2008年5月30日金曜日

Small cinema story ~ある小さな映画館のお話 -「ラスト・レッスン」 から3年-~

Small cinema story


3man Office/劇団3man 旗揚げ5周年記念
第15回 夏公演
改訂版 下巻

登場人物
藤岡智  シネマ藤岡のオーナー    黒崎純也
桜庭泰輔 映写技師        石戸良
三橋総一郎 区議会議員の息子       田辺京市
桜庭玲子 映画館の売店アルバイト     本多美智子(演劇ユニットio)
白井健二 客               富士河千之介




スタッフ
作・演出       富士河千之介
照明オペレーター
音響効果オペレーター
制作本部       加藤真由実
舞台制作協力     
 古橋いつか(ぬいぐるみハンター)
製作
3man Office 制作本部

序章  
 ここは東京のとある区。
 シネマ藤岡という小さな映画館である。
 駅前の雑居ビルの中にある。
定員は四五名と少ない。
 一階は松屋。
 
 二○○七年夏。

 物語はここから始まる



 そんなシネマ藤岡の外。
 朝
 オーナーの藤岡智が外掃除をしている。
 そこに
玲子「おはようございまーす」
智「あ、おはようございます」
玲子「今日、大丈夫ですか?」
智「え」
玲子「だから今日!大丈夫ですか?」
智「なにがですか?」
玲子「ひっどい!忘れちゃったんですか?」
智「??よくわかんないんですけど」
玲子「二時からですよ!」
 智、考えて
智「あ!(思い出した)」
玲子「会議するから時間空けといてくれってあれほどいったじゃないですか!」
智「おお、大丈夫です大丈夫です」
玲子「なんのために、あんまり人の来ない平日、昼の時間にしたかわかんないでしょ」
智「ごめんごめん」
玲子「それと、キャラメル二ケースの発注は?」
智「昨日しときましたよ」
玲子「よかった」
智「切れそうでしたからね」
玲子「もう、いい加減、売店で扱うアイテム、増やしましょうよ」
智「だめです。」
玲子「いまどき、コーラとキャラメルしかおいてない映画館の売店なんて、うちしかないんですからね」
智「それがいいんです。」
玲子「為蔵さんの遺言でしょ?」
智「まあ、そうですね」
玲子「お客さんのクレームを直に受けてるの、あたしなんですからね」
智「感謝してますよ」
玲子「まったくもう、親子そろって頑固ものなんだから。」
智「玲子さん?」
玲子「はい?」
智「昨日、コーラの原液ボトル、切れてたでしょ?」
玲子「あ!」
智「ボトル取り替えときましたから」
玲子「ありがとうございます」
智「もうすぐもっと暑くなるだろうからボトルも多めに発注しときましたたから」
玲子「それもありがとうございます」
智「ついでに昨日のレジ金、またマイナス五百円でしたよね」
玲子「すいません・・・」
智「お金の受け渡しのときは特に注意するように」
玲子「(ため息)前いた陽代さんにもいわれたもんなあ」
智「今日もよろしくお願いします」
玲子「はーい、着替えてきまーす」
 玲子、はける
 智、掃除を続けようとする
 そのとき
白井「おはようございます」
智「ああ、白井さん」
白井「近くまで来たんでちょっと」
 智、ポスターのある場所にいって
智「明日、土曜日から、夏のスペシャルを上映しますよ」
白井「夏ですかあ」
智「ホラーも含めて一週間交代で(ポスターを見せながら)八月はこのローテでいきます。」
白井「えっと明日からは(覗き見る感じで)?」
智「『十二人の怒れる男』」
白井「楽しみだなあ。裁判つうか陪審員の話ですよね」
智「え?」
白井「?」
智「あ、ええ!そうです」
白井「これね、もちろん映画も面白いけどお芝居にもなってるんですね。で、日本では、金田一で有名なあの石坂浩二が演出出演してやっていて、それを三谷幸喜が見て」
智「(あぜん)」
白井「で、彼が演劇をやろうとするきっかけになったっていう話」
智「知りませんでした」
白井「ついでに、この映画をモチーフに『十二人の優しい日本人』っていう作品ができて、劇団時代の作品なんですが、おととし渋谷のパルコ劇場で再演されたんですよ」
智「あ、なんかやってましたね」
白井「これくらい知っとかないと」
智「オーナーなのに不勉強ですいません」
白井「まあ、いいでしょう。でも、懐かしいなあ。」
智「ぜひお待ちしております」
白井「明日中には必ず」
智「はい!」」
白井「では」
 白井、はけそうになるが
白井「あ」
智「はい?」
白井「おとといかな、見てたら音が急にきこえないときが。」
智「え!」
白井「始まって二十分くらいかな。物語の起承転結なら起の部分。」
智「はあ・・・」
白井「まあそのあとすぐに戻ったんですけどね、おかげでその後、頭の中で話を整理するのが大変でした」
智「本当に申し訳ございません」
白井「あのときすぐに何とかしてもらおうって思って急いで誰か探したんですが」
智「客入れの後は商店街の会合に出てたもんで」
白井「でしょう。だから、売店の女の人に言ったんですけどね」
智「玲子さん・・・」
白井「明日は完全な形で『十二人の怒れる男』を見たいもんです」
智「はい!」
白井「では」
 白井はける
 智、腰低くお辞儀して見送る
 いなくなったのを確認して腰をあげてまた掃除をする

 テーマ曲がかかる
ふと、手を止める
 空を見上げる

智「父さん・・・今日も・・・暑くなりそうだ」

 テーマ曲アップ
 静かに後ろの緞帳が開く

 見上げてる智はける
 前部が暗くなって
 舞台へ
(ここの照明は暗転することなく前後チェンジ)


第一章
 ここは、「シネマ藤岡」の休憩室
 いすを三個ならべて、そこに寝ている男がいる
 その名は、桜庭泰輔。
 そこにエプロンをつけて書類や伝票を抱えて玲子がやってくる。
玲子「まーた、おつり・・・(ためいき)・・・自信ないなあ・・・合ってるかなあ」
 玲子、寝ている泰助を見る
玲子「(ため息)」
泰助「(寝ている)」
玲子「(何をやってもいいので彼を起こしてください)」
泰助「!」
玲子「買ってきた?」
泰輔「んあ・・・」
玲子「朝いった、アレ」
泰助「あ、ああああああ」
玲子「どこにおいた?」
泰輔「いつものとこ」
 玲子、いったんはけるが
玲子「(声だけ絶叫)○△□!!!!!!!!!!」
泰輔「うるせえなあ」
 すばやく走りこんできて
玲子「ばか!(おしおき)」
泰輔「なんだよ!」
玲子「なんてところにいれてるの?」
泰輔「冷凍庫」
玲子「普通さあ冷蔵のほうでしょ?」
泰輔「バカだな」
玲子「はいバカバカ」
泰輔「おれなりの気遣いってもんよ」
玲子「え!泰輔、気遣いなんてできるの!?」
泰輔「角っこのスーパー『まるとん』行ったらさ、あれが普通に、レジ横においてあったんだぜ」
玲子「常温でおいてあったってこと?」
泰助「そう。冷凍庫のほうに入れて早く冷やしたかったんだって」
玲子「その努力は認める。けど、バカ」
泰輔「ふん」
玲子「まるとんってね、普通に賞味期限切れたもの売ってんだから」
泰輔「それ、店としてだめじゃねえか!」
玲子「あたしに怒らないでよ!」
 そのとき
三橋「お邪魔しまーす」
玲子「おはようございます」
三橋「玲子さん、キャラメルがんがん売ってます?」
玲子「がんがん売ってますって」
泰輔「おう、成金息子」
三橋「あのですね、会うたびに成金っていってますけど、そんなもんじゃないですから」
桜庭「んなこといったって、儲かってんだろ?不動産屋」
三橋「競合他社はたくさんありますから」
桜庭「ま、破産したとしても区の議員さんやってる親父にタカりゃなんとかなるだろ」
三橋「父は父です。」
桜庭「ふん」
三橋「たまたま生まれた家がそういうところだったってだけですから」
桜庭「たまたまだって!?ああ、おれも金持ちの家に生まれたかったなあ」
玲子「泰輔!」
 そこに
智「あ、総一郎さん」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます」
桜庭「おう、ぼっちゃん」
智「いい加減それで呼ぶのやめてもらえますか?」
桜庭「いいじゃねえかよ、ぼっちゃんは、いつまでもぼっちゃん」
三橋「(智に)あ、ちょっと話があるんですけど」
智「おれに?」
三橋「はい」
 状況を察して
玲子「(泰輔に)そろそろ準備ですよ~!」
桜庭「え~」
玲子「万作さんが新婚旅行行ってる間は、映写室のこと、全部まかされてるんでしょ?」
桜庭「あーあ、おれもイタリアいきてえな」
玲子「そうねえ、ハローワークいって職決めたら新婚旅行ってことで」
桜庭「おれ、お役所嫌いなんだよね」
玲子「無職がよくいうよ・・・」
 桜庭、やっとおきる
智「あ、昨日いらしたお客さんから、音が途切れるって」
桜庭「気にしなきゃいいんだよ」
智「気になるみたいですよ」
桜庭「ったく、細けえんだからよ、最近の客は」
智「常連さんからのクレームですから」
桜庭「ああ、あのヒョロ男か」
智「白井さんです」
桜庭「つまんねえなあ、やりたくねえ」
玲子「まあ、気遣いができる男なんでしょ?泰輔は」
桜庭「ま、まあな」
玲子「音を直すのなんて、ぱっぱっぱの秒殺でしょ!」
桜庭「ぱっぱっぱだ」
玲子「はい、仕事仕事!(残るふたりに)いってきますー」
智「お願いします」
 ふたりはける
智「あ、立ってないで(どうぞお座りください)」
三橋「失礼します」
 三橋、適当に座る
 智も座る
三橋「もうすぐお盆ですよね」
智「そうですねえ」
三橋「為蔵オーナーがお亡くなりになってからもう三年ですか」
智「なんの引継ぎもなく、ここが開いてすぐに風呂で倒れちゃって」
三橋「運命的でしたね。為蔵さん初恋の人が来て、それから亡くなるなんて」
智「かわいそうなのはうちの母ですよ。初恋の人見るは、その日のうちに死ぬはで」
三橋「最近お会いしてないな。今は?」
智「今じゃ近所のエアロビ教室に通ってます」
三橋「安心しました」
智「ここのことはね、いまだにわかんなくなるときがあります」
三橋「?」
智「あの野郎、こんな偏屈な映画館残しやがってって」
三橋「あの野郎って・・・」
智「父のことです」
三橋「僕は面白いとおもいます」
智「おもしろい、か・・・」
三橋「・・・」
 三橋、急に姿勢を改めて
三橋「今日、ここに来たのは、いつもみたいに遊びにきたわけじゃありません」
智「はいはい」
三橋「・・・」
智「?」
三橋「あ、いや・・・」
智「どうしました?」
三橋「非常にいいづらいのですが・・・」
智「どうぞ」
三橋「・・・九月の家賃から、ちょっと値段を・・・上がらせていただきたく」
智「!」
三橋「・・・思いまして」
智「・・・そうですか」
 三橋、かばんから電卓を取り出して
三橋「(電卓を押して)現在がこれくらいですね?」
智「はい・・・」
三橋「九月からは(電卓を押す)」
智「(それを見て)え!」
三橋「これくらいで。」
智「・・・」
三橋「どうでしょう。そのための交渉のつもりできたんです」
智「急ですね」
三橋「ご存知ですか?ここの裏の公園に建築会社が機材をたくさん置いてるの」
智「知ってます」
三橋「都の、駅前再開発がいよいよ本格的に始まるんです」
智「ええ」
三橋「一気にこの辺も、かわります」
智「かわっちゃうのか・・・」
三橋「かわるということは・・・わかりますね?」
智「・・・」
三橋「いろいろ値段があがってまして」
智「下はどうなるんですか?」
三橋「下?」
智「下の」
三橋「松屋ですか?」
智「つぶれたり?」
三橋「来月から二軒となりの本屋の横に移転します」
智「そうですか。なら、そのあとは、コンビニとか入ったり・・・」
三橋「いえ」
智「・・・」
三橋「なんにも(入りません)」
智「じゃあ、上!」
三橋「いますぐではありませんが、西口に新しくできたマンションに引っ越します」
智「・・・」
三橋「今はやりのオール電化マンションです。」
智「・・・」
三橋「智さんも、どうです?」
智「・・・」
三橋「一度、ショールームに行ってみるといい。すごいですよ、あのオール電化ってやつは」
智「このビルから・・・出て行けということですね?」
三橋「・・・」
智「総一郎さん?」
三橋「・・・」
 三橋、立ち上がって窓を見る
三橋「このビルにシネマ藤岡が入れるように紹介したのは、うちの父ですよね」
智「ええ」
三橋「入れといって、今度は出ろなんて。」
智「お父様から言われたのですか?」
三橋「矛盾するのもはなはだしい。副社長の僕としても必死に反対しました」
智「ありがとうございます」
三橋「ですが・・・」
智「今日、ここで、今僕に言ったのがすべてですよね?」
三橋「・・・」
智「駅前再開発ってどんな感じになるのですか?」
三橋、パンフレットを机の上に置く
そして見せながら説明する
三橋「後ろの公園から半径一キロくらいはまずさら地になります。さら地にした上で、区画整理を行い、四十階建てのオ
フィスとショッピングモールが入ったメインタワーを建てます。」
智「・・・」
三橋「その横に海外からの初出店ブランドを含めた目抜き通りを通して・・・その脇には富裕層向けのマンションを建設して、駅とは橋でつなぎます」
智「・・・」
三橋「今回の再開発にうちの社運がかかっています。東京都もバックアップしてますから(うちとしてもやり遂げたいのです)」
智「うちの父の遺産もかかってますけどね」
 三橋、智を見つめる
 智も三橋を見つめる
三橋「もちろん、考えてくださってけっこうです。ただし・・・」
智「・・・」
三橋「このままこのビルが残ったとしても、開発は続行させていただきます。」
智「・・・」
三橋「新しい町並みの中に、この古ぼけたビルがズドン、と建っている姿を想像してみてください」
智「・・・」
三橋「僕は・・・いやです」
 三橋、はける
 智、パンフレットを見つめる
智「・・・」
チェンジ














◎挿入 2007/06/18
 一方ここはロビーの喫煙スペース
 桜庭入ってきてベンチに座り、タバコを出す
 そこに三橋気づかず、通り過ぎようとする
桜庭「一服しようや」
三橋「!」
桜庭「成金息子」
三橋「会議がありますから」
桜庭「ちょっとくらいいいだろ?」
三橋「・・・」
 三橋もベンチに座る
 桜庭、たばこを出す
 三橋、たばこをもらう
 そしてくわえる
 桜庭、ライターを出す
 しかし
 火がつかない
 桜庭、何回もやる
 しかしつかない
桜庭「くそ!」
三橋「・・・」
桜庭「かっこ悪い。こういうのが一番むかつく」
三橋「貸してもらえますか?」
 桜庭、ライターを貸す
 三橋、ライターをいじるが
・ ・・つかない
桜庭「わりい」
三橋「たばこはいただいておきます。」
 三橋、たばこをハンカチにつつんで、かばんに入れる
三橋「(ライターを見つめながら)ライターなのに、火がつかないか・・・」
桜庭「おれもしけたもんだ」
三橋「(ライターをとって見つめる)」
桜庭「どうした?」
三橋「僕も火がついてないのかもしれません」
桜庭「は?」
三橋「・・・」
桜庭「成金息子はどうしてこうまわりくどいのが好きなんだろうね」
三橋「オーナーに言ってきました」
桜庭「再開発話?」
三橋「嫌われてしまいました」
桜庭「ふん。だから俺はいったんだ。もうすこし前から話せば、ちょっとは丸くおさまったかもしれねえって」
三橋「(智を思い)」
桜庭「三年も前から計画が出てたんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は映写機まわすのが仕事だ。こうやって嫌われるのもあんたの仕事だろ」
三橋「僕は嫌われたくありません」
桜庭「なら親父と喧嘩できんのか?」
三橋「それは・・・」
桜庭「じゃあいいんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は昔ただ働きがいやで、じじいと喧嘩してここをやめた。」
三橋「三年前の開館式当日ですよね」
桜庭「おかげでぼっちゃんはいまだにおれを嫌ってる」
三橋「・・・」
桜庭「あんたにいわれてここに戻ってきて・・・おれなりにけっこうがんばったんだけどなあ・・・。」
三橋「・・・」
桜庭「まあ、雪解けは早いかな」
三橋「・・・」
桜庭「俺も万作が戻ってきたらお払い箱だ。あと三日の命ってことよ」
三橋「その三日の間にお願いしたいんです。ここの立ち退きが丸くいくように、もっと積極的に智さんに動いてもらえませんか?」
桜庭「お?親父をとることにしたんだな」
三橋「・・・」
桜庭「玲子に話したほうがいいかもしれねえぞ?」
三橋「玲子さん・・・ですか・・・」
桜庭「あいつならここでずっと働いてる身だ。ぼっちゃんのことをよく知ってる。いいところも知ってれば悪いところも知ってる。そこにつけいればなんとかなるかもしれねえ」
三橋「・・・」
桜庭「苦手か?」
三橋「いえ!」
桜庭「ま、でもなあ、玲子はここが好きだからなあ。無理かもな」
三橋「・・・」
桜庭「あーあ、半端なヤツしかいねえなあ、ここは」
三橋「・・・」
桜庭「ぱっぱっぱと音とび直してくるわ。またあのヒョロ男にクレーム出されたら、説得する前にクビになりそうだからなあ」
 桜庭、はけていく。
 その背中を見て三橋もその方向に歩いていく。

チェンジ





 舞台はまた休憩室
 いそいそと、玲子がなにかを準備している。
 なにかドリンクとかいろいろ。
 そこに
智「まいったなあ」
 といいながら入ってくる
玲子「(智が入った瞬間びくっとする)」
智「ん?」
玲子「あ・・・あは、あははは」
智「どうかしたの?」
玲子「いえ、別に・・・」
智「なんだかな・・・」
玲子「顔が暗いですよ」
智「え」
玲子「あ、いつも暗いか」
智「いつもは余計です」
玲子「なにかあったんですか?」
智「うーん・・・」
玲子「?」
 そこに
桜庭「うおーい、いっちょあがり
玲子「はいおつかれさん」
智「あ、館内清掃は?」
桜庭「(いすにどっかり、座って)あとあと」
智「(ため息)」 
玲子「(目で泰助に合図)」
桜庭「(それを見て、芝居っぽく)あーあ、きょうは、なんの、ひだっけ?」
玲子「(芝居)そうねえ」
智「!」
ふたり「だれかさんの、たんじょうびじゃないの!?」
智「!」
 その瞬間、玲子机のしたから、お盆を出す
 お盆には四個の、ところてんが並んでる
智「と、ところてん!」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー
     はっぴばーすでー、とうーゆー
     はっぴばーすでー、でぃあ(目をあわせて)さとしさ~ん(ここは桜庭は「ぼっちゃ~ん」という」
智「ああ、ありがとうございます・・」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー」
 と歌いながら玲子、ところてんを
 とことてん付属の小さなフォークを無理やり智ににぎらせ、
玲子「(鋭く言う)はい食べて!」
智「え!」
玲子「(鋭く)ろうそくのかわりなんだから!」
 智、しぶしぶ、フォークを握り
 ところてんを
智「(音をたてて汚く食べる)」
ふたり「はい、おめでとう~~~~~~~~~~」
 ふたり、拍手
智「ふ、普通、こういうときってケーキじゃ(ないんですか)」
玲子「そんなのつまんない」
桜庭「夏はところてん!」
智「はあ・・・」
玲子「あ、ちょっと凍りかけなのは許してね。」
桜庭「すぐに冷えるように、おれの気遣い」
玲子「冷凍みかんと一緒だと思って。」
智「シャリシャリ感はいりませんよね・・・」
桜庭「バカ!俺たちがこれをぼっちゃんに贈るのはちゃんと意味がある」
智「意味?」
玲子「ところてんって、寒天をこうやって木枠からするっと抜いて作るでしょ?」
智「ええ」
桜庭「ところてんのように、ぼっちゃんにもこれから起こる困難にもだな、負けないように、こう、するっと抜けろってことだ」
智「無理やりっぽいですよ」
桜庭「うまいこといったな」
玲子「うまいうまい」
智「自画自賛ですか?」
桜庭「うまいといったら、これだ!」
 次に、桜庭、机の下から、酒のびんを出す
智「ひ、昼ですよ!」
桜庭「ところてんっつったら酒よ!」
玲子「異議なし!」
智「ちょ、ちょっと!」
玲子「却下あ!」
桜庭「ホッピーホッピー!(びんを持つ)」
智「あ、じゃあ・・・(お酒をつがれるのを期待して)いただきます」
 しかし、桜庭、まず自分のコップに酒をついで
 口に注ぎ込む
桜庭「△▲△(アドリブ)うんめえ」
玲子「ずるい、あたしのにも」
桜庭「おう悪い悪い」
 桜庭、つぐ
智「仕事中ですよ!」
桜庭「あと夜の一回だろ?」
智「そうですけど」
桜庭「車運転するわけじゃねえんだから、大丈夫だよってんだ」
智「お客さんに失礼ですよ」
桜庭「大丈夫だ」
智「玲子さんも?」
玲子「今日は智さんの誕生日なんだから」
智「夜の回の、おつりも間違って渡しちゃいませんか?」
玲子「逆に、頭が冴えて、サクサク、計算できるかも」
智「ありえませんって!」
桜庭「どうせ次に来る客は決まってる」
智「?」
桜庭「あの、ひょろっとしたクレーム野郎だろ?」
智「白井さんのことですか」
桜庭「いっつもいっつも、ここにくる。」
智「うれしいことじゃないですか」
桜庭「あいつの頭の中には、映画見るなら西口って選択肢はないのかな?」
智「西口・・・」
玲子「こっちは駅の東口でしょ?西口にあるのは」
智「ハミングバード・シネマ12(トウェルブと発音)」
桜庭「あっちはシネコンだ。」
玲子「十二個もハコがあるんだもんね。」(※ハコ→上映室の意)
桜庭「音もドルビーだし、画もきれいだし」
智「シネコンじゃあね、たしかに単館のうちはかなわない」
玲子「たぶんあのヒョロ男は、アナログが好きなんですよ」
智「空想でものをいうのはやめましょう」
桜庭「映画好きってもんは、へそ曲がりがおおいから」
智「今の発言で世の中の何万人かを敵に回しましたね」
玲子「泰輔、それいい!」
智「え?」
玲子「デジタル全盛期の今だからこそアナログの良さっ味わおうって、売り込みましょう」
泰輔「そうそう。CDよりレコードのほうがいいってときがある」
智「なるほど・・・」
玲子「見直したでしょ?」
智「ええ」
玲子「伊達に三年間キャラメルとコーラ売ってるだけじゃないですから」
智「うんうん」
泰輔「場がまとまったところで、ご歓談を」
 ふたり、酒をのみ、ところてんを食べる
智「(それを見て)・・・」
泰輔「どうした?」
智「・・・あ、いや」
玲子「なんですか?いってくださいよ」
智「・・・んん・・・うーん」
 泰輔、びんをもって智のコップにつごうとする
智「(それをとめて)うあ、いいです!いいです」
泰輔「飲め!」
智「まだ仕事ありますから!」
玲子「うちらだってまだある!」
智「無理です」
泰輔「(いったんとめて)そうか(あきらめるようなふり)」
智「夜の回が終わったら、おつきあいしますから!」
泰輔「いまだ!(一転、つぐ)」
智「わ!」
 智のコップには酒がつがれる
智「(酒を見つめる)」
玲子「入った以上は飲んでもらわないと」
泰輔「以下同文」
智「そんな・・・」
ふたり「(じっと見る)」
智「(耐え切れず・・・飲む)」
玲子「ほらやっと誕生日っぽくなってきた」
智「(飲み終える)」
泰輔「どうだ!昼から飲む酒は!」
智「・・・けっこう・・・うまい・・・ですね・・・」
玲子「でしょう!」
泰輔「なら、二杯目だ!」
 智、コップを差し出す・・・
 が・・・
 そのとたん、ばたんと、机の上に突っ伏す
ふたり「!」
桜庭「おい!」
玲子「智さん!」
 ふたり、駆け寄る
 すると
 智、一気に立ち上がり
智「えへへ・・・」
ふたり「!」
智「えへへへへ・・・」
泰輔「うわあ」
智「(よって)みなさ~~~ん!」
玲子「完全に酔ってる・・・」
泰輔「たった一杯で・・・」
智「(聞かずに)大事なお話がありま~~~~~す!」
ふたり「(どうしよう・・・)」
智「へへ・・・いつも、お勤めありがとう!ありがとう!ありがとう!」
玲子「は、はい・・・」
智「さらに今日はボクの誕生日まで・・・ボク、本当に十四時から会議だと思ってましたよ~~~」
玲子「あたしが時間空けるようにいいましたからねえ」
智「なんで!なんで、やるよっていってくんないんですかあ~~~」
泰輔「言ったらサプライズの意味がないだろう」
智「なんでえ」
玲子「智さん、気を確かに!」
智「ぼくは~~~いつでも冷静沈着」
泰輔「どこが」
玲子「言いたいことってなんですか?」
智「ああ~ああ~、ええ、このシネマ藤岡は・・・」
ふたり「・・・」
智「つぶれることになりました!」
玲子「!」
桜庭「・・・」
智「えへ・・・」

