ナツノアカリ
登場人物
菊池靖:民宿「沢木」主人:富士河千之介
菊池澄江:民宿「沢木」女将:本多美智子
富田林十三(丸井正直):放送作家:大森一
工藤悦子:オフィスプレエンタ製作部職員:可奈恵
及川直也:「沢木」の隣の農家:石井雄大
福沢茂道:探偵:笠原大史
山本聡:探偵見習い:荻野大地
スタッフ
作・演出:富士河千之介
照明オペレーター:厚木智
音響効果オペレーター:加藤真由実
制作本部:本多美智子・佐々木律
舞台部:荻野大地・笠原大史・石井雄大
製作著作
3man Office制作本部
「ナツノアカリ」パートナーズ
序章
きっかけの曲
暗転
ひとつのあかりがつく
そしてひとつひとつ順番にあかりがついていく
うっすら明転する
石井「さあ、今日もラジオの前のリスナーもご一緒に!花畑ヨシヒロの」
全員「ナイトランデブー!」
(拍手)
石井「さあ今週もやってきました月曜一時ナイラン!あらためましてこんばんは花畑ヨシヒロです。今日はねえ神宮前の喫茶店に行ったんだけどね、そこのエスプレッソがおいしくてさあ、リスナーのみんなにも紹介したいなって思って。場所は、原宿から歩いて・・・」
ノイズ大きくなる
本多「靖?ねだか?」
靖「・・・」
笠原「どうした?」
佐々木「靖の部屋がべっこうるさくてなは」
石井「今夜も三時までねるんじゃねえよ!一曲めはこんどのニ五日に出る俺のシングル『夏の灯り』!よろしく聞いてね!」
大森「こら靖。そろそろ寝ろ。」
靖「・・・」
荻野「明日は大事な明かり祭りだぞ!はやくねろ!」
本多「靖?」
笠原「靖?」
佐々木「靖?」
石井「はい、今日一枚目のおはがきは鹿児島県の坊ちゃんから!ヨシヒロ兄貴こんばんは!今日は面白いことがあってさあ・・・」
大森「靖?」
荻野「靖?」
みんな「靖?」
暗転
またあかりがひとつひとつ動いてはけていく
靖「父さん・・・母さん・・・」
第一章
ここは岩手県沢木町
県庁所在地である盛岡の隣、山に東西南北を囲まれた盆地の小さな町である
町の住民のほとんどが老人である、典型的な地方の過疎の町である。
名物といえば町の南方にある、沢木山。
岩手山と姫神山と早池峰山の次に高いとされ、県内はもとより東北各県、関東などから登山する客で夏は軽くにぎわう。
特に頂上近くの九十度近い絶壁「太郎壁」は、国内の山の中でも難所と知られ、毎年死傷者を出すくらいであるが、山にあこがれる登山家たちはそこを愛し、怪我したとしてもずっと挑戦し続けるという。
そのふもとに山の神を祭った沢木神社があり、そこの近くに民宿「沢木」はある
盆も近づくある日
暗転中
澄江「ありがとあんした。気をつけてお帰りくなんせ」
明転
澄江が外で客を見送っている
頭を上げると部屋の中へ
そこにすでに先日から四日ほど泊まっている富田林があくびをしながらイン
澄江「おはようがんす」
富田林「おはよ・・・」
富田林、イスに座って新聞を読み始める
澄江「朝ごはんは召し上がりあんしたか?」
富田林「(読みながらあくびしながら)ああ」
澄江「あ、また朝までお仕事?」
富田林「ううああ・・・」
澄江「先生は偉えですなあ。徹夜してもあだしの作ったパン、召し上がってくださるから」
富田林「食べやすくていいよね。」
澄江「うれす!」(嬉しい)
富田林「あれがごはんと味噌汁と、しょっぱいシャケだったら俺は食ってないかも。」
澄江「どうも。あ、朝のおぼんは、ぺっこしたら、お下げいたしあんすから」
富田林「ぺっこ?」
澄江「岩手弁で、少し、って意味です」
富田林「ぺっこ、か。ちょっと面白いな(すぐにメモに書く)」
澄江「もう四日も泊まってらっしゃるんですから、そろそろあだしだちの岩手弁にも慣れてもらわねと」
そのとき旅行かばんを持って、工藤イン
工藤「ごめんください」
澄江「あんら!えっちゃん」
工藤「澄江さん、おひさしぶりです」
澄江「今けってきたの?」
工藤「ええ」
富田林「おれが呼んだの」
澄江「ええ!」
工藤「いまは富田林さんのところで働いてるんです」
澄江「じゃじゃじゃ!狭い世の中だあ」
富田林「おう、俺のいない間に東京で面白いこと見つけたか?」
工藤「あ・・・」
富田林「お前なあ、将来俺と同じ放送作家なりてんだろ?」
工藤「はい!」
富田林「リサーチとか図書館回りで大変かもしんねえけどさ、常におもしろいことを探すアンテナはってろ」
工藤「はい!」
澄江「センセイこごは東京じゃなくて岩手でがんすよ。ゆっくりしてくださればそれでよがんす」
富田林「人生限られた時間しかないんだよ?そんなにゆっくりしてられっかって」
工藤「あ、じゃあ、企画書たくさんかけました?」
富田林「いやあそれがさあ、ここの朝飯のパンがうますぎて脳みそがまったりモードになっちゃって無理!」
工藤「十分ゆっくりしてるじゃないですか!」
富田林「ああ俺はもうすぐ低視聴率作家になっちまうなあ。もう、女将と民宿のせいだな!」
澄江「人と場所のせいにしないでくなんせ!」
そこに
そのとき福沢、山本イン
福沢「こんちは」
澄江「あら、ようこそおでんした。」
福沢「東京からきた福沢です。」
山本「山本といいます」
澄江「はい~、どうぞあがって待っててくなんせ」
一旦澄江ははける
ふたり宿に入ってくる
入ったあとに、及川も来る。中に工藤がいるので、そこでじっと見ている
富田林「工藤、アイス食いたいな。コンビニいってかってきてよ」
工藤「先に言ってくださいよ!来る途中に買って来たのに。」
福沢「そういえばコンビニ見たの何分前だっけ?」
山本「ええとですね・・・」
福沢「それぐらい覚えとけよ」
山本「はあ・・・」(この間に、富田林、サイフからお金を出しておく)
工藤「そういうお客さんはどのくらいか覚えてますか?」
福沢「五分と見た。」
工藤「残念、歩いて三十分」
福沢「ふん、東京と違ってここまでタクシーで来たから、距離感覚が狂ってしまってるなあ」
山本「そうですね」
福沢「わかんなかったくせしてだまってろよ」
山本「はい・・・」
工藤「ちょっと!相方さんにひどいんじゃないですか?」
福沢「相方?こいつ年上だけど俺の部下だから」
工藤「え?」
山本「そうなんです」
富田林「(お金を工藤に渡して)ほい!三十分かけて買ってきて」
工藤「え?ああもう!」
及川「悦子!(ダッシュでイン)」
工藤「直也!」
工藤、及川を見ると猛ダッシュではける
富田林「(その背中に向かって)おいアイス!」
及川「悦子はアイスでね!」
富田林「え」
及川「悦子に手出すな!俺の嫁だ!」
富田林「よ、嫁?」
ここで騒ぎを聞きつけて澄江イン
澄江「なに言ってら!おめが昔やったことわかっでらの?」
及川「まだその話がよー」
そのとき
靖「直也!」
靖イン
及川「靖さん!」
靖「先祖代々の田んぼさ携帯のアンテナ立てて家賃で設けようっていうやつにえっちゃんは守れねよ」
及川「好きで立てたんでねよ!携帯の会社がどうしでもっていうがら!」
靖「兄貴のつめの垢せんじで飲め!」
及川「勝と比べるなじゃ!」
福沢「あのー」
靖「おお、いらっしゃい」
澄江「うぢの主人です」
靖「民宿『沢木』の靖でがんす。ようこそおでんした。ゆっくりしてってけで」
福沢「はあ」
山本「よろしくお願いします」
澄江「これ(宿帳)かいてもらえます?」
福沢「はい(受け取って山本に宿帳渡す)お前書いといて僕の分も」
山本「はい(受け取って、サインし始める)」
澄江「靖さん、あどお願いしますね」
靖「ああ」
澄江はける
及川「じゃ、おれもいぐべ」
靖「おめはんは行くな」
及川「ええ~」
チェンジ
チェンジ
ここは民宿沢木の台所
先に工藤がやってくる
澄江「えっちゃん」
澄江、ボウルを持って出てくる。中にはパン生地が入っている
工藤「わ!(口に手を当てて)シー」
澄江「大丈夫だ。こごは靖さんでさえ入らねえとごだから」
工藤「そうですか・・・」
澄江、作る用意をする
工藤「なにやってるんですか?」
澄江「明日のパンの仕込み(こねはじめる)」
工藤「へえ」
澄江「どこもかしこも民宿っつったらごはんばかりだべ?今どきはこういうのも用意しねとだれもこなぐなるがらね」
