも戻ってるから、ほら、帰ろう」
蘭「・・・」
まるみ「雷さんにへそとられちゃうよ。」
蘭「お父さんに伝えてください」
まるみ「?」
蘭「今日は戻らないって」
まるみ「なんで?」
蘭「探しているんです」
まるみ「・・・」
蘭「あたしが・・・お父さんに・・・」
まるみ「え・・・」
 そのとき突然の雷鳴
 ふたり、ちぢこまる
 そして豪雨
まるみ「乗って」
蘭「・・・」
まるみ「何を悩んでいるかわかんないけど、今はあたしのいうことを聞いて」
蘭「・・・」
まるみ「早く」
 まるみ強引に蘭をつれてはける

 雨は次第に強くなる


 雨の音
浜辺
 順太と一吾が釣り糸をたらしている
順太「やっぱり釣りでしたね・・・」
一吾「・・・」
順太「そろそろ戻りましょう」
一吾「・・・」
順太「雨もけっこう降ってきたし」
一吾「ここで釣らなきゃ、明日の朝飯はメシとみそ汁だけだ」
順太「市場で買ってきましょうよ」
一吾「ったく、釣れねえのは、全部兄さんのせいだからね」
順太「どういうことですか?」
一吾「兄さんの心のざわざわが、海にも、空にも響いてるってことよ」
順太「・・・」
一吾「カリカリソワソワしちゃってさ。そんなんだから竿がずっとぶれる。ぶれると小さな波ができて、そいつを魚は敏感に感じ取る」
順太「・・・」
一吾「さらにあんたの波がおれのほうも揺らして、うちらはずっと釣れない。」
順太「・・・すいません」
一吾「知らないの?」
順太「だからつりは初めてですって」
一吾「親父といっしょにやったりとかしなかった?」
順太「父は・・・別に釣りとかしなかったから」
一吾「おれなんか三歳くらいから、さお持たされたぜ」
順太「お父さんは漁師さん?」
一吾「ああ。大嫌いだけどね」
順太「はあ」
一吾「ちっちぇえときからうるさくってね。おれが寄り道したときも、かたぎになったときも、まるみを家に連れてきたときも、いっつもがんがん怒鳴りやがってさ」
 一吾、胸ポケットから一枚の写真を出す
一吾「証拠」
順太「(写真を見て)!」
一吾「(写真をぶんどり)今とぜんぜん違うだろ?」
順太「し、信じられない」
一吾「まるみとはちっちぇえときから友達でね、いつもいっしょに遊んで学校行って、そんでいっしょに暴走族になった」
順太「・・・」
一吾「毎晩毎晩こう、バイクぶっぱなしまくってね。で、ある日、まるみといっしょに足を洗った」
順太「?」
一吾「いっつも行ってたたまり場に行ったら、絶対いるはずのまるみがいねえんだよ。友達とかに聞いてもわかんねえとか言ってるしさ・・・」
順太「・・・」
一吾「おれは探した、町のゲーセンとかジャスコから・・・道はずしすぎちゃって、逆に勘違いして学校にでも行ったかなとかってね。ずっと探してやっと、族のアタマといっしょにあそこの山いったって聞いて。」
順太「・・・」
一吾「夜の二時くらいかな。てっぺんから小さな川が流れてて、そこの最初の橋の下にまるみがいたんだ」
順太「・・・」
一吾「壊れて・・・転がってた」
順太「・・・」
一吾「ビリビリの服でさあ、ぐあーって、真っ青な顔でぶるぶる震えてて
順太「・・・」
一吾「病院に連れてったら、おれがぶっ倒れた」
順太「・・・」
一吾「子供が作れない可能性がありますって」
順太「!」
一吾「薬くせえ、ひんやりした廊下で言われたよ」
順太「・・・」
一吾「おれに責任がある。おれがあんな寄り道したから・・・」
順太「責任・・・」
一吾「?」
順太「責任か」
一吾「どうした?」
順太「僕は蘭に対してどんな責任があるんでしょうね」
一吾「深く気にするな」
順太「でも・・・」
一吾「兄さんがずっといるだけで、十分だ」
順太「いるだけで?」
一吾「そばにいるだけで、人はみんな安心する。だからおれもずっとまるみのそばにいてやろうと思ってね」
順太「・・・」
 そのとき、一吾の携帯がなる
一吾「もしもし・・・おお・・・見つかったか!」
順太「!」
一吾「わかった。今から行く」
 一吾電話を切る
順太「やっぱり山に」
一吾「俺の勘は狂っちゃいねえ」
順太「行きましょう」
一吾「ちょっとまった」
順太「え」
一吾「明日の朝飯は?」
順太「おい!」
 笑いながらふたり、はける







