2008年5月26日月曜日

薄夏の雫(はっかのしずく)

登場人物
木ノ森蘭 東京白聖高校一年生             可奈恵
木ノ森順太 蘭の父                  富士河千之介

藤沢一吾 民宿いちご 主人             
藤沢まるみ 一吾の妻                 
須藤 明代 BBC(Bio Bard Company of JAPAN)の営業   
浜野 裕子 BBCJ営業グループリーダー(部長)。    
ナツコ 謎の女の子  

スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明 大崎ヒロコージ
音響効果 美留邪宵
制作本部 ハラダ☆カオリ
会計部 小夜子
俳優部 西郷久美子
協力 きつな
製作
 3man Office制作本部
 「薄夏の雫」パートナーズ
3man第一二回夏公演「薄夏の雫」僕にとっては
楽しいことをやろう。
見てるほうも、やってるほうも楽しもう。だから・・・
「楽しんで
 芝居する」
 なんだと思います。                     富士河千之介
オープニング
 遠くから海の音が聞こえる
 それは深く・・・
 舞台の一部が明るくなる
 ナツコがいる
ナツコ「ようこそ。
    
    あたしは待っていた。
    あなたが来ることを・・・   
あなたは覚えているはずだ。
    海を自由にに泳いでいた頃を・・・。

ここはくねくねと曲がった入り江になっていて・・・
春は桜の花びらが海の上に散り、桃色に染まる。
夏は遠くまでの青がずっと先まで照らす。
秋は朱色のもみじが海の養分となり
冬は雪が身体を凍えさせる

 
あなたは仲間と心で話しをする・・・
こんにちは
気分はどうだい?
そろそろ次の海へ渡ろうか・・・
寒さが僕らをせきたてるんだ。
聞いたことがある
この地球上に、海は全部で七つあるんだ。
僕はもう五つ、海を回った
あとふたつは、どこにあるんだろう。
そして、どこまでいけばいいのかな・・・
ほら、今日も水がもう冷たい
  きのうの夕立が季節を変えているんだ。
  夏から秋へ
  だから
  もっとあったかい海へ・・・
  もっと・・・
 


   
    暗転
 テーマ曲

八月二九日
暗転中 
 遠くのほうで海の音がする
明転
 ここは日本のどこかにある民宿いちご
 そのリビング
まるみ「(声だけ)さあ、どうぞどうぞ」
 舞台、
 まるみに誘導されておそるおそる蘭がかばんを背負って入ってくる
蘭「お邪魔しま~す」
 奥から一吾が出てくる
一吾「いらっしゃい」
まるみ「ようこそ、民宿いちごへ」
一吾「あ、いちごってのは俺の名前」
蘭「い、いちごさん・・・」
一吾「詳しいことは、つーかーの仲になったら聞かせる」
蘭「はい・・・」
まるみ「あ、あたしはまるみです。」
蘭「よろしくお願いします」
まるみ「こちらこそよろしくです。あさっての八月三十一日までしっかりお世話させていただきますね」
蘭「あ、あの、あたしも・・・」
一吾「おう、聞こう聞こう」
蘭「あ、木ノ森蘭といいます・・・」
一吾「えーと、き、き、」
まるみ「木ノ森さんですって」
一吾「キノボリさん」
蘭「木ノ森です」
一吾「ヘンな名前」
 まるみ、一吾に鉄拳制裁
蘭「ご先祖様が北海道のある集落の名前らしいんです」
まるみ「へえ」
一吾「きいたことねえなあ」
 まるみ、一吾に鉄拳制裁
まるみ「ごめんなさいね」
蘭「・・・」
まるみ「うちはいつもこうなんで・・・」
蘭「はあ・・・」
まるみ「あ、お茶、お持ちしますね」
蘭「ありがとうございます」
 まるみ、ハケる
一吾「それにしても、早くついたね」
蘭「あ、ここで人と会う約束なんで」
一吾「へえ。えっ、ひとり旅?」
蘭「あ、えーっと・・・」
一吾「?」
蘭「このあと来るんです」
一吾「へえ。時間差で旅かあ」
 そこへ
須藤「ごめんください」
 須藤が順太を連れてやってくる
一吾「はい」
須藤「木ノ森蘭ちゃんはおりますでしょうか?」
一吾「ああ、キノボリ・・・」
須藤「木ノ森ですね」
一吾「そこに(いますよ)」
蘭「須藤さん」
須藤「蘭ちゃん、お待たせ」
蘭「蘭もさっききたばっかりですから」
須藤「(一吾に)あがってもよろしいですか?」
一吾「え?ああ、どうぞ」
 須藤、うしろに声をかける
須藤「行きますよ」
順太「(声だけ)はい」
 そして須藤、順太を促して、あがる
一吾「あ、おっと!」
須藤「はい?」
一吾「お二人さん?」
須藤「あ、こちらが蘭ちゃんのお父様です」
順太「木ノ森順太です」
一吾「キノボリジュンタ」
順太「木ノ森ですね」
一吾「ああ、あはは、鼻が詰まってるもんでね(そういいながら、鼻を気にする)」
須藤「失礼します」
 須藤、一吾に一礼して、蘭のもとへ
一吾「(見送りながらひとりごと)・・・お母さんは?」
 そこにまるみ登場
まるみ「(リビングが人が増えたのを見て)あんた」
一吾「え」
まるみ「ふえてんじゃん」
一吾「ああ、なんかお父さんらしいよ」
まるみ「(須藤たちに)あ、よ、ようこそ・・・」
須藤「あ、急に来てしまって申し訳ございません」
まるみ「いえ、あたしたちは別にいいんですけど、お茶が」
須藤「あ、あたしはすぐに失礼させていただきますから」
まるみ「え、あの・・・」
須藤「はい?」
まるみ「お母様じゃ・・・」
須藤「いいえ、あたしはただの営業ですから」
まるみ「営業?」
須藤「あ、ああ、すいません。お父様をお連れ舌だけですので
まるみ「は、はあ・・・」
須藤「あ、やっぱりお茶いただいてよろしいですか?」
まるみ「あ、はいはい」
 にこやかに笑いながら、まるみ
 一吾をひっぱってはける

 木ノ森家のほうは、ぎこちないながらも会話がはじまる

 一方、裏にひっぱってきた藤沢家
一吾「な、なんだよ」
まるみ「あの家族何?」
一吾「知らねえよ」
まるみ「あの女はなに?奥さんとかじゃなかったら恋人?不倫相手?」
一吾「もういいよ。お茶準備して」
まるみ「いやだ」
一吾「なんでもかんでも首つっこむのやめろよ」
まるみ「面白いねえ。市原悦子もびっくりだよ」
一吾「おい」
まるみ「お茶出しながら調べてみよっと」
 まるみ完全にはける
 一吾もはける

一方こちらはちょっとやっぱりぎこちない木ノ森家
須藤「あ、あー、蘭ちゃん」
蘭「は、はい」
須藤「お父様にあいさつでも・・・」
蘭「あ、え、えっと」
順太「あ、いいんですよ」
蘭「あ、いいです。あ、あの、はじめまして・・・」
須藤「あ、はじめましてってのはおかしくない?」
蘭「だって」
順太「いいんですよ、ある意味、そういうものかもしれない」
蘭「・・・」
順太「いいよ、僕はしっかり聞く」
蘭「あ、あの・・・木ノ森蘭です」
順太「木ノ森順太です」
蘭「はい・・・」
順太「もう一度、蘭に会いたくてここに来ました」
蘭「あ、はい、ありがとうございます」
須藤「お互い、ちょっとずつ、おかしいですよ」
順太「すいません」
蘭「あ、あ、これからよろしくお願いします」
順太「よろしく」
 ふたり握手
須藤「(それを見ながらため息)なんでそんなに他人行儀なのかな」
蘭「たぶん、慣れたらそれなりに:」
須藤「これからよろしく、じゃなくて、これからもよろしくじゃないかな?」
蘭「そ、そうですけど・・・」
順太「びっくりするはずですよ。だって僕は一度死んでる身ですから」
須藤「(びっくり)しー!」
順太「あ、すいません」
須藤「まだ実験段階なんですから」
順太「すいません」
蘭「じ、自分がクローンだってわかってるんですか?」
須藤「あ、(小さい声で)頭の中にチップが入っていてね、一応、自分のことを認識できるようにはなっているんだ」
蘭「へえ」
順太「蘭も、ショックだと思います。僕が肺がんで死んでから確か今日で・・・えっと」
蘭「三ヶ月めです」
順太「そうそう」
須藤「そうだけど・・・」
蘭「須藤さん」
須藤「え」
須藤「やっぱりなんか不思議な・・・感じです。」
須藤「・・・」
蘭「去年の終りくらいからずっと病院通って、死に目にもちゃんと会って、火葬して灰になったお父さんのお骨をひろったのに・・・」
ふたり「・・・」
蘭「こうやって、また会えるなんて」
順太「会える運命だったのかもしれない」
蘭「・・・」
順太「イルカからクローン人間を作る技術を発明した、須藤さんところの会社にすべて感謝したい」
須藤「感謝だなんて」
順太「僕がんばります。」
須藤「順太さん・・・」
須藤「どれだけ昔に戻れるかわからないけど」
蘭「うん・・・」
須藤「よろしくお願いします。」
順太「はい」
 須藤、はけようとするが
須藤「あ、蘭ちゃん」
蘭「はい」
須藤「ちょっと・・・」
蘭「はい」
 須藤と蘭、すみっこへ

須藤「よろしくお願いします」
蘭「あ、こちらこそ」
須藤「うちの顧問の心理学の先生からも、何日間かはいなくなった人がそばにいるということに違和感を覚えるかもしれないって言われた。」」
蘭「はい・・・」
須藤「九月に入れば少しは昔みたいになるんじゃないかな」
蘭「あと三日ですか・・・」
須藤「がんばって」
蘭「はい」
須藤「いいお父さんじゃない。やっぱり死なせるのはもったいなかったね」
蘭「はい」
須藤「それじゃ。何かあったらあたしの携帯に電話して」
蘭「はい」
 須藤、はける
 そこに三個の湯のみを持ってまるみ登場
まるみ「(リビングを見て)あ・・・」
蘭「あ!」
まるみ「ひとり少なくなってる・・・」
蘭「あ、ちょうど今帰っちゃいました」
まるみ「(ブルー)ああ、はいはい・・・」
順太「あ、僕が飲みます」
まるみ「え」
 順太、まるみのもとへ行き、二つの湯のみに入ったお茶を一気に飲み干す
順太「うまい!」
まるみ「あ・・あ・・・」
蘭「あ、すいません。のどが渇いてるみたいで」
まるみ「あ、そ、そうですか」
蘭「ね、お、お父さん」
順太「え?あ、そ、そうなんですよ、かなり遠くから来ましたからね、ずっと泳いでて」
まるみ「お、およぐ・・・」
蘭「お父さん!」
順太「だって僕は」
蘭「(大声でさえぎる)」
順太「!」
まるみ「ど、どうぞ、ゆっくりしていてくださいね」
ふたり「ありがとうございます」
 まるみ、不審がりながらもはける
蘭「お父さん!」
順太「なんだよ!」
蘭「ばれたら大変じゃない」
順太「そう?」
蘭「だって、今の世の中、やっとクローンのことみんなわかってきたくらいなんだよ。」
順太「・・・」
蘭「ヒトのクローンはまだSFとかそんなくらいの話でしかないんだから」
順太「いやなもんだな」
蘭「え」
順太「僕はいやだな」
蘭「え」
順太「クローンったって、こうやって見た目はしっかりとした人間なんだ。人間らしく生きていきたいよ」
蘭「・・・」
順太「蘭、会いたかったぞ」
蘭「・・・」
順太「どうした?」
蘭「・・・」
順太「?」
蘭「やっぱり・・・なんか・・・違う」
順太「え」
蘭「今までのお父さんじゃない」
順太「そんなことないだろう?僕の頭の中には生きていたころの記憶がすべてつまったチップが入ってる。まだ実験かもしれないけど、相対性検査とかはしっかり通ったんだぞ」
蘭「そんなことじゃない」
順太「・・・」
蘭「そんな・・・科学とか、中身とかそんなことじゃない」
順太「じゃあなんだ」
蘭「・・・」
順太「これからまた昔みたいな暮らしができるんだぞ」
蘭「四谷に・・・お父さんのお墓があるの」
順太「!」
蘭「昨日、明日会うっていうのにお花あげてきたんだ。」
順太「・・・」
蘭「あんなに・・・あんなに悲しくて、ずっと会いたかったのに・・・なにかが違う」
順太「なんだよ、素直に喜べよ」
蘭「喜びたいよ、でも、蘭の心がそうさせないの」
順太「・・・」
蘭「失ったものがもう一度戻ってくるってのは・・・やっぱりそう簡単じゃないんだね」
順太「蘭・・・」
蘭「ごめん・・・言い過ぎたかな」
順太「・・・」
蘭「ちょっと外行ってくる」
 蘭、飛び出していく
 順太追いかけようとする
すれ違いに一吾
一吾「あれ?」
 蘭、一気にハケる
一吾「うちで親子喧嘩かあ」
順太「どうも・・・すいません」
一吾「あ、いや、おれはかまわねんだけどね・・・」
順太「・・・」
 順太、はけようとする
一吾「待て待て」
順太「?」
一吾「相手方が一方的にカッカしたときは、すぐにこっちがいかないほうがいい」
順太「でも」
一吾「大丈夫」
順太「・・・」
一吾「そういえば・・・あんた釣り好き?」
順太「え」

 ふたりハケる











一方、こちらは須藤
駅までの道を歩いている
すると農作業らしい女性からチラシを渡される
須藤、なにげなく見る
須藤「第四一回、イルカ祭り・・・」
浜野「(うつむきかげんに)あさってだよ」
須藤「あさって・・・」
浜野「来てよ、楽しいから」
須藤「はあ・・・」
浜野「ここいらはね、昔はただのさびれた町だったんだけど、東京のバイオバードなんとかっていう会社のおかげでここまで栄えてね」
須藤「あ、うちの会社です」
浜野「おんや、まあ奇遇なこと」
須藤「イルカ牧場のお祭りなんですよね」
浜野「そのイルカを使って、クローン人間こさえてるってんだからなあ・・・」
須藤「!」
浜野は須藤を見る
須藤「ぶ、部長!」
浜野「ねえ、この格好どう?」
須藤「ど、どうって言われましても・・・」
浜野「なじんでる?あたし、所さんのテレビの『第一村人』っぽい?」
須藤「え、ええ、かなり・・・」
浜野「よかったー。さあ、帰るね」
須藤「え」
浜野「うそ!ご苦労さん」
須藤「東京本社にいらしたんじゃないんですか?」
浜野「あんたが気になってついてきたにきまってるじゃん」
須藤「あ、ありがとうございます」
浜野「ま、わが社のヒトクローン計画の実用化第一弾、見守って来いって社長に言われたのが本音だけどあ」
須藤「そうですか・・・」
浜野「あ、どう?」
 浜野、バックからコンビニの袋を出す
 そして、ペットボトルに入ったお茶を出す
須藤「ありがとうございます」
浜野「しっかし、あんた、なんでこんなとこで会う様にセッティングしたの」
須藤「思い出の場所なんです」
浜野「へえ」
須藤「あたしと・・・順太さんが初めて遊んだ場所・・・」
浜野「・・・」
須藤「蘭ちゃんが、順太さんが亡くなってから、家にとじこもってばかりいたから・・・」
浜野「・・・」
須藤「ずっと見続けて・・・あれから十六年になりますから」
浜野「酷なことさせちゃってごめんなさいね」
須藤「いいんです・・・。」
浜野「・・・」:
須藤「あたしは、無責任な母ですから」
浜野「・・・」
須藤「順太さんがしっかり守ってくれる、ずっと蘭ちゃんを守ってくれるってのに甘えていたんです」
浜野「運命は、ときに・・・ひどいもんね・・・」
須藤「・・・」
浜野「あんたに、イルカを使ったクローン一号を進めたのはあたしだから」
須藤「・・・」
浜野「自分の愛した人を実験材料にするのは耐えがたかったんじゃない?」
須藤「(さえぎって)部長」
浜野「・・・」
須藤「わかって・・・やったことなんです」
浜野「・・・」
須藤「それ以上言わないでください」
浜野「・・・」
 須藤はドリンクを飲む
浜野「チラシの祭りは本当らしいよ」
須藤「イルカ祭り」
浜野「イルカ牧場の人たち主催でね、毎年やってるみたいなの」
須藤「へえ」
浜野「全員で町の人たちに恩返しするんだとかってね、牧場事業部の人がいってた」
須藤「・・・」
浜野「今年はひとり、行方不明が出たらしいから、あんまり大きな祝福ムードじゃないらしいけどね」
須藤「行方不明?」
浜野「イルカの飼育係やってた女の子がね、いなくなったんだって」
須藤「大変ですね」
浜野「いなくなった理由が、実は、順太さんなんだけど・・・」
須藤「え」
浜野「その子がかわいがってたイルカってのが、順太さんに使ったイルカなんだって」
須藤「・・・」
 そのとき、浜野の携帯のバイブがなる
浜野「(電話に)もしもし。はい・・・はい・・・え!」
須藤「?」
浜野「(電話)・・・わかりました。こちらでなんとかします」
 浜野、電話切る
浜野「須藤さん」
須藤「は、はい」
浜野「生き物が死を迎えるっていうのは・・・だれが決めたことなんだろうね」
須藤「・・・」
浜野「神様がもし本当にいるとするなら、あたしたちがやってることに対して、どうしても自然の摂理に沿わせたいと思っちゃうのかもしれない」
須藤「どうかしたんですか?」
浜野「・・・」
須藤「部長・・・」
浜野「(息を吸って決意してから)・・・クローンD1号の心臓に・・・欠陥が見つかった」
須藤「!」
浜野「血液を全身にポンプさせてる弁に不具合が発見されたらしい。まだ確定のミスではないけど、再検査する必要があるみたい」
須藤「・・・」
浜野「見逃したら、あと三日で確実に心臓がついていかなくなる」
須藤「・・・」
浜野「最終会議のときに、クローンにイルカ心臓進化形を使わずに、人間の心臓移植でなんとかするって言い切っていれば・・・」
須藤「順太さん・・・」
浜野「神様がくれた試練というなら、あたしたちはとことんそれに立ち向かわなくちゃね」
 浜野、ペットボトルをしまう
浜野「行きましょう」
須藤「はい・・・」
 ふたりはける







一方、こちらは走ってきた蘭
 息もきれて、ふらふらだ
 
 そこは海が見える小高い丘
 蘭は、力つきて、たおれこむ
蘭「うそつき・・・」
 蘭、力なく、地面をたたく
蘭「うそつき、うそつき!」
 蘭はどんどんたたく
 心が乱れている
蘭「本当はうれしいんだよ・・・だって・・・だって、あたしにひとりしかいないお父さんだもん・・・なんで、うれしくならないんだろう・・・」

 くやしさ
 それは自分に対してなのか
 それとも、父に対してなのか

 そこに
ナツコ「(声だけ)待ってた」
蘭「!」
ナツコ「あなたが来るのを・・・ずっと、待ってたよ」
 きょろきょろする
顔を上げると、一人の女が立っている
 ナツコだ
ナツコ「あたしはあなたを・・・待ってた」
蘭「蘭・・・を?」
ナツコ「必ずここに来ると思っていたから・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「あたしはナツコ。」
蘭「な、なつこ・・・」
ナツコ「あなたは蘭」
蘭「!・・・」
ナツコ「イルカ祭りまでに、よくここに来たね」
蘭「イ・・・イルカ祭り・・・」
ナツコ「さあ、返して」
蘭「え」 
ナツコ「約束どおり、返してもらうよ」
蘭「な、なにを?」
ナツコ「知っているんだ。」
蘭「・・・」
ナツコ「あなたの・・・あなたのお父さんがイルカを使って作った人間だってことを・・・」
蘭「!」
ナツコ「そしてそのイルカが・・・あたしが・・・ずっと世話してきたイルカだということを・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「町のどこかにいるんだよね」
蘭「・・・」
ナツコ「探し出してみせるから」
蘭「え」
ナツコ「運命を受け入れないのは、ほかの人にも影響を与える」
蘭「・・・」
ナツコ「大丈夫。あなたはもうすぐ運命を受け入れることになる・・・」
 ナツコは消える
 蘭はそれを追いかけようとする
 しかし、追いつけない
 そして蘭は深い山の中に入っていく











八月三○日
 ここは民宿いちご
まるみ「帰ってこない!?」
 明転
一吾「ああ」
まるみ「出てったのは何時くらいですか??」
順太「ここ着いてすぐだったんで・・・まだ六時まわってないころだと思うんですが」
一吾「なんだか喧嘩したみたいよ」
まるみ「(順太に)そうなんですか?」
順太「あ、いや、その・・・」
一吾「手分けして探そう」
まるみ「そうね。かなりもう遅い時間だし・・・。」
順太「どうも、すいません」
一吾「うちらにまかせとけって。」
まるみ「いっつも強気なんだから」
順太「はい」
一吾「このまわりは山と海しかねえ。すぐ見つかるって」
順太「助かります!」
まるみ「(一吾に)どっち探す?」
一吾「(手をあげて)海」
まるみ「海・・・?」:
まるみ「まさかオプションをやるつもりじゃないでしょうね」
一吾「え!」
順太「オプション?」
まるみ「ああ、夜釣りです」
順太「釣り・・・」
一吾「馬鹿だな。お前、青春っつったら海だよ!」
まるみ「七○年代映画の見すぎ・・・」
一吾「あの嬢ちゃんはね、走っていったんだよ!壁にぶち当たったときには、本能で海に走っちゃうもんなのよ」
まるみ「あたしは海には絶対行かないけど」
一吾「いいんだよ!とにかく、おれは兄さんと海を探す」
順太「兄さん?」
一吾「あんたのこった」
順太「兄さんって・・・」
まるみ「(順太に)注意してください。こうやってずるずると、釣りのオプションつけて宿泊代あげるのが、手ですから」
一吾「おれを詐欺師みたいにいうな!お前はどっちの味方なんだよ!」
まるみ「あたしは中立」
一吾「スイスかお前は!」
まるみ「言ったな!この種無し野郎!」
 ふたりとっくみあう
順太「(ころあいを見計らって)いい加減にしてください!」
 ふたりとまる
順太「もういいです。ひとりで探しに行きます」
  ※差し替え7.3
 順太、はけようとする
一吾「兄さんひとりじゃ絶対探せねえよ」
順太「(とまる)」
一吾「ただ歩き回って迷って疲れて、あげくにゃ遭難。逆に警察よばなきゃなんなくて、ミイラ取りがミイラになっちまうってこった」
順太「なんでそんなことがいえるんですか」
一吾「おれの勘だ」
順太「僕の娘なんですよ!」
一吾「わかってる」
順太「僕には大切なひとり娘なんですよ」
一吾「わかってる」
順太「なんだ、そりゃ。わかってないよ、あんたは」
一吾「あんた?」
順太「さっきからわかってるわかってるって・・・。ぜんぜんわかってないじゃないか」
一吾「え?」
順太「・・・」
一吾「なんでそんなのがいえるんだい?」
まるみ「ちょっと・・」
順太「あんたらには・・・子供がいないだろ?」
ふたり「!」
順太「子供がいないのに、僕の気持ちなんかわかりますか?」
一吾「それ以上言うのはやめてくれ」
順太「・・・」
一吾「今おれはあんたを殴るところだった・・・。昔のおれだったらな・・・」
順太「・・・」
一吾「毎晩毎晩、流れ星に願掛けしてる、まるみの気持ちを知ってから言えってんだ」
順太「!」
まるみ「一吾・・・」
一吾「好きで子供いねえわけじゃねえ。でもな・・・ほしくてもできないおれらの気持ちは、兄さんにはわかんねえだろ?」
順太「・・・すいません」
一吾「(順太に)納屋の横にうちの軽トラがある。そこらへんで待ってろ」
順太「え・・・」
一吾「どんくせえなあ。探しに行くっつってんだろ!」
順太「は、はい!」
 順太はける
まるみ「いつから・・・知ってたの?」
一吾「おれは、まるみのことならなんでも知ってるんだ」
まるみ「・・・」
一吾「種無しすいかで・・・悪かったな・・・」
まるみ「・・・」
一吾「ごめん・・・」
まるみ「ばか!」
 まるみ、一吾に抱きつく
一吾、強く抱きしめる
そして、はける




















 一方、こちらは外
  いつのまにやら海に出たらしい蘭。
 

 突然、カラカラと音がする
 振り返るとそこに
 ドロップの缶からをふるナツコがいる。
 みつめる蘭
ナツコ「ここはイルカ牧場。イルカをたくさん育てている場所」
蘭「イルカ牧場・・・」
ナツコ「あたしはここで働いていた。ずっとイルカのそばにいて一日イルカと暮らしていた」
蘭「・・・」
ナツコ「バイオバードジャパンがお金と人を出して、いまだに生態がよく知られていないイルカを研究するためにここを作った。あたしもアメリカの大学からここに来た。」
蘭「・・・」
ナツコ「ここが本当はクローン実験用のモルモット代わりににイルカを育ててるなんてあたしはその日が来るまで知らなかった」
蘭「・・・ 」
ナツコ「(声だけ)潮の香りってなにからできてるか知ってる?」
蘭「・・・」
ナツコ「海の流れに身をまかせている海藻やサンゴ、魚やプランクトンたちが死んで、そこから生まれた香りなの」
蘭「・・・」
ナツコ「死ぬことは、魂の終わり、精神の終わりだけど、体はそうやって地球に帰っていく。」
蘭「・・・」
ナツコ「あなたは、なぜお父さんを地球に返してあげなかったの?」
蘭「!」
ナツコ「土に返って、水と酸素になって、またこの海に命を与えていくはずだったのに」
蘭「・・・」
ナツコ「イルカ祭りがあさってある。それが終わればここにいるイルカたちは全部東京の研究所に送られて、あなたのお父さんの次のクローンに向かって、切り刻まれて、薬を入れられて・・・ヒトという地球のエゴイストたちの永遠の命を作るために使われる。」
蘭「・・・」
ナツコ「もうすぐあそこから太陽が昇る。その光が照らすことができないここを、あたしは破壊する」
 そういうとナツコはふらふらと建物へ入っていく
 蘭、それを追いかける
 そのとき
まるみ「見つけた」
 蘭、ふりかえる
 まるみ懐中電灯を持っている
蘭「あ・・・」
まるみ「心配したよ」
蘭「ご、ごめんなさい」
まるみ「お父さんも戻ってるから、ほら、帰ろう」
蘭「・・・」
まるみ「雷さんにへそとられちゃうよ。」
蘭「お父さんに伝えてください」
まるみ「?」
蘭「今日は戻らないって」
まるみ「なんで?」
蘭「探しているんです」
まるみ「・・・」
蘭「あたしが・・・お父さんに・・・」
まるみ「え・・・」
 そのとき突然の雷鳴
 ふたり、ちぢこまる
 そして豪雨
まるみ「乗って」
蘭「・・・」
まるみ「何を悩んでいるかわかんないけど、今はあたしのいうことを聞いて」
蘭「・・・」
まるみ「早く」
 まるみ強引に蘭をつれてはける

 雨は次第に強くなる


 雨の音
浜辺
 順太と一吾が釣り糸をたらしている
順太「やっぱり釣りでしたね・・・」
一吾「・・・」
順太「そろそろ戻りましょう」
一吾「・・・」
順太「雨もけっこう降ってきたし」
一吾「ここで釣らなきゃ、明日の朝飯はメシとみそ汁だけだ」
順太「市場で買ってきましょうよ」
一吾「ったく、釣れねえのは、全部兄さんのせいだからね」
順太「どういうことですか?」
一吾「兄さんの心のざわざわが、海にも、空にも響いてるってことよ」
順太「・・・」
一吾「カリカリソワソワしちゃってさ。そんなんだから竿がずっとぶれる。ぶれると小さな波ができて、そいつを魚は敏感に感じ取る」
順太「・・・」
一吾「さらにあんたの波がおれのほうも揺らして、うちらはずっと釣れない。」
順太「・・・すいません」
一吾「知らないの?」
順太「だからつりは初めてですって」
一吾「親父といっしょにやったりとかしなかった?」
順太「父は・・・別に釣りとかしなかったから」
一吾「おれなんか三歳くらいから、さお持たされたぜ」
順太「お父さんは漁師さん?」
一吾「ああ。大嫌いだけどね」
順太「はあ」
一吾「ちっちぇえときからうるさくってね。おれが寄り道したときも、かたぎになったときも、まるみを家に連れてきたときも、いっつもがんがん怒鳴りやがってさ」
 一吾、胸ポケットから一枚の写真を出す
一吾「証拠」
順太「(写真を見て)!」
一吾「(写真をぶんどり)今とぜんぜん違うだろ?」
順太「し、信じられない」
一吾「まるみとはちっちぇえときから友達でね、いつもいっしょに遊んで学校行って、そんでいっしょに暴走族になった」
順太「・・・」
一吾「毎晩毎晩こう、バイクぶっぱなしまくってね。で、ある日、まるみといっしょに足を洗った」
順太「?」
一吾「いっつも行ってたたまり場に行ったら、絶対いるはずのまるみがいねえんだよ。友達とかに聞いてもわかんねえとか言ってるしさ・・・」
順太「・・・」
一吾「おれは探した、町のゲーセンとかジャスコから・・・道はずしすぎちゃって、逆に勘違いして学校にでも行ったかなとかってね。ずっと探してやっと、族のアタマといっしょにあそこの山いったって聞いて。」
順太「・・・」
一吾「夜の二時くらいかな。てっぺんから小さな川が流れてて、そこの最初の橋の下にまるみがいたんだ」
順太「・・・」
一吾「壊れて・・・転がってた」
順太「・・・」
一吾「ビリビリの服でさあ、ぐあーって、真っ青な顔でぶるぶる震えてて
順太「・・・」
一吾「病院に連れてったら、おれがぶっ倒れた」
順太「・・・」
一吾「子供が作れない可能性がありますって」
順太「!」
一吾「薬くせえ、ひんやりした廊下で言われたよ」
順太「・・・」
一吾「おれに責任がある。おれがあんな寄り道したから・・・」
順太「責任・・・」
一吾「?」
順太「責任か」
一吾「どうした?」
順太「僕は蘭に対してどんな責任があるんでしょうね」
一吾「深く気にするな」
順太「でも・・・」
一吾「兄さんがずっといるだけで、十分だ」
順太「いるだけで?」
一吾「そばにいるだけで、人はみんな安心する。だからおれもずっとまるみのそばにいてやろうと思ってね」
順太「・・・」
 そのとき、一吾の携帯がなる
一吾「もしもし・・・おお・・・見つかったか!」
順太「!」
一吾「わかった。今から行く」
 一吾電話を切る
順太「やっぱり山に」
一吾「俺の勘は狂っちゃいねえ」
順太「行きましょう」
一吾「ちょっとまった」
順太「え」
一吾「明日の朝飯は?」
順太「おい!」
 笑いながらふたり、はける