暗転


第二章 
 暗転中に
智・玲子「ありがとうございました」
明転
 ここはロビー
 智が客の見送りをしている
智「うはああああ・・・頭がいったい・・・」
玲子「大丈夫ですかあ?」
智「ボク、なにかいってました?」
玲子「(呆れ顔)」
 玲子、劇場の方にいって見て
玲子「あとおひとりです」
智「白井さんですか」
玲子「ええ」
智「わかりました」
玲子「ああ、もう」
智「?」
玲子「白井さん、出てくのいっつも遅いから、困っちゃう!」
智「まあ、確かに」
玲子「レジ閉めとかお掃除とか全部押し押しになっちゃうんですよね」
智「仕方ないですよ。大事なお得意様なんだから」
玲子「もうイライラしちゃうと、また計算ミスしちゃうかも」
智「イライラしなくともミスってるでしょ?」
玲子「違いますよ!この前わかったんです!」
智「え」
玲子「白井さんがグダグダして帰った日に限って、レジ金があわないって!」
智「たまたまでしょ」
玲子「日報見てったらわかりますって!」※日報→売上日報のこと。
智「おつりの受け渡しをもっとはっきりやれば大丈夫です!」
玲子「開演ギリギリだったらどうするんですか!」
智「予告編くらいならどうにでもなりますって!」
玲子「正しいおつりと、映画を始めから見せるのではサービスとしてどっちが正しいですか!」
智「どっちもです」
玲子「もう・・・」
智「それよりも、あのことを伝えるかどうか迷ってるんですよ」
玲子「あのこと?」
智「ここを閉館するってことです」
玲子「本気なんですか?」
智「・・・」
玲子「昼の誕生日会。お酒に飲まれちゃって、勢いで言ったのかなって(思いまして)」
智「・・・」
玲子「あのとき聞いたのあたしたちだけだから、あれをお酒の席のジョークにすればいいと思うんですけど」
智「でも・・・」
玲子「え?」
智「はい?」
玲子「ほ、本当なんですか!」
智「・・・」
玲子「総一郎さんに約束したとか?」
智「正式な答えは保留してます」
玲子「もう!ぐずぐずしてると、外堀から埋められちゃいますよ。気づいたら、ここだけぽつん・・・」
智「もう埋められました」
玲子「え!」
智「ここだけぽつん・・・」
玲子「・・・」
 そのとき
 白井やってくる
ふたり「(あわてて)ありがとうございました!」
白井「いやあ、すばらしかったです」
智「そういっていただけるだけで幸せです」
白井「学生時代を思い出しました。私ね、こう見えても学生時代、毎月一本は映画を見てましてね(それで・・・)」
玲子「(劇場内を見て)先にレジを閉めちゃいますね」
智「お願いします」(玲子、ハケる)
白井「(言葉をさえぎられて)あ・・・」
智「(それに気づいて)あ!ああ、どうぞ話の続きを」
白井「あ、お仕事の邪魔しちゃってるかな」
智「いえいえ、」
白井「まあ、でもまた来ます」
智「はい・・・」
 白井、ハケようとする
智「あの!」
白井「?」
智「あの・・・」
白井「はい・・・」
智「あ・・・」
白井「どうしました」
智「いや、あの・・・」
白井「?」
智「あ・・ああ・・・」
白井「そうだ。」
智「?」
白井「ずっと隠していたことなんですが・・・私ね・・・映画が好きってわけじゃないんです」
智「はい・・・」
白井「映画館が好きなんです。」
○ 挿入 2007/06/25
智「え!」
白井「ちょっと目をつぶって想像してください!」
 智、目をつぶる
白井「千円札を握り締めながら、窓口で切符を買います。売店でコーラとキャラメルを買って・・・
いすに座ったらキャラメル放り込んでコーラを一口・・・
で、始まるのをじっと待ちます。」
智「・・・」
 このとき、桜庭がイン
 話しかけようとするが、立ち止まって
白井「開演のベルが鳴って、スクリーンの幕がこう、バーって横に割れて、東口にある飲み屋の宣伝が始まる・・・ 
この瞬間って、たまんなく気持ちよくないですか?」智「・・・」白井「間髪入れずに予告編が嵐のように始まります!
ドキドキのアクション!
わくわくするようなSF!
どかーんとホラーがたたみこんできて、最後は涙涙の恋愛映画・・・。
気分はどんどん高まってきます。一瞬の暗転があって、またちょっと幕が横に開いて本編が始まる・・・!
最高の幸せじゃないですか!」
智「はい・・・」
白井「こんな瞬間ってのは、映画館じゃないと味わえません。」
智「そう・・・ですね・・・」
白井「でしょう?だから映画館って大好きなんです」
智「映画館にかける情熱は、おれ以上かもしれません」
白井「まあでも、ここまでたくさん来るようになったのは、うちの娘のおかげかもしれません」
智「!娘さんがいらっしゃったんですか?」
白井「ええ、出来たのって三年前ですよね。」
智「そうです」
白井「ちょうどそのころ妻と別れまして、娘もそっちに。で、月に一度会える日にここにいっしょに来たんです」
智「・・・」
白井「最初きたころはまだ八才でね。私は映画の内容がわかるんだけど、娘にはちょっと心配だったんです」
智「すいません。子供向けの話は選んでなかったかも」
白井「いやいや、でもね、映画って不思議なのは、見てるうちにわかってくるんですよ。」
智「・・・」
白井「なんとなく、かもしれない。でも隣でキャラメルとコーラ飲みながら、この人、かわいそうだねとかいってくるんです」
智「・・・」
白井「映画の持つ力ってすごいんですよ。たぶん私たちが思ってる以上に・・・」
智「映画の持つ力ですか・・・」
白井「あ、忙しいところ立ち話してしまった。それでは!」
智「お気をつけてお帰りください」
 白井はける
桜庭「映画じゃなくて、映画館が好きだったなんて」
智「・・・」
桜庭「それにバツイチで、向こうには子供ありときたもんだ」
智「桜庭さん」
桜庭「こりゃほんとの変人だ」
智「びっくりしました」
桜庭「俺も初めてそんなやつにであった」
智「違うんです」
桜庭「?」
智「おんなじなんです・・・」
桜庭「同じ?」
智「父さんと・・・」
桜庭「え!」
智「さっきのあの熱いお話・・・開館式の父さんのスピーチとまったくおんなじなんです」
桜庭「そうか・・・」
智「父さんがなぜこの映画館を建てたか・・・映画館に対する思いとまったく同じ話でした・・・」
桜庭「じじいの生まれ変わりだったりしてな」
智「父さんの・・・?」
桜庭「もうすぐ盆も近いだろ。」
智「んなバカな」
桜庭「あんな変人がいる限り、ここをつぶすなんて話せねえよな」
智「・・・」
桜庭「ま、おれはあと二日しかここにいねえから、どっちに転がろうが関係ねえけど」
智「・・・」
桜庭「しゃくにさわったか?」
智「失礼します」
 智、はけようとする
桜庭「どっちにしろ決めるこった」
智「言われなくても、しますよ」
桜庭「そうか」
智「そうですよね。桜庭さんは、関係ないですもんね」
桜庭「・・・」
 智、はける
 桜庭、座って、タバコを出す
 そしてライターを出すが
・ ・・つかない
桜庭「(ため息)俺は・・・どっちにつけばいいんだろうな」
 チェンジ





 翌日の休憩室
 玲子がお金を数えている
玲子「(お札を数えながら)・・・あわない・・・ああ・・・あわない・・・」
 そこに
桜庭「先にいってるぞ」
玲子「(お札を見て)あああ・・・」
桜庭「どうした?」
玲子「あああ・・・」
桜庭「またマイナス?」
玲子「一万円」
桜庭「い、一万!」
玲子「昨日金曜だったじゃない。しかも給料日だからさあ、万札出す人多くて」
桜庭「小銭で間違うんならともかく、札のほうなんて・・・」
玲子「どうしよう・・・」
 桜庭、自分の財布から一万円を出す
玲子「!」
桜庭「(玲子の前に見せて)これを入れろ」
玲子「だめだって」
桜庭「いいから!」
玲子「こんなことばれたら、あたしたちここにいれないって!」
 桜庭、無理やり、一万円を袋に入れる
桜庭「!」
玲子「泰輔!」
桜庭「使ってくれって」
玲子「今入れたお金ってあたしがあげた今月の小遣いの(一万円でしょ?)」
桜庭「まあな・・・」
玲子「タバコもビールも買えなくなるよ」
桜庭「たばこは坊ちゃんからもらうよ」
玲子「情けないって!」
桜庭「ビールがないならホッピーがある!」
玲子「ホッピーのほうが高いって」
桜庭「ホッピーホッピー!」
玲子「聞いてるの?!」
桜庭「こういうときのための、夫ってもんだろ?」
玲子「・・・」
桜庭「玲子が困ったときは俺が支えるって」
玲子「泰輔・・・」
桜庭「(腕時計を見て)時間だ」
 桜庭、はけようとする
 玲子、近寄って
玲子「ありがとう」
桜庭「おう」
 桜庭、今度こそはけようとする
玲子「あやしい」
桜庭「へ」(とまる)
玲子「泰輔が二枚目になるはずがない。」
桜庭「あのね、人ってもんはなあ、日々変化してるってもんなんだよ!。俺も変化してるってこと!」
玲子「(もっと近寄って)正直にいいなさい」
桜庭「だから(なにもないって!)」
玲子「ボク~?素直になりなさ~い?」
桜庭「正直者だって・・・おれは・・・」
玲子「西口の~、コンビニの前にある、ネオンがビカビカ光ってるとこかなあ???」
桜庭「!」
玲子「マリンちゃんと遊んだのかなあ」
桜庭「ひ・・・ひさしぶりに・・・お、大当たりになっちゃって」
玲子「パチンコ~?スロット~?」
桜庭「スロット!」
玲子「(絶叫)ごらあ!!!!!!!」
 しかし
玲子「ああああああああ!」
泰輔「!」
玲子「痛い」
泰輔「頭?」
玲子「最近、ずっとそうなの」
泰輔「ほかに悪いとこは?」
玲子「あんまり食欲もないし」
泰輔「うそつけ。ところてんバクバク食ってたじゃねえか」
玲子「あのカラシ酢醤油がいいの。辛くて」
泰輔「うん」
玲子「ツンときて」
泰輔「うん」
玲子「すっぱい!みたいな・・・」
泰輔「すっぱい・・・?」
玲子「夏バテかなあ・・・」
泰輔「平田先生のところでもいってみたら?」
玲子「平田病院に行きたいのは山々だけど、時間が(ないの)」
 そこに
智「おはようございます」
ふたり「おはようございます」
泰輔「おう、ぼっちゃん。ちょっと頼みがあるんだけど」
智「給料の前借りはだめですよ」
泰輔「今日の昼はおれが売店のレジやるから」
智「!」
玲子「え~え・・・」
◎挿入 2007/06/18
泰輔「おれ、前に、銀座のデパートの臨時レジ係もやったことあるんだ」
玲子「その顔で、よくお客さん逃げなかったよね」
泰輔「うるさい!」
智「玲子さん、都合が悪いんですか?」
玲子「あ、いや」
泰輔「平田先生のとこに」
智「平田先生・・・?・・・って、どこか具合悪いんですか?」
玲子「ああ、ちょっと最近頭がいたくって」
泰輔「やっぱり健康あっての仕事だからなあ」
智「はあ・・・」
泰輔「じゃあ、昼からはキャラメルとコーラ、がんがん売るから!」
玲子「智さん、すいません」
智「わかりました」
玲子「じゃあ昨日の売り上げ、入金してきますね」
 玲子がハケる
泰輔「(ハケたのを確認してから)まいったな・・・」
智「?」
泰輔「ひょっとしたらひょっとするかもしれん」
智「そんなに大きい病気なんですか!」
桜庭「ばか!」
智「!」
桜庭「・・・オメデタだよ」
智「!」
桜庭「頭がいたいだろ?食欲がないだろ?そしてすっぱいものが好きときたもんだ」
智「もし本当なら・・・」
桜庭「でかした!玲子!」
智「おめでとうございます」
桜庭「こりゃガキのためにガンガンかせがねえとなあ」
智「はあ・・・」
桜庭「あ~あ、ここで働きてえなあ・・・」
智「!」
桜庭「万作の乗った飛行機、落ちねえかな。」
智「それはやりすぎです」
桜庭「フランス生活が気に入っちまったとか」
智「ただの新婚旅行ですから」
桜庭「おれみてえな問題児、預かってくれるのここくらいなもんだから」
智「・・・」
桜庭「(腕時計みて)おっと、やっべ!一回目の上映だ!」
 桜庭、走ってハケる
 智
智「父さん・・・これじゃ・・・つぶせないよなあ・・・」
○挿入 2007/06/20
 チェンジ
三橋「さあどうぞ」
玲子「おじゃまします」
 ここは三橋の事務所応接室である。
三橋「珍しいですね。ここに来たいだなんて」
玲子「たいしたことじゃないんですけど、ま、覗き見根性っていうんですか(、ねえ)」
三橋「ご覧のとおり、せまくてなんにもないですけど」
玲子「どういうところで働いてらっしゃるか、前からものすごく興味がありまして」
三橋「あ、お茶でも出しましょうか?」
玲子「いえ、いいんです」
三橋「はあ・・・」
玲子「えっと、それよりも・・・」
三橋「?」
玲子「シネマ藤岡をつぶさないでください」
三橋「・・・」
三橋「!」
玲子「いくらあのビルの大家だからって、突然すぎます。」
三橋「・・・」
玲子「泰輔からも聞きました。再開発するなら時間かけてもっと事前にしっかりと話しあうべきなんじゃないですか」
三橋「・・・」
玲子「いきなりすぎます。あたしたちの職場をつぶさないでください」
三橋「僕がもっと勇気を出してればよかったんですよね」
玲子「・・・」
三橋「三年前から再開発の話がちょっとづつ出ていたんです。でも僕が智さんに言う勇気がなかった。父に追い詰められて土壇場の今になって話してしまって」
玲子「・・・」
三橋「父に反論する勇気もなくて。だいたいにして僕、反抗期ってわかんないんです」
玲子「わかんない・・・?」
三橋「ええ。父に『英語は小学生からやれ』っていわたら、ひとりでミッキーマウスの英会話の絵本を読んでたし、『この学校に行け』っていわれたら素直に勉強して入った。」
玲子「・・・」
三橋「なんていうんだろう。親に歯向かうことで自分を認めさせようとか、たまには困らせてやろうって思えなかったんですよね。楽なんですよ。道を引いてくれてる人がいるなら、それを歩いていればいいじゃないかって」
玲子「お父様のいうことに不信感とかないんですか?」
三橋「考えなかったです」
玲子「今も?」
三橋「・・・」
玲子「心から、お父様のいうことが、正しいと思ってらっしゃいますか?」
三橋「玲子さんはどうです?」
玲子「・・・」
三橋「お父さんって好きですか?」
玲子「女の子から見たお父さんっていうのと、男の子から見たのでは違いますよ」
三橋「それが聴いてみたいんです。」
玲子「『ありがとう』です」
三橋「ありがとう?」
玲子「そう。感謝・・・。」
三橋「・・・」
玲子「けっこう自由にさせてくれたんです。高校選ぶときも『お前が好きなところに行け』っていう以外はなにもいわかなった。卒業の前、みんなが大学行くっていうのにあたしだけ事務の専門学校を選んだときだって、お父さんはなにも。お母さんはうるさかったんだけど、お父さんはむしろもっとがんばれよって」
三橋「自由であることが不安なときはありませんでしたか?」
玲子「ずっと不安でしたよ。ほっとかれてるんじゃないか、ひょっとしたらあたしなんかより妹の真子のほうをひいきしてるんじゃないかって・・・真子はずっとおりこうさんでかわいかったし」
三橋「・・・」
玲子「たぶんね、親がひいた道を歩かせるんじゃなくて、自分でその道を作らせたかったんだと思うんです。その道を歩いてるあたしを見守るのが親の仕事だって・・・」
三橋「・・・」
玲子「あ、今のはあくまでもあたしの推測ですよ。、静岡の専門学校で一人暮らししてるころに思ったんですけどね。」
三橋「うらやましいな」
玲子「うちは変わってるほうかもしれませんよ」
三橋「いや、自分で生きたいように生きてきたなんて」
玲子「今からでも遅くないんじゃないですか?」
三橋「え・・・」
玲子「お父様にいえるとしたら、今なんじゃないですか?」
三橋「反抗期ということですか」
玲子「反抗期じゃない。」
三橋「・・・」
玲子「違うと思うならいえばいいんです。あってると思うならいわなくてもいいけど・・・でも、もっと正直になってほしいんです」
三橋「僕は正直ですって」
玲子「迷ってますよね」
三橋「迷ってない!」
玲子「ほんとが聞きたいんです。本心から、あそこから立ち退いてほしいのか」
三橋「本心です!」
玲子「・・・」
三橋「そのためにも僕からもお願いがあるんです。智さんに言っていただけませんか?」
玲子「・・・」
三橋「昔の東口がにぎわったように、今の東口ももっと街の活気を出したいんです。そのためにも協力してほしいんです」
 玲子、立ち上がる
 そして
玲子「あたしは、シネマ藤岡が好きです」
三橋「・・・」
玲子「給料は安いけどね」
 玲子、ハケる
 三橋、それを見送ってから、携帯を取り出す
 そして
三橋「(電話)もしもし・・・お久しぶりです・・・先輩。」
 電話しながらハケる

 チェンジ














チェンジ
 桜庭が休憩室で携帯をのぞきこんでいる。
 そこに玲子がやってくる
玲子「あっつ~!」
桜庭「(あわてて携帯を隠しながら)」
玲子「?」
桜庭「お、おう・・・」
玲子「(桜庭の手元を見ながら)ん?」
桜庭「ん?」
玲子「どうかしたの?」
桜庭「いや、なんにも?」
玲子「?」
桜庭「だ、誰も、オメデタを調べるサイトになんて行ってないよ」
玲子「おめでた?」
桜庭「!」
玲子「バッカじゃないの?」
桜庭「え?」
玲子「(袋を出して)ほい、さしいれ」
桜庭「ありがと・・・」
玲子「無理行って休みもらって悪いからね。水羊羹。智さんと食べて」
桜庭「(ばくばくくいはじめる)おう」
 桜庭どんどん食べる
玲子「病院ね、平田先生のところお休みだったから西口の新しいとこまでいってきたのね」
桜庭「そうかあ」
玲子「いろいろ検査してね」
桜庭「おう」
玲子「出た結果が」
桜庭「おう」
玲子「ただの疲労、だって」
桜庭「・・・」
玲子「工場の事務の仕事に比べたら今のほうが大変だからね。お休み週一日だし、立ちっぱだし」
桜庭「・・・」
玲子「ね、聞いてる?」
桜庭「ああ・・・」
玲子「栄養剤とかもらってきた。ごはんのあとに四つも飲むんだよ?信じらんないよね」
桜庭「そうか・・・(完食する)」
玲子「泰輔も疲れてんの?」
桜庭「疲れるほど働いちゃいねえよ」
玲子「じゃあ、もっと働け」
桜庭「いやおれはね、我が家の主人として万が一に備えて、働くのをほどほどにしてるわけだよ」
玲子「なにが主人よ。大黒柱はあたしでしょ」
桜庭「万作が帰ってきたら、職安行く」
玲子「ど、どういう風の吹き回し?」
桜庭「行ってみようかなあと思っただけだよ」
玲子「あんなに役所嫌いだったのに」
桜庭「まあ・・・な」
玲子「まさか」
桜庭「?」
玲子「ひょっとして、あたしが本当にできちゃったこと考えてたの?」
桜庭「!」
玲子「映画館がつぶれるだのなんだのって、こんな大事なときにできちゃうわけないでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「あ、午後もお休みいただきます」
桜庭「ゆ、ゆっくりしてろ」
玲子「かわり、ありがとうね。じゃ」
 玲子はけようとする
桜庭「あ、あの・・・」
玲子「え」
桜庭「つ、つり銭は今のところ合ってるからな」
玲子「さすがは元銀座のレジ係」
桜庭「キャラメルも・・・ガンガン・・・売ってるし・・・」
玲子「ご苦労様」
 今度こそはけようとする
桜庭「おれって親父になれるかな」
玲子「!」
桜庭「親父になる資格・・・持ってるかな」
玲子「・・・」
桜庭「これといった仕事にゃ・・・就いとらん。趣味は・・・酒。映写技師なんて、なりたくてなったわけじぇねえし」
玲子「・・・」
桜庭「短気、ぐうたら、バカな俺でも、親父になれるのかな」
玲子「短気で喧嘩するのはいいけど、青森に逃げるのはよくないと思ってるよ」
桜庭「だってあれは、ずっとじじいの下でタダ働きだったし(普通は金くれるぜ)」
玲子「(かぶせて)あたしも無料奉仕でした」
桜庭「・・・」
玲子「智さん、最初は泰輔がここに戻ってくるの、ずっといやがってたんだよ」
桜庭「・・・」
玲子「泰輔が総一郎さんとこで世話になってたから、しぶしぶOKしたみたい。だから今でも微妙な感じで話してるのわかるでしょ?」
桜庭「・・・ああ」
玲子「まあ、それはともかく、泰輔は父親になれるでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「父親になる資格は、あたしが思うに男ならだれでも持ってる」
桜庭「・・・」
玲子「そのひとつが仕事だと思うよ。」
桜庭「仕事か」
玲子「もうすぐここで働くのも終わりでしょ? もし正直に仕事に就くのがいやだったら、うちであたし以上に主夫してよね」
桜庭「掃除は大丈夫だ。」
玲子「ほんとに?」
桜庭「がんばれば。ただメシが作れねえんだよ」
玲子「いざとなったら、あたしがみっちり教えてあげる」
桜庭「じゃがいもは・・・フライパンでいためたら食えると思ってたくらいなんだよ?」
玲子「そんなこともあったね」
桜庭「じゃがバターが食いたいって、で、フライパンにサラダ油いっぱい入れて、生のイモいれたら」
玲子「ポテトフライができたもんね」
桜庭「ああ。そんな俺でもいいのかな」
玲子「・・・」
桜庭「親父ってなんだろう・・・」
玲子「資格よりも、もっと大切なことがあると思うけど・・・?」
桜庭「・・・」
玲子「レジ閉めまで、過不足なしでお願いします」
 玲子、はけようとする
桜庭「映写室に来い」
玲子「?」
桜庭「明日からのやつのテスト上映をするんだ。」
玲子「別にいいよ」
桜庭「面白いぞ。俺の好きな映画のひとつだ。」
 桜庭、玲子の手をとり、はける
 暗転









第三章
三橋「ひとつだけ方法を考えました」
 明転
 ここは休憩室
 翌日の朝である
三橋「大学のヨット部の先輩がハミングバードシネマの役員をしておりまして」
智「はあ・・・」
三橋「昨日、電話でなんですが、軽く東口再開発計画の概要を話したところ、大変興味を示されまして・・・」
智「?」
三橋「・・・」
智「それって・・・うちが、ハミングさんとこに買収されるということですか?」
三橋「僕が考えた折衷案です」
智「・・・」
三橋「いつも思ってたんですが、この辺は新宿や渋谷には遠いじゃないですか。映画館はここと、西口のハミングバードシネマのふたつしかない。先輩に聞いてみたら週末とかお客さんはやはり新宿や渋谷に取られてるらしいんですね。」
智「・・・」
三橋「それを補強するために東口にもハミングバードシネマを立てることによって、このエリアでの映画人口を大きく確保できる。そして、智さんも映画館をずっとやっていける・・・」
智「今のままでやれるんですか?」
三橋「・・・」
智「シネマ藤岡として。キャラメルとコーラしか置かないこのままで」
三橋「智さんはキャラメルとコーラを一緒に飲んだり食べたりしながら、映画を見たことがあるんですか?」
智「!」
三橋「もちろん、為蔵さんがここを立てたときからの方針だし、経験あるんですよね」
智「・・・」
三橋「本当はあまりそういうところに意味を感じてない・・・とか?」
智「そんなことはありません!」
三橋「・・・」
智「父さんが決めたことだ。意味はあるんですよ」
三橋「教えてください」
智「・・・」
三橋「疑問に思ってるんですね」
智「ち、違います!」
三橋「この際だ、おもいきって変えませんか?」
 三橋、かばんから地図をおもいきり出す
智「!」
 そしてひとつの場所を指し示し 
 バンと指を刺す
三橋「十個の上映室を持つ、ハミングバードシネマ・イースト10(テン)に生まれ変わるんです」
智「!」
三橋「映画館として存続できる。ハミングバードシネマとしても意味がある。そして僕も、再開発計画を貫徹できる。これなら・・・喜んでいただけるのではないでしょうか」
智「映画館として残るのはいいんですが・・・」
三橋「十個のうちの九個は新作になっちゃうと思います。でも一個は今までどおり智さんチョイスの旧作をまわせるんです」
智「CUCU MOVIESの方は?うちの担当の鬼山田さんにはどう説明するんです?」
三橋「昨日お伺いしました。鬼山田さんはあいにく不在だったんですけど、社長さんはシネマ藤岡の売り上げに疑問をもってらっしゃるようでした」
智「!」
三橋「プロデュースを手放すかもしれませんよ」
智「そんな!」
三橋「確認してみますか?」
智「(電話を見つめる。そして、ため息)・・・外堀は、もはや・・・埋められたか・・・」
三橋「・・・」
智「おかしいと思ったんですよ。商店街の会合だって、一次会には呼ばれるんだけどなぜか二次会のほうには呼ばれなかった」
三橋「二次会は、僕とか父も参加しての再開発についての会合でしたから」
智「呼んでください!」
三橋「僕が智さんに気をつかいすぎたのかもしれません。」
智「かなり前から、再開発の話はあったんですよね」
三橋「・・・」
智「俺は総一郎さんを信じてた。」
三橋「だから考えてきたじゃないですか!映画館は存続できるんですよ!つぶれるよりはいいじゃないですか!」
智「・・・」
三橋「昨日、玲子さんがいらっしゃって」
智「・・・玲子さんが?」
三橋「シネマ藤岡をつぶさないでくださいって・・・」
智「・・・」
三橋「それだけ智さんもここも愛されているということです。愛されているなら、残すこと、続けることを考えないと」
 そこに
玲子「おはようございまーす・・・」
 桜庭、玲子が入ってくる
玲子「あ・・・」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます
桜庭「おう、朝からおそろいか」
三橋「(智に)考えておいてください」
智「・・・」
 三橋、帰りかけるが
三橋「(智に)ひとつお聞きしたいことがあります」
智「?」
三橋「智さんが映画館を続ける理由ってなんですか?」
智「・・・」
三橋「為蔵さんがお亡くなりになったから仕方なく、とかですか」
智「!」
 智、立ち上がると
 三橋を一気に壁際に追い詰める
玲子「智さん!」
智「(三橋をにらみながら)・・・」
三橋「(智に)ど、どうしました?」
智「仕方なく・・・ですって・・・?」
 遅ればせながら桜庭、智を抑える
三橋「僕を今こういうふうにしてるのが、答えだと思ってもいいですか」
桜庭「(抑えながら智に)こらえろ、ぼっちゃん!」
智「・・・」
三橋「それとも・・・いまだになにをしたいのか(わからないとか)」
智「!」
 智、三橋を地面にたたきつける
三橋「ではなんですか?」
智「父さんの意思を引き継いでしっかりと(やっていくのが・・・)」
三橋「引き継ぐのはいい。映画館を続けていく確固たる理由が智さんの中に」
智「あります!」
三橋「教えてください」
智「教える必要はないでしょう」
三橋「キャラメルとコーラの意味もわからないのにですか!」
智「!」
智「うるさい!」
 智、走って逃げる
 呆然とするみんな
 
