2008年5月8日木曜日

センス

劇団スリーマン第2回公演

センス


作 ピーチ(ニコラス風)/演出 富士河 千之介

出演

森 憲吾
美朱(恭香)
富士河 千之介
岡部 雄一郎






制作著作
©Three Man Office
登場人物

男1            
相談所の社員(精神科の医師)

タンゴの女(看護婦)
星の女(看護婦)



第一章 相談所
相「好きなタイプは?」
  明転
  舞台に相談所の男と男が座っている
男「えっ?好きなタイプですか?」
相「そう、あなたの好きなタイプですよ」
男「好きなタイプって言われても・・・」
相「何でもいいんですよ。好きな芸能人とかでも」
男「好きな芸能人ですか」
相「もしそれが言いにくいなら、もっと具体的に言えばいいんです」
男「もっと具体的に?」
相「ええ。例えば目が大きい、小さい。一重、二重。足が細いとか太いとか、ぽっちゃり、スリム。なんでも いいんです。」
男「・・・」
相「どっちで答えます?」
男「え?」
相「好きなタイプ。どっちで答えます?」
男「えーっ、じゃあ、好きな芸能人で。」
相「わかりました。それじゃ、好きな芸能人のタイプは?」
男「えーと、うーん」
相「言っていいですよ」
男「うーむ。」
相「どうぞ」
男「うーむ」
相「迷ってるんですか?芸能人なら誰でもいいんですよ。アイドル系なら松浦亜弥、清楚な感じなら松嶋菜々子、熟女系なら京塚マサ子、八千草薫、岸恵子、いろいろありますが」
男「じゃあ」
相「じゃあ?」
相「八千草薫さんで」
相「はい、八千草薫さんですね」
男「いや、やっぱり、岸恵子かな?」
相「はい、岸恵子で」
男「いや・・・」
相「どっちなんですか?」
男「いや、小学生のころは、温かみのある八千草薫みたいな人が良かったんですけど、中学生になってからちょっと冷たそうな岸恵子さんみたいなタイプがいいなぁと思ってたんで」
相「はぁ」
男「いや、それには理由がありまして、小学生のころ好きだった子はクラスでリーダーシップがあって、みんなにやさしい子だったんで・・・それで中学のころ好きだった人はいつも冷静で落ち着いてて、たまに浮かべる笑顔がとっても良かったんで・・・」
相「なるほど」
男「はい」
相「でも私が聞いているのは、そんな感情とか、しぐさではなくて、見た目を聞いているんですよ」
男「はあ」
相「いや、私の説明不足でした。しぐさや性格は会ってみないとわかんないでしょ。まず結婚相談所では外見から入るようにしてるんですよ」
男「はい」
相「ほら、人間てもんは全部といいませんが、外見ってのを重視するでしょ。特に異性に対しては。そして、人それぞれそこからタイプが分かれてく。ここではそこからスタートしていただいてるんですよ。わかっていいただけました?」
男「はい、わかりました」
相「ではもう一度聞きます。好きなタイプは?」
男「えーと」
相「はい」
男「あのー、私は今まで外見っていうかそんなところにも興味あるんですけど・・・」
相「興味あるけど、なんですか?」
男「別にきれいな人で、っていってるんじゃないんですが、本当は、しぐさや性格重視の人間かもって自分で思うんです」
相「ほう」
男「ですから、あの、難しいとは思うんですが、性格を重視してもいいですか?外見は無視して」
相「外見は無視して・・・わかりました。一応性格も自己申告なんですが、データにとってありますんで。あなたの希望通り性格重視にしますね」
男「よかった」
相「はは、たまにね、あなたみたいな人がくるんですよ。だから我々も性格面も自己申告でとるようにしてるんです。安心してください。じゃ、性格の話になりますが、どのような方を」
男「えーと、じゃあ」
相「はい?」
男「さっき言った小学生のころ好きだったタイプで」
相「ああ、さっき言ってた」
男「はい」
相「リーダーシップがあって優しい子でしたっけ?」
男「そうです。何かと明るく元気な子でした」
相「わかりました。じゃ、そこから選びますか?」
男「お願いします」
相「えーと明るく元気があって、リーダーシップがあってやさしい・・・」
男「ありましたか?」
相「あ、ありました!明るくて元気がよくてリーダーシップ、やさしさ。すべてにドンピシャですよ」
男「ほんとうですか?」
相「ええ、この人ですよ」
  相談者、資料を手渡す
男「この人ですか?」
相「どうです?」
男「えっ・・」
  暗転


