ナツノアカリ
登場人物
菊池靖:民宿「沢木」主人:富士河千之介
菊池澄江:民宿「沢木」女将:本多美智子
富田林十三(丸井正直):放送作家:大森一
工藤悦子:オフィスプレエンタ製作部職員:可奈恵
及川直也:「沢木」の隣の農家:石井雄大
福沢茂道:探偵:笠原大史
山本聡:探偵見習い:荻野大地
スタッフ
作・演出:富士河千之介
照明オペレーター:厚木智
音響効果オペレーター:加藤真由実
制作本部:本多美智子・佐々木律
舞台部:荻野大地・笠原大史・石井雄大
製作著作
3man Office制作本部
「ナツノアカリ」パートナーズ
序章
きっかけの曲
暗転
ひとつのあかりがつく
そしてひとつひとつ順番にあかりがついていく
うっすら明転する
石井「さあ、今日もラジオの前のリスナーもご一緒に!花畑ヨシヒロの」
全員「ナイトランデブー!」
(拍手)
石井「さあ今週もやってきました月曜一時ナイラン!あらためましてこんばんは花畑ヨシヒロです。今日はねえ神宮前の喫茶店に行ったんだけどね、そこのエスプレッソがおいしくてさあ、リスナーのみんなにも紹介したいなって思って。場所は、原宿から歩いて・・・」
ノイズ大きくなる
本多「靖?ねだか?」
靖「・・・」
笠原「どうした?」
佐々木「靖の部屋がべっこうるさくてなは」
石井「今夜も三時までねるんじゃねえよ!一曲めはこんどのニ五日に出る俺のシングル『夏の灯り』!よろしく聞いてね!」
大森「こら靖。そろそろ寝ろ。」
靖「・・・」
荻野「明日は大事な明かり祭りだぞ!はやくねろ!」
本多「靖?」
笠原「靖?」
佐々木「靖?」
石井「はい、今日一枚目のおはがきは鹿児島県の坊ちゃんから!ヨシヒロ兄貴こんばんは!今日は面白いことがあってさあ・・・」
大森「靖?」
荻野「靖?」
みんな「靖?」
暗転
またあかりがひとつひとつ動いてはけていく
靖「父さん・・・母さん・・・」
第一章
ここは岩手県沢木町
県庁所在地である盛岡の隣、山に東西南北を囲まれた盆地の小さな町である
町の住民のほとんどが老人である、典型的な地方の過疎の町である。
名物といえば町の南方にある、沢木山。
岩手山と姫神山と早池峰山の次に高いとされ、県内はもとより東北各県、関東などから登山する客で夏は軽くにぎわう。
特に頂上近くの九十度近い絶壁「太郎壁」は、国内の山の中でも難所と知られ、毎年死傷者を出すくらいであるが、山にあこがれる登山家たちはそこを愛し、怪我したとしてもずっと挑戦し続けるという。
そのふもとに山の神を祭った沢木神社があり、そこの近くに民宿「沢木」はある
盆も近づくある日
暗転中
澄江「ありがとあんした。気をつけてお帰りくなんせ」
明転
澄江が外で客を見送っている
頭を上げると部屋の中へ
そこにすでに先日から四日ほど泊まっている富田林があくびをしながらイン
澄江「おはようがんす」
富田林「おはよ・・・」
富田林、イスに座って新聞を読み始める
澄江「朝ごはんは召し上がりあんしたか?」
富田林「(読みながらあくびしながら)ああ」
澄江「あ、また朝までお仕事?」
富田林「ううああ・・・」
澄江「先生は偉えですなあ。徹夜してもあだしの作ったパン、召し上がってくださるから」
富田林「食べやすくていいよね。」
澄江「うれす!」(嬉しい)
富田林「あれがごはんと味噌汁と、しょっぱいシャケだったら俺は食ってないかも。」
澄江「どうも。あ、朝のおぼんは、ぺっこしたら、お下げいたしあんすから」
富田林「ぺっこ?」
澄江「岩手弁で、少し、って意味です」
富田林「ぺっこ、か。ちょっと面白いな(すぐにメモに書く)」
澄江「もう四日も泊まってらっしゃるんですから、そろそろあだしだちの岩手弁にも慣れてもらわねと」
そのとき旅行かばんを持って、工藤イン
工藤「ごめんください」
澄江「あんら!えっちゃん」
工藤「澄江さん、おひさしぶりです」
澄江「今けってきたの?」
工藤「ええ」
富田林「おれが呼んだの」
澄江「ええ!」
工藤「いまは富田林さんのところで働いてるんです」
澄江「じゃじゃじゃ!狭い世の中だあ」
富田林「おう、俺のいない間に東京で面白いこと見つけたか?」
工藤「あ・・・」
富田林「お前なあ、将来俺と同じ放送作家なりてんだろ?」
工藤「はい!」
富田林「リサーチとか図書館回りで大変かもしんねえけどさ、常におもしろいことを探すアンテナはってろ」
工藤「はい!」
澄江「センセイこごは東京じゃなくて岩手でがんすよ。ゆっくりしてくださればそれでよがんす」
富田林「人生限られた時間しかないんだよ?そんなにゆっくりしてられっかって」
工藤「あ、じゃあ、企画書たくさんかけました?」
富田林「いやあそれがさあ、ここの朝飯のパンがうますぎて脳みそがまったりモードになっちゃって無理!」
工藤「十分ゆっくりしてるじゃないですか!」
富田林「ああ俺はもうすぐ低視聴率作家になっちまうなあ。もう、女将と民宿のせいだな!」
澄江「人と場所のせいにしないでくなんせ!」
そこに
そのとき福沢、山本イン
福沢「こんちは」
澄江「あら、ようこそおでんした。」
福沢「東京からきた福沢です。」
山本「山本といいます」
澄江「はい~、どうぞあがって待っててくなんせ」
一旦澄江ははける
ふたり宿に入ってくる
入ったあとに、及川も来る。中に工藤がいるので、そこでじっと見ている
富田林「工藤、アイス食いたいな。コンビニいってかってきてよ」
工藤「先に言ってくださいよ!来る途中に買って来たのに。」
福沢「そういえばコンビニ見たの何分前だっけ?」
山本「ええとですね・・・」
福沢「それぐらい覚えとけよ」
山本「はあ・・・」(この間に、富田林、サイフからお金を出しておく)
工藤「そういうお客さんはどのくらいか覚えてますか?」
福沢「五分と見た。」
工藤「残念、歩いて三十分」
福沢「ふん、東京と違ってここまでタクシーで来たから、距離感覚が狂ってしまってるなあ」
山本「そうですね」
福沢「わかんなかったくせしてだまってろよ」
山本「はい・・・」
工藤「ちょっと!相方さんにひどいんじゃないですか?」
福沢「相方?こいつ年上だけど俺の部下だから」
工藤「え?」
山本「そうなんです」
富田林「(お金を工藤に渡して)ほい!三十分かけて買ってきて」
工藤「え?ああもう!」
及川「悦子!(ダッシュでイン)」
工藤「直也!」
工藤、及川を見ると猛ダッシュではける
富田林「(その背中に向かって)おいアイス!」
及川「悦子はアイスでね!」
富田林「え」
及川「悦子に手出すな!俺の嫁だ!」
富田林「よ、嫁?」
ここで騒ぎを聞きつけて澄江イン
澄江「なに言ってら!おめが昔やったことわかっでらの?」
及川「まだその話がよー」
そのとき
靖「直也!」
靖イン
及川「靖さん!」
靖「先祖代々の田んぼさ携帯のアンテナ立てて家賃で設けようっていうやつにえっちゃんは守れねよ」
及川「好きで立てたんでねよ!携帯の会社がどうしでもっていうがら!」
靖「兄貴のつめの垢せんじで飲め!」
及川「勝と比べるなじゃ!」
福沢「あのー」
靖「おお、いらっしゃい」
澄江「うぢの主人です」
靖「民宿『沢木』の靖でがんす。ようこそおでんした。ゆっくりしてってけで」
福沢「はあ」
山本「よろしくお願いします」
澄江「これ(宿帳)かいてもらえます?」
福沢「はい(受け取って山本に宿帳渡す)お前書いといて僕の分も」
山本「はい(受け取って、サインし始める)」
澄江「靖さん、あどお願いしますね」
靖「ああ」
澄江はける
及川「じゃ、おれもいぐべ」
靖「おめはんは行くな」
及川「ええ~」
チェンジ
チェンジ
ここは民宿沢木の台所
先に工藤がやってくる
澄江「えっちゃん」
澄江、ボウルを持って出てくる。中にはパン生地が入っている
工藤「わ!(口に手を当てて)シー」
澄江「大丈夫だ。こごは靖さんでさえ入らねえとごだから」
工藤「そうですか・・・」
澄江、作る用意をする
工藤「なにやってるんですか?」
澄江「明日のパンの仕込み(こねはじめる)」
工藤「へえ」
澄江「どこもかしこも民宿っつったらごはんばかりだべ?今どきはこういうのも用意しねとだれもこなぐなるがらね」
工藤「そうなんですか。でも今お昼ですよね?さすがに早くないですか?」
澄江「ほんどは(こねて)夕方からやんだけど(こねて)このあとうぢの親見舞いに中央病院さ行ぐから。あ、えっちゃんもういった?」
工藤「いや荷物置いてから午後から行こうかなって・・・」
澄江「いっしょにいくべ。先に中谷内(なかやち)の停留所の前さ待ってて。」
工藤「え?このまま車にのっちゃだめなんですか?」
澄江「靖さん、あまりあだしが中央病院さ行くの、よぐ思ってねみたい」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「みんな、殺されて、あだしとえっちゃんの親だけなんとか生ぎてるでしょ?だがら、あだしも気がひけてなは・・・。」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「だがらそっと行こう」
工藤「わかりました」
澄江「ちょっとやってみる?」
工藤「はい!」
工藤、手伝い始める
澄江「しっかりこねてけで」
工藤「はい」
澄江「中さパンをおいしくするための菌が入ってる。(こねる)こねて鍛えてやんだよ」
工藤「家庭科でやりましたよ。イースト菌とかが入ってるんですよね」
澄江「うん。でも岩手ってネットで見たんだけど名は、フランスに空気が似てるんだって。だがらイーストでなぐて、米殻作っ酵母をつがってる。」
工藤「へえ」
澄江「
澄江「でもまさがあの作家先生といっしょに働いでるなんてなあ」
工藤「高校卒業してすぐ東京さ行って六年くらいいっしょですね」
澄江「小学生が卒業しぢまうくらいの時間いっしょだなんて。小説とか大変そうだなはあ」
工藤「小説っていうか富田林さんは、放送作家なんです」
澄江「放送作家・・・」
工藤「テレビ番組の構成したりとか、裏方さんなんです。業界じゃ五本の指に入る人なんですよ」
澄江「売れっ子さんだなは」
工藤「ラジオのはがき職人から放送作家になった成り上がりで。今は毎日何本もレギュラー抱えてるんですよ」
澄江「そんたに忙しいのになんでこんたなとこさ?」
工藤「有休余っちゃってて、社長が気を使ってあたしがここを紹介したんです。」
澄江「ありがとね。」
工藤「あ」
澄江「なに?」
工藤「アイスかってこいっていわれてたんだった」
澄江「これ終ったらあだしがかってこよか」
工藤「いいんですか?」
澄江「うん」
工藤「じゃあ、あまえちゃお」
澄江「いいよ。下積み大変だなは」
工藤「勉強ですねえ」
澄江「男作ってるひまもないってが」
工藤「当分要りません。」
澄江「直也あそごまでさげるぐれだもんな」
工藤「・・・」
澄江「でも今二十四くらいだべ?もったいねなあ。いっそのこと、太郎壁さでも登ってみる?」
工藤「え?」
澄江「あれ?忘れた?」
工藤「沢木神社の裏の太郎壁ですよね?」
澄江「うん。あの絶壁の太郎壁を登って、夜十二時に頂上にたどりつげば、願い事がかなうって話」
工藤「おばあちゃんから聞いたことあるようなないような」
澄江「今はそんな言い伝えも忘れられて、スポーツ感覚で、登る人だちばっかり・・・(そのとき人の気配を感じる)ん
」
工藤「?」
澄江「直也が来る!」
工藤「え!」
澄江「逃げて」
工藤、寸前で逃げる
澄江「こら!入るな!」
及川、入り口から顔だけ出す
及川「なんでわかった?」
澄江「ばがの匂いしたがら」
及川「ばがでねよ~、悦子来なかった?」
澄江「家さでも、けったべ」
及川「つまんねなは。家さ行ってみようかな」
澄江「行くついでにアイス買ってきて」
及川「めんどくせじゃあ」
澄江「買ってきたら会えるかもしれねよ」
及川「ガリガリ君でいい?」
澄江「ほれ(お金を及川に渡す)さ、行った行った」
及川「ホームランバーのほうがいい?ねえ・・・」
そのとき
山本「女将さん」
澄江「あら?よぐこごがわかったこど」
山本「なんとなく探してたらたどり着きました」
澄江「怖えなあ。」
山本「これ書きました(宿帳を渡す)」
澄江「(受け取って)はいはい。あ、体でけえし、力持ちでしょ?。これはこぶの手伝って」
山本「はい」
山本はいってきて机を運ぶ
及川「はいオーライオーライ。ピピーピピー」
澄江「直也!」
三人はける
チェンジ
チェンジ
澄江「はい(中身見て)あら、探偵さん?」
靖「探偵?」
山本「ああそんなたいそうな(ことはやってないです)」
福沢「(さえぎって)そうなんですよ。ほら今あの事件懸賞かかってるでしょ?」
靖「!」
澄江「ああ十五年前の?」
福沢「そうです。あと三日で時効でしょ。我々が真犯人をつきとめてみせます!」
澄江「じゃじゃじゃ!よくやりますねえ」
富田林「これだ!」
福沢「え?」
富田林「ああおれ、こういうのやってるんです(名刺を福沢に渡す)詳しく聞かせてもらえません?」
福沢「十五年前にこの沢木町で起きた殺人事件なんだけど(それはね、むかしむかし」
靖「澄江、宿帳」
澄江「はい・・・」
靖、宿帳を受け取ると、山本が書いた帳簿を抜き取る
そして丸めて福沢に投げつける
福沢「!」
靖「けれ」
福沢「はい?」
靖「けれ!」
福沢「え・・・」
澄江「『帰れ』って・・・」
福沢「え」
靖「賞金目当てで、来るバカはけれ!」
富田林「だんなさん、それはいくらなんでもいいすぎじゃねえの」
靖「おめはんも面白がってだな。宿変えるか」
富田林「え」
澄江「靖さん」
靖「どうせ金目当てだべ!ほれ!駅まで送ってってやる。裏さ軽トラとめてあっから」
福沢「やだよ。本気で来てやってるのに」
靖「親殺されたごともねくせに!」
全員「!」
靖「親なしでこごまで来た人生わがるのすか!」
澄江「靖さん!」
福沢「ちょっと待って」
靖「?」
福沢「だんなさんはあのときの・・・被害者なの?」
靖「!」
福沢「こりゃちょうどいい。ぜひ十五年前のこと聞かせてよ」
靖「・・・うるせでや!」
靖、はける
福沢「だんなさん!」
澄江「ああ、おもさげねがんす!これ以上聞かねでけろ!」
福沢「せっかくいい聞き込みになると思ったんだけどなあ」
山本「とりあえず荷物部屋に置いたら外に行きましょう」
福沢「勝手に仕切んなよ!」
山本「すいません」
富田林「で、どういう事件なの?」
福沢「今から十五年前の今頃、この沢木町の大人たちがいっせいに殺されたんです」
富田林「え?」
福沢「(手帳を見ながら)一夜のうちに、二二四人の大人たちがほぼ即死、二組だけ、かろうじて命だけは助かったんですが、かなりの重傷で」
富田林「そんなに・・・」
山本「ええ。当時は新聞一面や全国ニュースとかにも載ったんですよ。覚えてないですか」
富田林「ぜんぜん」
福沢「ええ?なにやって生きてたの?」
富田林「十五年前?高校生んときってこったろ?うーん、『ナイラン』しか頭になかった」
福沢「ナイラン?」
富田林「知らない?ラジオ、月曜深夜一時の」
福沢「あ、ま、まさか!」
ふたり「『花畑ヨシヒロの!ナイトランデブー!』
福沢「聞いてましたよ!僕の青春のバイブルですよ」
富田林「おれ、『ナイラン』のはがき職人だよ!」
福沢「ぺ、ペンネームは!」
富田林「『坊ちゃん』!」
福沢「神だ!常連の王様じゃん!」
澄江「あのひらがなで『くれおぱとら』って知らねすが?」
富田林「え、じゃんけんコーナー十週連続で勝ちこして・・・」
福沢「賞金百万もらったクソ強い女だったような・・・」
澄江「『ふぐイルカじゃんけん』!」(河豚海豚じゃんけん)
福沢「へい、ふぐ!」
富田林「あ!いるか!」
澄江「じゃんけんぽい」
みんな出すが、澄江が勝つ
男ふたり「まさか・・・?」
澄江「わ・だ・し」
福沢「うそ!」
澄江「花畑ヨシヒロの!」
三人「ナイトランデブー!イエーイ」
澄江「まるでリスナーの同窓会みでえですなあ」
福沢「お前は聞いてた?」
山本「『草柳シンのアメリカントップ一○○○』なら・・・」
福沢「古!」
澄江「ナイランの裏番組じゃねすか」
山本「僕にとっては面白かったんですが・・・」
福沢「お前ほんとからみづらいよな」
山本「すみません」
富田林「いや、でも三人も集まるなんて運命感じるよね。」
澄江「ほんどすなあ」
富田林「ヨシヒロがいなかったら俺は今の職業についてなかったし」
福沢「そうなの?」
富田林「うん、東京から急に鹿児島の実家に電話かかってきて、汽車賃局持ちで東京に行ったら、ヨシヒロが『おめえ、おもしれえから、作家になんねえ?』て誘われて」
福沢「すげえ!いいなあ」
靖「楽しそうだなは!」
靖イン
澄江「靖さん!」
靖「おめも浮かれでたな」
澄江「すまねす、ちょっとおもしろぐて」
靖「おめだぢ・・・うがれすぎだ」
手に猟銃が握られている
福沢「(それを見て高音で叫ぶ)
そして一目散に遠いところに逃げる
靖、追いかける
靖「これでも俺がら聞きてってが」
福沢「(叫びながら逃げる)」
靖「あ?これでもが!」
福沢「助けて!」
そのとき
山本、靖と福沢の位置に入り制する
靖「どけ!」
山本「(立ったまま)申し訳ございません!(ここで土下座して)本当に、申し訳ございませんでした」
福沢「お前出過ぎた真似すんじゃないよ」
山本「(かまわず)被害者の方とも知らず、うちの福沢のご無礼お許しください」
福沢「お前!ふざけんなよ!」
山本「福沢さん、謝りましょう」
福沢「なに!」
靖「おめはん」
山本「はい・・・」
靖「おめはんも、金目当てじゃねのすか?」
山本「決してそんなことは・・・」
靖「なに!」
そのとき
及川「大変だ!」
いきせききって及川イン
福沢「だれだよ!」
及川「(息切れ)あ、アイス」
富田林「なんでお隣さんが俺のアイス買ってくるの?」
及川「おめはんのアイスだてが!」
富田林「なんだかよくわかんないけどありがとう」
及川「どういたしまして・・・って我で買いに行けじゃ!」
澄江「直也!なにした!」
及川「今、あかり祭りの委員長とたまたまあっで聞いだんだけど」
澄江「委員長?ああ、布団屋が」
及川「そう、袖子田さん。明かり祭りの『カミコ』役・・・」
澄江「ああ」
及川「澄江さんさ・・・決まっだど」
澄江「は!」
靖「なに!」
及川「やべ!また靖さんいるの?!」
靖「なあ、あだりまえだけど、断っでくれだんだなは?」
及川「・・・」
靖「断っだよな?」
及川「断れねす!」
靖「バカ!」
及川「俺が決めたんでね!神社の三上さんが、神の言葉で聞いだんだど」
靖「三上さんが!」
及川「んだ」
靖「じゃじゃじゃ・・・」
澄江「靖さん・・なんじょにすべ・・・」
靖「・・・」
富田林「あの、なにがあったの?」
及川「ああ、あさって、沢木神社で十五年に一度のお祭りがあるのす」
富田林「十五年に一度の祭り?」
澄江「明かり祭り」
富田林「楽しそう」
靖「人殺し祭りな」
富田林「え!」
靖「その祭りの夜に・・・うちらの親たち・・・みんな殺された・・・」
福沢「あかり祭りは近隣の人たちも、ましてや全国的にも知られていない、秘祭奇祭の類のひとつだそうですね」
みんな「・・・」
福沢「ある民俗学者の本にそう書いてありました。僕はその祭りの中のなにかにも、殺しにつながる秘密があるんじゃないかとみています。ニ二四人も殺す、なにかが・・・」
及川「ん~とそれはなは・・・」
靖「だまってろ・・・」
福沢「なに隠してるんですか?」
靖「なにもね」
福沢「答えてください!」
靖「なにもねよ」
及川「澄江さん?カミコぐれえなら、そっていいんじゃねすか?」
澄江「ばが!」
富田林「カミコってなに?」
靖「知らなくていい話しだ」
福沢「知りたい話だ」
及川「ああもう!祭りの最後さ神様が人間さ移ってお言葉をそうの!」
澄江「直也・・・」
及川「すまねす・・・」
福沢「なるほど」
富田林「いたこみたいなもんだね」
靖「いっしょにすんな!」
富田林「!」
靖「こごは岩手だ。沢木村だ。恐山といっしょにすんな!」
富田林「すまん・・・」
靖「カミコは神様じゃね・・・人殺しの・・・悪魔だ・・・」
みんな「・・・」
靖「十五年に一度の、悪魔を喜ばせる祭り・・・それもその役が・・・なんで澄江さ・・・・なんでそっただのやらなきゃならねんだ!」
澄江立ち上がると
澄江「三上さんところいって、断ってくる」
及川「だめだじゃ!一度決まったら変えられねよ!」
澄江「無理だじゃ!」
そのとき
工藤「(息を切らせて)大変です!」
澄江「今度はなんちょした?」
工藤「神社のご神体が・・・なくなったって!」
及川「はあ?」
工藤「ないって!」
及川「困るでや!ご神体ねば、澄江さんがやる『カミコ』に神様移ってこねじゃ!」
暗転
第二章
暗転中に
富田林「(電話。声のみ)あ、おはようっす。富田林っす。あのカメラとD、なんとかななんないすか?」
(D→ディ。ディレクターのこと)
明転
富田林、応接間で電話してる
社長「(声の出演のみ)無理無理。ねえデントンちゃん、あんた今日何の日だかわかってる?」
富田林「えっ・・・」
社長「ヨンパチよ、ヨ・ン・パ・チ」
富田林「そだ!あちゃ~四八時間テレビかあ・・」
社長「デントンちゃん、テレビみてないの?」
富田林「見てるんすけどこんなクソ田舎で仙人みたいな生活やってたら、東京の流れに追いつけないですよ」
社長「あ!まるであたしが岩手なんかに行かせたのが悪いみたいな言い草じゃないの!」
富田林「冗談すよ。で、なんとかカメラマンだけでも無理すか?」
社長「みんなお台場とか全国に散らばってんのよ。企画書出したわけじゃないしできるわけないじゃん」
富田林「二日間も生放送やってるわけっすよね?そこで緊急生激撮!時効寸前まで完全密着!どうすか!数字見えてくるじゃないすか!」
社長「うちはバラエティを作る会社なのよ。そこまで本気でドキュやりたいわけじゃないし(それにあんただけよ)」
富田林「あ、お台場のPはだれすか?電話してかけあってみます。」
社長「お台場は国立さん」
富田林「国立っちゃん!OK!おつかれっす」
社長「あもしもし!もしもし」
富田林、一気に電話を切る
急いでかけなおして
富田林「しもしも~?おつかれちゃん国立っちゃん。」
国立「おう富田林、なに?」
富田林「あのさ、今岩手にいんだけど、十五年前にここで起きた大量殺人事件って知ってる?」
国立「ああ俺が報道いたころハイパーニュースで特集組んだ。事件当時二十歳以下だった町の生き残りの中に犯人がいるって県警が調べたんだけど見つかんなくてだめだった」
富田林「どうせ初動捜査が『ずさん』だっただけだろ?」
国立「うん。見事にみんなアリバイがあってね。ついには隣の盛岡や滝沢,、雫石の要注意人物にまでローラーかけたんだけど『お宮』いりになっちゃったんだよね」
富田林「俺その岩手に今いんだけどさ、ヨンパチで時効まで密着ってどう?」
国立「なるほど、いいね」
富田林「よっしゃ食いついた!こっちもグッドタイミングでさあ、犯人を絶対捕まえてやるっていうコナンみてえな探偵とさ、容疑者呼ばわりされてる男いんだよ!」
国立「わかった。すぐ企画書メールして」
富田林「んなの今から書いたら時効切れちゃうよ!国立っちゃん元報道局だろ?なんとかしてよ!」
国立「俺はPだけどさあ、さらに上がなんっていうか。」
富田林「相変わらず優柔不断だなあ」
国立「Pよりも偉いやつがたくさんいんだよ。そんな生中継してほしいなら、ネット局の岩手わんこそばテレビにかけあってみてよ」
富田林「それじゃわんこそばテレビの得にしかなんないよ。カメラだけでも送って」
国立「ええ?じゃ、そこの住所教えてよ」
富田林「じゅ、住所?」
国立「そうだよ。送れなきゃ意味ないじゃん」
富田林「あ、そっか、えっと~ああそこまで知らねんだった。どうしよ・・」
そこに
靖が通りかかる
富田林「(電話)あ、ちょっとまって(靖に)だんなさん!ここの住所教えてください」
靖「あ?」
富田林「住所!」
靖「なんで」
富田林「いいから!」
靖「あやしでや」
富田林「ああもう!ちょっと荷物送ってもらうんで」
靖「・・・岩手県沢木村堀端・・・」
富田林「ああ!待って待って(電話に)行くよ、岩手県沢木村堀端」
靖「99」
富田林「まってよ、99・・・(ここで携帯が切れる音)あれ?もしもし?」
靖「?」
富田林「切れやがった!くそ!(携帯をぶんぶん振る)」
靖「電波が入りにぐってあんだがここさ来たときからそってるじゃねすか」
富田林「(電波の入りそうなところ画面見ながら探して)わかってるよ!」
靖「うちの電話でもつかいあんすか?」
富田林「え・・・」
靖「電話、うちの使って」
富田林「いいの?悪いね」
靖「使っていい代わりに、事件のことさ首突っ込むのやめて」
富田林「!」
靖「あんだ、見世物にしよどしでる」
富田林「そんなつもりはない」
靖「時効まで生中継だおんな?」
富田林「わかってくれよ俺の仕事!」
靖「人の不幸でメシ食えてらの?」
富田林「だんなさんにとっちゃ不幸かもしれんけどこの事件を知りたいと思う人もいる。その人のためにもがんばるのが俺たちの仕事だ」
靖「人間は生きてくだけでいいんでないの?」
富田林「・・・」
靖「犯人つかまろうが時効成立しようが面白ぐもつまんなぐもが関係ね。命が消えるまで、普通に生きてれば(いいんでねのすが)」
富田林「面白いことを探さないと俺は生きていけないんだよ!」
靖「面白いことは人の不幸すか!」
富田林「誰かが傷つけば誰かが笑う!そんな毎日じゃないか!」
靖「!」
富田林「昨日笑われてえんえん泣いたやつが、今日になったら誰かを見てげらげら笑ってる、喜怒哀楽があるから人間なんじゃないか?他の動物に喜怒哀楽が出せるか?」
靖「!」
富田林「人が面白い見たいってやつを作るのが俺にとって生きてることだ。それを取ったら生きていること自体無駄だ」
そこに山本がイン
山本「どうしました?」
靖「・・・なんでもねす」
山本「・・・」
富田林「すいません、言いすぎたかも・・・」
靖「・・」
富田林「電話借ります」
富田林はける
靖「あんだはどう思う?」
山本「はい?」
靖「おれのごと・・・」
山本「・・・」
靖「疑ってらのすが?」
山本「・・・」
靖「素直に疑ってらってそえばいいのに」
山本「だんなさん」
靖「?」
山本「僕が言うのはなんですが、あまり人に対してつっかかってばかりいると、本当にひとりになってしまいます」
靖「・・・」
山本「ひとりで生きていくほどつらいものはありません。もっと・・・もっともっとやさしくなりましょうよ」
靖「やさしくなんかなれねよ・・・」
山本「・・・」
靖「ただ寝てただけなのに・・・他の親も死んだのに俺ばかり疑われて・・・」
チェンジ
チェンジ
ここは工藤の家の前
工藤「(電話しながらイン)急ぎですか?わかりました。すぐ行きます(電話切る)」
工藤がかばんを持って出かけようとする
そこに福沢イン
福沢「お時間はとりません(名刺渡して)昨日澄江さんと何はなしました?」
工藤「急がないと怒られちゃうんでごめんなさい」
はけようとする工藤
福沢「いつまでもひきずってんじゃないよ」
工藤「!」
福沢「あの及川という男、そして高校の卒業式あとのある出来事、それらに縛られてる限りあなたは成長しない」
工藤「・・・」
福沢「我々男性というものにちょっとは心を開いてもらいたいですね」
工藤「あなたにわかりますか!直也に過去も未来もズタボロにされたあの悔しさ、あの痛み、絶望!」
福沢「わかりません男だからです」
工藤「最低ですね」
福沢「最低で結構。」
工藤「開き直ってる。やっぱり男はみんな直也と同じなんですね。」
福沢「いいから答えて!」
工藤「!」
福沢「少なくてもおれはあの及川直也とは違います。一緒にされるのは大変不愉快。」
工藤「・・・」
福沢「ズタボロにされたなら、自分で修復して未来を歩けばいい。うちの探偵事務所の未来はこの事件を解決するか否かにかかってるんです」
工藤「懸賞金にでしょ」
福沢「もちろん」
工藤「けっこう正直な人ですね」
福沢「昔からよく言われます」
工藤「・・・澄江さんとはただのおしゃべりです。あとはパン作るの手伝っただけですよ」
福沢「それだけじゃないでしょう。少しでもいいから教えてくださいよ」
工藤「あたしの証言だけで犯人は捕まるんですか?」
福沢「あなただけでは無理でしょう。でもあなたがもし犯人なら・・・」
工藤「疑ってるんですか?」
福沢「あの事件当時は八歳か九歳くらいでしょ?余裕で人を殺せます」
工藤「(ため息)あのときは・・・親のことでいっぱいいっぱいでした」
福沢「(メモを見ながら)確か澄江さんの親と同じ中央病院にいらっしゃるんですよね?」
工藤「今はそう。あのときはお祭りのクライマックスみたいなとこで親といっしょにライトを振っていたんです。そしたら急に親がうずくまって・・・見たら背中から血がブアって・・・」
福沢「なるほど・・・(メモる)」
工藤「あ、そういえばお医者さんが言うには、傷がものすごく細くて縦に深く入ってたって・・・」
福沢「へえ・・・(メモる)」
工藤「包丁とかメスとかそういうのよりも細くて深くて・・・そんな凶器があったとしても見たことがないっていってて・・・」
福沢「現実じゃありえない、と?」
工藤「ええ。」
福沢「岩手はそういうの多いですよね。昔話だ、伝説だって。」
工藤「沢木の間引き伝説は知ってますか?」
福沢「いえ」
工藤「あの事件を追ってるならその辺も調べたほうがいいですよ」
福沢「教えてくださいよ。いじわるしないで」
工藤「お断りします。」
福沢「!」
工藤「うちの富田林がこういってました。わからないことを自分で図書館に行って調べないようなやつには魅力がないって。」
福沢「魅力ねえ」
工藤「失礼します」
福沢「作家先生のところに行くんですよね」
工藤「なんでわかるんですか?」
福沢「いきましょう」
工藤、一瞬ためらうが
いっしょにはける
チェンジ
一方こちらは宿
ごそっと、及川が入ってくる
及川「悦子~、悦子いないかあ」
そこに富田林がイン
及川「わあ!たまげた!」
富田林「なにしてんの」
及川「いや俺の嫁っこ来てねえがなって」
富田林「工藤?ああ、もうすぐここに来ると思うよ」
及川「んだか?なら待たせてもらうべ」
及川、勝手に座る
富田林「ねえほんとに結婚するの?」
及川「あだりまえだあ。ちっちぇころからずっと好きだったおん」
富田林「不器用だし、暗いし、たまに何考えてるかわかんないやつだよ?」
及川「器用だし、明るいし、なんたってめんけえ!」
富田林「恋は盲目だな・・・」
及川「並みの男には悦子の良さがわがんねのよ。あ、今度大吉の日知ってる?その日に悦子と式あげてんだけど」
富田林「(カレンダー見て)明日だなあ」
及川「明日かあ。よりにもよって明かり祭り当日が大吉だなんてなは~、こりゃおれだちが間引かれる」
富田林「間引かれる?」
及川「昔々な、沢木では十五年おきに飢饉が起きてなは。年貢収めたら町の人たちが食う米もなぐなっちまった。そこで考えたのが、人口が減れば米は食えるってこと。他の村だとこれから生まれてくる赤ん坊を殺したっつけど、沢木では大人を殺したのす
富田林「こわいなあ・・」
及川「んだがら明かり祭りは間引きされた霊を慰めるためにはじまったのよ」
富田林「もしかして今年も殺されるの?」
及川「ばがだなあ。今の世になってからはだれも殺されねえ。カミコ様のご神託と明かり歩きだけ残ってるのよ」
福沢「でも、十五年前は殺されたよね」
ふたりふりむく
福沢がいる
その影には工藤
及川「おあ悦子!ひまなら大釜のイオンさいくべ!」
工藤「・・・(福沢の影に隠れる)」
及川「おめはん邪魔だ。もう悦子~、スターバックスでキャラメルマキアート飲みながら話こすんべ!なあ!」
工藤、はける
及川「悦子!」
福沢「(後ろから及川の肩をたたいて)わかるよその気持ち」
及川「おめはんにわがられたぐね!」
福沢「恋愛ってもんはやっぱり順序をふまないとねえ。いきなり体の関係から入るからこういうことになるんだよ」
及川「!」
福沢「あんた、猿以下だ。」
及川「おめ!」
及川、福沢の襟首つかむ
しかし福沢軽がると及川を投げ飛ばす
及川「いで!」
福沢「(服を調えながら)ああいう男性恐怖症を増やすのは罪だ」
及川「好きだからほしかったんだ!」
福沢「体を奪ったからって自分のもんになるわけじゃない。逆に女は遠ざかる。イマドキの小学生でもわかる」
及川「お、!おれは、悦子が好きだ!」
福沢「まだ言ってる・・・」
及川「小学校のころからずっと好きだ!おれはいつでも本気だ!
富田林「ああもうやめようよ?」
福沢「集団お見合いでもしなよ」
及川「!」
福沢「あんたにゃそれがお似合いだ。先生、いきましょう」
富田林「え?ああ」
ふたりはける
一人残される及川
地面を握り締める
悔しさ
自分の思い通りになれない
好きなのに避けられる
伝えられない気持ち
それらが入り混じって一定の点に達したとき
及川「!」
ポケットの中身に気づく
それは白い粉
及川それを見つめる
ひとつの思い
そして走っていく
澄江イン
澄江「ただいま・・・」
靖イン
靖「なんちょだった?」
澄江「・・・今夜七(なな)時に神社さ来てけでって・・・」
靖「だめだったが・・・」
澄江「すまね・・・すまねす・・・靖さん」
靖「・・・」
澄江「あの日、三上さんが寝てらったら、朝の四時くれえに雪みだいに真っ白い猫入って来で、枕もとであだしの名前そって、サーッて、いなぐなったんだって・・・」
靖「猫・・・」
澄江「夕べのうぢに焼いたパンと酒っこ持って、ずっと話ししたんだけど・・・神様のお告げだってゆずんねくて・・・」
靖「猫が・・・」
澄江「靖さん?」
靖「俺も見だ・・・おれの前、しゃーって横切って・・・
澄江「ああああ」
靖「澄江、正直にそってけろ。おれが十五年前のカミコでねが」
澄江「違いあんす・・・」
靖「ほんとは澄江の家で寝てたんでね・・・俺がカミコさなって親とか殺したんだべ・・・」
澄江「違う」
靖「証拠は!」
澄江「あだしが証拠だ!いっしょに絶対いだんだ!信じねのすが!」
靖「・・信じたくても・・・信じられね・・・」
澄江「なんで!」
靖「親、生きてでいいなは・・・」
澄江「!」
靖「俺は親に話しこしたくてもいねし・・・それに比べで澄江は中央病院さいげばいづでも会える」
澄江「・・・」
靖「週何回か病院さいくべ?心配そうな顔してほんとは、親さ会えるの楽しみにしてらべ!」
澄江、靖の頬を張る
澄江「・・・そっただのおもわね!」
靖「!」
澄江「あだし・・・カミコやるがら・・・」
靖「・・・」
靖「勝手にしろ・・・」
澄江「(靖を見つめる・・・)」
靖「(見つめ返す)」
澄江、はける
靖残る
山本パンを持ってイン
靖山本の気配にあわてて繕う
靖「やなとこ、見られだな」
山本「(パンを置いて)・・・追いかけないんですか?」
靖「・・・だってこのあとの予約の人だちもいるし」
山本「そんなのどうだっていいじゃないですか」
靖「!」
山本「だんなさんは、生きている今をどう考えてますか?」
靖「?」
山本「よく、人は生まれてくるときと死ぬときはひとりだといいます。死ぬときがひとりなら、生きている間は自分以外の人を大切にしなければならないんじゃないでしょうか」
靖「あんたは他人にやさしすぎる」
山本「そうかもしれません。自分を見つめるのと同じくらいに、そばにいてくれる人を見てあげてください」
靖「あんだ・・・」
山本「お気を悪くしたらすいません、失礼しました。」
山本はける
靖はひとりでパンを見る
考える
チェンジ
チェンジ
富田林と福沢、工藤がやってくる
福沢「ついた!」
富田林「これが沢木神社?」
工藤「そうです」
福沢「思ったよりもちっちぇえ神社だな」
工藤「ちょっと猫神様の前に失礼じゃないですか?」
富田林「猫神様?」
工藤「沢木神社は猫を祭ってるんです」
富田林「面白い!狐じゃなくて猫なんだ。国立っちゃんが送ってくるスタッフにもここから撮ってもらおう」(携帯をかける
福沢「かわったもん祭ってるよね。ほんと岩手ってそういうのがすきなんだよなあ」
工藤「そんなに岩手をバカにしてると猫神様のバチがあたりますよ」
福沢「あたれるもんならあたってみろってんだよ。ご神体ないのに」
工藤「う、そうだった・・・」
富田林「しもしも?国立っちゃん」
国立「(声のみ)なんだよ!今けっこう手はなせないんだけど」
富田林「(声のみ)悪いね、スタッフの子たち送ってくれた?」
携帯切れる音
富田林「んだよ、つまんねえな」
福沢「そうだ、テレビ映るんだよね(そういいながら格好を気にし始める)」
富田林「ああ今頃新幹線乗ってるぞ!着たらすぐにやろう」
福沢「緊張するなあ」
工藤「そんなに気にしても写るのはちょっとなんですよ」
福沢「そうなの?」
工藤「あなたばっかり映したところでつまんないですから」
福沢「あのね、俺の才能あふれる解説とか推理が見せ場でしょ?そういうのがなかったら番組も面白くないでしょ」
工藤「視聴者はもっと違うものを期待してると思いますけど」
福沢「君みたいな人が間引きされればいいのにね」
富田林「あ、あんたも間引き知ってるの?」
福沢「この子が教えてくれないんでね、急いでネットで調べましたよ」
富田林「図書館じゃないんだ」
工藤「やっぱり魅力ないんですね」
福沢「ネットは図書館の情報量を凌駕してますからね。」
富田林「リサーチとしては間違ってるなあ。ネットはウソものっかってるんだよ?」
福沢「いろいろな要因から調べるのが探偵の仕事ですから。」
工藤「あ、そういえばネットでおもしろいのみましたよ」
富田林「どうせうそなんだろ?」
工藤「でも聞いてくださいよ。今いる人類の中に、間引きを専門にする人間がいるっていう話」
富田林「間引き専門?」
工藤「そうなんです。今は少子化なんていわれてますけどやっぱり日に日に人間って増えているんですよね。で、世界的に見ても食料ってものは限られた量しかないんです。もちろん死亡する人間もいるんだけど追いつかなくて。そこで、これ以上人間が増えないように殺していく人間というものを神様がもともと作っていたっていう話」
福沢「また、神様か」
富田林「神様話だとウソ多いからなあ。間引きする人間ってのは、殺し屋とかそういう人だろ?」
福沢「職業じゃなくて、本能で人を殺すっていう感じなんですって。だから罪悪感もなければ、別に精神が狂ってるわけでもない。でもその間引き人間たちがいるおかげで、人類が増えすぎるのを全体的にコントロールしてるっていう」
福沢「コントロールねえ」
工藤「たとえば、未解決の殺人事件って世界的に見てもけっこうあるんですよ。そういうのこそ、その間引き人間たちがやってるかもしれないって考えると」
富田林「話としては面白いね」
福沢「認めませんよ。それ認めたら俺ら探偵の存在意義がない」
工藤「そうですか?」
福沢「もう神様だどうだとかいう話勘弁してくださいよ。うんざりだ」
富田林「でももしそんな人間が隣にでもいたら、怖くて寝れねえなあ」
福沢「隣といえば、実はあの及川っていうお隣さんを第一容疑者にあげてるんですよ」
工藤「直也が?」
福沢「あなたと同い年でしょ?あの歳なら当時でも簡単に人が殺せる」
工藤「・・・直也になにかしたんですか?」
福沢「今朝会ったときに軽く、奴の劣等感と自己顕示欲を刺激しておきました。」
工藤「そんな、あいつを刺激したら、手がつけられなくなりますよ」
福沢「お祭りにかこつけてだれか狙うかもしれませんね。でもそんなことはさせる前に現行犯逮捕ですよ」
工藤「・・・」
福沢「あなたはあいつにすべてを奪われた。このままでいいんですか?」
工藤「それは・・・」
工藤、先に走り始める
富田林「おい!」
工藤はける
富田林「あんた、工藤の何を調べたんだ
福沢「別に?たたいて出てくるほこりは誰しも持ってますから。それを調べただけです」
富田林「あんた・・・
福沢「いきましょう」
はける
暗転
明転
ぽつんと座っている澄江
そこに及川がやってくる
及川「カミコやってくれるってほんと?」
澄江「(止まる)」
及川「ほんとすか?」
澄江「(うなづく)・・・だども・・・」
及川「あ?」
澄江「明かり祭りやれるの?」
及川「(じっと澄江を見つめたまま)」
澄江「あだしがカミコやるのはいいよ。だども、ご神体ねのに、なんじょにカミコやるって・・・」
及川、澄江を見つめたまま、ポケットから袋を取り出す
それは透明なビニール袋に入った白い粉(本番では小麦粉か片栗粉使用のこと)
澄江「おめ!!」
及川「(手ぬぐい(ハンカチ)に白い粉を適量出して広げ始める)」
澄江「ご神体の・・・神様の骨でねが!」
及川「(作業しながら)んだな・・・」
澄江「まさが直也・・・」
及川「(作業しながら)盗んでねえよ。」
澄江「盗んでねなら、なんでおめはんが持ってらの!」
及川「(粉作業しながら)俺、実行委員だがらさ、三上さんからご神体、分けてもらってだの」
澄江「そんな!」
及川「ほんとだよ。なにがあっても明がり祭りはやる。俺以外の実行委員も持ってらしな」
澄江「三上さんがそんたなことするわけねべや!正直にしゃべれじゃ!」
及川「(粉作業完了。粉を見つめてから)きれいな骨っこだあ・・・これなら吸っても痛ぐねべ」
澄江「やめろじゃ!」
及川、軽く顔を近づけて粉を吸う
及川バッと顔を離す
及川粉に軽くまみれた、ぎらぎらした目で見つめている
及川「(深々と呼吸をする。見つめながら)」
澄江「なおや・・・」
及川「(澄江をにらんで手ぬぐいを構える)ぺっこ鼻ツンってすんだげだがら怖がらねくていいがら・・・。」
澄江「あ・あああ・・・!」
及川「(てぬぐいをかまえて低音で)。カミコになってもらわないとな、さあ!」
及川襲いかかる!
