登場人物
羽根沢 悠(サンタ)
能村 博之(トナカイ)
梶浦 照葉(サンタ)
天野 義房(トナカイ)
松ヶ崎 明俊(地獄の番人)
番所るみ子(裁判長)
? (?)
明石 友夫(元番人・社長)
スタッフ
原案 海老原厚平
脚本・演出 富士河千之介
制作 3man Office制作本部
「12月の魔法」パートナーズ
序章
不思議な格好の男が芸をしている。
人々はそれを見ている
ふらふらと、悠が歩いてくる
通り過ぎようとする
男がそれに気づく
男「お嬢さん」
悠「?」
男「よければここでちょっと見ていきませんか?」
悠「でも・・・」
男「?」
悠「なんだか・・・なんだかこの先に早くいかないと・・・」
男「ま、そんな固いこと言わずに・・・」
男、悠を無理やりベンチに座らせる
そしてさらさらと風船でなにかを作る
男「はい、どうぞ・・・」
悠「ありがとうございます」
男「あなたへのお守りです。」
悠「お守り・・・」
男「これから、あなたはあそこへ行くのでしょう?(その先を指差す)」
悠「(うなずく)」
男「そこで、生きていたときのことを裁かれます」
悠「・・・」
男「特にあなたはこの道を通って歩いてきた。この道は、ちょっと変わった死に方をした人たちがくる道」
悠「(なにかを思い出す)」
男「かなり厳しい裁判になるでしょう。」
悠「悠は・・・悠はどうなっちゃうんですか・・・」
男、もうひとつ風船を膨らませ始める
男「この風船をまっぷたつにしたらどうなると思いますか?」
悠「割れると思います」
男「そうですか・・・」
男、その風船をまっぷたつにしようとする
悠、耳をふさぐ
しかし、割れない
割れないで彼の手元にある
悠「すごい・・・」
男「いいですか?ここは天国です。」
悠「はい」
男「下界と同じように考えていちゃだめですよ」
男、片付け始める
悠「あの、あなたは・・・」
男「がんばってください」
悠「え?」
男「あなたとはもう一度会えるような気がします」
悠「・・・」
男「がんばって」
悠「・・・はい」
男、ハケる
悠それを見つめる
暗転
暗転中、高らかな声が聞こえる
番所「判決をくだします!
羽根沢悠、あなたにはサンタクロースとしての期間労働を言い渡します!」
テーマ曲オン
第一章
暗転中、声がする
能村「おい新人、新人!」
明転
ひとりの女の子が倒れている
羽根沢悠。
悠「ん・・んん・・・」
能村「おはようさん」
悠「お、おはよう・・・ございます」
能村「行くで、はよ」
悠「え、あ・・・」
能村「お前は今日からサンタクロース。おれはその相方のトナカイ」
悠「ト、トナカイ?」
能村「能村博之。あんたの教育係もしてやる」
悠「よ、よろしくお願いします・・・」
能村「ほい固くならんと。ひろくんとでも呼んでや」
悠「ひろくんよろしく」
能村「なにいっとるんや、あほ」
悠「え・・・」
能村「五千年早い。なれなれしい極みやな。」
悠「あの質問してもいいですか?」
能村「早くしてな」
悠「なんで悠がサンタになったのか・・・イマイチよくわかんないんですけど」
能村「自殺してきたんやろ」
悠「・・・そうですけど・・・」
能村「けどやあらへん!」
悠「!」
能村「人の命を奪うのは一番あかんが、自分で命を閉じるのはもっとあかん!最悪の親不孝モンや」
悠「あ、でもこれにはあたしなりに深い理由があってですね」
能村「なんがあるにせよ普通自殺いうたら問答無用で地獄行きやで!」
悠「はい・・・」
能村「こうやってサンタになっただけでもあの番所さんに感謝せい!」
悠「番所さん?」
能村「黒い服着た裁判長さん。俗にいうエンマ様みたいなもんやがな」
悠「なるほど・・・」
能村「しっかりここでサンタとしてまじめに働いて償いポイントを稼いでやな・・・えっとあんたは確か二万五千ポイントだったかな」
悠「二万五千!償いポイント?」
能村「(頭をこづいて)あんたほんまなんにも覚えてへんのか?」
悠「え?ええ・・・」
能村「番所さんもきっつい洗脳したみたいやな・・・ええか?一度しか言わんから耳の穴かっぽじいて聞いとき!」
悠「はい!」
能村「これからあんたはサンタクロースとして人間たちにええことをしたりプレゼントとかをあげる。そうすると・・・」
音が鳴る
悠「(音が鳴ったほうを探してキョロキョロ)え?え?」
能村「ポイントがたまる。」
悠「あの音どこから聞こえてるんですか?」
能村「二万五千ポイントたまったらファンファーレが(音が鳴って)」
悠「うわ!」
能村「もう一度番所さんとこで再裁判。天国に行くか、もう一度生まれ変わるか選べるっちゅうわけやがな
悠「この辺から聞こえた・・・」
能村「(大声で)わかった?」
悠「ああ、はい・・・」
能村「なんでそんなに音を気にする?」
悠「小さいころからお母さんにピアノ習わされて、音にものすごく敏感になってしまって」
能村「へえ。ならこの音は?(床をたたく)」
悠「ソ」
能村「まさかこういうのなんやったかな・・・?えっと?」
悠「相対音感」
能村「それや!自分すごいな!」
悠「それほどでも・・・」
能村「あほ!」
悠「!」
能村「うぬぼれるな!」
悠「はい・・・」
能村「あ、そういうときは『かしこました!』って言え」
悠「かしこました」
能村「ええ返事や。」
悠「ありがとうございます」
能村「今から作業に入る。」
悠「かしこました!」
能村「調子ええのお。ええか、我々はこれよりクリスマスプレゼントを渡し忘れた家に行く」
悠「渡し忘れ?」
能村「明石さんがいうには、お客さんが相当怒っとるらしい。早よ行かんと」
悠「あかしさん?」
能村「あれ?会ってへんか?」
悠「あの本当に覚えてないんですよ・・・」
能村「そか。明石さんちゅうのは、黒の背広着た、この会社の一番えらいさんや。」
悠「へえ」
能村「まあ、ぼちぼち会えるやろ。ほなら行くで」
能村、立ち上がる
悠「ちょ、ちょ~っと待ってください!」
能村「なんや調子狂うな」
悠「あの、サンタクロースってこんな服でいいんですか?」
悠、自分の制服上下をさす
能村「別に」
悠「うちの学校の制服ですよ!」
能村「ええんちゃう?」
悠「サンタさんやるんですよね?それならあのぽんぽんのついた帽子と赤い服と赤いブーツとか」
能村「コスプレ好き?」
悠「違います!」
能村「んなこといって、男の前ではあんなことやこんなことやらいろいろやったんやろ~え~この~」
悠「彼氏のことは言わないでください!」
能村「・・・」
悠「それが原因で・・・ここにいるんですから」
能村「・・・はい・・・」
悠「てか先輩もその服で行くんですか!」
能村「かっこええやないか」
悠「なんでB系・・・」
能村「あほ!制服好きにいわれたないわ」
悠「だから制服好きじゃありません!」
能村「服なんてどうでもええ。お客さんにプレゼントを渡せればそれ以外は関係ない」
悠「そんなあ」
能村「人間の目には、しっかりあのサンタクロースとトナカイに見えるから大丈夫」
悠「え~」
能村「おれのこれつかんで」
見ると、能村の腰にはロープがある
能村「早よ!」
悠「か、かしこました!」
能村「いっせーのせ!で飛べ」
悠「かしこました」
能村「いっせーの」
そのとき
天野「あら?」
梶浦「おや?」
能村「(舌打ち)忙しいときに(きやがってどあほどもめ・・・)」
悠「え?」
天野「これはこれはサンタパワーの能村先輩ではございませんか?」
能村「これはこれはサンタサービスのどあほコンビ。あえてうれしな!ほなさいなら」
能村はけようとする
梶浦それを先回りしてとめて
梶浦「能無し先輩、なにかあればアホアホって、馬鹿の一つ覚えじゃないですか?」
能村「能無しやない!能村や!」
天野「うひょーほえまくり!今日も元気そうやないですか!今度デートしまへんか?地獄めぐりとか」
能村「あんがとさん」
梶浦「(悠に)だれあんた?」
悠「あの、はじめまして、羽根沢悠っていいます。今日から能村さんといっしょに働くことになりました」
梶浦「サンタなの?」
悠「サンタみたいです」
梶浦「だっさい格好してるわねー、明石さんに頼んで衣装変えてもらいなさいよ」
悠「あ、そんなこともできるんですね。先輩いってきます(ハケようとする)」
能村「待てい!」
悠「(とまる)」
能村「んな時間ない。急ぐぞ」
悠「かしこました・・・」
能村「うわあ!かわいそうやないですかあ、こんなピュアピュア・ピュアネスな女子高生をいぢめはるなんて!」
梶浦鉄拳
天野「いった~~~~~」
梶浦「あんたどっちがすきなの?」
天野「うーんと、ドがつくくらいのSなら男でも女でもどーんと来はって!」
梶浦鉄拳
天野「いって~」
梶浦「アイドルの事務所入ってるころからドがつくのはあたしくらいよ」
天野「こんなドSアイドルいややわあ」
能村「(悠に)な、こいつらあほやろ?」
梶浦「少なくても、おたくんとこより、配達成績はいいんだけど」
天野「そやそや!優秀なトナカイががんばってるんや!」
能村「配達成績だけで優秀とはかぎらんな」
梶浦「負け犬の遠吠え。一生、ほえてな!」
天野「負けトナカイの遠吠えやん~」
悠「あのこれからよろしくお願いします(ぺこり)」
梶浦「あたしの下僕になるんだったら償いポイントおごってやってもいいわよ」
悠「ほんとですか!」
能村「おい!相手にすな。うちのライバル会社の使えねえ奴らや」
天野「うほ~梶浦先輩!能村先輩がいきがってはります!」
梶浦「ま、あたしはどっかの誰かさんと違って、やってはいけないことをやってもう一度トナカイなんかならないからね」
能村「おい!」
梶浦「あら?いっちゃあいけないこといったかしら?」
能村「いくで!」
ふたり、ハケる
天野「いやー新入りの子かわいなあ・・・」
梶浦「そう?あたしのほうがあんなぶさいくより倍以上かわいいと思うけど?アイドルだったわけだし」
松ヶ崎「(声のみ)使えるなあ」
天野「?・・・この声は」
梶浦「まさか・・・」
ゆっくりと真っ白な服を着て松ヶ崎がイン
松ヶ崎「あの娘、ぜひ地獄にほしいな・・・」
天野「ま、松ヶ崎さん!」
梶浦「え?あれが地獄の番人の?」
天野「そうやそうや!元は僕らと同じトナカイやったんやけど能村さんと(いろいろあってな)」
松ヶ崎「梶浦」
梶浦「はい」
松ヶ崎「お前確か、能村よりも早く生まれ変わりたいとか言ってたよなあ」
梶浦「え?ええ。」
松ヶ崎「ほんとか?」
梶浦「だ、だって、あいつよりあたしのほうが償いポイント稼いでると思うんですよ。でもここぞってときに鳴ってもらえなくていつのまにかあいつに先こされちゃって」
松ヶ崎「それだけであいつより先に生まれ変わりたいか?」
梶浦「え・・・」
松ヶ崎「それだけなのか?」
梶浦「えっと・・・」
松ヶ崎「ちょっと(来いという仕草)」
梶浦「?(松ヶ崎のところへ行く)」
松ヶ崎、来る梶浦のおでこに手をかざす
松ヶ崎「ふん!」
音が鳴る
梶浦「!」
天野「梶浦先輩?」
近寄ろうとする天野
松ヶ崎、片方の手をかざして天野にむける
天野「(絶叫)」
天野、奥まですっ飛ぶ
松ヶ崎「(梶浦の耳元で吐息混じりに)いまからあいつらのあとをつけろ。」
梶浦「え、そんなこと松ヶ崎さんでもできるんじゃ(ないんですか)」
松ヶ崎「(もっと気を入れる声)」
梶浦「あああああ」
松ヶ崎「俺に質問するな」
梶浦「はい・・」
松ヶ崎「(手を下ろして)これで俺とお前はつながった。なにが見えたか、なにがあったか・・・すべて。簡単だろ」
梶浦「は・はい・・・」
松ヶ崎「行け」
梶浦「はい・・・」
梶浦、倒れてる天野を起こしてはける
見送る松ヶ崎
松ヶ崎「神様・・・血の池地獄で・・・いつもの時間に・・・」
はける松ヶ崎
チェンジ
※改訂版2008/10/20
チェンジ、
能村「うお!あほどもと漫才してたら時間食いすぎた、いくで!俺の腰紐もって」
悠「持ってます」
能村「・・・はやいな。」
悠「はい!ありがとうございます」
能村「ええ心がけや。いっせーのー」
ふたり「せ!」
ふたり飛ぶ
照明少しだけ変わる
能村「はい到着!」
悠「えええ」
能村「(鼻をくんくん)ああ神奈川のにおいがする」
悠「はい?」
能村「ひろくんワープで下界に来たんや、ほれ見てみい。こっちは神奈川県鹿矢市板賀区(しかやしはんがく)!」
悠「鹿矢市板賀区!」
能村「あっちは東京と神奈川の県境、多摩川の河川敷や。見てわからんか?」
悠「・・・さあ?・・・」
能村「神奈川っつったら神奈川なの!こ!こ!は!」
悠「無理やりだなあ」
能村「芝居なんやから仕方ないやろ! 」
悠「ちょっと!さっきから我慢してたんですけどなんか都合よすぎじゃありませんか?」
ちょっとした言い合い(フェードアウトで)
このときそっと梶浦天野コンビも入ってくる
梶浦「よし間に合ったね」
天野「追いつきましたね、梶浦先輩」
松ヶ崎(声のみ)「あの娘、針山を一気に上らせたい・・・」
梶浦「ま、松ヶ崎さん!」
天野「え!どこにいはりますか?(どこやん?どこやん?・・・)」
松ヶ崎「あのすらりと長い手足、女の子の割にはよく通る声。あの娘が体中すべてを血まみれにしながらすばらしき断末魔の雄たけびをあげて針山を上る姿を想像したら・・・ああああ(想像して昇天しちゃう)」
梶浦「松ヶ崎さん松ヶ崎さん!」
天野「だからどこにいはりますか?どこ~」
松ヶ崎「天国のぬるま湯にひたすのはもったいない!いいか照葉!能村は今からここで新人のための予行演習をするはずだ」
梶浦「予行演習?」
松ヶ崎「あの馬鹿はいつもおんなじさ・・・」
能村「んもう!喧嘩してる時間ないであほ!今からサンタクロースの予行演習するで」
悠「予行演習?」
天野「ほ、ほんとだ」
梶浦「さすが松ヶ崎さん」
松ヶ崎「やつらの相手しろ。どっちか。」
梶浦天野「ええ!」(このあと、天野の「早いね!」まで奥で密かに押し問答する)
能村「サンタの仕事たるもの全部教えたる。ここがこれから行く家だとしよ。ドアあけてみ」
悠「え!な、なんか、き、緊張してきました」
能村「ちっさいなあおまえ。はよあけや」
悠「はい(あけて)ごめんく~ださ~い」
能村「毎度どうも!サンタパワーです。このたびは配達ミスがあって申し訳ございません。(このあとアドリブで謝罪する)」
悠「(謝罪してる横で勝手に家の中にあがりこみ)うわー、広いお家~」
能村「おーい!」
悠「(床とか壁を触って)大理石だって!超セレブかも!」
能村「だらけるな!」
悠「(家中はしゃいで)うは!先輩も人間だったころ、友達のお家にあそびに行くときってどきどきしませんでしたか?」
能村「そりゃ・・・そうやったかな・・・」
悠「(まだはしゃいで)自分の家じゃ食べたことないお菓子とか出たりして。テンションあがんなかったですか?」
能村「んん~、あ!そやそや!ジャムはさんだビスケットとか出とったなあ・・・」
ふたり「なつかしいなあ・・・」(梶浦「(天野に)さっさとあんた出なさいよ!」とかいっておいて)
男(声のみ天野)「は、はやいね」(天野「わー!答えちゃった!」梶浦「
悠「わ!」
能村「シュミレーションや!気にすな!」
悠「どこから聞こえてるんだろ・・・」
能村「(ここは標準語で)あ、あ、いやー、勝手にあがりこんでほんとに申し訳ございません、新人サンタなもんで(悠を連れ戻して)ほれ、ごあいさつや!」
悠「あ、あ、どうも、新人サンタの羽根沢悠と申します」
能村「どうかよろしくお願いいたします」
男「よろしくお願いします」
能村「それで、配達ミスということで、いますぐプレゼントお出ししたいと思うのですが」
男「じゃあうちの息子がほしがってる、ええっと・・・なんだったかな・・・あ、覆面ライダーの」
能村「2008クリスマス二日間限定シルバーモデル!」
男「そう!」
能村「かしこまりました」
ふたり沈黙
能村「(悠の耳もとで)ほれ、早よ!」
悠「え」
能村「感じろ」
悠「感じる・・・」
能村「そう、感じるんや・・・」
悠「きもい!変態!」
能村「ドあほ!」
悠「!」
能村「目え閉じてみい!」
悠、目を閉じる
能村「手を前に出して・・・そう・・・包み込むように・・・」
悠、そのとおりにする
能村「覆面ライダーの・・・2008クリスマス二日間限定シルバーモデルを・・・想像して・・・」
※2008/11/17挿入分
悠、想像
能村「感じるんや!もっと・・・心の眼で・・・」
悠「かしこました・・・」
音がする
そして手の中に
男「あ」
悠「あ!」
能村「(すばやく手の中からとって)はい!」
男「ありがとう!」
能村「これがわれわれの仕事ですから」
悠「これが・・・サンタの力・・・」
悠はぼうぜんとしている。
能村「(男に)あと少しで夜があけてしまいます。その前に子供さんの靴下の中か、枕の脇にでも置いといてくださいね」
男「わかりました」
能村「それでは失礼いたします」(舞台裏→梶浦「そうだ、あれもやっといたら?」天野「あれ?」梶浦「(強調)アレ!」
男「あの」
悠「はい」
男「ついでといっちゃあ、なんなんですがおとといまで飼っていたインコの雛が死んじゃって・・・」(梶浦「そうそうそれそれ・・・」)
悠「はあ・・・」(天野「いいんですか?ほんとに・・・」)
男「サンタさんのお力でなんとかもう一度生き返らせてもらえないでしょうか」
悠「あ、かしこました」
悠、もう一度手を出して想像しようとする(天野「やばいやん、やっちゃいますよ」梶浦「お手並み拝見といこうじゃん」)
能村、それをやんわりと止めてから男に
能村「お客様」(梶浦「(舌打ち)能なしめ・・・」天野「よかった~」→梶浦鉄拳)
男「はい」
能村「残念ながら、われわれはお客様の願いをひとつしか聞くことができません」(梶浦「偉そうにしゃべっちゃって・・・ふんばって天野!」)
男「知っています。そこをなんとか!」
能村「はやく子供さんのところへ」
男「・・・はい」
能村「失礼します」
ふたり外にでる
能村「これでひととおりやがな」
悠「・・・」
能村「どした?」
悠「なんか・・・すごい・・・」
能村「サンタクロースに任命された人間は神と同等の力を得る」
悠「神様と・・・同じ力」
能村「そや」
悠「神様ってことはなんでもできるんですか?」
能村「基本はな。でも命だけは別。」
悠「命だけは?」
能村「サンタの力であろうともそれをいじってはあかん。いじれるのは俺らも番所さんも手の届かない・・・神様だけ。」
悠「神様・・・」
能村「これは天国の規則のひとつでもある。しっかり心に命じとけ」
悠「天国にもう居るかもしれない人を生き返らすのもだめですか?」
能村「んなことしたら速攻、地獄行きやな」
悠「地獄・・・」
能村「血の池、針山、底なし沼、数え上げたらキリがない。どや?それでもええんか?」
悠「それはいやです」
能村「あまり他のこと考えるな。とにかくサンタとして幸せを配ってポイントを稼ぐことだけに集中せい」
悠「かしこました」
能村「よし、本番いくで。」
悠「よろしくお願いします」
能村「OKOK。それにしてもどこからあんな声きこえたんかなあ」
悠「ここらへんでした!」
悠、舞台裏をさす
梶浦、能村コンビ、一気に退散する
能村「ま、ええか。ほならドアあけてみい」
悠「かしこました!」
悠、ドアを開ける
悠「ごめんくださ~い」
佳美「おそかったじゃないの!」
能村「申し訳ございません!新人研修もかねておりまして」
佳美「配達ミスしたくせに、研修までやってるの!あきれた!」
能村「本当に申し訳ございません!」
佳美「あんたの隣の子がサンタ?」
能村「はい・・・ん?」
佳美「制服かわいいじゃない?」
悠「あ、ありがとうございます・・・ってあれ?先輩」
能村「なんや」
悠「生きている人間の目にはあたしたちってあのサンタとトナカイに見えるんですよね?」
能村「そやけど、たまに何万人かにひとりの割合で、うちらのことそのまま見えるやつがいる」
悠「霊感みたいなのですか?」
能村「似とるけど、まあ、この人は何万人にひとりの・・・」
悠「やっぱ着替えたい!やばい!学校わかっちゃう!」
佳美「なにこそこそいってるの!」
悠「あいえ」
能村「申し訳ございません。あのよければなにかでサービスさせていただきますので」
佳美「サービス?」
能村「ええ・・・」
佳美「サービスねえ」
能村「はい?」
悠「あの、ほしいものをどうぞ」
佳美「あたしの夫を生き返らせてちょうだい」
ふたり「!」
佳美「おとうさんが死んでから、ずっとうちの娘、ふさぎこんじゃってるのよ」
悠「娘さん・・・ですか」
佳美「部屋にひきこもっちゃって」
ふたり二階を見る
佳美「なんでも願いかなえてくれるのよね?」
悠「そう・・・ですけど」
佳美「サービスもしてくれるのよね?」
能村「あ、はあ・・・」
佳美「隣のサンタは犬をくれたらしいじゃないの。」
能村「えっとそれはですね
佳美「だったらうちのだんなをプレゼントしてくれてもよくない?さ、早く」
悠「かしこました・・・」
悠、ポーズをとる
能村「ちょ、ちょっと待ってください!」
佳美「なによ邪魔しないでよ?」
能村「命はプレゼントできません」
佳美「だってとなりは犬をもらったじゃないの」
能村「すでに生きているものをプレゼントするのは大丈夫なんです。でも、死んだものを生き返らすことはできないんです」
佳美「あんたたちサンタとトナカイでしょ?プロでしょ?」
能村「これも天国の決まりなんです」
佳美「あ!いいことおもいついた」
能村「え?」
佳美「天国から来たのよね」
悠「そうですけど・・・」
佳美「うちのだんな、もうそっちにいってるんでしょ?生き返らせるのがだめなら連れ戻してきてよ」
ふたり「え!」
能村「あの、お亡くなりになってからどのくらいたつんですか?」
佳美「今年の夏に亡くなったから、かれこれ三ヶ月以上はたつわね」
能村「あの、それでしたらすでに天国裁判所での審判も終わりまして、もうすでにどこか遠くまで行かれてるかもしれないですし、それに、うまれかわってるかもしれませんし」
佳美「捜してきて頂戴、加藤誠っていうの」
能村「ですから、そのような命にかかわることは(できません)」
佳美「命命って、すでに死んでるから命なんてないじゃない」
能村「ぐ・・・」
悠「なるほど・・・」
能村「おい!」
佳美「連れ戻すだけなら、いいんじゃない?」
能村「いや、ですからお客様(そういうことは・・・)」
悠「(さえぎって)かしこました!」
能村「おい!」
悠「悠が責任もって探してきます!」
能村「軽々しくいうんやない!」
悠「(女に)絶対探してきます!」
能村「お前、自分が言ってることわかってるか」
悠「先輩(能村の腰紐を持つ)」
能村「おれの話を聞け!」
悠「いっ、せー、の」
ふたり「せ!」
暗転
暗転中
能村「あれ?いつの間に?」
第二章
裁判所
机といす
いすには明石が座ってる
そこに
番所「はいお待たせ」
明石「裁判長おはようございます」(起立して)
番所「おはよう」
明石「お忙しそうですね」
番所「ああクリスマスの打ち上げ準備」
明石「あ、お邪魔なら別の時間に(しましょうか)」
番所「いいよいいよ、座って」
明石「はい」
明石座る
番所「どうだった?今年の営業成績」
明石「まずますだと思います」
番所「具体的な数字を」
明石「はい(紙を見せる)」
番所「(紙を見て)ふーん・・・」
明石「なんとか配布率前年比百%越えはいけそうです」
番所「超えたっていってもサンタ・スタッフとか、サンタ・サービスとかにただでさえ負けてるんだから、気軽に喜
ばないで」
明石「はい」
番所「あれ?ちょっとなに?配達ミスしたの?」
明石「木村さんと高村さんが・・・」
番所「あいつら・・・」
明石「申し訳ございません。再度教育徹底したいと思っております」
番所「(書類を返して)二九日の仕事納めまでにふたりの反省文をつけて、売上報告書といっしょに出して頂戴。年明け四日の仕事はじめで、全サンタ会社集めて発表するから」
明石「かしこまりました」
番所「そうだ。今日行ってるあのこ」
明石「羽根沢さんですか」
番所「そうそうその子。元気にやってる」
明石「今日さっそく配達ミスの家に行ってもらってます」
番所「いきなり?大丈夫なの?」
明石「なんとかなるとは思いますが」
番所「相方のトナカイは?」
明石「能村くんを」
番所「あちゃー、ほかのトナカイはいなかったの?」
明石「木村さんは法事で高村さんは忌引きと」
番所「ここあの世」
明石「あ・・・」
番所「死んでる身だということをもっと自覚しなさい」
明石「はい・・・」
番所「それにしても相方、能村で大丈夫?口が悪くて何人も相方のサンタ変わってるでしょ?」
明石「悪気があってああじゃありませんよ。関西弁だから受け取る側がナイーヴだと傷ついちゃうんですよ。」
番所「天野だってあんなに優しいのに同じナニワトナカイ族でしょう」
明石「まあ、そこらへんは個性ってことで」
番所「ピンからキリまでいるってことね。あいつも家族に愛情を注いでれば変わってたかなあ」
明石「たまに裏のベンチでひとり暗い顔してるときがあります。」
番所「・・・」
明石「下界においてきた家族のことを考えているのかもしれません。」
番所「・・・」
明石「仕事ばかり力を入れて家族を見失ってしまった。こっちでもトナカイの仕事ひとつにしか愛を注げない。不器用は相変わらずということなんでしょうね」
番所「人はみんな不器用なの。あんたも含めて」
明石「・・・」
番所「器用なやつがいるとするなら、会ってみたいもんだわ」
明石「あの、裁判長。羽根沢悠さんなんですが、なぜ私のところに?」
番所「・・・」
明石「履歴書を見た限り、自殺者の割にはおとなしそうで大丈夫とは思います。ですが、うちであの子のこれからの償いポイントをどれだけあげられるかどうか・・・」
番所「自信ない?」
明石「・・・」
番所「明石、」
明石「はい」
番所「今の仕事、何年になる?」
明石「十一年になります」
番所「そんなになるか・・・」
明石「私が、天国の番人として死人を下界からつれてくる仕事をしているとき、裁判長は私の憧れの先輩番人でした」
番所「ありがと」
明石「かっこよかった・・・」
番所「・・・」
明石「あ、今も、そうですけど・・・」
番所「裁判長に出世なんかするんじゃなかった」
明石「そんな、番人のほうがよかったなんて」
番所「楽しかった」
明石「・・・わかります。その気持ち・・・」
番所「明石もあんなことがなければ、ずっと番人の仕事してたのにね」
明石「・・・」
番所「死人を天国につれてくるリミットに、三分遅刻するなんて。」
明石「あのときは私を重ねてしまいました。奥さんを失うだんなさんの背中を見てしまったのが悪かった」
番所「仕事に私情をいれてはいけない」
明石「私も不器用ですから」
番所「不器用なあんただから私は預けたの」
明石「?」
番所「あの子は、自殺の引き金になったあることのせいで、愛というものを信じられなくなっている。
明石「愛・・・」
番所「奥さんを失うだんなさんの気持ちがわかるあんたなら、彼女を後ろから支えられるでしょ?」
明石「それは・・・」
番所「大丈夫」
明石「・・・はい・・・」
番所「以上会議は終わり。打ち上げ待ってるよ」
番所はける
そこに
悠と能村ふたり「(絶叫フェードイン)」
悠と、能村、こけている
悠「いたた・・・ちょ、ちょと、なんでこんなふうになっちゃうんですかあ」
能村「スーパーひろくんワープや。」
悠「スーパー?」
能村「あんたの腰紐の持ち方の角度でな、ワープがきまってくるんや」
悠「へえ」
能村「これよりももっと角度つけて持つとな」
悠「はい」
能村「すんごいやつになる」
悠「すんごい?」
能村「ああ。おれさまが・・・長年研究して編み出した、光よりもどこのトナカイどもよりも早い・・・」
悠「(ごくり)」
能村「(絶叫)超スーパーハイパーひろくんワープ」
悠「くどい・・・」
明石「あの・・・」
能村「おう明石さん」
悠「あ、おはようございます!あなたが明石さんですよね?」
明石「そうですが・・・」
悠「これからよろしくお願いします!」
明石「あ、はい。でも能村君、早い戻りですね?」
能村「スーパーひろくんワープや!」
明石「あちゃー、つかっちゃったんだ・・・」
能村「あんま評判悪い?」
悠「あの、今お客様から人を生き返らせてほしいっていわれたんです」
明石「え?」
能村「あん時と同じや・・・」
悠「あん時?」
能村「そのせいでおれは・・・」
悠「(能村を見る)?」
※ 2008/11/18挿入分
能村「! ああ、なんでもない!」
悠「生き返らすのがだめなら、死んで天国に来てるだんなさんを連れ戻してほしいって」
明石「え!」
能村「な?むちゃくちゃやろ?」
明石「も、もちろん、お断りしたんですよね?」
悠「かしこましたっていっちゃいました」
明石「え!」
悠「だって、娘さんがかわいそうだったんです」
明石「いやそれはわかるんですが・・・そういうときは能村君が止めてくれたんですよね?」
能村「気づいたらワープしとった」
明石「はい?」
能村「いつのまにやらおれの腰紐の使い方までマスターしたみたいやで。こりゃいつか、本物のサンタになれるかもしれんなあ」
悠「うわ本当ですか!」
能村「ドあほ!」
悠「!」
能村「あんたの勝手な判断でなこれから天国中、大騒ぎになるかもしれんのやで。サンタとしての自覚と責任をもっと持てや!」
悠「・・・」
能村「死人を探して来いだなんてきいたこともないわ!」
悠「さっきのとこの娘さん、お父さんがいなくなってからずっとさみしがってます」
能村「なんでわかるんや」
悠「あのときふたりで上を向いたの覚えてますか?」
能村「ああ」
悠「悠には女の子がピアノの前に座ってるのが見えました。
明石「見えた・・・?」
悠「背中が小っちゃく・・・丸くなってるのが・・・。」
能村「お前も・・・見えてたんか・・・」
悠「はい」
能村・明石「(顔をあわせる(これは新人サンタとしてはすごいかもしれないよ?))」
悠「あの・・・サンタさんって幸せをあげるのが仕事ですよね?なのにお客さんに悲しみをあげてもいいんですか?」
明石「それは・・・」
悠「幸せって、おもちゃとか形のあるものじゃなきゃいけないんですか?物をあげてれば幸せになるんですか?」
能村「仕方ないやろ?そういうふうに大昔からずっとやってきたんやから」
悠「知りませんでした。自殺したらサンタになるなんて」
能村「んなこと俺だって死んでからわかったっちゅうに」
悠「だから、今回は物じゃなくて、加藤誠さんを探してあげて、ほんとの幸せをお客さんにあげませんか?」
明石「残念ですが天国の決まりでそれはできません。もう一度行って丁重にお断りするしかないでしょう」
悠「あの子、悠と同じ、自殺するかもしれませんよ?」
明石「それもそうなら人生です」
悠「そんなのいやです」
明石「・・・」
悠「涙をずっと抱えてこっちにくるなんて」
能村「なあ。」
悠「・・・」
能村「あの子はそんなにあんたが言うようにずっと涙を抱えてくんやろか」
悠「・・・」
能村「今は確かに悲しいかもしれん。そりゃ大切なお父さんが死んでもうたんやからなあ。でもな、時がすぎれば変わっていくかもしれんやんか」
悠「心の奥に入った傷は時間をとめます」
能村「!」
悠「止められると・・・生きててもしょうがないなって思うんです。」
ふたり「・・・」
悠「悠があのときバイクで送ってくれなんていわなかったら・・・先輩は死なずにすんだ・・・」
明石「心が細くなっている。やめなさい」
悠「悠が死んだら先輩は生き返るのかなって・・・点数を稼いで生まれ変わるくらいなら・・・悠の命を先輩にあげてください」」
明石「やめなさい!」
悠「!」
明石「羽根沢さんはまだあれなようですから、能村君が天国の決まりを丁寧に説明してあげてください。」
能村「かしこまり・・・。」
悠「ちょっと待ってください。あれってなんですか?」
明石「あ、いや、羽根沢さんは天国の決まりというものに未熟な部分があるということです」
悠「新人だからだめってことですか?」
明石「これから勉強していきましょう。私が教えます」
悠「みなさんが探さないなら、悠が加藤誠さんを探します」
明石「お盆の季節以外に裁判長の許可なく、死人を下界に戻すことはできません。」
悠「それも天国の決まりですか?」
明石「決まりにそむくのですか?」
悠「・・・」
明石「もしこれがばれたら、裁判なしで即地獄行きですよ」
悠は、こちらを見る
悠「決まりなんて・・・くそくらえです」
明石「羽根沢さん!」
悠、はける
能村「ったく、出来もしないのに、抱え込みすぎやっちゅうねん。」
明石「なんとかしないと・・・」
能村「明石さん、ちょっと時間外労働してもかまわんかな」
明石「?」
能村「もうすぐ最後やしな、どろどろな気分で生まれ変わりたないわ」
能村、にやりとしてハケる
チェンジ
一方、外
天野「はあ追っかけるのも体にはこたえますなあ」
梶浦「」
そのとき天野、鼻をくんくん
天野「ん?ワープのにおい」
梶浦「ワープ?ってここ裁判所でしょ?」
天野「そうですけど、なんかここから香るんですよ」
梶浦「あのさあ、いつも思うんだけどワープって匂うの?」
天野「ええ」
梶浦「どんな?」
天野「(くんくん)能村先輩の・・・あのふわふわしたヘアーから醸しだされる・・・ド級の・・・フェ・ロ・モン」
梶浦「(絶叫)きもい!!!!!!!」
天野「もっといって、もっと!」
梶浦鉄拳
天野「いった~~~~」
梶浦「ホモとは付き合ってらんない!」
そこに
走ってくる悠
天野「あ!」
悠「あ、どうも・・・」
天野「(二枚目になって)お嬢さん!僕とハワイのマカダミアナッツチョコ並みに甘ったるいトークでもしはりませんか!」
梶浦鉄拳
天野「(ほえる)」
梶浦「女も好きなのね」
天野「韓国のキムチ並みに痛い・・・」
悠「あ、あのですね、ちょっと急いでいるんです」
梶浦「あそう。おつかれさん」
悠「失礼します」
悠、早歩きで行こうとする
梶浦「あら?」
悠「(とまって)」
梶浦「能無しがいないんだけど」
悠「あ、それは」
梶浦「それは?」
悠「ちょ、ちょっと・・・」
梶浦「サンタとトナカイは必ずコンビで動かなきゃならないんだよ?」
天野「こんなところウロウロしてはりますと番所裁判長にどつかれますよ~!」
悠「天国の決まりですか?」
天野「そうです」
梶浦「そういうこともふくめて番所さんから脳みそに入れられるはずなんだけど」
悠「あの、悠今、人探しをしてるんです」
天野「人探し?」
悠「悠よりもずっと前に死んだ人らしいんですけど、加藤誠さんって言う人と(御子柴歩先輩)」
天野「加藤誠・・・」
悠「知りませんか?」
天野「!あ、いや、おひとりで探されてはるんですか?」
悠「ええ」
梶浦「あんたバカ?」
悠「はい?」
梶浦「この天国どれくらいあると思ってるの?」
悠「さあ・・・」
天野「東京ドーム何千個ぶんです」
悠「アバウトすぎますね」
梶浦「さらに天国にいるとはかぎらないでしょ?地獄かもしれないんだし」
悠「まあ、それはそうですけど」
天野「それとあまり自分の親族以外の死人を探しちゃあきまへんのんや。」
悠「それも天国の決まりですか?」
天野「そやで」
悠「(ため息)また、決まりかあ・・・」
梶浦「ん?」
悠「あの、おふたりに質問です」
天野「どんどん聞きはって聞きはって」
悠「おふたりは、その天国の決まりってやつに息苦しさとか疑問とか感じたことないんですか?」
ふぃたり「・・・」
悠「学校いってて、校則とか、かったるいなあ、面倒だなあって思ったことありませんか?」
天野「そんなん感じるわけないですやん。ね~先輩?」
梶浦「あるわ」
天野「うっそ~ん!」
梶浦「能無しとあたしじゃあ、どう考えてもあたしのほうが先に生まれ変われるはずなのよ。それが、あいつが先だなんて・・・」
悠「梶浦先輩はなんの罪を犯したんですか?」
天野「オーディションの決勝まで行って落とされたんです」
梶浦「余計なこと言わないでよ」
天野「最初からだれが優勝するかって決まってて。そのあと悔しくて自殺しちゃったんすよね」
悠「自殺ですか!悠も一緒です」
梶浦「あたしはきれいな自殺なの。一緒にしないで!」
悠「!」
天野「自殺にきれいも汚いもありまへん」
梶浦「能無しみたいな説教すんな!」
天野「きゃあ」
悠「あの、ひょっとして能村先輩のことも知ってます?」
天野「あのお方は、悲しい過去を背負ってはりますのや」(そのとき能村が走ってやってくる。悠を見つけ、声をかけようとするが、自分の話らしいと聞き、物陰に隠れる)
悠「悲しい過去?」
天野「会社のお偉いさんになった能村先輩は仕事に夢中になるあまり、家族のことを軽んじてしまったのであります。」
梶浦「奥さんと娘さんと遊園地に行く約束があったにも関わらず、それを破って休日出勤。」
天野「その途中で、事故にあわれたというわけ。」(舞台上の能村・・・表情)
悠「そうなんですか・・・」
天野「それだけじゃ終わりまへんで」
梶浦「サンタとしてこっちにきたんだけど、お客さんにお願いされて、死人を生き返らせちゃったの・・・」
悠「え!それって天国の規則違反ってやつじゃないですか」
天野「まあ、そのときの相方トナカイってのが松ヶ崎さんなんやけどね」
悠「松ヶ崎さん」
天野「今は地獄を管理する番人さん。ああ、風のうわさやけどな、松ヶ崎さんが能村先輩をそそのかして生き返らせたって説が(あるんよ)」
梶浦「違う!」
ふたり「!」
梶浦「違う。そんなことする人じゃないもん」
天野「梶浦先輩?なんでそんなに松ヶ崎さんの味方に?」
梶浦「いいから!」
ふたり「?」
梶浦「とにかく、能村は再裁判にかけられて、生まれ変わりを延長された挙句トナカイに格下げ。で今に至るってわけ」
天野「悠さんも、死人を探して勝手に会わせちゃったら、とんでもないことになるっすよ?」
悠「・・・いいですよ」
天野「え」
悠「トナカイになってもいいんです」
梶浦「どういうこと?」
悠「悠、実は加藤誠さん以外にもう一人探している人がいるんです。」
梶浦「誰よ?」
悠「それは・・・そのあの・・・」
天野「ん~~~~?わかった!好きな人だ。僕は梶浦先輩大好きですよ~でもほんとは能村先輩のほうが好きなんですよね」
梶浦「嘘つき!両刀使いのくせに」
梶浦「な、なによ?(☜の文章をできれば一息で言ってください)
あたし別にサンタに初めてなったとき「能無し」にガンガン自殺のこと怒られて、あたしも散々反抗したんだけどなんだか気がついたら納得してる自分にびっくりして、ふと顔をあげたら能無しの瞳にやられちゃって胸がドッキンドッキンしてたってわけじゃないからね!」
ふたり「・・・」
梶浦「(息切れ)好き(息切れ)・・じゃないもん!あともう少しで・・・生まれ変わりだからって・・・あたしの目の前からいなくなるからって・・・さびしいわけじゃないもん」
悠「好きなんですね能村先輩のこと」
梶浦「キライ!」
悠「ならおもいきって交換しちゃいましょう。」
天野「はいよろこんで!」
梶浦「できるわきゃないでしょ!会社が違うの会社が!」
悠「それも規則ですか」
梶浦「それは・・・規則っつうか、なんていうんだろう・・・」
天野「大人の約束?あ、いや暗黙の了解みたいな感じやなあ」
悠「悠まだ子供ですから」
梶浦「都合いいときだけ子供になるんじゃないよ」
悠「人探しと下界にワープしたいんです」
能村「俺を使えや」
全員びくっと能村を見る
悠「(能村見て)や、やばい!(梶浦に)梶浦先輩!借ります!」
梶浦「え!」
悠「それ!」
天野「わーーー」
悠、天野をぶんどっていく
能村「羽根沢悠!」
能村おっかけようとするが 影で
天野「しょうがないなあ。いきますよ!いろはにほ、へ」
悠、天野「とう!わ~~~~~~~」(能村止まる)
悠「あの・・・ワープ、ダサくないですか?」
天野「へ?」
能村「くそ、あいつらワープしやがった・・・」
梶浦「ったく、あんたがサンタを教育しないのが悪いんだからね!ふん」
そういいながら、梶浦、能村と顔をあわせる
梶浦はける
そこに
松ヶ崎「自分についたサンタさえも教育できないなんてな」
能村「松ヶ崎・・・」
松ヶ崎「相変わらず馬鹿ヅラさげてエセ関西弁話しまくってるねえ」
能村「じゃかあしいや!しっかりしゃべっとるがなボケ!」
松ヶ崎「せいぜい、お笑いマニア程度にしゃべれるようになりたまえ」
能村「お前なんでここにいるんや?」
松ヶ崎「通りすがりだ」
能村「ん?まさか・・・羽根沢悠を(ほしがってる)?」
松ヶ崎「(微笑)お前の妄想にはついていけないね」
松ヶ崎ハケようとする
それに食って掛かり
能村「お前がどんなに神様に認められた地獄の番人だったとしてもなあ、あいつは絶対地獄に渡さへん」
松ヶ崎「(止まって微笑)」
能村「なに笑ってんねん!」
松ヶ崎「現実を知らないということはこれほどまで幸せなんだと思ってな」
能村「俺をはめてトナカイに格下げにしただけで満足やろ!これ以上他人に迷惑かけんといてくれ!」
松ヶ崎「迷惑?」
能村「今年の夏、運命でもない死に方でこっちにきた男がおった、忘れたとはいわせん」
松ヶ崎「なんかいたなあ。」
能村「後で番所さんが調べたらそいつがこっちにくるのは何十年も先やった。死人帳簿は几帳面な字で二重線がひかれて、命日が書き直されておった」
松ヶ崎「(微笑)」
能村「帳簿は裁判所の厳重な金庫に管理されている。触れるのは番所さんと天国と地獄の番人・・・。」
松ヶ崎「つまりお前がいいたいのは、下界の運命すらも俺がコントロールしてるというのか!」
能村「地獄の死人増加計画。そのノルマのためやろ」
松ヶ崎「もしそれを俺がやったとしてメリットがないなあ。名探偵に簡単に推理されちゃうし」
能村「・・・」
松ヶ崎「まあ確かに最近の番所の優柔不断な裁判ぶりでは俺がやりたくなったとしてもおかしくないがね」
能村「番所さんを悪くいうんやない!」
松ヶ崎「(かまわず)ではあれを見ろ!」
松ヶ崎、地獄の門の先を指差す
能村「!」
松ヶ崎「針の山は錆びついてるか先が丸まってるのどっちかだ・・・血の池では鬼どもが露天風呂気分を味わうていたらく!」
能村「ポイントためた後で地獄行きのやつだっているやんか!」
松ヶ崎「微々たるものだ!(血の池のほうに腕を一振りする)」
むちがしなる音
恐ろしい悲鳴が聞こえる
松ヶ崎「天秤はつりあって初めて意味を成す。地獄と天国の不均衡にはもう我慢ならない。悪いことをしたら地獄に落ちる。その定理はこの平成の世の中どこへいった?神様はそれを危惧していらっしゃる」
能村「神様が?・・・」
松ヶ崎「自殺だって昔の裁判長たちなら有無を言わさず地獄行きだった。俺は過去の名だたる裁判長に敬意を払い羽根沢悠を迎えたいだけなんだよ(松ヶ崎ハケようとする)」
番所「私の判決に文句つける気?」
能村「番所さん」
番所「昔の裁判長さんたちには失礼だけど、私は多面的にその死人の情報を見て判断してる。情に訴えようなんてやつは速攻こっちに送ってるけど」
松ヶ崎「俺には優柔不断な判定にしかみえないけどね」
番所「視野がせまいもんね」
番所「番所、いい加減ここ地獄の門からワープするのはやめていただきたいもんだね」
番所「いいじゃない。ここからワープすればランドマークタワーまで一気にいけるし。買い物のとき便利なんだよね」
松ヶ崎「神様も哀れんでいたぞ、その服をなんとかしてくれって」
番所「ショッピングは神様も認めてくださってる。私の唯一の趣味なんだから文句言わせないよ」
松ヶ崎「せいぜい楽しむがいい。俺はそろそろ戻る」
番所「仕事熱心だね~」
松ヶ崎はけようとするが
松ヶ崎「あ、思い出した。」
能村「?」
松ヶ崎「さっきの男は天野だよ」
能村「天野?」
松ヶ崎「裁判のときにおもいきり取り乱していたからなあ、臆病者のお前と違って記憶をまっさらにして新しい名前をつけた」
能村「そうすると、本当の名前は?」
松ヶ崎「知るか(はける)」
能村「松ヶ崎!・・・」
番所「どうしたの?」
能村「ああもう!それどころやないんですよ!ちょっと失礼します。いっせーの!」
梶浦「番所さん!」
能村「梶浦!」
番所「(梶浦に)どうした。今とりこんでるんだけど」
梶浦「裁判長に直接お話があります・・・」
番所「今は話せないの?」
梶浦「ええ(といって能村を見る)」
能村「おお、じゃ、これで」
能村、はける
梶浦、いなくなったのを確認してから
梶浦「昨日サンタパワーに入った新人、妙な動きをしていますよ」
番所「?」
梶浦「死人を探しているみたいです。」
番所「!」
梶浦「このまま野放しにしとくわけにはいきませんよね」
番所、携帯電話を取り出す
番所「(電話)番所。大至急、天国の番人たちを全員下界に。これは命令です」
電話を切る
番所「情報ありがとう」
梶浦「裁判長のお役に立てればと思いまして」
番所「話は以上?終わったなら、会社に戻りなさい。仕事の途中でしょ?」
梶浦「番所さんは天国の管理責任者ですよね。」
松ヶ崎「そう、神様の次の偉いさんだ」
番所「それで?」
梶浦「あたしを天国の番人枠に推薦してください」
番所「!」
梶浦「すべてをつかさどる神様の手前、もし今の情報がなくてあの子が決まりを破ったら、どう責任を取るおつもりですか?」
番所「あんた・・・誰に向かって口を聞いてると思ってるの・・・」
梶浦「裁判長ならわかっていただけるはずです」
番所「・・・長年サンタをやって、偉くなったものね・・・」
梶浦「罪の償いは能なし以上に果たしてると思いますが」
番所「・・・」
梶浦「・・・失礼しました」
梶浦、はける
見つめる番所
チェンジ。
※2008/11/20挿入分
チェンジ
一方こちらは下界
ゆっくりと悠と天野がインする
天野「ほい!いろはにほへとワープ完了」
悠「んーなんか腰のあたりがきもちわるいです・・・」
天野「そらそうでひょ。相方のトナカイが違えばワープのノリも違う」
悠「(腰のストレッチとかしながら)相方って大事なんですね」
天野「友達にしろ彼女彼氏の関係も全部そう。わがまま言わんと、いかにお互いを思いやるかが長続きする秘訣ちゃいますか」
悠「・・・」
天野「?」
悠「ん?あ、いや・・・」
天野「梶浦先輩には悪いですけど今は僕、悠さんの相方です。」
悠「はい・・・」
天野「相方である以上、僕は悠さんを思いやる必要がある。同じくらいに、悠さんも僕を思ってください」
悠「・・・」
天野「ま、思いやるっちゅうのはアバウトやし、やろう思ても難しんやけどね。でも相方として悠さんが今思ってること、気になります」
悠「・・・」
天野「座りまへんか?」
悠「?」
天野「あそこにちょうどええのがある。座って話しましょう」
ふたり、ベンチに座る
天野「さ、どうぞ」
悠「どうぞっていわれると話しにくいなあ・・・」
天野「そうでっか? じゃあ、話したくなるまで待ちますよ」
悠「・・・」
天野「(にこにこ)」
悠「・・・悠が先輩を思わなかったら、先輩も悠もまだあっちに行かなくてよかったのかなって」
天野「・・・」
悠「悠ね、生まれて初めてお付き合いしたんです。相手はミュージカルサークルの先輩で、背が高くってやさしくて・・」
天野「ええですねえ」
悠「その日、たまたま学校のピアノの補習に出なきゃならなくて、練習に行くの遅くなりそうだったんですよ。区民会館までダッシュしてたら先輩がバイクで通りかかってくれて一緒に乗ったら事故にあって・・・」
天野「・・・」
悠「目が覚めたら病院でした。隣に悠の友達がいて・・・先輩が死んじゃったって聞きました」
天野「・・・」
悠「悠は知ってたんです。友達も先輩のこと好きなの、告白する前に悠が先越しちゃったから、そこはがんばってずっと見守ってくれてた。でも我慢できなくなったんでしょうね。」
天野「・・・」
悠「先輩が死んだのは悠のせいだって・・・」」
天野「!」
悠「悠が会わなかったら・・・悠が一緒に乗らなかったら・・・悠が、先輩を好きにならなかったら先輩は死ななくてすんだなのに、なんで悠は生きてるの・・・」
天野「・・・」
悠「だから悠には思いやるどころか、誰かを好きになることも、愛することもできない・・・」
天野「今の話、能村先輩には話しました?」
悠「(いいえ)」
天野「先に聞いちゃうなんて悪いことしたなあ、あとで能村先輩にはあやまっとこう」
悠「・・・」
天野「サンタさんってトナカイと違って生きてるときの記憶があるんですよね。それはええときもあれば悪いときもある。・・・
僕が思うに、悠さんがその思いを忘れない限り、前には進まれへんと思います」
悠「忘れたくても・・・忘れられません・・・」
天野「僕はトナカイやから、下界のころの記憶はきれいさっぱりありまへん。でもたまに、なんか胸の奥でこう・・・誰かを思い切り愛していたような、ふんわりあったかい熱を感じるときがあります」
悠「・・・」
天野「調子ええかもしれんけど、僕は天国でも下界でも、男も女も誰もみんな、愛していたのかもしれまへん」
悠「・・・」
天野「思い出を忘れても、きっと何かが残ってる。だから前に進める。それでええんちゃうかなあ」
悠「・・・なんか、かっこいいですね」
天野「お!もっとほめてほめて!」
悠「いやです」
天野「ええ~僕はほめられて伸びる子ですよ~」
悠「じゃいきましょう」
天野「ほいほい・・・」
悠「ここです」
天野「ふーん。普通の家ですなあ。」
悠「見た目は普通ですけどね。中は・・・」
天野「ええ、こわいなあ(そういいながらふとドアを見る)ん」
悠「じゃ、いきますよ」
天野「あ、先いっててください」
悠「え?」
天野「気になるんよ。この玄関のドアの色なんや?へったくそでしょうもないわあ。だれが塗ったんやろ?」
悠「そんなこといわないでいきますよ」
そのとき
佳美「サンタさん?