第二章 タンゴの先生
明転
男「・・・」
  ここは喫茶店
  女がそこにかけこんでくる
女「すみません!遅れまして」
男「あ、いや、私も今来たばかりですから・・・」
女「そうですか。はははは」
男「はは・・・はは・・・はは・・・(ちょっと乾きめの笑い)」
女「あれ、大丈夫ですか?なんか元気なさそうですけど」
男「別に、大丈夫ですよ」
女「どっか体の具合が悪いとか」
男「だ・・・大丈夫ですよ」
女「本当?」
男「ほ、本当。大本当。」
女「はは、大本当ですって。おもしろいですよ」
男「ははは・・・」
女「でも良かった。面白そうな人で。写真と簡単な資料でしかわかんないでしょ?だから会うまでとても不安で、でも第一印象はばっちりですよ」
男「ば、ばっちり・・・」
女「ばっちり。ははは・・・」
男「・・・あの、注文はなんにしますか?」
女「あっ、まだ注文してなかったんですよね。えーとメニューは・・・」
  ウエイターがうろうろしてくる
男「(ウエイターにむかって)あ、すいません、すいません」
  ウエイター気づかない
女「ちょっとすいませーん」
  ウエイターがやってくる
女「えーと何にしよっかなー・・・」
男「・・・」
女「あのーおなかすいたんで食べ物たのんでいいですか?」
男「え?ええいいですよ」
女「それじゃ、ミックスピザ」
男「ピザ」
女「ピザ嫌いですか」
男「いや、えー・・・嫌いじゃないですよ。どっちかというと好きな食べ物かなぁ?」
女「よかった!それじゃミックスピザのXLサイズで」
男「XL!」
女「そう。エクストララージ。略してXL」
男「すみません。それってどれくらいの大きさですか?」
ウエイター「四十五センチです」
男「四十五センチですかー!」
女「大きいの嫌い?」
男「いやー、大きいのは嫌いじゃないですけど、ちょっと四十五センチは・・・それに今そんなに食べれないし」
女「そうなんですかぁ」
男「いくらひとりでも四十五センチのピザ食べれないよ」
女「食べれないことはないけど、ちょっと苦しい?・・・」
男「苦しい・・・かな・・・」
女「わかりました。それじゃLサイズで」
男「Lサイズってどんくらい?」
女「三十五センチです」
男「なんとかなるかなあ」
女「大丈夫です。Lサイズお願いします」
ウエイター「はい、エルサイズで」
女「あと、飲み物ですけど、さっぱりとウーロン茶、ピッチャーでお願いします」
男「ピッチャー?」
ウエイター「お客様ちょっとピッチャーでウーロン茶は・・・」
女「ははは、冗談ですよ。J・O・D・A・N」
男「・・・・」
ウエイター「・・・」
女「あれーおもしろくなかった?へへっ、ふつうにウーロン茶でお願いします」
ウエイター「は、はいわかりました。それではご注文の確認をさせていただきます。ミックスピザのLサイズとウーロン茶ひとつでよろしいですよね」
女「はーい。お願いしまーす」
男「はい、面白い方ですね」
女「おもしろいですか?よかったー」
男「本当によかったですよ・・・いや明るくて」
女「よくいわれるんですよ。この前も生徒さんに」
男「生徒さんに?」
女「ええ・・・あ、資料みてませんでした?」
男「え?資料?」
 男、資料を出して読み始める
男「あ、あー、ダンスの先生!?」
女「そうなんですよ。あたし、こう見えてもダンスの先生なんですよ」
男「はぁ」
女「ダンスってとっても体にいいんですよ。それにいい汗もかけるし。下手なスポーツなんかよりよっぽど経済的ですから」
男「体によくて経済的かぁ」
女「ええ、今度ぜひうちにいらしてください。みっちり指導させていただきますよ」
男「はは、でも僕はダンスはちょっと」
女「ええーっ」
男「いや別にきらいじゃないけど、ほらタキシード着て華麗にステップしたりとか・・・それに私、姿勢悪いし」
女「タキシード?」
男「ええ、ほら映画であったじゃないですか。『シャルウィダンス?』あんなことできませんよ」
女「ああ、あの映画とっても良かったですよねー。でもそれって社交ダンスの先生ではありませんよ」
