友達以上恋愛未満
登場人物
前川亮太郎 富士河千之介
上浦愛 可奈恵
由利青空 由利青空
カフェの人 成月朔夜
海老原厚平
ここはとあるカフェ
駅からそう遠くはない。
朝
カフェではパフォーマンスが行われ、
そして開店する
待っていたかのように前川、由利の二人が入ってくる。
注文をとって、そのあとドリンクがくる
カフェの人はけて
由利「では前川さんの本社ご帰還を祝って」
ふたり「乾杯」
そのとき
つかつかとひとりの女の子が歩いてくる
上浦「(彼らの反対側に座って)おはよう」
ふたり「?」
上浦「おはようじゃ通じないの?Good Morning」
前川「はい?・・・」
上浦「じゃあ、ニイツアオ」
由利「あのどちら様で?」
上浦「え」
前川「ちょっとお嬢さん?まだほかにもたくさん席空いてんだからそっちすわってくれない?」
上浦「お嬢さんってあたしのこと?」
前川「ほかにだれがいるってんだよ?なあ由利」
前川「え?ええ」
上浦「明日からTPO東京グループリーダーになった上浦愛です」
ふたり「!」
由利「グループリーダーって・・・」
前川「まさか・・・」
上浦「日本じゃ部長っていうの?あたしの役職」
ふたり「ええ!」
上浦「(由利のほうへ手を差し出す)僕?よろしく」
由利「お、おはようございます!」
上浦「第三チームの由利さんと前川と握手)前川チームリーダーね」
前川「ど、どうも・・・」
由利「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
上浦「どうぞ」
由利「グループリーダーとかチームリーダーとか、うーん、なんっていうんでしょうかね、体になじんでなくて」
上浦「あと一週間もすればなれる」
由利「そりゃそうでしょうけど、あの、どうでしょう?グーリーと、チーリーってのは」
前川「やめとけよ!」
由利「木村拓哉をキムタクとか千歳船橋をチトフナとかおなじみじゃないですか」
前川「世田谷区限定の略称じゃないかよ!」
由利「だから日本じゃ言いづらいものはどんどん略すんですよ。だからグループリーダーはグーリー、チームリーダーはチーリーってのはいかがですか?」
前川「なんだか軽いなあ」
由利「部下からは愛されますよ!チーリー!おはようございます!チーリー」
前川「上司の威厳のひとかけらもないな」
由利「いいじゃないですか!チーリーチーリー、ちょいーんす」
前川「リトルリーグの試合じゃないんだから」
上浦「面白い」
由利「ほんとですか!」
上浦「けど、却下!」
由利「え・・・」
上浦「上司が却下したものは二度と拾わない。これ常識」
由利「はい・・・」
上浦「会議始めましょう(準備をし始める)」
由利「あ、あの!グループリーダー、ずいぶんお若いですね?」
上浦「どんぐらいにみえる?」
前川「ちょっと新宿の安いキャバクラじゃないんだからさあ。その質問ないんじゃない?」
上浦「いいじゃない。聞かせてよ」
由利「まあ高校生くらい?」
上浦「確かに補導されそうになったけどね」
由利「あの、実際は?」
上浦「十八」
前川「十八!」
上浦「なによ」
前川「お、おれの上司が・・・十八だと・・・?」
由利「ま、前川さん?」
前川「由利」
由利「はい?」
前川「俺が、さんざん富山、福岡、札幌と飛ばされまくったのはご存知だよね?」
由利「もちろんです」
前川「それがやっと本社戻れる、それもエース級の東京城南エリア第三チームの課長に昇進っつうんだからさ、辞令受け取ったときは俺の未来は安泰だって朝までひとりでススキノで飲み明かしたもんだよ」
由利「苦節十一年!おつかれさまっす!」
前川「それが・・・それがこの前川亮太郎三十二歳独身恋人なしの上司が・・・十八ってどういうことだよ!!!!!!!」
由利「ぼ、僕じゃなくてマイケル社長とかに聞いてくださいよ~」
前川「そうだ。そこなんだよな。元はといえばうちが六月に聞いたこともないヘンテコリンな外資に買収されたからだなあ・・・」