チェンジ

















チェンジ
 智、走ってくる
 そしてとまる
 そこに
 桜庭も走ってくる
桜庭「(息切れ)」
智「(息切れ)」
桜庭、手に、コーラのコップとキャラメルの箱を持っている
智「!」
桜庭「やってみろよ」
智「・・・」
桜庭「このふたつの意味がわかんねえなら、やってみろ」
智「でもいまさら」
桜庭「いまさらじゃねえ!」
智「!」
 桜庭、再度、ふたつを進める
 智、ゆっくりそれをとる
 ふたりいすに座る
 智、コーラを飲む
 そしてキャラメルを放り込む
智「・・・」
桜庭「どうだ・・・」
智「・・・」
桜庭「ま、そういう俺も実はわかってなかったりするんだけどな」
智「!」
 桜庭、キャラメルを一口
 そしてコーラを飲む
桜庭「よし、いくぞ」
智「え?」
桜庭「いいからいくぞ!」
 ふたり、館内に入っていく
 
 ふたりはキャラメルとコーラを食べながら映画を見てる
 
戻ってくるふたり
智「こうやって、父は映画を見てたんですね」
桜庭「そうだなあ・・・」
智「・・・」
桜庭「あんまり・・・俺は・・・坊ちゃんにつべこべいう権限なんてねえのはわかってる。でも・・・今だから言わせてもらう」
智「・・・」
桜庭「おれも映写技師の端くれだ。二日まわしてきてわかったことがある。ここは、映画を楽しむだけの場所じゃない」
智「・・・」
桜庭「この映画館は愛されてる」
智「!」
桜庭「あの変人がいってたじゃねえか。映画が好きなんじゃねえ、映画館が好きなんだって」
智「・・・」
桜庭「ただ映画を見るだけならどこでもできる。ここは映画以外のなにかがあるんだ」
智「なにか・・・」
桜庭「なんだろうなあ・・・一時期、流行った癒しってやつか?」
智「・・・」
桜庭「そのなにかが、あのじじいが残してったものなのかなあ・・・」
 そのとき
 玲子と三橋がやってくる
 ふたりはじかれたようにたつ
三橋「失礼します」
 三橋、はけようとする 
 そのとき
智「申し訳ございませんでした!」
 智、おもいきり腰を折って謝罪する
三橋「・・・」
智「かっとなったとはいえ、暴力までふるってしまいました」
三橋「別にいいんです」
智「・・・」
三橋「明日、さっきの先輩をお連れします。CUCU MOVIESのほうには、智さんのほうから電話してもらっていいですか?」
智「わかりました。」
三橋「では・・・」
智「おれからもひとつ提案があります。」
三橋「?」
智「賭けをしましょう」
三橋「?」
智「明日夜の最後の回!うちのお客さんを満員にする!」
玲子「え!」
桜庭「そんなの無茶だ」
智「(三橋に)総一郎さんたちが勝手に再開発計画を進めたように、俺たちも勝手にさせていただきます」
玲子「ちょっと落ち着いて考えましょうよ!」
智「(三橋に)明日から『海の上のピアニスト』という作品を上映します。忙しいと思いますが、きていただけますか」
三橋「・・・」
智「ひとつでも空席があったら、総一郎さんの言うとおりにします。でももし満席だったら、このシネマ藤岡、そしてこのビルはこのまま残す!」
三橋「!」
智「ここにあるなにかを信じたい。」
三橋「・・・明日、二一時にうかがいます」
 三橋ハケる
 智、それを見つめたまま
玲子「(三橋がはけてから)無理ですよ明日なんて!」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「宣伝だってどうするんですか?今日来たお客さんに、明日も来てくれなんていうんですか?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「それに明日は平日ですよ。いくら、ふつうの人の仕事終わってからの回だっつったって、限界が」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「なにかいい考えがあるから言ったんですよね?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「智さん?智さん?」
 そのとき、
智「○△■□!」
 といいながら、倒れる
玲子「智さん!」
桜庭「ぼっちゃん!」
 暗転




暗闇の中、声がする
為蔵「智、おい智」
 明転 
 倒れている智
 そこを俯瞰で見るように、白井がいる
智「白井さん・・・?」
為蔵「なにいってんだバカ」
智「!」
為蔵「お前と顔を合わすのもひさしぶりなもんだ」
智「・・・」
為蔵「もっと気のきく奴になってるかと思ったけど・・・そうでもなかったな」
智「うるさいな・・・」
為蔵「ほんとわかんない奴だ」
智「こんな映画館残してさっさと死んじゃうなんて」
為蔵「悪かったな。お先させてもらって」
智「おかげで、おれは今大変なことになってるよ」
為蔵「十分見させてもらったよ」
智「さっきいたの?」
為蔵「なんでもお見通しだ」
智「・・・」
為蔵「ふん、あんな賭けしやがって・・・」
智「おれも父さんの子供ってこった」
為蔵「・・・。」
智「父さんの無謀な遺伝子がおれにも入ってるってこった」
為蔵「お前に無謀なんていわれたかないな」
智「ふん・・・」
為蔵「ま、お前のやりたいようにやってみろ」
智「・・・」
為蔵「生きやすい世の中なんてどこにもねえ。」
智「・・・」
為蔵「ひとりで歩いて、すごろくのあがりまで行ってみろよ」
智「・・・」
為蔵「おれの生きてきた時代は何かがずっとずれてる時代だった。
戦争終わってよ、アメリカのやつにめちゃくちゃにされて、調子いい奴が『日本が変わった。いい国になるんだ』みてえなこといってたけど、おれはそれ聞いて裏で唾吐いてたよ。
  ふん、変わってなんかいねえ。戦後のめちゃくちゃを必死で生きようとした大人とそれを一番近い場所で遠い目をして見てた俺たち。それが現実だったんだ。」
智「・・・」
為蔵「映画館ってのはそんな俺が唯一、今、生きていることを感じだ場所なんだ」
智「生きている・・・」
為蔵「そうだ」
智「・・・」
為蔵「おう、次会うときは、もっとこう、いい顔になってろよ」
智「え・・・」
為蔵笑って、ハケはじめる為蔵
智「父さん!」
為蔵「ひさしぶりにキャラメルとコーラでも食べるか」
智「父さん!」
為蔵「おれは、ずっと・・・お前のそばの、どこかにいる」
智「・・・」
 為蔵はける
智「父さん・・・父さん!」
 そのとき
桜庭「ぴんぴんしてるじゃねえか」
智「父さんは?」
桜庭「父さん?」
智「父さんですよ。さっきまでここにいて」
桜庭「幽霊でも見たんじゃねえか?」
智「形は白井さんそっくりなんですけど、中身が父さんなんです」
桜庭「はあ?」
 そのとき
玲子「あたし、すれ違いましたよ」
桜庭「え?」
智「え!」
玲子「なんかまた来るっていってました」
桜庭「おい?」
玲子「(うなづく)」
智「そうですか・・・」
玲子「でも、どうするんですか?」
智「はい?」
玲子「明日」
智「明日?」
桜庭「満員にするんだろ?」
智「ええ」
玲子「いつもの智さんらしくなかったなあ」
智「そうですか?」
玲子「かっこよかったよ」
桜庭「現実問題、手はあるのか?」
智「『海の上のピアニスト』は九九年に上映されて、かなり評判になった作品です」
桜庭「シネマチャートにもしっかり入ってたしな」
玲子「船の上で生まれて一度も地上に降りなかった天才ピアニストの話」
智「よくご存知ですね」
桜庭「昨日いっしょに見たんだ」
玲子「男同士の友情っていいよね」
智「だからなんとかなると思うんですけど」
桜庭「なんとかなるって?」
玲子「そこそこ有名だから人が入るんじゃないかってこと?」
智「ええ」
玲子「は!最悪・・・」
桜庭「そんな他人任せな賭けやるんじゃねえよ」
智「そうかなあ・・・」
桜庭「いいか?人をたくさん入れるにはどうするか!」
玲子「守っていちゃあかわらない!攻めて攻めて攻めまくる!」
智「攻める・・・」
桜庭「パソコン貸してくれ」
智「え」
桜庭「俺がチラシ作ってやる」
玲子「作ったら、『文房具のこむらや』で千枚くらい刷っちゃうね」
智「千枚も!」
桜庭「チラシってのはな、撒いた分の十分の一の人が興味を持つっていわれてるんだ」
玲子「千の十分の一は?」
智「百」
桜庭「うちの定員は」
智「百人」
玲子「ね?」
智「なるほど」
玲子「でしょう?」
智「ええ。少しでも呼びましょう」
玲子「あ、あとね、明日の夜の回は、キャラメルとコーラを全員に配りましょう」
智「赤字ですよ。物販で売り上げをとっていかないと(だめです)」
玲子「為蔵さんの気持ちを体験してもらうんです」
智「・・・」
玲子「そうすれば、ここの映画館の存在意義がわかってもらえるはず・・・」
智「なるほど・・・」
桜庭「あとは、ぼっちゃんしだいだな」
智「え・・・」
玲子「あたしたちはできるところまでやる。」
桜庭「坊ちゃんにしかできないところは、ぼっちゃんがやるべきだ」
智「・・・」
桜庭「つきはなしてるってわけじゃねえぞ」
智「・・・」
桜庭「坊ちゃんの賭けだ。あとは、まかせて大丈夫だよな」
智「桜庭さん・・・」
桜庭「もし今度じじいに会ったら『桜庭さんはやっぱりいい人でしたよ』っていっといてくんねえかな」
智「それは無理です」
玲子「調子のりすぎ」
桜庭「すまんすまん」
智「でも・・・ありがとう・・・ございます」
 ここでふたり、初めて握手をする
 そこに玲子も手を加える
玲子「シネマ藤岡始まって以来のお祭りですね」
智「ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡祭り」
玲子「ひねりがないね」
桜庭「うるせえ!シネマ藤岡祭りの始まりだ!」
 三人、その手を高くあげる
チェンジ








第四章
 外
 白井が、外で待っている
 そこに桜庭と智がやってくる
智「緊張しますね」
桜庭「なにが?」
智「チラシ配りなんて生まれて初めてですよ」
桜庭「俺はティッシュならたくさん配ってるけどな」
智「じゃあ、先輩ですね」
桜庭「まあな。」
智「ドキドキです」
桜庭「よしいいか。ビラ配りってのはここ(心のこと)が強くなくちゃやってらんねえ」
智「ガラスのハートの俺にできるかな」
桜庭「け!よし、見てろ」
 桜庭、大きなとおりに立つ
 そして一転笑顔で
桜庭「(営業声)ご通行中のみなさ~ん、駅前のシネマ藤岡で~す!(手を差し出す)」
智「すごい声ですね・・・」
桜庭「(営業声)明日夜一九時の回は『シネマ藤岡祭り』で~す!よろしくおねがいしま~す!」
 しかし、チラシは誰も取らない。
桜庭「(固まる)」
智「・・・」
桜庭「・・・」
智「さ、桜庭さん?」
桜庭「(そそくさと戻って)ガラスのハートなんて、こっぱみじんだろ?」
智「は、はい・・・」
桜庭「人間っていかに他人に興味ないかがわかる」
桜庭「勉強になります」
桜庭「(肩をたたいて)やってみろ」
 桜庭、ひっこんで、今度は智がたつ
智「(チラシを持った手を出す)」
桜庭「(それを見る)」
智「しっねっまふじおっかで~~~す。」
桜庭「おい!」 
 桜庭、智の元にかけより
桜庭「緊張しすぎだって」
智「そんなこといったって!」
桜庭「本番に弱いタイプだな」
智「人が多すぎるんですよ!」
桜庭「駅前なんだから当たり前」
智「ですけど・・・」
桜庭「賭けに負けたくないよな?」
智「はい・・・」
 桜庭、バシッと智の胸をたたく
智「!」
桜庭「男だ!」
 そして桜庭は智とは違う方向にいく
桜庭「(普通の声で)シネマ藤岡です!明日夜『シネマ藤岡』祭りやります(チラシを配り始める)」
 智、それを見る
桜庭「作品は『海の上のピアニスト』!一九○○年代最後にして最高の傑作の呼び声も高い、すばらしい作品です!どうぞ、お越しください!」
 智もたつ
智「(がんばって)こんばんは!シネマ藤岡です!」
桜庭「(配りながら見る)」
智「明日十九時からは『シネマ藤岡祭り』やります!シネマ藤岡創業者、藤岡為蔵思い出の味、キャラメルとコーラをいらっしゃったお客様全員にお配りいたします!作品は『海の上のビアにスト』!みなさまぜひいらしてください!」
 そのとき
白井「『海の上のピアニスト』ですか」
智「父さん!」
白井「は?」
智「あ、いや、白井さん」
白井「見ましたよ。やるんですね」
智「ええ。」
白井「私ね、オープニングのプルート・テイラー・ヴァンスがひとり街角でトランペットを鳴らしながら、船を下りないナインティーンハンドレッドを語りはじめるシーン、大好きなんですよ」 
桜庭「(智に)なにサボってるんだ?」
智「あ、白井さんです」
白井「ど、どうも」
桜庭「おう変人」
白井「へ?」
桜庭「そうだ。この前は悪かったな」
白井「はい?」
桜庭「音が途切れたって」
白井「あ、ああ!あのときも(いたんですか)」
桜庭「(智に)ぼっちゃん」
智「はい」
桜庭「この人が明日きたら、ただで入れてくんねえかな」
智「!」
白井「い、いやなにを(いってるんですか)」
桜庭「(かぶせるように)おれの給料から千円、天引きしていいから」
白井「!」
桜庭「(智に)な?」
智「わかりました」
白井「あ、もうそこまで気にしてませんから」
桜庭「わりいと思ってる」
白井「・・・」
桜庭「坊ちゃんにいわれたときはよ、正直、かったりいなあって。でも音も、画も、客も、んで、俺たちも含めてひとつ映画なんだよなあ」
智「・・・」
桜庭「(チラシを渡して)明日は完璧な上映するんで見に来てくれ」
白井「(それを受け取って)わかりました」
智「(桜庭に)明日は、じゃないですよ」
桜庭「え」
智「明日、も、です」
桜庭「調子のりやがって」
智「そうだ。明日は娘さんもぜひ!」
白井「ああ、どうでしょうかね・・・」
ふたり「?」
白井「今年に入ってからは会おうと思ってる日が合わなくて、だからずっとひとりで来てたんです」
智「・・・」
白井「夜は塾だ、日曜はバレエのお稽古だとかいってるけど、本当のところはね、十一歳だし、そろそろ父親がうざったくなる歳かもしれないなと」
桜庭「思春期か・・・」
白井「ええ」
智「難しいですね」
白井「まあ、でも、電話してみようかな」
智「?」
白井「妻に。ちょうど明日は会う日に当たってるんです。」
桜庭「明日は平日だろ?」
白井「!」
桜庭「厳しいんじゃないの?」
智「桜庭さん」
白井「・・・私だけで見にこようかな・・・」
智「・・・」
白井「うん。明日は私だけでいきます」
智「・・・」
桜庭「切符のことは売店の女に俺からいっとく。名前は・・・」
白井「白井です」
桜庭「OK。」
白井「それじゃ」
 白井、ハケようとする
 そのとき
智「ぜひ電話してあげてください!」
白井「え・・・」
智「電話・・・電話してあげてください!」
白井「!」
智「確かに娘さんにもいろいろ重なってるかもしれません。でも・・・でも娘さんほんとは、電話を・・・待ってるかもしれない」
白井「・・・」
智「なんかそんな時期ってないですか?あまのじゃく的に本心を見せないっていう」
白井「・・・」
桜庭「ただこっぱずかしいだけだろ?」
智「それもあります。それもあるんですけど、感謝とか、時には愛情とか・・・なんだか・・・わかんないけど・・・うまく、こう、表にだせないとき・・・」
白井「・・・」
智「俺もずっと・・・そうだったから・・・父さんに・・・」
白井「・・・」
智「電話してあげてください。」
白井「・・・」
智「話してください。いっしょにいらしてください」
白井「・・・わかりました」
 白井、携帯を取り出し、話しながらハケる
桜庭「大丈夫なのか?」
智「?」
桜庭「おれは責任もてねえぞ」
智「さあ、チラシ配りしましょう」
桜庭「・・・」
智「(大声で)こんばんは!シネマ藤岡です」
桜庭「シネマ藤岡です!シネマ藤岡祭りやります!」
 ふたりは配り続ける






































○挿入 2007/07/06
 チェンジ
 休憩室
 それを見ている三橋
 そこに玲子はいってくる
 三橋、気づかない。
玲子「満員にしたいんです」
三橋「(玲子を見て)」
玲子「あたしたち。」
三橋「・・・」
玲子「外はずっと暑いんです。あのひとたちは汗をいっぱいかきながら必死でチラシを撒いてる」
三橋「・・・」
玲子「普通の人が見たら、ただのばかに見えるかもしれません。でもそれだけいっしょうけんめいだってことです。」
三橋「・・・」
玲子「いっしょうけんめいなときは、人間、バカにならなきゃ」
三橋「・・・バカに・・・なる・・・」
玲子「あたしは、頭よくて冷静な人より、熱いバカが好きです。」
 玲子、倉庫に入って
玲子「(声のみ)なにしにいらしたんですか?」
三橋「!」
玲子「(声のみ)うちらのこと、やっぱ気になったりとか?」
三橋「わ、忘れ物とりにきただけです!」
 三橋、あわてて地図を取る
 玲子出てきて
玲子「あれ?それってもらえるもんじゃないんですか?」
三橋「このあと会議で使うんです」
玲子「いいじゃんパンフなんだから」
三橋「社外秘なんです」
玲子「けち~」
 そこに電話
三橋「(電話)総一郎です・・・あ、先輩・・・今から下に降ります」
玲子「忙しいですね」
三橋「(電話切って)おかげさまで盆休みももらえなさそうです」
玲子「そうなんだ・・・」
三橋「玲子さんはどうですか?」
玲子「あたしは休みなんていりません」
三橋「?」
玲子「休んじゃうとね、なんか逆にどきどきしちゃうんですよ。週一の休みの日でも、ああ、コーラのボトル切れてないかなとか、キャラメルの在庫どんくらいだっけとかってね」
三橋「僕と同じだ」
玲子「え」
三橋「ずっと仕事のことが頭から離れない」
玲子「不思議ですよね。キャラメルとコーラしか売ってないんだけど」
三橋「為造さんの意見に縛られないでもっと増やせばいいのに」
玲子「あたしもそれ言ったことあるんです。でもね、たった二個のアイテムなのにけっこう管理が大変で」
三橋「そうなんですか」
玲子「ほら今もね、売り場に切らしちゃったから面倒くさいけどもってかなきゃならないんです。そうかと思えば倉庫に余らせちゃったり。そういう意味でいうとあの二個でちょうどいいのかも」
三橋「やっぱり好きなんですね」
玲子「そうねえ、そうなっちゃうのかなあ」
三橋「僕もこの仕事にすべてかけてます」
玲子「・・・」
三橋「玲子さんは明日は満員になると思いますか」
玲子「もちろん」
三橋「・・・」
玲子「(窓を見て)あの人たちもバカならあたしもバカですから」
 そのとき玲子
 ふらふら・・・そして
 倒れる!
三橋「玲子さん?」
 玲子は動かない
三橋「玲子さん!玲子さん!」
 三橋脈などを見るそして携帯を取り出す
三橋「(電話)もしもし!救急をお願いします。えっと場所は、駅東口、一階に松屋があるビルの四階、シネマ藤岡です!」
 三橋、電話切る
三橋「玲子さん!玲子さん!」
 外では、ふたりが必死で配る
智「(上を向いて)ん?」
桜庭「おい、さぼるなよ」
智「雨ですね・・・」
 雨の音
桜庭「(天に向かって)負けねえぞ・・・」
智「(天に)ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡です(繰り返し)・・・」
智「シネマ藤岡祭りやります!(繰り返し)・・・」
 そのとき、救急車の音がする

 智と桜庭、配りながら何気なく、その方向を見る
 救急車が止まる
智「止まった」
桜庭「(車を見て)ん・・・?」
智「珍しいですね」
桜庭「松屋で誰か肉でも喉につまらせたか?」
 そのとき智の携帯がなる
智「(電話)もしもし・・・ん、総一郎さん?・・・え?」
桜庭「?」
智「・・・今行きます!」
 智、ダッシュではけようとする
桜庭「まだ配り終わってねえぞ!」
智「(振りかえって)玲子さんが・・・」
桜庭「?」
智「戻りましょう!」
 ふたりダッシュではける
 暗転