挿入①
 一方、こちらはBBCのメンバー
 ひたすら電話をかけている須藤
須藤「(電話)一時間!・・・そこをなんとか三○分で来てもらえませんか?・・・え・・・そんな、おたくは二四時間いつでもどこでもおまかせください!ってCMでやってるじゃないですか!だから電話してるんですよ!」
 ひたすら電話する須藤、
 それをちょっと疲れた目で見る浜野
須藤「・・・無理?・・・あ、わかりました。おたくみたいなロードサービスは最低だ!」
 ぶちっと携帯を切る須藤
須藤「(ため息)」
浜野「だめ?」
須藤「ったく、ろくでもないロードサービスですよ」
浜野「参ったなあ、これじゃ今日中に東京は間に合わないなあ」
 そこへ雷鳴
ふたり「!」
 雨は豪雨となる
浜野「あ、あそこで雨宿りしよう」
 ふたり、はしっこへ
 そして座る
浜野「車はガス欠だわ、雷は鳴るわ、やってられないね」
須藤「ほんと・・・」
浜野「クローンは欠陥見つかるし・・・」
須藤「あの、その件ですけど・・・」
浜野「ん」
須藤「順太さんを・・・もう一度手術するんですよね」
浜野「そうね」
須藤「今度の手術でずっと生きられますよね?」
浜野「一○○%保障はできない。」
須藤「・・・」
浜野「さっきメールが来てね(そういいながら携帯をひらいて)うちのアメリカ本部のほうがかなりお怒りモードらしいよ」
須藤「・・・」
浜野「それと・・・デマかもしれないんだけど、いろいろ捜査機関が動き始めたらしい」
須藤「!」
浜野「ほら、ヒトクローンに関してはWHOやユネスコでクローン製造を認めないっていう国際的な決議が出てるじゃない?その辺の件で東京にも内偵捜査が・・・」
須藤「ばれてしまったんですか・・・」
浜野「どうもおかしいんだよね。今回の欠陥といい、内偵捜査っていい、ひょっとしてメンバーにそっちと通じてる人間が・・・」
 浜野、須藤をにらむ
須藤「!・・・」
浜野「(にらんでる顔から一気ににっこり)」
須藤「びっくりした・・・」
浜野「ま、最後のほうはあたしの推測だけど」
 そこにメール
浜野「あ、メールだ・・・」
須藤「あ、あたしも・・・
ふたりメールを見る
ふたり「(読んで)・・・!」
 顔を見合わせる
浜野「本社を・・・一斉捜索・・・」
須藤「ヒトクローン製造容疑・・・」
 ふたりびっくりして立ち上がる
須藤「どうしますか!」
浜野「落ち着いて」
須藤「でも」
浜野「大丈夫、クローン計画が明るみになったとしても、ここに来るまでにはちょっと時間がかかるはず」
須藤「そ、そうですよね・・・」
 そのとき、浜野のみにメール
須藤「?」
浜野「あたしだけに・・・?」
 浜野、メールを確認
浜野「!」
須藤「ど、どうしました?」
浜野「・・・」
須藤「まさか・・・まさかこっちまで捜査が・・・」
 浜野、ぱちんと携帯を閉める
須藤「・・・」
浜野「・・・須藤さん」
須藤「はい・・・」
浜野「(メールを見せて)・・・D1号を・・・処分・・・・せよ」
須藤「!」
浜野「差出人は、アメリカ本部のプロジェクトリーダーと・・・うちの社長から・・・」
須藤「そ、そんな・・・」
 須藤、がくぜんとする
 重苦しい空気
須藤「順太さんを・・・処分する・・・なんて・・・」
浜野「・・・」
須藤「証拠隠滅じゃないですか!」
浜野「・・・」
須藤「部著、今すぐメール打ってください」
浜野「・・・」
須藤「もっとほかの解決法なり何か考えましょう」
浜野「・・・」
須藤「部長!」
浜野「・・・できない」
須藤「!」
浜野「できる・・・わけないじゃない」
須藤「部長!」
浜野「あたしたちは・・・会社員なのよ・・・」
須藤「・・・」
浜野「上の言うことは絶対なんだから・・・」
須藤「会社員の前に人間です!」
浜野「・・・」
須藤「部長には良心というものはないんですか?」
浜野「・・・」
須藤「情とか、熱い思いとか夢とかないんですか!」
浜野「須藤さん、D1号が泊まってる民宿ってどこだっけ・・・」
須藤「答えてください」
浜野「須藤さん」
須藤「答えてください、部長!」
浜野「須藤さん」
須藤「・・・」
浜野「悪いけど、あたしはもう、そういうレベルから抜けたみたいなんだ」
須藤「・・・」
浜野「仕事をして、仕事をやりとげることで、あたしは自分の存在を感じているから」
須藤「・・・」
浜野「もうそこには戻れない」
須藤「そ、そんな・・・」
浜野「民宿まで道案内して」
須藤「・・・できません」
浜野「もし対策を考えて、電話で報告しても・・・もう遅い」
須藤「なんでですか!」
浜野「状況を把握しなさい・・・東京は捜索中なんだよ・・・」
須藤「・・・」
浜野「電話はすべて、聞かれている」
須藤「・・・」
浜野「行くわ。」
須藤「・・・」
浜野「あんたが教えないなら・・・かたっぱしから調べてやる」
 浜野、はけようとする
 そのとき
須藤「やります・・・」
浜野「!」
須藤「処分するなら・・・あたしにやらせてください・・・」
浜野「できるの・・・?」
須藤「(うなずく)」
浜野「・・・」
須藤「やるならあたしの手で・・・もう一度・・・天国へいかせます・・・」
浜野「・・・」
須藤「民宿へ行きましょう」
  ふたりがあるいていく