上浦「ヘンテコリンで悪かったね」
前川「うちらはね、もともとこの旅行業界でもそんなに上位の会社じゃないの。平々凡々と日々うまくやってく、それでよかったわけよ」
上浦「仕事に対するモチベーションゼロね」
前川「あ、さっそく報告か?」
上浦「もちろん」
前川「このやろう!」
上浦「グループリーダーです。これからは役職か、下の名前で呼びなさい」
前川「なんだと?」
由利「え!じゃあ、僕のことは、青空って呼んでもらえるすか?」
上浦「青空かあ・・・ブルースカイ、素敵な名前ね」
由利「ありがとうございます!」
上浦「名前負けしないようにがんばんなさい」
そこに電話
上浦「(電話)もしもし。あらおはようございます。おじ様。おひさしぶりです(そういってフェイドアウト)」
由利、ちょっとうかれて飲んでいる
前川「おいブルースカイ」
由利「え」
前川「カクテルみたいな名前でうれしいか」
由利「横文字にするからおかしくなるんすよ」
前川「評価上々だな。年下の上司にほれたか?」
由利「違いますよ!」
前川「いやな会社になったなあ。まったくそれもこれもあの金髪社長がうちに目えつけて買収したからこんなことになっちまう」
由利「どうがんばったってあそことかあそことかにはかないませんからねえ・・・」(このときひそかに上浦二人に近づく)
前川「燃料代値上げだなんだかんだでこんなに儲からないときに・・・」
上浦「(前川の耳元で)買収したのはこの会社がまだ生き残れるから買収したんだと思います」
前川「わあ!」
上浦「マイケルの目は絶対です!あたしは入社したときからマイケルを信じています。だからあたしの前でマイケルの悪口は絶対許しません」
前川「べつにいいじゃん、ここ会社じゃないし」
上浦「そんなにさっきから大きな声で話したらうちらがどこの会社かわかっちゃうでしょ?デリカシーないの?」
由利「上浦さんも大きいっすよ」
上浦「大きくもなります!」
カフェの人「だ、大丈夫ですか?」
由利「あ、申し訳ございません!口の悪い上司ふたりで」
前川「おまえはどっちの味方なんだよ!」
由利「給料くれるほう・・・」
前川「どっちの味方なんだよ!!!!」
上浦「会議始めるわ」
由利「は~い」
前川「裏切り者!」
上浦「黙って!」
前川「!」
上浦「悪いけどあたしはあんたらを買った側の人間。」
ふたり「・・・」
上浦「あたしたちのやり方には従ってもらう。」
前川「新入りのくせに・・・。」
上浦「じゃあ、丁寧にいうね。会議します!座りなさい!」
前川「やなこった」
上浦「すねちゃって」
前川「なんでこんなことになっちっまったんだかなあ」
上浦「あたしをうらまないでくれる?この会社の企業価値を上げられなかった村岡前社長でも恨んでなさい」
前川「村岡さんのこと悪く言うんじゃない!」
上浦「そんなにあの前社長好きだったんだあ」
前川「たかだか十八年しか生きていないあんたに村岡さんのよさがわかってたまるか!なあブルースカイ!」
由利「え、えっと・・・」
前川「おい!」
そこに電話がかかってくる
上浦「Hello!(ここから英語でアドリブフェイドアウト)」
前川「(いなくなったのを確認してから)今度は英語か」
由利「マイケル社長だったりして」
前川「ふん、なんで明日からあんな小娘の言うことヘイコラバシバシ聞かなきゃなんないんだよ」
由利「いちおう上司ですから」
前川「さすがブルースカイ。もう洗脳されちゃったなあ、これからは俺の元を離れてあいつの子分として長く生きたまえ」
由利「ちあ
?上司というものは仕事もそうだけど、人間性も含めて尊敬されなきゃならないだろう?」
由利「そうですけど・・・」
上浦「What!」
二人「?」
上浦「It's impossible to play the piano because I was in 14 years.