悠「あ、こんにちは。」
佳美「ここに来たってことは誠、つれてきてくれたのよね?」
悠「あ、いや、その・・・」
佳美「ちょっと見せて」
悠「あのまだそれは・・・」
天野「お待たせしました~。ドアのペンキなんやろうね~」
佳美「あ・・・」
悠「ん?」
佳美「・・・」
悠「あの?」
佳美「(小さな声で)誠美・・・」
悠「?」
佳美「(二階に聞こえるように)誠美!誠美!」
悠「どうしたんですか?」
佳美「(悠に)ありがとう」
悠「え」
佳美「誠、連れてきてくれたのね」
悠・天野「え?」
佳美「(中に入りながら)誠美?早く降りてきなさい!お父さんが!お父さんがいるの!」
天野「ぼ、僕が・・・」
悠「ま、誠さん?」
そのとき
能村「くそ!間に合わへんかったか!」
悠「先輩!」
能村、ふたりを一気に外へ連れ出す
能村「このドアホ!早く天国もどろや!今なら神様にも、番所さんにもバレへんし」
番所「ばれてるよ」
番所、梶浦とともに出てくる
能村「番所さん!」
番所「残念ね、羽根沢悠・・・」
悠「・・・」
番所「即刻裁判です!」
暗転
第三章
明転
ここは裁判所
冒頭の男がテーブルの前に座っている
そこに悠がやってくる
悠「あ」
男「?」
悠「あのときの」
男「あのときの。(うなづいて)こんにちは」
悠「こ、こんにちは」
男「サンタクロース、楽しんでますか?」
悠「・・・」
男「楽しんでないんですか?」
悠「・・・悠ってなんで自殺なのに地獄にいかなかったんだろう・・・」
男「?」
悠「梶浦さんだって、そうだけど・・・なんでサンタになんかされたんだろうって」
男「地獄いってみたいですか?」
悠「いったことあるんですか?」
男「質問を質問で返さないでください。」
悠「すいません・・・」
男「行ったことありますよ。遊びに」
悠「遊び?」
男「遊び」
悠「地獄って遊びにいけるんですか」
男「うん気軽に。いつでもいってみていいんですよ。鬼さんたちもあなたを見たらうれしがるだろうし」
悠「そうなんですかあ・・・」
男「?」
悠「・・・もういっちゃおうかな・・・どうせこのあと、地獄送りなんだろうし・・・」
男「・・・」
悠「・・・人を幸せにして、なんで怒られなきゃならないんですか?」
男、さっと机の中から冒頭に作った風船を出す
悠「あ、それ!」
男「ここに入ってました。せっかく、きみのために作ってあげたのにとっちゃうなんて、るみ子ちゃんも酷なことしてくれる」
悠「るみこちゃん?」
男「ん?ああ、番所るみ子ちゃん。ここの裁判長さん。顔に似合わず意外と古風な名前でしょ」
悠「いや似合ってると思いますけどねえ」
男「(悠の話しは聞かずひもを取り出し、風船人形のどこかに結びはじめる)」
悠「聞いてます?」
男「(結びながら)聞いてますよ。もっとかわいい名前をあげようと思ったんですけどねえ、昔のだんなの初恋の人の名前だからって譲んなくてね。」
悠「結婚してるんですか」
男「はい(風船人形を渡す)」
悠「もう一度いただきます」
男「落としたりだれかに取られたりしないように、どこかに結んどいてください。」
悠「かしこました(どこかに結ぶ)」
男「なつかしい響きですね」
悠「え?」
男「いいお返事です。ごほうびに・・・」
男、カップと何個かのサイコロを出す
悠「あ、わかった!丁か半かってやつですよね?映画で見ましたよ」
男「(笑い)なるほど。では『入ります!』」
男、カップの口を下に向けると
机の上で動かし始める
そして何回か動かしてから
男「勝負!」
悠「じゃあ丁」
男、カップをあげる
すると
サイコロがすべて積み重なって、ひとつの小さなタワーになっている
悠「すごい!」
男「いえいえ」
悠「おじさん、マジシャンとか大道芸の人ですか?天国でなにしてるんですか?」
男「(聞かずに)さっきまでここでばらばらだったサイコロがこのカップの中でひとつになりました。」
悠「はい」
男「あなたはこのカップになれる力がある」
悠「え?」
男「ばらばらになってるみんなをひとつにできるんですよ」
悠「それはサンタとして番所さんからもらった神様と同じくらいの力のひとつなんですか?」
男「いいえ、あなたがもともと持っている力」
悠「悠がですか?」
男「人を疑うことを知らないというのは、あちらでは悲しいことですが、ここではすばらしいことなんです。」
悠「!」
男、ふと顔をあげる
男「おっと!そろそろお風呂の時間なのでいきます(かたづけはじめる)」
悠「おふろ」
男「(かたづけながら)気持ちいいんですよ、鉄分が豊富で」
悠「はあ・・・」
男片付けて
男「あ、最後に」
悠「はい」
男「私は『おじさん』じゃないです」
悠「すいません・・・おにいさん」
男「(にっこり)では!」
男はける
そのとき
ぼうぜんとしていると
能村と天野がインしてくる
能村「なにボケっと突ったっとんねん」
悠「す、すいません」
能村「(風船人形に気づいて)ん?それどこでもらったん?」
悠「おにいさんに?」
能村「オニサン?へえお前この顔で地獄の鬼にナンパされたんかあ」
悠「おにいさんです」
能村「へ?おにいさんやって!」
天野「(愛想笑い)おにいさん」
能村「世も末やんなあ、おにいさん・・・おにいさん?!」
悠「?」
能村「その人、どこ行ったん!?」
悠「え?そこに・・・」
能村「あほ!その人すんごい人やで!」
あわてて能村追いかける
しかしそこに
梶浦「トイレかしら?能無し」
能村「(舌打ち)」
天野「お手柔らかにお願いしますよ?」
天野「あたしはお手柔らかだけど、番所さんがどうなるかねえ」
番所「静粛に!」
番所イン
番所「はいあんたたちはこっち。あんたはあっち」
上手に悠・能村・天野
下手に梶浦が座る
番所、真ん中のいすにすわり
番所「ただいまより臨時裁判を行います。」
能村「(挙手して)はいはいはい」
番所「どうぞ」
能村「弁護人として明石さん呼んでええかな」
番所「時間がない」
梶浦「(天野のほうを見て)いるじゃない?」
天野「ぼ、ぼくでっかあ?」
能村「え~・・・(失望)」
天野「(能村に)が、がんばりますよ~」
番所「まず梶浦からどうぞ」
梶浦「裁判長、こちらは地獄の番人、松ヶ崎さんをおよびしてるのですが」
番所「もういるのね?認めます」
能村「そらないやろう?明石さん呼んでもええんちゃうの?」
番所「ここにいないなら認めません」
能村「なんやねんなそれ・・・」
天野「さっき電話したんですけど、圏外で」
能村「圏外?」
梶浦「松ヶ崎さん、いらしてるならどうぞお越しください」
シーン
能村「あいつは表舞台には出てこうへんで。」
梶浦「なんでそんなこといえるの?」
能村「昔から影で人をあやつるの大好きやったし。」
梶浦「そんな」
能村「梶浦もあやつられてるんちゃう?」
梶浦「違います!」
番所「静粛に!」
ふたり「・・・」
番所「いないならひとりでやるしかないね。できる?」
梶浦「子ども扱いしないでください」
番所「ならどうぞ」
梶浦「こちらサンタパワー所属の二名およびわが社の一名が天国の決まりを破りました。下界の人間との再会です」
番所「羽根沢悠、そして能村博之、天野義房の三人、いかがですか?」
能村「ってか番所さんもその目で見たやないですか。異議なし」
悠「裁判長」
番所「羽根沢悠」
悠「能村先輩や、天野さんは悪くありません。悠が悪いんです」
能村「今そんなことをいう場合やないやろ」
悠「悠が無理いって天野さんを連れてったんです。」
能村「(天野に)お前生きてるころ『加藤誠』やったって覚えとけや!」
天野「だってトナカイって普通記憶全部消されますやん。なんとなくは覚えとったけど・・・」
能村「ほんまめんどくさいわ!覚えとりゃ、あのあほといっしょについていかんくてもよかったやろ」
天野「すんまへん。僕を嫌いになりはりました?」
能村「当たり前や!」
天野「ええええええんんえんえんえん(号泣しながら能村に抱きつく)」
能村「なんやねん!」
悠「能村先輩こそ今言う必要ないですよ!」
能村「うるさい!もうめんどくさいわ!」
悠「(番所に)責任は悠にあります。だから悠だけ罰してください。」
天野「ああああん、かっこいいん悠さあああああああん(号泣しながら悠に抱きつく)
梶浦「そこの両刀遣い!みっともない!」
天野「梶浦先輩こそ能村先輩のことだけ見つめてばっかやん」
梶浦「関係ないでしょ!」
能村「え!あいつも俺のこと好きなん?」
天野「鈍感ですなあ。梶浦先輩いつも『スキスキチュッチュ光線』出してたん感じはりませんでした?」
梶浦「こら!」
能村「!(いろんなものが胃からノドあたりにきて)番所さんトイレどこやったっけ」
番所「あっち!」
能村「(口に耐えながら)偉うすんません!(ダッシュではける)」
梶浦「(その背中に)ほんと失礼!」
番所「天野」
天野「はい!」
番所「ちょっと」
天野、番所のところにいく
番所「さいばんを~おじゃましちゃうおこちゃまは~おねんねよ!(腹をなぐって気絶させる)」
天野をはしっこによせる
悠「実力行使ですか・・・」
番所「うん。いつもやってるよ」
悠「すごい・・・」
能村「(インして)失礼しました・・・」
番所「能村」
能村「はい」
番所「あなた新人サンタの教育係でしょ。あなたの管理責任を疑います。」
能村「・・・」
番所「もうすぐ生まれ変わって下界で立ち直らなきゃならない大事なときに・・・」
能村「・・・」
番所「(悠のとこにいって)あなたひとりが罪をかぶる必要はない。」
悠「でも」
番所「みんな同罪。許されると思わないで」
そのとき
梶浦「ひとつ発言してもよろしいでしょうか」
番所「認めます」
梶浦「こうなってしまったのはもちろんこの三人が悪いです。まあ、ここにはいませんが、サンタ管理会社の明石さんもですけどね。でも番所さん」
番所「?」
梶浦「あなたの管理不行届きもひとつの原因ではないかとあたしは思うのですが」
番所「!」
梶浦「天国界最高の管理責任者は番所さんあなたですよね」
番所「・・・梶浦・・・」
梶浦「責任は番所さんも取るべきです」
番所「・・・責任は後々考えます」
梶浦「遅い!」
番所「!」
梶浦「今ここに裁判長交代を要求します!」
能村「おい!」
梶浦「ほかの番人たちが知る前にさっさと事を済まされたほうが楽ですよ」
能村「待てや!だれに交代するんや?だれか天国から呼んでくるんか?」
梶浦「ここにいるじゃないですか」
能村「は?」
梶浦「あたしが裁判長になります」
能村「交代には現裁判長の推薦と神様の承認がいるはずや。できんのかお前に!」
梶浦「できるよ。番所さんは何十年と裁判長をやったお方。この事態が天国界を揺るがすかもしれないことをわかってらしゃる」
能村「番所さん、そうなんか?」
番所「・・・」
梶浦「あたしが気持ちよく裁いてあげる。能無し」
能村「いつまでお前はへそ曲がりなんや」
梶浦「!」
能村「お前がまだペイペイだったころ、心が細いままで他人に幸せなんてあげられんって何回も説教したよな?」
梶浦「もう細くない!」
能村「細いままやからこんな大事(おおごと)起こすやんか!お前はいつになったら本当のサンタになるんや!」
梶浦「とっくに本当のサンタになってんのに認めてくれなかったのはあんただけじゃない!」
能村「ドアホ!ここでもう一度説教したるわ!」
梶浦「聞きたくない!」
悠「もうやめましょうよ」
もめるそっちがわ
そのとき番所、静かに携帯を出す
番所「(携帯に)もしもし、番所です。神様をお願いします」
けんか、いっしゅんとまる
番所「(携帯に)番所でございます。神様・・・私の職は・・・どうすればよろしいでしょうか・・・」
能村「やめることない!(携帯を奪う)」
番所「能村!」
能村「(携帯に)神様!今見てんなら聞いてくれへんかな!おれがあんとき羽根沢悠を追っかけて止めへんかったんが悪いんや。おれを地獄へ送ってくれればすむことや!」
悠「(能村の携帯をぶんどって)悠が悪いんです。遠慮なく悠を地獄におとしてください!」
番所「黙って!」
ふたり「!」
番所「(携帯を奪い)お聞き苦しい点申し訳ございませんでした・・・」
みんな「・・・」
番所「(携帯)はい・・・私にまかせる、というのですね・・・それでは新しい裁判長として・・・梶浦照葉を推薦いたします」
能村「番所さん!」
番所「(電話)長い間お世話になりました。あとはこちらで。失礼いたします」
番所、電話を切る
そして静かに梶浦の前へ
番所「梶浦照葉・・・あなたを天国界裁判長に任ずる」
梶浦「ありがとうございます」
番所「(携帯を渡して)今この瞬間からあなたは神様の次に偉くなった」
浦「がんばります」
番所「・・・好きにしなさい」
梶浦「好きにします」
番所「ふん・・・この携帯の重さは・・・いつかあなたを押しつぶすから」
番所はける
悠「(番所に)待ってください」
梶浦「羽根沢悠」
悠「(とまって)」
梶浦「あなたの判決を言い渡します」
能村「ちょっと待てや。うちらの言い分は聞いてくれんのか?」
梶浦「天国の決まりを破った人間に言い分もなにもない」
能村「前の裁判のとき、番所さんは俺の言い分を聞いてくれたぞ」
梶浦「あたしをあんなやつと一緒にしないで!」
能村「梶浦!」
梶浦「あたしの言うことは絶対!」
悠「梶浦先輩」
梶浦「裁判長とお呼び。」
悠、つかつかと歩み寄って
悠「裁判長は他人を信じられますか」
梶浦「もちろん」
悠「なら、なぜ自殺したんですか」
梶浦「質問は却下する。判決を言い渡す」
悠「梶浦先輩に悠は裁けない!」
梶浦「!」
悠「悠と同じ、弱いから・・・」
梶浦「あんた(怒り)・・・」
悠「梶浦さんに自分以外を裁く資格はありません!」
悠、走っていく
能村「おい!(悠を追いかけようとする)」
梶浦「(携帯に)新しく裁判長になった梶浦照葉よ。よろしく。天国の番人全員に告ぐ!総力を挙げて羽根沢悠を捕まえなさい!これは命令です!」
能村「番人どもにいかせるか!(はけようとする)」
梶浦「能村博之」
能村「(止まって)やっと俺の名前をいってくれたな」
梶浦「判決を言い渡す。能村博之、あなたの償いポイントを減点することとします」
能村「ラッキーや。天国おれるなら文句ない」
梶浦「ただいまよりわたしの補佐官を任じます」
能村「!」
梶浦は能村の腰紐を取る
梶浦「(腰紐を見せ付けて)今この瞬間から、あなたはわたしの補佐をしてください」
能村「そんな役職なかったやんか」
梶浦「今作ったの。神様の次に偉いあたしなんだから、言った瞬間に役職になる」
能村「(梶浦をにらみつける)」
梶浦「補佐官をやりなさい」
能村「・・・」
梶浦、天野のほっぺたをたたいて起こす
天野「?んあ?梶浦さん」
梶浦「天野義房。」
天野「ん?なんか、裁判長っぽいですねえ」
梶浦「うん、そうだよ」
天野「え」
梶浦「天野義房、判決を言い渡す。」
天野「はんけつ・・・」
梶浦「あんた、地獄にいきなさい」
天野「え!」
梶浦、天野の腰紐をはずす
天野「!」
能村「(天野の変化に気づく)ん?」
梶浦「(気づいてない。腰紐を適当にまとめながら)あんたさあ、奥さんに会っちゃだめだよ」
天野→誠「(梶浦を珍しそうに見る)」
能村「梶浦」
梶浦「(誠に)まあ長年あたしと組んだ身内みたいなもんだし?ちょっとは軽くしときたいのは山々なんだけど、裁判長なった最初だからちょっとは厳しくいかないと、神様とかの手前さ、なにいわれるかわかんないし」
誠「あなただれですか?」
梶浦「は」
誠「ここは裁判所?」
梶浦「あんた・・・」
誠「(聞かずに)そっか。まだおれあの世にいるんだ・・・佳美にもう会えないのか・・・」
能村「天野」
誠「天野ってだれですか?」
梶浦「ボケるのもいい加減にして。」
誠「ぼける・・・」
梶浦「あんた自分の名前も忘れたの?」
誠「俺の名前は加藤誠っていいますけど?」
能村「記憶を取り戻した・・・」
梶浦「え!」
能村「梶浦!ロープをもう一度つけてみろ!」
梶浦「(あたふた)ああうん」
梶浦、動揺しながらも腰紐をもう一度つけようとする
そのとき松ヶ崎さらりと入ってきて梶浦につけられる前に無言で抱きしめる
松ヶ崎「ようこそ地獄へ」
誠「地獄!」
梶浦「松ヶ崎さん!」
松ヶ崎「就任おめでとう。さっそく判決どおり、もらってくよ」
梶浦「え・・・」
松ヶ崎「裏で聞いてた。裁判長の言葉って絶対なんだろ?」
梶浦「それは」
松ヶ崎「それは?」
能村「松ヶ崎!」
松ヶ崎「おっと、お前も俺たちと同じ役人の仲間入りだっけ?おめでとう」
能村「お前本気で地獄に連れて行くんか」
松ヶ崎「安心しろ。手荒な真似したのは昔の話。試練が終われば生き返られる。サンタトナカイどもより早いかもよ」
誠「そうなんですか?」
松ヶ崎「いい子でがんばりたまえ」
誠「佳美に早く会えるならがんばります」
能村「デタラメ信じんなや!」
松ヶ崎「どっちがデタラメだ?お遊戯会しっかり『勉強』させてもらったよ!」
ふたり「!」
松ヶ崎「こんなサンタごときにクーデター起こされるくらいなら、天国も終わったもんだな」
松ヶ崎、誠はける
その背中を見つめるふたり
チェンジ
チェンジ
外
番所がやってくる
そこに悠が追いかけてくる
悠「番所さん」
番所「(歩く)」
悠「裁判長!」
番所「(とまって)そう呼ぶのはやめて」
悠「・・・」
番所「今はもう・・・サンタにもトナカイにもなれない、ただの死人」
悠「・・・」
番所「・・・ただの番所るみ子よ」
突然
悠「すいませんでした!」
番所「!」
悠「悠のせいで、番所さんも巻き込んでしまって」
番所「過ぎたことは考えない。」
悠「・・・」
番所「これからのこと、考えましょう」
悠「かしこました・・・」
番所「裁判長なんてただの役職、そんなものに未練はない・・・って思ってるんだけどね・・・心残りがひとつだけあって」
悠「?」
番所「あんなことがなけりゃこのあとサンタとトナカイをみんな集めて、打ち上げをやろうと思ってたの」
悠「打ち上げ・・・」
番所「今年のクリスマスお疲れさんパーティね。それができないのは・・・くやしい・・・」
悠「まかせてください!」
番所「え?」
悠「やりましょう!」
番所「だって、ここ外だよ?」
悠、にこにこ笑いながら
手を差し出す
悠「(眼をつぶって)パーティしましょう・・・打ち上げしましょう・・・・はい!」
音がする
番所「し、シャンパン?」
悠「シャンパンじゃなくてごめんなさい。シャンメリーです」
番所「ああ、スーパーとかで売ってるノンアルコールの?」
悠「未成年ですから」
番所「ちょっと物足りないなあ」
悠「乾杯しましょう」
番所「いや、アルコールがほしいんだけど・・・」
悠聞かずに、栓を抜こうとする
しかしなかなか抜けない
そのうちそれが番所のほうにむいて
番所「こわい!」
悠「す!すいません!」
再び抜こうとして
でも抜けず
番所「ああもう!」
ついに番所も手を出す
番所「(びんの首をつかんで)貸して」
悠「番所さん・・・!」
番所「共同作業でいくよ」
悠「はい!」
ふたり「せーの!」
ぽんっと抜ける
番所「(顔を見合わせて)あは・・・」
悠「(番所を見て)あはは・・・」
ふたり「あはははは」
悠「お注ぎします」
番所「はい」
悠、番所にグラスを持たせて注ぐ
手酌で注ごうとする悠
番所「ちょっと」
悠「はい?」
番所「それはさびしいでしょ」
番所、悠についで上げる
悠「ありがとうございます」
注ぎ終わって
番所「じゃあ、クリスマス、ご苦労さん!」
ふたり「乾杯!」
ふたりとも、一気に飲む
番所「ふぁ~、おいしい」
悠「おいしいですね」
番所「たまにはこんなのもいいね。ちょっとはすっきりした。」
悠「そうなってくれればなによりです」
番所「(飲んでから)は~もう裁判長じゃないんだもんね。・・・やっと肩から重い荷物が降りたのはいいんだけど、明日からなにしようかなあ・・・」
悠「あ、旅とかどうですか?」
番所「旅?」
悠「温泉とか、いろんなところに」
番所「私はトナカイじゃないからワープ機能はもってない。それに天国ならどこ行ったって景色は一緒」
悠「そうなんですか・・・」
番所「あ、でもありがとう。考えてくれて」
悠「とんでもないです」
番所「羽根沢さんはまだすっきりしてないでしょ?」
悠「え・・・」
番所「友達のこと。彼のこと」
悠「親もです・・・」
番所「・・・」
悠「ふたりとも先生なんです。いっつも明日の準備だあ、テストだあって、悠を見てくれなかった。」
番所「・・・」
悠「悠は音楽の高校通ってピアノやってたんですけど発表会にもきてくれないんですよ!ほかの親なんかビデオ回してニコニコしてるのに・・・」
番所「・・・」
悠「ここに来る前の日も、話そうっておもったけど・・・話しても・・・あきらめちゃって」
番所「じゃふたりがこっちにきたら、ばっちり裁いてあげる」
悠「?」
番所「能村のときと同じ。娘のことも見ない親は確かにけしからんね!」
悠「あ、でも番所さん、もう」
番所「ん?」
悠「もう・・・」
番所「あ!もう裁けないんだった・・・」
悠「仕事がしみこんでるんですね」
番所「まずいまずい!切り替えないと」
悠「いいなあ、番所さんがお母さんだったらいいのに」
番所「・・・」
悠「そしたらこんなに早くここに来なかったかもしれません。」
番所「・・・お母さんか。いいね、その響き。」
悠「?」
番所「私はお母さんなりたくてもね、子供できない体だったから。」
悠「あ、すいません!」
番所「いいの。でもね、ひとつだけあなたに伝えたいことがある」
悠「?」
番所「能村といっしょに下界におりたよね?そのとき何かを手に持たなかった?」
悠「なにか?・・・あ、ロープ!」
番所「そう。サンタとトナカイはあのロープで結ばれる。そこには上下関係も信頼も、ボケもツッコミもみんな、持つことでお互いつながる。
人も同じ。友達も、初対面の他人も、途中で嫌いになっちゃう人も、出会った瞬間に透明なロープで・・・ギュって・・・。」
悠「・・・」
番所「みんなつながってる。でもそれに気づかない。もしくは、ロープに気づいて切ってるのかもしれない」
悠「・・・」
番所「切るのをちょっと我慢・・・してみる・・・それが一歩」
悠「番所さん・・・」
番所「ふふ・・なんてね」
そのとき
明石「探しましたよ!裁判長!」
番所「もう裁判長じゃない!」
明石「あ」
悠「どこにいってたんですか大変だったんですよ!」
明石「行けなくてすいません、ちょっといろいろ、その、地獄に行ったりしてましてね」
悠「地獄?」
明石「ああ、そのことです!天野くん地獄にいますよ」
悠「地獄に?」
明石「ええ。しかもあのときの記憶を取り戻しました」
番所「ということは加藤誠に戻ったのね」
明石「はい」
番所「なるほど・・・松ヶ崎ね、すべては・・・」
明石「松ヶ崎くんが?」
番所「神様から地獄の人数ノルマせまられてたからね」
悠「悠、いきます」
明石「え?」
悠「天野さんを救えるのは悠しかいません」
明石「いないって、地獄はそう簡単にはいけませんよ」
悠「悠の責任ですから!」
明石「無理ですよあんなところ!」
悠「どっちですか地獄」
明石「あっちです」
悠「ありがとうございまーす!」
悠はける
明石「あ、羽根沢さ~ん」
番所「教えてどうするの?」
明石「申し訳ございません・・・」
番所「あたしたちも行くよ!」
明石「はい、裁判長のためなら火の中闇の中」
番所「裁判長じゃない」
明石「なんてお呼びいたしましょうか・・・・」
ふたりはける
チェンジ
第四章
ここは地獄。血の池地獄
明転すると松ヶ崎がゆったりと血の池に入っている
そこに男イン
男「(血の池に入って)お、あつあつですね」
松ヶ崎「あ、お疲れ様でございます」
男「お仕事ご苦労様。(松ヶ崎の格好を見て)ん?また相変わらず服のまま入っちゃってますね」
松ヶ崎「そうおっしゃいますがお召し物きてらっしゃるじゃないですか?」
男「私はいいんですよ私はね。でもきみのその真っ白なお召し物がいつ真っ赤に染め上がらないかって心配でね」
松ヶ崎「ご心配ありがとうございます。」
そのとき、誠の悲鳴が聞こえる
男「ひとり収穫ですね」
松ヶ崎「まだ現世に未練があるらしいので、鬼たちに断ち切らせています」
男「死人帳簿を君がいじってこっちにつれてきた方ですね」
松ヶ崎「!い、いじっておりません」
男「そうですか?」
松ヶ崎「神様に誓ってそのようなことは一切(しておりません)」
男「ま、どっちにしろれからのためには必要ですね。がんばってもらいましょう。(ペロ)ん?今日は(じっくり味見)ちょっと甘いですね」
松ヶ崎「ああああ!申し訳ございません。昨日の百億円詐欺事件の死人の血糖値がやけに高くて」
男「血の池しっかり洗ってます?お風呂用洗剤とかスポンジ足りてますか?(釜のほうに歩いたりして)?あ、風呂釜が悪いんでしょうかねえ」
松ヶ崎「うあ大丈夫でございます!」
男「おとといは鉄分が少なかったですしね」
松ヶ崎「貧血気味の女性死刑囚の血でしたから」
男「(松ヶ崎の目の前でおもいきり手をたたく)」
松ヶ崎「(びっくり!)」
男「失礼。蚊がいました。」
松ヶ崎「(荒い息、動悸、動揺を隠せない)俺は、あいや私は大きな音が・・・苦手だとご存知ではないですか・・・」
男「(聞かずに)お隣の底なし泥沼地獄にボウフラわいてませんか?」
松ヶ崎「(動悸治まらず)お、鬼どもに清掃を徹底させます・・・」
男「仕事の緊張感がない。あなたひとりにまかせたのがいけなかったかな」
松ヶ崎「!」
男「冗談です」
松ヶ崎「せめて天国並みに番人を増やしてください。ひとりだといっぱいいっぱいに(なりますよ)」
男「あなたいつか私みたいになりたいとお話してましたよね。」
松ヶ崎「はい」
男「知ってます?私の仕事。天国も地獄も下界も宇宙もすべて隈なく見なくてはいけない。地獄だけでいっぱいいっぱいになってるあなたにそれができますか?」
松ヶ崎「・・・」
男「へんな策略をせずに地獄の人数を増やすこと。それができたら、あなたの二番手を考えましょう」
松ヶ崎「羽根沢悠を二番手にしたいのですが」
男「ああそろそろのぼせちゃう」
松ヶ崎「なぜ話を聞いてくれないのですか」
男「聞いてますよ。」
松ヶ崎「!」
男「がんばってください。そんな悠さんはあなた以上にがんばってますよ。」
そのときバシコンという音
鬼(声のみ後ろにいる人全員)「(断末魔の叫び)」
誠(声のみ)「うわ、あなたは?」
悠(声のみ)「悠の弁護をしてください」
誠(声のみ「え?」
松ヶ崎「な、何事だ!」
誠、悠イン
松ヶ崎「羽根沢悠・・・」
男「がんばってますねえ・・・」
悠「すいません、ちょっと弁護人としてこの人お借りします」
松ヶ崎「おい!(風呂から立ち上がる)」
悠「キャー変態!」(といって、誠をつれてはける)」
松ヶ崎「うわ(胸とあそこを隠す)」
男「緊張感がないなあ」
松ヶ崎「え」
男「服(きてますよね)・・・」
松ヶ崎「!」
チェンジ
※ 2008/11/21挿入分
外舞台
ダッシュしてくる悠と誠
誠「まってくださいお嬢さん」
悠「?」
誠「俺はこっちの人たちとは話しなんかしたくない」
悠「・・・」
誠「もうたくさんです。死人帳簿を書き換えられて、本当の運命よりも早くこっちに来てしまった。人間の命があんなノートみたいなので管理されて、それも役人なら誰もがさわれるなんて・・・」
悠「・・・」
誠「だれが書き換えたかわかりませんが、ここにいる役人どもが許せません。こんなことしてるより早く生まれ変わりたい。どうせ地獄でも生き返れるなら、俺はあえて地獄でもいい」
悠「・・・」
誠「お嬢さんはサンタさんですよね。あなたも俺にかまわずに、サンタとして点数を稼いで生まれ変わることに専念したほうがいい」
悠「悠は、生まれ変わることを目標にしていません」
誠「え・・・」
悠「生まれ変わることがイコール幸せとは限らないじゃないですか。幸せをあげるためにサンタになったなら、悠は幸せをもっといろんな人にあげたい。」
誠「・・・」
悠「そのためにも今、誠さんが必要なんです」
悠「それを梶浦さんにわかってほしくて・・・」
能村イン
能村「羽根沢悠!」
悠「能村先輩」
能村「よく連れてきたな、お前地獄にいってたんやろ?」
悠「がんばりました」
能村「天野もよくがんばったな」
誠「もう天野じゃありませんよ」
能村「そうか、加藤誠かあ・・・」
悠「もう一度梶浦さんと話します」
能村「道は・・・険しいかもしれんぞ?」
悠「はい」
能村「・・・できるだけのことは、俺がやる」
悠「かしこました」
能村「あいつにも裁判長の重さを知ってもらわんとなあ」
そのとき
梶浦「あ、あら?地獄が怖くて逃げた新人じゃない」
悠「さっきはすいませんでした」
梶浦「一度逃げるとずっと逃げることになる。心の中は判決が怖くてしょうがないんじゃない?」
悠「・・・」
梶浦「感じない?背中に。地獄の鬼たちのネバネバした視線・・・」
※2008/11/22挿入分
悠「(にらみつける)」
梶浦「聞こえてこない?・・・あんたの・・・悲鳴!」
悠「(にらみながら)聞こえません」
梶浦「耳に意識がないのね」
悠「先ほどは勝手な行動をしてしまいすいませんでした。判決を聞きたくてもう一度来ました。」
梶浦「反省してないでしょう。天野をつれてくるなんて」
悠「天野さんじゃありません。加藤誠さんです」
誠「どうも・・・」
梶浦「ふん、(悠に)はじめるよ」
悠「かしこました」
梶浦が手をふると
どんちょうが開いて
裁判セットになっている
悠、天野、上手に座る
能村「おれはなに補佐したらええんやろか?」
梶浦「書記をして」
能村「かしこまり。わくわくするなあ、俺の初仕事。」
能村、はける
悠「天野さん、あいや。誠さん」
誠「はい」
悠「悠の弁護よろしくお願いします」
※2008/11/22 挿入分
誠「ここにくるときさんざん言いましたが、そんなこと(できませんよ)」
悠「つながってますから!」
誠「はい?」
能村、マジックとスケッチブックを持ってきてイン
梶浦「それでは追加裁判を始めます。被告は名前を述べなさい」
悠「羽根沢悠です」
梶浦「罪状は、下界の人間に死人を再会させようとしたこと、それでいいわね」
悠「はい」
梶浦「弁護人一応、聞いとこうかしら」
誠「ええと」
(能村、誠の視界に移動。スケッチブックになにかを書きはじめる)
梶浦「はやく」
誠「こちらの羽根沢悠は・・・初仕事でありまして。であるからして下界慣れしていなかったと思われます!」
梶浦「言い訳にもならないわね」
能村「(スケッチブックを軽くたたいて誠に見せる)」
誠「(おそるおそるそれを見ながら)また、配達ミスという複雑な状況下でありまして」
梶浦「いつかは誰もやる」
誠「(スケッチブック、ガンミ)サンタになったばっかりで、夫を亡くした妻とその娘を心の眼で見てしまったのであります!普通の女の子なら、それがいかに悲しいことか!そして、お客様のいうことを真摯に聞き、それをかなえてあげようと思うか!」
梶浦「(横目で)能村補佐官!」
誠「(スケッチブックを見ながら大声で)どうかここはひとつ!情状酌量による無罪をお願いします!」
能村「でかした誠さん!」
誠「あ、いえ」
梶浦「いい加減にして!」
スケッチブックをとって
梶浦「あんたAD?いくら書記でも役割が違うでしょ?」
能村「すんませんなあ。学校でも書記なんてやったことないしな。」
能村もとの位置へ
誠「すいません!お力になれなくて・・・」
悠「そんなことないです。立派でしたよ」
誠「え?・・・」
梶浦「ではサービスとして、羽根沢悠、言いたいことがあれば言いなさい」
悠「はい」
悠、静かに立つ(
このとき、番所と明石が入ってくる。
明石、行こうとするのを番所が静かにとめる
悠「梶浦先輩、能村先輩、加藤誠さん、本当にいろいろ迷惑ばかりですいませんでした」
みんな「・・・」
悠「悠はほんと・・・サンタクロース失格ですよね・・・みなさんにわがままばかりいってしまって・・・。
悠からはそれ以外言うことはありません。梶浦裁判長。」
梶浦「?」
悠「(手を出して、梶浦の手を握る)」
梶浦「!」
悠「・・・どうぞ・・・悠に判決を・・・」
梶浦「・・・」
能村「羽根沢悠!」
悠「いいんです」
梶浦「いいんだよね」
悠「はい・・・」
梶浦「自分のやったことを素直に認めるなんて、ほんとあんたバカね」
悠「バカですか・・・」
梶浦「そう。それも最強のお人よしね!あたしを信じてるなんて」
悠「思い切り信じてます。お人よしですから」
梶浦「なんでそうなるかなあ、頑固な上におつむ弱いのかなあ」
悠「悠は梶浦先輩をもう少しで嫌いになるところでした」
梶浦「嫌いになるならなればいい!」
悠「・・・」
梶浦「嫌われるのは・・・慣れてるから・・・」
悠「嫌いになる前につながりましたから」
梶浦「え」
悠「ほら」
悠、梶浦との手を見せる
悠「他人を信じないのはもったいないんです。」
梶浦「あたしに説教する気?サンタだからってね。調子のってんじゃないよ」
悠「悠と最初に一緒になってくれた能村先輩は口は悪いけど、仕事を丁寧に教えてくれたし、かっこよかった。」
能村「・・・」
悠「天野さんだって頼りないところもあるけど、面白いし。」
誠「・・・」
悠「加藤誠さんになった今は・・・もっと・・・素敵です」
誠「悠さん・・・」
悠「悠は今が楽しい。自分とは違う、いろんな人に会える今が楽しくて仕方ありません」
梶浦「・・・」
悠「自分を信じれば、他人も信じられる。おもしろくないですか? ただ人を嫌いになるんじゃなくて、無理やりでもいいから、おもいっきり好きになってみる。そこからはじめる」
梶浦「・・・」
悠「話し長くなってすいません。悠はもう、覚悟はできていますから」
梶浦「・・・」
悠「お願いします」
悠、梶浦を見つめる
それはにらみつけるのではなく、見つめるのである
梶浦「判決を・・・言い渡す」
悠「・・・」
能村「ちょっと待てや。俺も裁いてくれへんかな」
梶浦「は?」
能村「役人っちゅうもんは公平の立場に立たんとあかん。せやけど、梶浦裁判長の言うことも聞かんと、被告側に肩入れしてもうてさっきみたいな騒ぎを起こしてもた。」
梶浦「そんなことはどうでもいい」
能村「天国の規則違反ちゃいますか?」
梶浦「だからそんなことは」
明石「私も裁いてください」
梶浦「明石さん」
明石「遅くなって申し訳ございません。番所さんが責任を取る前に私が取ればよかった。羽根沢悠、能村博之の直属の監督はは私です」
梶浦「・・・」
明石「遠慮なく私も地獄に落としてください」
誠「俺もです」
梶浦「あなたまで」
誠「悠さんといっしょに地獄から出てきてしまった。地獄の中でももっと重いところにいかせてください」
梶浦「そんなところ知らない」
能村「羽根沢悠だけ地獄には行かせへんで」
悠「能村先輩・・・」
能村「大丈夫や」
※2008/11/27挿入分
明石「私たちがついてます」
誠「さあ、判決を・・・」
みんな、梶浦を見つめる
梶浦「えっと・・・あ、あの・・・」
悠「?」
梶浦「あ・・・・あ・・・」
そのとき
番所「判決がいえないの?