挿入①
 一方、こちらはBBCのメンバー
 ひたすら電話をかけている須藤
須藤「(電話)一時間!・・・そこをなんとか三○分で来てもらえませんか?・・・え・・・そんな、おたくは二四時間いつでもどこでもおまかせください!ってCMでやってるじゃないですか!だから電話してるんですよ!」
 ひたすら電話する須藤、
 それをちょっと疲れた目で見る浜野
須藤「・・・無理?・・・あ、わかりました。おたくみたいなロードサービスは最低だ!」
 ぶちっと携帯を切る須藤
須藤「(ため息)」
浜野「だめ?」
須藤「ったく、ろくでもないロードサービスですよ」
浜野「参ったなあ、これじゃ今日中に東京は間に合わないなあ」
 そこへ雷鳴
ふたり「!」
 雨は豪雨となる
浜野「あ、あそこで雨宿りしよう」
 ふたり、はしっこへ
 そして座る
浜野「車はガス欠だわ、雷は鳴るわ、やってられないね」
須藤「ほんと・・・」
浜野「クローンは欠陥見つかるし・・・」
須藤「あの、その件ですけど・・・」
浜野「ん」
須藤「順太さんを・・・もう一度手術するんですよね」
浜野「そうね」
須藤「今度の手術でずっと生きられますよね?」
浜野「一○○%保障はできない。」
須藤「・・・」
浜野「さっきメールが来てね(そういいながら携帯をひらいて)うちのアメリカ本部のほうがかなりお怒りモードらしいよ」
須藤「・・・」
浜野「それと・・・デマかもしれないんだけど、いろいろ捜査機関が動き始めたらしい」
須藤「!」
浜野「ほら、ヒトクローンに関してはWHOやユネスコでクローン製造を認めないっていう国際的な決議が出てるじゃない?その辺の件で東京にも内偵捜査が・・・」
須藤「ばれてしまったんですか・・・」
浜野「どうもおかしいんだよね。今回の欠陥といい、内偵捜査っていい、ひょっとしてメンバーにそっちと通じてる人間が・・・」
 浜野、須藤をにらむ
須藤「!・・・」
浜野「(にらんでる顔から一気ににっこり)」
須藤「びっくりした・・・」
浜野「ま、最後のほうはあたしの推測だけど」
 そこにメール
浜野「あ、メールだ・・・」
須藤「あ、あたしも・・・
ふたりメールを見る
ふたり「(読んで)・・・!」
 顔を見合わせる
浜野「本社を・・・一斉捜索・・・」
須藤「ヒトクローン製造容疑・・・」
 ふたりびっくりして立ち上がる
須藤「どうしますか!」
浜野「落ち着いて」
須藤「でも」
浜野「大丈夫、クローン計画が明るみになったとしても、ここに来るまでにはちょっと時間がかかるはず」
須藤「そ、そうですよね・・・」
 そのとき、浜野のみにメール
須藤「?」
浜野「あたしだけに・・・?」
 浜野、メールを確認
浜野「!」
須藤「ど、どうしました?」
浜野「・・・」
須藤「まさか・・・まさかこっちまで捜査が・・・」
 浜野、ぱちんと携帯を閉める
須藤「・・・」
浜野「・・・須藤さん」
須藤「はい・・・」
浜野「(メールを見せて)・・・D1号を・・・処分・・・・せよ」
須藤「!」
浜野「差出人は、アメリカ本部のプロジェクトリーダーと・・・うちの社長から・・・」
須藤「そ、そんな・・・」
 須藤、がくぜんとする
 重苦しい空気
須藤「順太さんを・・・処分する・・・なんて・・・」
浜野「・・・」
須藤「証拠隠滅じゃないですか!」
浜野「・・・」
須藤「部著、今すぐメール打ってください」
浜野「・・・」
須藤「もっとほかの解決法なり何か考えましょう」
浜野「・・・」
須藤「部長!」
浜野「・・・できない」
須藤「!」
浜野「できる・・・わけないじゃない」
須藤「部長!」
浜野「あたしたちは・・・会社員なのよ・・・」
須藤「・・・」
浜野「上の言うことは絶対なんだから・・・」
須藤「会社員の前に人間です!」
浜野「・・・」
須藤「部長には良心というものはないんですか?」
浜野「・・・」
須藤「情とか、熱い思いとか夢とかないんですか!」
浜野「須藤さん、D1号が泊まってる民宿ってどこだっけ・・・」
須藤「答えてください」
浜野「須藤さん」
須藤「答えてください、部長!」
浜野「須藤さん」
須藤「・・・」
浜野「悪いけど、あたしはもう、そういうレベルから抜けたみたいなんだ」
須藤「・・・」
浜野「仕事をして、仕事をやりとげることで、あたしは自分の存在を感じているから」
須藤「・・・」
浜野「もうそこには戻れない」
須藤「そ、そんな・・・」
浜野「民宿まで道案内して」
須藤「・・・できません」
浜野「もし対策を考えて、電話で報告しても・・・もう遅い」
須藤「なんでですか!」
浜野「状況を把握しなさい・・・東京は捜索中なんだよ・・・」
須藤「・・・」
浜野「電話はすべて、聞かれている」
須藤「・・・」
浜野「行くわ。」
須藤「・・・」
浜野「あんたが教えないなら・・・かたっぱしから調べてやる」
 浜野、はけようとする
 そのとき
須藤「やります・・・」
浜野「!」
須藤「処分するなら・・・あたしにやらせてください・・・」
浜野「できるの・・・?」
須藤「(うなずく)」
浜野「・・・」
須藤「やるならあたしの手で・・・もう一度・・・天国へいかせます・・・」
浜野「・・・」
須藤「民宿へ行きましょう」
  ふたりがあるいていく

 ※差し替え7.4
民宿いちご

まるみ「すっかりぬれちゃったね。タオル持ってくるから、あがってて」
 入ってくるまるみ
 止まる蘭
 まるみ、奥からタオルを持ってくる
まるみ「?」
蘭「・・・」
須藤「はい(タオルを渡す)」
蘭「・・・はい・・・」
  蘭はもじもじしている
まるみ「ほら、ふいて」
蘭「・・・ありがとうございます」
 まるみ、髪をふきはじめる
まるみ「初家出?」
蘭「?」
まるみ「あ、でもここはあなたの家じゃないから、家出ってわけじゃないか」
蘭「・・・」
まるみ「そんなとこつったってないで、早くすわんな」
 蘭、しぶしぶ座る
 まるみ、いったん窓のほうに行き
まるみ「あれ・・・」
蘭「・・・?」
まるみ「もう、星が見える」
蘭「晴れたんですか?」
まるみ「夕立だからね。うちのあたりは東京と違って、速さが違うんだよ」
蘭「そうなんですか」
まるみ「それにこんな空、そっちならプラネタリウムくらいでしか見れないでしょ?」
蘭「(星を見て)・・・ええ・・・」
まるみ「へへへ、勝った」
蘭「・・・」
まるみ「あたしね、夜寝る前に十分くらい星を見てから布団に入るんだ」
蘭「・・・」
まるみ「じっと見てるとね、絶対一個か二個・・・多いときは四個くらい流れ星が見える。」
蘭「流れ星ですか・・・」
まるみ「見たことある?」
蘭「・・・ううん」
まるみ「(また空を見て)ほら!」
蘭「(同じく見て)あ」
まるみ「お願い神様!」
 まるみ、急いでお祈り
蘭「え・・・」
まるみ「(お祈りをといて)へへ・・内緒」
蘭「・・・」
まるみ「どうだった?初めての流れ星」
蘭「・・・あっという間でした」
まるみ「今のは遅いほうだよ」
蘭「早い遅いがあるんですか?」
まるみ「毎日見てるとわかるんだよ」
蘭「へえ・・・」
まるみ「次見たら、今度は蘭ちゃんがお願いしなよ」
蘭「え・・・」
まるみ「けっこう効くと思うよ」
蘭「・・・」
まるみ「あたしみたいな年寄りは・・・だめみたいだけどね・・・」
蘭「あの、何をお祈りしてるんですか」
まるみ「秘密」
蘭「・・・そうですか」
まるみ「蘭ちゃんも秘密のお願いをしなさいよ」
蘭「・・・」
まるみ「あ、今はお父さんが見つかりますようにっていったほうがいいかな」
蘭「あの・・・」
まるみ「?」
蘭「まるみさん・・・でしたっけ?」
まるみ「そうだよ」
蘭「まるみさんのお父さんとかお母さんってまだ生きてますか?」
まるみ「うん。ここからふたつ山越えたとこの町でね、のんきに暮らしてる」
蘭「今でも好きですか?」
まるみ「え」
蘭「今でも・・・お父さんとお母さんって好きですか?」
まるみ「好きだよ」
蘭「・・・」
まるみ「当分会いにいけないけどね」
蘭「え」
まるみ「一吾と駆け落ちしたんだ。うちらのこと認めてくれなくてね」
蘭「・・・」
まるみ「実家は昔からの不動産やさんでね、けっこう頭堅くって」
蘭「そうなんですか」
まるみ「お父さん、嫌いになっちゃったの?」
蘭「嫌いっていうか・・・その・・・」
まるみ「?」
蘭「わかんなくなりました」
まるみ「・・・」
蘭「お父さんの意味ってなんですか?お父さんのいる意味って・・・」
まるみ「・・・」
蘭「お母さんは蘭が生まれてすぐにいなくなって、お父さんひとりで蘭を育ててくれました」
まるみ「そうだったんだ」
蘭「蘭をここまでしてくれて本当に感謝してるし、また会えたのも」
まるみ「え」
蘭「はい?」
まるみ「また、会えた・・・って?」
蘭「あ、それは」
まるみ「お父さんもいなくなったことがあるの?」
蘭「・・・」
まるみ「あのお父さんも、けっこうやんちゃなんだね」
蘭「え?」
まるみ「家出したんでしょ?」
蘭「あ・・・」
まるみ「好きな女の人でも出来たのかな。背のちっちゃいかわいいこ」
蘭「そんなんじゃありません!」
まるみ「!」
蘭「浮気とか、新しい女の人をつれてきたことありません」
まるみ「ごめんなさい」
蘭「・・・」
まるみ「ごめんね。ちょっと繊細な・・・話だったんだね。あたしいっつも悪ノリしちゃうから」
蘭「・・・お父さんは・・・お父さんじゃないんです」
まるみ「え」
蘭「・・・」
まるみ「お父さんは・・・お父さんじゃない?」
蘭「・・・」
まるみ「なにが・・・なんだか・・・よくわかんないけど・・・」
蘭「・・・」
まるみ「本当のお父さんは別にいるの?」
蘭「いえ・・・」
まるみ「今日ここに来た人は別人なの?」
蘭「違います・・・」
まるみ「うーん・・・」
蘭「とにかく、あれはお父さんであって、お父さんじゃないんです」
まるみ「蘭ちゃん」
蘭「はい」
まるみ「頭がパニックになってる」
蘭「・・・」
まるみ「蘭ちゃんが伝えたいことがわからなければ、あたしもわかんない
蘭「・・・すいません」
まるみ「今答えられるのはひとつ。お父さんの意味っていうか親の意味ね」
蘭「・・・」
まるみ「あたしが思うに・・・親っていうのはもうひとりの自分」
蘭「自分・・・」
まるみ「ふたごの話とかでよくあるんだけどさ、気持ちがつながってるとかいうよね。たとえば右足怪我したら、同じ日にもうひとりの子も右足くじいたとかね。」
蘭「・・・」
まるみ「あたし、高校のころさ、学校行かないで一吾といっしょにバイク乗って悪いことばっかりやってたのね。
で、ある日、バイクこけてちょっと怪我したのね。足ひきづってうちの前まで来たらさ、お父さんが外で待ってて」
蘭「・・・」
まるみ「『怪我したんだろ?』って・・・。あたしの肩もって病院まで送ってくれた」
蘭「・・・」
まるみ「ふたごじゃなくても、父親と母親と子供っていうかたまりの中なら、絶対つながってると思うんだ。どこかで痛いと思ったり、悩んだりしていれば、どこにいようが心でつながっている。必ずわかっている」
蘭「・・・」
まるみ「・・・言葉や顔だけじゃわかんないことも・・・つながるときはつながる。それをわかってくれるのは、世の中でたったふたりの親なんだよ」
 そのとき、車がぶつかる音
それと同時に一吾が走ってやってくる
一吾「大変だ!」
まるみ「どうしたの?」
一吾「人を・・・ひいちまった」
まるみ「え!」
一吾「ここに来る途中に、いきなり女がとびだしてきてよ。で、バーンってなってドーンでガーンでグシャで○○××・・・」
まるみ「なにしゃべってるかわかんないよ」
一吾「今、兄さんがいっしょにいる」
蘭「お父さんが」
一吾「ああ。」
まるみ「警察とか、あと救急車とかは?」
一吾「さっきのまるみの電話でよ、電池きれちまってよ。ああ、電話、電話!」
 一吾、はけようとする
蘭「大丈夫かな」
まるみ「大丈夫。」
蘭「・・・」
まるみ「つながってるんだから」
 その間に一吾、電話をかける
一吾「(電話)あ、谷地の民宿いちごです。はい。ちょっと救急車を・・・(アドリブでつづけて)」
 そのとき
まるみ「あれ?そういえば、もうひとり女の人いたよね」
蘭「夕方帰りましたよ」
まるみ「ああ、あの時間ならバスが来るまで相当な時間かかるんだよ」
蘭「そうなんですか?」
 一吾、電話をかけ終わり、またハケようとする 
蘭「待ってください」
一吾「なんだよなんだよ!」
蘭「倒れていたのって女の人じゃないですか?」
一吾「ああ。なんかこう、スーツびしっと着た人だった」
蘭「!」
まるみ「え・・・」
蘭「そのスーツの色って・・・」
一吾「えっと・・・○○(色を言って)だったかな」
蘭「須藤さんだ」
一吾「え」
まるみ「さっきの人?」
蘭「そんな気がします・・・」
一吾「あのもうひとりのお客さん?」
蘭「違ってるかもしれないけど・・・」
まるみ「つれてって」
一吾「ああ」
蘭「蘭も」
まるみ「あんたはあぶない」
蘭「いやです」
一吾「兄さんもこれ終わったら帰ってくる」
蘭「違うんです」
一吾「え?」
蘭「なんか・・・(いやな予感がするんです)」
一吾「な、なんだよ」
蘭「いいから、つれてってください」
一吾「・・・」
まるみ「わかった。絶対離れないで」
蘭「はい」
























  修正②
 道路
 倒れている須藤
 介抱している順太
 そのとき須藤、目を開ける
順太「だ、大丈夫ですか」
須藤「・・・」
順太「まずい、目は開いたけど、意識ないのかな・・・゚」
須藤「・・・」
順太「一吾さん、まだかな・・・」
須藤「あ・・・あの・・・」
順太「あ、気がつきましたか?」
須藤「すいません、道にまよっちゃって」
順太「そうなんですか・・・」
 そのとき、密かに須藤、ポケットからハンカチを出す
須藤「あの」
順太「はい?」
須藤「足が・・・」
順太「痛いんですか?」
須藤「見てもらえますか」
 順太、足を見ようとする
 その隙に須藤、一気にハンカチを順太の鼻にかぶせる
順太「!」
須藤「ごめんなさい」
 順太、意識を失う
 須藤、立ち上がる
 ぴんぴんしてる
 須藤は順太の顔を手に取る
須藤「順太さん・・・」
 そこに浜野が物陰からやってくる
浜野「まさか車に体当たりするとはね・・・」
須藤「・・・」
浜野「さあ、処分するのよね」
 須藤、動かない
浜野「どうしたの?」
 須藤、動かない
浜野「さあ、早く」
 そのとき
 須藤、すっく、と立ち上がる
 そして浜野をじっと見る
浜野「?」
  須藤、携帯電話を取り出し電話する
須藤「(浜野の目を見据えたまま電話)須藤です。至急、例のもの手配願います。場所はGPSでご確認ください」
 電話切る
浜野「東京と・・・電話したの?」
須藤「・・・ええ」
浜野「なんてことをしてくれたの!」
須藤「・・・」
浜野「あんたはあたしの、上司の言うことを聞かなかったんだよ」
須藤「・・・」
浜野「あんたのせいで東京にいる一○○○人の従業員が職を失ってしまってもいいわけ?え?あんたの小さな良心と一○○○人、どっちが大きいの?」
須藤「部長!」
浜野「!」
須藤「状況を把握してください」
浜野「どういうこと?」
須藤「民宿はすぐそこです。」
浜野「(そちらのほうを向く)」
須藤「ここで処分してもすぐに大変なことになりますよ」
浜野「!」
須藤「あたしにまかせてください」
浜野「・・・」
 ヘリの音が大きくなる
須藤「東京にいきます」
 ヘリの音の中、須藤は順太を見る
 
 須藤は順太の手を肩へ
 浜野も仕方なしに肩へ



 須藤は空を見ながらへりのポイントを確認する
 順太を肩に抱きかかえながらハケる
 
カバンは忘れたままだ
 そこにナツコがやってくる
 かばんを持つ
 そのとき、
一吾「(声だけ)こっちだ」
 ナツコ、かばんをそっとおく
 はける







ヘリの音は遠ざかっていく
 現場に到着する三人
一吾「あれ?」
まるみ「だれもいない・・・」
 一吾、一気に歩き始めて
一吾「おーい!」
 一吾、探し始める
まるみ「だいじょうぶですかあ!」
一吾「なんでいねえんだよ・・・」
まるみ「ほんとに人とぶつかったの?」
一吾「だって、あんなにドーンってバーンってがーんって」
まるみ「あんた!」
一吾「ってひかれて、そこでぐったりしてたんだぜ」
まるみ「またあんたの幻覚なんじゃないの?」
一吾「シンナーなんかもう吸ってないよ!」
まるみ「うそ。机の中に入ってるの見たよ」
一吾「あれはガンダムのプラモを(作るためにね)」
 蘭、バックを見つける
蘭「これ・・・」
まるみ「・・・あ、さっきの・・・」
蘭「須藤さんのです」
一吾「なんだって?」
蘭「お父さんを」
まるみ「まさか・・・」
蘭「お父さんを連れて行った・・・」
一吾「そ、そんな・・・」
蘭「ここから駅まではどのくらいありますか?」
一吾「え」
まるみ「車だったらちょうど三十分くらいかな」
蘭「東京に戻ります」
まるみ「!」
一吾「おいおい、もう終電おわってるぜ」
蘭「そんな・・・」
ふたり「え」
一吾「ってことは・・・」
まるみ「ゆ、誘拐?」
 遠くのほうから救急車やパトカーの音が近づいてくる
暗転






 ※修正6.25
 一方こちらは薄暗い部屋
順太ががっくりと座っている
 そこに缶を振る音が聞こえる
順太「・・・だ・・・誰・・・?」
ナツコ「あたしはナツコ」
順太「な・・・なつこ・・・」
ナツコ「あなたとは今、心で話をしている。」
順太「こころ・・・」
ナツコ「今はわからなくてもいい。でも、あなたにはその力がある・・・」
順太「・・・」
ナツコ「やっと会えたね」
順太「・・・」
ナツコ「うれしい・・・」
順太「・・」
ナツコ「覚えてる?このドロップの缶・・・」
順太「・・・」
ナツコ「あんなに毎日、いっしょに食べたのにね」
順太「・・・」
ナツコ「忘れちゃったなんて、さみしい・・・」
順太「・・・ごめんなさい。」
ナツコ「もう・・・クローン人間なんだもんね・・・イルカだったときの記憶は消されてるんだね。」
順太「・・・そうかもしれません」
ナツコ「・・・」
順太「でも、感覚は残ってるから、こうやってあなたと話してる」
ナツコ「うん」
順太「そのドロップは・・・」
ナツコ「あなたはこのドロップが好きだった。毎日毎日、食事のあと、体全体を使ってほしいほしいって・・・。」
順太「・・・」
ナツコ「糖分とか着色料とか、あなたにとっては毒かもしれないのにね・・・でも求められたらあたしはずっとあげてた・・・」
順太「・・・」
ナツコ「あなたが東京にひきとられたときにこの缶は開かなくなった。はさみとかドライバーとかいろいろ試したよ。でもずっと、あかなくて・・・」
順太「・・・」
ナツコ「この中には、あなたが、いるかだった最後の思い出が残ってるのかもしれない・・・」
順太「最後の・・・思い出・・・」
ナツコ「蘭ちゃんに会いたい?」
順太「会いたい」
ナツコ「・・・」
順太「会えないのなら、なんのために僕がクローンとしてもう一度戻ってこれたかわからない・・・」
ナツコ「・・・」
順太「あのこはあと四年もしたら立派な大人になる。いつのまにやら彼氏もできて、僕に紹介してくるかもしれない。そして・・・いつか僕のもとを離れるときが来るだろう。」
ナツコ「・・・」
順太「そのときまで、いてあげるのが僕の責任であり、役目だと思う」
ナツコ「・・・そう・・・」
順太「じゃあ行くね」
 順太、はけようとする
ナツコ「危ない」
順太「え・・・」
ナツコ「このまま行くと、あなたが・・・危ない」
順太「・・・」
 ナツコはハケる
 追いかけようとする順太
 そのとき、強い心臓の痛みを覚える
 うろたえる順太
順太「な・・・なんだ・・・」
 それは時に強く、そして確実に順太を蝕む
順太「(うめく)」
暗転






 電車
蘭が乗ってくる
窓を見る
そして座る
 始発電車は東京へ向かって動き出す

 ドアが開いてまるみと一吾がやってくる
 一吾、袋をもってくる
一吾「ったく、朝一のキオスクってもんはこんなんしかないのかな」
そして開ける
 中には酢こんぶと水ようかん
一吾「(水羊羹を蘭に差し出す)食うか?」
蘭「(手をふって拒否)」
一吾「・・・そうか・・・」
 まるみ、酢こんぶをとって
まるみ「おなかすいてないの?」
蘭「はい・・・」
まるみ「無理してでも食べないと、今度はいつ食べれるかわからないよ」
蘭「お父さんが見つかるまでは・・・いいです」
一吾「おれはいただくぜ」
 一吾、ふたをあけて食い始める
一吾「は~、うまい」
まるみ「男のくせに甘党なんだから」
一吾「うまいもん食って死ねるなら本望だよ」
まるみ「あ、この人、辛いのだめなんだ」
蘭「そうなんですか!?」
一吾「おい!」
まるみ「ほんとほんと、いまだにカレー食べれないんだから」
一吾「余計なこというなよ」
まるみ「バーモントカレーの甘口もだめなんだよ」
一吾「味にデリケートっていってもらいてえな」
 蘭、軽く笑う
一吾「(蘭に)な、なんだよ・・・」
蘭「おもしろい・・・」
一吾「お、おもしろい、だと!」
まるみ「はは、よかったじゃない」
一吾「生まれて・・・初めて言われた!」
蘭「面白いですよ。蘭の友達にも紹介したいくらい」
一吾「そ、そう・・・?(まんざらでもない笑み)」
まるみ「でもどうやって紹介するの?」
一吾「(咳払いしてから)・・・どうも、蘭の新しい父親です!って」
まるみ「どうも、蘭の母です!」
一吾「なんてな」
まるみ「やだ、ばかじゃないの!」
一吾「いいじゃんいいじゃん!(蘭に)なあ?」
蘭「(ブルー)」
ふたり「あ・・・」
蘭「・・・お父さん・・・」
ふたり「すいません」
 電車の音
まるみ「・・・とんだ夏休みになっちゃったね」
蘭「・・・ええ」
まるみ「宿題は終わったの?」
蘭「七月中に・・・」
まるみ「すごい」
一吾「なあ、今でもあるのかな?『夏休みの・・・』
蘭「『夏休みの友』ですか」
まるみ「やね。それは小学生とかしかやんないよね」
蘭「中学ではやりませんでした」
一吾「うそ、おれ、中学でやったよ」
まるみ「あ、この人小学校と中学校の区別あんまりついてないから」
一吾「おい!」
まるみ「なによ!」
 ふたり喧嘩になる
蘭「・・・いいですね・・・」
まるみ「(とっくみあいながら)え?」
蘭「家族旅行って、ほんとはこんなんでしょうね」
ふたり「・・・」
蘭「ずっとうらやましかったんです。母親参観だっていうのに、クラスでひとりだけお父さんだったし・・・。
まるみ「・・・」
蘭「運動会も、お遊戯会も、全部、お父さんだった」
一吾「・・・」
まるみ「幸せだよ」
蘭「?」
まるみ「そうやって、見てくれてるんだもん」
一吾「見てるっていうより、そこにいるんだな。それがいいんだよ」
蘭「・・・」
一吾「言葉を使って相手と話すのは便利だ。でも言葉でわかんねえときってのが人生でけっこうある。そういうときは言葉はいらねえ。
  いっしょにいる。ぶつかる。
  それだけでもかまわねんだよ」
蘭「・・・」
一吾「大丈夫。やつは待ってる」
蘭「・・・」
まるみ「そう。必ずね」
蘭「ありがとう・・・」
一吾「礼なんかいうな」
まるみ「お父さんにあってからだよ」
蘭「・・・はい・・・」
まるみ「うちも、そろそろお父さんのところ行かないとね」
一吾「ゆるしてくんねえって。」
まるみ「そうかな」
一吾「ふん、あんな親父なんか」
まるみ「いるだけでも、わかってくれるんでしょ?」
一吾「・・・そりゃ・・・そうだけど・・・」
 三人、窓を見る
まるみ「あたしも子供ほしいなあ。」
一吾「・・・いつか必ずだ」
蘭「・・・」
まるみ「ありがとう」
一吾「おれも、がんばるからさ」
まるみ「あたしも・・・がんばる」
一吾「それでこそ、俺の嫁だ」
蘭「・・・」
まるみ「俺の嫁だって。あたしは物じゃないんですけど・・・」
 そのとき、まるみ、ふいに吐き気を覚える
まるみ「(口に手をあてて)・・・ご、ごめんなさい」
一吾「お、おい」
 まるみ、すみっこにはける
蘭「どうしたんですかね?」
一吾「昨日の食い合わせでも悪かったかな・・・」
 そのとき
 ばたりと音がする
 見ると、まるみが倒れている
一吾「まるみ!」
蘭「まるみさん!」
 ふたり、まるみの元に駆けつける
まるみ「・・・ごめん・・・こんなところで」
一吾「いい、しゃべるな」
まるみ「吐きたくなって・・・ここまできたら・・・ぐるぐるしちゃって」
一吾「いいから!」
 蘭、車内を見回す
ブザーを見つける
 そして押す
 急ブレーキ!
 ふたり固まる
蘭「止まった!」
一吾「ありがとう!」
蘭「こんなことしかできなくて・・・」
一吾「大丈夫だ。」
蘭「・・・」
一吾「こっちはなんとかする」
蘭「でも」
一吾「おれにまかせろ!」
蘭「・・・」
一吾「まるみは、おれが助ける。」
蘭「・・・」
一吾「(時計を見て)もうこっからなら東京近いはずだ。兄さんのところへ・・・」
蘭「!」
一吾「早く!」
蘭「・・・はい」
一吾「こっから先は兄さんへの恩返しの道だと思え」
蘭「・・・」
一吾「ずっといっしょに嬢ちゃんを見てきたなら、絶対会える。」
蘭「・・・」
 一吾は蘭のバッグを投げる
 受け取る蘭
一吾「兄さんと、もう一度うちに帰って来い」
蘭「・・・はい!」
一吾「イルカ祭り、行こうな!」
蘭「はい!」
 蘭、バックを背負ってはけはじめる
須藤「蘭ちゃん!」
 蘭、振り返る
須藤「・・・」
蘭「・・・」
 そして、蘭は走っていく



















八月三十一日
 バイオバード
 奥に順太が寝かされている
 須藤、それをじっと見ている
 浜野がやってくる
浜野「(順太を見ながら)まだ眠ってるの?」
須藤「強い麻酔を先ほど打ち直しました」
浜野「そう・・・」
 浜野、携帯をとりだして
浜野「電話が通じない」
須藤「社長ですか?」
浜野「うん」
須藤「・・・」
浜野「もう、捜査の手がかかってしまったのかな・・・」
須藤「・・・」
浜野「上は警察だらけだし、いつこの地下の研究室がばれてもおかしくないよ」
須藤「大丈夫です」
浜野「・・・」
須藤「(浜野の目を見て)あたしがなんとかします」
浜野「あんたのその自信はどこから来るのかな?」」
須藤「根拠はないです」
浜野「・・・」
須藤「でも、そうでもしなきゃ、やってらんないですよ」
浜野「・・・あきれたもんね」
 浜野、座る
浜野「(注射器を出して)はい、これ」
 須藤、注射器を持つ
浜野「動物輸入部からもらってきた」
須藤「・・・」
浜野「これで、D1号を処分しなさい」
須藤「(注射器を見つめる)」
浜野「早く」
須藤「・・・」
浜野「あんたがなんとかするんでしょ?」
須藤「部長」
浜野「・・・」
須藤「クローン事業部がはじめてできたとき、あたしはうれしかったんです
浜野「・・・」
須藤「あたしをコンビニのバイトからひきあげてくれた、恩人と仕事できるんですから」
浜野「・・・そうだったかな・・・」
須藤「忘れませんよ」
浜野「・・・」
須藤「あたしが蘭ちゃんを産んで・・・うちの親に順太さんとも引き離されて・・・体も、心もぼろぼろのあたしを助けてくれたんですから」
浜野「・・・
須藤「ここで働く初めての日にあたしに言った言葉覚えてますか?」
浜野「・・・」
須藤「ずっと、順太さんと蘭ちゃんを見守ってあげなさい。それだけでもわかってくれるはずだって・・・」
浜野「・・・そんな言葉は忘れた」
須藤「・・・」
浜野「あたし思い出話で気分が楽しくなる人じゃないから」
須藤「そう演じてるだけです」
浜野「・・・」
須藤「冷静沈着で、会社のために身をささげる、そんな人間を演じてるだけです」
浜野「あんたに何がわかるの」
須藤「・・・」
浜野「あたしはここができたときからいるの・・・社長がまだ若くて、ふたりで何日も徹夜して仕事してるころからいる の」
須藤「・・・」
浜野「最初はペットとしての鳥の輸入だけでせいいっぱいでね。毎日毎日、輸入のやりかたを一からずっと本を見ながらいっしょにやっていたの。」
須藤「・・・」
浜野「初めてこっちに輸入したのはインドのほうにいた九官鳥だった。持ってくるまで三ヶ月くらいかかって、ようやく東京のペットショップに受け渡したときは、鼻血をだして病院に運ばれた。そのとき、あたしをおぶってくれたのが社長だったの」
須藤「・・・」
浜野「その社長に・・・社長の言うことに歯向かえるわけないでしょ」
須藤「・・・」
浜野「あたしは今、心を殺してあんたに対してる。でもそうしないと・・・あたしが壊れるの・・・」
須藤「・・・」
浜野「殺しなさい」
須藤「・・・」
浜野「処分しなさい。」
須藤「・・・」
浜野「早く!」
 浜野、注射器を須藤の顔に向ける
須藤「・・・」
 須藤、注射器を受け取ると順太のもとへ行く
 須藤、順太を見る
 注射器を構える
 そして大きく深呼吸する
 そして打つ
 浜野それを見て
浜野「脈を確認しなさい」
須藤「・・・」
浜野「須藤さん?」
 そのとき、順太が目を覚ます
順太「(起き上がって)ここは・・・」
浜野「!」
須藤「この注射、毒薬じゃないんです」
浜野「え」
須藤「麻酔から覚ます薬だったんです」
浜野「あんた・・・」
須藤「輸入部に先回りしておいときました。あとでうちの部長がもらいにくるだろうから、そしたら渡してくれって」
浜野「だましたの・・・」
須藤「部長・・・」
浜野「・・・」
須藤「あたしは・・・壊れません!」
浜野「!」
 須藤、注射器を捨てる
浜野「(注射器をとって)許さない・・・」
 須藤、急いで順太を起こす
須藤「あなたを助けます」
順太「え・・・」
須藤「心臓が大変なことになっています。早く処置をしないと・・・」
順太「・・・」
 順太、急激に心臓に痛みを覚える
順太「(絶叫)」
須藤「行きましょう」
順太「ど、どこに・・・」
須藤「あたしの知ってる獣医が神奈川にいます。あの民宿のある海です」
浜野「あんた、まさか・・・」
須藤「部長がこの前いってた飼育係のことです。」
浜野「行方不明なのよ。見つからないよ」
須藤「見つけます」
順太「須藤さん・・・」
須藤「あの子はイルカ研究では世界のトップクラスなんです。あの子なら絶対助けてくれる」
浜野「・・・」
須藤「順太さんは・・・あたしが守る」
 須藤、順太を支えながら
須藤「急ぎましょう」
順太「は、はい・・・」
 ふたり歩き始める
 そこに
浜野「ここからは絶対ださない」
 浜野の手にはもうひとつのびん
ふたり「!」
浜野「一本じゃ足りないと思ってね、もうひとつ借りといたの」
須藤「部長・・」
浜野「まさかこっちも使うとはね」
 浜野、注射器を入れて、中身を吸わせる
須藤「正気ですか!」
浜野「あたしはいつだって正気よ!」
 そこに
蘭「お父さん!」
 部屋の奥に蘭がいる
須藤「蘭ちゃん」
 蘭は部屋の階段をかけおりてくる
蘭「蘭のお父さんを返して下さい!」
順太「蘭・・・」
 順太、須藤のもとを離れて蘭に近づく
 ゆっくりと浜野、蘭の前に
須藤「蘭ちゃん危ない!」
蘭「どいてください!」
須藤「蘭ちゃん!」
 浜野、一気に蘭を人質にする
順太「蘭!」
浜野「動いたら、打つ!」
ふたり「!」
蘭「お父さん・・・」
浜野「会社のためなの・・・社長と・・・一○○○人の社員のためなの!」
 そのとき

 大きな爆発音






















 みんなふっとぶ
 鳴り響く警戒音
須藤「だ、大丈夫ですか・・・」
順太「ぼくは・・・なんとか・・・蘭は・・・」
 ふたり、倒れている
 順太、近づき
順太「しっかりしろ!」
蘭「・・・お父さん・・・」
順太「がんばれ。」
蘭「・・・うん・・・」
順太「須藤さん!」
須藤「はい」
順太「ここの出口は」
須藤「こっちです」
 須藤、誘導してまず順太と蘭をはけさせようとする
須藤「順太さん」
順太「はい」
須藤「昨日までいた海の近くに、イルカ研究の第一人者がいるはずです」
順太「はい・・・」
須藤「今はバイオバードの人間じゃないんですが、心臓をなんとかしてくれるかもしれません。先に行っててください」
順太「どこにいるんですか?」
須藤「イルカ牧場か、その周りに必ずいるはずです」
順太「・・・」
須藤「大丈夫。絶対会いにいくはずです」
順太「・・・わかりました」
 ふたりはける
 須藤、行こうとしてとまる
 そしてゆっくりと振り向き、浜野へ。
須藤「部長」
浜野「・・・す・・・どう・・・さん・・・」
須藤「行きましょう」
 須藤、手をのばす
浜野「・・・こんな・・・あたしでも・・・いいの」
須藤「早く」
浜野「あたしはあなたより・・・会社をとった人間だよ・・・」
須藤「・・・」
浜野「・・・」
須藤「もう!今生きているなら、もっと生きてやりゃいいじゃないですか!」
浜野「・・・」
 そういいながら、浜野を助け起こす
 はけるときに爆発音
 振り向く須藤