工藤「そうなんですか。でも今お昼ですよね?さすがに早くないですか?」
澄江「ほんどは(こねて)夕方からやんだけど(こねて)このあとうぢの親見舞いに中央病院さ行ぐから。あ、えっちゃんもういった?」
工藤「いや荷物置いてから午後から行こうかなって・・・」
澄江「いっしょにいくべ。先に中谷内(なかやち)の停留所の前さ待ってて。」
工藤「え?このまま車にのっちゃだめなんですか?」
澄江「靖さん、あまりあだしが中央病院さ行くの、よぐ思ってねみたい」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「みんな、殺されて、あだしとえっちゃんの親だけなんとか生ぎてるでしょ?だがら、あだしも気がひけてなは・・・。」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「だがらそっと行こう」
工藤「わかりました」
澄江「ちょっとやってみる?」
工藤「はい!」
工藤、手伝い始める
澄江「しっかりこねてけで」
工藤「はい」
澄江「中さパンをおいしくするための菌が入ってる。(こねる)こねて鍛えてやんだよ」
工藤「家庭科でやりましたよ。イースト菌とかが入ってるんですよね」
澄江「うん。でも岩手ってネットで見たんだけど名は、フランスに空気が似てるんだって。だがらイーストでなぐて、米殻作っ酵母をつがってる。」
工藤「へえ」
澄江「
澄江「でもまさがあの作家先生といっしょに働いでるなんてなあ」
工藤「高校卒業してすぐ東京さ行って六年くらいいっしょですね」
澄江「小学生が卒業しぢまうくらいの時間いっしょだなんて。小説とか大変そうだなはあ」
工藤「小説っていうか富田林さんは、放送作家なんです」
澄江「放送作家・・・」
工藤「テレビ番組の構成したりとか、裏方さんなんです。業界じゃ五本の指に入る人なんですよ」
澄江「売れっ子さんだなは」
工藤「ラジオのはがき職人から放送作家になった成り上がりで。今は毎日何本もレギュラー抱えてるんですよ」
澄江「そんたに忙しいのになんでこんたなとこさ?」
工藤「有休余っちゃってて、社長が気を使ってあたしがここを紹介したんです。」
澄江「ありがとね。」
工藤「あ」
澄江「なに?」
工藤「アイスかってこいっていわれてたんだった」
澄江「これ終ったらあだしがかってこよか」
工藤「いいんですか?」
澄江「うん」
工藤「じゃあ、あまえちゃお」
澄江「いいよ。下積み大変だなは」
工藤「勉強ですねえ」
澄江「男作ってるひまもないってが」
工藤「当分要りません。」
澄江「直也あそごまでさげるぐれだもんな」
工藤「・・・」
澄江「でも今二十四くらいだべ?もったいねなあ。いっそのこと、太郎壁さでも登ってみる?」
工藤「え?」
澄江「あれ?忘れた?」
工藤「沢木神社の裏の太郎壁ですよね?」
澄江「うん。あの絶壁の太郎壁を登って、夜十二時に頂上にたどりつげば、願い事がかなうって話」
工藤「おばあちゃんから聞いたことあるようなないような」
澄江「今はそんな言い伝えも忘れられて、スポーツ感覚で、登る人だちばっかり・・・(そのとき人の気配を感じる)ん
」
工藤「?」
澄江「直也が来る!」
工藤「え!」
澄江「逃げて」
工藤、寸前で逃げる
澄江「こら!入るな!」
及川、入り口から顔だけ出す
及川「なんでわかった?」
澄江「ばがの匂いしたがら」
及川「ばがでねよ~、悦子来なかった?」
澄江「家さでも、けったべ」
及川「つまんねなは。家さ行ってみようかな」
澄江「行くついでにアイス買ってきて」
及川「めんどくせじゃあ」
澄江「買ってきたら会えるかもしれねよ」
及川「ガリガリ君でいい?」
澄江「ほれ(お金を及川に渡す)さ、行った行った」
及川「ホームランバーのほうがいい?ねえ・・・」
そのとき
山本「女将さん」
澄江「あら?よぐこごがわかったこど」
山本「なんとなく探してたらたどり着きました」
澄江「怖えなあ。」
山本「これ書きました(宿帳を渡す)」
澄江「(受け取って)はいはい。あ、体でけえし、力持ちでしょ?。これはこぶの手伝って」
山本「はい」
山本はいってきて机を運ぶ
及川「はいオーライオーライ。ピピーピピー」
澄江「直也!」
三人はける
チェンジ
チェンジ
澄江「はい(中身見て)あら、探偵さん?」
靖「探偵?」
山本「ああそんなたいそうな(ことはやってないです)」
福沢「(さえぎって)そうなんですよ。ほら今あの事件懸賞かかってるでしょ?」
靖「!」
澄江「ああ十五年前の?」
福沢「そうです。あと三日で時効でしょ。我々が真犯人をつきとめてみせます!」
澄江「じゃじゃじゃ!よくやりますねえ」
富田林「これだ!」
福沢「え?」
富田林「ああおれ、こういうのやってるんです(名刺を福沢に渡す)詳しく聞かせてもらえません?」
福沢「十五年前にこの沢木町で起きた殺人事件なんだけど(それはね、むかしむかし」
靖「澄江、宿帳」
澄江「はい・・・」
靖、宿帳を受け取ると、山本が書いた帳簿を抜き取る
そして丸めて福沢に投げつける
福沢「!」
靖「けれ」
福沢「はい?」
靖「けれ!」
福沢「え・・・」
澄江「『帰れ』って・・・」
福沢「え」
靖「賞金目当てで、来るバカはけれ!」
富田林「だんなさん、それはいくらなんでもいいすぎじゃねえの」
靖「おめはんも面白がってだな。宿変えるか」
富田林「え」
澄江「靖さん」
靖「どうせ金目当てだべ!ほれ!駅まで送ってってやる。裏さ軽トラとめてあっから」
福沢「やだよ。本気で来てやってるのに」
靖「親殺されたごともねくせに!」
全員「!」
靖「親なしでこごまで来た人生わがるのすか!」
澄江「靖さん!」
福沢「ちょっと待って」
靖「?」
福沢「だんなさんはあのときの・・・被害者なの?」
靖「!」
福沢「こりゃちょうどいい。ぜひ十五年前のこと聞かせてよ」
靖「・・・うるせでや!」
靖、はける
福沢「だんなさん!」
澄江「ああ、おもさげねがんす!これ以上聞かねでけろ!」
福沢「せっかくいい聞き込みになると思ったんだけどなあ」
山本「とりあえず荷物部屋に置いたら外に行きましょう」
福沢「勝手に仕切んなよ!」
山本「すいません」
富田林「で、どういう事件なの?」
福沢「今から十五年前の今頃、この沢木町の大人たちがいっせいに殺されたんです」
富田林「え?」
福沢「(手帳を見ながら)一夜のうちに、二二四人の大人たちがほぼ即死、二組だけ、かろうじて命だけは助かったんですが、かなりの重傷で」
富田林「そんなに・・・」
山本「ええ。当時は新聞一面や全国ニュースとかにも載ったんですよ。覚えてないですか」
富田林「ぜんぜん」
福沢「ええ?なにやって生きてたの?」
富田林「十五年前?高校生んときってこったろ?うーん、『ナイラン』しか頭になかった」
福沢「ナイラン?」
富田林「知らない?ラジオ、月曜深夜一時の」
福沢「あ、ま、まさか!」
ふたり「『花畑ヨシヒロの!ナイトランデブー!』
福沢「聞いてましたよ!僕の青春のバイブルですよ」
富田林「おれ、『ナイラン』のはがき職人だよ!」
福沢「ぺ、ペンネームは!」
富田林「『坊ちゃん』!」
福沢「神だ!常連の王様じゃん!」
澄江「あのひらがなで『くれおぱとら』って知らねすが?」
富田林「え、じゃんけんコーナー十週連続で勝ちこして・・・」
福沢「賞金百万もらったクソ強い女だったような・・・」
澄江「『ふぐイルカじゃんけん』!」(河豚海豚じゃんけん)
福沢「へい、ふぐ!」
富田林「あ!いるか!」
澄江「じゃんけんぽい」
みんな出すが、澄江が勝つ
男ふたり「まさか・・・?」
澄江「わ・だ・し」
福沢「うそ!」
澄江「花畑ヨシヒロの!」
三人「ナイトランデブー!イエーイ」
澄江「まるでリスナーの同窓会みでえですなあ」
福沢「お前は聞いてた?」
山本「『草柳シンのアメリカントップ一○○○』なら・・・」
福沢「古!」
澄江「ナイランの裏番組じゃねすか」
山本「僕にとっては面白かったんですが・・・」
福沢「お前ほんとからみづらいよな」
山本「すみません」
富田林「いや、でも三人も集まるなんて運命感じるよね。」
澄江「ほんどすなあ」