第四章 
明転
 まず、桜庭が入ってくる
 客席を見渡していく
 場内をぐるりと一回りする
 そこに智が入ってくる
智「(見渡して)」
桜庭「けっこうはいってるな」
智「ええ」
桜庭「あとはこの前の席の分、四人だ」
智「・・・」
桜庭「どうした?」
智「本当にすいません・・・」
桜庭「・・・」
智「玲子さんが倒れたことはおれにも責任があるかもしれません」
桜庭「気にするなって」
智「でも」
桜庭「いやね、おれも、今日は玲子のそばにずっとついてやるっていったのよ。」
智「・・・」
桜庭「そしたら、バシッてな」
智「・・・」
桜庭「これだけ泰輔のほっぺたを殴る力があるから大丈夫なんだって・・・」
智「玲子さん・・・」
桜庭「玲子なりに気にしてるんだ。」
智「・・・」
桜庭「玲子のぶんもがんばろう」
智「ええ」
 そこに
 三橋来る
 三人、目を合わせる
三人「・・・」
桜庭「礼をいってなかったな」
三橋「いいですよ・・・」
桜庭「・・・」
三橋「救急車を呼んだだけですから」
桜庭「・・・ま、ありがとうな」
三橋「あれから大丈夫ですか?」
桜庭「うん・・・」
三橋「そうですか」
桜庭「ああ」」
 三橋、中を確認する
二人「・・・」
三橋「(確認してから)失礼します」
桜庭「おい」
三橋「・・・」
桜庭「勝負はまだ決まってねえぞ」
三橋「空席がそこにあります」
桜庭「上演まであと少しはあるんだけど?」
三橋「無理でしょう」
桜庭「なんだと?」
三橋「平日な上に外は雨です」
智「総一郎さん」
三橋「・・・」
智「おれね、やっとあのふたつの意味がわかったんです」
三橋「・・・」
智「映画を見るときって、必ずちょっと心が緊張してるときがあるでしょう。物語の面白さにわくわくして、そしてどきどきしてる。
それをまず、このキャラメルが口の中にはいって一緒になって口の中でほぐしていきます。
そしてコーラ。甘ったるくなりすぎた口の中を強烈な炭酸の泡がぱーっと吹き飛ばしてくれる。泡の刺激が同時に適度な緊張感になることで映画を見るための集中力をとめさせないんです」
三橋「まるで料理評論家みたいですね」
智「気取ってしまいました」
三橋「・・・」
智「本当に映画が好きな人間は、雨が降ろうが、嵐になろうが絶対きます」
三橋「・・・」
智「すでにこれだけ多くのお客さんが来てくださってるんです。この映画館を好きな人もこのあと絶対に来る」
三橋「・・・」
智「おれはお客さんを信じます」
三橋「どうぞ」
智「・・・」
三橋「このあと、ハミングバードシネマの先輩をお呼びしてあります。」
智「・・・」
三橋「いつもの休憩室、つかわせてもらってもいいですか。」
桜庭「いよいよ実力行使か」
三橋「智さんにお話があるんです」
桜庭「け!」
智「・・・」
 そこに
玲子「は~、ひっどい雨だね」
三人「!」
桜庭「玲子・・・」
玲子「?」
三人「・・・」
玲子「どうしたんですか?みなさん?」
智「いや、だって・・・」
桜庭「おい!あれほど安静が必要だって言われたじゃねえか!」
玲子「うん。だから平田先生と喧嘩してきちゃった」
桜庭「え!」
智「ほんとに大丈夫なんですか!」
玲子「ちょっとふらふらするんですけどね、でも大丈夫」
桜庭「まったくもう・・・」
玲子「なに?あれほど、ここのためにがんばって出てきたっていうのにその態度はないでしょ?」
桜庭「それは玲子の体が心配だからさ」
玲子「あたしの体はあたしが一番わかります!」
桜庭「・・・」
玲子「まあでも、心配してくれてありがとう・・・」
智「本当にすいませんでした!」
ふたり「!」
智「玲子さんが倒れた件、おれが玲子さんを週六で働かせたのが悪いと思うんです」
玲子「あ、いや・・・」
智「今度、新人を募集しようと思うんです。二人体制になれば、玲子さんもしっかり休めるし」
玲子「あ、それはだって、あたしが働きたくて働いてるから大丈夫なんですよ」
智「え?」
玲子「休みがとれるのはそれはそれでありがたいんですけど・・・」
智「もっと休んでいいんですよ」
玲子「働かせてください!」
智「え?」
玲子「お金が・・・最強に必要なんです」
智「あ、入院のお金だったら保険を使えばいいじゃないですか」
玲子「できちゃったんです!」
桜庭「!」
智「はい?」
玲子「だから!赤ちゃんがいるんです」
智「!」
桜庭「おい!だって前は疲労だっていわれてたじゃねえか!」
玲子「いや、平田先生とこの看護士さんに聞いたらさ、西口って施設ばかり良くって、実はヤブなんだって」
桜庭「ヤブ?!」
玲子「そう」
三橋「え!僕も風邪ひいたとき昨日のとこで見てもらいましたよ!」
桜庭「ああ、だからこんなに頭になっちまったんだ」
三橋「どういうことですか!」
智「まあまあ、で、働きたいっていうのは本当ですか」
玲子「ああ、この子に聞かせたいんです」
智「?」
玲子「ホールの隙間から漏れてくる映画音楽とかを台詞とかを。将来、映画が好きな面白い子供になるって思うんです」
智「・・・」
玲子「あとは働いてて楽しいところが好きなんです」
智「・・・」
玲子「いろんな人に会えるし、働いてればただで映画も見れるし」
ふたり「・・・」
玲子「ま、それは冗談だけど、今がすんごく、楽しい」
智「玲子さん・・・」
玲子「もう少し・・・ここで働かせてください」
智「こんなところで・・・よければ・・・」
桜庭「やったな!(玲子を強く抱きしめる)」
玲子「うあ!そんなにやったら赤ちゃんつぶれちゃう!」
桜庭「ばか!こんなんにもつぶれないくらいの子供じゃねえと、おれの子だって認めねえ!(強く抱きしめる)」
玲子「うあ~」
桜庭「よくやった(強く抱きしめる」
智「無理だけはしないでくださいね」
玲子「臨月すれすれまでがんばんないと」
智「はい!」
玲子「ついでにレジ金の過不足も水に流していただければ(助かります)」
智「無理です」
玲子「ぶー」
三橋「おめでとうございます」
玲子「ありがとうございます」
三橋「ここではなく、新しい映画館でぜひがんばってくださいね」
玲子「はい?」
三橋「見てください」
玲子「(空席を見て)ん?ああ、そうだ、いけねいけね・・・」
三橋「?」
 玲子、バッグから財布をごそごそ
玲子「(千円を出して)大人一枚ください」
三橋「!」
智「はい?」
玲子「大人一枚(千円札をひらひらさせる)」
ふたり「・・・」
玲子「総一郎さん」
三橋「・・・」
玲子「あたし、今日はお客さんとしてきたんですよ」
三橋「・・・」
玲子「(桜庭に)はい、パパになる銀座仕込みの受付さん、よろしく!(千円札を渡す)」
桜庭「お、おう、毎度あり」
 桜庭、千円札を持つといったん、ハケる
 玲子座る
三橋「あまり好ましくない手ですね」
玲子「固いこと言わないでくださいよ」
三橋「従業員なはずなのに」
玲子「従業員の前に、あたしも人間です」
三橋「・・・」
玲子「人はいつだってお客さんになれますから」
 そこに
 白井がやってくる
智「ようこそ、白井さん」
白井「あやうく残業になるところでした。」
智「ありがとうございます」
三橋「遅いですよ、先輩」
智「せ、先輩・・・?」
白井「・・・」
 三橋、白井の隣に立つ
三橋「(白井に)ご紹介します。シネマ藤岡オーナーである藤岡智さん」
白井「どうも・・・」
智「・・・」
三橋「(智に)こちら、ハミングバードシネマの白井健二さん」
智「・・・」
白井「よろしく・・・」
三橋「僕の先輩です」
 桜庭戻ってきて
桜庭「(玲子にキャラメルとコーラ渡しながら)あいよ!」
玲子「泰輔!」
桜庭「(かまわずに白井を見つけて)おう変人」
白井「こんばんは」
桜庭「あれ?娘さんは?」
白井「!」
智「桜庭さん!」
白井「昨日あのあとね、妻にこっぴどく怒られましたよ」
ふたり「・・・」
白井「今日はね、娘の塾のクラス替えテストだそうで」
桜庭「塾でもクラス替えなんてあんのかよ?」
白井「今日のこのテストでAクラス入りしないと、第一希望の学校は無理なんだそうです」
桜庭「第一希望ってのは、親の希望だろ?」
白井「どうでしょうかね」
桜庭「子供はいつまでも無視されるんだよ。そうなっちまうと俺みたいな、でくの坊が生まれる」
白井「・・・」
桜庭「うちは生まれたら好きなように育てるぞ!なあ玲子?」
玲子「ちょっと(空気を読んで)!」
智「桜庭さん、白井さんってハミングさんとこの方だったんです」
桜庭「へ?」
白井「映画館が好きなのは本当です。だからこの仕事に就いたんです。」
桜庭「自分のところで見りゃいいのに」
白井「西口はね。私がお偉いさんなもんだから変に気を使って、落ち着いて見られないんですよ。そのぶん、こっちは落ち着いて楽しむことができた。」
玲子「名刺でももらわない限り、西口の人だなんてわかんないですもんね」
桜庭「ただのバツイチ映画館好きだと思ってたもんな」
白井「ああ、申し訳ないです」
 白井、改めて、名刺を渡す
 シネマ藤岡の三人名刺を受け取る
白井「改めまして、オーナー」
智「はい」
白井「残念ながら今日は客ではありません」
智「・・・」
白井「この映画館はまだまだ伸びるところがある。それに私も東口の住人です。この住宅圏は我々にとって絶好の商圏なんです。」
智「・・・」
白井「お互いの利点を生かして、新しい映画館作りをしていくためにもぜひお話をしたいのです」
智「・・・」
三橋「そろそろ上映時間ですよね?」
智「・・・ええ」
三橋「智さん、休憩室に」
智「・・・」
 三人、はけようとする
玲子「あの!」
 三人止まる
玲子「もうちょっと、待ってもらえませんか?」
三橋「あきらめてください」
玲子「だってほんのちょっと時間あるんですよ」
三橋「あと三人なんてむりですよ」
玲子「そんな・・・」
桜庭「おい変人」
白井「・・・」
桜庭「映画ってのはな、ここの中でしか映画っていわねえ。ビデオだDVDなんてのは映った時点であれはテレビだ。それくらいわかるよな」
白井「ええ」
桜庭「シネコンは音も画もいいんだろうが、売ってるポップコーンとおんなじ軽いスナックみてえなもんだ。重みがないんだ。」
白井「それはあなたの勝手な思い込みじゃないですか?」
桜庭「思い込みなんかじゃねえ!」
白井「・・・」
桜庭「ネコも杓子もドヤドヤ入ってきたら、せっかくの感動も全体的に薄まっちまう。」
白井「・・・」
桜庭「感動ってもんは生き物だ。うちでたくさん見てるあんたが一番わかってるはずだ、ボロくて、ちょっとくらい敷居が高えシネマ藤岡で見たからこそ、心が動かされるんだよ!」
白井「・・・」
桜庭「今逃がしたら一生あの感動は戻ってこねえ」
白井「・・・スナック菓子も、ときにはいいもんですよ」
桜庭「!」
白井「主食もおいしいかもしれないが、三時のおやつもうまいでしょう?」
桜庭「おい!」
白井「行きましょう」
 三人今度こそはけようとする
 三人止まる
桜庭「なんのためにがんばったんだ・・・」
三人「・・・」
桜庭「信じようぜ、なあ!あと三人!三人くることを!」
玲子「絶対きますって!」
智「・・・」
玲子「智さん!」
智「玲子さん」
玲子「・・・」
智「・・・座ってください」
玲子「でも」
智「上演時間です」
玲子「・・・」
智「桜庭さん」
桜庭「・・・」
智「映写室へ」
桜庭「おい!」
智「仕事ですよ」
桜庭「負けを認めたのかよ」
智「早く!」
桜庭「ぼっちゃんは!それでいいのかよ!」
桜庭、エプロンを力強く床にたたきつける
智「(ため息)」
ふたり「・・・」
智「(三橋、白井に)ここでちょっと待っててください」
 智、はける
玲子「智さん!」
 智は完全にはける
桜庭「くそ!」
玲子「どうしよ、どうしよ」
桜庭「おう、そうだ、おれが映写機のスイッチを押さなきゃはじまんねえんだ。」
玲子「それ!ちょっとくらい時間のばそう!」
白井「お客様に失礼じゃないですか?」
桜庭「うるせえな!」
三橋「桜庭さん」
桜庭「この成金息子め!」
三橋「新しいところでは映写のリーダーになってもらいますから」
桜庭「ふん」
三橋「玲子さんも売店のリーダーになっていただく予定です」
玲子「ふん!」
三橋「・・・」
白井「私からもお願いします」
二人「・・・」
 智、キャラメルとコーラを持ってイン
智「お待たせしました」
三橋「(休憩室にいきましょう)それでは」
智「あ、ちょっと」
三橋「え?」
智「せっかくですから(コーラをキャラメルと置きながら)お客さんに話をしたいんです」
三橋「終わってからでもいいんじゃないですか?」
智「閉館のお話をおれの口からさせてください」
三橋「・・・」
白井「どうぞ」
三橋「先輩」
白井「いいじゃないか。」
三橋「・・・」
白井「聞かせていただきましょう」
智「ありがとうございます」
  智、大きく息をついて中央に歩いていく
智「(客に)ええ、先ほどからこんなお客さんの前でずっとお騒がせして本当に申し訳ございません」
客「・・・」
智「本日は当劇場、シネマ藤岡祭りにお越しくださいまして、まことにありがとうございます。
  今日なぜお祭りになったのかということなんですが・・・開館記念日だったりして?・・・なんて、それは実は十一月三日なんです・・・。
   あの、特に、別になんでもないんです・・・・なんでも・・・いや・・・本当は、それを皆様に教えるのを、後にしようと思っていたんです。
 でも、この際だからいいます。
 シネマ藤岡は今度の十一月三日で三年目を越えて四年目に・・・行かずに・・・ここを終わることにしました」
みんな「・・・」
智「さっき、決めました。この件に関してお客様に周知徹底してこなかったこと、心よりお詫びもうしあげます。申し訳ございませんでした」
 智、深々と頭を下げる
智「これからは、新しい映画館で・・・生まれ変わって帰ってきます。スクリーンも十個あるみたいだし・・・売店のメニューも増えます」
玲子「智さん!」
智「・・・」
玲子「いらない・・・いらないし・・・売れないですよ・・・そんなにたくさん・・・」
智「・・・」
玲子「キャラメルとコーラだけで・・・あたしは・・・いい!」
桜庭「俺だって一気に十個なんてまわせねえぞ!」
智「おふたり!」
ふたり「・・・」
智「ありがとうございました・・・」
ふたり「・・・」
智「シネマ藤岡のために・・・そして俺のためにここまで・・・」
玲子「智さん・・・」
桜庭「くそ・・・」
智「(みんなに)失礼しました。ぜひ、また笑顔で、お越しください。今日はどうもありがとうございました!」
智、深々とおじぎする
 白井、拍手する
 三橋も拍手する
 おじぎをした勢いの智、そのまま懐にあるコーラとキャラメルを一セット持つ
 そして
智「(白井に渡す)楽しんでくださいね」
白井「!」
智「お座りなってください。いつものように」
白井「どういうことですか!」
智「今日は確か、白井さんの入場料って桜庭さんの給料から天引きなんですよね?」
白井「!」
桜庭「お!お、そうだ!」
智「受付はすでに済んでるってことなんで、どうぞ(座って下さい)」
三橋「ちょっと待ってください!先輩は仕事の話をしにきたんですよ!」
智「そうみたいですね」
三橋「そうみたいですねって・・・お客さんなわけないじゃないですか!」
智「人は誰でもお客さんになれるんですよ!」
三橋「!」
智「キャラメルとコーラを持ったらその時点でお客さんだ」
白井「・・・」
智「ね?玲子さん?」
玲子「あたしの・・・受け売りですか?」
智「使わせていただきました」
玲子「ったくもう(笑)」
白井「お客さんですか・・・」
智「ええ」
白井「ここに入ったときから、私もお客さんだったんですね」
桜庭「お客さんどころじゃない、あんたは変人の常連だ」
三橋「失礼ですよ!先輩に!」
白井「いや、いいんです。確かに変人の常連だ」
 白井、一セットもって、玲子のそばに座る
玲子「ようこそ!シネマ藤岡へ」
三橋「先輩!」
白井「三橋君」
三橋「・・・」
白井「どきどきしてきたよ」
三橋「!」
 そういって、コーラを飲む
白井「なにが始まるか・・・楽しみになってきた」
三橋「そんな・・・」
 今度は三橋に一セットを差し出す
智「さあ、どうぞ」
三橋「!」
智「御代はは俺の給料から天引きしときます」
三橋「・・・」
智「お話は、この作品が終わってからお聞きします」
三橋「・・・」
智「さあどうぞ」
三橋「お断りします!」
智「・・・」
三橋「智さんがオーナーの仕事をするように、僕も全うしなければならないんです」
智「・・・」
三橋「僕はお客さんじゃない!」
 そのとき、三橋の携帯が鳴る
桜庭「ったく!上映の前に切っとけ!」
三橋「(かまわず電話に)はい・・・社長・・・」
桜庭「いよいよ大ボスのお出ましか」
三橋「(電話)ちょっといろいろあってハミングバードさんは降りてしまったんですが(といって白井を見る)」
白井「・・・」
三橋「(電話)なんとかこのあと話し合いにします。会議は明日にでも・・・え・・・」
みんな「?」
三橋「違うんです。それは・・・あ、遊びで賭けをしたわけではありません!・・・お父さん!聞いてくださいお父さん!・・・あ!」
 三橋、電話をパタリと切る
智「?どうしました?」
三橋「・・・帰ってくるなといわれました・・・」
桜庭「ここを潰さない限り帰ってくるなってことか?」
三橋「違います!」
みんな「・・・」
三橋「クビに・・・なり・・・ました・・・」
みんな「!」
三橋「僕の今までって・・・(絶叫)なんだったんだ!」
 怒りを体で表す三橋
 そして、座り込む
智「電話かけなしてください。お父様の前でもう一度ここを好きなようにして開発する話をすればいい。」
三橋「ここを閉館するんですね?」
智「ええ」
 そこに
 智、さっとコーラをキャラメルを出す
智「電話でお父様と話をしたら、お客さんになってください」
三橋「・・・」
智「これから始まる『海の上のピアニスト』は男同士の友情の話です。」
三橋「・・・」
智「おれと総一郎さんって知り合って三年になるけど、友達ですか?それともビジネスライクな関係ですか?」
三橋「・・・」
智「わかんないですよね?だったら、この作品を見て、もう一度おれたちってなんだろうって考えてみませんか」
三橋「・・・」
智「下の松屋で牛丼でも食いながら、ね?」
三橋「智さん・・・」
智「やっとわかりましたよ。父さんがここを残した本当の理由」
三橋「・・・」
智「こういうときのために残したんだな・・・」
三橋「・・・」
 三橋、携帯を取り出す
 そして
三橋「(電話)もしもし総一郎です。社長を・・・」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総一郎です。社長・・・今一度、計画について僕の意見を聞いてください」
みんな「・・・」
三橋「シネマ藤岡をこのまま活用した上で考え直したい」
みんな「!」
三橋「(電話)・・・おっしゃることはよくわかります。でももう決めました、なぜなら僕が三橋不動産の総責任者だからだ!」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総責任者としてシネマ藤岡は欠かすことはできないと判断しました。詳細は朝一の会議で。それと・・・ここからはあなたの息子として聞いてください。」
みんな「・・・」
三橋「(電話)今日は映画を見てきます。夕飯もこちらでいただいてきますので、お母さんにもよろしく伝えてください。では」
 三橋、電話を切る
 かばんからパンフレットを出す
 そしてそれをおもいきりまっぷたつに破く
智「総一郎さん!」
三橋「お父さんに、生まれて初めて、僕の意見を通しました」
智「・・・」
三橋「(玲子に)これでいいんですよね?」
玲子「・・・おめでとうございます・・・遅い反抗期」
三橋「反抗じゃありませんよ」
玲子「やっと・・・自分になったんですね」
三橋「ええ・・・」
智「総一郎さん」
三橋「もうひとつ正直なこといっていいですか?」
智「・・・」
三橋「僕ね、映画館で映画を見たことなんてないんです」
智「!」
三橋「映画館なんて映画を写すことができれば、どこでも同じだと思ってました。だから智さんたちの気持ちがわかんなかったのかもしれません」
にやりと笑い、財布を取り出すそして千円を出して
三橋「大人一枚・・・ください」
智「・・・」
三橋「お金は智さんの世話になるほどじゃない」
智「・・・」
三橋「シネマ藤岡を生かしながら、新しい東口を考え直しますよ」
ふたり千円と二点セットを引き換える
智「ありがとう・・・ございます」
そして三橋座ろうとする
玲子「いらっしゃいませ」
桜庭「シネマ藤岡へようこそ」
智「ようこそ」
三橋「・・・」
 智、うなづく
智「桜庭さん、お願いします」
桜庭「・・・」
智「桜庭さん?」
桜庭「お?」
智「時間押してますよ!」
桜庭「じゃあ、予告編をつまんじゃって本編からいくか」
智「それはだめです」
桜庭「だって押してるんだろ、時間?」
白井「予告編も含めて映画ですから」
智「そうです」
桜庭「ったく、じゃあ、最後の上映いってくっか!」
 桜庭、エプロンをかぶりなおし
はけようとする
智「最後じゃないですよ」
桜庭「?」
智「明日も九時には来てくださいね」
桜庭「え?だって明日からは万作の野郎が(なんとかすんじゃねえの?)」
智「二人体制でいきますから」
桜庭「・・・」
智「おふたりと、万作さんと、新しい売店の人とがんばりたいんです」
玲子「智さん・・・」
智「おふたりあってのシネマ藤岡ですから」
桜庭「これで当分は俺も安泰だ。じゃあ、いつもの感じでいってくるわ」
玲子「いつもじゃだめ」
桜庭「なんだよ」
玲子「平常心で」
桜庭「かわなんないような」
玲子「ほれいってきなさい!」
桜庭「はいよ」
 桜庭、はける
玲子「うあ、楽しみ。ひさしぶりだなあ映画をお客さんで見るのって」
三橋「どきどきしますね」
白井「お、わかってきた?」
三橋「ええ」
玲子「あ、智さん」
智「はい」
玲子「かなり時間が押してますから、お詫びのごあいさつを」
智「ああ、はい」
三橋「それと、さっきのスピーチの撤回をしてください」
智「・・・」
三橋「はっきりと」
 智うなづく
 桜庭、はける
 智、舞台の中央に立つ
 そして
智「時間押してほんとにすいません!まもなく!始めます!・・・終わりなんかじゃなく・・・ずっと時間を越えていくシネマ藤岡として、今日のお祭りをたのしんでください。」
 お客たち、拍手
電気が落ちる
 どんちょうがあく。
スクリーンに光が映る
  そのとき
桜庭「(白井に)おい、変人」
白井「はい?」
桜庭「お客さんだ」
 桜庭、入り口をさす
 入り口から、白い光が漏れている
白井「!」
桜庭「塾のテストをさぼってきたんだそうだ・・・」
白井「・・・」
桜庭「お袋にあんたがこのことを告げ口しないっていうんなら、会いたいそうだよ」
白井「・・・みさ・・・」
玲子「かわいい名前ですね」
白井「いやそんなことは・・・」
玲子「顔を見にいってあげてください」
白井「・・・」
三橋「席は取っておきますから」
白井「三橋君・・・」
智「さあ・・・」
白井「はい・・・」
桜庭「足元悪いから、案内してやる」
桜庭、白井といっしょにはける
 智、それを見送る
スクリーンには映画が映っている
 音楽が高まっている
それを智、ずっと見ている
 そして
智「父さん・・・ありがとう」
 END

2008年5月29日木曜日

ストロボ/フィッシュ

登場人物
沖田雅彦 元CMディレクター きつな
藤井達郎 元探検家      ぴえ~る
森川 亘 元FBI捜査官   渡辺りょうすけ
法相寺珠子 元靴磨き職人   本多美智子(io)
高橋智光  二子田文絵のマネージャー 富士河千之介




スタッフ
作・演出        富士河千之介
照明オペレーター
音響効果オペレーター
写真撮影         村上史行
製作
 3man Office製作本部
 「ストロボ/フィッシュ」パートナーズ
製作総指揮       富士河千之介


プロローグ
 テーマ曲流れる中、暗転
 
明転すると、バスの中。
 ここは、東京発平隈バスセンターに向かうバスの中。
 深夜の高速バス「ホワイト平隈号」二号車である。
 バスは今日は人数が多いため、二台編成なのだ。
時間は二三時半近く。日付は三月三一日土曜日。
 バスは東京駅八重洲口バスターミナルを二三時に出て、今は新宿高速バスターミナルへと向かっている。
 
 ひとりの男がずっと窓を見ている。
 首都高から見える東京の街並みをずっと見ている。
 

 男の名前は沖田雅彦。
 今年で三○になる。
 沖田は一日前の金曜日までは、有名広告代理店でCMディレクターをやっていた。
 日本で知らぬものがいない、二子田文絵のデビューCMを作り、軽快なテンポでまたたく間にヒットさせ、彼女の夢であっ
 歌手デビューのときには歌詞とプロモーションビデオの監督までつとめた男だった。
 
 だが、彼はそんな絶頂期に会社をやめた。
 もちろん業界はそんな彼をほっとくわけがなく、多数のスカウトマンや、独立をけしかけるものたちが日夜、彼の携帯に連絡してきた。
 しかし、彼は今日、すべての荷物をふるさとである平隈市に送った。
 港区西麻布にあるマンションを彼の一番の友達に譲り渡して。
 
 彼は平隈に帰るのだった。
 すべてを捨てて。


 そのバス。
間空けて、またひとり男が座っている。
眠ったフリをするこの男のことはこれから語ることにしよう。
とりあえず名前だけ。
森川亘。
 
 まもなくバスは新宿に到達する
 ここを出たらバスは一般道から首都高に入り、日本中部高速道路に入る。
 途中三箇所のサービスエリアに止まり休憩および、運転手の交代をする。
 平隈市にある平隈バスセンターには明朝四月一日日曜日六時二○分に到着予定だ。

バスが止まる
 
 二人の客が順番に

どやどやと乗り込んでくる
 
 そして物語は始まる














第一章
 照明はすべて舞台上を照らす
 法相寺珠子がチケットも見ずにバス内をうろうろしている。
 藤井達郎はチケットを見て、三のB、自分の席に座る
大きなリュックをどっかと通路におろし、自分の席に着くと寝る準備を始める
 
 沖田は入ってきたそのふたりをなんの気なしに見ている。
 寝たふりしている森川はそのまま寝たフリだ。

 うろうろしている珠子が奥のほうから戻ってくる。
 そして沖田のところへ。
珠子「(大声で)ちょっと」
沖田「!」
 みんな、沖田と法相寺のほうを見る
珠子「ここ、あたしの席なんだけど」
沖田「え・・・」
珠子「は?」
沖田「いえ、ここは」
珠子「三のAでしょ?」
沖田「三のAですよ」
珠子「いいから、早くどいて」
沖田「い、いやちょっと」
珠子「往生際の悪い子だね~。早く」
沖田「あの、チケット見せてもらえませんか?」
珠子「いやだね」」
沖田「だって、俺のチケットにはしっかり、ほら(チケットを見せる)」
珠子「(それを見ずに)見なくて結構」
沖田「え」
珠子「三のAはあたしの席だって何回言ったらわかるの」
沖田「だから見せてくださいよ」
珠子「あたしの切符に文句つける気?」
運転手「これよりバスが動きます。お立ちの方も席にお着きください」
 それを聞いて
珠子「ほら座らせてよ」
沖田「無理ですよ」
珠子「あたしをこのちっこいバスの中で転がす気?」
沖田「ここは俺の席です」
 そのとき
藤井「ったくうるせえな!」
藤井、勝手に珠子のズボンの尻ポケットからチケットを取り出す
珠子「(藤井に)なにすんの!」
藤井「(かまわず)四のBじゃん」
珠子「返しな!(藤井の手からチケットを取る)」
藤井「とりあえずおばさん」
珠子「お、おばさんだって!」
藤井「四のBに座ろうか」
珠子「無理!」
藤井「運転手が発車できないでしょ?」
珠子「・・・」
藤井「ひいては、俺たちが平隈に着くの遅くなるんだから」
運転手「はい、発車いたします」
 バスが動き出す音
 珠子、無言で、四のBに座る
藤井「(沖田に)大丈夫?」
沖田「あ、ああ、大丈夫です」
藤井「席間違いなんてね。」
沖田「まあ、俺もやったことあるからいいですよ(そういいながら、珠子を気にする)」
珠子「(沖田の視線に気づき、寝たふり)」
藤井「そう?飛行機のエコノミーとかじゃよくあるんだけどね。まさか、こんな四人しかいないバスの中でね」
沖田「そうですね・・・」
藤井「深夜バスは何回も乗ってるけど、こんな少ないのは初めてだな」
沖田「俺は深夜バス自体初めてです」
藤井「初めて・・・?」
沖田「いや、いつも平隈に帰るときは、グリーン車だったから」
藤井「面白い。」
沖田「え」
藤井「いいなあ。俺もいつかグリーン車で山の近くまで行ってみたいもんだ」
沖田「山の近く?」
藤井「おう、そうだ。深夜バス初めてなんだろ?わかんないことあったら、なんでも聞いて」
沖田「ありがとう」
藤井「(まわりを見渡して)こんだけしかいないんだからさ。仲良く行きたいもんだ。(珠子のほうを見ながら)平和にね」
沖田「あの」
藤井「え」
沖田「光る魚の話って知ってますか?」
藤井「光る・・・魚?」
沖田「平隈山の」
 同時に運転手によるガイドが始まる
 沖田も藤井も一度、席に着く
運転手「え、本日は平隈中央交通ホワイト平隈号にお乗りくださいまして、まことにありがとうございます。当バスは東京駅
 八重洲口バスターミナルを出て、ただいま、新宿駅高速バスターミナルを出たところです。
  これから、首都高速を経て、日本中部高速道に入ります。
  新田サービスエリア、米山サービスエリアにて休憩を行います。そのあとも二回ほど停車いたしますが、休憩はありませ  
  ん。運転手の交代を行います。
 それでは車内案内ビデオをご覧ください。ビデオが終わり次第消灯させていただきます。」
女性のアナウンスでビデオが始まる声がする
 沖田、ビデオがテレビに映るのを確認してから
 再び沖田の席へ
藤井「山は知ってるよ、平隈一中の裏だろ?」
沖田「一中卒ですか?」
藤井「ああ。おれは藤井。あんたは?」
沖田「沖田です。」
藤井「明日の朝までよろしく」
沖田「(握手)よろしくお願いします。歳は?」
藤井「二十三なんだけど」
沖田「あ、おれより年下か」
藤井「なんだよ、それ」
沖田「いやあの」
藤井「年よりもフケて見えるって?」
沖田「被害妄想だよ」
藤井「わかった。そうか。おれね、何年か前までドイツにいってたのよ。だから、先輩後輩とか敬語ってやつ?あんまりうまく使えないからよろしく」
沖田「いや、気にしない」
藤井「ありがとう、沖田さん。」
沖田「さん、は、つけるんだ」
藤井「俺流の最低限のマナー」
沖田「ありがとう」
藤井「それで、沖田さんよ、光る魚って、あれかい?シラヌウオのこと?」
沖田「そう。」
藤井「今さら急になんで?」
沖田「新宿バスターミナルに来る前にずっと考えてたんです」
藤井「・・・」
沖田「この窓から首都高の外を見てて・・・。
東京っていつまでたっても暗くならない。ビルだけじゃなくて、ちっちゃな家までも明かりが灯っていて、消えない。」
藤井「・・・」
沖田「明かりが点いてるカーテンの奥には、それぞれの人生がある。そこにはどんな生活ががあるんだろうって、勝手に考えていたんです」
藤井「なるほど」
沖田「そんなこと考えてたら、なんか、シラヌウオの伝説、急に思い出しちゃって」
藤井「今の時間なら、東京タワーのライトくらいじゃないか?消えたのは」
沖田「十二時でしたっけ?」
藤井「面白いなあんたは」
沖田「つまんない男ですよ」
藤井「?」
沖田「つまんないからこそ・・・今こうやって帰ってる・・・」
藤井「・・・」
沖田「東京タワーの明かりの奥にはなにがあるんでしょうね」
藤井「・・・」
そのとき、
森川「シラヌウオを見たら願い事がかなうってやつですか」
 ふたり振り返る
 さっきまで寝ていた森川が起きて、眠そうな顔でこっちを見ている
藤井「おう、寝てるところごめん」
森川「シラヌウオか・・・」
沖田「あ、もっと小さな声で話すんで」
森川「・・・」
 森川、また寝る
藤井「なんなんだかな」
沖田「あの人、僕と同じ、八重洲口から乗ってきたんです」
藤井「八重洲口っていうと、東側に住んでる人間かな」
沖田「海外から来てる可能性だってありますよ」
 そのとき
珠子「ちょっと」
ふたり「!」
沖田「あ、すいません!」
藤井「ごめんごめん」
珠子「ぺちゃくちゃしゃべってさあ」
藤井「今度こそもっと小さな声で話すようにしますから」
珠子「違う」
藤井「え」
珠子「あたしも仲間に入れてよ」
沖田「え」
珠子「シラヌウオの話だろ?」
沖田「え、ええ」」
珠子「あたしも一中だから」
藤井「なんか仲間が増えてくな」
珠子「どうせ平隈出身の人間てのはさ、一中か二中しかいないんだから」
沖田「確かにそうですね」
珠子「あたしのことは珠子って呼んで。」
沖田「珠子さんですね。」
珠子「そうそう。それから、(沖田に)さっきはごめんね」
沖田「あ、いや」
珠子「(今度は藤井のほうを向いて)それとあんた、山登りしてるよね?」
藤井「なんでわかるの?」
珠子「がっしりした足してんじゃないの。(藤井の足をひっぱたく)」
藤井「いて!」
沖田「足を見ただけでわかるんですか?」
珠子「伊達に二十年、新橋で靴磨いてたわけじゃないからね」
◎挿入 2007/02/06