そこに山本ダッシュで入ってくる
及川をはがいじめにする
及川「(低音で)離せ!」
山本「(はがいじめ)」
及川「(普通の声で)離せでば!」
山本「警察に突き出してもいいんですよ!」
及川「なにもしでねってば!」
及川、ふりほどく
及川「痛でじゃ!じゃんごたれが!」
山本「女将さんに何しようとしたんですか!」
及川「なにもしでねよ~。」
山本「そんなふうには見えなかったです」
及川「そうか」
山本「?」
及川「そうか・・・」
そういいながら影で及川、鼻を手ぬぐいに近づける
澄江「(それに気づいて)あ!」
及川「(低音で)澄江!神社で待ってるぞ!」
澄江「ああああ・・・」
及川「(絶叫)今夜は祭りだ!十五年ぶりの間引きだ!」
山本、及川に突進しようとする
しかし、澄江がぎゅっと山本を抱きしめる
山本「女将さん!」
澄江「あああああああ」
及川「カミコになれ!」
手ぬぐいをもってふりかぶる
そのとき
工藤「直也!」
及川「(止まる)」
工藤「・・・やめよう・・・やめようよ・・・こういうのは」
及川「・・・」
工藤「あんたは直也だよね・カミコじゃなくて・・・」
及川「違う・・・」
工藤「骨吸ったからってカミコにはなれないよ。選ばれた人しか・・・なれないんだよ。」
及川「・・・おれは・・・カミコだよ・・・」
工藤「じゃんごたれ!バチあたりめが!」
及川「・・・」
工藤「猫神様が・・・怒るよ・・・」
及川「・・・」
澄江「おめ・・・直也のままなのが・・・」
及川「(がっくりと)・・・おれは・・・ばがでも弱虫でもね・・・悦子に好かれてえ・・・強くてカッコよくなりてくて・・・」
工藤「ばが!」
そのときすっと福沢がイン。
及川を後ろ手に取り
福沢「はい第一容疑者確保」
富田林「話を聞こうかお隣さん」
三人はけようとする
しかしそれを振り切って及川逃げる
富田林「まてこら!」
富田林追いかける
山本「歩けますか?」
澄江「(うなずく)」
山本「送ります」
山本手を澄江に差し出す(このとき同時に工藤にも電話がかかってくる。工藤、電話出てはける
しかしにぎらない
澄江「帰らないよ」
山本「?」
澄江「帰れね・・・靖さんをなぐってしまっただ」
山本「女将さん・・・
澄江「(すっと立つ)神社さ行がねえど・・・。」(歩き始める)
山本「そんな体じゃ無理ですよ」
澄江「カミコさなって証明してやんだ・・・ほんとの神様は間引きなんかしねって・・・」
福沢「間引き・・・」
澄江「(振り返って)靖さんが・・・十五年前のカミコなのす・・・」
澄江はけていく
チェンジ
ここから二画面クロス
部屋でひとりぼっちの靖
手前、外舞台
富田林、イン
疲れて、ひざまずく
富田林「あいつ・・・どこにいきやがった・・・」
富田林、持ってきた携帯をふり始める
富田林「よし、なんとかつながる・・・」
民宿沢木に入電
靖出る
靖「澄江が!」
富田林「おれです。富田林」
靖「あんたが、澄江みだが?」
富田林「猿橋の近くにいた。」
靖「やっぱり・・・」
富田林「それよりこっちは大変なことになってるぞ、あんたの隣の家の人、発狂して逃走中だ」
靖「直也が?」
富田林「ああ。このままだと本当に十五年前の再現になるぞ」
そのとき急にノイズが入る
富田林「もしもし?もしもし?」
靖「もしもし?もしもし?」
富田林「んだよ!こんなときに!」
靖「もしもしもしもし」
大きくなるノイズ
そのとき
工藤「(声のみ)そんなこといえません・・・」
富田林「(気づいて)!工藤・・・」
工藤「そんなこと・・・いえません」
社長「いってみなさいよ」
富田林「社長?」
工藤「いえません」
社長「(ためいき、そのあと声のみ)いやんなっちゃうなあ、いえないなんて・・・」
工藤「・・・」
社長「(声のみ)最近面白くないなんて・・・いえないか」
富田林「!」
社長「(声のみ)あいつはもうペンネーム坊ちゃんでも富田林十三でもない・・・ただの本名の丸井正直になっちゃってるんだと思う」
工藤「(声のみ)でもそういうのは変化だと思います。常日頃から面白いことを考えて、そしてたどりついた結果と変化ですよそれも」
社長「あんなので?」
工藤「社長はしらないかもしれませんが、こっちでも企画書はたくさん書いてます。今度の殺人事件に密着するのもただ面白いってだけじゃなくて真実の中の面白さを模索しているんです。こういうのに視聴者は興味をひかれるんじゃないでしょうか」
社長「わかった。せいぜい一生模索してればいいわ」
工藤と富田林「社長!」(シンクロ)
社長「悪いけど、国立さんにはスタッフ送るのとめてもらったわ」
富田林「おい!」
工藤「そんな!」
社長「(声のみ)棲み分けって知ってる?優秀なドキュはどっかの優秀な制作会社が作ればいい。あたしたちのフィールドじゃないから。そこまでする気ない」
工藤「そんな・・・」
社長「(声のみ)そうだ。そろそろあんたもリサーチャー修行終わりだったわよね。テンドンちゃん担当番組をひとつ持ってみる?」
工藤「そんなのできません」
社長「(声のみ)そ?ならバイバイ」
工藤「!」
社長「(声のみ)今ね、よければあんたに速達でおくろうって思ってた新幹線のチケット・・・ほーら・・・シュレッダーしちゃった」
工藤「(声のみ)社長!」
社長「お台場にはリサーチャーの田中君を作家に昇格させとくね。テンドンちゃんにも教えといて。んじゃね」
工藤&富田林「社長!」
富田林「社長!おい!社長!おかま!おい!・・・」
大きくなるノイズ
富田林、ばたりと
富田林「・・・」
靖「もしもしもしもし」
富田林「・・・そんな・・・そんな」
靖「俺も聞げだ・・・」
富田林「!」
靖「俺の耳さも聞けた・・・あんた・・・東京に帰れねってが・・・」
富田林「・・・」
靖「あんだ!」
富田林「わかってたような気がする」
靖「は」
富田林「俺・・・もう・・・面白くねんだよ・・・」
靖「・・・」
富田林「この前テレビつけたら、とんでもなくつまんねえ番組やってやがってさ。だれだよこんなに面白くねえ番組作りやがったのってスタッフロール見たら・・・でかでかと俺の名前が流れてやがって・・・」
靖「・・・」
富田林「昔は面白いことが湯水のように出てきて、自分の思っていることとパソコン打つ手があわなくてもどかしいくらいだった。でも今はやっと考えて、会議でもスタッフにウケてるのに・・やっぱり・・・おもしろくない・・・」
靖「・・・」
富田林「工藤に言ってるようにいつもアンテナを張っていても面白いことがひっかかってこない。時代が進んで、自分だけがアンテナの感度が鈍ってるんじゃないかって思うと夜も眠れなくて・・・」
靖「・・・」
富田林「俺は老いるのが怖い。時代が変わっていくのが耐えられない。時計の秒針がカチカチ、カチカチと進んでいくのが・・・」
靖「俺もそういうの考えたことがある」
富田林「・・・」
靖「このまま・・・時効が成立する夜の十二時になるまで、ずっとこの憎たらしい我をひきずっていくのかって・・・」
靖、山本の置いていったパンを持つ
靖「でもその今になってわがったことがある。十二時過ぎても俺はかわらね。この憎たらしい我と向き合わねば!」
靖、山本の置いていった、パンを食う
靖「俺には、澄江が必要だ。・・・澄江さ、今までの恩返ししねば・・・」
富田林「恩返し・・・」
靖「あんだもいねが・・・時代が変わるようにあんだもぺっこずつ変わってんだ、アンテナは鈍ってね、あんだがアンテナを磨くために必要な人。」
富田林「俺が・・・アンテナを?」
靖「んだ・・・」
富田林「・・・工藤・・・」
靖「えっちゃんか・・・」
富田林「あいつしか・・・おれのそばにいた人間はいない・・・」
靖「いっしょにアンテナ磨きあえばいい・・・そすればそごからなにか生まれるかもよ」
富田林「・・・」
靖「会いたいべ・・・」
富田林「ああ・・・」
靖「・・・太郎壁さ登るが」
富田林「?」
靖「神社の裏さある沢木山のもうひとつの登山道。絶壁で、毎年たくさんの人が挑戦しで、怪我したり命落どす難所・・・でも登りきれば、願いがかなう」
富田林「できるかな・・・」
靖「わがらね・・・でも会いたい・・・」
富田林「・・・」
靖「六時、神社の入り口で待ってで」
電話切れる
お互い電話を見つめる
そして走り出す
入れ替わるように
及川が民宿にふらふら歩いてくる
及川「靖さーん、靖さーん」
山本がすっとやってくる
及川「お!なんだ?つかまえさ、きたのか」
山本だまっている
及川「さっきはあんなまねしたけどおれは犯人じゃねぞ。誓ってもいい。十五年前だって俺は親殺されてるのす。靖さんと同じ被害者。アリバイは・・・金魚すくいのとこで何十枚ってやって取れねくてむしゃくしゃして、やんややんや踊ってたけど・・・ん?なんでしゃべんねの?」
山本だまっている
及川「そっか、話っこしてのか?さっさとそえばいいのに。あんた独身?結婚してんのか?・・・」
山本「・・・」
及川「はあ俺も悦子と結婚しで~」
山本「悦子さんと結婚したなら」
及川「は?」
山本「結婚したいなら、どうしたいんですか」
及川「悦子と結婚したら、めんけえ犬一匹飼うんだあ。朝の散歩は俺がやる。散歩コースは田んぼさ今度携帯のアンテナ立つもんでなは、それの見回り。悦子の作ったメシ食ったらそのまま共働きだあ。
夕方俺はぺっこ早く仕事終らせて悦子を犬つれて迎えさいぐ。で、毎日イオンのスタバさいって、キャラメルマキアート飲むのす。」
山本「・・・」
及川「どう?東京じゃ犬つれてカフェさ入るのステイタスだべ?うらやましいべ?」
そのとき山本、そっと及川に近寄りだきしめるようにする
及川「?」
そして及川を離して、はける
一人残る及川
及川「?」
おなかから手を離す
手は血で真っ赤になっている
次の瞬間
痛みが襲ってくる
そこに
工藤「富田林さん・・・」
しかしそこには及川がいる
工藤「!」
及川「悦子・・・」
工藤「・・・」
及川「明日、犬、買いさ・・・いくべ」
ふらりと無言で工藤によりかかる
工藤「・・・直也!」
暗転
第三章
暗闇の中
祭りの音が聞こえる
ひとつ明かりがつく
二つ明かりがつく
順々について五個明かりがつく
そのあと両サイドにそれよりは大きい懐中電灯の明かりがつく
全部で七個の明かりがつく
そのあと小さい明かりの二つは両サイドにはけていく
明転
舞台の上には真ん中に澄江がイスに座っている。両サイドには布袋に目が開いたお面の人がいる
手前外舞台には、男ふたり
靖と富田林である
男ふたりは壁を見上げる
富田林「まさに・・・絶壁だな」
靖「怖いのすか?」
富田林「そんなことはないよ」
靖「俺は余裕だ」
富田林「手が震えてるよ」
靖「うるせ!武者震いよ」
富田林「怪しいなあ」
靖「行きますか・・・」
富田林「いかれますか」
ふたり手をかける
一方舞台
澄江は緊張した面持ちでまっすぐ前を見やっている
男(福沢)「時間であんす・・・」
澄江「・・・」
男「やりあんすよ」
男、そばにあるもう一つの布袋を取ろうとする
澄江「まって」
仮面「?」
澄江「もしあだしが、ご神体吸ってがら、本当におかしくなったら・・・」
男「・・・」
澄江「遠慮なく殺してけで」
男、うなずく
澄江は覚悟して目をつぶる
男、脇に行き、 布袋の中にご神体の粉をいれはじめる
強い風が吹く
外舞台
靖「風強くなってきだな」
富田林「・・・」
靖「おめはん」
富田林「・・・」
靖「大丈夫だか」
富田林「なんとか・・・」
靖「下はぜってえ見るな」
富田林「わかってるよそんなこと!」
そのとき強い風が
ふたり「(耐える声)」
一方舞台
男が袋を用意している
澄江は固くなっている
緊張
男「まいりあんす」
澄江、胸の前で祈り一礼
男も一礼し
目をつぶった澄江の頭から布袋をかぶせる
そして男一気に澄江の鼻の辺りに手をかぶせて中の粉を吸わせる
澄江「(苦しみだす)」
澄江、もがき抵抗する
そのうち、澄江は抵抗しなくなりぐったりする
男、澄江をゆっくりすわらせて
外舞台相変わらず強い風
富田林「あああ・・・くそ・・・おれは降りる!」
靖「なんで!」
富田林「どうして俺がそんな迷信のために登んなきゃなんねんだよ!」
靖「べっこ!」
富田林「!」
靖「上見えてら!あとべっこでねすが!」
富田林「工藤に会いたきゃ携帯で呼び出しゃいいんだよ!」
靖「!」
富田林「だんなさんだって女将さんに会いたいなら神社に行けばいいじゃない」
靖「・・・」
富田林「なんだよ!それこそ怖いのか?」
靖「(登り始める)」
富田林「おい!」
靖「(登っている)」
富田林「もう降りるからな!」
富田林降りようとするが
富田林「んだよ、くそ!降りるにも・・怖えな!ちくしょお!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「なんで・・・俺のペンネーム知ってるの・・・」
靖「俺もはがき書いてヨシヒロの声聞いてらった!採用されねがったけどな。」
富田林「だんなさんも・・・」
靖「澄江のジャンケンのほうがすげけどな・・・みんなヨシヒロでつながってんだ!」
富田林「ヨシヒロで・・・」
靖「そんなヨシヒロがもしこごにいたらこういうべ!『怖えなら前を向け!』ってよ!」
富田林「!」
靖「登るべ!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
ふたり「ナイトランデブー!」
富田林、体勢を整える
富田林「よし!」
靖「ぺっこだ!」
富田林「ぺっこ!」
ふたり登り始める
舞台
すっと澄江が起き上がる
男「カミコ様」
カミコ「・・・」
男「では前へ」
カミコ「・・・」
カミコ立ち上がる
ふらふらとあるく
そして扉をあける
男「(大きく)沢木の皆のもの!猫神様の遣い、カミコ様がいらっしゃっだぞ!」
大きく歓声が沸く
そのとき袋をかぶった女が飛び込んでくる
工藤だ
工藤「カミコ様!お聞きしたいことがあります」
男「どげ!じゃまだ!」
工藤「死にたくないんです!」
男「どげ!」
工藤「死にたくない」
男「!」
工藤「直也が刺されました。間引きされました。直也が死んだらあたしも死んじゃうような気がして・・・」
男「そっただこどね!」
工藤「カミコ様にお聞きしてるんです!」
男「!」
工藤「だめな人間を間引くのなら、あたしもだめな人間です。あたしも間引かれるんですか・・・」
カミコそっと歩く
そして工藤の前へ行くと工藤の手を取る
無言でぐいっと引き寄せたあとそのまま離してぐるぐると回り始める
ふたりが回り始める
工藤「カミコ様・・・」
ふたりは八の字を書くように回り始める
工藤「カミコ様!」
大きくなおも回り続ける
工藤「カミコ様!」
そして大きく工藤を離す
遠心力で工藤、端に飛ばされる
工藤「痛い!」
そこに間髪いれずカミコが来る
額に手をかざす
工藤「!」
シンクロしていく舞台ふたつ
カミコ「(工藤の口をふさいで)わたしは・・・いのちは・・・うばいません」
靖「ぺっこだ!」
工藤「!」
富田林「ぺっこ!」
カミコ「あなたの・・・こ・・・こ・・・ろ・・・を・・・ま・・・び・・・く・・・」
そういうとカミコ工藤の胸を押さえ
カミコ「(力を入れる声)!」
その瞬間、工藤、ぐったりする
男「カミコ様だめだ!」
男カミコの体を押さえる
カミコ脱力し体を、男に預ける
あわててカミコの布袋を取る
男「救急車!だれか救急車を!」
助けようとする男
布袋をはぐ。男もはぐ
靖「十二時だ!」
福沢「女将さん!女将さん!」
ふたり「ついたぞ!」
舞台上
沈黙
暗転する世界
そこにゆっくりとまた
ひとつひとつ
ライトがついていく
ライトは固まってひとつの線になり
また八の字を描く
富田林「きれいだ」
靖「ああ」
富田林「これが・・・あかり祭り・・・」
靖「んだ・・・」
そのとき
一陣の急風が吹く
悲鳴をあげて
そして
沈黙する
父「靖・・・」
母「靖・・・」
靖「お父さん・・・お母さん・・・」
ひとつだけ消えない明かり
倒れている靖が目を覚ます
靖「んあ・・・」
山本「(しゃがんでみつめて)・・・」
靖「なんで・・・あんだ・・・こごさいる」
山本「なんとなく・・・歩いていたらここにたどり着きました」
靖「なんとなくって・・・」
山本「なんとなくです・・・」
靖「ば、ばがいうでねよ・・・おれたぢが死ぬ思いしてここさやっと登ってこれたのに」
山本「・・・」
靖「それにおれは・・・あんだにあいたいんでね・・・澄江さ・・・」
山本「遊びませんか?」
靖「?」
山本「そこにしゃがんでてください」
山本、反対方向に離れていく
靖、ゆっくり立っていく
山本「いきますよ」
投球フォームに入る山本
そして投げる
きれいなフォームで
靖「(あっけにとられている)」
山本「なにやってるんですか?」
靖「は?」
山本「しっかりとってください」
もう一度投球フォームに
そして投げる
山本「なにぐずぐずしてるんですか」
靖「・・・」
またフォーム
投げる
靖「お、おめはんはなにしてらの?」
山本「いいですから」
靖「野球なんてやったことねよ」
山本「いいからとってください」
靖「ええ」
山本、よってきて
山本「(取るスタイルを教えながら)ほら、こうやってかまえて」
靖「(言われるがまま)」
山本「(元に戻って)俺の玉けっこう早いから、しっかり取ってください」
そして投げる
靖、わけもわからずそこにいる
構えをしたまま
山本「僕は高校時代野球部でした」
投げる。
山本「高校から始めたんです。ピッチャーやりたかった。でもまわりは小学校からやっているやつらばっかりで、所詮僕がかなう相手じゃなくて・・・ずっとベンチで二年半過ごしました」
山本、軽い玉を投げる
靖構える
山本「だから僕は、ひとりでこうやってチームを作ったんです」
山本投げる
靖取る
靖「取った」
山本「どこ見てるんですか」
靖「は?」
山本「よく見てください」
また投げる
靖「ほれとったって!」
山本「だめですね」
靖「え」
山本「今度は立ってみてください」
靖立つ
投げる。取る
靖「取れた!」
山本「うまくなってきましたね」
靖「ああ」
山本「こっちにも投げてください」
靖「え・・・」
山本「早くしないと夜が明けてしまいます」
靖、へたくそな投げ
山本、変な方向にいって取る
山本「しっかり!」
靖「ああ」
山本、きれいに投げる
靖取る
山本「取りやすいでしょ?」
靖「ああ」
山本「取りやすいように投げてください・・・僕にも澄江さんにも」
靖「え・・・」
山本「さあこい」
靖、投げる
今度はラクに取る山本
山本「そうです」
靖「んだが・・・」
山本「次から僕が伝えたいことを投げます」
靖「?」
投げる山本
取る靖
山本「わかりますか?」
靖「????」
山本「ひさしぶりだからなまってるなあ」
靖投げる
山本取る
山本「次はわかります」
山本投げる
取る靖
靖「・・・」
山本「わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・」
靖「そうか」
山本「・・・」
靖「おめはんが・・・俺の親・・・殺したのすが・・・」
山本「・・・」
靖「なんで殺した」
山本「・・・」
靖「(ふりかぶって)なんじょにして殺した!(投げる)」
山本、真正面で受け止める
ふたり沈黙
山本「生きていくために必要だからです」
靖「ふざけるなじゃ!」
山本「間引かないと生きていけないんです」
靖「!」
山本「理由なんかありません。悪意もうらみも快感もありません。」
靖「おめ!」
山本「人間が生きていくためには僕が誰かを間引かなくてはならないんです」
靖「・・・」
山本「僕が死んでも・・・ずっと続くんです・・・誰かが必ず・・・間引いていく」
山本、影から、猟銃を取り出す
静かに靖に向ける
山本「ここから投げてください」
靖「・・・」
山本「女将さんに・・・だんなさんの思いを・・・」
靖「!」
山本「思いがこめられないとわかったら撃ちますから」
靖「ん、んたなこと・・・」
山本、引き金を引く
山本「さあ、早く」
靖「!」
山本「命をかけて伝えるんです。」
靖「・・・」
山本「ふりかぶって」
靖、ふりかぶる
山本「投げてください!」
靖、思いをこめて投げる
その瞬間暗転
沈黙
銃声
小鳥の声が聞こえる
朝の光が宿に入ってくる
富田林がくる
福沢もやってくる
そこに澄江がやってくる
澄江「おはようがんす」
ふたり「おはよう(福沢はおはようございます)」
澄江、二人の前にスーパーのビニール袋をどすんどすんと置く
福沢「これは?」
澄江「パン」
福沢「パン・・・」
澄江「朝めしあがってくれなかったであんすか?」
福沢「そりゃ、徹夜で女将さんのつきそいしましたからね」
澄江「朝メシ食わながったらどうやって生きてぐのす?」
福沢「!」
澄江「まだ若けんだがら!これお土産ね。新幹線の中ででもめしあがってくなんせ」
福沢「・・・ありがとう」
澄江「年上からもらったら、ありがとうございあんす」
福沢「あ、ありがとうございます」
澄江「よし、よくできた」
富田林「元気だなあ・・・」
澄江「あはは、猫神様のご神体って、精力あるのかもすなあ。あはは(元気もりもりの動き)」
富田林「猫みたいにたくさん子供産むのかもね」
澄江「んだなす~。野球チーム作れるくれえほしいすなあ」
福沢「だめですよ!今度こそ死んじゃいますよ」
澄江「なに必死になってらのすが」
福沢「だれかさんのせいで寝てないんですよ!それぐらいわかってくださいよ」
澄江「助かりあんしたありがとうございあんす」
福沢「もう・・・」
富田林「あ、でも社長の猫は社長が幼稚園のときから今でも生きているらしいよ」
澄江「ってこどは・・・不老不死がもなすな~あはは」
工藤「おはようございます」
澄江「あえっちゃん、どうよ、まびかれた気分は?」
工藤「あ、えっと」
澄江「?」
工藤「あんま・・・なんもかわってないような・・・」
澄江「んにゃ、つまんねなは」
福沢「ねえ、だじゃれってどういうこと」
澄江「だじゃれじゃねえすよ」
工藤「れっきとした儀式じゃないですか。」
福沢「あのさ誰も「間引く」の「ま」が、悪魔の「魔」だとは思わないよ」
澄江「思い込み」
工藤「そうそう」
澄江「人間の心さ巣食ってる悪魔を取る儀式。だから魔引きよ」
福沢「がっかりだよ!秘祭奇祭は田舎のだじゃれショー。相方は行方不明往復の新幹線代で今月の事務所の家賃も払えないんだよ」
澄江「ちょっとこっちさ来、こっちさ」
福沢「え?」
澄江、前夜の魔引きスタイルで
澄江「ふんっ・・・」
福沢「・・・」
澄江「ほれ、魔、いなくなったべ?」
福沢「うん!ほがらか!っなわきゃないでしょ?」
澄江「不老不死のパワーを・・・はああああああああ」
福沢「えええええええ」
工藤「(富田林に)あ、タクシー頼んでおきましたよ」
富田林「ああ」
工藤「十分くらいで来るそうです」
富田林「OK」
工藤「・・・どうしたんですか?」
富田林「俺、決めた。ヨシヒロになる」
工藤「え?」
富田林「DJになる。第二のヨシヒロになって、俺みたいなやつをたくさん作ってやる」
工藤「ほ、本気ですか?」
富田林「本気。で、工藤、事務所作るから手伝ってくれ」
工藤「はい?」
富田林「いいか?オカマのとこ戻っても机ねえんだぞ。独立だよ!」
工藤「え・・・」
富田林「好きなことやってやろうじゃねえか。勉強して来年有楽町のDJオーディションうかってやるのよ!」
工藤「は、はあ・・・」
福沢「でも歳とかは」
富田林「思い出せ!ヨシヒロ三十すぎてからああよ」
福沢「確かに・・・」
富田林「ついでにあんたも手伝って?」
福沢「はい?」
富田林「家賃はらえないくらいだろ?俺の退職金で買収してやるから」
福沢「DJと探偵いっしょにやる事務所なんて見たことないですよ」
富田林「はい(握手を求める)」
福沢「え?あ、ども(握手する)
富田林「買収成立」
福沢「え、え~(握手)かわれちゃったよ・・・」
そこにタクシーのクラクションがなる
工藤「あ、きましたよ」
富田林「よしいこう」
福沢「はい社長」
工藤「え?」
福沢「買収されたからね」
工藤「先にいってドア開けて」
福沢「なんで俺が?」
工藤「新入社員だから」
福沢「はいはいはいはい」
福沢、はける
澄江「あ、わすれないでけで」
パンを渡す
富田林「ありがとう」
工藤「あ、ちょっとあたしにもわけてくださいよ」
富田林「だめ」
工藤「またメタボになっちゃいますよ~」
そこに
靖「おお、おわがれですな」
富田林「遅いよ。どこいってたの」
靖「なんとなく」
富田林「は?」
靖「気をつげて」
富田林「おいおいどこいってたか教えてよ!」
そのとき
及川「悦子!」
工藤「直也あんた中央病院に(いったんじゃないの?)」
及川「おめさ会うために抜け出しできだ。」
工藤「・・・」
及川「ありがとう・・・救急車呼んでけで・・・ほんとうにありがとう・・・」
工藤「・・・」
及川「(おなかを軽く押さえながら)あいででで・・・」
澄江「どしたの?」
及川「なんでもねす・・・」
澄江「救急車って黄色い救急車だべ?」
及川「うるせでや!」
澄江「!」
及川「あ、いででで・・・悦子・・・今度は正月にでもなは。きたらぜってえ、イオンのスターバックスでキャラメルマキアート飲んで・・・そのあどは沢木神社で初詣いくべ・・・」
工藤「・・・」
及川「それだげいいさ来た。」
工藤「・・・」
クラクション
及川「あ、行くんだよな?ほれいけじゃ」
工藤「・・・」
そこに
福沢「遅いよ!新幹線いっちゃうよ(及川に気づいて)あ、あんた!昨日はよくも俺から逃げやがって!」
及川「やべ!(富田林と工藤に)ほれ!はやく行けじゃ!」
及川ふたりの背中を押してやる
富田林「(押されながら)工藤これでいいのか?」
及川「さ、早く早く」
富田林「工藤!」
及川「早くよ!」
福沢「おい!俺と勝負しろ、この!」
工藤「直也!」
みんな「・・」
工藤「キャラメルマキアートは・・・東京で飲み飽きちゃった」
及川「・・・」
工藤「エスプレッソなら・・・考える・・・」」
及川「えすぷれっそ????」
澄江「(及川の肩をたたいてから)コーヒーの一番濃いやつよ」
富田林「大人の苦味!ヨシヒロも好きなんだよね」
及川「無理無理無理!甘いのでカンベンしてけで!」
工藤「じゃあさよなら」
及川「そんなあ!甘えのしか飲めねよ!」
福沢「社長行きましょう」
富田林「おう。(民宿側に)じゃあね」
澄江「ありがとがんした。気をつけてお帰りくなんせ~」
富田林「だんなさん」
靖「!」
富田林「二度と山は登らないよ」
靖「・・・気をつけてお帰りくなんせ!」
とうきょうチームはける
澄江「いっちゃったねえ
靖「ああ・・・」
澄江「じゃ・・・」
靖「どごさいく?」
澄江「ああ午後から中央病院さ行ぐから早めにまたパン作るよ」
靖「おしえてけで」
澄江「!」
靖「おれさも・・・おしえてけで・・・」
澄江「・・・」
靖「なあ」
澄江「・・・小麦粉かってきてくなんせ」
靖「なんでよ!」
澄江「あだらしぐ、ふぐらます菌をつぐるから」
靖「今までの菌でいいべ」
澄江「記念日の菌だ」
靖「・・・」
澄江「今日の・・・この空気を吸わせた菌で、新しいパン作るべし・・・」
靖「・・・わがった」
澄江「ありがとあんす」
靖「これがらもなは・・・」
澄江「(うなずいてはける)」
靖、その背中を見送る
思い
風が流れている
思い
はけようとする
そのとき
澄江「ああ!」
靖「?」
澄江「なおやの携帯のアンテナ倒れた!」
靖「なに!」
暗転
END
2008年7月29日火曜日
2008年6月5日木曜日
2008年6月2日月曜日
201
201
2008 3man Office/劇団3man
第17回桜公演
登場人物
内田俊也 元102号室 大学生:成月朔夜
菅野直史 元103号室 元会社員:坂田聡司
三井輝 元101号室 大学生協職員:遊馬栄斗
加賀逸三 元203号室 ラーメン屋店員:富士河千之介
柏律子 元202号室 フリーター:玉熊志帆
菅野敬理 菅野の妻、ガス料金検針員:南佳那
蜂須賀ゆかり 内田の彼女:鍋島美緒(劇団白芸)
スタッフ
作・演出:富士河千之介
音響効果オペレーター:加藤真由実
照明効果オペレーター:本多美智子
照明プラン:坂田聡司
舞台:成月朔夜・今井英太
写真撮影:村上史行
制作本部:玉熊志帆・南佳那
制作:3man Office制作本部
「201」パートナーズ
ここは東京都目黒区三田。
東京タワーがうっすら見える恵比寿ガーデンプレイス近くの丘の上にあるアパート「ひこうき雲」
大使館の家族や外資系サラリーマンたちのお屋敷がひしめきあう街にまったく似つかわしくない二階建てのぼろアパートである。
そしてボロはボロらしく、今日、三月三十一日を最後に取り壊されることになっていた。
その二階。
ここはそのアパートの一室。
二○一号室である。
テーマ曲
明転
内田がビール箱(みかん箱?)を持ちながらイン
室内中央においてから、ふーとため息
そして、自分のかばんからペットボトルを出す
飲む
そのとき、轟音が二回
内田「?」
内田ベランダのほうを向く
そしてサッシをあけて外へ
ベランダ
内田「!(ペットボトルを落とす)」
そこに
菅野「おう、おまたせ!」
菅野イン
内田、振り向かない
菅野「遅れてごめんな。スーパーのレジがおもいっきり混んじゃって、もう大変で(ためいき)」
内田「(外を見てる)」
菅野「おーい?」
内田「・・・あ、あの!」
菅野「ん?」
内田「こっちきてもらえませんか?」
菅野「え?」
菅野、外に出てくる
内田「(なぞの物体を指差して)あれ・・・」
菅野「ああん?」
内田「なんでしょうかね・・・」
菅野「なん・・・だろう・・・」
そのとき、三井を先頭に柏、加賀、ゆかりがイン
内田、それに気づいて
内田「あ、みなさん、ちょっと・・・」
加賀「なんだよなんだよ、早くのもうぜ!」
内田「すいません。でもあれ・・・」
加賀「?」
柏「なに・・・あれ・・・」
加賀「おいおいでっけーなー」
加賀がベランダにインしようとする
菅野「うあ!」
加賀「なんだよ!」
菅野「今、ミシっていった!」
加賀「え」
菅野「底がぬけるかもしれない!」
加賀「いやいくらボロでもそこまでは(ないだろ)」
柏「思い出した!ここそんなに人入れないですよ」
菅野「そうか、俺ら一階の住人じゃわかんないなあ」
加賀「とりあえず何人乗れるかためしてみよう」
柏「はいはい!次、わたしも見たいです」
三井「ミーハーな真似するなよ」
柏「だって」
加賀「どうぞ」
柏「やった」
柏、ゆっくり入ってくる
そーっと足を一歩入れながら
両足いれて
柏「ふー(自分に拍手)」
菅野「大丈夫大丈夫」
加賀「次は?」
三井「おれかな(入ろうとする)」
内田「NO! あれはなんですか!!」
ゆかり「あれは宇宙船だ(ずんずん入ってくる)」
ミシっという音
菅野「うわ!」
ゆかり「やっぱ・・・きてるんだ・・・」
三井「おい!何者だ!」
内田「ああ!ぼ、僕の彼女です・・・」
ゆかり「あ、蜂須賀ゆかりっていいます・・・どうも・・・」
三井「住人ではないよね?」
内田「あ、いや、あの」
菅野「おれも昨日知ったんです。急に電話かかってきて、なんだろうって思ったら、彼女連れてきていいかっていわれて」
三井「話しでは、このアパートひこうき雲に住んでたやつだけを集めての同窓会って聞いていたんだけど?」
内田「すいません。どうしてもいきたいって・・・」
ゆかり「よろしくおねがいします・・・」
加賀「(ゆかりに)ラーメン好き?」
ゆかり「しょうゆとんこつなら・・・」
加賀「参加OK。(握手しながらゆれる)」
ミシミシ
菅野「加賀さん揺らしすぎ!」
加賀「ラーメン好きに悪いやつはいない。いっしょに楽しもう」
ゆかり「あと塩たまごも好きです・・・」
加賀「いつか俺の店にきてください」
ゆかり「はい」
三井「じゃ、おれだな」
三井ゆっくり入ろうと一歩いれるが
大きくバリっと音
全員「ああああああ」
内田「三井さんは中で!」
三井「なんだなんだおればっかり」
柏「だってみんな死んじゃいます」
三井「失礼だなおい」
加賀「じゃ、おれは十分見たから中に」
菅野「おれも寒いから入ろ」(ふたり中に入る)
三井「代わりにおれが」
大きくバリバリ
ベランダ全員「ああああ」
三井「おれそんなに重くない!」
☆2008/02/25 差し替え
菅野「こっちで我慢しましょうよ」
三井「ふん、ただの体育館じゃないか?見てなにが面白い?」
柏「でも体育館はあっちでしょう?」
三井「なるほど。でもそういえば、この辺はマンションの建設ラッシュだ。親が増えれば子も増える。増築でもしたんだろ」
内田「でもあんなとこで入学式なんかできますか?」
三井「今の子供ら、というより、このへんの親は斬新なものに興味を引く。同じような感性を持ったデザイナーが作ったんだろう」
柏「そうは見えないんですけど・・・」
三井「わかってないなあ」
ゆかり「絶対宇宙船だ・・・」
三井「ばかばかしいにもほどがある」
加賀「(中から)なあ、だれだよ~こんなにお菓子買っちゃって」
三井「うわ!サキイカにマヨネーズって、普通、するめにマヨネーズだろ」
加賀「カレーせんべいまである。懐かしいなあ」
三井「すべての犯人は、駄菓子屋でテンションあがりすぎた人」
柏「ごめんなさい!わたしです」
菅野「おお柏さんならOKOK」
柏「すいません。あ、乾杯にしません?」
加賀「そうだそうだ。のどカラカラだ」
内田とゆかり以外、全員、中に戻る
内田「行こうか?」
ゆかり「(じっと見てる外)」
菅野「(中から)早く!」
内田「は、はい!」
内田、強引に手をひいて、中に戻る
ペットボトルは拾わない
全員座る
菅野「それでは今日の幹事からひとことお願いします」
内田「あ、あの、外もいろいろおかしいですが」
三井「おかしくなんかない」
内田「あ、そうかもですが、こっちはこっちで楽しみましょう」
柏「はい」
菅野「なんつったって半年振りの再会ですからね」
三井「泡が消える、早く」
内田「はい!乾杯!」
全員「乾杯!」
それぞれ飲んだら、拍手
そのとき轟音
内田「ん?」
菅野「どした?」
内田「聞こえませんでした?」
三井「なんにも」
内田「でも・・・」
ゆかり「聞こえた」
内田「だよね!」
柏「わたしも・・・」
三井「気にしすぎた」
菅野「ってことで気にしない気にしない」
内田「ん~、ま、いっか」
ゆかり「(じろりと内田をにらむ)」
内田「ゆかりちゃん・・・」
ゆかり「他人に流されっぱなしなところ、嫌い」
柏「(気にせず)でも、すごいですよね。あのときここに住んでた人全員集まるなんて。」
加賀「そうそう。よく集めてくれた。おれはおもいきりおまえをぼめる」
内田「ありがとうございます!大家さん口説いてみんなにはがき出した甲斐がありました」
柏「はがき来たときうれしかったあ。また加賀さんとか内田くんに会えるって思って」
内田「ありがとうございます」
菅野「おれは・・・?」
柏「(気づかず)店長に今日シフト入れられたらって思ってひやひやしてたんですから」
菅野「柏さん、おれは?・・・」
柏「はい?」
菅野「・・・はい・・・」
内田「(小声で)どんまいです」
菅野「(絶叫)きみにいわれたかないよ」
三井「やっとこさ、風呂トイレつきの部屋に移れたってのに、まさかまたここにくるとは・・・」
柏「ちょっとせっかくみんなきてるんですから」
三井「みんなじゃない。この部屋の持ち主がきてないぞ」
加賀「ああ、日野さん?」
柏「そういえば・・・」
内田「日野さんからはメールが」
柏「メール?」
加賀「そういえばはがきに内田君のメアドが書いてあったな」
内田「はがき書くのが面倒な人のためにのっけといたんですよ」
三井「はがきで来たのをメールで返すのはおかしいんじゃないの」
加賀「え?俺、メールで返しちゃった」
柏「まあそういうときもありますって」
内田「読みますね。(メール)『こんにちは、二○一の日野です。お誘いのはがきありがとうございます。』」
加賀「へえ礼儀正しい人なんだ」
内田「すごいですよね。えっと、(メール)返事遅れてすいません。都合で今日は行くことができません。みんなに会えるのを楽しみにしてたのにまたいつかお会いしましょう』」
加賀「お会いしましょうっつったってな」
三井「この中で日野さんの顔を見たことあるやついる?」
柏「うーん・・・」
菅野「おれと内田は一階だから、ますます見ない」
三井「同じ二階にいたはずなのにな」
柏「ひこうき雲三大ミステリーのひとつでしたね」
加賀「そうそう。あとなんだっけ?」
菅野「一階の奥から、女の声がする・・・」
内田「(それを聞いてそわそわする)」
三井「そんなのあったっけ?」
菅野「ああ、いっつも夜遅くになると、ごにょごにょごにょって・・・」
内田「あの・・・」
柏「(無視)こわいですよね!」
内田「あの・・・(ですね)」
三井「(さえぎって)あと一階からとんでもなく、へんなにおいがするときがあった」(内田、はいるのをあきらめる)
柏「三大ミステリーそろいましたね!」
加賀「あ、最後のやつ、実はおれ」
柏「加賀さんだったんですか!?」
加賀「いやね、おれまだラーメン屋で働いてるんだけどさ」
柏「『ラーメンどうざんしょ』ですよね?」
菅野「西口の」
加賀「ああ。で、月一回、とんこつとか鶏がら持ってきて、新しいスープの研究してたのよ」
柏「そうだったんだあ」
三井「恐ろしく臭かったですよ!」
加賀「すまんすまん。でもおかげさまでこの前社長から、ゴールデンウィーク明けにできる二号店、まかせてくれるって。」
柏「すごい!」
加賀「ま、そのためにはいろいろ条件をクリアしないとなあ」
柏「がんばってください!」
加賀「おうよ!」
菅野「『どうざんしょ』二号店できるんだあ!どこですか?」
加賀「用賀」
菅野「遠いなあ」
柏「絶対食べにいきます!」
三井「食べたら、ますますモデルにはなれないぞ」
柏「ラーメンは別腹です!」
三井「ふん」
ゆかり「あたしも・・・いって・・・いいですか?」
加賀「卵、半熟にして待ってるよ!」
ゆかり「はい!」
菅野「おれもがんばっていきますよ!」
加賀「きみには固ゆでで」
菅野「そんなあ。失業者に固ゆではつらいですよ」
加賀「あれ?やめたの?」
内田「うそ!外資系の銀行ですよね?」
菅野「おれさ、こう見えて内向的な性格でしょ?」
柏「そうですね」
菅野「え・・・」
柏「はい?」
菅野「(咳払い)あ、いや、その、行内で、ちまちまやる仕事は好きだったんだけど、上司がさあ、あれこれ干渉してくるのがいやで・・・」
内田「あは、なるほど」
菅野「なるほどってなんだよ!」
内田「すいません」
菅野「今年就職活動だよな?元の銀行には紹介できかねるからね」
内田「そんなあ。」
柏「あ、お豆腐屋さんやろうとしてません?」
菅野「よくご存知ですねえ!」
三井「おれが教えたの。」
菅野「なんだみっちゃんか」
三井「うちの卸し先から聞いたよ」
菅野「いい豆仕入れるの調べたときにばれたのかな」
内田「あ、じゃあ、菅野さんの豆腐屋さんに就職させてください」
菅野「はい不合格!」
柏「(挙手して)はいはい!彼女さんとはどのくらいお付き合いしてるの?」
三井「ミーハーすぎるぞ」
柏「だって、ね?かわいいし」
内田「もうすぐ一年」
ゆかり「半」
内田「あ、一年半」
柏「うらやましいなあ。仲よしさんで(ちらりと三井を見・・・)」
三井「(咳払い)」
内田「なんか気づいたらだらだらとここまできてしまって・・・」
そのとき突然、ゆかり、がばっと立ち上がる
内田「うわ!だらだらってのは嘘です嘘です嘘!」
ゆかり「来た!」
内田「きた?」
ゆかり「やつらが(はけ口に向かって戦闘体勢で東西南北を見ながら威嚇する)はっ!はっ!」
三井「日野さんやっぱ来たんじゃない?」
内田「あんなメール打っといて来るんですか」
柏「気がかわったとか」
内田「(ゆかりに)ね、すわろうよ、ね?」
ゆかり「許していいの?地球の終わりだよ?」
内田「ゆかりちゃん!」
そんなとき
ノック
(敬理が裏でノックする)
みんな「!」
内田「まさか!」
加賀「宇宙人が・・・」
柏「きたんですか?」
またノック(敬理)
ゆかり、戦闘態勢をもっと激しくする
三井「(それを見てちょっとおびえ)・・・ん、んなバカな」
菅野「ん~(なにかを思い出して)あ、はいはい」
といいながら、はけ口に向かう
ゆかり「(菅野の腕をつかみ、投げ飛ばす)と~りゃ~」
菅野「うあ!」
内田「(菅野を助け)大丈夫ですか!」
菅野「いてて」
ゆかり「ドアをあける人間は誰であろうと許さない」
菅野「(起き上がって)だから違うって!(もみ合い)」
ゆかり「だめだあ!(もみあい)」
内田「(それをとめて)ゆかりちゃん!」
そこに
敬理「こんにちははじめまして~」
菅野とゆかり以外みんな「(敬理を見て絶叫!パニック)」
ゆかり「で、でたな!宇宙人め!」
敬理「う、宇宙、人??????」
ゆかり「みんな!あたしにまかせて!」
内田「がんばれ!ゆかりちゃん!」
菅野「それでも男か!」
内田「うわ!よし、おれも援護射撃!」
三井「せ、せめて前線に立てよ!」
内田「だ、だってこわいんだもん」
三井「おい!」
加賀「なら、三井くん!」
三井「おれはおれは・・○○○(アドリブで断末魔の叫び)」
といいながら失神!
柏「大丈夫!?」
内田「三井さん!三井さん!」
加賀「寝るな!死ぬぞ!」
内田「みついさ~ん!」
菅野「(我慢できずに絶叫)よ、嫁です!(といって、敬理のところへ)」
三井「(がばっとおきて)嫁?」
内田「三井さん?」
三井「(知らん顔で)内田君なにかあったかね?」
ゆかり「だまされないで!みんな!(菅野に)さては、お前も仲間の宇宙人だな!」
菅野「Not!宇宙人!」
敬理「(菅野に)ねえ、どうしちゃったの?」
菅野「大丈夫大丈夫。(みんなに)あ、紹介します。うちの嫁の敬理」
敬理「敬理です。よろしくお願いします」
菅野「早いよ~敬理ちゃん」
敬理「だって待てないんだもん」
内田「けいり・・・さん・・・」
柏「あ、あは、面白いお名前ですね」
敬理「うちのおじいちゃんがつけたんです。画数がいいからって」
柏「へえ」
ゆかり「油断しちゃいけない!宇宙人は時には精神的に迫ってくるんですよ!」
敬理、まだ警戒しているゆかりのところにいき、手を握る
ゆかり「な、なにをする!」
敬理「こんなに手があったかくてもあたしを信じてくれない?(もっとぎゅっと握って)ほら・・・」
ゆかり「人間に寄生してたり、化けてるかもしれないし・・・」
敬理「生まれは浅草二丁目、言問通りとひさご通りの交差点からちょっといったとこ。」
ゆかり「・・・」
敬理「オムツのころから花やしき行ってるからもう庭みたいだったり・・・あ、舟和の芋羊羹と梅園(うめぞの)の粟ぜんざいなら、何杯でもいけるんだけど・・・?」
ゆかり「あ、人間だ(警戒をとく)」
三井「食い物で信じるのか!?」
菅野「(ほっとして)よかった~」
内田「あ、すいません!許してください」
敬理「いいよいいよ」
内田「僕の彼女なんです」
敬理「彼女なんだ。大事にしてあげなよ」
内田「はい!」
敬理「あ、そうだ!聞いて聞いてみんな!来る途中寒くて、コンビニでホットティ、ペットボトルで買ったの。そしたら」
敬理、ペットボトルを見せる。
そしてふたを開ける
下に向ける。
敬理「空っぽなの」
内田「からっぽ・・・」
菅野「軽く飲んじゃったの忘れたんじゃないの?」
敬理「そんなことない!一滴も飲んでない!」
そのとき
ゆかり「あれ?」
内田「どうした?」
ゆかり「(缶をふって)ない・・・」
内田「いやいや、飲んじゃったんでしょ?」
ゆかり「(激しくにらむ)」
内田「ご、ごめん・・・」
加賀「あれ?おれもないな」
三井「おれもだ」
柏「わたしも・・・」
みんな、缶を下に降るが、中身がない
内田「ちょっと待ってください。おれらって最初の一口しか飲んでませんよね?」
三井「ああ」
菅野「そのあとは、きみの話とかになっちゃったしね」
柏「確かに・・・」
ゆかり「あたし、かってきます・・・」
内田「え」
ゆかり「勝手にさわいだの、あたしだし・・・」
敬理「あ、そんなに悪く思ってないよ?」
ゆかり「口下手だし・・・話も面白くないから・・・こういうので償わないと」
ゆかり猛ダッシュでハケ口はける
菅野「おい内田!君は女の子にパシリさせる気か!」
内田「やべ!(ゆかりに)おれがいくって!」
内田もはける
がしかし
ほっぺたをたたく音(こんにゃくを叩こうと思ってます)
内田「(絶叫)」
内田、ほっぺたを手でさすりながらイン
内田「いたたた・・・」
三井「おつかれさん」
敬理「学生さん?」
内田「はい」
敬理「ガス料金ちゃんと払ってる?」
内田「はい?」
菅野「あ、ガス料金見るおばさん」
敬理「(菅野に鉄拳制裁)」
菅野「お、おねえさんやってるの」
内田「あ、月一回の(おばちゃんといいそうになって飲み込み)」
敬理「ガス料金とかを払わない子は、女の子に嫌われるよ?」
内田「どういう論理ですか?」
そのとき
がばっとゆかりイン
ゆかりおもいきり、みんなにペットボトルを買っている
そしてふたを開けてはないことを確認し
ゆかり「ない(あけて)ない(あけて)ない!」
全部あけて
ゆかり「ない!」
みんな「・・・」
ゆかり「水が・・・消えた・・・かも」
菅野「そ、そんなばかな」
内田「ごめん再確認なんだけど、買ってすぐに飲んだりとかして(ないよね)」
ゆかり「ない!」
内田「はい!」
柏「ちょっと台所いってくる」
柏、はけようとする
菅野「トイレにいってくる」
三井「待て」
ふたりとまる
三井「ここは明日取り壊しだ。台所行こうが、トイレ行こうが、水はとっくに止まってるだろ?」
柏「そっか・・」
敬理「まって。料金滞納してるわけじゃないから、大元の元栓ひねれば水は出るはず」
菅野「そうなんだ?さすが検針員」
そのとき敬理の携帯に着信
敬理「(電話)はい・・・え?・・・あ、わかりました。もう少ししたら行きます」
敬理、電話を切る
敬理「ああ、なおちゃん、ごめん」
菅野「どうしたの?」
敬理「なんだかおかしいの。都内のガスが急に止まっちゃったんだって」
菅野「え?」
加賀「なんだと!」
加賀も携帯に電話しだす
加賀「(電話)もしもーし・・・え?やっぱそっちも?」
内田「そうか!加賀さんのラーメン屋も」
加賀「(電話)くそ!そうか!水道もガスもとまってるからラーメン作れねえのか!こんちくしょう!」
加賀電話を切る
柏「加賀さん大丈夫ですか?」
加賀「大丈夫じゃねえよ、くそ!命と金の次に大事なラーメンが作れねえって、お客さんに申し訳ねえよ」
三井「まずいな、これは」
柏「テロかなにかあったんですかね・・・」
菅野「そうだ!だれかワンセグつき携帯とか持ってない?」
みんな顔を振る
柏「それがなくとも、ラジオつきとかないですか?」
加賀「少し前のドコモだからな・・・」
内田「おサイフケータイなら大丈夫なんですけど・・・」
菅野「なんだよなんだよ。だれもかよ」
敬理「そういうなおちゃんも、もってないでしょ」
菅野「はい」
三井「こりゃここは陸の孤島ってわけか・・・?」
そんなとき、ふとゆかりがたつ
ゆかり「(窓の外を見ながら)やつら・・・」
ゆかり、立ち上がって、サッシのところへ
ゆかり「おのれ・・・」
内田「ゆ、ゆかりちゃん?」
ゆかり、おもいっきりサッシをあける
そして外に
ゆかり「ライフラインを止めようとしてるのはおまえらだな!」
内田「(あわてて外に)うわやめようよ!」
ゆかり「あたしは、知ってるんだ。お前らが地球外生物、いや、腰抜けちゃらんぽらんだってことも」
敬理「地球外生物って・・・」
菅野「さっきからずっとああなんだ。」
敬理「(外を見て)まさか・・・」
加賀「おい、もし宇宙人がいたとしてあんなに挑発して大丈夫なのか」
菅野「それは確かに・・・」
ゆかり「これも知ってる。こんなとこにきたのは、ここに今日、あんたらの協力者が来るからだってね。」
三井「協力者?」
敬理「人間に裏切り者がいるってこと?」
菅野「まさか」
ゆかり「あたしは今日そいつを倒す!そしてお前たちもあたしがけちょんけちょんにしてやる!」
そして床に転がってるペットボトルを拾い
ゆかり「地球上の水分を採ったつもりかい?」
ゆかり、ペットボトルを振る
内田「あ」
菅野「あれは中身が・・・」
加賀「入ってる」
ゆかり「人間は八割が水でできているんだから!」
菅野「あれ?九割じゃなかったっけ?」
三井「どうでもいいだろ!」
ゆかり「それを抜くのは許さないよ。灯台下暗しってことわざ、よく覚えて帰りな!」
ペットボトルを高々と掲げてみせる
そういって、ゆかり、ぐびっと一口ペットボトルの中身を飲む
そしてにやりと笑った瞬間
倒れる
内田「ゆかりちゃん!」
内田、ゆかりが床につく前に支える
みんなもベランダへ
内田「ゆかりちゃん!おい!ゆかりちゃん!」
菅野「だ、だれか救急車を」
加賀「(携帯を出して)だめだ!携帯の電波が」
菅野「こんなときに!」
三井「そうだ!だれか衛星電話とか持ってないか!」
敬理「あ、それって携帯よりももっと強いやつだよね?」
柏「すごい!さすが!」
加賀「で、だれか持ってるの?」
みんな「(しーん)」
三井「だれももってないのかよ!」
菅野「だって確か高いよ?」
三井「うわ時代に取り残されるよ」
柏「持ってます?」
三井「もちろん」
敬理「じゃ、早く!」
三井「家に」
敬理「はあ?・・・」
三井「いやね、おれさ、大学生協の職員やってるでしょ?だからそこの組合員割引で安く買えちゃってさ」
敬理「(怒りが、ふつふつと)・・・あんたあ・・・」
敬理、三井の首をつかむ
敬理「人の命とあんたの自慢話でどっちが優先かなあ!」
三井「なにをする!」
菅野「け、敬理ちゃん!」
三井「こんな乱暴モノと結婚だなんてあんたはつくづく人を見る目がないな」
敬理「てめえ!」
敬理、一気に三井を飛ばす
三井「いてえ!」
菅野「(敬理をとめながら)敬理ちゃ~ん」
敬理「百歩譲ってあたしのことをバカにするのは許そう。でもうちのなおちゃんをバカにするのは許せない!」
柏「す、素敵!」
菅野「あ、ありがとう・・・」
柏「敬理さんのこと!」
菅野「はい」
そのとき
がばっとゆかり起きる
そして立ち上がる
内田「よかった!大丈夫なんだね?」
ゆかり、じろりと、内田を見る
そして
ゆかり「やあ・・・地球人」
みんな「?」
ゆかり「私の名前は・・・ショウユトンコツ」
菅野「しょ、しょうゆとんこつ?」
ゆかり「ショウユトンコツ・シオとでもしとこうか?。この肉体の脳みそが大好物らしい。そうだよな?将来のフィアンセ」
内田「ゆ、ゆかりちゃん・・・」
シオ「私はゆかりちゃんではない!」
ゆかり、おもいっきり、内田を放り投げる
内田「「痛い)」
柏「(かけよって)大丈夫!」
内田「あいたたた・・・」
シオ「悪いが、地球上にある水は全部差し押させてもらったよ。」
加賀「な、なに!」
シオ「ガスも以下同文」
敬理「なんだって・・・」
三井「そこのオカルトオンナ!」
三井、ついに出てくる
しかしちょっと腰がひけている
三井「いいかげんにしてもらえないかな?おれは昼から酒が飲める今日をおもいっきり楽しみにしてきたんだよ」
シオ「やあ『おもらしテルみん』」
三井「!」
シオ「幼稚園のとき、お化け屋敷にみんなでいって、ひとりだけおもらしして出てきたよね?」
三井「なぜそれを知ってる・・・」
シオ「それがトラウマで、怖い話や僕らの話なんかは聞く前にすべて否定することにしたよね。おもらしテルみん?」
三井「それをいうのはやめろ!」
シオ「人間、いやな記憶というものは、脳みそのはしっこのはしっこのほうに圧縮されて納品されている。グッドな記憶とバッドな記憶では後者のほうが再生スピードが速い。そうだろう?おもらしテルみん、おもらしテルみん」
柏「やめてください!」
シオ「おもしろいなあ。おもらしテルみん、おもらしテルみん」
三井「こ、このやろう!」
三井、なぐりかかろうとする
そのとき
ゆかり「(ゆかりに戻って)なにするんですか!」
三井、そのこぶしを止める
ゆかり「あ、あたし、今まで・・なにをしてたんですか?」
内田「ゆかりちゃん!」
内田、ゆかりを抱きしめる
内田「よかった!もどってきて」
ゆかり「も、もどる・・・?」
内田「そうだよ。なんかちょっとおかしなことになってた」
ゆかり「お、おかしな・・・こと?」
加賀「そうだ!おれ、ちょっと外いってくるよ!」
内田「お願いします」
加賀「はける」
加賀、はける
内田「これでなんとか助けがよべたら」
柏「そうね」
内田「大丈夫?ゆかりちゃん」
ゆかり「ん~・・・」
三井「おい、なんで俺の過去を知っている?」
ゆかり「過去・・・」
三井「え?」
ゆかり「・・・さあ」
三井「内田くん、まじめな話し、今日のこれが終わったら一度病院に連れて行ったほうがいい。」
シオ「いくわけないだろ?おもらしテルみん」
三井、一気に立ち上がると、無言でシオの肩に手をかけおもいきり壁際まで追い詰める
シオ「どうした?」
三井「・・・」
柏「三井さん!」
三井、振り返る
そして手を離すとふらふらしながら中に戻る
次の瞬間、三井、おもいきりサッシをしめる
内田「なにするんですか!」
三井そのまま鍵を閉める
シオ「テルみん笑えるねえ」
内田「(外)三井さん!」
柏「(中)なにするんですか!」
内田「開けてください!」
三井「ちょっと頭冷やしておけ。」
柏「三井さん・・・(三井に手をそえる)」
三井、柏の手を振り払うと身支度を整えはじめる
三井「・・・ふざけたまねだ」
菅野「みっちゃん、まさか」
三井「菅野さん」
菅野「はい」
三井「残念だ」
菅野「・・・」
三井「みんなに会える今日、楽しみにしてたのに・・・」
みんな「・・・」
三井「東口の赤ちょうちんで飲みなおして、帰るわ」
菅野「あいつらはなんとかしときます」
三井「・・・じゃ」
はけようとする三井
敬理「逃げるの?」
三井「(止まる)」
敬理「逃げたらおもらしテルみんのまんまだよ?」
三井「(悲しい目で敬理をにらむ)」
敬理「現実を・・・うけとめようよ」
三井、無言ではける
その背に
柏「三井さん!」
柏立ち尽くす
そこに敬理がそっと手を柏の肩にのせる
柏「?」
敬理「わかる・・・」
柏「え?」
敬理「すぐ帰ってくるよ。大丈夫」
柏「敬理さん・・・」
いってるそばから三井がイン
菅野「ほんとにきた!」
三井「・・・どういうことだ」
菅野「どうしたの?」
三井「階段おりて俺は、通りに出ようとした、でも、出られないんだ・・・」
敬理「出られないって?」
三井「水が・・・滝みたいになってて・・・ここらをずっと壁のようにしてる・・・・」
菅野「そんなこと(あるわけないよ)」
三井「ほんとうなんだ!まるで・・・この『ひこうき雲』を守ってるかのように・・・」
菅野「みっちゃん、さっきの一口でよっちゃった?大丈夫?」
シオ「(外)彼はよってなんかいない」
菅野「え!」
シオ「ここいら一帯は私たちのシールドに守られてる」
敬理「シールド?」
シオ「地球上のどんな破壊兵器を持っても攻撃は不可能だよ。ついでに攻撃してきたら、シールド内にいる人間も洪水にして皆殺し」
三井「それじゃおれたち・・・人質ってことか!」
シオ「反抗した場合はこうなるよね」
いきなり加賀がイン
全身濡れている
そして右腕を押さえてる
柏「加賀さん!」
加賀「やられたよ・・・」
加賀、ばたりと倒れる
みんなかけよる
ここから二画面
ベランダ
加賀が倒れたのを見て、シオは満足げな笑みを浮かべる
内田「加賀さん!」
シオ「ぼくたちに逆らうからああなるんだ・・・」
内田「加賀さんになにをした!なあ!ゆかりちゃんに戻してくれ!」
シオ「あせるなあせるな」
内田「あせりたくもなるわ!」
シオ「ここがあのときの国立競技場だったなら君は僕をどうしたい?」
内田「国立・・・」
シオ「そう、君が十七歳だった・・・あの冬の国立だよ。」
内田「おれが岡山から全国大会行ったとき!」
シオ「僕はキックオフのホイッスルの前から君をずっと見てた。」
内田「!」
シオ「惜しかったね!ラストのゴールを決めてれば今頃は(どうなっていただろうねえ)」
内田「決めれない!」
シオ「決めれた!」
内田「あのヘボいパスじゃプロでも決められない」
シオ「練習不足なんじゃないのお?」
内田「!」
シオ「もっともっと血を吐くくらい練習してさあ、あと一点さえ入れば優勝できて黄金の未来が見えてたわけだよね。いい大学に入れたかもしれないし、末はJリーグ!日本代表だって(なれたかもしれないのに)」
内田「黙れ!」
シオ「はは。怒った」
内田「別に今の大学でも満足してる」
シオ「練習でじん帯切ってサッカーできない今でもかい?」
内田「何でそこまで知ってるんだ!」
シオ「見てたからだよ」
内田「見る?」
シオ「きみやテルみんだけじゃない。この地球のことは僕がこの星にたどり着いてからずっとみてきた。形を変えて、命を送り出し、ずっと・・・。」
内田「そんな・・・大昔から・・・」
シオ「最終的に人間が生まれたことによって、この星は宇宙でも稀有なすばらしい生命体の集まる星になると信じていた。
なのに・・・のさばらせたばっかりに、今地球はことごとく全宇宙の星星の中で品格を失っている。・・・我々が地球の権利書を取って治めていれば・・・」
内田「地球の権利書?」
シオ「今こそ権利書を僕らが取り、水があふれる、もっと崇高で知的な星に今こそ変える!」
内田「そんなもの信じられないぞ」
シオ「探してくれ!お前なら探せる」
内田「おれなら?」
シオ「今から九十分以内に探せ!探しきれないときは・・・このカラダを・・・」
内田「待ってくれ!探すっつっても形は?色は?」
そのとき、雷鳴がとどろき始める
シオ「(空を見て)やっぱりきたか・・・」
内田も空を見る
シオ「あいつらのおでましだ・・・」
ふたり、空にある大きな黒い雲に注視する
大きく雷鳴がなり始める
チェンジ
チェンジ
一方そのころ部屋の中では
敬理「(窓の外を見ながら身支度を整える)傘もってくるのわすれちゃったなあ・・・よいしょっと」
敬理、かばんを持つと
敬理「なおちゃん。加賀さんとベランダのふたりも頼むね。行ってくる」
菅野「きをつけて」
加賀「行ってくるってどこに?」
敬理「外です」
加賀「え?」
敬理「一応パートですけど、これでもガス会社の一員ですから」
柏「でも敬理さんって、管理とかされる人じゃないですよね?」
三井「そうだそれにシールドの外には出られないんだぞ」
敬理「シールドから出られないんなら、その中の人たちの安全と、それをセンターに報告して逆に外のことも知りたいし。」
柏「こんな危ないときに」
敬理「なんかあったらすぐに電話するから」
菅野「うん」
敬理はけようとする
そのとき
内田「(外)あけてください!」
みんな振り向く
柏「あけてあげましょうよ・・・」
三井「・・・」
内田「あけてください!」
三井「だめだ。あいつが異常なうちは危険だ」
敬理「じゃ、せめて、内田君だけでも」
三井「あいつの彼氏な以上は連帯責任とってもらわないと」
敬理「こんなときにそんなこと追求してなんになるの!」
シオ「そうだテルみん、彼には責任などない」
三井「!」
シオ「(空を見たまま)大丈夫、君が望むなら僕はここから出ない。彼を入れてやってくれ」
三井「・・・」
柏「(窓のそばにいって)あけますよ」
柏、窓をあけてあげる
内田、シオを見る
内田「・・・」
シオ「早く・・・」
内田、入ってくる
柏「大丈夫?」
内田「ええ」
敬理「さすが男の子、よくがんばったね」
内田「はあ・・・」
菅野「敬理ちゃん、行かないの?」
敬理「あ、いってくる~」
敬理はける
内田「敬理さんは?」
加賀「おれらを守るために戦ってるよ」
内田「すごいな・・・」
菅野「なんかあいつに言われてたみたいだけど?」
内田「それが、地球の権利書を探せって・・・」
菅野「権利書?」
内田「大昔に人間たちにまかせてて、なんかそれがあると地球を動かせるとかいってました」
菅野「へえ」
敬理「大昔ってどのくらい?」」
内田「地球で命が生まれる前。シオがいうには自分たちがおれらを生み出したとか・・・」
加賀「そんなころから住み着いてるってのか?」
内田「形を変えてずっと、おれらのことを見てるって」
加賀「ってことは、死なないのか・・・」
菅野「永遠の命・・・」
三井「おいおいあんなクレイジーな奴のことを信じるのか」
内田「三井さん!」
内田、三井に詰め寄る
内田「なんで開けてくれなかったんですか!」
三井「頭を冷やせといったはずだ」
内田「あれほど、外から助けてくれって、おれがどれだけ、ゆかりちゃんのために必死だったかわかりますか!」
三井「今一度良く見てみろあれを・・・。」
内田「(見る)」
三井「内田君の彼女だと言い張るのか。」
内田「(見つめて・・・)」
シオ「(外、にやにやしながら見つめ返す)」
内田「くそ!」
加賀「下手に刺激するのはやめよう」
内田「加賀さん大丈夫なんですか、腕!」
加賀「水の壁をぶちやぶろうって蹴っ飛ばしたら、逆にとばされちゃった」
内田「そんな・・・」
三井「あの壁は手ごわすぎる・・・」
柏「こうなったら、わたしたちだけでなんとかしません?」
三井「なにばかなこといってるんだ」
柏「だってくやしいじゃないですか!」
三井「きみがくやしいのは、加賀さんが右腕いためて、ラーメンがたべられなくなるからだろう?」
柏「それもあるけど・・・」
三井「こういう危機状態のときによくそんなことがいえるな!」
加賀「右がだめでも左腕がある」
みんな「・・・」
加賀「ひとつがだめでもなにかあるちゅうのはすばらしいこった。心配するな。なんとなかなるさ」
三井「加賀さん・・・」
内田「そうだ。おれたちはだめじゃない!なんとかしましょう!」
三井「なんとかってなにするんだ?」
菅野「(挙手)あのちょっと思ったんだけどさ」
三井「なんだ」
菅野「まずは話し合うっつうのはどうだろう?」
三井「話し合いだと?」
菅野「おれあの子って本当に敵なのか、味方なのかまだ把握できないんだよね」
三井「味方なわけないだろ?」
菅野「みっちゃんとかはそうだけどさ、さっきの話を整理してると、おれら人間を怒ったりしときながらも、地球のことは思ってるような感じがしてさあ。」
柏「案外いい子なのかも・・・」
菅野「うまくいけば事態解決するかもしれないし、宇宙人が離れてくれて、彼女にもどるかもしれないよ」
内田「それ絶対いいです!」
菅野「でしょ?おれを、人間代表の大使として、話させてくれないかな」
三井「うーん」
内田「お願いします。」
三井「よーし。大使頼んだ」
柏「がんばってください!」
菅野「柏さんありがと~。よし!(サッシを開け放して入る急にひそひそ声で)おじゃましまーす・・・」
三井「寝起きどっきりか?」
シオ「え~はずかしーきゃー」
三井「アイドルか!」
内田「ゆかりちゃん・・・」
菅野「人間代表、アパートひこうき雲大使の菅野直史と申します」
シオ「ふーん」
菅野「俺はあなたとお話したい。手助けをしたいのです」
シオ「手助け?」
菅野「先ほどおっしゃられた話、誠にごもっとも、共感いたしました。俺たちは人間ですが、つくづくその横暴さに辟易しておりまして」
シオ「たとえば?」
菅野「日本の会社を見てください!たいした苦労もしてねえやつがたまたま成績が良かったからって昇進しちゃあ、大量の金を会社からまきあげて悠々自適に暮らしています。おれみたいなチャンスを見つけられない不幸な人間はいつまでたっても救われません!」
内田「菅野さん抑えて」
菅野「いや抑え切れねえ!すべては上司と部下っていう関係性が悪い!ちょっとミスしただけで、さも仕事できねえようにいいやがって!」
柏「菅野さん!」
菅野「うわ、暴走してしまいました」
シオ「で、具体的にどう手助けしたい?」
菅野「えっと(いったん後ろを見て)あ、ちょっとお待ちを」
菅野、サッシのところに行く
菅野「前半戦終了」
柏「おつかれさまです」
三井「で、どうなんだ?」
菅野「いい感じ。これならいけそう」
柏「頼りにしてますよ!」
菅野「まかせて!」
内田「ヒーローだ!」
菅野「キムタクなんか目じゃねえぜ!」
三井「このあとどうする」
菅野「そう。ここから話をつめるから集中させてほしいんだ」
三井「わかった」
菅野「じゃ!」
菅野、外からサッシを閉める
雷鳴がとどろく
菅野「(中を気にしつつ小さな声で)お待たせしました」
シオ「?」
菅野「いやあ、あなただったんですか、顔知らないから、わからなかった」
シオ「なんだ?」
菅野「これであっちには知られません。これからの地球、そして世界をどう変えたいか、いつものチャット以上に熱くオフ会しましょうよ」
シオ「なにがなんだか(わからないが)」
菅野「んもう! 昨夜だって国境も言葉もひとつにして、お金は一律死ぬまで保証してあげて、地球はひとつの国に統一されるって盛り上がったでしょう。さあ、今日は生の意見をぶつけましょうよ」
シオ「お前まさか・・・」
そのとき
大きな雷!