番所イン
番所「どうぞ、自分の思いに惑わされず、判決を下してください」
梶浦「・・・」
番所「・・・裁判長たるもの、いかなる状況下でも冷静にかつ公平に判決を下しなさい」
梶浦「・・・」
番所「さあ・・・」
梶浦「は、判決を言い渡す。まず、羽根沢悠・・・あなたを・・・」
悠「はい・・・」
梶浦「・・・」
番所「いえないのね」
梶浦「・・・だって・・・」
番所「・・・」
梶浦「ここまで他の人に・・・信じられたこと・・・ないから・・・」
番所、黙って梶浦を抱きしめる
梶浦「!・・・:番所さん」
番所「なにもいわなくていい・・・」
梶浦「はい・・・」
番所ゆっくり抱きしめるのをやめる
ふたりみつめてから番所、手を差し出す
梶浦、電話を渡そうとする
そのとき
ダッシュで松ヶ崎現れて
携帯を奪う
番所「松ヶ崎!」
松ヶ崎「なにもいわなくていいんなら、こいつの口をいただこう」
そういいながら、手を梶浦の口にかざす
梶浦その瞬間ガチっと固まる
次に、さっと松ヶ崎が手を動かすと、梶浦の携帯を渡そうとする手がなぜかそのまま、電話を自分でかけようとする手になっていく
梶浦、電話を持ち
梶浦「か・かみさまをおつなぎください・・・」
番所「やめて松ヶ崎!」
松ヶ崎「(微笑)」
能村「やめろや!」
能村、松ヶ崎に向かっていこうとする
しかし松ヶ崎が手を一振りして、能村ふっとばされる
悠「(駆け寄って)能村先輩!」(誠も駆け寄る)
松ヶ崎「(梶浦に)はい♪さん、はい」(悠と誠に支えられて口をぬぐいながら能村起き上がる)
梶浦「かみさま・・・あたらしいさいばんちょうとして・・・まつがさきあきとしをすいせ(んいたします)」
能村「おらあああああああ」(梶浦の手元にダッシュして)
能村、間一髪で手元の携帯を奪い取る
能村「嘘や嘘、神様!冗談やでえ!(というが、電話はすでに切れているので、絶望の表情で手をおろし電話を切る)ま、まにあわへんかった・・・(絶望)」
番所「そんな!」
松ヶ崎「(梶浦に)ご推薦、ありがとうございます。」
梶浦「よ・ろ・しく・おね・がい・します」
松ヶ崎「(笑顔で)はい喜んで!お前も今までがんばったねえ(頭をなでて)」
梶浦「あ・あ・あ・・・」
松ヶ崎「(一転)でも使えなかったね」
梶浦「え・・・」
松ヶ崎もう一度、梶浦の口をふさぎ、グっと力をこめてから、一気に引く
梶浦「(くぐもった苦痛の叫び)」
松ヶ崎「お前を見込んだ俺が馬鹿だった!」
松ヶ崎、梶浦の口をむしりとったのだ
そして手を放すと、梶浦、口を抑え一点を見つめ、カっと目を見開いたまま、ひざから倒れる
悠「梶浦先輩!」
悠、番所など天国の人たち全員が駆け寄る
悠「(起こそうと)梶浦先輩!梶浦先輩!」(その間に松ヶ崎①梶浦の口を食べる or ②口をどこかに捨てて手を拭く)
悠が刺激するたびに、びくんとなったり、けいれんしたりする梶浦(このあとずっと、びくんびくんしたりしてる梶浦)
番所「く、口を取るなんて・・・」
能村「松ヶ崎、てめえ・・・」
松ヶ崎「(電話)神様、松ヶ崎明俊、裁判長に就任いたしました。」
能村「神様は認めようが俺が認めん」
松ヶ崎「ぜひこの裁判に神様もお越しください。私の一刀両断の裁判ぶり、とくとお見せしましょうぞ!」
電話を切ってから
松ヶ崎「全員に判決を言い渡す、ここにいるものすべてを地獄行きとする」
能村「いけるかボケ!」
松ヶ崎「行け!」
能村「!」
松ヶ崎「お前の口も取って捨ててやろうか!」
梶浦「(くぐもった断末魔の叫び)」
みんな振り返る
梶浦の胸が大きく反り返ったかと思うと次の瞬間、梶浦の動きが止まる
悠「(起こそうと)梶浦先輩、梶浦先輩・・・」
動かない梶浦(死んだというわけではない)
悠「(悲しい絶叫)いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
松ヶ崎「や、やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
全員「?」
松ヶ崎「(息も絶え絶えに)・・・し、静かにしてさっさと・・・地獄に落ちろ全員!」
悠「!(弱い松ヶ崎を見てなにかをはっとひらめく)」
松ヶ崎「は、はやく・・・」
梶浦を支える手を誠に任せて
悠、松ヶ崎に近寄る
悠「あの」
松ヶ崎「なんだ」
悠「裁判長就任おめでとうございます」
松ヶ崎「あ、ありがとう。」
悠「あの、ちょっとさっきから松ヶ崎さん見てたら、なんか・・・その・・・」
松ヶ崎「?」
悠「かっこいいっていうか、すごいっていうかその」
松ヶ崎「昔からそうだ。ありがとう」
悠「だから~、一緒に~、働いてみたいなあ、なんちゃって」
松ヶ崎「俺の下で働きたい?」
悠「はい!」
松ヶ崎「ふん、いいだろう。お前は地獄行き却下」
悠「わーい、ありがとうございます~」
能村「羽根沢悠!」
悠「(能村方向にウインク「違いますよ、抑えて抑えて」って意味をしながら)じゃ、お近づきの印ってことで(腰につけていた、風船をとりだす)この風船をまっぷたつにしたらどうなると思いますか松ヶ崎さん?」
松ヶ崎「!」
能村「わ、割れるやんな」
誠「そうだと思います」
悠「へ~、天国の平和ボケさんたちはそう思いますかあ」
能村「なんやとコラ」
松ヶ崎「(小さく)やめろ」
悠「聞こえませんねえ。」
松ヶ崎「(絶叫)やめろ!」
悠「では勝負!(悠、ぐっと風船の真ん中を押さえ、まっぷたつにしようとする)」
松ヶ崎「(絶叫)」
そのとき
大きくとどろく雷鳴
全員「(絶叫)」
一瞬の暗転
明転
すると裁判長席のほうに男が立っている
男「呼ばれたので来てみました」
その姿を見て速攻で番所、明石、能村、梶浦は低く座る(土下座?それとも立てひざ?要相談)
悠「え?え?」
能村「あほ!はよせいや!」
能村、悠も低く座らせる
男「松ヶ崎裁判長。死人帳簿を見せてください」
松ヶ崎「!」
男「明日の死人さんをちょっとチェックしたいなあなんつって。」
松ヶ崎「ええとですね・・・」
男「あ、るみ子ちゃんとってもらえる」
番所「はいかしこました」
番所、スケッチブックをとりにいこうとする
松ヶ崎「うわあああああああやめろ!」
松ヶ崎、番所がとる前に、それを取る
番所「ちょっと空気読んで言うことききなさいよ。誰の前だと思ってんの?」
松ヶ崎「そうだけどさあ」
男「どうしたんです?見せてください」
松ヶ崎「いや、それはあのうですね・・・」
男「ふーん(悠に)そういえば悠さん」
悠「はい」
男「裁判長補佐官おめでとう。さっきなんかやってましたよね。お邪魔してごめんなさい。続けてください」
悠「かしこましたあ」
松ヶ崎「わ~~~~」
男「せっかくのお祝いだから松ヶ崎くんのほんと目の前でお見せなさい」
悠「かしこました!」(おもいっきり目の前に)
松ヶ崎「よ、よるなあ!」
悠「せーの!(風船をまっぷたつにする)」」
松ヶ崎「(絶叫)」
風船は二つに千切れている
松ヶ崎「(おそるおそる見て)・・・そ、そんな・・・」
悠「はい!」
悠、風船を放す
松ヶ崎「わああああ」(おびえ)
番所「(能村にスケッチブックを)ヘイパス!」
能村「イエッサー」
松ヶ崎「能村!」
能村「(男にスケッチブックを)どうぞ!」
男「ナイスパスおふたり」
能村・番所「いえいえ。」
男「(スケッチブック見て)どれどれ?うわあ。るみ子ちゃん、きれいな字でしっかり細かく書いてらっしゃいますね」
番所「とんでもございません」
男「すばらしい。これを管理していくのはちょっとやそっとじゃできないですよ・・・あれ?」
松ヶ崎「!」
男「今年の八月のところ・・・(ページを見せる)この字、るみ子ちゃん?」
番所「(見て)私ではございません」
男「明石さん?」
明石「(見て)社長になってからは私は見ておりません」
男「そうだよねそうだよね」
能村「あいつです」
松ヶ崎「違うって」
男「あれ?こんなところに風船がありますねえ。今度は私がお祝いしましょうか」
男風船をふくらまそうとする
松ヶ崎「や、やめてくれ~」
みんな「!」
松ヶ崎「お、おれの字だ・・・おれが・・・書き換えた・・・」
能村「やっと認めやがった・・・」
松ヶ崎「加藤誠を・・・早死にさせたのは・・・おれだ・・・」
能村「誠さん、聞こえた?」
誠「はい・・・」
男「最初からそういえばいいのに。」
松ヶ崎「だって・・・」
男「私の目は節穴じゃありません」
松ヶ崎「はい・・・」
誠「お、お前のせいで俺は・・・」
誠、松ヶ崎に食って掛かろうとするが
男それをやんわりととめる
男「暴力はいけません」
誠「でも!」
男「仕返しは不幸しか呼びません」
誠「・・・」
男「(誠に)大丈夫(松ヶ崎に)あ、そろそろお風呂の時間ですね。行きましょう」
誠「お風呂?」
男「ああいうの忘れてました。鬼さんたちに頼んで、この前ぬるかったり、甘かったりしたから、最強の血の池に仕上げるようにいっておいたんです」
松ヶ崎「そ・・・それは」
男「楽しみだなあ!最強の血の池風呂!」
松ヶ崎「い、いやだあ!」
男「おっと水没すると大変だあ(携帯をとりあげて)へへ。お先にどうぞ」
そういいながら、松ヶ崎を外に出す
そして番所に携帯を渡す
番所「!」
男「当分は、あなたしかいないようです」
番所「・・・ありがとうございます・・・」
番所、電話を持ち片手を挙げて宣誓する
番所「番所るみ子、ただいまより裁判長に復帰いたします!」
能村「よ!待ってました!」
みんな拍手
番所「体勢を立て直す。まず、能村」
能村「はい」
番所「トナカイに戻します。」
能村「かしこまり」
番所「羽根沢さん」
悠「はい」
番所「能村と組んですぐに下界にとんで」
悠「!」
番所「あなたにしかできないプレゼント、もう一度差し上げてきなさい」
悠「かしこました!」
番所「(能村の腰ひもをつけてやる)羽根沢さんを頼む」
能村「まかしとき!」
悠「先輩!」
能村「やっとお前と動けるな」
悠「はい!」
番所「それから天野・・・いや、加藤誠」
誠「はい」
番所「あなたも彼らといっしょに行きなさい」
明石「でもそれって天国の決まり違反じゃないんですか」
番所「そんなのくそくらえです!」
みんな「!」
番所「あ・・・」
明石「裁判長・・・」
番所「一度・・・いってみたかっただけ」
明石「はあ・・・」
番所「今回は超法規的措置」
みんな「・・・」
番所「(男に)認めてくださいますね」
男「(とぼけて)あれ~なんだか、今、ちょっと、耳が遠いんですよね~」
番所「えっと・・・」
男「そういうことですから」
番所「(感づいて)ありがとうございます!」
誠「あの、行きたいのは山々なのですが・・・」
番所「?」
誠「梶浦さんが・・・」
悠「そうだ(挙手して)番所さんお願いがあります!」
番所「はい羽根沢悠」
悠「悠がこのあとやるポイントは・・・悠じゃなくて、梶浦さんにあげてください」
番所「!」
悠「そのポイントで・・・梶浦さんの口を戻してあげてください」
番所「えっと、そういうことはいくらあたしでも・・・その・・・(できないの)」
男「私におまかせください」
悠「ほんとですか!」
男「はい」
悠「おにいさんなんでもできるんですね!すごいすごい!」
番所「こら!(お兄さんなんて呼ぶなんて非常識極まりない!)」
能村「す!すんません!あとでちゃんと教えときますさかい!」
明石「梶浦さんの口が治るまでは私と番所さんにおまかせください」
悠「よろしくお願いします」
番所「以上、臨時裁判を閉廷する。さあ、さっさと行く!」
悠・能村・誠「かしこました!」
能村「よっしゃ、行くで羽根沢悠!こういうときのためにあれ使うで」
明石「ん?あれって・・・まさか・・・?」
能村「(三人つながってから)超スーパーハイパーひろくん(絶叫)ワープ!」
暗転
三人「わ~~~~~~~」
明石「使っちゃった・・・」
第五章
暗転中に雷鳴とどろく音がする
明転
こちらは、下界
ふたたび家
三人がすっくと立っている
能村「ついたで・・」
悠「は、早い・・・」
能村「スーパーハイパーひろくんワープ成功や!初やで!初」
誠「おめでとうございます」
能村「ありがとうな!ほんとおまえらのおかげやで」
悠「行きましょう」
能村「ああ」
三人、行こうとする
しかし、誠動かない
能村「どないしたんや」
誠「会わすつもりですか・・・」
能村「それは・・・」
誠「会えるのはうれしい。でも今会うことが本当に佳美たちにとっていいものか・・・」
悠「考えがあります」
誠「え・・・」
悠「まかせてください」
誠「ゆうさん・・」
能村「信じよ、大丈夫や。」
誠「はい」
悠「ここにいてください」
誠「・・・はい・・・」
悠「行きますよ!」
悠、能村とひいてドアへ
そして
悠「ごめんください」
佳美「ねえねえさっきはなんなの!」
能村「申し訳ございませんお客様。」
佳美「今度こそつれてきてくれたんでしょうね」
悠「外にいます」
佳美「また外なの?もう疲れるのよ、外に行くのも・・・」
悠「あのその前に、お願いがあります」
佳美「なに?」
悠「まないた、ありませんか?」
佳美「なに使うの?ケーキでも作ってくれるの?」
悠「ちょっと」
佳美「わかった」
佳美いったんはける
能村「なにすんや?」
悠「えっとですね(耳元で内緒話)」
能村「(聞いてから)んなことできるんかな!」
悠「絶対できます!」
佳美「もってきたけど」
悠「ありがとうございます。先輩よろしくお願いします」
能村「かしこました・・・あ、後輩の癖に言ってしもた・・・」
能村、誠のところへ
悠「それから娘さんも呼んでください」
佳美「え?」
悠「娘さんも」
佳美「誠美、誠美!早くきなさい!サンタさんがプレゼントだって」
シーン
佳美「だめ。もうずっとあの調子で」
悠「(上に)誠美ちゃん誠美ちゃん聞こえる?サンタさんだよ」
能村「(上に)あ、こっちにいるのはトナカイさんだよ!」
悠「(上に)ほんと遅れてごめんね!誠美ちゃんのために素敵なプレゼントがあるの!」
佳美「もうなに?もったいぶらないで教えて!」
悠「先輩!お願いします」
能村「せーの!」
そういって、能村、誠をまないたであおぐ
能村「どうや」
悠「もっとはげしくお願いします」
能村「そやかて、まな板やし重いんやんなあ・・・」
悠「もっともっと」
能村「え~」
悠「台風のくらいにもっともっと!」
能村、がんばってあおぐ
そのとき
佳美「あ・・・」
悠「・・・」
佳美「誠の・・・においが・・・する・・・」
誠美「(声のみ)おとうさん・・・」
佳美「誠美・・・」
悠「誠美ちゃん!」
娘「おとうさん・・・あいたかった・・・」
誠「誠美・・・」
佳美「もう我慢できない。そっちにいっていい?」
誠「だめだ」
佳美「え・・・」
誠「俺を見ちゃいけない」
佳美「だってにおいもして声もきけるなら」
誠「俺はここにいて・・・ふたりの声を聞けるだけで・・・」
佳美「・・・」
誠「今は幸せなんです・・・」
ふたり「・・・」
誠「誠美・・・言いたかったことがある・・・いきなりいなくなっちゃって・・・ごめん」
誠美「うんん・・・」
誠「お母さんから聞いたよ。学校行ってないんだって?」
誠美「・・・うん」
誠「いいよ。行きたくなったら行けばいい。ただ・・・お父さんが思うに・・・学校は本当はもっと楽しいんだよ」
誠美「・・・」
誠「国語算数理科社会だけが学校じゃない。お父さんがいなくてもずっと十分歩けるように・・・そんなことは先生じゃなくて友達とかと話をしあって教わるんだ。」
誠美「うん・・・」
佳美「誠・・・」
誠「佳美」
佳美「聞こえるよ・・・今、この夏のときと同じ、誠と誠美とあたしがいた、あの空気を感じてる・・・」
誠「よかった・・・でもね、そろそろ行かなくちゃならない」
佳美「え・・・」
誠「これ以上いると、俺が離れたくなくなる。ふたりも、悲しさが増すだけだよ」
能村「あんた」
誠「誠美、お母さんと・・・ずっと仲良くいて・・・お母さんの話し相手になってあげて」
誠美「うん」
誠「佳美・・・」
佳美「はい・・・」
誠「外がどんなに寒くても・・・家の中だけは、ずっと・・・あったかくしておいてくれ」
佳美「はい・・・」
誠「ありがとう・・・。」
誠美「お父さん」
誠「・・・」
誠美「さよならは言わないから。」
誠「うん」
誠美「またいつか・・・お話しようね」
誠「・・・ああ」
誠立ち上がる
誠「そろそろ行きましょう。ありがとうございました」
悠「・・・」
誠「やっと、俺は死んだんだって受け入れられる」
悠「はい!」
能村「(声のみ)失礼します。」
佳美「メリークリスマス」
3人「メリークリスマス」
三人、外へ
能村「これで配達ミスはおわり!二○○八年のクリスマスもおわりや!」
悠「はい!」
能村「来年はこんなんちゃうぞ!」
悠「絶対追いつきます!」
能村「ワープ酔いとかすなよ!」
悠「しません!そんなの、今回だってしてないもん!」
能村「ほんまかなあ?」
悠「あ、天国戻ったらうちらだけでも打ち上げしませんか?」
能村「ええな!やろやあんたも」
誠「はい!」
そのとき
鐘の音
能村「ん!」
※2008/11/27挿入分 2
悠「これは・・・」
能村「まさか・・・」
悠「能村先輩の償いポイントが・・・たまった」
能村「え!」
フリーズする三人
暗転
終章
暗転中に
番所「ただいまより、緊急再裁判を行います」
明転
裁判所
下界におりた三人はさっきの体勢のままいる
それ以外に番所真ん中、明石上手、ぼろぼろでさらにふてくされてる松ヶ崎下手にいる。
悠「あ、裁判所だ」
番所「さっきの鐘の音が聞こえなかったとは言わせないよ」
能村「聞けた聞けた・・・」
番所「生まれ変わるにしろ、天国にこのままいるにしろ、門はすぐにしまっちゃう。時間ないから、早く座って」
能村「かしこました・・・」
三人、上手に座る
番所「(奥に)ちょっとちょっと!研修生!進めてくれる?」
梶浦「(声のみ)かしこました。」
悠「ん?この声って・・・」
能村「まさか・・・」
梶浦、マスクしてイン
悠・能村「(指さして)梶浦!」
梶浦「人を指さすな」
悠「よかったあ!口戻ったんですね!(梶浦に駆け寄って手を握ったり抱きしめようとする)」
梶浦「うざい!離れて!」
悠「そんなこといわないでくださいよ~」
能村「あ~あ、ちょっとは静かなる思ったらこれでまた元通りやあ」
悠「死ね!能無し」
能村「もう死んでます~」
番所「羽根沢悠のポイントしっかり使わせてもらったよ。」
悠「よかったよかったあ」
梶浦「うるさい~」
番所「でもクーデターなんて大きなことを起こしてくれたからね、サンタから格下げしてあたしが責任もって一から教えようと思って、下働きだよ」
能村「へえ。あんなにプライド高い梶浦が、よう、それ受け入れたもんやね」
梶浦「ふん」
番所「ほら、あんたの口を戻したふたりにお礼いいなさい」
梶浦「あ・り・が・と・う・ございました!」
能村「よろしいよろしい」
梶浦「き~~~~『能無し口なし』にしてやりたい・・・」
番所「はい進行よろしく」
梶浦「かしこました。すわんなさい。能天気コンビ」
能村「お、ついにおれらコンビになったがな・・・」
梶浦「この裁判はポイント満了に伴う天国に居残るか、生まれ変わりかに関わる緊急裁判です。よって、すぐに決めます。」
能村「はーい、天国へ居残りを希望しまあす」
番所「管理責任者の明石はいかが?」
明石「私もそれに異論はありません。彼はまじめに働いた。彼と接するすべての人たちに幸せをあげました。好きなとおりにしてあげればいいと思います」
能村「だからまじめやないで。これほどええ加減な男もいない」
明石「いい加減で羽根沢さんといっしょになんかできますか?」
悠「それどういうことですかあ」
明石「すいません。でもここまでがんばってくれたことは確かです。拍手を送りたい」
明石、拍手を送る
そして松ヶ崎以外も拍手する
能村「ふん、ありがとうさん・・・」
松ヶ崎、挙手
梶浦「はい松ヶ崎さん」
能村「待て待て!さっきから思たんけど、なんで第一級戦犯がここに堂々とおるんや!」
梶浦「それは・・・」
番所「答えさせて。裁判をもっと公平に見てもらうためにいてもらってるの。」
能村「でもこいつなんか(じゃなくてもええやろうに!)」
番所「あたしたちだけ、密室だと・・・また外野に、文句いわれかねないからね」
能村「・・・」
番所「それに今は地獄の番人でもなんでもないただの死人代表。」
能村「そやけど(納得なかなかうまくいかんなあ)」
番所「神様もどこかで見てるから」
能村「はい・・・」
梶浦「改めて、松ヶ崎さん(発言どうぞ)」
松ヶ崎「お前逃げてるだろ?」
能村「は?」
松ヶ崎「相変わらずの臆病者だ。地獄よりも一番厳しいのが下界であること。それを知ってるから、生まれ変わりたくない」
能村「そういうわけやない」
松ヶ崎「天国に残る確固たる理由がない限り、俺は認めませーん」
能村「理由?」
梶浦「挙手の上、発言してください」
能村「理由やろ。簡単やないかい。これからも後輩のサンタやトナカイたちに心からのクリスマスを教えるっちゅうこっちゃな」
松ヶ崎「そんなもの明石なり他の番人でもできる。」
能村「お前なんやねんな!俺にここまできて邪魔する気かワレ!」
悠「(挙手して)ひとつ提案があります!」
梶浦「羽根沢悠」
悠「能村先輩にたまってるポイントをこちらの加藤誠さんに移すっていうのはだめなんですか?」
梶浦「え・・・」
悠「加藤誠さんが、生まれ変わればすべてうまくいくと思うんですけど・・・」
番所「それは・・・」
悠「今ここに居る人たちで一番だれが生まれ変わりたいかっていうのを悠なりに考えてみたんです。梶浦さんは、さっきあんなことやっちゃって大変だし」」
梶浦「・・・」
悠「番所さんはこのまま裁判長だし、明石さんはこれからも社長さんでいてほしいし、松ヶ崎さんは、生まれ変わりたくなさそうだし」
松ヶ崎「図星だねえ」
悠「悠は悠でこのあとちょっとやりたいことあるし」
能村「ん?なにがしたいん?」
悠「秘密です」
能村「お前の直属の上司はおれやぞ教えろや」
悠「今はトナカイでもなんでもないじゃないですか」
能村「それいったらお終いやないかい」
悠「それになにより、誠さんは、こちらの手違いで運命よりも早めに死んでしまったんですよね?」
番所「確かに・・・」
能村「よし!誠さん、全部譲るで!」
誠「いやうれしいことはうれしいですが・・・」
梶浦「裁判長、天国の門の時間のほうが(閉門の時間に近づいています)」
番所「(うなづく)では、判決をくだします」
全員集中
番所、なにごとかを紙にさらさらと書いて
番所「梶浦、これを加藤誠さんにあげなさい」
梶浦「かしこました」
その紙を誠に渡す梶浦
それを読む誠
横から
悠「たんじょうよていちほうこくしょ?(誕生予定地報告書)」
番所「生まれ変わってどこの誰から生まれるかの書類です」
誠「(一通り黙読してから)いいんですか!?」
番所「加藤誠。」
誠「はい」
番所「判決というか・・・いまさらながらあなたに・・・天国界の代表として、正面から謝りたいのです。」
誠「え・・・」
番所「本当に申し訳ございませんでした(深々と礼)」
誠「・・・」
番所「あたしが頭を下げて、あなたの心の中にたまっているものがなくなるかは正直わからない。誰かさんがあせったりするから(松ヶ崎のほうを見る)」
松ヶ崎「ふん」
番所「あんなことになってしまって・・・でも、だからこそ、能村博之のポイントを正々堂々と受け取ってもらいたいのです。」
誠「・・・」
悠「(紙を見て)えっ!佳美さんのお子さんになるんですか?」
番所「それが一番幸せだと思ってね」
誠「えっと!それは確かにうれしいですが・・・」
番所「受け取ってください!」
誠「(考えてから)・・・ありがたくお受けいたします!」
悠「やったあ!誠美ちゃんの弟さんになるんですね!」
誠「複雑な気持ちではありますが・・・ずっと佳美と誠美に会えると思うと本当に・・・うれしいです」
能村「ええやん。よかったやんなあ」
誠「はい」
番所「同時に能村博之は償いポイントをすべて失うことになります。」
誠「あ・・・」
能村「そりゃそうやな・・・」
誠「本当にいいんですか?」
能村「あ、ええって。」
番所「あんたが生き返るんなら、同じようにするところだったの」
能村「まじでっか?うちはやめてください・・・」
番所「?」
能村「おれは・・・おれは・・・ほ、ほら・・・その・・・俺が連れ(※奥さんのこと)から生まれるってことは、俺の知らんやつが父ちゃんやるってことやろ?」
番所「そうだね」
能村「いややんそんなの!だれが好き好んで連れの新しい男なんて見るの」
番所「じゃ、次にポイントたまったら、娘さんの子供にしてやろうか」
能村「かんにんしてくれな~」
梶浦「ってことで、もう一度トナカイとしてがんばんなさい」
能村「かしこました!ってお前にいわれたかないアホ」
梶浦「こらあ!(ついにマスクを取る)」
能村「あ!」
梶浦「もう戻ってます!」
番所「梶浦、誠さんを急いでそこまではつれてって」
梶浦「かしこました!」
誠「梶浦先輩・・・」
梶浦「え・・・天野?」
誠「いいえ違います。でもいろいろ勉強させてもらってありがとうございました」
梶浦「そんな、感謝だなんて・・・ではこちらへ」
誠「はい」
番所「そこの奥に入ると一歩ずつ歩くごとに若返っていきます。最終的に赤ん坊になります」
誠「はい」
悠「がんばってくださいね」
誠「悠さん、みなさん、・・・ありがとうございました」
能村「いい子にして待っとけや。俺たちが来年、プレゼント届けに行く」
悠「幸せと笑顔をプレゼントしますから!ってまた能村先輩と組むんですか?」
能村「お前には教えたりないことが山ほどあるんや!いやとはいわせんぞ」
誠、梶浦、壇上へ
誠「はい。(みんなを向いて)それではいつかまた・・」
悠「メリークリスマス!」
誠「メリー・・・クリスマス」
誠、梶浦はける
松ヶ崎「はあ~あ、俺がいて果たしてどのくらい公平になるんかね」
能村「そうや。ただの死人やったらもう一度トナカイになって来年の配達率で勝負しようやないか!」
松ヶ崎「面白い」
能村「俺が勝ったら松ヶ崎は永遠にトナカイで俺の後輩な」
松ヶ崎「俺が勝ったら今度こそ俺が裁判長やってやる」
能村「のぞむところや!」
松ヶ崎「まける気がしないね」(にらみ合うふたり)
番所「(松ヶ崎に)だれがあんたにトナカイやらせるかなあ」
松ヶ崎「え・・・」
番所「能村、勝手に判決しない!」
能村「すんません・・・」
番所「ふたりともポイントをさらにマイナスね」
能村「ちょ、それだけは堪忍なあ・・・」
松ヶ崎「番所、今に見てろ~」
番所「以上、閉廷します。解散!」
能村「よっしゃ、来年に向けてトレーニングや。天国の端から端まで百周ランニング!」
悠「あ、そのランニング前にちょっと行ってきていいですか」
能村「どこ?」
悠「えっとですね」
明石「羽根沢さん」
悠「はい」
明石「クリスマスプレゼント(紙をあげる)」
悠「?」
明石「あなたの彼氏さんは、そこにいます」
悠「!」
明石「これから探すおつもりだったんでしょ?お役に立つかなあと思いまして」
悠「いいんですか?」
番所「いい」
悠「!」
番所「羽根沢悠、行ってきなさい」
悠「かしこました!」
能村「そういうことか」
悠「あ、能村先輩・・・」
能村「番所さんが許しても俺は許さん!・・・っていつもならなるとこやけど・・・俺も家族のこと考えると、会いたい気持わからんでもない。」
悠「・・・」
能村「お前はサンタは幸せを配るんが仕事やっていっとったな。俺が思うに、幸せいうんは、まずは家族やら友達、愛する人のために自分が動くことやないかって思うんや」
悠「・・・」
能村「そうすることによって、周りが幸せになれば、自分も幸せになる。つながるいうことやな」
悠「・・・」
能村「っつうか、このこと気づかせてくれたんも羽根沢悠、羽根沢悠と出会ってからや」
悠「・・・」
能村「羽根沢悠はここに来てから自分のためだけには動かんかった。なかなか常人じゃできんことやりよる。」
悠「能村先輩・・・
能村「羽根沢悠・・・ありがとうな」
悠「こちらこそ!」
能村「会ったあとはランニングやからな!行って来い」
悠「かしこましたあ!」
悠、ダッシュではける
見送るみんな
暗転
明転
悠が前にダッシュしてくる
彼氏を見つけた!
ハっと気づく悠
手をあげてなにかを言おうとしたところで
フリーズ
早めの暗転
END
2008年12月15日月曜日
2008年10月14日火曜日
友情以上恋愛未満
友達以上恋愛未満
登場人物
前川亮太郎 富士河千之介
上浦愛 可奈恵
由利青空 由利青空
カフェの人 成月朔夜
海老原厚平
ここはとあるカフェ
駅からそう遠くはない。
朝
カフェではパフォーマンスが行われ、
そして開店する
待っていたかのように前川、由利の二人が入ってくる。
注文をとって、そのあとドリンクがくる
カフェの人はけて
由利「では前川さんの本社ご帰還を祝って」
ふたり「乾杯」
そのとき
つかつかとひとりの女の子が歩いてくる
上浦「(彼らの反対側に座って)おはよう」
ふたり「?」
上浦「おはようじゃ通じないの?Good Morning」
前川「はい?・・・」
上浦「じゃあ、ニイツアオ」
由利「あのどちら様で?」
上浦「え」
前川「ちょっとお嬢さん?まだほかにもたくさん席空いてんだからそっちすわってくれない?」
上浦「お嬢さんってあたしのこと?」
前川「ほかにだれがいるってんだよ?なあ由利」
前川「え?ええ」
上浦「明日からTPO東京グループリーダーになった上浦愛です」
ふたり「!」
由利「グループリーダーって・・・」
前川「まさか・・・」
上浦「日本じゃ部長っていうの?あたしの役職」
ふたり「ええ!」
上浦「(由利のほうへ手を差し出す)僕?よろしく」
由利「お、おはようございます!」
上浦「第三チームの由利さんと前川と握手)前川チームリーダーね」
前川「ど、どうも・・・」
由利「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
上浦「どうぞ」
由利「グループリーダーとかチームリーダーとか、うーん、なんっていうんでしょうかね、体になじんでなくて」
上浦「あと一週間もすればなれる」
由利「そりゃそうでしょうけど、あの、どうでしょう?グーリーと、チーリーってのは」
前川「やめとけよ!」
由利「木村拓哉をキムタクとか千歳船橋をチトフナとかおなじみじゃないですか」
前川「世田谷区限定の略称じゃないかよ!」
由利「だから日本じゃ言いづらいものはどんどん略すんですよ。だからグループリーダーはグーリー、チームリーダーはチーリーってのはいかがですか?」
前川「なんだか軽いなあ」
由利「部下からは愛されますよ!チーリー!おはようございます!チーリー」
前川「上司の威厳のひとかけらもないな」
由利「いいじゃないですか!チーリーチーリー、ちょいーんす」
前川「リトルリーグの試合じゃないんだから」
上浦「面白い」
由利「ほんとですか!」
上浦「けど、却下!」
由利「え・・・」
上浦「上司が却下したものは二度と拾わない。これ常識」
由利「はい・・・」
上浦「会議始めましょう(準備をし始める)」
由利「あ、あの!グループリーダー、ずいぶんお若いですね?」
上浦「どんぐらいにみえる?」
前川「ちょっと新宿の安いキャバクラじゃないんだからさあ。その質問ないんじゃない?」
上浦「いいじゃない。聞かせてよ」
由利「まあ高校生くらい?」
上浦「確かに補導されそうになったけどね」
由利「あの、実際は?」
上浦「十八」
前川「十八!」
上浦「なによ」
前川「お、おれの上司が・・・十八だと・・・?」
由利「ま、前川さん?」
前川「由利」
由利「はい?」
前川「俺が、さんざん富山、福岡、札幌と飛ばされまくったのはご存知だよね?」
由利「もちろんです」
前川「それがやっと本社戻れる、それもエース級の東京城南エリア第三チームの課長に昇進っつうんだからさ、辞令受け取ったときは俺の未来は安泰だって朝までひとりでススキノで飲み明かしたもんだよ」
由利「苦節十一年!おつかれさまっす!」
前川「それが・・・それがこの前川亮太郎三十二歳独身恋人なしの上司が・・・十八ってどういうことだよ!!!!!!!」
由利「ぼ、僕じゃなくてマイケル社長とかに聞いてくださいよ~」
前川「そうだ。そこなんだよな。元はといえばうちが六月に聞いたこともないヘンテコリンな外資に買収されたからだなあ・・・」
上浦「ヘンテコリンで悪かったね」
前川「うちらはね、もともとこの旅行業界でもそんなに上位の会社じゃないの。平々凡々と日々うまくやってく、それでよかったわけよ」
上浦「仕事に対するモチベーションゼロね」
前川「あ、さっそく報告か?」
上浦「もちろん」
前川「このやろう!」
上浦「グループリーダーです。これからは役職か、下の名前で呼びなさい」
前川「なんだと?」
由利「え!じゃあ、僕のことは、青空って呼んでもらえるすか?」
上浦「青空かあ・・・ブルースカイ、素敵な名前ね」
由利「ありがとうございます!」
上浦「名前負けしないようにがんばんなさい」
そこに電話
上浦「(電話)もしもし。あらおはようございます。おじ様。おひさしぶりです(そういってフェイドアウト)」
由利、ちょっとうかれて飲んでいる
前川「おいブルースカイ」
由利「え」
前川「カクテルみたいな名前でうれしいか」
由利「横文字にするからおかしくなるんすよ」
前川「評価上々だな。年下の上司にほれたか?」
由利「違いますよ!」
前川「いやな会社になったなあ。まったくそれもこれもあの金髪社長がうちに目えつけて買収したからこんなことになっちまう」
由利「どうがんばったってあそことかあそことかにはかないませんからねえ・・・」(このときひそかに上浦二人に近づく)
前川「燃料代値上げだなんだかんだでこんなに儲からないときに・・・」
上浦「(前川の耳元で)買収したのはこの会社がまだ生き残れるから買収したんだと思います」
前川「わあ!」
上浦「マイケルの目は絶対です!あたしは入社したときからマイケルを信じています。だからあたしの前でマイケルの悪口は絶対許しません」
前川「べつにいいじゃん、ここ会社じゃないし」
上浦「そんなにさっきから大きな声で話したらうちらがどこの会社かわかっちゃうでしょ?デリカシーないの?」
由利「上浦さんも大きいっすよ」
上浦「大きくもなります!」
カフェの人「だ、大丈夫ですか?」
由利「あ、申し訳ございません!口の悪い上司ふたりで」
前川「おまえはどっちの味方なんだよ!」
由利「給料くれるほう・・・」
前川「どっちの味方なんだよ!!!!」
上浦「会議始めるわ」
由利「は~い」
前川「裏切り者!」
上浦「黙って!」
前川「!」
上浦「悪いけどあたしはあんたらを買った側の人間。」
ふたり「・・・」
上浦「あたしたちのやり方には従ってもらう。」
前川「新入りのくせに・・・。」
上浦「じゃあ、丁寧にいうね。会議します!座りなさい!」
前川「やなこった」
上浦「すねちゃって」
前川「なんでこんなことになっちっまったんだかなあ」
上浦「あたしをうらまないでくれる?この会社の企業価値を上げられなかった村岡前社長でも恨んでなさい」
前川「村岡さんのこと悪く言うんじゃない!」
上浦「そんなにあの前社長好きだったんだあ」
前川「たかだか十八年しか生きていないあんたに村岡さんのよさがわかってたまるか!なあブルースカイ!」
由利「え、えっと・・・」
前川「おい!」
そこに電話がかかってくる
上浦「Hello!(ここから英語でアドリブフェイドアウト)」
前川「(いなくなったのを確認してから)今度は英語か」
由利「マイケル社長だったりして」
前川「ふん、なんで明日からあんな小娘の言うことヘイコラバシバシ聞かなきゃなんないんだよ」
由利「いちおう上司ですから」
前川「さすがブルースカイ。もう洗脳されちゃったなあ、これからは俺の元を離れてあいつの子分として長く生きたまえ」
由利「ちあ
?上司というものは仕事もそうだけど、人間性も含めて尊敬されなきゃならないだろう?」
由利「そうですけど・・・」
上浦「What!」
二人「?」
上浦「It's impossible to play the piano because I was in 14 years.