男「えっ」
女「あたしはタンゴ
男「・・・」
女「タンゴの先生です」
男「タンゴ?」
女「ええ、さっきの資料にかいてありませんでしたかぁ?」
  男、資料を再びとりだして
男「あ、書いてある、タンゴ」
女「タンゴ」
男「タンゴってあの南米アルゼンチンの有名なダンスのことですよね?」
女「そう、南米の暑く荒い魂が流れでてくれるダンス見てわかるでしょ」
男「あ、ええ、ラテンのかたって明るくて、元気ですもんねえ」
女「明るくて、元気なのは、生まれながらですよ!」
男「す、すいません」
女「私があなたに感じてほしいのは、ラテン系の暑く荒い魂」
男「魂?」
女「そう、魂。英語でいうとソウル」
男「ソウル」
女「もっと力強くソウル
男「ソウル」
女「声が小さい!」
男「ソウル」
女「韓国の首都は?」
男「ソウル」
女「ああ、いい感じだわ。その力強さいい!」
男「でも」
女「えっ!」
男「あのー」
女「なんなの?」
男「ラテン系の魂なのに、英語でソウルっていうのはちょっとおかしいかなぁ、なんて」
女「えっ・・・別にそんなことは関係ないのよ!大事なのは力強さよ!」
男「力強さですか?」
ウエイター「おまたせしました」
女「よっ、待ってました」
男「・・・」
女、ピザとウーロン茶をガツガツ食べ、飲みはじめる
男、呆然とそれをみつめる
女「あれー、食べないんですか?」
男「えっ」
女「ほら、ピザすっごいおいしいですよ。正直、私、期待してなかったけど、これ結構うまいわ」
男「う、うまいわ?」
女「あ、いや、とってもおいしいですよ」
男「はあ」
女「はい、ぜひ召し上がってください」
男「それじゃ、いただきます」
女「どうぞ。えへっ」
男「あ、ああ、けっこうおいしいですね」
女「でしょう?」
男「うん、うまい」
女「本当においしいわー」
男「・・・」
女「あー、食った食った。あ、たくさん食べましたわ。えへっ」
男「えへっ?」
女「えへっ」
男「そ、それかわいいですね・・・」
女「かわいい・・・ああ、なんてことでしょう!・・・私のことかわいいなんていってくれるなんて。そんなこといわれたの、えーと・・・思い出せないー!えへっ、えへっ、えへっ」
男「も、もういいですよ」
女「あ、ごめんなさい」
男「別にあやまんなくていいですよ」
女「ごめんなさい。ちょっと調子のりすぎたみたいで」
男「いや、そんなことはないですよ。リーダーシップありそうで。私なんて、ぐいぐいひっぱられちゃって」
女「ははっ、ひっぱりすぎてちぎれなきゃいいけど」
男「ちぎれるーっ?」
女「い、いやなんでもないですよ」
男「ははっ」
女「それじゃ、お腹もいっぱいになったことですし、踊りませんか?」
男「踊る?」
女「ええ」
男「ここで?」
女「もちろん」
男「ちょっとそれは、ほかのお客さんや、お店に迷惑かと思うんですけど」
女「なに?」
男「えっ」
女「そんな弱気の姿勢でどうすんのよ!そんなんじゃタンゴの熱くて荒い魂・・・ソウルを感じることはできないわ」
男「なんか荒すぎるようなぁ」
女「えっ?」
男「いや、別に何でもありません」
女「よし、じゃ、とりあえず、立って」
男「は、はい」
女「それからこれくわえて」
  女、テーブルにあった百合の花を差し出す
男「これ、くわえるんですかぁ?」
女「そう、ものごとはすべてカッコから入るのよ!」
男「わ、わかりました」
女「よし、それじゃ用意はいいわね」
男「・・・」
女「用意はいい?」
男「は、はい、ばっちりです」
女「それじゃ、これからふたりで熱くて、荒いものをたくさん感じましょ」
男「・・・」
女「ミュージックスタート!」
男「ええー」
  タンゴの曲がかかる
  女、男を強引にリードし、踊り始める
女「ほら、もっと激しく!」
男「・・・」
女「返事は?」
男「はい!」
女「もっと強く!」
男「はい!まだよ!もっと!強く。強く!」
男「はい!」
女「ほら、ほら、ほらー・・・」
男「うあー!」
暗転