 ※差し替え7.4
民宿いちご

まるみ「すっかりぬれちゃったね。タオル持ってくるから、あがってて」
 入ってくるまるみ
 止まる蘭
 まるみ、奥からタオルを持ってくる
まるみ「?」
蘭「・・・」
須藤「はい(タオルを渡す)」
蘭「・・・はい・・・」
  蘭はもじもじしている
まるみ「ほら、ふいて」
蘭「・・・ありがとうございます」
 まるみ、髪をふきはじめる
まるみ「初家出?」
蘭「?」
まるみ「あ、でもここはあなたの家じゃないから、家出ってわけじゃないか」
蘭「・・・」
まるみ「そんなとこつったってないで、早くすわんな」
 蘭、しぶしぶ座る
 まるみ、いったん窓のほうに行き
まるみ「あれ・・・」
蘭「・・・?」
まるみ「もう、星が見える」
蘭「晴れたんですか?」
まるみ「夕立だからね。うちのあたりは東京と違って、速さが違うんだよ」
蘭「そうなんですか」
まるみ「それにこんな空、そっちならプラネタリウムくらいでしか見れないでしょ?」
蘭「(星を見て)・・・ええ・・・」
まるみ「へへへ、勝った」
蘭「・・・」
まるみ「あたしね、夜寝る前に十分くらい星を見てから布団に入るんだ」
蘭「・・・」
まるみ「じっと見てるとね、絶対一個か二個・・・多いときは四個くらい流れ星が見える。」
蘭「流れ星ですか・・・」
まるみ「見たことある?」
蘭「・・・ううん」
まるみ「(また空を見て)ほら!」
蘭「(同じく見て)あ」
まるみ「お願い神様!」
 まるみ、急いでお祈り
蘭「え・・・」
まるみ「(お祈りをといて)へへ・・内緒」
蘭「・・・」
まるみ「どうだった?初めての流れ星」
蘭「・・・あっという間でした」
まるみ「今のは遅いほうだよ」
蘭「早い遅いがあるんですか?」
まるみ「毎日見てるとわかるんだよ」
蘭「へえ・・・」
まるみ「次見たら、今度は蘭ちゃんがお願いしなよ」
蘭「え・・・」
まるみ「けっこう効くと思うよ」
蘭「・・・」
まるみ「あたしみたいな年寄りは・・・だめみたいだけどね・・・」
蘭「あの、何をお祈りしてるんですか」
まるみ「秘密」
蘭「・・・そうですか」
まるみ「蘭ちゃんも秘密のお願いをしなさいよ」
蘭「・・・」
まるみ「あ、今はお父さんが見つかりますようにっていったほうがいいかな」
蘭「あの・・・」
まるみ「?」
蘭「まるみさん・・・でしたっけ?」
まるみ「そうだよ」
蘭「まるみさんのお父さんとかお母さんってまだ生きてますか?」
まるみ「うん。ここからふたつ山越えたとこの町でね、のんきに暮らしてる」
蘭「今でも好きですか?」
まるみ「え」
蘭「今でも・・・お父さんとお母さんって好きですか?」
まるみ「好きだよ」
蘭「・・・」
まるみ「当分会いにいけないけどね」
蘭「え」
まるみ「一吾と駆け落ちしたんだ。うちらのこと認めてくれなくてね」
蘭「・・・」
まるみ「実家は昔からの不動産やさんでね、けっこう頭堅くって」
蘭「そうなんですか」
まるみ「お父さん、嫌いになっちゃったの?」
蘭「嫌いっていうか・・・その・・・」
まるみ「?」
蘭「わかんなくなりました」
まるみ「・・・」
蘭「お父さんの意味ってなんですか?お父さんのいる意味って・・・」
まるみ「・・・」
蘭「お母さんは蘭が生まれてすぐにいなくなって、お父さんひとりで蘭を育ててくれました」
まるみ「そうだったんだ」
蘭「蘭をここまでしてくれて本当に感謝してるし、また会えたのも」
まるみ「え」
蘭「はい?」
まるみ「また、会えた・・・って?」
蘭「あ、それは」
まるみ「お父さんもいなくなったことがあるの?」
蘭「・・・」
まるみ「あのお父さんも、けっこうやんちゃなんだね」
蘭「え?」
まるみ「家出したんでしょ?」
蘭「あ・・・」
まるみ「好きな女の人でも出来たのかな。背のちっちゃいかわいいこ」
蘭「そんなんじゃありません!」
まるみ「!」
蘭「浮気とか、新しい女の人をつれてきたことありません」
まるみ「ごめんなさい」
蘭「・・・」
まるみ「ごめんね。ちょっと繊細な・・・話だったんだね。あたしいっつも悪ノリしちゃうから」
蘭「・・・お父さんは・・・お父さんじゃないんです」
まるみ「え」
蘭「・・・」
まるみ「お父さんは・・・お父さんじゃない?」
蘭「・・・」
まるみ「なにが・・・なんだか・・・よくわかんないけど・・・」
蘭「・・・」
まるみ「本当のお父さんは別にいるの?」
蘭「いえ・・・」
まるみ「今日ここに来た人は別人なの?」
蘭「違います・・・」
まるみ「うーん・・・」
蘭「とにかく、あれはお父さんであって、お父さんじゃないんです」
まるみ「蘭ちゃん」
蘭「はい」
まるみ「頭がパニックになってる」
蘭「・・・」
まるみ「蘭ちゃんが伝えたいことがわからなければ、あたしもわかんない
蘭「・・・すいません」
まるみ「今答えられるのはひとつ。お父さんの意味っていうか親の意味ね」
蘭「・・・」
まるみ「あたしが思うに・・・親っていうのはもうひとりの自分」
蘭「自分・・・」
まるみ「ふたごの話とかでよくあるんだけどさ、気持ちがつながってるとかいうよね。たとえば右足怪我したら、同じ日にもうひとりの子も右足くじいたとかね。」
蘭「・・・」
まるみ「あたし、高校のころさ、学校行かないで一吾といっしょにバイク乗って悪いことばっかりやってたのね。
で、ある日、バイクこけてちょっと怪我したのね。足ひきづってうちの前まで来たらさ、お父さんが外で待ってて」
蘭「・・・」
まるみ「『怪我したんだろ?』って・・・。あたしの肩もって病院まで送ってくれた」
蘭「・・・」
まるみ「ふたごじゃなくても、父親と母親と子供っていうかたまりの中なら、絶対つながってると思うんだ。どこかで痛いと思ったり、悩んだりしていれば、どこにいようが心でつながっている。必ずわかっている」
蘭「・・・」
まるみ「・・・言葉や顔だけじゃわかんないことも・・・つながるときはつながる。それをわかってくれるのは、世の中でたったふたりの親なんだよ」
 そのとき、車がぶつかる音
それと同時に一吾が走ってやってくる
一吾「大変だ!」
まるみ「どうしたの?」
一吾「人を・・・ひいちまった」
まるみ「え!」
一吾「ここに来る途中に、いきなり女がとびだしてきてよ。で、バーンってなってドーンでガーンでグシャで○○××・・・」
まるみ「なにしゃべってるかわかんないよ」
一吾「今、兄さんがいっしょにいる」
蘭「お父さんが」
一吾「ああ。」
まるみ「警察とか、あと救急車とかは?」
一吾「さっきのまるみの電話でよ、電池きれちまってよ。ああ、電話、電話!」
 一吾、はけようとする
蘭「大丈夫かな」
まるみ「大丈夫。」
蘭「・・・」
まるみ「つながってるんだから」
 その間に一吾、電話をかける
一吾「(電話)あ、谷地の民宿いちごです。はい。ちょっと救急車を・・・(アドリブでつづけて)」
 そのとき
まるみ「あれ?そういえば、もうひとり女の人いたよね」
蘭「夕方帰りましたよ」
まるみ「ああ、あの時間ならバスが来るまで相当な時間かかるんだよ」
蘭「そうなんですか?」
 一吾、電話をかけ終わり、またハケようとする 
蘭「待ってください」
一吾「なんだよなんだよ!」
蘭「倒れていたのって女の人じゃないですか?」
一吾「ああ。なんかこう、スーツびしっと着た人だった」
蘭「!」
まるみ「え・・・」
蘭「そのスーツの色って・・・」
一吾「えっと・・・○○(色を言って)だったかな」
蘭「須藤さんだ」
一吾「え」
まるみ「さっきの人?」
蘭「そんな気がします・・・」
一吾「あのもうひとりのお客さん?」
蘭「違ってるかもしれないけど・・・」
まるみ「つれてって」
一吾「ああ」
蘭「蘭も」
まるみ「あんたはあぶない」
蘭「いやです」
一吾「兄さんもこれ終わったら帰ってくる」
蘭「違うんです」
一吾「え?」
蘭「なんか・・・(いやな予感がするんです)」
一吾「な、なんだよ」
蘭「いいから、つれてってください」
一吾「・・・」
まるみ「わかった。絶対離れないで」
蘭「はい」
























  修正②
 道路
 倒れている須藤
 介抱している順太
 そのとき須藤、目を開ける
順太「だ、大丈夫ですか」
須藤「・・・」
順太「まずい、目は開いたけど、意識ないのかな・・・゚」
須藤「・・・」
順太「一吾さん、まだかな・・・」
須藤「あ・・・あの・・・」
順太「あ、気がつきましたか?」
須藤「すいません、道にまよっちゃって」
順太「そうなんですか・・・」
 そのとき、密かに須藤、ポケットからハンカチを出す
須藤「あの」
順太「はい?」
須藤「足が・・・」
順太「痛いんですか?」
須藤「見てもらえますか」
 順太、足を見ようとする
 その隙に須藤、一気にハンカチを順太の鼻にかぶせる
順太「!」
須藤「ごめんなさい」
 順太、意識を失う
 須藤、立ち上がる
 ぴんぴんしてる
 須藤は順太の顔を手に取る
須藤「順太さん・・・」
 そこに浜野が物陰からやってくる
浜野「まさか車に体当たりするとはね・・・」
須藤「・・・」
浜野「さあ、処分するのよね」
 須藤、動かない
浜野「どうしたの?」
 須藤、動かない
浜野「さあ、早く」
 そのとき
 須藤、すっく、と立ち上がる
 そして浜野をじっと見る
浜野「?」
  須藤、携帯電話を取り出し電話する
須藤「(浜野の目を見据えたまま電話)須藤です。至急、例のもの手配願います。場所はGPSでご確認ください」
 電話切る
浜野「東京と・・・電話したの?」
須藤「・・・ええ」
浜野「なんてことをしてくれたの!」
須藤「・・・」
浜野「あんたはあたしの、上司の言うことを聞かなかったんだよ」
須藤「・・・」
浜野「あんたのせいで東京にいる一○○○人の従業員が職を失ってしまってもいいわけ?え?あんたの小さな良心と一○○○人、どっちが大きいの?」
須藤「部長!」
浜野「!」
須藤「状況を把握してください」
浜野「どういうこと?」
須藤「民宿はすぐそこです。」
浜野「(そちらのほうを向く)」
須藤「ここで処分してもすぐに大変なことになりますよ」
浜野「!」
須藤「あたしにまかせてください」
浜野「・・・」
 ヘリの音が大きくなる
須藤「東京にいきます」
 ヘリの音の中、須藤は順太を見る
 