由利「むりです。そんなの、だって私がピアノを弾いていたのは一四までですよ)
前川「ピアノ?」
由利「そう聞こえたっすね」
上浦「wait!Ahwait!」
急に電話切れる
上浦「・・・」
由利「ど、どうしました?」
上浦「ブルースカイ」
由利「?」
上浦「な、なんでもない」
前川「なんでもなくはないんじゃない?」
上浦「!」
前川「私らでよければ聞きますよ」
上浦「・・・明日の夜、六本木で社長就任のパーティあるの知ってる」
由利「マイケル社長のですよね」
上浦「そう」
由利「存じ上げております」
上浦「そのパーティで余興にあたしのピアノを聴きたいって・・・」
前川「へえあんたピアノ弾けるんだ。似合わないな」
上浦「は?」
前川「即答でいいだろう。ひいてあげりゃいいじゃない。金髪社長の前で」
上浦「金髪金髪言わないでくれる?」
前川「じゃあ、一時期話題になったハゲタカファンドにならってハゲタカ社長にしよう」
上浦「ふざけないで!」
前川「!」
上浦「あたしは弾けないんじゃない、弾かないの!」
ふたり「!」
上浦「あたしは・・・ピアノは捨てたの」
前川「捨てた?」
上浦「十四歳のときに市のコンクールで一位になって」
由利「すごいじゃないすか!」
上浦「それで満足しちゃった。もういいやって。とれるものはとったって感じでね。」
由利「燃え尽き症候群すかあ」
前川「つまんないなあ」
上浦「は?」
前川「もったいない。自分で終わりを決めるもんじゃないな」
上浦「決めたんだから仕方ないじゃない。実際あたしはあれ以来、一回もピアノには触れてないんだから」
由利「でも一位とるくらいっすよねそんなの今夜一晩練習でもすれば昔の勘はもどってくるじゃないですか」
上浦「あんたピアノやったことあるの?」
由利「ないっすよ?」
上浦「だったらやってからいいなさいよ。それともなに?あたしのかわりに、弾いてくれる。」
由利「えええ」
上浦「すいませーん」
カフェの人「はい」
上浦「あそこのアップライトのピアノ、ちょっと貸してくださらない?」
カフェの人「どうぞ」
上浦「ありがとう」
由利「ええ!ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
上浦「弾いてみようよ。」
由利「ピアノなんて無理っすよ!漫画なら書けますけど!」
上浦「漫画?」
由利「漫画」
上浦「漫画かけるってことは手先が器用ってことだよね?」
由利「え・・・」
上浦「まっすますピアニスト向き。」
由利「ええええええええ」
上浦「さ、あたしが教えるから行こう(由利の手を強引にとろうとする)」
前川「(それをとめて)部下に手を出すんじゃない」
上浦「うわ、まるで父が好きだった昔のやくざ映画みたいね」」
前川「こんなもやし男だけどなあ立派な俺の部下だ。」
上浦「裏切り者呼ばわりしたのはどこのどなたかなあ」
由利「どうせ僕は日和見主義ですよ・・・」
前川「だまってろ」
上浦「それにあたしはあんたたちみんなの上司なの(由利の手を引っ張る)。上司の言うことは聞かないとね」
前川「由利」
由利「はい」
前川「帰るぞ(手を引っ張る)」
由利「え」
前川「こんな上司に大事な日曜日をつぶされたくない。上司命令だ!(手を引っ張る)」
由利「(絶叫)」
上浦「ピアノ弾きなさい!。上司命令!(引っ張る)」
由利「(絶叫)」
前川「残念だな。十八歳」
上浦「?」
前川「今日は日曜日だ。正式な辞令も発表されてない以上、こいつはまだ部下じゃない。ゆえに俺もあんたの部下じゃないから命令は従わなくてもいいんだ!」
由利「な、なるほど」
上浦「(由利の手を放してカフェの人に)すいませーん」
カフェ「はい」
上浦「ここって無線LANつながる?」
カフェ「大丈夫でございます」
上浦「ありがとう(パソコン軽くタイピング)あれ~?このメールなにかしら?」
前川、画面を覗き込む
前川「英語だ!お前読め!」
由利「前川さん国連英検持ってませんでしたっけ?」
前川「適当に書いたんだ」
由利「適当!?」
前川「いいから読め!」