富田林「ヨシヒロがいなかったら俺は今の職業についてなかったし」
福沢「そうなの?」
富田林「うん、東京から急に鹿児島の実家に電話かかってきて、汽車賃局持ちで東京に行ったら、ヨシヒロが『おめえ、おもしれえから、作家になんねえ?』て誘われて」
福沢「すげえ!いいなあ」
靖「楽しそうだなは!」
靖イン
澄江「靖さん!」
靖「おめも浮かれでたな」
澄江「すまねす、ちょっとおもしろぐて」
靖「おめだぢ・・・うがれすぎだ」
手に猟銃が握られている
福沢「(それを見て高音で叫ぶ)
そして一目散に遠いところに逃げる
靖、追いかける
靖「これでも俺がら聞きてってが」
福沢「(叫びながら逃げる)」
靖「あ?これでもが!」
福沢「助けて!」
そのとき
山本、靖と福沢の位置に入り制する
靖「どけ!」
山本「(立ったまま)申し訳ございません!(ここで土下座して)本当に、申し訳ございませんでした」
福沢「お前出過ぎた真似すんじゃないよ」
山本「(かまわず)被害者の方とも知らず、うちの福沢のご無礼お許しください」
福沢「お前!ふざけんなよ!」
山本「福沢さん、謝りましょう」
福沢「なに!」
靖「おめはん」
山本「はい・・・」
靖「おめはんも、金目当てじゃねのすか?」
山本「決してそんなことは・・・」
靖「なに!」
そのとき
及川「大変だ!」
いきせききって及川イン
福沢「だれだよ!」
及川「(息切れ)あ、アイス」
富田林「なんでお隣さんが俺のアイス買ってくるの?」
及川「おめはんのアイスだてが!」
富田林「なんだかよくわかんないけどありがとう」
及川「どういたしまして・・・って我で買いに行けじゃ!」
澄江「直也!なにした!」
及川「今、あかり祭りの委員長とたまたまあっで聞いだんだけど」
澄江「委員長?ああ、布団屋が」
及川「そう、袖子田さん。明かり祭りの『カミコ』役・・・」
澄江「ああ」
及川「澄江さんさ・・・決まっだど」
澄江「は!」
靖「なに!」
及川「やべ!また靖さんいるの?!」
靖「なあ、あだりまえだけど、断っでくれだんだなは?」
及川「・・・」
靖「断っだよな?」
及川「断れねす!」
靖「バカ!」
及川「俺が決めたんでね!神社の三上さんが、神の言葉で聞いだんだど」
靖「三上さんが!」
及川「んだ」
靖「じゃじゃじゃ・・・」
澄江「靖さん・・なんじょにすべ・・・」
靖「・・・」
富田林「あの、なにがあったの?」
及川「ああ、あさって、沢木神社で十五年に一度のお祭りがあるのす」
富田林「十五年に一度の祭り?」
澄江「明かり祭り」
富田林「楽しそう」
靖「人殺し祭りな」
富田林「え!」
靖「その祭りの夜に・・・うちらの親たち・・・みんな殺された・・・」
福沢「あかり祭りは近隣の人たちも、ましてや全国的にも知られていない、秘祭奇祭の類のひとつだそうですね」
みんな「・・・」
福沢「ある民俗学者の本にそう書いてありました。僕はその祭りの中のなにかにも、殺しにつながる秘密があるんじゃないかとみています。ニ二四人も殺す、なにかが・・・」
及川「ん~とそれはなは・・・」
靖「だまってろ・・・」
福沢「なに隠してるんですか?」
靖「なにもね」
福沢「答えてください!」
靖「なにもねよ」
及川「澄江さん?カミコぐれえなら、そっていいんじゃねすか?」
澄江「ばが!」
富田林「カミコってなに?」
靖「知らなくていい話しだ」
福沢「知りたい話だ」
及川「ああもう!祭りの最後さ神様が人間さ移ってお言葉をそうの!」
澄江「直也・・・」
及川「すまねす・・・」
福沢「なるほど」
富田林「いたこみたいなもんだね」
靖「いっしょにすんな!」
富田林「!」
靖「こごは岩手だ。沢木村だ。恐山といっしょにすんな!」
富田林「すまん・・・」
靖「カミコは神様じゃね・・・人殺しの・・・悪魔だ・・・」
みんな「・・・」
靖「十五年に一度の、悪魔を喜ばせる祭り・・・それもその役が・・・なんで澄江さ・・・・なんでそっただのやらなきゃならねんだ!」
澄江立ち上がると
澄江「三上さんところいって、断ってくる」
及川「だめだじゃ!一度決まったら変えられねよ!」
澄江「無理だじゃ!」
そのとき
工藤「(息を切らせて)大変です!」
澄江「今度はなんちょした?」
工藤「神社のご神体が・・・なくなったって!」
及川「はあ?」
工藤「ないって!」
及川「困るでや!ご神体ねば、澄江さんがやる『カミコ』に神様移ってこねじゃ!」
暗転
第二章
暗転中に
富田林「(電話。声のみ)あ、おはようっす。富田林っす。あのカメラとD、なんとかななんないすか?」
(D→ディ。ディレクターのこと)
明転
富田林、応接間で電話してる
社長「(声の出演のみ)無理無理。ねえデントンちゃん、あんた今日何の日だかわかってる?」
富田林「えっ・・・」
社長「ヨンパチよ、ヨ・ン・パ・チ」
富田林「そだ!あちゃ~四八時間テレビかあ・・」
社長「デントンちゃん、テレビみてないの?」
富田林「見てるんすけどこんなクソ田舎で仙人みたいな生活やってたら、東京の流れに追いつけないですよ」
社長「あ!まるであたしが岩手なんかに行かせたのが悪いみたいな言い草じゃないの!」
富田林「冗談すよ。で、なんとかカメラマンだけでも無理すか?」
社長「みんなお台場とか全国に散らばってんのよ。企画書出したわけじゃないしできるわけないじゃん」
富田林「二日間も生放送やってるわけっすよね?そこで緊急生激撮!時効寸前まで完全密着!どうすか!数字見えてくるじゃないすか!」
社長「うちはバラエティを作る会社なのよ。そこまで本気でドキュやりたいわけじゃないし(それにあんただけよ)」
富田林「あ、お台場のPはだれすか?電話してかけあってみます。」
社長「お台場は国立さん」
富田林「国立っちゃん!OK!おつかれっす」
社長「あもしもし!もしもし」
富田林、一気に電話を切る
急いでかけなおして
富田林「しもしも~?おつかれちゃん国立っちゃん。」
国立「おう富田林、なに?」
富田林「あのさ、今岩手にいんだけど、十五年前にここで起きた大量殺人事件って知ってる?」
国立「ああ俺が報道いたころハイパーニュースで特集組んだ。事件当時二十歳以下だった町の生き残りの中に犯人がいるって県警が調べたんだけど見つかんなくてだめだった」
富田林「どうせ初動捜査が『ずさん』だっただけだろ?」
国立「うん。見事にみんなアリバイがあってね。ついには隣の盛岡や滝沢,、雫石の要注意人物にまでローラーかけたんだけど『お宮』いりになっちゃったんだよね」
富田林「俺その岩手に今いんだけどさ、ヨンパチで時効まで密着ってどう?」
国立「なるほど、いいね」
富田林「よっしゃ食いついた!こっちもグッドタイミングでさあ、犯人を絶対捕まえてやるっていうコナンみてえな探偵とさ、容疑者呼ばわりされてる男いんだよ!」
国立「わかった。すぐ企画書メールして」
富田林「んなの今から書いたら時効切れちゃうよ!国立っちゃん元報道局だろ?なんとかしてよ!」
国立「俺はPだけどさあ、さらに上がなんっていうか。」
富田林「相変わらず優柔不断だなあ」
国立「Pよりも偉いやつがたくさんいんだよ。そんな生中継してほしいなら、ネット局の岩手わんこそばテレビにかけあってみてよ」
富田林「それじゃわんこそばテレビの得にしかなんないよ。カメラだけでも送って」
国立「ええ?じゃ、そこの住所教えてよ」
富田林「じゅ、住所?」
国立「そうだよ。送れなきゃ意味ないじゃん」
富田林「あ、そっか、えっと~ああそこまで知らねんだった。どうしよ・・」
そこに
靖が通りかかる
富田林「(電話)あ、ちょっとまって(靖に)だんなさん!ここの住所教えてください」
靖「あ?」
富田林「住所!」
靖「なんで」
富田林「いいから!」
靖「あやしでや」
富田林「ああもう!ちょっと荷物送ってもらうんで」
靖「・・・岩手県沢木村堀端・・・」
富田林「ああ!待って待って(電話に)行くよ、岩手県沢木村堀端」
靖「99」
富田林「まってよ、99・・・(ここで携帯が切れる音)あれ?もしもし?」
靖「?」
富田林「切れやがった!くそ!(携帯をぶんぶん振る)」
靖「電波が入りにぐってあんだがここさ来たときからそってるじゃねすか」