 祭りばやしの音が聞こえる
 ここは海
 いるか祭りの会場である
 たくさんの人でにぎわっている

 その近く
 ふたりが歩いてくる
 順太うめく
蘭「お父さん・・・」
順太「ナイフでここをえぐりとるような痛みだ・・・」
蘭「・・・」
順太「大丈夫。まだいける」
 順太、歩こうとする
 しかし苦しい
 蘭はそこに座らせる
順太「お祭りか・・・」
蘭「一吾さんが言ってた。いるか祭りだって」
順太「いるか祭り・・・」
蘭「この辺でたくさん育ててるイルカにちなんだお祭りなんだって」
順太「そうか・・」
蘭「お父さんも、イルカだもんね」
順太「ばか・・・人間だよ・・・」
蘭「・・・うん」
順太「金魚すくいとか・・・やりたかったな」
蘭「焼きそばとかりんご飴とか」
順太「カルメ焼きとか」
蘭「なにそれ?」
順太「砂糖と重曹をまぜてなあ、こうやってぷくーってふくれたお菓子」
蘭「知らない」
順太「今度作ってやるよ」
蘭「うん」
順太「・・・作って・・・やりたい」
蘭「絶対だよ」
順太「うん」
蘭「・・・今日で夏休み終わりだよ」
順太「ああ、そうか・・・」
蘭「蘭は・・・ずっとこの夏休みをこれからも覚えていくような気がする」
順太「・・・
蘭「だってこんなの初めてだよ」
順太「・・・」
蘭「高校に今年はいったでしょ?制服がブレザーからセーラーになったし・・・あ、昨日ね、ここで生まれて初めて流れ星も見たよ」
順太「・・・」
蘭「それから・・・お父さんが一回死んで、三ヶ月間ひとりぼっちになった。」
順太「・・・すまん」
蘭「え」
順太「こんな年にさせちまって・・・」
蘭「いいよ」
順太「え」
蘭「ここですんごい大きな思い出を作りたい」
順太「・・・ああ」
 順太うめく
蘭「大丈夫?」
順太「・・・」
蘭「・・・」
順太「もう・・・だめ・・・かもしれない」
蘭「え」
順太「でも・・・生きていたい・・・」
 順太、倒れそうになる
 それを蘭、必死に支える
蘭「だめ!」
順太「・・・」
蘭「死なせない」
順太「蘭・・・」
蘭「お父さんを・・・死なせない!」
順太「・・・」
順太「僕もずっと・・・蘭のそばにいたい」
蘭「うん」
順太「・・・」
蘭「蘭だって・・・ずっといるよ」
順太「・・・ありがとう」
蘭「ひとりは・・・絶対いやだ」
 そのとき
 缶をふる音が聞こえる
 ふりむくと、ナツコがいる
蘭「ナツコさん」
ナツコ「・・・」
蘭「お父さんです」
ナツコ「(ゆっくり順太を見て)」
蘭「お願いがあります」
ナツコ「・・・」
蘭「お父さんの心臓が危ないんです」
ナツコ「・・・」
蘭「お父さんに聞きました。ナツコさんなら治してもらえるって」
ナツコ「やっと返してくれるの」
蘭「え」
ナツコ「返してくれるんだよね」
蘭「・・・」
ナツコ「約束は守るためにある」
蘭「蘭はなにも約束なんて(してません)」
ナツコ「(さえぎって)あたしは約束を守ったよ」
蘭「・・・」
ナツコ「東京のバイオバードをこわした」
蘭「!」
ナツコ「あたしの・・・あたしのイルカを奪われたときの気持ちを・・・さぞ痛く、体で受け止めたことだろうよ」
蘭「・・・:」
ナツコ「もうすぐ・・・ここも」
蘭「そんな」
ナツコ「さっき仕掛けてきた。八時の花火といっしょに・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「もらうよ」
蘭「・・・」
 ナツコ、順太のもとへ近づく
蘭「(振り向かないで)心が・・・痛くなったりとかしませんか」
ナツコ「(とまる)」
蘭「自分の痛みは、痛みを相手にもやり返すことでしか埋まらないんですか」
ナツコ「・・・」
蘭「罪のある人にとっては仕返しかもしれない。でも罪のない人まで、痛みをいっしょに感じなくてはいけないのですか!」
ナツコ「・・・」
蘭「「それじゃ痛みは永遠に回り続けてるだけです」
ナツコ「なら、蘭ちゃんの痛みは回りつづけないの?」
蘭「・・・」
ナツコ「お父さんが死んだときに感じたあの痛みは・・・どこへ?」
蘭「・・・」
 そのとき
順太「僕のところにある」
蘭「お父さん・・・」
順太「蘭の痛みは・・・全部僕が抱えている」
ナツコ「・・・」
順太「蘭・・・」
蘭「・・・」
順太「よく・・・がんばったね・・・」
蘭「・・・」
順太「お葬式のとき、蘭はずっと泣かなかった。健気にずっと。火葬のときも、納骨のときも、家で自分の部屋でひとりぼっちになっても蘭は泣かなかった」
蘭「・・・」
順太「でも・・・ここに来る前、四谷のお墓で泣いた。きれいな涙をとめることなく・・・。」
蘭「いやだよ、・・・なんで知ってるの?」
順太「なんだか心のすみっこにその風景がずっと映画館のようにまわっていて・・・」
蘭「・・・」
順太「だからナツコさん、蘭を責めるのはやめてくれ・・・」
ナツコ「あたしの痛みは・・・だれが抱えてるの」
順太「・・・」
ナツコ「体に出来た傷は、消毒して絆創膏でもはればなんとかなる。
でも心の傷は、いつまでも濡れていてずっと開いたまま・・・。あたしの体がこの世からなくなるまで永遠にかさぶたにならない。」
順太「なら・・・それも僕が抱えましょう」
ナツコ「順太さん・・・」
順太「僕の心臓はもうすぐ止まる・・・だったら止まるまで、ナツコさんの痛みを抱えましょう」
蘭「いやだ」
順太「蘭・・・」
蘭「ずっと生きたいって・・・」
順太「・・・僕は・・・木ノ森順太であり・・・ナツコさんがずっとかわいがったイルカなんだ。」
ナツコ「・・・」
順太「だから・・・僕に・・・あなたの痛みをください・・・」
 順太、よろけながら歩いていく
 そのとき
須藤「まって!」
 須藤が、ぼろぼろの格好で立っている
蘭「須藤さん・・・」
須藤「やっとここまで来た」
 須藤、順太を抑えながら
須藤「あの地下室から・・・部長を病院に渡して、ここまできたよ」
ナツコ「・・・」
ナツコ「・・・」
須藤「心が弱かったら・・・あたしはあの地下室で部長といっしょに死んでたかもしれない。でもあたしは生きている。
こうやってあなたの前に立っている。」
ナツコ「・・・」
須藤「生きなきゃならない。本当に終わりが来るまでは、あたしは転んでも起き上がる」
ナツコ「人生でそう簡単には起き上がれない」
須藤「あたしは起き上がった!」
ナツコ「・・・」
須藤「・・・だって・・・あたしは・・・ひとりじゃない・・・」
 そういって、須藤、順太の手をぎゅっと握る
 そして蘭の手も握る
蘭「え・・・」
須藤「(蘭の目を見つめる)」
蘭「・・・」
順太「ナツコさん」
ナツコ「・・・」
順太「昨日、あなたと心で話したときのことを覚えてますか」
ナツコ「・・・」
順太「僕に・・・それを貸してください」
 順太、手を伸ばす
 ナツコ、缶を順太に渡す
 順太、缶を手に持って、
蘭「なにしてるの!」
順太「僕なら、あけられるかもしれない」
 順太、開け始める
須藤「だめ、血圧があがるかもしれない」
蘭「おとうさん、やめて」
順太「このドロップの缶が開けば・・・悲しみは開放される」
 順太、最後の力をふりしぼって缶にてをかける
 そのとき

 缶のふたが開く

ナツコ「あ・・・」
 ナツコ、その場にへたりこむ
 順太は缶の中から二個のドロップを出す
順太「これが・・・ナツコさんの悲しみなんですね」
ナツコ「・・・」
順太「あなたの痛みは・・・僕が受け止める」
ナツコ「・・・」
須藤「待って」
 須藤、順太からひとつドロップをとる
須藤「あたしも・・・あなたを助ける」
順太「須藤さん」
 須藤、ドロップを食べる
順太「あ・・・」
須藤「・・・口の中に、風がふいてる・・・」
ナツコ「ハッカ・・・」
順太「・・・」
ナツコ「いつもお気に入りだった・・・」
 順太も食べる
順太「僕もだ・・・」
 ナツコ、じっと順太を見る
順太「あなたの悲しみは僕らが受け取った」
ナツコ「・・・」
須藤「だから・・・順太さん・・・」
蘭「お願いします!」
 ナツコ、ふと立ち上がると
ナツコ「ついてきな」
みんな「?」
ナツコ「命を・・・つなぐ・・・」
順太「・・・」
蘭「ありがとうございます!」
ナツコ「蘭ちゃん」
 ポケットからひとつのスイッチを出す
ナツコ「イルカ牧場に仕掛けた爆弾のスイッチ」
蘭「・・・」
ナツコ「あなたの手で壊して・・・」
蘭「え・・・」
ナツコ「あたしのお願い・・・」
蘭「・・・」
ナツコ「明日の朝にはもう一度、順太さんを返すね」
蘭「お願いします」
ナツコ「そのために、お願い」
蘭「・・・はい」
 ナツコ、順太を肩にかける
 須藤、それを手伝う
順太「蘭」
蘭「・・・」
順太「明日会ったら・・・大きな声でおはようって言おうな」
蘭「・・・うん」
 順太たちがはける

一人残る蘭
スイッチを床に置く
そして足をあげる
暗転


花火の音



















九月一日
 海の音が聞こえる
一吾「遅れるぞ!」
 明転
蘭「(声のみ)あ、もうすぐいきます!」
一吾「ったく、送っていくのはいいんだけどね、東京で迷うのだけはごめんだぞ」
蘭「(声のみ)高校までしっかりナビしますから」
一吾「ほう、普通のカーナビよりもすごいんだろうね?」
蘭「(声のみ)え?」
一吾「誤差一ミリとか」
 そのとき
まるみ「朝からいじめてる」
一吾「いじめじゃねえよ。気合いいれてんだ」
まるみ「あのね、人間にカーナビやらせて一ミリの誤差もなくなんて無理」
一吾「ああ、わかったわかった」
まるみ「ったく、もう・・・」
一吾「それより・・・起きててだいじょうぶなのか?」
まるみ「平気ですー。もうぴんぴんなんだから」
 おくから、服を乱れてあわててはおって蘭がやってくる
蘭「すいません!」
一吾「あやまってばっかりだな」
蘭「あ、すいません」
一吾「ほれ、まただ」
蘭「あ・・・」
まるみ「だからいじめるんじゃないっていってるでしょ!」
一吾「いじめじゃねえって!」
蘭「あ、あの」
ふたり「なに?!」
蘭「あ、お、お金です・・・」
 蘭、一吾に封筒を渡す
一吾「(受け取って)あいよ」
まるみ「大変だったから、振込みでもいいのに」
蘭「いいんです。けじめです」
一吾「来年もよろしく」
まるみ「あ、蘭ちゃん、あたしも乗ってっていい?」
蘭「ええ」
まるみ「ごめんね。そこの病院まで」
蘭「あ、そうだ、大丈夫なんですか?」
まるみ「いや・・・実はね・・・まさかとは思ったんだけど・・・」
 まるみ、ポケットからお守り出す
まるみ「検査薬を使ってみただけなんだけどね、」
蘭「まさか・・・」
一吾「そのまさかだ!」
 一吾も強くお守りを出してみせる
蘭「(ふたりをみて)おめでとうございます!」
まるみ「まだ正式にはわかんないけどね」
蘭「でもすごい!」
一吾「ま、おれの寝技一本ってことよ」
まるみ「(下ネタをいったから)朝から最悪なんだけど・・・」
一吾「なんだと!おれに感謝しろ!」
まるみ「お守りに感謝しないとね」
蘭「はい」
一吾「なんだよなんだよ、これだから女はいやだいやだ・・・」
 そのとき、
須藤「おはようございます」
蘭「あ、須藤さん
須藤「蘭ちゃん・・」
 そういって須藤、蘭の前に
蘭「どうですか?」
 須藤、ためてためて
須藤「成功した」
蘭「・・・よかった!」
須藤「さすがに、今日ここにってわけにはいかないみたいだけどね。近いうちに必ず家に連れてくから」
蘭「待ってます」
一吾「あ、そうだ、兄さんは」
蘭「あ、いろいろありまして・・・」
一吾「こここないの?」
須藤「あ、いや、その・・・」
一吾「なんだよ。オプション料金もらうの忘れてた」
蘭「え」
一吾「そう、夜釣り一回四千円・・・」
まるみ「(一吾をだまらせて)あ、忘れて忘れて」
一吾「(口をとじながらも)おい!こら!売り上げが!今月赤字だぞ!」
まるみ「(気にせず)うちは赤字でもやっていきまーす」
 ふたり喧嘩する
須藤「うわすごい」
蘭「いつものことみたいですよ」
須藤「送ってもらうんだっけ?あたしのタクシーで行く?」
蘭「あ、いいです」
須藤「いいよいいよ。ほら、外で待たせてるんだ」
蘭「大丈夫です」
須藤「(時計見ながら)え!だってこんな時間だよ」
蘭「待ちますよ」
須藤「もうニ学期初日から遅刻かあ!許さないよ!」
蘭「え」
須藤「・・・なに?」
蘭「なんか・・・」
須藤「ん?」
蘭「・・・お母さん・・・っぽい」
須藤「え!?あ、いや、んな、んなわきゃないでしょ!!???あははあはは」
蘭「あは、あはは」
須藤「あはは」
蘭「ま、そうですよね」
須藤「え・・・あ・・・」
 タクシーのクラクション
蘭「あ、待ってますよ」
須藤「え、いっしょに(いこうよ)」
蘭「お金たいへんなことになりますよ!」
 そういいながら、蘭、須藤をはけさせる
 そして
蘭「民宿いちごさん!」
ふたり「はい!」
蘭「よろしくお願いします」
 ふたり、顔をみあわせながら、しぶしぶ準備にかかる
一吾「なんか、新鮮だな?」
まるみ「そう、なんか生きがいい」
蘭「魚じゃないんだから」
一吾「夜、なんかあった?」
蘭「・・・ええ」
まるみ「なになに?」
蘭「・・・夏の・・・すんごい・・・ひとつの思い出です」
 ふたり顔を見合わせる
 そして先にはける
 蘭、ちょっと立ち止まる
 海の音が聞こえる
 蘭、それを聞きながら・・・

暗転













 暗転中
チャイムが鳴る
蘭「はい!」
順太「ただいま」




END







 



 

2008年5月23日金曜日

春色東風 ~春の色は東風に乗って~

登場人物

相沢春美 平成コミュニケーション大学付属短大事務職員 小夜子
三島愛  受験生 和田マキ乃
中林明憲 アイコンピュータ営業部のサラリーマン 池亀サンタ
畠山繁  短大二年生(八回目) 渡辺りょうすけ
川原睦子(らいち) web担当事務職員 古橋いつか
伊藤寛司 平成コミュニケーション大学教授 富士河千之介



スタッフ
作・演出 富士河千之介
照明オペレーター 伊藤朋美
照明サブ   大崎ヒロコージ
音響効果オペレーター 久遠悠
情報宣伝 西郷久美子(フライヤー)
     小夜子(フライヤー)
     富士河千之介(ポスター)
制作本部チーフ 富士河千之介
制作 3man Office制作本部
   「春色東風」パートナーズ
第一章 合格発表できず
 ここは埼玉県北部のとある町
 まわりは畑と田んぼにかこまれ、民家は遠くのほうに見える。そばには山
 そんなど真ん中に突如として高層ビルがぽつんと存在する。
 その高層ビルの影は上から見れば巨大な日時計のようだ。
 それが平成コミュニケーション大学。
 付属短大をふくめた形で平成十年に開学した。
 その短大。学科は国際コミュニケーション学科と日本文学科。
 短大二年間を送った後は親の四年大に進学することもできる。
 就職組はこの時代に珍しく100%。



 その短大事務室。
 二○○六年三月二八日。
 時間は午後一時三○分

 どこか遠くから笛の音が聞こえている

明転

事務員の相沢が忙しく室内を駆け巡っている
 川原がやってきて、なにかいじってからハケる
伊藤がやってきて、相沢にテスト用紙を渡しながら去っていく
 その際にもうひとつの紙も置いていく
 相沢、テスト用紙を机において、またどこかで仕事している
 中林、現れる。
 廊下で室内の様子を見てからまたハケる
そこへ、畠山がやってくる
畠山「春美ちゃん、春美ちゃん」
 相沢、それに気づき
相沢「あ、畠山さん」
畠山「(かばんを机に置き、一息)ふー、疲れた。風で髪がぼっさぼさ」
相沢「(仕事しながら)春ですから」
畠山「春ねえ」
相沢「(仕事に没頭)
畠山「風さえ吹かなきゃいいんだけどなあ・・・」
 相沢、仕事に没頭
畠山「(それを見かねて)ねえ」
相沢「?」
畠山「おれがここに来ている意味わかるよね?」
相沢「えーと、ああ。伊藤教授の?はいはい」
畠山「今年こそ絶対卒業すっからね」
相沢「去年も聞きましたよ」
畠山「いったっけ?」
相沢「あたしよりもここ長いんですもんね」
畠山「そうだけどさあ」
相沢「(仕事)」
畠山「で、どこで試験やんの?」
相沢「え?ああ、ここ」
畠山「ここ?」
相沢「ここ」
畠山「春美ちゃん」
相沢「?」
畠山「冗談よしてよ」
相沢「冗談言うもんですか」
畠山「え」
相沢「上は短大の大掃除」
畠山「てことは普通の教室だめなの?」
相沢「そう。業者さん入ってて。」
 中林、室内を見渡し、伊藤がいないことを残念がる
でも登場
中林「おはようございま~す」
相沢「あ、おはようございます」
畠山「で、どこに座ればいいわけ?(受付よりも奥に入る)」
相沢「(畠山に)ちょっと待って。(中林に)中林さん、今日もいらしたんですか?」
中林「はい~。雨にも負けず、からっ風にも負けずの中林ですから」
相沢「いろいろキャッチフレーズあるのね」
畠山「(勝手に奥に行って)ここかなあ。うわ、こんなとこじゃ集中できないって」
中林「あの」
畠山「なんだよ」
中林「えーと、失礼ですが、伊藤教授のお知り合いでいらっしゃいますか?」
畠山「え?あ、まあそう、そうだよ」
相沢「畠山さん」
畠山「だって知り合ってるじゃん」
中林「あの、伊藤教授はどこにいらっしゃるかご存知でしょうか」
畠山「あの人のことだから普通に自分の部屋にでもいるんじゃないの?」
相沢「そうだと思います」
中林「あ、そうですか。じゃあ、お邪魔しに・・・」
相沢「ああ、勝手にあがると教授怒りますよ」
中林「いけね!そうだった」
相沢「電話しますね」
中林「お願いします」
畠山「おいおい春美ちゃん」
相沢「待ってて(そういいながら電話をする)」
畠山「ったく、もう・・・」
 その間に中林、畠山に近づく
中林「あの、私、こういうものです(名刺を差し出す)」
畠山「(名刺を見て)アイコンピュータ、中林・・・」
中林「あきのりと申します、はい」
畠山「あっそ。」
中林「あの、お名前は・・・」
畠山「え?いいじゃん、そんなの」
中林「そ、そうですか。」
畠山「?」
中林「専門はどちらで」
畠山「日本文学」
中林「ご研究は?」
畠山「研究?」
中林「ええ」
畠山「う~ん・・・と・・・」
中林「?」
畠山「か、川端康成を」
中林「すばらしい!」
畠山「を、少々・・・」
中林「そうですかそうですか!それならですね、教授」
畠山「教授!」
中林「はい」
畠山「誰が?」
中林「いや、え?(手で畠山を指す)」
畠山「おれ?」
中林「決まってるじゃないですか!(カバンの中からパンフレットを取り出し)こちらのPCなんかどうでしょう!」
畠山「おれに売るつもり?」
中林「このAGN-5001はですね、オフィスXPはもちろん、東大の先生方に監修していただいた、日本近現代文学の巨匠たちが全部網羅された研究検索エンジン『ぶんちゃん』がプレ・インストールおりまして」
畠山「ぶんちゃん?」
中林「うちの営業部では私のことを『マムシの中ちゃん』なんて呼んでましてねえ」
畠山「マムシ?」
中林「(大声で)食いついたらPC買ってくれるまで離しませんから!」
畠山「(断末魔の叫び)」
 畠山、相沢に強引に手を引かれて奥の机に移動される。
畠山「はるみちゃ~ん」
相沢「がんばって~」
 見送る相沢
 ふたり奥へ
 入れ替わりにおくのほうから川原がやってくる
川原「(おくのふたりを見ながら)来たかマムシ・・・」
相沢「あちらは蛙として天寿を全うされた方でございます。」
川原「な~む~(合掌)」
相沢「(合掌しながら涙)いい人を亡くしました」
川原「生徒まで食うとは相当腹がへってるな」
相沢「冬眠明けだからね。」
川原「はい、差し入れ」
 川原、みたらし団子を渡す
相沢「ありがとう!」
川原「ナチュラルローソンで五○円引きだった」
相沢「(一口たべて)へえ」
川原「賞味期限一三時」
相沢「(時計を見て)三十分すぎてんじゃん!」
川原「大腸菌は三十分ではそんなに繁殖しない」
相沢「(飲み物を飲みながら)へんなこと言わないでよ」
川原「マムシのエサにでもしようか?」
相沢「それいいかも」
 相沢、お茶セットを持ってきて、団子を載せる
 そしてふたりのもとへ
相沢「どうぞ」
中林「わわ、すぐ帰りますから」
相沢「うちの川原からです」
 川原、中林に手をふる
 中林、深々とあいさつする
 相沢、帰ってきて
相沢「いつおなか下すかしらねえ」
川原「楽しみ楽しみ(あくび)」
相沢「そうだ!むっちゃん聞いて聞いて」
 相沢、川原をすみに連れて行く
相沢「昨日ここの残業終わって帰るときに」
川原「うん」
相沢「更衣室のとなりから・・・へんな音が聞こえたの!」
川原「へんな音?」
相沢「そうそう・・・ほら、昔の映画とかでさあ、オバケとかが出てくるときのこう、ぴょろろろって」
川原「ぴょろろ・・・?」
相沢「あたし超びっくりして」
川原「ぴょろろで?」
相沢「ほんと怖かったんだからもうダッシュダッシュ!」
川原「待って(手で相沢の口を封じる)」
相沢「(ふさがれても声を出す)×△■○・・・」
川原「本当に・・・聞こえた?」
相沢「(手を取って)ほんとだってば!」
川原「(またも無言でみつめる)」
相沢「・・・」
川原「(間をとってから)そ、空耳よ」
相沢「そらみみ?」
川原「そうそう」
相沢「そんなんじゃないって」
川原「iPodとか持ってるよね」
相沢「mini、ピンクの」
川原「可愛そうに、この年で難聴だなんて」
相沢「むっちゃん!」
川原「はいすぐに耳鼻科いきましょう!」
相沢「そんなんじゃないもん」
川原「ああ忙しい忙しい!短大のホムペアップしたら次は大学だあ・・・」 
 そういいながらハケていく
相沢「(川原の背中に)?・・・なにあわててるんだろう・・・」
 そのとき、ひとりの少女がやってくる
 すっと入ってきて、まわりを見回している
三島「あの・・・」
相沢「はい?」
三島「今日・・・短大の合格発表ですよね・・・」
相沢「ええ」
三島「何時から・・・でしたっけ・・・?」
相沢「ええと・・・(腕時計を見て)あ!」
三島「はい?」
相沢「いけね!こうしちゃおれんわ~」
三島「あの」
相沢「ああ、失礼しました。三時からになります」
三島「三・・・時」
相沢「三時」
三島「わかりました。」
相沢「・・・どうかなさいました?」
三島「あ、いえ、別に」
相沢「失礼ですが・・・受験生の方?」
三島「あ・・・」
相沢「受験生の方?」
三島「・・・」
相沢「あの、失礼とは存じますが、受験要項にですね、あの、けっこうちっちゃい字でですね、『合格発表となる時間までは校内に立ち入ることができない』って(書いてあるんですが)」
三島「あ!ああ・・・」
相沢「受験要項はよく読まれましたよね?」
三島「あ・・・すいません」
相沢「視力はいいほう?」
三島「両方とも一・二です」
相沢「あ、ごめんなさいね、ちっちゃい字で。ほんと教授会とかでももうすこし字を大きくしたほうがいいって出たんだけど」
三島「そうなんですか」
相沢「なんか印刷されたら、こんなちっちゃい字になってて」
三島「すいません。勝手に入ってきちゃったりして」
相沢「こちらこそ申し訳ございません。あ、入り口まではご案内いたしますので、外で三時までお待ちいただいてよろしいですか?」
三島「・・・はい・・・・」
 相沢、三島とともに、ハケる
 入れ違いに伊藤がやってくる
 伊藤、室内を見回して
伊藤「やあ、どうも」
中林「伊藤教授!」
 ふたり握手
 伊藤、隣に座ってる畠山に気づく
伊藤「ほれ、よろしく(テスト用紙を渡す)」
畠山「あ、いただきます」
中林「(ふたりを割りこんで)あの、この前の件、どうでしょう」
伊藤「ああ、そう、そうね」
中林「(わくわく)」
伊藤「結論から言うと、おたくのPCだが・・・」
中林「はい!」
伊藤「・・・今回は見合わせということで・・・」
中林「・・・」
伊藤「覚えてますかな。二○○○年問題のときに、中林さんとこからうちパソコン一括購入しましたよね」
中林「・・・」
伊藤「そのローンがまだ払いきってないうちにまた新しいのをってのはちょっとムリ・・・」
中林「(突然、耳を手で閉じたり開いたりしながら大声で)アワワワワ」
伊藤「?」
中林「あ、今年の忘年会ネタの練習をしてしまいました」
伊藤「早すぎるだろう」
中林「鹿の肉を食べようとしたんだけど、どうやって食べていいかわからずに困り果てた北米にいるインディアンです」
伊藤「細かすぎるよ」
中林「だーっ!お願いしますよ!」
伊藤「知らないよ」
中林「このままだと私、今度こそ首が、首が・・・」
伊藤「それは不幸だけど、うちの短大も最近経営が苦しくて、」
中林「そんなあ(甘える)」
伊藤「子供が少ないんだよ」
中林「そんなにいうんなら、こちらの教授にも根回しされました?」
伊藤「教授?」
 中林、畠山を指す
伊藤「・・・?」
畠山「あ・・・ああ・・・伊藤教授」
伊藤「こいつは」
中林「こいつ?」
伊藤「そう、こいつは」
畠山「(さえぎって)困るなあ伊藤教授。」
伊藤「?」
中林「川端康成の研究をしてらっしゃる方ですよね」
伊藤「え」
畠山「お、おれに根回しないなんて失礼しちゃうなあ」
伊藤「お前に回すわけないだろう」
中林「(畠山に)あの、やはりお名前教えていただけませんか?」
伊藤「ああ、こいつは大学に長くいるはたけ・・・」
畠山「(大声で)アワワワワワ!」
伊藤「なんだよ!」
畠山「そりを引く犬たちが言う事きかないときのインディアンです」
伊藤「インディアンの真似流行ってるのかい?」
畠山「(咳払い)私の名前は・・・名前は・・・」
 そういいながらあわてて団子をつかんで前に立つ
伊藤「?」
畠山「(あせりながらも団子を見て・・・)」
 畠山、団子を見ておもいつく
畠山「(くるりと振り返り大声で)ミタラシだ!」
伊藤「え」
中林「ミタラシ?」
畠山「ミタラシダン・・・えーと・・・ああ、ダイスケだ」
中林「珍しいお名前で」
畠山「初対面の人に名前を言うのはとてつもなく恥ずかしい。」
伊藤「そりゃそうだろうね」
畠山「でも由緒ある名前だからね。気に入ってるんだ」
中林「日本にふたりといない感じですね」
伊藤「うそをつくのもいい加減に(したまえ)」
畠山「(さえぎって)い、伊藤くん、そういえば今日は学科長選挙の開票日じゃないか」
伊藤「お前なあ」
畠山「あんたにお前呼ばわりされたくない!」
伊藤「!」
中林「あ、あの・・・」
伊藤「なんだね!」
中林「あ、し、失礼します・・・」
畠山「帰るの?」
中林「あ、はい、」
伊藤「そうか」
中林「け、喧嘩中ですもんね・・・これじゃあ、売れませんよ~!」
 中林、はけはじめる
 相沢イン
相沢「あれ?帰るんですか?」
中林「・・・私の・・・私のくびが~・・・」
 中林泣きながら、去る
伊藤「相沢くん」
相沢「伊藤教授」
伊藤「こいつはいつから教授になった?」
相沢「え」
畠山「もういいじゃないですか、テストしましょうよ」
伊藤「帰れ」
畠山「え」
伊藤「もういい。来年も教室でまっとるぞ!今度の二年生と一緒に」
畠山「いや!勘弁してくださいよ~。」」
伊藤「勘弁できるか!」
 伊藤、団子を馬鹿食い
相沢「教授、それ・・・」
畠山「(伊藤教授に)もう就職先決まってるんですよ!」
伊藤「知らん!」
畠山「内定ですよ!いまさら降りれません!」
伊藤「知らん!知らん!」
畠山「そんな」
相沢「伊藤教授」
伊藤「?」
相沢「あのお騒がせ中のところ申し訳ないんですけど、教授から合格発表者名簿を受け取れていないんですけど」
伊藤「・・・」
相沢「コミュニケーション学科は出てますからね。川原さんにプリントアウトしてもらってあとは貼るだけだし」
伊藤「すまん、実はね」
相沢「?」
伊藤「ボーダーラインにふたりばかし残ってて、どっちを選ぶかまかされちゃってて」
相沢「早く決めてくださいよ」
伊藤「わかったよ。もうすぐなんとか決めるから」
相沢「お願いしますよ。こっちは1分一秒ぴりぴりしてるんですから」
伊藤「今年は君が発表の仕切りだからな。がんばって送るよ」
畠山「あの、どうにか試験受けさせていただけないでしょうか?」
伊藤「・・・」
畠山「もう一度言いますよ。おれは内定が出てるんです」
伊藤「・・・就職課の及川さんからよろしくといわれている」
畠山「でしょう!だったら試験受けさせてください!」
伊藤「行こうか?」
畠山「え?ここで試験するんじゃ(ないんですか)」
伊藤「ここは人の出入りがあるし、別の場所にする」
畠山「でも上は大掃除・・」
伊藤「上の上だ」
畠山「上の上・・・?」
伊藤「屋上だ」
畠山「(大声で)さ、寒すぎるでしょ!それは~・・・」
 伊藤、団子をもちながら絶叫する畠山を連れてはける
 川原イン
川原「(机を見て)だ、だんごが!」
相沢「伊藤教授が持ってったよ」
川原「なーむー」
相沢「どうなるのかなあ・・・」
川原「あ、村川さんの電話番号知ってる?」
相沢「もちろん(携帯をかばんから出して見せる)」
川原「(それを見ながら自分の携帯に入力)ちょっとプリンターの調子がおかしいんだよね。きてもらって直さないと」
相沢「今日休日よ」
川原「ごめんね。休日出勤させちゃって」
相沢「昨日も夜遅くまで修理してたみたいだし、今日ぐらい休ませてあげてよ~」
川原「悪いけど、そうはいかない!」
相沢「そんな」
川原「愛しの彼氏といえども、働いてもらわないと掲示板に番号はれないよ~だ」
相沢「もう・・・」
川原「そういえばどうすんの?」
相沢「?」
川原「村川さんからのプロポーズの答え」
相沢「ま、まだ決めてない」
川原「いいよねえ。お台場の観覧車の中、マニュアルどおりのプロポーズ」
相沢「ロマンチストだからしょうがないでしょ!」
川原「(まわりをみまわして)今日来てないけど、庶務の山口っちゃん、だんなとふたりで飲みにいったらしいよ」
相沢「!」
川原「メール・・・盗み見ちゃった」
相沢「は、犯罪よ!」
川原「ウェブ担当者の特権ですから」
相沢「そんなことしたらあたし・・・」
川原「どうする~?」
相沢「・・・」
川原「ぐっちゃん、ホレやすいからなあ」
相沢「・・・」
 相沢、携帯で、電話しようとする
 そのときまた三島がやってくる
 相沢は電話にでてるので受付できない
 かわって川原が出る
川原「なにか・・・?」
三島「(思いつめた顔でだまったまま)」
川原「どうなさいました?」
三島、さっとポケットから、ビンを取り出す
三島「・・・あたしを・・・あたしを・・・この短大に受からせて・・・」
川原「え」
 電話していた相沢、気配を感じ取り、電話を切る
相沢「あ・・・あなた・・・」
 相沢、三島に近づこうとする
三島「来ないで!」
相沢「!」
三島「あたしを入れないのなら・・・このクスリ飲んで死んでやる!」
ふたり「!」




第二章 なんとかしろ
相沢「え・・・」
三島「あたしを・・・あたしを・・・ここに(入れさせて・・・)」
川原「(三島に)落ち着いて!」
三島「(だんだん呼吸が荒くなる)」
川原「落ち着いて少し話しましょうよ」
三島「・・・」
川原「ね?」
相沢「ね!」
 三島、クスリを持つ腕をさげる
相沢「あ、あの・・・座って、座ってみない?」
川原「そ、そうそう。座ればわかる。座ってみよう」
三島「(川原を見つめる)・・・」
川原「ん?あ、そうだそうだ村川さんに電話しないとなあ~、あははあはは・・・」
 川原、ハケながら
川原「(内緒話)あとはよろしく!」
相沢「ちょ、ちょっと!」
川原「村川さんにこっちに来てもらうようにするから」
相沢「たのむよ」
川原「まかせて」
三島「出て行くんですか」
川原「!」
三島「だれか電話するとか言ってましたよね?」
川原「いや、えーと・・・」
三島「(二人に向かって大声で)この部屋に誰か入ってきたら、あたし飲みますから」
ふたり「!」
三島「(川原に)ここにいてください」
川原「・・・はい・・・」
 三島、クスリを離さずに座る
 三人、沈黙