 須藤は順太の手を肩へ
 浜野も仕方なしに肩へ



 須藤は空を見ながらへりのポイントを確認する
 順太を肩に抱きかかえながらハケる
 
カバンは忘れたままだ
 そこにナツコがやってくる
 かばんを持つ
 そのとき、
一吾「(声だけ)こっちだ」
 ナツコ、かばんをそっとおく
 はける







ヘリの音は遠ざかっていく
 現場に到着する三人
一吾「あれ?」
まるみ「だれもいない・・・」
 一吾、一気に歩き始めて
一吾「おーい!」
 一吾、探し始める
まるみ「だいじょうぶですかあ!」
一吾「なんでいねえんだよ・・・」
まるみ「ほんとに人とぶつかったの?」
一吾「だって、あんなにドーンってバーンってがーんって」
まるみ「あんた!」
一吾「ってひかれて、そこでぐったりしてたんだぜ」
まるみ「またあんたの幻覚なんじゃないの?」
一吾「シンナーなんかもう吸ってないよ!」
まるみ「うそ。机の中に入ってるの見たよ」
一吾「あれはガンダムのプラモを(作るためにね)」
 蘭、バックを見つける
蘭「これ・・・」
まるみ「・・・あ、さっきの・・・」
蘭「須藤さんのです」
一吾「なんだって?」
蘭「お父さんを」
まるみ「まさか・・・」
蘭「お父さんを連れて行った・・・」
一吾「そ、そんな・・・」
蘭「ここから駅まではどのくらいありますか?」
一吾「え」
まるみ「車だったらちょうど三十分くらいかな」
蘭「東京に戻ります」
まるみ「!」
一吾「おいおい、もう終電おわってるぜ」
蘭「そんな・・・」
ふたり「え」
一吾「ってことは・・・」
まるみ「ゆ、誘拐?」
 遠くのほうから救急車やパトカーの音が近づいてくる
暗転






 ※修正6.25
 一方こちらは薄暗い部屋
順太ががっくりと座っている
 そこに缶を振る音が聞こえる
順太「・・・だ・・・誰・・・?」
ナツコ「あたしはナツコ」
順太「な・・・なつこ・・・」
ナツコ「あなたとは今、心で話をしている。」
順太「こころ・・・」
ナツコ「今はわからなくてもいい。でも、あなたにはその力がある・・・」
順太「・・・」
ナツコ「やっと会えたね」
順太「・・・」
ナツコ「うれしい・・・」
順太「・・」
ナツコ「覚えてる?このドロップの缶・・・」
順太「・・・」
ナツコ「あんなに毎日、いっしょに食べたのにね」
順太「・・・」
ナツコ「忘れちゃったなんて、さみしい・・・」
順太「・・・ごめんなさい。」
ナツコ「もう・・・クローン人間なんだもんね・・・イルカだったときの記憶は消されてるんだね。」
順太「・・・そうかもしれません」
ナツコ「・・・」
順太「でも、感覚は残ってるから、こうやってあなたと話してる」
ナツコ「うん」
順太「そのドロップは・・・」
ナツコ「あなたはこのドロップが好きだった。毎日毎日、食事のあと、体全体を使ってほしいほしいって・・・。」
順太「・・・」
ナツコ「糖分とか着色料とか、あなたにとっては毒かもしれないのにね・・・でも求められたらあたしはずっとあげてた・・・」
順太「・・・」
ナツコ「あなたが東京にひきとられたときにこの缶は開かなくなった。はさみとかドライバーとかいろいろ試したよ。でもずっと、あかなくて・・・」
順太「・・・」
ナツコ「この中には、あなたが、いるかだった最後の思い出が残ってるのかもしれない・・・」
順太「最後の・・・思い出・・・」
ナツコ「蘭ちゃんに会いたい?」
順太「会いたい」
ナツコ「・・・」
順太「会えないのなら、なんのために僕がクローンとしてもう一度戻ってこれたかわからない・・・」
ナツコ「・・・」
順太「あのこはあと四年もしたら立派な大人になる。いつのまにやら彼氏もできて、僕に紹介してくるかもしれない。そして・・・いつか僕のもとを離れるときが来るだろう。」
ナツコ「・・・」
順太「そのときまで、いてあげるのが僕の責任であり、役目だと思う」
ナツコ「・・・そう・・・」
順太「じゃあ行くね」
 順太、はけようとする
ナツコ「危ない」
順太「え・・・」
ナツコ「このまま行くと、あなたが・・・危ない」
順太「・・・」
 ナツコはハケる
 追いかけようとする順太
 そのとき、強い心臓の痛みを覚える
 うろたえる順太
順太「な・・・なんだ・・・」
 それは時に強く、そして確実に順太を蝕む
順太「(うめく)」
暗転