ふたり「うあ!」
そして雨が降り出す
シオ「危ない!」
シオ、菅野をかばう
シオ「これは雨なんかじゃない!早く入れ」
菅野「うあ」
シオに押されてあわてて部屋に戻る
雨がけっこう降ってくる
内田「大丈夫ですか!」
菅野「いや大丈夫だけどさあもっと話したかったなあ」
柏「あそうだ!」
柏いったんかばんに戻ると小さなハンドタオルを出す
そのとき柏のかばんからひとつの箱も飛び出る
柏「こんなのしかないけどよければ使ってください」
菅野「ありがとう!」
三井「(箱に気づいて)なんだこれ?」
柏「(開けるのに気づいて)あ!やめて!」
しかし三井あけ
三井「ゆびわ?」
それはおもちゃの指輪の箱
柏「あ、あのそれはその・・・」
三井「どうしたの?」
加賀「あれ?やっぱふたりつきあってるんじゃないの?」
三井「違いますって!」
柏「え!違うんですか?」
三井「おい!」
加賀「こんなときだけど、めでたいな!」
内田「そうですよ!隠さないでくださいよ!」
三井「みんな~」
そのとき
シオ「浮かれるな人間!」
みんな「!」
シオ「いよいよ史上最大の戦争が始まったんだよ」
内田「史上最大の戦争?」
シオ「まさに・・・地球の天下分け目の関が原さ・・・」
そのとき敬理イン
敬理「うわ~、たいへ~ん」
菅野「敬理ちゃん!」
敬理「あともうちょっとでなんとか戻れるって思ったのに急に降ってくるんだもんなあ」
菅野「柏さん、これ敬理ちゃんに使ってもいい?」
柏「どうぞ」
敬理「(柏に)ありがと。(菅野に)ちょっとなんかこの雨変なんだよ?」
シオ「雨・・・」
敬理「そう。なんか粒がおっきくて、ドロっとしてるし(手のにおいをかいで)あ、匂う!」
菅野「あ~もう拭きにくいからじっとしてて!」
菅野タオルで拭き始める
シオ「(突然立ち上がると)あいつに触るな!」
みんな「!」
シオ、菅野に近寄るとはがいじめにして
菅野「ちょ、ちょっと!」
シオ、菅野を放す
菅野「なにするの!」
シオ「おしかったなあ、ユダ」
菅野「は?」
シオ「お前さんがインターネットで話してた相手っていうのは、こいつだよ」
シオ、菅野の目の前にタオルを出す
菅野「た、タオルじゃん?」
シオ「これに染み付いたアブラ型生命体さ」
みんな「え」
シオ「そして僕がミズ型生命体ってわけ」
菅野「そ、そんな・・・」
内田「水と油なんて・・・」
ミズ「生命の根源の水だ。水は永遠になくならない。凍っても、蒸発してもずっと地球に存在する。」
三井「やっぱりあのペットボトルの中身だったか」
ミズ「あ、テルみん、僕はさっきいい話をこいつから聞かせてもらったよ!」
三井「なんだ!」
ミズ「アブラたちにくっついて地球を変えようとしてる人間はこいつさ!」
ミズ、菅野をおもいきり指さす
みんな「!」
菅野「ち、違う!」
敬理「な、なおちゃん、どういうこと?」
菅野「いや、チャットで知り合った人と意気投合しちゃって」
ミズ「世界征服という思想の持ち主でな」
敬理「世界征服?」
菅野「いや、世界をいっしょにするってのは将来的な話でまずはお豆腐屋さんに出資してくれるっていうからね」
敬理「なにいってるの?わかんない」
柏「菅野さんって最低ですね」
菅野「違います!」
内田「裏切り者って・・・菅野さんだったんだ」
菅野「違う!」
敬理「最初から説明してくれる?そういえば夜中よくトイレに携帯もって起きてたよね?」
菅野「ああ、あとでゆっくり話そう!」
ミズ「そのあとってときに、あの子が菅野敬理だったらの話だよな?」
ふたり「え?」
ミズ「(がっと敬理を指さして)もうすぐのっとられるよ」
敬理「あたし?」
ミズ「さっきの雨に混じった・・・アブラ型生命体に・・・」
敬理「!」
菅野「そんな!」
ミズ「菅野!人間や僕らを裏切り、アブラの野郎たちについた代償は重い・・・」
菅野「・・・」
ミズ「あと三十分もすれば菅野敬理はアブラ型宇宙人に憑依されることだろう。責任の重さを思い知るがいい」
菅野愕然とする
敬理「ど、どうしたらいいの・・・?」
柏「なんとかならないんですか?」
ミズ「うーん」
柏「地球に昔からいる宇宙人さん同士なんですよね?だったら敬理さんを!」
ミズ「残念だがアブラとは本当に意見があわないんだ。」
柏「そんな・・・」
ミズ「ま、意見が合わないからこそなんとかバランスとってこの地球に存在してきたがね」
菅野「それでも宇宙人か!」
ミズ「アブラ派にいわれたかないわ!」
敬理「やめて!」
みんな「!」
敬理「しょうがないよ。雨にふられちゃったんだもん。」
みんな「・・・」
敬理「あ、あはは・・・くやしいなあ、あたし・・・もうすぐああなっちゃうのかあ。」
菅野「敬理ちゃん・・・」
敬理「なおちゃん、プロポーズあたしがOKした日にお互い隠し事はひとつまでって決めたよね」
菅野「・・・」
敬理「このことだったんだね。そっかあ。急に銀行辞めて、豆腐屋やるって。派遣とかバイトもするけど、将来的に何とかまとまった金が絶対入るからっていってたからさって」
菅野「・・・」
敬理「あたしの隠してることは教えない、死ぬまで」
菅野「・・・」
敬理「この体が宇宙人になって・・・あたしの記憶が消えて、なおちゃんも、ここにいるみんなも忘れて・・・襲ってきたら、遠慮なくあたしを殺して」
菅野「!」
敬理「できることなら、殺すの、なおちゃん、やってね。あたしがあたしじゃなくなってても・・・大好きだったってきっと思うから」
菅野「敬理ちゃん・・・」
敬理「三井さん、だっけ?」
三井「?」
敬理「宇宙人は隔離されたほうがいいでしょ」(そういってサッシのそばにいく)
三井「それは」
敬理「隔離・・・されちゃうね」
そういうと敬理、ひとりベランダのサッシをあける
菅野「待って!」
敬理、後ろ手で閉める
菅野「開けて!敬理ちゃん!」
敬理「だめ!」
菅野「話そう!もっと全部話すから!」
敬理「だめ!」
菅野「敬理ちゃん!」
敬理「へんてこりんな宇宙人に変わってくところ・・・なおちゃんに見せたくない。」
敬理、そのまま座り込む
菅野「けいりちゃん・・・」
雨に打たれる敬理
菅野もそのままへたりこむ
三井「めちゃくちゃだ・・・」
みんな「・・・」
三井「ただの・・・昔のおれたちの同窓会が・・・なんで・・・なんでこんなことになるんだよ!」
雨はますますひどくなる
そのとき
内田「覚えてますか・・・」
みんな「?」
内田「こんな急な雨の日でした。共同の台所、流しの上から雨漏りしてて」
みんな「・・・」
内田「大家さんにも連絡取れなくて日野さんもいなかったけど・・・俺ら四人でなんとかしましたよね・・・」
みんな「・・・」
内田「あれからみんな一気に風が通るように仲良くなって・・・だから俺はこの『ひこうき雲』が好きにっなったんです」
みんな「・・・」
内田「加賀さん」
加賀「?」
内田「三井さん」
三井「?」
内田「柏さん」
柏「?」
内田「菅野さんをなんとかしてあげましょう」
三井「おいどういうことだ!」
内田「なんとかするしかないんですよ!」
三井「菅野さんは人間を売りとばしたんだぞ!」
内田「だっておれらはここの仲間じゃないですか!」
三井「今は離れてるだろ!」
内田「離れてもひこうき雲の住人ですよ!」
三井「!」
内田、へたりこんでいる菅野のもとへ
内田「菅野さん」
菅野「・・・」
内田「なんとかしますから・・・絶対。」
菅野「ゆるしてくれるのか」
内田「終わってから考えましょう」
菅野「え・・・」
内田「・・・敬理さんのそばにいてあげてください」
菅野「内田・・・」
内田「(窓によって)敬理さん」
敬理「(目だけ中を向く)・・・内田くん・・・」
内田「待っててください。宇宙人にはさせませんから・・・」
内田、すっと立ち上がるとミズのそばへ
内田「権利書を教えてください」
ミズ「・・・」
内田「探します。俺が責任もって」
加賀「責任って」
内田「だって俺が・・・今日の会の幹事ですから・・・」
加賀「・・・」
内田「加賀さん言ってくれたじゃないですか。右腕がだめなら、左腕があるって」
加賀「・・・」
内田「俺にできること・・・それはサッカーと同じ・・・前に走るのみです。だから・・・どんなものか教えてください」
内田、ミズの前で頭を下げる
ミズ「さすが人間だ。そうこなくちゃ」
内田「え・・・」
ミズ「教えてやる。(立ち上がって)権利書は本でも書類でもない。水と油が生命を誕生させた・・・人間だよ。」
内田「人間?」
ミズ「そう、君ら人間が生きていくだけで出てくる力だ。」
内田「・・・」
ミズ「人間が生まれたとき、僕らとアブラは争うことをやめ、人間を見守ることにした。そして人間にこの地球を生かしていく権利を与えた。人間がいることによって直接の争いを防いできたんだ」
みんな「・・・」
ミズ「驚かしてごめん。だから別にどこにいかなくてもいい。ほしいものはここにそろってる」
そのとき
敬理「う・・・ううう」
菅野「敬理ちゃん!」
みんな部屋内でサッシに駆け寄る
敬理「な、なおちゃん・・・く、苦しい・・・」
菅野「ああああ」
菅野サッシをあける
三井「菅野さんだめだ!」
菅野、敬理にかけより
菅野「敬理ちゃん大丈夫、敬理ちゃん!」
敬理「なおちゃん・・・」
菅野は敬理を抱きしめる
内田「アブラ型生命体に支配されたらどうなるんですか!」
ミズ「やつらは力のみすべてを支配すると考えている。凶暴化するだろう」
内田「そんな」
ミズ「歴史上の大きな事件や戦争も、アブラが人間に取り付いてコントロールして起こしてきたんだ」
敬理「・・・な、なおちゃん」
菅野「なに、なに?」
敬理「・・・殺して・・・」
菅野「え・・・」
敬理「さっき・・・いったじゃん・・・あたしが・・・みんなを・・・地球を征服する前に・・・殺してって・・・」
菅野「そんなのわかんないよ!」
敬理「でも、あたしじゃないのに、あたしがやってるように見えちゃうんだよね、きっと・・・」
菅野「そんなことない・・・」
敬理「いやだよ。・・・あたしの知らないところで、あたしが生きていくなんて・・・。父ちゃんや母ちゃんが悲しむじゃない・・許されるもんじゃない・・・だから殺して。」
菅野「だめだよ・・・できないよ」
敬理「なおちゃんに殺されるならかまわないって」
菅野「いやだ!」
敬理「さあ(そういって、首に手を誘導する)」
菅野「・・・」
敬理「あたしは、ギュってされたら・・・結婚してからじゃなくて、友達づきあいしてるころのこと、思い出しながら・・・天国で先に待ってるから」
菅野「結婚してからのほうがいいよ!」
敬理「今はだめ。あたしのことも、夢も背負っちゃって・・・ぶさいくになってるもん。」
菅野「・・・」
敬理「さあ・・・」
菅野「だめ!(手をはずす)」
敬理「(獣のように叫び、のた打ち回る)」
菅野「もう・・・だめだ・・・」
三井「敬理さんをなんとかできないか」
ミズ「うーん・・・」
三井「同じ宇宙人同士だろ!なにかないのか!」
ミズ「彼女の中にある水と油を、乳化すればなんとかなるかもしれない」
内田「乳化?」
ミズ「中和みたいなもんさ。水と油を仲良しにさせれれば」
内田「乳化・・・なかよし、なかよし・・・」
内田、部屋内を探し始める
そして机の前でひとつに気づく
そのとき
敬理、すっくと立ち上がる
アブラ「ミズ!」
ミズ「!」
アブラ「油は常に水の上に立つ。ゆえに我々が地球を支配する。今日こそわれらに勝利の御旗を!」
ミズ「そうはさせない!」
アブラ「ミズごときがなにをした!人間たちの力と文化はこのアブラで貢献したんだ」
ミズ「ミズだって生命を救ってきたぞ」
アブラ「積年の恨み!(菅野に)どけ!」
アブラ、菅野をどかして、室内へ
ミズ「地球の権利書はここにある。これ以上は奪わせない!」
アブラ「なら、奪うまでだな」
ミズ「水が勝つか・・・」
アブラ「油が勝つか・・」
ふたり「勝負!」
ふたり、一気に手を組み合う
そしてにらみあう
そのとき
内田「かっこいい!よ!おふたりさん」
見ると内田、サキイカにマヨネーズを食べている
三井「なにやってるんだ!」
内田「うまいなあこれ!」
菅野「ついに本当のバカになったか!」
内田「女の子同士が戦うのってかっこいいなあ。」
アブラ「ん?くそ、おれは女に乗り移ったのか、しゃらくせい」
内田「今頃気づいても遅いですよ~。そうそう。戦う前に腹へってません?」
アブラ「そういわれると・・・この体、腹がへってるな・・・」
内田「いやあ、駄菓子とかいっぱいあるんですけど、これが一番うまい!」
そういって、内田、サキイカをマヨネーズにつけて食べる
アブラ「なんか間違ってないか」
内田「はい?」
アブラ「普通、するめを焼いてマヨネーズだろ」
ミズ「七味とかつけてね」
アブラ「よけいなお世話だ!辛いのは嫌いなんだ!」
ミズ「あら?そうなんだ~」
内田「どうです?主食としてせんべいとか食うとして、最初にまずこれ!」
アブラ「う~~~ん。見れば見るほどだんだんうまそうになってきたな・・・よこせ!」
アブラ、サキイカにマヨネーズをつけると
アブラ「いただくぜ!」
そういって、アブラ、サキイカを食べる
内田「どうですか?お味は」
アブラ「うーん、口の中に、イカの甘さと、マヨネーズの濃厚な卵黄の味が広がって、まろやかデリシャス・・・って・・・卵黄・・・卵黄!・・・」
内田「そう。卵黄さ・・・」
アブラ「貴様・・・」
菅野「ん?マヨネーズって」
三井「そうか!小学校の家庭科で習ったぞ」
柏「酢とサラダ油を、卵の黄身を使ってまぜていくから、とろとろになるんですね!」
ミズ「それが乳化というやつさ!」
アブラ「お、おのれ・・・」
アブラ、内田に襲い掛かろうとするが
脱力する
菅野「敬理ちゃん!」
菅野、敬理を支える
敬理「あたし・・・生きてる・・・」
菅野「ああ生きてるよ」
敬理「会いたかった」
菅野「え・・・」
敬理「なんか・・・むしょうに・・・会いたかったよ」
菅野「ずっといっしょだったじゃない?」
敬理「これからも・・・」
菅野「うん・・・」
※2008/03/06 挿入部分
ミズ「大丈夫。これで、人間に戻れるかもしれない」
三井「かも?」
ミズ「それは、僕も試してみないと確証がもてないからね」
そういって、ミズもサキイカにマヨネーズをつける
ミズ「(内田に)よく見つけてくれたな」
内田「体育と家庭科はまかせて。オール5だったんだ」
ミズ「そうか」
内田「ありがとうございます。いろいろ」
ミズ「この体の持ち主は、純粋なやつだ。大事にしてやってくれ」
内田「はい」
ミズ「じゃあな、フィアンセ」
そういうと、ミズもサキイカにマヨネーズをつけて食べる。
脱力
内田、支える
内田「ゆかりちゃん、ゆかりちゃん・・・」
ゆかり「んん・・・ん」
内田「ゆかりちゃん!」
内田、ギュって抱きしめる
ゆかり、ゆっくり抱きしめ返す
三井「(ため息)やれやれ当てられっぱなしだ」
加賀「独身の俺には見てられない光景だな」
柏「独身なんですか?」
加賀「仕込みでずっとしょうゆと油のにおいがとれなくてなあ。だれも近寄ってこない」
柏「いつか必ず」
加賀「そうなるといいんだがね」
そのとき地響きがする
三井「ん?なんだ?」
内田立ち上がって窓を見る
内田「見てください!」
みんな立ち上がる
大きくなる地鳴り
加賀「宇宙船から・・・」
敬理「黒いまるっこいやつがでてくる・・・」
菅野「○△■(見て)気持ち悪い・・・」
加賀「まるでスープに浮かんだラードのようだ・・・」
敬理「ラードってことは、アブラ?」
三井「おい!さっきので終わったんじゃなかったのかよ!」
そのとき爆音が鳴り響く
みんな「(悲鳴)」
みんなぶっとぶ
明かりも点滅する
三井「なんだなんだ!」
菅野「やつらの攻撃だ!」
爆発
みんな「悲鳴」
敬理「ねえ、どうするの?」
菅野「ここいらは、おれらしかいないみたいだし」
柏「戦うしかないですね!」
三井「おい、なにいってるんだ!」
内田「そうです。戦いましょう!」
三井「もうちょっと冷静に考えろ!」
内田「三井さん、こんなときに冷静になってる場合じゃありませんよ!」
ゆかり「あたしにはミズの力がはいってる。」
敬理「そうね!あたしにも、あのアブラの力がまだ入ってるかもしれないしね」
ゆかり「あたしたちは戦える!」
三井「日曜朝のヒーローモノの見すぎだ。本当にばかだな!」
敬理「なにを!このインテリ!」
柏「もめないでください!」
三井&敬理「はい!」
柏「でもどうやって戦うか・・・」
三井「だれかリーダーを決めて、その人のもと戦ったほうがいい」
菅野「それいいね」
三井「だれがなるんだ?」
加賀「年上ってことでいくと俺なんだが・・・右腕が」
三井「そうだよな。じゃあ、菅野さん」
菅野「う~ん、じゃおれで(いいですか)」
柏「せんだみつおゲームで決めます!」
菅野「え!」
敬理「せんだ・・・みつおゲームって・・・」
三井「あの子はいつも二○○○年のころが青春メモリーだから」
菅野「ミレニアムミレニアム」
内田「よし!やりましょう!」
菅野「やるのか!」
内田「時間はありません!はい、輪になって輪になって」
菅野「一度っきりに一回勝負!・・・」
ここからは、せんだみつおゲーム
で、最終的に、柏が負けてください
柏「わ、わたしが・・・リーダー・・・」
三井「世も末だ・・・」
敬理「(三井に鉄拳。そのあと柏に)がんばろうね!」
柏「は・・・はい・・・」
菅野「司令官殿!」
柏「司令官とかじゃありませんよ」
菅野「わたくし、知ってるであります。高校のとき、柏司令官は、演劇部で地区大会優勝しましたですよね?」
柏「げ、隠したい過去・・・」
菅野「あなたは仮にもリーダーであられます!こうなった以上演技でも!リーダーになりきることが!今は必要であります。」
柏「ええ・・・」
菅野「司令官殿、我々に・・・しびれるようなご命令を!」
柏「そんな!命令っていっても・・・」
内田「非常事態です!お早めに!」
加賀と三井以外、全員直立不動の体勢
柏「えっとまず・・・内田一等兵と敬理一等兵」
内田、敬理「はっ!」
柏「携帯は大丈夫ですか?」
内田「大丈夫であります」
敬理「右に同じ!」
柏「携帯のカメラを使って、あの人たちを撮影して、外の人・・・できるだけ新聞とかテレビ局にメールしてください」
内田、敬理「は!」
菅野「なるほど!外部に知らせるんでありますね!」
柏「そうです!」
三井「おれには?」
柏「三井一等兵」
三井「ありがとう一等兵で」
柏「もしものために、携帯の地図とか使っていいんで、ここから逃げるルートを考えてください」
三井「了解!男は地図が読めてナンボだ!」
三井も携帯をいじくる
菅野「わたくしは!」
柏「菅野三等兵」
菅野「あ、おれ三等なんだ」
柏「さきほどの行為、A級戦犯で死刑でもいいくらいですよ!」
菅野「申し訳ありません!」
柏「三等でも良かったと思いなさい!」
菅野「ははっ!でもそろそろ忘れてくださいよ~」
柏「(かぶせて)仕事を申し渡す!」
菅野「ありがたき幸せ!」
柏「魔よけ」
菅野「・・・はい?」
柏「魔よけです!」
菅野「ま、まよけって」
柏「お国のため・・・いや、我々アパートひこうき雲二○一号を守るために早く!」
菅野「は、は!」
菅野、ドアのそばでわけのわからない踊りを始める
ある程度踊るが
菅野「あのこんなんでいいんでしょうか・・・」
柏「いっときもやすむな!」
菅野「はい!」
柏「君のがんばりは・・・けっして・・・無駄ではない・・・」
菅野「司令官殿!」
柏「(菅野の肩を思いっきりたたいて)いこう!地球は我々の手にかかってる!」
菅野「司令官殿~」
なきながら踊り続ける菅野
内田「こりゃまいりました~」(内田、敬理もどってくる)
柏「どうですか?」
内田「司令官殿。やつら、ものすごい数ですよ」
敬理「しゅぼしゅぼっしゅぽってとことん出て来るんだよ。カメラに収まりきらない。(携帯画面を見せる)」
柏「(画面見て)うわ・・・」
敬理「テレビ局とか新聞のおっきいところにはメールしたけどどうなるかは・・・」
柏「わかりました」
内田「ついでに日野さんにもメールしてみます」
柏「お願いします」
菅野「ああ(ふらふら)もうだめ~~~~」
敬理「大丈夫?(駆け寄り)」
菅野「死刑よりもつらかったよ・・・」
敬理「よしよし一等兵のあたしがほめてつかわす」
菅野「けいりちゅわ~ん」
三井「へ~(内田の携帯を見て)まるでボーリングの玉みたいだな。これが終わったらみんなで田町ハイレーンでも行こう」
柏「三井一等兵は逃げ道探したんですか!」
三井「もちろん」
柏「報告をしてください!」
三井「まずは現状報告だ。今このアパートひこうき雲は高さ約三メートルほど水のシールドですっぽり守られている。」
加賀「隣の小学校からも隔離はされてるよな」
三井「もちろん」
柏「続けて」
三井「水のシールドは今はがんばっているんだろうが、いつ決壊するかはわからない。それでここからは提案なんだが、見張りをつけて、シールドを監視。シールドが危険になったら全員でなるべく早くここを出る。」
菅野「逃げるってことだね」
三井「そう。ルートとしては決壊した瞬間にこの丘を下って、山手線の線路に飛びおりる。」
ゆかり「こわいなあ」
内田「隣の目黒か恵比寿に逃げろってことですか?」
三井「それもあるが、手っ取り早いのはもう一度坂を上って中目黒方向に出られる。どうだ」
柏「でもシールドが破れた時点で突撃されちゃいます!」
内田「それに中目黒とか目黒にもアブラたちがいたら・・・」
三井「ありえるがそれ以外に安全な逃げ道はない。」
柏「ここから白金のほうには逃げられないんですか」
三井「ずっとのぼりだぞ!登ってる間に追いつかれる」
柏「そんな・・・」
三井「俺の案はかなり具体的でいいだろ?いつ光があたるかわかんないモデルの仕事目指してる君よりは」
柏「!」
三井「歩合制だから安定もしてない。仕事っちゃあ田舎のスーパーのチラシとたった一回きりの読者モデル!そんなんでいつメシを食う?」
柏「西口のホルモン焼き屋でもバイトして生活支えてるでしょ!」
三井「給料全額きみの服代に消えるだろうが!」
柏「それだって勉強のひとつでしょ。モデルさんって女の子みんなの憧れにならなきゃいけないから。」
三井「(かぶせて)そんなことはモデルでメシ食えるようになってから言え!」
内田「司令官殿!」
ふたり「!」
内田「うちのツートップが仲間割れしているようではこれからが心配であります」
ふたり「申し訳ない!」
内田「内田一等兵、提案するであります!おふたりの結婚式をあげませんか!」
ふたり「え?」
三井「おい、そこまでの仲じゃないって」
柏「そうなんですか?」
三井「またそのパターンかよ」
加賀「内田一等兵!ちょうどここに指輪があります!」
柏「あ」
内田「ってことで、トップが別れないように!結婚しましょう!」
三井「待て待てよ。こんな危機的状況でやるもんじゃないだろう!」
内田「おふたりの仲も危機的状況ではないでしょうか!」
三井「こら!」
加賀「うまい!」
内田「ありがとうございます!」
三井「もう。ってかなんでこんなの買ったんだ?」
柏「駄菓子屋さんでおつまみ買ってるときにたまたま見てたらほしくなっちゃって・・・。」
三井「おれがいつかしっかりしたやつ買うよ~」
柏「いつかっていつですか!」
三井「そりゃ・・・その、この前のギョーザ騒動とかおさまって仕事に一区切りついたら(やるよ)」
菅野「おそい!おそいなあ」
三井「そうかな」
菅野「永遠の相方だと思ったその日に買わないと!」
敬理「なおちゃんはすぐに買ってくれたよ」
菅野「そういうのは秘密にしないとお~~~」
敬理「えへ」
内田「おれたちもここの部屋でいっしょに作ったミサンガしてますし」
ゆかり「はい!」
三井「待って。内田君ここにいたころに作ったっていったよな?」
内田「はい」
三井「このアパートは自分以外連れ込み禁止だろ!」
内田「やべ!」
ゆかり「うちらだけの秘密でしょ!」
三井「そうか三大ミステリーのやつもお前らだったのか!」
内田「すいません!」
菅野「くそ~!おれも敬理ちゃんを連れ込みたかったぞ!」
敬理「余計なこと言わないでいいよ!」
菅野「だってホテル代高かったもん!」
敬理「最低!こんな小さな男だと思わなかった!」
柏「まってください。わたしが勝手に買っちゃっただけですから。すいません」
みんな「・・・」
柏「司令官失格ですよね・・・こんな勝手な行動とる子がトップだなんて・・・」
そのとき加賀が立ち上がる
加賀「三井輝、柏律子起立」
ふたりたつ
加賀「そこに並んで」
三井「加賀さん無理ですって!」
加賀「神前じゃなくて人前結婚式だ!やるぞ!」
三井「そんなあ~」
柏「ほらしっかり立って!」
三井「君まで調子のるなよ~」
内田「あ、ご参列の皆様もおふたりの証人ってことになるんでご起立ください」
菅野「じゃ、仲人やるよ」(といって三井のそばに)
三井「菅野さんまで!」
敬理「おもしろそう~やるやる~」(といって柏のそばに)
三井「ちょっと~」
敬理「照れるな照れるな!」
ゆかり「あたしもなんかやりたい」
内田「そうだ!天使!」
三井「天使?」
内田「幸福の天使!」
ゆかり「は~い」
ゆかり、柏と三井のまわりを天使のように笑顔で回り始める
ゆかり「あはははあははは」
内田「いいよ!ゆかりちゃんは本当に天使みたいだ」
ゆかり「ありがとう!あはははあははは」
柏「かわいい!」
ゆかり「ありがとう~あはははあははは」
三井「人前じゃなかったのか?なんで天使がいる?妖精なのか!」
ゆかり「いいからいいから~」
加賀「柏律子!」
柏「はい!」
加賀「あなたはこの三井輝を病めるときも健やかなるときも、生涯を通じて共に支えあい、信じあい、愛することを誓いますか」
柏「誓います」
加賀「三井輝!」
三井「はい・・・」
加賀「あなたはこの柏律子を病めるときも健やかなるときも、生涯を通じて共に支えあい、信じあい、愛することを誓いますか」
三井「そんな、覚悟なんかまだ決まってませんよ」
敬理「てめえ!(胸倉つかんで)」
三井「んだよ!」
敬理「男らしく!お縄ちょうだいしやがれってんだい!」
三井「逮捕かよ~」
菅野「みっちゃん!おれも敬理ちゃんと結婚してから本当に幸せになった気がする」
三井「菅野さん・・・」
菅野「本当だよ。つきあってるとき以上の幸せってやっぱり結婚しなきゃわかんない部分多いよ」
敬理「悪い部分も見えるけど、その分いいところってのがもっと見えてくる。いいもんだよ」
三井「うーん」
菅野「みっちゃん!」
内田「三井さん!」
ゆかり「テルみん!」
三井「うわ!やなこと思い出しちゃった・・・」
内田「だめだよ!それでよんじゃ!」
ゆかり「あはははあははは」
柏「三井さん、じゃない! 輝!」
三井「!」
柏「居候の身でいうのもなんですけど、わたしはモデルになるのが夢です。」
三井「さんざん知ってるよ」
柏「でもモデルになるには輝の力が必要なの!」
三井「え・・・」
柏「結婚してわたしのマネージャーになってください!」
三井「!」
敬理「かっこいい!」
菅野「ぎゃ、逆プロポーズだあ!」
三井「ちょっと待てよ!おれは大学生協で働く契約社員みたいなもんだぞ!芸能界のことなんてひとつも知らないし!」
柏「衛星電話とか流行に一番敏感でしょ?」
三井「そりゃそうだけど・・・」
柏「流行をいち早く捕らえてくれる人が必要なんです」
三井「そんな人は業界ってやつにごまんといるだろ!」
柏「・・・」
三井「正直おれには・・・君を支える・・・勇気がはっきりしない・・・」
柏「はっきりしなくてもいい!絶対一緒に支えるから!」
三井「!」
柏「いつでも・・・どんなときでも・・・」
三井、体勢を整えると
三井「加賀さん!」
加賀「・・・」
三井「誓います!」
敬理「(絶叫)お前は男だい!」
三井「うお~~~~~~」
加賀「指輪の交換を!」
ゆかり「(指輪の箱を持ってきて)どうぞ~」
内田「あ、カメラのある人はぜひ前に!」
みんな「はい!はい!」
みんな、写メを出してスタンバイ
内田「お願いします!」
三井、柏に指輪をはめる
そして柏、三井に指輪をはめてやる
菅野「はいこっちにみせてください~」
ふたり「は~い」
ふたり記者会見のよう
みんな撮影。
敬理「(撮影しながら)新婦の方もっとにっこり~」
柏「こうかしら?(にっこり)」
敬理「はいは~いありがとう!」
菅野「(撮影しながら)はい新郎びびってる」
三井「余計なお世話だ!」
内田「じゃあ、誓いのキスを!」
柏「え!」
三井「無理だって!」
菅野「はい!チュー!チュー!(続けてあおる・・・)」
みんな「チュウ!チュウ!」
ふたり嫌がるが、顔を近づける
キス寸前!
そのとき
爆音
内田「こんなときだっての忘れてた~」
三井「くそ!もうちょっとだったのに!」
菅野「キスする気まんまんじゃん!」
ゆかり立ち上がって
ゆかり「シールドが・・・」
みんな立ち上がって
みんな「ない!」
三井「そんな」
加賀「あんなに強そうなシールドだったのに・・・」
菅野ベランダに出て
菅野「うあ!」
内田「どうしました!」
菅野「一階の半分くらいまで黒いアブラで」
内田「え」
三井「ってことは・・・逃げるどころか・・・完全に包囲されたな・・・」
柏「どうしよう」
三井「君が結婚式なんか参加してるからこうなるんだ!」
柏「なんですって!」
三井「そうだろ!俺が見張りをつけて監視しろってあれほどいったじゃないか!」
敬理「もう済んだことはいいじゃない!」
三井「よかない!これは司令官である君の怠慢だぞ!」
柏「そんな!」
そのときメール着信
内田「司令官殿!日野さんからメールです!」
柏「報告!」
内田「はっ!(メール)みなさん大丈夫ですか!」
菅野「大丈夫じゃないよ~」
内田「(メール)アブラ型宇宙人がそこや日本だけでなく世界中で出現しているみたいです。軍や日本では自衛隊が出動してますがなにも手を出せない状況です。」
加賀「そうだ!アブラには卵黄がきくんだよな」
内田「それメールするの忘れてた!」
敬理「あたしが助かったくらいだもん。なにか役に立つって」
内田「はい!(メールを打ち始める)」
菅野「これで少しはなんとかなるかもしれない」
三井「でもその前に、ここが崩れたらどうするんだ?」
菅野「え」
三井「このアパートはただでさえボロだ。完全に包囲されてるとなると、やつらの圧力でいつ一階がぶっこわれるか」
菅野「そんな・・・」
そのとき
内田「ゆかりちゃん」
ゆかり「なに?」
内田「水にのったられたとき、どんな気分だった?」
ゆかり「ん~、ずっとなんか水のなか泳いでる感じ・・・」
内田「よし!敬理さん!」
敬理「ん?」
内田「アブラにのっとられましたよね?そのときのこと覚えてますか」
敬理「うーん、苦しくてあまりよく覚えてないけど、なんかいろいろ言って、なおちゃんふっとばして、ゆかりちゃんと対決したような・・・」
内田「よし!」
三井「おい、さっきからなんだ!」
内田「あのふたつには意思があります。意思があるってことは喜怒哀楽があるってことです」
三井「確かに」
菅野「おお内田らしくない頭の冴え方だ」
内田「ってことは、今、アブラは喜怒哀楽の怒、怒りで動いてる」
三井「水と戦って地球を征服しようってくらいだからな」
内田「そう。だから・・・」
内田、無言でサッシをあけて
内田「司令官殿~」
柏「はい?」
内田「モデルさんが夢ですよね?」
柏「そうですけど・・・」
内田「目をつぶって」
柏「はい・・・」
内田「さあ想像してください!ここは夢の都、パリ!」
柏「パリ?」
内田「柏さんは夢がかなったんです!一流ブランドのパリコレ!ファッションショーの現場だ!」
柏「うん・・・」
内田「たくさんのモデルさんが行った最後!大トリのモデルが柏さん、あなたです!」
柏「そんな!」
三井「なにするんだよ!」
内田「(三井に)見ればわかります!さあ。柏さんいよいよ出番です!」
柏「はい・・・」
柏、目をつぶったまま立ち上がる
音楽が鳴る
内田「ホルモン焼き屋さんのバイト・・・つま先から血が出るくらいのウォーキング!それを乗り越えて今やっときた夢の大舞台!」
柏「(表情がだんだん弾きしまる)」
内田「そばには一番大切な・・・三井さんもいます」
柏「そうなの?!」
内田「(三井に小声で)応援してあげてください」
三井「(内田に)おおわかった(柏に)律子・・・」
柏「輝・・・」
三井「律子なら・・・できる・・・」
柏「はい!」
内田「さあ、目を開けて・・・」
柏ゆっくり目を開く
その目はすでにモデルの目
ぎらぎらと前を見る
内田「敬理さんDJよろしく!」
敬理「ええ!んもうOK!レディース、エンド、ジェントルメン!ラストモデル、イズ、リツコ~カシワ!フロムジャペ~ン」
内田「ヒア、ウィ、ゴウ!」
音楽イン
柏、おもいっきりすっと奥に立つ
そして、モデル歩きで一気にベランダまで歩く
ジャケットを(着てる、つもり?)でばさっとしてターン
敬理「チェケナ~ウ」
内田「ギャラリーの皆様!シャッターチャンスです!」
柏、ジロリとかっこよくにらむ
アブラたちが騒ぎ始める
菅野「やった!楽しんでるみたい!」
内田「よし!加賀さん!」
加賀「ん?」
内田「『どうざんしょ』に電話してください?」
加賀「なにしろってんだ」
内田「今から合図します。合図したらラーメンにつける味付け卵とかをアブラに投げつけてください」
加賀「それはお客さんに出すもんだぞ!食い物を粗末になんか」
内田「ラーメンと人の命どっちが大切ですか!」
加賀「んもう~わかった!(電話)もしも~し・・・」
加賀、電話かける
柏「(もどってきて)こんなんでいいの?」
内田「最高です!ギャラリーも楽しんでますよ!」
三井「まだやるのか!」
柏「ちょっと息切れが・・・」
内田「もう一周!」
柏「わかった。でもどうしよう、次の衣装、衣装・・・」
柏、今度はゆかりのコートをもって
ゆかり「それ、あたしの」
柏「貸して!」
ゆかり「まって~」
先に柏がウォーキングする
あとからゆかりも歩いてしまうので
敬理「お、オーケー、ダブルモデル、ユカリ、ハチスカ~」
ゆかり「ええ~どうすりゃいいの~」
内田「ゆかりちゃん!Y字バランス!」
ゆかり「できないって」
内田「途中まででもいいから!」
ゆかり「え~」
柏、ゆかり、ベランダの先端にいく
柏おもいきりジャケットプレイで決める
柏「きまった・・・!」
同時にゆかり、中途半端なY字バランス
ゆかり「はい・・・」
歓声が最高潮に達する
柏「戻りましょう」
内田「いまだ!加賀さん!」
加賀「よし!卵をなげつけろ~」
内田「よし!みんなあつまって!」
全員、集まる
内田「叫んでください!」
三井「え?」
内田「アブラと水に伝えるんです!おれら人間の叫び!生きてるっていう叫びを!」
三井「勢いだけじゃなんにもできないぞ」
内田「早く!」
柏「(絶叫)スーパーモデルになります!」
三井「(絶叫)パリの次はニューヨークでショーやるぞ!」
菅野「(絶叫)日本で一番おいしい豆腐屋さんになってやる!」
敬理「(絶叫)その豆腐屋さんの女将になる!」
加賀「(絶叫)ラーメンでみんなに幸せを!」
ゆかり「(絶叫)俊也のいいお嫁さんになってやる!」
内田「(絶叫)ゆかりちゃんをもっと笑わせてやる!おれたちは・・・」
みんな「(絶叫)生きてるぞ!」
内田、マヨネーズを取って
内田「うおーーーーーー」
と叫びながら真ん中から、アブラたちに注ぎ込もうと
天高くマヨネーズを持って入れようとする
そのとき
遠くから戦闘機の音
内田「(止まる)ん?」
菅野「なんだ?」
三井「なんか後ろからクリーム色のやつを降らせてる」
メール着信
内田「日野さんからだ!(メール)マヨネーズ、大量投下中!」
三井「あれはマヨネーズなんだ!」
敬理「こっちに来る!」
柏「部屋にはいって!」
ベランダにいる人間、転がり込む
戦闘機の音、マックス
みんな部屋の中で耐える
音が小さくなる・・・
ゆっくり起き上がる内田
内田「ない・・・」
菅野「え・・・!」
内田「みてください!」
菅野「マヨネーズだらけだ・・・あは」
三井「ってことは・・・」
みんな「やった~~~~」
手を取り合って喜ぶ全員
三井「なあ、みんなで飲みなおさないか」
菅野「いいねえそれ!」
敬理「あたしも最初から飲みたい~」
柏「じゃあ、準備準備」
ゆかり「手伝います」
テーブルを持ってくる
そして、みんなでそれを囲む
菅野「それでは、今一度、幹事からお言葉を」
内田「えっといろいろありましたがみなさん怪我もなくお日柄もよろしくて」
三井「泡が消える。早く」
敬理「泡ってビールじゃないでしょ?」
三井「あ!」
敬理「うるさいなに?」
三井「これさ・・・中身はいってないんじゃない?」
みんな「あ!」
缶を振る
菅野「やっぱ・・・」
柏「ないですね・・・」
ゆかり「あたしかってきます」
敬理「いいよ。あたしが買ってくる」
菅野「ならおれもいくよ」
三井「おれも」
柏「おつまみも買わなきゃですね!」
ゆかり「いってくるね」
みんな行こうとする
内田「これでいいのかな・・・」
ゆかり「え・・・」
みんな止まる
内田「ここで喜んでいたら・・・また、おれたちが人間が・・・地球でのさばっちゃわないかな・・・」
みんな「・・・」
そのとき
大きな破壊音
内田、サッシに駆けつける
内田「ベランダが・・・」
みんな駆け寄る
菅野「落ちた・・・」
柏「わたしの舞台が・・・」
ゆかり「マヨネーズだらけ・・・」
三井「そういえばここ、明日、取り壊しだったな・・・」
菅野「すっかり忘れてたなあ」
柏「あたしたちのひとつの時代が、消えちゃうんですよね・・・」
内田「ひとつの時代かあ・・・」
三井立ち上がって
三井「ベランダの柵がとれたから・・・東京が全部見えるなあ・・・」
菅野「ここってこんな景色だったんだね・・・」
みんな、だまって景色を見る
内田「なんか素直に乾杯していいんですかね・・・」
みんな「・・・」
内田「またみんなが忘れたころに、水と油が怒って戦争しないかな・・・」
加賀「大丈夫だ」
内田「・・・」
加賀「他のやつらが忘れても、おれたちは覚えてる」
内田「・・・」
加賀「誰かがのさばり始めたら、おれらで説教たれてやれ」
内田「それだけでいいんですか?」
加賀「今の今だ。俺たち意外にも、必ず説教するやつはいるよ・・・生きてるんだろ?人間みんな。」
内田「・・・」
加賀「ってことで飲みなおし飲みなおし」
内田「加賀さ~ん」
加賀「よし、買いに行こうみんな」
みんな「は~い」
内田以外、みんなハケる
内田、ひとり残る
外を見る
内田「生きてる・・・か」
内田、なにかを思う
菅野「内田、行くぞ~」
内田「はい!」
内田、マヨネーズを置いてはける
マヨネーズがある。人間には。
END
2008 3man Office/劇団3man
第17回桜公演
登場人物
内田俊也 元102号室 大学生:成月朔夜
菅野直史 元103号室 元会社員:坂田聡司
三井輝 元101号室 大学生協職員:遊馬栄斗
加賀逸三 元203号室 ラーメン屋店員:富士河千之介
柏律子 元202号室 フリーター:玉熊志帆
菅野敬理 菅野の妻、ガス料金検針員:南佳那
蜂須賀ゆかり 内田の彼女:鍋島美緒(劇団白芸)
スタッフ
作・演出:富士河千之介
音響効果オペレーター:加藤真由実
照明効果オペレーター:本多美智子
照明プラン:坂田聡司
舞台:成月朔夜・今井英太
写真撮影:村上史行
制作本部:玉熊志帆・南佳那
制作:3man Office制作本部
「201」パートナーズ
ここは東京都目黒区三田。
東京タワーがうっすら見える恵比寿ガーデンプレイス近くの丘の上にあるアパート「ひこうき雲」
大使館の家族や外資系サラリーマンたちのお屋敷がひしめきあう街にまったく似つかわしくない二階建てのぼろアパートである。
そしてボロはボロらしく、今日、三月三十一日を最後に取り壊されることになっていた。
その二階。
ここはそのアパートの一室。
二○一号室である。
テーマ曲
明転
内田がビール箱(みかん箱?)を持ちながらイン
室内中央においてから、ふーとため息
そして、自分のかばんからペットボトルを出す
飲む
そのとき、轟音が二回
内田「?」
内田ベランダのほうを向く
そしてサッシをあけて外へ
ベランダ
内田「!(ペットボトルを落とす)」
そこに
菅野「おう、おまたせ!」
菅野イン
内田、振り向かない
菅野「遅れてごめんな。スーパーのレジがおもいっきり混んじゃって、もう大変で(ためいき)」
内田「(外を見てる)」
菅野「おーい?」
内田「・・・あ、あの!」
菅野「ん?」
内田「こっちきてもらえませんか?」
菅野「え?」
菅野、外に出てくる
内田「(なぞの物体を指差して)あれ・・・」
菅野「ああん?」
内田「なんでしょうかね・・・」
菅野「なん・・・だろう・・・」
そのとき、三井を先頭に柏、加賀、ゆかりがイン
内田、それに気づいて
内田「あ、みなさん、ちょっと・・・」
加賀「なんだよなんだよ、早くのもうぜ!」
内田「すいません。でもあれ・・・」
加賀「?」
柏「なに・・・あれ・・・」
加賀「おいおいでっけーなー」
加賀がベランダにインしようとする
菅野「うあ!」
加賀「なんだよ!」
菅野「今、ミシっていった!」
加賀「え」
菅野「底がぬけるかもしれない!」
加賀「いやいくらボロでもそこまでは(ないだろ)」
柏「思い出した!ここそんなに人入れないですよ」
菅野「そうか、俺ら一階の住人じゃわかんないなあ」
加賀「とりあえず何人乗れるかためしてみよう」
柏「はいはい!次、わたしも見たいです」
三井「ミーハーな真似するなよ」
柏「だって」
加賀「どうぞ」
柏「やった」
柏、ゆっくり入ってくる
そーっと足を一歩入れながら
両足いれて
柏「ふー(自分に拍手)」
菅野「大丈夫大丈夫」
加賀「次は?」
三井「おれかな(入ろうとする)」
内田「NO! あれはなんですか!!」
ゆかり「あれは宇宙船だ(ずんずん入ってくる)」
ミシっという音
菅野「うわ!」
ゆかり「やっぱ・・・きてるんだ・・・」
三井「おい!何者だ!」
内田「ああ!ぼ、僕の彼女です・・・」
ゆかり「あ、蜂須賀ゆかりっていいます・・・どうも・・・」
三井「住人ではないよね?」
内田「あ、いや、あの」
菅野「おれも昨日知ったんです。急に電話かかってきて、なんだろうって思ったら、彼女連れてきていいかっていわれて」
三井「話しでは、このアパートひこうき雲に住んでたやつだけを集めての同窓会って聞いていたんだけど?」
内田「すいません。どうしてもいきたいって・・・」
ゆかり「よろしくおねがいします・・・」
加賀「(ゆかりに)ラーメン好き?」
ゆかり「しょうゆとんこつなら・・・」
加賀「参加OK。(握手しながらゆれる)」
ミシミシ
菅野「加賀さん揺らしすぎ!」
加賀「ラーメン好きに悪いやつはいない。いっしょに楽しもう」
ゆかり「あと塩たまごも好きです・・・」
加賀「いつか俺の店にきてください」
ゆかり「はい」
三井「じゃ、おれだな」
三井ゆっくり入ろうと一歩いれるが
大きくバリっと音
全員「ああああああ」
内田「三井さんは中で!」
三井「なんだなんだおればっかり」
柏「だってみんな死んじゃいます」
三井「失礼だなおい」
加賀「じゃ、おれは十分見たから中に」
菅野「おれも寒いから入ろ」(ふたり中に入る)
三井「代わりにおれが」
大きくバリバリ
ベランダ全員「ああああ」
三井「おれそんなに重くない!」
☆2008/02/25 差し替え
菅野「こっちで我慢しましょうよ」
三井「ふん、ただの体育館じゃないか?見てなにが面白い?」
柏「でも体育館はあっちでしょう?」
三井「なるほど。でもそういえば、この辺はマンションの建設ラッシュだ。親が増えれば子も増える。増築でもしたんだろ」
内田「でもあんなとこで入学式なんかできますか?」
三井「今の子供ら、というより、このへんの親は斬新なものに興味を引く。同じような感性を持ったデザイナーが作ったんだろう」
柏「そうは見えないんですけど・・・」
三井「わかってないなあ」
ゆかり「絶対宇宙船だ・・・」
三井「ばかばかしいにもほどがある」
加賀「(中から)なあ、だれだよ~こんなにお菓子買っちゃって」
三井「うわ!サキイカにマヨネーズって、普通、するめにマヨネーズだろ」
加賀「カレーせんべいまである。懐かしいなあ」
三井「すべての犯人は、駄菓子屋でテンションあがりすぎた人」
柏「ごめんなさい!わたしです」
菅野「おお柏さんならOKOK」
柏「すいません。あ、乾杯にしません?」
加賀「そうだそうだ。のどカラカラだ」
内田とゆかり以外、全員、中に戻る
内田「行こうか?」
ゆかり「(じっと見てる外)」
菅野「(中から)早く!」
内田「は、はい!」
内田、強引に手をひいて、中に戻る
ペットボトルは拾わない
全員座る
菅野「それでは今日の幹事からひとことお願いします」
内田「あ、あの、外もいろいろおかしいですが」
三井「おかしくなんかない」
内田「あ、そうかもですが、こっちはこっちで楽しみましょう」
柏「はい」
菅野「なんつったって半年振りの再会ですからね」
三井「泡が消える、早く」
内田「はい!乾杯!」
全員「乾杯!」
それぞれ飲んだら、拍手
そのとき轟音
内田「ん?」
菅野「どした?」
内田「聞こえませんでした?」
三井「なんにも」
内田「でも・・・」
ゆかり「聞こえた」
内田「だよね!」
柏「わたしも・・・」
三井「気にしすぎた」
菅野「ってことで気にしない気にしない」
内田「ん~、ま、いっか」
ゆかり「(じろりと内田をにらむ)」
内田「ゆかりちゃん・・・」
ゆかり「他人に流されっぱなしなところ、嫌い」
柏「(気にせず)でも、すごいですよね。あのときここに住んでた人全員集まるなんて。」
加賀「そうそう。よく集めてくれた。おれはおもいきりおまえをぼめる」
内田「ありがとうございます!大家さん口説いてみんなにはがき出した甲斐がありました」
柏「はがき来たときうれしかったあ。また加賀さんとか内田くんに会えるって思って」
内田「ありがとうございます」
菅野「おれは・・・?」
柏「(気づかず)店長に今日シフト入れられたらって思ってひやひやしてたんですから」
菅野「柏さん、おれは?・・・」
柏「はい?」
菅野「・・・はい・・・」
内田「(小声で)どんまいです」
菅野「(絶叫)きみにいわれたかないよ」
三井「やっとこさ、風呂トイレつきの部屋に移れたってのに、まさかまたここにくるとは・・・」
柏「ちょっとせっかくみんなきてるんですから」
三井「みんなじゃない。この部屋の持ち主がきてないぞ」
加賀「ああ、日野さん?」
柏「そういえば・・・」
内田「日野さんからはメールが」
柏「メール?」
加賀「そういえばはがきに内田君のメアドが書いてあったな」
内田「はがき書くのが面倒な人のためにのっけといたんですよ」
三井「はがきで来たのをメールで返すのはおかしいんじゃないの」
加賀「え?俺、メールで返しちゃった」
柏「まあそういうときもありますって」
内田「読みますね。(メール)『こんにちは、二○一の日野です。お誘いのはがきありがとうございます。』」
加賀「へえ礼儀正しい人なんだ」
内田「すごいですよね。えっと、(メール)返事遅れてすいません。都合で今日は行くことができません。みんなに会えるのを楽しみにしてたのにまたいつかお会いしましょう』」
加賀「お会いしましょうっつったってな」
三井「この中で日野さんの顔を見たことあるやついる?」
柏「うーん・・・」
菅野「おれと内田は一階だから、ますます見ない」
三井「同じ二階にいたはずなのにな」
柏「ひこうき雲三大ミステリーのひとつでしたね」
加賀「そうそう。あとなんだっけ?」
菅野「一階の奥から、女の声がする・・・」
内田「(それを聞いてそわそわする)」
三井「そんなのあったっけ?」
菅野「ああ、いっつも夜遅くになると、ごにょごにょごにょって・・・」
内田「あの・・・」
柏「(無視)こわいですよね!」
内田「あの・・・(ですね)」
三井「(さえぎって)あと一階からとんでもなく、へんなにおいがするときがあった」(内田、はいるのをあきらめる)
柏「三大ミステリーそろいましたね!」
加賀「あ、最後のやつ、実はおれ」
柏「加賀さんだったんですか!?」
加賀「いやね、おれまだラーメン屋で働いてるんだけどさ」
柏「『ラーメンどうざんしょ』ですよね?」
菅野「西口の」
加賀「ああ。で、月一回、とんこつとか鶏がら持ってきて、新しいスープの研究してたのよ」
柏「そうだったんだあ」
三井「恐ろしく臭かったですよ!」
加賀「すまんすまん。でもおかげさまでこの前社長から、ゴールデンウィーク明けにできる二号店、まかせてくれるって。」
柏「すごい!」
加賀「ま、そのためにはいろいろ条件をクリアしないとなあ」
柏「がんばってください!」
加賀「おうよ!」
菅野「『どうざんしょ』二号店できるんだあ!どこですか?」
加賀「用賀」
菅野「遠いなあ」
柏「絶対食べにいきます!」
三井「食べたら、ますますモデルにはなれないぞ」
柏「ラーメンは別腹です!」
三井「ふん」
ゆかり「あたしも・・・いって・・・いいですか?」
加賀「卵、半熟にして待ってるよ!」
ゆかり「はい!」
菅野「おれもがんばっていきますよ!」
加賀「きみには固ゆでで」
菅野「そんなあ。失業者に固ゆではつらいですよ」
加賀「あれ?やめたの?」
内田「うそ!外資系の銀行ですよね?」
菅野「おれさ、こう見えて内向的な性格でしょ?」
柏「そうですね」
菅野「え・・・」
柏「はい?」
菅野「(咳払い)あ、いや、その、行内で、ちまちまやる仕事は好きだったんだけど、上司がさあ、あれこれ干渉してくるのがいやで・・・」
内田「あは、なるほど」
菅野「なるほどってなんだよ!」
内田「すいません」
菅野「今年就職活動だよな?元の銀行には紹介できかねるからね」
内田「そんなあ。」
柏「あ、お豆腐屋さんやろうとしてません?」
菅野「よくご存知ですねえ!」
三井「おれが教えたの。」
菅野「なんだみっちゃんか」
三井「うちの卸し先から聞いたよ」
菅野「いい豆仕入れるの調べたときにばれたのかな」
内田「あ、じゃあ、菅野さんの豆腐屋さんに就職させてください」
菅野「はい不合格!」
柏「(挙手して)はいはい!彼女さんとはどのくらいお付き合いしてるの?」
三井「ミーハーすぎるぞ」
柏「だって、ね?かわいいし」
内田「もうすぐ一年」
ゆかり「半」
内田「あ、一年半」
柏「うらやましいなあ。仲よしさんで(ちらりと三井を見・・・)」
三井「(咳払い)」
内田「なんか気づいたらだらだらとここまできてしまって・・・」
そのとき突然、ゆかり、がばっと立ち上がる
内田「うわ!だらだらってのは嘘です嘘です嘘!」
ゆかり「来た!」
内田「きた?」
ゆかり「やつらが(はけ口に向かって戦闘体勢で東西南北を見ながら威嚇する)はっ!はっ!」
三井「日野さんやっぱ来たんじゃない?」
内田「あんなメール打っといて来るんですか」
柏「気がかわったとか」
内田「(ゆかりに)ね、すわろうよ、ね?」
ゆかり「許していいの?地球の終わりだよ?」
内田「ゆかりちゃん!」
そんなとき
ノック
(敬理が裏でノックする)
みんな「!」
内田「まさか!」
加賀「宇宙人が・・・」
柏「きたんですか?」
またノック(敬理)
ゆかり、戦闘態勢をもっと激しくする
三井「(それを見てちょっとおびえ)・・・ん、んなバカな」
菅野「ん~(なにかを思い出して)あ、はいはい」
といいながら、はけ口に向かう
ゆかり「(菅野の腕をつかみ、投げ飛ばす)と~りゃ~」
菅野「うあ!」
内田「(菅野を助け)大丈夫ですか!」
菅野「いてて」
ゆかり「ドアをあける人間は誰であろうと許さない」
菅野「(起き上がって)だから違うって!(もみ合い)」
ゆかり「だめだあ!(もみあい)」
内田「(それをとめて)ゆかりちゃん!」
そこに
敬理「こんにちははじめまして~」
菅野とゆかり以外みんな「(敬理を見て絶叫!パニック)」
ゆかり「で、でたな!宇宙人め!」
敬理「う、宇宙、人??????」
ゆかり「みんな!あたしにまかせて!」
内田「がんばれ!ゆかりちゃん!」
菅野「それでも男か!」
内田「うわ!よし、おれも援護射撃!」
三井「せ、せめて前線に立てよ!」
内田「だ、だってこわいんだもん」
三井「おい!」
加賀「なら、三井くん!」
三井「おれはおれは・・○○○(アドリブで断末魔の叫び)」
といいながら失神!