三人「・・・」

相沢「お、お茶でも・・・」
三島「そんな気分じゃありません」
相沢「いや、でも」
三島「いりません」
相沢「そ、そう・・・」
川原「あ、口に合うかどうかわかんないけど」
 川原、カバンの中からタッパーを出す
 そしてあける
 中には、きゅうり一本と、アルミホイルの丸まったもの
川原「プリンター直してて昼飯食いそびれたんだよね」
ふたり「・・・」
 川原、アルミホイルを開く
 中には味噌が入ってる
川原「食べよ」
ふたり「・・・」
相沢「きゅうりに・・・」
三島「お味噌・・・」
川原「あたし、幼稚園のころからこれ大好き!」
相沢「うう、苦労したんだね」
川原「そんなビンボーじゃないやい」
三島「あ、あの、きゅうり・・・ですか」
川原「そうそう。いい?こうやってね」
 川原、きゅうりを自分の服でごしごしこすってから半分に折る
 そしてその半分をまた半分に折って、その半分を三島にあげる
 最初の長めのかけらを相沢に渡し、自分は残りの小さな半分を取る
相沢「・・・」
川原「?」
相沢「・・・長い・・・」
川原「いいじゃん、そういう役目なんだから」
相沢「役目・・・」
川原「(気にせず)さ、食べよ!」
 川原、きゅうりを味噌につけて食べ始める
川原「うん、いけるわ」
相沢「・・・」
川原「きゅうりは栄養そんなにないけど、おなかは十分満たされるよ」
三島「あの」
川原「ん?」
三島「マヨネーズとかないですか」
川原「んなシャレたもんここには(ないよ)」
相沢「あるけど」
三島「ください」
川原「こらー!」
三島「きゅうりにお味噌つけたことありません」
相沢「(マヨネーズ)持ってきますね」
三島「お願いします」
川原「だめ!」
三島「マヨネーズ持ってこないなら(クスリビンを開けようとする)」
川原「待って」
三島「(ふたをあけようとする)」
川原「それって契約違反でしょ」
三島「え」
川原「人を呼んだりしたら飲むんでしょ?」
三島「・・・」
川原「マヨネーズでそれ飲まれても・・・ねえ・・・」
三島「でも」
川原「食べてみな、おいしいよ」
 また川原ひとくち
 うまそうに食べる
 ついに三島、決心したかのように、きゅうりを味噌につける
 そして一口
 ふたり注目する
三島「・・・おいしい」
相沢「よかった」
三島「こんなにおいしいなんて・・・」
川原「マヨネーズなんて邪道。味噌で食べるのが一番うまい!」
三島「そうなんですか」
川原「そうそう」
三島「へえ」
 三島、どんどん食べる
三島「(ヘタを残して完食)ごちそうさまでした」
川原「よろしい」
相沢「ちょっとは落ち着きました?」
三島「・・・はい」
川原「だれかさんは食べてないけどね」
相沢「(ぎくっ)」
川原「それはいいんだけど(三島に)・・・あんた・・・?」
三島「?」
川原「けっこうイイトコの子でしょ?」
三島「!」
相沢「むっちゃん!」
川原「味噌つけて食べることを知らない・・・。てことは親がそれを教えてないか、もしくは友達とかもだれもそれを教えなかったか。」
三島「・・・」
川原「どうかな?」
相沢「そんな、いじめるような質問しちゃだめでしょ?」
三島「そうです。」
相沢「え」
三島「イイトコの子です。」
川原「やっぱり」
三島「父は産婦人科の医者、母は小学校の校長先生、姉はハーバードのほうに留学中です」
川原「すばらしい」
三島「そんなんじゃありません」
川原「?」
三島「・・・いとこも・・・おじいちゃんもおばあちゃんもみんなすごくて・・・あたしだけがなんだか、例外みたいで」
相沢「例外だなんて・・・」
川原「どうしてわかるの」
三島「あたし、中学校までは勉強好きで、だれに言われなくてもしっかりやってました。クラスでも、学年でもトップのほうだったし。それが高校入ってから、なんかいつの間にか他の人とあたしを比べるようになっちゃって・・・」
ふたり「・・・」
三島「あたしの成績ってそんなにいいもんじゃないんだって・・・」
相沢「比べるからそうなるんじゃないかな」
三島「環境がそうだったんです。毎週毎週テストがあって、順位でクラスの席がかわったり・・・」
相沢「・・・」
三島「そんな生活続けてたら、なんだかこう・・・つかめないものをつかもうとしてるっていうか・・・浅いようでずっと先の見えない湖にいるような生き方してるような感じで・・・」
相沢「・・・」
川原「あたしもそんな道とおったことあるな」
三島「・・・」
川原「あたし幼稚園入る前からピアノやっててね、そのせいで音楽がものすごい好きで。高校まで音楽推薦で入ったんだ」
三島「すごいですね」
川原「そんなことない。でも、大学に入るときに音大か普通の大学で悩んで・・・」
三島「・・・」
川原「普通の大学行っても音楽はやろうと思えばやれる。でも音大ならもっと専門的に極めることができる・・・そうやってどっちをとるかで考えてた時期は・・・あんたがいったみたいに、前の見えない山道歩いてる気分だった」
三島「・・・」
川原「結局、普通の四大にいった。好きな音楽を極めるってのはできなかったけど、大学でコンピュータ習って、今のあたしの仕事がある。」
三島「今でもピアノをひいてるんですか?」
川原「うんん。今はね、違う音楽やってる」
三島「・・・」
川原「迷ったり、悩んだりするのは人間だれもがそう。でも必ず道をきめるときがあって、その道は迷って選んだかもしれないけど、実はすでに決められていた道だったりする。そしてそれを通って、自分が間違ってるか、間違ってなかったか評価するのは、親でも先生でもなくて、自分なんだよ」
三島「自分・・・」
川原「まあ、間違ってる道なんてよほどのことがない限り、通らないから」
三島「・・・」
 そのとき
中林「なんか電車とまってるからきちゃいました~」
三島「!」
 三島、びんを飲もうとする
川原「だめ!」
 川原、それを止める
 相沢 走っていって中林の口にきゅうりを突っ込む
中林「(もごもごいう)」
相沢「駅で待ってなさいよ~」
中林「(口の中のきゅうりを出して)いや、ほんとのところあきらめきれなくてですね」
相沢「伊藤教授なら屋上!」
中林「了解です!」
 中林、ハケる
 また三人だけになる
川原「(止めていた腕を離し)・・入れさせなかったよ」
三島「・・・ありがとうございます」
相沢「ちなみに聞いていいかな?」
三島「はい」
相沢「そのビンの中には?」
三島「父のところからもらってきた消毒液が入ってます」
川原「なるほど・・・」
三島「今度だれかまた来たら」
 そのとき、事務室の電話が鳴る
相沢「とっていい?」
三島「・・・」
相沢「これは内線だからいいよね?」
三島「・・・」
相沢「スピーカーにして話すから」
三島「・・・どうぞ」
 相沢、オンフックにする
相沢「事務室です」
伊藤「(以下、声のみ)伊藤です」
相沢「教授!」
伊藤「悪いんだけど、そこらへんに、僕、紙置いていかなかったかな?」
相沢「紙ですか?」
伊藤「そう。それにさあ、さっきいったボーダーラインのふたりがかいてあるんだけど」
相沢「紙は・・・けっこうたくさんありますからねえ」
伊藤「田村栄一郎っていう受験生とそれから・・・」
相沢「はい」
伊藤「んー、三島愛とかいう」
相沢「三島愛さんですね」
三島「(びくっとして立ち上がる)」
相沢「!」
三島「あ、あたしがボーダーライン・・・」
川原「あなたが・・・三島さんなの?」
伊藤「もしもし、もしもし・・・?」
相沢「あ、ああ、聞こえてます」
伊藤「大丈夫?」
相沢「え、ええなんにもありません」
伊藤「そう?じゃあ、紙探しといて」
 電話切れる
三島「あたしがボーダーラインにのってるんですか?」
相沢「あ、あの・・・そういうことは」
三島「のっかってるんですね?」
相沢「い、いいじゃない?座ろうよ」
 三島、机の上とかをよく探しまわりはじめる
 そして
三島「探し物ってこれじゃないですか?」
 紙を見せる
 ふたりのレジュメがあった
川原「見ちゃダメ!」
三島「どうして!」
川原「それを見たらあんたの負けよ」
三島「・・・」
川原「うちの企業秘密をここで見るってのはフェアじゃないよ」
三島「・・・」
 三島、それをさげる 
三島「相沢さん・・・でしたっけ?」
相沢「はい?」
三島「これを・・・電話の人のところに届けてきてください」
相沢「いいの?」
三島「渡すときにこう言ってください」
相沢「・・・」
三島「この子が下に来ていると・・・」
相沢「・・・」
三島「そして・・・受からせないと死ぬといっていると」
川原「あんた!」:
三島「かまわない」
川原「そんなことまでして受かりたいの?」
三島「人の命を救うか殺すか、それはあなたがた次第なんですよ」
川原「・・・」
相沢「行ってきます」
 相沢、紙を受け取るとはけようとする
三島「変な気を起こさないでください」
相沢「もちろん」
三島「約束ですよ」
相沢「・・・」
 相沢、紙をもってハケる
川原「・・・最低ね」
三島「どうとでも言ってください」
川原「こんなやり方して受かっても、あんたが思ってるような理想の大学生活は送れない」
三島「・・・」
川原「絶対、疲れてくるから」
三島「・・・」
 そのとき、
畠山「(がたがたしながら)さ、さみ~」
 といいながら、畠山、入ってくる
 川原、あわてて彼を外に出しながら
川原「お、おつかれさん」
畠山「寒くてなんにも考えられなかったよ」
川原「あ、そう」
畠山「早く(入れさせてよ!)」
川原「だめ~」
 そこに
中林「お!みたらし教授」
畠山「!」
中林「もう一度、購入の件、考えてもらえないでしょうか?」
畠山「それは伊藤教授に」
中林「あの人は血も涙もない人ですから!」
 畠山、中林、もみあい
 川原それにしびれを切らして
川原「とりゃ~!」
 川原、ふたりを一気に放り出す
ふたり「(それぞれ転がり)」
川原「ごめんなさい!あの、ここ立入禁止区域」
中林「え!放射能漏れとか・・・」
畠山「原発じゃないんだからさ」
川原「ごめん、じゃね!」
 川原扉を閉める



 


二画面でいきます


こちらは廊下側
 放り出されたふたり
畠山「ちくしょー・・」
中林「え?」
畠山「お前が来なかったらこんなことにならなかっただろ?」
中林「な、わ、私のせいだというんですか!」
畠山「寒いんだよ!」
中林「わ、私だってこんな寒いときにド田舎まで来たかないですよ」
畠山「仕事ならしょうがねえだろ!」
中林「お、あったまきた!いくらお客様といえどもいっていいことと悪いことがあります!」
畠山「なにを!」
中林「やるか!」
ふたり「ん~~~~~~」
畠山「・・・」:
中林「・・・」
ふたり「に~らめっこし~ましょ、笑っちゃダメよ!」
 同時に
畠山「あっぷっぷ!」
中林「おっぴょっぴょ!」
 ふたりにらみあう
畠山「(極力、歯を見せないようにしながら)おい」
中林「(同じく)なんですか」
畠山「おっぴょっぴょてなんだ」
中林「おっぴょっぴょですよ」
畠山「あっぷっぷだろう」
中林「おっぴょっぴょです」
畠山「出身どこ?」
中林「馬鹿にされるからいいません」
畠山「いえよ」
中林「お客様といえども」
畠山「パソコン買おうかな」
中林「東北です」
畠山「言ってるじゃんか」
中林「しまった!」
畠山「東北のどこ?」
中林「いえません」
畠山「家のパソコンも買おうかな」
中林「海沿いです」
畠山「海のほうかあ」
中林「うわ、また言ってしまった」
畠山「口が軽いなあ」
中林「てか止めません」
畠山「そうだな」
 ふたり、ためいき
中林「なんで中に入れないんですかね」
畠山「知らねえよ。」
中林「じゃあ、ここで商談を」
畠山「え」
中林「だって今、買っていただけるとおっしゃったじゃないですか」
畠山「!」
中林「(かばんから契約書を取り出し)こちらにサインを」
畠山「さ、サイン?」
中林「認印はありませんよね。サインでけっこうです」
畠山「サイン・・・」
中林「ええ、どうぞ」
畠山「え、えーと・・・あ、あんた」
中林「中林です」
畠山「あ、そうだそうだ。中林くん」
中林「はい」
畠山「買うかわりに、ひとつ・・・おれのために動いてもらおうか」
中林「え」
畠山「こんな高いパソコン一気に買うんだよ。それなりの見返りってもんがないとねえ・・・」
中林「・・・」
畠山「どうなんだい?」
中林「・・・わかりました。」
畠山「よーし」
中林「ただし、法に触れない程度に」
畠山「もちろん」
中林「では交換条件を」
畠山「うちの日本文学科の生徒に畠山繁という学生がいる。とてもかわいい生徒で将来はピザ屋を起こしたいらしい。うちの学科からそういう実業家が出るなんてとてもすばらしいことだ。だが彼の卒業試験の点数がちょっと足りなくてね」」
中林「はたけやま・・・(手帳にメモる)」
畠山「?」
中林「はい?」
畠山「年賀状が・・・」
中林「あ、記念切手ととっかえようと思ってずっとできなくて・・・」
畠山「いまどき記念切手ごときで取り替える奴なんてどこにいる?」
中林「いいじゃないですか!貴重なんですよ!私の趣味です!」
畠山「わかったわかった。切手マニア」
中林「なんか馬鹿にされてるなあ・・・」
畠山「そんなことより・・・あんたコンピュータ会社の社員だよな。」
中林「ええ」
畠山「二階にうちの集中データコントロール室というものがある。そこのコンピュータをちょいといじって畠山くんの点数をあげてほしいんだ」
中林「そ、そんなことは!」
畠山「そんなことは」
中林「み、ミタラシ教授の手でならできるんじゃないですか?」
畠山「お、おれはパソコン音痴だから」
中林「(点数を)操作するなんてできませんよ!」
畠山「できる!」
中林「え」
畠山「お前ならできる」
中林「え~」
畠山「そういうとこってセキュリティとか厳しいんですよ」
中林「たいしたことない」
畠山「でも」
 そこに伊藤と相沢戻ってくる
中林「教授!」
伊藤「お、また来たんですか?」
中林「ええ、まあ・・・」
伊藤「そうですか。」
相沢「中林さん、伊藤教授、学科長に決定しました」
中林「おめでとうございます!」
伊藤「ありがとう」
中林「あの、お祝いついでに伊藤教授に契約を・・・・」
畠山「だー!(大声で妨害)」
伊藤「?」
中林「あの、それでは中のほうでお話をひとつ(そうやって中林、中に入ろうとする)
相沢「(絶叫!!)」
伊藤「やはりこの人たちも入れんのか」
相沢「入ったら最後、消毒液を一気飲みですよ」
伊藤「ここまで脅してまで入りたいとは・・・」
畠山「え、え?」
相沢「学科長」
伊藤「行くんだね」
相沢「気をつけて」
 相沢、うなづいて室内へ
 見守る男たち



 相沢が戻ってくる
川原「春美ちゃん・・・」
相沢「(戻ってきたよ)」
川原「(オッケー)」
相沢「あなたのことを・・・教授会で話した」
三島「ありがとうございます」
相沢「うちの学科長が、あなたと話してみたいって」
三島「・・・」
相沢「どうする?」
三島「・・・」
川原「話してみなよ」
三島「・・・」
相沢「・・・」
三島「わかりました」
相沢「今、外にいるから(連れてくるね)」
三島「待ってください」
相沢「え」
三島「ここには・・・入れないでください」
相沢「わかった」
 相沢、外へ
相沢「学科長」
伊藤「・・・」
相沢「お願いします」
 伊藤、うなずく 
 相沢は中へ
 伊藤はドアのところへ
相沢「話してみて」
三島「・・・」
伊藤「こんにちは」
三島「・・・こんにちは」
伊藤「学科長の伊藤です」
三島「三島・・・愛です」
伊藤「結論から言おう」
三島「・・・はい」
伊藤「三島愛・・・君を平成コミュニケーション大学付属短期大学日本文学科二○○六年度生として迎える」
三島「・・・」
伊藤「喜ばないのか?」
三島「・・・ありがとうございます」
伊藤「ドアをあけてくれないか?」
三島「・・・」
伊藤「だめなのか?」
三島「・・・形としてほしいです」
伊藤「形?」
三島「声だけじゃなくて、目に見えて、さわれて・・・」
相沢「明日には合格証と手続きの書類、速達で送るから」
三島「今すぐほしいんです」
伊藤「三時になったら合格発表の掲示板に行くといい。そこに必ず載っている」
三島「それだけ?」
川原「短大ホームページと北関東日報にも載る」
三島「・・・」
川原「あ、うちのホムペって携帯からも見れるから見てみる?」
三島「(うなずく)」
 川原、びんを指差し
川原「もう、これいらないよね?」
三島「・・・」
相沢「受かったんだもん。」
川原「受かったのに、まだ死ぬつもり?」
三島、だまって、それを川原に渡す
相沢「(ほっとする)」
川原「じゃ、待ってて」
 川原、びんを遠い机の上に置く
 事務室に入れ替わりに廊下の全員が入ってくる
畠山「あったけー!」
中林「教授、さきほどのことは・・・やっぱり私として」
畠山「行ってきてくれ」。
中林「・・・」
畠山「君と僕の未来のためだよ」
 中林、しぶしぶハケる
 その間に伊藤、三島に近寄ると手を差し出す
伊藤「学科長の伊藤です。よろしく」
三島「・・・よろしくお願いします」
伊藤「ところで、あなたはこの日本文学科に入って、何を学びたいんですか?」
三島「!」
伊藤「わが短大を命にかえてまで入りたいという気持ち、涙が出るくらいうれしかったんです。それだけこの短大に学ぶための魅力
  があったということですよね。」
三島「・・・」
伊藤「ここが滑り止めとかではない。第一希望なんですよね?」
三島「・・・」
相沢「学科長」
伊藤「大学や短大は遊ぶためにあるんではありません。学問を学ぶためにあるんです。ここは義務教育じゃない。あなたは日本文学を学びたいと思ったからここを選んだ。そしてこういう手段をつかってでも入りたかったんですよね?」
三島「・・・」
伊藤「もしその気がないのなら、あなたと競ったもうひとりと、ボーダーライン以下の受験生たちに失礼だと思いませんか?」
三島「・・・」
相沢「あの、今すぐこんなとこで学びたいことなんて、まだ決まってないんじゃないですか?」
畠山「そうですよ。そんなすぐに見つかるもんじゃない」
伊藤「見つけられないと、だれかさんみたいになっちまうけどね。」
畠山「!」
伊藤「日本文学の何を勉強したいんですか?古典、日本語学、文法、文学?なんでもありますよ」
三島「・・・」
伊藤「・・・」
三島「・・・ご、ごめんなさい・・・」
みんな「!」
三島「なにも・・・なにも見えてません!」
 三島、走ってハケようとする
相沢「三島さん」
三島「あたしのために・・・ありがとうございました」
 三島、ハケる  
見ていた伊藤、はけようとする
相沢「学科長!」
伊藤「すぐに全教授陣を集めなおしてくれ」
畠山「ま、まさか」
伊藤「最終合否判定会議をやり直す」
 伊藤、ハケる
畠山「ったく、伊藤教授の石頭にはほとほとあきれたよ」
相沢「心配・・・」
畠山「伊藤教授?」
相沢「違う、あの子・・・」
 そのとき、
川原「(震えながら)うううううううううううううううう」
相沢「むっちゃんどうしたの!」
川原「(速攻で携帯に出て)もしもし!」
相沢「バイブだったのね・・・」
川原「(携帯)あ、村川さんですか・・・」
相沢「・・・」
川原「え・・・いつごろ動きそうなんですか?・・・そうですか・・・わかりました。とりあえずなんとか進めてみます・・・」
 川原電話を切る
川原「村川さんの乗った電車、止まってるみたい」
相沢「あ、だれかも電車止まってるっていってた。」
川原「ったくもう!なにもかもが霧の中・・・」
畠山「あ、そうか、今日大事な日だもんね」
川原「!」
 川原、すっとんで畠山の口をふさごうとするが
畠山「ね!らいちさん」
川原「アワワワワ!」
相沢「らいちさん?」
川原「この留年野郎!」
畠山「しょうがないでしょ?もうすぐCD出るんだから、顔なんてバレバレ」
川原「そうだけど」
畠山「今日はメジャーデビューできるかどうか電話かかってくる日なんだ」
川原「言わなくてもいいよ!」
相沢「え、らいちって聞いたことある!謎の笛吹きアーティストでしょ?」
川原「謎は謎のままのほうがあたしとしては気持いいんだけど」
畠山「この前の渋谷AXワンマンライブ最高だったよ」
相沢「らいちって・・・むっちゃんのことだったの・・・?」
川原「あ、ははははは・・・・」
相沢「そういえばさっき音楽まだやってるとかいってたし、」
川原「ええ、まあね・・・」
相沢「あ!じゃ、夜の笛の音って・・」
川原「もう・・・ばれちゃあ仕方ねえなあ」
 川原、結んであった髪をほどいて眼鏡も外しアーティストスタイルになる
畠山「らいちさん、かっこいい!」
相沢「・・・すごい」
川原「昨日はちょっと音出しすぎたなあ・・・」
畠山「へい、パス!」
 畠山、机のうえにあったリコーダーを川原にパス
 川原、それをキャッチして、軽く吹く
 音楽を聴くみんな
 聞き終わったら拍手














第三章 回り始める
 そんな頃・・・
ここはコントロール室
 そこにひとりの男が忍び込んでくる
 中林だ
 てさぐりで部屋に入る
中林「ったく、なんでこんなことしなきゃならないんだよ~」
 ひとつの機械をてさぐりで当てる
中林「これかなあ。自信ないんだけど・・・」
 イスに座って電源オン
中林「絶対パスワードとか聞かれるんですけど・・・ああ!パスワードですよ~、そんなの知らないよ~」
 絶望的
 そこにもうひとり、だれかが忍び込んでくる
 気配に気づく中林
中林「うわ・・・」
 中林、あたふたする
 後から入ってきた人間は、それに気づかず先ほど中林が座っていたところにふらふらと座る
中林「あちゃ~~~~」
 中林、頭を抱える
中林「ここの人間かなあ・・・その割には見たことないんだけどなあ」
 座ってる人間は、三島だった
中林、恐る恐る、近づく
中林「あ、あの・・・」
三島「(びっくりして立つ)」
中林「エンジニアかどなたか・・・?」
 三島、振向くと、中林の胸に倒れこむ
 三島、そしてぎゅっと中林を抱きしめる
中林「!」
三島「・・・」
中林「・・・」
三島「(胸の中のまま)このままでいて!」
中林「!」
三島「お願いだから・・・」
中林「ええ・・・」
三島「もうすこし・・・」
中林「な、なんか、ドラマみたいだぞ・・・」
三島「(顔をあげて、中林の目を見つめる)」
中林「!」
三島「あたし・・・あたし・・・」
中林「は、はあ・・・」
三島「もう・・・だめ・・・」
 三島、一気に中林を押し倒す
中林「うわ~~~~やめてください!」
 中林、三島を突きはなす
中林「わ、私には好きな人がおりまして・・・」
三島「好きな人?」
中林「ずっと片思いなのでありますが、でも好きなのであります」
三島「片思い・・・」
中林「メガネがキュートで、いつもかわいくて・・・」
三島「あたしが忘れさせてあげる(もう一度ぎゅっ)」
中林「(それをまた突き放す)だ~~~~~~っ」
三島「い、痛い!」
中林「だ、だいじょうぶですか?」
三島「(ため息)・・・つまんないの」
中林「お、おじさんからかうのは(やめてください)」
三島「末っ子の甘えん坊だもん」
中林「末っ子が甘えん坊とはかぎりません」
三島「つまんない男・・・」
中林「えーえー私はつまんない人間ですよ」
 中林、すねて、座り込む
三島「・・・ごめんなさい・・・」
中林「・・・」
三島「あたし・・・なにかを限界まで思いつめたりすると・・・いつの間にかだれかに抱きついたり、甘えたりしちゃって・・・」
中林「・・・いつもですか」
三島「最近ですよ」
中林「変わったキレ方ですね」
三島「きれてるのかなあ・・・」
中林「間違いなく」
三島「あたしはきれてるんだ・・・」
中林「あの、失礼ですがおいくつですか?」
三島「失礼」
中林「あ、はあ」
三島「あ~も~、せっかくあと少しだったんだけどなあ」
中林「なにがですか?」
三島「・・・」
中林「知られたくないことだったんですね」
三島「・・・」
中林「あのお名前だけでも・・・」
三島「アイ」
中林「あいさん」
三島「さんづけはやめて」
中林「あい」
三島「やっぱ呼び捨てむかつく」
中林「どうすればいいんでしょう・・・」
三島「あたしは・・・天使みたいなもんだから」
中林「天使?」
三島「そう」
中林「天使・・・」
三島「なにか、悩んでることとかある?」
中林「・・・」
三島「願いをかなえてしんぜよう」
中林「・・・面白いですね」
三島「信じるものは救われる」
中林「じゃあ・・・僕を・・・今年こそ教員採用試験に合格させてください」
三島「・・・」
中林「聞いてますか?」
三島「も、もちろん」
中林「うちの親と約束してしまったんです。三年試験受けて先生なれなかったら戻って来いって」
三島「・・・」
中林「今年が・・・その年なんです」
三島「あの」
中林「え?」
三島「・・・もっと小さな夢はないの?」
中林「はい?」
三島「なんかこう・・・すぐにやれるような願いとか」
中林「・・・やっぱりあなた人間なんだ」
三島「あ、そう」
中林「?」
三島「いいもん。あんたの夢なんか、かなえてあーげなーい」
 三島はけようとする
中林「ああ、待って」
三島「(止まって)」
中林「こいつにログインしたい」
三島「なんって?」
中林「このコンピュータを動かしたいんです」
 三島、コンピュータの乗っかってる机を移動させる
中林「・・・」
三島「はい、願いかなえたり!」
中林「やっぱ人間なんだ・・・」
三島「ジョークジョーク!エンジェルジョーク」
中林「だからパスワードを・・・」
三島「ヘイセイ!」
中林「?」
三島「だから『Heisei』とかじゃないですか?」
中林「・・・そう?」
三島「やってみて」
 中林、疑いながらも
中林「H・e・i・s・e・i と・・・」
 ログインする音
三島「!」
中林「いった!」
三島「願いかなえたり!」
中林「あいさん、ありがとうございました」
三島「どういたしまして」
中林「いやー、でもよかった!これでミタラシ教授にPC売れるぞ!」
三島「ミタラシ・・・?」
中林「ええ」
三島「ミタラシミタラシ・・・」
三島、そういいながら、カバンをがさごそ
 出てきたのは学校案内
三島「えーと・・・コミュニケーション学科も日本文学科にも・・・ミタラシ教授なんて人いないよ」
中林「んなことないでしょう」
三島「見る?」
 三島、学校案内を貸す
中林「(中身をよんでから)・・・確かにいない」
三島「ニセモノ?」
中林「ニセモノ・・・(そういいながら三島を見る)」
三島「あたしは天使だってば!」
中林「・・・」
三島「文句ある?」
中林「・・・そうですよね。きみは天使ですもんね」
三島「天使天使」
中林「・・・天使ですか・・・なんか君と会ってから・・・ちょっと心があったかいんです」
三島「・・・」
中林「昼はこうやって営業して、夜も遅くまで勉強して・・・そんな毎日送ってたら、なんだかずっと息切れしてるような感じだったんです」
三島「・・・」
中林「もちろんやりたいことがはっきりと目の前にあるわけだし、そこにむかって走ることはそれなりに疲れてしまうんだろうけど、その疲れが自分の張り合いになるようないい疲れってわけじゃないんです。なんかこう・・・ねじまがってしまうというか、知らない人が目の前にずっと立っていて、僕を監視してるような、そんな疲れで。」
三島「・・・」
中林「でも、さっきからあなたと話していると、その監視が取れて、自分らしくずっとここで話せてる」
三島「・・・」
中林「いつものねじまがった私でいたら、あなたのこともケツの蒼いオンナが何馬鹿なことを言ってるんだっていってますよ」
三島「ケツは青くありません」
中林「ごめんなさい」
三島「もうオトナですから」
中林「オトナは天使にはなれません」
三島「・・・」
中林「わたしはそう思います」
三島「・・・」
中林「あなたの心は何色ですか?」
三島「こころ・・・?」
中林「やっぱり・・・天使色?」
三島「天使色・・・」
中林「天使の色・・・あ、自分でいっててどんな色だか説明できないや」
 そのとき
エラー音響く
中林「あれ・・・あれ・・・」
三島「どうしたんですか!」
中林「(モニターを見て)大型プリンター・・・がおかしいらしい・・」
三島「え!」
中林「こいつはまずいことになりましたよ」
三島「え」
中林「隠れてください!」
三島「隠れるったって」
中林「早く!誰か来るかもしれないから!」
 ふたりあわてて隠れる
 コントロール室に相沢、川原、畠山イン
 川原、PCを止める
相沢「もうどうしたの!」
川原「うわ、完全に壊れた!」
相沢「ってことは・・・合格発表掲示板が作れないって事?」
川原「もう一度村川さんに連絡してみる」
 川原、ハケる
畠山「これがわが大学の心臓部か」
相沢「あ、触らないでね、勝手に」
畠山「わかってるって」
 ふと見ると、相沢、動きが止まる
畠山「どうしたの?」
相沢「・・・なんか・・・いる」
畠山「や、やめてよ、おれ案外そういうの弱いんだ」
相沢「霊とか?」
畠山「そうそう。受験生のとき何回金縛りにあったことか」
相沢「いや、今はそういうやつじゃなくて・・・本物の」
畠山「幽霊!!!!!!」
 畠山は走って逃げようとする
 そのとき
川原「ぴーひょろろ、幽霊です(と言いながら入ってくる)」
相沢「電話どうだった」
川原「最近かまってくれないのね・・・」
相沢「こういうときにそんな冗談やる?普通。」
川原「冗談いいあって心を落ち着ける。これ常識」
相沢「なんだかなあ」
川原「あーあ、まだ動かないって電車。」
相沢「まずいなあ」
川原「まずいついでにこんなの見つけちゃった」
 川原、ふと近くのカーテンをめくる
 中には三島、そして中林
川原「よーし、手をあげるんだー」
三島・中林、両手を上に上げる
相沢「中林さんどうしたんですか!」
中林「すいません・・・」
相沢「三島さんまで!」
三島「・・・」
中林「ああこの子は責めないでください」
相沢「でも」
中林「天使ですもんね」
相沢「天使?」
中林「ここに迷いこんできたんですから」
三島「・・・ごめんなさい・・・」
川原「あんたたちね、プリンターぶっ壊した犯人」
中林「ち、違います。確かにこの部屋に入りましたけど」
相沢「だれがここに入っていいって言いました?」
中林「あ、いや、その・・・(畠山を見る)」
畠山「(おれのことはだまってろよ)」
中林「ああ、その・・・いや、家の電気とかガスでもあるじゃないですか、一年に一回、定期健診ってやつでして」
川原「ここのサーバーはあんたんとこのPCじゃないもんね」
中林「他社さんのでもやるんですよ。カラクリは一緒ですから」
相沢「なら中林さん」
中林「はい」
相沢「今すぐうちのプリンター直してもらえますか?」
中林「・・・」
相沢「会社が違ってもカラクリは一緒なんでしょ?」
中林「うーん・・・」
川原「ただの営業マンだよ。できるわきゃないよ」
中林「ええ、私の専門はPCでして、周辺機器は・・・」
相沢「やってください!」
中林「ああ、・・・プリンターかあ・・・あ」
相沢「?」
中林「確か・・・この短大の近くに詳しい奴が住んでるんですよ」
川原「よし、じゃあそいつに電話して」
 中林、携帯を出してメモリーを探すが・・・
中林「・・・しまった。携帯買い替えのときに消しちゃた・・・」
相沢「そんな・・・」
中林「すいません、使えなくて」
川原「大丈夫」
相沢「なんとか・・・直せませんか?」
川原「春美ちゃん・・・」
相沢「あと三十分で三時になっちゃうんです」
三島「合格発表・・・」
中林「ん?」
三島「・・・」
中林「まさか・・・受験生・・・?」
三島「(中林を見つめる)」
中林「・・・」
相沢「三時に一分でも遅れることなく、あそこにしっかり出したいんです。」
中林「プリンターの研修は・・・入社のときにしかやってなくて・・・」
相沢「中林さんも、ある意味受験生だからあの大切さわかるでしょう?」
中林「!」
相沢「合格発表掲示板にみんなの人生がかかってます。それを出すのがあたしの仕事なんです」
三島「・・・」
中林「(三島を見る)」
相沢「お願いします」
中林「・・・わかりました。やれるだけやってみます」
川原「あたしも手伝うから」
中林「がんばりましょう」
 川原、中林を誘導してハケる
畠山「春美ちゃん、」
相沢「?」
畠山「もしこのままプリンターが直んなかったら」
相沢「事務室に来てください」
畠山「?」
相沢「あたしに考えがあるんです」
畠山「・・・」
相沢「協力してくれませんか?」
畠山「・・・」
相沢「・・・」
畠山「わかった」
相沢「三島さん」
三島「・・・はい」
相沢「ここはあたしたち職員でさえも普通に入れない、大事なところなの」
三島「・・・ごめんなさい」
相沢「事務室もここもだまっててあげるから、外でしっかり待ってて」
三島「・・・」
相沢「あたしを信じて」
三島「・・・はい」
 相沢はける
畠山「・・・がんばってるなあ」
三島「かっこいい・・・」
畠山「確かに」
三島「あの」
畠山「ん」
三島「ここの学生さんですよね?」
畠山「(咳払い)失礼な!教授だよ」
 三島パンフを見せる
畠山「!」
三島「あたしがもしここに受かっても、あなたの講義は受けたくないなあ」
畠山「・・・」
三島「相沢さんみたいにかっこよくがんばればいいじゃないですか」
畠山「!」
三島「パソコンのおじさんも、自分のやりたいことにむかってがんばってるとかって・・・」
畠山「自分の・・・やりたいこと・・・」
三島「あたしは・・・なんだろう・・・」
 そういいながら、まず三島ハケる
 畠山、ふと自分のことを考える
 そして決意してハケる