由利「資格詐称じゃないすか。もう・・・えっと(画面を見て)アイ・カミウラを十月十日よりTPO東京城南エリアグループリーダーに任命する・・・」
前川「辞令なのか?」
由利「そうみたいですね」
上浦「今月から辞令はPDFでメールで送られるの。知らなかった?」
前川「知らん」
由利「そういえば一日付けの社長通信に書いてあったような(気がするっす)」
前川「辞令は昔から紙って決まってるんだよ!」
上浦「(カフェの人に)すいませーん」
カフェ「はい」
上浦「プリンター貸してもらえない?このPDFをプリントアウトしてこのおじさんに見せようと思って」
前川「おじさんじゃない!」
上浦「じゃあおじいさあん!」
前川「ふざけるな!」
上浦「!」
前川「あんたにはがっかりだ」
上浦「!」
前川「あんたについていくことはできない」
上浦、前川をにらみつけると、いきなり、すっと、座ると背筋良くタイピングし始める
由利「なにしてるんですか?」
上浦「(打ち続ける)」
由利「(なにかを察し、パソコンを閉めて指はさめて)痛い・・・」
上浦「(ため息)」
由利「そのメールは送信させません」
前川「なんのメールだ?」
上浦「東京第三チームの前川リーダーと由利はあたしには使えないって社長に(打とうとおもったんだけどなあ)」
前川「あんた・・・」
上浦「上司を尊敬しない部下は要らない。」
前川「!」
上浦「あたしを尊敬してくれない部下なら変わってもらうしかない!」
前川「なに・・・」
上浦「グループリーダーは人事権持ってるしね。あるものは有効利用しないと」
前川「また飛ばすのか!」
由利「待ってください」
ふたり「?」
由利「余興やればいいんですよね?だったら僕が今度のパーティでマイケル社長の似顔絵を即興で書きますよ・・・」
上浦「似顔絵?」
由利「漫画で鍛えたこの腕で!」
上浦「似顔絵ねえ・・・」
由利「だから僕の顔に免じて、前川さんのことも許してください」
前川「おうおうブルースカイ、やめてやろうや!こんな会社に用はない」
由利「やめたくない~~~~」
前川「独立だ!独立して前川ツアーズ作るぞ。お前副社長やれ」
由利「道連れはいやだあ」
前川「おまえ~~~」
上浦「自主退社なんかさせないよ」
前川「は?」
上浦「解雇!」
由利「クビすか?!」
前川「あんた・・・」
由利「履歴書のっかるし、ロクな転職できないじゃないすか!」
前川「だから俺が預かるっつってんだろ~」
由利「泥舟はいやだあ」
カフェの人「あのー」
由利「なんだよ!今それどころじゃないの!」
カフェの人「ピアノは・・・」
上浦「キャンセルで。」
カフェ「はあ・・・」
由利「もう!クビにならないならピアノでも何でもやります!」
前川「裏切り者!!!!!」
由利「(絶叫)」
カフェ「あの、そのことでお力になれればと思いまして、こちらをご覧ください」
カフェの人、短い一芸を披露する
由利「わお!」
カフェの人「よろしければなんですが、こちらを今からお教えしましょうか?」
由利「え~できるかな?」
前川「やれば?裏切り者」
由利「前川さんのために人柱になってるのに・・・」
上浦「さっきの芸で許してあげてもいいわよ」
由利「え・・・」
上浦「あれができたら、あんたたちをクビにするのはやめる」
由利「そ、そんなあ」
前川「どっちをとるんだ?」
上浦「あたしとマイケル社長をとるか?」
前川「俺と独立するか?」
由利「こっち(上浦のほう)」
前川「お前・・・」
カフェ「ではこちらへ」
由利「ごめんなさい前川さ~~~ん・・・・」
カフェの人、強引に由利をつれていく
上浦「(パソコンだす)」
前川「(それを閉じて)約束が違うな。」
上浦「(ためいき)」
前川「あいつはあんたの言うことを聞いたはずだ。それでも俺らの査定メール送るのか」
上浦「あたしじゃなくて彼が余興をやってくれるって打とうと思って」
前川「ついでにあんたも横でピアノ弾けばいいじゃないか」
上浦「(打ちながら)あたしはいいの」
前川「あいつがあれをやって、あんたがピアノ弾けばかなり豪華なパーティになるとは思うんだけど」
上浦「(打ちながら)お断り」