富田林「(電波の入りそうなところ画面見ながら探して)わかってるよ!」
靖「うちの電話でもつかいあんすか?」
富田林「え・・・」
靖「電話、うちの使って」
富田林「いいの?悪いね」
靖「使っていい代わりに、事件のことさ首突っ込むのやめて」
富田林「!」
靖「あんだ、見世物にしよどしでる」
富田林「そんなつもりはない」
靖「時効まで生中継だおんな?」
富田林「わかってくれよ俺の仕事!」
靖「人の不幸でメシ食えてらの?」
富田林「だんなさんにとっちゃ不幸かもしれんけどこの事件を知りたいと思う人もいる。その人のためにもがんばるのが俺たちの仕事だ」
靖「人間は生きてくだけでいいんでないの?」
富田林「・・・」
靖「犯人つかまろうが時効成立しようが面白ぐもつまんなぐもが関係ね。命が消えるまで、普通に生きてれば(いいんでねのすが)」
富田林「面白いことを探さないと俺は生きていけないんだよ!」
靖「面白いことは人の不幸すか!」
富田林「誰かが傷つけば誰かが笑う!そんな毎日じゃないか!」
靖「!」
富田林「昨日笑われてえんえん泣いたやつが、今日になったら誰かを見てげらげら笑ってる、喜怒哀楽があるから人間なんじゃないか?他の動物に喜怒哀楽が出せるか?」
靖「!」
富田林「人が面白い見たいってやつを作るのが俺にとって生きてることだ。それを取ったら生きていること自体無駄だ」
そこに山本がイン
山本「どうしました?」
靖「・・・なんでもねす」
山本「・・・」
富田林「すいません、言いすぎたかも・・・」
靖「・・」
富田林「電話借ります」
富田林はける
靖「あんだはどう思う?」
山本「はい?」
靖「おれのごと・・・」
山本「・・・」
靖「疑ってらのすが?」
山本「・・・」
靖「素直に疑ってらってそえばいいのに」
山本「だんなさん」
靖「?」
山本「僕が言うのはなんですが、あまり人に対してつっかかってばかりいると、本当にひとりになってしまいます」
靖「・・・」
山本「ひとりで生きていくほどつらいものはありません。もっと・・・もっともっとやさしくなりましょうよ」
靖「やさしくなんかなれねよ・・・」
山本「・・・」
靖「ただ寝てただけなのに・・・他の親も死んだのに俺ばかり疑われて・・・」
チェンジ
チェンジ
ここは工藤の家の前
工藤「(電話しながらイン)急ぎですか?わかりました。すぐ行きます(電話切る)」
工藤がかばんを持って出かけようとする
そこに福沢イン
福沢「お時間はとりません(名刺渡して)昨日澄江さんと何はなしました?」
工藤「急がないと怒られちゃうんでごめんなさい」
はけようとする工藤
福沢「いつまでもひきずってんじゃないよ」
工藤「!」
福沢「あの及川という男、そして高校の卒業式あとのある出来事、それらに縛られてる限りあなたは成長しない」
工藤「・・・」
福沢「我々男性というものにちょっとは心を開いてもらいたいですね」
工藤「あなたにわかりますか!直也に過去も未来もズタボロにされたあの悔しさ、あの痛み、絶望!」
福沢「わかりません男だからです」
工藤「最低ですね」
福沢「最低で結構。」
工藤「開き直ってる。やっぱり男はみんな直也と同じなんですね。」
福沢「いいから答えて!」
工藤「!」
福沢「少なくてもおれはあの及川直也とは違います。一緒にされるのは大変不愉快。」
工藤「・・・」
福沢「ズタボロにされたなら、自分で修復して未来を歩けばいい。うちの探偵事務所の未来はこの事件を解決するか否かにかかってるんです」
工藤「懸賞金にでしょ」
福沢「もちろん」
工藤「けっこう正直な人ですね」
福沢「昔からよく言われます」
工藤「・・・澄江さんとはただのおしゃべりです。あとはパン作るの手伝っただけですよ」
福沢「それだけじゃないでしょう。少しでもいいから教えてくださいよ」
工藤「あたしの証言だけで犯人は捕まるんですか?」
福沢「あなただけでは無理でしょう。でもあなたがもし犯人なら・・・」
工藤「疑ってるんですか?」
福沢「あの事件当時は八歳か九歳くらいでしょ?余裕で人を殺せます」
工藤「(ため息)あのときは・・・親のことでいっぱいいっぱいでした」
福沢「(メモを見ながら)確か澄江さんの親と同じ中央病院にいらっしゃるんですよね?」
工藤「今はそう。あのときはお祭りのクライマックスみたいなとこで親といっしょにライトを振っていたんです。そしたら急に親がうずくまって・・・見たら背中から血がブアって・・・」
福沢「なるほど・・・(メモる)」
工藤「あ、そういえばお医者さんが言うには、傷がものすごく細くて縦に深く入ってたって・・・」
福沢「へえ・・・(メモる)」
工藤「包丁とかメスとかそういうのよりも細くて深くて・・・そんな凶器があったとしても見たことがないっていってて・・・」
福沢「現実じゃありえない、と?」
工藤「ええ。」
福沢「岩手はそういうの多いですよね。昔話だ、伝説だって。」
工藤「沢木の間引き伝説は知ってますか?」
福沢「いえ」
工藤「あの事件を追ってるならその辺も調べたほうがいいですよ」
福沢「教えてくださいよ。いじわるしないで」
工藤「お断りします。」
福沢「!」
工藤「うちの富田林がこういってました。わからないことを自分で図書館に行って調べないようなやつには魅力がないって。」
福沢「魅力ねえ」
工藤「失礼します」
福沢「作家先生のところに行くんですよね」
工藤「なんでわかるんですか?」
福沢「いきましょう」
工藤、一瞬ためらうが
いっしょにはける
チェンジ
一方こちらは宿
ごそっと、及川が入ってくる
及川「悦子~、悦子いないかあ」
そこに富田林がイン
及川「わあ!たまげた!」
富田林「なにしてんの」
及川「いや俺の嫁っこ来てねえがなって」
富田林「工藤?ああ、もうすぐここに来ると思うよ」
及川「んだか?なら待たせてもらうべ」
及川、勝手に座る
富田林「ねえほんとに結婚するの?」
及川「あだりまえだあ。ちっちぇころからずっと好きだったおん」
富田林「不器用だし、暗いし、たまに何考えてるかわかんないやつだよ?」
及川「器用だし、明るいし、なんたってめんけえ!」
富田林「恋は盲目だな・・・」
及川「並みの男には悦子の良さがわがんねのよ。あ、今度大吉の日知ってる?その日に悦子と式あげてんだけど」
富田林「(カレンダー見て)明日だなあ」
及川「明日かあ。よりにもよって明かり祭り当日が大吉だなんてなは~、こりゃおれだちが間引かれる」
富田林「間引かれる?」
及川「昔々な、沢木では十五年おきに飢饉が起きてなは。年貢収めたら町の人たちが食う米もなぐなっちまった。そこで考えたのが、人口が減れば米は食えるってこと。他の村だとこれから生まれてくる赤ん坊を殺したっつけど、沢木では大人を殺したのす
富田林「こわいなあ・・」
及川「んだがら明かり祭りは間引きされた霊を慰めるためにはじまったのよ」
富田林「もしかして今年も殺されるの?」
及川「ばがだなあ。今の世になってからはだれも殺されねえ。カミコ様のご神託と明かり歩きだけ残ってるのよ」
福沢「でも、十五年前は殺されたよね」
ふたりふりむく
福沢がいる
その影には工藤
及川「おあ悦子!ひまなら大釜のイオンさいくべ!」
工藤「・・・(福沢の影に隠れる)」
及川「おめはん邪魔だ。もう悦子~、スターバックスでキャラメルマキアート飲みながら話こすんべ!なあ!」
工藤、はける
及川「悦子!」
福沢「(後ろから及川の肩をたたいて)わかるよその気持ち」
及川「おめはんにわがられたぐね!」
福沢「恋愛ってもんはやっぱり順序をふまないとねえ。いきなり体の関係から入るからこういうことになるんだよ」
及川「!」
福沢「あんた、猿以下だ。」
及川「おめ!」
及川、福沢の襟首つかむ
しかし福沢軽がると及川を投げ飛ばす
及川「いで!」
福沢「(服を調えながら)ああいう男性恐怖症を増やすのは罪だ」
及川「好きだからほしかったんだ!」
福沢「体を奪ったからって自分のもんになるわけじゃない。逆に女は遠ざかる。イマドキの小学生でもわかる」
及川「お、!おれは、悦子が好きだ!」
福沢「まだ言ってる・・・」
及川「小学校のころからずっと好きだ!おれはいつでも本気だ!