 事務室に戻る相沢
 奥から大きな模造紙を出す
 そこに伊藤がやってくる
伊藤「話はきいたぞ」
相沢「こんなときにすいません」
伊藤「(帳簿を出して)これが今年のうちの合格者番号だ」
相沢「(それを受け取って)ありがとうございます。」
伊藤「大丈夫なのかね?」
相沢「・・・」
伊藤「これからやることは前時代的なアナログ行為だ」
相沢「プリンターが壊れた以上はこれしかありません」
伊藤「しかし」
相沢「教授」
伊藤「?」
相沢「この合格者番号の中に、あの子は・・・」
伊藤「・・・」
相沢「入ってないんですね?」
伊藤「相沢くん」
相沢「どうしても百人きっかりじゃないとだめなんですか」
伊藤「我々教授が決めた結果を覆すつもりかね?」
相沢「・・・」
伊藤「合格者百人。これはこの大学ができてからずっと決まってる伝統だ。我々はそれを守る義務がある」
相沢「そんな伝統・・・壊しちゃえばいいのに・・・」
伊藤「壊す・・・だと・・・」
相沢「自分のやりたいことをここで探す子がいたっていいじゃないですか!」
伊藤「君があの子に情をかければかけるほど、他の落ちた人に失礼だと思わないのか!不公平じゃないか!」
相沢「!」
伊藤「・・・そういえば・・・相沢くんはこの近所にひとり暮らしだよね?」
相沢「あたしの話はどうでもいいです。あの子の」
伊藤「春は引越しの季節。そろそろ君も部屋を整理しておくといい。」
相沢「!」
伊藤「明日の契約更新を覚悟しとたまえ。うちの学園は北は北海道、南は沖縄まで、幅広く学校もってるからさ」
 伊藤、はけようとする
そこに畠山やってくる
畠山「教授・・・」
伊藤「みたらしだんごくん」
畠山「その名前は忘れてくださいよ」
 伊藤、畠山の肩をぽんと叩く
伊藤「四月、教室で待ってるぞ」
 伊藤はける
畠山「き、教室で待ってるって・・・」
相沢「もしかして・・・」
 完全に伊藤はけてから
畠山「くそ!(畠山、物にあたる)」
相沢「!」
畠山「なんでここから出られないんだよ!(暴れる)」
相沢「畠山さん(畠山を止める)」
畠山「(相沢に止められて、へたりこむ)・・・四月からイタリアンレストランに内定してるんだ。そこで土台を固めた後イタリアに渡って、本場のピザの勉強して日本に帰ってこようって。」
相沢「・・・」
畠山「おれの未来地図。将来、ピザの店開くんだ。」
相沢「・・・」
畠山「名前は『シゲルピザ』。おれの名前付けたピザ専門店。デリバリーもするよ。」
相沢「・・・いいなあ」
畠山「え・・・」
相沢「やりたいことがあるってことは・・・いいこと」
畠山「・・・」
相沢「『シゲルピザ』ができたら、あたしが一番に食べに行きますよ」
畠山「本当に?」
相沢「うん」
畠山「ありがとう」
相沢「・・・」
畠山「そのためにも卒業しないと・・・」
相沢「いい仕事ありますよ」
畠山「え?」
 相沢、ばさっと模造紙を広げる
相沢「この受験番号を全部、この紙に書いてほしいの」
畠山「!」
相沢「あたしはもうひとつやることがある」
畠山「でも・・・これがどうすればおれの卒業につながるの」
相沢「わかんない」
畠山「え・・・」
相沢「わかんない。でも、みせてやるの」
畠山「・・・」
相沢「畠山さんの力を。あの伊藤教授に見せ付けてやるの」
畠山「わからないよ」
相沢「え」
畠山「あの教授が・・・これを見ても・・・」
相沢「賭けてみませんか?」
畠山「・・・」
相沢「・・・」
 畠山、相沢から紙を取る
相沢「!」
畠山「・・・これがバイト先のメニューだったらなあ」
相沢「?」
畠山「おれ、字ヘタなんだけど、イタリア文字だけはうまいみたいで」
相沢「・・・」
畠山「どこから書けばいい?」
相沢「(にっこり)」
 相沢、畠山に帳簿を綿す
 畠山、それをもらう
 ふたり間に信頼という名のアイコンタクト
 そして畠山はハケる




第四章 それぞれの春色
 かわりに川原、頭をかかえながらイン
 いっしょに中林もイン
川原「(相沢を見て、うつむいてため息)」
相沢「どう?」
川原「合格発表どころか、この先もあのプリンター使えないかも」
中林「申し訳ございません。使えない私で・・・」
 そのとき電話が鳴る
相沢「平成コミュニケーション大学です・・・はい・・・はい・・・らいち?らいち・・・・」
 そのとき川原、相沢の電話を奪い取る
川原「らいちですらいちです!どうもどうも!」
相沢「そっか。むっちゃんか」
中林「え?」
川原「(電話)はい!はい!ええ、携帯出れなくてすいません・・・・」
相沢「どうか受かってますように!」
中林「らいちさんが・・・川原さん?」
相沢「ホムペ管理人は仮の姿」
川原「(電話)・・・はい・・・わかりました。それじゃあ・・・」
 川原電話切る
相沢「・・・」
川原「(電話を切ると相沢たちのほうを振向いて)CD・・・(絶叫)デビュー決定!」
ふたり「おめでとう!」
相沢「やったじゃん」
川原「ありがとう!」
中林「あの、この際だからいいます!私はあなたのことが(好きなんです)」
川原「(聞いてない)地方のスーパーとかもまわっといてよかった~」
中林「あ、あの川原さん・・・?」
相沢「いろんなところでライブしたんだね」
川原「草の根活動やった甲斐があった!」
中林「だれも聞いてない・・・」
相沢「いつシングル出るの?」
川原「来年の春。」
ふたり「!」
川原「いきなりシングルとアルバム一緒に出すらしいのね。ついでにライブDVDなんかもつけちゃうみたいで・・・」
相沢「ら、来年」
中林「先が遠いなあ・・・」
川原「馬鹿だねえ。アルバムなんだよ!これから一年じっくりかけて曲作りに励むんじゃないの!」
中林「なるほど・・・じゃあそのときもう一度告白します」
相沢「決まってもうれしいことばかりじゃないんだね」
中林「とことん聞かれてない・・・」
川原「それは覚悟してたから。好きだからこそできるんだよ」
中林「ああ!もうテンション上がってきたなあ!今夜渋谷のレコード屋に予約しにいきます」
相沢「予約は早いんじゃ(ない?)」
川原「よろしくね!タイトルは決まってるんだ」
中林「教えてください(手帳にメモる準備)」
川原「タイトルは・・・」
 そのとき
中林「うおー!」
相沢「?」
中林「(手帳を見ながら)す、すいません、ここの住所って」
相沢「埼玉県春崎市大本・・・」
中林「(手帳から年賀状出して絶叫)ラッキーです!」
川原「え」
中林「こいつですよ!こいつ!うちの会社でプリンター詳しい奴です!」
川原「電話番号とかは?」
中林「もちろんです。さっそく電話してきます!」
相沢「あ、うちのを使って!」
 中林、うなづいて、固定電話をかける
川原「これでちょっとはなんとかなるかもしれない」
相沢「あとは、あの子ね・・・」
 中林、電話を置いて
中林「チャリンコぶっとばして来るみたいです!」
川原「よっしゃ!」
中林「出口まで迎え行って来ます」
 中林ハケていく
相沢「災い転じて福となす・・・か」
川原「こういうのの積み重ねが人生ってもんよ」
相沢「仙人みたいなこといわないでよ」
川原「ことわざ使う時点でけっこうおばはんだと思うけど」
相沢「なによ~」
川原「さてと、お次は春美ちゃんの問題じゃないですか?」
相沢「合格発表済ませてからね」
 相沢、準備のために動き始める
川原「返事を待ってるよ」
相沢「(止まる)」
川原「何を迷ってるの?」
相沢「だ、だって、結婚なんだよ?恋愛でうだうだしてるのと大違いなんだよ。」
川原「間違ってるかあってるか評価するのは自分なんだよ」
相沢「・・・」
川原「自分で自分をだまさないで」
相沢「あたしは・・・自分をだましているの・・・?」
相沢「・・・」
川原「幸せは・・・もうすぐだ」
 川原ハケる
 相沢それを見送る
 そして自分の胸に手を当ててみる
 村川さんのこと
 自分のこと。
 相沢、それを確認して携帯を取る
 そのとき
伊藤「発表はどうした!」
相沢「教授・・・」
伊藤「ああ・・・おなか痛いよ~」
相沢「え」
伊藤「な、なんでもない」
相沢「もしかして・・・」
伊藤「相沢君!」
相沢「!」
伊藤「掲示板に紙すら貼ってないじゃないか!」
相沢「大丈夫です」
伊藤「?」
相沢「まだあと一五分もあります」
伊藤「一五分『も』じゃなくて一五分『しか』だろうが!?」
相沢「・・・」
伊藤「ああ、学長と理事長になんと報告すればいいか」
相沢「(仕事しながら)あたしがなんとかします」
伊藤「本当だな」
相沢「(仕事しながら)それがあたしの仕事ですから」
伊藤「一分でも遅れたら、四月から網走短大に行ってもらう」
相沢「(仕事しながら)わかってます」
伊藤「五月半ばくらいまで、寒いんだぞ」
相沢「(絶叫)わかってます!」
伊藤「!」
相沢「わかってますから・・・黙っててもらえますか・・・」
 そのとき、畠山イン
畠山「春美ちゃん!」
相沢「!」
畠山「これインクがないよ~」
相沢「ごめんなさい!こっちにたくさんあるから!」
 畠山、机の上のペンたてからペンを取る
 横にあった紙に試し書きをして見る
 しかしかすれ文字しか書けない
畠山「あれ?」
 畠山もう一本とってためし書きしてみる
 だがだめ
畠山「相沢さ~ん」
相沢「うわ、アスクルに頼むの忘れてた・・・」
畠山「他のマジックは?」
相沢「ボールペンしかない・・・」
畠山「そんな~」
伊藤「アナログ作戦失敗か・・・」
畠山「ちくしょー!」
相沢「大丈夫、プリンター直せる人が今がんばってる」
畠山「人類は機械に負けるのか・・・」
伊藤「あと○分だぞ!」
 そのとき、今度は中林、川原イン
川原「(先ほどとは違い、目はうつろ・・・)」
相沢「むっちゃん!」
中林「相沢さん・・・」
 川原、疲れてへたりこむ
相沢「ちょ、ちょっと」
中林「神はやっぱり僕らを見捨てたのでしょうか」
相沢「わかるように説明して」
川原「マムシの友達は・・・」
中林「家庭用の・・・小さなプリンター専門のエンジニアだったんです(号泣)」
畠山「・・・じゃあ・・・直せないってこと?」
ふたり「・・・」
相沢「・・・」
畠山「でもプリンターなんて家用だろうがでかいのだろうがカラクリは同じだろ?」
中林「(泣きながら)だめです。大型は大型のカラクリってもんがあって・・・」
畠山「(中林につめより)まったく使えねえな!」
中林「ああ、天使さん!本当にいるなら僕らに愛をもっと愛を!」
川原「ごめん、春美ちゃん。あたしでも限界なの」
相沢「・・・」
川原「本当にごめん」
相沢「わかった。いいよいいよ。」
伊藤「でも・・・どうするー?」
相沢「・・・」
伊藤「ここで逃げたら・・・あんたの負けだ」
相沢「・・・行って来ます」
みんな「!」
畠山「行ってくるって・・・」
中林「どこにですか?」
相沢「掲示板前に」
川原「そんなことしたら」
相沢「電車が動いたら、村川さんがプリンター直してくれるでしょう。」
川原「まだ復旧までには時間かかるってさっきラジオで(言ってたよ)」
相沢「行って来ます」

 相沢はける
畠山「合格発表」
中林「延期・・・」
川原「前代未聞ね・・・」
 伊藤立ち上がる
伊藤「学長と理事長先生に報告してくる」
みんな「・・・」
伊藤「かわいそうなもんだ・・・」
みんな「・・・」
 伊藤、はけようとするが
伊藤「この中でだれか・・・」
川原「(伊藤と目を合わせる)」
伊藤「腹薬どこにあるか知ってるか?」
川原「腹薬・・・?」
伊藤「なんだかさっきからお腹がぎゅるぎゅるって・・・」
川原「(小さく)あ!ダンゴ?」
伊藤「?」
川原「あ、いやなんでもありません。」
伊藤「薬知ってる?」
川原「ああ、はいはい」
 川原はけてビンを持ってくる
 それは三島が持ってきた消毒薬・・・
伊藤「?・・・へんなクスリだな」
川原「最近の整腸剤ってやつは薬液タイプがはやりなんですって」
伊藤「そんな聞いたことないなあ」
川原「はいどうぞ~」
 いぶかしながらも、伊藤、それを飲む
川原「(それを観てふきだしそう)」
伊藤「(飲み終わってから)なんだかハイターみたいな・・・」
川原「はい大丈夫大丈夫。さあ理事長先生にお話しに行ってください」
 川原、伊藤をはかす



 とぼとぼ歩いてくる相沢
 そこに向こうから三島がやってくる
三島「相沢さん」
相沢「・・・」
三島「どうしたんですか・・・?」
相沢「やっぱだめだった」
三島「・・・」
相沢「ごめんなさいね。あたしが今年の発表を仕切ったばっかりに・・・」
三島「・・・」
相沢「エンジニアの人が到着次第すぐになおして報告するから」
三島「・・・いいんです」
相沢「え」
三島「あたし・・・あきらめます」
相沢「・・・」
三島「天罰ですよね。ってか自分でやったから仕方ないか・・・」
相沢「・・・」
三島「今年は浪人します」
相沢「・・・」
三島「掲示板には載ってない自分のやりたいこと何か見つけようと思って」
相沢「親とかは大丈夫なの?」
三島「・・・なんとかするしかない・・・ですよね・・・」
相沢「・・・」
三島「親っていえば、うちのお母さんがおもしろいこと言ってました」
相沢「?」
三島「お母さん、岩手出身なんですけど、高校の合格発表のとき掲示板見るのが怖くて見にいけなかったんですって」
相沢「・・・」
三島「発表の次の日に新聞にも載るからそれ見ようって。でもそれじゃ遅すぎる。早いとこ落ちたか受かったか知りたい・・・で、何気なくラジオをつけたら地元のラジオ局が合格者発表を夜通しやってたそうです。」
相沢「・・・」
三島「ラジオから自分の名前呼ばれた瞬間、天井を突き破るくらい飛び跳ねて喜んだっていってました・・・」
相沢「そっか。」
三島「こっちのほうじゃそんなのないですからね」
相沢「・・・そうね」
三島「すいません。時間とっちゃって」
 三島、べこりとしながらはけようとする
 その場に残る相沢
相沢「ラジオか・・・ラジオ・・・」
 相沢、ふと何かを思う
相沢「三島さん」
三島「?」
相沢「(近寄って)あの・・・受験番号教えて」
三島「えっと(かばんから受験票を取り出して)・・・二三二九」
相沢「二三二九、二三二九・・・(暗記する)」
三島「?」
相沢「帰るのもうすこし待ってもらえる?」
三島「でも」
相沢「大丈夫。駅行っても電車とまってるよ」
 相沢はける











 
事務室に戻ってきた相沢
川原「どうだった?」
相沢「ラジオ」
川原「え」
相沢「ラジオなの!」
川原「ら、ラジオ?」
 一回相沢ハケる
 そして今度はマイクをコードごと持ってくる
 みんなそれを見て
みんな「!」
相沢「・・・やりますよ」
畠山「う、歌でも歌うの?」
 川原、畠山に突っ込み
 相沢、それを一瞥してから
相沢「(マイクに)本日はお忙しい中、私ども平成コミュニケーション大学にお集まりいただきましてまことにありがとうございました。ただいまより、二○○六年度合格者発表を行います」
中林「ど、どうするんですかね?」
川原「シっ!」
相沢「(マイク)えー、なお本日、掲示板にはコミュニケーション学科のみ掲示しております。コミュニケーション学科を受験された皆様はそちらをご覧ください。そして日本文学科を受験されたみなさま・・・」
みんな「・・・」
相沢「都合により、この放送をもって最初の発表とさせていただきます」
みんな「!」
畠山「そんな無茶な!」
 中林、窓を見て
中林「みんな大騒ぎになってますよ!」
畠山「春美ちゃん!」
相沢「受験番号二三○二、二三○五・・・(とどんどん手帳を見ながら発表していく)」
相沢の発表は続く
 三島も、外にやってくる
 そこに伊藤イン
伊藤「なにを馬鹿なことやってるんだ!」
川原「仕事してるだけじゃないですか!」
伊藤「放送を私的に使うなんて許されんぞ」
川原「立派にサクラサクをやってるだけじゃないですか!」
伊藤「こんなんでサクラサクか!」
相沢「(マイクのスイッチを切って絶叫)うるさい!」
みんな「・・・」
相沢「(絶叫!)あたしを聞いて!」
みんな「(シーン)」
伊藤、お腹をさすりながら、相沢に近づく
 そして、マイクを邪魔しようとする
伊藤「いい加減にしろ!」
 それを畠山と川原
 静かに伊藤を抑える
伊藤「き、きさま・・・」
畠山「おーっとここで叫ばれたら放送の邪魔になりますよ」
 畠山、伊藤を隅にニコヤカにつれていく
 その間も放送は続く
相沢「二三二四、二三二六・・・」
 そして一回帳簿を閉じて
相沢「二三二九」
伊藤「!」
三島「二三二九・・・」
 三島、受験票を何回も見る
伊藤「待て!」
三島「(再び帳簿を開いて)二三三○、二三三一・・・(続行する)」
伊藤「今・・・二三二九って・・・」
川原「二三二九がどうかしましたか?」
伊藤「あいつだぞ」
川原「あいつ?」
伊藤「昼間ここをジャックしようとしたあの娘だぞ!」
みんな「え!」
 そのとき、電話がかかってくる
川原「はい、平成コミュニケーション大学・・・あ、村川さん!」
相沢「(目だけで川原を追う)」
川原「はい・・・わかりました。(相沢に向かって合図を送る)」
中林「電車、動いたんですね!」
川原「(電話切って)あと五分で来るって」
中林「プリンターが直ります!」
 相沢はずっと続ける。そして
相沢「(百一人の発表を終えて)以上になります。合格おめでとうございます。そしてこのような形での発表となりましたたことを心よりおわび申し上げます。なお、聞きそびれた方、もしくはしっかり肉眼で見たいという方はあとでしっかり掲示いたしますのでそちらをお待ちください。」
 相沢、マイクのスイッチを切る
 三島、イン
三島「あたし・・・あたし・・・」
相沢「・・・」
三島「・・・受かったんですよね・・・」
 伊藤、一気に前に
伊藤「申し訳ないが君は不合格だ」
三島「でも放送で」
伊藤「すまん。彼女が読み違えたみたいだ」
相沢「・・・」
三島「どういうことですか!」
相沢「・・・」
伊藤「ほら見ろ。きみの暴走のせいだぞ」
相沢「暴走ではありません」
伊藤「?」
相沢「あたしがこのマイクで言ったことが・・・すべて事実ですから」
伊藤「なにを・・・?」
相沢「あたしは覚えています。二三二九といったことを」
伊藤「だから帳簿にはのってないじゃないか!」
相沢「あたしが言ったことが・・・事実!」
伊藤「!」
川原「あたしは聞きましたよ」
畠山「おれも」
中林「わたしも聞きました」
伊藤「・・・」
三島「あたしも・・・しっかり聞きました」
相沢「うちに入ってから、やりたいことを見つける・・・こういう子を受け入れるのも、うちの役目じゃないんですか・・・」
伊藤「見つかるもんか!」
相沢「証拠は?」
伊藤「・・・」
相沢「短大に入ってもやりたいことを見つけられない証拠はありますか?」
伊藤「・・・こいつだ」
 伊藤、畠山を指指す
伊藤「こいつはうちをいつまでたっても卒業できない。やりたいこともなんにもなく育ってきたいい証拠だ」
畠山「去年まではなんにも見つかんなかったすよ。川端康成も何にも好きじゃないし」
中林「え!ミタラシ教授、それは・・・」
畠山「(中林をだまらせてから)だってつまんないんだもん。ぜんぜん興味もてなかった。そうするとバイトして稼いだほうがおれにとっちゃ得なんですよ」
伊藤「学生たるものを捨ててるなあ」
畠山「でもずっとやったから・・・おれの今がある」
伊藤「!」
畠山「この時間のおかげで、『シゲルピザ』を見つけた・・・」
伊藤「し、しげるぴざ・・・?」
川原「うちに入ってからやりたいことをみつけたいい証拠です」
伊藤「・・・なら、この小娘には見つかるってのか?」
みんな「・・・」
伊藤「思い出してみろ。うちらを脅したんだぞ!ここまで合格発表を混乱させたんだぞ!」
みんな「・・・」
三島「(大声で)見つけます!」
伊藤「!」
三島「絶対に・・・二年間で・・・見つけます・・・」
 そのとき
畠山「そうだ」
 畠山、一回ハケて、模造紙を持ってくる
畠山「二三二九って結構最初のほうだよね」
相沢「そう。すぐ言った覚えあるもん」
畠山「ペンのインクが切れる前におれ書いていたかも・・・」
伊藤「あるわけない。その帳簿には載っていないはずだ」
 畠山、ひとりで模造紙を見る
 そこには百人のうちの三分の一の番号がかろうじて載っている
 みんな注目する
 そして
三島「あった!」
相沢「・・・二三二九」
畠山「教授、これで信用したでしょ?」
伊藤「そ、そんなわけは・・・」
 伊藤、相沢から帳簿を奪い取り中身を見る
伊藤「ありえない!二三二九は除外するって(探して探して)・・・あ」
 伊藤がっくり
伊藤「ある・・・」
川原「ってことは、合格確定ね!」
三島「やった!(天井まで届くくらいに飛ぶ)」
伊藤以外みんな喜ぶ
川原「(三島に)がんばんなよ」
三島「ありがとうございます!」
 そのとき静かに電話が鳴る
 近くにいた、畠山、電話を取る
一方
中林「しっかりやりたいこと見つけてくださいね」
三島「・・・ここまできた以上は必ず見つけます」
中林「僕もあなたから今年の試験がんばる気力をもらった感じです」
三島「・・・がんばってください」
中林「またここに来たら、教室よってみようかなあ。」
三島「え」
中林「あなたのがんばり具合を見に」
三島「川原さんに会いたいだけでしょ?」
中林「!」
川原「え?」
中林「わわあ、なんでもありません、なんでも・・・」
 そのとき、畠山、電話を終える
畠山「伊藤教授」
伊藤「なんだね」
畠山「他の教授のみなさんが呼んでます」
伊藤「それどころじゃない!」
畠山「発表が遅れた問題と不合格者を合格扱いした責任問題について話し合うそうですよ」
伊藤「そ、そんなの学科長として教授会を中止する」
畠山「他の教授全員から、この問題を踏まえた上で再選挙の提案があったそうです」
伊藤「リ、リコールか・・・」
 畠山、伊藤の肩を叩いて
畠山「ほら、早く行きなさい」
伊藤、くやしながらはける
中林「(見送る畠山に)教授」
畠山「・・・さっきも見てわかっただろ?」
中林「・・・あ、そうでした・・・」
畠山「おれは教授でもなんでもない」
中林「(首をふりながら)いいんです」
畠山「え」
中林「お互いがんばりましょう」
畠山「お互いか」
中林「絶対今年は先生になります」
畠山「おれはまた教室へ逆戻りかぁ」
相沢「それはどうでしょう?」
畠山「?」
相沢「すいません。見せるの忘れちゃって(解答用紙を見せて)」
畠山じっと見てから
畠山「い・・・いけてる」
相沢「卒業おめでとうございます!」
畠山「やった!」
みんな「(それぞれに)おめでとう!」
川原「よく受かったこと」
畠山「しっかり勉強したもんおれ。」
川原「今夜こりゃ嵐だわ・・・」
畠山「どういうことだよ!」
相沢「でもこれでピザ屋が近くなってきましたね」
畠山「ああ。確実に近くなった。」
相沢「イタリアンがんばってくださいね」
畠山「さっきの言葉も忘れないからね!」
相沢「え?なんだっけ」
畠山「ひどいなあ。店開いたら一番めの客になるって」
相沢「うん、絶対行くから」
畠山「ほんとかよ。」
川原「あ、この子三歩歩いたら忘れるから」
畠山「猫なみ?」
川原「ほれ、帰れ!」
畠山「おう、卒業式でまた会おう!」
 畠山、ハケる
相沢「かっこよく帰っちゃって」
川原「ったくほんとだよ」
中林「じゃ、ぼくも・・・(かっこよく)さらば!」
 中林もハケようとする
川原「あ、待って」
中林「うわ・・・」
川原「もうちょっとここにいて」
中林「え、ひょっとしてさっきの私の一生一度の告白を・・・」
川原「え?」
中林「聞いてるわきゃないですよね・・・。」
川原「あのさ、あたし早退なんだ」
相沢「え!」
川原「シフト表にも書いといたよ。」
相沢「(シフト表見て)忘れてた~」
川原「ごめんね。夕方から曲作りとミーティングあって」
中林「わかりました。じゃあ、川原さんのかわりに修理を見届けます」
川原「よろしく。それと川原さんとかさ、むっちゃんって呼ぶのやめてもらえる?」
相沢「?」
川原「レコード会社と正式に契約するんだから。もうあたしはらいち」
相沢「そっか・・・」
中林「・・・らいちさん・・・」
川原「は~い」
中林「(赤くなって)あ・・・私はずっと応援してますから!」
川原「よろしく!お先!」
 川原、ハケる
中林「私らみたいな一般人じゃなくて、もうアーティストなんですね」
相沢「でも中身は人間ですよ」
中林「人間なら、私のことも聞いてくださいよ・・・」
相沢「え?いつ言ったの?」
中林「相沢さんもいるときですよ~」
相沢「電話きたときですか?」
中林「ああ・・・どうせ私なんて・・・」
相沢「そんないじけないで。あたしがもうひとつチャンスをあげますよ」
中林「そんなもんいらないですよ」
相沢「そうですか?じゃあ、CD予約しようにもタイトルわかんないですよね」
中林「タイトル・・・タイトル・・・あ!聞くの忘れてた!らいちさ~ん・・・」
 そういいながら、中林はけはじめる
相沢「(その背中に)あとであたしにも教えてくださいよ~」
 中林、親指を立ててそれに答える
 完全はける
相沢「面白い人」
 そのとき電話がなる
相沢「はい、事務室です・・・はい・・・はい・・・伺います」
 電話切って
三島「どうしたんですか」
相沢「教授会から。事情聴取。」
三島「!」
相沢「伊藤教授が全部あたしのせいにしてるんだって」
三島「・・・」
相沢「あたしもみんなみたいに、すっきり帰りたかったな・・・」
三島「ごめんなさい。あたしがこんなことしなかったら・・・」
相沢「あんなことしなくてもいろいろトラブってたと思うよ。」
三島「・・・」
相沢「プリンターはあなたが来なくとも調子悪かっただろうし、中林さんも、畠山さんもあんな感じだったろうし」
三島「でも大きなきっかけはあたしですよ」
相沢「変わらない」
三島「・・・」
相沢「らいちさんがいってたじゃない?起こることは最初から決まってることだって」
三島「・・・」
相沢「あたしは仕事しただけ。あなたもここに来たってだけ」
三島「・・・」
相沢「あ、ほら、そろそろ帰りな。あたしがここ抜けると留守になるから鍵かけないと」
 相沢、出口に三島を送り、そして鍵をとろうとする
 そのとき
中林「(大声で)相沢さ~ん!」
 中林の声が聞こえる
ふたり、窓へ
中林「らいちさんのアルバムタイトルは・・・『春色東風』でした!」
相沢「春色東風・・・」
中林「春の景色の色って、東風にのってやってくるんです。」
三島「きれいですね・・・」
相沢「・・・」
三島「らいちさんっぽいな・・・」
中林「予約百枚いってきまーす」
相沢「おつかれさまでーす」
 中林はける
三島「何色ですか?」
相沢「?」
三島「相沢さんの心は・・・何色なんですか」
相沢「色・・・」
三島「あたしも・・・春色です!」
相沢「・・・」
三島「あたしにとっての東風は相沢さんです。相沢さんがいなきゃ、あたしは春色に染まりませんでした」
相沢「・・・」
三島「相沢さんは・・・何色ですか」
 相沢振り返って
相沢「あたしは・・・」
三島「・・・」
相沢「(そっちのほうをむいて)なんにでも染まってみせるよ」
 そういいながら、相沢、三島をつれてはけていく
 
 END

2008年5月22日木曜日

Thanks! ~ある女優の物語~

登場人物
吉田美鈴 ベテラン女優 恭香
紅谷さくら 若手女優 小夜子
木村正次郎 自称発明家 富士河千之介
白井明美 映画監督 古橋いつか
墨田敬三 探偵 きつな
山本直子 美鈴のマネージャー 西郷久美子







スタッフ
作・演出:富士河千之介
照明:渡辺りょうすけ
音響効果:大崎ヒロコージ
舞台:森憲吾
情報宣伝:小夜子(フライヤー)
富士河千之介(ポスター)

制作3man Office制作本部
  「Thanks!」パートナーズ

芝居の前に・・・
 人は死ぬと、また生まれ変わるという。
 僕はそれをずっと信じている。
 
 ここは天国である。
 天国はただただ、だだっぴろい。
 下界の世界なんて比べ物にならないくらいの広さがある
 東京ドームなんて何個入ったらこの大きさを人に伝えてもいいようになるだろうか?。
 そこの端の端っこ。
そこに、生まれ変わりの茶屋といわれる場所はあった。

 ひとりの女性がやってくる。
 吉田美鈴。
 生前は女優だった。
 数々の映画に出演し、晩年は五歳年下の旦那と伊豆の家で優雅に暮らした。
彼女は八十まで生きて、肺がんで死んだ
 そして彼女は天国で二五の姿でいることを望み、天国での暮らしを満喫した。
 ある日、彼女はエンマ様に呼ばれて、そろそろ下界に行くようにといわれた。
 エンマ様の命令は絶対である。
 彼女にある思いがあった。
でも、命令に従うことにした。
 そして今日はその日。
 下界はクリスマスイブ
 彼女は言われたとおりこの茶屋に来た。
 
 このあと、あんなことがなければ、彼女はひょっとしたら茶屋からひきかえしていたかもしれない。

だが、そうはならなかった。

もうすぐ彼女は下界に降りる
 もうすぐ、吉田美鈴であることを忘れていく。
ある女性の身体に入り、また下界で吉田美鈴ではない別人として生きていくことになる。
 

生まれ変わり。
 
僕はそれをずっと信じている。






序章 しのぶ会
 突然響く声
「本日はお忙しい中お集まりりいただきましてまことにありがとうございます。ただいまより『吉田美鈴をしのぶ会』を執り行いたいと思います・・・それでは参列の皆様ご起立願います。・・・
黙祷!」
 明転
 二人の女性が入ってくる
 喪服姿の白井と山本である。
 ふたりは公園のベンチがあるのを見つけると、身体を重そうにそこに座る
 白井、かばんから小さな水筒を取り出すと、コップにお茶をついで、
白井「(山本に)どうぞ」
山本「あら」
白井「あたし特製のブレンド紅茶」
山本「・・・いつもいつも・・・」
白井「どうってことないですよ」
山本「ありがとうございます」
白井「朝入れてこんな時間だから、渋いかもしれないけど」
山本「ごちそうになります」
 山本、コップを受け取り、口をつける
山本「熱っ!」
 山本あわてて、コップを離す
白井「ご、ごめんね」
山本「いやいや、思ったよりも熱かったもんだから」
白井「ごめんなさい、あたしが最初に飲めばよかったものを」
山本「いいのいいの。あたしがあわてんぼうなばっかりに・・・あ、そうだ・・・」
 山本、かばんから薬を出す
 そしていざ飲もうとして薬の粒を見てため息をつく
白井「どこか、悪いの?」
山本「(軽く笑って)若いころからずっと(そういいながら、心臓を指差す)・・・」
白井「心臓?」
山本「・・・ええ」
白井「よくやってこれましたね!」
山本「(苦笑いしながら、薬を一気に口にほうりこむ。そしてお茶で飲み込む)」
白井「大丈夫ですか?」
山本「夕べは打ち合わせとかで薬飲む暇もなくて」
白井「そんな・・・」
山本「それが仕事ですから・・・」
白井「そんなことばっかりいって・・・」
山本「(遠い空を見つめながら)天国行ってもまた美鈴さんにダメだしされるだけだから・・・ぜんぜん怖くないんです」
白井「・・・」
山本「・・・」
白井「でも、あんなに人がいっぱい来るとは思いませんでしたね」
山本「友達はたくさんいらっしゃいましたから」
白井「美鈴さんも、喜んでるかしら・・・」
山本「・・・どうなんでしょうね・・・」
白井「?」
山本「今日の会は・・・ほんとは今年の夏にやる予定だったんです」
白井「え・・・」
山本「あたしの手配が遅れた上に社長まで亡くなっちゃって・・・」
白井「重なったんですね」
山本「ええ」
白井「でも今日でよかったじゃないですか。命日も近いし」
山本「世間がクリスマスで明るい雰囲気なのに・・・」
白井「え」
山本「あたしは、この日本に暗い話題を提供しちゃったんじゃないかって・・・」
白井「そんなことないですって」
山本「思い出なんて・・・すぐに忘れていくもんだから・・・」
白井「・・・」
山本「・・・すいません。最近ますます悪いことばかり考えちゃうようで」
白井「山本さん」
山本「?」
白井「運命ってなんだと思います?」
山本「・・・」
白井「あたしと美鈴さんと、山本さんをつないでくれたのはあの映画ですよね?」
山本「『冬の雨』」・・・」
白井「ええ」
山本「あの映画は・・・あたしと・・・美鈴さんを大きく変えました」
白井「・・・ええ」
山本「あのころは・・・??????(突然胸のあたりに違和感を覚える)
白井「・・・?」
 山本、目をおもいきり見開きながら、左手で力強く白井の腕をつかむ
白井「!・・・山本さん?」
山本「(苦悶の表情)」
白井「え?・・・どうしたの?・・・」
山本「(自分の左胸を震えながら指をさし)」
白井「!」