由利「むりです。そんなの、だって私がピアノを弾いていたのは一四までですよ)
前川「ピアノ?」
由利「そう聞こえたっすね」
上浦「wait!Ahwait!」
急に電話切れる
上浦「・・・」
由利「ど、どうしました?」
上浦「ブルースカイ」
由利「?」
上浦「な、なんでもない」
前川「なんでもなくはないんじゃない?」
上浦「!」
前川「私らでよければ聞きますよ」
上浦「・・・明日の夜、六本木で社長就任のパーティあるの知ってる」
由利「マイケル社長のですよね」
上浦「そう」
由利「存じ上げております」
上浦「そのパーティで余興にあたしのピアノを聴きたいって・・・」
前川「へえあんたピアノ弾けるんだ。似合わないな」
上浦「は?」
前川「即答でいいだろう。ひいてあげりゃいいじゃない。金髪社長の前で」
上浦「金髪金髪言わないでくれる?」
前川「じゃあ、一時期話題になったハゲタカファンドにならってハゲタカ社長にしよう」
上浦「ふざけないで!」
前川「!」
上浦「あたしは弾けないんじゃない、弾かないの!」
ふたり「!」
上浦「あたしは・・・ピアノは捨てたの」
前川「捨てた?」
上浦「十四歳のときに市のコンクールで一位になって」
由利「すごいじゃないすか!」
上浦「それで満足しちゃった。もういいやって。とれるものはとったって感じでね。」
由利「燃え尽き症候群すかあ」
前川「つまんないなあ」
上浦「は?」
前川「もったいない。自分で終わりを決めるもんじゃないな」
上浦「決めたんだから仕方ないじゃない。実際あたしはあれ以来、一回もピアノには触れてないんだから」
由利「でも一位とるくらいっすよねそんなの今夜一晩練習でもすれば昔の勘はもどってくるじゃないですか」
上浦「あんたピアノやったことあるの?」
由利「ないっすよ?」
上浦「だったらやってからいいなさいよ。それともなに?あたしのかわりに、弾いてくれる。」
由利「えええ」
上浦「すいませーん」
カフェの人「はい」
上浦「あそこのアップライトのピアノ、ちょっと貸してくださらない?」
カフェの人「どうぞ」
上浦「ありがとう」
由利「ええ!ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
上浦「弾いてみようよ。」
由利「ピアノなんて無理っすよ!漫画なら書けますけど!」
上浦「漫画?」
由利「漫画」
上浦「漫画かけるってことは手先が器用ってことだよね?」
由利「え・・・」
上浦「まっすますピアニスト向き。」
由利「ええええええええ」
上浦「さ、あたしが教えるから行こう(由利の手を強引にとろうとする)」
前川「(それをとめて)部下に手を出すんじゃない」
上浦「うわ、まるで父が好きだった昔のやくざ映画みたいね」」
前川「こんなもやし男だけどなあ立派な俺の部下だ。」
上浦「裏切り者呼ばわりしたのはどこのどなたかなあ」
由利「どうせ僕は日和見主義ですよ・・・」
前川「だまってろ」
上浦「それにあたしはあんたたちみんなの上司なの(由利の手を引っ張る)。上司の言うことは聞かないとね」
前川「由利」
由利「はい」
前川「帰るぞ(手を引っ張る)」
由利「え」
前川「こんな上司に大事な日曜日をつぶされたくない。上司命令だ!(手を引っ張る)」
由利「(絶叫)」
上浦「ピアノ弾きなさい!。上司命令!(引っ張る)」
由利「(絶叫)」
前川「残念だな。十八歳」
上浦「?」
前川「今日は日曜日だ。正式な辞令も発表されてない以上、こいつはまだ部下じゃない。ゆえに俺もあんたの部下じゃないから命令は従わなくてもいいんだ!」
由利「な、なるほど」
上浦「(由利の手を放してカフェの人に)すいませーん」
カフェ「はい」
上浦「ここって無線LANつながる?」
カフェ「大丈夫でございます」
上浦「ありがとう(パソコン軽くタイピング)あれ~?このメールなにかしら?」
前川、画面を覗き込む
前川「英語だ!お前読め!」
由利「前川さん国連英検持ってませんでしたっけ?」
前川「適当に書いたんだ」
由利「適当!?」
前川「いいから読め!」
由利「資格詐称じゃないすか。もう・・・えっと(画面を見て)アイ・カミウラを十月十日よりTPO東京城南エリアグループリーダーに任命する・・・」
前川「辞令なのか?」
由利「そうみたいですね」
上浦「今月から辞令はPDFでメールで送られるの。知らなかった?」
前川「知らん」
由利「そういえば一日付けの社長通信に書いてあったような(気がするっす)」
前川「辞令は昔から紙って決まってるんだよ!」
上浦「(カフェの人に)すいませーん」
カフェ「はい」
上浦「プリンター貸してもらえない?このPDFをプリントアウトしてこのおじさんに見せようと思って」
前川「おじさんじゃない!」
上浦「じゃあおじいさあん!」
前川「ふざけるな!」
上浦「!」
前川「あんたにはがっかりだ」
上浦「!」
前川「あんたについていくことはできない」
上浦、前川をにらみつけると、いきなり、すっと、座ると背筋良くタイピングし始める
由利「なにしてるんですか?」
上浦「(打ち続ける)」
由利「(なにかを察し、パソコンを閉めて指はさめて)痛い・・・」
上浦「(ため息)」
由利「そのメールは送信させません」
前川「なんのメールだ?」
上浦「東京第三チームの前川リーダーと由利はあたしには使えないって社長に(打とうとおもったんだけどなあ)」
前川「あんた・・・」
上浦「上司を尊敬しない部下は要らない。」
前川「!」
上浦「あたしを尊敬してくれない部下なら変わってもらうしかない!」
前川「なに・・・」
上浦「グループリーダーは人事権持ってるしね。あるものは有効利用しないと」
前川「また飛ばすのか!」
由利「待ってください」
ふたり「?」
由利「余興やればいいんですよね?だったら僕が今度のパーティでマイケル社長の似顔絵を即興で書きますよ・・・」
上浦「似顔絵?」
由利「漫画で鍛えたこの腕で!」
上浦「似顔絵ねえ・・・」
由利「だから僕の顔に免じて、前川さんのことも許してください」
前川「おうおうブルースカイ、やめてやろうや!こんな会社に用はない」
由利「やめたくない~~~~」
前川「独立だ!独立して前川ツアーズ作るぞ。お前副社長やれ」
由利「道連れはいやだあ」
前川「おまえ~~~」
上浦「自主退社なんかさせないよ」
前川「は?」
上浦「解雇!」
由利「クビすか?!」
前川「あんた・・・」
由利「履歴書のっかるし、ロクな転職できないじゃないすか!」
前川「だから俺が預かるっつってんだろ~」
由利「泥舟はいやだあ」
カフェの人「あのー」
由利「なんだよ!今それどころじゃないの!」
カフェの人「ピアノは・・・」
上浦「キャンセルで。」
カフェ「はあ・・・」
由利「もう!クビにならないならピアノでも何でもやります!」
前川「裏切り者!!!!!」
由利「(絶叫)」
カフェ「あの、そのことでお力になれればと思いまして、こちらをご覧ください」
カフェの人、短い一芸を披露する
由利「わお!」
カフェの人「よろしければなんですが、こちらを今からお教えしましょうか?」
由利「え~できるかな?」
前川「やれば?裏切り者」
由利「前川さんのために人柱になってるのに・・・」
上浦「さっきの芸で許してあげてもいいわよ」
由利「え・・・」
上浦「あれができたら、あんたたちをクビにするのはやめる」
由利「そ、そんなあ」
前川「どっちをとるんだ?」
上浦「あたしとマイケル社長をとるか?」
前川「俺と独立するか?」
由利「こっち(上浦のほう)」
前川「お前・・・」
カフェ「ではこちらへ」
由利「ごめんなさい前川さ~~~ん・・・・」
カフェの人、強引に由利をつれていく
上浦「(パソコンだす)」
前川「(それを閉じて)約束が違うな。」
上浦「(ためいき)」
前川「あいつはあんたの言うことを聞いたはずだ。それでも俺らの査定メール送るのか」
上浦「あたしじゃなくて彼が余興をやってくれるって打とうと思って」
前川「ついでにあんたも横でピアノ弾けばいいじゃないか」
上浦「(打ちながら)あたしはいいの」
前川「あいつがあれをやって、あんたがピアノ弾けばかなり豪華なパーティになるとは思うんだけど」
上浦「(打ちながら)お断り」
前川「なんで弾かないのか教えてほしいなあ。悩みあるならば相談のるよ」
上浦「相談したくもない」
前川「あんたは十八年っぽっちしか生きていない。それもどっかの国でその大半をすごしてきたんだろう?日本っつうもんは年上に悩みを相談して生きていくもんだ」
上浦「年功序列は過去の話。結果で勝負しなさい」
前川「じゃあ相談しやすいように、俺から教えよう。彼女なし。趣味ゴルフ。日曜は朝からゴルフ。以上」
上浦「立派なおじさんね」
前川「はいおじさんはあんたに個人情報を教えた。あんたも教えて」
上浦「機密情報」
前川「つまんないな、こんなに鼻っ柱強い女なら、さぞすばらしい男をお持ちで?」
上浦「セクハラ発言でコンプライアンスチームに訴えるよ?」
前川「訴えられたらクビかあ」
上浦「奥さんも子供もがっかりだね」
前川「いない!」
上浦「もったいない。三十二でフリーなんて」
前川「塩塗りやがって。ドSか」
上浦「女はどっちにもなれるの」
前川「いぢめられたいねえ」
上浦「さんざんいぢめてますけど」
前川「ふん、おもしろいな。なんか気が変わった。俺も子供じゃないんだし、あんたと仲良くなりたい」
上浦「どういう風のふきまわし?あんなに帰りたいっていってたのに」
前川「実はここから家まで一時間かかるもんでね。日曜朝だから電車西荻窪止まってくれないし。時間つぶしに上司との仲修復ってことで」
上浦「結局子供じゃん」
前川「彼氏ほしくないの?」
上浦「ノーコメント」
前川「なんだよ!」
上浦「じゃあ、これだけ教える。恋人なんかいらない。友達もなんもいらない」
前川「?」
上浦「ひとりが楽しいし、今が楽しい。だからあたしは一人で生きていく。以上」
前川「・・・」
上浦「やっと静かになった」
前川「否定したいところだけど、それわかるような気がするな」
上浦「え・・・」
前川「だってひとりのほうがいいもんな。気楽だし、なにいっても文句言われないし」
上浦「そうフリーが一番いい」
前川「でも時々さみしくならない?」
上浦「・・・べつに?」
前川「会社から帰って、暗くてひとりの家に『ただいまあ』なんていってもなんにも帰ってこないんだ」
上浦「・・・」
前川「そういうときさあ、すでに明るくてさあ、『お帰り~』なんていわれてあったかいメシ食うの最高じゃない?」
上浦「うーん・・・」
前川「なあなあ思わないか?」
そのとき
カフェの人「お待たせしております」
前川「大丈夫待ってないから」
カフェの人「ひととおりお教えしました」
上浦「楽しみね」
由利「だいたいはできるようになりました」
前川「見せて見せて」
由利やってみせる
失敗
みんな「・・・」
由利「く、クビですか・・・」
前川「確実に飛ぶな」
上浦「アラスカ支社に電報打っておくね。いい人材が見つかったって」
由利「あ、あらすか!」
カフェの人「どうしましょう」
上浦「クビがいい?」
前川「アラスカがいい?」
由利「どっちもいやだあああああああ」
カフェの人「ならがんばりましょう(拉致)」
由利「(拉致され)それもいやだあ!!!!!!」
由利また拉致
その隙に
前川、だまって立ってピアノのそばへ
前川「リクエスト。俺、好きな曲あるんだ」
上浦「弾かないっていってるでしょ」
前川「ショパンの別れの曲」
上浦「ふーん」
前川「俺が高校のときに『一○一回目のプロポーズ』ってドラマがあってさ、その中で武田鉄也が大好きな浅野温子に向かってさ、一生懸命になって弾くんだよ。感動するよ」
上浦「へえ」
前川「だからさ、さわりだけでもひいて」
上浦「覚えてない」
前川「は?」
上浦「けっこうあの曲ってレベル高いの。それなりに練習しないとだめ」
前川「そんな。コンクール出たくらいだろ?ひけるだろ?」
上浦「だから何年前の話してるの?」
前川「!」
上浦「それと気軽にピアノに触らないで。ピアノに失礼だから」
前川「・・・」
上浦「静かにして。このメール、マイケルに送んないと・・・」
前川、パソコンを閉める
上浦「なにすんの!(パソコン開けて)ああもう!メールが消えちゃったじゃない!」
前川「もう少し俺の個人情報を教えてやる。」
上浦「(必死でメールを復帰させようとしながら)知りたくない」
前川「自慢じゃないが高校まで、俺は応援団をやっていた。」
上浦「(作業しながら)学生服着て大声でうたうやつね」
前川「そうだ。あれは忘れもしない高校最後。駅伝大会の路上応援をやっていたんだ。ちょうどそこは最終区で、俺らが応援してる前でうちのアンカーがこけた」
上浦「・・・」
前川「そいつは係りの人が来る前にもう無理ですっていいやがって・・・。俺は・・・俺はこの声は誰にこの応援を届けてるのかわかんなくなった」
上浦「・・・」
前川「だからおれいやなんだよ。自分で自分にピリオドをうつの。・・・終わらせるなら・・・もうどうにもならない状況にまでいってから他人がおわらせてほしい」
上浦「・・・」
前川「あんたもピアノひけ」
上浦「なるほど、そういうことね」
前川「?」
上浦「大丈夫。それならあたしじゃなくて、父がやめさせたようなもんだから」
前川「お父さんが?」
上浦「あたしは続けたかった。父に言われて始めて母も応援してくれたし。コンクールで一位なんてそう簡単にとれるわけじゃない。先生にもプロになってみたらっていわれてた。あ・・・これ、自慢じゃないからね」
前川「ふん」
上浦「でもそれは金まみれの一位だったの・・・裏で父が審査員に金を渡してるのを見てしまって・・・」
前川「・・・」
上浦「舞台袖で倒れそうになった。なにやってんのお父さんって・・・あたしの今までって・・・なんなの・・・」
前川「・・・」
上浦「そのとき決めたんだ。こんな父の下にいたらなにもできなくなる。だからピアノの先生に退会届を投げつけて・・・あたしの人生は変わった」
前川「なるほど・・・」
上浦「どう?あたしって悲劇のヒロインでしょ?」
前川「自分でいうな」
上浦「じゃあだれがいってくれる?」
前川「!」
上浦「あたしの人生はあたしが主役。まわりはみんな通行人A!B!木とか草とか花の役とか。あ、あんたはおめでとうだね脇役なんだから。」
前川「・・・」
上浦「喜びなさい。助演男優賞狙ってがんばってね。でもおいしいとこはもってかせないから」
前川「・・・」
上浦「あたしが主役だもん。主演女優賞・・・おいしいとこもってって当たり前でしょ?・・・」
前川「なにいってんだ・・・」
上浦「だれも人のことなんか考えてない。恋愛だって同じで結局埋まるのは自分の心があったかくなって気持ちよくなるだけ。愛されたほうもみんな自分のことで精一杯。人の思いなんて受け入れる容量なんてないんだよ」
前川「そんなことはない」
上浦「ってかもう、余計な話しちゃった。もうなんでこんなことまであんたに話さなきゃなんないんだろう。いやになる・・・自分・・・」
前川「弾けるんだろう?」
上浦「・・・」
前川「さっきあんたは、ピアノに触るなっていった。好きだからこそ、知らないやつに触られるのいやだったんじゃないか・・・?」
上浦「・・・」
前川「なあ・・・」
上浦「・・・」
そのとき
前川「北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
振り返ると、前川、応援の体勢をとっている
上浦「?」
前川「(かまわず)北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
前川、ジーっと由利を見る
練習中の由利
由利「え・・・」
前川「参加しろ」
由利「えええ」
前川「北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
由利「お、おー!」
みんな見ている
でも前川は止めない
前川「せーの!(拍手を促すふり)」
由利「(三拍子)」
前川「よー!」
由利「(三拍子)」
前川「よー」
由利「(七拍子)」
前川「はい!」
由利「(三拍子)」
前川「よー!」
由利「(三拍子)」
前川「よー」
由利「(七拍子)」
前川「はい」
どんどん早くなる拍子 最後に
前川「それ!がんばれがんばれ上浦!けっぱれけっぱれ上浦!わ~~~~~せいや!」
応援を締める前川
前川「うちの高校の名物、勇気の出る三三七拍子。」」
上浦「・・・」
前川「あんたとちがって、俺は容量いっぱいじゃない。あんたの思いを三三七拍子で返しただけだ
上浦「・・・」
前川「勇気出てきたんじゃない?ほら、座ってみて。」
上浦「・・・」
前川「一位とったあのときに戻るわけじゃない。違う時間に進むだけだから」
上浦「・・・」
前川「さあ・・・」
上浦、静かにいすに座る
ふたを開ける
そして弾き始めようとするが・・・
上浦「・・・今は聞かせられない」
前川「は?」
上浦「今はよ」
前川「・・・」
上浦「かえる」
前川「え」
上浦「ご苦労様。あ、御代はあたしが払う」
上浦お金を払って帰ろうとする
前川「あんた!」
上浦「(とまる)」
前川「俺の声を無駄にする気かよ!」
上浦「・・・」
前川「・・・」
上浦「・・・無駄じゃないよ」
前川「?」
上浦「帰って・・・弾くの・・・」
前川「え・・・」
上浦「弾いてみる・・・あたし・・・」
前川「・・・」
上浦「あんたの三三七拍子・・・よかったよ。勇気を・・・ありがとう・・・」
前川「(見つめる)」
上浦「あたし完璧主義なの。恥ずかしいじゃない?音はずしたりしたら。」
前川「恥ずかしいなんてない」
上浦「イヤ。だれかさんみたいに失敗してるとこ見せたくないから。」
由利「ぼ、ぼくですか・・・?」
上浦「(由利に)がんばってね、楽しみにしてる。」
由利「はい!」
上浦「前川リーダー」
前川「・・・」
上浦「仕事をまじめにしっかりしてないから、あたしの思いを受け止める容量あったんだと思う」
前川「ふん」
上浦「でも・・・ありがとう
前川「え・・・」
上浦「あんたたちみたいな部下に前もって会えてよかった。」
由利「わあ、クビじゃないんですよね」
上浦「パーティよろしくね」
由利「はい!」
上浦「明日こそ、朝一で会議するから。寝坊しないでよ。じゃね」
上浦はける
由利戻ってくる
由利「よかったですね!クビじゃないんですよ・・・」
前川「・・・」
由利「あれ前川さん?」
前川「あいつには・・・届いたんだな」
由利「?」
前川「やっと俺の思い、届く人見つけた・・・
由利「は?」
前川「・・・?わかんないの?お前」
由利「さっぱり」
前川「お前は容量すくないんだな。帰るわ」
由利「ええ・・・」
前川、帰り支度してハケる
由利「容量ってな、なんだよ~」
そういって、教えられたやつをなにげなくやる
成功する
由利「・・・」
カフェの人「お客様?」
由利「はい?」
カフェ「お客様にも・・・届きましたね」
由利「え?なにが?」
カフェ「ついでにあなたの心のハードディスクも、もうすぐクリーンアップすると思います」
由利「え?え・・・」
カフェ「お気をつけて。そろそろランチの時間です」
カフェの人。定位置に
由利「え?え・・・」
相手してくれないカフェの人
そして不思議な顔して、由利もはけていく
END
以上と未満 Closing
カフェの人から突然ボールが投げられる
それを勢いよく受け取る由利
みんなの前でボールの芸を披露する
ボール芸が終わってみんな拍手
誠一「すんげえすんげえ」
前川「うまくなったなあ」
由利「ありがとうございます。」
達也「どこで習ったんですかそれ!」
由利「ここですよ」
達也「え!マスター今度僕にも教えてくださいよ!ね!」
由利「でもこれ・・・披露するときないんですよね」
前川「あいつがピアノ弾けるってことになったからな」
誠一「もったいないなあ。」
由利「え?」
誠一「せっかくうまくなったのに。僕の書いてる脚本だって自分だけじゃだめなんだよね。映像になって初めて意味を成す」
由利「見せたいのは山々ですけどねえ」
誠一「がんばればここまでできるってことだよ。」
カフェ「人はちょっとしたことで、明日がんばろうって思うんです」
由利「え?」
カフェ「あんなに悲しかった顔が・・・変わってません?」
誠一「ん?あ確かに・・・」
カフェ「ここはそういうカフェですから」
誠一「うーん・・・」
達也「あれ?先輩なにかあったんですか?」
誠一「修復不可能」
達也「修復不可能?」
誠一「別れた」
達也「えええええええ」
誠一「前川さん、九年ってのはつきあうのには長すぎましたかね?」
前川「お前も北高応援団だろう!」
誠一「押忍!」
前川「男たるもの常に硬派であれ!」
誠一「押忍!」
前川「でも俺も長くて六年だった・・・」
誠一「あら・・・」
達也「まあ、タイミングってのもあるんじゃないですか?」
誠一「なんだよなんだよサカムケのくせに偉そうなこと言うなあ」
達也「その名前で呼ぶのやめてくださいよ」
前川「どうせお前もふられてさびしくなったからここに来た口だろ?」
達也「えっと・・・」
由利「あ、それってこの前外回りのとき話してたパティシエの女の子ですよね?」
達也「あのですね」
誠一「そうそう。国際弁護士なって一緒にフランス行くって言ってたんだよなあ。残念無念だなあ!」
達也「つきあっちゃえることに・・・なりました」
みんな「!」
達也「さっきなんですけど・・・告白したら・・・「はい」って・・・」
誠一「う・・・そ・・・」
前川「冬通り越して春がきたかあ・・・」
由利「おめでとうございます!おふたりで春先の大分湯布院温泉いかがでしょう!」
達也「か、考えときます・・・」
由利「今度パンフレットを会社に持って行きますね!」
前川「なんだよ?お前もなんか朝と違ってやる気がみなぎってるね?」
由利「公園でいろいろありましてね」
前川「公園?」
由利「あ、なんでもないです」
前川「?」
誠一「そういう前川さんはなにもないんですか?」
前川「え?」
由利「恋愛とか」
前川「ないよ」
達也「やっぱ三十すぎるとそうなっちゃうんですかね」
前川「年は関係ないよ」
誠一「せめて片思いとか?」
前川「ないないありえない」
そのとき
ポーンとピアノの音がする
見ると、ひとりの女性がピアノに座ってる
もう一度ポーンと音がする
前川「?・・・あれってグループリーダーじゃないか?」
由利「えー、なんでまた・・・ってあれ?」
前川「?」
由利「さっきの・・・公園のセレブじゃないかなあ」
前川「なんだそれ?」
由利「いや、ついさっきあったヘンテコリンな女の子で、もうすぐ結婚するだとかいってましたけど・・・」
前川「いや、あれはあの十八歳だろう?」
由利「違いますって。マリッジブルーの変な子ですよ」
みんなの騒ぎをよそに、その女性は軽やかに曲を弾き始める
ふたり、ぼうぜんと立ったまま聞く
誠一「いい曲ひきますね、あの子・・・」
前川「ああ」
誠一「前川さん?」
前川「・・・」
誠一「前川さん?」
前川動かず
曲も中盤ぐらいで
カフェ「お楽しみ中のところ、申し訳ございません。今夜はこのあと当店貸切でございまして」
達也「へえ珍しいですね。ここ貸切なんて」
誠一「だれかの結婚式の二次会かなあ。」
カフェ「お客様のことですのでそれ以上は(教えられません)・・・」
誠一「ま、しょうがないか。おいくらですか?」
カフェ「こちらです(請求書を渡す)」
誠一「えっとサカムケこれ四で割っといて」
達也「んんん・・・」
誠一「ねえ暗算できないのに国際弁護士なれるの?」
達也「そんなにいうなら最初から先輩が割りカンしてくださいよ!」
ふたりはもめる
でも、ツアコンふたりはぼうぜんと見ている
「ふたり」コンビが計算を終えていくらか見せるが、ふたりは動かない
仕方なくふたりコンビが払う
誠一「もういくよ?」
由利「(気がついて)?ああ、すいません」
達也「魚民か、わたみん家どっちがいい?」
由利「では笑笑で」
誠一「サカムケはい予約の電話~」
達也「ええ~(電話)もしもし?えっと四人なんですけどいかがですかあ(そういいながらはける)」
由利「(前川に)前川さん、いきますよ?」
前川「・・・ん?あ、ああ・・・」
由利「絶対あのセレブだと思うけどなあ・・・」
誠一、由利(由利はピアニストをしきりに気にしながら)はける
前川はじっと見つめる
演奏はまだ続いている
カフェ「お客様」
前川「?ああ・・・」
カフェ「明日もがんばれますか?」
前川「?」
カフェ「明日もお待ちしてます」
前川、はける寸前、ピアニストになにか言おうとするが・・・・
いえなくてはける
END
登場人物
前川亮太郎 富士河千之介
上浦愛 可奈恵
由利青空 由利青空
カフェの人 成月朔夜
海老原厚平
ここはとあるカフェ
駅からそう遠くはない。
朝
カフェではパフォーマンスが行われ、
そして開店する
待っていたかのように前川、由利の二人が入ってくる。
注文をとって、そのあとドリンクがくる
カフェの人はけて
由利「では前川さんの本社ご帰還を祝って」
ふたり「乾杯」
そのとき
つかつかとひとりの女の子が歩いてくる
上浦「(彼らの反対側に座って)おはよう」
ふたり「?」
上浦「おはようじゃ通じないの?Good Morning」
前川「はい?・・・」
上浦「じゃあ、ニイツアオ」
由利「あのどちら様で?」
上浦「え」
前川「ちょっとお嬢さん?まだほかにもたくさん席空いてんだからそっちすわってくれない?」
上浦「お嬢さんってあたしのこと?」
前川「ほかにだれがいるってんだよ?なあ由利」
前川「え?ええ」
上浦「明日からTPO東京グループリーダーになった上浦愛です」
ふたり「!」
由利「グループリーダーって・・・」
前川「まさか・・・」
上浦「日本じゃ部長っていうの?あたしの役職」
ふたり「ええ!」
上浦「(由利のほうへ手を差し出す)僕?よろしく」
由利「お、おはようございます!」
上浦「第三チームの由利さんと前川と握手)前川チームリーダーね」
前川「ど、どうも・・・」
由利「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
上浦「どうぞ」
由利「グループリーダーとかチームリーダーとか、うーん、なんっていうんでしょうかね、体になじんでなくて」
上浦「あと一週間もすればなれる」
由利「そりゃそうでしょうけど、あの、どうでしょう?グーリーと、チーリーってのは」
前川「やめとけよ!」
由利「木村拓哉をキムタクとか千歳船橋をチトフナとかおなじみじゃないですか」
前川「世田谷区限定の略称じゃないかよ!」
由利「だから日本じゃ言いづらいものはどんどん略すんですよ。だからグループリーダーはグーリー、チームリーダーはチーリーってのはいかがですか?」
前川「なんだか軽いなあ」
由利「部下からは愛されますよ!チーリー!おはようございます!チーリー」
前川「上司の威厳のひとかけらもないな」
由利「いいじゃないですか!チーリーチーリー、ちょいーんす」
前川「リトルリーグの試合じゃないんだから」
上浦「面白い」
由利「ほんとですか!」
上浦「けど、却下!」
由利「え・・・」
上浦「上司が却下したものは二度と拾わない。これ常識」
由利「はい・・・」
上浦「会議始めましょう(準備をし始める)」
由利「あ、あの!グループリーダー、ずいぶんお若いですね?」
上浦「どんぐらいにみえる?」
前川「ちょっと新宿の安いキャバクラじゃないんだからさあ。その質問ないんじゃない?」
上浦「いいじゃない。聞かせてよ」
由利「まあ高校生くらい?」
上浦「確かに補導されそうになったけどね」
由利「あの、実際は?」
上浦「十八」
前川「十八!」
上浦「なによ」
前川「お、おれの上司が・・・十八だと・・・?」
由利「ま、前川さん?」
前川「由利」
由利「はい?」
前川「俺が、さんざん富山、福岡、札幌と飛ばされまくったのはご存知だよね?」
由利「もちろんです」
前川「それがやっと本社戻れる、それもエース級の東京城南エリア第三チームの課長に昇進っつうんだからさ、辞令受け取ったときは俺の未来は安泰だって朝までひとりでススキノで飲み明かしたもんだよ」
由利「苦節十一年!おつかれさまっす!」
前川「それが・・・それがこの前川亮太郎三十二歳独身恋人なしの上司が・・・十八ってどういうことだよ!!!!!!!」
由利「ぼ、僕じゃなくてマイケル社長とかに聞いてくださいよ~」
前川「そうだ。そこなんだよな。元はといえばうちが六月に聞いたこともないヘンテコリンな外資に買収されたからだなあ・・・」
上浦「ヘンテコリンで悪かったね」
前川「うちらはね、もともとこの旅行業界でもそんなに上位の会社じゃないの。平々凡々と日々うまくやってく、それでよかったわけよ」
上浦「仕事に対するモチベーションゼロね」
前川「あ、さっそく報告か?」
上浦「もちろん」
前川「このやろう!」
上浦「グループリーダーです。これからは役職か、下の名前で呼びなさい」
前川「なんだと?」
由利「え!じゃあ、僕のことは、青空って呼んでもらえるすか?」
上浦「青空かあ・・・ブルースカイ、素敵な名前ね」
由利「ありがとうございます!」
上浦「名前負けしないようにがんばんなさい」
そこに電話
上浦「(電話)もしもし。あらおはようございます。おじ様。おひさしぶりです(そういってフェイドアウト)」
由利、ちょっとうかれて飲んでいる
前川「おいブルースカイ」
由利「え」
前川「カクテルみたいな名前でうれしいか」
由利「横文字にするからおかしくなるんすよ」
前川「評価上々だな。年下の上司にほれたか?」
由利「違いますよ!」
前川「いやな会社になったなあ。まったくそれもこれもあの金髪社長がうちに目えつけて買収したからこんなことになっちまう」
由利「どうがんばったってあそことかあそことかにはかないませんからねえ・・・」(このときひそかに上浦二人に近づく)
前川「燃料代値上げだなんだかんだでこんなに儲からないときに・・・」
上浦「(前川の耳元で)買収したのはこの会社がまだ生き残れるから買収したんだと思います」
前川「わあ!」
上浦「マイケルの目は絶対です!あたしは入社したときからマイケルを信じています。だからあたしの前でマイケルの悪口は絶対許しません」
前川「べつにいいじゃん、ここ会社じゃないし」
上浦「そんなにさっきから大きな声で話したらうちらがどこの会社かわかっちゃうでしょ?デリカシーないの?」
由利「上浦さんも大きいっすよ」
上浦「大きくもなります!」
カフェの人「だ、大丈夫ですか?」
由利「あ、申し訳ございません!口の悪い上司ふたりで」
前川「おまえはどっちの味方なんだよ!」
由利「給料くれるほう・・・」
前川「どっちの味方なんだよ!!!!」
上浦「会議始めるわ」
由利「は~い」
前川「裏切り者!」
上浦「黙って!」
前川「!」
上浦「悪いけどあたしはあんたらを買った側の人間。」
ふたり「・・・」
上浦「あたしたちのやり方には従ってもらう。」
前川「新入りのくせに・・・。」
上浦「じゃあ、丁寧にいうね。会議します!座りなさい!」
前川「やなこった」
上浦「すねちゃって」
前川「なんでこんなことになっちっまったんだかなあ」
上浦「あたしをうらまないでくれる?この会社の企業価値を上げられなかった村岡前社長でも恨んでなさい」
前川「村岡さんのこと悪く言うんじゃない!」
上浦「そんなにあの前社長好きだったんだあ」
前川「たかだか十八年しか生きていないあんたに村岡さんのよさがわかってたまるか!なあブルースカイ!」
由利「え、えっと・・・」
前川「おい!」
そこに電話がかかってくる
上浦「Hello!(ここから英語でアドリブフェイドアウト)」
前川「(いなくなったのを確認してから)今度は英語か」
由利「マイケル社長だったりして」
前川「ふん、なんで明日からあんな小娘の言うことヘイコラバシバシ聞かなきゃなんないんだよ」
由利「いちおう上司ですから」
前川「さすがブルースカイ。もう洗脳されちゃったなあ、これからは俺の元を離れてあいつの子分として長く生きたまえ」
由利「ちあ
?上司というものは仕事もそうだけど、人間性も含めて尊敬されなきゃならないだろう?」
由利「そうですけど・・・」
上浦「What!」
二人「?」
上浦「It's impossible to play the piano because I was in 14 years.