柏「大丈夫!?」
内田「三井さん!三井さん!」
加賀「寝るな!死ぬぞ!」
内田「みついさ~ん!」
菅野「(我慢できずに絶叫)よ、嫁です!(といって、敬理のところへ)」
三井「(がばっとおきて)嫁?」
内田「三井さん?」
三井「(知らん顔で)内田君なにかあったかね?」
ゆかり「だまされないで!みんな!(菅野に)さては、お前も仲間の宇宙人だな!」
菅野「Not!宇宙人!」
敬理「(菅野に)ねえ、どうしちゃったの?」
菅野「大丈夫大丈夫。(みんなに)あ、紹介します。うちの嫁の敬理」
敬理「敬理です。よろしくお願いします」
菅野「早いよ~敬理ちゃん」
敬理「だって待てないんだもん」
内田「けいり・・・さん・・・」
柏「あ、あは、面白いお名前ですね」
敬理「うちのおじいちゃんがつけたんです。画数がいいからって」
柏「へえ」
ゆかり「油断しちゃいけない!宇宙人は時には精神的に迫ってくるんですよ!」
敬理、まだ警戒しているゆかりのところにいき、手を握る
ゆかり「な、なにをする!」
敬理「こんなに手があったかくてもあたしを信じてくれない?(もっとぎゅっと握って)ほら・・・」
ゆかり「人間に寄生してたり、化けてるかもしれないし・・・」
敬理「生まれは浅草二丁目、言問通りとひさご通りの交差点からちょっといったとこ。」
ゆかり「・・・」
敬理「オムツのころから花やしき行ってるからもう庭みたいだったり・・・あ、舟和の芋羊羹と梅園(うめぞの)の粟ぜんざいなら、何杯でもいけるんだけど・・・?」
ゆかり「あ、人間だ(警戒をとく)」
三井「食い物で信じるのか!?」
菅野「(ほっとして)よかった~」
内田「あ、すいません!許してください」
敬理「いいよいいよ」
内田「僕の彼女なんです」
敬理「彼女なんだ。大事にしてあげなよ」
内田「はい!」
敬理「あ、そうだ!聞いて聞いてみんな!来る途中寒くて、コンビニでホットティ、ペットボトルで買ったの。そしたら」
敬理、ペットボトルを見せる。
そしてふたを開ける
下に向ける。
敬理「空っぽなの」
内田「からっぽ・・・」
菅野「軽く飲んじゃったの忘れたんじゃないの?」
敬理「そんなことない!一滴も飲んでない!」
そのとき
ゆかり「あれ?」
内田「どうした?」
ゆかり「(缶をふって)ない・・・」
内田「いやいや、飲んじゃったんでしょ?」
ゆかり「(激しくにらむ)」
内田「ご、ごめん・・・」
加賀「あれ?おれもないな」
三井「おれもだ」
柏「わたしも・・・」
みんな、缶を下に降るが、中身がない
内田「ちょっと待ってください。おれらって最初の一口しか飲んでませんよね?」
三井「ああ」
菅野「そのあとは、きみの話とかになっちゃったしね」
柏「確かに・・・」
ゆかり「あたし、かってきます・・・」
内田「え」
ゆかり「勝手にさわいだの、あたしだし・・・」
敬理「あ、そんなに悪く思ってないよ?」
ゆかり「口下手だし・・・話も面白くないから・・・こういうので償わないと」
ゆかり猛ダッシュでハケ口はける
菅野「おい内田!君は女の子にパシリさせる気か!」
内田「やべ!(ゆかりに)おれがいくって!」
内田もはける
がしかし
ほっぺたをたたく音(こんにゃくを叩こうと思ってます)
内田「(絶叫)」
内田、ほっぺたを手でさすりながらイン
内田「いたたた・・・」
三井「おつかれさん」
敬理「学生さん?」
内田「はい」
敬理「ガス料金ちゃんと払ってる?」
内田「はい?」
菅野「あ、ガス料金見るおばさん」
敬理「(菅野に鉄拳制裁)」
菅野「お、おねえさんやってるの」
内田「あ、月一回の(おばちゃんといいそうになって飲み込み)」
敬理「ガス料金とかを払わない子は、女の子に嫌われるよ?」
内田「どういう論理ですか?」
そのとき
がばっとゆかりイン
ゆかりおもいきり、みんなにペットボトルを買っている
そしてふたを開けてはないことを確認し
ゆかり「ない(あけて)ない(あけて)ない!」
全部あけて
ゆかり「ない!」
みんな「・・・」
ゆかり「水が・・・消えた・・・かも」
菅野「そ、そんなばかな」
内田「ごめん再確認なんだけど、買ってすぐに飲んだりとかして(ないよね)」
ゆかり「ない!」
内田「はい!」
柏「ちょっと台所いってくる」
柏、はけようとする
菅野「トイレにいってくる」
三井「待て」
ふたりとまる
三井「ここは明日取り壊しだ。台所行こうが、トイレ行こうが、水はとっくに止まってるだろ?」
柏「そっか・・」
敬理「まって。料金滞納してるわけじゃないから、大元の元栓ひねれば水は出るはず」
菅野「そうなんだ?さすが検針員」
そのとき敬理の携帯に着信
敬理「(電話)はい・・・え?・・・あ、わかりました。もう少ししたら行きます」
敬理、電話を切る
敬理「ああ、なおちゃん、ごめん」
菅野「どうしたの?」
敬理「なんだかおかしいの。都内のガスが急に止まっちゃったんだって」
菅野「え?」
加賀「なんだと!」
加賀も携帯に電話しだす
加賀「(電話)もしもーし・・・え?やっぱそっちも?」
内田「そうか!加賀さんのラーメン屋も」
加賀「(電話)くそ!そうか!水道もガスもとまってるからラーメン作れねえのか!こんちくしょう!」
加賀電話を切る
柏「加賀さん大丈夫ですか?」
加賀「大丈夫じゃねえよ、くそ!命と金の次に大事なラーメンが作れねえって、お客さんに申し訳ねえよ」
三井「まずいな、これは」
柏「テロかなにかあったんですかね・・・」
菅野「そうだ!だれかワンセグつき携帯とか持ってない?」
みんな顔を振る
柏「それがなくとも、ラジオつきとかないですか?」
加賀「少し前のドコモだからな・・・」
内田「おサイフケータイなら大丈夫なんですけど・・・」
菅野「なんだよなんだよ。だれもかよ」
敬理「そういうなおちゃんも、もってないでしょ」
菅野「はい」
三井「こりゃここは陸の孤島ってわけか・・・?」
そんなとき、ふとゆかりがたつ
ゆかり「(窓の外を見ながら)やつら・・・」
ゆかり、立ち上がって、サッシのところへ
ゆかり「おのれ・・・」
内田「ゆ、ゆかりちゃん?」
ゆかり、おもいっきりサッシをあける
そして外に
ゆかり「ライフラインを止めようとしてるのはおまえらだな!」
内田「(あわてて外に)うわやめようよ!」
ゆかり「あたしは、知ってるんだ。お前らが地球外生物、いや、腰抜けちゃらんぽらんだってことも」
敬理「地球外生物って・・・」
菅野「さっきからずっとああなんだ。」
敬理「(外を見て)まさか・・・」
加賀「おい、もし宇宙人がいたとしてあんなに挑発して大丈夫なのか」
菅野「それは確かに・・・」
ゆかり「これも知ってる。こんなとこにきたのは、ここに今日、あんたらの協力者が来るからだってね。」
三井「協力者?」
敬理「人間に裏切り者がいるってこと?」
菅野「まさか」
ゆかり「あたしは今日そいつを倒す!そしてお前たちもあたしがけちょんけちょんにしてやる!」
そして床に転がってるペットボトルを拾い
ゆかり「地球上の水分を採ったつもりかい?」
ゆかり、ペットボトルを振る
内田「あ」
菅野「あれは中身が・・・」
加賀「入ってる」
ゆかり「人間は八割が水でできているんだから!」
菅野「あれ?九割じゃなかったっけ?」
三井「どうでもいいだろ!」
ゆかり「それを抜くのは許さないよ。灯台下暗しってことわざ、よく覚えて帰りな!」
ペットボトルを高々と掲げてみせる
そういって、ゆかり、ぐびっと一口ペットボトルの中身を飲む
そしてにやりと笑った瞬間
倒れる
内田「ゆかりちゃん!」
内田、ゆかりが床につく前に支える
みんなもベランダへ
内田「ゆかりちゃん!おい!ゆかりちゃん!」
菅野「だ、だれか救急車を」
加賀「(携帯を出して)だめだ!携帯の電波が」
菅野「こんなときに!」
三井「そうだ!だれか衛星電話とか持ってないか!」
敬理「あ、それって携帯よりももっと強いやつだよね?」
柏「すごい!さすが!」
加賀「で、だれか持ってるの?」
みんな「(しーん)」
三井「だれももってないのかよ!」
菅野「だって確か高いよ?」
三井「うわ時代に取り残されるよ」
柏「持ってます?」
三井「もちろん」
敬理「じゃ、早く!」
三井「家に」
敬理「はあ?・・・」
三井「いやね、おれさ、大学生協の職員やってるでしょ?だからそこの組合員割引で安く買えちゃってさ」
敬理「(怒りが、ふつふつと)・・・あんたあ・・・」
敬理、三井の首をつかむ
敬理「人の命とあんたの自慢話でどっちが優先かなあ!」
三井「なにをする!」
菅野「け、敬理ちゃん!」
三井「こんな乱暴モノと結婚だなんてあんたはつくづく人を見る目がないな」
敬理「てめえ!」
敬理、一気に三井を飛ばす
三井「いてえ!」
菅野「(敬理をとめながら)敬理ちゃ~ん」
敬理「百歩譲ってあたしのことをバカにするのは許そう。でもうちのなおちゃんをバカにするのは許せない!」
柏「す、素敵!」
菅野「あ、ありがとう・・・」
柏「敬理さんのこと!」
菅野「はい」
そのとき
がばっとゆかり起きる
そして立ち上がる
内田「よかった!大丈夫なんだね?」
ゆかり、じろりと、内田を見る
そして
ゆかり「やあ・・・地球人」
みんな「?」
ゆかり「私の名前は・・・ショウユトンコツ」
菅野「しょ、しょうゆとんこつ?」
ゆかり「ショウユトンコツ・シオとでもしとこうか?。この肉体の脳みそが大好物らしい。そうだよな?将来のフィアンセ」
内田「ゆ、ゆかりちゃん・・・」
シオ「私はゆかりちゃんではない!」
ゆかり、おもいっきり、内田を放り投げる
内田「「痛い)」
柏「(かけよって)大丈夫!」
内田「あいたたた・・・」
シオ「悪いが、地球上にある水は全部差し押させてもらったよ。」
加賀「な、なに!」
シオ「ガスも以下同文」
敬理「なんだって・・・」
三井「そこのオカルトオンナ!」
三井、ついに出てくる
しかしちょっと腰がひけている
三井「いいかげんにしてもらえないかな?おれは昼から酒が飲める今日をおもいっきり楽しみにしてきたんだよ」
シオ「やあ『おもらしテルみん』」
三井「!」
シオ「幼稚園のとき、お化け屋敷にみんなでいって、ひとりだけおもらしして出てきたよね?」
三井「なぜそれを知ってる・・・」
シオ「それがトラウマで、怖い話や僕らの話なんかは聞く前にすべて否定することにしたよね。おもらしテルみん?」
三井「それをいうのはやめろ!」
シオ「人間、いやな記憶というものは、脳みそのはしっこのはしっこのほうに圧縮されて納品されている。グッドな記憶とバッドな記憶では後者のほうが再生スピードが速い。そうだろう?おもらしテルみん、おもらしテルみん」
柏「やめてください!」
シオ「おもしろいなあ。おもらしテルみん、おもらしテルみん」
三井「こ、このやろう!」
三井、なぐりかかろうとする
そのとき
ゆかり「(ゆかりに戻って)なにするんですか!」
三井、そのこぶしを止める
ゆかり「あ、あたし、今まで・・なにをしてたんですか?」
内田「ゆかりちゃん!」
内田、ゆかりを抱きしめる
内田「よかった!もどってきて」
ゆかり「も、もどる・・・?」
内田「そうだよ。なんかちょっとおかしなことになってた」
ゆかり「お、おかしな・・・こと?」
加賀「そうだ!おれ、ちょっと外いってくるよ!」
内田「お願いします」
加賀「はける」
加賀、はける
内田「これでなんとか助けがよべたら」
柏「そうね」
内田「大丈夫?ゆかりちゃん」
ゆかり「ん~・・・」
三井「おい、なんで俺の過去を知っている?」
ゆかり「過去・・・」
三井「え?」
ゆかり「・・・さあ」
三井「内田くん、まじめな話し、今日のこれが終わったら一度病院に連れて行ったほうがいい。」
シオ「いくわけないだろ?おもらしテルみん」
三井、一気に立ち上がると、無言でシオの肩に手をかけおもいきり壁際まで追い詰める
シオ「どうした?」
三井「・・・」
柏「三井さん!」
三井、振り返る
そして手を離すとふらふらしながら中に戻る
次の瞬間、三井、おもいきりサッシをしめる
内田「なにするんですか!」
三井そのまま鍵を閉める
シオ「テルみん笑えるねえ」
内田「(外)三井さん!」
柏「(中)なにするんですか!」
内田「開けてください!」
三井「ちょっと頭冷やしておけ。」
柏「三井さん・・・(三井に手をそえる)」
三井、柏の手を振り払うと身支度を整えはじめる
三井「・・・ふざけたまねだ」
菅野「みっちゃん、まさか」
三井「菅野さん」
菅野「はい」
三井「残念だ」
菅野「・・・」
三井「みんなに会える今日、楽しみにしてたのに・・・」
みんな「・・・」
三井「東口の赤ちょうちんで飲みなおして、帰るわ」
菅野「あいつらはなんとかしときます」
三井「・・・じゃ」
はけようとする三井
敬理「逃げるの?」
三井「(止まる)」
敬理「逃げたらおもらしテルみんのまんまだよ?」
三井「(悲しい目で敬理をにらむ)」
敬理「現実を・・・うけとめようよ」
三井、無言ではける
その背に
柏「三井さん!」
柏立ち尽くす
そこに敬理がそっと手を柏の肩にのせる
柏「?」
敬理「わかる・・・」
柏「え?」
敬理「すぐ帰ってくるよ。大丈夫」
柏「敬理さん・・・」
いってるそばから三井がイン
菅野「ほんとにきた!」
三井「・・・どういうことだ」
菅野「どうしたの?」
三井「階段おりて俺は、通りに出ようとした、でも、出られないんだ・・・」
敬理「出られないって?」
三井「水が・・・滝みたいになってて・・・ここらをずっと壁のようにしてる・・・・」
菅野「そんなこと(あるわけないよ)」
三井「ほんとうなんだ!まるで・・・この『ひこうき雲』を守ってるかのように・・・」
菅野「みっちゃん、さっきの一口でよっちゃった?大丈夫?」
シオ「(外)彼はよってなんかいない」
菅野「え!」
シオ「ここいら一帯は私たちのシールドに守られてる」
敬理「シールド?」
シオ「地球上のどんな破壊兵器を持っても攻撃は不可能だよ。ついでに攻撃してきたら、シールド内にいる人間も洪水にして皆殺し」
三井「それじゃおれたち・・・人質ってことか!」
シオ「反抗した場合はこうなるよね」
いきなり加賀がイン
全身濡れている
そして右腕を押さえてる
柏「加賀さん!」
加賀「やられたよ・・・」
加賀、ばたりと倒れる
みんなかけよる
ここから二画面
ベランダ
加賀が倒れたのを見て、シオは満足げな笑みを浮かべる
内田「加賀さん!」
シオ「ぼくたちに逆らうからああなるんだ・・・」
内田「加賀さんになにをした!なあ!ゆかりちゃんに戻してくれ!」
シオ「あせるなあせるな」
内田「あせりたくもなるわ!」
シオ「ここがあのときの国立競技場だったなら君は僕をどうしたい?」
内田「国立・・・」
シオ「そう、君が十七歳だった・・・あの冬の国立だよ。」
内田「おれが岡山から全国大会行ったとき!」
シオ「僕はキックオフのホイッスルの前から君をずっと見てた。」
内田「!」
シオ「惜しかったね!ラストのゴールを決めてれば今頃は(どうなっていただろうねえ)」
内田「決めれない!」
シオ「決めれた!」
内田「あのヘボいパスじゃプロでも決められない」
シオ「練習不足なんじゃないのお?」
内田「!」
シオ「もっともっと血を吐くくらい練習してさあ、あと一点さえ入れば優勝できて黄金の未来が見えてたわけだよね。いい大学に入れたかもしれないし、末はJリーグ!日本代表だって(なれたかもしれないのに)」
内田「黙れ!」
シオ「はは。怒った」
内田「別に今の大学でも満足してる」
シオ「練習でじん帯切ってサッカーできない今でもかい?」
内田「何でそこまで知ってるんだ!」
シオ「見てたからだよ」
内田「見る?」
シオ「きみやテルみんだけじゃない。この地球のことは僕がこの星にたどり着いてからずっとみてきた。形を変えて、命を送り出し、ずっと・・・。」
内田「そんな・・・大昔から・・・」
シオ「最終的に人間が生まれたことによって、この星は宇宙でも稀有なすばらしい生命体の集まる星になると信じていた。
なのに・・・のさばらせたばっかりに、今地球はことごとく全宇宙の星星の中で品格を失っている。・・・我々が地球の権利書を取って治めていれば・・・」
内田「地球の権利書?」
シオ「今こそ権利書を僕らが取り、水があふれる、もっと崇高で知的な星に今こそ変える!」
内田「そんなもの信じられないぞ」
シオ「探してくれ!お前なら探せる」
内田「おれなら?」
シオ「今から九十分以内に探せ!探しきれないときは・・・このカラダを・・・」
内田「待ってくれ!探すっつっても形は?色は?」
そのとき、雷鳴がとどろき始める
シオ「(空を見て)やっぱりきたか・・・」
内田も空を見る
シオ「あいつらのおでましだ・・・」
ふたり、空にある大きな黒い雲に注視する
大きく雷鳴がなり始める
チェンジ
チェンジ
一方そのころ部屋の中では
敬理「(窓の外を見ながら身支度を整える)傘もってくるのわすれちゃったなあ・・・よいしょっと」
敬理、かばんを持つと
敬理「なおちゃん。加賀さんとベランダのふたりも頼むね。行ってくる」
菅野「きをつけて」
加賀「行ってくるってどこに?」
敬理「外です」
加賀「え?」
敬理「一応パートですけど、これでもガス会社の一員ですから」
柏「でも敬理さんって、管理とかされる人じゃないですよね?」
三井「そうだそれにシールドの外には出られないんだぞ」
敬理「シールドから出られないんなら、その中の人たちの安全と、それをセンターに報告して逆に外のことも知りたいし。」
柏「こんな危ないときに」
敬理「なんかあったらすぐに電話するから」
菅野「うん」
敬理はけようとする
そのとき
内田「(外)あけてください!」
みんな振り向く
柏「あけてあげましょうよ・・・」
三井「・・・」
内田「あけてください!」
三井「だめだ。あいつが異常なうちは危険だ」
敬理「じゃ、せめて、内田君だけでも」
三井「あいつの彼氏な以上は連帯責任とってもらわないと」
敬理「こんなときにそんなこと追求してなんになるの!」
シオ「そうだテルみん、彼には責任などない」
三井「!」
シオ「(空を見たまま)大丈夫、君が望むなら僕はここから出ない。彼を入れてやってくれ」
三井「・・・」
柏「(窓のそばにいって)あけますよ」
柏、窓をあけてあげる
内田、シオを見る
内田「・・・」
シオ「早く・・・」
内田、入ってくる
柏「大丈夫?」
内田「ええ」
敬理「さすが男の子、よくがんばったね」
内田「はあ・・・」
菅野「敬理ちゃん、行かないの?」
敬理「あ、いってくる~」
敬理はける
内田「敬理さんは?」
加賀「おれらを守るために戦ってるよ」
内田「すごいな・・・」
菅野「なんかあいつに言われてたみたいだけど?」
内田「それが、地球の権利書を探せって・・・」
菅野「権利書?」
内田「大昔に人間たちにまかせてて、なんかそれがあると地球を動かせるとかいってました」
菅野「へえ」
敬理「大昔ってどのくらい?」」
内田「地球で命が生まれる前。シオがいうには自分たちがおれらを生み出したとか・・・」
加賀「そんなころから住み着いてるってのか?」
内田「形を変えてずっと、おれらのことを見てるって」
加賀「ってことは、死なないのか・・・」
菅野「永遠の命・・・」
三井「おいおいあんなクレイジーな奴のことを信じるのか」
内田「三井さん!」
内田、三井に詰め寄る
内田「なんで開けてくれなかったんですか!」
三井「頭を冷やせといったはずだ」
内田「あれほど、外から助けてくれって、おれがどれだけ、ゆかりちゃんのために必死だったかわかりますか!」
三井「今一度良く見てみろあれを・・・。」
内田「(見る)」
三井「内田君の彼女だと言い張るのか。」
内田「(見つめて・・・)」
シオ「(外、にやにやしながら見つめ返す)」
内田「くそ!」
加賀「下手に刺激するのはやめよう」
内田「加賀さん大丈夫なんですか、腕!」
加賀「水の壁をぶちやぶろうって蹴っ飛ばしたら、逆にとばされちゃった」
内田「そんな・・・」
三井「あの壁は手ごわすぎる・・・」
柏「こうなったら、わたしたちだけでなんとかしません?」
三井「なにばかなこといってるんだ」
柏「だってくやしいじゃないですか!」
三井「きみがくやしいのは、加賀さんが右腕いためて、ラーメンがたべられなくなるからだろう?」
柏「それもあるけど・・・」
三井「こういう危機状態のときによくそんなことがいえるな!」
加賀「右がだめでも左腕がある」
みんな「・・・」
加賀「ひとつがだめでもなにかあるちゅうのはすばらしいこった。心配するな。なんとなかなるさ」
三井「加賀さん・・・」
内田「そうだ。おれたちはだめじゃない!なんとかしましょう!」
三井「なんとかってなにするんだ?」
菅野「(挙手)あのちょっと思ったんだけどさ」
三井「なんだ」
菅野「まずは話し合うっつうのはどうだろう?」
三井「話し合いだと?」
菅野「おれあの子って本当に敵なのか、味方なのかまだ把握できないんだよね」
三井「味方なわけないだろ?」
菅野「みっちゃんとかはそうだけどさ、さっきの話を整理してると、おれら人間を怒ったりしときながらも、地球のことは思ってるような感じがしてさあ。」
柏「案外いい子なのかも・・・」
菅野「うまくいけば事態解決するかもしれないし、宇宙人が離れてくれて、彼女にもどるかもしれないよ」
内田「それ絶対いいです!」
菅野「でしょ?おれを、人間代表の大使として、話させてくれないかな」
三井「うーん」
内田「お願いします。」
三井「よーし。大使頼んだ」
柏「がんばってください!」
菅野「柏さんありがと~。よし!(サッシを開け放して入る急にひそひそ声で)おじゃましまーす・・・」
三井「寝起きどっきりか?」
シオ「え~はずかしーきゃー」
三井「アイドルか!」
内田「ゆかりちゃん・・・」
菅野「人間代表、アパートひこうき雲大使の菅野直史と申します」
シオ「ふーん」
菅野「俺はあなたとお話したい。手助けをしたいのです」
シオ「手助け?」
菅野「先ほどおっしゃられた話、誠にごもっとも、共感いたしました。俺たちは人間ですが、つくづくその横暴さに辟易しておりまして」
シオ「たとえば?」
菅野「日本の会社を見てください!たいした苦労もしてねえやつがたまたま成績が良かったからって昇進しちゃあ、大量の金を会社からまきあげて悠々自適に暮らしています。おれみたいなチャンスを見つけられない不幸な人間はいつまでたっても救われません!」
内田「菅野さん抑えて」
菅野「いや抑え切れねえ!すべては上司と部下っていう関係性が悪い!ちょっとミスしただけで、さも仕事できねえようにいいやがって!」
柏「菅野さん!」
菅野「うわ、暴走してしまいました」
シオ「で、具体的にどう手助けしたい?」
菅野「えっと(いったん後ろを見て)あ、ちょっとお待ちを」
菅野、サッシのところに行く
菅野「前半戦終了」
柏「おつかれさまです」
三井「で、どうなんだ?」
菅野「いい感じ。これならいけそう」
柏「頼りにしてますよ!」
菅野「まかせて!」
内田「ヒーローだ!」
菅野「キムタクなんか目じゃねえぜ!」
三井「このあとどうする」
菅野「そう。ここから話をつめるから集中させてほしいんだ」
三井「わかった」
菅野「じゃ!」
菅野、外からサッシを閉める
雷鳴がとどろく
菅野「(中を気にしつつ小さな声で)お待たせしました」
シオ「?」
菅野「いやあ、あなただったんですか、顔知らないから、わからなかった」
シオ「なんだ?」
菅野「これであっちには知られません。これからの地球、そして世界をどう変えたいか、いつものチャット以上に熱くオフ会しましょうよ」
シオ「なにがなんだか(わからないが)」
菅野「んもう! 昨夜だって国境も言葉もひとつにして、お金は一律死ぬまで保証してあげて、地球はひとつの国に統一されるって盛り上がったでしょう。さあ、今日は生の意見をぶつけましょうよ」
シオ「お前まさか・・・」
そのとき
大きな雷!
ふたり「うあ!」
そして雨が降り出す
シオ「危ない!」
シオ、菅野をかばう
シオ「これは雨なんかじゃない!早く入れ」
菅野「うあ」
シオに押されてあわてて部屋に戻る
雨がけっこう降ってくる
内田「大丈夫ですか!」
菅野「いや大丈夫だけどさあもっと話したかったなあ」
柏「あそうだ!」
柏いったんかばんに戻ると小さなハンドタオルを出す
そのとき柏のかばんからひとつの箱も飛び出る
柏「こんなのしかないけどよければ使ってください」
菅野「ありがとう!」
三井「(箱に気づいて)なんだこれ?」
柏「(開けるのに気づいて)あ!やめて!」
しかし三井あけ
三井「ゆびわ?」
それはおもちゃの指輪の箱
柏「あ、あのそれはその・・・」
三井「どうしたの?」
加賀「あれ?やっぱふたりつきあってるんじゃないの?」
三井「違いますって!」
柏「え!違うんですか?」
三井「おい!」
加賀「こんなときだけど、めでたいな!」
内田「そうですよ!隠さないでくださいよ!」
三井「みんな~」
そのとき
シオ「浮かれるな人間!」
みんな「!」
シオ「いよいよ史上最大の戦争が始まったんだよ」
内田「史上最大の戦争?」
シオ「まさに・・・地球の天下分け目の関が原さ・・・」
そのとき敬理イン
敬理「うわ~、たいへ~ん」
菅野「敬理ちゃん!」
敬理「あともうちょっとでなんとか戻れるって思ったのに急に降ってくるんだもんなあ」
菅野「柏さん、これ敬理ちゃんに使ってもいい?」
柏「どうぞ」
敬理「(柏に)ありがと。(菅野に)ちょっとなんかこの雨変なんだよ?」
シオ「雨・・・」
敬理「そう。なんか粒がおっきくて、ドロっとしてるし(手のにおいをかいで)あ、匂う!」
菅野「あ~もう拭きにくいからじっとしてて!」
菅野タオルで拭き始める
シオ「(突然立ち上がると)あいつに触るな!」
みんな「!」
シオ、菅野に近寄るとはがいじめにして
菅野「ちょ、ちょっと!」
シオ、菅野を放す
菅野「なにするの!」
シオ「おしかったなあ、ユダ」
菅野「は?」
シオ「お前さんがインターネットで話してた相手っていうのは、こいつだよ」
シオ、菅野の目の前にタオルを出す
菅野「た、タオルじゃん?」
シオ「これに染み付いたアブラ型生命体さ」
みんな「え」
シオ「そして僕がミズ型生命体ってわけ」
菅野「そ、そんな・・・」
内田「水と油なんて・・・」
ミズ「生命の根源の水だ。水は永遠になくならない。凍っても、蒸発してもずっと地球に存在する。」
三井「やっぱりあのペットボトルの中身だったか」
ミズ「あ、テルみん、僕はさっきいい話をこいつから聞かせてもらったよ!」
三井「なんだ!」
ミズ「アブラたちにくっついて地球を変えようとしてる人間はこいつさ!」
ミズ、菅野をおもいきり指さす
みんな「!」
菅野「ち、違う!」
敬理「な、なおちゃん、どういうこと?」
菅野「いや、チャットで知り合った人と意気投合しちゃって」
ミズ「世界征服という思想の持ち主でな」
敬理「世界征服?」
菅野「いや、世界をいっしょにするってのは将来的な話でまずはお豆腐屋さんに出資してくれるっていうからね」
敬理「なにいってるの?わかんない」
柏「菅野さんって最低ですね」
菅野「違います!」
内田「裏切り者って・・・菅野さんだったんだ」
菅野「違う!」
敬理「最初から説明してくれる?そういえば夜中よくトイレに携帯もって起きてたよね?」
菅野「ああ、あとでゆっくり話そう!」
ミズ「そのあとってときに、あの子が菅野敬理だったらの話だよな?」
ふたり「え?」
ミズ「(がっと敬理を指さして)もうすぐのっとられるよ」
敬理「あたし?」
ミズ「さっきの雨に混じった・・・アブラ型生命体に・・・」
敬理「!」
菅野「そんな!」
ミズ「菅野!人間や僕らを裏切り、アブラの野郎たちについた代償は重い・・・」
菅野「・・・」
ミズ「あと三十分もすれば菅野敬理はアブラ型宇宙人に憑依されることだろう。責任の重さを思い知るがいい」
菅野愕然とする
敬理「ど、どうしたらいいの・・・?」
柏「なんとかならないんですか?」
ミズ「うーん」
柏「地球に昔からいる宇宙人さん同士なんですよね?だったら敬理さんを!」
ミズ「残念だがアブラとは本当に意見があわないんだ。」
柏「そんな・・・」
ミズ「ま、意見が合わないからこそなんとかバランスとってこの地球に存在してきたがね」
菅野「それでも宇宙人か!」
ミズ「アブラ派にいわれたかないわ!」
敬理「やめて!」
みんな「!」
敬理「しょうがないよ。雨にふられちゃったんだもん。」
みんな「・・・」
敬理「あ、あはは・・・くやしいなあ、あたし・・・もうすぐああなっちゃうのかあ。」
菅野「敬理ちゃん・・・」
敬理「なおちゃん、プロポーズあたしがOKした日にお互い隠し事はひとつまでって決めたよね」
菅野「・・・」
敬理「このことだったんだね。そっかあ。急に銀行辞めて、豆腐屋やるって。派遣とかバイトもするけど、将来的に何とかまとまった金が絶対入るからっていってたからさって」
菅野「・・・」
敬理「あたしの隠してることは教えない、死ぬまで」
菅野「・・・」
敬理「この体が宇宙人になって・・・あたしの記憶が消えて、なおちゃんも、ここにいるみんなも忘れて・・・襲ってきたら、遠慮なくあたしを殺して」
菅野「!」
敬理「できることなら、殺すの、なおちゃん、やってね。あたしがあたしじゃなくなってても・・・大好きだったってきっと思うから」
菅野「敬理ちゃん・・・」
敬理「三井さん、だっけ?」
三井「?」
敬理「宇宙人は隔離されたほうがいいでしょ」(そういってサッシのそばにいく)
三井「それは」
敬理「隔離・・・されちゃうね」
そういうと敬理、ひとりベランダのサッシをあける
菅野「待って!」
敬理、後ろ手で閉める
菅野「開けて!敬理ちゃん!」
敬理「だめ!」
菅野「話そう!もっと全部話すから!」
敬理「だめ!」
菅野「敬理ちゃん!」
敬理「へんてこりんな宇宙人に変わってくところ・・・なおちゃんに見せたくない。」
敬理、そのまま座り込む
菅野「けいりちゃん・・・」
雨に打たれる敬理
菅野もそのままへたりこむ
三井「めちゃくちゃだ・・・」
みんな「・・・」
三井「ただの・・・昔のおれたちの同窓会が・・・なんで・・・なんでこんなことになるんだよ!」
雨はますますひどくなる
そのとき
内田「覚えてますか・・・」
みんな「?」
内田「こんな急な雨の日でした。共同の台所、流しの上から雨漏りしてて」
みんな「・・・」
内田「大家さんにも連絡取れなくて日野さんもいなかったけど・・・俺ら四人でなんとかしましたよね・・・」
みんな「・・・」
内田「あれからみんな一気に風が通るように仲良くなって・・・だから俺はこの『ひこうき雲』が好きにっなったんです」
みんな「・・・」
内田「加賀さん」
加賀「?」
内田「三井さん」
三井「?」
内田「柏さん」
柏「?」
内田「菅野さんをなんとかしてあげましょう」
三井「おいどういうことだ!」
内田「なんとかするしかないんですよ!」
三井「菅野さんは人間を売りとばしたんだぞ!」
内田「だっておれらはここの仲間じゃないですか!」
三井「今は離れてるだろ!」
内田「離れてもひこうき雲の住人ですよ!」
三井「!」
内田、へたりこんでいる菅野のもとへ
内田「菅野さん」
菅野「・・・」
内田「なんとかしますから・・・絶対。」
菅野「ゆるしてくれるのか」
内田「終わってから考えましょう」
菅野「え・・・」
内田「・・・敬理さんのそばにいてあげてください」
菅野「内田・・・」
内田「(窓によって)敬理さん」
敬理「(目だけ中を向く)・・・内田くん・・・」
内田「待っててください。宇宙人にはさせませんから・・・」
内田、すっと立ち上がるとミズのそばへ
内田「権利書を教えてください」
ミズ「・・・」
内田「探します。俺が責任もって」
加賀「責任って」
内田「だって俺が・・・今日の会の幹事ですから・・・」
加賀「・・・」
内田「加賀さん言ってくれたじゃないですか。右腕がだめなら、左腕があるって」
加賀「・・・」
内田「俺にできること・・・それはサッカーと同じ・・・前に走るのみです。だから・・・どんなものか教えてください」
内田、ミズの前で頭を下げる
ミズ「さすが人間だ。そうこなくちゃ」
内田「え・・・」
ミズ「教えてやる。(立ち上がって)権利書は本でも書類でもない。水と油が生命を誕生させた・・・人間だよ。」
内田「人間?」
ミズ「そう、君ら人間が生きていくだけで出てくる力だ。」
内田「・・・」
ミズ「人間が生まれたとき、僕らとアブラは争うことをやめ、人間を見守ることにした。そして人間にこの地球を生かしていく権利を与えた。人間がいることによって直接の争いを防いできたんだ」
みんな「・・・」
ミズ「驚かしてごめん。だから別にどこにいかなくてもいい。ほしいものはここにそろってる」
そのとき
敬理「う・・・ううう」
菅野「敬理ちゃん!」
みんな部屋内でサッシに駆け寄る
敬理「な、なおちゃん・・・く、苦しい・・・」
菅野「ああああ」
菅野サッシをあける
三井「菅野さんだめだ!」
菅野、敬理にかけより
菅野「敬理ちゃん大丈夫、敬理ちゃん!」
敬理「なおちゃん・・・」
菅野は敬理を抱きしめる
内田「アブラ型生命体に支配されたらどうなるんですか!」
ミズ「やつらは力のみすべてを支配すると考えている。凶暴化するだろう」
内田「そんな」
ミズ「歴史上の大きな事件や戦争も、アブラが人間に取り付いてコントロールして起こしてきたんだ」
敬理「・・・な、なおちゃん」
菅野「なに、なに?」
敬理「・・・殺して・・・」
菅野「え・・・」
敬理「さっき・・・いったじゃん・・・あたしが・・・みんなを・・・地球を征服する前に・・・殺してって・・・」
菅野「そんなのわかんないよ!」
敬理「でも、あたしじゃないのに、あたしがやってるように見えちゃうんだよね、きっと・・・」
菅野「そんなことない・・・」
敬理「いやだよ。・・・あたしの知らないところで、あたしが生きていくなんて・・・。父ちゃんや母ちゃんが悲しむじゃない・・許されるもんじゃない・・・だから殺して。」
菅野「だめだよ・・・できないよ」
敬理「なおちゃんに殺されるならかまわないって」
菅野「いやだ!」
敬理「さあ(そういって、首に手を誘導する)」
菅野「・・・」
敬理「あたしは、ギュってされたら・・・結婚してからじゃなくて、友達づきあいしてるころのこと、思い出しながら・・・天国で先に待ってるから」
菅野「結婚してからのほうがいいよ!」
敬理「今はだめ。あたしのことも、夢も背負っちゃって・・・ぶさいくになってるもん。」
菅野「・・・」
敬理「さあ・・・」
菅野「だめ!(手をはずす)」
敬理「(獣のように叫び、のた打ち回る)」
菅野「もう・・・だめだ・・・」
三井「敬理さんをなんとかできないか」
ミズ「うーん・・・」
三井「同じ宇宙人同士だろ!なにかないのか!」
ミズ「彼女の中にある水と油を、乳化すればなんとかなるかもしれない」
内田「乳化?」
ミズ「中和みたいなもんさ。水と油を仲良しにさせれれば」
内田「乳化・・・なかよし、なかよし・・・」
内田、部屋内を探し始める
そして机の前でひとつに気づく
そのとき
敬理、すっくと立ち上がる
アブラ「ミズ!」
ミズ「!」
アブラ「油は常に水の上に立つ。ゆえに我々が地球を支配する。今日こそわれらに勝利の御旗を!」
ミズ「そうはさせない!」
アブラ「ミズごときがなにをした!人間たちの力と文化はこのアブラで貢献したんだ」
ミズ「ミズだって生命を救ってきたぞ」
アブラ「積年の恨み!(菅野に)どけ!」
アブラ、菅野をどかして、室内へ
ミズ「地球の権利書はここにある。これ以上は奪わせない!」
アブラ「なら、奪うまでだな」
ミズ「水が勝つか・・・」
アブラ「油が勝つか・・」
ふたり「勝負!」
ふたり、一気に手を組み合う
そしてにらみあう
そのとき
内田「かっこいい!よ!おふたりさん」
見ると内田、サキイカにマヨネーズを食べている
三井「なにやってるんだ!」
内田「うまいなあこれ!」
菅野「ついに本当のバカになったか!」
内田「女の子同士が戦うのってかっこいいなあ。」
アブラ「ん?くそ、おれは女に乗り移ったのか、しゃらくせい」
内田「今頃気づいても遅いですよ~。そうそう。戦う前に腹へってません?」
アブラ「そういわれると・・・この体、腹がへってるな・・・」
内田「いやあ、駄菓子とかいっぱいあるんですけど、これが一番うまい!」
そういって、内田、サキイカをマヨネーズにつけて食べる
アブラ「なんか間違ってないか」
内田「はい?」
アブラ「普通、するめを焼いてマヨネーズだろ」
ミズ「七味とかつけてね」
アブラ「よけいなお世話だ!辛いのは嫌いなんだ!」
ミズ「あら?そうなんだ~」
内田「どうです?主食としてせんべいとか食うとして、最初にまずこれ!」
アブラ「う~~~ん。見れば見るほどだんだんうまそうになってきたな・・・よこせ!」
アブラ、サキイカにマヨネーズをつけると
アブラ「いただくぜ!」
そういって、アブラ、サキイカを食べる
内田「どうですか?お味は」
アブラ「うーん、口の中に、イカの甘さと、マヨネーズの濃厚な卵黄の味が広がって、まろやかデリシャス・・・って・・・卵黄・・・卵黄!・・・」
内田「そう。卵黄さ・・・」
アブラ「貴様・・・」
菅野「ん?マヨネーズって」
三井「そうか!小学校の家庭科で習ったぞ」
柏「酢とサラダ油を、卵の黄身を使ってまぜていくから、とろとろになるんですね!」
ミズ「それが乳化というやつさ!」
アブラ「お、おのれ・・・」
アブラ、内田に襲い掛かろうとするが
脱力する
菅野「敬理ちゃん!」
菅野、敬理を支える
敬理「あたし・・・生きてる・・・」
菅野「ああ生きてるよ」
敬理「会いたかった」
菅野「え・・・」
敬理「なんか・・・むしょうに・・・会いたかったよ」
菅野「ずっといっしょだったじゃない?」
敬理「これからも・・・」
菅野「うん・・・」
※2008/03/06 挿入部分
ミズ「大丈夫。これで、人間に戻れるかもしれない」
三井「かも?」
ミズ「それは、僕も試してみないと確証がもてないからね」
そういって、ミズもサキイカにマヨネーズをつける
ミズ「(内田に)よく見つけてくれたな」
内田「体育と家庭科はまかせて。オール5だったんだ」
ミズ「そうか」
内田「ありがとうございます。いろいろ」
ミズ「この体の持ち主は、純粋なやつだ。大事にしてやってくれ」
内田「はい」
ミズ「じゃあな、フィアンセ」
そういうと、ミズもサキイカにマヨネーズをつけて食べる。
脱力
内田、支える
内田「ゆかりちゃん、ゆかりちゃん・・・」
ゆかり「んん・・・ん」
内田「ゆかりちゃん!」
内田、ギュって抱きしめる
ゆかり、ゆっくり抱きしめ返す
三井「(ため息)やれやれ当てられっぱなしだ」
加賀「独身の俺には見てられない光景だな」
柏「独身なんですか?」
加賀「仕込みでずっとしょうゆと油のにおいがとれなくてなあ。だれも近寄ってこない」
柏「いつか必ず」
加賀「そうなるといいんだがね」
そのとき地響きがする
三井「ん?なんだ?」
内田立ち上がって窓を見る
内田「見てください!」
みんな立ち上がる
大きくなる地鳴り
加賀「宇宙船から・・・」
敬理「黒いまるっこいやつがでてくる・・・」
菅野「○△■(見て)気持ち悪い・・・」
加賀「まるでスープに浮かんだラードのようだ・・・」
敬理「ラードってことは、アブラ?」
三井「おい!さっきので終わったんじゃなかったのかよ!」
そのとき爆音が鳴り響く
みんな「(悲鳴)」
みんなぶっとぶ
明かりも点滅する
三井「なんだなんだ!」
菅野「やつらの攻撃だ!」
爆発
みんな「悲鳴」
敬理「ねえ、どうするの?」
菅野「ここいらは、おれらしかいないみたいだし」
柏「戦うしかないですね!」
三井「おい、なにいってるんだ!」
内田「そうです。戦いましょう!」
三井「もうちょっと冷静に考えろ!」
内田「三井さん、こんなときに冷静になってる場合じゃありませんよ!」
ゆかり「あたしにはミズの力がはいってる。」
敬理「そうね!あたしにも、あのアブラの力がまだ入ってるかもしれないしね」
ゆかり「あたしたちは戦える!」
三井「日曜朝のヒーローモノの見すぎだ。本当にばかだな!」
敬理「なにを!このインテリ!」
柏「もめないでください!」
三井&敬理「はい!」
柏「でもどうやって戦うか・・・」
三井「だれかリーダーを決めて、その人のもと戦ったほうがいい」
菅野「それいいね」
三井「だれがなるんだ?」
加賀「年上ってことでいくと俺なんだが・・・右腕が」
三井「そうだよな。じゃあ、菅野さん」
菅野「う~ん、じゃおれで(いいですか)」
柏「せんだみつおゲームで決めます!」
菅野「え!」
敬理「せんだ・・・みつおゲームって・・・」
三井「あの子はいつも二○○○年のころが青春メモリーだから」
菅野「ミレニアムミレニアム」
内田「よし!やりましょう!」
菅野「やるのか!」
内田「時間はありません!はい、輪になって輪になって」
菅野「一度っきりに一回勝負!・・・」
ここからは、せんだみつおゲーム
で、最終的に、柏が負けてください
柏「わ、わたしが・・・リーダー・・・」
三井「世も末だ・・・」
敬理「(三井に鉄拳。そのあと柏に)がんばろうね!」
柏「は・・・はい・・・」
菅野「司令官殿!」
柏「司令官とかじゃありませんよ」
菅野「わたくし、知ってるであります。高校のとき、柏司令官は、演劇部で地区大会優勝しましたですよね?」
柏「げ、隠したい過去・・・」
菅野「あなたは仮にもリーダーであられます!こうなった以上演技でも!リーダーになりきることが!今は必要であります。」
柏「ええ・・・」
菅野「司令官殿、我々に・・・しびれるようなご命令を!」
柏「そんな!命令っていっても・・・」
内田「非常事態です!お早めに!」
加賀と三井以外、全員直立不動の体勢
柏「えっとまず・・・内田一等兵と敬理一等兵」
内田、敬理「はっ!」
柏「携帯は大丈夫ですか?」
内田「大丈夫であります」
敬理「右に同じ!」
柏「携帯のカメラを使って、あの人たちを撮影して、外の人・・・できるだけ新聞とかテレビ局にメールしてください」
内田、敬理「は!」
菅野「なるほど!外部に知らせるんでありますね!」
柏「そうです!」
三井「おれには?」
柏「三井一等兵」
三井「ありがとう一等兵で」
柏「もしものために、携帯の地図とか使っていいんで、ここから逃げるルートを考えてください」
三井「了解!男は地図が読めてナンボだ!」
三井も携帯をいじくる
菅野「わたくしは!」
柏「菅野三等兵」
菅野「あ、おれ三等なんだ」
柏「さきほどの行為、A級戦犯で死刑でもいいくらいですよ!」
菅野「申し訳ありません!」
柏「三等でも良かったと思いなさい!」
菅野「ははっ!でもそろそろ忘れてくださいよ~」
柏「(かぶせて)仕事を申し渡す!」
菅野「ありがたき幸せ!」
柏「魔よけ」
菅野「・・・はい?」
柏「魔よけです!」
菅野「ま、まよけって」
柏「お国のため・・・いや、我々アパートひこうき雲二○一号を守るために早く!」
菅野「は、は!」
菅野、ドアのそばでわけのわからない踊りを始める
ある程度踊るが
菅野「あのこんなんでいいんでしょうか・・・」
柏「いっときもやすむな!」
菅野「はい!」
柏「君のがんばりは・・・けっして・・・無駄ではない・・・」
菅野「司令官殿!」
柏「(菅野の肩を思いっきりたたいて)いこう!地球は我々の手にかかってる!」
菅野「司令官殿~」
なきながら踊り続ける菅野
内田「こりゃまいりました~」(内田、敬理もどってくる)
柏「どうですか?」
内田「司令官殿。やつら、ものすごい数ですよ」
敬理「しゅぼしゅぼっしゅぽってとことん出て来るんだよ。カメラに収まりきらない。(携帯画面を見せる)」
柏「(画面見て)うわ・・・」
敬理「テレビ局とか新聞のおっきいところにはメールしたけどどうなるかは・・・」
柏「わかりました」
内田「ついでに日野さんにもメールしてみます」
柏「お願いします」
菅野「ああ(ふらふら)もうだめ~~~~」
敬理「大丈夫?(駆け寄り)」
菅野「死刑よりもつらかったよ・・・」
敬理「よしよし一等兵のあたしがほめてつかわす」
菅野「けいりちゅわ~ん」
三井「へ~(内田の携帯を見て)まるでボーリングの玉みたいだな。これが終わったらみんなで田町ハイレーンでも行こう」
柏「三井一等兵は逃げ道探したんですか!」
三井「もちろん」
柏「報告をしてください!」
三井「まずは現状報告だ。今このアパートひこうき雲は高さ約三メートルほど水のシールドですっぽり守られている。」
加賀「隣の小学校からも隔離はされてるよな」
三井「もちろん」
柏「続けて」
三井「水のシールドは今はがんばっているんだろうが、いつ決壊するかはわからない。それでここからは提案なんだが、見張りをつけて、シールドを監視。シールドが危険になったら全員でなるべく早くここを出る。」
菅野「逃げるってことだね」
三井「そう。ルートとしては決壊した瞬間にこの丘を下って、山手線の線路に飛びおりる。」
ゆかり「こわいなあ」
内田「隣の目黒か恵比寿に逃げろってことですか?」
三井「それもあるが、手っ取り早いのはもう一度坂を上って中目黒方向に出られる。どうだ」
柏「でもシールドが破れた時点で突撃されちゃいます!」
内田「それに中目黒とか目黒にもアブラたちがいたら・・・」
三井「ありえるがそれ以外に安全な逃げ道はない。」
柏「ここから白金のほうには逃げられないんですか」
三井「ずっとのぼりだぞ!登ってる間に追いつかれる」
柏「そんな・・・」
三井「俺の案はかなり具体的でいいだろ?いつ光があたるかわかんないモデルの仕事目指してる君よりは」
柏「!」
三井「歩合制だから安定もしてない。仕事っちゃあ田舎のスーパーのチラシとたった一回きりの読者モデル!そんなんでいつメシを食う?」
柏「西口のホルモン焼き屋でもバイトして生活支えてるでしょ!」
三井「給料全額きみの服代に消えるだろうが!」
柏「それだって勉強のひとつでしょ。モデルさんって女の子みんなの憧れにならなきゃいけないから。」
三井「(かぶせて)そんなことはモデルでメシ食えるようになってから言え!」
内田「司令官殿!」
ふたり「!」
内田「うちのツートップが仲間割れしているようではこれからが心配であります」
ふたり「申し訳ない!」
内田「内田一等兵、提案するであります!おふたりの結婚式をあげませんか!」
ふたり「え?」
三井「おい、そこまでの仲じゃないって」
柏「そうなんですか?」
三井「またそのパターンかよ」
加賀「内田一等兵!ちょうどここに指輪があります!」
柏「あ」
内田「ってことで、トップが別れないように!結婚しましょう!」
三井「待て待てよ。こんな危機的状況でやるもんじゃないだろう!」
内田「おふたりの仲も危機的状況ではないでしょうか!」
三井「こら!」
加賀「うまい!」
内田「ありがとうございます!」
三井「もう。ってかなんでこんなの買ったんだ?」
柏「駄菓子屋さんでおつまみ買ってるときにたまたま見てたらほしくなっちゃって・・・。」
三井「おれがいつかしっかりしたやつ買うよ~」
柏「いつかっていつですか!」
三井「そりゃ・・・その、この前のギョーザ騒動とかおさまって仕事に一区切りついたら(やるよ)」
菅野「おそい!おそいなあ」
三井「そうかな」
菅野「永遠の相方だと思ったその日に買わないと!」
敬理「なおちゃんはすぐに買ってくれたよ」
菅野「そういうのは秘密にしないとお~~~」
敬理「えへ」
内田「おれたちもここの部屋でいっしょに作ったミサンガしてますし」
ゆかり「はい!」
三井「待って。内田君ここにいたころに作ったっていったよな?」
内田「はい」
三井「このアパートは自分以外連れ込み禁止だろ!」
内田「やべ!」
ゆかり「うちらだけの秘密でしょ!」
三井「そうか三大ミステリーのやつもお前らだったのか!」
内田「すいません!」
菅野「くそ~!おれも敬理ちゃんを連れ込みたかったぞ!」
敬理「余計なこと言わないでいいよ!」
菅野「だってホテル代高かったもん!」
敬理「最低!こんな小さな男だと思わなかった!」
柏「まってください。わたしが勝手に買っちゃっただけですから。すいません」
みんな「・・・」
柏「司令官失格ですよね・・・こんな勝手な行動とる子がトップだなんて・・・」
そのとき加賀が立ち上がる
加賀「三井輝、柏律子起立」
ふたりたつ
加賀「そこに並んで」
三井「加賀さん無理ですって!」
加賀「神前じゃなくて人前結婚式だ!やるぞ!」
三井「そんなあ~」
柏「ほらしっかり立って!」
三井「君まで調子のるなよ~」
内田「あ、ご参列の皆様もおふたりの証人ってことになるんでご起立ください」
菅野「じゃ、仲人やるよ」(といって三井のそばに)
三井「菅野さんまで!」
敬理「おもしろそう~やるやる~」(といって柏のそばに)
三井「ちょっと~」
敬理「照れるな照れるな!」
ゆかり「あたしもなんかやりたい」
内田「そうだ!天使!」
三井「天使?」
内田「幸福の天使!」
ゆかり「は~い」
ゆかり、柏と三井のまわりを天使のように笑顔で回り始める
ゆかり「あはははあははは」
内田「いいよ!ゆかりちゃんは本当に天使みたいだ」
ゆかり「ありがとう!あはははあははは」
柏「かわいい!」
ゆかり「ありがとう~あはははあははは」
三井「人前じゃなかったのか?なんで天使がいる?妖精なのか!」
ゆかり「いいからいいから~」
加賀「柏律子!」
柏「はい!」
加賀「あなたはこの三井輝を病めるときも健やかなるときも、生涯を通じて共に支えあい、信じあい、愛することを誓いますか」
柏「誓います」
加賀「三井輝!」
三井「はい・・・」
加賀「あなたはこの柏律子を病めるときも健やかなるときも、生涯を通じて共に支えあい、信じあい、愛することを誓いますか」
三井「そんな、覚悟なんかまだ決まってませんよ」
敬理「てめえ!(胸倉つかんで)」
三井「んだよ!」
敬理「男らしく!お縄ちょうだいしやがれってんだい!」
三井「逮捕かよ~」
菅野「みっちゃん!おれも敬理ちゃんと結婚してから本当に幸せになった気がする」
三井「菅野さん・・・」
菅野「本当だよ。つきあってるとき以上の幸せってやっぱり結婚しなきゃわかんない部分多いよ」
敬理「悪い部分も見えるけど、その分いいところってのがもっと見えてくる。いいもんだよ」
三井「うーん」
菅野「みっちゃん!」
内田「三井さん!」
ゆかり「テルみん!」
三井「うわ!やなこと思い出しちゃった・・・」
内田「だめだよ!それでよんじゃ!」
ゆかり「あはははあははは」
柏「三井さん、じゃない! 輝!」
三井「!」
柏「居候の身でいうのもなんですけど、わたしはモデルになるのが夢です。」
三井「さんざん知ってるよ」
柏「でもモデルになるには輝の力が必要なの!」
三井「え・・・」
柏「結婚してわたしのマネージャーになってください!」
三井「!」
敬理「かっこいい!」
菅野「ぎゃ、逆プロポーズだあ!」
三井「ちょっと待てよ!おれは大学生協で働く契約社員みたいなもんだぞ!芸能界のことなんてひとつも知らないし!」
柏「衛星電話とか流行に一番敏感でしょ?」
三井「そりゃそうだけど・・・」
柏「流行をいち早く捕らえてくれる人が必要なんです」
三井「そんな人は業界ってやつにごまんといるだろ!」
柏「・・・」
三井「正直おれには・・・君を支える・・・勇気がはっきりしない・・・」
柏「はっきりしなくてもいい!絶対一緒に支えるから!」
三井「!」
柏「いつでも・・・どんなときでも・・・」
三井、体勢を整えると
三井「加賀さん!」
加賀「・・・」
三井「誓います!」
敬理「(絶叫)お前は男だい!」
三井「うお~~~~~~」
加賀「指輪の交換を!」
ゆかり「(指輪の箱を持ってきて)どうぞ~」
内田「あ、カメラのある人はぜひ前に!」
みんな「はい!はい!」
みんな、写メを出してスタンバイ
内田「お願いします!」
三井、柏に指輪をはめる
そして柏、三井に指輪をはめてやる
菅野「はいこっちにみせてください~」
ふたり「は~い」
ふたり記者会見のよう
みんな撮影。
敬理「(撮影しながら)新婦の方もっとにっこり~」
柏「こうかしら?(にっこり)」
敬理「はいは~いありがとう!」
菅野「(撮影しながら)はい新郎びびってる」
三井「余計なお世話だ!」
内田「じゃあ、誓いのキスを!」
柏「え!」
三井「無理だって!」
菅野「はい!チュー!チュー!(続けてあおる・・・)」
みんな「チュウ!チュウ!」
ふたり嫌がるが、顔を近づける
キス寸前!