前川「なんで弾かないのか教えてほしいなあ。悩みあるならば相談のるよ」
上浦「相談したくもない」
前川「あんたは十八年っぽっちしか生きていない。それもどっかの国でその大半をすごしてきたんだろう?日本っつうもんは年上に悩みを相談して生きていくもんだ」
上浦「年功序列は過去の話。結果で勝負しなさい」
前川「じゃあ相談しやすいように、俺から教えよう。彼女なし。趣味ゴルフ。日曜は朝からゴルフ。以上」
上浦「立派なおじさんね」
前川「はいおじさんはあんたに個人情報を教えた。あんたも教えて」
上浦「機密情報」
前川「つまんないな、こんなに鼻っ柱強い女なら、さぞすばらしい男をお持ちで?」
上浦「セクハラ発言でコンプライアンスチームに訴えるよ?」
前川「訴えられたらクビかあ」
上浦「奥さんも子供もがっかりだね」
前川「いない!」
上浦「もったいない。三十二でフリーなんて」
前川「塩塗りやがって。ドSか」
上浦「女はどっちにもなれるの」
前川「いぢめられたいねえ」
上浦「さんざんいぢめてますけど」
前川「ふん、おもしろいな。なんか気が変わった。俺も子供じゃないんだし、あんたと仲良くなりたい」
上浦「どういう風のふきまわし?あんなに帰りたいっていってたのに」
前川「実はここから家まで一時間かかるもんでね。日曜朝だから電車西荻窪止まってくれないし。時間つぶしに上司との仲修復ってことで」
上浦「結局子供じゃん」
前川「彼氏ほしくないの?」
上浦「ノーコメント」
前川「なんだよ!」
上浦「じゃあ、これだけ教える。恋人なんかいらない。友達もなんもいらない」
前川「?」
上浦「ひとりが楽しいし、今が楽しい。だからあたしは一人で生きていく。以上」
前川「・・・」
上浦「やっと静かになった」
前川「否定したいところだけど、それわかるような気がするな」
上浦「え・・・」
前川「だってひとりのほうがいいもんな。気楽だし、なにいっても文句言われないし」
上浦「そうフリーが一番いい」
前川「でも時々さみしくならない?」
上浦「・・・べつに?」
前川「会社から帰って、暗くてひとりの家に『ただいまあ』なんていってもなんにも帰ってこないんだ」
上浦「・・・」
前川「そういうときさあ、すでに明るくてさあ、『お帰り~』なんていわれてあったかいメシ食うの最高じゃない?」
上浦「うーん・・・」
前川「なあなあ思わないか?」
そのとき
カフェの人「お待たせしております」
前川「大丈夫待ってないから」
カフェの人「ひととおりお教えしました」
上浦「楽しみね」
由利「だいたいはできるようになりました」
前川「見せて見せて」
由利やってみせる
失敗
みんな「・・・」
由利「く、クビですか・・・」
前川「確実に飛ぶな」
上浦「アラスカ支社に電報打っておくね。いい人材が見つかったって」
由利「あ、あらすか!」
カフェの人「どうしましょう」
上浦「クビがいい?」
前川「アラスカがいい?」
由利「どっちもいやだあああああああ」
カフェの人「ならがんばりましょう(拉致)」
由利「(拉致され)それもいやだあ!!!!!!」
由利また拉致
その隙に
前川、だまって立ってピアノのそばへ
前川「リクエスト。俺、好きな曲あるんだ」
上浦「弾かないっていってるでしょ」
前川「ショパンの別れの曲」
上浦「ふーん」
前川「俺が高校のときに『一○一回目のプロポーズ』ってドラマがあってさ、その中で武田鉄也が大好きな浅野温子に向かってさ、一生懸命になって弾くんだよ。感動するよ」
上浦「へえ」
前川「だからさ、さわりだけでもひいて」
上浦「覚えてない」
前川「は?」
上浦「けっこうあの曲ってレベル高いの。それなりに練習しないとだめ」
前川「そんな。コンクール出たくらいだろ?ひけるだろ?」
上浦「だから何年前の話してるの?」
前川「!」
上浦「それと気軽にピアノに触らないで。ピアノに失礼だから」
前川「・・・」
上浦「静かにして。このメール、マイケルに送んないと・・・」
前川、パソコンを閉める
上浦「なにすんの!(パソコン開けて)ああもう!メールが消えちゃったじゃない!」
前川「もう少し俺の個人情報を教えてやる。」