 山本、そのまま、地面に倒れこむ
 白井、ずっと山本の名を呼ぶ
 暗転



第一章 天国の茶屋
 暗転中、白井の声とかぶるように、もうひとりの女性の声が大きくなっていく
女性「なおちゃん」
 それはだんだんと重なってくる
女性「なおちゃん・・・なおちゃん・・・なおちゃん・・・」
 だんだん明るくなっていく舞台。
 そして山本は、呼ばれる声のまま、顔をゆっくりあげる
 
寒くない
 
むしろ、暖かい空気だ。先ほどまでとはまるで違う
 いい香りがする
 その香り・・・
 なんだか昔にたくさんかいだような気がする
 懐かしくて、厳しくて、泣いた日もあれば、笑った日もある・・・
 そんな香り。
 その香りをもっと嗅ごうとして、ゆっくり顔を上げてみると・・・
吉田「いらっしゃい。」
山本「!」
 そこには、二五歳の姿の吉田美鈴がいた
吉田「(起き上がった山本に安心して離れながら)おひさしぶり」
山本「み・・・美鈴さん!」
吉田「(びっくりする山本にかまわず)青鬼に聞いてきたんだけどさ、なおちゃんエンマさんとこでもぼけーっとしてたんだって。」
山本「は・・・はい?」
吉田「よっぽどすごかったんだろうね?心臓」
山本「あ・・・あの・・・」
吉田「(しゃがんで山本の目をのぞきこみながら)ずっと見ていたんだよ」
山本「ずっ・・・と・・・?」
吉田「なおちゃんのこと」
山本「・・・」
吉田「ずっと。」
山本「は・・・はい?」
吉田「(周りを見渡しながら)ここはどこだと思う?」
山本「・・・」
吉田「死んだはずの吉田美鈴が目の前にいる。ああ、これは夢か幻か?あるいは」
山本「(さえぎるように)ま、まさか」
吉田「(振り返って)それ!」
山本「!」
吉田「・・・だったりして?」
 吉田は笑っている
吉田「ゆっくり、左の胸、さわってみ?」
 山本、左胸を触ってみる
山本「(びっくりして目を丸くする)」
 山本、あわてて右手の脈を見る
 そしてこんどは頚動脈を見ようとする
吉田「やめときな。」
山本「!」
吉田「落ち着くまで時間ほしいかい?」
山本「・・・」
吉田「ようこそ、天国へ。」
 吉田、彼女の肩に手をおいて諭す
吉田「ま、なおちゃんの働き先紹介してやっただけでもうれしく思って。」
山本「は・・・働き先?」
吉田「自分がもう死んだっていうことをわからないといつまでも化けて出ちゃう。」
山本「ゆ、幽霊ですか!」
吉田「なりたくないでしょ?あんなのに」
山本「ええ」
吉田「出たところでテレビの再現ドラマになったときにはいつでも、髪が長くて白い女になってる。全部同じ」
山本「あたしも髪が長いんですが」
吉田「あら?ならちょうどいいかしら?」
山本「い、いやです」
吉田「なら、せいいっぱい働こう」
山本「は、はい」
吉田「働いてりゃ忘れたころに生まれ変われる」
山本「はあ」
吉田「あたしの場合はなんだか特別らしいんだけどね。」
山本「?」
吉田「昨日、急にえんま様に呼び出しくらっちゃってね。お前、明日から行って来いだなんて」
山本「・・・」
吉田「(下をのぞきこんで)あっちのあの世界には、あたしほどの女優がいないのかねえ」
山本「・・・そうかもしれません」
吉田「?」
山本「・・・そうだと思います」
吉田「・・・そうかい・・・」
山本「(吉田を見る)」
吉田「・・・?、なにぼっとしてんだい?」
山本「え」
吉田「あたし、ここの客人なんだけど?」
山本「え!?あ、はいはい」
 山本、急いで厨房らしきところに入ってく
吉田「なおちゃんあたしの付き人する前、喫茶店で働いてたでしょ?」
 山本、とりあえず、急いで厨房から茶を盆にのせて持ってくる
山本「ええ・・・」
 山本、極端にがたがた震えながら持ってくる
山本「ど、どうぞ」
吉田「手、ぶるぶるね」
山本「すいません!」
吉田「ここなら昔とった杵柄ってやつ生かせると思ったんだけどなあ」
山本「・・・はあ」
吉田「でも、しっかり、あんときの体に戻ってきてんじゃない?」
山本「?」
吉田「心臓は動いてないかもしれんけど、腰とかひざとか、ぜんっぜん、痛くないでしょ?」 
 山本、言われてあわててひざとか関節をまげたり触ったりしてみる
山本「・・・ほんとだ・・・痛くない」
吉田「ここはなおちゃんが一番輝いていた時代ですごせる・・・あんたは・・・二四のときだって」
山本「に・・・二四」
吉田「あたしはだんぜん二五」
山本「!」
吉田「どうしたの?」
山本「あのときじゃないですか!」
吉田「あのとき?」
山本「あのときですよ」
吉田「あのとき・・・ああ・・・」
 吉田、茶菓子を一口食べる
吉田「思い出した」
山本「え」
吉田「あ~あ。余計なこと思い出しちゃったなあ」
山本「・・・すいません」
吉田「あたしの二五は・・・そうか・・・なんだかんだいって、あのときなんだ・・・」
 吉田、遠い目で見る
山本「あたし、ずっと美鈴さんに聞きたかったことがあるんです」
吉田「ん」
山本「あの日のせいで・・・人生変わりましたか?」
吉田「・・・」
山本「あたしが美鈴さんに」
吉田「(さえぎって)変わった・・・」
山本「・・・」
吉田「変わったねえ」
山本「美鈴さん・・・」
吉田「がらっと・・・変わった」
山本「・・・」
吉田「あたしがもっと輝いていたときは、あんな日が来るとは思わなかった。もし来たとしても、あたしやなおちゃんとかの力でなんとかなると思ってた」
山本「・・・」
吉田「でも現実は、あたしたちだけじゃどうにもならないくらいに上からかぶさってきた。それをはねのけるほど、あたしは強くなかった」
山本「・・・」
吉田「人は生きているだけで、他人にいいことも悪いことも与える。あの娘があたしたちと同じ時代に生きたからこそ、その影響をまん前から受けたのかもね」
山本「・・・」
吉田「紅谷さくら」
山本「あの日の・・・もうひとりの役者」
吉田「忘れたくても、忘れられない名前だね」
山本「ええ」
吉田「あたしは死ぬとき、ベッドの中で決めたことがある」
山本「・・・」
吉田「もし今度生まれ変わったとしても、女優なんてものにはならないでおこう」
山本「・・・」
吉田「ひとりの女優としてあの世界に入ったからには、死ぬまで主役をずっとやるってのは夢だったんだよ」
山本「・・・」
吉田「あの日に・・・戻ってみようか」
山本「え」
吉田「生まれ変わるこの際だからさ、こうなったらもう一度あのときをあたしの心に映したいんだ」
山本「そんなことしたら」
吉田「え?」
山本「そんなことしたら、またいやな思い出を心に刻み付けることになりますよ」
吉田「いいよ」
山本「え」
吉田「かまわない。」
山本「でも」
吉田「もう一度しっかり見てやろうじゃないの。案外、いやな思い出でもないかもしれないよ」
山本「人生を変えた日ですよ」
吉田「だからこそ・・・見たい」
山本「・・・」
吉田「あのとき、あたしがなにを思ったか。なおちゃんがどう動いたのか。そして紅谷さくらのあの姿・・・」
山本「・・・」
吉田「ちょっとこっち来て」
 吉田、山本を手招きする
 山本、吉田のそばに行く
 吉田、山本の右手を自分の左手で取り
天高く突き出す
山本「美鈴さん!」
吉田「思い出して」
山本「え」
吉田「行くよ・・・あの日に・・・」
 音楽が流れる中、
 舞台に若かりし白井と紅谷が現れる
 暗転




第二章 女優と女優の出会い
 暗転を引き裂く大きな声
白井「よーい!アクション!」
 響き渡るカチンコ
明転
 ここは映画スタジオである
 時間は朝五時。
 撮影は昨夜の夕方五時からスタートしている
 すでに十二時間経過していて、現場は極限状態になっている。
 本番。
ひとりの女優が窓辺にたたずんでいる
 おどおどしながら後ろを振り向く
 紅谷だ
 紅谷は不安げな表情で、演じ続ける
紅谷「(映画のせりふを棒読みで)ああ、こうすけさま・・・」
 紅谷、ナンバ歩きで舞台を横切る
紅谷「(同じく映画のせりふ)このばしょにきてくださるといったのに、あのひとはあたしよりもせんそうをとったのかしら・・・」
 そしてわざとらしく泣く・・・
白井「(絶叫)カッツ!(カットのこと)」
 響き渡るカチンコ
 すると
 いろんなもんが紅谷のもとに罵声とともに投げ込まれてくる
音響「そろそろ帰りたいんだけど」
照明「こんな役者で大丈夫なの?」
舞台「いいかげんにしろよな!」
音響「今何時だと思ってるんだ!」
 白井が飛び出してくる
 そして、紅谷の回りに散らばったものをかたづけている
 紅谷、それを見ながら
紅谷「す・・・すいません」
白井「(気にせず片付ける)」
紅谷「あ、あの・・・」
白井「大丈夫?」
紅谷「はい?」
白井「けがはないですか?」
紅谷「あ、大丈夫・・・です」
白井「(スタッフたちのいた方向を見て)何時間でも粘ってみせますよ」
紅谷「は・・・はい」
白井「・・・でもね」
紅谷「はい」
白井「さすがに・・・(腕時計を見て)朝五時になるとは・・・」
紅谷「す、すいません!」
白井「テイクいくつだったか忘れてしまいました」
紅谷「テイク六一だったと・・・」
白井「よく覚えていますね」
紅谷「はあ」
白井「演技とは関係ないものばかり覚えてるんすね」
紅谷「!」
白井「いいですかいいですか?この映画の名前はなんですか?」
紅谷「ふ、『冬の雨』・・・」
白井「そうですよね」
紅谷「あ、はい」
白井「ヒロインの名前は」
紅谷「あ・・・はい」
白井「はいじゃなくて」
紅谷「あ、と、と・・・」
白井「とめ子」
紅谷「とめ子」
白井「そう」
紅谷「監督」
白井「はい?」
紅谷「ひ、ヒロインで、と、とめ子って名前はどうかと思うんですけど」
白井「とめ子はずっと待ってるんです」
紅谷「質問は流されましたか」
白井「戦争で死んいる幸助さんを生きていると思ってずっと待ってるんです」
紅谷「あ、はいはい」
白井「そのときの思いですよ!」
紅谷「思い・・・」
白井「思いをどーんとカメラの前に、いやカメラを通り越してスクリーンの奥にいるお客さんたちのところまで出さなきゃならないんです」
紅谷「あの」
白井「はい?」
紅谷「そのためには・・・もっと大きな声で話したりしたらいいんですか?」
白井「・・・」
紅谷「(台本を持ちながら)ここのところをもっと強く言ったりとか」
白井「さくらさん」
紅谷「さっきのような歩き方とかじゃ感情ってわかってもらえないですかねえ」
白井「さくらさん!」
紅谷「・・・はい」
白井「せりふを強く言ったりとか、歩き方を変えたりとかそんなんじゃないんです」
紅谷「・・・」
白井「技術じゃ、お客さんはあなたを見切ります」
紅谷「・・・」
 助監督から声がかかる
助監督「監督」
白井「はい」
助監督「お話は・・・終わりましたか」
白井「(時計を見ながら)・・・ああ、ええ」
助監督「次のテイクそろそろ行きましょう」
白井「わかりました」
助監督「(ハケながら)はいそれではテイク六二行きマース!」
 助監督ハケる
 白井、ハケる背中を見送ってからすばやく紅谷のところへ行こうとする
  紅谷、そばにあった水筒を持ち出し一気に水を飲む
白井「(それを見てびっくり)」
紅谷「(その白井の顔を見てびっくり)」
白井「そんなに飲んだら・・・あーあー・・・」
紅谷「すいません、すいません」
白井「(大丈夫なのかよという表情)」
紅谷「(なにかをいいたげ・・・)」
白井「(それを知ってか知らぬか)それではよーい!アクション!」
 再びカチンコ
紅谷「(映画のせりふを棒読みで)ああ、こないのね・・・」
 紅谷、なにわ歩きで舞台を横切る
紅谷「(同じく映画のせりふ)このばしょにきてくださるといったのに、あのひとは(ここでそのままかたまって)・・・ゲップ!」
白井「(絶叫)カッツ」
 カチンコ
 スタッフ一気に罵声をあびせる
双方からメガホンとか雑巾とかが投げ込まれる
白井「ああ!もう、さくらさ~ん・・・」
紅谷「(いろんなものにあたっている)ご・・・ごめんなさい」
白井「水飲みすぎなんですよ!」
紅谷「すいません!」
白井「あやまるのは聞きあきました!」
紅谷「はい!」
白井「さくらさん」
紅谷「(さきほどの立ち位置に立ち)はい」
白井「心なんですよ!」
紅谷「・・・」
白井「心が見えていないんです」
紅谷「心・・・」
白井「中身がない。とめ子としてにじみ出るものがないんです」
紅谷「・・・」
白井「うわっつらだけなら子供でも演技できます」
紅谷「・・・」
白井「子供じゃない演技を見せてください。それと・・・」
白井、セットの陰に紅谷を連れて行き
白井「美鈴さんがそろそろいらっしゃいます」
紅谷「はい」
白井「さくらさんは美鈴さんとお会いするの、今日が最初ですよね」
紅谷「ええ」
白井「美鈴さんが来る・・・その意味をわかってらっしゃいますか」
紅谷「意味?」
白井「ええ」
紅谷「意味なんかあるんですか?」
白井「そうです」
紅谷「意味はわかんないけど、あたし美鈴さんのこと好きですよ」
白井「好き?」
紅谷「はい」
白井「好きなだけじゃ、なにもならないんです」
紅谷「はあ」
白井「今の意見は一般人的発想です」
紅谷「そんなことないです」
白井「あなたは本当の美鈴さんを知らない」
紅谷「本当の?」
白井「あなたも芸能人の端くれならこれから目の当たりにすることを深く感じ取るといいです」
紅谷「・・・」
白井「一般人じゃわからない吉田美鈴・・・」
紅谷「・・・」
 そのとき
助監督「(絶叫)美鈴さん入られます!」
紅谷「!」
白井「・・・あなたはこの業界の人としてふるいにかけられます」
 ハケ口から、貫禄充分で吉田と山本登場。
 白井、すぐに紅谷のもとに駆け寄る
白井「おはようございます!」
吉田「(まわりをにらみつけてから突然転換、にっこり)おはようございます」
白井「こんなに朝早くありがとうございます」
吉田「大丈夫です」
白井「『冬の雨』あたしの初監督作品に、吉田美鈴という大女優が出てくださるというのは、あたくしとしても夢のようでございます」
吉田「大女優だなんて」
白井「せいいっぱい、カメラ回します!よろしくお願いいたします」
吉田「あたしも(コートを脱ぎながら)初心に帰ってがんばるつもりです」
白井「はい!」
吉田「(キッと白井をみつめて)・・・初の脇役作品ですから」
白井「!」
 硬直する白井
一気に現場に緊張の糸が張り詰める
吉田、コートを山本に渡す
 そばで見ていた紅谷、白井に近寄る
紅谷「かっこいいですね・・・」
白井「(馬鹿!)」
 それを割って入るように
山本「おはようございます、監督。」
白井「あ、これは山本さんおはようございます」
山本「準備のほうはいかがでしょうか」
白井「あ、まあ・・・どんな感じと申しましょうか・・・」
山本「?」
白井「はい・・・さっそくなんですが・・・」
吉田「(準備していたそばから振り向いて)あたしのシーンかしら」
白井「あ、あー、その・・・」
山本「(吉田よりも前に出て)進行さんと先ほど打ち合わせしましたところ、すぐにでも大丈夫だと(聞いておりますが)」
白井「(発狂)それどころじゃありません!」
山本「え」
白井「?・・・ああ、ああ、取り乱してしまいました」
山本「はいはい」
白井「どうも進行のおばさんは・・・あたしのような新米のやりかたが気に入らないらしくて」
山本「業界の洗礼みたいなもんです」
白井「はい。それはともかく・・・」
山本「行きましょう」
白井「あ、あの」
山本「美鈴さん、お願いします」
吉田「はい、お願いします」
白井「あ、その」
山本「(無視して白井に)お願いします」
白井「あ、はい」
吉田、やる気満々で行く
白井「ちょ、ちょーっと待ってください!」
 吉田、スタッフや紅谷たちの前に立つ
吉田「お願いします」
助監督「はい、それでは『冬の雨』光代夫人役の吉田美鈴さんからごあいさつです」
 全員、拍手
 白井、止めようか止めないか迷っている 
 おかまいなしに吉田
吉田「えー、皆さんおはようございます。吉田美鈴です」
 一同拍手
吉田「この作品に参加できて大変うれしく思っております。
十代のときにこの世界に入って、ずっと心に誓ったことがあります。
それは、どの作品でも必ず主役を狙うということ。
主役は物語の中心。見る人すべてが必ず見なくてはならない、そんな役だからです。
すべての心に、あたしの演技が残ってもらえたら、そしてあたしの演技で何かを感じ取ってもらえたら、これほどうれしいことはありません。
あたしは昨日まで舞台、映画、ラジオすべてにおいて主役でした。例外は一切ありません。
福島社長からこのお話が入るまでは・・・。」
 吉田、全員を見回す
吉田「隠し事したり、思ってることをいえないのは、しゃくにさわるので思い切っていいます。
  あたしはこの役をやる気が、まったくない」
 全員凍りつく
吉田「ないなら出るなというんであれば、すぐにでも帰ります。」
 そのとき
紅谷「帰ってください」
 全員ビックりして振り向く
吉田「!」
紅谷「この挨拶はなんですか?」
吉田「・・・」
紅谷「あたしは・・・あなたのことが好きだった。憧れだった。」
吉田「・・・」
紅谷「監督にもさっき少し話したんです。あたしは美鈴さんとやれて本当に光栄です。でもそんな人が、こんな挨拶する人だったなんて・・・」
白井「(やめなさい、それ以上言うのは)」
紅谷「ショックです」
吉田「・・・」
 吉田は、つかつかと紅谷のほうへ行く
吉田「あなた、お名前は」
紅谷「べ、紅谷・・・さくらです」
吉田「音声さんか何かかしら」
紅谷「・・・と・・・とめ子役です」
吉田「とめ子?」
 吉田、台本に目を通す
吉田「あなたが、主役・・・」
紅谷「はい」
 吉田、紅谷の顔をじっとにらみながら
吉田「帰るもんですか」
紅谷「!」
吉田「社長の顔に傷がつく。経験は長いけど、あたしも大の大人ですから。そこまではしません。頼まれた以上は、思い切ってやります。」
紅谷「・・・」
 そしてまたもとの立ち位置に戻ると
吉田「(一転笑顔で)クランクアップまでよろしくお願いします!」
 一瞬の静寂
 一気に拍手
 固まったままの紅谷
吉田、さっそうと歩いていこうとする
 そのとき
白井「美鈴さん!」
吉田「(いきかけた足を止めて)え」
白井「ま、まだ撮りきれていないシーンがありまして」
吉田「へえ」
白井「その・・・(紅谷をちらりと見る)」
吉田「はっきりどうぞ」
白井「は、はい!」
紅谷「(びくびく)」
白井「し、主役のシーン三が撮りきれておりません」
吉田「・・・」
白井「テイク六三です・・・」
吉田「・・・」
白井「(土下座)」
 吉田、白井の土下座を見る
 そして
吉田「監督」
白井「はい!」
吉田「シーンが撮りきれるまで・・・ひょっとして、待ち?」
白井「ご無礼はもちろん承知です」
山本「かなり無礼」
白井「が、しかし、妥協したくないのです」
吉田「妥協ねえ」
白井「美鈴さんが今までの作品を大切に演じてきていらっしゃったのと同じように、あたしもこれが一生に一度の作品なんです。こだわりたいのです。」
吉田「こんなへぼ女を主役にまで持ってきて妥協はしたくない、と・・・」
白井「こんなへぼでも主役です」
紅谷「・・・へ・・・へぼ・・・」
白井「あ!・・・言葉のあやってやつです・・・」
 吉田、あえて紅谷のほうに行きながら
吉田「なおちゃん、」
山本「はい」
白井「待ちの時間ってなにするの?」
紅谷「待ったことがないんですか?」
山本「当たり前じゃないですか」
吉田「どうする?」
山本「・・・どうしましょうかねえ」
白井「あの、それでは、撮影再会してもよろしいでしょうか?」
吉田「ああ、はいはい。」
山本「どうぞどうぞ」
白井「ありがとうございます。それではいきまーす」
 紅谷、立ち位置に立つ
 そして、吉田、山本、はけようとする
白井「スタッフオーケー!それじゃお願いします。」
 吉田、ぴたりと足を止める
吉田「!」
山本「(そんな吉田を見て怪訝そうに)」
吉田「(あごで本番シーンを指す)」
山本「(にやりと笑って、二人でシーンを見学することにする)」
 そうとは知らずに
白井「本番!よーいアクション!」
 カチンコ
紅谷「(やはり映画のせりふを棒読みで)ああ、こないのね・・・」
 紅谷、なにわ歩きで舞台を横切る
紅谷「(同じく映画のせりふ)このばしょにきてくださるといったのに、あのひとは・・・」
 そのとき突然
吉田「(絶叫)カット!」
 全員、停止
白井「え・・・」
 吉田、一気に撮影内に入ってくる
吉田「あんた、それなに?」
紅谷「はい?」
白井「美鈴さん」
吉田「なに、口ぱくぱくさせてるの?」
紅谷「・・・」
吉田「カメラの前で、こんなに大勢のスタッフさんの前で、あんたのために昨日の夜?夕方からがんばってる人たちの前で
あんたは、なにをしてるの?」
紅谷「・・・」
白井「あ、あのですね、これには深いわけが」
吉田「監督に聞いてるんじゃない」
白井「はい!」
吉田「答えなさい。」
紅谷「え・・・と・・・」
吉田「(間髪いれずに)答えな!」
紅谷「!」
吉田「・・・」
紅谷「・・・演技です・・・」
吉田「演技なんだ」
紅谷「はい」
吉田「わかった」
 吉田、台本を持って真ん中へ
そして深呼吸した後一気に
吉田「ああ、幸助様・・・」
 全員、吉田に釘付け
 吉田、華麗に舞台を横切る
吉田「この場所に来てくださるといったのに・・・あのひとは・・・あたしよりも戦争を取ったのかしら・・・」
 吉田、窓越しにさめざめと泣く
 そして一気に真顔になり
吉田「(紅谷に向かって)主役、あたしがやる!」
全員「!」
白井「そ、それは・・・」
紅谷「いやです!」
吉田「あんたは、こういうときは強気になるね!」
紅谷「絶対、渡しません!」
吉田「そんな強気でいられるのはどこにその信念があるのかしら?」
紅谷「うるさい!」
吉田「やるんだ?」
紅谷「やりますよ!」
吉田「他人の迷惑考えないで、自分のためにやるのかい?」
紅谷「やりますとも!」
吉田「ふん!」
紅谷「あなたを好きになって損した・・・」
吉田「損?」
紅谷「春の舞台、あたし、見に行きました」
吉田「ありがとう。」
紅谷「美鈴さんは華麗で、そしてしなやかで・・・美鈴さんが舞台に出ると、空気が一気に変わっちゃう・・・。あたし、そのお芝居を見て、美鈴さんみたいな女優になりたくて事務所に入ったんです。」
吉田「それはどうも」
紅谷「なんですか、その態度は」
吉田「目が覚めた?」
紅谷「え」
吉田「舞台のあたしと現実があまりにも違いすぎて」
紅谷「がっかりです」
吉田「わかってない」
紅谷「え」
吉田「華麗でしなやかだったのは、そういう役だったからじゃない?あの舞台上にいるのはあたしであってあたしじゃない。そのお話の中のひとりの主役だった。」
紅谷「・・・」
吉田「舞台とここにいるあたしの外見は同じでも中身がまるっきり違うの、わかってもらえた」
紅谷「でも」
吉田「なに」
紅谷「わからない」
吉田「わかろうとしてないから」
紅谷「違う!納得できない」
吉田「納得・・・そうか、そうくるか・・・」
 吉田、歩いてから
吉田「じゃあ、こうしない?」
 吉田、中央で
吉田「今から二十四時間後、ここであたしと演技対決やろうじゃないの!」
 全員びっくり
白井「演技対決・・・」
吉田「これはあんたたちスタッフのためにも提案するんだよ」
白井「しかし・・・」
吉田「(かまわず)さっき、あんたがとんでもない芝居していたところ、その二行をやって、どっちがうまいかで主役を決める。もちろん、判定は、監督にやってもらう」
白井「!」
吉田「決戦は明日の朝六時。それまでは・・・(大声で)スタッフのみなさん!おつかれでしょうから、あったかい味噌汁、あっちに用意しといたから、たくさん食べて!」
 スタッフから歓声があがる
吉田「なおちゃん、よろしく」
山本「はい!」
 山本、はける
 白井、ふたりのもとへ
白井「スタッフにはありがとうございます」
吉田「いえいえ、とんでもない。」
白井「でも演技対決の件は」
吉田「絶対勝つ!」
白井「美鈴さ~ん・・・」
紅谷「あたしも・・・負けない」
白井「さくらさ~ん」
紅谷「この役はあたしのためにある。」
吉田「妄想よ、妄想」
紅谷「絶対に・・・絶対に美鈴さんには・・・負けない」
白井「・・・」
吉田「あーあ、だめね」
紅谷「・・・」
吉田「勝負を前にして、『負け』なんて言葉、はくもんじゃないよ」
紅谷「!」
 紅谷、にらみつけて、はける
吉田「(紅谷の背中に)将来のあんたのためを思って言ってんだからね」
 紅谷、完全にはける
白井「仕切りすぎですよ」
吉田「すいません、監督」
白井「社長にしゃべりますよ」
吉田「勘弁して。」
白井「もう・・・」
吉田「ごめんね、やっぱ主役やりたいんだわ」
白井「社長とはお話なさったんですよね?」
吉田「もちろん。」
白井「・・・」
吉田「あたし病気なのかも。主役じゃなきゃやれない、っていう・・・」
白井「・・・」
吉田「この映画に関わる以上は、あたしも、いいものを作りたい」
白井「・・・」
吉田「いいものを作れない人は・・・この世界から早く消えたほうが自分のためなのにね・・・」
 遠くを見る吉田
 それを見る白井
 暗転 






第三章 工場にて
工場の音が聞こえる
   朝の工場街である
   そこにふらふらと、つかれきった顔の紅谷がやってくる
   そこはちいさな工場だ
紅谷「すいません、すいませーん」
   しばらくして奥からひとりの男がでてくる
   木村である
木村「うるせーな」
紅谷「え」
木村「うるせーって言ってんだろ」
紅谷「いや、なにもいってませんけど
木村「もう金なら今月のはじめにかえしたじゃねえか、ばかもん。」
紅谷「あの、あたしは違います」
木村「なに」
紅谷「そこの電柱に貼ってあったビラを見て来たんです」
 木村、紅谷の顔をのぞきこんで
木村「・・・客かあ・・・」
紅谷「そうです」
木村「はじめっからそういえ。ばかもん」
紅谷「・・・すいません」
木村「で?」
紅谷「あたしを・・・女優にしてください」
木村「!」
紅谷「吉田美鈴を知っていますか?」
木村「知ってるもなにも、有名人じゃねえか」
紅谷「その吉田美鈴と明日の朝対決なんです」
木村「?」
紅谷「わかってもらえます?」
木村「・・・わかんねえ」
紅谷「その主役にぜったいなりたいんです!」
木村「主役に・・・なる?」
紅谷「ええ」
木村「そうか」
 木村そっぽをむいて
木村「なら、養成所とか、どっか行け」
紅谷「明日なんです」
木村「知らねえよ」
紅谷「せりふがどうしてもうまくいかないんです」
木村「台詞ね」
紅谷「ええ。何回やっても心が入ってないって監督に言われて・・・こうじゃないかってやってみると、それは技術だとかいわれたり・・・」
木村「ふーん」
紅谷「正直、わからなくなりました。演技ってなんなのか。役者ってなんなのか」
木村「うん。だったら誰かの付き人にでもなって一から勉強すりゃいい」
紅谷「付き人なんて」
木村「ばかだな。付き人なら最高だぞ、ずっと師匠の前にいて生身の勉強ができる」
紅谷「それじゃ間に合わないんですってば!」
木村「なら、ムリ!」
 木村、ハケようとする
 そのとき
紅谷「あの言葉はうそですか?」
木村「(止まる)」
紅谷「電柱に書いてあったあれです」
木村「(振り返って)お嬢さん、あれは・・・」
紅谷「(さえぎるように)『あなたの希望なんでもかなえる機械あります』って」
木村「書いてあるさ。俺が書いたんだから」
紅谷「うそなんですか」
木村「あんたの場合は」
紅谷「(かまわず)演技が・・・うまくなる機械ってのはありますか?」
   木村、ため息
木村「・・・ったく、朝っぱらからへんちくりんなことばっかりいいやがって」
紅谷「へんちくりんでもどうでもいいです!」
木村「・・・あるよ・・・」
紅谷「!」
木村「ある・・・。確かにございますよって」
紅谷「本当ですか?」
紅谷「そんな・・・」
木村「見るかい?」
紅谷「はい」
   木村、奥からわけのわからないものをもってくる
   しげしげとみつめる紅谷
木村「『よろず帯』。」
紅谷「よろず・・・」
木村「よろず、つまりなんでもできるっていう帯だ。」
紅谷「はあ・・・」
木村「正直に感想、言えよ」
紅谷「なんかただのヘアバンドにしか見えないんですけど・・・」
木村「もともと、相良電気の社長に息子の試験の点数をどうしてもあげたいって言われててね。それで発明したのがこれ」
紅谷「勉強のために?」
木村「勉強にも使えるが、あんたがいう感情を入れてせりふを言うってのにもひょっとしたら使えるかもしれんって思ってね。」
紅谷「つ、使ってみたいです」
木村「わかった。ためしになにかセリフを言ってみてくれ」
紅谷「は・・・はい」
 紅谷は中央に立つ
紅谷「ああ、こうすけさま。このばしょにきてくださるといったのに、あのひとは、あたしよりもせんそうをとったのかしら」
 紅谷、言い終わってから木村を見る
木村「(口をあんぐり)」
紅谷「あ、あの・・・」
木村「ひ・・・ひどすぎる」
紅谷「そんなにひどいんですか!」
木村「自分のこいつ(ヘアバンド)に自信がなくなってきた」
 木村、ヘアバンドを持ってはけようとする
紅谷「待ってください!」
木村「え」
紅谷「やらせてください」
木村「知らんよ」
紅谷「え?」
木村「あまりの強烈さに、こいつでも治せないかもしれないよ」
紅谷「かまいません」
木村「そう?」
紅谷「ええ」
 紅谷、手を差し出す
 木村、手にバンドを渡す
 紅谷はそれをながめてから静かに自分の頭に巻く
 そして静かにおおきく息を吸い込むと
紅谷「ああ、幸助様・・・」
 まるでさっきとは別だ
 紅谷、華麗に舞台を横切る
紅谷「この場所に来てくださるといったのに・・・あのひとは・・・あたしよりも戦争を取ったのかしら・・・」
  紅谷、さめざめと泣く
木村「す・・・すばらしい」
紅谷「え」
木村「やっぱりこれは暗記以外にも効果があったんだ!」
紅谷「そんなに変わりました?」
木村「ああ、すごい!」
紅谷「・・・そんなに?」
木村「天と地の差だ」
紅谷「自分ではなんだかなんにもわかんなくて」
木村「無意識の中に働きかけてるんだ」
紅谷「無意識?」
木村「ああ、自分の使っていない脳みそにこのヘアバンドが働きかけて身体を動かしたんだ」
紅谷「へえ・・・」
木村「すごいだろう」
紅谷「でも・・・せりふをしっかり自分でいえたんですよね」
木村「ああ、うそじゃねえ。あんた、これさえ使えば立派な女優になれることまちがいねえ」
   紅谷、はしゃいで走り回る
木村「そんなによろこんでもらうと、こっちが恥ずかしくなるじゃねえか。もうやめてくれ」
紅谷「は、はい、すみません。でも・・・でも・・・すごい。・・・あのー」
木村「なんだい」
紅谷「・・・おいくら・・・なんでしょうか?」
木村「役者なら腹から声出せ!」
紅谷「(大きく)これ、おいくらなんですか?」
木村「ああ。百五十万円ってとこで勘弁してやるわ」
紅谷「百五十万円!」
  紅谷、卒倒しそうになる
  木村、あわてて抱える
木村「大丈夫かい」
紅谷「百五十万円・・・百五十万円・・・」
木村「そこん角の相良電気の社長だったらすぐ出してくれるんだけどな」
紅谷「あ・・・あたしは・・・一般市民です!」
木村「・・・そうだよな。一般市民だよな」
  木村、紅谷の頭からバンドをはずす
木村「なら、捨てるか」
紅谷「え?」
木村「せっかくあんたいい女優になると思って見込んで売ってやろうとしたんだけどなー。あんたには女優の器もなけりゃ、ふとっぱらっていう、度胸の良さもないんだな」
紅谷「売れたら必ず払います」
木村「出世払い?」
紅谷「それがだめなら分割で」
木村「月賦か」
紅谷「必ず返します」
木村「月、いくら」
紅谷「えっと・・・えっと・・・一万・・・」
木村「(大声で)一万だと!?・・・笑わせるなー。百五十ヶ月なんて生きていけねえよ」
紅谷「でも」
木村「(小馬鹿にしながら)ああ、いいよ、悪かったよ。このおれが悪かった。木村正二郎が三年の月日をかけて作った、この『よろず暗記帯』、これを小さく見られたら、こっちも考えるってもんよ。あー!」
   そこに、チャイム
   木村、はけて出る
   それは借金とりの墨田だった
墨田「よう」
木村「(態度一変して、弱いキャラの声で)あ・・・ああ・・・」
墨田「払ってもらおうか?」
 墨田はガムをくちゃくちゃしながら迫ってくる
木村「お、お願いです。もう、しゅこし。もう、しゅこし待っていただけないですかねー。」
墨田「もうしゅこし?」
木村「あ、もう少し、もう少しです。今月中になんとかしますから」
  墨田、ガムをかみながら木村をもちあげると
  木村を乱暴に置く
墨田「ばかか」
木村「はい?」
墨田「お前はガム以下の人間か?」
木村「が・・・ガム以下・・・」
 墨田、ニヤニヤしながら、ガムで風船を作る
 そしてぱちんと割る
 そして襟首をつかんで
墨田「この口の中のガムみたいにね、くちゃくちゃ噛んで風船つくって、道端に捨ててあげようか」
 どすんと地面に置く
木村「い、痛い・・・」
墨田「払わないからこういうことになるんだよ」
墨田「む、むりですよ~今、時空をこえるタイムマシンってやつもやってて、」
墨田「タイムマシン?」
木村「ええ、それで昨日ですね、設計図を書き終えて、このあとから作り始めるとこなんですけど」
墨田「いつものペテンかい」
木村「いや、今度は!いや今度こそは!本当なんですけどねー・・・」
   完全に木村、劣勢
見るに見かね、ついに紅谷
紅谷「おいおい、うちのお父ちゃんに、なにすんだよ!」
木村「!」
墨田「お、娘か」
紅谷「そ、そうさ、」
墨田「名前は」
紅谷「名前・・・」
墨田「てめえの名前もわかんねえのか」
木村「あ、ああ、う、梅です」
墨田「こんなかわいい娘、どこに隠してた?」
木村「あ、いや、そのー・・・」
墨田「(紅谷に)顔、きれいじゃねえか」
紅谷「!」
 墨田、ガムをくちゃくちゃしながら顔を寄せていく
紅谷「うるせえ!」
 紅谷、墨田をはねとばす
墨田「て、てめえ」
紅谷「父ちゃんはな、世界一の発明家なんだよ。」
墨田「発明家ねえ」
紅谷「日本のエジソンなんだよ!」
墨田「へ?こいつが?この顔で、日本のエジソン・・・」
 墨田、大笑い
紅谷「そうだよ!あんたなにかい?そんな父ちゃんに今のうちに投資しなくてもいいのかい?」
墨田「と、投資?」
紅谷「今逃がしたらどうなるか・・・あとあと損をみるだけだとあたしは思うけどねー」
木村「(小声で)やめろよ」
紅谷「(気にせず)今、投資しとけばタイムマシンに間に合うんじゃないかい?」
墨田「今かぁ」
紅谷「三日で一万が、五万。五万が二十五万で倍になるよ。もちろん、パリの発明学会とやらで発表するんだぜ。こんなところでお父ちゃん脅してなんかいないでさ、いますぐ相良電気さんとこ行って、株でも買い占めてきな!はやくしなきや、ほかのとこにおいてかれるよ!」
墨田「・・・行くわ」
紅谷「ほらはやく!」
墨田「おれがお前のタイムマシンとやらで金が入ってきた暁には・・・おれとつきあえ」
紅谷「ん?ああ、いいよ」
木村「おい!」
紅谷「いいよいいよ。」
墨田「おやじ、そういうこった。じゃあな!」
   借金取りは走り去ってく
   ほっとする木村
   まだ、威勢のいい紅谷
   ふたり、顔を見る
木村「(罰の悪い笑い)」
紅谷「(ひと仕事終えた後の充実した笑い)」
木村「(照れながら)・・・いや・・・助かったよ。あいつら朝からしつこくて・・・」
   紅谷、笑いながら、ばたんと紅谷倒れる
木村「!おい!しっかりしろ!おい!」
暗転