 電車
蘭が乗ってくる
窓を見る
そして座る
 始発電車は東京へ向かって動き出す

 ドアが開いてまるみと一吾がやってくる
 一吾、袋をもってくる
一吾「ったく、朝一のキオスクってもんはこんなんしかないのかな」
そして開ける
 中には酢こんぶと水ようかん
一吾「(水羊羹を蘭に差し出す)食うか?」
蘭「(手をふって拒否)」
一吾「・・・そうか・・・」
 まるみ、酢こんぶをとって
まるみ「おなかすいてないの?」
蘭「はい・・・」
まるみ「無理してでも食べないと、今度はいつ食べれるかわからないよ」
蘭「お父さんが見つかるまでは・・・いいです」
一吾「おれはいただくぜ」
 一吾、ふたをあけて食い始める
一吾「は~、うまい」
まるみ「男のくせに甘党なんだから」
一吾「うまいもん食って死ねるなら本望だよ」
まるみ「あ、この人、辛いのだめなんだ」
蘭「そうなんですか!?」
一吾「おい!」
まるみ「ほんとほんと、いまだにカレー食べれないんだから」
一吾「余計なこというなよ」
まるみ「バーモントカレーの甘口もだめなんだよ」
一吾「味にデリケートっていってもらいてえな」
 蘭、軽く笑う
一吾「(蘭に)な、なんだよ・・・」
蘭「おもしろい・・・」
一吾「お、おもしろい、だと!」
まるみ「はは、よかったじゃない」
一吾「生まれて・・・初めて言われた!」
蘭「面白いですよ。蘭の友達にも紹介したいくらい」
一吾「そ、そう・・・?(まんざらでもない笑み)」
まるみ「でもどうやって紹介するの?」
一吾「(咳払いしてから)・・・どうも、蘭の新しい父親です!って」
まるみ「どうも、蘭の母です!」
一吾「なんてな」
まるみ「やだ、ばかじゃないの!」
一吾「いいじゃんいいじゃん!(蘭に)なあ?」
蘭「(ブルー)」
ふたり「あ・・・」
蘭「・・・お父さん・・・」
ふたり「すいません」
 電車の音
まるみ「・・・とんだ夏休みになっちゃったね」
蘭「・・・ええ」
まるみ「宿題は終わったの?」
蘭「七月中に・・・」
まるみ「すごい」
一吾「なあ、今でもあるのかな?『夏休みの・・・』
蘭「『夏休みの友』ですか」
まるみ「やね。それは小学生とかしかやんないよね」
蘭「中学ではやりませんでした」
一吾「うそ、おれ、中学でやったよ」
まるみ「あ、この人小学校と中学校の区別あんまりついてないから」
一吾「おい!」
まるみ「なによ!」
 ふたり喧嘩になる
蘭「・・・いいですね・・・」
まるみ「(とっくみあいながら)え?」
蘭「家族旅行って、ほんとはこんなんでしょうね」
ふたり「・・・」
蘭「ずっとうらやましかったんです。母親参観だっていうのに、クラスでひとりだけお父さんだったし・・・。
まるみ「・・・」
蘭「運動会も、お遊戯会も、全部、お父さんだった」
一吾「・・・」
まるみ「幸せだよ」
蘭「?」
まるみ「そうやって、見てくれてるんだもん」
一吾「見てるっていうより、そこにいるんだな。それがいいんだよ」
蘭「・・・」
一吾「言葉を使って相手と話すのは便利だ。でも言葉でわかんねえときってのが人生でけっこうある。そういうときは言葉はいらねえ。
  いっしょにいる。ぶつかる。
  それだけでもかまわねんだよ」
蘭「・・・」
一吾「大丈夫。やつは待ってる」
蘭「・・・」
まるみ「そう。必ずね」
蘭「ありがとう・・・」
一吾「礼なんかいうな」
まるみ「お父さんにあってからだよ」
蘭「・・・はい・・・」
まるみ「うちも、そろそろお父さんのところ行かないとね」
一吾「ゆるしてくんねえって。」
まるみ「そうかな」
一吾「ふん、あんな親父なんか」
まるみ「いるだけでも、わかってくれるんでしょ?」
一吾「・・・そりゃ・・・そうだけど・・・」
 三人、窓を見る
まるみ「あたしも子供ほしいなあ。」
一吾「・・・いつか必ずだ」
蘭「・・・」
まるみ「ありがとう」
一吾「おれも、がんばるからさ」
まるみ「あたしも・・・がんばる」
一吾「それでこそ、俺の嫁だ」
蘭「・・・」
まるみ「俺の嫁だって。あたしは物じゃないんですけど・・・」
 そのとき、まるみ、ふいに吐き気を覚える
まるみ「(口に手をあてて)・・・ご、ごめんなさい」
一吾「お、おい」
 まるみ、すみっこにはける
蘭「どうしたんですかね?」
一吾「昨日の食い合わせでも悪かったかな・・・」
 そのとき
 ばたりと音がする
 見ると、まるみが倒れている
一吾「まるみ!」
蘭「まるみさん!」
 ふたり、まるみの元に駆けつける
まるみ「・・・ごめん・・・こんなところで」
一吾「いい、しゃべるな」
まるみ「吐きたくなって・・・ここまできたら・・・ぐるぐるしちゃって」
一吾「いいから!」
 蘭、車内を見回す
ブザーを見つける
 そして押す
 急ブレーキ!
 ふたり固まる
蘭「止まった!」
一吾「ありがとう!」
蘭「こんなことしかできなくて・・・」
一吾「大丈夫だ。」
蘭「・・・」
一吾「こっちはなんとかする」
蘭「でも」
一吾「おれにまかせろ!」
蘭「・・・」
一吾「まるみは、おれが助ける。」
蘭「・・・」
一吾「(時計を見て)もうこっからなら東京近いはずだ。兄さんのところへ・・・」
蘭「!」
一吾「早く!」
蘭「・・・はい」
一吾「こっから先は兄さんへの恩返しの道だと思え」
蘭「・・・」
一吾「ずっといっしょに嬢ちゃんを見てきたなら、絶対会える。」
蘭「・・・」
 一吾は蘭のバッグを投げる
 受け取る蘭
一吾「兄さんと、もう一度うちに帰って来い」
蘭「・・・はい!」
一吾「イルカ祭り、行こうな!」
蘭「はい!」
 蘭、バックを背負ってはけはじめる
須藤「蘭ちゃん!」
 蘭、振り返る
須藤「・・・」
蘭「・・・」
 そして、蘭は走っていく



