由利「むりです。そんなの、だって私がピアノを弾いていたのは一四までですよ)
前川「ピアノ?」
由利「そう聞こえたっすね」
上浦「wait!Ahwait!」
急に電話切れる
上浦「・・・」
由利「ど、どうしました?」
上浦「ブルースカイ」
由利「?」
上浦「な、なんでもない」
前川「なんでもなくはないんじゃない?」
上浦「!」
前川「私らでよければ聞きますよ」
上浦「・・・明日の夜、六本木で社長就任のパーティあるの知ってる」
由利「マイケル社長のですよね」
上浦「そう」
由利「存じ上げております」
上浦「そのパーティで余興にあたしのピアノを聴きたいって・・・」
前川「へえあんたピアノ弾けるんだ。似合わないな」
上浦「は?」
前川「即答でいいだろう。ひいてあげりゃいいじゃない。金髪社長の前で」
上浦「金髪金髪言わないでくれる?」
前川「じゃあ、一時期話題になったハゲタカファンドにならってハゲタカ社長にしよう」
上浦「ふざけないで!」
前川「!」
上浦「あたしは弾けないんじゃない、弾かないの!」
ふたり「!」
上浦「あたしは・・・ピアノは捨てたの」
前川「捨てた?」
上浦「十四歳のときに市のコンクールで一位になって」
由利「すごいじゃないすか!」
上浦「それで満足しちゃった。もういいやって。とれるものはとったって感じでね。」
由利「燃え尽き症候群すかあ」
前川「つまんないなあ」
上浦「は?」
前川「もったいない。自分で終わりを決めるもんじゃないな」
上浦「決めたんだから仕方ないじゃない。実際あたしはあれ以来、一回もピアノには触れてないんだから」
由利「でも一位とるくらいっすよねそんなの今夜一晩練習でもすれば昔の勘はもどってくるじゃないですか」
上浦「あんたピアノやったことあるの?」
由利「ないっすよ?」
上浦「だったらやってからいいなさいよ。それともなに?あたしのかわりに、弾いてくれる。」
由利「えええ」
上浦「すいませーん」
カフェの人「はい」
上浦「あそこのアップライトのピアノ、ちょっと貸してくださらない?」
カフェの人「どうぞ」
上浦「ありがとう」
由利「ええ!ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
上浦「弾いてみようよ。」
由利「ピアノなんて無理っすよ!漫画なら書けますけど!」
上浦「漫画?」
由利「漫画」
上浦「漫画かけるってことは手先が器用ってことだよね?」
由利「え・・・」
上浦「まっすますピアニスト向き。」
由利「ええええええええ」
上浦「さ、あたしが教えるから行こう(由利の手を強引にとろうとする)」
前川「(それをとめて)部下に手を出すんじゃない」
上浦「うわ、まるで父が好きだった昔のやくざ映画みたいね」」
前川「こんなもやし男だけどなあ立派な俺の部下だ。」
上浦「裏切り者呼ばわりしたのはどこのどなたかなあ」
由利「どうせ僕は日和見主義ですよ・・・」
前川「だまってろ」
上浦「それにあたしはあんたたちみんなの上司なの(由利の手を引っ張る)。上司の言うことは聞かないとね」
前川「由利」
由利「はい」
前川「帰るぞ(手を引っ張る)」
由利「え」
前川「こんな上司に大事な日曜日をつぶされたくない。上司命令だ!(手を引っ張る)」
由利「(絶叫)」
上浦「ピアノ弾きなさい!。上司命令!(引っ張る)」
由利「(絶叫)」
前川「残念だな。十八歳」
上浦「?」
前川「今日は日曜日だ。正式な辞令も発表されてない以上、こいつはまだ部下じゃない。ゆえに俺もあんたの部下じゃないから命令は従わなくてもいいんだ!」
由利「な、なるほど」
上浦「(由利の手を放してカフェの人に)すいませーん」
カフェ「はい」
上浦「ここって無線LANつながる?」
カフェ「大丈夫でございます」
上浦「ありがとう(パソコン軽くタイピング)あれ~?このメールなにかしら?」
前川、画面を覗き込む
前川「英語だ!お前読め!」
由利「前川さん国連英検持ってませんでしたっけ?」
前川「適当に書いたんだ」
由利「適当!?」
前川「いいから読め!」
由利「資格詐称じゃないすか。もう・・・えっと(画面を見て)アイ・カミウラを十月十日よりTPO東京城南エリアグループリーダーに任命する・・・」
前川「辞令なのか?」
由利「そうみたいですね」
上浦「今月から辞令はPDFでメールで送られるの。知らなかった?」
前川「知らん」
由利「そういえば一日付けの社長通信に書いてあったような(気がするっす)」
前川「辞令は昔から紙って決まってるんだよ!」
上浦「(カフェの人に)すいませーん」
カフェ「はい」
上浦「プリンター貸してもらえない?このPDFをプリントアウトしてこのおじさんに見せようと思って」
前川「おじさんじゃない!」
上浦「じゃあおじいさあん!」
前川「ふざけるな!」
上浦「!」
前川「あんたにはがっかりだ」
上浦「!」
前川「あんたについていくことはできない」
上浦、前川をにらみつけると、いきなり、すっと、座ると背筋良くタイピングし始める
由利「なにしてるんですか?」
上浦「(打ち続ける)」
由利「(なにかを察し、パソコンを閉めて指はさめて)痛い・・・」
上浦「(ため息)」
由利「そのメールは送信させません」
前川「なんのメールだ?」
上浦「東京第三チームの前川リーダーと由利はあたしには使えないって社長に(打とうとおもったんだけどなあ)」
前川「あんた・・・」
上浦「上司を尊敬しない部下は要らない。」
前川「!」
上浦「あたしを尊敬してくれない部下なら変わってもらうしかない!」
前川「なに・・・」
上浦「グループリーダーは人事権持ってるしね。あるものは有効利用しないと」
前川「また飛ばすのか!」
由利「待ってください」
ふたり「?」
由利「余興やればいいんですよね?だったら僕が今度のパーティでマイケル社長の似顔絵を即興で書きますよ・・・」
上浦「似顔絵?」
由利「漫画で鍛えたこの腕で!」
上浦「似顔絵ねえ・・・」
由利「だから僕の顔に免じて、前川さんのことも許してください」
前川「おうおうブルースカイ、やめてやろうや!こんな会社に用はない」
由利「やめたくない~~~~」
前川「独立だ!独立して前川ツアーズ作るぞ。お前副社長やれ」
由利「道連れはいやだあ」
前川「おまえ~~~」
上浦「自主退社なんかさせないよ」
前川「は?」
上浦「解雇!」
由利「クビすか?!」
前川「あんた・・・」
由利「履歴書のっかるし、ロクな転職できないじゃないすか!」
前川「だから俺が預かるっつってんだろ~」
由利「泥舟はいやだあ」
カフェの人「あのー」
由利「なんだよ!今それどころじゃないの!」
カフェの人「ピアノは・・・」
上浦「キャンセルで。」
カフェ「はあ・・・」
由利「もう!クビにならないならピアノでも何でもやります!」
前川「裏切り者!!!!!」
由利「(絶叫)」
カフェ「あの、そのことでお力になれればと思いまして、こちらをご覧ください」
カフェの人、短い一芸を披露する
由利「わお!」
カフェの人「よろしければなんですが、こちらを今からお教えしましょうか?」
由利「え~できるかな?」
前川「やれば?裏切り者」
由利「前川さんのために人柱になってるのに・・・」
上浦「さっきの芸で許してあげてもいいわよ」
由利「え・・・」
上浦「あれができたら、あんたたちをクビにするのはやめる」
由利「そ、そんなあ」
前川「どっちをとるんだ?」
上浦「あたしとマイケル社長をとるか?」
前川「俺と独立するか?」
由利「こっち(上浦のほう)」
前川「お前・・・」
カフェ「ではこちらへ」
由利「ごめんなさい前川さ~~~ん・・・・」
カフェの人、強引に由利をつれていく
上浦「(パソコンだす)」
前川「(それを閉じて)約束が違うな。」
上浦「(ためいき)」
前川「あいつはあんたの言うことを聞いたはずだ。それでも俺らの査定メール送るのか」
上浦「あたしじゃなくて彼が余興をやってくれるって打とうと思って」
前川「ついでにあんたも横でピアノ弾けばいいじゃないか」
上浦「(打ちながら)あたしはいいの」
前川「あいつがあれをやって、あんたがピアノ弾けばかなり豪華なパーティになるとは思うんだけど」
上浦「(打ちながら)お断り」
前川「なんで弾かないのか教えてほしいなあ。悩みあるならば相談のるよ」
上浦「相談したくもない」
前川「あんたは十八年っぽっちしか生きていない。それもどっかの国でその大半をすごしてきたんだろう?日本っつうもんは年上に悩みを相談して生きていくもんだ」
上浦「年功序列は過去の話。結果で勝負しなさい」
前川「じゃあ相談しやすいように、俺から教えよう。彼女なし。趣味ゴルフ。日曜は朝からゴルフ。以上」
上浦「立派なおじさんね」
前川「はいおじさんはあんたに個人情報を教えた。あんたも教えて」
上浦「機密情報」
前川「つまんないな、こんなに鼻っ柱強い女なら、さぞすばらしい男をお持ちで?」
上浦「セクハラ発言でコンプライアンスチームに訴えるよ?」
前川「訴えられたらクビかあ」
上浦「奥さんも子供もがっかりだね」
前川「いない!」
上浦「もったいない。三十二でフリーなんて」
前川「塩塗りやがって。ドSか」
上浦「女はどっちにもなれるの」
前川「いぢめられたいねえ」
上浦「さんざんいぢめてますけど」
前川「ふん、おもしろいな。なんか気が変わった。俺も子供じゃないんだし、あんたと仲良くなりたい」
上浦「どういう風のふきまわし?あんなに帰りたいっていってたのに」
前川「実はここから家まで一時間かかるもんでね。日曜朝だから電車西荻窪止まってくれないし。時間つぶしに上司との仲修復ってことで」
上浦「結局子供じゃん」
前川「彼氏ほしくないの?」
上浦「ノーコメント」
前川「なんだよ!」
上浦「じゃあ、これだけ教える。恋人なんかいらない。友達もなんもいらない」
前川「?」
上浦「ひとりが楽しいし、今が楽しい。だからあたしは一人で生きていく。以上」
前川「・・・」
上浦「やっと静かになった」
前川「否定したいところだけど、それわかるような気がするな」
上浦「え・・・」
前川「だってひとりのほうがいいもんな。気楽だし、なにいっても文句言われないし」
上浦「そうフリーが一番いい」
前川「でも時々さみしくならない?」
上浦「・・・べつに?」
前川「会社から帰って、暗くてひとりの家に『ただいまあ』なんていってもなんにも帰ってこないんだ」
上浦「・・・」
前川「そういうときさあ、すでに明るくてさあ、『お帰り~』なんていわれてあったかいメシ食うの最高じゃない?」
上浦「うーん・・・」
前川「なあなあ思わないか?」
そのとき
カフェの人「お待たせしております」
前川「大丈夫待ってないから」
カフェの人「ひととおりお教えしました」
上浦「楽しみね」
由利「だいたいはできるようになりました」
前川「見せて見せて」
由利やってみせる
失敗
みんな「・・・」
由利「く、クビですか・・・」
前川「確実に飛ぶな」
上浦「アラスカ支社に電報打っておくね。いい人材が見つかったって」
由利「あ、あらすか!」
カフェの人「どうしましょう」
上浦「クビがいい?」
前川「アラスカがいい?」
由利「どっちもいやだあああああああ」
カフェの人「ならがんばりましょう(拉致)」
由利「(拉致され)それもいやだあ!!!!!!」
由利また拉致
その隙に
前川、だまって立ってピアノのそばへ
前川「リクエスト。俺、好きな曲あるんだ」
上浦「弾かないっていってるでしょ」
前川「ショパンの別れの曲」
上浦「ふーん」
前川「俺が高校のときに『一○一回目のプロポーズ』ってドラマがあってさ、その中で武田鉄也が大好きな浅野温子に向かってさ、一生懸命になって弾くんだよ。感動するよ」
上浦「へえ」
前川「だからさ、さわりだけでもひいて」
上浦「覚えてない」
前川「は?」
上浦「けっこうあの曲ってレベル高いの。それなりに練習しないとだめ」
前川「そんな。コンクール出たくらいだろ?ひけるだろ?」
上浦「だから何年前の話してるの?」
前川「!」
上浦「それと気軽にピアノに触らないで。ピアノに失礼だから」
前川「・・・」
上浦「静かにして。このメール、マイケルに送んないと・・・」
前川、パソコンを閉める
上浦「なにすんの!(パソコン開けて)ああもう!メールが消えちゃったじゃない!」
前川「もう少し俺の個人情報を教えてやる。」
上浦「(必死でメールを復帰させようとしながら)知りたくない」
前川「自慢じゃないが高校まで、俺は応援団をやっていた。」
上浦「(作業しながら)学生服着て大声でうたうやつね」
前川「そうだ。あれは忘れもしない高校最後。駅伝大会の路上応援をやっていたんだ。ちょうどそこは最終区で、俺らが応援してる前でうちのアンカーがこけた」
上浦「・・・」
前川「そいつは係りの人が来る前にもう無理ですっていいやがって・・・。俺は・・・俺はこの声は誰にこの応援を届けてるのかわかんなくなった」
上浦「・・・」
前川「だからおれいやなんだよ。自分で自分にピリオドをうつの。・・・終わらせるなら・・・もうどうにもならない状況にまでいってから他人がおわらせてほしい」
上浦「・・・」
前川「あんたもピアノひけ」
上浦「なるほど、そういうことね」
前川「?」
上浦「大丈夫。それならあたしじゃなくて、父がやめさせたようなもんだから」
前川「お父さんが?」
上浦「あたしは続けたかった。父に言われて始めて母も応援してくれたし。コンクールで一位なんてそう簡単にとれるわけじゃない。先生にもプロになってみたらっていわれてた。あ・・・これ、自慢じゃないからね」
前川「ふん」
上浦「でもそれは金まみれの一位だったの・・・裏で父が審査員に金を渡してるのを見てしまって・・・」
前川「・・・」
上浦「舞台袖で倒れそうになった。なにやってんのお父さんって・・・あたしの今までって・・・なんなの・・・」
前川「・・・」
上浦「そのとき決めたんだ。こんな父の下にいたらなにもできなくなる。だからピアノの先生に退会届を投げつけて・・・あたしの人生は変わった」
前川「なるほど・・・」
上浦「どう?あたしって悲劇のヒロインでしょ?」
前川「自分でいうな」
上浦「じゃあだれがいってくれる?」
前川「!」
上浦「あたしの人生はあたしが主役。まわりはみんな通行人A!B!木とか草とか花の役とか。あ、あんたはおめでとうだね脇役なんだから。」
前川「・・・」
上浦「喜びなさい。助演男優賞狙ってがんばってね。でもおいしいとこはもってかせないから」
前川「・・・」
上浦「あたしが主役だもん。主演女優賞・・・おいしいとこもってって当たり前でしょ?・・・」
前川「なにいってんだ・・・」
上浦「だれも人のことなんか考えてない。恋愛だって同じで結局埋まるのは自分の心があったかくなって気持ちよくなるだけ。愛されたほうもみんな自分のことで精一杯。人の思いなんて受け入れる容量なんてないんだよ」
前川「そんなことはない」
上浦「ってかもう、余計な話しちゃった。もうなんでこんなことまであんたに話さなきゃなんないんだろう。いやになる・・・自分・・・」
前川「弾けるんだろう?」
上浦「・・・」
前川「さっきあんたは、ピアノに触るなっていった。好きだからこそ、知らないやつに触られるのいやだったんじゃないか・・・?」
上浦「・・・」
前川「なあ・・・」
上浦「・・・」
そのとき
前川「北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
振り返ると、前川、応援の体勢をとっている
上浦「?」
前川「(かまわず)北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
前川、ジーっと由利を見る
練習中の由利
由利「え・・・」
前川「参加しろ」
由利「えええ」
前川「北高!勇気の出る三三七拍子!~よーい!」
由利「お、おー!」
みんな見ている
でも前川は止めない
前川「せーの!(拍手を促すふり)」
由利「(三拍子)」
前川「よー!」
由利「(三拍子)」
前川「よー」
由利「(七拍子)」
前川「はい!」
由利「(三拍子)」
前川「よー!」
由利「(三拍子)」
前川「よー」
由利「(七拍子)」
前川「はい」
どんどん早くなる拍子 最後に
前川「それ!がんばれがんばれ上浦!けっぱれけっぱれ上浦!わ~~~~~せいや!」
応援を締める前川
前川「うちの高校の名物、勇気の出る三三七拍子。」」
上浦「・・・」
前川「あんたとちがって、俺は容量いっぱいじゃない。あんたの思いを三三七拍子で返しただけだ
上浦「・・・」
前川「勇気出てきたんじゃない?ほら、座ってみて。」
上浦「・・・」
前川「一位とったあのときに戻るわけじゃない。違う時間に進むだけだから」
上浦「・・・」
前川「さあ・・・」
上浦、静かにいすに座る
ふたを開ける
そして弾き始めようとするが・・・
上浦「・・・今は聞かせられない」
前川「は?」
上浦「今はよ」
前川「・・・」
上浦「かえる」
前川「え」
上浦「ご苦労様。あ、御代はあたしが払う」
上浦お金を払って帰ろうとする
前川「あんた!」
上浦「(とまる)」
前川「俺の声を無駄にする気かよ!」
上浦「・・・」
前川「・・・」
上浦「・・・無駄じゃないよ」
前川「?」
上浦「帰って・・・弾くの・・・」
前川「え・・・」
上浦「弾いてみる・・・あたし・・・」
前川「・・・」
上浦「あんたの三三七拍子・・・よかったよ。勇気を・・・ありがとう・・・」
前川「(見つめる)」
上浦「あたし完璧主義なの。恥ずかしいじゃない?音はずしたりしたら。」
前川「恥ずかしいなんてない」
上浦「イヤ。だれかさんみたいに失敗してるとこ見せたくないから。」
由利「ぼ、ぼくですか・・・?」
上浦「(由利に)がんばってね、楽しみにしてる。」
由利「はい!」
上浦「前川リーダー」
前川「・・・」
上浦「仕事をまじめにしっかりしてないから、あたしの思いを受け止める容量あったんだと思う」
前川「ふん」
上浦「でも・・・ありがとう
前川「え・・・」
上浦「あんたたちみたいな部下に前もって会えてよかった。」
由利「わあ、クビじゃないんですよね」
上浦「パーティよろしくね」
由利「はい!」
上浦「明日こそ、朝一で会議するから。寝坊しないでよ。じゃね」
上浦はける
由利戻ってくる
由利「よかったですね!クビじゃないんですよ・・・」
前川「・・・」
由利「あれ前川さん?」
前川「あいつには・・・届いたんだな」
由利「?」
前川「やっと俺の思い、届く人見つけた・・・
由利「は?」
前川「・・・?わかんないの?お前」
由利「さっぱり」
前川「お前は容量すくないんだな。帰るわ」
由利「ええ・・・」
前川、帰り支度してハケる
由利「容量ってな、なんだよ~」
そういって、教えられたやつをなにげなくやる
成功する
由利「・・・」
カフェの人「お客様?」
由利「はい?」
カフェ「お客様にも・・・届きましたね」
由利「え?なにが?」
カフェ「ついでにあなたの心のハードディスクも、もうすぐクリーンアップすると思います」
由利「え?え・・・」
カフェ「お気をつけて。そろそろランチの時間です」
カフェの人。定位置に
由利「え?え・・・」
相手してくれないカフェの人
そして不思議な顔して、由利もはけていく
END
以上と未満 Closing
カフェの人から突然ボールが投げられる
それを勢いよく受け取る由利
みんなの前でボールの芸を披露する
ボール芸が終わってみんな拍手
誠一「すんげえすんげえ」
前川「うまくなったなあ」
由利「ありがとうございます。」
達也「どこで習ったんですかそれ!」
由利「ここですよ」
達也「え!マスター今度僕にも教えてくださいよ!ね!」
由利「でもこれ・・・披露するときないんですよね」
前川「あいつがピアノ弾けるってことになったからな」
誠一「もったいないなあ。」
由利「え?」
誠一「せっかくうまくなったのに。僕の書いてる脚本だって自分だけじゃだめなんだよね。映像になって初めて意味を成す」
由利「見せたいのは山々ですけどねえ」
誠一「がんばればここまでできるってことだよ。」
カフェ「人はちょっとしたことで、明日がんばろうって思うんです」
由利「え?」
カフェ「あんなに悲しかった顔が・・・変わってません?」
誠一「ん?あ確かに・・・」
カフェ「ここはそういうカフェですから」
誠一「うーん・・・」
達也「あれ?先輩なにかあったんですか?」
誠一「修復不可能」
達也「修復不可能?」
誠一「別れた」
達也「えええええええ」
誠一「前川さん、九年ってのはつきあうのには長すぎましたかね?」
前川「お前も北高応援団だろう!」
誠一「押忍!」
前川「男たるもの常に硬派であれ!」
誠一「押忍!」
前川「でも俺も長くて六年だった・・・」
誠一「あら・・・」
達也「まあ、タイミングってのもあるんじゃないですか?」
誠一「なんだよなんだよサカムケのくせに偉そうなこと言うなあ」
達也「その名前で呼ぶのやめてくださいよ」
前川「どうせお前もふられてさびしくなったからここに来た口だろ?」
達也「えっと・・・」
由利「あ、それってこの前外回りのとき話してたパティシエの女の子ですよね?」
達也「あのですね」
誠一「そうそう。国際弁護士なって一緒にフランス行くって言ってたんだよなあ。残念無念だなあ!」
達也「つきあっちゃえることに・・・なりました」
みんな「!」
達也「さっきなんですけど・・・告白したら・・・「はい」って・・・」
誠一「う・・・そ・・・」
前川「冬通り越して春がきたかあ・・・」
由利「おめでとうございます!おふたりで春先の大分湯布院温泉いかがでしょう!」
達也「か、考えときます・・・」
由利「今度パンフレットを会社に持って行きますね!」
前川「なんだよ?お前もなんか朝と違ってやる気がみなぎってるね?」
由利「公園でいろいろありましてね」
前川「公園?」
由利「あ、なんでもないです」
前川「?」
誠一「そういう前川さんはなにもないんですか?」
前川「え?」
由利「恋愛とか」
前川「ないよ」
達也「やっぱ三十すぎるとそうなっちゃうんですかね」
前川「年は関係ないよ」
誠一「せめて片思いとか?」
前川「ないないありえない」
そのとき
ポーンとピアノの音がする
見ると、ひとりの女性がピアノに座ってる
もう一度ポーンと音がする
前川「?・・・あれってグループリーダーじゃないか?」
由利「えー、なんでまた・・・ってあれ?」
前川「?」
由利「さっきの・・・公園のセレブじゃないかなあ」
前川「なんだそれ?」
由利「いや、ついさっきあったヘンテコリンな女の子で、もうすぐ結婚するだとかいってましたけど・・・」
前川「いや、あれはあの十八歳だろう?」
由利「違いますって。マリッジブルーの変な子ですよ」
みんなの騒ぎをよそに、その女性は軽やかに曲を弾き始める
ふたり、ぼうぜんと立ったまま聞く
誠一「いい曲ひきますね、あの子・・・」
前川「ああ」
誠一「前川さん?」
前川「・・・」
誠一「前川さん?」
前川動かず
曲も中盤ぐらいで
カフェ「お楽しみ中のところ、申し訳ございません。今夜はこのあと当店貸切でございまして」
達也「へえ珍しいですね。ここ貸切なんて」
誠一「だれかの結婚式の二次会かなあ。」
カフェ「お客様のことですのでそれ以上は(教えられません)・・・」
誠一「ま、しょうがないか。おいくらですか?」
カフェ「こちらです(請求書を渡す)」
誠一「えっとサカムケこれ四で割っといて」
達也「んんん・・・」
誠一「ねえ暗算できないのに国際弁護士なれるの?」
達也「そんなにいうなら最初から先輩が割りカンしてくださいよ!」
ふたりはもめる
でも、ツアコンふたりはぼうぜんと見ている
「ふたり」コンビが計算を終えていくらか見せるが、ふたりは動かない
仕方なくふたりコンビが払う
誠一「もういくよ?」
由利「(気がついて)?ああ、すいません」
達也「魚民か、わたみん家どっちがいい?」
由利「では笑笑で」
誠一「サカムケはい予約の電話~」
達也「ええ~(電話)もしもし?えっと四人なんですけどいかがですかあ(そういいながらはける)」
由利「(前川に)前川さん、いきますよ?」
前川「・・・ん?あ、ああ・・・」
由利「絶対あのセレブだと思うけどなあ・・・」
誠一、由利(由利はピアニストをしきりに気にしながら)はける
前川はじっと見つめる
演奏はまだ続いている
カフェ「お客様」
前川「?ああ・・・」
カフェ「明日もがんばれますか?」
前川「?」
カフェ「明日もお待ちしてます」
前川、はける寸前、ピアニストになにか言おうとするが・・・・
いえなくてはける
END
2008年7月29日火曜日
ナツノアカリ
ナツノアカリ
登場人物
菊池靖:民宿「沢木」主人:富士河千之介
菊池澄江:民宿「沢木」女将:本多美智子
富田林十三(丸井正直):放送作家:大森一
工藤悦子:オフィスプレエンタ製作部職員:可奈恵
及川直也:「沢木」の隣の農家:石井雄大
福沢茂道:探偵:笠原大史
山本聡:探偵見習い:荻野大地
スタッフ
作・演出:富士河千之介
照明オペレーター:厚木智
音響効果オペレーター:加藤真由実
制作本部:本多美智子・佐々木律
舞台部:荻野大地・笠原大史・石井雄大
製作著作
3man Office制作本部
「ナツノアカリ」パートナーズ
序章
きっかけの曲
暗転
ひとつのあかりがつく
そしてひとつひとつ順番にあかりがついていく
うっすら明転する
石井「さあ、今日もラジオの前のリスナーもご一緒に!花畑ヨシヒロの」
全員「ナイトランデブー!」
(拍手)
石井「さあ今週もやってきました月曜一時ナイラン!あらためましてこんばんは花畑ヨシヒロです。今日はねえ神宮前の喫茶店に行ったんだけどね、そこのエスプレッソがおいしくてさあ、リスナーのみんなにも紹介したいなって思って。場所は、原宿から歩いて・・・」
ノイズ大きくなる
本多「靖?ねだか?」
靖「・・・」
笠原「どうした?」
佐々木「靖の部屋がべっこうるさくてなは」
石井「今夜も三時までねるんじゃねえよ!一曲めはこんどのニ五日に出る俺のシングル『夏の灯り』!よろしく聞いてね!」
大森「こら靖。そろそろ寝ろ。」
靖「・・・」
荻野「明日は大事な明かり祭りだぞ!はやくねろ!」
本多「靖?」
笠原「靖?」
佐々木「靖?」
石井「はい、今日一枚目のおはがきは鹿児島県の坊ちゃんから!ヨシヒロ兄貴こんばんは!今日は面白いことがあってさあ・・・」
大森「靖?」
荻野「靖?」
みんな「靖?」
暗転
またあかりがひとつひとつ動いてはけていく
靖「父さん・・・母さん・・・」
第一章
ここは岩手県沢木町
県庁所在地である盛岡の隣、山に東西南北を囲まれた盆地の小さな町である
町の住民のほとんどが老人である、典型的な地方の過疎の町である。
名物といえば町の南方にある、沢木山。
岩手山と姫神山と早池峰山の次に高いとされ、県内はもとより東北各県、関東などから登山する客で夏は軽くにぎわう。
特に頂上近くの九十度近い絶壁「太郎壁」は、国内の山の中でも難所と知られ、毎年死傷者を出すくらいであるが、山にあこがれる登山家たちはそこを愛し、怪我したとしてもずっと挑戦し続けるという。
そのふもとに山の神を祭った沢木神社があり、そこの近くに民宿「沢木」はある
盆も近づくある日
暗転中
澄江「ありがとあんした。気をつけてお帰りくなんせ」
明転
澄江が外で客を見送っている
頭を上げると部屋の中へ
そこにすでに先日から四日ほど泊まっている富田林があくびをしながらイン
澄江「おはようがんす」
富田林「おはよ・・・」
富田林、イスに座って新聞を読み始める
澄江「朝ごはんは召し上がりあんしたか?」
富田林「(読みながらあくびしながら)ああ」
澄江「あ、また朝までお仕事?」
富田林「ううああ・・・」
澄江「先生は偉えですなあ。徹夜してもあだしの作ったパン、召し上がってくださるから」
富田林「食べやすくていいよね。」
澄江「うれす!」(嬉しい)
富田林「あれがごはんと味噌汁と、しょっぱいシャケだったら俺は食ってないかも。」
澄江「どうも。あ、朝のおぼんは、ぺっこしたら、お下げいたしあんすから」
富田林「ぺっこ?」
澄江「岩手弁で、少し、って意味です」
富田林「ぺっこ、か。ちょっと面白いな(すぐにメモに書く)」
澄江「もう四日も泊まってらっしゃるんですから、そろそろあだしだちの岩手弁にも慣れてもらわねと」
そのとき旅行かばんを持って、工藤イン
工藤「ごめんください」
澄江「あんら!えっちゃん」
工藤「澄江さん、おひさしぶりです」
澄江「今けってきたの?」
工藤「ええ」
富田林「おれが呼んだの」
澄江「ええ!」
工藤「いまは富田林さんのところで働いてるんです」
澄江「じゃじゃじゃ!狭い世の中だあ」
富田林「おう、俺のいない間に東京で面白いこと見つけたか?」
工藤「あ・・・」
富田林「お前なあ、将来俺と同じ放送作家なりてんだろ?」
工藤「はい!」
富田林「リサーチとか図書館回りで大変かもしんねえけどさ、常におもしろいことを探すアンテナはってろ」
工藤「はい!」
澄江「センセイこごは東京じゃなくて岩手でがんすよ。ゆっくりしてくださればそれでよがんす」
富田林「人生限られた時間しかないんだよ?そんなにゆっくりしてられっかって」
工藤「あ、じゃあ、企画書たくさんかけました?」
富田林「いやあそれがさあ、ここの朝飯のパンがうますぎて脳みそがまったりモードになっちゃって無理!」
工藤「十分ゆっくりしてるじゃないですか!」
富田林「ああ俺はもうすぐ低視聴率作家になっちまうなあ。もう、女将と民宿のせいだな!」
澄江「人と場所のせいにしないでくなんせ!」
そこに
そのとき福沢、山本イン
福沢「こんちは」
澄江「あら、ようこそおでんした。」
福沢「東京からきた福沢です。」
山本「山本といいます」
澄江「はい~、どうぞあがって待っててくなんせ」
一旦澄江ははける
ふたり宿に入ってくる
入ったあとに、及川も来る。中に工藤がいるので、そこでじっと見ている
富田林「工藤、アイス食いたいな。コンビニいってかってきてよ」
工藤「先に言ってくださいよ!来る途中に買って来たのに。」
福沢「そういえばコンビニ見たの何分前だっけ?」
山本「ええとですね・・・」
福沢「それぐらい覚えとけよ」
山本「はあ・・・」(この間に、富田林、サイフからお金を出しておく)
工藤「そういうお客さんはどのくらいか覚えてますか?」
福沢「五分と見た。」
工藤「残念、歩いて三十分」
福沢「ふん、東京と違ってここまでタクシーで来たから、距離感覚が狂ってしまってるなあ」
山本「そうですね」
福沢「わかんなかったくせしてだまってろよ」
山本「はい・・・」
工藤「ちょっと!相方さんにひどいんじゃないですか?」
福沢「相方?こいつ年上だけど俺の部下だから」
工藤「え?」
山本「そうなんです」
富田林「(お金を工藤に渡して)ほい!三十分かけて買ってきて」
工藤「え?ああもう!」
及川「悦子!(ダッシュでイン)」
工藤「直也!」
工藤、及川を見ると猛ダッシュではける
富田林「(その背中に向かって)おいアイス!」
及川「悦子はアイスでね!」
富田林「え」
及川「悦子に手出すな!俺の嫁だ!」
富田林「よ、嫁?」
ここで騒ぎを聞きつけて澄江イン
澄江「なに言ってら!おめが昔やったことわかっでらの?」
及川「まだその話がよー」
そのとき
靖「直也!」
靖イン
及川「靖さん!」
靖「先祖代々の田んぼさ携帯のアンテナ立てて家賃で設けようっていうやつにえっちゃんは守れねよ」
及川「好きで立てたんでねよ!携帯の会社がどうしでもっていうがら!」
靖「兄貴のつめの垢せんじで飲め!」
及川「勝と比べるなじゃ!」
福沢「あのー」
靖「おお、いらっしゃい」
澄江「うぢの主人です」
靖「民宿『沢木』の靖でがんす。ようこそおでんした。ゆっくりしてってけで」
福沢「はあ」
山本「よろしくお願いします」
澄江「これ(宿帳)かいてもらえます?」
福沢「はい(受け取って山本に宿帳渡す)お前書いといて僕の分も」
山本「はい(受け取って、サインし始める)」
澄江「靖さん、あどお願いしますね」
靖「ああ」
澄江はける
及川「じゃ、おれもいぐべ」
靖「おめはんは行くな」
及川「ええ~」
チェンジ
チェンジ
ここは民宿沢木の台所
先に工藤がやってくる
澄江「えっちゃん」
澄江、ボウルを持って出てくる。中にはパン生地が入っている
工藤「わ!(口に手を当てて)シー」
澄江「大丈夫だ。こごは靖さんでさえ入らねえとごだから」
工藤「そうですか・・・」
澄江、作る用意をする
工藤「なにやってるんですか?」
澄江「明日のパンの仕込み(こねはじめる)」
工藤「へえ」
澄江「どこもかしこも民宿っつったらごはんばかりだべ?今どきはこういうのも用意しねとだれもこなぐなるがらね」
工藤「そうなんですか。でも今お昼ですよね?さすがに早くないですか?」
澄江「ほんどは(こねて)夕方からやんだけど(こねて)このあとうぢの親見舞いに中央病院さ行ぐから。あ、えっちゃんもういった?」
工藤「いや荷物置いてから午後から行こうかなって・・・」
澄江「いっしょにいくべ。先に中谷内(なかやち)の停留所の前さ待ってて。」
工藤「え?このまま車にのっちゃだめなんですか?」
澄江「靖さん、あまりあだしが中央病院さ行くの、よぐ思ってねみたい」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「みんな、殺されて、あだしとえっちゃんの親だけなんとか生ぎてるでしょ?だがら、あだしも気がひけてなは・・・。」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「だがらそっと行こう」
工藤「わかりました」
澄江「ちょっとやってみる?」
工藤「はい!」
工藤、手伝い始める
澄江「しっかりこねてけで」
工藤「はい」
澄江「中さパンをおいしくするための菌が入ってる。(こねる)こねて鍛えてやんだよ」
工藤「家庭科でやりましたよ。イースト菌とかが入ってるんですよね」
澄江「うん。でも岩手ってネットで見たんだけど名は、フランスに空気が似てるんだって。だがらイーストでなぐて、米殻作っ酵母をつがってる。」
工藤「へえ」
澄江「
澄江「でもまさがあの作家先生といっしょに働いでるなんてなあ」
工藤「高校卒業してすぐ東京さ行って六年くらいいっしょですね」
澄江「小学生が卒業しぢまうくらいの時間いっしょだなんて。小説とか大変そうだなはあ」
工藤「小説っていうか富田林さんは、放送作家なんです」
澄江「放送作家・・・」
工藤「テレビ番組の構成したりとか、裏方さんなんです。業界じゃ五本の指に入る人なんですよ」
澄江「売れっ子さんだなは」
工藤「ラジオのはがき職人から放送作家になった成り上がりで。今は毎日何本もレギュラー抱えてるんですよ」
澄江「そんたに忙しいのになんでこんたなとこさ?」
工藤「有休余っちゃってて、社長が気を使ってあたしがここを紹介したんです。」
澄江「ありがとね。」
工藤「あ」
澄江「なに?」
工藤「アイスかってこいっていわれてたんだった」
澄江「これ終ったらあだしがかってこよか」
工藤「いいんですか?」
澄江「うん」
工藤「じゃあ、あまえちゃお」
澄江「いいよ。下積み大変だなは」
工藤「勉強ですねえ」
澄江「男作ってるひまもないってが」
工藤「当分要りません。」
澄江「直也あそごまでさげるぐれだもんな」
工藤「・・・」
澄江「でも今二十四くらいだべ?もったいねなあ。いっそのこと、太郎壁さでも登ってみる?」
工藤「え?」
澄江「あれ?忘れた?」
工藤「沢木神社の裏の太郎壁ですよね?」
澄江「うん。あの絶壁の太郎壁を登って、夜十二時に頂上にたどりつげば、願い事がかなうって話」
工藤「おばあちゃんから聞いたことあるようなないような」
澄江「今はそんな言い伝えも忘れられて、スポーツ感覚で、登る人だちばっかり・・・(そのとき人の気配を感じる)ん
」
工藤「?」
澄江「直也が来る!」
工藤「え!」
澄江「逃げて」
工藤、寸前で逃げる
澄江「こら!入るな!」
及川、入り口から顔だけ出す
及川「なんでわかった?」
澄江「ばがの匂いしたがら」
及川「ばがでねよ~、悦子来なかった?」
澄江「家さでも、けったべ」
及川「つまんねなは。家さ行ってみようかな」
澄江「行くついでにアイス買ってきて」
及川「めんどくせじゃあ」
澄江「買ってきたら会えるかもしれねよ」
及川「ガリガリ君でいい?」
澄江「ほれ(お金を及川に渡す)さ、行った行った」
及川「ホームランバーのほうがいい?ねえ・・・」
そのとき
山本「女将さん」
澄江「あら?よぐこごがわかったこど」
山本「なんとなく探してたらたどり着きました」
澄江「怖えなあ。」
山本「これ書きました(宿帳を渡す)」
澄江「(受け取って)はいはい。あ、体でけえし、力持ちでしょ?。これはこぶの手伝って」
山本「はい」
山本はいってきて机を運ぶ
及川「はいオーライオーライ。ピピーピピー」
澄江「直也!」
三人はける
チェンジ
チェンジ
澄江「はい(中身見て)あら、探偵さん?」
靖「探偵?」
山本「ああそんなたいそうな(ことはやってないです)」
福沢「(さえぎって)そうなんですよ。ほら今あの事件懸賞かかってるでしょ?」
靖「!」
澄江「ああ十五年前の?」
福沢「そうです。あと三日で時効でしょ。我々が真犯人をつきとめてみせます!」
澄江「じゃじゃじゃ!よくやりますねえ」
富田林「これだ!」
福沢「え?」
富田林「ああおれ、こういうのやってるんです(名刺を福沢に渡す)詳しく聞かせてもらえません?」
福沢「十五年前にこの沢木町で起きた殺人事件なんだけど(それはね、むかしむかし」
靖「澄江、宿帳」
澄江「はい・・・」
靖、宿帳を受け取ると、山本が書いた帳簿を抜き取る
そして丸めて福沢に投げつける
福沢「!」
靖「けれ」
福沢「はい?」
靖「けれ!」
福沢「え・・・」
澄江「『帰れ』って・・・」
福沢「え」
靖「賞金目当てで、来るバカはけれ!」
富田林「だんなさん、それはいくらなんでもいいすぎじゃねえの」
靖「おめはんも面白がってだな。宿変えるか」
富田林「え」
澄江「靖さん」
靖「どうせ金目当てだべ!ほれ!駅まで送ってってやる。裏さ軽トラとめてあっから」
福沢「やだよ。本気で来てやってるのに」
靖「親殺されたごともねくせに!」
全員「!」
靖「親なしでこごまで来た人生わがるのすか!」
澄江「靖さん!」
福沢「ちょっと待って」
靖「?」
福沢「だんなさんはあのときの・・・被害者なの?」
靖「!」
福沢「こりゃちょうどいい。ぜひ十五年前のこと聞かせてよ」
靖「・・・うるせでや!」
靖、はける
福沢「だんなさん!」
澄江「ああ、おもさげねがんす!これ以上聞かねでけろ!」
福沢「せっかくいい聞き込みになると思ったんだけどなあ」
山本「とりあえず荷物部屋に置いたら外に行きましょう」
福沢「勝手に仕切んなよ!」
山本「すいません」
富田林「で、どういう事件なの?」
福沢「今から十五年前の今頃、この沢木町の大人たちがいっせいに殺されたんです」
富田林「え?」
福沢「(手帳を見ながら)一夜のうちに、二二四人の大人たちがほぼ即死、二組だけ、かろうじて命だけは助かったんですが、かなりの重傷で」
富田林「そんなに・・・」
山本「ええ。当時は新聞一面や全国ニュースとかにも載ったんですよ。覚えてないですか」
富田林「ぜんぜん」
福沢「ええ?なにやって生きてたの?」
富田林「十五年前?高校生んときってこったろ?うーん、『ナイラン』しか頭になかった」
福沢「ナイラン?」
富田林「知らない?ラジオ、月曜深夜一時の」
福沢「あ、ま、まさか!」
ふたり「『花畑ヨシヒロの!ナイトランデブー!』
福沢「聞いてましたよ!僕の青春のバイブルですよ」
富田林「おれ、『ナイラン』のはがき職人だよ!」
福沢「ぺ、ペンネームは!」
富田林「『坊ちゃん』!」
福沢「神だ!常連の王様じゃん!」
澄江「あのひらがなで『くれおぱとら』って知らねすが?」
富田林「え、じゃんけんコーナー十週連続で勝ちこして・・・」
福沢「賞金百万もらったクソ強い女だったような・・・」
澄江「『ふぐイルカじゃんけん』!」(河豚海豚じゃんけん)
福沢「へい、ふぐ!」
富田林「あ!いるか!」
澄江「じゃんけんぽい」
みんな出すが、澄江が勝つ
男ふたり「まさか・・・?」
澄江「わ・だ・し」
福沢「うそ!」
澄江「花畑ヨシヒロの!」
三人「ナイトランデブー!イエーイ」
澄江「まるでリスナーの同窓会みでえですなあ」
福沢「お前は聞いてた?」
山本「『草柳シンのアメリカントップ一○○○』なら・・・」
福沢「古!」
澄江「ナイランの裏番組じゃねすか」
山本「僕にとっては面白かったんですが・・・」
福沢「お前ほんとからみづらいよな」
山本「すみません」
富田林「いや、でも三人も集まるなんて運命感じるよね。」
澄江「ほんどすなあ」
富田林「ヨシヒロがいなかったら俺は今の職業についてなかったし」
福沢「そうなの?」
富田林「うん、東京から急に鹿児島の実家に電話かかってきて、汽車賃局持ちで東京に行ったら、ヨシヒロが『おめえ、おもしれえから、作家になんねえ?』て誘われて」
福沢「すげえ!いいなあ」
靖「楽しそうだなは!」
靖イン
澄江「靖さん!」
靖「おめも浮かれでたな」
澄江「すまねす、ちょっとおもしろぐて」
靖「おめだぢ・・・うがれすぎだ」
手に猟銃が握られている
福沢「(それを見て高音で叫ぶ)
そして一目散に遠いところに逃げる
靖、追いかける
靖「これでも俺がら聞きてってが」
福沢「(叫びながら逃げる)」
靖「あ?これでもが!」
福沢「助けて!」
そのとき
山本、靖と福沢の位置に入り制する
靖「どけ!」
山本「(立ったまま)申し訳ございません!(ここで土下座して)本当に、申し訳ございませんでした」
福沢「お前出過ぎた真似すんじゃないよ」
山本「(かまわず)被害者の方とも知らず、うちの福沢のご無礼お許しください」
福沢「お前!ふざけんなよ!」
山本「福沢さん、謝りましょう」
福沢「なに!」
靖「おめはん」
山本「はい・・・」
靖「おめはんも、金目当てじゃねのすか?」
山本「決してそんなことは・・・」
靖「なに!」
そのとき
及川「大変だ!」
いきせききって及川イン
福沢「だれだよ!」
及川「(息切れ)あ、アイス」
富田林「なんでお隣さんが俺のアイス買ってくるの?」
及川「おめはんのアイスだてが!」
富田林「なんだかよくわかんないけどありがとう」
及川「どういたしまして・・・って我で買いに行けじゃ!」
澄江「直也!なにした!」
及川「今、あかり祭りの委員長とたまたまあっで聞いだんだけど」
澄江「委員長?ああ、布団屋が」
及川「そう、袖子田さん。明かり祭りの『カミコ』役・・・」
澄江「ああ」
及川「澄江さんさ・・・決まっだど」
澄江「は!」
靖「なに!」
及川「やべ!また靖さんいるの?!」
靖「なあ、あだりまえだけど、断っでくれだんだなは?」
及川「・・・」
靖「断っだよな?」
及川「断れねす!」
靖「バカ!」
及川「俺が決めたんでね!神社の三上さんが、神の言葉で聞いだんだど」
靖「三上さんが!」
及川「んだ」
靖「じゃじゃじゃ・・・」
澄江「靖さん・・なんじょにすべ・・・」
靖「・・・」
富田林「あの、なにがあったの?」
及川「ああ、あさって、沢木神社で十五年に一度のお祭りがあるのす」
富田林「十五年に一度の祭り?」
澄江「明かり祭り」
富田林「楽しそう」
靖「人殺し祭りな」
富田林「え!」
靖「その祭りの夜に・・・うちらの親たち・・・みんな殺された・・・」
福沢「あかり祭りは近隣の人たちも、ましてや全国的にも知られていない、秘祭奇祭の類のひとつだそうですね」
みんな「・・・」
福沢「ある民俗学者の本にそう書いてありました。僕はその祭りの中のなにかにも、殺しにつながる秘密があるんじゃないかとみています。ニ二四人も殺す、なにかが・・・」
及川「ん~とそれはなは・・・」
靖「だまってろ・・・」
福沢「なに隠してるんですか?」
靖「なにもね」
福沢「答えてください!」
靖「なにもねよ」
及川「澄江さん?カミコぐれえなら、そっていいんじゃねすか?」
澄江「ばが!」
富田林「カミコってなに?」
靖「知らなくていい話しだ」
福沢「知りたい話だ」
及川「ああもう!祭りの最後さ神様が人間さ移ってお言葉をそうの!」
澄江「直也・・・」
及川「すまねす・・・」
福沢「なるほど」
富田林「いたこみたいなもんだね」
靖「いっしょにすんな!」
富田林「!」
靖「こごは岩手だ。沢木村だ。恐山といっしょにすんな!」
富田林「すまん・・・」
靖「カミコは神様じゃね・・・人殺しの・・・悪魔だ・・・」
みんな「・・・」
靖「十五年に一度の、悪魔を喜ばせる祭り・・・それもその役が・・・なんで澄江さ・・・・なんでそっただのやらなきゃならねんだ!」
澄江立ち上がると
澄江「三上さんところいって、断ってくる」
及川「だめだじゃ!一度決まったら変えられねよ!」
澄江「無理だじゃ!」
そのとき
工藤「(息を切らせて)大変です!」
澄江「今度はなんちょした?」
工藤「神社のご神体が・・・なくなったって!」
及川「はあ?」
工藤「ないって!」
及川「困るでや!ご神体ねば、澄江さんがやる『カミコ』に神様移ってこねじゃ!」
暗転
第二章
暗転中に
富田林「(電話。声のみ)あ、おはようっす。富田林っす。あのカメラとD、なんとかななんないすか?」
(D→ディ。ディレクターのこと)
明転
富田林、応接間で電話してる
社長「(声の出演のみ)無理無理。ねえデントンちゃん、あんた今日何の日だかわかってる?」
富田林「えっ・・・」
社長「ヨンパチよ、ヨ・ン・パ・チ」
富田林「そだ!あちゃ~四八時間テレビかあ・・」
社長「デントンちゃん、テレビみてないの?」
富田林「見てるんすけどこんなクソ田舎で仙人みたいな生活やってたら、東京の流れに追いつけないですよ」
社長「あ!まるであたしが岩手なんかに行かせたのが悪いみたいな言い草じゃないの!」
富田林「冗談すよ。で、なんとかカメラマンだけでも無理すか?」
社長「みんなお台場とか全国に散らばってんのよ。企画書出したわけじゃないしできるわけないじゃん」
富田林「二日間も生放送やってるわけっすよね?そこで緊急生激撮!時効寸前まで完全密着!どうすか!数字見えてくるじゃないすか!」
社長「うちはバラエティを作る会社なのよ。そこまで本気でドキュやりたいわけじゃないし(それにあんただけよ)」
富田林「あ、お台場のPはだれすか?電話してかけあってみます。」
社長「お台場は国立さん」
富田林「国立っちゃん!OK!おつかれっす」
社長「あもしもし!もしもし」
富田林、一気に電話を切る
急いでかけなおして
富田林「しもしも~?おつかれちゃん国立っちゃん。」
国立「おう富田林、なに?」
富田林「あのさ、今岩手にいんだけど、十五年前にここで起きた大量殺人事件って知ってる?」
国立「ああ俺が報道いたころハイパーニュースで特集組んだ。事件当時二十歳以下だった町の生き残りの中に犯人がいるって県警が調べたんだけど見つかんなくてだめだった」
富田林「どうせ初動捜査が『ずさん』だっただけだろ?」
国立「うん。見事にみんなアリバイがあってね。ついには隣の盛岡や滝沢,、雫石の要注意人物にまでローラーかけたんだけど『お宮』いりになっちゃったんだよね」
富田林「俺その岩手に今いんだけどさ、ヨンパチで時効まで密着ってどう?」
国立「なるほど、いいね」
富田林「よっしゃ食いついた!こっちもグッドタイミングでさあ、犯人を絶対捕まえてやるっていうコナンみてえな探偵とさ、容疑者呼ばわりされてる男いんだよ!」
国立「わかった。すぐ企画書メールして」
富田林「んなの今から書いたら時効切れちゃうよ!国立っちゃん元報道局だろ?なんとかしてよ!」
国立「俺はPだけどさあ、さらに上がなんっていうか。」
富田林「相変わらず優柔不断だなあ」
国立「Pよりも偉いやつがたくさんいんだよ。そんな生中継してほしいなら、ネット局の岩手わんこそばテレビにかけあってみてよ」
富田林「それじゃわんこそばテレビの得にしかなんないよ。カメラだけでも送って」
国立「ええ?じゃ、そこの住所教えてよ」
富田林「じゅ、住所?」
国立「そうだよ。送れなきゃ意味ないじゃん」
富田林「あ、そっか、えっと~ああそこまで知らねんだった。どうしよ・・」
そこに
靖が通りかかる
富田林「(電話)あ、ちょっとまって(靖に)だんなさん!ここの住所教えてください」
靖「あ?」
富田林「住所!」
靖「なんで」
富田林「いいから!」
靖「あやしでや」
富田林「ああもう!ちょっと荷物送ってもらうんで」
靖「・・・岩手県沢木村堀端・・・」
富田林「ああ!待って待って(電話に)行くよ、岩手県沢木村堀端」
靖「99」
富田林「まってよ、99・・・(ここで携帯が切れる音)あれ?もしもし?」
靖「?」
富田林「切れやがった!くそ!(携帯をぶんぶん振る)」
靖「電波が入りにぐってあんだがここさ来たときからそってるじゃねすか」
富田林「(電波の入りそうなところ画面見ながら探して)わかってるよ!」
靖「うちの電話でもつかいあんすか?」
富田林「え・・・」
靖「電話、うちの使って」
富田林「いいの?悪いね」
靖「使っていい代わりに、事件のことさ首突っ込むのやめて」
富田林「!」
靖「あんだ、見世物にしよどしでる」
富田林「そんなつもりはない」
靖「時効まで生中継だおんな?」
富田林「わかってくれよ俺の仕事!」
靖「人の不幸でメシ食えてらの?」
富田林「だんなさんにとっちゃ不幸かもしれんけどこの事件を知りたいと思う人もいる。その人のためにもがんばるのが俺たちの仕事だ」
靖「人間は生きてくだけでいいんでないの?」
富田林「・・・」
靖「犯人つかまろうが時効成立しようが面白ぐもつまんなぐもが関係ね。命が消えるまで、普通に生きてれば(いいんでねのすが)」
富田林「面白いことを探さないと俺は生きていけないんだよ!」
靖「面白いことは人の不幸すか!」
富田林「誰かが傷つけば誰かが笑う!そんな毎日じゃないか!」
靖「!」
富田林「昨日笑われてえんえん泣いたやつが、今日になったら誰かを見てげらげら笑ってる、喜怒哀楽があるから人間なんじゃないか?他の動物に喜怒哀楽が出せるか?」
靖「!」
富田林「人が面白い見たいってやつを作るのが俺にとって生きてることだ。それを取ったら生きていること自体無駄だ」
そこに山本がイン
山本「どうしました?」
靖「・・・なんでもねす」
山本「・・・」
富田林「すいません、言いすぎたかも・・・」
靖「・・」
富田林「電話借ります」
富田林はける
靖「あんだはどう思う?」
山本「はい?」
靖「おれのごと・・・」
山本「・・・」
靖「疑ってらのすが?」
山本「・・・」
靖「素直に疑ってらってそえばいいのに」
山本「だんなさん」
靖「?」
山本「僕が言うのはなんですが、あまり人に対してつっかかってばかりいると、本当にひとりになってしまいます」
靖「・・・」
山本「ひとりで生きていくほどつらいものはありません。もっと・・・もっともっとやさしくなりましょうよ」
靖「やさしくなんかなれねよ・・・」
山本「・・・」
靖「ただ寝てただけなのに・・・他の親も死んだのに俺ばかり疑われて・・・」
チェンジ
チェンジ
ここは工藤の家の前
工藤「(電話しながらイン)急ぎですか?わかりました。すぐ行きます(電話切る)」
工藤がかばんを持って出かけようとする
そこに福沢イン
福沢「お時間はとりません(名刺渡して)昨日澄江さんと何はなしました?」
工藤「急がないと怒られちゃうんでごめんなさい」
はけようとする工藤
福沢「いつまでもひきずってんじゃないよ」
工藤「!」
福沢「あの及川という男、そして高校の卒業式あとのある出来事、それらに縛られてる限りあなたは成長しない」
工藤「・・・」
福沢「我々男性というものにちょっとは心を開いてもらいたいですね」
工藤「あなたにわかりますか!直也に過去も未来もズタボロにされたあの悔しさ、あの痛み、絶望!」
福沢「わかりません男だからです」
工藤「最低ですね」
福沢「最低で結構。」
工藤「開き直ってる。やっぱり男はみんな直也と同じなんですね。」
福沢「いいから答えて!」
工藤「!」
福沢「少なくてもおれはあの及川直也とは違います。一緒にされるのは大変不愉快。」
工藤「・・・」
福沢「ズタボロにされたなら、自分で修復して未来を歩けばいい。うちの探偵事務所の未来はこの事件を解決するか否かにかかってるんです」
工藤「懸賞金にでしょ」
福沢「もちろん」
工藤「けっこう正直な人ですね」
福沢「昔からよく言われます」
工藤「・・・澄江さんとはただのおしゃべりです。あとはパン作るの手伝っただけですよ」
福沢「それだけじゃないでしょう。少しでもいいから教えてくださいよ」
工藤「あたしの証言だけで犯人は捕まるんですか?」
福沢「あなただけでは無理でしょう。でもあなたがもし犯人なら・・・」
工藤「疑ってるんですか?」
福沢「あの事件当時は八歳か九歳くらいでしょ?余裕で人を殺せます」
工藤「(ため息)あのときは・・・親のことでいっぱいいっぱいでした」
福沢「(メモを見ながら)確か澄江さんの親と同じ中央病院にいらっしゃるんですよね?」
工藤「今はそう。あのときはお祭りのクライマックスみたいなとこで親といっしょにライトを振っていたんです。そしたら急に親がうずくまって・・・見たら背中から血がブアって・・・」
福沢「なるほど・・・(メモる)」
工藤「あ、そういえばお医者さんが言うには、傷がものすごく細くて縦に深く入ってたって・・・」
福沢「へえ・・・(メモる)」
工藤「包丁とかメスとかそういうのよりも細くて深くて・・・そんな凶器があったとしても見たことがないっていってて・・・」
福沢「現実じゃありえない、と?」
工藤「ええ。」
福沢「岩手はそういうの多いですよね。昔話だ、伝説だって。」
工藤「沢木の間引き伝説は知ってますか?」
福沢「いえ」
工藤「あの事件を追ってるならその辺も調べたほうがいいですよ」
福沢「教えてくださいよ。いじわるしないで」
工藤「お断りします。」
福沢「!」
工藤「うちの富田林がこういってました。わからないことを自分で図書館に行って調べないようなやつには魅力がないって。」
福沢「魅力ねえ」
工藤「失礼します」
福沢「作家先生のところに行くんですよね」
工藤「なんでわかるんですか?」
福沢「いきましょう」
工藤、一瞬ためらうが
いっしょにはける
チェンジ
一方こちらは宿
ごそっと、及川が入ってくる
及川「悦子~、悦子いないかあ」
そこに富田林がイン
及川「わあ!たまげた!」
富田林「なにしてんの」
及川「いや俺の嫁っこ来てねえがなって」
富田林「工藤?ああ、もうすぐここに来ると思うよ」
及川「んだか?なら待たせてもらうべ」
及川、勝手に座る
富田林「ねえほんとに結婚するの?」
及川「あだりまえだあ。ちっちぇころからずっと好きだったおん」
富田林「不器用だし、暗いし、たまに何考えてるかわかんないやつだよ?」
及川「器用だし、明るいし、なんたってめんけえ!」
富田林「恋は盲目だな・・・」
及川「並みの男には悦子の良さがわがんねのよ。あ、今度大吉の日知ってる?その日に悦子と式あげてんだけど」
富田林「(カレンダー見て)明日だなあ」
及川「明日かあ。よりにもよって明かり祭り当日が大吉だなんてなは~、こりゃおれだちが間引かれる」
富田林「間引かれる?」
及川「昔々な、沢木では十五年おきに飢饉が起きてなは。年貢収めたら町の人たちが食う米もなぐなっちまった。そこで考えたのが、人口が減れば米は食えるってこと。他の村だとこれから生まれてくる赤ん坊を殺したっつけど、沢木では大人を殺したのす
富田林「こわいなあ・・」
及川「んだがら明かり祭りは間引きされた霊を慰めるためにはじまったのよ」
富田林「もしかして今年も殺されるの?」
及川「ばがだなあ。今の世になってからはだれも殺されねえ。カミコ様のご神託と明かり歩きだけ残ってるのよ」
福沢「でも、十五年前は殺されたよね」
ふたりふりむく
福沢がいる
その影には工藤
及川「おあ悦子!ひまなら大釜のイオンさいくべ!」
工藤「・・・(福沢の影に隠れる)」
及川「おめはん邪魔だ。もう悦子~、スターバックスでキャラメルマキアート飲みながら話こすんべ!なあ!」
工藤、はける
及川「悦子!」
福沢「(後ろから及川の肩をたたいて)わかるよその気持ち」
及川「おめはんにわがられたぐね!」
福沢「恋愛ってもんはやっぱり順序をふまないとねえ。いきなり体の関係から入るからこういうことになるんだよ」
及川「!」
福沢「あんた、猿以下だ。」
及川「おめ!」
及川、福沢の襟首つかむ
しかし福沢軽がると及川を投げ飛ばす
及川「いで!」
福沢「(服を調えながら)ああいう男性恐怖症を増やすのは罪だ」
及川「好きだからほしかったんだ!」
福沢「体を奪ったからって自分のもんになるわけじゃない。逆に女は遠ざかる。イマドキの小学生でもわかる」
及川「お、!おれは、悦子が好きだ!」
福沢「まだ言ってる・・・」
及川「小学校のころからずっと好きだ!おれはいつでも本気だ!