明転
  寝かされてる紅谷
  つきそう木村
  紅谷、気がつく
紅谷「・・・ここは」
木村「変わらんよ。・・・おれの家」
紅谷「・・・(しばらくボーっとしてるが、急に先ほどのことを思い出して)すいません!」
木村「びっくりしたよ。」
紅谷「ほんとすいませんでした!」
木村「ぽんぽんぽんぽん、ありもしねえこといいやがって・・・」
紅谷「な、なんか夢中で・・・」
木村「あんな勝手な言葉ハケるくらいなら、おれの機械いらねえんじゃねえの?」
紅谷「あ・・・」
木村「なあ」
紅谷「・・・さっきまでのことって、なんだかなんにも覚えてないんです。」
木村「へえ・・・」
紅谷「ちょっとトバしてしまいました」
木村「トバした?」
紅谷「・・・はい」
木村「そっかー。」
  木村、考え込みながら歩く
紅谷「・・・どうしたんですか」
木村「・・・『よろず帯』売ってやるよ」
紅谷「!」
木村「あんたはさっき、俺を助けてくれた。」
紅谷「・・・」
木村「おれは金は借りるけど、心では借りは作らねえつもりだ。だから売ってやる」
紅谷「本当ですか」
木村「あんたに・・・投資する」
紅谷「あ、ありがとうございます!」
木村「でも、金はないにしろちょっと条件がある」
紅谷「え」
木村「あんたの髪の毛・・・すこしわけてくんないかな」
紅谷「!」
木村「今、次の発明でな、ハゲにつける薬を作ろうと思ってるんだ。」
紅谷「薬・・・」
木村「ああ。女の髪の毛には男の髪の毛には絶対ない、謎のある成分が含まれてるって。」
紅谷「次の発明はタイムマシンじゃないんですか?」
木村「タイムマシンはもうちょい後なんだ。それより先にこのままいくと、毛生え薬ができる」
紅谷「・・・」
木村「不景気だかなんだかしらねえが、日本のおやじどもは夜も寝ないでがんばって働いてる。そんな暮らしずっとしてたら、髪の毛薄くなって当然だろ?」
紅谷「そうですけど」
木村「ハゲ親父どもを、このままほっといていいのかい?」
紅谷「・・・」
木村「・・・どうだい?金に比べりゃたいしたことじゃねえだろ?」
紅谷「でも」
木村「(間髪入れずに)髪の毛は女の命。女の強みってことは女優の命でもあるってか?」
紅谷「・・・そうです」
木村「なーに、すぐ伸びるよ。」
紅谷「(考えながら)・・・量はどのくらい?」
木村「そうだな・・・(紅谷の背後に回って)ばっさりいこうか」
紅谷「むりです!」
木村「なんで?」
紅谷「あたし・・・あたし・・・髪の毛伸びんの遅いんです。ここまで伸ばすのにどれだけかかったか・・・」
木村「あんた、生きてる人間だろ?どっかのお寺の人形だって髪の毛が伸びる時代だ」
紅谷「いい女優さんになるために、ずっと伸ばしてきたんですよ」
木村「髪の短い大女優がいたっておかしくねえだろ。」
紅谷「そんな」
木村「大丈夫、次に来る二十一世紀ってやつのときにはあんたの髪型はやってるかもしれないよ~」
紅谷「(我慢できず)次の世紀まで待てません!」
木村「・・・そうか・・・それなら・・・契約は・・・」
  木村、そばにあったバンドをもつ
  おもいっきりひっぱってちぎろうとする
木村「なしってことで」
紅谷「あ」
木村「あたりまえだろ?ここまで譲歩してもまだ断られたんだ。あんたがいらないってことは、世の中もこれを欲しがってないかもしれん。・・・失敗作として捨てる」
  木村、ひきちぎろうと強くひっぱる
  紅谷、悩む
  木村、どんどん両手でゴムをひっぱる
  紅谷、ついに
紅谷「待ってください!」
  木村、ゆるめる
  勢いで、バチンと手を打ってしまう
木村「痛え!」
紅谷「買います!」
木村「!・・・」
紅谷「買います・・・あたし、女優になるために東京に来たんですもん。」
木村「そうか」
紅谷「・・・もう・・・手段、選んでる場合じゃないんです・・・売ってください」
木村「(にやり)・・・いい度胸してんじゃねえか。・・・この『よろず帯』があれば、ますます鬼に金棒ってとこだ」
  木村、はさみを渡す
木村「さあ、(髪を)切ってくれ。」
紅谷「・・・」
木村「ほれ、どうした?」
紅谷「(実際、はさみを手にして、迷う)」
木村「またおじけづいたか?」
紅谷「・・・ちょっとはずかしいんで、洗面所かどっかありますか?」
木村「・・・はは。そうか。わかった。すまんな。・・・そこの奥いって左のとこだ」
  紅谷、はける
  すこししてから、髪の毛をもってくる
木村「ん?」
 紅谷、髪の毛を少しだけ切って持ってくる
 無言で差し出す
木村「足りねえなあ・・・」
紅谷「・・・あたしの髪の毛、大切に使ってください」
木村「これっぽっちじゃ・・・」
紅谷「これで何とかしてください」
木村「・・・しかたねえな」
紅谷「ありがとうございます!」
木村「ん?髪の毛ぼさぼさだな。・・・そうだ、そうだ」
  木村、軽くはけて、黄色いビンをもってくる
木村「先月発明したんだ。毛生え薬にさきがけて髪の毛をつやつやにする薬だ」
  木村、薬を手に取り、紅谷の髪にしみこませるように塗る
紅谷「つるつるに・・・なるんですか?」
木村「そう。熱に反応してつるつるになる・・・髪の毛が長持ちするから『長持っづヘアー』っていうんだ」
紅谷「なんか・・・どこかで聞いたことが・・・」
木村「ばかもん。おれが発明したんだ。だれも使ってないぞ!(薬を紅谷の頭にどんどんふりかける)・・・ほら、つるつるに、つるつるになって・・・(目線がビンのラベルにいき大声で驚く)あ!」
紅谷「どうしたんですか」
  木村、急いでビンを手から離す。そしてあわてる
木村「・・・ああ・・・」
紅谷「どうしたんですか」
木村「(小声で)言えねえよな」
紅谷「え」
木村「(あいかわらず小声で)言えねえよな・・・髪の毛の伸びを止める薬と間違ったなんて」
紅谷「(大ショック)!!!・・・・聞こえてるんですけど」
木村「(アドリブでおもいきり驚く)」
紅谷「どういうことですか?はやく、落として・・・早く!」
木村「・・・無理だ」
紅谷「え」
木村「(ビンを投げ捨て)むりなんだよ!」
紅谷「そんな・・・」
木村「毛止め薬だ。足のすね毛とか腋毛とか、余分な毛の部分につけて、毛の成長を永久に止めてしまうんだ」
紅谷「(ショック!)」
木村「すまん。こいつは即効性があって、洗っても洗っても永久に毛がのびないように作ったんだ!」
紅谷「・・・」
木村「すまん!このとおりだ。」
紅谷「じゃ、あたしの髪って、これ以上伸びないんですか?」
木村「・・・」
紅谷「どうしてくれるんですか!」
  照明チェンジ

第四章 画策と反抗とその理由
 場所は変わってこちらは吉田と山本。
 控え室である
 吉田疲れた風で入ってくる
 山本それに続いて入ってくる
山本「(後ろから)いいんですか?」
吉田「お疲れお疲れ」
山本「美鈴さん」
吉田「(気にもせず)朝からこんな待ちになるんだったら、麻布十番のおいしいたい焼きでも買ってくるんだった・・・」
山本「美鈴さん」
吉田「あら。弁当は?弁当・・・どこかなあ・・・」
山本「・・・」
吉田「?」
 吉田、山本を振り返る
吉田「なあに?なおちゃん」
山本「・・・もう・・・いいです」
吉田「そうかい?」
山本「・・・」
吉田「(イスにすわり、軽くメイクを見る)(メイクの)トキちゃん呼んで」
山本「・・・はい」
 山本、体だけはけて
山本「(袖中に)トキコさーん」
トキコ「はーい」
山本「直し、お願いしまーす」
トキコ「かしこまりましたあ」
 山本、戻る
吉田「(鏡を見ながら)あたしの決断にケチつける気?」
山本「いえ、そんなことはないんですが・・・」
吉田「あの娘、あたしのひとつ下だっていうのに、よくあそこまでいけしゃあしゃあといえたもんだね」
山本「最近の子はみんなそうですよ。」
吉田「へえ」
山本「上にいる目の上のたんこぶに追いつけ、追い越せって・・・」
吉田「たんこぶ・・・(にらむ)」
山本「!」
吉田「なおちゃん」
山本「は、はい!」
吉田「あの娘はあたしに憧れたって言ってたんだよ」
山本「はい」
吉田「そこんところは汲み取ってあげないとねえ・・・」
山本「は、はい・・・」
吉田「他にもまだ言いたいことあるのかな?」
山本「あ、・・・いえ・・・」
吉田「はっきり言おうよ」
山本「いえ。なにもありません」
吉田「ほんと?」
山本「・・・」
吉田「まあ、いいさ・・・たく、トキちゃん遅いね?」
山本「もう一回呼んでみます」
 山本、またハケようとする
 そのとき
吉田「そうだ!なおちゃん」
山本「はい?」
吉田「知り合いに・・・探偵さんがいるって言ってたよね?」
山本「!」
吉田「この前、日比谷でコーヒー飲んだときそんなこと言ってたろう?」
山本「・・・ええ」
吉田「その子に・・・あの娘をつぶさせよう」
山本「!」
吉田「主役なんてそうホイホイと取れるもんじゃないってこと、覚えさせないとね」
山本「でも勝負じゃないんですか?」
吉田「あたしが負けるはずないだろ?」
山本「・・・ええ」
吉田「あの娘も負けて赤っ恥じかいて打ちのめされたら、なにかひとつ考え変わるかもしれないよ」
山本「・・・」
吉田「あの娘として、いい方向に」
山本「・・・はい」
吉田「自分がまだまだ甘ちゃんだって知るいいお薬だよ。」
山本「・・・」
吉田「そのためにも(肩をぽんと叩いて)お願い」
山本「・・・はい・・・」
吉田「探偵さん、かっこいいんだって?髪の毛が栗毛で、ガイジンさんみたいだったってうちの社長が言ってたよ」
山本「かっこよくないですよ!」
吉田「?」
山本「?・・・あ、いや、探偵だけで稼げないからなんか危ない仕事やってるみたいだし・・・。かっこいいっていうのは、ここ最近の東京の人たちに比べたら、背が高いほうかなって・・・」
吉田「(山本の顔をのぞきこんで)へえ・・・」
山本「!」
吉田「お付き合いしてんじゃない?」
山本「そんな!」
吉田「顔、真っ赤だよ」」
山本「この前行った日比谷の喫茶店の仕事してるときに・・・たまたま知り合ったってだけですよ!」
吉田「理由なんてどうでもいい」
山本「ただ単に手が滑ってズボンにホットミルクこぼして・・・それからの腐れ縁ですから・・・」
吉田「へえ!、ズボンにホットミルクだなんて・・・」
山本「(顔真っ赤)」
吉田「・・・お金はあとでなおちゃん経由でしっかり払い込んでおくから」
 吉田、カバンに荷物をしまいこみ始める
山本「?・・・どこかへいかれるんですか?」
吉田「トキちゃん忙しいみたいだし」
山本「すいません!今度こそ(呼びます)」
 山本あわてて呼ぼうとするが
吉田「あ、いいよいいよ」
山本「でも」
吉田「ちょっと行きたい所あるから、行ってくるよ」
山本「そうですか。あ、あたしも途中まで・・・」
吉田「大丈夫」
山本「はい?」
吉田「あ、でもスタジオ出るまではカバン持ってくれる?」
山本「ええ」
 ふたりはけて
照明チェンジ








 照明変わる
 一方そのころこちらは木村工場
 髪にタオルを巻いて、さらによろず帯を巻いている紅谷がやってくる
 離れた席に木村が座る
 ちょっと沈黙
 それに耐え切れず木村
木村「なあ、お嬢さん」
紅谷「(ふくれ面)」
木村「悪かったと思うよ」
紅谷「髪の毛」
木村「ちょっとおれも遊んじまったかなぁって思う」
紅谷「髪の毛」
木村「なあ、ちょっとは(機嫌直して暮れよ)」
紅谷「(絶叫)かみのけ!」
木村「!」
紅谷「ここまで伸びるのにね、どのくらい苦労したかわかりますか?」
木村「(ため息)」
紅谷「あたしの、ため息かえしてくださいよ!」
木村「だからさあ、じゃあ、どうすればいいってのよ!」
紅谷「大至急、毛生え薬作ってください」
木村「あの量じゃ作れん」
紅谷「(ぼそり)へぼ発明家・・・」
木村「(絶叫)へぼっていうな!」
紅谷「聞こえましたか?」
木村「地獄耳なもんでね」
紅谷「(もっと小さく)ばか発明家」
木村「お嬢さん」
紅谷「! はい」
木村「この際、仏門にでも入ろうか?」
紅谷「!」
木村「ご両親は喜ぶんじゃないの?」
紅谷「ご、ごめんなさい」
木村「ふん」
紅谷「あたし、聞いたことがあります」
木村「?」
紅谷「本当の天才は失敗しても悲しまないって」
木村「天才?」
紅谷「ええ」
木村「お、おれは天才でもなんでもない」
紅谷「じゃあ、なんなんですか?」
木村「そ・・・それは・・・凡人だよ」
紅谷「こういうのを発明する人は・・・凡人じゃないですよ」
木村「そうかなあ」
紅谷「ええ、失敗の上にこういう作品ができるわけですから」
木村「まあね・・・ってそんな失敗失敗言うなよ。」
紅谷「じゃあなんで、つくってくれないんですか」
木村「そりゃ、その・・・」
紅谷「失敗が・・・怖いんですか?」
木村「・・・」
紅谷「・・・その発明家の人は百回失敗した後、こういったそうです」
木村「?」
木村「『よかったよかった。これで百通りの失敗例を開発した』って。悲しむどころか逆に喜んでしまったらしいです」
木村「・・・」
紅谷「作ってください」
木村「でも・・・」
紅谷「?」
木村「・・・量なんだよ、量!こんなんじゃ、百回も失敗できない。」
紅谷「何回ならいけるんですか?」
木村「そうだな・・・三回が限度だろう」
紅谷「なら、二回失敗例作って一回成功すりゃいいじゃないですか」
木村「・・・」
紅谷「案ずるより、産むが易しっていうじゃないですか」
木村、紙に入ったそれを眺める
紅谷「あたし、母さんと父さんに約束してきたんです。」
木村「・・・」
紅谷「「絶対に映画とか舞台とか雑誌とかにバンバン出る女優になって、ふたりを御殿に住ませるって。」
木村「・・・」
紅谷「そして・・・いつか、世界に出てくって。」
木村「世界か・・・」
紅谷「日本の映画も好きですけど、あっちのほうの映画のほうが辛気臭くないんですよ。道端でもあっけらかんってキスするし、いつでもどこかで幸せがあって、あたしのすんでるとこみたいな四畳半的なことが描かれない」
木村「ふーん」
紅谷「だから必ず行きます」
木村「おれは、四畳半的な日本映画も好きだけど?」
紅谷「・・・」
木村「四畳半でも・・・住めば都さ・・・」
紅谷「・・・」
 木村立ち上がって
木村「・・・いっちょうがんばるか」
紅谷「はい」
 紅谷も立ち上がる
木村「ん?」
紅谷「(頭に巻いたタオルを取りながら)スタジオに戻ります」
木村「そうか」
紅谷「練習しようと思って」
木村「よろず帯があれば大丈夫だ」
紅谷「行ってきます」
 紅谷、タオル捨ててはける
 見送る木村
 木村も髪の毛を見て決意してハケる


照明チェンジ

















チェンジ
 こちらは山本のほう。
 どうやら、探偵と待ち合わせらしい。
 時間はちょっと過ぎている
 ちょっといらいら。
 そこに男現れる
 墨田だ
 相変わらずガムをかんでいる
墨田「(遅くなって)悪かったね」
山本「・・・別に」
墨田「話ってなに?」
山本「・・・あんたの本業の話」
墨田「なんだ、また説教?」
山本「またってなに?」
墨田「探偵なんてやめて、早くカタギになってって」
山本「・・・」
墨田「図星?」
山本「図星どころか・・・むしろ逆の話なんだけど」
墨田「へえ」
山本「美鈴さんが気に入らない役者を・・・邪魔してほしい」
墨田「へへ。そういうの待ってたんだよ」
山本「ほんとはあんたなんかに頼みたくなかったんだけど」
墨田「もっとしっかりした探偵あたりに頼もうって?」
山本「・・・そうよ」
墨田「残念無念」
山本「まったく」
墨田「で、どんな役者?」
 山本、かばんから小さなスケッチブックを取り出す
 そこには、紅谷さくらの似顔絵が書いてあった
 まあ、けっこう(小学生の写生的)な絵で・・・。
墨田「・・・」
山本「?」
墨田「・・・さっぱりわかんない」
山本「え」
墨田「お前、小学校の図画工作からやりなおしてこい」
山本「(絵を見て)けっこうそっくりだよ?」
墨田「もっとわかりやすいのはねえの?」
 山本、一枚めくる
 すると今度はアニメチックなさくらの絵
墨田「・・・」
山本「?」
墨田「かわいくしすぎだろう・・・」
山本「じゃ、これはどう?」
 山本、もう一枚めくる
 今度はピカソ的に目とか鼻とかが美術画のさくら像
墨田「・・・ごちそうさまでした」
山本「わかってもらえたかしら」
墨田「(スケッチブックを奪い)わからないねえ」
山本「使えない」
墨田「(むかっ)」
山本「こりゃ失礼」
墨田「まあ、おれも世の探偵たちの端くれだ・・・この絵を使ってなんとか探すさ」
山本「お願いね」
墨田「オレに歯向かったりとかしたら・・・(ナイフを出して)いいのかな?」
山本「やめなよ」
墨田「(ナイフを見せつけながら)懐かしいなあ。横須賀で拾ったんだよね」
山本「そうよ」
墨田「しびれるよね~、この光」
山本「(まわりを見て)つかまるよ」
墨田「(すぐしまって)このナイフは、ある力しか発しないからなあ」
山本「それが自分の中の約束なんでしょ?」
墨田「(にやにや)」
山本「立派なんだかどうだか」
墨田「まあとにかく、報酬は・・・しっかりもらうぜ」
山本「あなたがもうひとつの仕事をしなくてもいいくらいにはなるかもよ」
墨田「それはありがたいな」
山本「なんてったって、吉田美鈴だから」
墨田「探偵一本で早く働きたいもんだよ」
山本「そのかわり、しっかり邪魔してきて。役者やるなんて二度といえないくらいに・・・」
墨田「わかった」
山本「よろしく」
 山本、領収証をとって帰ろうとする
墨田「待てよ」
山本「(待つ)」
墨田「今度はいつ・・・ゆっくり会えるんだ?」
山本「そうね・・・この映画が終わったらかな」
 墨田、すっと山本に近寄り後ろから抱きしめる
山本「!」
墨田「(耳元で)もっと早く会いたいな・・・」
山本「(必死に離しながら)あたしはそこまで尻軽女じゃない」
墨田「ふーん」
山本「ちょっとアメリカ映画じゃないんだから・・・(必死に離す)」
墨田「(強引に抱きしめながら、山本の手から領収証を取る)」
山本「!」
墨田「今日はおれが払う」
山本「あら、今夜あたり隕石でも降ってくるかしら」
墨田「さっきまで株を買い集めていたんだ」
山本「株?」
墨田「ああ、今朝、おもしろいものを見たんでね」
山本「賭け事ばっかり」
墨田「今に見てろ。こんなコーヒー代なんて目じゃねえくらいのビルディングぶったてて、探偵会社やってやっから」
山本「夢物語は聞き飽きた」
 墨田、、また抱きしめる
山本「(離そうとして)だからあ・・・」
墨田「(懐から株券の束出して)付き人なんて、さえねえ仕事さっさとやめさせてやるさ・・・」
山本「(完全に離れてから)と、とにかく、今夜中にその紅谷さくらっていう女を探し出して、二度と美鈴さんの前に出てこれないようにしてね!いいね」
 そういいながら、山本、真っ赤になってはける
 ひとりきりになった墨田
 あらためてスケッチブックを見る
 三枚ぺらぺらめくる
 そしてそのうちの一枚をじっと見る
 見たことある顔だな・・・
 じっと考える墨田
 コーヒーを一口飲む
 そして・・・
 あいつじゃないのか・・・
墨田「梅・・・」

チェンジ
 チェンジ
 ここは都内の、とある病院の前である
 吉田が紙袋を持って出てくる
 そして病院を振りかえり見る
 そこに、山本がかけこんでくる
 気配に気づく吉田
 おたがいびっくり
吉田「・・・どうしたの?」
山本「・・・み、美鈴さんこそ・・・」
吉田「あ、あたしは・・・あ、お、お手洗いを借りたの」
山本「お手洗い?」
吉田「そ、そうだよ・・・トキちゃんがまともな化粧してくんなかったから」
山本「はあ・・・」
吉田「?・・・な、なんだい?」
山本「い、いえ別に」
吉田「なおちゃんのほうこそ」
山本「あ、あたしは・・・美鈴さんのお願いを伝えてきました」
吉田「どうだった?」
山本「彼なら・・・やってくれると思います」
吉田「期待してるよ」
山本「・・・」
吉田「?」
山本「大丈夫です」
吉田「そう。じゃ。」
 吉田、はけようとする
 そのとき
山本「あの」
吉田「(止まって)」
山本「この病院に・・・だれかいらっしゃるんじゃないですか?」
吉田「・・・」
山本「美鈴さん」
吉田「・・・化粧を直しただけだっていったでしょ」
山本「右手の紙袋」
吉田「!」
山本「麻布十番の・・・浪速屋さんのたいやきじゃないですか?」
吉田「・・・」
山本「・・・」
吉田「・・・なおちゃん」
山本「・・・はい」
吉田「あたしの付き人なって・・・どのくらいだっけ?」
山本「来年の三月で二年になります」
吉田「二年かあ・・・」
山本「?」
吉田「付き人やってておもしろい?」
山本「え」
吉田「おもしろい?」
山本「おもしろいときもあります」
吉田「ときも?」
山本「つらいときのほうが・・・多いことも・・・」
吉田「そういうもんだろうね。」
山本「すいません」
吉田「おもしろいときってのはどんなとき?」
山本「美鈴さんが今なにを思って何をしたいか、それを読んで一歩先にそこにいって。もちろん失敗もあるんですけど、うまく美鈴さんと合致したときが一番うれしいし面白いです」
吉田「あ~あ、だめだめ」
山本「・・・」
吉田「当たり前のことを当たり前にやるのが、仕事ってもん。」
山本「・・・」
吉田「仕事はできて当たり前。それを面白がってやるもんじゃない・・・」
山本「す、すいません」
吉田「・・・」
山本「・・・」
吉田「なおちゃんに関しては、あたしがじっくり勉強させるから」
山本「はい!」
吉田「あたしは他人に厳しく・・・自分に・・・甘くだから」
山本「え」
吉田「(軽く笑う)ここはね、あたしにとっては、大事な場所。」
山本「・・・」
吉田、バッグから小さな封筒を出す
 その中には手紙があった
 吉田、その手紙を山本に渡す
吉田「これ、読んでみて」
山本「・・・」
吉田「ほら、早く」
山本「・・・みすずさんへ。
   はじめておしばいをみました。
おもしろくて、おかしくて、わらって、さいごに、ないちゃいました。
そしてみすずさんのことがすきになりました。
これからもがんばってください。
あたしもがんばります・・・」
吉田「その手紙を書いた子がこの病院にいる」
 吉田、病院を見つめる
吉田「白い大きなベッドに、そばには大きなラジオが置いてあって、そのそばに赤いポインセチアの鉢がある」
 山本も見つめる
吉田「そのベッドに寝ているのが、佐上純ちゃん・・・あたしについた最初のファンなの・・・」
 吉田、近くのベンチに座る
 山本も座る
吉田「この手紙を受け取ったのはね、あたしの人生はじめての舞台の初日が終わったとき。緊張がぷっつり切れてボロボロになってホールから出てきたあたしに、出口でひとりの女の子が走ってきた。」
山本「・・・」
吉田「この手紙を握り締めて・・・たったったって走ってきた」
山本「・・・」
吉田「『がんばってください』って一言。純ちゃん、手紙渡したら逃げるように帰ってった。」
山本「・・・」
吉田「ほんとあっという間の出来事でただただ、びっくりして。・・・でもこれを家に帰って読んだときは・・・涙が止まらなかった。」
山本「美鈴さんの演技に感動してくれたんですね・・・」
吉田「感動だなんて・・・。あたしはそれまで、裁縫学校のお楽しみ会でちょっとだけやったってだけなんだよ。それ以外になんの勉強も経験もないあたしの芝居を見て、面白かった・・・泣いてくれたなんて・・・なんか申し訳なくてね。すぐに返事を書いて送った。」
山本「・・・」
吉田「それからちょくちょくここには来させてもらってね、お話したり、遊んだりしてるの。」
山本「そうだったんですか」
吉田「いつもギスギスしたとこで、ひいひい仕事してるでしょ?ここに来るとそんなのぜーんぶ忘れて、女優じゃなくて、ただのひとりの女になっていられる。実家の次に落ち着くかもね」
山本「なんでずっと隠していたんですか?」
吉田「そりゃ、恥ずかしいでしょ?」
山本「そんなことないですよ」
吉田「しー!社長にも教えてないんだからね。」
山本「え!」
吉田「あたしたちだけの秘密」
山本「はい!」
吉田「・・・でもね、純ちゃん、もうすぐ耳が聞こえなくなるの」
山本「!」
吉田「手術が明日あるらしいんだけど、完全には治せないんだって。」
山本「・・・」
吉田「あたしのラジオとか楽しみに毎週聞いていたのにね。この映画も、次の舞台も本気で楽しめないかもしれない」
山本「・・・」
吉田「あたしが純ちゃんにここではじめて会ったとき誓ったことがある。」
山本「?」
吉田「もしあたしのことを、あたしの演技を楽しみにしてくれる人がひとりでもこの世にいる限り、あたしはその人のためにがんばる。せいいっぱい演技する・・・」
山本「・・・」
吉田「そのためにも主役をやりたいの。主役をやれば、必ず誰の目にもあたしを焼き付けることが出来る。そしてあたしを応援してくれる人も安心して観ることが出来る。だから・・・ずっとこだわってきた」
山本「そういうことだったんですね」
吉田「音が聞こえない人でも、あたしの演技が、あたしの汗が、その人たちのなにかの力なり支えになればいいの」
山本「・・・」
吉田「なんか初めてだね。なおちゃん前にしてここまで話したの」
山本「ええ」
吉田「うれしい?」
山本「はい」
吉田「それにしても・・・はあ・・・ちょっと寒くなってきた」
山本「大丈夫ですか?」
吉田「うん。さあ・・・そろそろスタジオに帰ろうか。」
山本「はい」
 ふたりはける
チェンジ













 