藤井「く。靴・・・磨き?」
珠子「なに?その目」
藤井「いや、このご時勢に靴磨きなんて」
珠子「人の職業を馬鹿にするもんじゃない」
藤井「・・・」
珠子「ま、あんたのことわかったのはそれだけじゃないけどね」
 そのとき
森川「珠子さん、新宿から乗ってきましたよね」
珠子「ああ」
藤井「あれ?寝てたんじゃないの?」
森川「(かまわずに)新宿に来る前、指定席の電車なんか乗りませんでしたか?」
珠子「ああ。息子の浩二がね、もってけって金渡すもんだからさ、ぜいたくに横浜から一気に特急乗ってきたよ」
森川「その座った席が、さっき覚えてた席番号じゃないですか」
珠子「思い出したくてももう切符回収されちゃったからさ」
森川「以後お気をつけください」
 森川、また寝る
珠子「なんだかね・・・」
沖田「そろそろ消灯の時間じゃないですか?」
珠子「もう?」
沖田「だってさっきそんなこといってたような・・・」
藤井「まあそうだろうな」
珠子「ほ、ほんとなの・・・?」
沖田「ビデオ終わってますね」
珠子「えええ・・・」
藤井「あんたらは深夜バスの真の姿を知らない」
沖田「真の姿?」
藤井「このあと、電気が消える。そうするとだ、永遠なる闇と、高速道路のつなぎ目を走るときの音の繰り返し・・・コンコン・・・コンコン・・・ひたすらこれだ。なにもない。仕方ないからリクライニングして、毛布にくるまって目をつぶる。でもな・・・ずっと寝れないんだよ」
珠子「(絶叫)怖い!」
みんな「・・・」
藤井「ま、そうなるからさ」
珠子「よし!ここは是が非でも暗くなるのを阻止しよう」
藤井「面白い」
珠子「深夜っつったって寝る必要はぜんぜんないんだ!」
沖田「うわ、あんまり大きな声出さないほうが・・・」
藤井「そうだ、どうせ寝られないなら、ずっと起きてたほうがましだ」
珠子「よし!後輩!」
沖田「こ、こうはい?」
珠子「一中なんでしょ?だから、これかは後輩って呼ぶから」
沖田「はあ・・・」
珠子「後輩はどうなの?」
沖田「あ、いや、僕はどっちでも」
藤井「ひさしぶりの日本人らしい答えだな」
珠子「(森川に)あんたはどうなの?」
森川「(目をつむったまま)眠りたいです」
藤井「団体行動乱すなあ」
森川「朝一でちょっとやらなきゃならないことがあって」
藤井「どうせくだらんことだろ」
森川「(立ち上がって運転席に)運転手さーん、消してくださーい!」
珠子「こら!(といって、森川にダッシュ)」
沖田「三対一で割れましたね」
藤井「まあ、でも多数決の論理だと、このまま点けてろってことだろ?」
しかし薄暗くなる車内
藤井「本当に消しやがった」
珠子「あわわわわわ・・・」
沖田「本当に怖いんですか?」
珠子「ああ、ちょっとは高速の明かりが漏れてるから・・・まあ、少しは大丈夫かもしんないけど・・・」
藤井「ったく、客サービスをなんだと思ってるんだ」
珠子「このバス平隈中央交通でしょ?あそこは昔から殿様商売だから」
藤井「決めた。おれは寝ないぞ」
珠子「あたしも」
 そう宣言してふたり、沖田を見る
沖田「・・・」
ふたり「どうする~?」
沖田「・・・おきてます・・・」
珠子「さすが一中」
藤井「こっち来て話そう」
 ふたり、沖田を案内する
 沖田、仕方なしにこちらへ
珠子「そうだ、あんたも新宿から乗ったんだよね」
藤井「おれ?そうだよ」
珠子「あたしさあ、さっきの新宿の乗るところでね、ちょっとおかしなことがあったんだ。」
沖田「おかしなこと?」
珠子「いやね、あたし実はだんなを亡くしてるの」
藤井「へえ」
珠子「それでね、さっき後ろのほう、こっちの二号車のほうで並んでたらさ、前の一号車のほうに、うちのだんなそっくりな人がいてさ」
沖田「そんなことあるんですね」
藤井「なに、世の中には三人は似てる人がいるっていうからね」
珠子「まあ、似てる人だけならこんなに興奮もしない。それがね、着てるジャンパーから帽子から靴までさ、全部そっくりなんだよ!」
藤井「そこまでそっくりなんて」
珠子「だろ?薄気味悪いよね・・・」
沖田「じゃあ、一号車のほうにはその人がいるかもしれないんですね」
珠子「あそこさ、順繰りにいろんなとこに行くバスが来るでしょ?だから他のところに行くバスだったらいいんだけどさ、まさか前なんかに」
藤井「そうだ、次の休憩のときに探してみようか」
珠子「だめだよ。こわいよ」
藤井「調べてみりゃすっきりするよ。」
珠子「でも・・・」
そのとき、沖田の携帯がなる
沖田「(びっくり)」
藤井「おいおい!」
沖田「すいません」
珠子「マナーモードにしときなよ」
沖田「すいません」
 そういいながら、携帯を持ち、離れる沖田
 沖田、離れてから携帯に出る
沖田「(ひそひそ声で)もしもし・・」
マネージャー「(声のみ)あ、沖田監督?」
沖田「あ・・・」
マネージャー「二子田文絵のマネージャーの高橋です」
沖田「はあ、こりゃどうも」
マネージャー「探しましたよ、今どこです?」
沖田「あ、その・・・」
マネージャー「打ち合わせしたいんです。二子田文絵のサードシングルのPVのことで」
沖田「えっと」
マネージャー「西麻布のカフェ『西麻布中央線』にいるんですよ。もちろん二子田もいるんですが」
沖田「あのですね、うちの社長に聞かなかったんですか?」
マネージャー「はい?」
沖田「俺、やめたんですけど・・・」
マネージャー「監督・・・」
沖田「だからもう・・・監督じゃなくて・・・ただの一般人なわけで・・・」
マネージャー「え、いや、ちょっと待ってくださいよ」
沖田「失礼します」
マネージャー「契約期間だって終わってないじゃないですか!」
 沖田、携帯を切る
 沖田、ため息をついて振り向く
 ふたりがじっと見ている
ふたり「監督・・・?」
沖田「あ、いや・・・」
珠子「なんだか、やめたとかなんとか」
沖田「気にしないでください」
藤井「つまんない男ってのが、関係あるのかな?」
沖田「・・・」
 そのとき
森川「静かに寝させてくださいよ」
 森川、むっくりおきてくる
森川「ぺちゃくちゃしゃべってるわ、携帯なるわ」
沖田「すいません!俺がマナーモードにしてないから」
藤井「ぺちゃくちゃってそんなにはしゃべってないよ」
森川「響くんですよね。密室だから」
珠子「まあ、あたしたちしかいないからねえ」
森川「僕たちしかいないからこそ、大人として、しっかりするべきなんじゃないでしょうか」
藤井「大人・・・?」
森川「僕も含めて、いい大人じゃないですか」
藤井「あのさ、さっきから聞いてたらさ、何様なんだよ」
森川「あれ?子供がいますね」
藤井「子供とはなんだ!」
 藤井、森川のところへ
沖田「やめましょうよ」
藤井「(森川に)なんなんだよ、ずっと俺たちに逆らってよ」
森川「別に逆らってるつもりはないですけど」
藤井「あんたも平隈出身だろ?」
森川「ええ」
藤井「だったらさあ、俺たちといっしょに仲良く話したっていいじゃないの?」
森川「僕は二中です」
藤井「なんだと・・・」
森川「平隈市は四つの村が合わさってできた市です。ほぼ日本中央より北側にある」
藤井「説明はいい」
森川「その大合併のとき、最後までなんだかんだ難癖つけて、平隈が市として発展するのが遅くなったのは、平隈南部、つまり一中学区のあなたがたのせいなんじゃないですか?」
藤井「おい!」
 沖田、つかみかかろうとする
沖田「やめてください」
藤井「離せ」
沖田「やめてください」
藤井「(森川に)北部の二中学区こそ、こっそり隣の大羽田と合併しようと動いてたじゃねえか」
森川「そりゃ財政も観光も全部得ですからね」
藤井「く・・・」
森川「大羽田には観光地の『田吾作の馬小屋村』がある。立派なテーマパークで、毎年たくさんの利益を大羽田に落としてくれる」
藤井「テーマパークだと?はは、おかしいね。」
森川「ほう」
藤井「あんなののどこがディズニーリゾート並みなのかい?」
森川「ディズニーリゾートといっしょに考えるからおかしいんですよ」
藤井「なにを・・・」
森川「他にも大羽田には郊外大型スーパーもあるし、電車も特急が止まる。鈍行しか止まらない南部よりましです」
藤井「二中ごときにいわれたくねえわ!」
沖田「やめろ!」
二人「!」
沖田「・・・すいません・・・でも、そんな地元の・・・みにくい小さい話で、明日の朝までいがみあいたくないんです」
藤井「あんた・・・」
沖田「席にもどりましょう」
藤井「・・・」
珠子「あたしも、朝まで一中だ二中だなんていいあいたくないからね」
藤井「すまん・・・」
ふたり「・・・」
藤井「はは・・・。一中のときに応援団だったもんで、」
珠子「なるほど」
藤井「すまん・・・すまんな・・・」
 三人、それぞれの席に着こうとする
 そのとき
森川「見たことありますよ」
みんな「?」
森川「シラヌウオ」
藤井「あんた、またでまかせばっかり」
森川「僕が大学四年の夏に帰ったとき見ました」
珠子「本当なの?」
森川「平隈山の、手賀沼でしたっけ?」
珠子「そうそう」
藤井「ふん、どうせ白いフナとか鯉のたぐいなんじゃないの?」
森川「体長が・・・一メートルくらいの・・・白くてぼんやり光る魚です。」
みんな「!」
藤井「願い事したのか?」
森川「さあ・・・」
藤井「(森川に近寄りながら)あんたシラヌウオ見たんだろ?見たら思いがかなうっていうじゃねえか」
森川「・・・」
藤井「なあ、教えてくれよ。かなったのかい」
沖田「ちょっと待ってください」
藤井「まてねえよ。教えろよ」
森川「かないました」
みんな「・・・」
森川「夢・・・かないましたよ。」
みんな「・・・」
森川「なんの夢かは教えません。」
藤井「やっぱり」
森川「え」
藤井「ほら吹きだ」
森川「(かぶせるように)夢をかなえた上で、実家に帰るってものは、これほどまで気持ちいいものなんですね」
みんな「・・・」
森川「そうだその前にみなさんにお伝えしなくてはいけないことがあります」
藤井「なんだよ」
森川「このバスは、狙われてます」
珠子「狙われる?」
森川「正しく言うと僕がおっかけられてます」
みんな「?」
森川「みなさん、後ろに行ってみてください」
 全員後部座席方向に移動
森川「カーテン、そっとあけてみてください」
藤井「だ、だれがあける」
珠子「あ、あんたあけなさいよ」
藤井「いやここは人生の大先輩に」
珠子「それ言われるとものすごく腹立つんだよね」
藤井「そうだあんたあけろよ」
沖田「おれ?」
珠子「後輩!」
沖田「こういうときだけ先輩後輩なんてないですよ」
珠子「後輩!ぼんやりつったってないで、しっかり仕事しなよ」
沖田ちらりとあけてみる
藤井「どうだ?」
珠子「なにか見えた?」
沖田「いや、たくさん車があるだけですよ」
藤井「わかんねえよ」
珠子「またあんたの自意識過剰なんじゃないの?」
森川「このバスの後ろはトラックですよね」
沖田「青いトラック・・・」
森川「その脇に黒い車が走ってますか?」
沖田「ん・・・(さがして)ああいます・・・」
森川「窓から双眼鏡がのぞいてませんか?」
沖田「え・・・」
藤井「どうなんだよ」
沖田「えっと・・・あ!」
珠子、藤井「え」
沖田「ほ、ほんとだ・・・」
珠子、藤井「ええ!」
森川「双眼鏡ってふたつの穴に見えませんか?」
沖田「まあ、見えるっていえば見えるけど・・・」
森川「そのとなりに、もうひとつ穴みたいなのがこっちむいてませんか」
沖田「穴?」
森川「ええ」
沖田「(探す)・・・」
珠子「後輩!」
沖田「あ、ありますね」
森川「ピストルです」
みんな「え!」
 ふりむく
森川「(さらっと)シラヌウオのおかげ。」
 暗転



 




第二章 
 暗転中に聞こえてくる電話の声
沖田「ですから、僕は今東京にいないんですよ」
 明転
 ここは最初の休憩地、新田サービスエリア 時間は午前零時三十分くらい
マネージャー「(声のみ)それはもうわかってますよ。しかしですね、隣にいる二子田文絵がですね、どうしてもサードシングルのPVを監督に撮ってほしいってずっと言い張ってならないんですよ」
沖田「それはわかるんですけど、無理ですよ」
マネージャー「どうしてもですか」
沖田「だって、もう今バスに乗っちゃってるし・・・」
マネージャー「どうしても!!ですか~!」
沖田「他にも優秀な映像ディレクターなんてものは山ほどいますよ」
マネージャー「そりゃいるでしょうね」
沖田「もう僕みたいな年寄りよりも、新鮮な若手ががんばるべきですよ」
マネージャー「(かぶりぎみに)ああ!あんたはわたしの首を切らせるつもりですか!」
沖田「・・・」
 そのとき、こっそりと、森川がカップ焼きそばを持ってやってくる
マネージャー「わかるでしょ?うちの二子田のわがまま加減。」
沖田「かわいいもんですよ」
マネージャー「『あたしは沖田さん以外のディレクターは使いたくない!沖田さんが来ないなら、あんたがやめなさいよ』ってね。」
沖田「そういうわがまま言うくらいじゃないと、あの世界はやっていけない。」
マネージャー「それでも・・・沖田さんは帰るのですか?」
沖田「(うんざり)・・・」
マネージャー「二子田の夢と監督の夢・・・どちらが重いんですか?」
沖田「夢に重さなんてない」
マネージャー「かっこいいことばっかりいってるんじゃないよ」
沖田「いや最初にくさいこといったのは高橋さんのほうですよ」
マネージャー「くさくなんかない!」
沖田「かなりにおいますけど」
マネージャー「監督」
沖田「はい」
マネージャー「今から私、沖田さんのご実家に行きます」
沖田「ご存知なんですか?」
マネージャー「あんたのとこの社長に聞くまでですよ」
沖田「残念、社長はそこまでは知らないと思います」
マネージャー「ああ!なんとしてでも調べてやるよ!」
沖田「ご勝手に」
マネージャー「家行ったら、東京行くっていうまで帰りませんから」
沖田「二子田さんに伝言してください。」
マネージャー「いやだ!!!」
沖田「君はもっと大人になるべきだって」
 沖田、ぶちっと携帯を切る
 ふと視線に気づく沖田
沖田「あ・・・」
森川「(カップ焼きそばをすする森川)」
沖田「・・・」
森川「(カップ焼きそばをすする森川)」
沖田「追われてるんでしょ?」
森川「ええ」
沖田「そんなの食ってる場合じゃないと思うんですけど」
森川「腹へっちゃって」
沖田「だれに追われてるんだかわかんないけど、本当に大丈夫なんですか?」
森川「たぶん」
沖田「え」
森川「(焼きそばをすする)」
沖田「(ため息)」
森川「うまい」
沖田「(それを見てて)い、いいなあ。」
森川「(食べながら)ここ、おっきなサービスエリアなわりには二四時間じゃないんですね」
沖田「東京じゃないから」
森川「(食べながら)使えないですね」
◎挿入 2007/02/10

沖田「それだけニーズがないってことでしょ」
森川「(食べながら)ふーん」
沖田「ニーズのないものは作るな」
森川「え?」
沖田「俺の師匠の口癖」
森川「師匠?」
沖田「ほしがるもの、見たがるものを作るのがプロ。生きてる限り、見たがるものだけにアンテナを張って生きていけ・・・ってね」
森川「かっこいいですね。」
沖田「そんなことはない」
森川「ほしがるものを作る。クリエイターとしては一番ごもっともです」
沖田「クリエイターか・・・」
森川「これからもずっと見たいものをぜひ作り続けてください」
沖田「・・・」
森川「?」
沖田「もう・・・作らないんです・・・」
森川「(そばをすする)」
沖田「(その焼きそばを見て)・・・おれも買ってこようかな?」
森川「(一回やすんで)あの角を曲がったとこにこれの自販機ありましたよ」
沖田「ありがとう」
 沖田はけようとする
森川「(食べながら)赤いランプがついてましたよ」
 沖田、止まる
沖田「(森川に振り返って)え・・・」
森川「売り切れランプ。」
沖田「(固まる)」
森川「(焼きそば指さして)最後の一個だったみたいで」
沖田「(がっかり)ほかになにかありました?」
森川「たい焼き、たこ焼き、ポップコーン」
沖田「・・・腹のたしにもならない・・・」
 沖田、がっくりと座る
森川「大人になるべき、ですか」
沖田「!」
森川「僕はずっと思うんです。大人ってなんだろうって」
沖田「・・・」
森川「電話の向こうは東京じゃないですか?」
沖田「・・・」
森川「東京で、なにされてたんですか?」
沖田「会社員」
森川「監督という名の?」
沖田「・・・」
森川「監督っていってもいっぱいありますよね。映画監督、現場監督とか」
沖田「AV監督とか?」
森川「それですか?」
沖田「違います。
森川「監督ってのはちょっとごついんじゃないですか」
沖田「あの」
森川「はい」
沖田「これ以上、おれのことを聞くのはやめてもらえますか」
森川「・・・」
沖田「東京のことは僕の中の思い出ですから・・・」
森川「失礼しました」
沖田「そうだ。行きましょう。」
森川「どこにですか?」
沖田「警察」
森川「え」
沖田「ここはサービスエリアです。交番はなくても、高速警備隊みたいな人が中にいるかもしれません」
森川「いいんですよ」
沖田「おっかけられてるでしょ?」
森川「それはそうですけど」
沖田「命にかかわるでしょ」
 そのとき
 乾いた音がなる
ふたり「(とびあがる)」
沖田「・・・」
森川「わかったでしょ?」
沖田「さ、さっきの・・・」
森川「ピストルでしょうかね」
沖田「!」
森川「僕らが変な動きをしないように見張ってるんだと思います。」
沖田「じゃあどうすればいいんですか!」
森川「・・・」
沖田「・・・」
森川「(沖田の肩をたたいて)そっとしましょう」
 沖田、すわりこむ
沖田「いったい、なんでおっかけられてるんですか?」
森川「・・・」
沖田「なんで、きみのせいで、おれたちまで命の危険にさらされなきゃならないんですか」
森川「それは運命でしょう」
沖田「・・・」
森川「あのバスに沖田さんが乗った。そこにたまたま僕がいた。だからおっかけられる。
そういう運命だと自分に言い聞かせるしかないです」
沖田「ふざけるな!」
森川「!」
沖田「どいつもこいつも、くさい言葉しか言わない・・・」
森川「・・・」
沖田「もっと命のある言葉を口にするべきなんじゃないですか・・・」
森川「命の・・・ある言葉・・・?」
沖田「命のある言葉で、命のこもった作品を世に送り出していく」
森川「作品・・・?」
沖田「!」
森川「やっぱり映画監督かなにかなんですね」
沖田「・・・しゃべっちゃったな・・・」
森川「いいんじゃないですか?」
沖田「?」
森川「同じ平隈出身てことで」
沖田「・・・そうですね」
森川「中学は違いますけどね」
沖田「言わなくてもいいのに」
森川「(やきそばをすする)」
沖田「映画を作るのが夢だったんです。それをやりたくて、ずっと映像に関する仕事をしていました」
森川「・・・」
沖田「CMからバラエティ番組・・・そうだ。二子田文絵って知ってますか?」
森川「知りません」
沖田「え?今週のオリコンチャートで三週連続一位の子ですよ」
森川「ずっとアメリカにいたもんで」
沖田「そうなんですか?」
森川「昨日成田に着いたばっかりなんですよ」
沖田「そりゃわからないか」
森川「あ、いやいいんですよ」
沖田「僕は、その子のデビューシングルと今回のセカンドシングルのプロモーションビデオの監督をしたんです」
森川「すごいですね」
沖田「デビューシングルの『キミノツバサ』は歌詞も書かせてもらいました」
森川「いいなあ。あこがれる」
沖田「そうですか?」
森川「マルチな活動ってやつですよね。映像も作れて詞まで書ける。」
沖田「そんなのは誰でもできます。そこまでは。」
森川「・・・」
沖田「おれは、その先の・・・映画に・・・さわれなかったんです。」
森川「・・・」
沖田「命のある言葉で、命のある演技で、血が通った映画を作りたかったんだけど、たどり着けなかったんです」
森川「・・・」
沖田「すいません・・・つまんなくて」
森川「シラヌウオでも見ましょうか?」
沖田「!」
森川「いっしょに」
沖田「そんなこと(できるわけない)」
森川「明日の朝、平隈についたら手賀沼に行きましょう」
沖田「でも、また君を追っかけてる連中から」
森川「僕はうまいこと逃げられるようにお願いします。沖田さんはもう一度映画を作ることができるようにってお祈りすればいい」
沖田「無理です」
森川「大丈夫」
沖田「ツチノコとか雪男なみにうそかほんとかわかんないんですよ」
森川「僕は知ってるんです。」
沖田「?」
森川「確実に・・・シラヌウオに会える方法を」
沖田「・・・」
森川「そろそろ時間だ。行きましょう」
 森川、はける
 沖田もいっしょにはける
暗転