富田林「ああもうやめようよ?」
福沢「集団お見合いでもしなよ」
及川「!」
福沢「あんたにゃそれがお似合いだ。先生、いきましょう」
富田林「え?ああ」
ふたりはける
一人残される及川
地面を握り締める
悔しさ
自分の思い通りになれない
好きなのに避けられる
伝えられない気持ち
それらが入り混じって一定の点に達したとき
及川「!」
ポケットの中身に気づく
それは白い粉
及川それを見つめる
ひとつの思い
そして走っていく
澄江イン
澄江「ただいま・・・」
靖イン
靖「なんちょだった?」
澄江「・・・今夜七(なな)時に神社さ来てけでって・・・」
靖「だめだったが・・・」
澄江「すまね・・・すまねす・・・靖さん」
靖「・・・」
澄江「あの日、三上さんが寝てらったら、朝の四時くれえに雪みだいに真っ白い猫入って来で、枕もとであだしの名前そって、サーッて、いなぐなったんだって・・・」
靖「猫・・・」
澄江「夕べのうぢに焼いたパンと酒っこ持って、ずっと話ししたんだけど・・・神様のお告げだってゆずんねくて・・・」
靖「猫が・・・」
澄江「靖さん?」
靖「俺も見だ・・・おれの前、しゃーって横切って・・・
澄江「ああああ」
靖「澄江、正直にそってけろ。おれが十五年前のカミコでねが」
澄江「違いあんす・・・」
靖「ほんとは澄江の家で寝てたんでね・・・俺がカミコさなって親とか殺したんだべ・・・」
澄江「違う」
靖「証拠は!」
澄江「あだしが証拠だ!いっしょに絶対いだんだ!信じねのすが!」
靖「・・信じたくても・・・信じられね・・・」
澄江「なんで!」
靖「親、生きてでいいなは・・・」
澄江「!」
靖「俺は親に話しこしたくてもいねし・・・それに比べで澄江は中央病院さいげばいづでも会える」
澄江「・・・」
靖「週何回か病院さいくべ?心配そうな顔してほんとは、親さ会えるの楽しみにしてらべ!」
澄江、靖の頬を張る
澄江「・・・そっただのおもわね!」
靖「!」
澄江「あだし・・・カミコやるがら・・・」
靖「・・・」
靖「勝手にしろ・・・」
澄江「(靖を見つめる・・・)」
靖「(見つめ返す)」
澄江、はける
靖残る
山本パンを持ってイン
靖山本の気配にあわてて繕う
靖「やなとこ、見られだな」
山本「(パンを置いて)・・・追いかけないんですか?」
靖「・・・だってこのあとの予約の人だちもいるし」
山本「そんなのどうだっていいじゃないですか」
靖「!」
山本「だんなさんは、生きている今をどう考えてますか?」
靖「?」
山本「よく、人は生まれてくるときと死ぬときはひとりだといいます。死ぬときがひとりなら、生きている間は自分以外の人を大切にしなければならないんじゃないでしょうか」
靖「あんたは他人にやさしすぎる」
山本「そうかもしれません。自分を見つめるのと同じくらいに、そばにいてくれる人を見てあげてください」
靖「あんだ・・・」
山本「お気を悪くしたらすいません、失礼しました。」
山本はける
靖はひとりでパンを見る
考える
チェンジ
チェンジ
富田林と福沢、工藤がやってくる
福沢「ついた!」
富田林「これが沢木神社?」
工藤「そうです」
福沢「思ったよりもちっちぇえ神社だな」
工藤「ちょっと猫神様の前に失礼じゃないですか?」
富田林「猫神様?」
工藤「沢木神社は猫を祭ってるんです」
富田林「面白い!狐じゃなくて猫なんだ。国立っちゃんが送ってくるスタッフにもここから撮ってもらおう」(携帯をかける
福沢「かわったもん祭ってるよね。ほんと岩手ってそういうのがすきなんだよなあ」
工藤「そんなに岩手をバカにしてると猫神様のバチがあたりますよ」
福沢「あたれるもんならあたってみろってんだよ。ご神体ないのに」
工藤「う、そうだった・・・」
富田林「しもしも?国立っちゃん」
国立「(声のみ)なんだよ!今けっこう手はなせないんだけど」
富田林「(声のみ)悪いね、スタッフの子たち送ってくれた?」
携帯切れる音
富田林「んだよ、つまんねえな」
福沢「そうだ、テレビ映るんだよね(そういいながら格好を気にし始める)」
富田林「ああ今頃新幹線乗ってるぞ!着たらすぐにやろう」
福沢「緊張するなあ」
工藤「そんなに気にしても写るのはちょっとなんですよ」
福沢「そうなの?」
工藤「あなたばっかり映したところでつまんないですから」
福沢「あのね、俺の才能あふれる解説とか推理が見せ場でしょ?そういうのがなかったら番組も面白くないでしょ」
工藤「視聴者はもっと違うものを期待してると思いますけど」
福沢「君みたいな人が間引きされればいいのにね」
富田林「あ、あんたも間引き知ってるの?」
福沢「この子が教えてくれないんでね、急いでネットで調べましたよ」
富田林「図書館じゃないんだ」
工藤「やっぱり魅力ないんですね」
福沢「ネットは図書館の情報量を凌駕してますからね。」
富田林「リサーチとしては間違ってるなあ。ネットはウソものっかってるんだよ?」
福沢「いろいろな要因から調べるのが探偵の仕事ですから。」
工藤「あ、そういえばネットでおもしろいのみましたよ」
富田林「どうせうそなんだろ?」
工藤「でも聞いてくださいよ。今いる人類の中に、間引きを専門にする人間がいるっていう話」
富田林「間引き専門?」
工藤「そうなんです。今は少子化なんていわれてますけどやっぱり日に日に人間って増えているんですよね。で、世界的に見ても食料ってものは限られた量しかないんです。もちろん死亡する人間もいるんだけど追いつかなくて。そこで、これ以上人間が増えないように殺していく人間というものを神様がもともと作っていたっていう話」
福沢「また、神様か」
富田林「神様話だとウソ多いからなあ。間引きする人間ってのは、殺し屋とかそういう人だろ?」
福沢「職業じゃなくて、本能で人を殺すっていう感じなんですって。だから罪悪感もなければ、別に精神が狂ってるわけでもない。でもその間引き人間たちがいるおかげで、人類が増えすぎるのを全体的にコントロールしてるっていう」
福沢「コントロールねえ」
工藤「たとえば、未解決の殺人事件って世界的に見てもけっこうあるんですよ。そういうのこそ、その間引き人間たちがやってるかもしれないって考えると」
富田林「話としては面白いね」
福沢「認めませんよ。それ認めたら俺ら探偵の存在意義がない」
工藤「そうですか?」
福沢「もう神様だどうだとかいう話勘弁してくださいよ。うんざりだ」
富田林「でももしそんな人間が隣にでもいたら、怖くて寝れねえなあ」
福沢「隣といえば、実はあの及川っていうお隣さんを第一容疑者にあげてるんですよ」
工藤「直也が?」
福沢「あなたと同い年でしょ?あの歳なら当時でも簡単に人が殺せる」
工藤「・・・直也になにかしたんですか?」
福沢「今朝会ったときに軽く、奴の劣等感と自己顕示欲を刺激しておきました。」
工藤「そんな、あいつを刺激したら、手がつけられなくなりますよ」
福沢「お祭りにかこつけてだれか狙うかもしれませんね。でもそんなことはさせる前に現行犯逮捕ですよ」
工藤「・・・」
福沢「あなたはあいつにすべてを奪われた。このままでいいんですか?」
工藤「それは・・・」
工藤、先に走り始める
富田林「おい!」
工藤はける
富田林「あんた、工藤の何を調べたんだ
福沢「別に?たたいて出てくるほこりは誰しも持ってますから。それを調べただけです」
富田林「あんた・・・
福沢「いきましょう」
はける
暗転
明転
ぽつんと座っている澄江
そこに及川がやってくる
及川「カミコやってくれるってほんと?」
澄江「(止まる)」
及川「ほんとすか?」
澄江「(うなづく)・・・だども・・・」
及川「あ?」
澄江「明かり祭りやれるの?」
及川「(じっと澄江を見つめたまま)」
澄江「あだしがカミコやるのはいいよ。だども、ご神体ねのに、なんじょにカミコやるって・・・」
及川、澄江を見つめたまま、ポケットから袋を取り出す
それは透明なビニール袋に入った白い粉(本番では小麦粉か片栗粉使用のこと)
澄江「おめ!!」
及川「(手ぬぐい(ハンカチ)に白い粉を適量出して広げ始める)」
澄江「ご神体の・・・神様の骨でねが!」
及川「(作業しながら)んだな・・・」
澄江「まさが直也・・・」
及川「(作業しながら)盗んでねえよ。」
澄江「盗んでねなら、なんでおめはんが持ってらの!」
及川「(粉作業しながら)俺、実行委員だがらさ、三上さんからご神体、分けてもらってだの」
澄江「そんな!」
及川「ほんとだよ。なにがあっても明がり祭りはやる。俺以外の実行委員も持ってらしな」
澄江「三上さんがそんたなことするわけねべや!正直にしゃべれじゃ!」
及川「(粉作業完了。粉を見つめてから)きれいな骨っこだあ・・・これなら吸っても痛ぐねべ」
澄江「やめろじゃ!」
及川、軽く顔を近づけて粉を吸う
及川バッと顔を離す
及川粉に軽くまみれた、ぎらぎらした目で見つめている
及川「(深々と呼吸をする。見つめながら)」
澄江「なおや・・・」
及川「(澄江をにらんで手ぬぐいを構える)ぺっこ鼻ツンってすんだげだがら怖がらねくていいがら・・・。」
澄江「あ・あああ・・・!」
及川「(てぬぐいをかまえて低音で)。カミコになってもらわないとな、さあ!」
及川襲いかかる!