場所は変わって、ここはスタジオへ向かう道
 ヘアバンドをして歩いてくるさくら
 突然
墨田「木村梅さん」
 紅谷、気にすることなく歩く
墨田「木村梅さん!」
 まだ立ち止まらない
墨田「あんただよ!」
 紅谷やっと振りむく
 後ろからにやにやしながら墨田登場
紅谷「!」
墨田「さっきから何回も呼んでいるのに気づかない・・・?」
紅谷「あ・・・ああ、ちょっと考え事してたから」
墨田「気づくわけないもんね。」
紅谷「え」
墨田「紅谷さくらさん・・・?」
紅谷「!」
 紅谷あせってハケようとする
 墨田、その腕を取る
紅谷「離して!」
墨田「離さない」
紅谷「なんなのよ!」
墨田「こういうことさ」
 墨田、取った手を後ろ手にして一気に自分の中に収める
 そして片手からナイフを取り出し、紅谷の顔に当てる
紅谷「!」
墨田「(鋭く)声を出すな」
紅谷「!」
墨田「女優は顔が命。」
紅谷「・・・」
 墨田、物陰のほうに連れて行き
墨田「態度がでかいと思ったよ」
紅谷「・・・」
墨田「あんたにはぽんこつ親父の遺伝子ひとつも入ってないもんな?」
 墨田、懐から紙を出す
 それは身上書だった
紅谷「それは・・・」
墨田「悪いね、あんたの町役場に行っていろいろ調べさせてもらった」
紅谷「!」
墨田「それから・・・ご両親にもお会いして」
紅谷「う、うちの親にも」
墨田「仕事なもんで。」
紅谷「借金取りじゃなかったの?」
墨田「おお、それは大いなる誤解。朝の顔は仮の姿。飯を食うためにいやいややってる仕事さ」
紅谷「・・・」
墨田「なんで、あんなぽんこつの味方した?」
紅谷「・・・」
墨田「おれが見る限り、もうすぐ金がなくなって死ぬね。あんなガラクタばっかり発明してちゃ、そりゃカミさんも子供連れて田舎帰っちゃうって」
紅谷「あたしは・・・木村さんに世話になったから」
墨田「あんな男に恩返ししても、釣りはなんにもでないよ。」
紅谷「見返りを期待してるわけじゃない」
墨田「じゃあ・・・何?」
紅谷「・・・」
墨田「・・・?・・・なんだこれ?(髪飾り)・・・」 
 墨田、ヘアバンドに手をかけようとする
紅谷「(絶叫)さわらないで!」
 墨田、あわてて、顔にまたナイフを押し付ける
墨田「おっと、ほっぺた切り取っちゃうところだった」
紅谷「!」
墨田「こいつになにか秘密でも?」
紅谷「な、なんでもない・・・」
墨田「へえ・・・」
 墨田、今度こそヘアバンドに手をかけようとする
紅谷「や、やめて・・・」
墨田「いや」
紅谷「お願い!」
墨田「いーやーだ」
紅谷「あんたのいうこと、なんでもきくから」
墨田「?」
紅谷「なんでもあんたの言うとおりにするから・・・」
墨田「(にやにや)」
紅谷「だから、それには・・・触らないで」
墨田「それなら、映画あきらめてくんない」
紅谷「!」
墨田「ああ、なんてことない。今の今までのことは、あんたの妄想。」
紅谷「そ、そんな・・・」
墨田「田舎では神童でも、ここは東京。」
紅谷「・・・」
墨田「所詮あんたはただのシロウト。せいぜいお遊戯会の主役がお似合いだ。」
紅谷「・・・」
墨田「いい加減、夢物語終わらせようよ。」
紅谷「・・・」
墨田「あんたが終われないみたいだったから、おれが終わらせてあげようと思って、電報打っといたから。」
紅谷「え」
墨田「あんたの実家にね・・・」
紅谷「!」
墨田「(懐から電報控えを出し)『エイガ コウバン シタ。コンヤ イエ カエル。』」
紅谷「・・・」
墨田「感謝しろよ。今頃、あんたん家、ごちそう並べて待ってるよ。花の都の夢をどうなぐさめようかなんてね」
紅谷「ひどい・・・」
墨田「ありがとう!」
紅谷「人間じゃない・・・」
墨田「人間じゃない?」
 墨田、ナイフをますます顔に押し付ける
そして一気にぽんと紅谷を離す
 紅谷、勢いでくるりと墨田のほうを向いた状態で離れる
墨田「人間の証拠、見せてあげる」
墨田言いながら、ナイフで左手の中指を切りつける
紅谷「!」
 墨田、すぐに傷ついた指をなめる
 紅谷のほうを見ながら
墨田「(声を出さずにずっと見つめながら奇異な笑い)」
 そしてナイフを紅谷の顔の前につきたてながら
墨田「(鋭く)いますぐ家に帰って荷物をまとめろ」
紅谷「・・・」

 暗転


第四章  勝負
 明転
 ここはスタジオ
スタジオに入ってくる山本。
 そこにはすでに、白井がいた。
 それもセットで寝ている。
 かなりの爆睡らしく、寝返りを打ったりしている
 暗幕を毛布がわりに。
 山本、それを見ながら、邪魔しないように端っこに腰掛けようとする。
 すると、白井、目が覚めてしまう
白井「(山本を寝ぼけ眼で見る)」
山本「!(座りそうになりかけで立ち上がってしまう)」
白井「・・・あの」
山本「はい?」
白井「セットに腰掛けるのはやめてください」
山本「?・・・監督・・・こそ、寝てますよね」
白井「あたしはいいんです」
山本「!」
白井「?・・・なにか」
山本「・・・なんでも(ありません)」
 白井、山本が立ったのを見届けると、また寝始める
 山本、所在無げにその辺をうろうろする
白井「(目をつぶったまま)映画を作るのは誰なんでしょうかね」
山本「え」
白井「いや、朝のあの出来事終わってからずっと考えていたんです」
山本「・・・」
白井「あたしたち監督でしょうか。それともたくさんいるスタッフさんでしょうか。」
山本「・・・」
白井「役者さんでしょうか」
山本「それは・・・」
白井「・・・」
山本「みんなでしょう」
白井「・・・」
山本「あたしたち裏方がいなけりゃ、役者だってただの人間です。カメラを回す人がいる。照明を当ててくれる人がいる。衣
  装さんがいて、メイクさんがいて、大道具さんがいて、それのまとめに助監督と白井さんがいる。吉田美鈴がいてそのつ
  き人としてあたしがいて」
白井「みんなが作っていくんですかあ」
山本「ええ」
白井「みんなですかあ・・・」
山本「?」
白井「主役ってなんだと思いますか?」
山本「主役・・・」
白井「そう。話の中のど真ん中。話を進めて、ときにはおいしいところを脇役から奪い取るのが主役・・・ってわけでもないんですかね?」
山本「さあ、それは・・・」
白井「あーあ、なんでこんなことになっちゃうんだろうなあ。そんなに主役って魅力的なんですかね」
山本「吉田には吉田なりの思いがあってのことでしょうから」
白井「その思いのために・・・ひとりの新人をつぶしてはどうかと思うんですが・・・」
山本「!」
白井「ちょっと控え室の前を通りかかったとき聞こえたんです。」
山本「・・・」
白井「紅谷さくらをつぶしてほしいって・・・美鈴さんが頼んでるところ」
山本「そ、それは」
白井「山本さんが知り合いの探偵だかなんだかに頼んでみるとかいったところも」
山本「んな、ばかな」
白井「山本さん」
山本「あたしたちは」
白井「(さえぎるように)勝負の前にそんなのでいいんですか?」
山本「だからさきほどから(あなたの聞き違いだといってるじゃありませんか)」
白井「さくらさんはここに戻ってこないかもしれない・・・ですよ」
山本「・・」
白井「あなたは大変なことをしてくれましたね」
山本「!」
白井「あたしの思いはひとつ。いい映画を作ること。お金をいくら儲けるとか、吉田美鈴がウケればいいとかそんなことは一切考えていません。」
山本「・・・」
白井「あたしが選んで・・・責任持って呼んだ役者がここに来ないというんであれば・・・この映画を辞めます」
山本「そんなことしなくても」
 そのとき
吉田「辞めるんだぁ?」
 気がつくとそこには吉田がいた
吉田「このあとがんばろうと思ったのに・・・」
白井「い、いや、そのくらいの(思いですよ)」
吉田「(さえぎって)ミスキャストなんだから仕方ない」
白井「美鈴さん」
吉田「・・・あたしの思いも知らないくせに・・・」
白井「え?」
吉田「つぶすってのは言葉のあや」
白井「そんな」
吉田「あの演技は主役じゃない。」
白井「・・・」
吉田「主役がどれだけ厳しくて。責任があってやらなきゃならないのにあれはどうなの?なにもないじゃない!」
白井「まだ新人なんだから(しょうがないですよ)」
吉田「(さえぎって)それが甘えてるっていうこと」
白井「!」
吉田「あの娘に本当に少しでも自覚があるなら・・・本当に女優としてこれからここで生きていくんだったら・・・必ず戻ってくる」
白井「!」
吉田「あたしは・・・それにかける」
白井「美鈴さん・・・」
吉田「いいものを作りたいもん」
白井「・・・はい!」
山本「ま、待ってください」
吉田「?」
山本「あの娘が戻ってくるかどうか・・・」
白井「え」
山本「美鈴さん、彼は、やりますよ」
吉田「そんな」
山本「徹底的に。依頼されたものは確実にやります」
白井「まずい!」
山本「あの娘と・・・会ってますよ」
ふたり「!」
山本「(みんなをみまわしてうなづく)探してきます」
 山本、バックを置いて、急いではけようとする
吉田「なおちゃん!」
白井「どこにいるかわかるんですか!」
山本「わかります!」
ふたり「!」
山本「彼の手の内はあたししか知らないですから」
 山本、はける
 見送る吉田と白井
暗転



















明転
 ここは東京駅。
 ホームにはたくさんの人々が待っている
 鳴り響く機関車の汽笛
 紅谷がよろよろと端から出てくる。
 目はうつろに、ボーっと歩いてくる
 そして立ち位置に立つ。
 どうやら電車を待っているらしい
 そこに息せきかけて山本がやってくる
山本「ここまで・・・来てしまいましたか」
紅谷「(振向く。山本の姿を確認して驚く)」
山本「・・・」
紅谷「?どうして・・・ここが・・・」
山本「帰りましょう」
紅谷「え」
山本「スタジオに・・・帰りましょう」
紅谷「・・・いいんです」
山本「え」
紅谷「もう・・・いいんです」
山本「でも」
紅谷「美鈴さんに伝えてください」
山本「・・・」
紅谷「あんなにでしゃばっちゃって・・・ごめんなさいって」
山本「・・・」
紅谷「そうですよね。ちょっと落ち着いて考えたらわかることですよね。あたしみたいな田舎者が、あんな人と・・・それも脇に追いやってまであたしが主役やるなんて・・・」
山本「・・・」
紅谷「さようなら」
山本「・・・」
紅谷「いい勉強なりました。」
 紅谷、礼をして、ハケようとする
 そのとき
山本「吉田美鈴と戦ってください」
紅谷「(足を止める)」
山本「ごめんなさい。あの男をあなたのところに送ったのは・・・あたしです」
紅谷「!」
 静かに山本、腰を折る
 そして、紅谷に土下座する
山本「申し訳ございませんでした」
紅谷「・・・」
山本「電報がどうのっていってたでしょう?」
紅谷「は、はい」
山本「あれはあの男が作ったものです。」
紅谷「!」
山本「刃物で脅されたでしょう?」
紅谷「はい」
山本「あれは十年以上昔から人の体ひとつ切ることができない、つるつるの偽物なんです」
紅谷「・・・」
山本「人を傷つけるのは怖いんです。その思いなんです」
紅谷「・・・」
山本「人を陥れておいて、今更あやまるのは都合よすぎます。わかります。あたしが・・・一番、なにもできなかった・・・」
紅谷「・・・」
山本「言いたいことも言えなくて・・・おもてのことばかり見てて・・・」
紅谷「そうだったんですか・・・」
山本「なにもできない・・・ただ必死に歩くことしかできなくて・・・」
紅谷「顔をあげてください」
山本「できません」
紅谷「顔を上げてください!」
山本「!」
紅谷「ありがとうございます。」
山本「・・・」
紅谷「正直に言ってくださってありがとうございます。」
山本「・・・」
紅谷「あたし、東京を憎みながら帰るところでした。せっかく、自分の夢、一歩いけたかなと思っていたところだったから」
山本「・・・」
紅谷「でも、本当に考えなきゃならなかったのはあたしなんです。あたしの本当の思いです」
山本「!」
紅谷「美鈴さんのお芝居を見て、それにただあこがれて、自分の今ある力ってものをぜんぜん省みなかった。自分の力がどれだけあって・・・どこの引き出しを使えば、その演技ができるのか。役の心を、もっと台本を読みこめば少しはあたしの目の前にひらけたかもしれないって。あたしは、そんな土台も完成しないままにスタジオに立ってたんです。そして、なにもかえることも出来ずに、ずっとテイクばかり重ねてった。」
山本「・・・」
紅谷「監督さん、裏方さんみんなに朝まで付き合ってもらって、いいものを作ろうって必死になってるところで、あたしはずっと同じことしかできなくて・・・申し訳なく思っても、なにもできなくて・・・。」
山本「・・・」
紅谷「実家に帰ります」
山本「!」
紅谷「美鈴さんが主役やれば、もっと素直に撮影すすむでしょうし・・・いい映画になる」
山本「・・・」
 紅谷、またハケようとする
山本「スタジオに行ってからにしませんか?」
紅谷「!」
山本「今日最後の汽車まで時間があります。」
紅谷「・・・」
山本「もう一度・・・立ってもらえませんか?」
紅谷「あたしはもう(ムリです)」
山本「ムリなんかじゃない」
紅谷「え・・・」
山本「ムリなんんて一回考えないで・・・ただ目の前にいる美鈴さんの前でもう一度演じてみませんか」
紅谷「・・・」
山本「お待ちしています」
紅谷「・・・」
 山本、紅谷の手をとる
 そして、山本、一気に走ってハケる





 紅谷、手をずっと見る。


 ひとつの思い
 自分の夢
 

 紅谷、決意をする。
 そしてホームとは反対側へ
暗転

明転
 ゆっくりと、吉田が入ってくる
 そして時計を見る
 白井も入ってくる
 ちょっと落ち着かない白井
 その間に吉田は舞台中央に立つ
 目をつむって集中している
 そこに山本が入ってくる
白井「どうでしたか?」
山本「・・・わかりません」
白井「そんな」
山本「・・・でも・・・来ると思います」
白井「え」
山本「あたしの・・・勘ですが・・・」
吉田「静かに!」
ふたり「!」
 吉田、静かに目を開いて、ハケ口を見つめる
 すっと、紅谷が現れる。
 帰る格好で。
白井「さくらさん・・・」
紅谷「(白井を見る)」
吉田「ほらね」
紅谷「(吉田を見る)」
吉田「・・・さあ、やろうか」
 紅谷、荷物を置いて、着替える
吉田「どうぞ」
紅谷「・・・お願いします」
白井「それでは、朝言ったとおり、最初の二行で主役を決めたいと思います。先攻後攻は公平を期すためにこの十円玉の裏表で決めます。」
ふたり「はい」
白井「それでは・・・」
紅谷「監督」
白井「はい」
紅谷「裏表は・・・美鈴さんに決めていただいていいですから」
吉田「?」
紅谷「お願いします」
吉田「・・・」
白井「美鈴さん?」
吉田「表」
白井「さくらさんは?」
紅谷「(裏で)かまいません」
白井「では・・・」
 白井、十円玉を天高く放り投げる
 そして、手で押さえる
 開く
白井「さくらさんが、先です」
紅谷「・・・はい」
白井「それでは・・・準備を」
 全員、セットからはける
 紅谷、ひとりセットの上へ。
 ヘアバンドを軽くなでて、精神集中
白井「さくらさん、準備はいいですか?」
紅谷「はい」
白井「それでは・・・よーい、アクション」
 紅谷、一気に目を見開くと朝とはまるで違った演技をする
紅谷「ああ、幸助様・・・」
 全員、紅谷を見る
 紅谷は華麗に舞台を横切る
紅谷「この場所に来てくださるといったのに・・・あのひとは・・・あたしよりも戦争を取ったのかしら・・・」
 紅谷、窓越しにさめざめと泣く
白井「そこまで!」
 白井手を叩く
紅谷、ほっとしたような顔で舞台から降りる
吉田「見たかったものがやっと見れた。」
紅谷「・・・」
吉田「甘いところは甘いけど。」
紅谷「・・・失礼しました」
白井「それでは、美鈴さん」
吉田「お願いします」
 貫禄十分に上がる
白井「それでは、よーい、アクション」
吉田「ああ、幸助様・・・」
 吉田朝にもまして華麗な立ち振る舞い
吉田「この場所に来てくださるといったのに・・・あのひとは・・・あたしよりも戦争を取ったのかしら・・・」
 吉田、窓越しにさめざめと泣く
白井「そこまで!」
 白井、手を叩く
 吉田、戻る。
白井「それでは・・・判定を下したいと思います」
 みんな息を呑む
白井「とめ子役は・・・」
みんな「・・・」
白井「紅谷さくらさんでお願いします」
紅谷「!」
吉田「・・・」
白井「紅谷・・・さくらさんで・・・行きます」
吉田「・・・監督」
白井「はい」
吉田「・・・わかりました」
白井「・・・はい」
吉田「(美鈴を向く)」
紅谷「美鈴さん・・・」
吉田「・・・おめでとう・・・」
紅谷「・・・あ・・・ありがとうございます」
吉田「なおちゃん」
山本「はい」
吉田「台本持ってきて」
山本「はい!」
吉田「がんばらなくちゃね」
山本「・・・」
吉田「これからはこの主役を食う演技をしてかないと・・・」
山本「脇役でも・・・必ず見てくれています。」
吉田「そうかなあ」
山本「あたしはそう思います」
吉田「・・・そう思えるようにならないと・・・」
山本「スクリーンの向こう側の人も、天高くどこかから見ているかもしれない佐上さんも、しっかり見ていますよ」
吉田「・・・」
山本「あたしが支えていきますから」
吉田「・・・頼むね」
山本「・・・台本、とってきますね」
 山本、カバンから台本を取ろうとする
白井「撮影再開しまーす」
 吉田たちは、影に移動する
白井「さくらさん」
紅谷「はい」
白井「あの、その頭につけてるバンドなんですけど外してもらえませんか?」
紅谷「!」
白井「邪魔なんですよ。」
紅谷「あ、いや、これは、あの・・・」
白井「え?」
紅谷「・・・外せません」
はけかけた山本、吉田もそっちを見る
白井「とめ子は中流階級の女性です。そんなバンドしませんよ」
紅谷「あ、いや、そうかもしれないんですけど・・・」
白井「とにかく外してくださいね」
紅谷「これにはいろいろと」
白井「どうせ気合入れるためにまいたんでしょ?」
紅谷「あ」
白井「大丈夫。主役はあなたです
 白井、一気にヘアバンドをはずす
紅谷「あ、それは(小声)必要なのに・・・」
白井そんなことも梅雨知らず
白井「それでは本番!よーい・・・アクション」
 カチンコ
 みんなが見守る中
紅谷「(映画のせりふを棒読みで)ああ、こうすけさま・・・」
 一同驚愕する
あのときとかわらないように舞台を横切る
紅谷「このばしょにきてくださるといったのに」
白井「か、カッツ!」
 カチンコ
白井「ど、どうしたの?」
 あわてふためく紅谷
 そこに突然
墨田「すばらしい!」
 墨田、うしろからふらりと登場
 紅谷、驚愕の表情
白井「あ、あの、どちらさまで」
墨田「お!あんたこそ誰?」
白井「あ、あたしは・・・監督です」
墨田「あっそ」
白井「え?」
墨田「用がないなら出てこないでください」
白井「はい」
山本「監督!」
白井「あ!あら~・・・」
墨田「用あるのは・・・そこのあんただ(さくらを指差して)!」
紅谷「!」
 みんな見つめる
墨田「あの輪っかがなきゃ、なんにもできないんだよね」
みんな「!」
墨田「そうだよなあ、ポンコツ!」
 ひとりの男が申し訳なさそうにやってくる
 木村だ
紅谷「き、木村さん!」
木村「も、申し訳ない!」
墨田「話はぜーんぶ聞かせてもらった。(ヘアバンドを手にして)こいつがなきゃ、あんなさっきのことはムリってこと」
みんな「!」
木村「・・・」
墨田「ポンコツのくせにいいもん発明したんだね。株券買っといてほんと助かったよ。早くたくさん作って売ってね」
木村「!」
墨田「(吉田をアゴでさしながら)あんたみたいな役者も廃業だねえ。これ使えばどんな大根シロウトでもみんなうまくなるんだから」
吉田「え・・・」
 墨田、そういいながらヘアバンドを自分の頭に巻きつける
墨田「(奇声をあげてから)たまんない!。今からでも総理大臣なっちゃおう」
吉田「(紅谷に)あんた!」
紅谷「・・・」
吉田「まさか・・・インチキ・・・?」
白井「(紅谷に)そうなんですか?」
紅谷「・・・」
墨田「白状しちゃいなよ。」
白井「さくらさん!」
吉田「ほんとだったら・・・絶対許さない・・・」
墨田「ほら、撮影とまってるみたいだしさ」
白井「どうなんですか!」
 紅谷、観念したかのように
紅谷「・・・はい・・・」
 白井、天を仰ぎ見る
墨田「はいはい、お開きお開き!」
紅谷「・・・」
墨田「(紅谷のところに行って)切符買いなおそっか?ね!」
吉田「あたしは・・・インチキに負けたってこと」
墨田「そういうこった」
吉田「どうりで・・・あんなに・・・変わるわけだ・・・」
墨田「そうそう。」
吉田「(怒りと恥ずかしい)」
墨田「(今度は吉田のところに行って)報酬はしっかりいただきますんで」
吉田「!」
 墨田、大笑いではける
 ヘアバンドは放り投げておく
吉田「(怒り)監督!」
白井「・・・はい」
吉田「そういうことらしいですよ」
白井「・・・は、はい・・・」
吉田「とめ子は・・・あたしがやる」
白井「はい・・・」
吉田「なおちゃん」
山本「はい」
吉田「衣装さん呼んで。とめ子の着物作ってもらうから、あとトキちゃんも・・・」
山本「かしこまりました」
吉田「それから・・・」
山本「はい」
吉田「なおちゃん、帰っていいから」
山本「!」
吉田「あとで社長に新しい付き人手配するように頼むから」
山本「く、くびっていうことですか?」
吉田「こんなインチキに頼るような弱い人間を見抜くことができない付き人なんていらない」
山本「・・・」
吉田「さっきの彼と・・・せいぜい幸せになって」
 そういってから
吉田「(みんなに聞こえるように)トメ子はあたしです。よろしくお願いします」
 吉田、はけて準備しようとする
 そのとき、残された木村、一気に立ち上がると、
 落ちていたヘアバンドを持っていき吉田のところへ
 そしてやにわに、それを吉田にかける
吉田「ちょっと!」
木村「つけてみてくれ」
吉田「やめてよ!」
木村「いいから!」
吉田「いい加減に(して)」
 吉田、ヘアバンドを外そうとする
木村「もう一度演じてみてくれ」
吉田「いや!」
木村「頼む!」
吉田「こんなガラクタなんかつけてられるわけないでしょ!」
木村「やってくれ!」
吉田「なおちゃん」
山本「・・・」
吉田「はやくどけて頂戴!」
山本「・・・」
吉田「監督!」
白井「は、はい」
 白井、木村をつかまえて、はかせようとする
 しかし、動かない
吉田「(山本に)なにボッとしてんだい?」
山本「・・・」
吉田「早く!」
山本「できません」
吉田「え」
山本「できません!」
吉田「!」
山本「・・・だって・・・あたしはもう美鈴さんの付き人じゃないから・・・」
吉田「!」
木村「(ついに白井に腕をつかまれながら)頼む、やってくれ!お願いだ、心からだ!」
 吉田、渋々、舞台中央へ
 そして
吉田「ああ、幸助様・・・」
 吉田いつものとおり
吉田「この場所に来てくださるといったのに・・・あのひとは・・・あたしよりも戦争を取ったのかしら・・・」
木村「(さえぎるように)わかるだろ?」
吉田「?」
木村「気づかないのか?」
吉田「なにが?」
木村「吉田美鈴とも言う大女優なら絶対わかるはずだ」
吉田「・・・なんにも?・・・」
木村「は?」
吉田「え?」
木村「本当に気づかないのか?」
吉田「ああもう!なんにもなかったって」
 吉田、ヘアバンドを外して放り投げる
木村「わかってるじゃないか!」
みんな「?」
木村「ただのゴムなんだ」
 木村、バンドを引っ張る
木村「種も仕掛けも、八百長もなんにもない。ただのおっきな輪ゴムってことよ」
吉田「そんな!」
木村「(紅谷にむかって)あんた!」
紅谷「!」
木村「さっきのあんたの演技は、こいつの影響もなーんにもうけてない。」
紅谷「・・・」
木村「あんた自身の・・・あんたの本当の演技だったってことだ」
紅谷「・・・」
木村「おれの娘のふりして助けてくれたじゃないか。あのときのあんたを見て気づいた。この子は、自分の心に自信がもてないんだって」
紅谷「・・・」
木村「そりゃ、人間こんなにいたら、ずっと自信をもって生きてるなんて奴は少ないかもしれない。でも、自信がもてたら、自分の持ち物にちょっとした鍵とお守りを持てたら、もっとよくなるのにっていう人間、けっこういるんだよ。」
紅谷「・・・」
木村「(ポケットから髪の毛の包みを出して)あんたの覚悟はよくわかった」
紅谷「!」
木村「嘘をついてしまったのはすまない。でも・・・これでがんばれるよな」
紅谷「・・・はい」
木村「映画楽しみにしてる」
紅谷「はい!」
木村「(まわりに)あっと、お騒がせしてしまって申し訳ない。」
 木村、ハケようとする
紅谷「ありがとうございました」
木村「ああ。それとあんたの髪の毛はもうすぐのびるから」
紅谷「!」
木村「あんな薬は次の世紀までには、本当に作るかもしれないね」
 そういいながら木村はける
 みんな、ぼうっとしてる
 吉田、そんな中、紅谷にむかう
 そして
吉田「なにしてんの?」
紅谷「・・・はい?」
吉田「早く!立ち位置着いて」
紅谷「・・・」
吉田「とめ子の相手は・・・あたしなんだから」
紅谷「は、はい!」
吉田「監督」
白井「はい」
吉田「よろしくお願いします」
白井「・・・はい」
吉田「・・・夢じゃないんだよね・・・」
白井「・・・」
吉田「くやしくない映画に・・・しようね」
白井「もちろん」
 白井、紅谷のところへ行く
白井「テイク・・・ああ、いくつだったっけな」
紅谷「六四です」
白井「あ・・・そんなでしたっけ?」
紅谷「お願いします」
白井「(うなづく)」
  白井、監督席へ
  紅谷、準備する
 吉田たちも脇へ
吉田「なおちゃん」
山本「はい」
吉田「コート持ってきて」
山本「・・・」
吉田「寒いの。頼むね。ずっと・・・」
山本「・・・はい」
 山本、コートを肩にかけてあげる
吉田「見届ける。このシーン」
山本「・・・」
吉田「あたしの・・・次の奴の演技を・・・」
 
白井「よーい、アクション!」
 カチンコ
暗転










明転
 ここはスタジオの外
 墨田が座っている
 そこに山本がやってくる
墨田「さてと、成功報酬をもらいましょうか?」
 山本、そばに座る
墨田「領収証はあとでいい?」
山本「ひとついい?」
墨田「え」
山本「成功してないよ」
墨田「!」
山本「あんたの連れてきたおじさんのせいで、あんたが出て行った後、美鈴さん大恥かいたんだから」
墨田「そ・・・そんな・・・」
山本「美鈴さん、怒ってた」
墨田「うそだ」
山本「やっぱりヤクザあがりな男は仕事が雑だって」
墨田「・・・あの、ポンコツ野郎・・・」
 墨田、立ち上がる
墨田「ぶっ殺してくるよ」
山本「殺せるもんですか」
墨田「え」
山本「あのナイフで?」
墨田「・・・」
山本「見た目ばっかり気にしちゃって」
墨田「探偵は外国でも闇の家業だから」
山本「詰めが甘い」
墨田「そうかなあ・・・」
山本「大事なところで高笑いして帰っちゃ。」
墨田「お前の要求どうりにしただけだよ」
山本「たたきつぶされてなかったみたい」
墨田「そんなわけないだろう」
山本「なら、もう一度確認してみれば?」
墨田「え?」
山本「もうすぐ、聞こえてくるかも・・・」
 そのとき、遠くから声が聞こえてくる
白井「オッケイ!」
紅谷「ありがとうございます!」
白井「はい!じゃあ、次はシーン四、まいていきます!」
紅谷「美鈴さん、お願いします」
吉田「はーい・・・あ、なおちゃんは?なおちゃ~ん」
 それを聞いた墨田、真っ青
墨田「な・・・なんで・・・こんなことに・・・」
山本「探してるみたいだから、行ってくるね」
 山本、ハケようとする
墨田「今日という日に、狂わされっぱなしだ・・・」
山本「ん?どういう意味?」
山本「人のせいばっかりにして」
墨田「あ~あ、ビルディングぶったてて、看板立てて、(アドリブで夢をずっと語る)」
 そういいながら、ぼーぜんと墨田、はけていく














最終章 輪廻
 独りぼっちになった山本

 その脇から、天国のときの格好で、吉田がやってくる
吉田「なおちゃん」
 振向く
 そしてまわりを見渡す
 そこは天国
吉田「戻ってきたよ」
山本「・・・」
吉田「あいつは将来のなおちゃんのだんなさんだもんね。」
山本「!」
吉田「やっぱり、あたしはこのときを強烈に覚えてるんだなって思う」
山本「あたしも忘れられません」
吉田「人生を変えた一日」
山本「なにかが変わっていきましたね。」
吉田「その年の映画賞はこれだもんね」
山本「紅谷さくらが主演女優賞、美鈴さんが助演女優賞、作品賞、監督賞・・・」
吉田「映画賞を総なめだって騒がれた」
山本「ええ・・・」
吉田「この後、ずっと脇役ばっかりだった」
山本「・・・」
吉田「死ぬ前に出た映画も、最後の最後まで、あたしはずっと脇から主役の子達をずっと見つめていた」
山本「そういう仕事ばかりとってきたあたしにも責任あります」
吉田「ほんとだよ・・・」
山本「・・・」
吉田「念のためにいうけど、あたしはあのとき、本当に素直に脇役やってたってわけじゃないからね」
山本「・・・」
吉田「家帰ってから・・・けっこう泣いたんだから」
山本「・・・」
 そのとき鐘が鳴り始める
山本「?」
吉田「そろそろだね」
山本「え」
吉田「生まれ変わりの門に行かないと」
山本「!」
吉田「今のは・・・五分前の予鈴かな・・・」
山本「・・・」
吉田「それじゃ、天国を楽しみな。」
山本「え、あ・・・」
吉田「じゃあね」
 吉田、はけようとする
山本「待ってください」
吉田「(ため息)なんだいなんだい」
山本「さっきの言葉がずっと引っかかるんです」
吉田「さっき?」
山本「あたしは生まれ変わったら女優になりたくないって」
吉田「ああ、あれかあ」
 吉田、ドアを見る
吉田「あのドアを抜けて、生まれ変わりの門をくぐると、あたしはどんどん年を戻していく。二五、二四、二三・・・そしてあたしは赤ん坊になって、下界のだれかのおなかの中に入る。
   その生まれ戻りのときに、あの思い出を背負ってたら、赤ん坊になって生まれてもずっと覚えてるような気がして。新しい人生歩いていくっていうのに、何にも面白くないだろうなって思ってね」
山本「・・・」
吉田「今度は女優なんかじゃない、普通の女の子に・・・なおちゃんみたいに、普通に暮らしてみたい。」
山本「・・・」
吉田「じゃ。」
 吉田はけようとする
山本「それでいいんですか」
吉田「(止まって)」
山本「美鈴さんが持ってるすべて。そのままきれいにしちゃっていいんですか」
吉田「・・・」
山本「もう一度、これからのあの世界のためにそして・・・美鈴さん自身のためにも、役者になってもらえませんか?」
吉田「あたしの・・・ため・・・」
山本「新しい役者として、紅谷さくらのように、また新しい時代の女優としてつなげていってほしいんです。」
吉田「・・・」
山本「人間は時代とともに老いていきます。どんなにいい女優でも、いつか必ず自分の思いとは裏腹に体が追いつかなくなる日がきます。そのためにもつなげていってほしいんです」
吉田「ふける前にあたしは、次につないじゃったんじゃないかな」
山本「・・・」
吉田「あたしじゃなくても、まただれかがつないでいくさ」
山本「それじゃだめなんです」
吉田「え」
山本「役者の思いを持ってる人じゃないと、うまくつながらない・・・」
吉田「・・・」
山本「気づかなくても、必ずその思いはいつか身体に出てきます。紅谷さくらのように・・・」
吉田「・・・そうかあ・・・」
山本「思いは・・・なによりも強いですから」
吉田「・・・」
山本「きっと・・・」
吉田「・・・ずっと・・・役者で生きてきた思い・・・か・・・」
山本「はい」
吉田「・・・」
山本「・・・」
吉田「もし、また思いが新しい自分の身体に出てきたら・・・死ぬまで主役やるからね・・・」
山本「はい・・・」
吉田「絶対」
山本「・・・」
吉田「新しくなったあたしを見てくれる人のために・・・もう一度・・・歩いてくるよ」
山本「・・・はい」
吉田「・・・なおちゃん・・・」
山本「・・・」
吉田「考えてみたら、なおちゃんには感謝するってこと、ずっとしてなかったね」
山本「いいんです」
吉田「ううん」
山本「・・・」
吉田「あたしが・・・吉田美鈴としての最後の言葉」
山本「・・・」
吉田「・・・ありがとう・・・」
山本「・・・」
吉田「ありがとうね・・・」
山本「・・・ありがとう・・・ございました」
吉田「・・・次になおちゃんが生まれ変わったら・・・必ず会いに行くから」
山本「はい・・・」
吉田「それまで・・・ここでしっかり働くんだよ」
山本「はい」
吉田「あたしの思いがなおちゃんを忘れないから・・・ずっと今の思いを忘れないでいて・・・」
山本「・・・美鈴さん・・・」
 再度、鐘が鳴る
 吉田、ハケはじめる
山本「美鈴さん!」
吉田「・・・」
山本「お元気で・・・」
吉田「(うなづく)」
 そして吉田はゆっくりとドアの方向に歩いていく
 見送る山本
 音楽マックス 照明フェイドアウト
 













 暗転の中
医者「おめでとうございます」
母「(息切れ)あ・・・ありがとうございます」
医者「女の子!お母さんに似て元気な子だ・・・おいおい、大きな声だなあ・・・」



 END