富田林「ああもうやめようよ?」
福沢「集団お見合いでもしなよ」
及川「!」
福沢「あんたにゃそれがお似合いだ。先生、いきましょう」
富田林「え?ああ」
ふたりはける
一人残される及川
地面を握り締める
悔しさ
自分の思い通りになれない
好きなのに避けられる
伝えられない気持ち
それらが入り混じって一定の点に達したとき
及川「!」
ポケットの中身に気づく
それは白い粉
及川それを見つめる
ひとつの思い
そして走っていく
澄江イン
澄江「ただいま・・・」
靖イン
靖「なんちょだった?」
澄江「・・・今夜七(なな)時に神社さ来てけでって・・・」
靖「だめだったが・・・」
澄江「すまね・・・すまねす・・・靖さん」
靖「・・・」
澄江「あの日、三上さんが寝てらったら、朝の四時くれえに雪みだいに真っ白い猫入って来で、枕もとであだしの名前そって、サーッて、いなぐなったんだって・・・」
靖「猫・・・」
澄江「夕べのうぢに焼いたパンと酒っこ持って、ずっと話ししたんだけど・・・神様のお告げだってゆずんねくて・・・」
靖「猫が・・・」
澄江「靖さん?」
靖「俺も見だ・・・おれの前、しゃーって横切って・・・
澄江「ああああ」
靖「澄江、正直にそってけろ。おれが十五年前のカミコでねが」
澄江「違いあんす・・・」
靖「ほんとは澄江の家で寝てたんでね・・・俺がカミコさなって親とか殺したんだべ・・・」
澄江「違う」
靖「証拠は!」
澄江「あだしが証拠だ!いっしょに絶対いだんだ!信じねのすが!」
靖「・・信じたくても・・・信じられね・・・」
澄江「なんで!」
靖「親、生きてでいいなは・・・」
澄江「!」
靖「俺は親に話しこしたくてもいねし・・・それに比べで澄江は中央病院さいげばいづでも会える」
澄江「・・・」
靖「週何回か病院さいくべ?心配そうな顔してほんとは、親さ会えるの楽しみにしてらべ!」
澄江、靖の頬を張る
澄江「・・・そっただのおもわね!」
靖「!」
澄江「あだし・・・カミコやるがら・・・」
靖「・・・」
靖「勝手にしろ・・・」
澄江「(靖を見つめる・・・)」
靖「(見つめ返す)」
澄江、はける
靖残る
山本パンを持ってイン
靖山本の気配にあわてて繕う
靖「やなとこ、見られだな」
山本「(パンを置いて)・・・追いかけないんですか?」
靖「・・・だってこのあとの予約の人だちもいるし」
山本「そんなのどうだっていいじゃないですか」
靖「!」
山本「だんなさんは、生きている今をどう考えてますか?」
靖「?」
山本「よく、人は生まれてくるときと死ぬときはひとりだといいます。死ぬときがひとりなら、生きている間は自分以外の人を大切にしなければならないんじゃないでしょうか」
靖「あんたは他人にやさしすぎる」
山本「そうかもしれません。自分を見つめるのと同じくらいに、そばにいてくれる人を見てあげてください」
靖「あんだ・・・」
山本「お気を悪くしたらすいません、失礼しました。」
山本はける
靖はひとりでパンを見る
考える
チェンジ
チェンジ
富田林と福沢、工藤がやってくる
福沢「ついた!」
富田林「これが沢木神社?」
工藤「そうです」
福沢「思ったよりもちっちぇえ神社だな」
工藤「ちょっと猫神様の前に失礼じゃないですか?」
富田林「猫神様?」
工藤「沢木神社は猫を祭ってるんです」
富田林「面白い!狐じゃなくて猫なんだ。国立っちゃんが送ってくるスタッフにもここから撮ってもらおう」(携帯をかける
福沢「かわったもん祭ってるよね。ほんと岩手ってそういうのがすきなんだよなあ」
工藤「そんなに岩手をバカにしてると猫神様のバチがあたりますよ」
福沢「あたれるもんならあたってみろってんだよ。ご神体ないのに」
工藤「う、そうだった・・・」
富田林「しもしも?国立っちゃん」
国立「(声のみ)なんだよ!今けっこう手はなせないんだけど」
富田林「(声のみ)悪いね、スタッフの子たち送ってくれた?」
携帯切れる音
富田林「んだよ、つまんねえな」
福沢「そうだ、テレビ映るんだよね(そういいながら格好を気にし始める)」
富田林「ああ今頃新幹線乗ってるぞ!着たらすぐにやろう」
福沢「緊張するなあ」
工藤「そんなに気にしても写るのはちょっとなんですよ」
福沢「そうなの?」
工藤「あなたばっかり映したところでつまんないですから」
福沢「あのね、俺の才能あふれる解説とか推理が見せ場でしょ?そういうのがなかったら番組も面白くないでしょ」
工藤「視聴者はもっと違うものを期待してると思いますけど」
福沢「君みたいな人が間引きされればいいのにね」
富田林「あ、あんたも間引き知ってるの?」
福沢「この子が教えてくれないんでね、急いでネットで調べましたよ」
富田林「図書館じゃないんだ」
工藤「やっぱり魅力ないんですね」
福沢「ネットは図書館の情報量を凌駕してますからね。」
富田林「リサーチとしては間違ってるなあ。ネットはウソものっかってるんだよ?」
福沢「いろいろな要因から調べるのが探偵の仕事ですから。」
工藤「あ、そういえばネットでおもしろいのみましたよ」
富田林「どうせうそなんだろ?」
工藤「でも聞いてくださいよ。今いる人類の中に、間引きを専門にする人間がいるっていう話」
富田林「間引き専門?」
工藤「そうなんです。今は少子化なんていわれてますけどやっぱり日に日に人間って増えているんですよね。で、世界的に見ても食料ってものは限られた量しかないんです。もちろん死亡する人間もいるんだけど追いつかなくて。そこで、これ以上人間が増えないように殺していく人間というものを神様がもともと作っていたっていう話」
福沢「また、神様か」
富田林「神様話だとウソ多いからなあ。間引きする人間ってのは、殺し屋とかそういう人だろ?」
福沢「職業じゃなくて、本能で人を殺すっていう感じなんですって。だから罪悪感もなければ、別に精神が狂ってるわけでもない。でもその間引き人間たちがいるおかげで、人類が増えすぎるのを全体的にコントロールしてるっていう」
福沢「コントロールねえ」
工藤「たとえば、未解決の殺人事件って世界的に見てもけっこうあるんですよ。そういうのこそ、その間引き人間たちがやってるかもしれないって考えると」
富田林「話としては面白いね」
福沢「認めませんよ。それ認めたら俺ら探偵の存在意義がない」
工藤「そうですか?」
福沢「もう神様だどうだとかいう話勘弁してくださいよ。うんざりだ」
富田林「でももしそんな人間が隣にでもいたら、怖くて寝れねえなあ」
福沢「隣といえば、実はあの及川っていうお隣さんを第一容疑者にあげてるんですよ」
工藤「直也が?」
福沢「あなたと同い年でしょ?あの歳なら当時でも簡単に人が殺せる」
工藤「・・・直也になにかしたんですか?」
福沢「今朝会ったときに軽く、奴の劣等感と自己顕示欲を刺激しておきました。」
工藤「そんな、あいつを刺激したら、手がつけられなくなりますよ」
福沢「お祭りにかこつけてだれか狙うかもしれませんね。でもそんなことはさせる前に現行犯逮捕ですよ」
工藤「・・・」
福沢「あなたはあいつにすべてを奪われた。このままでいいんですか?」
工藤「それは・・・」
工藤、先に走り始める
富田林「おい!」
工藤はける
富田林「あんた、工藤の何を調べたんだ
福沢「別に?たたいて出てくるほこりは誰しも持ってますから。それを調べただけです」
富田林「あんた・・・
福沢「いきましょう」
はける
暗転
明転
ぽつんと座っている澄江
そこに及川がやってくる
及川「カミコやってくれるってほんと?」
澄江「(止まる)」
及川「ほんとすか?」
澄江「(うなづく)・・・だども・・・」
及川「あ?」
澄江「明かり祭りやれるの?」
及川「(じっと澄江を見つめたまま)」
澄江「あだしがカミコやるのはいいよ。だども、ご神体ねのに、なんじょにカミコやるって・・・」
及川、澄江を見つめたまま、ポケットから袋を取り出す
それは透明なビニール袋に入った白い粉(本番では小麦粉か片栗粉使用のこと)
澄江「おめ!!」
及川「(手ぬぐい(ハンカチ)に白い粉を適量出して広げ始める)」
澄江「ご神体の・・・神様の骨でねが!」
及川「(作業しながら)んだな・・・」
澄江「まさが直也・・・」
及川「(作業しながら)盗んでねえよ。」
澄江「盗んでねなら、なんでおめはんが持ってらの!」
及川「(粉作業しながら)俺、実行委員だがらさ、三上さんからご神体、分けてもらってだの」
澄江「そんな!」
及川「ほんとだよ。なにがあっても明がり祭りはやる。俺以外の実行委員も持ってらしな」
澄江「三上さんがそんたなことするわけねべや!正直にしゃべれじゃ!」
及川「(粉作業完了。粉を見つめてから)きれいな骨っこだあ・・・これなら吸っても痛ぐねべ」
澄江「やめろじゃ!」
及川、軽く顔を近づけて粉を吸う
及川バッと顔を離す
及川粉に軽くまみれた、ぎらぎらした目で見つめている
及川「(深々と呼吸をする。見つめながら)」
澄江「なおや・・・」
及川「(澄江をにらんで手ぬぐいを構える)ぺっこ鼻ツンってすんだげだがら怖がらねくていいがら・・・。」
澄江「あ・あああ・・・!」
及川「(てぬぐいをかまえて低音で)。カミコになってもらわないとな、さあ!」
及川襲いかかる!
そこに山本ダッシュで入ってくる
及川をはがいじめにする
及川「(低音で)離せ!」
山本「(はがいじめ)」
及川「(普通の声で)離せでば!」
山本「警察に突き出してもいいんですよ!」
及川「なにもしでねってば!」
及川、ふりほどく
及川「痛でじゃ!じゃんごたれが!」
山本「女将さんに何しようとしたんですか!」
及川「なにもしでねよ~。」
山本「そんなふうには見えなかったです」
及川「そうか」
山本「?」
及川「そうか・・・」
そういいながら影で及川、鼻を手ぬぐいに近づける
澄江「(それに気づいて)あ!」
及川「(低音で)澄江!神社で待ってるぞ!」
澄江「ああああ・・・」
及川「(絶叫)今夜は祭りだ!十五年ぶりの間引きだ!」
山本、及川に突進しようとする
しかし、澄江がぎゅっと山本を抱きしめる
山本「女将さん!」
澄江「あああああああ」
及川「カミコになれ!」
手ぬぐいをもってふりかぶる
そのとき
工藤「直也!」
及川「(止まる)」
工藤「・・・やめよう・・・やめようよ・・・こういうのは」
及川「・・・」
工藤「あんたは直也だよね・カミコじゃなくて・・・」
及川「違う・・・」
工藤「骨吸ったからってカミコにはなれないよ。選ばれた人しか・・・なれないんだよ。」
及川「・・・おれは・・・カミコだよ・・・」
工藤「じゃんごたれ!バチあたりめが!」
及川「・・・」
工藤「猫神様が・・・怒るよ・・・」
及川「・・・」
澄江「おめ・・・直也のままなのが・・・」
及川「(がっくりと)・・・おれは・・・ばがでも弱虫でもね・・・悦子に好かれてえ・・・強くてカッコよくなりてくて・・・」
工藤「ばが!」
そのときすっと福沢がイン。
及川を後ろ手に取り
福沢「はい第一容疑者確保」
富田林「話を聞こうかお隣さん」
三人はけようとする
しかしそれを振り切って及川逃げる
富田林「まてこら!」
富田林追いかける
山本「歩けますか?」
澄江「(うなずく)」
山本「送ります」
山本手を澄江に差し出す(このとき同時に工藤にも電話がかかってくる。工藤、電話出てはける
しかしにぎらない
澄江「帰らないよ」
山本「?」
澄江「帰れね・・・靖さんをなぐってしまっただ」
山本「女将さん・・・
澄江「(すっと立つ)神社さ行がねえど・・・。」(歩き始める)
山本「そんな体じゃ無理ですよ」
澄江「カミコさなって証明してやんだ・・・ほんとの神様は間引きなんかしねって・・・」
福沢「間引き・・・」
澄江「(振り返って)靖さんが・・・十五年前のカミコなのす・・・」
澄江はけていく
チェンジ
ここから二画面クロス
部屋でひとりぼっちの靖
手前、外舞台
富田林、イン
疲れて、ひざまずく
富田林「あいつ・・・どこにいきやがった・・・」
富田林、持ってきた携帯をふり始める
富田林「よし、なんとかつながる・・・」
民宿沢木に入電
靖出る
靖「澄江が!」
富田林「おれです。富田林」
靖「あんたが、澄江みだが?」
富田林「猿橋の近くにいた。」
靖「やっぱり・・・」
富田林「それよりこっちは大変なことになってるぞ、あんたの隣の家の人、発狂して逃走中だ」
靖「直也が?」
富田林「ああ。このままだと本当に十五年前の再現になるぞ」
そのとき急にノイズが入る
富田林「もしもし?もしもし?」
靖「もしもし?もしもし?」
富田林「んだよ!こんなときに!」
靖「もしもしもしもし」
大きくなるノイズ
そのとき
工藤「(声のみ)そんなこといえません・・・」
富田林「(気づいて)!工藤・・・」
工藤「そんなこと・・・いえません」
社長「いってみなさいよ」
富田林「社長?」
工藤「いえません」
社長「(ためいき、そのあと声のみ)いやんなっちゃうなあ、いえないなんて・・・」
工藤「・・・」
社長「(声のみ)最近面白くないなんて・・・いえないか」
富田林「!」
社長「(声のみ)あいつはもうペンネーム坊ちゃんでも富田林十三でもない・・・ただの本名の丸井正直になっちゃってるんだと思う」
工藤「(声のみ)でもそういうのは変化だと思います。常日頃から面白いことを考えて、そしてたどりついた結果と変化ですよそれも」
社長「あんなので?」
工藤「社長はしらないかもしれませんが、こっちでも企画書はたくさん書いてます。今度の殺人事件に密着するのもただ面白いってだけじゃなくて真実の中の面白さを模索しているんです。こういうのに視聴者は興味をひかれるんじゃないでしょうか」
社長「わかった。せいぜい一生模索してればいいわ」
工藤と富田林「社長!」(シンクロ)
社長「悪いけど、国立さんにはスタッフ送るのとめてもらったわ」
富田林「おい!」
工藤「そんな!」
社長「(声のみ)棲み分けって知ってる?優秀なドキュはどっかの優秀な制作会社が作ればいい。あたしたちのフィールドじゃないから。そこまでする気ない」
工藤「そんな・・・」
社長「(声のみ)そうだ。そろそろあんたもリサーチャー修行終わりだったわよね。テンドンちゃん担当番組をひとつ持ってみる?」
工藤「そんなのできません」
社長「(声のみ)そ?ならバイバイ」
工藤「!」
社長「(声のみ)今ね、よければあんたに速達でおくろうって思ってた新幹線のチケット・・・ほーら・・・シュレッダーしちゃった」
工藤「(声のみ)社長!」
社長「お台場にはリサーチャーの田中君を作家に昇格させとくね。テンドンちゃんにも教えといて。んじゃね」
工藤&富田林「社長!」
富田林「社長!おい!社長!おかま!おい!・・・」
大きくなるノイズ
富田林、ばたりと
富田林「・・・」
靖「もしもしもしもし」
富田林「・・・そんな・・・そんな」
靖「俺も聞げだ・・・」
富田林「!」
靖「俺の耳さも聞けた・・・あんた・・・東京に帰れねってが・・・」
富田林「・・・」
靖「あんだ!」
富田林「わかってたような気がする」
靖「は」
富田林「俺・・・もう・・・面白くねんだよ・・・」
靖「・・・」
富田林「この前テレビつけたら、とんでもなくつまんねえ番組やってやがってさ。だれだよこんなに面白くねえ番組作りやがったのってスタッフロール見たら・・・でかでかと俺の名前が流れてやがって・・・」
靖「・・・」
富田林「昔は面白いことが湯水のように出てきて、自分の思っていることとパソコン打つ手があわなくてもどかしいくらいだった。でも今はやっと考えて、会議でもスタッフにウケてるのに・・やっぱり・・・おもしろくない・・・」
靖「・・・」
富田林「工藤に言ってるようにいつもアンテナを張っていても面白いことがひっかかってこない。時代が進んで、自分だけがアンテナの感度が鈍ってるんじゃないかって思うと夜も眠れなくて・・・」
靖「・・・」
富田林「俺は老いるのが怖い。時代が変わっていくのが耐えられない。時計の秒針がカチカチ、カチカチと進んでいくのが・・・」
靖「俺もそういうの考えたことがある」
富田林「・・・」
靖「このまま・・・時効が成立する夜の十二時になるまで、ずっとこの憎たらしい我をひきずっていくのかって・・・」
靖、山本の置いていったパンを持つ
靖「でもその今になってわがったことがある。十二時過ぎても俺はかわらね。この憎たらしい我と向き合わねば!」
靖、山本の置いていった、パンを食う
靖「俺には、澄江が必要だ。・・・澄江さ、今までの恩返ししねば・・・」
富田林「恩返し・・・」
靖「あんだもいねが・・・時代が変わるようにあんだもぺっこずつ変わってんだ、アンテナは鈍ってね、あんだがアンテナを磨くために必要な人。」
富田林「俺が・・・アンテナを?」
靖「んだ・・・」
富田林「・・・工藤・・・」
靖「えっちゃんか・・・」
富田林「あいつしか・・・おれのそばにいた人間はいない・・・」
靖「いっしょにアンテナ磨きあえばいい・・・そすればそごからなにか生まれるかもよ」
富田林「・・・」
靖「会いたいべ・・・」
富田林「ああ・・・」
靖「・・・太郎壁さ登るが」
富田林「?」
靖「神社の裏さある沢木山のもうひとつの登山道。絶壁で、毎年たくさんの人が挑戦しで、怪我したり命落どす難所・・・でも登りきれば、願いがかなう」
富田林「できるかな・・・」
靖「わがらね・・・でも会いたい・・・」
富田林「・・・」
靖「六時、神社の入り口で待ってで」
電話切れる
お互い電話を見つめる
そして走り出す
入れ替わるように
及川が民宿にふらふら歩いてくる
及川「靖さーん、靖さーん」
山本がすっとやってくる
及川「お!なんだ?つかまえさ、きたのか」
山本だまっている
及川「さっきはあんなまねしたけどおれは犯人じゃねぞ。誓ってもいい。十五年前だって俺は親殺されてるのす。靖さんと同じ被害者。アリバイは・・・金魚すくいのとこで何十枚ってやって取れねくてむしゃくしゃして、やんややんや踊ってたけど・・・ん?なんでしゃべんねの?」
山本だまっている
及川「そっか、話っこしてのか?さっさとそえばいいのに。あんた独身?結婚してんのか?・・・」
山本「・・・」
及川「はあ俺も悦子と結婚しで~」
山本「悦子さんと結婚したなら」
及川「は?」
山本「結婚したいなら、どうしたいんですか」
及川「悦子と結婚したら、めんけえ犬一匹飼うんだあ。朝の散歩は俺がやる。散歩コースは田んぼさ今度携帯のアンテナ立つもんでなは、それの見回り。悦子の作ったメシ食ったらそのまま共働きだあ。
夕方俺はぺっこ早く仕事終らせて悦子を犬つれて迎えさいぐ。で、毎日イオンのスタバさいって、キャラメルマキアート飲むのす。」
山本「・・・」
及川「どう?東京じゃ犬つれてカフェさ入るのステイタスだべ?うらやましいべ?」
そのとき山本、そっと及川に近寄りだきしめるようにする
及川「?」
そして及川を離して、はける
一人残る及川
及川「?」
おなかから手を離す
手は血で真っ赤になっている
次の瞬間
痛みが襲ってくる
そこに
工藤「富田林さん・・・」
しかしそこには及川がいる
工藤「!」
及川「悦子・・・」
工藤「・・・」
及川「明日、犬、買いさ・・・いくべ」
ふらりと無言で工藤によりかかる
工藤「・・・直也!」
暗転
第三章
暗闇の中
祭りの音が聞こえる
ひとつ明かりがつく
二つ明かりがつく
順々について五個明かりがつく
そのあと両サイドにそれよりは大きい懐中電灯の明かりがつく
全部で七個の明かりがつく
そのあと小さい明かりの二つは両サイドにはけていく
明転
舞台の上には真ん中に澄江がイスに座っている。両サイドには布袋に目が開いたお面の人がいる
手前外舞台には、男ふたり
靖と富田林である
男ふたりは壁を見上げる
富田林「まさに・・・絶壁だな」
靖「怖いのすか?」
富田林「そんなことはないよ」
靖「俺は余裕だ」
富田林「手が震えてるよ」
靖「うるせ!武者震いよ」
富田林「怪しいなあ」
靖「行きますか・・・」
富田林「いかれますか」
ふたり手をかける
一方舞台
澄江は緊張した面持ちでまっすぐ前を見やっている
男(福沢)「時間であんす・・・」
澄江「・・・」
男「やりあんすよ」
男、そばにあるもう一つの布袋を取ろうとする
澄江「まって」
仮面「?」
澄江「もしあだしが、ご神体吸ってがら、本当におかしくなったら・・・」
男「・・・」
澄江「遠慮なく殺してけで」
男、うなずく
澄江は覚悟して目をつぶる
男、脇に行き、 布袋の中にご神体の粉をいれはじめる
強い風が吹く
外舞台
靖「風強くなってきだな」
富田林「・・・」
靖「おめはん」
富田林「・・・」
靖「大丈夫だか」
富田林「なんとか・・・」
靖「下はぜってえ見るな」
富田林「わかってるよそんなこと!」
そのとき強い風が
ふたり「(耐える声)」
一方舞台
男が袋を用意している
澄江は固くなっている
緊張
男「まいりあんす」
澄江、胸の前で祈り一礼
男も一礼し
目をつぶった澄江の頭から布袋をかぶせる
そして男一気に澄江の鼻の辺りに手をかぶせて中の粉を吸わせる
澄江「(苦しみだす)」
澄江、もがき抵抗する
そのうち、澄江は抵抗しなくなりぐったりする
男、澄江をゆっくりすわらせて
外舞台相変わらず強い風
富田林「あああ・・・くそ・・・おれは降りる!」
靖「なんで!」
富田林「どうして俺がそんな迷信のために登んなきゃなんねんだよ!」
靖「べっこ!」
富田林「!」
靖「上見えてら!あとべっこでねすが!」
富田林「工藤に会いたきゃ携帯で呼び出しゃいいんだよ!」
靖「!」
富田林「だんなさんだって女将さんに会いたいなら神社に行けばいいじゃない」
靖「・・・」
富田林「なんだよ!それこそ怖いのか?」
靖「(登り始める)」
富田林「おい!」
靖「(登っている)」
富田林「もう降りるからな!」
富田林降りようとするが
富田林「んだよ、くそ!降りるにも・・怖えな!ちくしょお!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「なんで・・・俺のペンネーム知ってるの・・・」
靖「俺もはがき書いてヨシヒロの声聞いてらった!採用されねがったけどな。」
富田林「だんなさんも・・・」
靖「澄江のジャンケンのほうがすげけどな・・・みんなヨシヒロでつながってんだ!」
富田林「ヨシヒロで・・・」
靖「そんなヨシヒロがもしこごにいたらこういうべ!『怖えなら前を向け!』ってよ!」
富田林「!」
靖「登るべ!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
ふたり「ナイトランデブー!」
富田林、体勢を整える
富田林「よし!」
靖「ぺっこだ!」
富田林「ぺっこ!」
ふたり登り始める
舞台
すっと澄江が起き上がる
男「カミコ様」
カミコ「・・・」
男「では前へ」
カミコ「・・・」
カミコ立ち上がる
ふらふらとあるく
そして扉をあける
男「(大きく)沢木の皆のもの!猫神様の遣い、カミコ様がいらっしゃっだぞ!」
大きく歓声が沸く
そのとき袋をかぶった女が飛び込んでくる
工藤だ
工藤「カミコ様!お聞きしたいことがあります」
男「どげ!じゃまだ!」
工藤「死にたくないんです!」
男「どげ!」
工藤「死にたくない」
男「!」
工藤「直也が刺されました。間引きされました。直也が死んだらあたしも死んじゃうような気がして・・・」
男「そっただこどね!」
工藤「カミコ様にお聞きしてるんです!」
男「!」
工藤「だめな人間を間引くのなら、あたしもだめな人間です。あたしも間引かれるんですか・・・」
カミコそっと歩く
そして工藤の前へ行くと工藤の手を取る
無言でぐいっと引き寄せたあとそのまま離してぐるぐると回り始める
ふたりが回り始める
工藤「カミコ様・・・」
ふたりは八の字を書くように回り始める
工藤「カミコ様!」
大きくなおも回り続ける
工藤「カミコ様!」
そして大きく工藤を離す
遠心力で工藤、端に飛ばされる
工藤「痛い!」
そこに間髪いれずカミコが来る
額に手をかざす
工藤「!」
シンクロしていく舞台ふたつ
カミコ「(工藤の口をふさいで)わたしは・・・いのちは・・・うばいません」
靖「ぺっこだ!」
工藤「!」
富田林「ぺっこ!」
カミコ「あなたの・・・こ・・・こ・・・ろ・・・を・・・ま・・・び・・・く・・・」
そういうとカミコ工藤の胸を押さえ
カミコ「(力を入れる声)!」
その瞬間、工藤、ぐったりする
男「カミコ様だめだ!」
男カミコの体を押さえる
カミコ脱力し体を、男に預ける
あわててカミコの布袋を取る
男「救急車!だれか救急車を!」
助けようとする男
布袋をはぐ。男もはぐ
靖「十二時だ!」
福沢「女将さん!女将さん!」
ふたり「ついたぞ!」
舞台上
沈黙
暗転する世界
そこにゆっくりとまた
ひとつひとつ
ライトがついていく
ライトは固まってひとつの線になり
また八の字を描く
富田林「きれいだ」
靖「ああ」
富田林「これが・・・あかり祭り・・・」
靖「んだ・・・」
そのとき
一陣の急風が吹く
悲鳴をあげて
そして
沈黙する
父「靖・・・」
母「靖・・・」
靖「お父さん・・・お母さん・・・」
ひとつだけ消えない明かり
倒れている靖が目を覚ます
靖「んあ・・・」
山本「(しゃがんでみつめて)・・・」
靖「なんで・・・あんだ・・・こごさいる」
山本「なんとなく・・・歩いていたらここにたどり着きました」
靖「なんとなくって・・・」
山本「なんとなくです・・・」
靖「ば、ばがいうでねよ・・・おれたぢが死ぬ思いしてここさやっと登ってこれたのに」
山本「・・・」
靖「それにおれは・・・あんだにあいたいんでね・・・澄江さ・・・」
山本「遊びませんか?」
靖「?」
山本「そこにしゃがんでてください」
山本、反対方向に離れていく
靖、ゆっくり立っていく
山本「いきますよ」
投球フォームに入る山本
そして投げる
きれいなフォームで
靖「(あっけにとられている)」
山本「なにやってるんですか?」
靖「は?」
山本「しっかりとってください」
もう一度投球フォームに
そして投げる
山本「なにぐずぐずしてるんですか」
靖「・・・」
またフォーム
投げる
靖「お、おめはんはなにしてらの?」
山本「いいですから」
靖「野球なんてやったことねよ」
山本「いいからとってください」
靖「ええ」
山本、よってきて
山本「(取るスタイルを教えながら)ほら、こうやってかまえて」
靖「(言われるがまま)」
山本「(元に戻って)俺の玉けっこう早いから、しっかり取ってください」
そして投げる
靖、わけもわからずそこにいる
構えをしたまま
山本「僕は高校時代野球部でした」
投げる。
山本「高校から始めたんです。ピッチャーやりたかった。でもまわりは小学校からやっているやつらばっかりで、所詮僕がかなう相手じゃなくて・・・ずっとベンチで二年半過ごしました」
山本、軽い玉を投げる
靖構える
山本「だから僕は、ひとりでこうやってチームを作ったんです」
山本投げる
靖取る
靖「取った」
山本「どこ見てるんですか」
靖「は?」
山本「よく見てください」
また投げる
靖「ほれとったって!」
山本「だめですね」
靖「え」
山本「今度は立ってみてください」
靖立つ
投げる。取る
靖「取れた!」
山本「うまくなってきましたね」
靖「ああ」
山本「こっちにも投げてください」
靖「え・・・」
山本「早くしないと夜が明けてしまいます」
靖、へたくそな投げ
山本、変な方向にいって取る
山本「しっかり!」
靖「ああ」
山本、きれいに投げる
靖取る
山本「取りやすいでしょ?」
靖「ああ」
山本「取りやすいように投げてください・・・僕にも澄江さんにも」
靖「え・・・」
山本「さあこい」
靖、投げる
今度はラクに取る山本
山本「そうです」
靖「んだが・・・」
山本「次から僕が伝えたいことを投げます」
靖「?」
投げる山本
取る靖
山本「わかりますか?」
靖「????」
山本「ひさしぶりだからなまってるなあ」
靖投げる
山本取る
山本「次はわかります」
山本投げる
取る靖
靖「・・・」
山本「わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・」
靖「そうか」
山本「・・・」
靖「おめはんが・・・俺の親・・・殺したのすが・・・」
山本「・・・」
靖「なんで殺した」
山本「・・・」
靖「(ふりかぶって)なんじょにして殺した!(投げる)」
山本、真正面で受け止める
ふたり沈黙
山本「生きていくために必要だからです」
靖「ふざけるなじゃ!」
山本「間引かないと生きていけないんです」
靖「!」
山本「理由なんかありません。悪意もうらみも快感もありません。」
靖「おめ!」
山本「人間が生きていくためには僕が誰かを間引かなくてはならないんです」
靖「・・・」
山本「僕が死んでも・・・ずっと続くんです・・・誰かが必ず・・・間引いていく」
山本、影から、猟銃を取り出す
静かに靖に向ける
山本「ここから投げてください」
靖「・・・」
山本「女将さんに・・・だんなさんの思いを・・・」
靖「!」
山本「思いがこめられないとわかったら撃ちますから」
靖「ん、んたなこと・・・」
山本、引き金を引く
山本「さあ、早く」
靖「!」
山本「命をかけて伝えるんです。」
靖「・・・」
山本「ふりかぶって」
靖、ふりかぶる
山本「投げてください!」
靖、思いをこめて投げる
その瞬間暗転
沈黙
銃声
小鳥の声が聞こえる
朝の光が宿に入ってくる
富田林がくる
福沢もやってくる
そこに澄江がやってくる
澄江「おはようがんす」
ふたり「おはよう(福沢はおはようございます)」
澄江、二人の前にスーパーのビニール袋をどすんどすんと置く
福沢「これは?」
澄江「パン」
福沢「パン・・・」
澄江「朝めしあがってくれなかったであんすか?」
福沢「そりゃ、徹夜で女将さんのつきそいしましたからね」
澄江「朝メシ食わながったらどうやって生きてぐのす?」
福沢「!」
澄江「まだ若けんだがら!これお土産ね。新幹線の中ででもめしあがってくなんせ」
福沢「・・・ありがとう」
澄江「年上からもらったら、ありがとうございあんす」
福沢「あ、ありがとうございます」
澄江「よし、よくできた」
富田林「元気だなあ・・・」
澄江「あはは、猫神様のご神体って、精力あるのかもすなあ。あはは(元気もりもりの動き)」
富田林「猫みたいにたくさん子供産むのかもね」
澄江「んだなす~。野球チーム作れるくれえほしいすなあ」
福沢「だめですよ!今度こそ死んじゃいますよ」
澄江「なに必死になってらのすが」
福沢「だれかさんのせいで寝てないんですよ!それぐらいわかってくださいよ」
澄江「助かりあんしたありがとうございあんす」
福沢「もう・・・」
富田林「あ、でも社長の猫は社長が幼稚園のときから今でも生きているらしいよ」
澄江「ってこどは・・・不老不死がもなすな~あはは」
工藤「おはようございます」
澄江「あえっちゃん、どうよ、まびかれた気分は?」
工藤「あ、えっと」
澄江「?」
工藤「あんま・・・なんもかわってないような・・・」
澄江「んにゃ、つまんねなは」
福沢「ねえ、だじゃれってどういうこと」
澄江「だじゃれじゃねえすよ」
工藤「れっきとした儀式じゃないですか。」
福沢「あのさ誰も「間引く」の「ま」が、悪魔の「魔」だとは思わないよ」
澄江「思い込み」
工藤「そうそう」
澄江「人間の心さ巣食ってる悪魔を取る儀式。だから魔引きよ」
福沢「がっかりだよ!秘祭奇祭は田舎のだじゃれショー。相方は行方不明往復の新幹線代で今月の事務所の家賃も払えないんだよ」
澄江「ちょっとこっちさ来、こっちさ」
福沢「え?」
澄江、前夜の魔引きスタイルで
澄江「ふんっ・・・」
福沢「・・・」
澄江「ほれ、魔、いなくなったべ?」
福沢「うん!ほがらか!っなわきゃないでしょ?」
澄江「不老不死のパワーを・・・はああああああああ」
福沢「えええええええ」
工藤「(富田林に)あ、タクシー頼んでおきましたよ」
富田林「ああ」
工藤「十分くらいで来るそうです」
富田林「OK」
工藤「・・・どうしたんですか?」
富田林「俺、決めた。ヨシヒロになる」
工藤「え?」
富田林「DJになる。第二のヨシヒロになって、俺みたいなやつをたくさん作ってやる」
工藤「ほ、本気ですか?」
富田林「本気。で、工藤、事務所作るから手伝ってくれ」
工藤「はい?」
富田林「いいか?オカマのとこ戻っても机ねえんだぞ。独立だよ!」
工藤「え・・・」
富田林「好きなことやってやろうじゃねえか。勉強して来年有楽町のDJオーディションうかってやるのよ!」
工藤「は、はあ・・・」
福沢「でも歳とかは」
富田林「思い出せ!ヨシヒロ三十すぎてからああよ」
福沢「確かに・・・」
富田林「ついでにあんたも手伝って?」
福沢「はい?」
富田林「家賃はらえないくらいだろ?俺の退職金で買収してやるから」
福沢「DJと探偵いっしょにやる事務所なんて見たことないですよ」
富田林「はい(握手を求める)」
福沢「え?あ、ども(握手する)
富田林「買収成立」
福沢「え、え~(握手)かわれちゃったよ・・・」
そこにタクシーのクラクションがなる
工藤「あ、きましたよ」
富田林「よしいこう」
福沢「はい社長」
工藤「え?」
福沢「買収されたからね」
工藤「先にいってドア開けて」
福沢「なんで俺が?」
工藤「新入社員だから」
福沢「はいはいはいはい」
福沢、はける
澄江「あ、わすれないでけで」
パンを渡す
富田林「ありがとう」
工藤「あ、ちょっとあたしにもわけてくださいよ」
富田林「だめ」
工藤「またメタボになっちゃいますよ~」
そこに
靖「おお、おわがれですな」
富田林「遅いよ。どこいってたの」
靖「なんとなく」
富田林「は?」
靖「気をつげて」
富田林「おいおいどこいってたか教えてよ!」
そのとき
及川「悦子!」
工藤「直也あんた中央病院に(いったんじゃないの?)」
及川「おめさ会うために抜け出しできだ。」
工藤「・・・」
及川「ありがとう・・・救急車呼んでけで・・・ほんとうにありがとう・・・」
工藤「・・・」
及川「(おなかを軽く押さえながら)あいででで・・・」
澄江「どしたの?」
及川「なんでもねす・・・」
澄江「救急車って黄色い救急車だべ?」
及川「うるせでや!」
澄江「!」
及川「あ、いででで・・・悦子・・・今度は正月にでもなは。きたらぜってえ、イオンのスターバックスでキャラメルマキアート飲んで・・・そのあどは沢木神社で初詣いくべ・・・」
工藤「・・・」
及川「それだげいいさ来た。」
工藤「・・・」
クラクション