 暗転中、遠くのほうから声が聞こえる
鉄太郎(法相寺珠子の亡き夫)「おはよう」
 ぼんやり明転
 珠子だけひとり舞台の中央に座ってる
鉄太郎「遅れるぞ。」
珠子「(ぼんやりしながら)鉄さん・・・?」
鉄太郎「ご飯はどうした?いつもならもう新橋に行く前に作ってる時間だろう?」
珠子「あ、はいはい・・・」
 珠子、用意を始める
珠子「鉄さんっていつ帰ってらしたんですか?」
鉄太郎「おかしなことを聞くなあ」
珠子「だって・・・」
鉄太郎「湯がわいてるぞ」
珠子「ああ・・・」
鉄太郎「まったく珠子はいつまでたっても」
珠子「あの?」
鉄太郎「なんだ」
珠子「どこにもいかないで」
鉄太郎「・・・」
珠子「どこにも・・・あたしのところから」
鉄太郎「棚ケ岳が待ってる」
珠子「・・・」鉄太郎「山はいい。歩いてると無心になれる。」珠子「・・・」鉄太郎「上に行けば行くほど目の前の世界が変わるんだ。緑から茶色、茶色から白、そして頂上で青・・・」
珠子「鉄さん・・・」
鉄太郎「山がおれを待ってる。そろそろ行くぞ」
珠子「鉄さん」
鉄太郎「もう用意しなくていい。めしは駅で立ち食いでも食べる」
珠子「あたしはなんですか」
鉄太郎「行ってくる」
珠子「あたしはなんですか?」
鉄太郎「帰りは遅くても二二時には帰るから。ドアの鍵は開けといてくれ」
珠子「聞いて」
鉄太郎「珠子、天気予報見たか?棚ヶ岳のほうは雪どうなってるだろう?」
珠子「(絶叫)あたしの、話を聞いて!」
藤井「どうしたの?」
 珠子、やっとわれに返る
 藤井がいる
 珠子は息があらい
そこは二号車のバスの中である
珠子「て、鉄さん・・・」
藤井「え」
珠子「(藤井の顔をゆっくり見て)あ、ああ、なんでもない」
藤井「外で待っててもぜんぜん来ないから」
珠子「ごめん、ちょっと寝ちゃったかも」
藤井「おきてるんじゃなかったの?」
珠子「もう大丈夫」
藤井「じゃ、行こうか?」
珠子「え」
藤井「一号車」
珠子「あ、ああ・・・」
藤井「だんなさん、探しに行こう」
珠子「・・・うん」
藤井「?」
珠子「・・・」
藤井「どうしたの?」
珠子「あ、いや、ちょっとさっき、鉄さんの夢を見ていて・・・」
藤井「鉄さん?」
珠子「だんなのこと。」
藤井「・・・」
珠子「あんたと同じ山馬鹿でね。南のほうの棚ケ岳ってところに登ったのが最後」藤井「山を登る人間に馬鹿はいない」珠子「ほめことばだよ」藤井「そうなの?」珠子「役者馬鹿、釣り馬鹿、山馬鹿」藤井「ごめん、ドイツにいたのが長くて、けっこう日本の熟語ってやつになれなくて」珠子「ドイツ?」藤井「留学で。」
珠子「なるほど。」
藤井「山でいなくなるなんて、植村直己もびっくりだな。」
珠子「そんなたいした人じゃない」藤井「山を歩いてると無心になれる。山は上に行けば行くほど世界が変わっていくんだ。緑から茶色、茶色から白、そして頂上で青・・・」
珠子「!」
藤井「どうした?」
珠子「同じこと言ってる」
藤井「え」
珠子「鉄さんと同じこと・・・」
藤井「!」
珠子「・・・」
藤井「山登り同士、似てくるのかな・・・」
珠子「・・・」
藤井「まじめで、人がよくて・・・よすぎて、だまされやすい」
珠子「?」
藤井「おれは、友達に約束を破られた。エベレストに登るっていう夢だったのに・・・」
珠子「・・・」
藤井「登りたくて、会社興して商売して、やっとたまった、さあ、行こうって思った次の日にとんずらされた」
珠子「・・・」
藤井「おれの夢ってなんだったんだろう。」
珠子「・・・」
藤井「おれの苦労って・・・なんだったんだろう」
珠子「お互い、逃げられたか・・・」
藤井「?」
珠子「棚ケ岳からはどこを探しても骨は見つかってない。ふもとの登山センターに名前は書いてあるんだけどそのサインが鉄さんのものかどうか、ちょっとあたしでも自信ないんだよね」
藤井「じゃあ、別人がサインしたかもってこと?」
珠子「警察に捜索願も出して、探偵も雇って探したよ。でもいないんだよね」
藤井「だんなさんって平隈の人?」
珠子「川崎の人」
藤井「なら、もし、だんなが一号車に乗ってたとしたら、なんのために平隈に行くんだろう?」
珠子「・・・」
藤井「もし珠子さんに会いたいなら、珠子さんの東京に家に行ったほうがいいんじゃないのかな」
珠子「・・・」
藤井「わからないなあ。だんなさん・・・」
珠子「・・・行こう」
藤井「え」
珠子「鉄さんなのか、それともただのあたしの勘違いなのかはっきりさせてやる」
藤井「・・・うん」
 ふたり、はけようとする
 そのとき
運転手「はいそれではまもなく発車します」
 ふたりとまる
珠子「そんな・・・」
藤井「(運転席に大声で)ちょっとまって、トイレなんだよ」
運転手「時間です。」
藤井「おいおい、女性がトイレ行きたいっていってんだよ!」
 沖田、森川イン
沖田「どうしたんですか?」
藤井「ああ、ちょうどいいいところにきた。運転手に向かっていってくれ。珠子さんがトイレに行きたいって」
森川「そろそろ発車でしょう」
藤井「そうだけどさあ」
森川「車内トイレを使えばいいじゃないですか」
藤井「・・・」
運転手「はい、発車します。席についてください」
 バスが動き出す
森川「珠子さん、車内トイレ行かないんですか?
珠子「あ、いや・・・」
森川「後ろの左っかわにありますよ」
珠子「あ、うん・・・」
森川「どうぞ、早く」
藤井「(大声で)バッドタイミング野郎たちだな!」
森川「はい?」
藤井「珠子さんのだんなを探しに行こうとしたんだよ」
沖田「そういえば・・・」
森川「一号車にいるかもしれないっていう人ですよね」
藤井「せっかくこれからだってときだったのに・・・」
珠子「もういい」
藤井「でも」
珠子「いい。」
藤井「・・・」
珠子「それと女性にトイレの話するのは、あんまりいいもんじゃないね」
藤井「・・・すまん」
森川「失礼しました」
 全員、それぞれの席へ
運転手「おつかれさまです。バスは新田サービスエリアを出まして次は米山サービスエリアにて休憩を取ります。到着予定は二時前後になります。それまではおやすみなさい」
 また光が暗くなり始める
藤井「退屈だな・・・」森川「見ますか?」藤井「え」森川「先ほどのお詫びです」珠子「携帯テレビ?」森川「モバイル放送、通称『モバHO!』ってやつです」 森川、モバイル端末を藤井に渡す森川「簡単に言えばアンテナなしで、テレビが五チャンネル、ラジオは明日四月から四○チャンネル聞くことができるんです」珠子「すごい!」森川「時間に都合悪いときなんかは、SDカードで録画録音もできるし、料金は月額定額制ですからいくら見てもお得なんです」藤井「この会社のまわしもの?」森川「いやなら返してください」藤井「うそうそうそ。貸して貸して」森川「お貸しする代わりにさきほどのこと、水に流していただけますか?」藤井「もちろんもちろん」珠子「ったく、調子いいね」藤井「いや~、二中最高!」森川「どうぞ」珠子「ひどいもんね」◎挿入 2007/02/14沖田「現金だなあ・・・」藤井「ひゃっほ~うい」 森川は、貸してから自分の席に戻る 藤井、スイッチをいじるが藤井「あ・・・」珠子「どうしたの?」藤井「なんか・・・『再生』って・・・」沖田「何を再生するんですかね?」珠子「押しちゃえ!」沖田「いいんですか?」珠子「こういうときは押すのが一番」沖田「ええ!」藤井「わかった・・・」 藤井、ボタンを押す珠子「(画面見て)ん?なに、この写真・・・おっさんがいる」沖田「ん(見てて)・・・あ、アメリカの今の大統領じゃないですか」藤井「ほんとだ」珠子「だれかと・・・話してるよ・・・」藤井「次の画面に行ってみようか?」藤井、ボタンを押して次の画面へ行く二枚目の画像が出てきて三人「(絶叫)」藤井「な、なんだこのバケモノは!」珠子「手が、手が!」沖田「日本の妖怪にもこんなのいないですよ」珠子「あ、あのさあ?これって衛星放送なんだよね?」沖田「あの人がいうんだからそうらしいですよ」珠子「じゃあさ、夏の映画の予告編とかかな・・・?」藤井「夏は早すぎるんじゃないの?」沖田「確かにハリウッドなら、春からプロモーションしてもおかしくない」珠子「でしょ?」藤井「なんだかなあ」珠子「次見せて次!」藤井「えい!(ボタンを押す)」珠子「(画面見てて)うわうわうわ!怪物とおっさんが紙にサインしてるよ」藤井「見れば見るほど面白い。よく作られてる。」 そのとき、沖田、端末を奪う藤井「おい!」沖田「(画面をじっと見てる)」珠子「ちょっと見せてよ~」沖田「(見てて)うそっぽくない・・・」藤井「え?」沖田「画像が作り物じゃないっぽいんです」藤井「んな馬鹿な」珠子「わかった!」藤井「なにが?」珠子「この怪物って・・・宇宙人!?」藤井「あんたは矢追純一さんか?」珠子「テレビで見たよ!アメリカの秘密機関が宇宙人と秘密裏に接触してるって」藤井「あのね、UFOとかっていうものはね、みんな作りモンなんだって!タブロイドがネタに困ると、よくやる手口だよ」沖田「合成なんかじゃない・・・」藤井「説明できるのかい?!」沖田「この怪物と背景にCG独特のブレがない。それに特殊メイクとか今の造形技術でもここまでなめらかな、着ぐるみのようなものはできない」藤井「ハリウッドならやりかねないよ!あれほどSFを発達させることに命を燃やした国なんだから」珠子「だから宇宙人なんだって!」藤井「こんな小さい画面でわからないよ!」沖田「小さな画面だからこそごまかしがきかないんです」藤井「・・・」沖田「僕は信じる」藤井「・・・」沖田「断言できる。これは特殊効果じゃ無理です。」藤井「なんでこれが本物だってわかるんだ?」沖田「・・・おれは東京でずっと映像やっていたんです。映像をやる前に写真も勉強しました。」藤井「映像のプロってわけか」珠子「だから監督がどうのとかいってたんだ」沖田「でももう監督じゃありません」藤井「なるほど・・・じゃあ、今度の写真はどう説明するんだ?」 藤井、画面を見せる珠子「車に乗って・・・パレードしてる人が映ってる」沖田「ケネディ・・・?」藤井「この次だ!」 藤井、ボタンを押す そのとき銃声の鳴る音沖田、珠子「!」沖田「まさか・・・」珠子「この人が・・・暗殺犯人・・・?」 顔を見合わせる三人 そのとき森川「なにしてるんですか?」三人「(振り向く)」 森川、つかつかと歩いてきて 藤井の端末をぶんどり、スイッチを切る森川「最低ですね」藤井「なに!」森川「人のSDカードをのぞき見するなんて」珠子「だって『再生』なんてボタンが出て来るんだもん」森川「それがSDカードの再生なんです」沖田「すいません。これの操作になれてなくて」珠子「ごめんごめん」森川「(ため息)」藤井「これだけあやまってるんだからさあ。許してくれよ」森川「許す許さないの問題じゃない」藤井「ず、ずいぶんおおげさだなあ」森川「あなたがたはとんでもない秘密を知ってしまった。」珠子「え・・・」森川「カード、どのくらいご覧になりました?」藤井「怪物とケネディ」森川「共犯ですね」藤井「ふん、古い脅し文句だな」森川「二本も見たんですから」沖田「まだあるってことですか?」森川「この後は中東戦争のときに政府のバックとなった某大企業との密談の議事録。そして最後は終戦後の東京裁判。GHQと日本政府側で交わされたある条件が写ってるんです」藤井「ますますタブロイド的だ」森川「だから僕らは追っかけられてる」三人「・・・」森川「のーんびり、ゆっくりと、確実に追っかけられてる」沖田「さっきの新田で、ピストルの音も聞きました」藤井「そうなのか!?」沖田「パンクとかじゃないと思います。」珠子「そんな・・・」藤井「どうすりゃいいんだ・・・」
 そのとき、ふっと沖田が立ち上がる
沖田「シラヌウオをみんなで見に行きましょう」
珠子・藤井「え?」

暗転





第三章
 明転
 ベンチにいるのは珠子
 そこに沖田がやってくる
沖田「飲みます?」
珠子「(受け取って)・・・ありがとう」
珠子、お茶を飲む
 沖田もベンチに座る
沖田「米山まで来ると、完全に空気が変わりますね」
珠子「・・・そうね」
沖田「なんか、山の中のにおいっていうか、ずっと子供の頃から呼吸していた空気っていうか」
珠子「本気なの?」
沖田「・・・」
珠子「シラヌウオ探すなんて。」
沖田「森川さんが、確実に見れる方法を知っているらしいんです。」
珠子「本当かなあ」
沖田「ちょっとかけてみたいと思うんです」
珠子「そこまでいうのは、なにかあったから?」
沖田「・・・いや、特には・・・」
珠子「なんだかなあ・・・」
 珠子、歩いていく
珠子「でもね。もし本当にシラヌウオを見たとしても、あたしは見たところで間に合わないんだよね」
沖田「?」
珠子「うちの鉄さんに、あたしは会いたいから」
沖田「だんなさんですね・・・」
珠子「もしかなえてくれるなら・・・ここで・・・今この瞬間にかなえてほしいんだ」
沖田「・・・」
珠子「そっくりさんが本当の鉄さんでありますように」
沖田「・・・」
珠子「そして、あたしたちがもう一度会えたことに感謝できますようにって」
沖田「鉄さんですよ」
珠子「・・・」
沖田「一号車に乗ってるのは鉄さんだ。」
珠子「そうだったらいいんだけどね」
沖田「信じましょう」
珠子「・・・」
 森川、藤井イン
藤井「トラックの運ちゃんたちでおもったよりトイレ混んでてさ」
珠子「またトイレの話してる」
藤井「あ・・・」
沖田「森川さん、シラヌウオに会える方法を教えてください」
森川「わかりました」
 みんなベンチあたりに適当に座る
 そのとき
高橋「(絶叫)追いついた~!」
全員「?」
 みんな入り口を見る
そこに一人の男
 二子田文絵のマネージャー高橋である
沖田「た、高橋さん・・・」
高橋「かんとく~もう逃がしませんぞ」
藤井「だれだあんたは」
高橋「ああ、申し遅れました私、二子田文絵のマネージャーの高橋と申します」
 高橋、IDカードを高らかに見せる
藤井「え!あの二子田文絵の!?」
高橋「オリコンチャート三週連続一位の『あの』二子田です~」
藤井「すごいなあ」
珠子「でもなんでそんな人がここに?」
高橋「あ、実はですね、この監督がうちの事務所の契約期間中にもかかわらず、一方的に実家に帰るっていう契約不履行をした挙句、私と愛する二子田に暴言を吐くという大人としてあるまじき行為を働いたので(ですね)」
沖田「ちょっとちょっと」
 沖田、高橋を連れて影に
○挿入 2007/02/27 ②
沖田「あんまりしゃべらないでくださいよ」
高橋「しゃべりたくてたまりません!」
沖田「十分しゃべってます」
高橋「どうです?私のカーテクニック」
沖田「え」
高橋「もう、他の車をごぼうぬきのごぼうぬきたった三時間でここまで追いつくことができたんですよ!」
沖田「それぐらいでちょうどいいんじゃないですか?」
高橋「は?」
沖田「売れっ子アーティストのマネージャーなら」
高橋「監督」
沖田「はい」
高橋「帰りましょう」
沖田「状況がわかるでしょ?今はバスにのって」
高橋「東京が監督を待ちわびてるんです」
沖田「待ってるわけない」
高橋「さっき社長にも聞きました。沖田君はなにかに悩んでいたと」
沖田「・・・」
高橋「なにかって、うちら業界のしがらみ、お金、人脈ってやつですか?」
沖田「・・・」
高橋「あと、こんなものを見つけました」
高橋、かばんからひとつの紙を出す
沖田「俺の書いた企画書・・・」
高橋「じっくり読ませていただきました。もちろん、おたくの社長も読んでらっしゃるようです」
沖田「読んでるわけない」
高橋「はい?」
沖田「あんな古臭い映画のしきたりに縛られてる社長なんかにわかるはずないんです」
高橋「そうとはいえなかったりします」
沖田「?」
高橋「この企画書の中のこれ!『命のある映画を作る』」
沖田「・・・」
高橋「社長、とてもその言葉を気にしていました」
沖田「気に入らないからでしょう?」
高橋「逆です」
沖田「?」
高橋「その言葉を載せたからこそ、そんな映画を作ってほしくて社長は監督に厳しく接したのかもしれません」
沖田「・・・」
高橋「命のある映画を作れるクリエイターにするために・・・」
沖田「・・・もういい。」
高橋「映画、作りたくないですか?」
沖田「・・・あきらめたんです」
高橋「監督が育てた、二子田文絵が主演でもですか?」
沖田「・・・」
 そのとき
藤井「なにこそこそやってるんだ?」
沖田「(藤井に)今行きます」
 沖田、元に戻ろうとする
高橋「監督が東京に戻るまで・・・私は、離れませんから!」
 高橋、ぴったりとくっつく
沖田「やめてくださいよ!」
珠子「(それを見て)後輩、そんな気もあったの!?」
沖田「違います!」
藤井「面白い」
沖田「違うってば!」
高橋「監督~!」
 沖田、高橋を連れて元に戻る
森川「いいですか?」
沖田「お、お願いします」
森川「そちらのマネージャーの方も見るんですか?」
高橋「見る?」
沖田「あ、ほっといてください」
高橋「ほっとくってどういうことですか~」
沖田「高橋さんには関係ないことなんです」
高橋「ちょっとちょっと~。ここまできて村八分なんてひどすぎますよ」
藤井「いい加減にしてくれないかな!」
高橋「!」
藤井「こんなとこでぐずぐずしてたら、珠子さんのだんな見つけに一号車に行く時間ないだろ?」
高橋「す、すいません」
藤井「バスの中暗いだろうからさ、こうやってペンライトも持ってきてるんだからさ」
珠子「気が利くねえ」
藤井「パーカーの中にたまたま入ってた。山で便利なんだ」
珠子「ありがとう」
森川「じゃあ、手短に説明します。」
 森川以外、全員ベンチあたりに座る。
 座れない人間はしゃがんでみる
森川「朝、六時四十三分前後に、手賀沼あたりにいきます」
高橋「手賀沼?」
沖田「平隈にある沼のことです」
森川「そして沼の東側にたってですね、みなさんがよくご存知の歌を歌います」
藤井「ご存知の歌?」
珠子「平隈踊りの歌?」
森川「違います」
沖田「民謡とかですか?」
森川「平隈一中の校歌です」
みんな「え?」
森川「♪ひらくまや~ま~に、ひがの~ぼ~り~、
 てがぬまの~みなもに~あさひ~さ~す~
 わか~い、ちしお、あふ~るる!
 いっちゅういっちゅう、わこうどよ!
ああ~わがぼ~こ~お~」
みんな「・・・」
藤井「こ、校歌?」
森川「歌い終わると、沼の底が白く光始めます。その光がだんだん魚の形になっていく
   そのときにお祈りするんです」
藤井「でもなんで二中なのにうちの校歌知ってるんだ」
森川「二中は一中の校歌も覚えさせられるんです。」
藤井「すばらしい!」
一中三人「(拍手)」
森川「一中の生徒数が減って、うちと統合したとき困らないように」
藤井「(絶叫)やっぱり敵だ!打倒二中!(つかみかかろうとする)」
沖田「(藤井をおさえて)まあまあ」
藤井「ふん、それにしてもなんで校歌なんだろう」
森川「みなさん、シラヌウオの伝説知ってますよね?」
珠子「幼稚園はいる前から教えられるからね」
沖田「平隈出身の人ならみんな知ってるんじゃないですか」
森川「ここに平隈じゃない人がいます」
藤井「(高橋を見て)あ・・・」
高橋「生まれも育ちも岩手です」


















森川「ついでなんで、彼にシラヌウオ伝説を教えてやりましょう」
藤井「めんどくさいよ」
森川「その伝説に答えがある」
藤井「え・・・?」
森川「じゃあ、珠子さんからどうぞ」
高橋「伝説教えてください」
珠子「え?しょうがないね、え~と・・・昔々、平隈は四つの村に分かれていました。そしてその四つは大きく二つ、北部と南部に分けられ、戦国時代のころから田んぼに引く水をめぐって争ってました。」
高橋「ほうほう」
沖田「北部の総大将、一郎太は、ある日ついに南部の敵陣がある、平隈山に攻め入ります」
高橋「へえ」
藤井「一郎太に恐れをなした南部は全員退散していて、もぬけの殻だった。ところがそこになぜか一人の女性がいた」
珠子「それが平姫」
沖田「色白で髪が長くて、もち肌で」
藤井「珠子さんみたいだったと」
珠子「わ!やだね~(照れ)」
藤井「一郎太は、彼女を本陣につれて帰り、自分の嫁にしたと」
沖田「しかしながら、嫁にとったとたん、平隈はひどい日照りになってしまったのです」
藤井「困り果てた一郎太は平姫に
  『このままでは北部だけではなく南部もろとも飢え死にだ。どうしたものか』と相談しました」
珠子「すると平姫はいいました
  『一郎太さま、私におまかせくださいませ』」
高橋「おもしろくなってきました」
沖田「平姫は翌日の朝早く、平隈山の手賀沼にいきます。そしてそこで彼女はある詩をよみます」
珠子「平隈山に日が昇り、手賀沼の水面に朝日差す・・・って、あ!」
高橋「はい?」
珠子「これって一中の・・・?」
藤井「校歌の前半だ!」
沖田「そうか!」
森川「ね?」
藤井「さっぱり意識してなかったよ!」
珠子「あたしも」
森川「僕もずっとそう思っていたんです。だから、最初のころは、沼の前で平隈の民謡とか歌ったりして」
沖田「そりゃ来るわけないはずだ」
高橋「話の続きを教えてください!」
珠子「詩を読むと、あんなにかんかん照りだった空がいつのまにやら黒い雲に覆われてきます」
藤井「恵みの雨が三日三晩ふった。」
沖田「おかげで平隈四村は救われました」
藤井「一郎太は感激して急いで平隈山に上った。。
   『平姫!平姫!』」
沖田「家来を動員して必死に探しました」
珠子「しかし、どこを探してもみつからなかったのです」
藤井「『平姫!!!!!!!(号泣)』
高橋「なるほど」
沖田「悲しみにくれたその後、村人の間で手賀沼に白くて光る大きな魚が出るといううわさがでたんです」
珠子「人々はきっとその白い光る魚は手賀沼の主として現れた平姫なのだろうと思い、シラヌウオと呼び、見ると必ずお願いをするようになったそうな」
森川「はいめでたしめでたし」
高橋「泣けてきますね」
沖田「そうですか?」
高橋「まるでロミオとジュリエット!(泣き始める)」
藤井「かなり違うと思うけど」
高橋「監督!」
沖田「その呼び方やめてください」
高橋「ハンカチを車に置いたんで取ってきますから!」
沖田「はいはい」
高橋「絶対に逃げないでくださいよ!」
沖田「いってらっさい」
高橋「逃げたらご実家までごぼう抜きです!!!!」
 高橋、はける
藤井「間違ってる上に泣けるなんて」
珠子「幸せね・・・」
藤井「じゃあ、珠子さんそろそろ行こうか」
珠子「そうだね・・・」
藤井「じゃあ、行ってくるよ」
沖田「先に二号車に戻ってますね」
 それぞれが移動しようとする
 そのとき
珠子「そうだ」
藤井「?」
珠子「森川さんだっけ?」
 離れようとしてる森川気づく
森川「はい」
珠子「シラヌウオになんてお願いしたの」
森川「それはいえません」
藤井「願いかなえたんだろ?」
森川「そうですけど」
珠子「教えてよ。この際だから」
森川「将来、世界の度肝を抜くようなことをする男になりたい」
珠子「なるほど」
森川「度肝抜くために今日ここにいます」
藤井「そうかわかったぞ!」
 藤井、森川のもとへ
藤井「それがさっきの写真なんだな」





















挿入2007/03/03
森川「・・・」
藤井「・・・どうした?」
森川「僕は、世界を変える。」
藤井「なんだと・・・」
森川「写真を公開して、隠されてきた歴史の真実をあきらかにする。」
藤井「・・・」
森川「僕は思うんです。みんなが秘密というものを公にすることによって、世界がかわるって。」
沖田「なんでそう思うんですか?」
森川「秘密っていうのは、自分にとって都合よくないものだったり思い出だったりする。そんなのって僕が思うにどうでもいいようなことだと思うんです」
沖田「・・・」
森川「東京を思い出してください。だれかがこれがおいしいといえば、みんなそれを食べる。
  同じ服を着て、同じ人生に満足する。
  人と違うことをするとすぐにたたかれる。だから、自分を隠して周りとおんなじになろうとする。
  つまんなくないですか? 僕だったら絶対につまらない。」
沖田「・・・」
森川「秘密がなくなれば、人はみんな違うことがわかる。そうしたほうがもっと面白く生きてていけると思うんです」
藤井「そこまで言うなら、まずはあんたのことを教えてくれ」
森川「・・・」
藤井「おれは、あんたのことがわからない」
森川「僕は警視庁機密情報捜査局にいました。そこから、アメリカのある機関に研修に行ってたんです」
沖田「ある機関?」
森川「さっきの写真が預けられてるような機関。そしてぼくらの命を狙ってしまうような機関です」
沖田「そこで写真を・・・」
森川「このカードにコピーしました」
藤井「くだらない」
森川「?」
藤井「あんな写真ごときで世界が変わるなら、おれはとっくにエベレストを制覇してるだろうよ!」
森川「僕はシラヌウオを見てますから」
藤井「そんなのかなえるもんか!」
森川「・・・」
藤井「あんたのちっちゃな自己満足だけなら、世界どころか東京は変わらない」
沖田「首都高走ってるとき、外を見ませんでしたか?」
森川「目をつぶってました」
沖田「残念です」
森川「飛行機で疲れてたんですよ」
沖田「あの景色をみたら、おんなじだなんて思わなくなります」
森川「・・・」
沖田「明かりの奥でみんな必死で違う人生を送ってるんです」
森川「・・・」
沖田「後ろの人たちに、SDカード返しましょう。」