第三章 明るい女は・・・
(第二章の続きでまだ叫び続けている)
男「うわー!」
相「ど、どうしました?」
  明転
  男、百合の花をくわえたまま立ち尽くしている
  ここはまた相談所
男「はあ、はあ、はあ」
相「大丈夫ですか?」
男「ええ・・・だ、大丈夫です。」
相「本当?」
男「え、ええ別に心配いりません」
相「そうですか」
男「・・・」
相「どうですか、その女性の方。明るく元気な・・・」
男「いやだー!
相「えっ?」
男「も、もういいです。明るく元気があってリーダーシップがある女性は」
相「いいんですか?」
男「とんでもないですよ。とんでもない女性ですよ彼女は」「
相「でもあなた、まだ会ってませんよ。今、資料渡したばかりですよ」
男「いいですよ、もう・・・次のお願いします」
相「あ・・・そうですか。じゃ、次はあなたが中学のとき好きだった、冷静で落ち着いている方でよろしいですね?」
男「ええ、ぜひ。ぜひそっちでお願いします」
相「わかりました・・・えーとどれかなー・・・あ、あった。:」
男「ありましたか?」
相「ありましたよ。冷静で落ち着いていて、たまに浮かべる笑顔がかわいいって思える方が」
男「本当ですか?は、早く見せてくださいよ!」
相「ええ、はい、この方です」
男「この人・・・ですか・・・」
相「ええ」
  暗転