及川「あ、行くんだよな?ほれいけじゃ」
工藤「・・・」
そこに
福沢「遅いよ!新幹線いっちゃうよ(及川に気づいて)あ、あんた!昨日はよくも俺から逃げやがって!」
及川「やべ!(富田林と工藤に)ほれ!はやく行けじゃ!」
及川ふたりの背中を押してやる
富田林「(押されながら)工藤これでいいのか?」
及川「さ、早く早く」
富田林「工藤!」
及川「早くよ!」
福沢「おい!俺と勝負しろ、この!」
工藤「直也!」
みんな「・・」
工藤「キャラメルマキアートは・・・東京で飲み飽きちゃった」
及川「・・・」
工藤「エスプレッソなら・・・考える・・・」」
及川「えすぷれっそ????」
澄江「(及川の肩をたたいてから)コーヒーの一番濃いやつよ」
富田林「大人の苦味!ヨシヒロも好きなんだよね」
及川「無理無理無理!甘いのでカンベンしてけで!」
工藤「じゃあさよなら」
及川「そんなあ!甘えのしか飲めねよ!」
福沢「社長行きましょう」
富田林「おう。(民宿側に)じゃあね」
澄江「ありがとがんした。気をつけてお帰りくなんせ~」
富田林「だんなさん」
靖「!」
富田林「二度と山は登らないよ」
靖「・・・気をつけてお帰りくなんせ!」
とうきょうチームはける
澄江「いっちゃったねえ
靖「ああ・・・」
澄江「じゃ・・・」
靖「どごさいく?」
澄江「ああ午後から中央病院さ行ぐから早めにまたパン作るよ」
靖「おしえてけで」
澄江「!」
靖「おれさも・・・おしえてけで・・・」
澄江「・・・」
靖「なあ」
澄江「・・・小麦粉かってきてくなんせ」
靖「なんでよ!」
澄江「あだらしぐ、ふぐらます菌をつぐるから」
靖「今までの菌でいいべ」
澄江「記念日の菌だ」
靖「・・・」
澄江「今日の・・・この空気を吸わせた菌で、新しいパン作るべし・・・」
靖「・・・わがった」
澄江「ありがとあんす」
靖「これがらもなは・・・」
澄江「(うなずいてはける)」
靖、その背中を見送る
思い
風が流れている
思い
はけようとする
そのとき
澄江「ああ!」
靖「?」
澄江「なおやの携帯のアンテナ倒れた!」
靖「なに!」
暗転
END
登場人物
菊池靖:民宿「沢木」主人:富士河千之介
菊池澄江:民宿「沢木」女将:本多美智子
富田林十三(丸井正直):放送作家:大森一
工藤悦子:オフィスプレエンタ製作部職員:可奈恵
及川直也:「沢木」の隣の農家:石井雄大
福沢茂道:探偵:笠原大史
山本聡:探偵見習い:荻野大地
スタッフ
作・演出:富士河千之介
照明オペレーター:厚木智
音響効果オペレーター:加藤真由実
制作本部:本多美智子・佐々木律
舞台部:荻野大地・笠原大史・石井雄大
製作著作
3man Office制作本部
「ナツノアカリ」パートナーズ
序章
きっかけの曲
暗転
ひとつのあかりがつく
そしてひとつひとつ順番にあかりがついていく
うっすら明転する
石井「さあ、今日もラジオの前のリスナーもご一緒に!花畑ヨシヒロの」
全員「ナイトランデブー!」
(拍手)
石井「さあ今週もやってきました月曜一時ナイラン!あらためましてこんばんは花畑ヨシヒロです。今日はねえ神宮前の喫茶店に行ったんだけどね、そこのエスプレッソがおいしくてさあ、リスナーのみんなにも紹介したいなって思って。場所は、原宿から歩いて・・・」
ノイズ大きくなる
本多「靖?ねだか?」
靖「・・・」
笠原「どうした?」
佐々木「靖の部屋がべっこうるさくてなは」
石井「今夜も三時までねるんじゃねえよ!一曲めはこんどのニ五日に出る俺のシングル『夏の灯り』!よろしく聞いてね!」
大森「こら靖。そろそろ寝ろ。」
靖「・・・」
荻野「明日は大事な明かり祭りだぞ!はやくねろ!」
本多「靖?」
笠原「靖?」
佐々木「靖?」
石井「はい、今日一枚目のおはがきは鹿児島県の坊ちゃんから!ヨシヒロ兄貴こんばんは!今日は面白いことがあってさあ・・・」
大森「靖?」
荻野「靖?」
みんな「靖?」
暗転
またあかりがひとつひとつ動いてはけていく
靖「父さん・・・母さん・・・」
第一章
ここは岩手県沢木町
県庁所在地である盛岡の隣、山に東西南北を囲まれた盆地の小さな町である
町の住民のほとんどが老人である、典型的な地方の過疎の町である。
名物といえば町の南方にある、沢木山。
岩手山と姫神山と早池峰山の次に高いとされ、県内はもとより東北各県、関東などから登山する客で夏は軽くにぎわう。
特に頂上近くの九十度近い絶壁「太郎壁」は、国内の山の中でも難所と知られ、毎年死傷者を出すくらいであるが、山にあこがれる登山家たちはそこを愛し、怪我したとしてもずっと挑戦し続けるという。
そのふもとに山の神を祭った沢木神社があり、そこの近くに民宿「沢木」はある
盆も近づくある日
暗転中
澄江「ありがとあんした。気をつけてお帰りくなんせ」
明転
澄江が外で客を見送っている
頭を上げると部屋の中へ
そこにすでに先日から四日ほど泊まっている富田林があくびをしながらイン
澄江「おはようがんす」
富田林「おはよ・・・」
富田林、イスに座って新聞を読み始める
澄江「朝ごはんは召し上がりあんしたか?」
富田林「(読みながらあくびしながら)ああ」
澄江「あ、また朝までお仕事?」
富田林「ううああ・・・」
澄江「先生は偉えですなあ。徹夜してもあだしの作ったパン、召し上がってくださるから」
富田林「食べやすくていいよね。」
澄江「うれす!」(嬉しい)
富田林「あれがごはんと味噌汁と、しょっぱいシャケだったら俺は食ってないかも。」
澄江「どうも。あ、朝のおぼんは、ぺっこしたら、お下げいたしあんすから」
富田林「ぺっこ?」
澄江「岩手弁で、少し、って意味です」
富田林「ぺっこ、か。ちょっと面白いな(すぐにメモに書く)」
澄江「もう四日も泊まってらっしゃるんですから、そろそろあだしだちの岩手弁にも慣れてもらわねと」
そのとき旅行かばんを持って、工藤イン
工藤「ごめんください」
澄江「あんら!えっちゃん」
工藤「澄江さん、おひさしぶりです」
澄江「今けってきたの?」
工藤「ええ」
富田林「おれが呼んだの」
澄江「ええ!」
工藤「いまは富田林さんのところで働いてるんです」
澄江「じゃじゃじゃ!狭い世の中だあ」
富田林「おう、俺のいない間に東京で面白いこと見つけたか?」
工藤「あ・・・」
富田林「お前なあ、将来俺と同じ放送作家なりてんだろ?」
工藤「はい!」
富田林「リサーチとか図書館回りで大変かもしんねえけどさ、常におもしろいことを探すアンテナはってろ」
工藤「はい!」
澄江「センセイこごは東京じゃなくて岩手でがんすよ。ゆっくりしてくださればそれでよがんす」
富田林「人生限られた時間しかないんだよ?そんなにゆっくりしてられっかって」
工藤「あ、じゃあ、企画書たくさんかけました?」
富田林「いやあそれがさあ、ここの朝飯のパンがうますぎて脳みそがまったりモードになっちゃって無理!」
工藤「十分ゆっくりしてるじゃないですか!」
富田林「ああ俺はもうすぐ低視聴率作家になっちまうなあ。もう、女将と民宿のせいだな!」
澄江「人と場所のせいにしないでくなんせ!」
そこに
そのとき福沢、山本イン
福沢「こんちは」
澄江「あら、ようこそおでんした。」
福沢「東京からきた福沢です。」
山本「山本といいます」
澄江「はい~、どうぞあがって待っててくなんせ」
一旦澄江ははける
ふたり宿に入ってくる
入ったあとに、及川も来る。中に工藤がいるので、そこでじっと見ている
富田林「工藤、アイス食いたいな。コンビニいってかってきてよ」
工藤「先に言ってくださいよ!来る途中に買って来たのに。」
福沢「そういえばコンビニ見たの何分前だっけ?」
山本「ええとですね・・・」
福沢「それぐらい覚えとけよ」
山本「はあ・・・」(この間に、富田林、サイフからお金を出しておく)
工藤「そういうお客さんはどのくらいか覚えてますか?」
福沢「五分と見た。」
工藤「残念、歩いて三十分」
福沢「ふん、東京と違ってここまでタクシーで来たから、距離感覚が狂ってしまってるなあ」
山本「そうですね」
福沢「わかんなかったくせしてだまってろよ」
山本「はい・・・」
工藤「ちょっと!相方さんにひどいんじゃないですか?」
福沢「相方?こいつ年上だけど俺の部下だから」
工藤「え?」
山本「そうなんです」
富田林「(お金を工藤に渡して)ほい!三十分かけて買ってきて」
工藤「え?ああもう!」
及川「悦子!(ダッシュでイン)」
工藤「直也!」
工藤、及川を見ると猛ダッシュではける
富田林「(その背中に向かって)おいアイス!」
及川「悦子はアイスでね!」
富田林「え」
及川「悦子に手出すな!俺の嫁だ!」
富田林「よ、嫁?」
ここで騒ぎを聞きつけて澄江イン
澄江「なに言ってら!おめが昔やったことわかっでらの?」
及川「まだその話がよー」
そのとき
靖「直也!」
靖イン
及川「靖さん!」
靖「先祖代々の田んぼさ携帯のアンテナ立てて家賃で設けようっていうやつにえっちゃんは守れねよ」
及川「好きで立てたんでねよ!携帯の会社がどうしでもっていうがら!」
靖「兄貴のつめの垢せんじで飲め!」
及川「勝と比べるなじゃ!」
福沢「あのー」
靖「おお、いらっしゃい」
澄江「うぢの主人です」
靖「民宿『沢木』の靖でがんす。ようこそおでんした。ゆっくりしてってけで」
福沢「はあ」
山本「よろしくお願いします」
澄江「これ(宿帳)かいてもらえます?」
福沢「はい(受け取って山本に宿帳渡す)お前書いといて僕の分も」
山本「はい(受け取って、サインし始める)」
澄江「靖さん、あどお願いしますね」
靖「ああ」
澄江はける
及川「じゃ、おれもいぐべ」
靖「おめはんは行くな」
及川「ええ~」
チェンジ
チェンジ
ここは民宿沢木の台所
先に工藤がやってくる
澄江「えっちゃん」
澄江、ボウルを持って出てくる。中にはパン生地が入っている
工藤「わ!(口に手を当てて)シー」
澄江「大丈夫だ。こごは靖さんでさえ入らねえとごだから」
工藤「そうですか・・・」
澄江、作る用意をする
工藤「なにやってるんですか?」
澄江「明日のパンの仕込み(こねはじめる)」
工藤「へえ」
澄江「どこもかしこも民宿っつったらごはんばかりだべ?今どきはこういうのも用意しねとだれもこなぐなるがらね」
工藤「そうなんですか。でも今お昼ですよね?さすがに早くないですか?」
澄江「ほんどは(こねて)夕方からやんだけど(こねて)このあとうぢの親見舞いに中央病院さ行ぐから。あ、えっちゃんもういった?」
工藤「いや荷物置いてから午後から行こうかなって・・・」
澄江「いっしょにいくべ。先に中谷内(なかやち)の停留所の前さ待ってて。」
工藤「え?このまま車にのっちゃだめなんですか?」
澄江「靖さん、あまりあだしが中央病院さ行くの、よぐ思ってねみたい」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「みんな、殺されて、あだしとえっちゃんの親だけなんとか生ぎてるでしょ?だがら、あだしも気がひけてなは・・・。」
工藤「そっかあ・・・」
澄江「だがらそっと行こう」
工藤「わかりました」
澄江「ちょっとやってみる?」
工藤「はい!」
工藤、手伝い始める
澄江「しっかりこねてけで」
工藤「はい」
澄江「中さパンをおいしくするための菌が入ってる。(こねる)こねて鍛えてやんだよ」
工藤「家庭科でやりましたよ。イースト菌とかが入ってるんですよね」
澄江「うん。でも岩手ってネットで見たんだけど名は、フランスに空気が似てるんだって。だがらイーストでなぐて、米殻作っ酵母をつがってる。」
工藤「へえ」
澄江「
澄江「でもまさがあの作家先生といっしょに働いでるなんてなあ」
工藤「高校卒業してすぐ東京さ行って六年くらいいっしょですね」
澄江「小学生が卒業しぢまうくらいの時間いっしょだなんて。小説とか大変そうだなはあ」
工藤「小説っていうか富田林さんは、放送作家なんです」
澄江「放送作家・・・」
工藤「テレビ番組の構成したりとか、裏方さんなんです。業界じゃ五本の指に入る人なんですよ」
澄江「売れっ子さんだなは」
工藤「ラジオのはがき職人から放送作家になった成り上がりで。今は毎日何本もレギュラー抱えてるんですよ」
澄江「そんたに忙しいのになんでこんたなとこさ?」
工藤「有休余っちゃってて、社長が気を使ってあたしがここを紹介したんです。」
澄江「ありがとね。」
工藤「あ」
澄江「なに?」
工藤「アイスかってこいっていわれてたんだった」
澄江「これ終ったらあだしがかってこよか」
工藤「いいんですか?」
澄江「うん」
工藤「じゃあ、あまえちゃお」
澄江「いいよ。下積み大変だなは」
工藤「勉強ですねえ」
澄江「男作ってるひまもないってが」
工藤「当分要りません。」
澄江「直也あそごまでさげるぐれだもんな」
工藤「・・・」
澄江「でも今二十四くらいだべ?もったいねなあ。いっそのこと、太郎壁さでも登ってみる?」
工藤「え?」
澄江「あれ?忘れた?」
工藤「沢木神社の裏の太郎壁ですよね?」
澄江「うん。あの絶壁の太郎壁を登って、夜十二時に頂上にたどりつげば、願い事がかなうって話」
工藤「おばあちゃんから聞いたことあるようなないような」
澄江「今はそんな言い伝えも忘れられて、スポーツ感覚で、登る人だちばっかり・・・(そのとき人の気配を感じる)ん
」
工藤「?」
澄江「直也が来る!」
工藤「え!」
澄江「逃げて」
工藤、寸前で逃げる
澄江「こら!入るな!」
及川、入り口から顔だけ出す
及川「なんでわかった?」
澄江「ばがの匂いしたがら」
及川「ばがでねよ~、悦子来なかった?」
澄江「家さでも、けったべ」
及川「つまんねなは。家さ行ってみようかな」
澄江「行くついでにアイス買ってきて」
及川「めんどくせじゃあ」
澄江「買ってきたら会えるかもしれねよ」
及川「ガリガリ君でいい?」
澄江「ほれ(お金を及川に渡す)さ、行った行った」
及川「ホームランバーのほうがいい?ねえ・・・」
そのとき
山本「女将さん」
澄江「あら?よぐこごがわかったこど」
山本「なんとなく探してたらたどり着きました」
澄江「怖えなあ。」
山本「これ書きました(宿帳を渡す)」
澄江「(受け取って)はいはい。あ、体でけえし、力持ちでしょ?。これはこぶの手伝って」
山本「はい」
山本はいってきて机を運ぶ
及川「はいオーライオーライ。ピピーピピー」
澄江「直也!」
三人はける
チェンジ
チェンジ
澄江「はい(中身見て)あら、探偵さん?」
靖「探偵?」
山本「ああそんなたいそうな(ことはやってないです)」
福沢「(さえぎって)そうなんですよ。ほら今あの事件懸賞かかってるでしょ?」
靖「!」
澄江「ああ十五年前の?」
福沢「そうです。あと三日で時効でしょ。我々が真犯人をつきとめてみせます!」
澄江「じゃじゃじゃ!よくやりますねえ」
富田林「これだ!」
福沢「え?」
富田林「ああおれ、こういうのやってるんです(名刺を福沢に渡す)詳しく聞かせてもらえません?」
福沢「十五年前にこの沢木町で起きた殺人事件なんだけど(それはね、むかしむかし」
靖「澄江、宿帳」
澄江「はい・・・」
靖、宿帳を受け取ると、山本が書いた帳簿を抜き取る
そして丸めて福沢に投げつける
福沢「!」
靖「けれ」
福沢「はい?」
靖「けれ!」
福沢「え・・・」
澄江「『帰れ』って・・・」
福沢「え」
靖「賞金目当てで、来るバカはけれ!」
富田林「だんなさん、それはいくらなんでもいいすぎじゃねえの」
靖「おめはんも面白がってだな。宿変えるか」
富田林「え」
澄江「靖さん」
靖「どうせ金目当てだべ!ほれ!駅まで送ってってやる。裏さ軽トラとめてあっから」
福沢「やだよ。本気で来てやってるのに」
靖「親殺されたごともねくせに!」
全員「!」
靖「親なしでこごまで来た人生わがるのすか!」
澄江「靖さん!」
福沢「ちょっと待って」
靖「?」
福沢「だんなさんはあのときの・・・被害者なの?」
靖「!」
福沢「こりゃちょうどいい。ぜひ十五年前のこと聞かせてよ」
靖「・・・うるせでや!」
靖、はける
福沢「だんなさん!」
澄江「ああ、おもさげねがんす!これ以上聞かねでけろ!」
福沢「せっかくいい聞き込みになると思ったんだけどなあ」
山本「とりあえず荷物部屋に置いたら外に行きましょう」
福沢「勝手に仕切んなよ!」
山本「すいません」
富田林「で、どういう事件なの?」
福沢「今から十五年前の今頃、この沢木町の大人たちがいっせいに殺されたんです」
富田林「え?」
福沢「(手帳を見ながら)一夜のうちに、二二四人の大人たちがほぼ即死、二組だけ、かろうじて命だけは助かったんですが、かなりの重傷で」
富田林「そんなに・・・」
山本「ええ。当時は新聞一面や全国ニュースとかにも載ったんですよ。覚えてないですか」
富田林「ぜんぜん」
福沢「ええ?なにやって生きてたの?」
富田林「十五年前?高校生んときってこったろ?うーん、『ナイラン』しか頭になかった」
福沢「ナイラン?」
富田林「知らない?ラジオ、月曜深夜一時の」
福沢「あ、ま、まさか!」
ふたり「『花畑ヨシヒロの!ナイトランデブー!』
福沢「聞いてましたよ!僕の青春のバイブルですよ」
富田林「おれ、『ナイラン』のはがき職人だよ!」
福沢「ぺ、ペンネームは!」
富田林「『坊ちゃん』!」
福沢「神だ!常連の王様じゃん!」
澄江「あのひらがなで『くれおぱとら』って知らねすが?」
富田林「え、じゃんけんコーナー十週連続で勝ちこして・・・」
福沢「賞金百万もらったクソ強い女だったような・・・」
澄江「『ふぐイルカじゃんけん』!」(河豚海豚じゃんけん)
福沢「へい、ふぐ!」
富田林「あ!いるか!」
澄江「じゃんけんぽい」
みんな出すが、澄江が勝つ
男ふたり「まさか・・・?」
澄江「わ・だ・し」
福沢「うそ!」
澄江「花畑ヨシヒロの!」
三人「ナイトランデブー!イエーイ」
澄江「まるでリスナーの同窓会みでえですなあ」
福沢「お前は聞いてた?」
山本「『草柳シンのアメリカントップ一○○○』なら・・・」
福沢「古!」
澄江「ナイランの裏番組じゃねすか」
山本「僕にとっては面白かったんですが・・・」
福沢「お前ほんとからみづらいよな」
山本「すみません」
富田林「いや、でも三人も集まるなんて運命感じるよね。」
澄江「ほんどすなあ」
富田林「ヨシヒロがいなかったら俺は今の職業についてなかったし」
福沢「そうなの?」
富田林「うん、東京から急に鹿児島の実家に電話かかってきて、汽車賃局持ちで東京に行ったら、ヨシヒロが『おめえ、おもしれえから、作家になんねえ?』て誘われて」
福沢「すげえ!いいなあ」
靖「楽しそうだなは!」
靖イン
澄江「靖さん!」
靖「おめも浮かれでたな」
澄江「すまねす、ちょっとおもしろぐて」
靖「おめだぢ・・・うがれすぎだ」
手に猟銃が握られている
福沢「(それを見て高音で叫ぶ)
そして一目散に遠いところに逃げる
靖、追いかける
靖「これでも俺がら聞きてってが」
福沢「(叫びながら逃げる)」
靖「あ?これでもが!」
福沢「助けて!」
そのとき
山本、靖と福沢の位置に入り制する
靖「どけ!」
山本「(立ったまま)申し訳ございません!(ここで土下座して)本当に、申し訳ございませんでした」
福沢「お前出過ぎた真似すんじゃないよ」
山本「(かまわず)被害者の方とも知らず、うちの福沢のご無礼お許しください」
福沢「お前!ふざけんなよ!」
山本「福沢さん、謝りましょう」
福沢「なに!」
靖「おめはん」
山本「はい・・・」
靖「おめはんも、金目当てじゃねのすか?」
山本「決してそんなことは・・・」
靖「なに!」
そのとき
及川「大変だ!」
いきせききって及川イン
福沢「だれだよ!」
及川「(息切れ)あ、アイス」
富田林「なんでお隣さんが俺のアイス買ってくるの?」
及川「おめはんのアイスだてが!」
富田林「なんだかよくわかんないけどありがとう」
及川「どういたしまして・・・って我で買いに行けじゃ!」
澄江「直也!なにした!」
及川「今、あかり祭りの委員長とたまたまあっで聞いだんだけど」
澄江「委員長?ああ、布団屋が」
及川「そう、袖子田さん。明かり祭りの『カミコ』役・・・」
澄江「ああ」
及川「澄江さんさ・・・決まっだど」
澄江「は!」
靖「なに!」
及川「やべ!また靖さんいるの?!」
靖「なあ、あだりまえだけど、断っでくれだんだなは?」
及川「・・・」
靖「断っだよな?」
及川「断れねす!」
靖「バカ!」
及川「俺が決めたんでね!神社の三上さんが、神の言葉で聞いだんだど」
靖「三上さんが!」
及川「んだ」
靖「じゃじゃじゃ・・・」
澄江「靖さん・・なんじょにすべ・・・」
靖「・・・」
富田林「あの、なにがあったの?」
及川「ああ、あさって、沢木神社で十五年に一度のお祭りがあるのす」
富田林「十五年に一度の祭り?」
澄江「明かり祭り」
富田林「楽しそう」
靖「人殺し祭りな」
富田林「え!」
靖「その祭りの夜に・・・うちらの親たち・・・みんな殺された・・・」
福沢「あかり祭りは近隣の人たちも、ましてや全国的にも知られていない、秘祭奇祭の類のひとつだそうですね」
みんな「・・・」
福沢「ある民俗学者の本にそう書いてありました。僕はその祭りの中のなにかにも、殺しにつながる秘密があるんじゃないかとみています。ニ二四人も殺す、なにかが・・・」
及川「ん~とそれはなは・・・」
靖「だまってろ・・・」
福沢「なに隠してるんですか?」
靖「なにもね」
福沢「答えてください!」
靖「なにもねよ」
及川「澄江さん?カミコぐれえなら、そっていいんじゃねすか?」
澄江「ばが!」
富田林「カミコってなに?」
靖「知らなくていい話しだ」
福沢「知りたい話だ」
及川「ああもう!祭りの最後さ神様が人間さ移ってお言葉をそうの!」
澄江「直也・・・」
及川「すまねす・・・」
福沢「なるほど」
富田林「いたこみたいなもんだね」
靖「いっしょにすんな!」
富田林「!」
靖「こごは岩手だ。沢木村だ。恐山といっしょにすんな!」
富田林「すまん・・・」
靖「カミコは神様じゃね・・・人殺しの・・・悪魔だ・・・」
みんな「・・・」
靖「十五年に一度の、悪魔を喜ばせる祭り・・・それもその役が・・・なんで澄江さ・・・・なんでそっただのやらなきゃならねんだ!」
澄江立ち上がると
澄江「三上さんところいって、断ってくる」
及川「だめだじゃ!一度決まったら変えられねよ!」
澄江「無理だじゃ!」
そのとき
工藤「(息を切らせて)大変です!」
澄江「今度はなんちょした?」
工藤「神社のご神体が・・・なくなったって!」
及川「はあ?」
工藤「ないって!」
及川「困るでや!ご神体ねば、澄江さんがやる『カミコ』に神様移ってこねじゃ!」
暗転
第二章
暗転中に
富田林「(電話。声のみ)あ、おはようっす。富田林っす。あのカメラとD、なんとかななんないすか?」
(D→ディ。ディレクターのこと)
明転
富田林、応接間で電話してる
社長「(声の出演のみ)無理無理。ねえデントンちゃん、あんた今日何の日だかわかってる?」
富田林「えっ・・・」
社長「ヨンパチよ、ヨ・ン・パ・チ」
富田林「そだ!あちゃ~四八時間テレビかあ・・」
社長「デントンちゃん、テレビみてないの?」
富田林「見てるんすけどこんなクソ田舎で仙人みたいな生活やってたら、東京の流れに追いつけないですよ」
社長「あ!まるであたしが岩手なんかに行かせたのが悪いみたいな言い草じゃないの!」
富田林「冗談すよ。で、なんとかカメラマンだけでも無理すか?」
社長「みんなお台場とか全国に散らばってんのよ。企画書出したわけじゃないしできるわけないじゃん」
富田林「二日間も生放送やってるわけっすよね?そこで緊急生激撮!時効寸前まで完全密着!どうすか!数字見えてくるじゃないすか!」
社長「うちはバラエティを作る会社なのよ。そこまで本気でドキュやりたいわけじゃないし(それにあんただけよ)」
富田林「あ、お台場のPはだれすか?電話してかけあってみます。」
社長「お台場は国立さん」
富田林「国立っちゃん!OK!おつかれっす」
社長「あもしもし!もしもし」
富田林、一気に電話を切る
急いでかけなおして
富田林「しもしも~?おつかれちゃん国立っちゃん。」
国立「おう富田林、なに?」
富田林「あのさ、今岩手にいんだけど、十五年前にここで起きた大量殺人事件って知ってる?」
国立「ああ俺が報道いたころハイパーニュースで特集組んだ。事件当時二十歳以下だった町の生き残りの中に犯人がいるって県警が調べたんだけど見つかんなくてだめだった」
富田林「どうせ初動捜査が『ずさん』だっただけだろ?」
国立「うん。見事にみんなアリバイがあってね。ついには隣の盛岡や滝沢,、雫石の要注意人物にまでローラーかけたんだけど『お宮』いりになっちゃったんだよね」
富田林「俺その岩手に今いんだけどさ、ヨンパチで時効まで密着ってどう?」
国立「なるほど、いいね」
富田林「よっしゃ食いついた!こっちもグッドタイミングでさあ、犯人を絶対捕まえてやるっていうコナンみてえな探偵とさ、容疑者呼ばわりされてる男いんだよ!」
国立「わかった。すぐ企画書メールして」
富田林「んなの今から書いたら時効切れちゃうよ!国立っちゃん元報道局だろ?なんとかしてよ!」
国立「俺はPだけどさあ、さらに上がなんっていうか。」
富田林「相変わらず優柔不断だなあ」
国立「Pよりも偉いやつがたくさんいんだよ。そんな生中継してほしいなら、ネット局の岩手わんこそばテレビにかけあってみてよ」
富田林「それじゃわんこそばテレビの得にしかなんないよ。カメラだけでも送って」
国立「ええ?じゃ、そこの住所教えてよ」
富田林「じゅ、住所?」
国立「そうだよ。送れなきゃ意味ないじゃん」
富田林「あ、そっか、えっと~ああそこまで知らねんだった。どうしよ・・」
そこに
靖が通りかかる
富田林「(電話)あ、ちょっとまって(靖に)だんなさん!ここの住所教えてください」
靖「あ?」
富田林「住所!」
靖「なんで」
富田林「いいから!」
靖「あやしでや」
富田林「ああもう!ちょっと荷物送ってもらうんで」
靖「・・・岩手県沢木村堀端・・・」
富田林「ああ!待って待って(電話に)行くよ、岩手県沢木村堀端」
靖「99」
富田林「まってよ、99・・・(ここで携帯が切れる音)あれ?もしもし?」
靖「?」
富田林「切れやがった!くそ!(携帯をぶんぶん振る)」
靖「電波が入りにぐってあんだがここさ来たときからそってるじゃねすか」
富田林「(電波の入りそうなところ画面見ながら探して)わかってるよ!」
靖「うちの電話でもつかいあんすか?」
富田林「え・・・」
靖「電話、うちの使って」
富田林「いいの?悪いね」
靖「使っていい代わりに、事件のことさ首突っ込むのやめて」
富田林「!」
靖「あんだ、見世物にしよどしでる」
富田林「そんなつもりはない」
靖「時効まで生中継だおんな?」
富田林「わかってくれよ俺の仕事!」
靖「人の不幸でメシ食えてらの?」
富田林「だんなさんにとっちゃ不幸かもしれんけどこの事件を知りたいと思う人もいる。その人のためにもがんばるのが俺たちの仕事だ」
靖「人間は生きてくだけでいいんでないの?」
富田林「・・・」
靖「犯人つかまろうが時効成立しようが面白ぐもつまんなぐもが関係ね。命が消えるまで、普通に生きてれば(いいんでねのすが)」
富田林「面白いことを探さないと俺は生きていけないんだよ!」
靖「面白いことは人の不幸すか!」
富田林「誰かが傷つけば誰かが笑う!そんな毎日じゃないか!」
靖「!」
富田林「昨日笑われてえんえん泣いたやつが、今日になったら誰かを見てげらげら笑ってる、喜怒哀楽があるから人間なんじゃないか?他の動物に喜怒哀楽が出せるか?」
靖「!」
富田林「人が面白い見たいってやつを作るのが俺にとって生きてることだ。それを取ったら生きていること自体無駄だ」
そこに山本がイン
山本「どうしました?」
靖「・・・なんでもねす」
山本「・・・」
富田林「すいません、言いすぎたかも・・・」
靖「・・」
富田林「電話借ります」
富田林はける
靖「あんだはどう思う?」
山本「はい?」
靖「おれのごと・・・」
山本「・・・」
靖「疑ってらのすが?」
山本「・・・」
靖「素直に疑ってらってそえばいいのに」
山本「だんなさん」
靖「?」
山本「僕が言うのはなんですが、あまり人に対してつっかかってばかりいると、本当にひとりになってしまいます」
靖「・・・」
山本「ひとりで生きていくほどつらいものはありません。もっと・・・もっともっとやさしくなりましょうよ」
靖「やさしくなんかなれねよ・・・」
山本「・・・」
靖「ただ寝てただけなのに・・・他の親も死んだのに俺ばかり疑われて・・・」
チェンジ
チェンジ
ここは工藤の家の前
工藤「(電話しながらイン)急ぎですか?わかりました。すぐ行きます(電話切る)」
工藤がかばんを持って出かけようとする
そこに福沢イン
福沢「お時間はとりません(名刺渡して)昨日澄江さんと何はなしました?」
工藤「急がないと怒られちゃうんでごめんなさい」
はけようとする工藤
福沢「いつまでもひきずってんじゃないよ」
工藤「!」
福沢「あの及川という男、そして高校の卒業式あとのある出来事、それらに縛られてる限りあなたは成長しない」
工藤「・・・」
福沢「我々男性というものにちょっとは心を開いてもらいたいですね」
工藤「あなたにわかりますか!直也に過去も未来もズタボロにされたあの悔しさ、あの痛み、絶望!」
福沢「わかりません男だからです」
工藤「最低ですね」
福沢「最低で結構。」
工藤「開き直ってる。やっぱり男はみんな直也と同じなんですね。」
福沢「いいから答えて!」
工藤「!」
福沢「少なくてもおれはあの及川直也とは違います。一緒にされるのは大変不愉快。」
工藤「・・・」
福沢「ズタボロにされたなら、自分で修復して未来を歩けばいい。うちの探偵事務所の未来はこの事件を解決するか否かにかかってるんです」
工藤「懸賞金にでしょ」
福沢「もちろん」
工藤「けっこう正直な人ですね」
福沢「昔からよく言われます」
工藤「・・・澄江さんとはただのおしゃべりです。あとはパン作るの手伝っただけですよ」
福沢「それだけじゃないでしょう。少しでもいいから教えてくださいよ」
工藤「あたしの証言だけで犯人は捕まるんですか?」
福沢「あなただけでは無理でしょう。でもあなたがもし犯人なら・・・」
工藤「疑ってるんですか?」
福沢「あの事件当時は八歳か九歳くらいでしょ?余裕で人を殺せます」
工藤「(ため息)あのときは・・・親のことでいっぱいいっぱいでした」
福沢「(メモを見ながら)確か澄江さんの親と同じ中央病院にいらっしゃるんですよね?」
工藤「今はそう。あのときはお祭りのクライマックスみたいなとこで親といっしょにライトを振っていたんです。そしたら急に親がうずくまって・・・見たら背中から血がブアって・・・」
福沢「なるほど・・・(メモる)」
工藤「あ、そういえばお医者さんが言うには、傷がものすごく細くて縦に深く入ってたって・・・」
福沢「へえ・・・(メモる)」
工藤「包丁とかメスとかそういうのよりも細くて深くて・・・そんな凶器があったとしても見たことがないっていってて・・・」
福沢「現実じゃありえない、と?」
工藤「ええ。」
福沢「岩手はそういうの多いですよね。昔話だ、伝説だって。」
工藤「沢木の間引き伝説は知ってますか?」
福沢「いえ」
工藤「あの事件を追ってるならその辺も調べたほうがいいですよ」
福沢「教えてくださいよ。いじわるしないで」
工藤「お断りします。」
福沢「!」
工藤「うちの富田林がこういってました。わからないことを自分で図書館に行って調べないようなやつには魅力がないって。」
福沢「魅力ねえ」
工藤「失礼します」
福沢「作家先生のところに行くんですよね」
工藤「なんでわかるんですか?」
福沢「いきましょう」
工藤、一瞬ためらうが
いっしょにはける
チェンジ
一方こちらは宿
ごそっと、及川が入ってくる
及川「悦子~、悦子いないかあ」
そこに富田林がイン
及川「わあ!たまげた!」
富田林「なにしてんの」
及川「いや俺の嫁っこ来てねえがなって」
富田林「工藤?ああ、もうすぐここに来ると思うよ」
及川「んだか?なら待たせてもらうべ」
及川、勝手に座る
富田林「ねえほんとに結婚するの?」
及川「あだりまえだあ。ちっちぇころからずっと好きだったおん」
富田林「不器用だし、暗いし、たまに何考えてるかわかんないやつだよ?」
及川「器用だし、明るいし、なんたってめんけえ!」
富田林「恋は盲目だな・・・」
及川「並みの男には悦子の良さがわがんねのよ。あ、今度大吉の日知ってる?その日に悦子と式あげてんだけど」
富田林「(カレンダー見て)明日だなあ」
及川「明日かあ。よりにもよって明かり祭り当日が大吉だなんてなは~、こりゃおれだちが間引かれる」
富田林「間引かれる?」
及川「昔々な、沢木では十五年おきに飢饉が起きてなは。年貢収めたら町の人たちが食う米もなぐなっちまった。そこで考えたのが、人口が減れば米は食えるってこと。他の村だとこれから生まれてくる赤ん坊を殺したっつけど、沢木では大人を殺したのす
富田林「こわいなあ・・」
及川「んだがら明かり祭りは間引きされた霊を慰めるためにはじまったのよ」
富田林「もしかして今年も殺されるの?」
及川「ばがだなあ。今の世になってからはだれも殺されねえ。カミコ様のご神託と明かり歩きだけ残ってるのよ」
福沢「でも、十五年前は殺されたよね」
ふたりふりむく
福沢がいる
その影には工藤
及川「おあ悦子!ひまなら大釜のイオンさいくべ!」
工藤「・・・(福沢の影に隠れる)」
及川「おめはん邪魔だ。もう悦子~、スターバックスでキャラメルマキアート飲みながら話こすんべ!なあ!」
工藤、はける
及川「悦子!」
福沢「(後ろから及川の肩をたたいて)わかるよその気持ち」
及川「おめはんにわがられたぐね!」
福沢「恋愛ってもんはやっぱり順序をふまないとねえ。いきなり体の関係から入るからこういうことになるんだよ」
及川「!」
福沢「あんた、猿以下だ。」
及川「おめ!」
及川、福沢の襟首つかむ
しかし福沢軽がると及川を投げ飛ばす
及川「いで!」
福沢「(服を調えながら)ああいう男性恐怖症を増やすのは罪だ」
及川「好きだからほしかったんだ!」
福沢「体を奪ったからって自分のもんになるわけじゃない。逆に女は遠ざかる。イマドキの小学生でもわかる」
及川「お、!おれは、悦子が好きだ!」
福沢「まだ言ってる・・・」
及川「小学校のころからずっと好きだ!おれはいつでも本気だ!