そのとき
爆音
内田「こんなときだっての忘れてた~」
三井「くそ!もうちょっとだったのに!」
菅野「キスする気まんまんじゃん!」
ゆかり立ち上がって
ゆかり「シールドが・・・」
みんな立ち上がって
みんな「ない!」
三井「そんな」
加賀「あんなに強そうなシールドだったのに・・・」
菅野ベランダに出て
菅野「うあ!」
内田「どうしました!」
菅野「一階の半分くらいまで黒いアブラで」
内田「え」
三井「ってことは・・・逃げるどころか・・・完全に包囲されたな・・・」
柏「どうしよう」
三井「君が結婚式なんか参加してるからこうなるんだ!」
柏「なんですって!」
三井「そうだろ!俺が見張りをつけて監視しろってあれほどいったじゃないか!」
敬理「もう済んだことはいいじゃない!」
三井「よかない!これは司令官である君の怠慢だぞ!」
柏「そんな!」
そのときメール着信
内田「司令官殿!日野さんからメールです!」
柏「報告!」
内田「はっ!(メール)みなさん大丈夫ですか!」
菅野「大丈夫じゃないよ~」
内田「(メール)アブラ型宇宙人がそこや日本だけでなく世界中で出現しているみたいです。軍や日本では自衛隊が出動してますがなにも手を出せない状況です。」
加賀「そうだ!アブラには卵黄がきくんだよな」
内田「それメールするの忘れてた!」
敬理「あたしが助かったくらいだもん。なにか役に立つって」
内田「はい!(メールを打ち始める)」
菅野「これで少しはなんとかなるかもしれない」
三井「でもその前に、ここが崩れたらどうするんだ?」
菅野「え」
三井「このアパートはただでさえボロだ。完全に包囲されてるとなると、やつらの圧力でいつ一階がぶっこわれるか」
菅野「そんな・・・」
そのとき
内田「ゆかりちゃん」
ゆかり「なに?」
内田「水にのったられたとき、どんな気分だった?」
ゆかり「ん~、ずっとなんか水のなか泳いでる感じ・・・」
内田「よし!敬理さん!」
敬理「ん?」
内田「アブラにのっとられましたよね?そのときのこと覚えてますか」
敬理「うーん、苦しくてあまりよく覚えてないけど、なんかいろいろ言って、なおちゃんふっとばして、ゆかりちゃんと対決したような・・・」
内田「よし!」
三井「おい、さっきからなんだ!」
内田「あのふたつには意思があります。意思があるってことは喜怒哀楽があるってことです」
三井「確かに」
菅野「おお内田らしくない頭の冴え方だ」
内田「ってことは、今、アブラは喜怒哀楽の怒、怒りで動いてる」
三井「水と戦って地球を征服しようってくらいだからな」
内田「そう。だから・・・」
内田、無言でサッシをあけて
内田「司令官殿~」
柏「はい?」
内田「モデルさんが夢ですよね?」
柏「そうですけど・・・」
内田「目をつぶって」
柏「はい・・・」
内田「さあ想像してください!ここは夢の都、パリ!」
柏「パリ?」
内田「柏さんは夢がかなったんです!一流ブランドのパリコレ!ファッションショーの現場だ!」
柏「うん・・・」
内田「たくさんのモデルさんが行った最後!大トリのモデルが柏さん、あなたです!」
柏「そんな!」
三井「なにするんだよ!」
内田「(三井に)見ればわかります!さあ。柏さんいよいよ出番です!」
柏「はい・・・」
柏、目をつぶったまま立ち上がる
音楽が鳴る
内田「ホルモン焼き屋さんのバイト・・・つま先から血が出るくらいのウォーキング!それを乗り越えて今やっときた夢の大舞台!」
柏「(表情がだんだん弾きしまる)」
内田「そばには一番大切な・・・三井さんもいます」
柏「そうなの?!」
内田「(三井に小声で)応援してあげてください」
三井「(内田に)おおわかった(柏に)律子・・・」
柏「輝・・・」
三井「律子なら・・・できる・・・」
柏「はい!」
内田「さあ、目を開けて・・・」
柏ゆっくり目を開く
その目はすでにモデルの目
ぎらぎらと前を見る
内田「敬理さんDJよろしく!」
敬理「ええ!んもうOK!レディース、エンド、ジェントルメン!ラストモデル、イズ、リツコ~カシワ!フロムジャペ~ン」
内田「ヒア、ウィ、ゴウ!」
音楽イン
柏、おもいっきりすっと奥に立つ
そして、モデル歩きで一気にベランダまで歩く
ジャケットを(着てる、つもり?)でばさっとしてターン
敬理「チェケナ~ウ」
内田「ギャラリーの皆様!シャッターチャンスです!」
柏、ジロリとかっこよくにらむ
アブラたちが騒ぎ始める
菅野「やった!楽しんでるみたい!」
内田「よし!加賀さん!」
加賀「ん?」
内田「『どうざんしょ』に電話してください?」
加賀「なにしろってんだ」
内田「今から合図します。合図したらラーメンにつける味付け卵とかをアブラに投げつけてください」
加賀「それはお客さんに出すもんだぞ!食い物を粗末になんか」
内田「ラーメンと人の命どっちが大切ですか!」
加賀「んもう~わかった!(電話)もしも~し・・・」
加賀、電話かける
柏「(もどってきて)こんなんでいいの?」
内田「最高です!ギャラリーも楽しんでますよ!」
三井「まだやるのか!」
柏「ちょっと息切れが・・・」
内田「もう一周!」
柏「わかった。でもどうしよう、次の衣装、衣装・・・」
柏、今度はゆかりのコートをもって
ゆかり「それ、あたしの」
柏「貸して!」
ゆかり「まって~」
先に柏がウォーキングする
あとからゆかりも歩いてしまうので
敬理「お、オーケー、ダブルモデル、ユカリ、ハチスカ~」
ゆかり「ええ~どうすりゃいいの~」
内田「ゆかりちゃん!Y字バランス!」
ゆかり「できないって」
内田「途中まででもいいから!」
ゆかり「え~」
柏、ゆかり、ベランダの先端にいく
柏おもいきりジャケットプレイで決める
柏「きまった・・・!」
同時にゆかり、中途半端なY字バランス
ゆかり「はい・・・」
歓声が最高潮に達する
柏「戻りましょう」
内田「いまだ!加賀さん!」
加賀「よし!卵をなげつけろ~」
内田「よし!みんなあつまって!」
全員、集まる
内田「叫んでください!」
三井「え?」
内田「アブラと水に伝えるんです!おれら人間の叫び!生きてるっていう叫びを!」
三井「勢いだけじゃなんにもできないぞ」
内田「早く!」
柏「(絶叫)スーパーモデルになります!」
三井「(絶叫)パリの次はニューヨークでショーやるぞ!」
菅野「(絶叫)日本で一番おいしい豆腐屋さんになってやる!」
敬理「(絶叫)その豆腐屋さんの女将になる!」
加賀「(絶叫)ラーメンでみんなに幸せを!」
ゆかり「(絶叫)俊也のいいお嫁さんになってやる!」
内田「(絶叫)ゆかりちゃんをもっと笑わせてやる!おれたちは・・・」
みんな「(絶叫)生きてるぞ!」
内田、マヨネーズを取って
内田「うおーーーーーー」
と叫びながら真ん中から、アブラたちに注ぎ込もうと
天高くマヨネーズを持って入れようとする
そのとき
遠くから戦闘機の音
内田「(止まる)ん?」
菅野「なんだ?」
三井「なんか後ろからクリーム色のやつを降らせてる」
メール着信
内田「日野さんからだ!(メール)マヨネーズ、大量投下中!」
三井「あれはマヨネーズなんだ!」
敬理「こっちに来る!」
柏「部屋にはいって!」
ベランダにいる人間、転がり込む
戦闘機の音、マックス
みんな部屋の中で耐える
音が小さくなる・・・
ゆっくり起き上がる内田
内田「ない・・・」
菅野「え・・・!」
内田「みてください!」
菅野「マヨネーズだらけだ・・・あは」
三井「ってことは・・・」
みんな「やった~~~~」
手を取り合って喜ぶ全員
三井「なあ、みんなで飲みなおさないか」
菅野「いいねえそれ!」
敬理「あたしも最初から飲みたい~」
柏「じゃあ、準備準備」
ゆかり「手伝います」
テーブルを持ってくる
そして、みんなでそれを囲む
菅野「それでは、今一度、幹事からお言葉を」
内田「えっといろいろありましたがみなさん怪我もなくお日柄もよろしくて」
三井「泡が消える。早く」
敬理「泡ってビールじゃないでしょ?」
三井「あ!」
敬理「うるさいなに?」
三井「これさ・・・中身はいってないんじゃない?」
みんな「あ!」
缶を振る
菅野「やっぱ・・・」
柏「ないですね・・・」
ゆかり「あたしかってきます」
敬理「いいよ。あたしが買ってくる」
菅野「ならおれもいくよ」
三井「おれも」
柏「おつまみも買わなきゃですね!」
ゆかり「いってくるね」
みんな行こうとする
内田「これでいいのかな・・・」
ゆかり「え・・・」
みんな止まる
内田「ここで喜んでいたら・・・また、おれたちが人間が・・・地球でのさばっちゃわないかな・・・」
みんな「・・・」
そのとき
大きな破壊音
内田、サッシに駆けつける
内田「ベランダが・・・」
みんな駆け寄る
菅野「落ちた・・・」
柏「わたしの舞台が・・・」
ゆかり「マヨネーズだらけ・・・」
三井「そういえばここ、明日、取り壊しだったな・・・」
菅野「すっかり忘れてたなあ」
柏「あたしたちのひとつの時代が、消えちゃうんですよね・・・」
内田「ひとつの時代かあ・・・」
三井立ち上がって
三井「ベランダの柵がとれたから・・・東京が全部見えるなあ・・・」
菅野「ここってこんな景色だったんだね・・・」
みんな、だまって景色を見る
内田「なんか素直に乾杯していいんですかね・・・」
みんな「・・・」
内田「またみんなが忘れたころに、水と油が怒って戦争しないかな・・・」
加賀「大丈夫だ」
内田「・・・」
加賀「他のやつらが忘れても、おれたちは覚えてる」
内田「・・・」
加賀「誰かがのさばり始めたら、おれらで説教たれてやれ」
内田「それだけでいいんですか?」
加賀「今の今だ。俺たち意外にも、必ず説教するやつはいるよ・・・生きてるんだろ?人間みんな。」
内田「・・・」
加賀「ってことで飲みなおし飲みなおし」
内田「加賀さ~ん」
加賀「よし、買いに行こうみんな」
みんな「は~い」
内田以外、みんなハケる
内田、ひとり残る
外を見る
内田「生きてる・・・か」
内田、なにかを思う
菅野「内田、行くぞ~」
内田「はい!」
内田、マヨネーズを置いてはける
マヨネーズがある。人間には。
END
2008年5月30日金曜日
Small cinema story ~ある小さな映画館のお話 -「ラスト・レッスン」 から3年-~
Small cinema story
3man Office/劇団3man 旗揚げ5周年記念
第15回 夏公演
改訂版 下巻
登場人物
藤岡智 シネマ藤岡のオーナー 黒崎純也
桜庭泰輔 映写技師 石戸良
三橋総一郎 区議会議員の息子 田辺京市
桜庭玲子 映画館の売店アルバイト 本多美智子(演劇ユニットio)
白井健二 客 富士河千之介
スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明オペレーター
音響効果オペレーター
制作本部 加藤真由実
舞台制作協力
古橋いつか(ぬいぐるみハンター)
製作
3man Office 制作本部
序章
ここは東京のとある区。
シネマ藤岡という小さな映画館である。
駅前の雑居ビルの中にある。
定員は四五名と少ない。
一階は松屋。
二○○七年夏。
物語はここから始まる
そんなシネマ藤岡の外。
朝
オーナーの藤岡智が外掃除をしている。
そこに
玲子「おはようございまーす」
智「あ、おはようございます」
玲子「今日、大丈夫ですか?」
智「え」
玲子「だから今日!大丈夫ですか?」
智「なにがですか?」
玲子「ひっどい!忘れちゃったんですか?」
智「??よくわかんないんですけど」
玲子「二時からですよ!」
智、考えて
智「あ!(思い出した)」
玲子「会議するから時間空けといてくれってあれほどいったじゃないですか!」
智「おお、大丈夫です大丈夫です」
玲子「なんのために、あんまり人の来ない平日、昼の時間にしたかわかんないでしょ」
智「ごめんごめん」
玲子「それと、キャラメル二ケースの発注は?」
智「昨日しときましたよ」
玲子「よかった」
智「切れそうでしたからね」
玲子「もう、いい加減、売店で扱うアイテム、増やしましょうよ」
智「だめです。」
玲子「いまどき、コーラとキャラメルしかおいてない映画館の売店なんて、うちしかないんですからね」
智「それがいいんです。」
玲子「為蔵さんの遺言でしょ?」
智「まあ、そうですね」
玲子「お客さんのクレームを直に受けてるの、あたしなんですからね」
智「感謝してますよ」
玲子「まったくもう、親子そろって頑固ものなんだから。」
智「玲子さん?」
玲子「はい?」
智「昨日、コーラの原液ボトル、切れてたでしょ?」
玲子「あ!」
智「ボトル取り替えときましたから」
玲子「ありがとうございます」
智「もうすぐもっと暑くなるだろうからボトルも多めに発注しときましたたから」
玲子「それもありがとうございます」
智「ついでに昨日のレジ金、またマイナス五百円でしたよね」
玲子「すいません・・・」
智「お金の受け渡しのときは特に注意するように」
玲子「(ため息)前いた陽代さんにもいわれたもんなあ」
智「今日もよろしくお願いします」
玲子「はーい、着替えてきまーす」
玲子、はける
智、掃除を続けようとする
そのとき
白井「おはようございます」
智「ああ、白井さん」
白井「近くまで来たんでちょっと」
智、ポスターのある場所にいって
智「明日、土曜日から、夏のスペシャルを上映しますよ」
白井「夏ですかあ」
智「ホラーも含めて一週間交代で(ポスターを見せながら)八月はこのローテでいきます。」
白井「えっと明日からは(覗き見る感じで)?」
智「『十二人の怒れる男』」
白井「楽しみだなあ。裁判つうか陪審員の話ですよね」
智「え?」
白井「?」
智「あ、ええ!そうです」
白井「これね、もちろん映画も面白いけどお芝居にもなってるんですね。で、日本では、金田一で有名なあの石坂浩二が演出出演してやっていて、それを三谷幸喜が見て」
智「(あぜん)」
白井「で、彼が演劇をやろうとするきっかけになったっていう話」
智「知りませんでした」
白井「ついでに、この映画をモチーフに『十二人の優しい日本人』っていう作品ができて、劇団時代の作品なんですが、おととし渋谷のパルコ劇場で再演されたんですよ」
智「あ、なんかやってましたね」
白井「これくらい知っとかないと」
智「オーナーなのに不勉強ですいません」
白井「まあ、いいでしょう。でも、懐かしいなあ。」
智「ぜひお待ちしております」
白井「明日中には必ず」
智「はい!」」
白井「では」
白井、はけそうになるが
白井「あ」
智「はい?」
白井「おとといかな、見てたら音が急にきこえないときが。」
智「え!」
白井「始まって二十分くらいかな。物語の起承転結なら起の部分。」
智「はあ・・・」
白井「まあそのあとすぐに戻ったんですけどね、おかげでその後、頭の中で話を整理するのが大変でした」
智「本当に申し訳ございません」
白井「あのときすぐに何とかしてもらおうって思って急いで誰か探したんですが」
智「客入れの後は商店街の会合に出てたもんで」
白井「でしょう。だから、売店の女の人に言ったんですけどね」
智「玲子さん・・・」
白井「明日は完全な形で『十二人の怒れる男』を見たいもんです」
智「はい!」
白井「では」
白井はける
智、腰低くお辞儀して見送る
いなくなったのを確認して腰をあげてまた掃除をする
テーマ曲がかかる
ふと、手を止める
空を見上げる
智「父さん・・・今日も・・・暑くなりそうだ」
テーマ曲アップ
静かに後ろの緞帳が開く
見上げてる智はける
前部が暗くなって
舞台へ
(ここの照明は暗転することなく前後チェンジ)
第一章
ここは、「シネマ藤岡」の休憩室
いすを三個ならべて、そこに寝ている男がいる
その名は、桜庭泰輔。
そこにエプロンをつけて書類や伝票を抱えて玲子がやってくる。
玲子「まーた、おつり・・・(ためいき)・・・自信ないなあ・・・合ってるかなあ」
玲子、寝ている泰助を見る
玲子「(ため息)」
泰助「(寝ている)」
玲子「(何をやってもいいので彼を起こしてください)」
泰助「!」
玲子「買ってきた?」
泰輔「んあ・・・」
玲子「朝いった、アレ」
泰助「あ、ああああああ」
玲子「どこにおいた?」
泰輔「いつものとこ」
玲子、いったんはけるが
玲子「(声だけ絶叫)○△□!!!!!!!!!!」
泰輔「うるせえなあ」
すばやく走りこんできて
玲子「ばか!(おしおき)」
泰輔「なんだよ!」
玲子「なんてところにいれてるの?」
泰輔「冷凍庫」
玲子「普通さあ冷蔵のほうでしょ?」
泰輔「バカだな」
玲子「はいバカバカ」
泰輔「おれなりの気遣いってもんよ」
玲子「え!泰輔、気遣いなんてできるの!?」
泰輔「角っこのスーパー『まるとん』行ったらさ、あれが普通に、レジ横においてあったんだぜ」
玲子「常温でおいてあったってこと?」
泰助「そう。冷凍庫のほうに入れて早く冷やしたかったんだって」
玲子「その努力は認める。けど、バカ」
泰輔「ふん」
玲子「まるとんってね、普通に賞味期限切れたもの売ってんだから」
泰輔「それ、店としてだめじゃねえか!」
玲子「あたしに怒らないでよ!」
そのとき
三橋「お邪魔しまーす」
玲子「おはようございます」
三橋「玲子さん、キャラメルがんがん売ってます?」
玲子「がんがん売ってますって」
泰輔「おう、成金息子」
三橋「あのですね、会うたびに成金っていってますけど、そんなもんじゃないですから」
桜庭「んなこといったって、儲かってんだろ?不動産屋」
三橋「競合他社はたくさんありますから」
桜庭「ま、破産したとしても区の議員さんやってる親父にタカりゃなんとかなるだろ」
三橋「父は父です。」
桜庭「ふん」
三橋「たまたま生まれた家がそういうところだったってだけですから」
桜庭「たまたまだって!?ああ、おれも金持ちの家に生まれたかったなあ」
玲子「泰輔!」
そこに
智「あ、総一郎さん」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます」
桜庭「おう、ぼっちゃん」
智「いい加減それで呼ぶのやめてもらえますか?」
桜庭「いいじゃねえかよ、ぼっちゃんは、いつまでもぼっちゃん」
三橋「(智に)あ、ちょっと話があるんですけど」
智「おれに?」
三橋「はい」
状況を察して
玲子「(泰輔に)そろそろ準備ですよ~!」
桜庭「え~」
玲子「万作さんが新婚旅行行ってる間は、映写室のこと、全部まかされてるんでしょ?」
桜庭「あーあ、おれもイタリアいきてえな」
玲子「そうねえ、ハローワークいって職決めたら新婚旅行ってことで」
桜庭「おれ、お役所嫌いなんだよね」
玲子「無職がよくいうよ・・・」
桜庭、やっとおきる
智「あ、昨日いらしたお客さんから、音が途切れるって」
桜庭「気にしなきゃいいんだよ」
智「気になるみたいですよ」
桜庭「ったく、細けえんだからよ、最近の客は」
智「常連さんからのクレームですから」
桜庭「ああ、あのヒョロ男か」
智「白井さんです」
桜庭「つまんねえなあ、やりたくねえ」
玲子「まあ、気遣いができる男なんでしょ?泰輔は」
桜庭「ま、まあな」
玲子「音を直すのなんて、ぱっぱっぱの秒殺でしょ!」
桜庭「ぱっぱっぱだ」
玲子「はい、仕事仕事!(残るふたりに)いってきますー」
智「お願いします」
ふたりはける
智「あ、立ってないで(どうぞお座りください)」
三橋「失礼します」
三橋、適当に座る
智も座る
三橋「もうすぐお盆ですよね」
智「そうですねえ」
三橋「為蔵オーナーがお亡くなりになってからもう三年ですか」
智「なんの引継ぎもなく、ここが開いてすぐに風呂で倒れちゃって」
三橋「運命的でしたね。為蔵さん初恋の人が来て、それから亡くなるなんて」
智「かわいそうなのはうちの母ですよ。初恋の人見るは、その日のうちに死ぬはで」
三橋「最近お会いしてないな。今は?」
智「今じゃ近所のエアロビ教室に通ってます」
三橋「安心しました」
智「ここのことはね、いまだにわかんなくなるときがあります」
三橋「?」
智「あの野郎、こんな偏屈な映画館残しやがってって」
三橋「あの野郎って・・・」
智「父のことです」
三橋「僕は面白いとおもいます」
智「おもしろい、か・・・」
三橋「・・・」
三橋、急に姿勢を改めて
三橋「今日、ここに来たのは、いつもみたいに遊びにきたわけじゃありません」
智「はいはい」
三橋「・・・」
智「?」
三橋「あ、いや・・・」
智「どうしました?」
三橋「非常にいいづらいのですが・・・」
智「どうぞ」
三橋「・・・九月の家賃から、ちょっと値段を・・・上がらせていただきたく」
智「!」
三橋「・・・思いまして」
智「・・・そうですか」
三橋、かばんから電卓を取り出して
三橋「(電卓を押して)現在がこれくらいですね?」
智「はい・・・」
三橋「九月からは(電卓を押す)」
智「(それを見て)え!」
三橋「これくらいで。」
智「・・・」
三橋「どうでしょう。そのための交渉のつもりできたんです」
智「急ですね」
三橋「ご存知ですか?ここの裏の公園に建築会社が機材をたくさん置いてるの」
智「知ってます」
三橋「都の、駅前再開発がいよいよ本格的に始まるんです」
智「ええ」
三橋「一気にこの辺も、かわります」
智「かわっちゃうのか・・・」
三橋「かわるということは・・・わかりますね?」
智「・・・」
三橋「いろいろ値段があがってまして」
智「下はどうなるんですか?」
三橋「下?」
智「下の」
三橋「松屋ですか?」
智「つぶれたり?」
三橋「来月から二軒となりの本屋の横に移転します」
智「そうですか。なら、そのあとは、コンビニとか入ったり・・・」
三橋「いえ」
智「・・・」
三橋「なんにも(入りません)」
智「じゃあ、上!」
三橋「いますぐではありませんが、西口に新しくできたマンションに引っ越します」
智「・・・」
三橋「今はやりのオール電化マンションです。」
智「・・・」
三橋「智さんも、どうです?」
智「・・・」
三橋「一度、ショールームに行ってみるといい。すごいですよ、あのオール電化ってやつは」
智「このビルから・・・出て行けということですね?」
三橋「・・・」
智「総一郎さん?」
三橋「・・・」
三橋、立ち上がって窓を見る
三橋「このビルにシネマ藤岡が入れるように紹介したのは、うちの父ですよね」
智「ええ」
三橋「入れといって、今度は出ろなんて。」
智「お父様から言われたのですか?」
三橋「矛盾するのもはなはだしい。副社長の僕としても必死に反対しました」
智「ありがとうございます」
三橋「ですが・・・」
智「今日、ここで、今僕に言ったのがすべてですよね?」
三橋「・・・」
智「駅前再開発ってどんな感じになるのですか?」
三橋、パンフレットを机の上に置く
そして見せながら説明する
三橋「後ろの公園から半径一キロくらいはまずさら地になります。さら地にした上で、区画整理を行い、四十階建てのオ
フィスとショッピングモールが入ったメインタワーを建てます。」
智「・・・」
三橋「その横に海外からの初出店ブランドを含めた目抜き通りを通して・・・その脇には富裕層向けのマンションを建設して、駅とは橋でつなぎます」
智「・・・」
三橋「今回の再開発にうちの社運がかかっています。東京都もバックアップしてますから(うちとしてもやり遂げたいのです)」
智「うちの父の遺産もかかってますけどね」
三橋、智を見つめる
智も三橋を見つめる
三橋「もちろん、考えてくださってけっこうです。ただし・・・」
智「・・・」
三橋「このままこのビルが残ったとしても、開発は続行させていただきます。」
智「・・・」
三橋「新しい町並みの中に、この古ぼけたビルがズドン、と建っている姿を想像してみてください」
智「・・・」
三橋「僕は・・・いやです」
三橋、はける
智、パンフレットを見つめる
智「・・・」
チェンジ
◎挿入 2007/06/18
一方ここはロビーの喫煙スペース
桜庭入ってきてベンチに座り、タバコを出す
そこに三橋気づかず、通り過ぎようとする
桜庭「一服しようや」
三橋「!」
桜庭「成金息子」
三橋「会議がありますから」
桜庭「ちょっとくらいいいだろ?」
三橋「・・・」
三橋もベンチに座る
桜庭、たばこを出す
三橋、たばこをもらう
そしてくわえる
桜庭、ライターを出す
しかし
火がつかない
桜庭、何回もやる
しかしつかない
桜庭「くそ!」
三橋「・・・」
桜庭「かっこ悪い。こういうのが一番むかつく」
三橋「貸してもらえますか?」
桜庭、ライターを貸す
三橋、ライターをいじるが
・ ・・つかない
桜庭「わりい」
三橋「たばこはいただいておきます。」
三橋、たばこをハンカチにつつんで、かばんに入れる
三橋「(ライターを見つめながら)ライターなのに、火がつかないか・・・」
桜庭「おれもしけたもんだ」
三橋「(ライターをとって見つめる)」
桜庭「どうした?」
三橋「僕も火がついてないのかもしれません」
桜庭「は?」
三橋「・・・」
桜庭「成金息子はどうしてこうまわりくどいのが好きなんだろうね」
三橋「オーナーに言ってきました」
桜庭「再開発話?」
三橋「嫌われてしまいました」
桜庭「ふん。だから俺はいったんだ。もうすこし前から話せば、ちょっとは丸くおさまったかもしれねえって」
三橋「(智を思い)」
桜庭「三年も前から計画が出てたんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は映写機まわすのが仕事だ。こうやって嫌われるのもあんたの仕事だろ」
三橋「僕は嫌われたくありません」
桜庭「なら親父と喧嘩できんのか?」
三橋「それは・・・」
桜庭「じゃあいいんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は昔ただ働きがいやで、じじいと喧嘩してここをやめた。」
三橋「三年前の開館式当日ですよね」
桜庭「おかげでぼっちゃんはいまだにおれを嫌ってる」
三橋「・・・」
桜庭「あんたにいわれてここに戻ってきて・・・おれなりにけっこうがんばったんだけどなあ・・・。」
三橋「・・・」
桜庭「まあ、雪解けは早いかな」
三橋「・・・」
桜庭「俺も万作が戻ってきたらお払い箱だ。あと三日の命ってことよ」
三橋「その三日の間にお願いしたいんです。ここの立ち退きが丸くいくように、もっと積極的に智さんに動いてもらえませんか?」
桜庭「お?親父をとることにしたんだな」
三橋「・・・」
桜庭「玲子に話したほうがいいかもしれねえぞ?」
三橋「玲子さん・・・ですか・・・」
桜庭「あいつならここでずっと働いてる身だ。ぼっちゃんのことをよく知ってる。いいところも知ってれば悪いところも知ってる。そこにつけいればなんとかなるかもしれねえ」
三橋「・・・」
桜庭「苦手か?」
三橋「いえ!」
桜庭「ま、でもなあ、玲子はここが好きだからなあ。無理かもな」
三橋「・・・」
桜庭「あーあ、半端なヤツしかいねえなあ、ここは」
三橋「・・・」
桜庭「ぱっぱっぱと音とび直してくるわ。またあのヒョロ男にクレーム出されたら、説得する前にクビになりそうだからなあ」
桜庭、はけていく。
その背中を見て三橋もその方向に歩いていく。
チェンジ
舞台はまた休憩室
いそいそと、玲子がなにかを準備している。
なにかドリンクとかいろいろ。
そこに
智「まいったなあ」
といいながら入ってくる
玲子「(智が入った瞬間びくっとする)」
智「ん?」
玲子「あ・・・あは、あははは」
智「どうかしたの?」
玲子「いえ、別に・・・」
智「なんだかな・・・」
玲子「顔が暗いですよ」
智「え」
玲子「あ、いつも暗いか」
智「いつもは余計です」
玲子「なにかあったんですか?」
智「うーん・・・」
玲子「?」
そこに
桜庭「うおーい、いっちょあがり
玲子「はいおつかれさん」
智「あ、館内清掃は?」
桜庭「(いすにどっかり、座って)あとあと」
智「(ため息)」
玲子「(目で泰助に合図)」
桜庭「(それを見て、芝居っぽく)あーあ、きょうは、なんの、ひだっけ?」
玲子「(芝居)そうねえ」
智「!」
ふたり「だれかさんの、たんじょうびじゃないの!?」
智「!」
その瞬間、玲子机のしたから、お盆を出す
お盆には四個の、ところてんが並んでる
智「と、ところてん!」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー
はっぴばーすでー、とうーゆー
はっぴばーすでー、でぃあ(目をあわせて)さとしさ~ん(ここは桜庭は「ぼっちゃ~ん」という」
智「ああ、ありがとうございます・・」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー」
と歌いながら玲子、ところてんを
とことてん付属の小さなフォークを無理やり智ににぎらせ、
玲子「(鋭く言う)はい食べて!」
智「え!」
玲子「(鋭く)ろうそくのかわりなんだから!」
智、しぶしぶ、フォークを握り
ところてんを
智「(音をたてて汚く食べる)」
ふたり「はい、おめでとう~~~~~~~~~~」
ふたり、拍手
智「ふ、普通、こういうときってケーキじゃ(ないんですか)」
玲子「そんなのつまんない」
桜庭「夏はところてん!」
智「はあ・・・」
玲子「あ、ちょっと凍りかけなのは許してね。」
桜庭「すぐに冷えるように、おれの気遣い」
玲子「冷凍みかんと一緒だと思って。」
智「シャリシャリ感はいりませんよね・・・」
桜庭「バカ!俺たちがこれをぼっちゃんに贈るのはちゃんと意味がある」
智「意味?」
玲子「ところてんって、寒天をこうやって木枠からするっと抜いて作るでしょ?」
智「ええ」
桜庭「ところてんのように、ぼっちゃんにもこれから起こる困難にもだな、負けないように、こう、するっと抜けろってことだ」
智「無理やりっぽいですよ」
桜庭「うまいこといったな」
玲子「うまいうまい」
智「自画自賛ですか?」
桜庭「うまいといったら、これだ!」
次に、桜庭、机の下から、酒のびんを出す
智「ひ、昼ですよ!」
桜庭「ところてんっつったら酒よ!」
玲子「異議なし!」
智「ちょ、ちょっと!」
玲子「却下あ!」
桜庭「ホッピーホッピー!(びんを持つ)」
智「あ、じゃあ・・・(お酒をつがれるのを期待して)いただきます」
しかし、桜庭、まず自分のコップに酒をついで
口に注ぎ込む
桜庭「△▲△(アドリブ)うんめえ」
玲子「ずるい、あたしのにも」
桜庭「おう悪い悪い」
桜庭、つぐ
智「仕事中ですよ!」
桜庭「あと夜の一回だろ?」
智「そうですけど」
桜庭「車運転するわけじゃねえんだから、大丈夫だよってんだ」
智「お客さんに失礼ですよ」
桜庭「大丈夫だ」
智「玲子さんも?」
玲子「今日は智さんの誕生日なんだから」
智「夜の回の、おつりも間違って渡しちゃいませんか?」
玲子「逆に、頭が冴えて、サクサク、計算できるかも」
智「ありえませんって!」
桜庭「どうせ次に来る客は決まってる」
智「?」
桜庭「あの、ひょろっとしたクレーム野郎だろ?」
智「白井さんのことですか」
桜庭「いっつもいっつも、ここにくる。」
智「うれしいことじゃないですか」
桜庭「あいつの頭の中には、映画見るなら西口って選択肢はないのかな?」
智「西口・・・」
玲子「こっちは駅の東口でしょ?西口にあるのは」
智「ハミングバード・シネマ12(トウェルブと発音)」
桜庭「あっちはシネコンだ。」
玲子「十二個もハコがあるんだもんね。」(※ハコ→上映室の意)
桜庭「音もドルビーだし、画もきれいだし」
智「シネコンじゃあね、たしかに単館のうちはかなわない」
玲子「たぶんあのヒョロ男は、アナログが好きなんですよ」
智「空想でものをいうのはやめましょう」
桜庭「映画好きってもんは、へそ曲がりがおおいから」
智「今の発言で世の中の何万人かを敵に回しましたね」
玲子「泰輔、それいい!」
智「え?」
玲子「デジタル全盛期の今だからこそアナログの良さっ味わおうって、売り込みましょう」
泰輔「そうそう。CDよりレコードのほうがいいってときがある」
智「なるほど・・・」
玲子「見直したでしょ?」
智「ええ」
玲子「伊達に三年間キャラメルとコーラ売ってるだけじゃないですから」
智「うんうん」
泰輔「場がまとまったところで、ご歓談を」
ふたり、酒をのみ、ところてんを食べる
智「(それを見て)・・・」
泰輔「どうした?」
智「・・・あ、いや」
玲子「なんですか?いってくださいよ」
智「・・・んん・・・うーん」
泰輔、びんをもって智のコップにつごうとする
智「(それをとめて)うあ、いいです!いいです」
泰輔「飲め!」
智「まだ仕事ありますから!」
玲子「うちらだってまだある!」
智「無理です」
泰輔「(いったんとめて)そうか(あきらめるようなふり)」
智「夜の回が終わったら、おつきあいしますから!」
泰輔「いまだ!(一転、つぐ)」
智「わ!」
智のコップには酒がつがれる
智「(酒を見つめる)」
玲子「入った以上は飲んでもらわないと」
泰輔「以下同文」
智「そんな・・・」
ふたり「(じっと見る)」
智「(耐え切れず・・・飲む)」
玲子「ほらやっと誕生日っぽくなってきた」
智「(飲み終える)」
泰輔「どうだ!昼から飲む酒は!」
智「・・・けっこう・・・うまい・・・ですね・・・」
玲子「でしょう!」
泰輔「なら、二杯目だ!」
智、コップを差し出す・・・
が・・・
そのとたん、ばたんと、机の上に突っ伏す
ふたり「!」
桜庭「おい!」
玲子「智さん!」
ふたり、駆け寄る
すると
智、一気に立ち上がり
智「えへへ・・・」
ふたり「!」
智「えへへへへ・・・」
泰輔「うわあ」
智「(よって)みなさ~~~ん!」
玲子「完全に酔ってる・・・」
泰輔「たった一杯で・・・」
智「(聞かずに)大事なお話がありま~~~~~す!」
ふたり「(どうしよう・・・)」
智「へへ・・・いつも、お勤めありがとう!ありがとう!ありがとう!」
玲子「は、はい・・・」
智「さらに今日はボクの誕生日まで・・・ボク、本当に十四時から会議だと思ってましたよ~~~」
玲子「あたしが時間空けるようにいいましたからねえ」
智「なんで!なんで、やるよっていってくんないんですかあ~~~」
泰輔「言ったらサプライズの意味がないだろう」
智「なんでえ」
玲子「智さん、気を確かに!」
智「ぼくは~~~いつでも冷静沈着」
泰輔「どこが」
玲子「言いたいことってなんですか?」
智「ああ~ああ~、ええ、このシネマ藤岡は・・・」
ふたり「・・・」
智「つぶれることになりました!」
玲子「!」
桜庭「・・・」
智「えへ・・・」
暗転
第二章
暗転中に
智・玲子「ありがとうございました」
明転
ここはロビー
智が客の見送りをしている
智「うはああああ・・・頭がいったい・・・」
玲子「大丈夫ですかあ?」
智「ボク、なにかいってました?」
玲子「(呆れ顔)」
玲子、劇場の方にいって見て
玲子「あとおひとりです」
智「白井さんですか」
玲子「ええ」
智「わかりました」
玲子「ああ、もう」
智「?」
玲子「白井さん、出てくのいっつも遅いから、困っちゃう!」
智「まあ、確かに」
玲子「レジ閉めとかお掃除とか全部押し押しになっちゃうんですよね」
智「仕方ないですよ。大事なお得意様なんだから」
玲子「もうイライラしちゃうと、また計算ミスしちゃうかも」
智「イライラしなくともミスってるでしょ?」
玲子「違いますよ!この前わかったんです!」
智「え」
玲子「白井さんがグダグダして帰った日に限って、レジ金があわないって!」
智「たまたまでしょ」
玲子「日報見てったらわかりますって!」※日報→売上日報のこと。
智「おつりの受け渡しをもっとはっきりやれば大丈夫です!」
玲子「開演ギリギリだったらどうするんですか!」
智「予告編くらいならどうにでもなりますって!」
玲子「正しいおつりと、映画を始めから見せるのではサービスとしてどっちが正しいですか!」
智「どっちもです」
玲子「もう・・・」
智「それよりも、あのことを伝えるかどうか迷ってるんですよ」
玲子「あのこと?」
智「ここを閉館するってことです」
玲子「本気なんですか?」
智「・・・」
玲子「昼の誕生日会。お酒に飲まれちゃって、勢いで言ったのかなって(思いまして)」
智「・・・」
玲子「あのとき聞いたのあたしたちだけだから、あれをお酒の席のジョークにすればいいと思うんですけど」
智「でも・・・」
玲子「え?」
智「はい?」
玲子「ほ、本当なんですか!」
智「・・・」
玲子「総一郎さんに約束したとか?」
智「正式な答えは保留してます」
玲子「もう!ぐずぐずしてると、外堀から埋められちゃいますよ。気づいたら、ここだけぽつん・・・」
智「もう埋められました」
玲子「え!」
智「ここだけぽつん・・・」
玲子「・・・」
そのとき
白井やってくる
ふたり「(あわてて)ありがとうございました!」
白井「いやあ、すばらしかったです」
智「そういっていただけるだけで幸せです」
白井「学生時代を思い出しました。私ね、こう見えても学生時代、毎月一本は映画を見てましてね(それで・・・)」
玲子「(劇場内を見て)先にレジを閉めちゃいますね」
智「お願いします」(玲子、ハケる)
白井「(言葉をさえぎられて)あ・・・」
智「(それに気づいて)あ!ああ、どうぞ話の続きを」
白井「あ、お仕事の邪魔しちゃってるかな」
智「いえいえ、」
白井「まあ、でもまた来ます」
智「はい・・・」
白井、ハケようとする
智「あの!」
白井「?」
智「あの・・・」
白井「はい・・・」
智「あ・・・」
白井「どうしました」
智「いや、あの・・・」
白井「?」
智「あ・・ああ・・・」
白井「そうだ。」
智「?」
白井「ずっと隠していたことなんですが・・・私ね・・・映画が好きってわけじゃないんです」
智「はい・・・」
白井「映画館が好きなんです。」
○ 挿入 2007/06/25
智「え!」
白井「ちょっと目をつぶって想像してください!」
智、目をつぶる
白井「千円札を握り締めながら、窓口で切符を買います。売店でコーラとキャラメルを買って・・・
いすに座ったらキャラメル放り込んでコーラを一口・・・
で、始まるのをじっと待ちます。」
智「・・・」
このとき、桜庭がイン
話しかけようとするが、立ち止まって
白井「開演のベルが鳴って、スクリーンの幕がこう、バーって横に割れて、東口にある飲み屋の宣伝が始まる・・・
この瞬間って、たまんなく気持ちよくないですか?」智「・・・」白井「間髪入れずに予告編が嵐のように始まります!
ドキドキのアクション!
わくわくするようなSF!
どかーんとホラーがたたみこんできて、最後は涙涙の恋愛映画・・・。
気分はどんどん高まってきます。一瞬の暗転があって、またちょっと幕が横に開いて本編が始まる・・・!