そこに山本ダッシュで入ってくる
及川をはがいじめにする
及川「(低音で)離せ!」
山本「(はがいじめ)」
及川「(普通の声で)離せでば!」
山本「警察に突き出してもいいんですよ!」
及川「なにもしでねってば!」
及川、ふりほどく
及川「痛でじゃ!じゃんごたれが!」
山本「女将さんに何しようとしたんですか!」
及川「なにもしでねよ~。」
山本「そんなふうには見えなかったです」
及川「そうか」
山本「?」
及川「そうか・・・」
そういいながら影で及川、鼻を手ぬぐいに近づける
澄江「(それに気づいて)あ!」
及川「(低音で)澄江!神社で待ってるぞ!」
澄江「ああああ・・・」
及川「(絶叫)今夜は祭りだ!十五年ぶりの間引きだ!」
山本、及川に突進しようとする
しかし、澄江がぎゅっと山本を抱きしめる
山本「女将さん!」
澄江「あああああああ」
及川「カミコになれ!」
手ぬぐいをもってふりかぶる
そのとき
工藤「直也!」
及川「(止まる)」
工藤「・・・やめよう・・・やめようよ・・・こういうのは」
及川「・・・」
工藤「あんたは直也だよね・カミコじゃなくて・・・」
及川「違う・・・」
工藤「骨吸ったからってカミコにはなれないよ。選ばれた人しか・・・なれないんだよ。」
及川「・・・おれは・・・カミコだよ・・・」
工藤「じゃんごたれ!バチあたりめが!」
及川「・・・」
工藤「猫神様が・・・怒るよ・・・」
及川「・・・」
澄江「おめ・・・直也のままなのが・・・」
及川「(がっくりと)・・・おれは・・・ばがでも弱虫でもね・・・悦子に好かれてえ・・・強くてカッコよくなりてくて・・・」
工藤「ばが!」
そのときすっと福沢がイン。
及川を後ろ手に取り
福沢「はい第一容疑者確保」
富田林「話を聞こうかお隣さん」
三人はけようとする
しかしそれを振り切って及川逃げる
富田林「まてこら!」
富田林追いかける
山本「歩けますか?」
澄江「(うなずく)」
山本「送ります」
山本手を澄江に差し出す(このとき同時に工藤にも電話がかかってくる。工藤、電話出てはける
しかしにぎらない
澄江「帰らないよ」
山本「?」
澄江「帰れね・・・靖さんをなぐってしまっただ」
山本「女将さん・・・
澄江「(すっと立つ)神社さ行がねえど・・・。」(歩き始める)
山本「そんな体じゃ無理ですよ」
澄江「カミコさなって証明してやんだ・・・ほんとの神様は間引きなんかしねって・・・」
福沢「間引き・・・」
澄江「(振り返って)靖さんが・・・十五年前のカミコなのす・・・」
澄江はけていく
チェンジ
ここから二画面クロス
部屋でひとりぼっちの靖
手前、外舞台
富田林、イン
疲れて、ひざまずく
富田林「あいつ・・・どこにいきやがった・・・」
富田林、持ってきた携帯をふり始める
富田林「よし、なんとかつながる・・・」
民宿沢木に入電
靖出る
靖「澄江が!」
富田林「おれです。富田林」
靖「あんたが、澄江みだが?」
富田林「猿橋の近くにいた。」
靖「やっぱり・・・」
富田林「それよりこっちは大変なことになってるぞ、あんたの隣の家の人、発狂して逃走中だ」
靖「直也が?」
富田林「ああ。このままだと本当に十五年前の再現になるぞ」
そのとき急にノイズが入る
富田林「もしもし?もしもし?」
靖「もしもし?もしもし?」
富田林「んだよ!こんなときに!」
靖「もしもしもしもし」
大きくなるノイズ
そのとき
工藤「(声のみ)そんなこといえません・・・」
富田林「(気づいて)!工藤・・・」
工藤「そんなこと・・・いえません」
社長「いってみなさいよ」
富田林「社長?」
工藤「いえません」
社長「(ためいき、そのあと声のみ)いやんなっちゃうなあ、いえないなんて・・・」
工藤「・・・」
社長「(声のみ)最近面白くないなんて・・・いえないか」
富田林「!」
社長「(声のみ)あいつはもうペンネーム坊ちゃんでも富田林十三でもない・・・ただの本名の丸井正直になっちゃってるんだと思う」
工藤「(声のみ)でもそういうのは変化だと思います。常日頃から面白いことを考えて、そしてたどりついた結果と変化ですよそれも」
社長「あんなので?」
工藤「社長はしらないかもしれませんが、こっちでも企画書はたくさん書いてます。今度の殺人事件に密着するのもただ面白いってだけじゃなくて真実の中の面白さを模索しているんです。こういうのに視聴者は興味をひかれるんじゃないでしょうか」
社長「わかった。せいぜい一生模索してればいいわ」
工藤と富田林「社長!」(シンクロ)
社長「悪いけど、国立さんにはスタッフ送るのとめてもらったわ」
富田林「おい!」
工藤「そんな!」
社長「(声のみ)棲み分けって知ってる?優秀なドキュはどっかの優秀な制作会社が作ればいい。あたしたちのフィールドじゃないから。そこまでする気ない」
工藤「そんな・・・」
社長「(声のみ)そうだ。そろそろあんたもリサーチャー修行終わりだったわよね。テンドンちゃん担当番組をひとつ持ってみる?」
工藤「そんなのできません」
社長「(声のみ)そ?ならバイバイ」
工藤「!」
社長「(声のみ)今ね、よければあんたに速達でおくろうって思ってた新幹線のチケット・・・ほーら・・・シュレッダーしちゃった」
工藤「(声のみ)社長!」
社長「お台場にはリサーチャーの田中君を作家に昇格させとくね。テンドンちゃんにも教えといて。んじゃね」
工藤&富田林「社長!」
富田林「社長!おい!社長!おかま!おい!・・・」
大きくなるノイズ
富田林、ばたりと
富田林「・・・」
靖「もしもしもしもし」
富田林「・・・そんな・・・そんな」
靖「俺も聞げだ・・・」
富田林「!」
靖「俺の耳さも聞けた・・・あんた・・・東京に帰れねってが・・・」
富田林「・・・」
靖「あんだ!」
富田林「わかってたような気がする」
靖「は」
富田林「俺・・・もう・・・面白くねんだよ・・・」
靖「・・・」
富田林「この前テレビつけたら、とんでもなくつまんねえ番組やってやがってさ。だれだよこんなに面白くねえ番組作りやがったのってスタッフロール見たら・・・でかでかと俺の名前が流れてやがって・・・」
靖「・・・」
富田林「昔は面白いことが湯水のように出てきて、自分の思っていることとパソコン打つ手があわなくてもどかしいくらいだった。でも今はやっと考えて、会議でもスタッフにウケてるのに・・やっぱり・・・おもしろくない・・・」
靖「・・・」
富田林「工藤に言ってるようにいつもアンテナを張っていても面白いことがひっかかってこない。時代が進んで、自分だけがアンテナの感度が鈍ってるんじゃないかって思うと夜も眠れなくて・・・」
靖「・・・」
富田林「俺は老いるのが怖い。時代が変わっていくのが耐えられない。時計の秒針がカチカチ、カチカチと進んでいくのが・・・」
靖「俺もそういうの考えたことがある」
富田林「・・・」
靖「このまま・・・時効が成立する夜の十二時になるまで、ずっとこの憎たらしい我をひきずっていくのかって・・・」
靖、山本の置いていったパンを持つ
靖「でもその今になってわがったことがある。十二時過ぎても俺はかわらね。この憎たらしい我と向き合わねば!」
靖、山本の置いていった、パンを食う
靖「俺には、澄江が必要だ。・・・澄江さ、今までの恩返ししねば・・・」
富田林「恩返し・・・」
靖「あんだもいねが・・・時代が変わるようにあんだもぺっこずつ変わってんだ、アンテナは鈍ってね、あんだがアンテナを磨くために必要な人。」
富田林「俺が・・・アンテナを?」
靖「んだ・・・」
富田林「・・・工藤・・・」
靖「えっちゃんか・・・」
富田林「あいつしか・・・おれのそばにいた人間はいない・・・」
靖「いっしょにアンテナ磨きあえばいい・・・そすればそごからなにか生まれるかもよ」
富田林「・・・」
靖「会いたいべ・・・」
富田林「ああ・・・」
靖「・・・太郎壁さ登るが」
富田林「?」
靖「神社の裏さある沢木山のもうひとつの登山道。絶壁で、毎年たくさんの人が挑戦しで、怪我したり命落どす難所・・・でも登りきれば、願いがかなう」
富田林「できるかな・・・」
靖「わがらね・・・でも会いたい・・・」
富田林「・・・」
靖「六時、神社の入り口で待ってで」
電話切れる
お互い電話を見つめる
そして走り出す
入れ替わるように
及川が民宿にふらふら歩いてくる
及川「靖さーん、靖さーん」
山本がすっとやってくる
及川「お!なんだ?つかまえさ、きたのか」
山本だまっている
及川「さっきはあんなまねしたけどおれは犯人じゃねぞ。誓ってもいい。十五年前だって俺は親殺されてるのす。靖さんと同じ被害者。アリバイは・・・金魚すくいのとこで何十枚ってやって取れねくてむしゃくしゃして、やんややんや踊ってたけど・・・ん?なんでしゃべんねの?」
山本だまっている
及川「そっか、話っこしてのか?さっさとそえばいいのに。あんた独身?結婚してんのか?・・・」
山本「・・・」
及川「はあ俺も悦子と結婚しで~」
山本「悦子さんと結婚したなら」
及川「は?」
山本「結婚したいなら、どうしたいんですか」