上浦「(必死でメールを復帰させようとしながら)知りたくない」
前川「自慢じゃないが高校まで、俺は応援団をやっていた。」
上浦「(作業しながら)学生服着て大声でうたうやつね」
前川「そうだ。あれは忘れもしない高校最後。駅伝大会の路上応援をやっていたんだ。ちょうどそこは最終区で、俺らが応援してる前でうちのアンカーがこけた」
上浦「・・・」
前川「そいつは係りの人が来る前にもう無理ですっていいやがって・・・。俺は・・・俺はこの声は誰にこの応援を届けてるのかわかんなくなった」
上浦「・・・」
前川「だからおれいやなんだよ。自分で自分にピリオドをうつの。・・・終わらせるなら・・・もうどうにもならない状況にまでいってから他人がおわらせてほしい」
上浦「・・・」
前川「あんたもピアノひけ」
上浦「なるほど、そういうことね」
前川「?」
上浦「大丈夫。それならあたしじゃなくて、父がやめさせたようなもんだから」
前川「お父さんが?」
上浦「あたしは続けたかった。父に言われて始めて母も応援してくれたし。コンクールで一位なんてそう簡単にとれるわけじゃない。先生にもプロになってみたらっていわれてた。あ・・・これ、自慢じゃないからね」
前川「ふん」
上浦「でもそれは金まみれの一位だったの・・・裏で父が審査員に金を渡してるのを見てしまって・・・」
前川「・・・」
上浦「舞台袖で倒れそうになった。なにやってんのお父さんって・・・あたしの今までって・・・なんなの・・・」
前川「・・・」
上浦「そのとき決めたんだ。こんな父の下にいたらなにもできなくなる。だからピアノの先生に退会届を投げつけて・・・あたしの人生は変わった」
前川「なるほど・・・」
上浦「どう?あたしって悲劇のヒロインでしょ?」
前川「自分でいうな」
上浦「じゃあだれがいってくれる?」
前川「!」
上浦「あたしの人生はあたしが主役。まわりはみんな通行人A!B!木とか草とか花の役とか。あ、あんたはおめでとうだね脇役なんだから。」
前川「・・・」
上浦「喜びなさい。助演男優賞狙ってがんばってね。でもおいしいとこはもってかせないから」
前川「・・・」
上浦「あたしが主役だもん。主演女優賞・・・おいしいとこもってって当たり前でしょ?・・・」
前川「なにいってんだ・・・」
上浦「だれも人のことなんか考えてない。恋愛だって同じで結局埋まるのは自分の心があったかくなって気持ちよくなるだけ。愛されたほうもみんな自分のことで精一杯。人の思いなんて受け入れる容量なんてないんだよ」
前川「そんなことはない」
上浦「ってかもう、余計な話しちゃった。もうなんでこんなことまであんたに話さなきゃなんないんだろう。いやになる・・・自分・・・」
前川「弾けるんだろう?」
上浦「・・・」
前川「さっきあんたは、ピアノに触るなっていった。好きだからこそ、知らないやつに触られるのいやだったんじゃないか・・・?」
上浦「・・・」
前川「なあ・・・」
上浦「・・・」
そのとき
前川「北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
振り返ると、前川、応援の体勢をとっている
上浦「?」
前川「(かまわず)北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
前川、ジーっと由利を見る
練習中の由利
由利「え・・・」
前川「参加しろ」
由利「えええ」
前川「北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
由利「お、おー!」
みんな見ている
でも前川は止めない
前川「せーの!(拍手を促すふり)」
由利「(三拍子)」
前川「よー!」
由利「(三拍子)」
前川「よー」
由利「(七拍子)」
前川「はい!」
由利「(三拍子)」
前川「よー!」
由利「(三拍子)」
前川「よー」
由利「(七拍子)」
前川「はい」
どんどん早くなる拍子 最後に
前川「それ!がんばれがんばれ上浦!けっぱれけっぱれ上浦!わ~~~~~せいや!」
応援を締める前川