最高の幸せじゃないですか!」
智「はい・・・」
白井「こんな瞬間ってのは、映画館じゃないと味わえません。」
智「そう・・・ですね・・・」
白井「でしょう?だから映画館って大好きなんです」
智「映画館にかける情熱は、おれ以上かもしれません」
白井「まあでも、ここまでたくさん来るようになったのは、うちの娘のおかげかもしれません」
智「!娘さんがいらっしゃったんですか?」
白井「ええ、出来たのって三年前ですよね。」
智「そうです」
白井「ちょうどそのころ妻と別れまして、娘もそっちに。で、月に一度会える日にここにいっしょに来たんです」
智「・・・」
白井「最初きたころはまだ八才でね。私は映画の内容がわかるんだけど、娘にはちょっと心配だったんです」
智「すいません。子供向けの話は選んでなかったかも」
白井「いやいや、でもね、映画って不思議なのは、見てるうちにわかってくるんですよ。」
智「・・・」
白井「なんとなく、かもしれない。でも隣でキャラメルとコーラ飲みながら、この人、かわいそうだねとかいってくるんです」
智「・・・」
白井「映画の持つ力ってすごいんですよ。たぶん私たちが思ってる以上に・・・」
智「映画の持つ力ですか・・・」
白井「あ、忙しいところ立ち話してしまった。それでは!」
智「お気をつけてお帰りください」
白井はける
桜庭「映画じゃなくて、映画館が好きだったなんて」
智「・・・」
桜庭「それにバツイチで、向こうには子供ありときたもんだ」
智「桜庭さん」
桜庭「こりゃほんとの変人だ」
智「びっくりしました」
桜庭「俺も初めてそんなやつにであった」
智「違うんです」
桜庭「?」
智「おんなじなんです・・・」
桜庭「同じ?」
智「父さんと・・・」
桜庭「え!」
智「さっきのあの熱いお話・・・開館式の父さんのスピーチとまったくおんなじなんです」
桜庭「そうか・・・」
智「父さんがなぜこの映画館を建てたか・・・映画館に対する思いとまったく同じ話でした・・・」
桜庭「じじいの生まれ変わりだったりしてな」
智「父さんの・・・?」
桜庭「もうすぐ盆も近いだろ。」
智「んなバカな」
桜庭「あんな変人がいる限り、ここをつぶすなんて話せねえよな」
智「・・・」
桜庭「ま、おれはあと二日しかここにいねえから、どっちに転がろうが関係ねえけど」
智「・・・」
桜庭「しゃくにさわったか?」
智「失礼します」
智、はけようとする
桜庭「どっちにしろ決めるこった」
智「言われなくても、しますよ」
桜庭「そうか」
智「そうですよね。桜庭さんは、関係ないですもんね」
桜庭「・・・」
智、はける
桜庭、座って、タバコを出す
そしてライターを出すが
・ ・・つかない
桜庭「(ため息)俺は・・・どっちにつけばいいんだろうな」
チェンジ
翌日の休憩室
玲子がお金を数えている
玲子「(お札を数えながら)・・・あわない・・・ああ・・・あわない・・・」
そこに
桜庭「先にいってるぞ」
玲子「(お札を見て)あああ・・・」
桜庭「どうした?」
玲子「あああ・・・」
桜庭「またマイナス?」
玲子「一万円」
桜庭「い、一万!」
玲子「昨日金曜だったじゃない。しかも給料日だからさあ、万札出す人多くて」
桜庭「小銭で間違うんならともかく、札のほうなんて・・・」
玲子「どうしよう・・・」
桜庭、自分の財布から一万円を出す
玲子「!」
桜庭「(玲子の前に見せて)これを入れろ」
玲子「だめだって」
桜庭「いいから!」
玲子「こんなことばれたら、あたしたちここにいれないって!」
桜庭、無理やり、一万円を袋に入れる
桜庭「!」
玲子「泰輔!」
桜庭「使ってくれって」
玲子「今入れたお金ってあたしがあげた今月の小遣いの(一万円でしょ?)」
桜庭「まあな・・・」
玲子「タバコもビールも買えなくなるよ」
桜庭「たばこは坊ちゃんからもらうよ」
玲子「情けないって!」
桜庭「ビールがないならホッピーがある!」
玲子「ホッピーのほうが高いって」
桜庭「ホッピーホッピー!」
玲子「聞いてるの?!」
桜庭「こういうときのための、夫ってもんだろ?」
玲子「・・・」
桜庭「玲子が困ったときは俺が支えるって」
玲子「泰輔・・・」
桜庭「(腕時計を見て)時間だ」
桜庭、はけようとする
玲子、近寄って
玲子「ありがとう」
桜庭「おう」
桜庭、今度こそはけようとする
玲子「あやしい」
桜庭「へ」(とまる)
玲子「泰輔が二枚目になるはずがない。」
桜庭「あのね、人ってもんはなあ、日々変化してるってもんなんだよ!。俺も変化してるってこと!」
玲子「(もっと近寄って)正直にいいなさい」
桜庭「だから(なにもないって!)」
玲子「ボク~?素直になりなさ~い?」
桜庭「正直者だって・・・おれは・・・」
玲子「西口の~、コンビニの前にある、ネオンがビカビカ光ってるとこかなあ???」
桜庭「!」
玲子「マリンちゃんと遊んだのかなあ」
桜庭「ひ・・・ひさしぶりに・・・お、大当たりになっちゃって」
玲子「パチンコ~?スロット~?」
桜庭「スロット!」
玲子「(絶叫)ごらあ!!!!!!!」
しかし
玲子「ああああああああ!」
泰輔「!」
玲子「痛い」
泰輔「頭?」
玲子「最近、ずっとそうなの」
泰輔「ほかに悪いとこは?」
玲子「あんまり食欲もないし」
泰輔「うそつけ。ところてんバクバク食ってたじゃねえか」
玲子「あのカラシ酢醤油がいいの。辛くて」
泰輔「うん」
玲子「ツンときて」
泰輔「うん」
玲子「すっぱい!みたいな・・・」
泰輔「すっぱい・・・?」
玲子「夏バテかなあ・・・」
泰輔「平田先生のところでもいってみたら?」
玲子「平田病院に行きたいのは山々だけど、時間が(ないの)」
そこに
智「おはようございます」
ふたり「おはようございます」
泰輔「おう、ぼっちゃん。ちょっと頼みがあるんだけど」
智「給料の前借りはだめですよ」
泰輔「今日の昼はおれが売店のレジやるから」
智「!」
玲子「え~え・・・」
◎挿入 2007/06/18
泰輔「おれ、前に、銀座のデパートの臨時レジ係もやったことあるんだ」
玲子「その顔で、よくお客さん逃げなかったよね」
泰輔「うるさい!」
智「玲子さん、都合が悪いんですか?」
玲子「あ、いや」
泰輔「平田先生のとこに」
智「平田先生・・・?・・・って、どこか具合悪いんですか?」
玲子「ああ、ちょっと最近頭がいたくって」
泰輔「やっぱり健康あっての仕事だからなあ」
智「はあ・・・」
泰輔「じゃあ、昼からはキャラメルとコーラ、がんがん売るから!」
玲子「智さん、すいません」
智「わかりました」
玲子「じゃあ昨日の売り上げ、入金してきますね」
玲子がハケる
泰輔「(ハケたのを確認してから)まいったな・・・」
智「?」
泰輔「ひょっとしたらひょっとするかもしれん」
智「そんなに大きい病気なんですか!」
桜庭「ばか!」
智「!」
桜庭「・・・オメデタだよ」
智「!」
桜庭「頭がいたいだろ?食欲がないだろ?そしてすっぱいものが好きときたもんだ」
智「もし本当なら・・・」
桜庭「でかした!玲子!」
智「おめでとうございます」
桜庭「こりゃガキのためにガンガンかせがねえとなあ」
智「はあ・・・」
桜庭「あ~あ、ここで働きてえなあ・・・」
智「!」
桜庭「万作の乗った飛行機、落ちねえかな。」
智「それはやりすぎです」
桜庭「フランス生活が気に入っちまったとか」
智「ただの新婚旅行ですから」
桜庭「おれみてえな問題児、預かってくれるのここくらいなもんだから」
智「・・・」
桜庭「(腕時計みて)おっと、やっべ!一回目の上映だ!」
桜庭、走ってハケる
智
智「父さん・・・これじゃ・・・つぶせないよなあ・・・」
○挿入 2007/06/20
チェンジ
三橋「さあどうぞ」
玲子「おじゃまします」
ここは三橋の事務所応接室である。
三橋「珍しいですね。ここに来たいだなんて」
玲子「たいしたことじゃないんですけど、ま、覗き見根性っていうんですか(、ねえ)」
三橋「ご覧のとおり、せまくてなんにもないですけど」
玲子「どういうところで働いてらっしゃるか、前からものすごく興味がありまして」
三橋「あ、お茶でも出しましょうか?」
玲子「いえ、いいんです」
三橋「はあ・・・」
玲子「えっと、それよりも・・・」
三橋「?」
玲子「シネマ藤岡をつぶさないでください」
三橋「・・・」
三橋「!」
玲子「いくらあのビルの大家だからって、突然すぎます。」
三橋「・・・」
玲子「泰輔からも聞きました。再開発するなら時間かけてもっと事前にしっかりと話しあうべきなんじゃないですか」
三橋「・・・」
玲子「いきなりすぎます。あたしたちの職場をつぶさないでください」
三橋「僕がもっと勇気を出してればよかったんですよね」
玲子「・・・」
三橋「三年前から再開発の話がちょっとづつ出ていたんです。でも僕が智さんに言う勇気がなかった。父に追い詰められて土壇場の今になって話してしまって」
玲子「・・・」
三橋「父に反論する勇気もなくて。だいたいにして僕、反抗期ってわかんないんです」
玲子「わかんない・・・?」
三橋「ええ。父に『英語は小学生からやれ』っていわたら、ひとりでミッキーマウスの英会話の絵本を読んでたし、『この学校に行け』っていわれたら素直に勉強して入った。」
玲子「・・・」
三橋「なんていうんだろう。親に歯向かうことで自分を認めさせようとか、たまには困らせてやろうって思えなかったんですよね。楽なんですよ。道を引いてくれてる人がいるなら、それを歩いていればいいじゃないかって」
玲子「お父様のいうことに不信感とかないんですか?」
三橋「考えなかったです」
玲子「今も?」
三橋「・・・」
玲子「心から、お父様のいうことが、正しいと思ってらっしゃいますか?」
三橋「玲子さんはどうです?」
玲子「・・・」
三橋「お父さんって好きですか?」
玲子「女の子から見たお父さんっていうのと、男の子から見たのでは違いますよ」
三橋「それが聴いてみたいんです。」
玲子「『ありがとう』です」
三橋「ありがとう?」
玲子「そう。感謝・・・。」
三橋「・・・」
玲子「けっこう自由にさせてくれたんです。高校選ぶときも『お前が好きなところに行け』っていう以外はなにもいわかなった。卒業の前、みんなが大学行くっていうのにあたしだけ事務の専門学校を選んだときだって、お父さんはなにも。お母さんはうるさかったんだけど、お父さんはむしろもっとがんばれよって」
三橋「自由であることが不安なときはありませんでしたか?」
玲子「ずっと不安でしたよ。ほっとかれてるんじゃないか、ひょっとしたらあたしなんかより妹の真子のほうをひいきしてるんじゃないかって・・・真子はずっとおりこうさんでかわいかったし」
三橋「・・・」
玲子「たぶんね、親がひいた道を歩かせるんじゃなくて、自分でその道を作らせたかったんだと思うんです。その道を歩いてるあたしを見守るのが親の仕事だって・・・」
三橋「・・・」
玲子「あ、今のはあくまでもあたしの推測ですよ。、静岡の専門学校で一人暮らししてるころに思ったんですけどね。」
三橋「うらやましいな」
玲子「うちは変わってるほうかもしれませんよ」
三橋「いや、自分で生きたいように生きてきたなんて」
玲子「今からでも遅くないんじゃないですか?」
三橋「え・・・」
玲子「お父様にいえるとしたら、今なんじゃないですか?」
三橋「反抗期ということですか」
玲子「反抗期じゃない。」
三橋「・・・」
玲子「違うと思うならいえばいいんです。あってると思うならいわなくてもいいけど・・・でも、もっと正直になってほしいんです」
三橋「僕は正直ですって」
玲子「迷ってますよね」
三橋「迷ってない!」
玲子「ほんとが聞きたいんです。本心から、あそこから立ち退いてほしいのか」
三橋「本心です!」
玲子「・・・」
三橋「そのためにも僕からもお願いがあるんです。智さんに言っていただけませんか?」
玲子「・・・」
三橋「昔の東口がにぎわったように、今の東口ももっと街の活気を出したいんです。そのためにも協力してほしいんです」
玲子、立ち上がる
そして
玲子「あたしは、シネマ藤岡が好きです」
三橋「・・・」
玲子「給料は安いけどね」
玲子、ハケる
三橋、それを見送ってから、携帯を取り出す
そして
三橋「(電話)もしもし・・・お久しぶりです・・・先輩。」
電話しながらハケる
チェンジ
チェンジ
桜庭が休憩室で携帯をのぞきこんでいる。
そこに玲子がやってくる
玲子「あっつ~!」
桜庭「(あわてて携帯を隠しながら)」
玲子「?」
桜庭「お、おう・・・」
玲子「(桜庭の手元を見ながら)ん?」
桜庭「ん?」
玲子「どうかしたの?」
桜庭「いや、なんにも?」
玲子「?」
桜庭「だ、誰も、オメデタを調べるサイトになんて行ってないよ」
玲子「おめでた?」
桜庭「!」
玲子「バッカじゃないの?」
桜庭「え?」
玲子「(袋を出して)ほい、さしいれ」
桜庭「ありがと・・・」
玲子「無理行って休みもらって悪いからね。水羊羹。智さんと食べて」
桜庭「(ばくばくくいはじめる)おう」
桜庭どんどん食べる
玲子「病院ね、平田先生のところお休みだったから西口の新しいとこまでいってきたのね」
桜庭「そうかあ」
玲子「いろいろ検査してね」
桜庭「おう」
玲子「出た結果が」
桜庭「おう」
玲子「ただの疲労、だって」
桜庭「・・・」
玲子「工場の事務の仕事に比べたら今のほうが大変だからね。お休み週一日だし、立ちっぱだし」
桜庭「・・・」
玲子「ね、聞いてる?」
桜庭「ああ・・・」
玲子「栄養剤とかもらってきた。ごはんのあとに四つも飲むんだよ?信じらんないよね」
桜庭「そうか・・・(完食する)」
玲子「泰輔も疲れてんの?」
桜庭「疲れるほど働いちゃいねえよ」
玲子「じゃあ、もっと働け」
桜庭「いやおれはね、我が家の主人として万が一に備えて、働くのをほどほどにしてるわけだよ」
玲子「なにが主人よ。大黒柱はあたしでしょ」
桜庭「万作が帰ってきたら、職安行く」
玲子「ど、どういう風の吹き回し?」
桜庭「行ってみようかなあと思っただけだよ」
玲子「あんなに役所嫌いだったのに」
桜庭「まあ・・・な」
玲子「まさか」
桜庭「?」
玲子「ひょっとして、あたしが本当にできちゃったこと考えてたの?」
桜庭「!」
玲子「映画館がつぶれるだのなんだのって、こんな大事なときにできちゃうわけないでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「あ、午後もお休みいただきます」
桜庭「ゆ、ゆっくりしてろ」
玲子「かわり、ありがとうね。じゃ」
玲子はけようとする
桜庭「あ、あの・・・」
玲子「え」
桜庭「つ、つり銭は今のところ合ってるからな」
玲子「さすがは元銀座のレジ係」
桜庭「キャラメルも・・・ガンガン・・・売ってるし・・・」
玲子「ご苦労様」
今度こそはけようとする
桜庭「おれって親父になれるかな」
玲子「!」
桜庭「親父になる資格・・・持ってるかな」
玲子「・・・」
桜庭「これといった仕事にゃ・・・就いとらん。趣味は・・・酒。映写技師なんて、なりたくてなったわけじぇねえし」
玲子「・・・」
桜庭「短気、ぐうたら、バカな俺でも、親父になれるのかな」
玲子「短気で喧嘩するのはいいけど、青森に逃げるのはよくないと思ってるよ」
桜庭「だってあれは、ずっとじじいの下でタダ働きだったし(普通は金くれるぜ)」
玲子「(かぶせて)あたしも無料奉仕でした」
桜庭「・・・」
玲子「智さん、最初は泰輔がここに戻ってくるの、ずっといやがってたんだよ」
桜庭「・・・」
玲子「泰輔が総一郎さんとこで世話になってたから、しぶしぶOKしたみたい。だから今でも微妙な感じで話してるのわかるでしょ?」
桜庭「・・・ああ」
玲子「まあ、それはともかく、泰輔は父親になれるでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「父親になる資格は、あたしが思うに男ならだれでも持ってる」
桜庭「・・・」
玲子「そのひとつが仕事だと思うよ。」
桜庭「仕事か」
玲子「もうすぐここで働くのも終わりでしょ? もし正直に仕事に就くのがいやだったら、うちであたし以上に主夫してよね」
桜庭「掃除は大丈夫だ。」
玲子「ほんとに?」
桜庭「がんばれば。ただメシが作れねえんだよ」
玲子「いざとなったら、あたしがみっちり教えてあげる」
桜庭「じゃがいもは・・・フライパンでいためたら食えると思ってたくらいなんだよ?」
玲子「そんなこともあったね」
桜庭「じゃがバターが食いたいって、で、フライパンにサラダ油いっぱい入れて、生のイモいれたら」
玲子「ポテトフライができたもんね」
桜庭「ああ。そんな俺でもいいのかな」
玲子「・・・」
桜庭「親父ってなんだろう・・・」
玲子「資格よりも、もっと大切なことがあると思うけど・・・?」
桜庭「・・・」
玲子「レジ閉めまで、過不足なしでお願いします」
玲子、はけようとする
桜庭「映写室に来い」
玲子「?」
桜庭「明日からのやつのテスト上映をするんだ。」
玲子「別にいいよ」
桜庭「面白いぞ。俺の好きな映画のひとつだ。」
桜庭、玲子の手をとり、はける
暗転
第三章
三橋「ひとつだけ方法を考えました」
明転
ここは休憩室
翌日の朝である
三橋「大学のヨット部の先輩がハミングバードシネマの役員をしておりまして」
智「はあ・・・」
三橋「昨日、電話でなんですが、軽く東口再開発計画の概要を話したところ、大変興味を示されまして・・・」
智「?」
三橋「・・・」
智「それって・・・うちが、ハミングさんとこに買収されるということですか?」
三橋「僕が考えた折衷案です」
智「・・・」
三橋「いつも思ってたんですが、この辺は新宿や渋谷には遠いじゃないですか。映画館はここと、西口のハミングバードシネマのふたつしかない。先輩に聞いてみたら週末とかお客さんはやはり新宿や渋谷に取られてるらしいんですね。」
智「・・・」
三橋「それを補強するために東口にもハミングバードシネマを立てることによって、このエリアでの映画人口を大きく確保できる。そして、智さんも映画館をずっとやっていける・・・」
智「今のままでやれるんですか?」
三橋「・・・」
智「シネマ藤岡として。キャラメルとコーラしか置かないこのままで」
三橋「智さんはキャラメルとコーラを一緒に飲んだり食べたりしながら、映画を見たことがあるんですか?」
智「!」
三橋「もちろん、為蔵さんがここを立てたときからの方針だし、経験あるんですよね」
智「・・・」
三橋「本当はあまりそういうところに意味を感じてない・・・とか?」
智「そんなことはありません!」
三橋「・・・」
智「父さんが決めたことだ。意味はあるんですよ」
三橋「教えてください」
智「・・・」
三橋「疑問に思ってるんですね」
智「ち、違います!」
三橋「この際だ、おもいきって変えませんか?」
三橋、かばんから地図をおもいきり出す
智「!」
そしてひとつの場所を指し示し
バンと指を刺す
三橋「十個の上映室を持つ、ハミングバードシネマ・イースト10(テン)に生まれ変わるんです」
智「!」
三橋「映画館として存続できる。ハミングバードシネマとしても意味がある。そして僕も、再開発計画を貫徹できる。これなら・・・喜んでいただけるのではないでしょうか」
智「映画館として残るのはいいんですが・・・」
三橋「十個のうちの九個は新作になっちゃうと思います。でも一個は今までどおり智さんチョイスの旧作をまわせるんです」
智「CUCU MOVIESの方は?うちの担当の鬼山田さんにはどう説明するんです?」
三橋「昨日お伺いしました。鬼山田さんはあいにく不在だったんですけど、社長さんはシネマ藤岡の売り上げに疑問をもってらっしゃるようでした」
智「!」
三橋「プロデュースを手放すかもしれませんよ」
智「そんな!」
三橋「確認してみますか?」
智「(電話を見つめる。そして、ため息)・・・外堀は、もはや・・・埋められたか・・・」
三橋「・・・」
智「おかしいと思ったんですよ。商店街の会合だって、一次会には呼ばれるんだけどなぜか二次会のほうには呼ばれなかった」
三橋「二次会は、僕とか父も参加しての再開発についての会合でしたから」
智「呼んでください!」
三橋「僕が智さんに気をつかいすぎたのかもしれません。」
智「かなり前から、再開発の話はあったんですよね」
三橋「・・・」
智「俺は総一郎さんを信じてた。」
三橋「だから考えてきたじゃないですか!映画館は存続できるんですよ!つぶれるよりはいいじゃないですか!」
智「・・・」
三橋「昨日、玲子さんがいらっしゃって」
智「・・・玲子さんが?」
三橋「シネマ藤岡をつぶさないでくださいって・・・」
智「・・・」
三橋「それだけ智さんもここも愛されているということです。愛されているなら、残すこと、続けることを考えないと」
そこに
玲子「おはようございまーす・・・」
桜庭、玲子が入ってくる
玲子「あ・・・」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます
桜庭「おう、朝からおそろいか」
三橋「(智に)考えておいてください」
智「・・・」
三橋、帰りかけるが
三橋「(智に)ひとつお聞きしたいことがあります」
智「?」
三橋「智さんが映画館を続ける理由ってなんですか?」
智「・・・」
三橋「為蔵さんがお亡くなりになったから仕方なく、とかですか」
智「!」
智、立ち上がると
三橋を一気に壁際に追い詰める
玲子「智さん!」
智「(三橋をにらみながら)・・・」
三橋「(智に)ど、どうしました?」
智「仕方なく・・・ですって・・・?」
遅ればせながら桜庭、智を抑える
三橋「僕を今こういうふうにしてるのが、答えだと思ってもいいですか」
桜庭「(抑えながら智に)こらえろ、ぼっちゃん!」
智「・・・」
三橋「それとも・・・いまだになにをしたいのか(わからないとか)」
智「!」
智、三橋を地面にたたきつける
三橋「ではなんですか?」
智「父さんの意思を引き継いでしっかりと(やっていくのが・・・)」
三橋「引き継ぐのはいい。映画館を続けていく確固たる理由が智さんの中に」
智「あります!」
三橋「教えてください」
智「教える必要はないでしょう」
三橋「キャラメルとコーラの意味もわからないのにですか!」
智「!」
智「うるさい!」
智、走って逃げる
呆然とするみんな
チェンジ
チェンジ
智、走ってくる
そしてとまる
そこに
桜庭も走ってくる
桜庭「(息切れ)」
智「(息切れ)」
桜庭、手に、コーラのコップとキャラメルの箱を持っている
智「!」
桜庭「やってみろよ」
智「・・・」
桜庭「このふたつの意味がわかんねえなら、やってみろ」
智「でもいまさら」
桜庭「いまさらじゃねえ!」
智「!」
桜庭、再度、ふたつを進める
智、ゆっくりそれをとる
ふたりいすに座る
智、コーラを飲む
そしてキャラメルを放り込む
智「・・・」
桜庭「どうだ・・・」
智「・・・」
桜庭「ま、そういう俺も実はわかってなかったりするんだけどな」
智「!」
桜庭、キャラメルを一口
そしてコーラを飲む
桜庭「よし、いくぞ」
智「え?」
桜庭「いいからいくぞ!」
ふたり、館内に入っていく
ふたりはキャラメルとコーラを食べながら映画を見てる
戻ってくるふたり
智「こうやって、父は映画を見てたんですね」
桜庭「そうだなあ・・・」
智「・・・」
桜庭「あんまり・・・俺は・・・坊ちゃんにつべこべいう権限なんてねえのはわかってる。でも・・・今だから言わせてもらう」
智「・・・」
桜庭「おれも映写技師の端くれだ。二日まわしてきてわかったことがある。ここは、映画を楽しむだけの場所じゃない」
智「・・・」
桜庭「この映画館は愛されてる」
智「!」
桜庭「あの変人がいってたじゃねえか。映画が好きなんじゃねえ、映画館が好きなんだって」
智「・・・」
桜庭「ただ映画を見るだけならどこでもできる。ここは映画以外のなにかがあるんだ」
智「なにか・・・」
桜庭「なんだろうなあ・・・一時期、流行った癒しってやつか?」
智「・・・」
桜庭「そのなにかが、あのじじいが残してったものなのかなあ・・・」
そのとき
玲子と三橋がやってくる
ふたりはじかれたようにたつ
三橋「失礼します」
三橋、はけようとする
そのとき
智「申し訳ございませんでした!」
智、おもいきり腰を折って謝罪する
三橋「・・・」
智「かっとなったとはいえ、暴力までふるってしまいました」
三橋「別にいいんです」
智「・・・」
三橋「明日、さっきの先輩をお連れします。CUCU MOVIESのほうには、智さんのほうから電話してもらっていいですか?」
智「わかりました。」
三橋「では・・・」
智「おれからもひとつ提案があります。」
三橋「?」
智「賭けをしましょう」
三橋「?」
智「明日夜の最後の回!うちのお客さんを満員にする!」
玲子「え!」
桜庭「そんなの無茶だ」
智「(三橋に)総一郎さんたちが勝手に再開発計画を進めたように、俺たちも勝手にさせていただきます」
玲子「ちょっと落ち着いて考えましょうよ!」
智「(三橋に)明日から『海の上のピアニスト』という作品を上映します。忙しいと思いますが、きていただけますか」
三橋「・・・」
智「ひとつでも空席があったら、総一郎さんの言うとおりにします。でももし満席だったら、このシネマ藤岡、そしてこのビルはこのまま残す!」
三橋「!」
智「ここにあるなにかを信じたい。」
三橋「・・・明日、二一時にうかがいます」
三橋ハケる
智、それを見つめたまま
玲子「(三橋がはけてから)無理ですよ明日なんて!」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「宣伝だってどうするんですか?今日来たお客さんに、明日も来てくれなんていうんですか?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「それに明日は平日ですよ。いくら、ふつうの人の仕事終わってからの回だっつったって、限界が」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「なにかいい考えがあるから言ったんですよね?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「智さん?智さん?」
そのとき、
智「○△■□!」
といいながら、倒れる
玲子「智さん!」
桜庭「ぼっちゃん!」
暗転
暗闇の中、声がする
為蔵「智、おい智」
明転
倒れている智
そこを俯瞰で見るように、白井がいる
智「白井さん・・・?」
為蔵「なにいってんだバカ」
智「!」
為蔵「お前と顔を合わすのもひさしぶりなもんだ」
智「・・・」
為蔵「もっと気のきく奴になってるかと思ったけど・・・そうでもなかったな」
智「うるさいな・・・」
為蔵「ほんとわかんない奴だ」
智「こんな映画館残してさっさと死んじゃうなんて」
為蔵「悪かったな。お先させてもらって」
智「おかげで、おれは今大変なことになってるよ」
為蔵「十分見させてもらったよ」
智「さっきいたの?」
為蔵「なんでもお見通しだ」
智「・・・」
為蔵「ふん、あんな賭けしやがって・・・」
智「おれも父さんの子供ってこった」
為蔵「・・・。」
智「父さんの無謀な遺伝子がおれにも入ってるってこった」
為蔵「お前に無謀なんていわれたかないな」
智「ふん・・・」
為蔵「ま、お前のやりたいようにやってみろ」
智「・・・」
為蔵「生きやすい世の中なんてどこにもねえ。」
智「・・・」
為蔵「ひとりで歩いて、すごろくのあがりまで行ってみろよ」
智「・・・」
為蔵「おれの生きてきた時代は何かがずっとずれてる時代だった。
戦争終わってよ、アメリカのやつにめちゃくちゃにされて、調子いい奴が『日本が変わった。いい国になるんだ』みてえなこといってたけど、おれはそれ聞いて裏で唾吐いてたよ。
ふん、変わってなんかいねえ。戦後のめちゃくちゃを必死で生きようとした大人とそれを一番近い場所で遠い目をして見てた俺たち。それが現実だったんだ。」
智「・・・」
為蔵「映画館ってのはそんな俺が唯一、今、生きていることを感じだ場所なんだ」
智「生きている・・・」
為蔵「そうだ」
智「・・・」
為蔵「おう、次会うときは、もっとこう、いい顔になってろよ」
智「え・・・」
為蔵笑って、ハケはじめる為蔵
智「父さん!」
為蔵「ひさしぶりにキャラメルとコーラでも食べるか」
智「父さん!」
為蔵「おれは、ずっと・・・お前のそばの、どこかにいる」
智「・・・」
為蔵はける
智「父さん・・・父さん!」
そのとき
桜庭「ぴんぴんしてるじゃねえか」
智「父さんは?」
桜庭「父さん?」
智「父さんですよ。さっきまでここにいて」
桜庭「幽霊でも見たんじゃねえか?」
智「形は白井さんそっくりなんですけど、中身が父さんなんです」
桜庭「はあ?」
そのとき
玲子「あたし、すれ違いましたよ」
桜庭「え?」
智「え!」
玲子「なんかまた来るっていってました」
桜庭「おい?」
玲子「(うなづく)」
智「そうですか・・・」
玲子「でも、どうするんですか?」
智「はい?」
玲子「明日」
智「明日?」
桜庭「満員にするんだろ?」
智「ええ」
玲子「いつもの智さんらしくなかったなあ」
智「そうですか?」
玲子「かっこよかったよ」
桜庭「現実問題、手はあるのか?」
智「『海の上のピアニスト』は九九年に上映されて、かなり評判になった作品です」
桜庭「シネマチャートにもしっかり入ってたしな」
玲子「船の上で生まれて一度も地上に降りなかった天才ピアニストの話」
智「よくご存知ですね」
桜庭「昨日いっしょに見たんだ」
玲子「男同士の友情っていいよね」
智「だからなんとかなると思うんですけど」
桜庭「なんとかなるって?」
玲子「そこそこ有名だから人が入るんじゃないかってこと?」
智「ええ」
玲子「は!最悪・・・」
桜庭「そんな他人任せな賭けやるんじゃねえよ」
智「そうかなあ・・・」
桜庭「いいか?人をたくさん入れるにはどうするか!」
玲子「守っていちゃあかわらない!攻めて攻めて攻めまくる!」
智「攻める・・・」
桜庭「パソコン貸してくれ」
智「え」
桜庭「俺がチラシ作ってやる」
玲子「作ったら、『文房具のこむらや』で千枚くらい刷っちゃうね」
智「千枚も!」
桜庭「チラシってのはな、撒いた分の十分の一の人が興味を持つっていわれてるんだ」
玲子「千の十分の一は?」
智「百」
桜庭「うちの定員は」
智「百人」
玲子「ね?」
智「なるほど」
玲子「でしょう?」
智「ええ。少しでも呼びましょう」
玲子「あ、あとね、明日の夜の回は、キャラメルとコーラを全員に配りましょう」
智「赤字ですよ。物販で売り上げをとっていかないと(だめです)」
玲子「為蔵さんの気持ちを体験してもらうんです」
智「・・・」
玲子「そうすれば、ここの映画館の存在意義がわかってもらえるはず・・・」
智「なるほど・・・」
桜庭「あとは、ぼっちゃんしだいだな」
智「え・・・」
玲子「あたしたちはできるところまでやる。」
桜庭「坊ちゃんにしかできないところは、ぼっちゃんがやるべきだ」
智「・・・」
桜庭「つきはなしてるってわけじゃねえぞ」
智「・・・」
桜庭「坊ちゃんの賭けだ。あとは、まかせて大丈夫だよな」
智「桜庭さん・・・」
桜庭「もし今度じじいに会ったら『桜庭さんはやっぱりいい人でしたよ』っていっといてくんねえかな」
智「それは無理です」
玲子「調子のりすぎ」
桜庭「すまんすまん」
智「でも・・・ありがとう・・・ございます」
ここでふたり、初めて握手をする
そこに玲子も手を加える
玲子「シネマ藤岡始まって以来のお祭りですね」
智「ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡祭り」
玲子「ひねりがないね」
桜庭「うるせえ!シネマ藤岡祭りの始まりだ!」
三人、その手を高くあげる
チェンジ
第四章
外
白井が、外で待っている
そこに桜庭と智がやってくる
智「緊張しますね」
桜庭「なにが?」
智「チラシ配りなんて生まれて初めてですよ」
桜庭「俺はティッシュならたくさん配ってるけどな」
智「じゃあ、先輩ですね」
桜庭「まあな。」
智「ドキドキです」
桜庭「よしいいか。ビラ配りってのはここ(心のこと)が強くなくちゃやってらんねえ」
智「ガラスのハートの俺にできるかな」
桜庭「け!よし、見てろ」
桜庭、大きなとおりに立つ
そして一転笑顔で
桜庭「(営業声)ご通行中のみなさ~ん、駅前のシネマ藤岡で~す!(手を差し出す)」
智「すごい声ですね・・・」
桜庭「(営業声)明日夜一九時の回は『シネマ藤岡祭り』で~す!よろしくおねがいしま~す!」
しかし、チラシは誰も取らない。
桜庭「(固まる)」
智「・・・」
桜庭「・・・」
智「さ、桜庭さん?」
桜庭「(そそくさと戻って)ガラスのハートなんて、こっぱみじんだろ?」
智「は、はい・・・」
桜庭「人間っていかに他人に興味ないかがわかる」
桜庭「勉強になります」
桜庭「(肩をたたいて)やってみろ」
桜庭、ひっこんで、今度は智がたつ
智「(チラシを持った手を出す)」
桜庭「(それを見る)」
智「しっねっまふじおっかで~~~す。」
桜庭「おい!」
桜庭、智の元にかけより
桜庭「緊張しすぎだって」
智「そんなこといったって!」
桜庭「本番に弱いタイプだな」
智「人が多すぎるんですよ!」
桜庭「駅前なんだから当たり前」
智「ですけど・・・」
桜庭「賭けに負けたくないよな?」
智「はい・・・」
桜庭、バシッと智の胸をたたく
智「!」
桜庭「男だ!」
そして桜庭は智とは違う方向にいく
桜庭「(普通の声で)シネマ藤岡です!明日夜『シネマ藤岡』祭りやります(チラシを配り始める)」
智、それを見る
桜庭「作品は『海の上のピアニスト』!一九○○年代最後にして最高の傑作の呼び声も高い、すばらしい作品です!どうぞ、お越しください!」
智もたつ
智「(がんばって)こんばんは!シネマ藤岡です!」
桜庭「(配りながら見る)」
智「明日十九時からは『シネマ藤岡祭り』やります!シネマ藤岡創業者、藤岡為蔵思い出の味、キャラメルとコーラをいらっしゃったお客様全員にお配りいたします!作品は『海の上のビアにスト』!みなさまぜひいらしてください!」
そのとき
白井「『海の上のピアニスト』ですか」
智「父さん!」
白井「は?」
智「あ、いや、白井さん」
白井「見ましたよ。やるんですね」
智「ええ。」
白井「私ね、オープニングのプルート・テイラー・ヴァンスがひとり街角でトランペットを鳴らしながら、船を下りないナインティーンハンドレッドを語りはじめるシーン、大好きなんですよ」
桜庭「(智に)なにサボってるんだ?」
智「あ、白井さんです」
白井「ど、どうも」
桜庭「おう変人」
白井「へ?」
桜庭「そうだ。この前は悪かったな」
白井「はい?」
桜庭「音が途切れたって」
白井「あ、ああ!あのときも(いたんですか)」
桜庭「(智に)ぼっちゃん」
智「はい」
桜庭「この人が明日きたら、ただで入れてくんねえかな」
智「!」
白井「い、いやなにを(いってるんですか)」
桜庭「(かぶせるように)おれの給料から千円、天引きしていいから」
白井「!」
桜庭「(智に)な?」
智「わかりました」
白井「あ、もうそこまで気にしてませんから」
桜庭「わりいと思ってる」
白井「・・・」
桜庭「坊ちゃんにいわれたときはよ、正直、かったりいなあって。でも音も、画も、客も、んで、俺たちも含めてひとつ映画なんだよなあ」
智「・・・」
桜庭「(チラシを渡して)明日は完璧な上映するんで見に来てくれ」
白井「(それを受け取って)わかりました」
智「(桜庭に)明日は、じゃないですよ」
桜庭「え」
智「明日、も、です」
桜庭「調子のりやがって」
智「そうだ。明日は娘さんもぜひ!」
白井「ああ、どうでしょうかね・・・」
ふたり「?」
白井「今年に入ってからは会おうと思ってる日が合わなくて、だからずっとひとりで来てたんです」
智「・・・」
白井「夜は塾だ、日曜はバレエのお稽古だとかいってるけど、本当のところはね、十一歳だし、そろそろ父親がうざったくなる歳かもしれないなと」
桜庭「思春期か・・・」
白井「ええ」
智「難しいですね」
白井「まあ、でも、電話してみようかな」
智「?」
白井「妻に。ちょうど明日は会う日に当たってるんです。」
桜庭「明日は平日だろ?」
白井「!」
桜庭「厳しいんじゃないの?」
智「桜庭さん」
白井「・・・私だけで見にこようかな・・・」
智「・・・」
白井「うん。明日は私だけでいきます」
智「・・・」
桜庭「切符のことは売店の女に俺からいっとく。名前は・・・」
白井「白井です」
桜庭「OK。」
白井「それじゃ」
白井、ハケようとする
そのとき
智「ぜひ電話してあげてください!」
白井「え・・・」
智「電話・・・電話してあげてください!」
白井「!」
智「確かに娘さんにもいろいろ重なってるかもしれません。でも・・・でも娘さんほんとは、電話を・・・待ってるかもしれない」
白井「・・・」
智「なんかそんな時期ってないですか?あまのじゃく的に本心を見せないっていう」
白井「・・・」
桜庭「ただこっぱずかしいだけだろ?」
智「それもあります。それもあるんですけど、感謝とか、時には愛情とか・・・なんだか・・・わかんないけど・・・うまく、こう、表にだせないとき・・・」
白井「・・・」
智「俺もずっと・・・そうだったから・・・父さんに・・・」
白井「・・・」
智「電話してあげてください。」
白井「・・・」
智「話してください。いっしょにいらしてください」
白井「・・・わかりました」
白井、携帯を取り出し、話しながらハケる
桜庭「大丈夫なのか?」
智「?」
桜庭「おれは責任もてねえぞ」
智「さあ、チラシ配りしましょう」
桜庭「・・・」
智「(大声で)こんばんは!シネマ藤岡です」
桜庭「シネマ藤岡です!シネマ藤岡祭りやります!」
ふたりは配り続ける
○挿入 2007/07/06
チェンジ
休憩室
それを見ている三橋
そこに玲子はいってくる
三橋、気づかない。
玲子「満員にしたいんです」
三橋「(玲子を見て)」
玲子「あたしたち。」
三橋「・・・」
玲子「外はずっと暑いんです。あのひとたちは汗をいっぱいかきながら必死でチラシを撒いてる」
三橋「・・・」
玲子「普通の人が見たら、ただのばかに見えるかもしれません。でもそれだけいっしょうけんめいだってことです。」
三橋「・・・」
玲子「いっしょうけんめいなときは、人間、バカにならなきゃ」
三橋「・・・バカに・・・なる・・・」
玲子「あたしは、頭よくて冷静な人より、熱いバカが好きです。」
玲子、倉庫に入って
玲子「(声のみ)なにしにいらしたんですか?」
三橋「!」
玲子「(声のみ)うちらのこと、やっぱ気になったりとか?」
三橋「わ、忘れ物とりにきただけです!」
三橋、あわてて地図を取る
玲子出てきて
玲子「あれ?それってもらえるもんじゃないんですか?」
三橋「このあと会議で使うんです」
玲子「いいじゃんパンフなんだから」
三橋「社外秘なんです」
玲子「けち~」
そこに電話
三橋「(電話)総一郎です・・・あ、先輩・・・今から下に降ります」
玲子「忙しいですね」
三橋「(電話切って)おかげさまで盆休みももらえなさそうです」
玲子「そうなんだ・・・」
三橋「玲子さんはどうですか?」
玲子「あたしは休みなんていりません」
三橋「?」
玲子「休んじゃうとね、なんか逆にどきどきしちゃうんですよ。週一の休みの日でも、ああ、コーラのボトル切れてないかなとか、キャラメルの在庫どんくらいだっけとかってね」
三橋「僕と同じだ」
玲子「え」
三橋「ずっと仕事のことが頭から離れない」
玲子「不思議ですよね。キャラメルとコーラしか売ってないんだけど」
三橋「為造さんの意見に縛られないでもっと増やせばいいのに」
玲子「あたしもそれ言ったことあるんです。でもね、たった二個のアイテムなのにけっこう管理が大変で」
三橋「そうなんですか」
玲子「ほら今もね、売り場に切らしちゃったから面倒くさいけどもってかなきゃならないんです。そうかと思えば倉庫に余らせちゃったり。そういう意味でいうとあの二個でちょうどいいのかも」
三橋「やっぱり好きなんですね」
玲子「そうねえ、そうなっちゃうのかなあ」
三橋「僕もこの仕事にすべてかけてます」
玲子「・・・」
三橋「玲子さんは明日は満員になると思いますか」
玲子「もちろん」
三橋「・・・」
玲子「(窓を見て)あの人たちもバカならあたしもバカですから」
そのとき玲子
ふらふら・・・そして
倒れる!