八月三十一日
 バイオバード
 奥に順太が寝かされている
 須藤、それをじっと見ている
 浜野がやってくる
浜野「(順太を見ながら)まだ眠ってるの?」
須藤「強い麻酔を先ほど打ち直しました」
浜野「そう・・・」
 浜野、携帯をとりだして
浜野「電話が通じない」
須藤「社長ですか?」
浜野「うん」
須藤「・・・」
浜野「もう、捜査の手がかかってしまったのかな・・・」
須藤「・・・」
浜野「上は警察だらけだし、いつこの地下の研究室がばれてもおかしくないよ」
須藤「大丈夫です」
浜野「・・・」
須藤「(浜野の目を見て)あたしがなんとかします」
浜野「あんたのその自信はどこから来るのかな?」」
須藤「根拠はないです」
浜野「・・・」
須藤「でも、そうでもしなきゃ、やってらんないですよ」
浜野「・・・あきれたもんね」
 浜野、座る
浜野「(注射器を出して)はい、これ」
 須藤、注射器を持つ
浜野「動物輸入部からもらってきた」
須藤「・・・」
浜野「これで、D1号を処分しなさい」
須藤「(注射器を見つめる)」
浜野「早く」
須藤「・・・」
浜野「あんたがなんとかするんでしょ?」
須藤「部長」
浜野「・・・」
須藤「クローン事業部がはじめてできたとき、あたしはうれしかったんです
浜野「・・・」
須藤「あたしをコンビニのバイトからひきあげてくれた、恩人と仕事できるんですから」
浜野「・・・そうだったかな・・・」
須藤「忘れませんよ」
浜野「・・・」
須藤「あたしが蘭ちゃんを産んで・・・うちの親に順太さんとも引き離されて・・・体も、心もぼろぼろのあたしを助けてくれたんですから」
浜野「・・・
須藤「ここで働く初めての日にあたしに言った言葉覚えてますか?」
浜野「・・・」
須藤「ずっと、順太さんと蘭ちゃんを見守ってあげなさい。それだけでもわかってくれるはずだって・・・」
浜野「・・・そんな言葉は忘れた」
須藤「・・・」
浜野「あたし思い出話で気分が楽しくなる人じゃないから」
須藤「そう演じてるだけです」
浜野「・・・」
須藤「冷静沈着で、会社のために身をささげる、そんな人間を演じてるだけです」
浜野「あんたに何がわかるの」
須藤「・・・」
浜野「あたしはここができたときからいるの・・・社長がまだ若くて、ふたりで何日も徹夜して仕事してるころからいる の」
須藤「・・・」
浜野「最初はペットとしての鳥の輸入だけでせいいっぱいでね。毎日毎日、輸入のやりかたを一からずっと本を見ながらいっしょにやっていたの。」
須藤「・・・」
浜野「初めてこっちに輸入したのはインドのほうにいた九官鳥だった。持ってくるまで三ヶ月くらいかかって、ようやく東京のペットショップに受け渡したときは、鼻血をだして病院に運ばれた。そのとき、あたしをおぶってくれたのが社長だったの」
須藤「・・・」
浜野「その社長に・・・社長の言うことに歯向かえるわけないでしょ」
須藤「・・・」
浜野「あたしは今、心を殺してあんたに対してる。でもそうしないと・・・あたしが壊れるの・・・」
須藤「・・・」
浜野「殺しなさい」
須藤「・・・」
浜野「処分しなさい。」
須藤「・・・」
浜野「早く!」
 浜野、注射器を須藤の顔に向ける
須藤「・・・」
 須藤、注射器を受け取ると順太のもとへ行く
 須藤、順太を見る
 注射器を構える
 そして大きく深呼吸する
 そして打つ
 浜野それを見て
浜野「脈を確認しなさい」
須藤「・・・」
浜野「須藤さん?」
 そのとき、順太が目を覚ます
順太「(起き上がって)ここは・・・」
浜野「!」
須藤「この注射、毒薬じゃないんです」
浜野「え」
須藤「麻酔から覚ます薬だったんです」
浜野「あんた・・・」
須藤「輸入部に先回りしておいときました。あとでうちの部長がもらいにくるだろうから、そしたら渡してくれって」
浜野「だましたの・・・」
須藤「部長・・・」
浜野「・・・」
須藤「あたしは・・・壊れません!」
浜野「!」
 須藤、注射器を捨てる
浜野「(注射器をとって)許さない・・・」
 須藤、急いで順太を起こす
須藤「あなたを助けます」
順太「え・・・」
須藤「心臓が大変なことになっています。早く処置をしないと・・・」
順太「・・・」
 順太、急激に心臓に痛みを覚える
順太「(絶叫)」
須藤「行きましょう」
順太「ど、どこに・・・」
須藤「あたしの知ってる獣医が神奈川にいます。あの民宿のある海です」
浜野「あんた、まさか・・・」
須藤「部長がこの前いってた飼育係のことです。」
浜野「行方不明なのよ。見つからないよ」
須藤「見つけます」
順太「須藤さん・・・」
須藤「あの子はイルカ研究では世界のトップクラスなんです。あの子なら絶対助けてくれる」
浜野「・・・」
須藤「順太さんは・・・あたしが守る」
 須藤、順太を支えながら
須藤「急ぎましょう」
順太「は、はい・・・」
 ふたり歩き始める
 そこに
浜野「ここからは絶対ださない」
 浜野の手にはもうひとつのびん
ふたり「!」
浜野「一本じゃ足りないと思ってね、もうひとつ借りといたの」
須藤「部長・・」
浜野「まさかこっちも使うとはね」
 浜野、注射器を入れて、中身を吸わせる
須藤「正気ですか!」
浜野「あたしはいつだって正気よ!」
 そこに
蘭「お父さん!」
 部屋の奥に蘭がいる
須藤「蘭ちゃん」
 蘭は部屋の階段をかけおりてくる
蘭「蘭のお父さんを返して下さい!」
順太「蘭・・・」
 順太、須藤のもとを離れて蘭に近づく
 ゆっくりと浜野、蘭の前に
須藤「蘭ちゃん危ない!」
蘭「どいてください!」
須藤「蘭ちゃん!」
 浜野、一気に蘭を人質にする
順太「蘭!」
浜野「動いたら、打つ!」
ふたり「!」
蘭「お父さん・・・」
浜野「会社のためなの・・・社長と・・・一○○○人の社員のためなの!」
 そのとき

 大きな爆発音






















 みんなふっとぶ
 鳴り響く警戒音
須藤「だ、大丈夫ですか・・・」
順太「ぼくは・・・なんとか・・・蘭は・・・」
 ふたり、倒れている
 順太、近づき
順太「しっかりしろ!」
蘭「・・・お父さん・・・」
順太「がんばれ。」
蘭「・・・うん・・・」
順太「須藤さん!」
須藤「はい」
順太「ここの出口は」
須藤「こっちです」
 須藤、誘導してまず順太と蘭をはけさせようとする
須藤「順太さん」
順太「はい」
須藤「昨日までいた海の近くに、イルカ研究の第一人者がいるはずです」
順太「はい・・・」
須藤「今はバイオバードの人間じゃないんですが、心臓をなんとかしてくれるかもしれません。先に行っててください」
順太「どこにいるんですか?」
須藤「イルカ牧場か、その周りに必ずいるはずです」
順太「・・・」
須藤「大丈夫。絶対会いにいくはずです」
順太「・・・わかりました」
 ふたりはける
 須藤、行こうとしてとまる
 そしてゆっくりと振り向き、浜野へ。
須藤「部長」
浜野「・・・す・・・どう・・・さん・・・」
須藤「行きましょう」
 須藤、手をのばす
浜野「・・・こんな・・・あたしでも・・・いいの」
須藤「早く」
浜野「あたしはあなたより・・・会社をとった人間だよ・・・」
須藤「・・・」
浜野「・・・」
須藤「もう!今生きているなら、もっと生きてやりゃいいじゃないですか!」
浜野「・・・」
 そういいながら、浜野を助け起こす
 はけるときに爆発音
 振り向く須藤