森川「今さらなにを(いってるんですか)」
沖田「警察にいきたくないんでしょ?」
森川「返した瞬間に・・・僕は殺されるかもしれないんですよ」
珠子「いいんじゃない?」
森川「珠子さん・・・」
珠子「身から出たサビ。」
森川「・・・」
珠子「世界をびっくりさせるくらい度肝を抜くってことは、命がかかるんだよ。」
森川「・・・」
珠子「返す度胸もないの?」
森川「・・・今は、返せません」
藤井「いつなら返すんだよ」
森川「平隈を見させてください」
みんな「・・・」
森川「なつかしい平隈山を、手賀沼を、あの景色を・・・」
珠子「・・・朝までよろしく」
森川「・・・いいんですか」
珠子「・・・そのかわり、平隈バスセンターに着いたら、返してきなよ」
森川「・・・」
珠子「あんたのやりかたであたしもシラヌウオを見る」
森川「珠子さん・・・」
珠子「さあ、一号車に行って来るよ」
藤井「おう・・・」
珠子「あ、あんたいらない」
藤井「!」
珠子「あたしひとりでいってくるから」
藤井「大丈夫なのか?」
珠子「・・・」
藤井「さっきのサービスエリアのときに珠子さん軽く寝て夢を見て、あれほどまで騒いでいたじゃないか」
珠子「大丈夫」
珠子「あんた連れて乗り込んで・・・で・・・、ぜんぜん他人だったら恥ずかしいもん」
沖田「だれも笑いません」
珠子「後輩・・・」
沖田「珠子さんのだんなさんを見ますよ」
珠子「ありがとう。」
沖田「・・・」
藤井「・・・」
珠子「あたしね。ずっと一番好きな人に、愛せてる人に会える気がするんだ」
藤井「・・・」
珠子「聞きたいことたくさんあるしね」
みんな「・・・」
珠子「じゃあね」
森川「珠子さん」
珠子「あ、きつくいっちゃってごめんね」
森川「珠子さん」
珠子「なに?そんなについていきたいの?あんたには見せたくないよ」
森川「時間です」
珠子「!」
森川「二号車に戻らなきゃならない時間です」
珠子「そんな!」
藤井「(時計を確認して)ほんとだ」
沖田「これじゃ、今行ってもうちらの二号車には戻って来れない」
珠子「・・・」
森川「とりあえず、戻りましょう」
藤井「待て」
森川「え」
藤井「休憩伸ばしてもらうように口説いてくる」
森川「やめましょう」
藤井「お前に珠子さんの気持ちがわかるのか!」
珠子「あんたこそあたしの気持ちがわかるの!?」
藤井「!」
珠子「あたしのせいで平隈につくのが遅くなったってわけにはいかないよね・・・」
森川「戻りますか?」
珠子「・・・平隈バスセンターで・・・見るしかないか・・・」
森川「戻りましょう」
珠子「・・・」
森川「僕らが動かない限り、永遠に平隈につきませんよ」
 珠子、うなづく
 藤井、森川、珠子がバスに戻ろうとする
 そのとき
沖田「珠子さん」
珠子「?」
沖田「一号車に乗ってください」
珠子「え」
森川「無理なこと言わないでくださいよ」
沖田「いいんです」
森川「一号車に乗れば、出発前に人数の確認をするでしょう。満員で全席埋まってるはずなのに、ひとりだけ通路でうろうろしていたら、確実にばれるじゃないですか」
沖田「ひとつだけごまかせる方法がある!」
森川「そんなのはない!」
沖田「トイレ!」
森川「え」
沖田「車内トイレです」
珠子・森川「!」
沖田「どうかここから走っていってください。入ったらすぐに車内トイレを目指してすぐに入ってください」
藤井「面白い・・・」
沖田「運転手が人数確認し終わったら、ゆっくり出てください。そのあと車内を全部見てください」
珠子「・・・」
沖田「迷ってる暇はありません」
珠子「・・・わかった!」
 珠子、走り出す
藤井「ちょっと待った」
沖田「急がないと!」
藤井「忘れモンだ!」
 藤井、ペンライトを投げる
 珠子、それを受け取る
珠子「ありがとう!」
 珠子、完全にはける
森川「いっちゃいましたね・・・」
沖田「ええ」
藤井「会えるかな?」
沖田「会えますよ」
藤井「?」
沖田「たぶん」
藤井「本当に面白いな」
沖田「戻りましょうか」
 ふたり帰ろうとする
森川「珠子さんのかわりはどうするんですか?」
沖田「!」
藤井「そうだ!」
森川「一号車はともかく、二号車はどう考えても僕ら三人しかいませんよね」
沖田「それは考えてなかった!」
藤井「おい!」
森川「人数確認,、もめますよ」
沖田「どうしよう・・・」
藤井「今度はおれたちが平隈に帰れないのか・・・」
 ふたりがっくり座る
 そこに
高橋「ロミオとジュリエットは終わったんですか?」
 高橋が、涙を拭きながらやってくる
三人「(顔を見合わせる)」
高橋「もっともっと感動するお話、聞かせてください!」
沖田「高橋さん?」
高橋「お、今度は監督が話す番ですか?」
藤井「あんた、バスに乗らないか?」
高橋「バス?」
沖田「お話は、バスの中で話したいなあ、なんて」
高橋「でも、僕には愛するごぼう抜きの車が」
 藤井、沖田、高橋のサイドにぴったりつく
高橋「え?え?」
沖田「ま、春の夜は長いし」
高橋「冬のほうが長いような気がします」
藤井「面白いお話を聞かせてあげるから!」
沖田「せーの!」
 ふたり、合図で高橋の腕をがっちり固定
高橋「ちょ、ちょっと!」
藤井「(沖田に)こいつで大丈夫なんだろうな?」
沖田「新宿二丁目にいるのを見たことがあります」
高橋「え?今から新宿に戻るの!?
沖田「(藤井に)行きますか」
藤井「行かれますか!」
 森川もあわせて三人、高橋をがっちり組んではける
高橋「(絶叫)私の、私の、ご、ごぼうぬきちゃ~ん・・・ 」
 暗転

第四章 
 暗転中
運転手「はい、そろいましたか?」
男四人「は~い」
運転手「それでは発車します。これより二時間ほどで平隈バスセンター到着です。
  高速道はそれほど混んでおりません。予定どおり六時二十分到着予定です」
 明転
 森川、沖田、藤井、それぞれの席に座ってる
藤井「あと少しだなあ」
沖田「ええ・・・」
森川「結局、一睡もできなかった」
藤井「あんたは最初から寝てただろ?」
森川「うそ寝です」
沖田「そうだったんですか!?」
森川「正直な話・・・後ろの人たちが、気になっちゃって・・・」
藤井「ぜんぜんそう見えなかった」
森川「いつ攻撃してくるかわかんないじゃないですか。だから余計に。」
藤井「まあ、そうだよな」
 沖田、後ろにたっていって
沖田「(窓から覗いて)まだいますね」
藤井「まったく懲りない奴らだ」
森川「そういう機関ですから」
 沖田、戻る
森川「うらやましいですね」
藤井「だれが?」
森川「(前の一号車の方向を見る)」
沖田「珠子さん?」
森川「山で失踪しただんなさんを今でも信じてるなんて」
みんな「・・・」
森川「僕にはそんなに信じられる人いないから。」
沖田「会えますよ」
森川「そうですか?」
沖田「おれは東京で映画のことだけ考えて生活してました。だから友達もいないし恋人もいない。」
藤井「さびしいなあ」
沖田「いや、でも、そうやってやりたいことだけでもずっとひとつ突き進んでいくと、そこに魅力を感じた人、それにいっしょになってやってみたい人ってのが必ずついてくる。」
藤井「・・・」
沖田「おれはそうやって二子田文絵に会いました」
藤井「なるほど」
沖田「藤井さんだっていつか会えますよ」
藤井「おれは土壇場で裏切られたけど」
沖田「そういうときもあります」
藤井「ふん、なんだそりゃ」
沖田「大切なのはひとつだけやること」
藤井「・・・」
沖田「森川さんも、SDカードを返したら、なにかひとつ、また考えてみればいいじゃないですか」
森川「なにかひとつ・・・」
沖田「みんなをそんなにびっくりさせたいなら、ほかにもいろんなことがありますよ。」
森川「・・・」
沖田「あ、まあ、おれは、映画監督になるっていうのはあきらめましたけど」
藤井「平隈で作ればいい」
沖田「え」
森川「そうです。平隈で作ってくださいよ」
沖田「それは・・・」
藤井「なにも東京くんだりまで行かなくてもいい。パソコンだってあるんだろ?フィルムがなけりゃビデオ映画でもいいんだ。あとでパソコンで編集すればいいし、そういう賞レースだってあるじゃないか。」
沖田「・・・」
藤井「平隈でやっちゃいなよ」
沖田「・・・」
 そのとき
森川「(窓を見て)高速、降ります!」
藤井「(窓を見て)ほんとだ」
沖田「平隈かあ・・・」
みんなずっと窓を見てる
沖田「見ちゃうんですよね。こうやって、なんにもなくても」
藤井「(窓を見て)ああ・・・」
沖田「電車で帰るときは、大羽田駅くらいからずっと窓を見ちゃいます」」
藤井「あんたはいつでも窓を見てたじゃないか」
沖田「あ・・・」
藤井「まあな、平隈の朝が誰よりも一番に見られるおれたちって幸せだよな」
沖田「そうですね・・・」
森川「(窓を見ながら)本当に・・・何年ぶりだろう・・・」
藤井「俺は盆正月はなんとか帰ってたからなあ」
沖田「帰れるってのはいいですね」
藤井「今年の正月はどうしてた?」
森川「僕はひたすら勉強勉強でした・・・」
沖田「俺は編集でサウナだったと思います」
藤井「つまんない年越ししてるね」
高橋「つまんないなんてことはありません!」 
トイレから高橋が出てくる
 スカート姿で
高橋「監督をなんて人だと心得てるんですか!」
沖田「いいですから!」
高橋「ミリオンセラーアーティスト二子田文絵の(芸能界での育ての親ですよ!)」
藤井「(かぶせて)いつまでそんなんでいるんだよ!」
高橋「あなたがたがいつまでたってもお話してくんないからでしょ!」
藤井「最初だけでよかったんだから」
高橋「なんで私があのおばさんの真似をしなきゃならないんですか!」
森川「はい、脱いで脱いで」
高橋「答えてくださいよ!」
沖田「それにしてもよく持ってましたね」
森川「八重洲で買ったんです」
沖田「あんなところで?」
森川「なにか事が起こったら、変装すればいいかなって」
藤井「でもオンナに化けることないだろ?」
森川「アメリカで研修したから。」
沖田「研修どおりに現実はいかないですよ」
森川「完璧です」
沖田「でも森川さんのスカート姿見たいかも」
森川「好きでやってるんじゃないです!」
藤井「想像したら、面白い」
森川「ちょっと!」
高橋「わ、私のはどうだったですか?」
藤井「外は寒いのかな?」
高橋「おーい」
沖田「まだ桜が咲いてないとか聞きましたよ」
藤井「盆地だからまだ寒いんだよね」
高橋「足が寒い・・・」
森川「桜が咲かなくても、十分春ですね」
藤井「え?」
森川「平隈山・・・」
ふたり「あ・・・」
沖田「霧だ・・・」
藤井「春先はよく霧がかかるんだよな・・・」
 三人、平隈山をずっと見る
 ふと
沖田「バスセンターが見えてきました」
 森川、モバイル端末からSDカードを取り出す
 そしてじっと見る森川
藤井「いよいよだな・・・」
沖田「しっかり返してくださいよ」
森川「・・・怖いなあ」
藤井「今さらなんだよ!」
森川「だって・・・あんなに苦労してコピーしたのに・・・」
藤井「もし渡さなかったら、俺があんたをあいつらに引き渡す」
森川「え・・・」
沖田「返しましょう」
森川「・・・」
沖田「(肩をたたく)」
 森川うなづいて、かばんを持って、外へ
 全員、片付けながら、外へ
暗転














暗転中に、舞台上、ペンライトの明かりが見える。
 
明転
 珠子が必死になって鉄太郎を探している。
 そのとき
鉄太郎(声のみ)「やっと会えた・・・」
珠子「え・・・」
鉄太郎「珠子」
珠子「鉄さん・・・」
鉄太郎「ごめんな。」
珠子「・・・」
鉄太郎「棚が岳から降りる途中でがけから落ちて・・・」
珠子「・・・」
鉄太郎「そのときの衝撃で、ついこの間までずっと記憶をなくしていたみたいだ」
珠子「・・・」
鉄太郎「靴を見てお前を思い出した。傷ひとつない、ぴっかぴかの登山靴だ」
珠子「・・・」
鉄太郎「おれのかみさんは・・・日本一の・・・靴磨きだったってな」
珠子「あたし・・・あたし・・・」
鉄太郎「・・・」
珠子「会いたかった!・・・」
 通路にくずれる珠子
鉄太郎「・・・」
珠子「死んだことになってるくらいなんだよ」
鉄太郎「ああ」
珠子「お墓も・・・仏壇もあるんだよ」
鉄太郎「話には聞いてる」
珠子「でも信じてた。だって骨がないんだもの・・・」
鉄太郎「・・・」
珠子「ずっと・・・ずっと信じてたよ。鉄さんのこと」
鉄太郎「ありがとう・・・」」
珠子「・・・(顔を見て)やせたね・・・」
鉄太郎「長い病院暮らしだったからな・・・」
珠子「そう・・・」
鉄太郎「お前のふるさとは、平隈だったなあ?」
珠子「ええ」
鉄太郎「そこにいったら、お前に会えるような気がしてな。病院から出たら一目散に切符を買ってたよ」
珠子「うん・・・」
鉄太郎「珠子」
珠子「・・・」
鉄太郎「いっしょに・・・たくさん・・・話そう」
 珠子、となりになにごとか話す
チェンジ
 こちらはバスセンターの外
 ひとりで降りてくる森川
 森川、ふと前を見る
 車のドアが開く音
 森川、それをじっと見てから
 ゆっくりとホールドアップ
森川「ひさしぶりですね」
FBI「・・・」
森川「ご苦労様です。」
FBI「・・・」
森川「・・・返しに来ました」
FBI「・・・」
 森川、SDカードを地面に置く
森川「これでいいでしょう?」
FBI「・・・」
森川「(しびれを切らして)取らないんですか」
FBI「・・・」
森川「じゃあ(帰ろうとする)」
FBI(声のみ)「殺したかったなあ」
森川「・・・」
FBI「つまらない。返しちゃうだなんて」
森川「その弾は、もっと世界平和のために使ってください」
FBI「・・・」
森川「途中のサービスエリアで脅しに使うなんて」
FBI「・・・」
森川「僕だったらあんなところで使いません。なぜならあなたよりも研修中の成績、よかったもんで」
FBI「・・・相変わらず皮肉屋ですね」
森川「・・・」
FBI「どうです?もう一度われわれと一緒に」
森川「やめときます」
FBI「・・・」
森川「僕には・・・もう・・・次がある」
 森川、はける
暗転
 銃声






 暗転中
藤井「ほらもうちょっとがんばれ!手賀沼が待ってるぞ!」
 ○挿入 2007/02/27 ③
 明転
 ここは平隈山手賀沼
 藤井、先に着いてみんなを待ってる
 そこに
沖田「ついた~」
 みんな、ついたとたん、地べたにすわりこむ
藤井「あんたら、絶対エベレストは無理だな」
珠子「エベレストは狙ってませんよ~だ」
沖田「夜中ずっと起きていて、山登りってのはこんなにきついもんなんですね」
森川「確かに」
藤井「おいおい!こんな小学校の登山レベルでギブするようじゃ、もうじいさんもいいとこだぞ!」
沖田「肉体は(息切れ)確実に歳を取ってますから」
珠子「あんた、時間は?」
森川「けっこう早く着いちゃいましたからね。あと十分くらいは大丈夫です」
珠子「それまで一休みしよ!」
 みんな一休み
 そこに遅れて高橋到着
高橋「お話聞くだけっていったのになんで山登りしなきゃならないんですか!」
藤井「こんなんは山じゃない!ほんとの山ってのはなあ」
珠子「山馬鹿の話は聞きたかないよ」
森川「そうだ、だんなさんには」
藤井「会えたの?」
珠子「・・・会えた」
藤井「ほんとに?」
珠子「うん・・・」
藤井「すごい!」
珠子「今、病院に行ってるんだ」
藤井「へえ」
珠子「記憶喪失だったんだって。それでね(アドリブで声を小さくしてく)」
 みんなが、そこで聞いてる
 三人、そこでやりとりしてる
 高橋、沖田のところへ
高橋「監督」
沖田「はい?」
高橋「考えていただけました?」
沖田「ああ・・・」
高橋「このあと、私は一度米山まで戻ります。車とって来るんで」
沖田「そのまま東京に帰ってください」
高橋「なんでですか」
沖田「こっちでのんびり映画作ります。」
高橋「失礼ですけど、こんなとこのどこでフィルムが売ってるんですか?」
沖田「大羽田までいけばなんでもありますよ」
高橋「監督」
沖田「大丈夫。きっと作る」
高橋「カメラもスタッフもいない、それにいい役者をそろえる事務所もない」
沖田「わかんないですよ。一中の演劇部にはすごい大物がいるかもしれない」
高橋「それって、人脈じゃないですか?」
沖田「・・・」
高橋「OBという人脈を使って映画を作るってことですよね。監督もしっかり使ってるじゃないですか」
沖田「こっちはそんなに汚れてない」
高橋「お金も監督の貯金でも使うんですか?」
沖田「まあ、そうでしょうね」
高橋「それじゃあ、まったく同じでしょう?」
沖田「・・・」
高橋「いい意味でも悪い意味でもしがらみや人脈そしてお金がかかわる世界で働いてる。それを『汚れてる』といわれりゃそれまでかもしれない。でもそんな世界だからこそ、見てる人に夢のあるものを作ろうと思うんじゃないですか?」
沖田「・・・」
高橋「楽しいだけで作品は作れない。作るつらさ、産みの苦しみ、作ったとしても人に叩かれる。その先に唯一の私たちの救いとしての夢のある作品がある」
沖田「・・・」
高橋「うちの二子田で、夢のある、命のある作品を作りませんか?」
沖田「僕には無理です。」
高橋「・・・」
沖田「あの勢いと彼女のパワーを、命ある作品にまとめられるかどうか・・・」
高橋「もちろん、監督ひとりじゃいい映画はできません。私はすでに、最高のスタッフと、最高のキャストをそろえました」
沖田「・・・」
高橋「みんなで一緒に、日本アルプスの山小屋を舞台に、夢破れた二子田ふんする女のヒューマン作品を作ろうではありませんか!」
沖田「それって、おれの書いた企画書のストーリーじゃないですか!」
高橋「準備万端ですから」
沖田「・・・」
高橋「車とってきたら、ご実家前にいきますね」
沖田「でも・・・」
高橋「社長が言ってました、あいつが力づくでももどってこなかったら、一度ひいてみろって」
沖田「社長・・・」
高橋「ひいてみます。」
沖田「・・・」
高橋「あと、よければ、山での撮影なので、山のことをよく知っている人を紹介してください。じゃ」
 高橋、はけながら
高橋「ちょっとお先します」
珠子「あれ?シラヌウオ見ないの?」
高橋「うちのわがままタレントたちが待ってるんで~」
 高橋、完全にはける
藤井「(沖田に)なんか迷ってる?」
沖田「いや、そんなことは(ないですよ)」
藤井「山登りの先輩から聞いたんだけどさ、迷ったときには、ふもとまでもどってみることなんだそうだ」
沖田「・・・」
藤井「山のたとえばかりで悪いけどね。ただ、よくいうその場で立ち止まって考えたり、地図を見たりするよりは、いっそおもいきってふもとまでもどる。
  つまり、あんたの本当の心に聞いてみるんだよ」
沖田「心に・・・聞く・・・?」
藤井「迷ってたとしても実は自分の道ってもんはもう決まってるから」
沖田「・・・」











 そのとき
森川「そろそろはじめます!」
 全員、一列に並ぶ
森川「では、一中のみなさんのだれかお願いします」
珠子「え?」
森川「僕はあくまでも二中ですから」
藤井「がんこものめ!だから頭ばっかりよくてそれ以外なにもできないんだよ!」
森川「時間すぎちゃいますよ」
藤井「なんだよ!平隈で朝から銃騒動やりやがって」
森川「びっくりしたでしょ?」
珠子「あ!」
藤井「え」
珠子「あんた・・・あれが度肝を抜いたってこと?」
藤井「そうか!」
森川「あれは入りません」
珠子「なんだ」
森川「単に僕よりも成績悪いやつが銃ぶっぱなしてつかまったってだけですから」
藤井「ひとことひとことがむかつくな」
森川「時間ないですよ」
沖田「だれがやります?」
珠子「そりゃもう、ひとりしかいないでしょ?」
沖田、珠子じっと、藤井を見る
藤井「お、おれ?」
珠子「あたりまえじゃん」
沖田「お願いします」
珠子「かっこいいあんたをみてみたい」
藤井「そ、そう?」
森川「よろしくお願いします」
藤井「で、では」
 藤井、前にそして
藤井「(かまえて)平隈一中~!」
全員「おー!」
藤井「校歌~斉唱~!」
全員「お~」
藤井「♪ひらくまや~まに、ひがのぼ~り、はい!」
沖田・藤井「♪ひらくまや~ま~に、ひがの~ぼ~り~」
沖田・藤井・珠子「 てがぬまの~みなもに~あさひ~さ~す~」
みんな「 わか~い、ちしお、あふ~るる!
 肩を組むみんな
みんな「いっちゅういっちゅう、わこうどよ!
ああ~わがぼ~こ~お~」
 藤井、しっかりとシメる
 全員、じっとしてる
 そのとき光が
珠子「ま、まぶしい!」
 光はだいぶ強くなってくる
森川「時間がありません。早く祈って!」
 みんな、それぞれの祈りのポーズ
  大きな音
 そして、光はひいていく

 ゆっくり目を開くみんな
珠子「し、シラヌウオ・・・」
藤井「本当にいたとはな・・・」
沖田「だれかしっかり見ましたか?」
珠子「目をつぶってたから見てないよ」
藤井「俺も」
沖田「おれも見れませんでした」
藤井「だいたいにしてさあ、あいつが早く早くってせかすからさあ」
森川「僕も見てませんよ」
珠子「あんたはどうせ大学生のときにでも見たんでしょ?」
森川「見てないんです」
みんな「え!」
森川「今回も見れませんでした」
藤井「じゃあ、」
珠子「本当にあれがシラヌウオなのかは」
沖田「わからないってことですか?」
森川「・・・」
珠子「おい!」
森川「・・・でもまぶしかったでしょ?」
藤井「そりゃそうだけどさ」
森川「僕の仕事はこれで終わりました。じゃ」
藤井「なにをお祈りしたかくらい教えてよ」
森川「秘密です」
 森川、はけようとする
森川「あ、沖田さん」
沖田「?」
森川「命のある映画、とってくださいね」
沖田「!」
森川「映画館に行くのが楽しみだなあ」
 森川、はけていく
藤井「なんだかなあ」
珠子「あたしもそろそろいくよ」
藤井「なんだ、もう少しゆっくりしていけば」
珠子「ごめんね。」
藤井「じゃあ、なにをお祈りしたかだけでも」
珠子「無理無理。」
藤井「そんなあ」
珠子「今はね、鉄さんと早く話したいんだ。」
藤井「・・・」
珠子「あのころ話せなかった話を全部して・・・時間をもどしていきたい」
藤井「・・・」
珠子「じゃね」
 珠子、はける
藤井「(沖田を見る)」
沖田「(藤井を見る)」
藤井「ゆっくりしていく?」
沖田「いいですよ」
藤井「さっき、なんってお祈りした?」
沖田「それは秘密ですよ」
藤井「いいじゃない。ちょっとくらい教えてよ」
沖田「藤井さんこそ教えてくださいよ」
藤井「おれは秘密」
沖田「ひどいなあ」
藤井「誰も『もう一度山に登れる日がきますように』なんていってないよ」
沖田「おもいきり言ってますね」
藤井「・・・」
 そのとき、沖田の携帯電話がなる
沖田「もしもし」
高橋「(声のみ)監督」
沖田「どうも」
高橋「見つかりました?」
沖田「ああ、シラヌウオ」
高橋「なに寝ぼけたこといってるんですか。」
沖田「え」
高橋「山に詳しい人ですよ」
沖田「ああ、山に詳しい人ねえ・・・」
 沖田、藤井を見る
藤井「!」
 藤井も沖田を見る
高橋「帰り際に言ったでしょう?いないなら東京山岳連合から(見つけますよ)」
沖田「(かぶせて)いる!」
高橋「はい?」
 藤井、電話を分捕る
藤井「山に詳しい人です」
高橋「あれ?さっきの」
藤井「申し遅れました!藤井といいます!」
高橋「私にスカートをむりやりはかせた人ですね!」
藤井「なんのことでしょう?」
高橋「あのねえ、あんたのせいでね(私はうんぬんかんぬん)」
藤井「(かぶせて)山のことはすべておまかせ!」
高橋「・・・」
藤井「エベレストも登る予定だった男、この藤井達郎によろしくお願いします!」
高橋「お話をしましょう」
藤井「それではぜひ、平隈駅前の喫茶『純子・オブ・ニューヨーク』でお待ち申し上げております!」
 藤井、ぶちっと携帯をきる
沖田「あ、きっちゃだめ!」
藤井「なんのことだ?」
沖田「まだあの人に伝えてないことがあったんですよ」
藤井「いいじゃないいいじゃない」
沖田「ほんと勝手だなあ」
 沖田、電話をかけようとする
 藤井、それを切る
藤井「映画つくりを断る電話をかけてさっさと実家でお休みしたいところだろうが、一緒にうちにきてくれ」
沖田「うち?」
藤井「『純子・オブ・ニューヨーク』。純子は俺のおふくろだ」
沖田「・・・」
藤井「命のある映画を作りたいんだろ?さっき、あの森川なんたらがいってたじゃないか」
沖田「・・・」
藤井「おれは山であんたの映画に命を入れる。あんたはカメラの奥で命を入れろ」
沖田「・・・」
 藤井、肩をたたいて帰っていく
 舞台上に沖田ひとり