三橋「玲子さん?」
玲子は動かない
三橋「玲子さん!玲子さん!」
三橋脈などを見るそして携帯を取り出す
三橋「(電話)もしもし!救急をお願いします。えっと場所は、駅東口、一階に松屋があるビルの四階、シネマ藤岡です!」
三橋、電話切る
三橋「玲子さん!玲子さん!」
外では、ふたりが必死で配る
智「(上を向いて)ん?」
桜庭「おい、さぼるなよ」
智「雨ですね・・・」
雨の音
桜庭「(天に向かって)負けねえぞ・・・」
智「(天に)ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡です(繰り返し)・・・」
智「シネマ藤岡祭りやります!(繰り返し)・・・」
そのとき、救急車の音がする
智と桜庭、配りながら何気なく、その方向を見る
救急車が止まる
智「止まった」
桜庭「(車を見て)ん・・・?」
智「珍しいですね」
桜庭「松屋で誰か肉でも喉につまらせたか?」
そのとき智の携帯がなる
智「(電話)もしもし・・・ん、総一郎さん?・・・え?」
桜庭「?」
智「・・・今行きます!」
智、ダッシュではけようとする
桜庭「まだ配り終わってねえぞ!」
智「(振りかえって)玲子さんが・・・」
桜庭「?」
智「戻りましょう!」
ふたりダッシュではける
暗転
第四章
明転
まず、桜庭が入ってくる
客席を見渡していく
場内をぐるりと一回りする
そこに智が入ってくる
智「(見渡して)」
桜庭「けっこうはいってるな」
智「ええ」
桜庭「あとはこの前の席の分、四人だ」
智「・・・」
桜庭「どうした?」
智「本当にすいません・・・」
桜庭「・・・」
智「玲子さんが倒れたことはおれにも責任があるかもしれません」
桜庭「気にするなって」
智「でも」
桜庭「いやね、おれも、今日は玲子のそばにずっとついてやるっていったのよ。」
智「・・・」
桜庭「そしたら、バシッてな」
智「・・・」
桜庭「これだけ泰輔のほっぺたを殴る力があるから大丈夫なんだって・・・」
智「玲子さん・・・」
桜庭「玲子なりに気にしてるんだ。」
智「・・・」
桜庭「玲子のぶんもがんばろう」
智「ええ」
そこに
三橋来る
三人、目を合わせる
三人「・・・」
桜庭「礼をいってなかったな」
三橋「いいですよ・・・」
桜庭「・・・」
三橋「救急車を呼んだだけですから」
桜庭「・・・ま、ありがとうな」
三橋「あれから大丈夫ですか?」
桜庭「うん・・・」
三橋「そうですか」
桜庭「ああ」」
三橋、中を確認する
二人「・・・」
三橋「(確認してから)失礼します」
桜庭「おい」
三橋「・・・」
桜庭「勝負はまだ決まってねえぞ」
三橋「空席がそこにあります」
桜庭「上演まであと少しはあるんだけど?」
三橋「無理でしょう」
桜庭「なんだと?」
三橋「平日な上に外は雨です」
智「総一郎さん」
三橋「・・・」
智「おれね、やっとあのふたつの意味がわかったんです」
三橋「・・・」
智「映画を見るときって、必ずちょっと心が緊張してるときがあるでしょう。物語の面白さにわくわくして、そしてどきどきしてる。
それをまず、このキャラメルが口の中にはいって一緒になって口の中でほぐしていきます。
そしてコーラ。甘ったるくなりすぎた口の中を強烈な炭酸の泡がぱーっと吹き飛ばしてくれる。泡の刺激が同時に適度な緊張感になることで映画を見るための集中力をとめさせないんです」
三橋「まるで料理評論家みたいですね」
智「気取ってしまいました」
三橋「・・・」
智「本当に映画が好きな人間は、雨が降ろうが、嵐になろうが絶対きます」
三橋「・・・」
智「すでにこれだけ多くのお客さんが来てくださってるんです。この映画館を好きな人もこのあと絶対に来る」
三橋「・・・」
智「おれはお客さんを信じます」
三橋「どうぞ」
智「・・・」
三橋「このあと、ハミングバードシネマの先輩をお呼びしてあります。」
智「・・・」
三橋「いつもの休憩室、つかわせてもらってもいいですか。」
桜庭「いよいよ実力行使か」
三橋「智さんにお話があるんです」
桜庭「け!」
智「・・・」
そこに
玲子「は~、ひっどい雨だね」
三人「!」
桜庭「玲子・・・」
玲子「?」
三人「・・・」
玲子「どうしたんですか?みなさん?」
智「いや、だって・・・」
桜庭「おい!あれほど安静が必要だって言われたじゃねえか!」
玲子「うん。だから平田先生と喧嘩してきちゃった」
桜庭「え!」
智「ほんとに大丈夫なんですか!」
玲子「ちょっとふらふらするんですけどね、でも大丈夫」
桜庭「まったくもう・・・」
玲子「なに?あれほど、ここのためにがんばって出てきたっていうのにその態度はないでしょ?」
桜庭「それは玲子の体が心配だからさ」
玲子「あたしの体はあたしが一番わかります!」
桜庭「・・・」
玲子「まあでも、心配してくれてありがとう・・・」
智「本当にすいませんでした!」
ふたり「!」
智「玲子さんが倒れた件、おれが玲子さんを週六で働かせたのが悪いと思うんです」
玲子「あ、いや・・・」
智「今度、新人を募集しようと思うんです。二人体制になれば、玲子さんもしっかり休めるし」
玲子「あ、それはだって、あたしが働きたくて働いてるから大丈夫なんですよ」
智「え?」
玲子「休みがとれるのはそれはそれでありがたいんですけど・・・」
智「もっと休んでいいんですよ」
玲子「働かせてください!」
智「え?」
玲子「お金が・・・最強に必要なんです」
智「あ、入院のお金だったら保険を使えばいいじゃないですか」
玲子「できちゃったんです!」
桜庭「!」
智「はい?」
玲子「だから!赤ちゃんがいるんです」
智「!」
桜庭「おい!だって前は疲労だっていわれてたじゃねえか!」
玲子「いや、平田先生とこの看護士さんに聞いたらさ、西口って施設ばかり良くって、実はヤブなんだって」
桜庭「ヤブ?!」
玲子「そう」
三橋「え!僕も風邪ひいたとき昨日のとこで見てもらいましたよ!」
桜庭「ああ、だからこんなに頭になっちまったんだ」
三橋「どういうことですか!」
智「まあまあ、で、働きたいっていうのは本当ですか」
玲子「ああ、この子に聞かせたいんです」
智「?」
玲子「ホールの隙間から漏れてくる映画音楽とかを台詞とかを。将来、映画が好きな面白い子供になるって思うんです」
智「・・・」
玲子「あとは働いてて楽しいところが好きなんです」
智「・・・」
玲子「いろんな人に会えるし、働いてればただで映画も見れるし」
ふたり「・・・」
玲子「ま、それは冗談だけど、今がすんごく、楽しい」
智「玲子さん・・・」
玲子「もう少し・・・ここで働かせてください」
智「こんなところで・・・よければ・・・」
桜庭「やったな!(玲子を強く抱きしめる)」
玲子「うあ!そんなにやったら赤ちゃんつぶれちゃう!」
桜庭「ばか!こんなんにもつぶれないくらいの子供じゃねえと、おれの子だって認めねえ!(強く抱きしめる)」
玲子「うあ~」
桜庭「よくやった(強く抱きしめる」
智「無理だけはしないでくださいね」
玲子「臨月すれすれまでがんばんないと」
智「はい!」
玲子「ついでにレジ金の過不足も水に流していただければ(助かります)」
智「無理です」
玲子「ぶー」
三橋「おめでとうございます」
玲子「ありがとうございます」
三橋「ここではなく、新しい映画館でぜひがんばってくださいね」
玲子「はい?」
三橋「見てください」
玲子「(空席を見て)ん?ああ、そうだ、いけねいけね・・・」
三橋「?」
玲子、バッグから財布をごそごそ
玲子「(千円を出して)大人一枚ください」
三橋「!」
智「はい?」
玲子「大人一枚(千円札をひらひらさせる)」
ふたり「・・・」
玲子「総一郎さん」
三橋「・・・」
玲子「あたし、今日はお客さんとしてきたんですよ」
三橋「・・・」
玲子「(桜庭に)はい、パパになる銀座仕込みの受付さん、よろしく!(千円札を渡す)」
桜庭「お、おう、毎度あり」
桜庭、千円札を持つといったん、ハケる
玲子座る
三橋「あまり好ましくない手ですね」
玲子「固いこと言わないでくださいよ」
三橋「従業員なはずなのに」
玲子「従業員の前に、あたしも人間です」
三橋「・・・」
玲子「人はいつだってお客さんになれますから」
そこに
白井がやってくる
智「ようこそ、白井さん」
白井「あやうく残業になるところでした。」
智「ありがとうございます」
三橋「遅いですよ、先輩」
智「せ、先輩・・・?」
白井「・・・」
三橋、白井の隣に立つ
三橋「(白井に)ご紹介します。シネマ藤岡オーナーである藤岡智さん」
白井「どうも・・・」
智「・・・」
三橋「(智に)こちら、ハミングバードシネマの白井健二さん」
智「・・・」
白井「よろしく・・・」
三橋「僕の先輩です」
桜庭戻ってきて
桜庭「(玲子にキャラメルとコーラ渡しながら)あいよ!」
玲子「泰輔!」
桜庭「(かまわずに白井を見つけて)おう変人」
白井「こんばんは」
桜庭「あれ?娘さんは?」
白井「!」
智「桜庭さん!」
白井「昨日あのあとね、妻にこっぴどく怒られましたよ」
ふたり「・・・」
白井「今日はね、娘の塾のクラス替えテストだそうで」
桜庭「塾でもクラス替えなんてあんのかよ?」
白井「今日のこのテストでAクラス入りしないと、第一希望の学校は無理なんだそうです」
桜庭「第一希望ってのは、親の希望だろ?」
白井「どうでしょうかね」
桜庭「子供はいつまでも無視されるんだよ。そうなっちまうと俺みたいな、でくの坊が生まれる」
白井「・・・」
桜庭「うちは生まれたら好きなように育てるぞ!なあ玲子?」
玲子「ちょっと(空気を読んで)!」
智「桜庭さん、白井さんってハミングさんとこの方だったんです」
桜庭「へ?」
白井「映画館が好きなのは本当です。だからこの仕事に就いたんです。」
桜庭「自分のところで見りゃいいのに」
白井「西口はね。私がお偉いさんなもんだから変に気を使って、落ち着いて見られないんですよ。そのぶん、こっちは落ち着いて楽しむことができた。」
玲子「名刺でももらわない限り、西口の人だなんてわかんないですもんね」
桜庭「ただのバツイチ映画館好きだと思ってたもんな」
白井「ああ、申し訳ないです」
白井、改めて、名刺を渡す
シネマ藤岡の三人名刺を受け取る
白井「改めまして、オーナー」
智「はい」
白井「残念ながら今日は客ではありません」
智「・・・」
白井「この映画館はまだまだ伸びるところがある。それに私も東口の住人です。この住宅圏は我々にとって絶好の商圏なんです。」
智「・・・」
白井「お互いの利点を生かして、新しい映画館作りをしていくためにもぜひお話をしたいのです」
智「・・・」
三橋「そろそろ上映時間ですよね?」
智「・・・ええ」
三橋「智さん、休憩室に」
智「・・・」
三人、はけようとする
玲子「あの!」
三人止まる
玲子「もうちょっと、待ってもらえませんか?」
三橋「あきらめてください」
玲子「だってほんのちょっと時間あるんですよ」
三橋「あと三人なんてむりですよ」
玲子「そんな・・・」
桜庭「おい変人」
白井「・・・」
桜庭「映画ってのはな、ここの中でしか映画っていわねえ。ビデオだDVDなんてのは映った時点であれはテレビだ。それくらいわかるよな」
白井「ええ」
桜庭「シネコンは音も画もいいんだろうが、売ってるポップコーンとおんなじ軽いスナックみてえなもんだ。重みがないんだ。」
白井「それはあなたの勝手な思い込みじゃないですか?」
桜庭「思い込みなんかじゃねえ!」
白井「・・・」
桜庭「ネコも杓子もドヤドヤ入ってきたら、せっかくの感動も全体的に薄まっちまう。」
白井「・・・」
桜庭「感動ってもんは生き物だ。うちでたくさん見てるあんたが一番わかってるはずだ、ボロくて、ちょっとくらい敷居が高えシネマ藤岡で見たからこそ、心が動かされるんだよ!」
白井「・・・」
桜庭「今逃がしたら一生あの感動は戻ってこねえ」
白井「・・・スナック菓子も、ときにはいいもんですよ」
桜庭「!」
白井「主食もおいしいかもしれないが、三時のおやつもうまいでしょう?」
桜庭「おい!」
白井「行きましょう」
三人今度こそはけようとする
三人止まる
桜庭「なんのためにがんばったんだ・・・」
三人「・・・」
桜庭「信じようぜ、なあ!あと三人!三人くることを!」
玲子「絶対きますって!」
智「・・・」
玲子「智さん!」
智「玲子さん」
玲子「・・・」
智「・・・座ってください」
玲子「でも」
智「上演時間です」
玲子「・・・」
智「桜庭さん」
桜庭「・・・」
智「映写室へ」
桜庭「おい!」
智「仕事ですよ」
桜庭「負けを認めたのかよ」
智「早く!」
桜庭「ぼっちゃんは!それでいいのかよ!」
桜庭、エプロンを力強く床にたたきつける
智「(ため息)」
ふたり「・・・」
智「(三橋、白井に)ここでちょっと待っててください」
智、はける
玲子「智さん!」
智は完全にはける
桜庭「くそ!」
玲子「どうしよ、どうしよ」
桜庭「おう、そうだ、おれが映写機のスイッチを押さなきゃはじまんねえんだ。」
玲子「それ!ちょっとくらい時間のばそう!」
白井「お客様に失礼じゃないですか?」
桜庭「うるせえな!」
三橋「桜庭さん」
桜庭「この成金息子め!」
三橋「新しいところでは映写のリーダーになってもらいますから」
桜庭「ふん」
三橋「玲子さんも売店のリーダーになっていただく予定です」
玲子「ふん!」
三橋「・・・」
白井「私からもお願いします」
二人「・・・」
智、キャラメルとコーラを持ってイン
智「お待たせしました」
三橋「(休憩室にいきましょう)それでは」
智「あ、ちょっと」
三橋「え?」
智「せっかくですから(コーラをキャラメルと置きながら)お客さんに話をしたいんです」
三橋「終わってからでもいいんじゃないですか?」
智「閉館のお話をおれの口からさせてください」
三橋「・・・」
白井「どうぞ」
三橋「先輩」
白井「いいじゃないか。」
三橋「・・・」
白井「聞かせていただきましょう」
智「ありがとうございます」
智、大きく息をついて中央に歩いていく
智「(客に)ええ、先ほどからこんなお客さんの前でずっとお騒がせして本当に申し訳ございません」
客「・・・」
智「本日は当劇場、シネマ藤岡祭りにお越しくださいまして、まことにありがとうございます。
今日なぜお祭りになったのかということなんですが・・・開館記念日だったりして?・・・なんて、それは実は十一月三日なんです・・・。
あの、特に、別になんでもないんです・・・・なんでも・・・いや・・・本当は、それを皆様に教えるのを、後にしようと思っていたんです。
でも、この際だからいいます。
シネマ藤岡は今度の十一月三日で三年目を越えて四年目に・・・行かずに・・・ここを終わることにしました」
みんな「・・・」
智「さっき、決めました。この件に関してお客様に周知徹底してこなかったこと、心よりお詫びもうしあげます。申し訳ございませんでした」
智、深々と頭を下げる
智「これからは、新しい映画館で・・・生まれ変わって帰ってきます。スクリーンも十個あるみたいだし・・・売店のメニューも増えます」
玲子「智さん!」
智「・・・」
玲子「いらない・・・いらないし・・・売れないですよ・・・そんなにたくさん・・・」
智「・・・」
玲子「キャラメルとコーラだけで・・・あたしは・・・いい!」
桜庭「俺だって一気に十個なんてまわせねえぞ!」
智「おふたり!」
ふたり「・・・」
智「ありがとうございました・・・」
ふたり「・・・」
智「シネマ藤岡のために・・・そして俺のためにここまで・・・」
玲子「智さん・・・」
桜庭「くそ・・・」
智「(みんなに)失礼しました。ぜひ、また笑顔で、お越しください。今日はどうもありがとうございました!」
智、深々とおじぎする
白井、拍手する
三橋も拍手する
おじぎをした勢いの智、そのまま懐にあるコーラとキャラメルを一セット持つ
そして
智「(白井に渡す)楽しんでくださいね」
白井「!」
智「お座りなってください。いつものように」
白井「どういうことですか!」
智「今日は確か、白井さんの入場料って桜庭さんの給料から天引きなんですよね?」
白井「!」
桜庭「お!お、そうだ!」
智「受付はすでに済んでるってことなんで、どうぞ(座って下さい)」
三橋「ちょっと待ってください!先輩は仕事の話をしにきたんですよ!」
智「そうみたいですね」
三橋「そうみたいですねって・・・お客さんなわけないじゃないですか!」
智「人は誰でもお客さんになれるんですよ!」
三橋「!」
智「キャラメルとコーラを持ったらその時点でお客さんだ」
白井「・・・」
智「ね?玲子さん?」
玲子「あたしの・・・受け売りですか?」
智「使わせていただきました」
玲子「ったくもう(笑)」
白井「お客さんですか・・・」
智「ええ」
白井「ここに入ったときから、私もお客さんだったんですね」
桜庭「お客さんどころじゃない、あんたは変人の常連だ」
三橋「失礼ですよ!先輩に!」
白井「いや、いいんです。確かに変人の常連だ」
白井、一セットもって、玲子のそばに座る
玲子「ようこそ!シネマ藤岡へ」
三橋「先輩!」
白井「三橋君」
三橋「・・・」
白井「どきどきしてきたよ」
三橋「!」
そういって、コーラを飲む
白井「なにが始まるか・・・楽しみになってきた」
三橋「そんな・・・」
今度は三橋に一セットを差し出す
智「さあ、どうぞ」
三橋「!」
智「御代はは俺の給料から天引きしときます」
三橋「・・・」
智「お話は、この作品が終わってからお聞きします」
三橋「・・・」
智「さあどうぞ」
三橋「お断りします!」
智「・・・」
三橋「智さんがオーナーの仕事をするように、僕も全うしなければならないんです」
智「・・・」
三橋「僕はお客さんじゃない!」
そのとき、三橋の携帯が鳴る
桜庭「ったく!上映の前に切っとけ!」
三橋「(かまわず電話に)はい・・・社長・・・」
桜庭「いよいよ大ボスのお出ましか」
三橋「(電話)ちょっといろいろあってハミングバードさんは降りてしまったんですが(といって白井を見る)」
白井「・・・」
三橋「(電話)なんとかこのあと話し合いにします。会議は明日にでも・・・え・・・」
みんな「?」
三橋「違うんです。それは・・・あ、遊びで賭けをしたわけではありません!・・・お父さん!聞いてくださいお父さん!・・・あ!」
三橋、電話をパタリと切る
智「?どうしました?」
三橋「・・・帰ってくるなといわれました・・・」
桜庭「ここを潰さない限り帰ってくるなってことか?」
三橋「違います!」
みんな「・・・」
三橋「クビに・・・なり・・・ました・・・」
みんな「!」
三橋「僕の今までって・・・(絶叫)なんだったんだ!」
怒りを体で表す三橋
そして、座り込む
智「電話かけなしてください。お父様の前でもう一度ここを好きなようにして開発する話をすればいい。」
三橋「ここを閉館するんですね?」
智「ええ」
そこに
智、さっとコーラをキャラメルを出す
智「電話でお父様と話をしたら、お客さんになってください」
三橋「・・・」
智「これから始まる『海の上のピアニスト』は男同士の友情の話です。」
三橋「・・・」
智「おれと総一郎さんって知り合って三年になるけど、友達ですか?それともビジネスライクな関係ですか?」
三橋「・・・」
智「わかんないですよね?だったら、この作品を見て、もう一度おれたちってなんだろうって考えてみませんか」
三橋「・・・」
智「下の松屋で牛丼でも食いながら、ね?」
三橋「智さん・・・」
智「やっとわかりましたよ。父さんがここを残した本当の理由」
三橋「・・・」
智「こういうときのために残したんだな・・・」
三橋「・・・」
三橋、携帯を取り出す
そして
三橋「(電話)もしもし総一郎です。社長を・・・」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総一郎です。社長・・・今一度、計画について僕の意見を聞いてください」
みんな「・・・」
三橋「シネマ藤岡をこのまま活用した上で考え直したい」
みんな「!」
三橋「(電話)・・・おっしゃることはよくわかります。でももう決めました、なぜなら僕が三橋不動産の総責任者だからだ!」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総責任者としてシネマ藤岡は欠かすことはできないと判断しました。詳細は朝一の会議で。それと・・・ここからはあなたの息子として聞いてください。」
みんな「・・・」
三橋「(電話)今日は映画を見てきます。夕飯もこちらでいただいてきますので、お母さんにもよろしく伝えてください。では」
三橋、電話を切る
かばんからパンフレットを出す
そしてそれをおもいきりまっぷたつに破く
智「総一郎さん!」
三橋「お父さんに、生まれて初めて、僕の意見を通しました」
智「・・・」
三橋「(玲子に)これでいいんですよね?」
玲子「・・・おめでとうございます・・・遅い反抗期」
三橋「反抗じゃありませんよ」
玲子「やっと・・・自分になったんですね」
三橋「ええ・・・」
智「総一郎さん」
三橋「もうひとつ正直なこといっていいですか?」
智「・・・」
三橋「僕ね、映画館で映画を見たことなんてないんです」
智「!」
三橋「映画館なんて映画を写すことができれば、どこでも同じだと思ってました。だから智さんたちの気持ちがわかんなかったのかもしれません」
にやりと笑い、財布を取り出すそして千円を出して
三橋「大人一枚・・・ください」
智「・・・」
三橋「お金は智さんの世話になるほどじゃない」
智「・・・」
三橋「シネマ藤岡を生かしながら、新しい東口を考え直しますよ」
ふたり千円と二点セットを引き換える
智「ありがとう・・・ございます」
そして三橋座ろうとする
玲子「いらっしゃいませ」
桜庭「シネマ藤岡へようこそ」
智「ようこそ」
三橋「・・・」
智、うなづく
智「桜庭さん、お願いします」
桜庭「・・・」
智「桜庭さん?」
桜庭「お?」
智「時間押してますよ!」
桜庭「じゃあ、予告編をつまんじゃって本編からいくか」
智「それはだめです」
桜庭「だって押してるんだろ、時間?」
白井「予告編も含めて映画ですから」
智「そうです」
桜庭「ったく、じゃあ、最後の上映いってくっか!」
桜庭、エプロンをかぶりなおし
はけようとする
智「最後じゃないですよ」
桜庭「?」
智「明日も九時には来てくださいね」
桜庭「え?だって明日からは万作の野郎が(なんとかすんじゃねえの?)」
智「二人体制でいきますから」
桜庭「・・・」
智「おふたりと、万作さんと、新しい売店の人とがんばりたいんです」
玲子「智さん・・・」
智「おふたりあってのシネマ藤岡ですから」
桜庭「これで当分は俺も安泰だ。じゃあ、いつもの感じでいってくるわ」
玲子「いつもじゃだめ」
桜庭「なんだよ」
玲子「平常心で」
桜庭「かわなんないような」
玲子「ほれいってきなさい!」
桜庭「はいよ」
桜庭、はける
玲子「うあ、楽しみ。ひさしぶりだなあ映画をお客さんで見るのって」
三橋「どきどきしますね」
白井「お、わかってきた?」
三橋「ええ」
玲子「あ、智さん」
智「はい」
玲子「かなり時間が押してますから、お詫びのごあいさつを」
智「ああ、はい」
三橋「それと、さっきのスピーチの撤回をしてください」
智「・・・」
三橋「はっきりと」
智うなづく
桜庭、はける
智、舞台の中央に立つ
そして
智「時間押してほんとにすいません!まもなく!始めます!・・・終わりなんかじゃなく・・・ずっと時間を越えていくシネマ藤岡として、今日のお祭りをたのしんでください。」
お客たち、拍手
電気が落ちる
どんちょうがあく。
スクリーンに光が映る
そのとき
桜庭「(白井に)おい、変人」
白井「はい?」
桜庭「お客さんだ」
桜庭、入り口をさす
入り口から、白い光が漏れている
白井「!」
桜庭「塾のテストをさぼってきたんだそうだ・・・」
白井「・・・」
桜庭「お袋にあんたがこのことを告げ口しないっていうんなら、会いたいそうだよ」
白井「・・・みさ・・・」
玲子「かわいい名前ですね」
白井「いやそんなことは・・・」
玲子「顔を見にいってあげてください」
白井「・・・」
三橋「席は取っておきますから」
白井「三橋君・・・」
智「さあ・・・」
白井「はい・・・」
桜庭「足元悪いから、案内してやる」
桜庭、白井といっしょにはける
智、それを見送る
スクリーンには映画が映っている
音楽が高まっている
それを智、ずっと見ている
そして
智「父さん・・・ありがとう」
END
3man Office/劇団3man 旗揚げ5周年記念
第15回 夏公演
改訂版 下巻
登場人物
藤岡智 シネマ藤岡のオーナー 黒崎純也
桜庭泰輔 映写技師 石戸良
三橋総一郎 区議会議員の息子 田辺京市
桜庭玲子 映画館の売店アルバイト 本多美智子(演劇ユニットio)
白井健二 客 富士河千之介
スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明オペレーター
音響効果オペレーター
制作本部 加藤真由実
舞台制作協力
古橋いつか(ぬいぐるみハンター)
製作
3man Office 制作本部
序章
ここは東京のとある区。
シネマ藤岡という小さな映画館である。
駅前の雑居ビルの中にある。
定員は四五名と少ない。
一階は松屋。
二○○七年夏。
物語はここから始まる
そんなシネマ藤岡の外。
朝
オーナーの藤岡智が外掃除をしている。
そこに
玲子「おはようございまーす」
智「あ、おはようございます」
玲子「今日、大丈夫ですか?」
智「え」
玲子「だから今日!大丈夫ですか?」
智「なにがですか?」
玲子「ひっどい!忘れちゃったんですか?」
智「??よくわかんないんですけど」
玲子「二時からですよ!」
智、考えて
智「あ!(思い出した)」
玲子「会議するから時間空けといてくれってあれほどいったじゃないですか!」
智「おお、大丈夫です大丈夫です」
玲子「なんのために、あんまり人の来ない平日、昼の時間にしたかわかんないでしょ」
智「ごめんごめん」
玲子「それと、キャラメル二ケースの発注は?」
智「昨日しときましたよ」
玲子「よかった」
智「切れそうでしたからね」
玲子「もう、いい加減、売店で扱うアイテム、増やしましょうよ」
智「だめです。」
玲子「いまどき、コーラとキャラメルしかおいてない映画館の売店なんて、うちしかないんですからね」
智「それがいいんです。」
玲子「為蔵さんの遺言でしょ?」
智「まあ、そうですね」
玲子「お客さんのクレームを直に受けてるの、あたしなんですからね」
智「感謝してますよ」
玲子「まったくもう、親子そろって頑固ものなんだから。」
智「玲子さん?」
玲子「はい?」
智「昨日、コーラの原液ボトル、切れてたでしょ?」
玲子「あ!」
智「ボトル取り替えときましたから」
玲子「ありがとうございます」
智「もうすぐもっと暑くなるだろうからボトルも多めに発注しときましたたから」
玲子「それもありがとうございます」
智「ついでに昨日のレジ金、またマイナス五百円でしたよね」
玲子「すいません・・・」
智「お金の受け渡しのときは特に注意するように」
玲子「(ため息)前いた陽代さんにもいわれたもんなあ」
智「今日もよろしくお願いします」
玲子「はーい、着替えてきまーす」
玲子、はける
智、掃除を続けようとする
そのとき
白井「おはようございます」
智「ああ、白井さん」
白井「近くまで来たんでちょっと」
智、ポスターのある場所にいって
智「明日、土曜日から、夏のスペシャルを上映しますよ」
白井「夏ですかあ」
智「ホラーも含めて一週間交代で(ポスターを見せながら)八月はこのローテでいきます。」
白井「えっと明日からは(覗き見る感じで)?」
智「『十二人の怒れる男』」
白井「楽しみだなあ。裁判つうか陪審員の話ですよね」
智「え?」
白井「?」
智「あ、ええ!そうです」
白井「これね、もちろん映画も面白いけどお芝居にもなってるんですね。で、日本では、金田一で有名なあの石坂浩二が演出出演してやっていて、それを三谷幸喜が見て」
智「(あぜん)」
白井「で、彼が演劇をやろうとするきっかけになったっていう話」
智「知りませんでした」
白井「ついでに、この映画をモチーフに『十二人の優しい日本人』っていう作品ができて、劇団時代の作品なんですが、おととし渋谷のパルコ劇場で再演されたんですよ」
智「あ、なんかやってましたね」
白井「これくらい知っとかないと」
智「オーナーなのに不勉強ですいません」
白井「まあ、いいでしょう。でも、懐かしいなあ。」
智「ぜひお待ちしております」
白井「明日中には必ず」
智「はい!」」
白井「では」
白井、はけそうになるが
白井「あ」
智「はい?」
白井「おとといかな、見てたら音が急にきこえないときが。」
智「え!」
白井「始まって二十分くらいかな。物語の起承転結なら起の部分。」
智「はあ・・・」
白井「まあそのあとすぐに戻ったんですけどね、おかげでその後、頭の中で話を整理するのが大変でした」
智「本当に申し訳ございません」
白井「あのときすぐに何とかしてもらおうって思って急いで誰か探したんですが」
智「客入れの後は商店街の会合に出てたもんで」
白井「でしょう。だから、売店の女の人に言ったんですけどね」
智「玲子さん・・・」
白井「明日は完全な形で『十二人の怒れる男』を見たいもんです」
智「はい!」
白井「では」
白井はける
智、腰低くお辞儀して見送る
いなくなったのを確認して腰をあげてまた掃除をする
テーマ曲がかかる
ふと、手を止める
空を見上げる
智「父さん・・・今日も・・・暑くなりそうだ」
テーマ曲アップ
静かに後ろの緞帳が開く
見上げてる智はける
前部が暗くなって
舞台へ
(ここの照明は暗転することなく前後チェンジ)
第一章
ここは、「シネマ藤岡」の休憩室
いすを三個ならべて、そこに寝ている男がいる
その名は、桜庭泰輔。
そこにエプロンをつけて書類や伝票を抱えて玲子がやってくる。
玲子「まーた、おつり・・・(ためいき)・・・自信ないなあ・・・合ってるかなあ」
玲子、寝ている泰助を見る
玲子「(ため息)」
泰助「(寝ている)」
玲子「(何をやってもいいので彼を起こしてください)」
泰助「!」
玲子「買ってきた?」
泰輔「んあ・・・」
玲子「朝いった、アレ」
泰助「あ、ああああああ」
玲子「どこにおいた?」
泰輔「いつものとこ」
玲子、いったんはけるが
玲子「(声だけ絶叫)○△□!!!!!!!!!!」
泰輔「うるせえなあ」
すばやく走りこんできて
玲子「ばか!(おしおき)」
泰輔「なんだよ!」
玲子「なんてところにいれてるの?」
泰輔「冷凍庫」
玲子「普通さあ冷蔵のほうでしょ?」
泰輔「バカだな」
玲子「はいバカバカ」
泰輔「おれなりの気遣いってもんよ」
玲子「え!泰輔、気遣いなんてできるの!?」
泰輔「角っこのスーパー『まるとん』行ったらさ、あれが普通に、レジ横においてあったんだぜ」
玲子「常温でおいてあったってこと?」
泰助「そう。冷凍庫のほうに入れて早く冷やしたかったんだって」
玲子「その努力は認める。けど、バカ」
泰輔「ふん」
玲子「まるとんってね、普通に賞味期限切れたもの売ってんだから」
泰輔「それ、店としてだめじゃねえか!」
玲子「あたしに怒らないでよ!」
そのとき
三橋「お邪魔しまーす」
玲子「おはようございます」
三橋「玲子さん、キャラメルがんがん売ってます?」
玲子「がんがん売ってますって」
泰輔「おう、成金息子」
三橋「あのですね、会うたびに成金っていってますけど、そんなもんじゃないですから」
桜庭「んなこといったって、儲かってんだろ?不動産屋」
三橋「競合他社はたくさんありますから」
桜庭「ま、破産したとしても区の議員さんやってる親父にタカりゃなんとかなるだろ」
三橋「父は父です。」
桜庭「ふん」
三橋「たまたま生まれた家がそういうところだったってだけですから」
桜庭「たまたまだって!?ああ、おれも金持ちの家に生まれたかったなあ」
玲子「泰輔!」
そこに
智「あ、総一郎さん」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます」
桜庭「おう、ぼっちゃん」
智「いい加減それで呼ぶのやめてもらえますか?」
桜庭「いいじゃねえかよ、ぼっちゃんは、いつまでもぼっちゃん」
三橋「(智に)あ、ちょっと話があるんですけど」
智「おれに?」
三橋「はい」
状況を察して
玲子「(泰輔に)そろそろ準備ですよ~!」
桜庭「え~」
玲子「万作さんが新婚旅行行ってる間は、映写室のこと、全部まかされてるんでしょ?」
桜庭「あーあ、おれもイタリアいきてえな」
玲子「そうねえ、ハローワークいって職決めたら新婚旅行ってことで」
桜庭「おれ、お役所嫌いなんだよね」
玲子「無職がよくいうよ・・・」
桜庭、やっとおきる
智「あ、昨日いらしたお客さんから、音が途切れるって」
桜庭「気にしなきゃいいんだよ」
智「気になるみたいですよ」
桜庭「ったく、細けえんだからよ、最近の客は」
智「常連さんからのクレームですから」
桜庭「ああ、あのヒョロ男か」
智「白井さんです」
桜庭「つまんねえなあ、やりたくねえ」
玲子「まあ、気遣いができる男なんでしょ?泰輔は」
桜庭「ま、まあな」
玲子「音を直すのなんて、ぱっぱっぱの秒殺でしょ!」
桜庭「ぱっぱっぱだ」
玲子「はい、仕事仕事!(残るふたりに)いってきますー」
智「お願いします」
ふたりはける
智「あ、立ってないで(どうぞお座りください)」
三橋「失礼します」
三橋、適当に座る
智も座る
三橋「もうすぐお盆ですよね」
智「そうですねえ」
三橋「為蔵オーナーがお亡くなりになってからもう三年ですか」
智「なんの引継ぎもなく、ここが開いてすぐに風呂で倒れちゃって」
三橋「運命的でしたね。為蔵さん初恋の人が来て、それから亡くなるなんて」
智「かわいそうなのはうちの母ですよ。初恋の人見るは、その日のうちに死ぬはで」
三橋「最近お会いしてないな。今は?」
智「今じゃ近所のエアロビ教室に通ってます」
三橋「安心しました」
智「ここのことはね、いまだにわかんなくなるときがあります」
三橋「?」
智「あの野郎、こんな偏屈な映画館残しやがってって」
三橋「あの野郎って・・・」
智「父のことです」
三橋「僕は面白いとおもいます」
智「おもしろい、か・・・」
三橋「・・・」
三橋、急に姿勢を改めて
三橋「今日、ここに来たのは、いつもみたいに遊びにきたわけじゃありません」
智「はいはい」
三橋「・・・」
智「?」
三橋「あ、いや・・・」
智「どうしました?」
三橋「非常にいいづらいのですが・・・」
智「どうぞ」
三橋「・・・九月の家賃から、ちょっと値段を・・・上がらせていただきたく」
智「!」
三橋「・・・思いまして」
智「・・・そうですか」
三橋、かばんから電卓を取り出して
三橋「(電卓を押して)現在がこれくらいですね?」
智「はい・・・」
三橋「九月からは(電卓を押す)」
智「(それを見て)え!」
三橋「これくらいで。」
智「・・・」
三橋「どうでしょう。そのための交渉のつもりできたんです」
智「急ですね」
三橋「ご存知ですか?ここの裏の公園に建築会社が機材をたくさん置いてるの」
智「知ってます」
三橋「都の、駅前再開発がいよいよ本格的に始まるんです」
智「ええ」
三橋「一気にこの辺も、かわります」
智「かわっちゃうのか・・・」
三橋「かわるということは・・・わかりますね?」
智「・・・」
三橋「いろいろ値段があがってまして」
智「下はどうなるんですか?」
三橋「下?」
智「下の」
三橋「松屋ですか?」
智「つぶれたり?」
三橋「来月から二軒となりの本屋の横に移転します」
智「そうですか。なら、そのあとは、コンビニとか入ったり・・・」
三橋「いえ」
智「・・・」
三橋「なんにも(入りません)」
智「じゃあ、上!」
三橋「いますぐではありませんが、西口に新しくできたマンションに引っ越します」
智「・・・」
三橋「今はやりのオール電化マンションです。」
智「・・・」
三橋「智さんも、どうです?」
智「・・・」
三橋「一度、ショールームに行ってみるといい。すごいですよ、あのオール電化ってやつは」
智「このビルから・・・出て行けということですね?」
三橋「・・・」
智「総一郎さん?」
三橋「・・・」
三橋、立ち上がって窓を見る
三橋「このビルにシネマ藤岡が入れるように紹介したのは、うちの父ですよね」
智「ええ」
三橋「入れといって、今度は出ろなんて。」
智「お父様から言われたのですか?」
三橋「矛盾するのもはなはだしい。副社長の僕としても必死に反対しました」
智「ありがとうございます」
三橋「ですが・・・」
智「今日、ここで、今僕に言ったのがすべてですよね?」
三橋「・・・」
智「駅前再開発ってどんな感じになるのですか?」
三橋、パンフレットを机の上に置く
そして見せながら説明する
三橋「後ろの公園から半径一キロくらいはまずさら地になります。さら地にした上で、区画整理を行い、四十階建てのオ
フィスとショッピングモールが入ったメインタワーを建てます。」
智「・・・」
三橋「その横に海外からの初出店ブランドを含めた目抜き通りを通して・・・その脇には富裕層向けのマンションを建設して、駅とは橋でつなぎます」
智「・・・」
三橋「今回の再開発にうちの社運がかかっています。東京都もバックアップしてますから(うちとしてもやり遂げたいのです)」
智「うちの父の遺産もかかってますけどね」
三橋、智を見つめる
智も三橋を見つめる
三橋「もちろん、考えてくださってけっこうです。ただし・・・」
智「・・・」
三橋「このままこのビルが残ったとしても、開発は続行させていただきます。」
智「・・・」
三橋「新しい町並みの中に、この古ぼけたビルがズドン、と建っている姿を想像してみてください」
智「・・・」
三橋「僕は・・・いやです」
三橋、はける
智、パンフレットを見つめる
智「・・・」
チェンジ
◎挿入 2007/06/18
一方ここはロビーの喫煙スペース
桜庭入ってきてベンチに座り、タバコを出す
そこに三橋気づかず、通り過ぎようとする
桜庭「一服しようや」
三橋「!」
桜庭「成金息子」
三橋「会議がありますから」
桜庭「ちょっとくらいいいだろ?」
三橋「・・・」
三橋もベンチに座る
桜庭、たばこを出す
三橋、たばこをもらう
そしてくわえる
桜庭、ライターを出す
しかし
火がつかない
桜庭、何回もやる
しかしつかない
桜庭「くそ!」
三橋「・・・」
桜庭「かっこ悪い。こういうのが一番むかつく」
三橋「貸してもらえますか?」
桜庭、ライターを貸す
三橋、ライターをいじるが
・ ・・つかない
桜庭「わりい」
三橋「たばこはいただいておきます。」
三橋、たばこをハンカチにつつんで、かばんに入れる
三橋「(ライターを見つめながら)ライターなのに、火がつかないか・・・」
桜庭「おれもしけたもんだ」
三橋「(ライターをとって見つめる)」
桜庭「どうした?」
三橋「僕も火がついてないのかもしれません」
桜庭「は?」
三橋「・・・」
桜庭「成金息子はどうしてこうまわりくどいのが好きなんだろうね」
三橋「オーナーに言ってきました」
桜庭「再開発話?」
三橋「嫌われてしまいました」
桜庭「ふん。だから俺はいったんだ。もうすこし前から話せば、ちょっとは丸くおさまったかもしれねえって」
三橋「(智を思い)」
桜庭「三年も前から計画が出てたんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は映写機まわすのが仕事だ。こうやって嫌われるのもあんたの仕事だろ」
三橋「僕は嫌われたくありません」
桜庭「なら親父と喧嘩できんのか?」
三橋「それは・・・」
桜庭「じゃあいいんだろ?」
三橋「・・・」
桜庭「俺は昔ただ働きがいやで、じじいと喧嘩してここをやめた。」
三橋「三年前の開館式当日ですよね」
桜庭「おかげでぼっちゃんはいまだにおれを嫌ってる」
三橋「・・・」
桜庭「あんたにいわれてここに戻ってきて・・・おれなりにけっこうがんばったんだけどなあ・・・。」
三橋「・・・」
桜庭「まあ、雪解けは早いかな」
三橋「・・・」
桜庭「俺も万作が戻ってきたらお払い箱だ。あと三日の命ってことよ」
三橋「その三日の間にお願いしたいんです。ここの立ち退きが丸くいくように、もっと積極的に智さんに動いてもらえませんか?」
桜庭「お?親父をとることにしたんだな」
三橋「・・・」
桜庭「玲子に話したほうがいいかもしれねえぞ?」
三橋「玲子さん・・・ですか・・・」
桜庭「あいつならここでずっと働いてる身だ。ぼっちゃんのことをよく知ってる。いいところも知ってれば悪いところも知ってる。そこにつけいればなんとかなるかもしれねえ」
三橋「・・・」
桜庭「苦手か?」
三橋「いえ!」
桜庭「ま、でもなあ、玲子はここが好きだからなあ。無理かもな」
三橋「・・・」
桜庭「あーあ、半端なヤツしかいねえなあ、ここは」
三橋「・・・」
桜庭「ぱっぱっぱと音とび直してくるわ。またあのヒョロ男にクレーム出されたら、説得する前にクビになりそうだからなあ」
桜庭、はけていく。
その背中を見て三橋もその方向に歩いていく。
チェンジ
舞台はまた休憩室
いそいそと、玲子がなにかを準備している。
なにかドリンクとかいろいろ。
そこに
智「まいったなあ」
といいながら入ってくる
玲子「(智が入った瞬間びくっとする)」
智「ん?」
玲子「あ・・・あは、あははは」
智「どうかしたの?」
玲子「いえ、別に・・・」
智「なんだかな・・・」
玲子「顔が暗いですよ」
智「え」
玲子「あ、いつも暗いか」
智「いつもは余計です」
玲子「なにかあったんですか?」
智「うーん・・・」
玲子「?」
そこに
桜庭「うおーい、いっちょあがり
玲子「はいおつかれさん」
智「あ、館内清掃は?」
桜庭「(いすにどっかり、座って)あとあと」
智「(ため息)」
玲子「(目で泰助に合図)」
桜庭「(それを見て、芝居っぽく)あーあ、きょうは、なんの、ひだっけ?」
玲子「(芝居)そうねえ」
智「!」
ふたり「だれかさんの、たんじょうびじゃないの!?」
智「!」
その瞬間、玲子机のしたから、お盆を出す
お盆には四個の、ところてんが並んでる
智「と、ところてん!」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー
はっぴばーすでー、とうーゆー
はっぴばーすでー、でぃあ(目をあわせて)さとしさ~ん(ここは桜庭は「ぼっちゃ~ん」という」
智「ああ、ありがとうございます・・」
ふたり「♪はっぴばーすでー、とうーゆー」
と歌いながら玲子、ところてんを
とことてん付属の小さなフォークを無理やり智ににぎらせ、
玲子「(鋭く言う)はい食べて!」
智「え!」
玲子「(鋭く)ろうそくのかわりなんだから!」
智、しぶしぶ、フォークを握り
ところてんを
智「(音をたてて汚く食べる)」
ふたり「はい、おめでとう~~~~~~~~~~」
ふたり、拍手
智「ふ、普通、こういうときってケーキじゃ(ないんですか)」
玲子「そんなのつまんない」
桜庭「夏はところてん!」
智「はあ・・・」
玲子「あ、ちょっと凍りかけなのは許してね。」
桜庭「すぐに冷えるように、おれの気遣い」
玲子「冷凍みかんと一緒だと思って。」
智「シャリシャリ感はいりませんよね・・・」
桜庭「バカ!俺たちがこれをぼっちゃんに贈るのはちゃんと意味がある」
智「意味?」
玲子「ところてんって、寒天をこうやって木枠からするっと抜いて作るでしょ?」
智「ええ」
桜庭「ところてんのように、ぼっちゃんにもこれから起こる困難にもだな、負けないように、こう、するっと抜けろってことだ」
智「無理やりっぽいですよ」
桜庭「うまいこといったな」
玲子「うまいうまい」
智「自画自賛ですか?」
桜庭「うまいといったら、これだ!」
次に、桜庭、机の下から、酒のびんを出す
智「ひ、昼ですよ!」
桜庭「ところてんっつったら酒よ!」
玲子「異議なし!」
智「ちょ、ちょっと!」
玲子「却下あ!」
桜庭「ホッピーホッピー!(びんを持つ)」
智「あ、じゃあ・・・(お酒をつがれるのを期待して)いただきます」
しかし、桜庭、まず自分のコップに酒をついで
口に注ぎ込む
桜庭「△▲△(アドリブ)うんめえ」
玲子「ずるい、あたしのにも」
桜庭「おう悪い悪い」
桜庭、つぐ
智「仕事中ですよ!」
桜庭「あと夜の一回だろ?」
智「そうですけど」
桜庭「車運転するわけじゃねえんだから、大丈夫だよってんだ」
智「お客さんに失礼ですよ」
桜庭「大丈夫だ」
智「玲子さんも?」
玲子「今日は智さんの誕生日なんだから」
智「夜の回の、おつりも間違って渡しちゃいませんか?」
玲子「逆に、頭が冴えて、サクサク、計算できるかも」
智「ありえませんって!」
桜庭「どうせ次に来る客は決まってる」
智「?」
桜庭「あの、ひょろっとしたクレーム野郎だろ?」
智「白井さんのことですか」
桜庭「いっつもいっつも、ここにくる。」
智「うれしいことじゃないですか」
桜庭「あいつの頭の中には、映画見るなら西口って選択肢はないのかな?」
智「西口・・・」
玲子「こっちは駅の東口でしょ?西口にあるのは」
智「ハミングバード・シネマ12(トウェルブと発音)」
桜庭「あっちはシネコンだ。」
玲子「十二個もハコがあるんだもんね。」(※ハコ→上映室の意)
桜庭「音もドルビーだし、画もきれいだし」
智「シネコンじゃあね、たしかに単館のうちはかなわない」
玲子「たぶんあのヒョロ男は、アナログが好きなんですよ」
智「空想でものをいうのはやめましょう」
桜庭「映画好きってもんは、へそ曲がりがおおいから」
智「今の発言で世の中の何万人かを敵に回しましたね」
玲子「泰輔、それいい!」
智「え?」
玲子「デジタル全盛期の今だからこそアナログの良さっ味わおうって、売り込みましょう」
泰輔「そうそう。CDよりレコードのほうがいいってときがある」
智「なるほど・・・」
玲子「見直したでしょ?」
智「ええ」
玲子「伊達に三年間キャラメルとコーラ売ってるだけじゃないですから」
智「うんうん」
泰輔「場がまとまったところで、ご歓談を」
ふたり、酒をのみ、ところてんを食べる
智「(それを見て)・・・」
泰輔「どうした?」
智「・・・あ、いや」
玲子「なんですか?いってくださいよ」
智「・・・んん・・・うーん」
泰輔、びんをもって智のコップにつごうとする
智「(それをとめて)うあ、いいです!いいです」
泰輔「飲め!」
智「まだ仕事ありますから!」
玲子「うちらだってまだある!」
智「無理です」
泰輔「(いったんとめて)そうか(あきらめるようなふり)」
智「夜の回が終わったら、おつきあいしますから!」
泰輔「いまだ!(一転、つぐ)」
智「わ!」
智のコップには酒がつがれる
智「(酒を見つめる)」
玲子「入った以上は飲んでもらわないと」
泰輔「以下同文」
智「そんな・・・」
ふたり「(じっと見る)」
智「(耐え切れず・・・飲む)」
玲子「ほらやっと誕生日っぽくなってきた」
智「(飲み終える)」
泰輔「どうだ!昼から飲む酒は!」
智「・・・けっこう・・・うまい・・・ですね・・・」
玲子「でしょう!」
泰輔「なら、二杯目だ!」
智、コップを差し出す・・・
が・・・
そのとたん、ばたんと、机の上に突っ伏す
ふたり「!」
桜庭「おい!」
玲子「智さん!」
ふたり、駆け寄る
すると
智、一気に立ち上がり
智「えへへ・・・」
ふたり「!」
智「えへへへへ・・・」
泰輔「うわあ」
智「(よって)みなさ~~~ん!」
玲子「完全に酔ってる・・・」
泰輔「たった一杯で・・・」
智「(聞かずに)大事なお話がありま~~~~~す!」
ふたり「(どうしよう・・・)」
智「へへ・・・いつも、お勤めありがとう!ありがとう!ありがとう!」
玲子「は、はい・・・」
智「さらに今日はボクの誕生日まで・・・ボク、本当に十四時から会議だと思ってましたよ~~~」
玲子「あたしが時間空けるようにいいましたからねえ」
智「なんで!なんで、やるよっていってくんないんですかあ~~~」
泰輔「言ったらサプライズの意味がないだろう」
智「なんでえ」
玲子「智さん、気を確かに!」
智「ぼくは~~~いつでも冷静沈着」
泰輔「どこが」
玲子「言いたいことってなんですか?」
智「ああ~ああ~、ええ、このシネマ藤岡は・・・」
ふたり「・・・」
智「つぶれることになりました!」
玲子「!」
桜庭「・・・」
智「えへ・・・」
暗転
第二章
暗転中に
智・玲子「ありがとうございました」
明転
ここはロビー
智が客の見送りをしている
智「うはああああ・・・頭がいったい・・・」
玲子「大丈夫ですかあ?」
智「ボク、なにかいってました?」
玲子「(呆れ顔)」
玲子、劇場の方にいって見て
玲子「あとおひとりです」
智「白井さんですか」
玲子「ええ」
智「わかりました」
玲子「ああ、もう」
智「?」
玲子「白井さん、出てくのいっつも遅いから、困っちゃう!」
智「まあ、確かに」
玲子「レジ閉めとかお掃除とか全部押し押しになっちゃうんですよね」
智「仕方ないですよ。大事なお得意様なんだから」
玲子「もうイライラしちゃうと、また計算ミスしちゃうかも」
智「イライラしなくともミスってるでしょ?」
玲子「違いますよ!この前わかったんです!」
智「え」
玲子「白井さんがグダグダして帰った日に限って、レジ金があわないって!」
智「たまたまでしょ」
玲子「日報見てったらわかりますって!」※日報→売上日報のこと。
智「おつりの受け渡しをもっとはっきりやれば大丈夫です!」
玲子「開演ギリギリだったらどうするんですか!」
智「予告編くらいならどうにでもなりますって!」
玲子「正しいおつりと、映画を始めから見せるのではサービスとしてどっちが正しいですか!」
智「どっちもです」
玲子「もう・・・」
智「それよりも、あのことを伝えるかどうか迷ってるんですよ」
玲子「あのこと?」
智「ここを閉館するってことです」
玲子「本気なんですか?」
智「・・・」
玲子「昼の誕生日会。お酒に飲まれちゃって、勢いで言ったのかなって(思いまして)」
智「・・・」
玲子「あのとき聞いたのあたしたちだけだから、あれをお酒の席のジョークにすればいいと思うんですけど」
智「でも・・・」
玲子「え?」
智「はい?」
玲子「ほ、本当なんですか!」
智「・・・」
玲子「総一郎さんに約束したとか?」
智「正式な答えは保留してます」
玲子「もう!ぐずぐずしてると、外堀から埋められちゃいますよ。気づいたら、ここだけぽつん・・・」
智「もう埋められました」
玲子「え!」
智「ここだけぽつん・・・」
玲子「・・・」
そのとき
白井やってくる
ふたり「(あわてて)ありがとうございました!」
白井「いやあ、すばらしかったです」
智「そういっていただけるだけで幸せです」
白井「学生時代を思い出しました。私ね、こう見えても学生時代、毎月一本は映画を見てましてね(それで・・・)」
玲子「(劇場内を見て)先にレジを閉めちゃいますね」
智「お願いします」(玲子、ハケる)
白井「(言葉をさえぎられて)あ・・・」
智「(それに気づいて)あ!ああ、どうぞ話の続きを」
白井「あ、お仕事の邪魔しちゃってるかな」
智「いえいえ、」
白井「まあ、でもまた来ます」
智「はい・・・」
白井、ハケようとする
智「あの!」
白井「?」
智「あの・・・」
白井「はい・・・」
智「あ・・・」
白井「どうしました」
智「いや、あの・・・」
白井「?」
智「あ・・ああ・・・」
白井「そうだ。」
智「?」
白井「ずっと隠していたことなんですが・・・私ね・・・映画が好きってわけじゃないんです」
智「はい・・・」
白井「映画館が好きなんです。」
○ 挿入 2007/06/25
智「え!」
白井「ちょっと目をつぶって想像してください!」
智、目をつぶる
白井「千円札を握り締めながら、窓口で切符を買います。売店でコーラとキャラメルを買って・・・
いすに座ったらキャラメル放り込んでコーラを一口・・・
で、始まるのをじっと待ちます。」
智「・・・」
このとき、桜庭がイン
話しかけようとするが、立ち止まって
白井「開演のベルが鳴って、スクリーンの幕がこう、バーって横に割れて、東口にある飲み屋の宣伝が始まる・・・
この瞬間って、たまんなく気持ちよくないですか?」智「・・・」白井「間髪入れずに予告編が嵐のように始まります!
ドキドキのアクション!
わくわくするようなSF!
どかーんとホラーがたたみこんできて、最後は涙涙の恋愛映画・・・。
気分はどんどん高まってきます。一瞬の暗転があって、またちょっと幕が横に開いて本編が始まる・・・!