第四章 星が好きな人
  明転
  ここは公園である
男「・・・」
  そこに二番目の女がやってくる
女「あのー」
男「えっ」
女「あのー」
男「はい」
女「お、お待たせいたしました」
男「あ、あー、どうも初めまして」
女「ど、どうも遅れて・・・すみません!申し訳ございません」
男「そんなにあやまんなくても」
女「いや、私が悪いんです。私が、私が・・・」
男「ど、どうしたんですか?」
女「電車の切符を買う列が悪くて、遅い列に並んでしまったが為に・・・あのとき右ではなく左のほうにならんでいたら・・・」
男「いや、そんなに深刻になんなくても。まだ待ち合わせ時間の二分前ですから」
女「まったく私としたことが・・・」
男「あのー、聞いてますか?」
女「大丈夫です。一字一句もらさずきっちり聞いております」
男「そ、そうですか」
女「それに」
男「それに?」
女「聞き漏らさないためにほら(バッグからレコーダーをとりだす)録音するようにいつも持ち歩いてるんですよ」
男「え、これ持ち歩いてるんですか?」
女「ええ、私、聞き漏らすこと、許せませんから」
男「・・・」
女「安心してください」
男「あ、安心してますけど」
女「それではよろしいでしょうか?」
男「ええ」
女「では、この公園の説明をさせていただいてよろしいでしょうか?」
男「え?説明ですか?」
女「それでは参ります」
男「・・・お、お願いします」
女「この公園は今から三十二年前、西暦で言いますと一九七○年に創設されました。一九七○年、大阪では万博が開催され、特にアメリカ館が月の石やアポロなどを展示し一番注目を集めてました。そんな時代です」
男「あ、あなたいくつですか?
女「ちょうどそのころこの街にも万博ブームが訪れ、なにかやろうということになったのですが、さすがに万博ほどのビックイベントを開催することはできず、そのかわりといってはなんですが、世界のちょっとした花や木を植えて、この小さな公園を作ったのです。しかし・・・」
男「あ、あのー」
女「はい?」
男「この公園、よく来られるんですか?」
女「いや、初めてですけど」
男「は、初めてー!」
女「ええ」
男「ど、どうしてそんなに、この公園について詳しいんですか?」
女「私、自分の行く場所、すべてにおいて前もって調べてるんです」
男「すべてですか?」
女「はい」
男「でもどうやって?」
女「ガイドブックからインターネット。市役所から町役場、それから地元住民まで」
男「地元住民!」
女「ええ、昨日ここに来て調査を」
男「べ、べつにそこまでしなくとも・・・」
女「なんかおっしゃいました?」
男「いや、そこまで・・・」
女「なにをいってるんですか!今この時代に生きていれば、いつ何が起こるかわかんない!何かに備えておけばトラブルから回避できるようになる!」
男「で、でも、たかが公園で・・・」
女「たかが公園ですって?」
男「ぎょっ」
女「まあいいです。それでは、先ほどの話の続きを・・・」
男「もういいですよ」
女「あれ、もういいんですか?」
男「ええ、話し変えませんか?」
女「私、私・・・あなたに失礼なことしました?」
男「え、いや」
女「す、すいません!私、これから一緒になるかもしれない大事な殿方に怒りを買ってしまいましたね」
男「別に怒ってませんよ」
女「怒ってます」
男「怒ってませんよ」
女「・・・」
男「本当に怒ってませんって」
女「本当ですか?」
男「ええ」
女「よかったー」
男「ホッ」
女「ああ、神様、私、なんて素敵な殿方と出会えたんでしょう!こんなに心がひろい、お方とは・・・:」
男「あの・・・」
女「はい」
男「そろそろ私と話してもいいですか?」