及川「悦子と結婚したら、めんけえ犬一匹飼うんだあ。朝の散歩は俺がやる。散歩コースは田んぼさ今度携帯のアンテナ立つもんでなは、それの見回り。悦子の作ったメシ食ったらそのまま共働きだあ。
夕方俺はぺっこ早く仕事終らせて悦子を犬つれて迎えさいぐ。で、毎日イオンのスタバさいって、キャラメルマキアート飲むのす。」
山本「・・・」
及川「どう?東京じゃ犬つれてカフェさ入るのステイタスだべ?うらやましいべ?」
そのとき山本、そっと及川に近寄りだきしめるようにする
及川「?」
そして及川を離して、はける
一人残る及川
及川「?」
おなかから手を離す
手は血で真っ赤になっている
次の瞬間
痛みが襲ってくる
そこに
工藤「富田林さん・・・」
しかしそこには及川がいる
工藤「!」
及川「悦子・・・」
工藤「・・・」
及川「明日、犬、買いさ・・・いくべ」
ふらりと無言で工藤によりかかる
工藤「・・・直也!」
暗転
第三章
暗闇の中
祭りの音が聞こえる
ひとつ明かりがつく
二つ明かりがつく
順々について五個明かりがつく
そのあと両サイドにそれよりは大きい懐中電灯の明かりがつく
全部で七個の明かりがつく
そのあと小さい明かりの二つは両サイドにはけていく
明転
舞台の上には真ん中に澄江がイスに座っている。両サイドには布袋に目が開いたお面の人がいる
手前外舞台には、男ふたり
靖と富田林である
男ふたりは壁を見上げる
富田林「まさに・・・絶壁だな」
靖「怖いのすか?」
富田林「そんなことはないよ」
靖「俺は余裕だ」
富田林「手が震えてるよ」
靖「うるせ!武者震いよ」
富田林「怪しいなあ」
靖「行きますか・・・」
富田林「いかれますか」
ふたり手をかける
一方舞台
澄江は緊張した面持ちでまっすぐ前を見やっている
男(福沢)「時間であんす・・・」
澄江「・・・」
男「やりあんすよ」
男、そばにあるもう一つの布袋を取ろうとする
澄江「まって」
仮面「?」
澄江「もしあだしが、ご神体吸ってがら、本当におかしくなったら・・・」
男「・・・」
澄江「遠慮なく殺してけで」
男、うなずく
澄江は覚悟して目をつぶる
男、脇に行き、 布袋の中にご神体の粉をいれはじめる
強い風が吹く
外舞台
靖「風強くなってきだな」
富田林「・・・」
靖「おめはん」
富田林「・・・」
靖「大丈夫だか」
富田林「なんとか・・・」
靖「下はぜってえ見るな」
富田林「わかってるよそんなこと!」
そのとき強い風が
ふたり「(耐える声)」
一方舞台
男が袋を用意している
澄江は固くなっている
緊張
男「まいりあんす」
澄江、胸の前で祈り一礼
男も一礼し
目をつぶった澄江の頭から布袋をかぶせる
そして男一気に澄江の鼻の辺りに手をかぶせて中の粉を吸わせる
澄江「(苦しみだす)」
澄江、もがき抵抗する
そのうち、澄江は抵抗しなくなりぐったりする
男、澄江をゆっくりすわらせて
外舞台相変わらず強い風
富田林「あああ・・・くそ・・・おれは降りる!」
靖「なんで!」
富田林「どうして俺がそんな迷信のために登んなきゃなんねんだよ!」
靖「べっこ!」
富田林「!」
靖「上見えてら!あとべっこでねすが!」
富田林「工藤に会いたきゃ携帯で呼び出しゃいいんだよ!」
靖「!」
富田林「だんなさんだって女将さんに会いたいなら神社に行けばいいじゃない」
靖「・・・」
富田林「なんだよ!それこそ怖いのか?」
靖「(登り始める)」
富田林「おい!」
靖「(登っている)」
富田林「もう降りるからな!」
富田林降りようとするが
富田林「んだよ、くそ!降りるにも・・怖えな!ちくしょお!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「なんで・・・俺のペンネーム知ってるの・・・」
靖「俺もはがき書いてヨシヒロの声聞いてらった!採用されねがったけどな。」
富田林「だんなさんも・・・」
靖「澄江のジャンケンのほうがすげけどな・・・みんなヨシヒロでつながってんだ!」
富田林「ヨシヒロで・・・」
靖「そんなヨシヒロがもしこごにいたらこういうべ!『怖えなら前を向け!』ってよ!」
富田林「!」
靖「登るべ!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
ふたり「ナイトランデブー!」
富田林、体勢を整える
富田林「よし!」
靖「ぺっこだ!」
富田林「ぺっこ!」
ふたり登り始める
舞台
すっと澄江が起き上がる
男「カミコ様」
カミコ「・・・」
男「では前へ」
カミコ「・・・」
カミコ立ち上がる
ふらふらとあるく
そして扉をあける
男「(大きく)沢木の皆のもの!猫神様の遣い、カミコ様がいらっしゃっだぞ!」
大きく歓声が沸く
そのとき袋をかぶった女が飛び込んでくる
工藤だ
工藤「カミコ様!お聞きしたいことがあります」
男「どげ!じゃまだ!」
工藤「死にたくないんです!」
男「どげ!」
工藤「死にたくない」
男「!」
工藤「直也が刺されました。間引きされました。直也が死んだらあたしも死んじゃうような気がして・・・」
男「そっただこどね!」
工藤「カミコ様にお聞きしてるんです!」
男「!」
工藤「だめな人間を間引くのなら、あたしもだめな人間です。あたしも間引かれるんですか・・・」
カミコそっと歩く
そして工藤の前へ行くと工藤の手を取る
無言でぐいっと引き寄せたあとそのまま離してぐるぐると回り始める
ふたりが回り始める
工藤「カミコ様・・・」
ふたりは八の字を書くように回り始める
工藤「カミコ様!」
大きくなおも回り続ける
工藤「カミコ様!」
そして大きく工藤を離す
遠心力で工藤、端に飛ばされる
工藤「痛い!」
そこに間髪いれずカミコが来る
額に手をかざす
工藤「!」
シンクロしていく舞台ふたつ
カミコ「(工藤の口をふさいで)わたしは・・・いのちは・・・うばいません」
靖「ぺっこだ!」
工藤「!」
富田林「ぺっこ!」
カミコ「あなたの・・・こ・・・こ・・・ろ・・・を・・・ま・・・び・・・く・・・」
そういうとカミコ工藤の胸を押さえ
カミコ「(力を入れる声)!」
その瞬間、工藤、ぐったりする
男「カミコ様だめだ!」
男カミコの体を押さえる
カミコ脱力し体を、男に預ける
あわててカミコの布袋を取る
男「救急車!だれか救急車を!」
助けようとする男
布袋をはぐ。男もはぐ
靖「十二時だ!」
福沢「女将さん!女将さん!」
ふたり「ついたぞ!」
舞台上
沈黙
暗転する世界
そこにゆっくりとまた
ひとつひとつ
ライトがついていく
ライトは固まってひとつの線になり
また八の字を描く
富田林「きれいだ」
靖「ああ」
富田林「これが・・・あかり祭り・・・」
靖「んだ・・・」
そのとき
一陣の急風が吹く
悲鳴をあげて
そして
沈黙する
父「靖・・・」
母「靖・・・」
靖「お父さん・・・お母さん・・・」
ひとつだけ消えない明かり
倒れている靖が目を覚ます
靖「んあ・・・」
山本「(しゃがんでみつめて)・・・」
靖「なんで・・・あんだ・・・こごさいる」
山本「なんとなく・・・歩いていたらここにたどり着きました」
靖「なんとなくって・・・」
山本「なんとなくです・・・」
靖「ば、ばがいうでねよ・・・おれたぢが死ぬ思いしてここさやっと登ってこれたのに」
山本「・・・」
靖「それにおれは・・・あんだにあいたいんでね・・・澄江さ・・・」
山本「遊びませんか?」
靖「?」
山本「そこにしゃがんでてください」
山本、反対方向に離れていく
靖、ゆっくり立っていく
山本「いきますよ」
投球フォームに入る山本
そして投げる
きれいなフォームで
靖「(あっけにとられている)」
山本「なにやってるんですか?」
靖「は?」
山本「しっかりとってください」
もう一度投球フォームに
そして投げる
山本「なにぐずぐずしてるんですか」
靖「・・・」
またフォーム
投げる
靖「お、おめはんはなにしてらの?」
山本「いいですから」
靖「野球なんてやったことねよ」
山本「いいからとってください」
靖「ええ」
山本、よってきて
山本「(取るスタイルを教えながら)ほら、こうやってかまえて」
靖「(言われるがまま)」
山本「(元に戻って)俺の玉けっこう早いから、しっかり取ってください」
そして投げる
靖、わけもわからずそこにいる
構えをしたまま
山本「僕は高校時代野球部でした」
投げる。
山本「高校から始めたんです。ピッチャーやりたかった。でもまわりは小学校からやっているやつらばっかりで、所詮僕がかなう相手じゃなくて・・・ずっとベンチで二年半過ごしました」
山本、軽い玉を投げる
靖構える
山本「だから僕は、ひとりでこうやってチームを作ったんです」
山本投げる
靖取る
靖「取った」
山本「どこ見てるんですか」
靖「は?」
山本「よく見てください」
また投げる
靖「ほれとったって!」
山本「だめですね」
靖「え」
山本「今度は立ってみてください」
靖立つ
投げる。取る
靖「取れた!」
山本「うまくなってきましたね」
靖「ああ」
山本「こっちにも投げてください」
靖「え・・・」
山本「早くしないと夜が明けてしまいます」
靖、へたくそな投げ
山本、変な方向にいって取る
山本「しっかり!」
靖「ああ」
山本、きれいに投げる
靖取る
山本「取りやすいでしょ?」