 祭りばやしの音が聞こえる
 ここは海
 いるか祭りの会場である
 たくさんの人でにぎわっている

 その近く
 ふたりが歩いてくる
 順太うめく
蘭「お父さん・・・」
順太「ナイフでここをえぐりとるような痛みだ・・・」
蘭「・・・」
順太「大丈夫。まだいける」
 順太、歩こうとする
 しかし苦しい
 蘭はそこに座らせる
順太「お祭りか・・・」
蘭「一吾さんが言ってた。いるか祭りだって」
順太「いるか祭り・・・」
蘭「この辺でたくさん育ててるイルカにちなんだお祭りなんだって」
順太「そうか・・」
蘭「お父さんも、イルカだもんね」
順太「ばか・・・人間だよ・・・」
蘭「・・・うん」
順太「金魚すくいとか・・・やりたかったな」
蘭「焼きそばとかりんご飴とか」
順太「カルメ焼きとか」
蘭「なにそれ?」
順太「砂糖と重曹をまぜてなあ、こうやってぷくーってふくれたお菓子」
蘭「知らない」
順太「今度作ってやるよ」
蘭「うん」
順太「・・・作って・・・やりたい」
蘭「絶対だよ」
順太「うん」
蘭「・・・今日で夏休み終わりだよ」
順太「ああ、そうか・・・」
蘭「蘭は・・・ずっとこの夏休みをこれからも覚えていくような気がする」
順太「・・・
蘭「だってこんなの初めてだよ」
順太「・・・」
蘭「高校に今年はいったでしょ?制服がブレザーからセーラーになったし・・・あ、昨日ね、ここで生まれて初めて流れ星も見たよ」
順太「・・・」
蘭「それから・・・お父さんが一回死んで、三ヶ月間ひとりぼっちになった。」
順太「・・・すまん」
蘭「え」
順太「こんな年にさせちまって・・・」
蘭「いいよ」
順太「え」
蘭「ここですんごい大きな思い出を作りたい」
順太「・・・ああ」
 順太うめく
蘭「大丈夫?」
順太「・・・」
蘭「・・・」
順太「もう・・・だめ・・・かもしれない」
蘭「え」
順太「でも・・・生きていたい・・・」
 順太、倒れそうになる
 それを蘭、必死に支える
蘭「だめ!」
順太「・・・」
蘭「死なせない」
順太「蘭・・・」
蘭「お父さんを・・・死なせない!」
順太「・・・」
順太「僕もずっと・・・蘭のそばにいたい」
蘭「うん」
順太「・・・」
蘭「蘭だって・・・ずっといるよ」
順太「・・・ありがとう」
蘭「ひとりは・・・絶対いやだ」
 そのとき
 缶をふる音が聞こえる
 ふりむくと、ナツコがいる
蘭「ナツコさん」
ナツコ「・・・」
蘭「お父さんです」
ナツコ「(ゆっくり順太を見て)」
蘭「お願いがあります」
ナツコ「・・・」
蘭「お父さんの心臓が危ないんです」
ナツコ「・・・」
蘭「お父さんに聞きました。ナツコさんなら治してもらえるって」
ナツコ「やっと返してくれるの」
蘭「え」
ナツコ「返してくれるんだよね」
蘭「・・・」
ナツコ「約束は守るためにある」
蘭「蘭はなにも約束なんて(してません)」
ナツコ「(さえぎって)あたしは約束を守ったよ」
蘭「・・・」
ナツコ「東京のバイオバードをこわした」
蘭「!」
ナツコ「あたしの・・・あたしのイルカを奪われたときの気持ちを・・・さぞ痛く、体で受け止めたことだろうよ」
蘭「・・・:」
ナツコ「もうすぐ・・・ここも」
蘭「そんな」
ナツコ「さっき仕掛けてきた。八時の花火といっしょに・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「もらうよ」
蘭「・・・」
 ナツコ、順太のもとへ近づく
蘭「(振り向かないで)心が・・・痛くなったりとかしませんか」
ナツコ「(とまる)」
蘭「自分の痛みは、痛みを相手にもやり返すことでしか埋まらないんですか」
ナツコ「・・・」
蘭「罪のある人にとっては仕返しかもしれない。でも罪のない人まで、痛みをいっしょに感じなくてはいけないのですか!」
ナツコ「・・・」
蘭「「それじゃ痛みは永遠に回り続けてるだけです」
ナツコ「なら、蘭ちゃんの痛みは回りつづけないの?」
蘭「・・・」
ナツコ「お父さんが死んだときに感じたあの痛みは・・・どこへ?」
蘭「・・・」
 そのとき
順太「僕のところにある」
蘭「お父さん・・・」
順太「蘭の痛みは・・・全部僕が抱えている」
ナツコ「・・・」
順太「蘭・・・」
蘭「・・・」
順太「よく・・・がんばったね・・・」
蘭「・・・」
順太「お葬式のとき、蘭はずっと泣かなかった。健気にずっと。火葬のときも、納骨のときも、家で自分の部屋でひとりぼっちになっても蘭は泣かなかった」
蘭「・・・」
順太「でも・・・ここに来る前、四谷のお墓で泣いた。きれいな涙をとめることなく・・・。」
蘭「いやだよ、・・・なんで知ってるの?」
順太「なんだか心のすみっこにその風景がずっと映画館のようにまわっていて・・・」
蘭「・・・」
順太「だからナツコさん、蘭を責めるのはやめてくれ・・・」
ナツコ「あたしの痛みは・・・だれが抱えてるの」
順太「・・・」
ナツコ「体に出来た傷は、消毒して絆創膏でもはればなんとかなる。
でも心の傷は、いつまでも濡れていてずっと開いたまま・・・。あたしの体がこの世からなくなるまで永遠にかさぶたにならない。」
順太「なら・・・それも僕が抱えましょう」
ナツコ「順太さん・・・」
順太「僕の心臓はもうすぐ止まる・・・だったら止まるまで、ナツコさんの痛みを抱えましょう」
蘭「いやだ」
順太「蘭・・・」
蘭「ずっと生きたいって・・・」
順太「・・・僕は・・・木ノ森順太であり・・・ナツコさんがずっとかわいがったイルカなんだ。」
ナツコ「・・・」
順太「だから・・・僕に・・・あなたの痛みをください・・・」
 順太、よろけながら歩いていく
 そのとき
須藤「まって!」
 須藤が、ぼろぼろの格好で立っている
蘭「須藤さん・・・」
須藤「やっとここまで来た」
 須藤、順太を抑えながら
須藤「あの地下室から・・・部長を病院に渡して、ここまできたよ」
ナツコ「・・・」
ナツコ「・・・」
須藤「心が弱かったら・・・あたしはあの地下室で部長といっしょに死んでたかもしれない。でもあたしは生きている。
こうやってあなたの前に立っている。」
ナツコ「・・・」
須藤「生きなきゃならない。本当に終わりが来るまでは、あたしは転んでも起き上がる」
ナツコ「人生でそう簡単には起き上がれない」
須藤「あたしは起き上がった!」
ナツコ「・・・」
須藤「・・・だって・・・あたしは・・・ひとりじゃない・・・」
 そういって、須藤、順太の手をぎゅっと握る
 そして蘭の手も握る
蘭「え・・・」
須藤「(蘭の目を見つめる)」
蘭「・・・」
順太「ナツコさん」
ナツコ「・・・」
順太「昨日、あなたと心で話したときのことを覚えてますか」
ナツコ「・・・」
順太「僕に・・・それを貸してください」
 順太、手を伸ばす
 ナツコ、缶を順太に渡す
 順太、缶を手に持って、
蘭「なにしてるの!」
順太「僕なら、あけられるかもしれない」
 順太、開け始める
須藤「だめ、血圧があがるかもしれない」
蘭「おとうさん、やめて」
順太「このドロップの缶が開けば・・・悲しみは開放される」
 順太、最後の力をふりしぼって缶にてをかける
 そのとき