女「ええ」
男「お仕事、なにされているんですか?」
女「仕事は科学センターのプラネタリウムの解説を担当しております」
男「科学センターのプラネタリウム?」
女「ええ、ほら、小学生からカップルまでたくさんいらした方に星座の解説したり、ご案内を」
男「へぇーっ、ロマンチックな仕事ですねぇ」
女「ロマンチックだなんて、あはは・・・。あっ、はしたない!」
男「えっ?」
女「いや、別に何でもございませんよ
男「なら、いいけど」
女「星って好きですか?」
男「今まで好きとか嫌いとか感じたことないなぁ・・・」
女「えっ、」
男「だからあんまり好きとか嫌いとか・・・」
女「ああっ、私なんて、質問をしてしまったのでしょう!」
男「え」
女「あいまいに答えさせてしまった。ああ、私の質問が・・・。神様!私には、いつ、星の王子様が来てくれるの! ねえ!いつ?」
男「あのー」
女「ねえ?いつ?」
男「すみません」
女「え」
男「そろそろいいですかねぇ」
女「えっ、はい。失礼しました。よろしいですよ」
男「あのー、先ほどから神様とか言ってますけど」
女「え?あ、聞こえてました?」
男「ええ、ばっちりと」
女「ばっちりと?」
男「はい」
女「す、すみません」
男「べつにあやまんなくともいいんですけど、なんだか信心深いなーと思って」
女「そ、そんなことないですよ」
男「ところで神様ってどんな神様?」
女「神様ですか?」
男「教えてくださいよ」
女「・・・」
男「教えてよ」
女「・・・ええ、いいですよ」
男「本当?」
女「で、でも」
男「でも」
女「私を軽蔑しませんか?」
男「しないよ」
女「頭がおかしいとか思いませんか?」
男「思いません」
女「それじゃ、話します」
男「お願いします」
女「私、流れ星が好きなんですよ」
男「流れ星ですか・・・」
女「ええ、別にそれだけならいいんですけど・・・」
男「・・・」
女「私、常に、星が見えるんですよ」
男「常に?」
女「はい」
男「昼間も?」
女「はい」
男「えーっ」
女「だからあんまりいいたくなかったんです。私のこと頭おかしいって思われたでしょう?」
男「あ、いやl、そんなことないよ。逆に視力がいいのかなと思って感心しちゃった。お父さんお母さんに感謝しないとね」
女「その目で見えるんじゃないんです」
男「え」
女「だから、この目じゃないんです」
男「じゃあ、どの目なの?」
女「心の目です」
男「心の目・・・?」
女「そう、心の目です。強い信念と清い心をもっていれば、だれでも見えてくるんです」
男「はは、ははぁ、はは・・・」
女「・・・」
男「きみは心の目で見えるんだね?・・・す、すごーい・・・」
女「あなたも見たくありませんか?」
男「え?」
女「見ましょう、心の目で、流れ星」
男「流れ星?」
女「見ましょう!」
男「え、あ、いや・・・」
女「さあ、ここにひざまづいて」
男「ひざまづくの?」
女「そう、そうやって、おでこに三角形を作ってピラミッドパワーを呼び起こすの!」
男「え?・・・こうするのかな・・・」
  男、ひざまづいて、額に三角形をなぞる
女「そう!そうやって強く念じるの!」
男「強く念じる?・・・」
女「強く!強く!ハウンドドッグの『フォルテシモ』を歌うように!
  ♪つーよく、つーよく・・・」
男「でも何を考えて念じれば?・・・」
女「今さらなにいってんのよ!当然、流れ星が見えますようによ!」
男「わ、わかりました!」
女「そう!もっと強く念じて!」
男「うーん・・・」
女「そう、その調子!強く、強く!ほら、だんだん見えてくる、見えてくる。見えてくるー」
男「う、う、いや、いやだー!誰か助けてー!」
 暗転