靖「ああ」
山本「取りやすいように投げてください・・・僕にも澄江さんにも」
靖「え・・・」
山本「さあこい」
靖、投げる
今度はラクに取る山本
山本「そうです」
靖「んだが・・・」
山本「次から僕が伝えたいことを投げます」
靖「?」
投げる山本
取る靖
山本「わかりますか?」
靖「????」
山本「ひさしぶりだからなまってるなあ」
靖投げる
山本取る
山本「次はわかります」
山本投げる
取る靖
靖「・・・」
山本「わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・」
靖「そうか」
山本「・・・」
靖「おめはんが・・・俺の親・・・殺したのすが・・・」
山本「・・・」
靖「なんで殺した」
山本「・・・」
靖「(ふりかぶって)なんじょにして殺した!(投げる)」
山本、真正面で受け止める
ふたり沈黙
山本「生きていくために必要だからです」
靖「ふざけるなじゃ!」
山本「間引かないと生きていけないんです」
靖「!」
山本「理由なんかありません。悪意もうらみも快感もありません。」
靖「おめ!」
山本「人間が生きていくためには僕が誰かを間引かなくてはならないんです」
靖「・・・」
山本「僕が死んでも・・・ずっと続くんです・・・誰かが必ず・・・間引いていく」
山本、影から、猟銃を取り出す
静かに靖に向ける
山本「ここから投げてください」
靖「・・・」
山本「女将さんに・・・だんなさんの思いを・・・」
靖「!」
山本「思いがこめられないとわかったら撃ちますから」
靖「ん、んたなこと・・・」
山本、引き金を引く
山本「さあ、早く」
靖「!」
山本「命をかけて伝えるんです。」
靖「・・・」
山本「ふりかぶって」
靖、ふりかぶる
山本「投げてください!」
靖、思いをこめて投げる
その瞬間暗転
沈黙
銃声
小鳥の声が聞こえる
朝の光が宿に入ってくる
富田林がくる
福沢もやってくる
そこに澄江がやってくる
澄江「おはようがんす」
ふたり「おはよう(福沢はおはようございます)」
澄江、二人の前にスーパーのビニール袋をどすんどすんと置く
福沢「これは?」
澄江「パン」
福沢「パン・・・」
澄江「朝めしあがってくれなかったであんすか?」
福沢「そりゃ、徹夜で女将さんのつきそいしましたからね」
澄江「朝メシ食わながったらどうやって生きてぐのす?」
福沢「!」
澄江「まだ若けんだがら!これお土産ね。新幹線の中ででもめしあがってくなんせ」
福沢「・・・ありがとう」
澄江「年上からもらったら、ありがとうございあんす」
福沢「あ、ありがとうございます」
澄江「よし、よくできた」
富田林「元気だなあ・・・」
澄江「あはは、猫神様のご神体って、精力あるのかもすなあ。あはは(元気もりもりの動き)」
富田林「猫みたいにたくさん子供産むのかもね」
澄江「んだなす~。野球チーム作れるくれえほしいすなあ」
福沢「だめですよ!今度こそ死んじゃいますよ」
澄江「なに必死になってらのすが」
福沢「だれかさんのせいで寝てないんですよ!それぐらいわかってくださいよ」
澄江「助かりあんしたありがとうございあんす」
福沢「もう・・・」
富田林「あ、でも社長の猫は社長が幼稚園のときから今でも生きているらしいよ」
澄江「ってこどは・・・不老不死がもなすな~あはは」
工藤「おはようございます」
澄江「あえっちゃん、どうよ、まびかれた気分は?」
工藤「あ、えっと」
澄江「?」
工藤「あんま・・・なんもかわってないような・・・」
澄江「んにゃ、つまんねなは」
福沢「ねえ、だじゃれってどういうこと」
澄江「だじゃれじゃねえすよ」
工藤「れっきとした儀式じゃないですか。」
福沢「あのさ誰も「間引く」の「ま」が、悪魔の「魔」だとは思わないよ」
澄江「思い込み」
工藤「そうそう」
澄江「人間の心さ巣食ってる悪魔を取る儀式。だから魔引きよ」
福沢「がっかりだよ!秘祭奇祭は田舎のだじゃれショー。相方は行方不明往復の新幹線代で今月の事務所の家賃も払えないんだよ」
澄江「ちょっとこっちさ来、こっちさ」
福沢「え?」
澄江、前夜の魔引きスタイルで
澄江「ふんっ・・・」
福沢「・・・」
澄江「ほれ、魔、いなくなったべ?」
福沢「うん!ほがらか!っなわきゃないでしょ?」
澄江「不老不死のパワーを・・・はああああああああ」
福沢「えええええええ」
工藤「(富田林に)あ、タクシー頼んでおきましたよ」
富田林「ああ」
工藤「十分くらいで来るそうです」
富田林「OK」
工藤「・・・どうしたんですか?」
富田林「俺、決めた。ヨシヒロになる」
工藤「え?」
富田林「DJになる。第二のヨシヒロになって、俺みたいなやつをたくさん作ってやる」
工藤「ほ、本気ですか?」
富田林「本気。で、工藤、事務所作るから手伝ってくれ」
工藤「はい?」
富田林「いいか?オカマのとこ戻っても机ねえんだぞ。独立だよ!」
工藤「え・・・」
富田林「好きなことやってやろうじゃねえか。勉強して来年有楽町のDJオーディションうかってやるのよ!」
工藤「は、はあ・・・」
福沢「でも歳とかは」
富田林「思い出せ!ヨシヒロ三十すぎてからああよ」
福沢「確かに・・・」
富田林「ついでにあんたも手伝って?」
福沢「はい?」
富田林「家賃はらえないくらいだろ?俺の退職金で買収してやるから」
福沢「DJと探偵いっしょにやる事務所なんて見たことないですよ」
富田林「はい(握手を求める)」
福沢「え?あ、ども(握手する)
富田林「買収成立」
福沢「え、え~(握手)かわれちゃったよ・・・」
そこにタクシーのクラクションがなる
工藤「あ、きましたよ」
富田林「よしいこう」
福沢「はい社長」
工藤「え?」
福沢「買収されたからね」
工藤「先にいってドア開けて」
福沢「なんで俺が?」
工藤「新入社員だから」
福沢「はいはいはいはい」
福沢、はける
澄江「あ、わすれないでけで」
パンを渡す
富田林「ありがとう」
工藤「あ、ちょっとあたしにもわけてくださいよ」
富田林「だめ」
工藤「またメタボになっちゃいますよ~」
そこに
靖「おお、おわがれですな」
富田林「遅いよ。どこいってたの」
靖「なんとなく」
富田林「は?」
靖「気をつげて」
富田林「おいおいどこいってたか教えてよ!」
そのとき
及川「悦子!」
工藤「直也あんた中央病院に(いったんじゃないの?)」
及川「おめさ会うために抜け出しできだ。」
工藤「・・・」
及川「ありがとう・・・救急車呼んでけで・・・ほんとうにありがとう・・・」
工藤「・・・」
及川「(おなかを軽く押さえながら)あいででで・・・」
澄江「どしたの?」
及川「なんでもねす・・・」
澄江「救急車って黄色い救急車だべ?」
及川「うるせでや!」
澄江「!」
及川「あ、いででで・・・悦子・・・今度は正月にでもなは。きたらぜってえ、イオンのスターバックスでキャラメルマキアート飲んで・・・そのあどは沢木神社で初詣いくべ・・・」
工藤「・・・」
及川「それだげいいさ来た。」
工藤「・・・」
クラクション
及川「あ、行くんだよな?ほれいけじゃ」
工藤「・・・」
そこに
福沢「遅いよ!新幹線いっちゃうよ(及川に気づいて)あ、あんた!昨日はよくも俺から逃げやがって!」
及川「やべ!(富田林と工藤に)ほれ!はやく行けじゃ!」
及川ふたりの背中を押してやる
富田林「(押されながら)工藤これでいいのか?」
及川「さ、早く早く」
富田林「工藤!」
及川「早くよ!」
福沢「おい!俺と勝負しろ、この!」
工藤「直也!」
みんな「・・」
工藤「キャラメルマキアートは・・・東京で飲み飽きちゃった」
及川「・・・」
工藤「エスプレッソなら・・・考える・・・」」
及川「えすぷれっそ????」
澄江「(及川の肩をたたいてから)コーヒーの一番濃いやつよ」
富田林「大人の苦味!ヨシヒロも好きなんだよね」
及川「無理無理無理!甘いのでカンベンしてけで!」
工藤「じゃあさよなら」
及川「そんなあ!甘えのしか飲めねよ!」
福沢「社長行きましょう」
富田林「おう。(民宿側に)じゃあね」
澄江「ありがとがんした。気をつけてお帰りくなんせ~」
富田林「だんなさん」
靖「!」
富田林「二度と山は登らないよ」
靖「・・・気をつけてお帰りくなんせ!」
とうきょうチームはける
澄江「いっちゃったねえ
靖「ああ・・・」
澄江「じゃ・・・」
靖「どごさいく?」
澄江「ああ午後から中央病院さ行ぐから早めにまたパン作るよ」
靖「おしえてけで」
澄江「!」
靖「おれさも・・・おしえてけで・・・」
澄江「・・・」
靖「なあ」
澄江「・・・小麦粉かってきてくなんせ」
靖「なんでよ!」
澄江「あだらしぐ、ふぐらます菌をつぐるから」
靖「今までの菌でいいべ」
澄江「記念日の菌だ」
靖「・・・」
澄江「今日の・・・この空気を吸わせた菌で、新しいパン作るべし・・・」
靖「・・・わがった」
澄江「ありがとあんす」
靖「これがらもなは・・・」
澄江「(うなずいてはける)」
靖、その背中を見送る
思い
風が流れている
思い
はけようとする
そのとき
澄江「ああ!」
靖「?」
澄江「なおやの携帯のアンテナ倒れた!」
靖「なに!」
暗転
END