富田林「ああもうやめようよ?」
福沢「集団お見合いでもしなよ」
及川「!」
福沢「あんたにゃそれがお似合いだ。先生、いきましょう」
富田林「え?ああ」
ふたりはける
一人残される及川
地面を握り締める
悔しさ
自分の思い通りになれない
好きなのに避けられる
伝えられない気持ち
それらが入り混じって一定の点に達したとき
及川「!」
ポケットの中身に気づく
それは白い粉
及川それを見つめる
ひとつの思い
そして走っていく
澄江イン
澄江「ただいま・・・」
靖イン
靖「なんちょだった?」
澄江「・・・今夜七(なな)時に神社さ来てけでって・・・」
靖「だめだったが・・・」
澄江「すまね・・・すまねす・・・靖さん」
靖「・・・」
澄江「あの日、三上さんが寝てらったら、朝の四時くれえに雪みだいに真っ白い猫入って来で、枕もとであだしの名前そって、サーッて、いなぐなったんだって・・・」
靖「猫・・・」
澄江「夕べのうぢに焼いたパンと酒っこ持って、ずっと話ししたんだけど・・・神様のお告げだってゆずんねくて・・・」
靖「猫が・・・」
澄江「靖さん?」
靖「俺も見だ・・・おれの前、しゃーって横切って・・・
澄江「ああああ」
靖「澄江、正直にそってけろ。おれが十五年前のカミコでねが」
澄江「違いあんす・・・」
靖「ほんとは澄江の家で寝てたんでね・・・俺がカミコさなって親とか殺したんだべ・・・」
澄江「違う」
靖「証拠は!」
澄江「あだしが証拠だ!いっしょに絶対いだんだ!信じねのすが!」
靖「・・信じたくても・・・信じられね・・・」
澄江「なんで!」
靖「親、生きてでいいなは・・・」
澄江「!」
靖「俺は親に話しこしたくてもいねし・・・それに比べで澄江は中央病院さいげばいづでも会える」
澄江「・・・」
靖「週何回か病院さいくべ?心配そうな顔してほんとは、親さ会えるの楽しみにしてらべ!」
澄江、靖の頬を張る
澄江「・・・そっただのおもわね!」
靖「!」
澄江「あだし・・・カミコやるがら・・・」
靖「・・・」
靖「勝手にしろ・・・」
澄江「(靖を見つめる・・・)」
靖「(見つめ返す)」
澄江、はける
靖残る
山本パンを持ってイン
靖山本の気配にあわてて繕う
靖「やなとこ、見られだな」
山本「(パンを置いて)・・・追いかけないんですか?」
靖「・・・だってこのあとの予約の人だちもいるし」
山本「そんなのどうだっていいじゃないですか」
靖「!」
山本「だんなさんは、生きている今をどう考えてますか?」
靖「?」
山本「よく、人は生まれてくるときと死ぬときはひとりだといいます。死ぬときがひとりなら、生きている間は自分以外の人を大切にしなければならないんじゃないでしょうか」
靖「あんたは他人にやさしすぎる」
山本「そうかもしれません。自分を見つめるのと同じくらいに、そばにいてくれる人を見てあげてください」
靖「あんだ・・・」
山本「お気を悪くしたらすいません、失礼しました。」
山本はける
靖はひとりでパンを見る
考える
チェンジ
チェンジ
富田林と福沢、工藤がやってくる
福沢「ついた!」
富田林「これが沢木神社?」
工藤「そうです」
福沢「思ったよりもちっちぇえ神社だな」
工藤「ちょっと猫神様の前に失礼じゃないですか?」
富田林「猫神様?」
工藤「沢木神社は猫を祭ってるんです」
富田林「面白い!狐じゃなくて猫なんだ。国立っちゃんが送ってくるスタッフにもここから撮ってもらおう」(携帯をかける
福沢「かわったもん祭ってるよね。ほんと岩手ってそういうのがすきなんだよなあ」
工藤「そんなに岩手をバカにしてると猫神様のバチがあたりますよ」
福沢「あたれるもんならあたってみろってんだよ。ご神体ないのに」
工藤「う、そうだった・・・」
富田林「しもしも?国立っちゃん」
国立「(声のみ)なんだよ!今けっこう手はなせないんだけど」
富田林「(声のみ)悪いね、スタッフの子たち送ってくれた?」
携帯切れる音
富田林「んだよ、つまんねえな」
福沢「そうだ、テレビ映るんだよね(そういいながら格好を気にし始める)」
富田林「ああ今頃新幹線乗ってるぞ!着たらすぐにやろう」
福沢「緊張するなあ」
工藤「そんなに気にしても写るのはちょっとなんですよ」
福沢「そうなの?」
工藤「あなたばっかり映したところでつまんないですから」
福沢「あのね、俺の才能あふれる解説とか推理が見せ場でしょ?そういうのがなかったら番組も面白くないでしょ」
工藤「視聴者はもっと違うものを期待してると思いますけど」
福沢「君みたいな人が間引きされればいいのにね」
富田林「あ、あんたも間引き知ってるの?」
福沢「この子が教えてくれないんでね、急いでネットで調べましたよ」
富田林「図書館じゃないんだ」
工藤「やっぱり魅力ないんですね」
福沢「ネットは図書館の情報量を凌駕してますからね。」
富田林「リサーチとしては間違ってるなあ。ネットはウソものっかってるんだよ?」
福沢「いろいろな要因から調べるのが探偵の仕事ですから。」
工藤「あ、そういえばネットでおもしろいのみましたよ」
富田林「どうせうそなんだろ?」
工藤「でも聞いてくださいよ。今いる人類の中に、間引きを専門にする人間がいるっていう話」
富田林「間引き専門?」
工藤「そうなんです。今は少子化なんていわれてますけどやっぱり日に日に人間って増えているんですよね。で、世界的に見ても食料ってものは限られた量しかないんです。もちろん死亡する人間もいるんだけど追いつかなくて。そこで、これ以上人間が増えないように殺していく人間というものを神様がもともと作っていたっていう話」
福沢「また、神様か」
富田林「神様話だとウソ多いからなあ。間引きする人間ってのは、殺し屋とかそういう人だろ?」
福沢「職業じゃなくて、本能で人を殺すっていう感じなんですって。だから罪悪感もなければ、別に精神が狂ってるわけでもない。でもその間引き人間たちがいるおかげで、人類が増えすぎるのを全体的にコントロールしてるっていう」
福沢「コントロールねえ」
工藤「たとえば、未解決の殺人事件って世界的に見てもけっこうあるんですよ。そういうのこそ、その間引き人間たちがやってるかもしれないって考えると」
富田林「話としては面白いね」
福沢「認めませんよ。それ認めたら俺ら探偵の存在意義がない」
工藤「そうですか?」
福沢「もう神様だどうだとかいう話勘弁してくださいよ。うんざりだ」
富田林「でももしそんな人間が隣にでもいたら、怖くて寝れねえなあ」
福沢「隣といえば、実はあの及川っていうお隣さんを第一容疑者にあげてるんですよ」
工藤「直也が?」
福沢「あなたと同い年でしょ?あの歳なら当時でも簡単に人が殺せる」
工藤「・・・直也になにかしたんですか?」
福沢「今朝会ったときに軽く、奴の劣等感と自己顕示欲を刺激しておきました。」
工藤「そんな、あいつを刺激したら、手がつけられなくなりますよ」
福沢「お祭りにかこつけてだれか狙うかもしれませんね。でもそんなことはさせる前に現行犯逮捕ですよ」
工藤「・・・」
福沢「あなたはあいつにすべてを奪われた。このままでいいんですか?」
工藤「それは・・・」
工藤、先に走り始める
富田林「おい!」
工藤はける
富田林「あんた、工藤の何を調べたんだ
福沢「別に?たたいて出てくるほこりは誰しも持ってますから。それを調べただけです」
富田林「あんた・・・
福沢「いきましょう」
はける
暗転
明転
ぽつんと座っている澄江
そこに及川がやってくる
及川「カミコやってくれるってほんと?」
澄江「(止まる)」
及川「ほんとすか?」
澄江「(うなづく)・・・だども・・・」
及川「あ?」
澄江「明かり祭りやれるの?」
及川「(じっと澄江を見つめたまま)」
澄江「あだしがカミコやるのはいいよ。だども、ご神体ねのに、なんじょにカミコやるって・・・」
及川、澄江を見つめたまま、ポケットから袋を取り出す
それは透明なビニール袋に入った白い粉(本番では小麦粉か片栗粉使用のこと)
澄江「おめ!!」
及川「(手ぬぐい(ハンカチ)に白い粉を適量出して広げ始める)」
澄江「ご神体の・・・神様の骨でねが!」
及川「(作業しながら)んだな・・・」
澄江「まさが直也・・・」
及川「(作業しながら)盗んでねえよ。」
澄江「盗んでねなら、なんでおめはんが持ってらの!」
及川「(粉作業しながら)俺、実行委員だがらさ、三上さんからご神体、分けてもらってだの」
澄江「そんな!」
及川「ほんとだよ。なにがあっても明がり祭りはやる。俺以外の実行委員も持ってらしな」
澄江「三上さんがそんたなことするわけねべや!正直にしゃべれじゃ!」
及川「(粉作業完了。粉を見つめてから)きれいな骨っこだあ・・・これなら吸っても痛ぐねべ」
澄江「やめろじゃ!」
及川、軽く顔を近づけて粉を吸う
及川バッと顔を離す
及川粉に軽くまみれた、ぎらぎらした目で見つめている
及川「(深々と呼吸をする。見つめながら)」
澄江「なおや・・・」
及川「(澄江をにらんで手ぬぐいを構える)ぺっこ鼻ツンってすんだげだがら怖がらねくていいがら・・・。」
澄江「あ・あああ・・・!」
及川「(てぬぐいをかまえて低音で)。カミコになってもらわないとな、さあ!」
及川襲いかかる!
そこに山本ダッシュで入ってくる
及川をはがいじめにする
及川「(低音で)離せ!」
山本「(はがいじめ)」
及川「(普通の声で)離せでば!」
山本「警察に突き出してもいいんですよ!」
及川「なにもしでねってば!」
及川、ふりほどく
及川「痛でじゃ!じゃんごたれが!」
山本「女将さんに何しようとしたんですか!」
及川「なにもしでねよ~。」
山本「そんなふうには見えなかったです」
及川「そうか」
山本「?」
及川「そうか・・・」
そういいながら影で及川、鼻を手ぬぐいに近づける
澄江「(それに気づいて)あ!」
及川「(低音で)澄江!神社で待ってるぞ!」
澄江「ああああ・・・」
及川「(絶叫)今夜は祭りだ!十五年ぶりの間引きだ!」
山本、及川に突進しようとする
しかし、澄江がぎゅっと山本を抱きしめる
山本「女将さん!」
澄江「あああああああ」
及川「カミコになれ!」
手ぬぐいをもってふりかぶる
そのとき
工藤「直也!」
及川「(止まる)」
工藤「・・・やめよう・・・やめようよ・・・こういうのは」
及川「・・・」
工藤「あんたは直也だよね・カミコじゃなくて・・・」
及川「違う・・・」
工藤「骨吸ったからってカミコにはなれないよ。選ばれた人しか・・・なれないんだよ。」
及川「・・・おれは・・・カミコだよ・・・」
工藤「じゃんごたれ!バチあたりめが!」
及川「・・・」
工藤「猫神様が・・・怒るよ・・・」
及川「・・・」
澄江「おめ・・・直也のままなのが・・・」
及川「(がっくりと)・・・おれは・・・ばがでも弱虫でもね・・・悦子に好かれてえ・・・強くてカッコよくなりてくて・・・」
工藤「ばが!」
そのときすっと福沢がイン。
及川を後ろ手に取り
福沢「はい第一容疑者確保」
富田林「話を聞こうかお隣さん」
三人はけようとする
しかしそれを振り切って及川逃げる
富田林「まてこら!」
富田林追いかける
山本「歩けますか?」
澄江「(うなずく)」
山本「送ります」
山本手を澄江に差し出す(このとき同時に工藤にも電話がかかってくる。工藤、電話出てはける
しかしにぎらない
澄江「帰らないよ」
山本「?」
澄江「帰れね・・・靖さんをなぐってしまっただ」
山本「女将さん・・・
澄江「(すっと立つ)神社さ行がねえど・・・。」(歩き始める)
山本「そんな体じゃ無理ですよ」
澄江「カミコさなって証明してやんだ・・・ほんとの神様は間引きなんかしねって・・・」
福沢「間引き・・・」
澄江「(振り返って)靖さんが・・・十五年前のカミコなのす・・・」
澄江はけていく
チェンジ
ここから二画面クロス
部屋でひとりぼっちの靖
手前、外舞台
富田林、イン
疲れて、ひざまずく
富田林「あいつ・・・どこにいきやがった・・・」
富田林、持ってきた携帯をふり始める
富田林「よし、なんとかつながる・・・」
民宿沢木に入電
靖出る
靖「澄江が!」
富田林「おれです。富田林」
靖「あんたが、澄江みだが?」
富田林「猿橋の近くにいた。」
靖「やっぱり・・・」
富田林「それよりこっちは大変なことになってるぞ、あんたの隣の家の人、発狂して逃走中だ」
靖「直也が?」
富田林「ああ。このままだと本当に十五年前の再現になるぞ」
そのとき急にノイズが入る
富田林「もしもし?もしもし?」
靖「もしもし?もしもし?」
富田林「んだよ!こんなときに!」
靖「もしもしもしもし」
大きくなるノイズ
そのとき
工藤「(声のみ)そんなこといえません・・・」
富田林「(気づいて)!工藤・・・」
工藤「そんなこと・・・いえません」
社長「いってみなさいよ」
富田林「社長?」
工藤「いえません」
社長「(ためいき、そのあと声のみ)いやんなっちゃうなあ、いえないなんて・・・」
工藤「・・・」
社長「(声のみ)最近面白くないなんて・・・いえないか」
富田林「!」
社長「(声のみ)あいつはもうペンネーム坊ちゃんでも富田林十三でもない・・・ただの本名の丸井正直になっちゃってるんだと思う」
工藤「(声のみ)でもそういうのは変化だと思います。常日頃から面白いことを考えて、そしてたどりついた結果と変化ですよそれも」
社長「あんなので?」
工藤「社長はしらないかもしれませんが、こっちでも企画書はたくさん書いてます。今度の殺人事件に密着するのもただ面白いってだけじゃなくて真実の中の面白さを模索しているんです。こういうのに視聴者は興味をひかれるんじゃないでしょうか」
社長「わかった。せいぜい一生模索してればいいわ」
工藤と富田林「社長!」(シンクロ)
社長「悪いけど、国立さんにはスタッフ送るのとめてもらったわ」
富田林「おい!」
工藤「そんな!」
社長「(声のみ)棲み分けって知ってる?優秀なドキュはどっかの優秀な制作会社が作ればいい。あたしたちのフィールドじゃないから。そこまでする気ない」
工藤「そんな・・・」
社長「(声のみ)そうだ。そろそろあんたもリサーチャー修行終わりだったわよね。テンドンちゃん担当番組をひとつ持ってみる?」
工藤「そんなのできません」
社長「(声のみ)そ?ならバイバイ」
工藤「!」
社長「(声のみ)今ね、よければあんたに速達でおくろうって思ってた新幹線のチケット・・・ほーら・・・シュレッダーしちゃった」
工藤「(声のみ)社長!」
社長「お台場にはリサーチャーの田中君を作家に昇格させとくね。テンドンちゃんにも教えといて。んじゃね」
工藤&富田林「社長!」
富田林「社長!おい!社長!おかま!おい!・・・」
大きくなるノイズ
富田林、ばたりと
富田林「・・・」
靖「もしもしもしもし」
富田林「・・・そんな・・・そんな」
靖「俺も聞げだ・・・」
富田林「!」
靖「俺の耳さも聞けた・・・あんた・・・東京に帰れねってが・・・」
富田林「・・・」
靖「あんだ!」
富田林「わかってたような気がする」
靖「は」
富田林「俺・・・もう・・・面白くねんだよ・・・」
靖「・・・」
富田林「この前テレビつけたら、とんでもなくつまんねえ番組やってやがってさ。だれだよこんなに面白くねえ番組作りやがったのってスタッフロール見たら・・・でかでかと俺の名前が流れてやがって・・・」
靖「・・・」
富田林「昔は面白いことが湯水のように出てきて、自分の思っていることとパソコン打つ手があわなくてもどかしいくらいだった。でも今はやっと考えて、会議でもスタッフにウケてるのに・・やっぱり・・・おもしろくない・・・」
靖「・・・」
富田林「工藤に言ってるようにいつもアンテナを張っていても面白いことがひっかかってこない。時代が進んで、自分だけがアンテナの感度が鈍ってるんじゃないかって思うと夜も眠れなくて・・・」
靖「・・・」
富田林「俺は老いるのが怖い。時代が変わっていくのが耐えられない。時計の秒針がカチカチ、カチカチと進んでいくのが・・・」
靖「俺もそういうの考えたことがある」
富田林「・・・」
靖「このまま・・・時効が成立する夜の十二時になるまで、ずっとこの憎たらしい我をひきずっていくのかって・・・」
靖、山本の置いていったパンを持つ
靖「でもその今になってわがったことがある。十二時過ぎても俺はかわらね。この憎たらしい我と向き合わねば!」
靖、山本の置いていった、パンを食う
靖「俺には、澄江が必要だ。・・・澄江さ、今までの恩返ししねば・・・」
富田林「恩返し・・・」
靖「あんだもいねが・・・時代が変わるようにあんだもぺっこずつ変わってんだ、アンテナは鈍ってね、あんだがアンテナを磨くために必要な人。」
富田林「俺が・・・アンテナを?」
靖「んだ・・・」
富田林「・・・工藤・・・」
靖「えっちゃんか・・・」
富田林「あいつしか・・・おれのそばにいた人間はいない・・・」
靖「いっしょにアンテナ磨きあえばいい・・・そすればそごからなにか生まれるかもよ」
富田林「・・・」
靖「会いたいべ・・・」
富田林「ああ・・・」
靖「・・・太郎壁さ登るが」
富田林「?」
靖「神社の裏さある沢木山のもうひとつの登山道。絶壁で、毎年たくさんの人が挑戦しで、怪我したり命落どす難所・・・でも登りきれば、願いがかなう」
富田林「できるかな・・・」
靖「わがらね・・・でも会いたい・・・」
富田林「・・・」
靖「六時、神社の入り口で待ってで」
電話切れる
お互い電話を見つめる
そして走り出す
入れ替わるように
及川が民宿にふらふら歩いてくる
及川「靖さーん、靖さーん」
山本がすっとやってくる
及川「お!なんだ?つかまえさ、きたのか」
山本だまっている
及川「さっきはあんなまねしたけどおれは犯人じゃねぞ。誓ってもいい。十五年前だって俺は親殺されてるのす。靖さんと同じ被害者。アリバイは・・・金魚すくいのとこで何十枚ってやって取れねくてむしゃくしゃして、やんややんや踊ってたけど・・・ん?なんでしゃべんねの?」
山本だまっている
及川「そっか、話っこしてのか?さっさとそえばいいのに。あんた独身?結婚してんのか?・・・」
山本「・・・」
及川「はあ俺も悦子と結婚しで~」
山本「悦子さんと結婚したなら」
及川「は?」
山本「結婚したいなら、どうしたいんですか」
及川「悦子と結婚したら、めんけえ犬一匹飼うんだあ。朝の散歩は俺がやる。散歩コースは田んぼさ今度携帯のアンテナ立つもんでなは、それの見回り。悦子の作ったメシ食ったらそのまま共働きだあ。
夕方俺はぺっこ早く仕事終らせて悦子を犬つれて迎えさいぐ。で、毎日イオンのスタバさいって、キャラメルマキアート飲むのす。」
山本「・・・」
及川「どう?東京じゃ犬つれてカフェさ入るのステイタスだべ?うらやましいべ?」
そのとき山本、そっと及川に近寄りだきしめるようにする
及川「?」
そして及川を離して、はける
一人残る及川
及川「?」
おなかから手を離す
手は血で真っ赤になっている
次の瞬間
痛みが襲ってくる
そこに
工藤「富田林さん・・・」
しかしそこには及川がいる
工藤「!」
及川「悦子・・・」
工藤「・・・」
及川「明日、犬、買いさ・・・いくべ」
ふらりと無言で工藤によりかかる
工藤「・・・直也!」
暗転
第三章
暗闇の中
祭りの音が聞こえる
ひとつ明かりがつく
二つ明かりがつく
順々について五個明かりがつく
そのあと両サイドにそれよりは大きい懐中電灯の明かりがつく
全部で七個の明かりがつく
そのあと小さい明かりの二つは両サイドにはけていく
明転
舞台の上には真ん中に澄江がイスに座っている。両サイドには布袋に目が開いたお面の人がいる
手前外舞台には、男ふたり
靖と富田林である
男ふたりは壁を見上げる
富田林「まさに・・・絶壁だな」
靖「怖いのすか?」
富田林「そんなことはないよ」
靖「俺は余裕だ」
富田林「手が震えてるよ」
靖「うるせ!武者震いよ」
富田林「怪しいなあ」
靖「行きますか・・・」
富田林「いかれますか」
ふたり手をかける
一方舞台
澄江は緊張した面持ちでまっすぐ前を見やっている
男(福沢)「時間であんす・・・」
澄江「・・・」
男「やりあんすよ」
男、そばにあるもう一つの布袋を取ろうとする
澄江「まって」
仮面「?」
澄江「もしあだしが、ご神体吸ってがら、本当におかしくなったら・・・」
男「・・・」
澄江「遠慮なく殺してけで」
男、うなずく
澄江は覚悟して目をつぶる
男、脇に行き、 布袋の中にご神体の粉をいれはじめる
強い風が吹く
外舞台
靖「風強くなってきだな」
富田林「・・・」
靖「おめはん」
富田林「・・・」
靖「大丈夫だか」
富田林「なんとか・・・」
靖「下はぜってえ見るな」
富田林「わかってるよそんなこと!」
そのとき強い風が
ふたり「(耐える声)」
一方舞台
男が袋を用意している
澄江は固くなっている
緊張
男「まいりあんす」
澄江、胸の前で祈り一礼
男も一礼し
目をつぶった澄江の頭から布袋をかぶせる
そして男一気に澄江の鼻の辺りに手をかぶせて中の粉を吸わせる
澄江「(苦しみだす)」
澄江、もがき抵抗する
そのうち、澄江は抵抗しなくなりぐったりする
男、澄江をゆっくりすわらせて
外舞台相変わらず強い風
富田林「あああ・・・くそ・・・おれは降りる!」
靖「なんで!」
富田林「どうして俺がそんな迷信のために登んなきゃなんねんだよ!」
靖「べっこ!」
富田林「!」
靖「上見えてら!あとべっこでねすが!」
富田林「工藤に会いたきゃ携帯で呼び出しゃいいんだよ!」
靖「!」
富田林「だんなさんだって女将さんに会いたいなら神社に行けばいいじゃない」
靖「・・・」
富田林「なんだよ!それこそ怖いのか?」
靖「(登り始める)」
富田林「おい!」
靖「(登っている)」
富田林「もう降りるからな!」
富田林降りようとするが
富田林「んだよ、くそ!降りるにも・・怖えな!ちくしょお!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「!」
靖「坊ちゃん!」
富田林「なんで・・・俺のペンネーム知ってるの・・・」
靖「俺もはがき書いてヨシヒロの声聞いてらった!採用されねがったけどな。」
富田林「だんなさんも・・・」
靖「澄江のジャンケンのほうがすげけどな・・・みんなヨシヒロでつながってんだ!」
富田林「ヨシヒロで・・・」
靖「そんなヨシヒロがもしこごにいたらこういうべ!『怖えなら前を向け!』ってよ!」
富田林「!」
靖「登るべ!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
富田林「・・・」
靖「花畑ヨシヒロの!」
ふたり「ナイトランデブー!」
富田林、体勢を整える
富田林「よし!」
靖「ぺっこだ!」
富田林「ぺっこ!」
ふたり登り始める
舞台
すっと澄江が起き上がる
男「カミコ様」
カミコ「・・・」
男「では前へ」
カミコ「・・・」
カミコ立ち上がる
ふらふらとあるく
そして扉をあける
男「(大きく)沢木の皆のもの!猫神様の遣い、カミコ様がいらっしゃっだぞ!」
大きく歓声が沸く
そのとき袋をかぶった女が飛び込んでくる
工藤だ
工藤「カミコ様!お聞きしたいことがあります」
男「どげ!じゃまだ!」
工藤「死にたくないんです!」
男「どげ!」
工藤「死にたくない」
男「!」
工藤「直也が刺されました。間引きされました。直也が死んだらあたしも死んじゃうような気がして・・・」
男「そっただこどね!」
工藤「カミコ様にお聞きしてるんです!」
男「!」
工藤「だめな人間を間引くのなら、あたしもだめな人間です。あたしも間引かれるんですか・・・」
カミコそっと歩く
そして工藤の前へ行くと工藤の手を取る
無言でぐいっと引き寄せたあとそのまま離してぐるぐると回り始める
ふたりが回り始める
工藤「カミコ様・・・」
ふたりは八の字を書くように回り始める
工藤「カミコ様!」
大きくなおも回り続ける
工藤「カミコ様!」
そして大きく工藤を離す
遠心力で工藤、端に飛ばされる
工藤「痛い!」
そこに間髪いれずカミコが来る
額に手をかざす
工藤「!」
シンクロしていく舞台ふたつ
カミコ「(工藤の口をふさいで)わたしは・・・いのちは・・・うばいません」
靖「ぺっこだ!」
工藤「!」
富田林「ぺっこ!」
カミコ「あなたの・・・こ・・・こ・・・ろ・・・を・・・ま・・・び・・・く・・・」
そういうとカミコ工藤の胸を押さえ
カミコ「(力を入れる声)!」
その瞬間、工藤、ぐったりする
男「カミコ様だめだ!」
男カミコの体を押さえる
カミコ脱力し体を、男に預ける
あわててカミコの布袋を取る
男「救急車!だれか救急車を!」
助けようとする男
布袋をはぐ。男もはぐ
靖「十二時だ!」
福沢「女将さん!女将さん!」
ふたり「ついたぞ!」
舞台上
沈黙
暗転する世界
そこにゆっくりとまた
ひとつひとつ
ライトがついていく
ライトは固まってひとつの線になり
また八の字を描く
富田林「きれいだ」
靖「ああ」
富田林「これが・・・あかり祭り・・・」
靖「んだ・・・」
そのとき
一陣の急風が吹く
悲鳴をあげて
そして
沈黙する
父「靖・・・」
母「靖・・・」
靖「お父さん・・・お母さん・・・」
ひとつだけ消えない明かり
倒れている靖が目を覚ます
靖「んあ・・・」
山本「(しゃがんでみつめて)・・・」
靖「なんで・・・あんだ・・・こごさいる」
山本「なんとなく・・・歩いていたらここにたどり着きました」
靖「なんとなくって・・・」
山本「なんとなくです・・・」
靖「ば、ばがいうでねよ・・・おれたぢが死ぬ思いしてここさやっと登ってこれたのに」
山本「・・・」
靖「それにおれは・・・あんだにあいたいんでね・・・澄江さ・・・」
山本「遊びませんか?」
靖「?」
山本「そこにしゃがんでてください」
山本、反対方向に離れていく
靖、ゆっくり立っていく
山本「いきますよ」
投球フォームに入る山本
そして投げる
きれいなフォームで
靖「(あっけにとられている)」
山本「なにやってるんですか?」
靖「は?」
山本「しっかりとってください」
もう一度投球フォームに
そして投げる
山本「なにぐずぐずしてるんですか」
靖「・・・」
またフォーム
投げる
靖「お、おめはんはなにしてらの?」
山本「いいですから」
靖「野球なんてやったことねよ」
山本「いいからとってください」
靖「ええ」
山本、よってきて
山本「(取るスタイルを教えながら)ほら、こうやってかまえて」
靖「(言われるがまま)」
山本「(元に戻って)俺の玉けっこう早いから、しっかり取ってください」
そして投げる
靖、わけもわからずそこにいる
構えをしたまま
山本「僕は高校時代野球部でした」
投げる。
山本「高校から始めたんです。ピッチャーやりたかった。でもまわりは小学校からやっているやつらばっかりで、所詮僕がかなう相手じゃなくて・・・ずっとベンチで二年半過ごしました」
山本、軽い玉を投げる
靖構える
山本「だから僕は、ひとりでこうやってチームを作ったんです」
山本投げる
靖取る
靖「取った」
山本「どこ見てるんですか」
靖「は?」
山本「よく見てください」
また投げる
靖「ほれとったって!」
山本「だめですね」
靖「え」
山本「今度は立ってみてください」
靖立つ
投げる。取る
靖「取れた!」
山本「うまくなってきましたね」
靖「ああ」
山本「こっちにも投げてください」
靖「え・・・」
山本「早くしないと夜が明けてしまいます」
靖、へたくそな投げ
山本、変な方向にいって取る
山本「しっかり!」
靖「ああ」
山本、きれいに投げる
靖取る
山本「取りやすいでしょ?」
靖「ああ」
山本「取りやすいように投げてください・・・僕にも澄江さんにも」
靖「え・・・」
山本「さあこい」
靖、投げる
今度はラクに取る山本
山本「そうです」
靖「んだが・・・」
山本「次から僕が伝えたいことを投げます」
靖「?」
投げる山本
取る靖
山本「わかりますか?」
靖「????」
山本「ひさしぶりだからなまってるなあ」
靖投げる
山本取る
山本「次はわかります」
山本投げる
取る靖
靖「・・・」
山本「わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・わかりますか?」
靖「・・・」
山本「・・・」
靖「そうか」
山本「・・・」
靖「おめはんが・・・俺の親・・・殺したのすが・・・」
山本「・・・」
靖「なんで殺した」
山本「・・・」
靖「(ふりかぶって)なんじょにして殺した!(投げる)」
山本、真正面で受け止める
ふたり沈黙
山本「生きていくために必要だからです」
靖「ふざけるなじゃ!」
山本「間引かないと生きていけないんです」
靖「!」
山本「理由なんかありません。悪意もうらみも快感もありません。」
靖「おめ!」
山本「人間が生きていくためには僕が誰かを間引かなくてはならないんです」
靖「・・・」
山本「僕が死んでも・・・ずっと続くんです・・・誰かが必ず・・・間引いていく」
山本、影から、猟銃を取り出す
静かに靖に向ける
山本「ここから投げてください」
靖「・・・」
山本「女将さんに・・・だんなさんの思いを・・・」
靖「!」
山本「思いがこめられないとわかったら撃ちますから」
靖「ん、んたなこと・・・」
山本、引き金を引く
山本「さあ、早く」
靖「!」
山本「命をかけて伝えるんです。」
靖「・・・」
山本「ふりかぶって」
靖、ふりかぶる
山本「投げてください!」
靖、思いをこめて投げる
その瞬間暗転
沈黙
銃声
小鳥の声が聞こえる
朝の光が宿に入ってくる
富田林がくる
福沢もやってくる
そこに澄江がやってくる
澄江「おはようがんす」
ふたり「おはよう(福沢はおはようございます)」
澄江、二人の前にスーパーのビニール袋をどすんどすんと置く
福沢「これは?」
澄江「パン」
福沢「パン・・・」
澄江「朝めしあがってくれなかったであんすか?」
福沢「そりゃ、徹夜で女将さんのつきそいしましたからね」
澄江「朝メシ食わながったらどうやって生きてぐのす?」
福沢「!」
澄江「まだ若けんだがら!これお土産ね。新幹線の中ででもめしあがってくなんせ」
福沢「・・・ありがとう」
澄江「年上からもらったら、ありがとうございあんす」
福沢「あ、ありがとうございます」
澄江「よし、よくできた」
富田林「元気だなあ・・・」
澄江「あはは、猫神様のご神体って、精力あるのかもすなあ。あはは(元気もりもりの動き)」
富田林「猫みたいにたくさん子供産むのかもね」
澄江「んだなす~。野球チーム作れるくれえほしいすなあ」
福沢「だめですよ!今度こそ死んじゃいますよ」
澄江「なに必死になってらのすが」
福沢「だれかさんのせいで寝てないんですよ!それぐらいわかってくださいよ」
澄江「助かりあんしたありがとうございあんす」
福沢「もう・・・」
富田林「あ、でも社長の猫は社長が幼稚園のときから今でも生きているらしいよ」
澄江「ってこどは・・・不老不死がもなすな~あはは」
工藤「おはようございます」
澄江「あえっちゃん、どうよ、まびかれた気分は?」
工藤「あ、えっと」
澄江「?」
工藤「あんま・・・なんもかわってないような・・・」
澄江「んにゃ、つまんねなは」
福沢「ねえ、だじゃれってどういうこと」
澄江「だじゃれじゃねえすよ」
工藤「れっきとした儀式じゃないですか。」
福沢「あのさ誰も「間引く」の「ま」が、悪魔の「魔」だとは思わないよ」
澄江「思い込み」
工藤「そうそう」
澄江「人間の心さ巣食ってる悪魔を取る儀式。だから魔引きよ」
福沢「がっかりだよ!秘祭奇祭は田舎のだじゃれショー。相方は行方不明往復の新幹線代で今月の事務所の家賃も払えないんだよ」
澄江「ちょっとこっちさ来、こっちさ」
福沢「え?」
澄江、前夜の魔引きスタイルで
澄江「ふんっ・・・」
福沢「・・・」
澄江「ほれ、魔、いなくなったべ?」
福沢「うん!ほがらか!っなわきゃないでしょ?」
澄江「不老不死のパワーを・・・はああああああああ」
福沢「えええええええ」
工藤「(富田林に)あ、タクシー頼んでおきましたよ」
富田林「ああ」
工藤「十分くらいで来るそうです」
富田林「OK」
工藤「・・・どうしたんですか?」
富田林「俺、決めた。ヨシヒロになる」
工藤「え?」
富田林「DJになる。第二のヨシヒロになって、俺みたいなやつをたくさん作ってやる」
工藤「ほ、本気ですか?」
富田林「本気。で、工藤、事務所作るから手伝ってくれ」
工藤「はい?」
富田林「いいか?オカマのとこ戻っても机ねえんだぞ。独立だよ!」
工藤「え・・・」
富田林「好きなことやってやろうじゃねえか。勉強して来年有楽町のDJオーディションうかってやるのよ!」
工藤「は、はあ・・・」
福沢「でも歳とかは」
富田林「思い出せ!ヨシヒロ三十すぎてからああよ」
福沢「確かに・・・」
富田林「ついでにあんたも手伝って?」
福沢「はい?」
富田林「家賃はらえないくらいだろ?俺の退職金で買収してやるから」
福沢「DJと探偵いっしょにやる事務所なんて見たことないですよ」
富田林「はい(握手を求める)」
福沢「え?あ、ども(握手する)
富田林「買収成立」
福沢「え、え~(握手)かわれちゃったよ・・・」
そこにタクシーのクラクションがなる
工藤「あ、きましたよ」
富田林「よしいこう」
福沢「はい社長」
工藤「え?」
福沢「買収されたからね」
工藤「先にいってドア開けて」
福沢「なんで俺が?」
工藤「新入社員だから」
福沢「はいはいはいはい」
福沢、はける
澄江「あ、わすれないでけで」
パンを渡す
富田林「ありがとう」
工藤「あ、ちょっとあたしにもわけてくださいよ」
富田林「だめ」
工藤「またメタボになっちゃいますよ~」
そこに
靖「おお、おわがれですな」
富田林「遅いよ。どこいってたの」
靖「なんとなく」
富田林「は?」
靖「気をつげて」
富田林「おいおいどこいってたか教えてよ!」
そのとき
及川「悦子!」
工藤「直也あんた中央病院に(いったんじゃないの?)」
及川「おめさ会うために抜け出しできだ。」
工藤「・・・」
及川「ありがとう・・・救急車呼んでけで・・・ほんとうにありがとう・・・」
工藤「・・・」
及川「(おなかを軽く押さえながら)あいででで・・・」
澄江「どしたの?」
及川「なんでもねす・・・」
澄江「救急車って黄色い救急車だべ?」
及川「うるせでや!」
澄江「!」
及川「あ、いででで・・・悦子・・・今度は正月にでもなは。きたらぜってえ、イオンのスターバックスでキャラメルマキアート飲んで・・・そのあどは沢木神社で初詣いくべ・・・」
工藤「・・・」
及川「それだげいいさ来た。」
工藤「・・・」
クラクション
及川「あ、行くんだよな?ほれいけじゃ」
工藤「・・・」
そこに
福沢「遅いよ!新幹線いっちゃうよ(及川に気づいて)あ、あんた!昨日はよくも俺から逃げやがって!」
及川「やべ!(富田林と工藤に)ほれ!はやく行けじゃ!」
及川ふたりの背中を押してやる
富田林「(押されながら)工藤これでいいのか?」
及川「さ、早く早く」
富田林「工藤!」
及川「早くよ!」
福沢「おい!俺と勝負しろ、この!」
工藤「直也!」
みんな「・・」
工藤「キャラメルマキアートは・・・東京で飲み飽きちゃった」
及川「・・・」
工藤「エスプレッソなら・・・考える・・・」」
及川「えすぷれっそ????」
澄江「(及川の肩をたたいてから)コーヒーの一番濃いやつよ」
富田林「大人の苦味!ヨシヒロも好きなんだよね」
及川「無理無理無理!甘いのでカンベンしてけで!」
工藤「じゃあさよなら」
及川「そんなあ!甘えのしか飲めねよ!」
福沢「社長行きましょう」
富田林「おう。(民宿側に)じゃあね」
澄江「ありがとがんした。気をつけてお帰りくなんせ~」
富田林「だんなさん」
靖「!」
富田林「二度と山は登らないよ」
靖「・・・気をつけてお帰りくなんせ!」
とうきょうチームはける
澄江「いっちゃったねえ
靖「ああ・・・」
澄江「じゃ・・・」
靖「どごさいく?」
澄江「ああ午後から中央病院さ行ぐから早めにまたパン作るよ」
靖「おしえてけで」
澄江「!」
靖「おれさも・・・おしえてけで・・・」
澄江「・・・」
靖「なあ」
澄江「・・・小麦粉かってきてくなんせ」
靖「なんでよ!」
澄江「あだらしぐ、ふぐらます菌をつぐるから」
靖「今までの菌でいいべ」
澄江「記念日の菌だ」
靖「・・・」
澄江「今日の・・・この空気を吸わせた菌で、新しいパン作るべし・・・」
靖「・・・わがった」
澄江「ありがとあんす」
靖「これがらもなは・・・」
澄江「(うなずいてはける)」
靖、その背中を見送る
思い
風が流れている
思い
はけようとする
そのとき
澄江「ああ!」
靖「?」
澄江「なおやの携帯のアンテナ倒れた!」
靖「なに!」
暗転
END
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