前川「うちの高校の名物、勇気の出る三三七拍子。」」
上浦「・・・」
前川「あんたとちがって、俺は容量いっぱいじゃない。あんたの思いを三三七拍子で返しただけだ
上浦「・・・」
前川「勇気出てきたんじゃない?ほら、座ってみて。」
上浦「・・・」
前川「一位とったあのときに戻るわけじゃない。違う時間に進むだけだから」
上浦「・・・」
前川「さあ・・・」
上浦、静かにいすに座る
ふたを開ける
そして弾き始めようとするが・・・
上浦「・・・今は聞かせられない」
前川「は?」
上浦「今はよ」
前川「・・・」
上浦「かえる」
前川「え」
上浦「ご苦労様。あ、御代はあたしが払う」
上浦お金を払って帰ろうとする
前川「あんた!」
上浦「(とまる)」
前川「俺の声を無駄にする気かよ!」
上浦「・・・」
前川「・・・」
上浦「・・・無駄じゃないよ」
前川「?」
上浦「帰って・・・弾くの・・・」
前川「え・・・」
上浦「弾いてみる・・・あたし・・・」
前川「・・・」
上浦「あんたの三三七拍子・・・よかったよ。勇気を・・・ありがとう・・・」
前川「(見つめる)」
上浦「あたし完璧主義なの。恥ずかしいじゃない?音はずしたりしたら。」
前川「恥ずかしいなんてない」
上浦「イヤ。だれかさんみたいに失敗してるとこ見せたくないから。」
由利「ぼ、ぼくですか・・・?」
上浦「(由利に)がんばってね、楽しみにしてる。」
由利「はい!」
上浦「前川リーダー」
前川「・・・」
上浦「仕事をまじめにしっかりしてないから、あたしの思いを受け止める容量あったんだと思う」
前川「ふん」
上浦「でも・・・ありがとう
前川「え・・・」
上浦「あんたたちみたいな部下に前もって会えてよかった。」
由利「わあ、クビじゃないんですよね」
上浦「パーティよろしくね」
由利「はい!」
上浦「明日こそ、朝一で会議するから。寝坊しないでよ。じゃね」
上浦はける
由利戻ってくる
由利「よかったですね!クビじゃないんですよ・・・」
前川「・・・」
由利「あれ前川さん?」
前川「あいつには・・・届いたんだな」
由利「?」
前川「やっと俺の思い、届く人見つけた・・・
由利「は?」
前川「・・・?わかんないの?お前」
由利「さっぱり」
前川「お前は容量すくないんだな。帰るわ」
由利「ええ・・・」
前川、帰り支度してハケる
由利「容量ってな、なんだよ~」
そういって、教えられたやつをなにげなくやる
成功する
由利「・・・」
カフェの人「お客様?」
由利「はい?」
カフェ「お客様にも・・・届きましたね」
由利「え?なにが?」
カフェ「ついでにあなたの心のハードディスクも、もうすぐクリーンアップすると思います」
由利「え?え・・・」
カフェ「お気をつけて。そろそろランチの時間です」
カフェの人。定位置に
由利「え?え・・・」
相手してくれないカフェの人
そして不思議な顔して、由利もはけていく
END
以上と未満 Closing
カフェの人から突然ボールが投げられる
それを勢いよく受け取る由利
みんなの前でボールの芸を披露する
ボール芸が終わってみんな拍手
誠一「すんげえすんげえ」
前川「うまくなったなあ」
由利「ありがとうございます。」
達也「どこで習ったんですかそれ!」
由利「ここですよ」
達也「え!マスター今度僕にも教えてくださいよ!ね!」
由利「でもこれ・・・披露するときないんですよね」
前川「あいつがピアノ弾けるってことになったからな」
誠一「もったいないなあ。」
由利「え?」
誠一「せっかくうまくなったのに。僕の書いてる脚本だって自分だけじゃだめなんだよね。映像になって初めて意味を成す」
由利「見せたいのは山々ですけどねえ」
誠一「がんばればここまでできるってことだよ。」
カフェ「人はちょっとしたことで、明日がんばろうって思うんです」
由利「え?」
カフェ「あんなに悲しかった顔が・・・変わってません?」
誠一「ん?あ確かに・・・」
カフェ「ここはそういうカフェですから」
誠一「うーん・・・」
達也「あれ?先輩なにかあったんですか?」
誠一「修復不可能」
達也「修復不可能?」
誠一「別れた」