第五章 感受性
(暗転中も叫びは続いている)
男「助けてー!」
相「大丈夫ですか?」
 明転
 ひざまづいた男がいる
男「・・・」
相「大丈夫ですか?」
男「はっ・・・」
相「気がつきましたか?」
男「あ、いや、ええ・・・」
相「はー、よかった」
男「私は・・・」
相「え」
男「私は、いったいなにをしていたんですか?」
相「なんですか?」
男「だから、わたしは・・・」
相「女性の資料渡した気絶して、しばらくうなされてたみたいですが」
男「うなされてた・・・」
相「ええ・・・ずいぶんとピラミッドパワーだの流れ星だのっていろいろ話してましたけど」
男「ああっ!」
相「え」
男「思い出してしまった!あー!あー!やめてくれ!助けてくれ!」
 男、乱れはじめる
相「落ち着いてください・・・落ち着くんだ!」
男「・・・」
相「いったいどうしたんですか?」
男「・・・あ、いや、別に」
相「話してください。いったいどうしたんですか?」
男「はぁ」
相「話してみてください」
男「・・・ええ、ちょっと夢をみてたような・・・でもすごくリアルで、まるで現実のようで。今自分がどっっちだか本当にわかんなくなって・・・」
相「今日二回、気を失ってましたけど・・・一回めも二回めも同じようにリアルな夢を?」
男「こっちが現実ですよね?そうですよね?」
相「間違いありません。今あなたが見てるもの聞いてるものが現実です」
男「はぁーっ、よかった」
相「ところで一回目は、どんな夢を?」
男「いやー、あの方の写真と資料をもらった途端、急に喫茶店で、会ってるんです」
相「あの方?」
男「ええ」
相「あの女性ですか?」
男「はい。今まで会ったこともないのに声も動きも、はっきりと」
相「ほう」
男「とってもリーダーシップがあって、ぐいぐいひっぱってくんですが、ちょっと荒っぽくて。どうしても私のタイプじゃなかったんですよ」
相「荒くれものだった」
男「ええ、かなりの荒くれ者でした・・・わたしの夢の中では」
相「それから、二回目は?」
男「二回めも同じですよ。写真と資料もらった途端に」
相「喫茶店で」
男「違います。公園でした。私が公園であの女性を待ってるんです」
相「その女性は?」
男「あの写真と資料とまったく同じで」
相「同じ」
男「はい。とってもきっちりしてて、ロマンチストで。でも、それが度がすぎて怖いことに」
相「怖いこと?」
男「ええ、ひざまづかされて、お祈りをさせられるんですよ」
相「はは、ひざまづいてお祈りを?こりゃおもしろい」
男「笑い事じゃないですよ。私がどれだけ怖い思いしたか、わかりますか?」
相「・・・いや、すいません」
男「本当に変な人紹介しないでくださいよ。もう女性なんて、女となんて会いたくなくなりましたよ。」
相「でもそれって今に始まったことじゃないんでしょうかね?いや、そうでしょう。」
男「・・・」
相「あなたは女性が怖い。女性恐怖症です。」
男「別にそんなことは・・・」
相「そんなことは?」
男「・・・」
相「ありませんとは言えないと思いますけど・・・」
男「・・・」
相「写真と資料を見ただけでその女性像が浮かび上がる。そして声や動きまで浮き上がってくる。あなたは過剰なほど感受性強い、いや、普通の人の何十倍、何百倍も強い。しかしそれはすべてあなたの想像だけの世界じゃないんですかねぇ?」
男「え」
相「そうでしょう?すべてあなたが勝手に作り上げた想像の世界にすぎない。別に感受性が強いのが悪いんじゃないんです。あなたがそのようになるのは異常なくらい女性に対して恐怖感を感じている。それもひとりやふたりでもなく、すべての女性っていってもいいくらいです。その恐怖感が女性に対する感受性がどんどん坂を転げ落ちるように強くなっていってしまった。・・・あなたは女性の目を見て話してますか?」
男「(首を横に振る)」
相「話す以前に目を見ることさえ嫌なはずじゃないでしょうか?そうでしょう?」
男「(首を縦にふる)あなたの言うとおりですよ。女性が怖くて怖くて、しょうがないんです。それを少しでもよくしようとして、知り合いからここを紹介してもらってきたんですが・・・結局こんな感じで・・・」
相「何でこんな感じになってしまったか心当たりは?」
男「・・・」
相「あるんですか?」
男「・・・あります」
相「話してくれませんか?」
男「ええ、でも何って言ったらいいか・・・」
相「別に話したくないなら」
男「いや、話します・・・私は生まれてすぐ父を亡くし、親は母のみでした。そして姉四人。末っ子で長男。家の中は女性ばかりで。・・・小さいときは女の子の服を着させられたりして・・・それだけが原因とは考えていないんですけど、今思いつくのは、そんぐらいしか・・・」
相「このような症状はずっと以前から?」
男「いいえ。前はそうでもなかったんですが、ここ最近強く出るようになって」
相「・・・」
男「わ、私はもう外も歩けない、仕事もできない、もう何もできない人間なんです。こんなんならもう死んだほうが・・・」
相「なにいってるんですか!」
男「!」
相「なに逃げてるんですか?逃げて死んでなんになるんですか?戦わないと!戦うんですよ!」
男「戦う・・・?」」
相「そう。前向きに。何もいきなり女性の手を握れなんていいません。まず女性を見ることから始めたらいいんじゃないですか?」
男「・・・」
相「一歩づつ、いや半歩、一センチでもいい。少しづつ前に進んでいけばいいじゃないですか。私が力になりますよ」
男「・・・本当ですか?」
相「ええ、もちろん」「
男「・・・克服できますかね?」
相「できますよ。あきらめちゃだめです。ほら顔を上げて。前向きにね。」
男「は・・・はいわかりました」
相「よーし。それじゃ今日はかなりおつかれのようですんで、ここまでにしときましょう。」
男「ええ、ありがとうございます」
相「じゃ、おつかれさまでした。」
男「あのー、またここに来てもいいですか?」
相「もちろん」
男「あ、ありがとうございます!失礼しました。」
  男、帰る

  脇から看護婦がでてくる
  さっきまでの女性たちだ
看「先生おつかれさまです」
相「いやー、今日は、つかれたよ」
看「ほんと。いつになく時間かけてたようで」
相「そうでもないよ」
看「でも大変ですよね」
相「大変だよなぁ。最近の精神科医は演技力も求められる時代だからね。」
看「今日は結婚相談所、昨日は・・・」
相「昨日は児童虐待ホットラインだったよなあ」
看「そうでした」
相「うん。あ、次の患者さんは?」
看「すいません。忘れてました・・・そう、そう、もうお待ちですけど」
相「じゃ、そろそろ見るか?」
看「はい」
相「次の方、どうぞー」
 暗転