 缶のふたが開く

ナツコ「あ・・・」
 ナツコ、その場にへたりこむ
 順太は缶の中から二個のドロップを出す
順太「これが・・・ナツコさんの悲しみなんですね」
ナツコ「・・・」
順太「あなたの痛みは・・・僕が受け止める」
ナツコ「・・・」
須藤「待って」
 須藤、順太からひとつドロップをとる
須藤「あたしも・・・あなたを助ける」
順太「須藤さん」
 須藤、ドロップを食べる
順太「あ・・・」
須藤「・・・口の中に、風がふいてる・・・」
ナツコ「ハッカ・・・」
順太「・・・」
ナツコ「いつもお気に入りだった・・・」
 順太も食べる
順太「僕もだ・・・」
 ナツコ、じっと順太を見る
順太「あなたの悲しみは僕らが受け取った」
ナツコ「・・・」
須藤「だから・・・順太さん・・・」
蘭「お願いします!」
 ナツコ、ふと立ち上がると
ナツコ「ついてきな」
みんな「?」
ナツコ「命を・・・つなぐ・・・」
順太「・・・」
蘭「ありがとうございます!」
ナツコ「蘭ちゃん」
 ポケットからひとつのスイッチを出す
ナツコ「イルカ牧場に仕掛けた爆弾のスイッチ」
蘭「・・・」
ナツコ「あなたの手で壊して・・・」
蘭「え・・・」
ナツコ「あたしのお願い・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「明日の朝にはもう一度、順太さんを返すね」
蘭「お願いします」
ナツコ「そのために、お願い」
蘭「・・・はい」
 ナツコ、順太を肩にかける
 須藤、それを手伝う
順太「蘭」
蘭「・・・」
順太「明日会ったら・・・大きな声でおはようって言おうな」
蘭「・・・うん」
 順太たちがはける

一人残る蘭
スイッチを床に置く
そして足をあげる
暗転


花火の音



















九月一日
 海の音が聞こえる
一吾「遅れるぞ!」
 明転
蘭「(声のみ)あ、もうすぐいきます!」
一吾「ったく、送っていくのはいいんだけどね、東京で迷うのだけはごめんだぞ」
蘭「(声のみ)高校までしっかりナビしますから」
一吾「ほう、普通のカーナビよりもすごいんだろうね?」
蘭「(声のみ)え?」
一吾「誤差一ミリとか」
 そのとき
まるみ「朝からいじめてる」
一吾「いじめじゃねえよ。気合いいれてんだ」
まるみ「あのね、人間にカーナビやらせて一ミリの誤差もなくなんて無理」
一吾「ああ、わかったわかった」
まるみ「ったく、もう・・・」
一吾「それより・・・起きててだいじょうぶなのか?」
まるみ「平気ですー。もうぴんぴんなんだから」
 おくから、服を乱れてあわててはおって蘭がやってくる
蘭「すいません!」
一吾「あやまってばっかりだな」
蘭「あ、すいません」
一吾「ほれ、まただ」
蘭「あ・・・」
まるみ「だからいじめるんじゃないっていってるでしょ!」
一吾「いじめじゃねえって!」
蘭「あ、あの」
ふたり「なに?!」
蘭「あ、お、お金です・・・」
 蘭、一吾に封筒を渡す
一吾「(受け取って)あいよ」
まるみ「大変だったから、振込みでもいいのに」
蘭「いいんです。けじめです」
一吾「来年もよろしく」
まるみ「あ、蘭ちゃん、あたしも乗ってっていい?」
蘭「ええ」
まるみ「ごめんね。そこの病院まで」
蘭「あ、そうだ、大丈夫なんですか?」
まるみ「いや・・・実はね・・・まさかとは思ったんだけど・・・」
 まるみ、ポケットからお守り出す
まるみ「検査薬を使ってみただけなんだけどね、」
蘭「まさか・・・」
一吾「そのまさかだ!」
 一吾も強くお守りを出してみせる
蘭「(ふたりをみて)おめでとうございます!」
まるみ「まだ正式にはわかんないけどね」
蘭「でもすごい!」
一吾「ま、おれの寝技一本ってことよ」
まるみ「(下ネタをいったから)朝から最悪なんだけど・・・」
一吾「なんだと!おれに感謝しろ!」
まるみ「お守りに感謝しないとね」
蘭「はい」
一吾「なんだよなんだよ、これだから女はいやだいやだ・・・」
 そのとき、
須藤「おはようございます」
蘭「あ、須藤さん
須藤「蘭ちゃん・・」
 そういって須藤、蘭の前に
蘭「どうですか?」
 須藤、ためてためて
須藤「成功した」
蘭「・・・よかった!」
須藤「さすがに、今日ここにってわけにはいかないみたいだけどね。近いうちに必ず家に連れてくから」
蘭「待ってます」
一吾「あ、そうだ、兄さんは」
蘭「あ、いろいろありまして・・・」
一吾「こここないの?」
須藤「あ、いや、その・・・」
一吾「なんだよ。オプション料金もらうの忘れてた」
蘭「え」
一吾「そう、夜釣り一回四千円・・・」
まるみ「(一吾をだまらせて)あ、忘れて忘れて」
一吾「(口をとじながらも)おい!こら!売り上げが!今月赤字だぞ!」
まるみ「(気にせず)うちは赤字でもやっていきまーす」
 ふたり喧嘩する
須藤「うわすごい」
蘭「いつものことみたいですよ」
須藤「送ってもらうんだっけ?あたしのタクシーで行く?」
蘭「あ、いいです」
須藤「いいよいいよ。ほら、外で待たせてるんだ」
蘭「大丈夫です」
須藤「(時計見ながら)え!だってこんな時間だよ」
蘭「待ちますよ」
須藤「もうニ学期初日から遅刻かあ!許さないよ!」
蘭「え」
須藤「・・・なに?」
蘭「なんか・・・」
須藤「ん?」
蘭「・・・お母さん・・・っぽい」
須藤「え!?あ、いや、んな、んなわきゃないでしょ!!???あははあはは」
蘭「あは、あはは」
須藤「あはは」
蘭「ま、そうですよね」
須藤「え・・・あ・・・」
 タクシーのクラクション
蘭「あ、待ってますよ」
須藤「え、いっしょに(いこうよ)」
蘭「お金たいへんなことになりますよ!」
 そういいながら、蘭、須藤をはけさせる
 そして
蘭「民宿いちごさん!」
ふたり「はい!」
蘭「よろしくお願いします」
 ふたり、顔をみあわせながら、しぶしぶ準備にかかる
一吾「なんか、新鮮だな?」
まるみ「そう、なんか生きがいい」
蘭「魚じゃないんだから」
一吾「夜、なんかあった?」
蘭「・・・ええ」
まるみ「なになに?」
蘭「・・・夏の・・・すんごい・・・ひとつの思い出です」
 ふたり顔を見合わせる
 そして先にはける
 蘭、ちょっと立ち止まる
 海の音が聞こえる
 蘭、それを聞きながら・・・

暗転













 暗転中
チャイムが鳴る
蘭「はい!」
順太「ただいま」




END