達也「えええええええ」
誠一「前川さん、九年ってのはつきあうのには長すぎましたかね?」
前川「お前も北高応援団だろう!」
誠一「押忍!」
前川「男たるもの常に硬派であれ!」
誠一「押忍!」
前川「でも俺も長くて六年だった・・・」
誠一「あら・・・」
達也「まあ、タイミングってのもあるんじゃないですか?」
誠一「なんだよなんだよサカムケのくせに偉そうなこと言うなあ」
達也「その名前で呼ぶのやめてくださいよ」
前川「どうせお前もふられてさびしくなったからここに来た口だろ?」
達也「えっと・・・」
由利「あ、それってこの前外回りのとき話してたパティシエの女の子ですよね?」
達也「あのですね」
誠一「そうそう。国際弁護士なって一緒にフランス行くって言ってたんだよなあ。残念無念だなあ!」
達也「つきあっちゃえることに・・・なりました」
みんな「!」
達也「さっきなんですけど・・・告白したら・・・「はい」って・・・」
誠一「う・・・そ・・・」
前川「冬通り越して春がきたかあ・・・」
由利「おめでとうございます!おふたりで春先の大分湯布院温泉いかがでしょう!」
達也「か、考えときます・・・」
由利「今度パンフレットを会社に持って行きますね!」
前川「なんだよ?お前もなんか朝と違ってやる気がみなぎってるね?」
由利「公園でいろいろありましてね」
前川「公園?」
由利「あ、なんでもないです」
前川「?」
誠一「そういう前川さんはなにもないんですか?」
前川「え?」
由利「恋愛とか」
前川「ないよ」
達也「やっぱ三十すぎるとそうなっちゃうんですかね」
前川「年は関係ないよ」
誠一「せめて片思いとか?」
前川「ないないありえない」
そのとき
ポーンとピアノの音がする
見ると、ひとりの女性がピアノに座ってる
もう一度ポーンと音がする
前川「?・・・あれってグループリーダーじゃないか?」
由利「えー、なんでまた・・・ってあれ?」
前川「?」
由利「さっきの・・・公園のセレブじゃないかなあ」
前川「なんだそれ?」
由利「いや、ついさっきあったヘンテコリンな女の子で、もうすぐ結婚するだとかいってましたけど・・・」
前川「いや、あれはあの十八歳だろう?」
由利「違いますって。マリッジブルーの変な子ですよ」
みんなの騒ぎをよそに、その女性は軽やかに曲を弾き始める
ふたり、ぼうぜんと立ったまま聞く
誠一「いい曲ひきますね、あの子・・・」
前川「ああ」
誠一「前川さん?」
前川「・・・」
誠一「前川さん?」
前川動かず
曲も中盤ぐらいで
カフェ「お楽しみ中のところ、申し訳ございません。今夜はこのあと当店貸切でございまして」
達也「へえ珍しいですね。ここ貸切なんて」
誠一「だれかの結婚式の二次会かなあ。」
カフェ「お客様のことですのでそれ以上は(教えられません)・・・」
誠一「ま、しょうがないか。おいくらですか?」
カフェ「こちらです(請求書を渡す)」
誠一「えっとサカムケこれ四で割っといて」
達也「んんん・・・」
誠一「ねえ暗算できないのに国際弁護士なれるの?」
達也「そんなにいうなら最初から先輩が割りカンしてくださいよ!」
ふたりはもめる
でも、ツアコンふたりはぼうぜんと見ている
「ふたり」コンビが計算を終えていくらか見せるが、ふたりは動かない
仕方なくふたりコンビが払う
誠一「もういくよ?」
由利「(気がついて)?ああ、すいません」
達也「魚民か、わたみん家どっちがいい?」
由利「では笑笑で」
誠一「サカムケはい予約の電話~」
達也「ええ~(電話)もしもし?えっと四人なんですけどいかがですかあ(そういいながらはける)」
由利「(前川に)前川さん、いきますよ?」
前川「・・・ん?あ、ああ・・・」
由利「絶対あのセレブだと思うけどなあ・・・」
誠一、由利(由利はピアニストをしきりに気にしながら)はける
前川はじっと見つめる
演奏はまだ続いている
カフェ「お客様」
前川「?ああ・・・」
カフェ「明日もがんばれますか?」
前川「?」
カフェ「明日もお待ちしてます」
前川、はける寸前、ピアニストになにか言おうとするが・・・・
いえなくてはける
END