 沖田、沼を見る
 沼はもう光ってない
 朝日が昇ってるだけだ
沖田「映画を・・・作らせてくれるのか?・・・」
 沼は静かだ
沖田、携帯を取り出す 
 電話をかける

沖田「もしもし・・・
   あ、平隈中央交通の予約センターですか?
   あの、今夜の東京行きの深夜バスってあいてますか?
   ・・・あ、はい、新宿か八重洲で・・・えっと大人ひとり予約したいんですけど・・・はい、あ、
   クレジット番号はですね・・・」
 沖田、財布からカードを出し、話しながら、はけていく
 その顔は決意に満ち溢れている
はけきって暗転
  
END

2008年5月28日水曜日

フランケンに恋して ~「3man THE LIVE 2006」~

登場人物
落合平士郎 博士 藤盛薫
車田蓮美 記者 本多美智子















 ここは東京のどこかの市のおかまのいる居酒屋
 そのかたわらの休憩室


いきなり
落合「おれさあ休憩時間短いんだよねー」
 といいながら舞台にIN
落合「三十分だよ三十分」
車田「あ、お時間はそんなにとらせませんから」
 といいながら車田がIN
 落合、すこし困った顔で、くるりと車田のほうをむいて
落合「(ため息)」
車田「あ、ほんとに、体を休めたいところ、すいません」
落合「このあと踊りの練習もあるしさ」
車田「あ、すいません」
落合「んー・・・」
車田「日を改めましょうか」
落合「いやいいんだけどさあ」
車田「いいんですか?」
落合「(考えてから)・・・うん、いいよいいよ」
車田「そうですか。」
落合「座る?」
車田「はい」
 落合、そこらへんのいすを寄せて
 席を作る
落合「(座ってから)どうぞなんなりと」
車田「では、改めてお聞きしたいと思います」
落合「はい」
車田「落合博士が」
落合「あ」
車田「はい?」
落合「博士はやめてくれ」
車田「あ・・・」
落合「あ、いけね!」
 落合、突然ハケ口へ行くと
落合「(外へ)ちょっと!ヒカリちゃん!レストルームにもお酒もって来てもらっていい?」
車田「(あわてて)あ、仕事なのでお酒は・・・」
落合「(外と会話)えー、あんただってこの前遅刻しそうになったときタイムカードいれてあげたじゃな~い」
車田「落合さん!」
落合「(中へ)ちょっとくらいいいだろ?」
車田「あ、いえ・・・あんまり飲めないんで」
落合「しょうがない。(外へ)ひかりちゃ~ん、ウーロンティ!」
車田「あ、すいません」
落合「(外へ)ピッチャーで!は~いよろしく!」
車田「ピ、ピッチャー!」
落合「がぶがぶしちゃいたいだろ?」
車田「おトイレ近くなるだけだと思うんですけど」
落合「いいのいいの、ケセラセラ」
車田「ひさしぶりに聞きました、それ。」
 落合、席に戻る
落合「で、なんだっけ」
車田「あ、落合さんがやっていた、死体蘇生法術の件です」
落合「ああそれね」
車田「ずっと秘密裏に研究なさっていて、ある日突然それに陽が当たって一気に終わってしまったじゃないですか」
落合「うーん」
車田「もう一度、実験を再開してみませんか?」
落合「え!」
車田「実験をもう一度やってみる気はございませんか?」
落合「は・・・は?」
車田「(落合をじっと見つめる)」
落合「(落ち着きなく歩き回って)な、なにをきみはいってるんだ」
車田「落合さんに、死体蘇生法の実験を再開していただきたいのです」
落合「き、きみ!」
車田「はい」
落合「きみは・・・おれのことを取材しにきたんだろ?」
車田「・・・」
落合「こんな東京のはずれのおかまバーで飲みたくもない酒をのんで働くこの俺の醜態を、全国津々浦々の人間に知らしめるためにここに来たんだろ?」
車田「・・・」
落合「な・・・なんでそんなことをいう?」
車田「あのあたしひとつ落合さんにうそをついていました」
落合「?」
車田「あたし、雑誌記者っていうのは真っ赤な嘘なんです。」
落合「なに?」
車田「あたし、落合さんと同じ、あの医大の院にいるんです」
落合「・・・」
車田「万田教授のもとでずっと法医学に関する研究を進めています」
落合「・・・」
車田「あたし、ひょんなことから落合さんの論文を読んでしまいました。」
落合「電気療法を使用した死体蘇生法序論」
車田「はい」
落合「ふ・・・万田くんもまだそれを捨ててなかったか」
車田「すばらしい論文でした」
落合「あれを発表したことで、おれはそのあと、わけわからん世界に入り込んでいくことになる」
車田「わけわからん世界・・・」
落合「ああ、」
 落合、いすに深く腰掛ける
落合「・・・血が沸騰しちまうような熱病と、呼吸過多で目の前に星が見えるくらいの高山病、一緒に凍死してしまいそうな、それだけわけわからん世界・・・」
車田「・・・」
落合「足をつっこみすぎたかもな・・・」
車田「でも、研究はあと一歩のところまでいったんですよね」
落合「それを上に崩された」
車田「アメリカ、ドイツ、そして日本の民間大企業」」
落合「外野が多くなればなるほどやっかいでね」
車田「やっぱりいろいろトラブルとか」
落合「気まぐれなんだよ。」
車田「気まぐれ?」
落合「ひとつづつ、段階ふんで実験していくたびに上のほうにレポートを提出していかなきゃならない。こっちとしてはどんどん進めていきたいのに小さいところから揚げ足を取っていく」
車田「うちでもよくあります」
落合「現場の苦労も知らないで、ぶっといビルの上の酸欠しそうなところから思いつきメールをだしてるんじゃねえっていうんだ」
車田「・・・」
落合「あとは、モラルにトドメをさされた」
車田「死体を傷つけること」
落合「人間たちが生きてきた、たったこれっぽっちの時間で作られた常識に、俺たちは、メスを通すことができなかった」
車田「・・・」
落合「きみ、名前なんだっけ?」
車田「車田といいます」
落合「下は」
車田「蓮美です」
落合「蓮美さん」
車田「はい」
落合「今日はここまで来てくれてありがとう。」
車田「いえいえ」
落合「悪いが、実験を再開しようとは思わない」
車田「え」
落合「もうすぐうちのヒカリちゃんがウーロンティを持ってくるだろう。それを一杯飲んだら、さっさと帰ってくれ」
車田「そんな」
落合「万田くんにはよろしく」
車田「落合さん」
落合「机の引き出しには鍵をしっかりかけとけっていっとけ」
 落合、いすを整理して、そこにごろりと寝転ぶ
車田「落合さん!」
落合「(寝そべって目をつむったまま)ほかの店の子はどうか知らんが、ひとりあたりの休憩がここではこの三十分だけだ」
車田「はい」
落合「一回取ったら明日の朝九時までずっとフロアにいることになる。だからたいていこの時間で仮眠をとる」
車田「・・・」
落合「今眠らないと、体に響くんだ。」
車田「あ、貴重な時間をとらせていただいてるってのは重々承知しています。」
落合「(突然がばっと起きて)ほんとに?」
車田「ほ、ほんとに」
落合「(車田の目を見てまた寝そべる)どうなんだか」
車田「あ、昔のいやなことを思い出させてばかりでしたね。」
落合「マイナス九・五割、プラス○・五割」
車田「え」
落合「あのときの思い出の割合だ」
車田「・・・すいません」
落合「わかったなら、さっさと出て行け」
車田「出て行きません」
落合「(起き上がって)はあ?」
車田「だって・・・」
落合「?」
車田「ウーロン茶、のんでませんもん」
 落合、ため息ついて、起き上がるとハケ口に
落合「(外へ)ちょっとヒカリちゃん!」
車田「(祈る)ウーロン茶きませんように」
落合「(外)あれ?ヒカリちゃんは?・・・」
車田「ピッチャーでなみなみきませんように」
落合「(外)あ、ゆかちゃん、ヒカリちゃんは?」
車田「きませんように、きませんように」
落合「(外)え!分倍河原まで一緒にいっちゃったの?」
車田「いいぞ!そのまま山梨はいれ!」
落合「(車田に)おい!」
車田「わ!」
落合「いい、俺が持ってくる」
 落合ハケる
 そしてすぐに持ってくる
 落合、あまりのピッチャーの大きさによたよたしている
車田「デカ!」
落合「うちの名物、マックスウーロンティ・イン・ピッチャー」
車田「横文字が・・・くどい・・・」
 落合、ピッチャーを床において、グラスをピッチャーに入れ
車田「入れるんじゃなくて、汲むんですね!」
 そしてさっと車田の前に出す
落合「飲んだらすぐに行け」
車田「(差し出されたグラスをじっと見つめる)」
 落合、テーブルにたたきつけるように置くとまた寝そべる
 車田、一呼吸してから、一気に飲み干す
 落合、それを寝ながら片目でじっと見る
落合「いいのみっぷりだね」
車田「落合さん」
落合「ん」
 車田、ハケ口のほうへ
車田「あたしには覚悟があります」
落合「ほう」
車田「落合さんがうなずくまであたしはここから帰りませんから」
 そういいながら、車田、後ろでに、ドアノブに手をかけると
車田「ふん!!!!!!!!」
落合「ん」
車田「(絶叫)エイヤ!」
 車田、後ろでから前に
落合「ど、ドアノブ!」
車田「これがあたしの覚悟です!」
 落合、ハケ口のところにいき
落合「あ、あかな~~~い」
車田「これしかなかったんです」
落合「知るか!」
 落合、走っていって
落合「(ドア越しから外に)み、みんな助けて!」
車田「無駄ですよ」
落合「あん、(絶叫)ヘルプミー!」
車田「(大声)無駄ですよ」
落合「きみにいわれたかない!」
車田「今日は何の日ですか」
落合「クリスマスイブだろ!」
車田「フロアはこの店にしては珍しく満席。落合さんの同僚のかたがたもみんな席についてるし、さらには、イブ限定のショーも始まってる」
落合「ショーをやるときは大き目のボリュームでバックミュージックを流す・・・」
車田「落合さんのあんなはかなげな声が聞こえるわけがない」
落合「くそ!」
車田「さあ、とことん話し合いましょうや」
落合「(ため息)」
車田「落合さんが実験再開したら、しっかり弁償しますよ」
落合「拉致監禁までしてやるほどの話し合いじゃないだろう!」
車田「あたしの覚悟を認めてください」
落合「ほんとクレージーだよ」
 落合、うなだれて座る
落合「きみをここまで突き動かしているのはいったいなんなんだ」
車田「・・・」
落合「ドアノブをひきちぎるなんて・・・」
車田「あたしがこんなことをやってしまっているのは、つきつめれば落合さんのせいですよ」
落合「ふん・・・」
車田「・・・」
落合「あの論文を書いた俺が悪いってか?」
車田「あそこにはあたしの知らないひとつの世界がひろがっていました」
落合「・・・」
車田「繊細なタッチの文体に、鋭く、時には突き刺さるような事象報告。」
落合「・・・」
車田「百枚以上もあるのに、息つく暇もなくあっという間に読んでしまう。次回に期待大になってしまったのです」
落合「きみは漫画コンクールの審査員か?」
車田「だってそうだったんですもん」
落合「あのレポートだけでそんなに期待してしまったか。」
車田「いったいこんなレポートを書く人はどんな人だろう?あたしは図書館とネットを使って落合さんの足跡をずっとたどっていきました」
落合「で、ここに来たってわけか」
車田「はい」
落合「期待を裏切って悪いね」
車田「え?」
落合「俺はそんなにたいしたことはしていない」
車田「うそです」
落合「うそ?」
車田「実験の末期、落合さんは成功してますよね」
落合「・・・」
車田「二秒間だけ・・・心臓を動かすことに成功した」
落合「・・・」
車田「死体蘇生への決定的第一歩じゃないですか」
落合「・・・ったく・・・どこまで俺の研究は記録されているのか・・・」
車田「?」
落合「(車田をじっと見つめて)・・・それはマウスだ」
車田「え?」
落合「死後三日たったマウスの蘇生に成功した」
車田「そうすると次は人体実験ですよね?」
落合「もちろん俺もそうしたかった。」
車田「え」
落合「俺は心臓が動いたことを上にメールで報告した。報連相は社会人の第一歩なそうだからね。そしたら、次の段階へ行ってもいいが一週間ほど待ってくれって返事が来た。」
車田「いよいよですね」
落合「ああ。俺たちは毎日のように酒を飲んで次なる実験への期待感に胸をふくらませた。今日ここに来たきみのように」
車田「ありがとうございます。」
落合「だがその一週間後の土曜日・・・俺はいや、俺たちは頭に血が上る瞬間というのを自分の体でしっかり感じた」
車田「・・・」
落合「その日は朝から霧が濃くて、日曜以外にうちに来る調達用トラックがいつもより一時間遅れた。
俺たちは次なる実験に向けてみんなで綿密なディスカッションとシュミレーションを朝四時から繰り返していた。
・・・そのとき、毎晩の酒で二日酔いを越えた頭を切り裂くように研究所のチャイムがなった」
車田「・・・」
落合「俺たちは我先にと裏口に走った。
やっと人体実験ができる。
俺たちは異様にはしゃいでいた。
・・・調達の兄ちゃんが持ってきた白い発泡スチロールの箱・・・その中は・・・」
車田「(ごくり)」
落合「・・・豚だった」
車田「え・・・」
落合「上の会議でな、人間の死体を使うことに対しては慎重論が出たんだとさ。」
車田「で、でも、その豚さんを使って実験したんですよね」
落合「違う!丸焼きだ!」
車田「はい?」
落合「飲めや歌えのバーベキューパーティを敢行した!」
車田「ええええええ」
落合「そんなもん食うに決まってるだろ?人間だと思ったら豚なんだぞ!」
車田「いや、でもせっかくだから実験すればよかったじゃないですか」
落合「あの泥まみれの豚を見て、俺たちがどんなにテンションが下がったか!」
車田「ひどすぎますよ」
落合「おいしかったぞー、死んで三時間の豚トロは」
車田「せめて肩ロースだけにしといてくださいよ」
落合「次の日、研究員の三分の二が脱走した」
車田「逃げたくなりますわな」
落合「俺は急いでメールを打った。俺たちを馬鹿にするのもいい加減にしろ!早く次をよこせ!って」
車田「次がきたんですか?」
落合「一時間後、バイク便が来た」
車田「ば、バイク・・・」
落合「バイク便の兄ちゃんが差し出した箱の中は・・・」
車田「?」
落合「かえるだった」
車田「・・・ケロケロ」
落合「ここは・・・理科の実験教室か!!!!!!」
 落合、怒りの態度
車田「あ、あの、でも豚さんのことですけど」
落合「なんだ!」
車田「豚さんってよく人間の手術のシュミレーションや薬品のテストにも使われるじゃないですか」
落合「ベーコンと豚足でなにができるか!」
車田「あたし聞いたことあります。豚の内臓や血管、あとお肉はヒトの臓器の重さとか質感に限りなく近いって」
落合「ふん、モラルに負けただけだ」
車田「上のかたがたとしても、順序をしっかり踏んで研究していただきたかったんじゃないですか」
落合「見損なったな」
車田「え」
落合「お前さんまで『三国儲かりまっかカンパニー』の味方か」
車田「あ、あたしはあくまで素直な感想を言っただけです!」
落合「それじゃ間に合わないんだよ!」
車田「!」
落合「・・・?・・・なんだ?」
車田「間に合わない・・・?」
落合「!」
車田「なにをそんなに急いでいたんですか」
落合「・・・」
車田「上がハッパをかけていたんですか?」
落合「それはない」
車田「じゃあ、なんで・・・」
 落合、無言
 そして、ドアノブをとるとハケ口へ
 ドアノブをはめると
落合「(絶叫)まわれぇい!」
 開かない
落合「(ため息)」
車田「ドライバーとかがないとだめですよ」
落合「ぶっこわしといてよくいうよ」
車田「教えてください」
落合「・・・」
車田「なぜ、そんなに結果を急いだのか」
落合「・・・」
車田「・・・」
落合「きみさ、俺に研究再開してほしいんだろ?」
車田「はい」
落合「なら、その質問には答えないってのでどうだ?」
車田「え」
落合「だれにも知られたくないものってのがある。」
車田「結果を急いだのは知られたくない何かなんですか」
落合「・・・ああ」
車田「・・・」
落合「どうしても知りたいなら・・・」
車田「・・・」
落合「君が死んだら・・・君の体で蘇生実験してやるよ」
車田「!」
落合「あんな短時間でドアノブ外せるくらいだもんな。」
車田「へ・・・」
落合「こんな怪力女、いなくなったら世の中面白くないだろ?」
車田「あの」
落合「はい?」
車田「さっきなんっておっしゃいました?」
落合「こんな怪力女」
車田「わかってます」
落合「わかってるならいいや」
車田「違います、その前です」
落合「その前?」
車田「はい」
落合「君が死んだら、蘇生実験するよって」
 車田、落合の前スレスレに近づく
落合「ち、近いよ・・・」
車田「落合さん!」
落合「え」
車田「蓮美、死にまーす!」
落合「え!!!!」
 車田、離れて
 部屋の中を物色
車田「(鼻歌を歌いながら物色する)」
落合「な、なにをやってるんだね」
車田「死ぬんですよ」
落合「え」
車田「蘇生するんですよ」
落合「き、きみ・・・」
車田「はい」
落合「ほ、本気?」
車田「もちろん」
落合「今じゃなくていいんだよ」
車田「だってすぐに実験してくれるっていったじゃないですか」
落合「すぐっつったって、ここにはなんにもないじゃないか。」
車田「いいんです」
落合「蘇生したくても機械も薬も、なんにもない!」
車田「あたしが今から死にます。それを落合さんが研究所に運びます。そして実験開始、あたしは生き返る」
落合「研究所に運ぶっつったって、あのドア開かないじゃないか!」
車田「あ・・・」
落合「後先考えて行動しろよ」
車田「ケセラセラ」
落合「おい!」
 車田、いろいろ部屋をあさる
車田「(鼻歌を歌いながら)」
落合「おいおい・・・」
車田「延長コードとかないですか?あとナイフとか」
落合「休憩するための部屋だ。あるわけない」
車田「つまんないなあ」
落合「そういう問題じゃないだろ」
 車田、奥のほうに行く
 そこにはさっき、落合が寝ていたあたり
車田「(鼻歌)」
 歌いながらそのあたりをあさり始める
 そのとき
落合「触るな!」
車田「え!」
 落合、ダッシュでそのあたりへ
落合「・・・ここには・・・こないでくれ」
車田「?・・・どうかしたんですか?」
落合「あっち行け」
車田「なんでですか?」
落合「(かぶせて)さっさとだ!」
車田「なにかがあるんですね?」
落合「うるさい」
車田「なにを・・・隠してるんですか」
落合「なんでもない、夏場の衣装とか・・・あ~その、グラスとか」
車田「(じっと見る)」
落合「な、なんだよ」
車田「うそをついてますね」
落合「うそなんかじゃない」
車田「うそです」
落合「・・・」
車田「うそをつく落合さんは嫌いです」
落合「・・・」
車田「大嫌いです」
 車田、落合に向かうと落合を横にどかす
落合「やめろ!」
邪魔される前に車田、ベッドの上に手をかけ、上部をずらす
車田「ふん!!!!!」
  といって、落合止めようとするが・・・
 
 ふたはあいてしまう

 車田、中身を見る
車田「こ、これは・・・」
 そこには、冷凍された女性の死体があった
落合「・・・」
車田「この・・・遺体は・・・」
落合「・・・」
車田「この凍っている遺体はだれなんですか・・・」
 落合、だまって、その箱のそばに行く
 そして、箱の中の遺体に手を添えながら
落合「・・・かみさんだ」
車田「!」
落合「十五年間、この零度以下のカプセルの中で、もう一度立てる日を待ってる」
落合「君が読んだあの序論を書き始めたころに、ちょうど倒れてね。」
車田「・・・」
落合「マウスの心臓が動いたあのとき・・・天国に行った」
車田「・・・」
落合「俺の研究を初めて教えたのは今日と同じ・・・確かクリスマスイブだった。
新宿の高いホテルのレストランで、奮発してフレンチを食いながら話した。
たくさん話して・・・気づいたら、前菜のスープが冷めて油が浮いてたよ。
でも、ものすごく喜んでくれた。」
車田「・・・」
落合「研究を最後までやれなんていろんな人に言われた。その中でも、かみさんに言われたのが一番しみたよ」
車田「・・・」
 落合、遺体ケースに
落合「間に合いたかった。もっと早く人体実験できれば・・・」
車田「・・・」
 落合、ふたを閉める
車田「落合さん」
落合「?」
車田「奥さんの蘇生のために、あたしを使ってください」
落合「・・・」
車田「落合さん!」
落合「・・・無理だ・・・」
車田「(かぶせて)逃げないでください!」
落合「逃げてなんかいない!」
車田「あきらめてるじゃないですか」
落合「あの熱をもう一度あげるのは時間がかかる」
車田「すぐできますよ」
落合「え」
車田「実験をもう一度始めれば必ずあのときの感覚は戻ってくる。それに道具なんかいらないんですよ」
落合「そんな、どうやってやるんだ!」
車田「落合さんの気持ちしだいなんですよ」
落合「きもち・・・」
車田「どれだけ失敗してもぶんばってみようっていう気持ち。それさえあれば、できるはずです」
落合「精神論か?やる気だモチベーションだなんて聞き飽きたよ」
車田「じゃあ、あたしを殺してください」
落合「は」
車田「あたし思い出しました。自殺だと地獄に行くって」
落合「いつまで馬鹿話してりゃいいんだ!」
車田「馬鹿話だと思ってあたしを殺してください」
落合「え」
車田「落合さんの手で・・・あたしの首をしめてください」
落合「・・・」
車田「さあ、早く」
落合「・・・」
車田「大丈夫・・・もう一度生き返れるんですもん」
落合「・・・」
車田「信じてますから」
落合「・・・」
車田「落合さんのこと・・・」
落合「え・・・」
車田「ずっと・・・」
落合「・・・」
車田「ずっと・・・」
 そのとき
 落合、車田の首を絞める
 苦しむ車田
 落合、渾身の力を振り絞って締め上げる

 しかし

 落合、その首を持って一気に引き離す

 飛んでいく車田

 転がるふたり
ふたりとも、息が荒い
落合「で・・・できるわけ・・・ないだろ・・・」
車田「(咳き込みながら)なんで・・」
落合「(息荒く)」
車田「なんでできないんですか!」
落合「・・・」
車田「落合さんは・・・最後ばっかり見ている」
落合「・・・最後・・・」
車田「あたしを殺しても・・・どうせ実験が敗するだろうからって・・・失敗したときのことばかり考えてる」
落合「そんなことはない」
車田「石橋はたたきすぎても、だめなんです」
落合「・・・」
車田「やりたかったことをやめないでください!」
落合「!」
 
車田、立ち上がってドアのところに行く
そして、ハケ口に行き、ドアを軽く、押す
落合「?」
 ドアが開く
落合「な・・・なんでドアが開くの?」
車田「ドアを引こうとするから開かないんです。押せば開くんです。」
落合「・・・」
車田「落合さん、ほんとひとつのことしか考えないんですね」
落合「え」
車田「ま、そういう一本道なとこが落合さんのいいところでもあります」
 車田、ドアのそばに立つ
車田「さあ、どうぞ」
落合「・・・」
車田「そろそろ休憩おわりですよね」
落合「・・・ああ」
車田「明日の朝までがんばって働いてください」
落合「・・・」
車田「あたしは、明日もお邪魔します。」
落合「・・・迷惑だなあ」
車田「ハンズでドアノブ買ってきますから」
落合「・・・」
車田「自分でやったことは自分で責任取ります」
落合「・・・明日は・・・たぶん休みだ・・・」
車田「え」
落合「・・・ひさしぶりに研究所に行ってみるから」
車田「ほんとですか?」
落合「(奥さんの棺のところをふりかえって)あいつに・・・いつまでも寒い思いさせたくないからな」
車田「・・・がんばってください」
落合「・・・君には感謝しないとな」
車田「なんにもしてませんよ」
落合「たった三十分の間に・・・あのときの熱をちょっとだけ思い出させてくれた」
車田「・・・ちょっとだけだったか・・・」
落合「それでも十分だ」
車田「もっと汗が出るくらい熱くさせたかったなあ」
落合「出てるよ」
車田「(落合のおでこあたりを見て)・・・照明のせいでしょ」
落合「いや、暖房のせいだ」
車田「ああいえばこういう・・・」
落合「いいクリスマスプレゼントだった」
車田「あたしはなんにももらえなかったですけどね」
落合「ウーロン茶サービスしただろ?」
車田「これだけ・・・?」
落合「これだけでも感謝しろ」
車田「・・・はい」
  落合、はけようとする
 そのとき
車田「あの」
落合「なんだ」
車田「最後にひとつだけ」
落合「・・・どうぞ」
車田「あたしが今日ここに来たのは、実験の再開をしてほしいってことと、あと・・・落合さんに会ったら、絶対言いたかった言葉があったんです」
落合「ほう、ぜひ聞きたいね」
車田「・・・いえ、もう口に出してはいけないんです」
落合「ふん、なんだそりゃ」
車田「さっき、いいそうになったんですけどね・・・」
落合「さっき・・・?」
車田「・・・」
落合「?」
車田「奥さんがもう一度立ったら・・・あたしのぶんもプラスして、もっと・・・もっともっと大切にしてくださいね」
落合「?」
車田「・・・そういうことです」
落合「・・・」
車田「はい」
車田、ドアのところに立つ
車田「実験の成功を祈ってます」
落合「・・・ああ」
車田「今日はありがとうございました」
 車田、深々と礼をする
 落合、それを見ながらハケようとするが
落合「終電やばいだろ?」
車田「・・・」
落合「君から行きなさい」
車田「・・・はい」
 落合、車田を先に出させる
 落合、見送りながらカプセルのほうをじっと見る
 その気配で車田、止まる
 じっと見ている落合
車田「レポートはまだまだ書き足らないですね」
 落合、振り返る
 車田、見る
 
 そして、はけていく