最高の幸せじゃないですか!」
智「はい・・・」
白井「こんな瞬間ってのは、映画館じゃないと味わえません。」
智「そう・・・ですね・・・」
白井「でしょう?だから映画館って大好きなんです」
智「映画館にかける情熱は、おれ以上かもしれません」
白井「まあでも、ここまでたくさん来るようになったのは、うちの娘のおかげかもしれません」
智「!娘さんがいらっしゃったんですか?」
白井「ええ、出来たのって三年前ですよね。」
智「そうです」
白井「ちょうどそのころ妻と別れまして、娘もそっちに。で、月に一度会える日にここにいっしょに来たんです」
智「・・・」
白井「最初きたころはまだ八才でね。私は映画の内容がわかるんだけど、娘にはちょっと心配だったんです」
智「すいません。子供向けの話は選んでなかったかも」
白井「いやいや、でもね、映画って不思議なのは、見てるうちにわかってくるんですよ。」
智「・・・」
白井「なんとなく、かもしれない。でも隣でキャラメルとコーラ飲みながら、この人、かわいそうだねとかいってくるんです」
智「・・・」
白井「映画の持つ力ってすごいんですよ。たぶん私たちが思ってる以上に・・・」
智「映画の持つ力ですか・・・」
白井「あ、忙しいところ立ち話してしまった。それでは!」
智「お気をつけてお帰りください」
白井はける
桜庭「映画じゃなくて、映画館が好きだったなんて」
智「・・・」
桜庭「それにバツイチで、向こうには子供ありときたもんだ」
智「桜庭さん」
桜庭「こりゃほんとの変人だ」
智「びっくりしました」
桜庭「俺も初めてそんなやつにであった」
智「違うんです」
桜庭「?」
智「おんなじなんです・・・」
桜庭「同じ?」
智「父さんと・・・」
桜庭「え!」
智「さっきのあの熱いお話・・・開館式の父さんのスピーチとまったくおんなじなんです」
桜庭「そうか・・・」
智「父さんがなぜこの映画館を建てたか・・・映画館に対する思いとまったく同じ話でした・・・」
桜庭「じじいの生まれ変わりだったりしてな」
智「父さんの・・・?」
桜庭「もうすぐ盆も近いだろ。」
智「んなバカな」
桜庭「あんな変人がいる限り、ここをつぶすなんて話せねえよな」
智「・・・」
桜庭「ま、おれはあと二日しかここにいねえから、どっちに転がろうが関係ねえけど」
智「・・・」
桜庭「しゃくにさわったか?」
智「失礼します」
智、はけようとする
桜庭「どっちにしろ決めるこった」
智「言われなくても、しますよ」
桜庭「そうか」
智「そうですよね。桜庭さんは、関係ないですもんね」
桜庭「・・・」
智、はける
桜庭、座って、タバコを出す
そしてライターを出すが
・ ・・つかない
桜庭「(ため息)俺は・・・どっちにつけばいいんだろうな」
チェンジ
翌日の休憩室
玲子がお金を数えている
玲子「(お札を数えながら)・・・あわない・・・ああ・・・あわない・・・」
そこに
桜庭「先にいってるぞ」
玲子「(お札を見て)あああ・・・」
桜庭「どうした?」
玲子「あああ・・・」
桜庭「またマイナス?」
玲子「一万円」
桜庭「い、一万!」
玲子「昨日金曜だったじゃない。しかも給料日だからさあ、万札出す人多くて」
桜庭「小銭で間違うんならともかく、札のほうなんて・・・」
玲子「どうしよう・・・」
桜庭、自分の財布から一万円を出す
玲子「!」
桜庭「(玲子の前に見せて)これを入れろ」
玲子「だめだって」
桜庭「いいから!」
玲子「こんなことばれたら、あたしたちここにいれないって!」
桜庭、無理やり、一万円を袋に入れる
桜庭「!」
玲子「泰輔!」
桜庭「使ってくれって」
玲子「今入れたお金ってあたしがあげた今月の小遣いの(一万円でしょ?)」
桜庭「まあな・・・」
玲子「タバコもビールも買えなくなるよ」
桜庭「たばこは坊ちゃんからもらうよ」
玲子「情けないって!」
桜庭「ビールがないならホッピーがある!」
玲子「ホッピーのほうが高いって」
桜庭「ホッピーホッピー!」
玲子「聞いてるの?!」
桜庭「こういうときのための、夫ってもんだろ?」
玲子「・・・」
桜庭「玲子が困ったときは俺が支えるって」
玲子「泰輔・・・」
桜庭「(腕時計を見て)時間だ」
桜庭、はけようとする
玲子、近寄って
玲子「ありがとう」
桜庭「おう」
桜庭、今度こそはけようとする
玲子「あやしい」
桜庭「へ」(とまる)
玲子「泰輔が二枚目になるはずがない。」
桜庭「あのね、人ってもんはなあ、日々変化してるってもんなんだよ!。俺も変化してるってこと!」
玲子「(もっと近寄って)正直にいいなさい」
桜庭「だから(なにもないって!)」
玲子「ボク~?素直になりなさ~い?」
桜庭「正直者だって・・・おれは・・・」
玲子「西口の~、コンビニの前にある、ネオンがビカビカ光ってるとこかなあ???」
桜庭「!」
玲子「マリンちゃんと遊んだのかなあ」
桜庭「ひ・・・ひさしぶりに・・・お、大当たりになっちゃって」
玲子「パチンコ~?スロット~?」
桜庭「スロット!」
玲子「(絶叫)ごらあ!!!!!!!」
しかし
玲子「ああああああああ!」
泰輔「!」
玲子「痛い」
泰輔「頭?」
玲子「最近、ずっとそうなの」
泰輔「ほかに悪いとこは?」
玲子「あんまり食欲もないし」
泰輔「うそつけ。ところてんバクバク食ってたじゃねえか」
玲子「あのカラシ酢醤油がいいの。辛くて」
泰輔「うん」
玲子「ツンときて」
泰輔「うん」
玲子「すっぱい!みたいな・・・」
泰輔「すっぱい・・・?」
玲子「夏バテかなあ・・・」
泰輔「平田先生のところでもいってみたら?」
玲子「平田病院に行きたいのは山々だけど、時間が(ないの)」
そこに
智「おはようございます」
ふたり「おはようございます」
泰輔「おう、ぼっちゃん。ちょっと頼みがあるんだけど」
智「給料の前借りはだめですよ」
泰輔「今日の昼はおれが売店のレジやるから」
智「!」
玲子「え~え・・・」
◎挿入 2007/06/18
泰輔「おれ、前に、銀座のデパートの臨時レジ係もやったことあるんだ」
玲子「その顔で、よくお客さん逃げなかったよね」
泰輔「うるさい!」
智「玲子さん、都合が悪いんですか?」
玲子「あ、いや」
泰輔「平田先生のとこに」
智「平田先生・・・?・・・って、どこか具合悪いんですか?」
玲子「ああ、ちょっと最近頭がいたくって」
泰輔「やっぱり健康あっての仕事だからなあ」
智「はあ・・・」
泰輔「じゃあ、昼からはキャラメルとコーラ、がんがん売るから!」
玲子「智さん、すいません」
智「わかりました」
玲子「じゃあ昨日の売り上げ、入金してきますね」
玲子がハケる
泰輔「(ハケたのを確認してから)まいったな・・・」
智「?」
泰輔「ひょっとしたらひょっとするかもしれん」
智「そんなに大きい病気なんですか!」
桜庭「ばか!」
智「!」
桜庭「・・・オメデタだよ」
智「!」
桜庭「頭がいたいだろ?食欲がないだろ?そしてすっぱいものが好きときたもんだ」
智「もし本当なら・・・」
桜庭「でかした!玲子!」
智「おめでとうございます」
桜庭「こりゃガキのためにガンガンかせがねえとなあ」
智「はあ・・・」
桜庭「あ~あ、ここで働きてえなあ・・・」
智「!」
桜庭「万作の乗った飛行機、落ちねえかな。」
智「それはやりすぎです」
桜庭「フランス生活が気に入っちまったとか」
智「ただの新婚旅行ですから」
桜庭「おれみてえな問題児、預かってくれるのここくらいなもんだから」
智「・・・」
桜庭「(腕時計みて)おっと、やっべ!一回目の上映だ!」
桜庭、走ってハケる
智
智「父さん・・・これじゃ・・・つぶせないよなあ・・・」
○挿入 2007/06/20
チェンジ
三橋「さあどうぞ」
玲子「おじゃまします」
ここは三橋の事務所応接室である。
三橋「珍しいですね。ここに来たいだなんて」
玲子「たいしたことじゃないんですけど、ま、覗き見根性っていうんですか(、ねえ)」
三橋「ご覧のとおり、せまくてなんにもないですけど」
玲子「どういうところで働いてらっしゃるか、前からものすごく興味がありまして」
三橋「あ、お茶でも出しましょうか?」
玲子「いえ、いいんです」
三橋「はあ・・・」
玲子「えっと、それよりも・・・」
三橋「?」
玲子「シネマ藤岡をつぶさないでください」
三橋「・・・」
三橋「!」
玲子「いくらあのビルの大家だからって、突然すぎます。」
三橋「・・・」
玲子「泰輔からも聞きました。再開発するなら時間かけてもっと事前にしっかりと話しあうべきなんじゃないですか」
三橋「・・・」
玲子「いきなりすぎます。あたしたちの職場をつぶさないでください」
三橋「僕がもっと勇気を出してればよかったんですよね」
玲子「・・・」
三橋「三年前から再開発の話がちょっとづつ出ていたんです。でも僕が智さんに言う勇気がなかった。父に追い詰められて土壇場の今になって話してしまって」
玲子「・・・」
三橋「父に反論する勇気もなくて。だいたいにして僕、反抗期ってわかんないんです」
玲子「わかんない・・・?」
三橋「ええ。父に『英語は小学生からやれ』っていわたら、ひとりでミッキーマウスの英会話の絵本を読んでたし、『この学校に行け』っていわれたら素直に勉強して入った。」
玲子「・・・」
三橋「なんていうんだろう。親に歯向かうことで自分を認めさせようとか、たまには困らせてやろうって思えなかったんですよね。楽なんですよ。道を引いてくれてる人がいるなら、それを歩いていればいいじゃないかって」
玲子「お父様のいうことに不信感とかないんですか?」
三橋「考えなかったです」
玲子「今も?」
三橋「・・・」
玲子「心から、お父様のいうことが、正しいと思ってらっしゃいますか?」
三橋「玲子さんはどうです?」
玲子「・・・」
三橋「お父さんって好きですか?」
玲子「女の子から見たお父さんっていうのと、男の子から見たのでは違いますよ」
三橋「それが聴いてみたいんです。」
玲子「『ありがとう』です」
三橋「ありがとう?」
玲子「そう。感謝・・・。」
三橋「・・・」
玲子「けっこう自由にさせてくれたんです。高校選ぶときも『お前が好きなところに行け』っていう以外はなにもいわかなった。卒業の前、みんなが大学行くっていうのにあたしだけ事務の専門学校を選んだときだって、お父さんはなにも。お母さんはうるさかったんだけど、お父さんはむしろもっとがんばれよって」
三橋「自由であることが不安なときはありませんでしたか?」
玲子「ずっと不安でしたよ。ほっとかれてるんじゃないか、ひょっとしたらあたしなんかより妹の真子のほうをひいきしてるんじゃないかって・・・真子はずっとおりこうさんでかわいかったし」
三橋「・・・」
玲子「たぶんね、親がひいた道を歩かせるんじゃなくて、自分でその道を作らせたかったんだと思うんです。その道を歩いてるあたしを見守るのが親の仕事だって・・・」
三橋「・・・」
玲子「あ、今のはあくまでもあたしの推測ですよ。、静岡の専門学校で一人暮らししてるころに思ったんですけどね。」
三橋「うらやましいな」
玲子「うちは変わってるほうかもしれませんよ」
三橋「いや、自分で生きたいように生きてきたなんて」
玲子「今からでも遅くないんじゃないですか?」
三橋「え・・・」
玲子「お父様にいえるとしたら、今なんじゃないですか?」
三橋「反抗期ということですか」
玲子「反抗期じゃない。」
三橋「・・・」
玲子「違うと思うならいえばいいんです。あってると思うならいわなくてもいいけど・・・でも、もっと正直になってほしいんです」
三橋「僕は正直ですって」
玲子「迷ってますよね」
三橋「迷ってない!」
玲子「ほんとが聞きたいんです。本心から、あそこから立ち退いてほしいのか」
三橋「本心です!」
玲子「・・・」
三橋「そのためにも僕からもお願いがあるんです。智さんに言っていただけませんか?」
玲子「・・・」
三橋「昔の東口がにぎわったように、今の東口ももっと街の活気を出したいんです。そのためにも協力してほしいんです」
玲子、立ち上がる
そして
玲子「あたしは、シネマ藤岡が好きです」
三橋「・・・」
玲子「給料は安いけどね」
玲子、ハケる
三橋、それを見送ってから、携帯を取り出す
そして
三橋「(電話)もしもし・・・お久しぶりです・・・先輩。」
電話しながらハケる
チェンジ
チェンジ
桜庭が休憩室で携帯をのぞきこんでいる。
そこに玲子がやってくる
玲子「あっつ~!」
桜庭「(あわてて携帯を隠しながら)」
玲子「?」
桜庭「お、おう・・・」
玲子「(桜庭の手元を見ながら)ん?」
桜庭「ん?」
玲子「どうかしたの?」
桜庭「いや、なんにも?」
玲子「?」
桜庭「だ、誰も、オメデタを調べるサイトになんて行ってないよ」
玲子「おめでた?」
桜庭「!」
玲子「バッカじゃないの?」
桜庭「え?」
玲子「(袋を出して)ほい、さしいれ」
桜庭「ありがと・・・」
玲子「無理行って休みもらって悪いからね。水羊羹。智さんと食べて」
桜庭「(ばくばくくいはじめる)おう」
桜庭どんどん食べる
玲子「病院ね、平田先生のところお休みだったから西口の新しいとこまでいってきたのね」
桜庭「そうかあ」
玲子「いろいろ検査してね」
桜庭「おう」
玲子「出た結果が」
桜庭「おう」
玲子「ただの疲労、だって」
桜庭「・・・」
玲子「工場の事務の仕事に比べたら今のほうが大変だからね。お休み週一日だし、立ちっぱだし」
桜庭「・・・」
玲子「ね、聞いてる?」
桜庭「ああ・・・」
玲子「栄養剤とかもらってきた。ごはんのあとに四つも飲むんだよ?信じらんないよね」
桜庭「そうか・・・(完食する)」
玲子「泰輔も疲れてんの?」
桜庭「疲れるほど働いちゃいねえよ」
玲子「じゃあ、もっと働け」
桜庭「いやおれはね、我が家の主人として万が一に備えて、働くのをほどほどにしてるわけだよ」
玲子「なにが主人よ。大黒柱はあたしでしょ」
桜庭「万作が帰ってきたら、職安行く」
玲子「ど、どういう風の吹き回し?」
桜庭「行ってみようかなあと思っただけだよ」
玲子「あんなに役所嫌いだったのに」
桜庭「まあ・・・な」
玲子「まさか」
桜庭「?」
玲子「ひょっとして、あたしが本当にできちゃったこと考えてたの?」
桜庭「!」
玲子「映画館がつぶれるだのなんだのって、こんな大事なときにできちゃうわけないでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「あ、午後もお休みいただきます」
桜庭「ゆ、ゆっくりしてろ」
玲子「かわり、ありがとうね。じゃ」
玲子はけようとする
桜庭「あ、あの・・・」
玲子「え」
桜庭「つ、つり銭は今のところ合ってるからな」
玲子「さすがは元銀座のレジ係」
桜庭「キャラメルも・・・ガンガン・・・売ってるし・・・」
玲子「ご苦労様」
今度こそはけようとする
桜庭「おれって親父になれるかな」
玲子「!」
桜庭「親父になる資格・・・持ってるかな」
玲子「・・・」
桜庭「これといった仕事にゃ・・・就いとらん。趣味は・・・酒。映写技師なんて、なりたくてなったわけじぇねえし」
玲子「・・・」
桜庭「短気、ぐうたら、バカな俺でも、親父になれるのかな」
玲子「短気で喧嘩するのはいいけど、青森に逃げるのはよくないと思ってるよ」
桜庭「だってあれは、ずっとじじいの下でタダ働きだったし(普通は金くれるぜ)」
玲子「(かぶせて)あたしも無料奉仕でした」
桜庭「・・・」
玲子「智さん、最初は泰輔がここに戻ってくるの、ずっといやがってたんだよ」
桜庭「・・・」
玲子「泰輔が総一郎さんとこで世話になってたから、しぶしぶOKしたみたい。だから今でも微妙な感じで話してるのわかるでしょ?」
桜庭「・・・ああ」
玲子「まあ、それはともかく、泰輔は父親になれるでしょ」
桜庭「・・・」
玲子「父親になる資格は、あたしが思うに男ならだれでも持ってる」
桜庭「・・・」
玲子「そのひとつが仕事だと思うよ。」
桜庭「仕事か」
玲子「もうすぐここで働くのも終わりでしょ? もし正直に仕事に就くのがいやだったら、うちであたし以上に主夫してよね」
桜庭「掃除は大丈夫だ。」
玲子「ほんとに?」
桜庭「がんばれば。ただメシが作れねえんだよ」
玲子「いざとなったら、あたしがみっちり教えてあげる」
桜庭「じゃがいもは・・・フライパンでいためたら食えると思ってたくらいなんだよ?」
玲子「そんなこともあったね」
桜庭「じゃがバターが食いたいって、で、フライパンにサラダ油いっぱい入れて、生のイモいれたら」
玲子「ポテトフライができたもんね」
桜庭「ああ。そんな俺でもいいのかな」
玲子「・・・」
桜庭「親父ってなんだろう・・・」
玲子「資格よりも、もっと大切なことがあると思うけど・・・?」
桜庭「・・・」
玲子「レジ閉めまで、過不足なしでお願いします」
玲子、はけようとする
桜庭「映写室に来い」
玲子「?」
桜庭「明日からのやつのテスト上映をするんだ。」
玲子「別にいいよ」
桜庭「面白いぞ。俺の好きな映画のひとつだ。」
桜庭、玲子の手をとり、はける
暗転
第三章
三橋「ひとつだけ方法を考えました」
明転
ここは休憩室
翌日の朝である
三橋「大学のヨット部の先輩がハミングバードシネマの役員をしておりまして」
智「はあ・・・」
三橋「昨日、電話でなんですが、軽く東口再開発計画の概要を話したところ、大変興味を示されまして・・・」
智「?」
三橋「・・・」
智「それって・・・うちが、ハミングさんとこに買収されるということですか?」
三橋「僕が考えた折衷案です」
智「・・・」
三橋「いつも思ってたんですが、この辺は新宿や渋谷には遠いじゃないですか。映画館はここと、西口のハミングバードシネマのふたつしかない。先輩に聞いてみたら週末とかお客さんはやはり新宿や渋谷に取られてるらしいんですね。」
智「・・・」
三橋「それを補強するために東口にもハミングバードシネマを立てることによって、このエリアでの映画人口を大きく確保できる。そして、智さんも映画館をずっとやっていける・・・」
智「今のままでやれるんですか?」
三橋「・・・」
智「シネマ藤岡として。キャラメルとコーラしか置かないこのままで」
三橋「智さんはキャラメルとコーラを一緒に飲んだり食べたりしながら、映画を見たことがあるんですか?」
智「!」
三橋「もちろん、為蔵さんがここを立てたときからの方針だし、経験あるんですよね」
智「・・・」
三橋「本当はあまりそういうところに意味を感じてない・・・とか?」
智「そんなことはありません!」
三橋「・・・」
智「父さんが決めたことだ。意味はあるんですよ」
三橋「教えてください」
智「・・・」
三橋「疑問に思ってるんですね」
智「ち、違います!」
三橋「この際だ、おもいきって変えませんか?」
三橋、かばんから地図をおもいきり出す
智「!」
そしてひとつの場所を指し示し
バンと指を刺す
三橋「十個の上映室を持つ、ハミングバードシネマ・イースト10(テン)に生まれ変わるんです」
智「!」
三橋「映画館として存続できる。ハミングバードシネマとしても意味がある。そして僕も、再開発計画を貫徹できる。これなら・・・喜んでいただけるのではないでしょうか」
智「映画館として残るのはいいんですが・・・」
三橋「十個のうちの九個は新作になっちゃうと思います。でも一個は今までどおり智さんチョイスの旧作をまわせるんです」
智「CUCU MOVIESの方は?うちの担当の鬼山田さんにはどう説明するんです?」
三橋「昨日お伺いしました。鬼山田さんはあいにく不在だったんですけど、社長さんはシネマ藤岡の売り上げに疑問をもってらっしゃるようでした」
智「!」
三橋「プロデュースを手放すかもしれませんよ」
智「そんな!」
三橋「確認してみますか?」
智「(電話を見つめる。そして、ため息)・・・外堀は、もはや・・・埋められたか・・・」
三橋「・・・」
智「おかしいと思ったんですよ。商店街の会合だって、一次会には呼ばれるんだけどなぜか二次会のほうには呼ばれなかった」
三橋「二次会は、僕とか父も参加しての再開発についての会合でしたから」
智「呼んでください!」
三橋「僕が智さんに気をつかいすぎたのかもしれません。」
智「かなり前から、再開発の話はあったんですよね」
三橋「・・・」
智「俺は総一郎さんを信じてた。」
三橋「だから考えてきたじゃないですか!映画館は存続できるんですよ!つぶれるよりはいいじゃないですか!」
智「・・・」
三橋「昨日、玲子さんがいらっしゃって」
智「・・・玲子さんが?」
三橋「シネマ藤岡をつぶさないでくださいって・・・」
智「・・・」
三橋「それだけ智さんもここも愛されているということです。愛されているなら、残すこと、続けることを考えないと」
そこに
玲子「おはようございまーす・・・」
桜庭、玲子が入ってくる
玲子「あ・・・」
三橋「おはようございます」
智「おはようございます
桜庭「おう、朝からおそろいか」
三橋「(智に)考えておいてください」
智「・・・」
三橋、帰りかけるが
三橋「(智に)ひとつお聞きしたいことがあります」
智「?」
三橋「智さんが映画館を続ける理由ってなんですか?」
智「・・・」
三橋「為蔵さんがお亡くなりになったから仕方なく、とかですか」
智「!」
智、立ち上がると
三橋を一気に壁際に追い詰める
玲子「智さん!」
智「(三橋をにらみながら)・・・」
三橋「(智に)ど、どうしました?」
智「仕方なく・・・ですって・・・?」
遅ればせながら桜庭、智を抑える
三橋「僕を今こういうふうにしてるのが、答えだと思ってもいいですか」
桜庭「(抑えながら智に)こらえろ、ぼっちゃん!」
智「・・・」
三橋「それとも・・・いまだになにをしたいのか(わからないとか)」
智「!」
智、三橋を地面にたたきつける
三橋「ではなんですか?」
智「父さんの意思を引き継いでしっかりと(やっていくのが・・・)」
三橋「引き継ぐのはいい。映画館を続けていく確固たる理由が智さんの中に」
智「あります!」
三橋「教えてください」
智「教える必要はないでしょう」
三橋「キャラメルとコーラの意味もわからないのにですか!」
智「!」
智「うるさい!」
智、走って逃げる
呆然とするみんな
チェンジ
チェンジ
智、走ってくる
そしてとまる
そこに
桜庭も走ってくる
桜庭「(息切れ)」
智「(息切れ)」
桜庭、手に、コーラのコップとキャラメルの箱を持っている
智「!」
桜庭「やってみろよ」
智「・・・」
桜庭「このふたつの意味がわかんねえなら、やってみろ」
智「でもいまさら」
桜庭「いまさらじゃねえ!」
智「!」
桜庭、再度、ふたつを進める
智、ゆっくりそれをとる
ふたりいすに座る
智、コーラを飲む
そしてキャラメルを放り込む
智「・・・」
桜庭「どうだ・・・」
智「・・・」
桜庭「ま、そういう俺も実はわかってなかったりするんだけどな」
智「!」
桜庭、キャラメルを一口
そしてコーラを飲む
桜庭「よし、いくぞ」
智「え?」
桜庭「いいからいくぞ!」
ふたり、館内に入っていく
ふたりはキャラメルとコーラを食べながら映画を見てる
戻ってくるふたり
智「こうやって、父は映画を見てたんですね」
桜庭「そうだなあ・・・」
智「・・・」
桜庭「あんまり・・・俺は・・・坊ちゃんにつべこべいう権限なんてねえのはわかってる。でも・・・今だから言わせてもらう」
智「・・・」
桜庭「おれも映写技師の端くれだ。二日まわしてきてわかったことがある。ここは、映画を楽しむだけの場所じゃない」
智「・・・」
桜庭「この映画館は愛されてる」
智「!」
桜庭「あの変人がいってたじゃねえか。映画が好きなんじゃねえ、映画館が好きなんだって」
智「・・・」
桜庭「ただ映画を見るだけならどこでもできる。ここは映画以外のなにかがあるんだ」
智「なにか・・・」
桜庭「なんだろうなあ・・・一時期、流行った癒しってやつか?」
智「・・・」
桜庭「そのなにかが、あのじじいが残してったものなのかなあ・・・」
そのとき
玲子と三橋がやってくる
ふたりはじかれたようにたつ
三橋「失礼します」
三橋、はけようとする
そのとき
智「申し訳ございませんでした!」
智、おもいきり腰を折って謝罪する
三橋「・・・」
智「かっとなったとはいえ、暴力までふるってしまいました」
三橋「別にいいんです」
智「・・・」
三橋「明日、さっきの先輩をお連れします。CUCU MOVIESのほうには、智さんのほうから電話してもらっていいですか?」
智「わかりました。」
三橋「では・・・」
智「おれからもひとつ提案があります。」
三橋「?」
智「賭けをしましょう」
三橋「?」
智「明日夜の最後の回!うちのお客さんを満員にする!」
玲子「え!」
桜庭「そんなの無茶だ」
智「(三橋に)総一郎さんたちが勝手に再開発計画を進めたように、俺たちも勝手にさせていただきます」
玲子「ちょっと落ち着いて考えましょうよ!」
智「(三橋に)明日から『海の上のピアニスト』という作品を上映します。忙しいと思いますが、きていただけますか」
三橋「・・・」
智「ひとつでも空席があったら、総一郎さんの言うとおりにします。でももし満席だったら、このシネマ藤岡、そしてこのビルはこのまま残す!」
三橋「!」
智「ここにあるなにかを信じたい。」
三橋「・・・明日、二一時にうかがいます」
三橋ハケる
智、それを見つめたまま
玲子「(三橋がはけてから)無理ですよ明日なんて!」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「宣伝だってどうするんですか?今日来たお客さんに、明日も来てくれなんていうんですか?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「それに明日は平日ですよ。いくら、ふつうの人の仕事終わってからの回だっつったって、限界が」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「なにかいい考えがあるから言ったんですよね?」
智「(ハケ口を見つめて突っ立ったまま)」
玲子「智さん?智さん?」
そのとき、
智「○△■□!」
といいながら、倒れる
玲子「智さん!」
桜庭「ぼっちゃん!」
暗転
暗闇の中、声がする
為蔵「智、おい智」
明転
倒れている智
そこを俯瞰で見るように、白井がいる
智「白井さん・・・?」
為蔵「なにいってんだバカ」
智「!」
為蔵「お前と顔を合わすのもひさしぶりなもんだ」
智「・・・」
為蔵「もっと気のきく奴になってるかと思ったけど・・・そうでもなかったな」
智「うるさいな・・・」
為蔵「ほんとわかんない奴だ」
智「こんな映画館残してさっさと死んじゃうなんて」
為蔵「悪かったな。お先させてもらって」
智「おかげで、おれは今大変なことになってるよ」
為蔵「十分見させてもらったよ」
智「さっきいたの?」
為蔵「なんでもお見通しだ」
智「・・・」
為蔵「ふん、あんな賭けしやがって・・・」
智「おれも父さんの子供ってこった」
為蔵「・・・。」
智「父さんの無謀な遺伝子がおれにも入ってるってこった」
為蔵「お前に無謀なんていわれたかないな」
智「ふん・・・」
為蔵「ま、お前のやりたいようにやってみろ」
智「・・・」
為蔵「生きやすい世の中なんてどこにもねえ。」
智「・・・」
為蔵「ひとりで歩いて、すごろくのあがりまで行ってみろよ」
智「・・・」
為蔵「おれの生きてきた時代は何かがずっとずれてる時代だった。
戦争終わってよ、アメリカのやつにめちゃくちゃにされて、調子いい奴が『日本が変わった。いい国になるんだ』みてえなこといってたけど、おれはそれ聞いて裏で唾吐いてたよ。
ふん、変わってなんかいねえ。戦後のめちゃくちゃを必死で生きようとした大人とそれを一番近い場所で遠い目をして見てた俺たち。それが現実だったんだ。」
智「・・・」
為蔵「映画館ってのはそんな俺が唯一、今、生きていることを感じだ場所なんだ」
智「生きている・・・」
為蔵「そうだ」
智「・・・」
為蔵「おう、次会うときは、もっとこう、いい顔になってろよ」
智「え・・・」
為蔵笑って、ハケはじめる為蔵
智「父さん!」
為蔵「ひさしぶりにキャラメルとコーラでも食べるか」
智「父さん!」
為蔵「おれは、ずっと・・・お前のそばの、どこかにいる」
智「・・・」
為蔵はける
智「父さん・・・父さん!」
そのとき
桜庭「ぴんぴんしてるじゃねえか」
智「父さんは?」
桜庭「父さん?」
智「父さんですよ。さっきまでここにいて」
桜庭「幽霊でも見たんじゃねえか?」
智「形は白井さんそっくりなんですけど、中身が父さんなんです」
桜庭「はあ?」
そのとき
玲子「あたし、すれ違いましたよ」
桜庭「え?」
智「え!」
玲子「なんかまた来るっていってました」
桜庭「おい?」
玲子「(うなづく)」
智「そうですか・・・」
玲子「でも、どうするんですか?」
智「はい?」
玲子「明日」
智「明日?」
桜庭「満員にするんだろ?」
智「ええ」
玲子「いつもの智さんらしくなかったなあ」
智「そうですか?」
玲子「かっこよかったよ」
桜庭「現実問題、手はあるのか?」
智「『海の上のピアニスト』は九九年に上映されて、かなり評判になった作品です」
桜庭「シネマチャートにもしっかり入ってたしな」
玲子「船の上で生まれて一度も地上に降りなかった天才ピアニストの話」
智「よくご存知ですね」
桜庭「昨日いっしょに見たんだ」
玲子「男同士の友情っていいよね」
智「だからなんとかなると思うんですけど」
桜庭「なんとかなるって?」
玲子「そこそこ有名だから人が入るんじゃないかってこと?」
智「ええ」
玲子「は!最悪・・・」
桜庭「そんな他人任せな賭けやるんじゃねえよ」
智「そうかなあ・・・」
桜庭「いいか?人をたくさん入れるにはどうするか!」
玲子「守っていちゃあかわらない!攻めて攻めて攻めまくる!」
智「攻める・・・」
桜庭「パソコン貸してくれ」
智「え」
桜庭「俺がチラシ作ってやる」
玲子「作ったら、『文房具のこむらや』で千枚くらい刷っちゃうね」
智「千枚も!」
桜庭「チラシってのはな、撒いた分の十分の一の人が興味を持つっていわれてるんだ」
玲子「千の十分の一は?」
智「百」
桜庭「うちの定員は」
智「百人」
玲子「ね?」
智「なるほど」
玲子「でしょう?」
智「ええ。少しでも呼びましょう」
玲子「あ、あとね、明日の夜の回は、キャラメルとコーラを全員に配りましょう」
智「赤字ですよ。物販で売り上げをとっていかないと(だめです)」
玲子「為蔵さんの気持ちを体験してもらうんです」
智「・・・」
玲子「そうすれば、ここの映画館の存在意義がわかってもらえるはず・・・」
智「なるほど・・・」
桜庭「あとは、ぼっちゃんしだいだな」
智「え・・・」
玲子「あたしたちはできるところまでやる。」
桜庭「坊ちゃんにしかできないところは、ぼっちゃんがやるべきだ」
智「・・・」
桜庭「つきはなしてるってわけじゃねえぞ」
智「・・・」
桜庭「坊ちゃんの賭けだ。あとは、まかせて大丈夫だよな」
智「桜庭さん・・・」
桜庭「もし今度じじいに会ったら『桜庭さんはやっぱりいい人でしたよ』っていっといてくんねえかな」
智「それは無理です」
玲子「調子のりすぎ」
桜庭「すまんすまん」
智「でも・・・ありがとう・・・ございます」
ここでふたり、初めて握手をする
そこに玲子も手を加える
玲子「シネマ藤岡始まって以来のお祭りですね」
智「ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡祭り」
玲子「ひねりがないね」
桜庭「うるせえ!シネマ藤岡祭りの始まりだ!」
三人、その手を高くあげる
チェンジ
第四章
外
白井が、外で待っている
そこに桜庭と智がやってくる
智「緊張しますね」
桜庭「なにが?」
智「チラシ配りなんて生まれて初めてですよ」
桜庭「俺はティッシュならたくさん配ってるけどな」
智「じゃあ、先輩ですね」
桜庭「まあな。」
智「ドキドキです」
桜庭「よしいいか。ビラ配りってのはここ(心のこと)が強くなくちゃやってらんねえ」
智「ガラスのハートの俺にできるかな」
桜庭「け!よし、見てろ」
桜庭、大きなとおりに立つ
そして一転笑顔で
桜庭「(営業声)ご通行中のみなさ~ん、駅前のシネマ藤岡で~す!(手を差し出す)」
智「すごい声ですね・・・」
桜庭「(営業声)明日夜一九時の回は『シネマ藤岡祭り』で~す!よろしくおねがいしま~す!」
しかし、チラシは誰も取らない。
桜庭「(固まる)」
智「・・・」
桜庭「・・・」
智「さ、桜庭さん?」
桜庭「(そそくさと戻って)ガラスのハートなんて、こっぱみじんだろ?」
智「は、はい・・・」
桜庭「人間っていかに他人に興味ないかがわかる」
桜庭「勉強になります」
桜庭「(肩をたたいて)やってみろ」
桜庭、ひっこんで、今度は智がたつ
智「(チラシを持った手を出す)」
桜庭「(それを見る)」
智「しっねっまふじおっかで~~~す。」
桜庭「おい!」
桜庭、智の元にかけより
桜庭「緊張しすぎだって」
智「そんなこといったって!」
桜庭「本番に弱いタイプだな」
智「人が多すぎるんですよ!」
桜庭「駅前なんだから当たり前」
智「ですけど・・・」
桜庭「賭けに負けたくないよな?」
智「はい・・・」
桜庭、バシッと智の胸をたたく
智「!」
桜庭「男だ!」
そして桜庭は智とは違う方向にいく
桜庭「(普通の声で)シネマ藤岡です!明日夜『シネマ藤岡』祭りやります(チラシを配り始める)」
智、それを見る
桜庭「作品は『海の上のピアニスト』!一九○○年代最後にして最高の傑作の呼び声も高い、すばらしい作品です!どうぞ、お越しください!」
智もたつ
智「(がんばって)こんばんは!シネマ藤岡です!」
桜庭「(配りながら見る)」
智「明日十九時からは『シネマ藤岡祭り』やります!シネマ藤岡創業者、藤岡為蔵思い出の味、キャラメルとコーラをいらっしゃったお客様全員にお配りいたします!作品は『海の上のビアにスト』!みなさまぜひいらしてください!」
そのとき
白井「『海の上のピアニスト』ですか」
智「父さん!」
白井「は?」
智「あ、いや、白井さん」
白井「見ましたよ。やるんですね」
智「ええ。」
白井「私ね、オープニングのプルート・テイラー・ヴァンスがひとり街角でトランペットを鳴らしながら、船を下りないナインティーンハンドレッドを語りはじめるシーン、大好きなんですよ」
桜庭「(智に)なにサボってるんだ?」
智「あ、白井さんです」
白井「ど、どうも」
桜庭「おう変人」
白井「へ?」
桜庭「そうだ。この前は悪かったな」
白井「はい?」
桜庭「音が途切れたって」
白井「あ、ああ!あのときも(いたんですか)」
桜庭「(智に)ぼっちゃん」
智「はい」
桜庭「この人が明日きたら、ただで入れてくんねえかな」
智「!」
白井「い、いやなにを(いってるんですか)」
桜庭「(かぶせるように)おれの給料から千円、天引きしていいから」
白井「!」
桜庭「(智に)な?」
智「わかりました」
白井「あ、もうそこまで気にしてませんから」
桜庭「わりいと思ってる」
白井「・・・」
桜庭「坊ちゃんにいわれたときはよ、正直、かったりいなあって。でも音も、画も、客も、んで、俺たちも含めてひとつ映画なんだよなあ」
智「・・・」
桜庭「(チラシを渡して)明日は完璧な上映するんで見に来てくれ」
白井「(それを受け取って)わかりました」
智「(桜庭に)明日は、じゃないですよ」
桜庭「え」
智「明日、も、です」
桜庭「調子のりやがって」
智「そうだ。明日は娘さんもぜひ!」
白井「ああ、どうでしょうかね・・・」
ふたり「?」
白井「今年に入ってからは会おうと思ってる日が合わなくて、だからずっとひとりで来てたんです」
智「・・・」
白井「夜は塾だ、日曜はバレエのお稽古だとかいってるけど、本当のところはね、十一歳だし、そろそろ父親がうざったくなる歳かもしれないなと」
桜庭「思春期か・・・」
白井「ええ」
智「難しいですね」
白井「まあ、でも、電話してみようかな」
智「?」
白井「妻に。ちょうど明日は会う日に当たってるんです。」
桜庭「明日は平日だろ?」
白井「!」
桜庭「厳しいんじゃないの?」
智「桜庭さん」
白井「・・・私だけで見にこようかな・・・」
智「・・・」
白井「うん。明日は私だけでいきます」
智「・・・」
桜庭「切符のことは売店の女に俺からいっとく。名前は・・・」
白井「白井です」
桜庭「OK。」
白井「それじゃ」
白井、ハケようとする
そのとき
智「ぜひ電話してあげてください!」
白井「え・・・」
智「電話・・・電話してあげてください!」
白井「!」
智「確かに娘さんにもいろいろ重なってるかもしれません。でも・・・でも娘さんほんとは、電話を・・・待ってるかもしれない」
白井「・・・」
智「なんかそんな時期ってないですか?あまのじゃく的に本心を見せないっていう」
白井「・・・」
桜庭「ただこっぱずかしいだけだろ?」
智「それもあります。それもあるんですけど、感謝とか、時には愛情とか・・・なんだか・・・わかんないけど・・・うまく、こう、表にだせないとき・・・」
白井「・・・」
智「俺もずっと・・・そうだったから・・・父さんに・・・」
白井「・・・」
智「電話してあげてください。」
白井「・・・」
智「話してください。いっしょにいらしてください」
白井「・・・わかりました」
白井、携帯を取り出し、話しながらハケる
桜庭「大丈夫なのか?」
智「?」
桜庭「おれは責任もてねえぞ」
智「さあ、チラシ配りしましょう」
桜庭「・・・」
智「(大声で)こんばんは!シネマ藤岡です」
桜庭「シネマ藤岡です!シネマ藤岡祭りやります!」
ふたりは配り続ける
○挿入 2007/07/06
チェンジ
休憩室
それを見ている三橋
そこに玲子はいってくる
三橋、気づかない。
玲子「満員にしたいんです」
三橋「(玲子を見て)」
玲子「あたしたち。」
三橋「・・・」
玲子「外はずっと暑いんです。あのひとたちは汗をいっぱいかきながら必死でチラシを撒いてる」
三橋「・・・」
玲子「普通の人が見たら、ただのばかに見えるかもしれません。でもそれだけいっしょうけんめいだってことです。」
三橋「・・・」
玲子「いっしょうけんめいなときは、人間、バカにならなきゃ」
三橋「・・・バカに・・・なる・・・」
玲子「あたしは、頭よくて冷静な人より、熱いバカが好きです。」
玲子、倉庫に入って
玲子「(声のみ)なにしにいらしたんですか?」
三橋「!」
玲子「(声のみ)うちらのこと、やっぱ気になったりとか?」
三橋「わ、忘れ物とりにきただけです!」
三橋、あわてて地図を取る
玲子出てきて
玲子「あれ?それってもらえるもんじゃないんですか?」
三橋「このあと会議で使うんです」
玲子「いいじゃんパンフなんだから」
三橋「社外秘なんです」
玲子「けち~」
そこに電話
三橋「(電話)総一郎です・・・あ、先輩・・・今から下に降ります」
玲子「忙しいですね」
三橋「(電話切って)おかげさまで盆休みももらえなさそうです」
玲子「そうなんだ・・・」
三橋「玲子さんはどうですか?」
玲子「あたしは休みなんていりません」
三橋「?」
玲子「休んじゃうとね、なんか逆にどきどきしちゃうんですよ。週一の休みの日でも、ああ、コーラのボトル切れてないかなとか、キャラメルの在庫どんくらいだっけとかってね」
三橋「僕と同じだ」
玲子「え」
三橋「ずっと仕事のことが頭から離れない」
玲子「不思議ですよね。キャラメルとコーラしか売ってないんだけど」
三橋「為造さんの意見に縛られないでもっと増やせばいいのに」
玲子「あたしもそれ言ったことあるんです。でもね、たった二個のアイテムなのにけっこう管理が大変で」
三橋「そうなんですか」
玲子「ほら今もね、売り場に切らしちゃったから面倒くさいけどもってかなきゃならないんです。そうかと思えば倉庫に余らせちゃったり。そういう意味でいうとあの二個でちょうどいいのかも」
三橋「やっぱり好きなんですね」
玲子「そうねえ、そうなっちゃうのかなあ」
三橋「僕もこの仕事にすべてかけてます」
玲子「・・・」
三橋「玲子さんは明日は満員になると思いますか」
玲子「もちろん」
三橋「・・・」
玲子「(窓を見て)あの人たちもバカならあたしもバカですから」
そのとき玲子
ふらふら・・・そして
倒れる!
三橋「玲子さん?」
玲子は動かない
三橋「玲子さん!玲子さん!」
三橋脈などを見るそして携帯を取り出す
三橋「(電話)もしもし!救急をお願いします。えっと場所は、駅東口、一階に松屋があるビルの四階、シネマ藤岡です!」
三橋、電話切る
三橋「玲子さん!玲子さん!」
外では、ふたりが必死で配る
智「(上を向いて)ん?」
桜庭「おい、さぼるなよ」
智「雨ですね・・・」
雨の音
桜庭「(天に向かって)負けねえぞ・・・」
智「(天に)ええ・・・」
桜庭「シネマ藤岡です(繰り返し)・・・」
智「シネマ藤岡祭りやります!(繰り返し)・・・」
そのとき、救急車の音がする
智と桜庭、配りながら何気なく、その方向を見る
救急車が止まる
智「止まった」
桜庭「(車を見て)ん・・・?」
智「珍しいですね」
桜庭「松屋で誰か肉でも喉につまらせたか?」
そのとき智の携帯がなる
智「(電話)もしもし・・・ん、総一郎さん?・・・え?」
桜庭「?」
智「・・・今行きます!」
智、ダッシュではけようとする
桜庭「まだ配り終わってねえぞ!」
智「(振りかえって)玲子さんが・・・」
桜庭「?」
智「戻りましょう!」
ふたりダッシュではける
暗転
第四章
明転
まず、桜庭が入ってくる
客席を見渡していく
場内をぐるりと一回りする
そこに智が入ってくる
智「(見渡して)」
桜庭「けっこうはいってるな」
智「ええ」
桜庭「あとはこの前の席の分、四人だ」
智「・・・」
桜庭「どうした?」
智「本当にすいません・・・」
桜庭「・・・」
智「玲子さんが倒れたことはおれにも責任があるかもしれません」
桜庭「気にするなって」
智「でも」
桜庭「いやね、おれも、今日は玲子のそばにずっとついてやるっていったのよ。」
智「・・・」
桜庭「そしたら、バシッてな」
智「・・・」
桜庭「これだけ泰輔のほっぺたを殴る力があるから大丈夫なんだって・・・」
智「玲子さん・・・」
桜庭「玲子なりに気にしてるんだ。」
智「・・・」
桜庭「玲子のぶんもがんばろう」
智「ええ」
そこに
三橋来る
三人、目を合わせる
三人「・・・」
桜庭「礼をいってなかったな」
三橋「いいですよ・・・」
桜庭「・・・」
三橋「救急車を呼んだだけですから」
桜庭「・・・ま、ありがとうな」
三橋「あれから大丈夫ですか?」
桜庭「うん・・・」
三橋「そうですか」
桜庭「ああ」」
三橋、中を確認する
二人「・・・」
三橋「(確認してから)失礼します」
桜庭「おい」
三橋「・・・」
桜庭「勝負はまだ決まってねえぞ」
三橋「空席がそこにあります」
桜庭「上演まであと少しはあるんだけど?」
三橋「無理でしょう」
桜庭「なんだと?」
三橋「平日な上に外は雨です」
智「総一郎さん」
三橋「・・・」
智「おれね、やっとあのふたつの意味がわかったんです」
三橋「・・・」
智「映画を見るときって、必ずちょっと心が緊張してるときがあるでしょう。物語の面白さにわくわくして、そしてどきどきしてる。
それをまず、このキャラメルが口の中にはいって一緒になって口の中でほぐしていきます。
そしてコーラ。甘ったるくなりすぎた口の中を強烈な炭酸の泡がぱーっと吹き飛ばしてくれる。泡の刺激が同時に適度な緊張感になることで映画を見るための集中力をとめさせないんです」
三橋「まるで料理評論家みたいですね」
智「気取ってしまいました」
三橋「・・・」
智「本当に映画が好きな人間は、雨が降ろうが、嵐になろうが絶対きます」
三橋「・・・」
智「すでにこれだけ多くのお客さんが来てくださってるんです。この映画館を好きな人もこのあと絶対に来る」
三橋「・・・」
智「おれはお客さんを信じます」
三橋「どうぞ」
智「・・・」
三橋「このあと、ハミングバードシネマの先輩をお呼びしてあります。」
智「・・・」
三橋「いつもの休憩室、つかわせてもらってもいいですか。」
桜庭「いよいよ実力行使か」
三橋「智さんにお話があるんです」
桜庭「け!」
智「・・・」
そこに
玲子「は~、ひっどい雨だね」
三人「!」
桜庭「玲子・・・」
玲子「?」
三人「・・・」
玲子「どうしたんですか?みなさん?」
智「いや、だって・・・」
桜庭「おい!あれほど安静が必要だって言われたじゃねえか!」
玲子「うん。だから平田先生と喧嘩してきちゃった」
桜庭「え!」
智「ほんとに大丈夫なんですか!」
玲子「ちょっとふらふらするんですけどね、でも大丈夫」
桜庭「まったくもう・・・」
玲子「なに?あれほど、ここのためにがんばって出てきたっていうのにその態度はないでしょ?」
桜庭「それは玲子の体が心配だからさ」
玲子「あたしの体はあたしが一番わかります!」
桜庭「・・・」
玲子「まあでも、心配してくれてありがとう・・・」
智「本当にすいませんでした!」
ふたり「!」
智「玲子さんが倒れた件、おれが玲子さんを週六で働かせたのが悪いと思うんです」
玲子「あ、いや・・・」
智「今度、新人を募集しようと思うんです。二人体制になれば、玲子さんもしっかり休めるし」
玲子「あ、それはだって、あたしが働きたくて働いてるから大丈夫なんですよ」
智「え?」
玲子「休みがとれるのはそれはそれでありがたいんですけど・・・」
智「もっと休んでいいんですよ」
玲子「働かせてください!」
智「え?」
玲子「お金が・・・最強に必要なんです」
智「あ、入院のお金だったら保険を使えばいいじゃないですか」
玲子「できちゃったんです!」
桜庭「!」
智「はい?」
玲子「だから!赤ちゃんがいるんです」
智「!」
桜庭「おい!だって前は疲労だっていわれてたじゃねえか!」
玲子「いや、平田先生とこの看護士さんに聞いたらさ、西口って施設ばかり良くって、実はヤブなんだって」
桜庭「ヤブ?!」
玲子「そう」
三橋「え!僕も風邪ひいたとき昨日のとこで見てもらいましたよ!」
桜庭「ああ、だからこんなに頭になっちまったんだ」
三橋「どういうことですか!」
智「まあまあ、で、働きたいっていうのは本当ですか」
玲子「ああ、この子に聞かせたいんです」
智「?」
玲子「ホールの隙間から漏れてくる映画音楽とかを台詞とかを。将来、映画が好きな面白い子供になるって思うんです」
智「・・・」
玲子「あとは働いてて楽しいところが好きなんです」
智「・・・」
玲子「いろんな人に会えるし、働いてればただで映画も見れるし」
ふたり「・・・」
玲子「ま、それは冗談だけど、今がすんごく、楽しい」
智「玲子さん・・・」
玲子「もう少し・・・ここで働かせてください」
智「こんなところで・・・よければ・・・」
桜庭「やったな!(玲子を強く抱きしめる)」
玲子「うあ!そんなにやったら赤ちゃんつぶれちゃう!」
桜庭「ばか!こんなんにもつぶれないくらいの子供じゃねえと、おれの子だって認めねえ!(強く抱きしめる)」
玲子「うあ~」
桜庭「よくやった(強く抱きしめる」
智「無理だけはしないでくださいね」
玲子「臨月すれすれまでがんばんないと」
智「はい!」
玲子「ついでにレジ金の過不足も水に流していただければ(助かります)」
智「無理です」
玲子「ぶー」
三橋「おめでとうございます」
玲子「ありがとうございます」
三橋「ここではなく、新しい映画館でぜひがんばってくださいね」
玲子「はい?」
三橋「見てください」
玲子「(空席を見て)ん?ああ、そうだ、いけねいけね・・・」
三橋「?」
玲子、バッグから財布をごそごそ
玲子「(千円を出して)大人一枚ください」
三橋「!」
智「はい?」
玲子「大人一枚(千円札をひらひらさせる)」
ふたり「・・・」
玲子「総一郎さん」
三橋「・・・」
玲子「あたし、今日はお客さんとしてきたんですよ」
三橋「・・・」
玲子「(桜庭に)はい、パパになる銀座仕込みの受付さん、よろしく!(千円札を渡す)」
桜庭「お、おう、毎度あり」
桜庭、千円札を持つといったん、ハケる
玲子座る
三橋「あまり好ましくない手ですね」
玲子「固いこと言わないでくださいよ」
三橋「従業員なはずなのに」
玲子「従業員の前に、あたしも人間です」
三橋「・・・」
玲子「人はいつだってお客さんになれますから」
そこに
白井がやってくる
智「ようこそ、白井さん」
白井「あやうく残業になるところでした。」
智「ありがとうございます」
三橋「遅いですよ、先輩」
智「せ、先輩・・・?」
白井「・・・」
三橋、白井の隣に立つ
三橋「(白井に)ご紹介します。シネマ藤岡オーナーである藤岡智さん」
白井「どうも・・・」
智「・・・」
三橋「(智に)こちら、ハミングバードシネマの白井健二さん」
智「・・・」
白井「よろしく・・・」
三橋「僕の先輩です」
桜庭戻ってきて
桜庭「(玲子にキャラメルとコーラ渡しながら)あいよ!」
玲子「泰輔!」
桜庭「(かまわずに白井を見つけて)おう変人」
白井「こんばんは」
桜庭「あれ?娘さんは?」
白井「!」
智「桜庭さん!」
白井「昨日あのあとね、妻にこっぴどく怒られましたよ」
ふたり「・・・」
白井「今日はね、娘の塾のクラス替えテストだそうで」
桜庭「塾でもクラス替えなんてあんのかよ?」
白井「今日のこのテストでAクラス入りしないと、第一希望の学校は無理なんだそうです」
桜庭「第一希望ってのは、親の希望だろ?」
白井「どうでしょうかね」
桜庭「子供はいつまでも無視されるんだよ。そうなっちまうと俺みたいな、でくの坊が生まれる」
白井「・・・」
桜庭「うちは生まれたら好きなように育てるぞ!なあ玲子?」
玲子「ちょっと(空気を読んで)!」
智「桜庭さん、白井さんってハミングさんとこの方だったんです」
桜庭「へ?」
白井「映画館が好きなのは本当です。だからこの仕事に就いたんです。」
桜庭「自分のところで見りゃいいのに」
白井「西口はね。私がお偉いさんなもんだから変に気を使って、落ち着いて見られないんですよ。そのぶん、こっちは落ち着いて楽しむことができた。」
玲子「名刺でももらわない限り、西口の人だなんてわかんないですもんね」
桜庭「ただのバツイチ映画館好きだと思ってたもんな」
白井「ああ、申し訳ないです」
白井、改めて、名刺を渡す
シネマ藤岡の三人名刺を受け取る
白井「改めまして、オーナー」
智「はい」
白井「残念ながら今日は客ではありません」
智「・・・」
白井「この映画館はまだまだ伸びるところがある。それに私も東口の住人です。この住宅圏は我々にとって絶好の商圏なんです。」
智「・・・」
白井「お互いの利点を生かして、新しい映画館作りをしていくためにもぜひお話をしたいのです」
智「・・・」
三橋「そろそろ上映時間ですよね?」
智「・・・ええ」
三橋「智さん、休憩室に」
智「・・・」
三人、はけようとする
玲子「あの!」
三人止まる
玲子「もうちょっと、待ってもらえませんか?」
三橋「あきらめてください」
玲子「だってほんのちょっと時間あるんですよ」
三橋「あと三人なんてむりですよ」
玲子「そんな・・・」
桜庭「おい変人」
白井「・・・」
桜庭「映画ってのはな、ここの中でしか映画っていわねえ。ビデオだDVDなんてのは映った時点であれはテレビだ。それくらいわかるよな」
白井「ええ」
桜庭「シネコンは音も画もいいんだろうが、売ってるポップコーンとおんなじ軽いスナックみてえなもんだ。重みがないんだ。」
白井「それはあなたの勝手な思い込みじゃないですか?」
桜庭「思い込みなんかじゃねえ!」
白井「・・・」
桜庭「ネコも杓子もドヤドヤ入ってきたら、せっかくの感動も全体的に薄まっちまう。」
白井「・・・」
桜庭「感動ってもんは生き物だ。うちでたくさん見てるあんたが一番わかってるはずだ、ボロくて、ちょっとくらい敷居が高えシネマ藤岡で見たからこそ、心が動かされるんだよ!」
白井「・・・」
桜庭「今逃がしたら一生あの感動は戻ってこねえ」
白井「・・・スナック菓子も、ときにはいいもんですよ」
桜庭「!」
白井「主食もおいしいかもしれないが、三時のおやつもうまいでしょう?」
桜庭「おい!」
白井「行きましょう」
三人今度こそはけようとする
三人止まる
桜庭「なんのためにがんばったんだ・・・」
三人「・・・」
桜庭「信じようぜ、なあ!あと三人!三人くることを!」
玲子「絶対きますって!」
智「・・・」
玲子「智さん!」
智「玲子さん」
玲子「・・・」
智「・・・座ってください」
玲子「でも」
智「上演時間です」
玲子「・・・」
智「桜庭さん」
桜庭「・・・」
智「映写室へ」
桜庭「おい!」
智「仕事ですよ」
桜庭「負けを認めたのかよ」
智「早く!」
桜庭「ぼっちゃんは!それでいいのかよ!」
桜庭、エプロンを力強く床にたたきつける
智「(ため息)」
ふたり「・・・」
智「(三橋、白井に)ここでちょっと待っててください」
智、はける
玲子「智さん!」
智は完全にはける
桜庭「くそ!」
玲子「どうしよ、どうしよ」
桜庭「おう、そうだ、おれが映写機のスイッチを押さなきゃはじまんねえんだ。」
玲子「それ!ちょっとくらい時間のばそう!」
白井「お客様に失礼じゃないですか?」
桜庭「うるせえな!」
三橋「桜庭さん」
桜庭「この成金息子め!」
三橋「新しいところでは映写のリーダーになってもらいますから」
桜庭「ふん」
三橋「玲子さんも売店のリーダーになっていただく予定です」
玲子「ふん!」
三橋「・・・」
白井「私からもお願いします」
二人「・・・」
智、キャラメルとコーラを持ってイン
智「お待たせしました」
三橋「(休憩室にいきましょう)それでは」
智「あ、ちょっと」
三橋「え?」
智「せっかくですから(コーラをキャラメルと置きながら)お客さんに話をしたいんです」
三橋「終わってからでもいいんじゃないですか?」
智「閉館のお話をおれの口からさせてください」
三橋「・・・」
白井「どうぞ」
三橋「先輩」
白井「いいじゃないか。」
三橋「・・・」
白井「聞かせていただきましょう」
智「ありがとうございます」
智、大きく息をついて中央に歩いていく
智「(客に)ええ、先ほどからこんなお客さんの前でずっとお騒がせして本当に申し訳ございません」
客「・・・」
智「本日は当劇場、シネマ藤岡祭りにお越しくださいまして、まことにありがとうございます。
今日なぜお祭りになったのかということなんですが・・・開館記念日だったりして?・・・なんて、それは実は十一月三日なんです・・・。
あの、特に、別になんでもないんです・・・・なんでも・・・いや・・・本当は、それを皆様に教えるのを、後にしようと思っていたんです。
でも、この際だからいいます。
シネマ藤岡は今度の十一月三日で三年目を越えて四年目に・・・行かずに・・・ここを終わることにしました」
みんな「・・・」
智「さっき、決めました。この件に関してお客様に周知徹底してこなかったこと、心よりお詫びもうしあげます。申し訳ございませんでした」
智、深々と頭を下げる
智「これからは、新しい映画館で・・・生まれ変わって帰ってきます。スクリーンも十個あるみたいだし・・・売店のメニューも増えます」
玲子「智さん!」
智「・・・」
玲子「いらない・・・いらないし・・・売れないですよ・・・そんなにたくさん・・・」
智「・・・」
玲子「キャラメルとコーラだけで・・・あたしは・・・いい!」
桜庭「俺だって一気に十個なんてまわせねえぞ!」
智「おふたり!」
ふたり「・・・」
智「ありがとうございました・・・」
ふたり「・・・」
智「シネマ藤岡のために・・・そして俺のためにここまで・・・」
玲子「智さん・・・」
桜庭「くそ・・・」
智「(みんなに)失礼しました。ぜひ、また笑顔で、お越しください。今日はどうもありがとうございました!」
智、深々とおじぎする
白井、拍手する
三橋も拍手する
おじぎをした勢いの智、そのまま懐にあるコーラとキャラメルを一セット持つ
そして
智「(白井に渡す)楽しんでくださいね」
白井「!」
智「お座りなってください。いつものように」
白井「どういうことですか!」
智「今日は確か、白井さんの入場料って桜庭さんの給料から天引きなんですよね?」
白井「!」
桜庭「お!お、そうだ!」
智「受付はすでに済んでるってことなんで、どうぞ(座って下さい)」
三橋「ちょっと待ってください!先輩は仕事の話をしにきたんですよ!」
智「そうみたいですね」
三橋「そうみたいですねって・・・お客さんなわけないじゃないですか!」
智「人は誰でもお客さんになれるんですよ!」
三橋「!」
智「キャラメルとコーラを持ったらその時点でお客さんだ」
白井「・・・」
智「ね?玲子さん?」
玲子「あたしの・・・受け売りですか?」
智「使わせていただきました」
玲子「ったくもう(笑)」
白井「お客さんですか・・・」
智「ええ」
白井「ここに入ったときから、私もお客さんだったんですね」
桜庭「お客さんどころじゃない、あんたは変人の常連だ」
三橋「失礼ですよ!先輩に!」
白井「いや、いいんです。確かに変人の常連だ」
白井、一セットもって、玲子のそばに座る
玲子「ようこそ!シネマ藤岡へ」
三橋「先輩!」
白井「三橋君」
三橋「・・・」
白井「どきどきしてきたよ」
三橋「!」
そういって、コーラを飲む
白井「なにが始まるか・・・楽しみになってきた」
三橋「そんな・・・」
今度は三橋に一セットを差し出す
智「さあ、どうぞ」
三橋「!」
智「御代はは俺の給料から天引きしときます」
三橋「・・・」
智「お話は、この作品が終わってからお聞きします」
三橋「・・・」
智「さあどうぞ」
三橋「お断りします!」
智「・・・」
三橋「智さんがオーナーの仕事をするように、僕も全うしなければならないんです」
智「・・・」
三橋「僕はお客さんじゃない!」
そのとき、三橋の携帯が鳴る
桜庭「ったく!上映の前に切っとけ!」
三橋「(かまわず電話に)はい・・・社長・・・」
桜庭「いよいよ大ボスのお出ましか」
三橋「(電話)ちょっといろいろあってハミングバードさんは降りてしまったんですが(といって白井を見る)」
白井「・・・」
三橋「(電話)なんとかこのあと話し合いにします。会議は明日にでも・・・え・・・」
みんな「?」
三橋「違うんです。それは・・・あ、遊びで賭けをしたわけではありません!・・・お父さん!聞いてくださいお父さん!・・・あ!」
三橋、電話をパタリと切る
智「?どうしました?」
三橋「・・・帰ってくるなといわれました・・・」
桜庭「ここを潰さない限り帰ってくるなってことか?」
三橋「違います!」
みんな「・・・」
三橋「クビに・・・なり・・・ました・・・」
みんな「!」
三橋「僕の今までって・・・(絶叫)なんだったんだ!」
怒りを体で表す三橋
そして、座り込む
智「電話かけなしてください。お父様の前でもう一度ここを好きなようにして開発する話をすればいい。」
三橋「ここを閉館するんですね?」
智「ええ」
そこに
智、さっとコーラをキャラメルを出す
智「電話でお父様と話をしたら、お客さんになってください」
三橋「・・・」
智「これから始まる『海の上のピアニスト』は男同士の友情の話です。」
三橋「・・・」
智「おれと総一郎さんって知り合って三年になるけど、友達ですか?それともビジネスライクな関係ですか?」
三橋「・・・」
智「わかんないですよね?だったら、この作品を見て、もう一度おれたちってなんだろうって考えてみませんか」
三橋「・・・」
智「下の松屋で牛丼でも食いながら、ね?」
三橋「智さん・・・」
智「やっとわかりましたよ。父さんがここを残した本当の理由」
三橋「・・・」
智「こういうときのために残したんだな・・・」
三橋「・・・」
三橋、携帯を取り出す
そして
三橋「(電話)もしもし総一郎です。社長を・・・」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総一郎です。社長・・・今一度、計画について僕の意見を聞いてください」
みんな「・・・」
三橋「シネマ藤岡をこのまま活用した上で考え直したい」
みんな「!」
三橋「(電話)・・・おっしゃることはよくわかります。でももう決めました、なぜなら僕が三橋不動産の総責任者だからだ!」
みんな「・・・」
三橋「(電話)総責任者としてシネマ藤岡は欠かすことはできないと判断しました。詳細は朝一の会議で。それと・・・ここからはあなたの息子として聞いてください。」
みんな「・・・」
三橋「(電話)今日は映画を見てきます。夕飯もこちらでいただいてきますので、お母さんにもよろしく伝えてください。では」
三橋、電話を切る
かばんからパンフレットを出す
そしてそれをおもいきりまっぷたつに破く
智「総一郎さん!」
三橋「お父さんに、生まれて初めて、僕の意見を通しました」
智「・・・」
三橋「(玲子に)これでいいんですよね?」
玲子「・・・おめでとうございます・・・遅い反抗期」
三橋「反抗じゃありませんよ」
玲子「やっと・・・自分になったんですね」
三橋「ええ・・・」
智「総一郎さん」
三橋「もうひとつ正直なこといっていいですか?」
智「・・・」
三橋「僕ね、映画館で映画を見たことなんてないんです」
智「!」
三橋「映画館なんて映画を写すことができれば、どこでも同じだと思ってました。だから智さんたちの気持ちがわかんなかったのかもしれません」
にやりと笑い、財布を取り出すそして千円を出して
三橋「大人一枚・・・ください」
智「・・・」
三橋「お金は智さんの世話になるほどじゃない」
智「・・・」
三橋「シネマ藤岡を生かしながら、新しい東口を考え直しますよ」
ふたり千円と二点セットを引き換える
智「ありがとう・・・ございます」
そして三橋座ろうとする
玲子「いらっしゃいませ」
桜庭「シネマ藤岡へようこそ」
智「ようこそ」
三橋「・・・」
智、うなづく
智「桜庭さん、お願いします」
桜庭「・・・」
智「桜庭さん?」
桜庭「お?」
智「時間押してますよ!」
桜庭「じゃあ、予告編をつまんじゃって本編からいくか」
智「それはだめです」
桜庭「だって押してるんだろ、時間?」
白井「予告編も含めて映画ですから」
智「そうです」
桜庭「ったく、じゃあ、最後の上映いってくっか!」
桜庭、エプロンをかぶりなおし
はけようとする
智「最後じゃないですよ」
桜庭「?」
智「明日も九時には来てくださいね」
桜庭「え?だって明日からは万作の野郎が(なんとかすんじゃねえの?)」
智「二人体制でいきますから」
桜庭「・・・」
智「おふたりと、万作さんと、新しい売店の人とがんばりたいんです」
玲子「智さん・・・」
智「おふたりあってのシネマ藤岡ですから」
桜庭「これで当分は俺も安泰だ。じゃあ、いつもの感じでいってくるわ」
玲子「いつもじゃだめ」
桜庭「なんだよ」
玲子「平常心で」
桜庭「かわなんないような」
玲子「ほれいってきなさい!」
桜庭「はいよ」
桜庭、はける
玲子「うあ、楽しみ。ひさしぶりだなあ映画をお客さんで見るのって」
三橋「どきどきしますね」
白井「お、わかってきた?」
三橋「ええ」
玲子「あ、智さん」
智「はい」
玲子「かなり時間が押してますから、お詫びのごあいさつを」
智「ああ、はい」
三橋「それと、さっきのスピーチの撤回をしてください」
智「・・・」
三橋「はっきりと」
智うなづく
桜庭、はける
智、舞台の中央に立つ
そして
智「時間押してほんとにすいません!まもなく!始めます!・・・終わりなんかじゃなく・・・ずっと時間を越えていくシネマ藤岡として、今日のお祭りをたのしんでください。」
お客たち、拍手
電気が落ちる
どんちょうがあく。
スクリーンに光が映る
そのとき
桜庭「(白井に)おい、変人」
白井「はい?」
桜庭「お客さんだ」
桜庭、入り口をさす
入り口から、白い光が漏れている
白井「!」
桜庭「塾のテストをさぼってきたんだそうだ・・・」
白井「・・・」
桜庭「お袋にあんたがこのことを告げ口しないっていうんなら、会いたいそうだよ」
白井「・・・みさ・・・」
玲子「かわいい名前ですね」
白井「いやそんなことは・・・」
玲子「顔を見にいってあげてください」
白井「・・・」
三橋「席は取っておきますから」
白井「三橋君・・・」
智「さあ・・・」
白井「はい・・・」
桜庭「足元悪いから、案内してやる」
桜庭、白井といっしょにはける
智、それを見送る
スクリーンには映画が映っている
音楽が高まっている
それを智、ずっと見ている
そして
智「父さん・・・ありがとう」
END
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